(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/037 20120101AFI20230425BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20230425BHJP
F16H 57/03 20120101ALI20230425BHJP
【FI】
F16H57/037
F16H57/04 B
F16H57/03
(21)【出願番号】P 2018134031
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】海老沼 剛
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025261(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111105(WO,A1)
【文献】特開2015-102146(JP,A)
【文献】特開2009-225505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/037
F16H 57/04
F16H 57/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に差動ギヤ機構が配置されたデファレンシャル装置であって、
前記差動ギヤ機構はドライブギヤを介して伝達される動力によって回転されるリングギヤと前記リングギヤと一体になって回転されるデファレンシャルケースとを備え、
前記ハウジングは前記差動ギヤ機構を覆うカバー部と前記カバー部における上部の内面からそれぞれ下方に突出された第1のリブ及び第2のリブとを備え、
前記第1のリブと前記第2のリブが前記リングギヤの真上の位置を基準として左右に離隔して位置され、
前記リングギヤの真上の位置に前記カバー部における上部の内面から下方に突出された第3のリブが設けられ、
前記第3のリブの左右両端がそれぞれ前記第1のリブと前記第2のリブに連続され、
前記第3のリブの外周縁と前記第1のリブの外周縁との境界部分及び前記第3のリブの外周縁と前記第2のリブの外周縁との境界部分の双方に角張った形状が形成されず、
前記第1のリブの外周縁と前記第3のリブの外周縁と前記第2のリブの外周縁が連続した曲線状に形成され
、
前記第3のリブの外周縁が前記カバー部からの突出方向に凹の曲線状に形成された
デファレンシャル装置。
【請求項2】
前記第1のリブの外周縁と前記第2のリブの外周縁とが前記カバー部からの突出方向に凸の曲線状に形成された
請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項3】
前記ハウジングの左右方向における中央線を基準線としたときに前記リングギヤが前記基準線より左方又は右方に位置され、
左右方向において前記基準線に対して前記リングギヤが位置する側に前記第1のリブが位置され、
前記第2のリブの前記上部からの下方への最大突出量が前記第1のリブの前記上部からの下方への最大突出量より大きくされた
請求項1又は請求項2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項4】
前記第1のリブの外周縁と前記第2のリブの外周縁とが左右方向において互いに離隔するに従って下方に変位するように傾斜された
請求項1から請求項3のいずれかに記載のデファレンシャル装置。
【請求項5】
前記第1のリブと前記第2のリブが前記リングギヤの回転軸より前側に位置された
請求項1から請求項4のいずれかに記載のデファレンシャル装置。
【請求項6】
前記ハウジングには前記上部の左右両端にそれぞれ連続する一対の側部が設けられ、
前記第1のリブが前記上部の内面から一方の前記側部の内面に亘って連続され、
前記第2のリブが前記上部の内面から他方の前記側部の内面に亘って連続された
請求項1から請求項5のいずれかに記載のデファレンシャル装置。
【請求項7】
前記リングギヤは左右方向における一方の側において前記ドライブギヤと噛合され、
前記第2のリブが前記リングギヤと前記ドライブギヤが噛合される側に位置された
請求項1から請求項6のいずれかに記載のデファレンシャル装置。
【請求項8】
前記第1のリブと前記第2のリブと前記第3のリブが板状に形成され、
前記リングギヤの上側における前記第1のリブと前記第2のリブの間に第1の空間が形成され、
前記第2のリブの下側に第2の空間が形成された
請求項1から請求項7のいずれかに記載のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載され車両の走行時における作動を行うデファレンシャル装置についての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両にはエンジンや電動モーター等の動力を駆動輪に伝達するための動力伝達装置が設けられ、動力伝達装置から出力された動力がデファレンシャル装置を介して駆動輪に伝達される。
【0003】
デファレンシャル装置は内部に所要の各部を収容するハウジングとハウジングの内部に配置された差動ギヤ機構とを備え、差動ギヤ機構はリングギヤ、デファレンシャルケース、サイドギヤ及びピニオンギヤ等の各部によって構成されている。ハウジングの内部には動力が伝達されるドライブ軸とドライブ軸の一端部に固定されたドライブギヤとが配置され、ドライブギヤがリングギヤに噛合されている。
【0004】
車両の直進時には左右の駆動輪に対する路面からの抵抗が同等であるため、リングギヤと一体になって回転されるデファレンシャルケースがピニオンギヤを公転させ、ピニオンギヤに噛合されている左右のサイドギヤにピニオンギヤの回転力が伝達される。このときピニオンギヤは自転せずに公転される。
【0005】
一方、車両の旋回時には左右の駆動輪に対する路面からの抵抗が異なり、一方のサイドギヤがピニオンギヤを押し返そうとしてピニオンギヤが公転かつ自転する。従って、ピニオンギヤの自転により他方のサイドギヤの回転が増速され、左右の駆動輪に回転差が生じて円滑な走行状態が確保される。
【0006】
上記のように、デファレンシャル装置においてはハウジングの内部にギヤ等の所要の各部が配置されており、ハウジングの内部には各部の潤滑を行うための潤滑オイルが貯留されている。潤滑オイルはリングギヤによって跳ね上げられ、跳ね上げられることによりハウジングの内部における各部へ向けて流動され、流動された潤滑オイルによって各部が潤滑される(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0007】
特許文献1に記載されたデファレンシャル装置にあっては、ハウジングの内部に整流板を設け、跳ね上げられた潤滑オイルを整流板によって所定の方向へ誘導し、良好な潤滑状態を確保するようにしている。
【0008】
また、特許文献2に記載されたデファレンシャル装置にあっては、ハウジングの内部にリブを設け、リングギヤの側面に沿って流動される潤滑オイルをリブによって堰き止め、堰き止めた潤滑オイルを所定の方向へ流動させて良好な潤滑状態を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-200730号公報
【文献】特開2011-21656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、特許文献1及び特許文献2に記載されたデファレンシャル装置においては、整流板やリブを設けて潤滑オイルによる各部に対する良好な潤滑状態を確保することが可能であるが、車両においては、走行速度によってリングギヤによる潤滑オイルの跳ね上げ状態が変化されるため、車両の走行速度に拘わらず潤滑オイルによる各部に対する良好な潤滑状態を確保する必要がある。
【0011】
一方、差動ギヤ機構の動作時においては、エンジン等からハウジングの内部に配置された各部に動力が伝達されてリングギヤ等の各部が回転されるため、ベアリングを介して各部を支持しているハウジングに捩じりモーメントが生じ、デファレンシャル装置に振動が発生するおそれがある。従って、ハウジングの強度を高めて捩じり剛性を向上させ、振動の発生を抑制することが望ましい。
【0012】
そこで、本発明は、上記した問題点を克服し、車両の走行速度に拘わらず潤滑オイルによる各部に対する良好な潤滑状態を確保すると共にハウジングの強度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1に、本発明に係るデファレンシャル装置は、ハウジングの内部に差動ギヤ機構が配置されたデファレンシャル装置であって、前記差動ギヤ機構はドライブギヤを介して伝達される動力によって回転されるリングギヤと前記リングギヤと一体になって回転されるデファレンシャルケースとを備え、前記ハウジングは前記差動ギヤ機構を覆うカバー部と前記カバー部における上部の内面からそれぞれ下方に突出された第1のリブ及び第2のリブとを備え、前記第1のリブと前記第2のリブが前記リングギヤの真上の位置を基準として左右に離隔して位置され、前記リングギヤの真上の位置に前記カバー部における上部の内面から下方に突出された第3のリブが設けられ、前記第3のリブの左右両端がそれぞれ前記第1のリブと前記第2のリブに連続され、前記第3のリブの外周縁と前記第1のリブの外周縁との境界部分及び前記第3のリブの外周縁と前記第2のリブの外周縁との境界部分の双方に角張った形状が形成されず、前記第1のリブの外周縁と前記第3のリブの外周縁と前記第2のリブの外周縁が連続した曲線状に形成され、前記第3のリブの外周縁が前記カバー部からの突出方向に凹の曲線状に形成されたものである。
【0014】
これにより、第1のリブと第2のリブがハウジングを補強する補強リブとして機能すると共にリングギヤによって跳ね上げられた潤滑オイルは少なくとも一部が第1のリブと第2のリブの間を通過され一部がリングギヤの回転速度に応じた量で第1のリブと第2のリブによって堰き止められ第1のリブと第2のリブを伝って下方へ流動される。
【0016】
これにより、第1のリブと第3のリブと第2のリブが左右方向において連続して設けられる。
【0018】
これにより、第3のリブが応力集中の生じ難い形状に形成される。
【0019】
第2に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記第1のリブの外周縁と前記第2のリブの外周縁とが前記カバー部からの突出方向に凸の曲線状に形成されることが望ましい。
【0020】
これにより、第1のリブと第2のリブのカバー部からの突出方向における幅が大きくなる。
【0021】
第3に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記ハウジングの左右方向における中央線を基準線としたときに前記リングギヤが前記基準線より左方又は右方に位置され、左右方向において前記基準線に対して前記リングギヤが位置する側に前記第1のリブが位置され、前記第2のリブの前記上部からの下方への最大突出量が前記第1のリブの前記上部からの下方への最大突出量より大きくされることが望ましい。
【0022】
これにより、左右方向においてリングギヤを基準にしてカバー部の内部空間のうち広い空間側に位置する第2のリブの最大突出量が狭い空間側に位置する第1のリブの最大突出量より大きくされる。
【0023】
第4に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記第1のリブの外周縁と前記第2のリブの外周縁とが左右方向において互いに離隔するに従って下方に変位するように傾斜されることが望ましい。
【0024】
これにより、リングギヤによって跳ね上げられ第1のリブと第2のリブによって堰き止められた潤滑オイルが第1のリブの外周縁と第2のリブの外周縁とを下方かつ左右へ向けて伝って落下する。
【0025】
第5に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記第1のリブと前記第2のリブが前記リングギヤの回転軸より前側に位置されることが望ましい。
【0026】
これにより、リングギヤによって跳ね上げられた潤滑オイルがリングギヤの回転軸より前側に位置された第1のリブと第2のリブにより堰き止められるため、リングギヤの前方側への潤滑オイルの流動が阻害され難い。
【0027】
第6に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記ハウジングには前記上部の左右両端にそれぞれ連続する一対の側部が設けられ、前記第1のリブが前記上部の内面から一方の前記側部の内面に亘って連続され、前記第2のリブが前記上部の内面から他方の前記側部の内面に亘って連続されることが望ましい。
【0028】
これにより、第1のリブと第2のリブが上部から側部に亘る位置において上部と側部に連続される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、第1のリブと第2のリブがハウジングを補強する補強リブとして機能すると共にリングギヤによって跳ね上げられた潤滑オイルは少なくとも一部が第1のリブと第2のリブの間を通過され一部がリングギヤの回転速度に応じた量で第1のリブと第2のリブによって堰き止められ第1のリブと第2のリブを伝って下方へ流動されるため、車両の走行速度に拘わらず潤滑オイルによる各部に対する良好な潤滑状態を確保することができると共にハウジングの強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図2乃至
図8と共に本発明デファレンシャル装置の実施の形態を示すものであり、本図は、車両の概略構成を示す図である。
【
図3】一部を切り欠いて示すデファレンシャル装置の斜視図である。
【
図5】補強壁とリングギヤの位置関係を示す概念図である。
【
図6】潤滑オイルが跳ね上げられる状態を示す断面図である。
【
図7】低速走行時における潤滑オイルの状況等を示す概念図である。
【
図8】高速走行時における潤滑オイルの状況等を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明デファレンシャル装置を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。
【0032】
<車両の構成>
先ず、デファレンシャル装置を備えた車両100の構成の概要について説明する(
図1参照)。
【0033】
車両100はエンジン101と動力伝達装置102と油圧制御部103とギヤ機構104とデファレンシャル装置1と駆動輪105、105とエンジン制御部106と伝達機構制御部107とバス108を備えている。
【0034】
エンジン101は車両100を走行させる走行用の動力源(原動機)として機能し、燃料を消費して車両100の駆動輪105、105に作用させる動力を発生する。エンジン101は燃料を燃焼して動力伝達装置102への出力シャフトとして機能するクランクシャフト109にトルクを発生させる。尚、車両100においては、走行用の駆動源として電動モーターがエンジン101に代えて又はエンジン101に加えて設けられていてもよい。
【0035】
動力伝達装置102はトルクコンバーター110と前後進切替機構111と変速伝達機構112を有している。動力伝達装置102はエンジン101から駆動輪105、105への動力伝達の経路中に設けられ、エンジン101から駆動輪105、105に動力を伝達する機能を有し、作動油の油圧によって動作する。
【0036】
トルクコンバーター110はエンジン101と前後進切替機構111の間に配置され、エンジン101からクランクシャフト109を介して伝達された動力のトルクを増幅又は維持し、前後進切替機構111に伝達する機能を有している。
【0037】
前後進切替機構111はトルクコンバーター110と変速伝達機構112の間に配置され、エンジン101からトルクコンバーター110を介して伝達された動力によって回転される回転軸の回転速度を変速する機能と回転軸の回転方向を切り換える機能とを有している。
【0038】
変速伝達機構112は前後進切替機構111とギヤ機構104の間に配置されている。変速伝達機構112には前後進切替機構111から入力軸113を介して動力が伝達され、変速伝達機構112から入力軸113を介して入力された動力が出力軸114を介してギヤ機構104へ向けて出力される。変速伝達機構112は入力軸113を介して入力される動力を無段階に変速する無段変速機(連続可変トランスミッション:Continuously Variable Transmission(CVT))を有している。
【0039】
変速伝達機構112から出力軸114に伝達された動力はギヤ機構104を介してデファレンシャル装置1に伝達される。デファレンシャル装置1は伝達された動力を車軸115、115を介して駆動輪105、105に伝達する。デファレンシャル装置1は車両100が旋回する際に生じる駆動輪105、105間の回転速度の差を吸収する機能を有している。
【0040】
油圧制御部103は作動油の油圧によってトルクコンバーター110と前後進切替機構111と変速伝達機構112を動作させる。油圧制御部103には図示しない複数の油路やオイルリザーバーやオイルポンプや複数の電磁弁等が設けられ、伝達機構制御部107から出力される制御信号に基づいて動力伝達装置102の各部に供給される作動油の流量や油圧を制御する。また、油圧制御部103は動力伝達装置102の各部やデファレンシャル装置1の各部の潤滑を行う潤滑油供給部としても機能する。
【0041】
エンジン制御部106と伝達機構制御部107は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するマイクロコンピューターを備え、CAN(Controller Area Network)等の所定の車載ネットワーク通信規格に対応したバス108を介して相互のデータ通信が可能に接続されている。
【0042】
エンジン制御部106は、エンジン101についての燃料噴射制御や点火制御や吸入空気量調節制御等の各種の動作制御を行う機能を有している。エンジン制御部106は伝達機構制御部107と通信可能にされ、必要に応じてエンジン101の動作状態に関するデータを伝達機構制御部107に出力し、また、必要に応じ伝達機構制御部107から出力される各種の信号に基づいてエンジン101の動作制御を行う。
【0043】
伝達機構制御部107は油圧制御部103を制御することにより、トルクコンバーター110と前後進切替機構111と変速伝達機構112の動作制御を行う。
【0044】
<デファレンシャル装置の構成>
次に、デファレンシャル装置1の構成について説明する(
図2乃至
図6参照)。
【0045】
デファレンシャル装置1はハウジング2に所要の各部が配置又は支持されて構成されている(
図2及び
図3参照)。
【0046】
ハウジング2は前後に延びる筒状に形成された軸支持部3と軸支持部3の後端に連続されたカバー部4とを有し、カバー部4の内部空間が配置空間4aとして形成されている。カバー部4は上部5と下部6と側部7、8と後部9を有している。
【0047】
上部5は略上下方向を向く上面部5aと上面部5aの前側に位置され前方へ行くに従って下方に変位するように傾斜された傾斜面部5bとを有し、上面部5aと傾斜面部5bが連続して設けられている。上部5は傾斜面部5bの前端が軸支持部3の後端に連続されている。側部7、8にはそれぞれ左右に貫通された取付孔7a、8aが形成されている。
【0048】
ハウジング2には上部5の内面5cから下方に突出された、例えば、板状の補強壁10が設けられている(
図4及び
図5参照)。補強壁10は、例えば、上面部5aから下方に突出されているが、傾斜面部5bから下方に突出されていてもよい。補強壁10は第1のリブ11と第2のリブ12と第3のリブ13によって構成され、第1のリブ11と第2のリブ12が第3のリブ13を挟んで左右に離隔して位置されている。尚、補強壁10には第3のリブ13が設けられていなくてもよく、この場合には補強壁10が第1のリブ11と第2のリブ12によって構成される。
【0049】
第1のリブ11は第3のリブ13の左方に位置され左右方向において第3のリブ13に連続され、第2のリブ12は第3のリブ13の右方に位置され左右方向において第3のリブ13に連続されている。第1のリブ11は上部5の内面5cから左側の側部7の内面7bにおける上端部に亘る位置に連続して設けられ、第2のリブ12は上部5の内面5cから右側の側部8の内面8bにおける上端部に亘る位置に連続して設けられている。
【0050】
デファレンシャル装置1において、ハウジング2の左右方向における中央線を基準線Mとすると、第3のリブ13は基準線Mより、例えば、左方に位置されている。従って、第1のリブ11は基準線Mより左方に位置され、第2のリブ12は第3のリブ13の右方において基準線Mを含む位置に存在する。
【0051】
第1のリブ11は上部5からの下方への突出量が、左右方向において第3のリブ13から離隔するに従って大きくなる形状に形成され、外周縁11aがカバー部4からの突出方向に凸の曲線状に形成されている。第2のリブ12は上部5からの下方への突出量が、左右方向において第3のリブ13から離隔するに従って大きくなる形状に形成され、外周縁12aがカバー部4からの突出方向に凸の曲線状に形成されている。第2のリブ12の上部5からの下方への最大突出量H2は第1のリブ11の上部5からの最大突出量H1より大きくされている。第2のリブ12の横幅は第1のリブ11の横幅より大きくされている。
【0052】
第3のリブ13は上部5からの下方への突出量が第1のリブ11と第2のリブ12の下方への突出量より小さくされ、外周縁13aが下方に凹の曲線状に形成されている。
【0053】
第3のリブ13の外周縁13aは第1のリブ11の外周縁11aと第2のリブ12の外周縁12aとに滑らかに連続されており、外周縁13aと外周縁11aの境界部分及び外周縁13aと外周縁12aの境界部分の双方の境界部分には角張った形状が形成されていない。従って、第3のリブ13と第1のリブ11の境界部分及び第3のリブ13と第2のリブ12の境界部分に応力集中が生じ難く、ハウジング2の高い強度を確保することが可能である。
【0054】
ハウジング2の側面部7、
8にはそれぞれ軸受部材14、14が固定されている(
図2及び
図3参照)。軸受部材14
、14は一部が取付孔7a
、8aに挿通された状態で側面部7
、8に固定されている。
【0055】
軸受部材14、14にはそれぞれベアリングを介して軸連結部材15、15が回転可能に支持されている。軸連結部材15には車軸115が連結されている。
【0056】
ハウジング2の軸支持部3にはドライブ軸16がベアリングを介して回転自在に支持されている。ドライブ軸16にはギヤ機構104を介してエンジン101等の動力が伝達される。
【0057】
ドライブ軸16の後端部にはドライブギヤ17が固定されている。ドライブギヤ17はハウジング2におけるカバー部4の配置空間4aに位置され、ドライブ軸16と一体になって回転される。
【0058】
カバー部4の配置空間4aには差動ギヤ機構18が配置されている。差動ギヤ機構18はリングギヤ19とデファレンシャルケース20とピニオンギヤ21、21とサイドギヤ22、22を有している。
【0059】
リングギヤ19は回転軸19aの軸方向が左右方向にされ、前端部においてドライブギヤ17に噛合されている。リングギヤ19は基準線Mより左方に位置され、ハウジング2に設けられた補強壁10における第3のリブ13の真下に位置されている(
図5参照)。従って、リングギヤ19の真上に第3のリブ13が位置されている。
【0060】
リングギヤ19の回転軸19aは第1のリブ11と第2のリブ12より後側に位置されている。従って、第1のリブ11と第2のリブ12はリングギヤ19の回転軸19aより前側に位置されている。
【0061】
デファレンシャルケース20にはリングギヤ19が固定されている(
図2及び
図3参照)。従って、リングギヤ19とデファレンシャルケース20は一体になって回転される。デファレンシャルケース20の内部空間はギヤ配置空間20aとして形成され、デファレンシャルケース20の両側面部にはそれぞれギヤ支持孔20b、20bが形成されている。デファレンシャルケース20のギヤ支持孔20b、20bにはそれぞれ軸連結部材15、15の一部が挿通され、それぞれ軸連結部材15、15の内側の端部がギヤ配置空間20aに位置されている。
【0062】
デファレンシャルケース20にはギヤ支持軸23が固定されている。ギヤ支持軸23は軸方向が前後方向にされ、デファレンシャルケース20の前後両面部間に位置されている。
【0063】
ピニオンギヤ21、21はギヤ支持軸23に回転自在に支持され、デファレンシャルケース20のギヤ配置空間20aに位置されている。ピニオンギヤ21、21はそれぞれギヤ支持軸23の軸方向における両端部に支持されている。
【0064】
サイドギヤ22、22はそれぞれ軸連結部材15、15の内側の端部に固定された状態でギヤ配置空間20aに位置され、それぞれ二つのピニオンギヤ21、21の双方に噛合されている。サイドギヤ22、22は一部がそれぞれデファレンシャルケース20のギヤ支持孔20b、20bに挿通され、それぞれデファレンシャルケース20に対して軸連結部材15、15と一体になって回転される。
【0065】
ハウジング2の内部、特に、カバー部4の内部における下側の空間には潤滑オイル50が貯留されている(
図6参照)。従って、カバー部4の内部における下側の空間は潤滑オイル50を貯留する貯留空間4bとされている。潤滑オイル50はハウジング2の内部に配置された各部を潤滑する役割を担い、リングギヤ19の回転によって跳ね上げられ、各部へ向けて流動される。
【0066】
<デファレンシャル装置における動作>
以下に、デファレンシャル装置1における差動ギヤ機構18等の動作について説明する。
【0067】
ドライブ軸16を介してドライブギヤ17にエンジン101等からの動力が伝達されると、ドライブギヤ17と噛合されているリングギヤ19が回転され、リングギヤ19とデファレンシャルケース20が一体になって回転されると共にピニオンギヤ21、21がデファレンシャルケース20の回転に伴って公転される。ピニオンギヤ21、21が公転されると、ピニオンギヤ21、21と噛合されているサイドギヤ22、22が回転され、サイドギヤ22、22と軸連結部材15、15が一体になって回転され、車軸115、115を介して駆動輪105、105に動力が伝達されて車両100が走行される。
【0068】
このとき、車両100の直進時には左右の駆動輪105、105に対する路面からの抵抗が同等であるため、ピニオンギヤ21、21がデファレンシャルケース20の回転に伴って公転されるが自転はされず、ピニオンギヤ21、21に噛合されているサイドギヤ22、22にピニオンギヤ21、21の回転力が同等に伝達される。
【0069】
一方、車両100の旋回時には左右の駆動輪105、105に対する路面からの抵抗が異なり、一方のサイドギヤ22がピニオンギヤ21、21を押し返そうとしてピニオンギヤ21、21が公転かつ自転する。従って、ピニオンギヤ21、21の自転により他方のサイドギヤ22の回転が増速され、左右の駆動輪105、105に回転差が生じて円滑な走行状態が確保される。
【0070】
上記のように車両100の走行時(前進時)には、リングギヤ19が回転されてリングギヤ19によって潤滑オイル50が跳ね上げられる(
図6参照)。
【0071】
このとき車両100の速度が低速の場合にはリングギヤ19の回転速度も低速であるため、潤滑オイル50は、主として、リングギヤ19の真上の位置に跳ね上げられる(
図7参照)。
【0072】
リングギヤ19の真上には第3のリブ13が位置されており、第1のリブ11と第2のリブ12の間に空間24が形成されているため、跳ね上げられた潤滑オイル50は一部を除き空間24を通って補強壁10の前側へ向かう。補強壁10の前側へ向かった潤滑オイル50はドライブギヤ17等を潤滑し、貯留空間4bへ流動され、再度、リングギヤ19によって跳ね上げられて循環される。
【0073】
また、跳ね上げられた潤滑オイル50の一部は、主に、第3のリブ13によって堰き止められ、第3のリブ13や第1のリブ11や第2のリブ12の後面を伝って落下し、差動ギヤ機構10等を潤滑し、貯留空間4bへ流動され、再度、リングギヤ19によって跳ね上げられて循環される。このとき第1のリブ11の外周縁11aと第2のリブ12の外周縁12aとが左右方向において互いに離隔するに従って下方に変位するように傾斜されているため、潤滑オイル50は外周縁11aと外周縁12aを下方かつ左右へ向けて伝って落下する。
【0074】
一方、車両100の速度が高速の場合にはリングギヤ19の回転速度も高速であるため、潤滑オイル50はリングギヤ19の真上の位置に跳ね上げられると共にリングギヤ19の右方にも跳ね上げられる(
図8参照)。また、車両100の速度が高速の場合には低速の場合に比し、リングギヤ19の真上の位置に跳ね上げられた潤滑オイル50は左右に広範囲に広がった状態で跳ね上げられる。
【0075】
リングギヤ19の真上には第3のリブ13が位置されており、第1のリブ11と第2のリブ12の間に空間24が形成されているため、真上に跳ね上げられた潤滑オイル50は一部を除き空間24を通って補強壁10の前側へ向かう。補強壁10の前側へ向かった潤滑オイル50はドライブギヤ17等を潤滑し、貯留空間4bへ流動され、再度、リングギヤ19によって跳ね上げられて循環される。
【0076】
また、真上に跳ね上げられた潤滑オイル50の一部は第1のリブ11と第2のリブ12と第3のリブ13によって堰き止められ、第1のリブ11と第2のリブ12と第3のリブ13の後面を伝って下方に落下し、差動ギヤ機構10等を潤滑し、貯留空間4bへ流動され、再度、リングギヤ19によって跳ね上げられて循環される。このとき潤滑オイル50は外周縁11aと外周縁12aを下方かつ左右へ向けて伝って落下する。
【0077】
さらに、リングギヤ19の右方に跳ね上げられた潤滑オイル50は、真上に跳ね上げられた潤滑オイル50より低い位置に跳ね上げられる量が多く、大部分が第2のリブ12の下側の空間25を通って補強壁10の前側へ向かう。補強壁10の前側へ向かった潤滑オイル50はドライブギヤ17等を潤滑し、貯留空間4bへ流動され、再度、リングギヤ19によって跳ね上げられて循環される。
【0078】
上記のように車両100の速度が高速の場合には低速の場合に対して、リングギヤ19の真上の位置に跳ね上げられた潤滑オイル50が左右に広範囲に広がった状態で跳ね上げられると共にリングギヤ19の右方にも跳ね上げられ易い。そこで、デファレンシャル装置1においては、このような低速の場合と高速の場合の双方の場合に応じて第1のリブ11と第2のリブ12と第3のリブ13の位置及び大きさが定められており、リングギヤ19の真上に上部5からの下方への突出量が最も小さい第3のリブ13が位置され、第3のリブ13の両側に第1のリブ11と第2のリブ12が位置され、外周縁11aと外周縁12aが左右方向において互いに離隔するに従って下方に変位するように傾斜された曲線状に形成され、第2のリブ12が高速走行時に跳ね上げられた潤滑オイル50を必要以上に堰き止めない大きさに形成されている。
【0079】
また、潤滑オイル50の跳ね上げ量が最も多くなるリングギヤ19の真上には空間24が形成され、高速走行時に多くの潤滑オイル50が跳ね上げられるリングギヤ19の右方にも空間25が形成されているため、空間24と空間25を通って十分な量の潤滑オイル50が前方へ向かい、リングギヤ19の前方に位置する各部に対する良好な潤滑状態を確保することが可能にされている。
【0080】
<まとめ>
以上に記載した通り、デファレンシャル装置1にあっては、ハウジング2には作動ギヤ機構18を覆うカバー部4とカバー部4における上部5の内面からそれぞれ下方に突出された第1のリブ11及び第2のリブ12とが設けられ、第1のリブ11と第2のリブ12がリングギヤ19の真上の位置を基準として左右に離隔して位置されている。
【0081】
従って、第1のリブ11と第2のリブ12がハウジング2を補強する補強リブとして機能すると共にリングギヤ19によって跳ね上げられた潤滑オイル50は少なくとも一部が第1のリブ11と第2のリブ12の間を通過され一部がリングギヤ19の回転速度に応じた量で第1のリブ11と第2のリブ12によって堰き止められ第1のリブ11と第2のリブ12を伝って下方へ流動される。これにより、車両100の走行速度に拘わらず潤滑オイル50による各部に対する良好な潤滑状態を確保することができると共にハウジング2の強度を高めることができる。
【0082】
また、リングギヤ19の真上の位置にカバー部4における上部5の内面から下方に突出された第3のリブ13が設けられ、第3のリブ13の左右両端がそれぞれ第1のリブ11と第2のリブ12に連続されている。
【0083】
従って、第1のリブ11と第3のリブ13と第2のリブ12が左右方向において連続して設けられるため、ハウジング2の強度が一層高まり、差動ギヤ機構10の安定した動作状態を確保することができる。
【0084】
さらに、第1のリブ11の外周縁11aと第2のリブ12の外周縁12aとがカバー部4からの突出方向に凸の曲線状に形成されている。
【0085】
従って、第1のリブ11と第2のリブ12のカバー部4からの突出方向における幅が大きくなり、ハウジング2の強度の向上を図った上で潤滑オイル50の制御の自由度の向上を図ることができる。
【0086】
さらにまた、第3のリブ13の外周縁13aがカバー部4からの突出方向に凹の曲線状に形成されている。
【0087】
従って、第3のリブ13が応力集中の生じ難い形状に形成されるため、第3のリブ13の強度が高くなり、ハウジング2の強度の向上を図ることができる。
【0088】
また、ハウジング2は、例えば、金属鋳造によって成形されるが、補強壁10は鋳型の内部に挿入された中子が取り出されることにより形成される。中子は薄手の砂型であるため、取出時に一部が破損されるおそれがあるが、第3のリブ13の外周縁13aが曲線状であることにより中子が破損して欠片が第1のリブ11と第2のリブ12の間に残存するような不具合を生じ難く、ハウジング2の高い成形精度を確保することができると共に中子の破損を防止することができる。
【0089】
さらに、リングギヤ19がハウジング2の基準線Mより左方に位置され、左右方向において基準線Mに対してリングギヤ19が位置する側に第1のリブ11が位置され、第2のリブ12の上部5からの下方への最大突出量H2が第1のリブ11の上部5からの下方への最大突出量H1より大きくされている。
【0090】
従って、左右方向においてリングギヤ19を基準にしてカバー部4の内部空間4aのうち広い空間側に位置する第2のリブ12の最大突出量H2が狭い空間側に位置する第1のリブ11の最大突出量H1より大きくされるため、リングギヤ19の回転によって跳ね上げられる潤滑オイル50の良好な循環状態を確保した上でハウジング2の強度の向上を図ることができる。
【0091】
尚、上記には、リングギヤ19がハウジング2の基準線Mより左方に位置されている例を示したが、リングギヤ19はハウジング2の基準線Mより右方に位置されていてもよく、この場合には、第1のリブ11と第2のリブ12の位置が左右方向において反対にされる。
【0092】
また、第1のリブ11の外周縁11aと第2のリブ12の外周縁12aとが左右方向において互いに離隔するに従って下方に変位するように傾斜されている。
【0093】
従って、リングギヤ19によって跳ね上げられ第1のリブ11と第2のリブ12によって堰き止められた潤滑オイル50が外周縁11aと外周縁12aを下方かつ左右へ向けて伝って落下し、ハウジング2の内部において潤滑オイル50が左右方向において広い範囲で潤滑され、ハウジング2の内部に配置された各部に対する良好な潤滑状態を確保することができる。
【0094】
さらにまた、第1のリブ11と第2のリブ12がリングギヤ19の回転軸19aより前側に位置されている。
【0095】
従って、リングギヤ19によって跳ね上げられた潤滑オイル50がリングギヤ19の回転軸19aより前側に位置された第1のリブ11と第2のリブ12により堰き止められるため、リングギヤ19の前方側への潤滑オイル50の流動が阻害され難く、リングギヤ19の前方側に潤滑オイル50を十分に流動させて各部に対する良好な潤滑状態を確保することができる。
【0096】
加えて、第1のリブ11が上部5の内面5cから側部7の内面7bに亘って連続され、第2のリブ12が上部5の内面5cから側部8の内面8bに亘って連続されている。
【0097】
従って、第1のリブ11と第2のリブ12が上部5から側部7、8に亘る位置において上部5と側部7、8に連続されるため、ハウジング2の上部5と側部7、8とが第1のリブ11と第2のリブ12によって補強され、ハウジング2のより一層の強度の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0098】
1…デファレンシャル装置、2…ハウジング、4…カバー部、5…上部、5c…内面、7…側部、7b…内面、8…側部、8b…内面、11…第1のリブ、11a…外周縁、12…第2のリブ、12a…外周縁、13…第3のリブ、13a…外周縁、17…ドライブギヤ、18…差動ギヤ機構、19…リングギヤ、19a…回転軸、20…デファレンシャルケース