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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20230425BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C08L51/04
C08L25/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018063723
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172857
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 一郎
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-284959(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175271(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/147143(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/04
C08L 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積平均粒子径80~250nmのゴム状重合体(a)の存在下に、1種以上のビニル系単量体から構成されるビニル系単量体混合物(m1)を重合してなるグラフト共重合体(A)と、シアン化ビニル系単量体単位31~50質量%、芳香族ビニル系単量体単位50~69質量%、及び他のビニル系単量体単位0~19質量%からなるビニル系共重合体(B)と、を含み、
前記グラフト共重合体(A)の割合が30~70質量%、前記ビニル系共重合体(B)の割合が30~70質量%(但し、前記グラフト共重合体(A)と前記ビニル系共重合体(B)の合計を100質量%とする)である熱可塑性樹脂組成物であり、
前記ゴム状重合体(a)が、アクリル系ゴム状重合体及び共役ジエン系ゴム状重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記グラフト共重合体(A)の総質量に対する前記ゴム状重合体(a)の質量割合が、20~80質量%であり、
前記熱可塑性樹脂組成物中に含まれる全ゴム状重合体成分の割合が、前記熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、15~30質量%である熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ビニル系共重合体(B)が、前記シアン化ビニル系単量体単位31~43質量%、前記芳香族ビニル系単量体単位57~69質量%、及び前記他のビニル系単量体単位0~12質量%からなる請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量が8万~12万である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ビニル系単量体混合物(m1)が、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含み、前記ビニル系単量体混合物(m1)の総質量に対して、前記芳香族ビニル系単量体の割合が60~80質量%、前記シアン化ビニル系単量体の割合が20~40質量%である請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
成形品の耐衝撃性を向上させることによって、成形品の用途が拡大する等、工業的な有用性が高くなる。そのため、成形品の耐衝撃性の向上については、これまでに様々な手法が提案されている。これら手法のうち、ゴム状重合体と硬質樹脂とを組み合わせた樹脂材料を用いることによって、硬質樹脂に由来する特性を保持しつつ、成形品の耐衝撃性を高める手法は、すでに工業化されている。このような樹脂材料としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン-(メタ)アクリレート(ASA)樹脂、アクリロニトリル-エチレン・α-オレフィン-スチレン(AES)樹脂、シリコーン系-アクリル系複合ゴム-アクリロニトリル-スチレン(SAS)樹脂、又はこれらをさらに硬質樹脂に添加した熱可塑性樹脂組成物等が挙げられる。
【0003】
特許文献1では、所定の単量体混合物を共重合して得られたスチレン-アクリル系共重合体のマトリックスと該マトリックスに分散するブタジエン系ゴム粒子とを含んでなる樹脂組成物において、ゴム粒子の粒子径及び分散係数が所定の式を満足する樹脂組成物が提案されている。前記樹脂組成物においては、ゴム粒子全体において粒子径0.12μm以下のゴム粒子が占める分率が0.1~0.85、粒子径0.12μm超0.5μm未満のゴム粒子が占める分率が0.05~0.85、粒子径0.5μm以上のゴム粒子が占める分率が0.01~0.2とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-217411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の樹脂組成物は、流動性、得られる成形品の低温環境下での耐衝撃性、及び発色性の全てを十分に満足するものではなかった。
【0006】
本発明は、流動性に優れ、低温環境下での耐衝撃性、及び発色性に優れた成形品が得られる熱可塑性樹脂組成物を提供する。また、本発明は、低温環境下での耐衝撃性、並びに発色性に優れた成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
〔1〕体積平均粒子径80~250nmのゴム状重合体(a)の存在下に、1種以上のビニル系単量体から構成されるビニル系単量体混合物(m1)を重合してなるグラフト共重合体(A)と、シアン化ビニル系単量体単位31~50質量%、芳香族ビニル系単量体単位50~69質量%、及び他のビニル系単量体単位0~30質量%からなるビニル系共重合体(B)と、を含み、
前記グラフト共重合体(A)の割合が30~70質量%、前記ビニル系共重合体(B)の割合が30~70質量%(但し、前記グラフト共重合体(A)と前記ビニル系共重合体(B)の合計を100質量%とする)である熱可塑性樹脂組成物。
〔2〕前記ビニル系共重合体(B)が、前記シアン化ビニル系単量体単位31~43質量%、前記芳香族ビニル系単量体単位57~69質量%、及び前記他のビニル系単量体単位0~30質量%からなる前記〔1〕の熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕前記ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量が8万~12万である前記〔1〕又は〔2〕の熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕熱可塑性樹脂組成物中に含まれる全ゴム状重合体成分の割合が、15~35質量%である前記〔1〕~〔3〕のいずれかの熱可塑性樹脂組成物。
〔5〕前記〔1〕~〔4〕のいずれかの熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、流動性に優れる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、低温環境下での耐衝撃性、及び発色性に優れた成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、低温環境下での耐衝撃性、及び発色性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「体積平均粒子径」は、動的光散乱方式の粒度分布測定器を用いて測定される体積基準の粒子径分布から求められる値である。
「成形品」とは、熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものである。
「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)とを含む。グラフト共重合体(A)は、ゴム状重合体(a)の存在下にビニル系単量体混合物(m1)を重合してなる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、グラフト共重合体(A)及びビニル系共重合体(B)以外の他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、熱可塑性樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。
以下、各成分について説明する。
【0011】
<ゴム状重合体(a)>
ゴム状重合体(a)としては、特に制限されないが、共役ジエン系ゴム状重合体(ブタジエン系ゴム状重合体(ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル-ブタジエン共重合体等)、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン/イソプレン共重合体等)、アクリル系ゴム状重合体(ポリアクリル酸ブチル等)、オレフィン系ゴム状重合体(エチレン-プロピレン共重合体等)、シリコーン系ゴム状重合体(ポリオルガノシロキサン等)、天然ゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。これらのゴム状重合体は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。ゴム状重合体(a)は、複合ゴム構造を有するものであってもよく、コア-シェル構造を有するものであってもよい。
ゴム状重合体(a)としては、成形品の耐候性に優れることから、アクリル系ゴム状重合体、オレフィン系ゴム状重合体、シリコーン系ゴム状重合体、シリコーン系-アクリル系複合ゴム状重合体が好ましい。
【0012】
ゴム状重合体(a)の体積平均粒子径は、80~250nmである。ゴム状重合体(a)の体積平均粒子径が前記下限値以上であると、成形品の耐衝撃性が優れ、前記上限値以下であると、成形品の発色性が優れる。
【0013】
ゴム状重合体(a)の製造方法は、特に制限されない。例えば、ブタジエン、(メタ)アクリル酸エステル等のモノマーを重合することによってゴム状重合体を得ることができる。複合ゴム構造を有するゴム状重合体の製造方法としては、例えば、一方のゴム状重合体の水性分散体と他方のゴム状重合体の水性分散体とをヘテロ凝集又は共肥大化する方法;一方のゴム状重合体の水性分散体の存在下で他方のゴム状重合体を構成する単量体成分を重合させて複合化させる方法等が挙げられる。例えば、シリコーン系ゴム状重合体の存在下で、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を乳化重合することにより、シリコーン系-アクリル系複合ゴム状重合体が得られる。
【0014】
<ビニル系単量体混合物(m1)>
ビニル系単量体混合物(m1)は、1種以上のビニル系単量体から構成される。
ビニル系単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、その他のビニル系単量体等が挙げられる。
ビニル系単量体混合物(m1)は、成形品の耐衝撃性、流動性がより向上する点から、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含むことが好ましい。
【0015】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられる。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
他のビニル系単量体としては、不飽和カルボン酸系単量体、不飽和カルボン酸無水物系単量体、不飽和カルボン酸エステル系単量体、マレイミド系単量体等が挙げられる。他の単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等が挙げられる。
これらのビニル系単量体はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
ビニル系単量体混合物(m1)は、成形品の耐衝撃性、流動性がより向上する点から、芳香族ビニル系単量体60~80質量%、シアン化ビニル単量体20~40質量%、及びそれらの単量体と共重合可能な他のビニル系単量体0~30質量%からなることがより好ましく、芳香族ビニル系単量体64~76質量%、シアン化ビニル単量体24~36質量%、及びそれらの単量体と共重合可能な他のビニル系単量体0~15質量%からなることがさらに好ましい。
各単量体の含有量(質量%)は、ビニル系単量体混合物(m1)の総質量、つまり全単量体の合計質量に対する割合である。他のビニル系単量体が0質量%とは、他のビニル系単量体を含まないことを示す。後述するビニル系単量体混合物(m2)においても同様である。
【0017】
<グラフト共重合体(A)>
グラフト共重合体(A)は、ゴム状重合体(a)の存在下にビニル系単量体混合物(m1)を重合してなる。
なお、グラフト共重合体(A)においては、ゴム状重合体(a)の存在下にビニル系単量体混合物(m1)がどのように重合しているか、特定することは困難である。例えば、ビニル系単量体混合物(m1)が重合したビニル系重合体としては、ゴム状重合体(a)に結合したものと、ゴム状重合体(a)に結合していないものとが存在し得る。また、ゴム状重合体(a)に結合したビニル系重合体の分子量、構成単位の割合等を特定することも困難である。すなわち、グラフト共重合体(A)をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在する。したがって、本発明においては、グラフト共重合体(A)は「ゴム状重合体(a)の存在下にビニル系単量体混合物(m1)を重合してなる」と規定することがより適切とされる。
【0018】
グラフト共重合体(A)のゴム含量、すなわちグラフト共重合体(A)の総質量に対するゴム状重合体(a)の質量割合は、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。ゴム含量が前記下限値以上であると、成形品の耐衝撃性、流動性がより優れる。ゴム含量が前記上限値以下であると、発色性がより優れる。
【0019】
グラフト共重合体(A)は、ゴム状重合体(a)の存在下にビニル系単量体混合物(m1)を重合することによって製造される。
重合法としては、反応が安定して進行するように制御可能である点から、乳化重合法が好ましい。具体的には、ゴム状重合体(a)にビニル系単量体混合物(m1)を一括して仕込んだ後に重合する方法;ゴム状重合体(a)にビニル系単量体混合物(m1)の一部を先に仕込み、随時重合させながら残りを重合系に滴下する方法;ゴム状重合体(a)にビニル系単量体混合物(m1)の全量を滴下しながら随時重合する方法等が挙げられる。ビニル系単量体混合物(m1)の重合は、1段で行ってもよく、2段以上に分けて行ってもよい。2段以上に分けて行う場合、各段におけるビニル系単量体混合物(m1)の種類や組成比を変えて行うことも可能である。
【0020】
乳化重合法においては通常、ラジカル重合開始剤及び乳化剤を用いる。また、グラフト共重合体(A)の分子量やグラフト率を制御するために、連鎖移動剤を併用してもよい。
【0021】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、レドックス系開始剤が好ましく、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩とナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートとハイドロパーオキサイドとを組み合わせたスルホキシレート系開始剤がより好ましい。
【0022】
乳化剤としては、ラジカル重合時のラテックスの安定性に優れ、重合率を高められる点から、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等の各種カルボン酸塩が好ましく、グラフト共重合体(A)及びこれを含む熱可塑性樹脂組成物を高温成形した際にガスの発生を抑制できる点から、アルケニルコハク酸ジカリウムがより好ましい。
【0023】
グラフト共重合体(A)は、通常、ラテックスの状態で得られる。
グラフト共重合体(A)のラテックスからグラフト共重合体(A)を回収する方法としては、グラフト共重合体(A)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入することによってスラリー状に凝析する湿式法;加熱雰囲気中にグラフト共重合体(A)のラテックスを噴霧することによって半直接的にグラフト共重合体(A)を回収するスプレードライ法等が挙げられる。
【0024】
湿式法に用いる凝固剤としては、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)、金属塩(塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)等が挙げられ、重合で用いた乳化剤に応じて選定される。例えば、乳化剤として脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸等のカルボン酸石鹸のみを用いた場合には、上述した凝固剤の1種以上を用いることができる。また、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を用いた場合には、凝固剤としては金属塩が好適である。
【0025】
湿式法によってスラリー状のグラフト共重合体(A)が得られる。スラリー状のグラフト共重合体(A)から乾燥状態のグラフト共重合体(A)を得る方法としては、残存する乳化剤残渣を水中に溶出させて洗浄し、このスラリーを遠心分離機、プレス脱水機等で脱水した後に気流乾燥機等で乾燥する方法;圧搾脱水機、押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。これらの方法によって、粉体又は粒子状のグラフト共重合体(A)が得られる。
【0026】
洗浄条件としては、乾燥後のグラフト共重合体(A)中に含まれる乳化剤残渣量が、グラフト共重合体(A)の総質量に対して0.5~2質量%の範囲となる条件で洗浄することが好ましい。グラフト共重合体(A)中の乳化剤残渣が0.5質量%以上であれば、グラフト共重合体(A)及びこれを含む熱可塑性樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。グラフト共重合体(A)中の乳化剤残渣が2質量%以下であれば、熱可塑性樹脂組成物を高温成形した際のガスの発生を抑制できる。
なお、圧搾脱水機や押出機から排出されたグラフト共重合体(A)を回収せず、直接、熱可塑性樹脂組成物を製造する押出機や成形機に送って成形品としてもよい。
【0027】
<ビニル系共重合体(B)>
ビニル系共重合体(B)は、シアン化ビニル系単量体単位及び芳香族ビニル系単量体単位を含み、必要に応じて、他のビニル系単量体単位をさらに含んでいてもよい。
シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、他のビニル系単量体はそれぞれ前記と同様のものが挙げられる。これらのビニル系単量体はいずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ビニル系共重合体(B)は、シアン化ビニル系単量体単位31~50質量%、芳香族ビニル系単量体単位50~69質量%、及び他のビニル系単量体単位0~30質量%からなり、シアン化ビニル系単量体単位31~43質量%、芳香族ビニル系単量体単位57~69質量%、及び他のビニル系単量体単位0~30質量%からなることが好ましく、シアン化ビニル系単量体単位33~43質量%、芳香族ビニル系単量体単位57~67質量%、及び他のビニル系単量体単位0~30質量%からなることがより好ましい。シアン化ビニル系単量体単位の含有量が前記下限値以上、芳香族ビニル系単量体単位及び他のビニル系単量体単位の含有量が前記上限値以下であると、グラフト共重合体(A)と組み合わせたときに、成形品の低温環境下での耐衝撃性が優れる。シアン化ビニル系単量体単位の含有量が前記上限値以下、芳香族ビニル系単量体単位の含有量が前記下限値以上であると、流動性が優れる。
【0029】
ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は、6~14万が好ましく、8万~12万がより好ましく、8.5~11万がさらに好ましい。Mwが前記下限値以上であると、成形品の耐衝撃性がより優れる。Mwが前記上限値以下であると、熱可塑性樹脂組成物の流動性がより優れる。
ビニル系共重合体(B)のMwは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定された、標準ポリスチレン換算の値である。
【0030】
ビニル系共重合体(B)は、シアン化ビニル系単量体31~50質量%、芳香族ビニル系単量体50~69質量%、及び他のビニル系単量体0~30質量%からなるビニル系単量体混合物(m2)を重合することにより製造できる。
ビニル系単量体混合物(m2)は、シアン化ビニル系単量体31~43質量%、芳香族ビニル系単量体57~69質量%、及び他のビニル系単量体0~30質量%からなることが好ましく、シアン化ビニル系単量体単位33~43質量%、芳香族ビニル系単量体単位57~67質量%、及び他のビニル系単量体単位0~30質量%からなることがより好ましい。
なお、ビニル系単量体混合物(m2)中のシアン化ビニル系単量体の含有量(質量%)は、ビニル系共重合体(B)中の全単位の合計に対するシアン化ビニル系単量体単位の含有量(質量%)とみなすことができる。芳香族ビニル系単量体及び他のビニル系単量体も同様である。
重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合又はこれらを複合した方法等の公知の重合方法をいずれも適用できる。
【0031】
<他の熱可塑性樹脂>
他の熱可塑性樹脂としては、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル-スチレン-N-置換マレイミド三元共重合体、スチレン-無水マレイン酸-N-置換マレイミド三元共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)(ただし、グラフト共重合体(A)を除く。)、アクリロニトリル-スチレン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体(ASA樹脂)(ただし、グラフト共重合体(A)を除く。)、アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエン-スチレン共重合体(AES樹脂)(ただし、グラフト共重合体(A)を除く。)、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、スチレン系エラストマー(スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-ブタジエン(SBR)、水素添加SBS、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)等)、各種オレフィン系エラストマー、各種ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン、メチルメタクリレート-スチレン共重合体(MS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリフェニレンサルファイド(PPS樹脂)、ポリエーテルサルフォン(PES樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK樹脂)、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン)等が挙げられる。他の熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
<他の成分>
他の成分としては、添加剤等が挙げられる。
添加剤としては、各種の安定剤(酸化防止剤、光安定剤等)、滑剤、可塑剤、離型剤、染料、顔料、帯電防止剤、難燃剤、金属粉末、無機充填剤等の添加剤が挙げられる。添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、グラフト共重合体(A)の割合が30~70質量%、ビニル系共重合体(B)の割合が30~70質量%(但し、グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)の合計を100質量%とする)であり、グラフト共重合体(A)の割合が35~65質量%、ビニル系共重合体(B)の割合が35~65質量%であることが好ましく、グラフト共重合体(A)の割合が40~60質量%、ビニル系共重合体(B)の割合が40~60質量%であることがより好ましい。
すなわち、グラフト共重合体(A)/ビニル系共重合体(B)で表される質量比(以下、「(A)/(B)」とも記す)は、30/70~70/30であり、35/65~65/35が好ましく、40/60~60/40がより好ましい。
グラフト共重合体(A)の割合が前記範囲の下限値以上(ビニル系共重合体(B)の割合が前記範囲の上限値以下)であると、成形品の耐衝撃性が優れる。グラフト共重合体(A)の割合が前記範囲の上限値以下(ビニル系共重合体(B)の割合が前記範囲の下限値以上)であると、熱可塑性樹脂組成物の流動性が優れる。
【0034】
グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)との合計の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の総質量に対して、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましい。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に含まれる全ゴム状重合体成分(ゴム状重合体(a)および任意の他の熱可塑性樹脂に由来するゴム状重合体成分の合計)の割合は、熱可塑性樹脂組成物の総質量に対し、15~35質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。全ゴム状重合体成分の割合が前記下限値以上であると、成形品の低温環境下での耐衝撃性が優れる。
【0036】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)と、ビニル系共重合体(B)と、必要に応じて他の熱可塑性樹脂と、必要に応じて他の成分とを、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等によって混合分散させ、混合物をスクリュー式押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ミキシングロール等の溶融混練機等を用いて溶融混練することによって製造できる。また、必要に応じてペレタイザー等を用いて溶融混練物をペレット化してもよい。
【0037】
以上説明した本発明の熱可塑性樹脂組成物にあっては、グラフト共重合体(A)とビニル系共重合体(B)とを含むため、流動性に優れる。また、低温環境下(例えば-30~-10℃)での耐衝撃性、及び発色性に優れた成形品を得ることができる。
【0038】
〔成形品〕
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いたものであり、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
成形方法としては、公知の成形方法であってよく、射出成形法、プレス成形法、押出成形法、真空成形法、ブロー成形法等が挙げられる。
本発明の成形品の用途としては、車両外装部品、車両内装部品、OA機器、家電部品等が挙げられ、車両外装部品が好適である。
【0039】
以上説明した本発明の成形品にあっては、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いているため、低温環境下での耐衝撃性、及び発色性に優れる。
【実施例
【0040】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
以下、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0041】
<測定、評価>
(体積平均粒子径)
動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、Nanotrac UPA-EX150)を用い、動的光散乱法によってラテックスにおける重合体の体積基準の粒子径分布を測定し、粒子径分布から体積平均粒子径を求めた。
【0042】
(ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量)
ビニル系共重合体(B)をテトラヒドロフランに溶解して得られた溶液を測定試料として、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)(東ソー(株)製)を用いて測定し、標準ポリスチレン換算法にて算出した。
【0043】
(耐衝撃性)
ISO 3167に準拠して、射出成形機(東芝機械株式会社製、IS55FP-1.5A)を用い、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物から試験片(タイプA,ノッチ付き)(成形品)を作製した。試験片のシャルピー衝撃強度をISO 179に準拠して、-20℃雰囲気下で測定した。シャルピー衝撃強度が大きいほど耐衝撃性に優れる。
【0044】
(発色性)
4オンス射出成形機(株式会社日本製鋼所製)を用い、シリンダ設定温度260℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物から、長さ100mm、幅100mm、厚み2mmの板状の試験片(成形品)を作製し、測色計CM-508d(コニカミノルタ社製)により明度(L値)を測定した。L値が小さいほど発色性に優れる。
【0045】
(流動性)
ペレット状の熱可塑性樹脂組成物のMVRは、メルトインデックサ(株式会社東洋精機製作所製、「F-F01」)を用い、ISO 1133に準拠し、シリンダ温度220℃、荷重10kgで測定した。MVRが大きいほど流動性に優れる。
【0046】
<製造例1:グラフト共重合体(A-1)の製造>
反応器に、イオン交換水(以下、単に水と記す。)240部、アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK)0.7部、アクリル酸n-ブチル50部、メタクリル酸アリル0.15部、1,3-ブタンジオールジメタクリル酸エステル0.05部、t-ブチルヒドロパーオキシド0.1部を撹拌下で仕込み、反応器を窒素置換した後、内容物を昇温した。内温55℃にて、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部、硫酸第一鉄七水和物0.00015部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.00045部、水10部からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持し、体積平均粒子径が100nmのアクリル系ゴム状重合体(a1)のラテックスを得た。
【0047】
引き続き内温を70℃に制御し、アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK)0.2部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄七水和物0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.003部、水10部からなる水溶液を添加した。次いで、アクリロニトリル12部、スチレン28部、t-ブチルヒドロパーオキシド0.2部からなる混合液を80分間にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後、75℃まで冷却し、アクリロニトリル3部、スチレン7部、ノルマルオクチルメルカプタン0.02部、t-ブチルヒドロパーオキシド0.05部からなる混合液を20分間にわたって滴下した。滴下終了後、75℃で60分間保持した後冷却し、グラフト共重合体(A-1)ラテックスを得た。次いで、2.0%硫酸水溶液100部を40℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(A-1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(A-1)を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(A-1)を得た。
【0048】
<製造例2:グラフト共重合体(A-2)の製造>
耐圧容器に、水150部、1,3-ブタジエン100部、硬化脂肪酸カリ石鹸3.0部、有機スルホン酸ナトリウム0.3部、ターシャルドデシルメルカプタン0.2部、10時間半減期温度が71℃である過硫酸カリウム0.3部、及び水酸化カリウム0.14部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら温度を60℃に上げて重合を開始し、重合率65%のときに過硫酸カリウム0.1部を溶解した水5部を上記耐圧容器に加えて重合温度を70℃に上げ、反応時間13時間、重合転化率90%で重合を完結した。その後、上記耐圧容器にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.1部を添加し、体積平均粒子径が80nmのブタジエン系ゴム状重合体を得た。次いで酢酸1.25部を添加して肥大化を行い、体積平均粒子径が210nmのブタジエン系ゴム状重合体(a2)のラテックスを得た。
【0049】
反応器内に、得られたブタジエン系ゴム状重合体(a2)のラテックスを固形分換算で40部、水170部、不均化ロジン酸カリウム0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.01部、ピロリン酸ナトリウム0.2部、結晶ブドウ糖0.5部を仕込んだ。内容物を撹拌しながら60℃まで昇温させ、アクリロニトリル16部と、スチレン44部と、クメンハイドロパーオキサイド0.4部と、t-ドデシルメルカプタン0.2部とからなる混合物を100分かけて滴下し、重合した。滴下終了後75℃まで昇温させ、さらに1時間攪拌保持して、グラフト重合反応を完結させた。かかる反応によって得られた重合体に酸化防止剤を添加し、グラフト共重合体(A-2)のラテックスを得た。次いで得られたグラフト共重合体(A-2)のラテックスを液温80℃の希硫酸水溶液に投入し、その後30分かけて90℃まで昇温し凝固させた後、脱水、洗浄、乾燥させて、粉末状のグラフト共重合体(A-2)を得た。
【0050】
<製造例3:グラフト共重合体(A-3)の製造>
酸基含有共重合体ラテックス(K)の製造:
反応器に、水200部、オレイン酸カリウム2部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム4部、硫酸第一鉄七水塩0.003部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.009部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を窒素雰囲気下で仕込み、60℃に昇温した。60℃になった時点から、アクリル酸n-ブチル82部、メタクリル酸18部、クメンヒドロパーオキシド0.5部からなる混合物を120分かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに2時間、60℃のまま熟成を行い、体積平均粒子径が150nmである酸基含有共重合体ラテックス(K)を得た。
【0051】
反応器に、水310部、アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK)1部、アクリル酸n-ブチル80部、メタクリル酸アリル0.48部、イソシアヌル酸トリアリル0.42部、t-ブチルヒドロパーオキシド0.2部を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。内温55℃にて、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄七水塩0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0003部、水10部からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持し、体積平均粒子径が100nmのアクリル系ゴム状重合体を得た。次いで5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として1部添加し、内温を70℃になる様にジャケット温度の制御を行った。ここへ、内温70℃にて、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として3部添加し、内温70℃を保持したまま30分撹拌し、肥大化を行い、体積平均粒子径が420nmのアクリル系ゴム状重合体を得た。更に、内温70℃にて、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.03部、硫酸第一鉄七水塩0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.006部、水80部からなる水溶液を添加し、次いでアクリル酸n-ブチル20部、メタクリル酸アリル0.12部、イソシアヌル酸トリアリル0.1部、t-ブチルヒドロパーオキシド0.02部からなる混合液を1時間にわたって滴下した。滴下終了後、温度70℃の状態を1時間保持した後に冷却し、体積平均粒子径が450nmのアクリル系ゴム状重合体(a3)のラテックスを得た。
【0052】
反応器に、得られたアクリル系ゴム状重合体(a3)のラテックスを固形分換算で50部、水230部、アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK)0.5部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を70℃まで昇温した。次いで、アクリロニトリル15部、スチレン35部、t-ブチルヒドロパーオキシド0.5部からなる混合液を100分間にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後冷却し、グラフト共重合体(A-3)ラテックスを得た。次いで、1.5%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(A-3)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(A-3)を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(A-3)を得た。
【0053】
グラフト共重合体(A-1)~(A-3)に用いたゴム状重合体の体積平均粒子径、ゴム状重合体の種類、グラフト共重合体(A-1)~(A-3)のゴム含量及び製造方法を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
<製造例4:ビニル系共重合体(B-1)の製造>
アクリロニトリル34部及びスチレン66部を公知の懸濁重合により重合し、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.62dl/gであるアクリロニトリル-スチレン共重合体を得た。これをビニル系共重合体(B-1)とした。
【0056】
<製造例5:ビニル系共重合体(B-2)の製造>:
アクリロニトリル35部及びスチレン65部を公知の懸濁重合により重合し、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.78dl/gであるアクリロニトリル-スチレン共重合体を得た。これをビニル系共重合体(B-2)とした。
【0057】
<製造例6:ビニル系共重合体(B-3)の製造>:
アクリロニトリル42部及びスチレン58部を公知の懸濁重合により重合し、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.49dl/gであるアクリロニトリル-スチレン共重合体を得た。これをビニル系共重合体(B-3)とした。
【0058】
<製造例7:ビニル系共重合体(B-4)の製造>:
アクリロニトリル47部及びスチレン53部を公知の懸濁重合により重合し、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.71dl/gであるアクリロニトリル-スチレン共重合体を得た。これをビニル系共重合体(B-4)とした。
【0059】
<製造例8:ビニル系共重合体(B-5)の製造>:
アクリロニトリル27部及びスチレン73部を公知の懸濁重合により重合し、N,N-ジメチルホルムアミド溶液から25℃で測定した還元粘度が0.62dl/gであるアクリロニトリル-スチレン共重合体を得た。これをビニル系共重合体(B-5)とした。
【0060】
ビニル系共重合体(B-1)~(B-5)のシアン化ビニル系単量体比率(%)、重量平均分子量(Mw)、製造方法を表2に示す。シアン化ビニル系単量体比率は、全てのビニル系単量体の合計に対するシアン化ビニル系単量体の割合である。
【0061】
【表2】
【0062】
<熱可塑性樹脂組成物及び成形品の製造>
(実施例1~5、比較例1~3)
表3に示す量(部)のグラフト共重合体(A)及びビニル系共重合体(B)、並びにエチレンビスステアリルアミド「アルフローH50S」0.5部と、酸化防止剤「アデカスタブ AO-50」(株式会社ADEKA製)1部と、光安定剤「アデカスタブ LA-77Y」(株式会社ADEKA製)1部と、紫外線吸収剤「アデカスタブLA-31」(株式会社ADEKA製)0.5部と、酸化マグネシウム「キョーワマグ150」(協和化学工業製)0.1部と、カーボンブラック「♯966B」(三菱ケミカル社製)1部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。スクリュー式押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX-30α型二軸押出機)を用いて、得られた混合物を250℃にて溶融混練した後、ペレタイザーにてペレット化し、熱可塑性樹脂組成物を得た。熱可塑性樹脂組成物のMVRを表3に示す。なお、表3中の空欄は、その成分が配合されていないことを示す。
【0063】
得られたペレット状の熱可塑性樹脂組成物を用いて試験片(成形品)を作製した。得られた成形品について、シャルピー衝撃強度(-20℃)及び発色性を評価した。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
実施例1~5の熱可塑性樹脂組成物は、良好な流動性を有していた。また、これらの熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品は、低温環境下での耐衝撃性、及び発色性に優れていた。
一方、比較例1、2の熱可塑性樹脂組成物は、ビニル系共重合体(B)のシアン化ビニル系単量体比率が31質量%未満であるため、得られた成形品が低温環境下での耐衝撃性に劣っていた。
比較例3の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム状重合体(a)の体積平均粒子径が250nmを超えているため、得られた成形品が発色性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品は、車両外装部品、車両内装部品、OA機器、家電部品等として有用であり、車両外装部品として特に有用である。