(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】鋼製ランナーの制振工法及び制振構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/74 20060101AFI20230425BHJP
E04B 2/82 20060101ALI20230425BHJP
E04B 2/76 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
E04B2/74 551A
E04B2/82 501E
E04B2/76
(21)【出願番号】P 2018079913
(22)【出願日】2018-04-18
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕三
(72)【発明者】
【氏名】西井 朋也
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-328847(JP,A)
【文献】特開2001-193182(JP,A)
【文献】特開昭58-207439(JP,A)
【文献】特開2010-242298(JP,A)
【文献】特開2010-071021(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0067067(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1668739(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/72-2/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造建物において、間仕切壁の下地を構成する複数のスタッドの上端を受けるために、コンクリート製の天井スラブに固定される、延在方向と直交する断面がコの字状の鋼製ランナーの制振工法であって、
前記鋼製ランナーは、前記コの字状の2本の脚部に相当する2つの突出部と、該2つの突出部の間を接続する接続部とを備え、前記2つの突出部の先端を下方にする態様で、前記接続部が、前記鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けた複数の固定箇所において、前記天井スラブに対して固定されると共に、前記2つの突出部の間に、前記鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けて、前記複数のスタッドの上端が嵌合されるものであり、
前記鋼製ランナーの、前記2つの突出部間の隙間の、少なくとも前記複数の固定箇所の各々の近傍に、少なくとも前記2つの突出部の双方に密着させる態様で、前記鋼製ランナーよりも熱膨張率が小さい材料で形成した制振部材を設置し、
該制振部材の前記材料として、木材、プラスチック、ゴム、及び発泡ウレタンのうちのいずれかを使用し、
前記制振部材を、前記鋼製ランナーの、前記複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除いて設置
し、
前記制振部材を、前記複数の固定箇所の各々の近傍における、少なくとも対向する前記2つの突出部間の隙間に充填する形状として、前記2つの突出部に対して固定することを特徴とする鋼製ランナーの制振工法。
【請求項2】
前記制振部材を、前記鋼製ランナーの、前記複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除く、前記2つの突出部間の全ての隙間に設置することを特徴とする請求項1記載の鋼製ランナーの制振工法。
【請求項3】
前記制振部材を、前記鋼製ランナーの、前記2つの突出部と前記接続部とで囲まれる空間を充填するようにして設置することを特徴とする請求項1又は2記載の鋼製ランナーの制振工法。
【請求項4】
鉄筋コンクリート造建物において、間仕切壁の下地を構成する複数のスタッドの上端を受けるために、コンクリート製の天井スラブに固定される、延在方向と直交する断面がコの字状の鋼製ランナーの制振構造であって、
前記鋼製ランナーは、前記コの字状の2本の脚部に相当する2つの突出部と、該2つの突出部の間を接続する接続部とを備え、前記2つの突出部の先端を下方にする態様で、前記接続部が、前記鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けた複数の固定箇所において、前記天井スラブに対して固定されると共に、前記2つの突出部の間に、前記鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けて、前記複数のスタッドの上端が嵌合されており、
前記鋼製ランナーの、前記2つの突出部間の隙間の、少なくとも前記複数の固定箇所の各々の近傍に、少なくとも前記2つの突出部の双方に密着する態様で、前記鋼製ランナーよりも熱膨張率が小さい材料で形成された制振部材が設置されており、
該制振部材の前記材料が、木材、プラスチック、ゴム、及び発泡ウレタンのうちのいずれかであり、
前記制振部材が、前記鋼製ランナーの、前記複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除いて設置されて
おり、
前記制振部材が、前記複数の固定箇所の各々の近傍における、少なくとも対向する前記2つの突出部間の隙間に充填される形状であって、前記2つの突出部に対して固定されていることを特徴とする鋼製ランナーの制振構造。
【請求項5】
前記制振部材が、前記鋼製ランナーの、前記複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除く、前記2つの突出部間の全ての隙間に設置されていることを特徴とする請求項4記載の鋼製ランナーの制振構造。
【請求項6】
前記制振部材が、前記鋼製ランナーの、前記2つの突出部と前記接続部とで囲まれる空間を充填するようにして設置されていることを特徴とする請求項4又は5記載の鋼製ランナーの制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造建物のコンクリート製の天井スラブに固定される鋼製ランナーの制振工法及び制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンション等の集合住宅をはじめとする鉄筋コンクリート造建物では、例えば、延在方向と直交する断面がコの字状の上下一対の鋼製ランナーを、天井及び床の鉄筋コンクリートスラブの各々に固定し、天井側の鋼製ランナーと床側の鋼製ランナーとの間に、上下方向に延在する複数のスタッド(間柱)を立設することで、間仕切壁の鋼製下地を構築する。ここで、鉄筋コンクリート造建物の外部に面する鉄筋コンクリートスラブは、外部の熱的影響を受けて膨張伸縮を繰り返す傾向にあるため、通常、断熱材を使用して熱的影響を極小化する断熱工法が施工される。特に、鉄筋コンクリート造建物の最上階の天井スラブは、日光等からの熱的影響を受け易いため、天井スラブの上側に断熱材を配置する外断熱工法を採用することが多いが、建築基準法の斜線制限等により、天井スラブの一部の領域に、天井スラブの下側に断熱材を配置する内断熱工法を採用せざるを得ない場合がある。一方、最上階の居住空間を横断するように延在する逆梁が、その天端や側面を露出する態様で、鉄筋コンクリート造建物の屋上に突出し、このような逆梁と連続して最上階の天井スラブが設けられている場合もある。これらの場合には、内断熱工法の適用領域や逆梁からの熱伝導によって、外断熱工法の適用領域まで熱影響が及ぼされることがある。
【0003】
上記のような熱影響が及ぼされると、天井スラブから天井スラブに固定された鋼製ランナーまで熱が伝搬し、熱膨張率の異なる鉄筋コンクリート製の天井スラブと鋼製ランナーとの双方が、膨張収縮することになる。ここで、鋼製ランナーは、その延在方向に間隔を空けた複数箇所において天井スラブに固定され、又、鉄筋コンクリート製の天井スラブよりも熱膨張率が高く、天井スラブよりも大きく膨張収縮しようとする。このため、鋼製ランナーの固定部にひずみエネルギーが溜まり、このひずみエネルギーが天井スラブに対する鋼製ランナーの固定力を上回ると、鋼製ランナーが僅かにズレることでひずみエネルギーが開放される。すると、鋼製ランナーから金属的な衝撃音が発生し、この衝撃音の発生により、鉄筋コンクリート造建物の居住環境が大きく損なわれることになってしまう。このような事象への対策として、例えば非特許文献1には、鉄筋コンクリート造建物の屋上に露出していた逆梁の周囲を、断熱材で覆うことによって、天井スラブや鋼製ランナーに伝搬する熱を低減し、衝撃音の発生を抑制する技術が開示されている。更に、天井スラブに接する鋼製ランナーが伸縮できるように留付けを緩める、天井スラブに対する鋼製ランナーの固定部に滑り材を介在させる、鋼製ランナーの長さを短くする、といった別の対策も想定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】宮川忠明、他2名、「集合住宅における不思議音の発生と対策」、安藤建設技術研究所報、2008、Vol.14、p.13-19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した非特許文献1の対策は、鉄筋コンクリート造建物の屋上で露出した逆梁が、熱伝導の主要因である場合に限り、適用が可能なものであり、天井スラブの内断熱工法の適用領域から伝搬する熱が主要因である場合等は、適用が不可であった。又、上記の他の対策は、例えば鉄筋コンクリート造建物が分譲マンションの場合を想定すると、重要事項説明書の記載から逸脱することができない、すなわち、構造的要件を変更することができないという制限から、適用が現実的ではなかった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、鉄筋コンクリート造建物の構造的要件を変更することなく、鋼製ランナーからの衝撃音の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)鉄筋コンクリート造建物において、間仕切壁の下地を構成する複数のスタッドの上端を受けるために、コンクリート製の天井スラブに固定される、延在方向と直交する断面がコの字状の鋼製ランナーの制振工法であって、前記鋼製ランナーは、前記コの字状の2本の脚部に相当する2つの突出部と、該2つの突出部の間を接続する接続部とを備え、前記2つの突出部の先端を下方にする態様で、前記接続部が、前記鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けた複数の固定箇所において、前記天井スラブに対して固定されると共に、前記2つの突出部の間に、前記鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けて、前記複数のスタッドの上端が嵌合されるものであり、前記鋼製ランナーの、前記2つの突出部間の隙間の、少なくとも前記複数の固定箇所の各々の近傍に、少なくとも前記2つの突出部の双方に密着させる態様で、前記鋼製ランナーよりも熱膨張率が小さい材料で形成した制振部材を設置し、該制振部材の前記材料として、木材、プラスチック、ゴム、及び発泡ウレタンのうちのいずれかを使用し、前記制振部材を、前記鋼製ランナーの、前記複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除いて設置し、前記制振部材を、前記複数の固定箇所の各々の近傍における、少なくとも対向する前記2つの突出部間の隙間に充填する形状として、前記2つの突出部に対して固定する鋼製ランナーの制振工法(請求項1)。
【0008】
本項に記載の鋼製ランナーの制振工法は、鉄筋コンクリート造建物において、間仕切壁の下地を構成する複数のスタッドを支える上下一対のランナーのうち、複数のスタッドの上端を受けるようにコンクリート製の天井スラブに固定される、上側の鋼製ランナーを対象とするものである。制振対象となる鋼製ランナーは、延在方向と直交する断面がコの字状を成し、このコの字状の2本の脚部に相当する2つの突出部と、これら2つの突出部の間を接続する接続部とを備えている。そして、2つの突出部の先端を下方にする態様で、接続部が天井スラブに対して固定される。すなわち、突出部の先端を下方にしたときの、接続部の上面が天井スラブの下面に接触するように固定される。
【0009】
この際、接続部は、鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けた複数の固定箇所において、例えば、コンクリート打込みピンやプラグ付きコンクリート用ビス等が、接続部の下面側から打込まれることによって固定される。更に、制振対象の鋼製ランナーは、2つの突出部の間に、鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けて、複数のスタッドの上端が嵌合される。すなわち、複数のスタッドは、鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けて設置され、各スタッドの上端が制振対象の鋼製ランナーに嵌合されると共に、各スタッドの下端が、コンクリート製の床スラブに固定された鋼製ランナーや、間仕切壁の開口部のまぐさ部分を構成するランナー等に嵌合される。このようにして、間仕切壁の下地が構築されるものである。
【0010】
そして、本項に記載の鋼製ランナーの制振工法は、制振対象の鋼製ランナーの、2つの突出部間の隙間に、鋼製ランナーよりも熱膨張率が小さい材料である、木材、プラスチック、ゴム、及び発泡ウレタンのうちのいずれかで形成した制振部材を設置するものである。このとき、少なくとも、鋼製ランナーの接続部が天井スラブに対して固定される際の、鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けた複数の固定箇所の各々の近傍において、制振部材を2つの突出部間の隙間に設置する。更に、制振部材を、少なくとも2つの突出部の双方に密着させる態様で、すなわち、2つの突出部の互いに向き合う内面の双方に密着させて設置する。加えて、制振部材を、鋼製ランナーの、複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除いて設置し、このとき、制振部材を、複数の固定箇所の各々の近傍における、少なくとも対向する2つの突出部間の隙間に充填する形状として、2つの突出部に対して固定する。ここで、鋼製ランナーから金属的な衝撃音が発生することについて言及する。この現象は、コンクリート製の天井スラブと鋼製ランナーとの熱膨張率の相違に起因し、特に鋼製ランナーの固定部近傍において、鋼製ランナーが僅かにズレてひずみエネルギーが開放される際に、鋼製ランナーの2つの突出部が振動することで発生する。
【0011】
そこで、本項に記載の鋼製ランナーの制振工法は、上述したように制振部材を設置することで、鋼製ランナーの固定部近傍でひずみエネルギーが開放される際に、2つの突出部の振動を拘束させるものである。これにより、コンクリート製の天井スラブと鋼製ランナーとの双方に、外部の熱的影響が及ぼされたとしても、ひずみエネルギーが開放される際の、鋼製ランナーからの衝撃音の発生が抑制される。しかも、制振部材は鋼製ランナーよりも熱膨張率が小さい材料で形成されており、鋼製ランナーから制振部材に熱が伝搬しても、制振部材はほとんど膨張伸縮せずに2つの突出部に密着するため、衝撃音の発生が効果的に抑制されるものである。更に、上記のような制振部材の設置は、鉄筋コンクリート造建物の構造的要件の変更に該当するものではないため、鉄筋コンクリート造建物の構造的要件を変更することなく、衝撃音の発生を抑制するものとなる。
【0012】
(2)上記(1)項において、前記制振部材を、前記鋼製ランナーの、前記複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除く、前記2つの突出部間の全ての隙間に設置する鋼製ランナーの制振工法(請求項2)。
本項に記載の鋼製ランナーの制振工法は、制振部材の設置を、複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除く、鋼製ランナーの2つの突出部間の全ての隙間に対して行うことで、鋼製ランナーの全長にわたって、2つの突出部間の隙間に、スタッドの上端或いは制振部材が配置されるものである。これにより、鋼製ランナーの全長にわたって、2つの突出部の振動が抑制されるため、衝撃音の発生がより一層抑制されるものである。
【0013】
(3)上記(1)(2)項において、前記制振部材を、前記鋼製ランナーの、前記2つの突出部と前記接続部とで囲まれる空間を充填するようにして設置する鋼製ランナーの制振工法(請求項3)。
本項に記載の鋼製ランナーの制振工法は、鋼製ランナーの2つの突出部間の隙間に制振部材を設置する際に、2つの突出部と接続部とで囲まれる空間を充填するようにして、制振部材を設置するものである。すなわち、天井スラブを上側とする鋼製ランナーの延在方向と直交する断面視で、制振部材を、接続部の下面に接触する位置から突出部の下端近傍まで、2つの突出部の内面に密着させて設置する。これにより、鋼製ランナーの突出部の上端から下端までが、密着する制振部材によって拘束されるため、衝撃音の発生がより効果的に抑制されるものである。
【0014】
(4)鉄筋コンクリート造建物において、間仕切壁の下地を構成する複数のスタッドの上端を受けるために、コンクリート製の天井スラブに固定される、延在方向と直交する断面がコの字状の鋼製ランナーの制振構造であって、前記鋼製ランナーは、前記コの字状の2本の脚部に相当する2つの突出部と、該2つの突出部の間を接続する接続部とを備え、前記2つの突出部の先端を下方にする態様で、前記接続部が、前記鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けた複数の固定箇所において、前記天井スラブに対して固定されると共に、前記2つの突出部の間に、前記鋼製ランナーの延在方向に間隔を空けて、前記複数のスタッドの上端が嵌合されており、前記鋼製ランナーの、前記2つの突出部間の隙間の、少なくとも前記複数の固定箇所の各々の近傍に、少なくとも前記2つの突出部の双方に密着する態様で、前記鋼製ランナーよりも熱膨張率が小さい材料で形成された制振部材が設置されており、該制振部材の前記材料が、木材、プラスチック、ゴム、及び発泡ウレタンのうちのいずれかであり、前記制振部材が、前記鋼製ランナーの、前記複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除いて設置されており、前記制振部材が、前記複数の固定箇所の各々の近傍における、少なくとも対向する前記2つの突出部間の隙間に充填される形状であって、前記2つの突出部に対して固定されている鋼製ランナーの制振構造(請求項4)。
【0015】
(5)上記(4)項において、前記制振部材が、前記鋼製ランナーの、前記複数のスタッドの上端が嵌合された位置を除く、前記2つの突出部間の全ての隙間に設置されている鋼製ランナーの制振構造(請求項5)。
(6)上記(4)(5)項において、前記制振部材が、前記鋼製ランナーの、前記2つの突出部と前記接続部とで囲まれる空間を充填するようにして設置されている鋼製ランナーの制振構造(請求項6)。
そして、(4)から(6)項に記載の鋼製ランナーの制振構造は、各々、上記(1)から(3)項の鋼製ランナーの制振工法に利用されることで、上記(1)から(3)項の鋼製ランナーの制振工法と同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のような構成であるため、鉄筋コンクリート造建物の構造的要件を変更することなく、鋼製ランナーからの衝撃音の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法が適用された、鉄筋コンクリート造建物の鋼製ランナー周辺の断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法が適用された鉄筋コンクリート造建物の、天井スラブと天井下地との間の空間を示したイメージ図である。
【
図3】鋼製ランナーが振動したときの加速度振幅の時間変化を示すグラフであり、(a)は本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法が適用された鋼製ランナーのグラフ、(b)は従来の鋼製ランナーのグラフである。
【
図4】鋼製ランナーが振動したときの振動加速度の周波数特性を示すグラフであり、(a)は本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法が適用された鋼製ランナーのグラフ、(b)は従来の鋼製ランナーのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法により構築される、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振構造10の一例を、鋼製ランナーの周辺部材と共に示しており、
図2は、鋼製ランナーの制振構造10を備えた鉄筋コンクリート造建物の、天井スラブと天井下地との間の空間を示したイメージ図である。なお、
図1及び
図2は、鉄筋コンクリート造建物の最上階の居室をイメージしたものであるが、
図1では、天井スラブ12の上部に設置される断熱材、防水シート、シンダーコンクリート等の図示は省略している。
【0019】
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法及び制振構造10の適用対象となる、鋼製ランナー14の構造及びその周辺部材について説明する。鋼製ランナー14は、延在方向と直交する断面(
図1における断面)がコの字状を成しており、
図1における上方から下方へ延びる2つの突出部16と、これら2つの突出部16間を接続する接続部18とを備えている。そして、鋼製ランナー14は、接続部18の上面がコンクリート製の天井スラブ12に接触した状態で、図示の例ではコンクリート打込みピン20によって、天井スラブ12に対して固定されている。このような固定箇所が、鋼製ランナー14の延在方向に間隔を空けた複数箇所に設けられることによって、鋼製ランナー14は、その延在方向の一方の端部から他方の端部まで、天井スラブ12に対して固定されている。
【0020】
更に、鋼製ランナー14には、鉄筋コンクリート造建物の居室内に構築される間仕切壁の下地を構成する、複数のスタッド22の上端が嵌合しており、各スタッド22の上端は、通常、鋼製ランナー14の接続部18の下面18aから僅かに隙間を空けた位置で嵌合している。又、
図2で確認できるように、複数のスタッド22は、鋼製ランナー14の延在方向に間隔を空けて配置されており、本実施例では木製のスタッド22が使用されている。そして、上下方向に延在する各スタッド22の所定高さの位置に、固定用ビス28を介して、天井用ランナー26が固定されている。本実施例において、天井用ランナー26は、鋼製ランナー14と同じく、延在方向と直交する断面がコの字状を成す鋼製のものであり、その内部には複数の野縁30の一端が嵌合している。複数の野縁30は、居室の天井の下地を構成するものであり、天井用ランナー26の延在方向に間隔を空けて設置されている。野縁30の各々は、天井用ランナー26の内部の最深部26aから僅かに間隔を空けた位置で嵌合しており、本実施例では鋼製のものが使用されている。
【0021】
上記のように設置された複数のスタッド22には、天井用ランナー26の固定位置の直ぐ下方に、壁仕上げ材としての石膏ボード34が固定され、又、複数の野縁30の
図1における下方には、石膏ボード34の上端近傍に一方の端部が密着して、天井仕上げ材としての石膏ボード32が固定されている。このような石膏ボード32、34で囲まれた空間が、鉄筋コンクリート造建物の居室内の部屋として使用されるものである。なお、スタッド22及び野縁30の材質は、本実施例に限定されるものではなく、木製、鋼製、或いは他の材質であってもよい。又、鋼製ランナー14は、2つの突出部16の突出長さ(
図1における上下方向の長さ)が等しくなくてもよく、
図2の例のように、一方の突出部16が他方の突出部16よりも短くてもよい。更に、鋼製ランナー14は、コンクリート打込みピン20を用いた固定方法に限定されず、プラグ付きコンクリート用ビス等の、他の適切な部材を用いて固定されていてもよい。なお、天井スラブ12と天井下地との間に十分な余裕がある場合は、天井下地が、天井スラブ12に固定された吊ボルトを介して支持されるものであってもよい。
【0022】
続いて、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振構造10について説明する。
図1及び
図2に示すように、鋼製ランナーの制振構造10は、鋼製ランナー14の2つの突出部16間の隙間に、制振部材24が設置されたものである。本実施例において、制振部材24は、
図1で確認できるように、鋼製ランナー14の2つの突出部16及び接続部18で囲まれる空間を充填するようにして、2つの突出部16の内面16aに密着すると共に、接続部18の下面18aに接触して設置されている。更に、制振部材24は、
図2で確認できるように、鋼製ランナー14の、複数のスタッド22の上端が嵌合された位置を除く、2つの突出部16間の全ての隙間に設置されている。すなわち、制振部材24は、鋼製ランナー14の延在方向に関して、複数のスタッド22の隣接するスタッド22の間や、鋼製ランナー14の端部とスタッド22との間に設置され、これらの設置範囲には、鋼製ランナー14の複数の固定箇所の近傍が含まれている。
【0023】
又、制振部材24は、鋼製ランナー14よりも熱膨張率が小さい材料で形成されたものであり、本実施例では木材が使用されているが、例えば、プラスチック、ゴム、発泡ウレタン等の他の材料で形成されていてもよい。更に、制振部材24は、少なくとも鋼製ランナー14の突出部16に対して固定されており、
図1の例では、接着剤又は粘着剤が制振部材24と突出部16の内面16aとの間に介在することで固定され、
図2の例では、
図1の例と同様の接着剤又は粘着剤に加えて、ビス36によっても固定されている。しかしながら、制振部材24の固定方法は、制振部材24を形成している材料に適した、別の固定方法であってもよい。
【0024】
ここで、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振構造10は、
図1及び
図2の例に限定されるものではない。例えば、制振部材24は、鋼製ランナー14の2つの突出部16の内面16aに密着していれば、接続部18の下面18aとの間に隙間があってもよく、突出部16の下端よりも上方或いは下方にあってもよい。更に、制振部材24は、鋼製ランナー14の天井スラブ12に対する複数の固定箇所(本実施例ではコンクリート打込みピン20の位置)の近傍に設置されていれば、2つの突出部16間の全ての隙間に設置されていなくてもよく、スタッド22に接していなくてもよい。なお、スタッド22の上端の真上に、鋼製ランナー14の天井スラブ12に対する固定箇所がある場合は、そのスタッド22の近傍に制振部材24が設置されていればよい。
【0025】
次に、
図3及び
図4には、天井スラブ12と鋼製ランナー14との双方に熱が伝搬し、コンクリート製の天井スラブ12と鋼製ランナー14との熱膨張率の相違に起因して、鋼製ランナー14から金属的な衝撃音が発生したときの、鋼製ランナー14の振動の特性を示すグラフを図示している。これらのグラフの値は、鉄筋コンクリート造建物の最上階の居室において、実際に上記のような衝撃音が発生した際の実測値であり、その居室の天井スラブ12に固定された鋼製ランナー14に、加速度ピックアップを取り付けて測定したものである。
図3及び
図4において、(a)のグラフが、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法が適用された鋼製ランナー14のものであり、(b)のグラフが、鋼製ランナーの制振工法が適用される前の従来の鋼製ランナー14のものである。なお、
図4のグラフの値は、単発暴露振動加速度レベル(LE:単発的に発生した振動のエネルギーと等しいエネルギーを持つ継続時間1秒の振動加速度レベル)での計測値である。
【0026】
まず、
図3を参照すると、本発明の鋼製ランナーの制振工法が適用された鋼製ランナー14は、従来の鋼製ランナー14と比較して、振動の継続時間が明らかに短くなっていることが確認できる。具体的には、従来のランナー14が約336msであるのに対し、本発明が適用された鋼製ランナー14は約114msであり、振動の継続時間がおよそ1/3に低減されている。更に、
図4を参照すると、本発明の鋼製ランナーの制振工法が適用された鋼製ランナー14は、従来の鋼製ランナー14と比較して、単発暴露振動加速度レベルが低減されており、具体的には、オールパス(AP)値が98.6dBから94.1dBへと、4.5dB低減されている。又、従来の鋼製ランナー14では、振動加速度レベルのピークが2つの周波数帯域に存在するのに対し、本発明が適用された鋼製ランナー14では、振動加速度レベルのピークが1つの周波数帯域にのみ存在しており、振動発生形態も変化させていることがうかがえる。更に、従来の鋼製ランナー14では、振動加速度レベルのピークが1/3オクターブバンドの500Hz帯域にあるのに対し、本発明が適用された鋼製ランナー14では、振動加速度レベルのピークが400Hz帯域にあり、レベルの低減と共にピーク周波数も低下し、発生する衝撃音の不快さが低減されている。
【0027】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法は、
図1及び
図2に示すように、鉄筋コンクリート造建物において、間仕切壁の下地を構成する複数のスタッド22を支える上下一対のランナーのうち、複数のスタッド22の上端を受けるようにコンクリート製の天井スラブ12に固定される、上側の鋼製ランナー14を対象とするものである。制振対象となる鋼製ランナー14は、延在方向と直交する断面がコの字状を成し、このコの字状の2本の脚部に相当する2つの突出部16と、これら2つの突出部16の間を接続する接続部18とを備えている。そして、2つの突出部16の先端を下方にする態様で、接続部18が天井スラブ12に対して固定される。すなわち、突出部16の先端を下方にしたときの、接続部18の上面が天井スラブ12の下面に接触するように固定される。
【0028】
この際、接続部18は、鋼製ランナー14の延在方向に間隔を空けた複数の固定箇所において、図示の例では、コンクリート打込みピン20が、接続部18の下面18a側から打込まれることによって固定される。更に、制振対象の鋼製ランナー14は、2つの突出部16の間に、鋼製ランナー14の延在方向に間隔を空けて、複数のスタッド22の上端が嵌合される。すなわち、複数のスタッド22は、鋼製ランナー14の延在方向に間隔を空けて設置され、各スタッド22の上端が制振対象の鋼製ランナー14に嵌合されると共に、各スタッド22の下端が、コンクリート製の床スラブに固定された鋼製ランナーや、間仕切壁の開口部のまぐさ部分を構成するランナー等に嵌合される。このようにして、間仕切壁の下地が構築されるものである。
【0029】
そして、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法は、制振対象の鋼製ランナー14の、2つの突出部16間の隙間に、鋼製ランナー14よりも熱膨張率が小さい材料(図示の例では木材)で形成した制振部材24を設置するものである。このとき、少なくとも、鋼製ランナー14の接続部18が天井スラブ12に対して固定される際の、鋼製ランナー14の延在方向に間隔を空けた複数の固定箇所の各々の近傍において、制振部材24を2つの突出部16間の隙間に設置する。更に、制振部材24を、少なくとも2つの突出部16の双方に密着させる態様で、すなわち、2つの突出部16の互いに向き合う内面16aの双方に密着させて設置する。ここで、鋼製ランナー14から金属的な衝撃音が発生することについて言及する。この現象は、コンクリート製の天井スラブ12と鋼製ランナー14との熱膨張率の相違に起因し、特に鋼製ランナー14の固定部近傍において、鋼製ランナー14が僅かにズレてひずみエネルギーが開放される際に、鋼製ランナー14の2つの突出部16が振動することで発生する。
【0030】
そこで、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法は、上述したように制振部材24を設置することで、鋼製ランナー14の固定部近傍でひずみエネルギーが開放される際に、2つの突出部16の振動を拘束させることができる。これにより、コンクリート製の天井スラブ12と鋼製ランナー14との双方に、外部の熱的影響が及ぼされたとしても、ひずみエネルギーが開放される際の、鋼製ランナー14からの衝撃音の発生を抑制することが可能となる。しかも、制振部材24は鋼製ランナー14よりも熱膨張率が小さい材料で形成されており、鋼製ランナー14から制振部材24に熱が伝搬しても、制振部材24はほとんど膨張伸縮せずに2つの突出部16に密着するため、衝撃音の発生を効果的に抑制することができる。更に、上記のような制振部材24の設置は、鉄筋コンクリート造建物の構造的要件の変更に該当するものではないため、鉄筋コンクリート造建物の構造的要件を変更することなく、衝撃音の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
更に、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法は、
図1で確認できるように、鋼製ランナー14の2つの突出部16間の隙間に制振部材24を設置する際に、2つの突出部16と接続部18とで囲まれる空間を充填するようにして、制振部材24を設置してもよいものである。すなわち、
図1における断面視で、制振部材24を、接続部18の下面18aに接触する位置から突出部16の下端近傍まで、2つの突出部16の内面16aに密着させて設置する。これにより、鋼製ランナー14の突出部16の上端から下端までが、密着する制振部材24によって拘束されるため、衝撃音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0032】
又、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法は、
図2で確認できるように、制振部材24の設置を、複数のスタッド22の上端が嵌合された位置を除く、鋼製ランナー14の2つの突出部16間の全ての隙間に対して行うことで、鋼製ランナー14の全長にわたって、2つの突出部16間の隙間に、スタッド22の上端或いは制振部材24が配置されるものである。これにより、鋼製ランナー14の全長にわたって、2つの突出部16の振動を抑制することができるため、衝撃音の発生をより一層抑制することが可能となる。
【0033】
ここで、
図3及び
図4を参照すると、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法が適用された鋼製ランナー14は、従来の鋼製ランナー14と比較して、振動の継続時間が短く、すなわち、早期に振動が収束しており、又、単発暴露振動加速度レベルが低減されていることが分かる。これらのことから、衝撃音の継続時間が短くなり、衝撃音のレベルが小さくなっていることが明らかであるため、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法による、衝撃音発生の抑制効果が発揮されていることが確認できる。
【0034】
しかも、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法は、鋼製ランナー14の内部に制振部材24を設置するものであるため、既設又は新設を問わず、鉄筋コンクリート造建物の鋼製ランナー14に対して、容易に適用可能なものである。
なお、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振構造10は、本発明の実施の形態に係る鋼製ランナーの制振工法に利用されることで、鋼製ランナーの制振工法と同等の上記のような作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0035】
10:鋼製ランナーの制振構造、12:天井スラブ、14:鋼製ランナー、16:突出部、18:接続部、22:スタッド、24:制振部材