(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】長期保存用液体組成物
(51)【国際特許分類】
B65D 77/04 20060101AFI20230425BHJP
B65D 81/24 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
B65D77/04 E
B65D81/24 F
(21)【出願番号】P 2017085349
(22)【出願日】2017-04-24
【審査請求日】2020-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜尾 一行
【審査官】杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196533(JP,A)
【文献】特開平03-142231(JP,A)
【文献】国際公開第2012/090990(WO,A1)
【文献】特開2017-043415(JP,A)
【文献】特開2016-179854(JP,A)
【文献】登録実用新案第3158888(JP,U)
【文献】特開平09-301334(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第1031035(GB,A)
【文献】米国特許第4051265(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/308789(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 77/04
B65D 81/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香料および/またはエチルアルコールを配合した
、水を溶媒とする液体若しくは液状の組成物が充填されたポリエチレンテレフタレートボトルを、脱酸素剤とともに、水蒸気透過度が2(g/m
2/24h)以下でかつ酸素透過度が10(ml/m
2/24h)以下であるラミネート包材(ただし、透明なラミネート包材を除く)で構成されたパウチで、パウチ内の気体をできる限り抜いた状態で包装(ただし、真空包装を除く)した、長期保存用組成物含有包装物。
【請求項2】
前記組成物が化粧品または口腔用組成物である、
請求項1に記載の長期保存用組成物含有包装物。
【請求項3】
ラミネート包材が、アルミニウムが用いられたラミネート包材である、請求項1
又は2に記載の長期保存用組成物含有包装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期保存包装された液体組成物に関する。より詳細には、本発明は液体組成物を充填した合成樹脂製容器をさらにラミネート包装した長期保存に耐えうる液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自然災害が多発傾向にある今日において、防災目的で化粧品などの種々の身の回り用品を備蓄されており、長期間保存可能な身の回り品の提供が望まれている。一般に化粧品などの商品は常温で3年間以上の品質を確保する設計が成されているが、この期間を5年以上とするためには、長期保存のための容器や包装に工夫する必要がある。一方、食品分野において5年以上の長期保存するためには、内容物を乾燥して封入する方法や、内容物を封入後レトルト処理など高温で過熱処理する方法などが取られているが、何れの方法も化粧品や医薬部外品などの液体状の身の回り用品に対して採用することができない。
【0003】
容器包装の材料の観点では、液体組成物を長期保存するためには、一般にガラス製や金属製の容器が使用されている。しかし、ガラス製容器の場合、物理的衝撃などによる破損の危険性があるだけでなく、容器自体の質量が大きくなるため、内容物量に対する質量が大きくなりすぎて扱いにくい欠点がある。一方、金属製容器の場合、内容物の種類によっては金属腐食や組成物への容器素材の溶解などの恐れがあるため、内容物の特性に応じて表面加工などを設計する必要が有るだけでなく、商品使用時の保存性を考慮した密封性の高い容器設計を行った場合、容器構造が複雑となり、金属材質の制限や製造コストが高くなるなどの課題が存在する。一方、一般的に容器素材として使用されている合成樹脂を用いた場合、組成物の水分や香料などの揮発成分が容器材を通して蒸散するため、香気が変化したり、原料臭のマスキングが不十分になったり、組成物を構成する成分比が大きく変化する恐れがある。このため長期保存期間中の商品品質を担保できないことから、長期保存ができない。そこで、容器の材質を複合化し、例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体の層を構成することにより容器壁のバリア性を高める(特許文献1)などが提案されているが、容器材質の複合化は相互の材質の接着性から設計上の制限があったり、容器の成形過程における課題が生じたり、コストが高くなるなどの課題があった。
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、5年以上の長期において安定的に保存しうる化粧品などの液体や液状の組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、組成物を充填した合成樹脂製容器を、特定の水蒸気透過度および酸素透過度を有するラミネートのパウチで包装することにより、5年以上の組成物の安定性を保証できることを見出した。本発明者らはかかる知見に基づきさらなる研究を重ねることにより、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の項に記載の主題を包含する。
項1.香料および/またはエチルアルコールを配合した組成物が充填された合成樹脂製容器を、水蒸気透過度が2(g/m2/24h)以下でかつ酸素透過度が10(ml/m2/24h)以下であるラミネート包材で構成されたパウチで包装した、長期保存用組成物。
項2.液体若しくは液状の組成物である項1に記載の長期保存用組成物。
項3.化粧品または口腔用組成物である、項1又は項2のいずれか1項に記載の長期保存用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、5年以上の長期間において液体若しくは液状の化粧品や口腔用組成物が安定的に保存することが可能となる。その結果、防災用品として備蓄する場合の備蓄品の更新サイクルを大幅に延長できるため、保守管理が軽減できるだけでなく、大きな経済効果も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の香料および/またはエチルアルコールを配合した組成物は、少なくとも香料かエチルアルコールを配合した人体用若しくは家庭用のケア用品を意味する。特に、水を主な溶媒とする液体若しくは液状の組成物において顕著な効果を示す。構成樹脂容器に充填した組成物の組成変化を防ぐことができることから、香気や組成物の使用性、防腐性、医薬品や医薬部外品などの組成変化に対する厳密な品質管理が要求される人体用ケア用品に最適である。なお、液体若しくは液状とは、20℃の常温において流動性を有する状態を意味する。
【0011】
本発明の合成樹脂製容器は、ブロー成形で製造される合成樹脂製もしくはラミネート材製の容器であれば特に限定されない。また、容器の容量や形状に関しても特に限定されない。
【0012】
本発明の合成樹脂製容器に使用できる合成樹脂の具体例としては、ブロー成形で容器を製造しうるものであれば、特に限定されない。具体例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、メタキシリレンアジパミド(MXD6)などが挙げられる。このなかでも、化学成分を多く含有する人体用若しくは家庭用のケア用品の保存性を考慮すると、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。とくに、500ml以下の容量の容器では内容物当りの容器の表面積が比較的大きくなるため、ポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。さらには、複数の素材を組み合わせた容器やコーティング処理した容器が好ましく使用できる。具体的には、ポリエチレン(PE)とエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)の組合せ、ポリエチレンテレフタレート(PET)とエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)の組合せ、ポリエチレンテレフタレート(PET)とメタキシリレンアジパミド(MXD6)の組合せなどが挙げられる。これら複数の素材を組み合わせて異なる性質を有する複数の樹脂層を形成した容器材料を形成させることにより、単一の層に比べより保存安定性を高めることができる。また、コーティング容器としては、例えばポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エポキシ系樹脂、シリカ、カーボン、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などでコーティングしたものが挙げられる。中でもダイヤモンドライクカーボン(DLC)でコーティングしたポリエチレンテレフタレート(PET)は最も好ましい。
【0013】
本発明の合成樹脂製容器に使用できるラミネート材の具体例としては、パウチ形態で使用できるものであれば特に限定されない。具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)メタロセンポリエチレン(別称:スーパーポリエチレン(SPE))、アイオノマー(SURLYN)、アルミニウム蒸着ポリエチレン(ALVM-PE)などのポリエチレン(PE);無延伸ポリプロピレン(CPP)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリビニルアルコールコート二軸延伸ポリプロピレン(A-OP)、ポリ塩化ビニリデンコート二軸延伸ポリプロピレン(K-OP)、透明蒸着無延伸ポリプロピレン(透明VM-OPP)、アルミニウム蒸着無延伸ポリプロピレン(ALVM-CPP)、アルミニウム蒸着二軸延伸ポリプロピレン(ALVM-OPP)などのポリプロピレン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニリデンコートポリエチレンテレフタレート(K-PET)、透明蒸着ポリエチレンテレフタレート(透明VM-PET)、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(ALVM-PET)などのポリエチレンテレフタレート(PET);無延伸ナイロン(CNY)、バリア性ナイロン、メタキシレンジアミン系ナイロン(MXD6)、延伸ナイロン(ONY)、ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン(K-ONY)、アルミニウム蒸着延伸ナイロン(ALVM-ONY)などのナイロン(NY);ポリビニルアルコール(PVA)、二軸延伸ポリビニルアルコール(O-PVA)、ポリ塩化ビニリデンコート二軸延伸ポリビニルアルコール(KO-PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などのビニル系樹脂;汎用ポリスチレン(GPPS)、延伸ポリスチレン(OPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)などのポリスチレン(PS);エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)などのアクリル酸系樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)、アルミナ等の金属酸化物などが挙げられる。
【0014】
本発明のパウチは、水蒸気透過度が2(g/m2/24h)以下でかつ、酸素透過度が10(ml/m2/24h)以下であるラミネート包材で構成されているものであれば特に限定されない。本願における水蒸気透過度とは、40℃、90%RHの条件下で24時間当たりに1m2当りに透過する水蒸気の量(g)であり、感湿センサー法(Lyssy法)、カップ法や赤外センサー法(Moon法)などの公知の方法を活用して測定することができる。また、本願における酸素透過度とは、日本工業規格の「プラスチック・フィルム及びシート・ガス透過度試験法」(JIS K7126)に準じて測定することができる。
【0015】
ラミネートに使用できるフィルム素材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、リニヤー低密度ポリエチレン(LLDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、延伸ナイロン(ON)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、バリア性ナイロン、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、メタロセンポリエチレン(別称:スーパーポリエチレン(SPE))、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー、アルミニウム(AL)、ステンレス等の金属箔、アルミナ等の金属酸化物、透明蒸着ポリエチレンテレフタレート(透明VM-PET)、透明蒸着無延伸ポリプロピレン(透明VM-OPP)、アルミニウム蒸着ポリエチレンテレフタレート(ALVM-PET)、アルミニウム蒸着無延伸ポリプロピレン(ALVM-CPP)、アルミニウム蒸着二軸延伸ポリプロピレン(ALVM-OPP)、アルミニウム蒸着ポリエチレン(ALVM-PE)、ポリ塩化ビニリデンコート二軸延伸ポリプロピレン(K-OP)、ポリ塩化ビニリデンコートポリエチレンテレフタレート(K-PET)、ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン(K-ON)などが挙げられる。
【0016】
水蒸気透過度が2(g/m2/24h)以下でかつ酸素透過度が10(ml/m2/24h)以下であるラミネート包材の例としては、OPP//ALVM-CPP、OPP/PE/PET/PE/CPP、OPP//ALVM-PET//LLDPE、OPP//ALVM-PET//CP、OPP//EVOH//LLDPE、PET//ALVM-CPP、ALVM//CPP、透明VM-PET//CPP、透明VM-PET//LLDPE、PET//ALVM-PET//CPP、PET//ALVM-PET//EVA、PET//ALVM-PET//PE、PET//ALVM-PET//LLDPE、ON//ALVM-PET//LLDPE、PET/AL/PE、PET/AL/LLDPE、PET/AL/PET/LLDPE、PET/PE/AL/PE/LLDPE、PET//AL//ONY//CPP、ONY//透明VM-PET//LLDPEなどが挙げられる。
【0017】
さらに、合成樹脂容器をパウチ包装する際に、脱酸素剤を入れ、合成樹脂容器と共にパウチに封入すると組成物を構成する成分、特に香料成分の安定性を向上することができるため好ましい。また、パウチは合成樹脂容器を封入するために必要な最低限の大きさに設計することが好ましく、パウチ内の気体をできる限り抜いた状態で封入することがさらに好ましい。これらにより、合成樹脂容器の質量変化をより抑制することができる。
【0018】
香料および/またはエチルアルコールを配合した組成物としては、人体用若しくは家庭用のケア用品が好ましく、具体的には、練歯磨、パスタ、液体歯磨、洗口剤、含漱剤、マウススプレイ、シャンプー、リンス、ボディシャンプー、洗顔剤、化粧水、ローション、清拭シート剤形化粧品、医療用洗浄剤、洗濯液体洗剤、洗濯用柔軟剤、消臭剤などが挙げられるが、この例に限定されない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、下記における「%」は全て「質量%」を意味する。
【0020】
実施例:放置試験による経時質量減少量の検討
下記に示す処方の洗口剤を調製し、250ml容のポリエチレンテレフタレートボトル(キャップはポリプロピレン製、容器底面は長径約7cm、短径約5cmの楕円形状、高さ約16cm)に250ml充填した。さらに、一部については、PET(12μm)/DL/AL(7μm)/DL/LLDPE(60μm)(DLはドライラミネートの略:水蒸気透過度1以下(g/m2/24h)、酸素透過度1以下(ml/m2/24h))を用い4方シールにより作成した約12.5cm×約22.5cmの長方形のパウチに封入した。容器および容器を封入したパウチを、各々 本ずつ40℃の恒温条件下で4週間放置する。放置前後で洗口剤を充填したPET製容器の質量を正確に測定し、容器の質量変化率を計算した。その計算結果より、室温(20℃)で5年6ヶ月放置した場合の質量変化量を算出し、その結果を表1に示した。
( 洗口剤の組成 (組成物全量に対する存在比) )
塩化セチルピリジニウム 0.05%
塩化ベンザルコニウム 0.01%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.02%
濃グリセリン 10%
エチルアルコール 10%
精製水 残 部
【0021】
【0022】
表1に示したとおり、パウチで封入することにより合成樹脂容器中の組成物の組成変化を防止することができることがわかった。