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特許7267747難水溶性アミノ酸含有固体分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】難水溶性アミノ酸含有固体分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/195 20060101AFI20230425BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230425BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20230425BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230425BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230425BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230425BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
A61K31/195
A61K9/10
A61K31/405
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/38
A61P3/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019001307
(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公開番号】P2020111514
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊川 亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-197723(JP,A)
【文献】特開2006-314260(JP,A)
【文献】特開平11-266844(JP,A)
【文献】特開平11-302164(JP,A)
【文献】特開2013-103899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/195
A61K 9/10
A61K 31/405
A61K 47/26
A61K 47/36
A61K 47/38
A61P 3/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の製造方法であって、(A)水への溶解度が20g/L以下の難水溶性アミノ酸と(B)酸性多糖類及びセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子と(C)還元性を示さない、糖類、オリゴ糖及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を、前記(B)成分に対する前記(C)成分の質量比[(C)/(B)]が0.4~20となるように混合した後、170℃未満で加熱して溶融させる工程と、混合物を撹拌又は混練する工程と、撹拌又は混練した溶融物を冷却し固化させる工程を含む、製造方法。
【請求項2】
加熱温度が55~150℃である請求項1記載の難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の製造方法。
【請求項3】
前記(A)成分がチロシン及び/又はトリプトファンである請求項1又は2記載の難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の製造方法。
【請求項4】
前記(C)成分が還元性を示さない、二糖類、三糖類及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種である請求項1~のいずれか1項記載の難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の製造方法。
【請求項5】
スクリューを備えた押出機を用いて、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を混合した後、加熱して溶融させる工程、並びに混合物を撹拌又は混練する工程が行われる請求項1~のいずれか1項記載の難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は、タンパク質の構成成分としてだけでなく生体内に遊離の形で存在し、様々な役割を担っている。必須アミノ酸以外のアミノ酸も重要な生理機能を有することが次々に明らかにされ、食品素材、医薬品素材として利用が図られている。
しかしながら、アミノ酸には、例えばチロシンのように難水溶性のものがあり、それらの原体そのものの生理機能を有効活用することは難しい。
【0003】
一方、難水溶性の機能性物質を特に非晶質状態で水溶性担体(キャリア)中に分散させて水溶性や体内吸収性を高め、生体内での有効性を向上させる固体分散体化技術が知られている。固体分散体の調製法としては難水溶性物質とキャリアを有機溶媒に溶解した後、噴霧乾燥する方法が最もよく知られているが、この手法は残留有機溶媒対策が必要となることから、有機溶媒を使用しない調製法が種々検討されている。例えば、特許文献1には、難溶解性ポリフェノール類とペクチン等の多糖類とグルコール、マルトース等の単糖類や二糖類の混合物を加熱溶融させた後、冷却固化させて難溶解性ポリフェノール類を含有する固体分散体を製造する方法、特許文献2には、難水溶性医薬とヒドロキシプロピルメチルセルロースと糖アルコールを2軸混練エクストルーダーにより混練・押し出し・粉砕処理する非繊維状の医薬固体分散体の製造方法が開示されている。特許文献2における2軸混練エクストルーダーのバレル及びダイの温度は170℃以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2002/024168号
【文献】特開2016-49105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が難水溶性アミノ酸について水溶性担体及びマルトースを用いて、加熱溶融法による固体分散体化を試みたところ、固体分散体中のアミノ酸の濃度が低下すること及び固体分散体が茶色に着色されてしまうことが判明した。また、糖アルコールでは、相溶させるために特許文献2のように170℃以上という高温での処理が必要であるが、高温での処理はアミノ酸の分解を招いてしまう。
従って、本発明は、難水溶性アミノ酸の濃度の低下及び着色を回避しつつ、難水溶性アミノ酸の水への溶解性が向上した固体分散体を製造する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、アミノ酸の濃度の低下及び着色の原因について検討したところ、マルトースの還元性に原因があることを見出した。すなわち、アミノ酸とマルトースがメイラード反応を起こしてしまい、固体分散体中のアミノ酸の濃度が低下し且つ固体分散体が着色していたのである。そこで、過度に高温とせずとも、固体分散体が得られる技術について更に検討したところ、難水溶性アミノ酸に、特定の量比で水溶性高分子と還元性を示さない、糖類、オリゴ糖及び糖類の誘導体を混合し、加熱溶融させた後、冷却、固化させると、難水溶性アミノ酸を残存させつつ難水溶性アミノ酸が非晶質の状態で分散した固体分散体が得られること、斯かる固体分散体は、難水溶性アミノ酸の水への溶解性が高く、着色が少ないことを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の製造方法であって、(A)水への溶解度が20g/L以下の難水溶性アミノ酸と(B)水溶性高分子と(C)還元性を示さない、糖類、オリゴ糖及び糖類の誘導体から選ばれる少なくとも1種を、前記(B)成分に対する前記(C)成分の質量比[(C)/(B)]が0.4~20となるように混合した後、170℃未満で加熱して溶融させる工程と、混合物を撹拌又は混練する工程と、撹拌又は混練した溶融物を冷却し固化させる工程を含む、製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難水溶性アミノ酸の水への溶解性が向上した、低着色の難水溶性アミノ酸含有固体分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の製造方法は、(1)(A)水への溶解度が20g/L以下の難水溶性アミノ酸と(B)水溶性高分子と(C)還元性を示さない、糖類、オリゴ糖及び糖類の誘導体から選ばれる少なくとも1種を、前記(B)成分に対する前記(C)成分の質量比[(C)/(B)]が0.4~20となるように混合した後、170℃未満で加熱して溶融させる工程と、(2)混合物を撹拌又は混練する工程と、(3)撹拌又は混練した溶融物を冷却し、固化させる工程、を有する。
本明細書において、(A)水への溶解度が20g/L以下の難水溶性アミノ酸は(A)成分、(B)水溶性高分子は(B)成分、(C)還元性を示さない、糖類、オリゴ糖及び糖類の誘導体は(C)成分とも云う。
また、本明細書においては、「撹拌又は混練」を単に「撹拌等」と記載することもあり、粘稠な物質を対象とする際には「混練」と記載することもあるが、いずれも混合物を均一化させる操作を意味する。
【0010】
本明細書において、難水溶性アミノ酸は、水への溶解度が20g/L以下のアミノ酸である。ここで、水は、25℃の水である。溶解度は、溶液1L中に溶解している溶質のグラム数を表し、単位は[g/L]である。
本発明では、溶解性を向上する必要性から、水への溶解度が、16g/L以下、更に12g/L以下の難水溶性アミノ酸に好ましく適用できる。また、アミノ酸の水への溶解性の点から、水への溶解度が、0.1g/L以上、更に0.2g/L以上、更に0.4g/L以上の難水溶性アミノ酸に好ましく適用できる。
【0011】
難水溶性アミノ酸としては、D体であってもL体であってもよく、両異性体が混在するDL体であってもよい。また、α型、β型、γ型、δ型のいずれであっても構わない。例えば、チロシン、トリプトファン、プロリン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸等が挙げられる。難水溶性アミノ酸は、本発明の効果を享受し易い点から、好ましくはチロシン、トリプトファンであり、より好ましくはチロシンである。
【0012】
本発明で用いられる(B)水溶性高分子は、水溶性であれば特に限定されず、天然高分子、半合成高分子、合成高分子のいずれであっても構わない。
本明細書において、水溶性高分子は、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が1mg以上であるポリマーである((C)成分を除く)。
(B)成分としては、例えば、酸性多糖類(例えば、ペクチン、アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、キタンサンガム、ジェランガム、トラガントガム、イヌリン、λ-カラギーナン、ι-カラギーナン、κ-カラギーナン、ポリガラクツロン酸、寒天、ポリフィラン、フノラン、フルセラン);中性多糖類(例えば、タマリンドシードガム、グァーガム、ローカストビーンガム、デンプン、プルラン、ラミナラン、コンニャクマンナン);塩基性多糖類(例えば、キトサン);セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カチオン化セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース);ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール);ビニル系高分子(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン)等が挙げられる。なかでも、(A)成分の分散媒となり、(A)成分を非晶質化させる点から、好ましくは多糖類及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは酸性多糖類及びセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはペクチン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カチオン化セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはペクチン及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
(B)成分の重量平均分子量は、その種類に応じて適宜決定することができる。(A)成分の水への溶解性を向上させる点、保存後にも効果を維持する点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは30,000以上であり、また、撹拌等時の負荷低減の点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、更に好ましくは300,000以下である。
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)より測定することができる。
【0014】
(B)成分の融点は、(A)成分の水への溶解性を向上させる点、保存後にも効果を維持する点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上、更に150℃以上であり、また、処理温度を低下させる点から、好ましくは210℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。(B)成分及び後述する(C)成分の融点は、示差走査熱分析により測定することができる。
【0015】
本発明で用いられる(C)還元性を示さない、糖類、オリゴ糖及び糖類の誘導体は、(A)成分及び(B)成分の融点を下げるものが好ましい。
本明細書において、糖類は、単糖類及び二糖類の総称である。オリゴ糖は、処理温度を低下させる点から、単糖の数が3~10程度の糖であることが好ましく、3~7がより好ましく、3~4が更に好ましい。糖類は、無水物又は水和物であってもよい。
還元性を示さない糖類としては、例えば、二糖類(例えば、スクロース、トレハロース、ラクトビオン酸)が挙げられる。
還元性を示さないオリゴ糖としては、例えば、三糖類(例えば、ラフィノース、メレジトース)、四糖類(例えば、スタキオース)が挙げられる。
還元性を示さない糖類の誘導体としては、糖類に官能基(例えば、エステル結合)を付加したもの、例えば、二糖類の誘導体(例えば、ショ糖脂肪酸エステル)が挙げられる。
なかでも、処理温度を低下させる点から、好ましくは二糖類、三糖類及び二糖類の誘導体から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはラクトビオン酸、ラフィノース及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはラフィノース、ショ糖脂肪酸エステルである。
【0016】
(C)成分の分子量は、(A)成分の水への溶解性を向上させる点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上であり、また、処理温度を低下させる点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは5,000以下、更に好ましくは1,000以下である。
【0017】
(C)成分の融点は、好ましくは(A)成分及び(B)成分の融点未満であるが、(A)成分の水への溶解性を向上させる点から、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは70℃以上、更に90℃以上であり、また、処理温度を低下させる点から、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは110℃以下である。
【0018】
本発明では、(A)成分と(B)成分と(C)成分を、前記(B)成分に対する前記(C)成分の質量比[(C)/(B)]が0.4~20となるように混合した後、170℃未満で加熱して溶融させる工程と、混合物を撹拌等する工程を含む。
(A)成分と(B)成分と(C)成分を混合する際、(A)成分の含有量は、固体分散体中の(A)成分の含有量を高める点から、混合物中に、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、(A)成分の水への溶解性を向上させる点から、好ましくは65質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0019】
(B)成分の含有量は、その種類によって異なるが、(A)成分の水への溶解性を向上させる点から、混合物中に、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、処理温度を低下させる点から、好ましくは65質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
【0020】
(C)成分の含有量は、その種類によって異なるが、処理温度を低下させる点から、混合物中に、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、(A)成分の水への溶解性を向上させる点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0021】
(A)成分と(B)成分と(C)成分を混合する際の(B)成分に対する(C)成分の質量比[(C)/(B)]は、0.4~20であるが、処理温度を低下させる点、撹拌等時の負荷低減の点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上であり、また、(A)成分の水への溶解性を向上させる点から、好ましくは18以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは6以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1以下である。
【0022】
(A)成分と(B)成分と(C)成分を混合する際の(B)成分と(C)成分の合計量に対する(A)成分の質量比[(A)/{(B)+(C)}]は、固体分散体中の(A)成分の含有量を高める点から、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.10以上であり、更に好ましくは0.15以上であり、また、水への溶解性向上の点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.0以下である。
【0023】
(A)成分と(B)成分と(C)成分の混合物を加熱して溶融させる方法、並びに混合物を撹拌等する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用できる。また、混合物を加熱して溶融させた後に混合物を撹拌等してもよく、混合物を加熱して溶融しながら撹拌等してもよいが、混合物を撹拌等しながら加熱溶融させることが好ましい。例えば、エクストルーダー、ニーダー等の混練機、押出機を用いることができる。また、リボンミキサー等の攪拌機を用いることができる。例えば、HAAKE製のエクストルーダー、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製のエクストルーダー、テクノベル(株)製のKZW134T、(株)栗本鉄工所のKRCニーダー、浅田鉄工製のミラクルK.C.K、スエヒロEPM製のEA-20、エヌピー食品(株)製のMC-1102等が挙げられる。加熱の手段は、例えば、水蒸気、電気が挙げられる。
【0024】
なかでも、均一な組成の固体分散体を得る点から、撹拌等と加熱溶融を同時に行うことのできるスクリューを備えた押出機を用いるのが好ましい。スクリューを備えた押出機としては、単軸、二軸のどちらの形式でもよいが、搬送能力を高める等の点から、二軸押出機が好ましい。二軸押出機としては、シリンダの内部に2本のスクリューが回転自在に挿入された押出機が好ましく、従来から公知のものを使用できる。2本のスクリューの回転方向は、同一でも逆方向でもよいが、搬送能力を高める点から、同一方向の回転が好ましい。また、スクリューの噛み合い条件としては、完全噛み合い、部分噛み合い、非噛み合いの各形式の押出機のいずれでもよいが、処理能力を向上させる点から、完全噛み合い型、部分噛み合い型が好ましい。
【0025】
また、スクリューを備えた押出機としては、強い圧縮せん断力を加える点から、スクリューのいずれかの部分に、いわゆるニーディングディスク部を備えることが好ましい。ニーディングディスク部とは、複数のニーディングディスクで構成され、これらを連続して、一定の位相で、例えば90°ずつ、ずらしながら組み合わせたものであり、スクリューの回転にともなって、狭い隙間に、(A)成分と(B)成分と(C)成分の混合物を強制的に通過させることで極めて強いせん断力を付与することができる。スクリューの構成としては、ニーディングディスク部と複数のスクリューセグメントとが交互に配置されることが好ましい。二軸押出機の場合、2本のスクリューが、同一の構成を有することが好ましい。
【0026】
スクリューを備えた押出機を用いる際は、(A)成分と(B)成分と(C)成分の混合物、好ましくは当該混合物を粗粉砕したものを押出機に投入し、スクリューを回転させることにより、連続的に処理する方法が好ましい。
スクリュー回転数は、30~500r/minが好ましく、50~300r/minがより好ましく、50~250r/minが更に好ましく、80~200r/minが殊更好ましい。
また、せん断速度としては、10sec-1以上が好ましく、20~30000sec-1がより好ましく、50~3000sec-1が更に好ましい。せん断速度が10sec-1以上であれば、有効に粉砕が進行するため好ましい。
スクリューを備えた押出機中で溶融した溶融物は、押出し、成形される。
【0027】
押出機によるパス回数は、1パスでも十分効果を得ることができるが、(A)成分の分散性を向上させる点から、2パス以上行うことが好ましい。また、生産性の点からは、1~10パスが好ましい。パスを繰返すことにより、粗大粒子が粉砕され、粒径のばらつきが少ない(A)成分を含有する固体分散体を得ることができる。2パス以上行う場合、生産能力を考慮し、複数の押出機を直列に並べて処理を行ってもよい。
【0028】
本発明では、170℃未満で加熱する。加熱温度は、(A)成分の分解・変性又は着色を抑制する点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは130℃以下である。また、下限は、好ましくは(C)成分が軟化する温度以上であるが、より好ましくは55℃以上、更に好ましくは60℃以上、更に好ましくは80℃以上、更に好ましくは100℃以上、より更に好ましくは110℃以上である。加熱により(C)成分が軟化すると、そこに(A)成分及び(B)成分が溶融する。
【0029】
加熱の時間は、難水溶性アミノ酸の水溶性向上と熱安定性と生産性の点から、(C)成分が溶融する温度に達してから30分以下が好ましく、より好ましくは15分以下、更に好ましくは10分以下であり、また、難水溶性アミノ酸の水への溶解性の点から、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上である。
【0030】
次いで、撹拌等した溶融物を冷却し、固化させる。斯かる処理によって、難水溶性アミノ酸が非晶質化し、難水溶性アミノ酸を非晶質の状態で含む固体分散体となる。
非晶質とは、分子配列に一定の規則性を欠いている状態である。非晶質(アモルファス)であることは、粉末X線回折によって確認できる。
難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体は、粉末X線回折測定において、難水溶性アミノ酸の結晶性回折ピークが検出されないのが好ましい。
【0031】
溶融物の冷却温度は、好ましくは(C)成分が溶融する温度よりも低い温度であり、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは30℃以下である。
冷却方法は、例えば、固体分散体を50℃以下、更に30℃以下、更に室温(25℃)の雰囲気下におくことが好ましい。また、加熱処理後の固体分散体に冷風を吹き付けて急冷することが好ましい。加熱処理温度から25℃まで低下するのに要した時間から算出される固体分散体の冷却速度は、好ましくは0.1℃/s以上、より好ましくは0.2℃/s以上、更に好ましくは0.3℃/s以上であり、また、製造設備の制約等の点から、好ましくは100℃/s以下、より好ましくは50℃/s以下である。
冷却時間は、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下、更に好ましくは10分以下、更に好ましくは5分以下である。
冷却により固化した固体分散体は、任意の形、大きさに成形可能である。例えば、ペレット状、顆粒状が挙げられる。更に、必要に応じて粉砕してもよい。
【0032】
固体分散体中の水分含量は、微細化し易く、ハンドリング性が良好な点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0033】
斯くして、難水溶性アミノ酸の濃度の低下を回避できるので難水溶性アミノ酸の残存率が高い難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体が得られる。
固体分散体における難水溶性アミノ酸の残存率は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上である。
また、本発明の製造方法で得られる難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体は、水への溶解性に極めて優れる。
固体分散体における難水溶性アミノ酸の水に対する溶解度(25℃)は、好ましくは未処理の難水溶性アミノ酸に対して1.5倍以上、より好ましくは3倍以上、更に好ましくは5倍以上である。
更に、本発明の製造方法で得られる難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体は、着色が少ない。
難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体の着色度は、20以下である。なお、本明細書における着色度はL***色空間におけるΔEの数値で表現される色差をいい、その測定法は実施例に示した方法に従う。
【0034】
本発明の製造方法で得られる難水溶性アミノ酸を含有する固体分散体は、様々な飲食品や医薬品、化粧品等に使用することができる。とりわけ、水系の製品に利用するのが有用である。また、製造工程中の有機溶媒の使用を回避できるので飲食品に好適である。
飲食品としては、例えば、飲料、パン類、麺類、クッキー等の菓子類、スナック類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、粉末コーヒー等のインスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、調味料、栄養補助食品等の液状、固形状又は半固形状の飲食品が挙げられる。また、医薬品としては、錠剤(チュアブル錠等)、カプセル剤、粉末剤等の剤型が挙げられる。また、化粧品としては、洗浄料、化粧水、メイクアップ用化粧料、日焼け止め用化粧料、ニキビ用化粧料、デオドラント用化粧料、美白用化粧料、洗髪剤、育毛剤等が挙げられる。
【実施例
【0035】
[難水溶性アミノ酸の定量]
難水溶性アミノ酸の溶解液として5%乳酸水溶液を用い、難水溶性アミノ酸の濃度が0.005-0.0015質量%の濃度範囲となるように、所定量の難水溶性アミノ酸含有粉末又は溶液を希釈した後、沈殿物が無くなるまで5%乳酸水溶液と混合、溶解させた状態でHPLC分析用の試料バイアル瓶内に充填した。
島津製作所製のHPLC装置:SCL-10AVPを用い、カラムにはL-カラムTM ODS4.6 mmφ×250 mmを用いた。移動相A液として酢酸0.1mol/L含有蒸留水を、移動相B液としてアセトニトリルを使用し、以下に示したグラジェント条件にて移動相をカラムに送液した。
時間(分) 移動相A液(体積%) 移動相B液(体積%)
00 100 0
05 100 0
25 0 100
30 100 0
40 100 0
試料注入量:10μL、UV検出波長:275nm、カラム温度:35℃の条件でHPLC測定を行った。HPLC分析によって得られた難水溶性アミノ酸の濃度と希釈倍率により、希釈前の難水溶性アミノ酸の濃度を算出した。
【0036】
[難水溶性アミノ酸の残存率の算出]
加熱溶融後の難水溶性アミノ酸の残存率は仕込み組成と固体分散体の難水溶性アミノ酸の濃度から次式で算出した。
残存率(%)=〔(固体分散体中の難水溶性アミノ酸濃度)/(難水溶性アミノ酸の仕込み組成)〕×100
【0037】
[水溶解性の評価]
固体分散体と水を50mLのサンプル瓶に所定量仕込み、マグネチックスターラーを用いて、回転数:500r/min(0.4m/s)、撹拌時間:30minで撹拌を行った。なお、固体分散体と水を混合した全量を30gとし、難水溶性アミノ酸の仕込み量は4.5g/Lとした。経時で混合液を1.0mLサンプリングし、孔径0.8μmと0.45μmのセルロースアセテートシリンジフィルターで濾過し、得られた濾液の難水溶性アミノ酸の濃度を前述のHPLCにて定量分析した。
【0038】
[着色の評価]
加熱溶融前の原料の混合物と加熱溶融、混練処理後に冷却した固体分散体のL*、a*、b*の値を日本電色工業株式会社製簡易型分光色差計NF333を用いて測定し、各値から次式でΔE値を算出した。
ΔE=[(ΔL*2+(Δa*2+(Δb*21/2
【0039】
[原料]
チロシン:L-チロシン、富士フィルム和光純薬(株)製
トリプトファン:L-トリプトファン、富士フィルム和光純薬(株)製
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、信越化学工業(株)製メトローズ SE‐06、重量平均分子量35000、融点185℃
ペクチン:ユニテックフーズ(株)製 UTFC LM QS 400C、重量平均分子量260000、融点150℃
ラフィノース:D(+)-ラフィノース五水和物、富士フィルム和光純薬(株)製、融点85℃
ショ糖脂肪酸エステル:ショ糖ステアリン酸エステル、三菱ケミカルフーズ(株)製、融点55℃
ラクトビオン酸:富士フィルム和光純薬(株)製、融点113℃
マルトース:D(+)-マルトース一水和物、富士フィルム和光純薬(株)製
エリスリトール:meso-Erythritol、東京化成工業(株)製
ソルビトール:D(-)-ソルビトール、富士フィルム和光純薬(株)製
【0040】
実施例1
チロシンを15質量%、HPMCを45質量%、ラフィノースを40質量%の割合で、各粉体をプラスティックカップに計量し、混合することで混合物を得た。加熱温度:130℃、回転速度:20r/minに設定した2軸エクストルーダー(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)にあらかじめ混合した粉体の混合物を投入し、回転速度:80r/min、時間:10minの条件で装置内を循環させながら混練処理を行った。所定時間後、循環路を排出側に切り替え、送風により5minで25℃まで(冷却速度0.35℃/s)冷却を行いながら固体分散体を回収した。
回収した固体分散体は乳鉢を用いて粉砕し、得られた固体分散体の粉末について分析、評価を行った。
【0041】
実施例2
ラフィノースに代えて、ラフィノースを20質量%、ショ糖脂肪酸エステルを20質量%とした以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0042】
実施例3
ラフィノースに代えて、ショ糖脂肪酸エステルを40質量%とした以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0043】
実施例4
ラフィノースに代えて、ラクトビオン酸を40質量%とした以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0044】
実施例5
HPMCに代えて、ペクチンを45質量%、加熱温度を110℃とした以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0045】
実施例6~10
ラフィノースに代えて、ショ糖脂肪酸エステルを用い、チロシン、HPMC、ショ糖脂肪酸エステルの割合を表1に記載したように代えた以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0046】
比較例1
チロシンを15質量%、HPMCを45質量%、ラフィノースを40質量%の割合で、各粉体をプラスティックカップに計量し、撹拌することでチロシン混合物を得た。得られたチロシン混合物について分析、評価を行った。
【0047】
比較例2
ラフィノースに代えて、ラフィノースを20質量%、ショ糖脂肪酸エステルを20質量%とした以外は、比較例1と同様にしてチロシン混合物を得た。
【0048】
比較例3
ラフィノースに代えて、ショ糖脂肪酸エステルを40質量%とした以外は、比較例1と同様にしてチロシン混合物を得た。
【0049】
比較例4
ラフィノースに代えて、ラクトビオン酸を40質量%とした以外は、比較例1と同様にしてチロシン混合物を得た。
【0050】
比較例5
HPMCに代えて、ペクチンを45質量%とした以外は、比較例1と同様にしてチロシン混合物を得た。
【0051】
比較例6~8
ラフィノースに代えて、ショ糖脂肪酸エステルを用い、チロシン、HPMC、ショ糖脂肪酸エステルの割合を表2に記載のように代えた以外は、比較例1と同様にしてチロシン混合物を得た。
【0052】
比較例9及び10
チロシン、HPMC、ショ糖脂肪酸エステルの割合を表2に記載したように代えた以外は実施例1と同様に処理を試みたが混練できず、固体分散体を製造できなかった。
【0053】
比較例11
加熱温度:170℃とした以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0054】
比較例12
ラフィノースに代えて、マルトースを40質量%とした以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0055】
比較例13及び14
HPMCに代えて、ペクチンを45質量%、ラフィノースに代えて、マルトースを40質量%、加熱温度を130℃又は110℃とした以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0056】
比較例15及び16
ラフィノースに代えて、エリスリトール又はソルビトール用いた以外は実施例1と同様に処理を試みたが排出口で固化してしまい、固体分散体を製造できなかった。
【0057】
実施例及び比較例の処理条件と分析、評価の結果を表1及び表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
実施例11
トリプトファンを40質量%、HPMCを20質量%、ラフィノースを40質量%の割合とした以外は、実施例1と同様に処理して固体分散体を製造した。
【0061】
比較例17
トリプトファンを40質量%、HPMCを20質量%、ラフィノースを40質量%の割合とした以外は、比較例1と同様にしてトリプトファン混合物を得た。
【0062】
実施例及び比較例の処理条件と分析、評価の結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
表1~表3より明らかなように、実施例において、難水溶性アミノ酸含有固体分散体における難水溶性アミノ酸の残存率及び水溶解性は高かった。また、マルトースを用いた固体分散体と比較して、低着色であった。