IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ショット アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特許-オプティカルコンバーター 図1
  • 特許-オプティカルコンバーター 図2
  • 特許-オプティカルコンバーター 図3
  • 特許-オプティカルコンバーター 図4
  • 特許-オプティカルコンバーター 図5
  • 特許-オプティカルコンバーター 図6
  • 特許-オプティカルコンバーター 図7
  • 特許-オプティカルコンバーター 図8
  • 特許-オプティカルコンバーター 図9
  • 特許-オプティカルコンバーター 図10
  • 特許-オプティカルコンバーター 図11
  • 特許-オプティカルコンバーター 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】オプティカルコンバーター
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20230425BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20230425BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230425BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20230425BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20230425BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20230425BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
H01L33/50
C09K11/80
C09K11/08 B
C09K11/00 C
C04B35/44
C04B35/50
G02B5/20
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018242916
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2019125783
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】17210639.5
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】キース ローズンバーグ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン レッツ
(72)【発明者】
【氏名】ウルリケ シュテーア
(72)【発明者】
【氏名】アルブレヒト ザイドル
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-518172(JP,A)
【文献】特開2004-146835(JP,A)
【文献】特表2009-530788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/48-33/64
C09K 11/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オプティカルコンバーター(1)であって、
前記オプティカルコンバーターは、セラミック要素(3)を含んでおり、前記セラミック要素(3)は、蛍光性であり、したがって、第1の波長の光が、前記セラミック要素(3)内に吸収され、より長い波長を有する蛍光が放射され、
前記セラミック要素は、前記セラミック要素(3)内に空間的に不均一に分布している孔(5)を含んでおり、
前記セラミック要素(3)内の前記孔(5)の分布は、不均一であり、
前記孔の位置の動径分布関数は、値が1である状態から偏差し、少なくとも1.2の値を有する特性距離(7)の極大値を有する、
オプティカルコンバーター(1)。
【請求項2】
前記孔(5)の動径分布関数は、前記特性距離を超えて距が増加するのに従い、値が1である状態へと収束する、
請求項1記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項3】
前記特性距離(7)よりも下方では、前記孔(5)の動径分布関数は、距離が短くなるほど小さく、値が1である状態を下回っている、
請求項1または2記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項4】
前記動径分布関数の極大値は、2を下回る値を有している、
請求項1から3までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項5】
前記特性距離(7)は、1.0μm~3μmの範囲にある、
請求項1から4までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項6】
前記孔のサイズの分布は、0.5μm~1.2μm、有利には0.6μm~0.9μmのモーダル値を有している、
請求項1から5までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項7】
前記セラミック要素は、ドープされたガーネット蛍光体、有利にはセリウムがドープされたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Ce:YAG)またはセリウムがドープされたルテチウム・アルミニウム・ガーネット(Ce:LuAG)またはセリウムがドープされたイットリウム/ガドリニウム・アルミニウム・ガーネット(Ce:Gd/YAG)である、
請求項1から6までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項8】
前記セラミック要素(3)は、理論ソリッドステート密度の98%を下回る、有利には97%を下回る、特に有利には96%を下回る密度を有している、
請求項1から7までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項9】
前記オプティカルコンバーター(1)は、第1の波長の光である青色光を吸収し、より長い波長を有する蛍光である黄色光または緑色光を放射する、
請求項1から8までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項10】
570nmの波長を有する光の場合に、前記セラミック要素(3)の濁度値は、450nmの波長を有する光の場合の濁度値よりも高い、
請求項1から9までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項11】
前記オプティカルコンバーター(1)は、ディスク状に形成された担体(21)をさらに含んでおり、ディスク状またはリング状に形成されたセラミック要素が前記担体(21)上に取り付けられており、コンバーターホイール(20)が形成される、
請求項1から10までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項12】
多数のサンプルで測定された、前記セラミック要素から放射された光のcx値およびcy値の標準偏差は、0.005を下回る、または、
lm/Wで測定された、本発明に相応するセラミック要素の効率の標準偏差は、4lm/Wを下回る、
請求項1から11までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)。
【請求項13】
光源光放射器と請求項1から12までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)とを含んでいる光源(2)であって、
前記光源光放射器は、自身の光源の光を、前記オプティカルコンバーター(1)の前記セラミック要素(3)上に向けるように配置されており、これによって、前記オプティカルコンバーター(1)は、前記光源の光より長い波長を有する第2の光を放射し、
前記セラミック要素(3)は、取付台(27)上に固定されており、前記取付台(27)は、静的である、または、前記セラミック要素(3)に対して回転運動または往復運動を提供するように構成されている、
光源(2)。
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項記載のオプティカルコンバーター(1)のセラミック要素(3)を製造する方法であって、前記方法は、
・原料をか焼するステップと、
・サスペンションを準備するために、適切な液体において前記原料をスラリー化するステップと、
・か焼された原料の前記サスペンションを粉砕するステップと、
・粉末状の原料を得るために、前記サスペンションを乾燥させるステップと、
・プレス加工されたブランクを得るために、粉末状の原料をプレス加工するステップと、
・前記プレス加工されたブランクを焼結するステップと、
を含んでおり、
前記方法は、前記粉末状の原料の部分的な凝集を保持するステップまたは引き起こすステップを含んでおり、これによって、前記プレス加工されたブランクが結晶粒度において不均一性を含み、これから製造された前記セラミック要素(3)は、前記孔の分布の空間的な不均一性を含んでおり、この結果、値が1である状態から偏差し、かつ少なくとも1.2の値を有する特性距離(7)の極大値を有する前記孔の位置の動径分布関数が生じる、
セラミック要素(3)を製造する方法。
【請求項15】
前記粉末状の原料の結晶粒度分布が、粒子径のd99値が4.25μmを超えるように、部分的な凝集が保持または生成される、
請求項14記載の方法。
【請求項16】
第1の活性化物質としてのセリウムがドープされたA12の組成のセラミック相が前記セラミック要素に対して選択されており、Aは、要素Y、Gd、Luおよびそれらの組み合わせから成るグループから選択されており、Bは、要素Al、Gaおよびそれらの組み合わせから成るグループから選択されており、酸化物の形態の原料A、BおよびCeOまたは粉末状のセリウムがドープされたA12が使用される、
請求項14または15記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を、より長い波長を有する第2の光に変換するためのオプティカルコンバーター要素、すなわち光のダウンコンバートのためのオプティカルコンバーターに関する。
【背景技術】
【0002】
オプティカルコンバーターまたは蛍光体はそれぞれ、半導体光源のスペクトル範囲を適合化するために幅広く使用されている。
【0003】
セリウムがドープされた希土類金属ガーネット等のダウンコンバート蛍光体は典型的に、高い発光強度での正確な色の再現を要求する光投影システムにおいて使用される。蛍光体の目的は、コヒーレントな、高出力の、高い周波数の光を吸収し、これを、より低い周波数の、拡散して放射される光に変換することである。
【0004】
重要な用途は、青色発光ダイオードを用いて白色光を提供することである。蛍光体は、吸収された青色光によって励起され、より長い波長の光、典型的には黄色光を放射する。白色光は、黄色光と初めの青色光の一部とを混合することによって生成される。
【0005】
直接的な照明用途において生じる典型的な問題は、高周波数の供給源の出力が極めて高い場合に、過度に高い周波数の光が、拡散して反射される放射に混合され、投影される光に不所望な色が与えられてしまう、ということである。この問題は、変換された光の拡散反射を促進するように孔の量およびサイズを操作し、同時に、光源の拡散反射を制限することによって取り組まれる。カラー画像投影においては、放射の極めて高い出力を、放射の特定の色と分けることができないという問題が生じる。所望の放射の色は、比較的低い効率との組み合わせによってのみ実現され得る。なぜなら、光源の光の高い強度が、消光現象を生じさせるからである。消光現象は量子効率を低減させ、それによって、コンバーターのアウトプットにおける、変換されない光の割合を高めてしまう。
【0006】
国際公開第2007/107917号(WO 2007/107917 A2)は、実質的に200nm~5000nmの孔の直径で、少なくとも97%の高い密度を有する変換要素としての多孔性セラミックを開示している。孔の直径の分布は、対数正規分布に従う。孔のサイズおよびセラミックの密度は、高い発光効率およびランベルトの放射パターンが得られるように選択されている。しかし、高い放射出力での色の変化の問題は、依然として存在し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、極めて高い発光出力でも安定している色および高い発光効率の両方を有するオプティカルコンバーターを提供することである。この課題は、独立請求項の主要部分によって解決される。本発明の有利な改良は、各従属請求項において規定されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明はオプティカルコンバーターに関し、このオプティカルコンバーターは、セラミック要素を含んでおり、このセラミック要素は蛍光性であり、したがって、第1の波長の光(すなわち光源の光)は、セラミック要素内に吸収され、より長い波長を有する蛍光が放射される。セラミック要素は、セラミック要素内に空間的に不均一に分布している孔を含んでいる。すなわち、孔は、繰り返されるパターンまたは周期的なパターンに従って配置されているのではない。セラミック要素内の孔の分布は、孔の位置の動径分布関数が、値が1である状態(unity)から偏差し、かつ少なくとも1.2の値を有する特性距離の極大値を有するように不均一である。有利には、極大値は少なくとも1.3の値を有する。本発明では孔の位置は、孔の中心の位置である。
【0009】
したがって、本発明に相応するセラミック要素において、孔の分布は、有る程度の集団化を示す。孔のこのような集団化は、光源の光および第2の(すなわち蛍光性の)光に対して、改善された散乱特性を提供する。さらに、このような散乱特性によって、光源の光(すなわち、第1の波長の光)は、セラミック内により深く浸透することができ、これによって、セラミックのより多くの部分が変換のために用いられる。これによって高い発光出力での消光現象が低減して、放射される光の色が安定する。したがって、セラミック要素の本発明の構造によって、所望されている投影される色のために、光源の光および放射される光に関して、材料の濁度(turbidity)が最適化されることが保証される。投影される色の発光強度も最適化される。
【0010】
蛍光での光源の光の散乱および浸透の深さをコントロールするために、有利には集団化された孔が、特性距離、すなわちRDFの極大値が、1.0μm~3μmの範囲にあり、有利には1.3μm~2.5μmの範囲にあるように提供される。
【0011】
有利には、コンバーターは、第1の波長の光である青色光を吸収し、より長い波長を有する蛍光として、緑色から黄色を経てから赤色までの可視範囲における光の、特定の、典型的に範囲の広いスペクトルを放射する。放射されたスペクトルの色の印象は、典型的に、そのセントロイド波長によって特徴付けされる。特に、セラミック要素は、450nmの波長を有する青色光を吸収して、約550nmまたは570nmまたは580nmそれぞれのセントロイド波長を有する緑色または黄色または赤色の光を放射するように構成されていてよい。当然ながら、これらの特定の放射セントロイド波長は例であり、さらに、希土類金属ガーネットの適切な組成によって「調整」することができる。
【0012】
孔の分布は、セラミックに対する原料の処理によって影響され得る。一般的に原料は粉砕され、プレス加工され、その後、焼結されて、セラミック要素が製造される。不均一な、部分的に集団化された、空間的な孔分布は、粉末状にされた原料の特定の凝集を保持または生成することによって得られる。特に、本発明に相応する、オプティカルコンバーターのセラミック要素を製造する方法は、
・原料をか焼するステップ
・サスペンションを準備するために、適切な液体において原料をスラリー化するステップ
・か焼された原料のサスペンションを粉砕するステップ
・粉末状の原料を得るために、サスペンションを乾燥させるステップ
・プレス加工されたブランクを得るために、粉末状の原料をプレス加工するステップおよび
・プレス加工されたブランクを焼結するステップ
を含んでいる。
【0013】
この方法はさらに、粉末状の原料の部分的な凝集を保持する、または生成するまたは引き起こすことを含んでおり、これによって、プレス加工されたブランクは、結晶粒度において不均一性を含み、これから製造されたセラミック要素が、孔の分布の空間的な不均一性を含み、この結果、上述したような孔の位置の動径分布関数が生じる。すなわち、これは値が1である状態から偏差し、かつ少なくとも1.2の値を有する特性距離の極大値を有する。
【0014】
以降では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】セラミック要素を製造するための基本的なプロセスステップの概略図
図2】2つの粉末状の原料に対する粒度分布のヒストグラムを示す図
図3】粒度の対応する累積値を示す図
図4】本発明に相応するセラミック要素および比較例に相応するセラミック要素の孔の動径分布関数を示す図
図5】セラミック要素の2つのSEM顕微鏡写真を示す図
図6】種々の波長に対する濁度対孔の直径のプロット
図7】オプティカルコンバーターを伴うコンバーターホイールを示す図
図8】オプティカルコンバーターを伴う光源を示す図
図9】多数のサンプルのcx色座標およびcy色座標の比較を伴う2つのダイヤグラム
図10図9に示された値の統計的な分布を示す図
図11】多数のサンプルに対する効率値を示す図
図12図11に示された値の統計的な分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は一般的に、オプティカルコンバーター1用のセラミック要素3を製造するプロセスステップを示している。基本的に、このプロセスステップは、国際公開第2014/114473号(WO 2014/114473 A1)に記載されている方法ステップのシーケンスに従っていてよい。しかしこの方法が、処理時間によって変えられてよい。同様にいくつかの方法ステップ、特に粉砕および均一化に関するいくつかの方法ステップが省かれてよい、または繰り返されてよい。
【0017】
しかし、国際公開第2014/114473号(WO 2014/114473 A1)と同様に、原料がか焼され、適切な液体を使用してスラリーが準備され、スラリーが粉砕される。図1の部分(a)において示されているように、細かい粒子10を有する粉末状の原料9は、サスペンションを乾燥することによって得られる。しかし、国際公開第2014/114473号(WO 2014/114473 A1)とは異なり、粉末状の原料9の部分的な凝集が粉砕の間、保持される、またはその後に引き起こされる。部分的に凝集した原料9は、図1(b)に示されている。したがって、いくつかの粒子10がより大きい結晶粒11に凝集される。
【0018】
これに続いて、図1(c)に示されているように、粉末状の原料9がプレス型17によってプレス加工され、プレスブランク15が形成される。図示されているように、原料9は、スタンプ18をプレス型17のダイ19上に押圧することによって一軸圧縮されている。
【0019】
しかし、このプロセスは、付加的にまたは択一的に静水圧圧縮(isostatic compression)を含んでいてよい。一般的に、プレス加工および後続の焼結は、国際公開第2014/114473号(WO 2014/114473 A1)にしたがって実行されてよい。すなわち、プレス加工されたブランク15を形成するための、10~50MPaの圧力での、ステップe)における、乾燥された原料の一軸圧縮によって、さらに100~300MPaの圧力での生成形体のさらなる静水圧圧縮によって実行されてよい。しかし、部分的な凝集によって、空所13または少なくとも、比較的低い密度を有する領域が、プレス加工されたブランク15内に残る。
【0020】
ブランク15はその後、600~1000℃の範囲の温度で焼かれ、1550~1800℃の範囲の温度で反応焼結される。
【0021】
この結果、図1(d)に示されているようなセラミック要素3が得られる。セラミック要素3は、オプティカルコンバーター1として直接的に使用されてよい。択一的に、オプティカルコンバーター1を得るために、セラミック要素がさらに処理されてよい。例えば、セラミック要素が、1つまたは複数の機能的なコーティングによってコーティングされてよい。同様に、所望のサイズおよび/または表面の質を得るためにセラミック要素がさらに処理されてよい。このようなさらなる処理は、切断および/または研磨を含んでいてよい。セラミック要素3は、空間的に分布した孔5を含んでいる。しかし既に、図1(d)の概略図において示されているように、不規則ではあるが、この分布は完全にはランダムではない。むしろ、孔5の集団化の傾向が見られ、これによって、光源の光および蛍光に対する、改善された散乱特性が得られる。
【0022】
一般的に、ドープされたガーネット蛍光体が、セラミック要素として有利である。セリウムがドープされたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Ce:YAG)またはセリウムがドープされたルテチウム・アルミニウム・ガーネット(Ce:LuAG)またはセリウムがドープされたガドリニウム/イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Ce:Gd/YAG)が特に有利である。有利には、セリウムがドープされたガドリニウム/イットリウム・ガーネットは有利には0~20%の含有量のGdを有しており、これは、格子におけるYに置き換わる。ドープされたガーネット蛍光体を製造するために、第1の活性化物質としてのセリウムがドープされたA12の組成のセラミック相が、セラミック要素に対して選択されてよい。ここでAは要素Y、Gd、Luおよびそれらの組み合わせから成るグループから選択されており、Bは要素Al、Gaおよびそれらの組み合わせから成るグループから選択されている。このような組成のセラミック要素を製造するために、酸化物の形態のA、BおよびCeOが、原料として使用されてよい。この組成は、混合物(A1-x,Ce12が結果として得られるように選択されてよく、ここで0.0005>x>0.05である。したがって、タイプAの原子の0.05~5%が、セリウムによって置き換えられる。
【0023】
この範囲内の濃度は、高い変換効率を保証し、光源の光の十分な浸透深さを保持するように、孔の散乱と均衡が保たれている。さらなる実施形態では、原料はA12を含んでいる。粉末状のA12は、セリウムドープされていてよい、かつ/または所望の量のCeOを加えることによって、所望のセリウム含有量が調整されてよい。
【0024】
図2は、2つの粉末状の原料9の粒度分布の比較を示している。粒度の測定は、分散液においてレーザー回折法によって行われた。縦座標変数q3は、直径xを有している粒子の全体的な体積の割合を示している。横座標上の直径値xは、対数的にスケーリングされている。曲線(a)は粉末状の原料9に対するヒストグラムであり、ここから、本発明に相応するセラミック要素3が製造された。曲線(b)は、比較例のヒストグラムを表している。この比較例から製造されたコンバーターは、比較的低い発光効率を有しており、1.2を上回る明確な極大値を伴わない、孔の位置の動径分布関数を有している。
【0025】
一見して、両方のヒストグラムの間の差は、それほど顕著ではない。特に、2つのヒストグラムの極大値は、ほぼ同じ粒子径にある。
【0026】
しかし、曲線(a)では、より大きい粒子が幾分、より頻繁に現れる。これは、粒度の累積分布が考慮される場合に表れる。累積値Q3は、図3に示されている。曲線(c)は、本発明に相応する粉末状の原料の累積孔体積であり、曲線(d)は、比較例の値を示している。測定に相応するd99値(すなわち粒子の99%に対する上方限界である直径値)は、比較例の場合には3.7μmであり、本発明に相応する粉末状の原料の場合には4.7μmである。一般的に、この例に制限されずに、粉末状の原料9の結晶粒度分布は、有利には、4.25μmを超える粒子径に対してd99値を有している。
【0027】
図4は、本発明に相応するセラミック要素3の孔5の動径分布関数(radial distribution function「RDF」)(曲線(a))および比較例のセラミック要素3の孔5の動径分布関数(曲線(b))を示している。2つの例は、Ce:YAGセラミックである。比較例のRDFは、値が1である状態が得られるまで、距離の上昇とともに急な上昇を示している。より長い距離に対して、RDFはその後、値が1である状態で一定に留まる。これは孔の分布が実質的に不規則であることを示している。
【0028】
曲線(b)と同様に、曲線(a)も短い距離でRDFの急な上昇を示している。比較例とは対照的に、本発明の例のRDFは、明確な極大値を、約1.8μmの特性距離7で有している。これは、発光強度を最適化するために、かつ極めて高い発光出力でも放射された光の色スペクトルを安定させるために1~3μmの有利な範囲内にある。この例の極大値は、1.3より高い。さらに、一般的に、孔5の動径分布関数は、特性距離7を超えて増長する距離で、値が1である状態へと収束する。見て取れるように、収束は極めて遅く、したがって8μmの距離でも、RDF値は、依然として、値が1である状態より高い。一般的に、図4に示されている特定の例に制限されずに、RDFはさらに、特性距離7よりも下方では、孔5の動径分布関数は、距離が短くなるほど小さく、かつ値が1である状態を下回っている、という特徴を有していてよい。
【0029】
次の表において、セラミック要素に対するいくつかの特性のパラメータが挙げられている。
【0030】
【表1】
【0031】
密度はイットリム・アルミニウム・ガーネットの理論密度のパーセンテージとして示されている。これは、この例では4560kg/mである。効率は、材料に入射するレーザーのパワーによって除算された光束である。CIE1931に相応する色座標が、cおよびcによって示されている。これらは、装置によって放射される色の眼による認識を表している。
【0032】
挙げられたデータから見て取れるように、本発明の例の効率は、比較例の効率より高い。
【0033】
Ln(x)は、孔のサイズの分布の対数モーダル値(modal value)を表しており、したがって対数正規分布のモーダル値に相当する。一般的に、この例に制限されずに、有利には、孔の直径の分布は、0.5μm~1.2μmのモーダル値を有しており、これによって、蛍光の強い散乱が促進される。0.6μm~0.9μmのモーダル値は、特に適している。比較例は、0.92μmのモーダル値を有しており、したがって、有利な範囲内にある。しかし、比較例は、RDFにおける明確な極大値を有していない。
【0034】
セラミック要素の密度は制限されておらず、99%以上であってよく、最大で99.5%または99.9%等であってよい。多くの用途の場合、セラミック要素の効率を改善するために、密度は有利には最小で90%であり、より有利には最小で95%である。
【0035】
さらに、本発明のある態様では、有利には、セラミック要素3は、理論ソリッドステート密度の98%を下回る、有利には97%を下回る、より有利には96.3%を下回る、特に有利には96%を下回る密度を有している。したがって、国際公開第2007/107917号(WO 2007/107917 A2)では、ある有利な密度は、少なくとも97%の値を下回る。
【0036】
本発明の別の態様では、有利には、セラミック要素3は、96%を上回る、有利には97%を上回る、さらに98%を上回る密度を有している。
【0037】
図5では、上述した例の2つのSEM顕微鏡写真が示されている。画像(a)は、本発明に相応するセラミック要素のSEM画像であり、画像(b)は、比較例から撮像された画像を示している。画像(a)において、ほぼ孔のない中間領域を伴うクラウド状の構造体を形成する孔5の部分的な集団化が明瞭に見て取れる。これとは対照的に、比較例では、同様に不規則に位置付けされているが、孔は、均等に分布している。
【0038】
図5(a)から明らかであるように、このRDFの極大値は、材料の不均一性も生じさせる。なぜなら、顕著に変化する孔の密度を有する区間が存在しているからである。したがって、RDFの極大値がそれほど大きくならないのは一般的に有利である。したがって、本発明の改良では、孔5は、動径分布関数の極大値が、2を下回る値を有するように分布している。
【0039】
図5に示されている例のように、RDFは、直接的にSEM顕微鏡写真から引き出されてよい。図4に示されているRDFは、画像処理ソフトウェア「ImageJ」を使用して引き出される。多数の画像は、スタックとしてロードされ、一度に処理されてよい。粒子中央のRDFは、「Radial Profile」プラグインに含まれているRDFマクロを使用して計算される。このマクロは、画像をスケーリングするための機能も含んでいる。スケーリングは、通常、SEM顕微鏡写真において示されているスケールバーを使用して実行可能である。
【0040】
一般的に、RDFに対する高い信頼係数を得るために、十分な数のサンプルが存在すべきである。したがって、相互の距離を特定するために評価されるサンプル領域は小さすぎないべきである。有利には、RDFは、少なくとも0.01mmのサンプル領域をカバーする少なくとも1つの画像(有利にはSEM顕微鏡写真)に基づいて特定される。
【0041】
伝搬経路に沿った光の散乱は、一般的に、漸次的な強度損失となる。このような損失は、吸収と同様に表され、したがって、指数関数的な強度低減が生じる。散乱による減衰を表すパラメータには、一般的に濁度が当てはまる。
【0042】
特に、濁度τscatは、
τscat=Nscat・σscat/m-1
として規定される。ここで、Nscatは散乱中央の集中であり、σscatは積分された散乱断面積である。
【0043】
長さdの伝搬経路に沿った光減衰は、ランベルト・ベールの法則に従い、これによって、厚さdの層を通って伝搬した後の強度Iは、
I=I・exp(-τscat・d)
によって表される。
【0044】
濁度は、波長の関数である。しかし、ミー散乱の理論によると、青色光は一般的に、黄色光より強く散乱される。図6は、濁度を、400nm、450nm、570nm、600nmおよび800nmの波長に対する孔のサイズの関数として示している。曲線は、96%の一定の比質量偏差に基づいて計算されており、すなわち、セラミックの一定の密度が想定されている。図6から明らかであるように、青色光は一般的に、黄色光よりも強く散乱される。しかし、集団化された孔は、本発明に相応するセラミック要素において示されているように、付加的な作用として有効な干渉性散乱を引き起こす。このようにして、黄色光の散乱を増強することができる。特に、本発明のある実施形態では、570nmの波長を有する光の場合に、セラミック要素3の濁度値τscatは、450nmの波長を有する光の場合の濁度値よりも高い。
【0045】
セラミック要素の有利な特徴は、青色光と黄色光とに対する異なる散乱メカニズムから得られる。孔の比較的短いクラスター間間隔は、比較的長い波長の蛍光の干渉性散乱を好み、強い後方散乱および光の再放出を引き起こす。
【0046】
図7は、本発明の有利な実施形態を示している。この実施形態では、オプティカルコンバーター1はコンバーターホイール20である。この実施形態では、ディスク状またはリング状に形成されたセラミック要素3が、ディスク状に形成された担体21上に取り付けられており、コンバーターホイール20が形成される。使用時には、第1の波長の光であるレーザービームが、セラミック要素3上に向けられ、この間、ホイール20は中心軸を中心に回転され、これによって、ビームの入射点24が、セラミック要素3上の環状の跡25に従う。ホイールの回転によって、レーザーエネルギー、ひいては吸収による加熱は、跡25に沿って分散され、これによって、高いレーザー出力が得られ、熱消光等の有害作用が低減される。
【0047】
本発明の別の態様では、本発明に相応するコンバーター要素を含んでいる光源が提供される。光源2の例示的な実施形態が、図8に示されている。図示されている例示的な実施形態に制限されることなく、光源2は、光源光放射器と、本発明に相応するオプティカルコンバーター1と、を含んでおり、光源光放射器は、自身の光源の光を、オプティカルコンバーター1のセラミック要素3上に向けるように配置されており、これによって、オプティカルコンバーターは、光源の光より長い波長を有する第2の光を放射する。セラミック要素3は、取付台27上に固定されており、この取付台は、オプティカルコンバーター1の一部であってもよい。取付台は、光源光ビームに関して固定されたセラミック要素を保持するように静的であってよい。さらに、図7に示されているように、入射点がセラミック要素上の環状経路を辿るようにセラミック要素を回転させるように、取付台27が構成されていてよい。さらに、この取付台は、セラミック要素に沿って入射点を動かすように、セラミック要素3を往復運動させてもよい。したがって、この取付台は静的であっても、セラミック要素に回転運動または往復運動を提供するように構成されていてもよい。
【0048】
図示されているように、光源光放射器は、レーザー22であってよい。レンズ31が、放射された光ビーム26をコリメートするために設けられていてよい。
【0049】
別の実施形態では一般的に、オプティカルコンバーター1のセラミック要素3にコーティング29が施されていてよい。図8の例では、レーザービーム23が入射するセラミック要素3の面が、コーティング29によってコーティングされている。特に、このコーティングは、コンバーターの光学的な特性を変えるまたは改善する機能であってよい。ある実施形態では、コーティング29は、特定の波長範囲の光の放射を抑えるように、二色性であってよい。同様に、コーティングは、表面での光源の光および/または第2の光の反射を低減させるために反射防止性であってよい。さらに、セラミック要素の背面で、光を反射させるために、反射性のコーティングが使用されてよい。
【0050】
図2図4の例では、セラミックコンバーターの個々のサンプルが試験された。以降では、多数のサンプルから引き出された統計データが議論される。
【0051】
3つの粉末バッチが製造され、処理されて、セラミックコンバーターにされた。色座標cxおよびcyならびに効率は、これらのバッチからの全てのサンプルで測定された。本発明に相応するセラミックコンバーターの1017個のサンプルと、基準サンプルとしての通常の製品からの457個のサンプルと、の間で比較が行われた。
【0052】
図9は、本発明に相応するサンプルおよび基準サンプルのcx色座標に対する測定された値(上方のダイヤグラム)とcy色座標に対する測定された値(下方のダイヤグラム)とを示している。結果は、本発明に相応するセラミック要素の改善された特性を証明している。基準サンプルと比較して、cx値およびcy値の両方が、より幅の狭い分布を伴い、より高いレベルにある(少ない青色、多い黄色)。
【0053】
これに相応して、効率も、高いレベルでのより狭い分布を示している。新たな様式の効率の平均値は、RDFにおける明らかなピークを有していない従来のサンプルより格段に高い。
【0054】
図10のダイヤグラム(a)は、本発明に相応するサンプルのcx値の分布を示している。ダイヤグラム(b)では、基準サンプルのcx値の分布が示されている。ダイヤグラム(c)および(d)は、本発明に相応するサンプルと基準サンプルそれぞれに対するcy値の分布を示している。本発明のサンプルに対するcx分布およびcy分布の標準偏差(図10、ダイヤグラム(a)および(c))は、基準サンプルの分布と比べて、おおよそ係数2、低減されている。一般的に、本発明の実施形態では、多数のサンプルで測定された、本発明に相応するセラミック要素から放射された光のcx値およびcy値の標準偏差が、0.005を下回ることが想定される。さらに、cx分布が特に良好に規定される。cx値に対しては、多数のサンプルで測定された、これらの値の標準偏差が、0.003を下回ることが想定される。
【0055】
同様の作用が、コンバーターの効率に対しても見出された。図11は、ワットあたりのルーメンで測定された(lm/W)、本発明に相応するサンプルと基準サンプルの効率値を示している。図12は、これらの値の対応する統計的な分布を示している。ここでは、ダイヤグラム(a)は本発明のサンプルに対する効率値の分布であり、ダイヤグラム(b)は基準サンプルの効率を示している。本発明のサンプルの効率の中央値は基準サンプルのそれより僅かにだけ高いが、ダイヤグラム(a)に示されている分布は、基準サンプルのそれ(ダイヤグラム(b))に比べて格段に幅が狭い。したがって、本発明のサンプルは、色度座標の観点でも、効率の観点でもより均一な放射を示している。本発明のある実施形態では、lm/Wで測定された、本発明に相応するセラミック要素の効率の標準偏差は、4lm/Wを下回ることが想定される。ダイヤグラム(a)に則した効率の標準偏差は3.44であると測定された。
【符号の説明】
【0056】
1 オプティカルコンバーター
2 光源
3 セラミック要素
4 プレス加工されたブランク
5 孔
7 特性距離
9 粉末状の原料
10 9の粒子
11 結晶粒
13 空所
15 プレス加工されたブランク
17 プレス型
18 スタンプ
19 ダイ
20 コンバーターホイール
21 担体
22 レーザー
23 レーザービーム
24 入射点
25 3上の24の跡
26 放射された光ビーム
27 取付台
29 コーティング
31 レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12