(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】乳化物の製造方法及び乳化物の製造装置
(51)【国際特許分類】
C08F 2/24 20060101AFI20230425BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20230425BHJP
B01F 23/41 20220101ALI20230425BHJP
B01F 25/42 20220101ALI20230425BHJP
B01F 25/50 20220101ALI20230425BHJP
【FI】
C08F2/24 Z
B01J13/00 A
B01F23/41
B01F25/42
B01F25/50
(21)【出願番号】P 2019004668
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2018007386
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉孝
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209356(JP,A)
【文献】特開2006-312165(JP,A)
【文献】特開2004-302310(JP,A)
【文献】特開2015-191166(JP,A)
【文献】特開2007-297536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/24
B01J 13/00
B01F 23/41
B01F 25/42
B01F 25/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤、水、ビニル系単量体
(ただし、炭素数12以上の炭化水素基を有するものを除く。)、及び炭素数12以上の炭化水素基を有する
有機化合物を含
む分散
体を調製する分散体調製工程と、
前記分散体を、ホモジナイザを用いて処理して、乳化物を調製する乳化物調製工程と、
を有
し、
前記分散体調製工程において、
前記乳化剤及び前記水を混合して第一の乳化剤含有液を調製し、前記第一の乳化剤含有液と、前記ビニル系単量体及び前記有機化合物を含む単量体含有液とを混合して第一の予混合液を調製し、前記第一の予混合液を、連続的にせん断処理して第一の分散体を調製し、
前記第一の分散体の少なくとも一部を返送し、返送された前記第一の分散体、前記乳化剤及び前記水を混合して第二の乳化剤含有液を調製し、前記第二の乳化剤含有液と、前記単量体含有液とを混合して前記第一の予混合液よりも前記ビニル系単量体の濃度が高い第二の予混合液を調製し、前記第二の予混合液を、連続的にせん断処理して第二の分散体を調製する、乳化物の製造方法。
【請求項2】
前記せん断処理では、連続式ホモミキサ及びスタティックミキサの少なくとも一方を用いる、請求項
1に記載の乳化物の製造方法。
【請求項3】
ビニル系単量体
(ただし、炭素数12以上の炭化水素基を有するものを除く。)、炭素数12以上の炭化水素基を有する
有機化合物、乳化剤及び水を混合して予混合液を調製する予混合液調製用機器と、
前記予混合液調製用機器に接続され、前記予混合液を連続的にせん断処理して分散体を調製するせん断処理用ミキサと、
返送用配管と、
前記せん断処理用ミキサに接続され、前記せん断処理用ミキサから前記分散体を導出する分散体用配管と、
前記分散体用配管に接続され、前記分散体を処理して乳化物を調製するホモジナイザと、
を備え
、
前記予混合液調製用機器は、混合槽と乳化剤含有液用配管と単量体含有液供給用機器と予混合液用配管とを備え、
前記混合槽は、少なくとも乳化剤及び水を混合して乳化剤含有液を調製する槽であり、
前記乳化剤含有液用配管は、前記混合槽に接続され、前記乳化剤含有液を前記混合槽から導出する配管であり、
前記単量体含有液供給用機器は、前記ビニル系単量体及び前記有機化合物を含む単量体含有液を前記予混合液用配管に供給する機器であり、
前記予混合液用配管は、前記乳化剤含有液用配管及び前記単量体含有液供給用機器に接続されていると共に、前記せん断処理用ミキサに接続されている配管であり、
前記返送用配管は、前記分散体用配管に接続され、前記分散体の少なくとも一部を前記混合槽に返送する、乳化物の製造装置。
【請求項4】
前記せん断処理用ミキサが、連続式ホモミキサ及びスタティックミキサの少なくとも一方である、請求項
3に記載の乳化物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化物の製造方法及び乳化物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂又はアクリル系樹脂等の硬質樹脂にグラフト共重合体を配合して補強したゴム強化樹脂は、成形材料として広く使用されている。
前記グラフト共重合体は、ゴム質重合体の存在下にグラフト重合用ビニル系単量体をグラフト重合することにより得られる。ゴム質重合体としては、例えば、アクリルゴム、ポリブタジエンゴム、ブタジエン-スチレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-共役ジエン系ゴム、シリコーンゴム等が使用されている。グラフト重合用ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等が使用されている。
前記ゴム質重合体を製造する方法としては様々な方法が知られている。例えば、体積平均粒子径が300nm以上の大きめのゴム質重合体を製造する方法として、以下の方法が知られている。
まず、原料となるゴム質重合体用ビニル系単量体を乳化重合して、体積平均粒子径が約200nm以下の小粒径ゴムエマルションを得る。次いで、酸基含有共重合体を添加することにより前記小粒径ゴムを肥大化処理して、体積平均粒子径が約300nm以上のエマルション状のゴム質重合体を得る(特許文献1)。
しかし、特許文献1に記載の方法により得たエマルション状のゴム質重合体は、ゴム質重合体の粒子径分布が広くなる傾向にあった。グラフト共重合体を構成するゴム質重合体においては、粒子径分布が広いと、目的とする物性を発現できないことがある。そのため、グラフト共重合体用のゴム質重合体としては、粒子径分布が狭いことが求められる場合がある。
【0003】
重合体粒子の粒子径分布を狭くしやすい重合方法として、ミニエマルション重合が知られている。従来のミニエマルション重合では、まず、ビニル系単量体、疎水性化合物、乳化剤及び水を含む予混合液を、バッチ式ホモミキサを用いてせん断処理して、ミニエマルション重合用の乳化物を製造する。次いで、前記乳化物に含まれるビニル系単量体をミニエマルション重合してエマルション状の重合体を得る(特許文献2、特許文献3)。
しかし、前記従来の方法では、ミニエマルション重合に使用する乳化物の製造を大規模化することが困難であった。そのため、ミニエマルション重合によるエマルション状重合体の製造を工業化することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-143924号公報
【文献】国際公開第2017/073294号
【文献】特開2017-171834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ミニエマルション重合等に使用する乳化物の製造を容易に大規模化できる乳化物の製造方法及び乳化物の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]乳化剤、水、ビニル系単量体、及び炭素数12以上の炭化水素基を有する疎水性化合物を含む予混合液を、連続的にせん断処理して分散体を調製する分散体調製工程と、前記分散体を、ホモジナイザを用いて処理して、乳化物を調製する乳化物調製工程と、を有する、乳化物の製造方法。
[2]前記分散体の少なくとも一部を前記予混合液に添加する返送工程をさらに有し、前記分散体を添加した予混合液を連続的にせん断処理して分散体を調製する分散体調製工程を1回以上繰り返す、[1]に記載の乳化物の製造方法。
[3]前記せん断処理では、連続式ホモミキサ及びスタティックミキサの少なくとも一方を用いる、[1]又は[2]に記載の乳化物の製造方法。
【0007】
[4]ビニル系単量体、炭素数12以上の炭化水素基を有する疎水性化合物、乳化剤及び水を混合して予混合液を調製する予混合液調製用機器と、
前記予混合液調製用機器に接続され、前記予混合液を連続的にせん断処理して分散体を調製するせん断処理用ミキサと、
前記せん断処理用ミキサに接続され、前記せん断処理用ミキサから前記分散体を導出する分散体用配管と、
前記分散体用配管に接続され、前記分散体を処理して乳化物を調製するホモジナイザと、を備える、乳化物の製造装置。
[5]前記予混合液調製用機器は、混合槽と乳化剤含有液用配管と単量体含有液供給用機器と予混合液用配管とを備え、
前記混合槽は、少なくとも乳化剤及び水を混合して乳化剤含有液を調製する槽であり、
前記乳化剤含有液用配管は、前記混合槽に接続され、前記乳化剤含有液を前記混合槽から導出する配管であり、
前記単量体含有液供給用機器は、前記ビニル系単量体及び前記疎水性化合物を含む単量体含有液を前記予混合液用配管に供給する機器であり、
前記予混合液用配管は、前記乳化剤含有液用配管及び前記単量体含有液供給用機器に接続されていると共に、前記せん断処理用ミキサに接続されている配管である、[4]に記載の乳化物の製造装置。
[6]前記分散体用配管に接続され、前記分散体の少なくとも一部を前記混合槽に返送する返送用配管をさらに備える、[5]に記載の乳化物の製造装置。
[7]前記せん断処理用ミキサが、連続式ホモミキサ及びスタティックミキサの少なくとも一方である、[4]~[6]のいずれか一に記載の乳化物の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乳化物の製造方法及び乳化物の製造装置によれば、ミニエマルション重合等に使用する乳化物の製造を容易に大規模化できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の乳化物の製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<乳化物の製造装置>
本発明の乳化物の製造装置(以下、「製造装置」と略す。)の一態様について説明する。
本態様の製造装置は、予混合液調製用機器と、せん断処理用ミキサと、分散体用配管と、ホモジナイザと、を備える。
前記予混合液調製用機器は、ビニル系単量体、炭素数12以上の炭化水素基を有する疎水性化合物、乳化剤及び水を混合して、後述する分散体を得るための予混合液を調製する機器である。
前記せん断処理用ミキサは、前記予混合液調製用機器に接続され、前記予混合液を連続的にせん断処理して分散体を調製するミキサである。
前記分散体用配管は、前記せん断処理用ミキサに接続され、前記せん断処理用ミキサから前記分散体を導出する配管である。
前記ホモジナイザは、前記分散体用配管に接続され、前記分散体を処理して乳化物を調製する機器である。
【0011】
本態様の製造装置の一実施形態について説明する。
図1に、本実施形態の製造装置1を示す。本実施形態の製造装置1は、予混合液調製用機器10と、せん断処理用ミキサ20と、分散体用配管30と、ホモジナイザ40と、返送用配管50と、乳化物用配管60と、乳化物貯留槽70と、を備える。
【0012】
(予混合液調製用機器)
本実施形態における予混合液調製用機器10は、混合槽11と、乳化剤含有液用配管12と、予混合液用配管14と、ポンプ15と、を備える。好ましくは、予混合液調製用機器10は、混合槽11と、乳化剤含有液用配管12と、単量体含有液供給用機器13と、予混合液用配管14と、ポンプ15と、を備える。
【0013】
[混合槽]
混合槽11は、少なくとも乳化剤及び水を混合して乳化剤含有液を調製する槽である。本実施形態における混合槽11は、槽本体11aと必要に応じて攪拌機11bとを備える。
槽本体11aは、乳化剤及び水が収容される槽である。槽本体11aの上部には、槽本体11aに乳化剤を供給するための乳化剤供給用配管11cと、槽本体11aに水を供給するための水供給用配管11dが接続されている。
また、本実施形態における混合槽11の上部には、返送用配管50が接続されている。したがって、本実施形態では、混合槽11に、せん断処理用ミキサ20によって調製された分散体を供給できるようになっている。本発明では、乳化剤及び水に加えて分散体を含む液も乳化剤含有液という。
攪拌機11bは、接続位置に特に制限はなく、攪拌翼11eを備えて、槽本体11aに収容された内容物を攪拌できればよい。攪拌翼11eとしては特に制限がなく、例えば、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼、アンカー翼、リボン翼、その他大型特殊翼等を使用できる。また、混合槽11の内部には、槽内の撹拌効率を上げるために、邪魔板が取り付けられてもよい。
【0014】
[乳化剤含有液用配管]
乳化剤含有液用配管12は、その一方の端部が槽本体11aの底部に接続され、他方の端部が予混合液用配管14に接続されている。この乳化剤含有液用配管12は、乳化剤含有液を混合槽11から導出し、予混合液用配管14に移送するための配管である。
【0015】
[単量体含有液供給用機器]
ビニル系単量体及び炭素数12以上の炭化水素基を有する疎水性化合物は別々に混合槽11に供給してもよく、ビニル系単量体及び炭素数12以上の炭化水素基を有する疎水性化合物を含む単量体含有液を混合槽11に供給してもよい。本態様の製造装置1では、単量体含有液と乳化剤含有液の分離を抑制するため、単量体含有液供給用機器13を備え、単量体含有液を前記予混合液用配管14に供給することが好ましい。
単量体含有液供給用機器13は、ビニル系単量体及び炭素数12以上の炭化水素基を有する疎水性化合物を含む単量体含有液を前記予混合液用配管14に供給する機器である。本実施形態における単量体含有液供給用機器13は、単量体含有液調製槽13aと、単量体供給用配管13bと、疎水性化合物供給用配管13cと、単量体含有液用配管13dと、ポンプ13eと、を備える。
単量体含有液調製槽13aは、ビニル系単量体と疎水性化合物とを混合して単量体含有液を調製する槽である。本実施形態における単量体含有液調製槽13aは、ビニル系単量体及び水が収容される槽本体13fと、槽本体13fに収容された内容物を攪拌する攪拌機13gとを備える。攪拌機13gは攪拌翼13hを備える。攪拌翼13hとしては、混合槽11に使用される攪拌翼11eと同様のものを使用できる。
単量体供給用配管13bは、槽本体13fの上部に接続され、槽本体13fにビニル系単量体を供給するための配管である。
疎水性化合物供給用配管13cは、槽本体13fの上部に接続され、槽本体13fに疎水性化合物を供給するための配管である。
単量体含有液用配管13dは、槽本体13fの底部に接続され、槽本体13fから単量体混合液を予混合液用配管14に移送するための配管である。
ポンプ13eは、単量体含有液用配管13dに取り付けられ、槽本体13fから単量体含有液を抜き出し、乳化剤含有液用配管12に連続的に送り出すための機器である。
乳化物を重合に供する場合、予混合液には重合開始剤を添加することがある。予混合液に重合開始剤を添加する場合には、槽本体13fの上部に、槽本体13fに重合開始剤を供給するための重合開始剤用配管が接続される。
【0016】
[予混合液用配管]
予混合液用配管14は、乳化剤含有液用配管12及び単量体含有液供給用機器13の単量体含有液用配管13dに接続されていると共に、せん断処理用ミキサ20に接続されている配管である。
予混合液用配管14の内部では、乳化剤含有液用配管12により移送された乳化剤含有液と、単量体含有液用配管13dから移送された単量体含有液とが合流して、混ざり合うようになっている。したがって、予混合液用配管14の内部では、乳化剤と水とビニル系単量体と疎水性化合物とを少なくとも含有する予混合液が調製される。調製された予混合液は、予混合液用配管14によってせん断処理用ミキサ20に移送される。したがって、予混合液用配管14は、予混合液を調製すると共に、予混合液を移送するための配管である。
【0017】
[ポンプ]
ポンプ15は、予混合液用配管14に取り付けられ、予混合液用配管14の内部にて調製された前記予混合液をせん断処理用ミキサ20に連続的に送り出すための機器である。
【0018】
(せん断処理用ミキサ)
せん断処理用ミキサ20は、予混合液用配管14によって移送された前記予混合液を連続的にせん断処理する攪拌機である。予混合液のせん断処理によって、予混合液を分散処理し、乳化剤によって水にビニル系単量体及び疎水性化合物が分散した分散体を調製する。ここで、連続的にせん断処理するとは、せん断処理用ミキサ20への予混合液の供給を停止することなく、連続して予混合液を攪拌することである。
せん断処理用ミキサ20には、予混合液用配管14及び分散体用配管30が接続されている。これにより、せん断処理用ミキサ20には、予混合液用配管14によって予混合液が連続的に導入されると共に、分散体用配管30によって分散体が連続的に導出されるようになっている。
【0019】
せん断処理用ミキサ20としては、予混合液を連続的にせん断処理できるミキサであれば特に制限されないが、連続式ホモミキサ及びスタティックミキサの少なくとも一方が好ましい。ここで、連続式ホモミキサとは、被処理液を連続的に導入及び導出しながら攪拌できるミキサのことである。スタティックミキサは、配管内に被処理液を混合するためのエレメントが設置された静的混合器である。
せん断処理用ミキサ20が連続式ホモミキサ及びスタティックミキサの少なくとも一方であれば、実用性が高く、予混合液を大量にせん断処理でき、分散体を大量に調製することが容易になる。
連続式ホモミキサを用いる予混合液の連続的な処理では、小さい動力で予混合液をせん断処理して分散化できる。また、連続式ホモミキサを用いる予混合液の連続的な処理では、予混合液への空気の巻き込みが少なく、泡立ちが少ないため、分散体におけるビニル系単量体の粒子径分布を容易に狭くできる。
スタティックミキサを用いる予混合液の処理能力は、スタティックミキサに予混合液を移送するポンプ15の能力に依存する傾向にある。したがって、ポンプ15の能力を大きくすれば、分散体を容易に大量調製でき、乳化物の製造をより容易に大規模化できる。
【0020】
連続式ホモミキサとしては、下記のミキサ又は分散機を例示できる。
・槽本体の内部に高せん断攪拌機を備える連続式攪拌装置:高せん断攪拌機の攪拌翼としては、例えば、パドル翼、タービン翼等が挙げられる。槽本体の内部には邪魔板が取り付けられてもよい。
・流路の内部に、回転するロータと回転しないステータとからなるせん断付与部を複数備える分散機:ロータ及びステータは、各々、円板部と、前記円板の一方の面に垂直に設置された歯部とを有する。前記歯部は、前記円板部と同心円状に且つ一定間隔で設けられている。ロータの円板部の直径はステータの円板部の直径より小さくなっており、ステータの内側にロータが配置されるようになっている。この分散機では、流路内に予混合液を流しながら、ロータを回転させ、ロータの歯部及びステータの歯部の隙間に予混合液を通してせん断力を付与し、分散処理する。この分散機の具体例としては、太平洋機工株式会社製マイルダー、シルバーソン社製ホモジナイザー等が挙げられる。
・槽本体の内部に、回転するロータと回転しないスクリーンとを備える分散機:スクリーンは、前記ロータを収容する円錐状の部材であり、その側面に複数のスリットが形成されている。この分散機では、ロータが回転することによって遠心力が付与された予混合液をスクリーンのスリットに通して強いせん断力を発生させ、そのせん断力によって、予混合液を分散処理する。この分散機の具体例としては、エム・テクニックス株式会社製クレアミックスが挙げられる。
【0021】
せん断処理用ミキサ20は1台のみでもよいし、2台以上を直列又は並列に接続してもよい。例えば、2台以上の連続式ホモミキサを直列に接続してもよい。連続式ホモミキサを2台以上直列に接続した場合、予混合液は、各連続式ホモミキサによって分散処理される。また、連続式ホモミキサを2台以上直列に接続した場合、分散体を安定的に調製できることから、上流側の連続式ホモミキサのせん断力よりも下流側の連続式ホモミキサのせん断力を強くすることが好ましい。
また、せん断処理用ミキサ20を2台以上接続する場合には、全てを同種のせん断処理用ミキサとしてもよいし、複数種のせん断処理用ミキサを組み合わせてもよい。
【0022】
(分散体用配管)
分散体用配管30は、せん断処理用ミキサ20に接続されている。この分散体用配管30は、せん断処理用ミキサ20から前記分散体をホモジナイザ40に導出するための配管である。
分散体用配管30には、ホモジナイザ40への分散体の移送を制御するバルブ31が取り付けられている。バルブ31の開閉の程度によって、ホモジナイザ40への分散体の供給量を調整できる。バルブ31を全閉すると、ホモジナイザ40への分散体の供給を停止できる。
【0023】
(ホモジナイザ)
ホモジナイザ40は、分散体用配管30に接続されている。ホモジナイザ40は、分散体用配管30によってせん断処理用ミキサ20から移送された分散体を処理して、乳化物を調製する機器である。ホモジナイザ40による処理は、分散体に含まれるビニル系単量体の液状粒子を微細化して乳化物を得る処理である。
ホモジナイザ40としては、例えば、圧力式ホモジナイザ、超音波式ホモジナイザ等を使用することができる。
圧力式ホモジナイザにおいては、ポンプ等を用いて高圧状態とした分散体を均質バルブに衝突させることによって、分散体中のビニル系単量体の粒子を微細化処理する。
超音波式ホモジナイザにおいては、分散体に超音波振動を与えて、分散体の内部に微小な真空の泡を発生させる。この真空の泡が破裂した際に生じる衝撃によって、分散体中のビニル系単量体の粒子を微細化処理する。
ホモジナイザ40としては、通常は、分散体を連続的に処理する連続式ホモジナイザが使用されるが、任意量の分散体を一回ずつ処理するバッチ式ホモジナイザが使用されてもよい。
【0024】
(返送用配管)
返送用配管50は、せん断処理用ミキサ20によって調製された分散体の少なくとも一部を混合槽11の槽本体11aに返送するための配管である。具体的には、返送用配管50は、その一方の端部が、分散体用配管30の、バルブ31よりも上流側に接続され、他方の端部が、混合槽11の槽本体11aの上部に接続されている。
返送用配管50には、混合槽11の槽本体11aへの分散体の移送を制御するバルブ51が取り付けられている。バルブ51の開閉の程度によって、混合槽11への分散体の供給量を調整できる。バルブ51を全閉すると、混合槽11への分散体の供給を停止できる。
【0025】
(乳化物用配管)
乳化物用配管60は、その一方の端部がホモジナイザ40に接続され、他方の端部が混合槽11、乳化物貯留槽70、ミニエマルション重合するための重合槽などに接続できる。すなわち、この乳化物用配管60は、ホモジナイザ40から前記乳化物を、混合槽11、乳化物貯留槽70、重合槽等に移送するための配管である。
乳化物用配管60は、乳化物の状態を確認できることから、本実施形態のように、乳化物貯留槽70に接続することが好ましい。
【0026】
(乳化物貯留槽)
乳化物貯留槽70は、ホモジナイザ40によって得られた乳化物を一時的に貯留する槽である。本実施形態における乳化物貯留槽70は、槽本体71と、槽本体71の内部を攪拌する攪拌機72とを備える。乳化物貯留槽70の槽本体71の容量は、混合槽11の槽本体11aの容量よりも大きいことが好ましい。攪拌機72は攪拌翼72aを備える。攪拌翼72aとしては、混合槽11に使用される攪拌翼11eと同様のものを使用できる。
乳化物貯留槽70に一時的に貯留された乳化物は、槽本体71の底部から、移送管73を介して、例えば、ミニエマルション重合するための重合槽に移送される。
また、乳化物貯留槽70から抜き出した乳化物は、混合槽11の槽本体11aに返送されてもよい。
【0027】
<乳化物の製造方法>
本発明の乳化物の製造方法の一態様について説明する。
本態様の乳化物の製造方法は、分散体を調製する分散体調製工程と、前記分散体を処理して乳化物を調製する乳化物調製工程と、を有する。
分散体調製工程では、ビニル系単量体、疎水性化合物、乳化剤及び水を含む予混合液を、連続的にせん断処理する。
乳化物調製工程では、前記分散体を、ホモジナイザを用いて処理して、分散体に含まれるビニル系単量体の液状粒子を微細化する。
【0028】
ビニル系単量体は、ビニル基を1つ有してラジカル重合可能な単官能単量体である。ビニル系単量体としては、例えば、アクリル系モノマー、共役ジエン系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、ケイ素含有モノマー、オレフィン系モノマー、塩素含有モノマー、ビニルエステル系モノマー、マレイミド系モノマー等が挙げられる。
アクリル系モノマーとしては、例えば、炭素数が1~11のアルキル基を有するアルキルアクリレート又は炭素数1~11のアルキル基を有するアルキルメタクリレートが挙げられる。
アルキルアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート等が挙げられる。
アルキルメタクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等が挙げられる。
共役ジエン系モノマーとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられる。
シアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等が挙げられる。
塩素含有モノマーとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
マレイミド系モノマーとしては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
ビニル系単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
グラフト共重合体用のゴム質重合体を製造する場合には、アクリル系モノマー及び共役ジエン系モノマーが好ましく、本実施形態の製造方法では、常温で液状であるアクリル系モノマーがより好ましい。
【0029】
疎水性化合物は、炭素数12以上の炭化水素基を有する有機化合物である。疎水性化合物をビニル系単量体に添加することによって、分散体中において、ビニル系単量体の液状粒子を安定的に分散させることができる。
疎水性化合物としては、例えば、炭素数12以上(例えば炭素数12~35)の炭化水素、炭素数12以上(例えば炭素数12~35)のアルコール、質量平均分子量10000未満の疎水性ポリマー等のラジカル重合不可能な有機化合物;炭素数12~30のアルコールの(メタ)アクリル酸エステルやビニル酢酸エステル、炭素数12~30のアルコールのビニルエーテルやアリルエーテル、炭素数12~30(好ましくは炭素数10~22)のカルボン酸のビニルエステルやアリルエステル、p-アルキルスチレン等のラジカル重合可能な有機化合物;疎水性の連鎖移動剤;疎水性の過酸化物等が挙げられる。疎水性化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併合してもよい。
前記疎水性化合物のなかでも、水中でのビニル系単量体の液状粒子の分散性をより安定化できることから、炭素数12以上の炭化水素、質量平均分子量10000未満の疎水性ポリマーが好ましい。
炭素数12以上の炭化水素としては、例えば、ヘキサデカン、オクタデカン、エイコサン等が挙げられる。
疎水性ポリマーとしては、例えば、流動パラフィン、流動イソパラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、オリーブ油、ポリスチレン、アクリル重合体、ポリブチレングリコール等が挙げられる。
【0030】
乳化剤は、ビニル系単量体を水中で乳化する界面活性剤である。乳化剤の種類は、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれであってもよい。乳化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
グラフト共重合体用のゴム質重合体を製造する場合には、アニオン系界面活性剤が好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸(例えば、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸等)のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられる。
【0031】
予混合液を調製する際には、ビニル系単量体、疎水性化合物及び乳化剤以外の他の化合物を添加してもよい。添加してもよい化合物としては、例えば、架橋剤、重合開始剤等が挙げられる。
架橋剤は、ビニル基を2つ以上有してラジカル重合可能な多官能単量体である。
架橋剤としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ブチレンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、卜リアリルシアヌレート、卜リアリルイソシアヌレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ポリウレタンジ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンジ(メタ)アクリレート、ポリグリセリンポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の総称である。架橋剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
重合開始剤は、ビニル系単量体をラジカル重合させるラジカル重合開始剤である。重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物系重合開始剤、有機過酸化物系重合開始剤、無機過酸化物系重合開始剤等が挙げられる。アゾ化合物系重合開始剤、有機過酸化物系重合開始剤及び無機過酸化物系重合開始剤としては、公知のものを制限なく使用できる。
重合開始剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本態様の乳化物の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法は、上述した製造装置1を用いる方法であり、分散体を調製する分散体調製工程と、前記分散体を処理して乳化物を調製する乳化物調製工程と、を有する。
【0034】
(分散体調製工程)
本実施形態における分散体調製工程は、乳化剤含有液調製工程と、単量体含有液調製工程と、予混合液調製工程と、せん断処理工程と、返送工程と、を有する。
【0035】
[乳化剤含有液調製工程]
乳化剤含有液調製工程は、少なくとも乳化剤と水とを混合して乳化剤含有液を調製する工程である。
本実施形態では、まず、混合槽11の槽本体11aに、乳化剤供給用配管11cによって乳化剤を供給し、水供給用配管11dによって水を供給する。次いで、攪拌機11bを用いて、槽本体11aに供給した乳化剤及び水を攪拌し、混合して乳化剤含有液を得る。
本実施形態における分散体調製工程では、返送工程を有しており、分散体用配管30から分散体が槽本体11aに返送される。分散体が槽本体11aに返送された際には、槽本体11aの内部では、乳化剤、水及び分散体が攪拌されて混合される。本実施形態では、乳化剤及び水に加えて分散体を含む場合も乳化剤含有液という。本実施形態の製造方法を開始した直後では、乳化剤含有液調製工程に分散体が返送されていないため、乳化剤含有液は分散体を含まないが、乳化剤含有液調製工程に分散体が返送されてからは、乳化剤含有液は分散体を含む。
乳化剤含有液は、ポンプ13eが駆動した際に槽本体11aから連続的に抜き出され、乳化剤含有液用配管12を介して予混合液用配管14に移送される。
【0036】
乳化剤含有液調製工程において、乳化剤の添加量は、水100質量部に対して0.002~1.0質量部にすることが好ましく、0.01~0.5質量部にすることがより好ましい。乳化剤の添加量を前記下限値以上にすれば、分散体中でのビニル系単量体の分散性をより向上させることができる。乳化剤の添加量が前記上限値を超えると、水中にビニル系単量体を分散させるのに寄与する量より多くなり、不経済である。
また、乳化剤の添加量は、乳化剤に混合するビニル系単量体100質量部に対して0.01~1.0質量部にすることが好ましく、0.05~0.5質量部にすることがより好ましい。乳化剤の添加量を前記下限値以上にすれば、分散体中でのビニル系単量体の分散性をより向上させることができる。乳化剤の添加量が前記上限値を超えると、水中にビニル系単量体を分散させるのに寄与する量より多くなり、不経済である。
【0037】
[単量体含有液調製工程]
単量体含有液調製工程は、ビニル系単量体と疎水性化合物とを混合して単量体含有液を調製する工程である。
本実施形態における単量体含有液調製工程では、まず、単量体含有液調製槽13aの槽本体13fに、単量体供給用配管13bによってビニル系単量体を供給し、疎水性化合物供給用配管13cによって疎水性化合物を供給する。次いで、攪拌機13gを用いて、槽本体13fに入れたビニル系単量体及び疎水性化合物を攪拌し、混合して単量体含有液を得る。
予混合液に重合開始剤を添加する場合には、単量体含有液調製槽13aの槽本体13fに、重合開始剤用配管によって重合開始剤を供給すればよい。
【0038】
単量体含有液調製工程において、疎水性化合物の添加量は、ビニル系単量体100質量部に対して0.1~10質量部にすることが好ましく、1~3質量部にすることがより好ましい。疎水性化合物の添加量を前記下限値以上にすれば、分散体中においてビニル系単量体の粒子をより安定に分散させることができる。疎水性化合物の添加量が前記上限値を超えると、水中にビニル系単量体を分散させるのに寄与する量より多くなり、不経済である。
予混合液に架橋剤を添加する場合、架橋剤の添加量は、架橋剤とビニル系単量体の合計100質量部に対して0.1~5.0質量部にすることが好ましい。架橋剤の添加量を前記下限値以上にすれば、ビニル系単量体から形成される重合体を充分に架橋できる。しかし、架橋剤の添加量が前記上限値を超えると、重合体の架橋が過剰になり、性能低下を引き起こすことがある。
予混合液に重合開始剤を添加する場合、重合開始剤の添加量は、ビニル系単量体100質量部に対して0.001~5質量部にすることが好ましく、0.001~3質量部にすることがより好ましい。重合開始剤の添加量が前記下限値以上であれば、ビニル系単量体を重合させる際に容易に重合でき、前記上限値以下であれば、乳化物を製造する際のビニル系単量体の重合を抑制できる。
【0039】
また、単量体含有液調製工程では、槽本体13fの内部で調製した単量体含有液を、ポンプ13eを用いて、槽本体13fの底部から単量体含有液用配管13dから連続的に抜き出し、予混合液用配管14に移送する。
【0040】
[予混合液調製工程]
予混合液調製工程は、前記乳化剤含有液と前記単量体含有液とを混合して予混合液を調製する工程である。
本実施形態では、予混合液用配管14の内部にて、乳化剤含有液用配管12により連続的に移送された乳化剤含有液と、単量体含有液用配管13dから連続的に移送された単量体含有液とが合流して、混ざり合う。これにより、乳化剤と水とビニル系単量体と疎水性化合物とを少なくとも含有する予混合液を連続的に調製することができる。予混合液においては、水中に乳化剤とビニル系単量体と疎水性化合物とが秩序なく含まれている。
【0041】
本実施形態の乳化物の製造方法では、後述する返送工程を有するため、予混合液調製工程に送られてくる乳化剤含有液には分散体が含まれている。
分散体が返送されている際には、予混合液調製工程では、分散体を含む乳化剤含有液を、槽本体11aから乳化剤含有液用配管12に通して予混合液用配管14に連続的に移送する。これと同時に、単量体含有液供給用機器13にて調製した単量体含有液を、ポンプ13eを用いて単量体含有液用配管13dを介して予混合液用配管14に連続的に移送する。予混合液用配管14の内部では、分散体を含む乳化剤含有液に、単量体含有液供給用機器13から新たに供給された単量体含有液が追加され、混合される。これにより、分散体を含む乳化剤含有液に、ビニル系単量体及び疎水性化合物が添加された予混合液が調製される。
【0042】
予混合液においては、ビニル系単量体の濃度を0質量%超70質量%以下にすることが好ましく、20質量%以上60質量%以下にすることがより好ましい。予混合液におけるビニル系単量体濃度を20質量%以上にすれば、乳化物におけるビニル系単量体の濃度を高めることができ、実用性を高くできる。予混合液におけるビニル系単量体濃度を70質量%以下にすれば、水中にビニル系単量体の液状粒子が安定に分散した分散体をより容易に調製できる。
予混合液調製工程では、調製した予混合液を、予混合液用配管14に取り付けたポンプ15を用いてせん断処理用ミキサ20に連続的に移送する。
【0043】
[せん断処理工程]
せん断処理工程は、前記予混合液を連続的にせん断処理して分散体を調製する工程である。本実施形態では、せん断処理用ミキサを用いて前記予混合液を連続的にせん断処理する。せん断処理によって、前記予混合液に含まれるビニル系単量体を、水と分離しない程度の粒子、例えば、体積平均粒子径が100~10000nmの粒子になるように液状粒子化する。これにより、乳化剤によって水中にビニル系単量体の液状粒子が分散したエマルション状の分散体を得る。ビニル系単量体の液状粒子の内部には、疎水性化合物が含まれる。なお、本実施形態において、体積平均粒子径は、動的光散乱法により求められる値である。
せん断処理の際のせん断力は、予混合液の組成、予混合液の濃度、予混合液の粘度、せん断処理用ミキサの種類、調製する分散体におけるビニル系単量体の分散状態等に応じて適宜調整すればよい。
せん断処理工程に用いるせん断処理用ミキサ20としては、連続式ホモミキサ及びスタティックミキサの少なくとも一方を用いることが好ましい。連続式ホモミキサ及びスタティックミキサの少なくとも一方は、実用性が高く、前記予混合液を大量にせん断処理でき、分散体を大量に調製することが容易である。
せん断処理は1回のみでもよいし、2回以上でもよい。
【0044】
[返送工程]
本実施形態では、せん断処理工程において得た分散体を乳化物調製工程に送らずに乳化剤含有液調製工程に返送する返送工程を有する。
本実施形態における返送工程の際には、分散体用配管30に取り付けられたバルブ31を全閉にし、返送用配管50に取り付けられたバルブ51を全開にする。これにより、分散体を混合槽11に返送する。
混合槽11の槽本体11aでは、乳化剤供給用配管11cによって新たに供給された乳化剤、及び、水供給用配管11dによって新たに供給された水に、返送された分散体が添加される。乳化剤、水及び分散体が、槽本体11aの内部で攪拌機11bを用いて攪拌されることによって、分散体を含む乳化剤含有液が調製される。
【0045】
返送工程を有すると、分散体を、分散体用配管30、返送用配管50、混合槽11、乳化剤含有液用配管12、予混合液用配管14及びせん断処理用ミキサ20の経路にて循環させることができる。これにより、乳化剤と水とビニル系単量体と疎水性化合物に加えて分散体を含む予混合液を連続的にせん断処理して分散体を調製する分散体調製工程を1回以上繰り返すことができる。分散体調製工程を繰り返すことによって、予混合液中のビニル系単量体の濃度を徐々に高めることができる。予混合液中のビニル系単量体の濃度を徐々に高めることにより、例えば、予混合液中のビニル系単量体の含有量を容易に20質量%以上の高濃度にできる。
返送工程は、予混合液中のビニル系単量体の含有量が目的とする量となった時点で停止する。返送工程を停止した後には、分散体調製工程において調製した分散体を、乳化物調製工程に移送する。
【0046】
(乳化物調製工程)
乳化物調製工程は、分散体調製工程によって調整された分散体を、ホモジナイザ40を用いて処理する工程である。
この乳化物調製工程によって、分散体に含まれるビニル系単量体の液状粒子を、体積平均粒子径が予混合液における体積平均粒子径より小さく且つ1000nm未満になるように微細化し、ミニエマルション化する。これにより、乳化剤によって水中にビニル系単量体の液状粒子が乳化した乳化物を得る。乳化物においても、ビニル系単量体の液状粒子には、疎水性化合物が含まれる。
本実施形態における乳化物調製工程の際には、分散体用配管30に取り付けられたバルブ31を全開にし、返送用配管50に取り付けられたバルブ51を全閉にする。これにより、分散体をホモジナイザ40に移送する。
乳化物調製工程において使用するホモジナイザ40としては、例えば、圧力式ホモジナイザ、超音波式ホモジナイザ等が挙げられる。ホモジナイザ40を用いた分散体の微細化処理は、連続式が好ましいが、バッチ式でもよい。
圧力式ホモジナイザにおいて、分散体に付与する圧力としては特に制限はなく、例えば、1~100MPaとすることができる。
超音波式ホモジナイザにおいて、分散体に付与する超音波振動の振幅としては特に制限はなく、例えば、10~17000μmとすることができる。
【0047】
乳化物調製工程によって乳化物を得た後、得られた乳化物をホモジナイザ40から乳化物用配管60を通して導出し、乳化物貯留槽70の槽本体71に移送する。槽本体71の内部に移送された乳化物においては、ビニル系単量体の液状粒子の合一を防止するために、攪拌機72によって攪拌することが好ましい。
乳化物貯留槽70に貯留された乳化物は、例えば、乳化物貯留槽70から重合槽に移送されて、エマルション状の重合体(ラテックス)の製造に供される。前記乳化物を用いたビニル系単量体の重合はミニエマルション重合となる。
乳化物の重合によってゴム質重合体を得る場合は、そのゴム質重合体を、例えば、グラフト共重合体用のゴム質重合体として使用できる。グラフト共重合体を得る際のグラフト共重合法としては特に制限はなく、公知の方法を適用できる。公知のグラフト共重合法としては、例えば、エマルション状のゴム質重合体の存在下に、グラフト共重合体用のビニル系単量体を添加し、グラフト重合する方法が挙げられる。
【0048】
(作用効果)
本実施形態の製造装置1を用いた乳化物の製造方法では、一旦、前記予混合液を連続的にせん断処理して分散体を調製した後、前記分散体を、ホモジナイザを用いて微細化処理して乳化物を製造する。すなわち、この製造方法では、ビニル系単量体と疎水性化合物と乳化物と水とを含む予混合液を、直接、ホモジナイザを用いて微細化処理しない。本発明者らが調べた結果、本実施形態の製造方法では、乳化物を得るための工程が、ホモジナイザを用いて予混合液を直接処理する場合よりも増えるものの、乳化物の製造を容易に大規模化できる。予混合液を連続的にせん断処理して分散体を調製し、その分散体を、ホモジナイザを用いて処理することにより、ホモジナイザ40による処理の負担を軽減でき、乳化物の大規模製造に適した装置構成になるためである。
それに加えて、本実施形態の乳化物の製造方法は、乳化物の製造における製造時間を短縮でき、エネルギー消費量を容易に削減できるという効果も有する。さらに、本実施形態の乳化物の製造方法によれば、ビニル系単量体の粒子径分布が狭い乳化物を容易に製造できる。
【0049】
本実施形態では、製造装置1が返送用配管50を備えて返送工程を有し、分散体調製工程を1回以上繰り返すため、ビニル系単量体粒子の濃度が高い分散体を容易に調製できる。ビニル系単量体粒子の濃度が高い分散体を微細化処理することによって、ビニル系単量体粒子の濃度が高い乳化物を容易に製造できる。
一般に、ビニル系単量体の濃度を高くすると、ビニル系単量体の中に水が分散した逆相が発生することがあるが、返送工程を有して分散体調製工程を繰り返す本実施形態では、分散体に含まれるビニル系単量体を徐々に追加して増やすことができる。そのため、ビニル系単量体の濃度を高くしても、逆相が発生しにくい。
また、本実施形態では、混合槽11、乳化剤含有液用配管12及び単量体含有液供給用機器13と予混合液用配管14とを備えるため、予混合液を容易に調製でき、実用に適している。
【0050】
(他の実施形態)
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。
例えば、せん断処理によって調製した分散体の一部のみを混合槽に返送し、残りの一部をホモジナイザに供給してもよい。
本発明においては、製造装置が返送用配管を備えず、返送工程を有さなくてもよい。すなわち、乳化剤と水とビニル系単量体と疎水性化合物とを少なくとも含む混合液を1回のみ連続的にせん断処理してもよい。
本発明の製造装置は、混合槽、乳化剤含有液用配管、単量体含有液供給用機器及び予混合液用配管を備えなくてもよく、せん断処理用ミキサに、直接、乳化剤供給用配管、水供給用配管、単量体供給用配管及び疎水性化合物供給用配管を接続してもよい。乳化剤と水とビニル系単量体と疎水性化合物とを連続的にせん断処理用ミキサに供給すれば、せん断処理用ミキサの内部にて、せん断処理前に予混合液を調製できる。しかし、上述した製造装置1を用いた実施形態の製造方法は、予混合液を容易に調整できるため、実用上は、前記実施形態に記載した混合槽、乳化剤含有液用配管、単量体含有液供給用機器及び予混合液用配管を備えることが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 製造装置
10 予混合液調製用機器
11 混合槽
11a 槽本体
11b 攪拌機
11c 乳化剤供給用配管
11d 水供給用配管
11e 攪拌翼
12 乳化剤含有液用配管
13 単量体含有液供給用機器
13a 単量体含有液調製槽
13b 単量体供給用配管
13c 疎水性化合物供給用配管
13d 単量体含有液用配管
13e ポンプ
13f 槽本体
13g 攪拌機
13h 攪拌翼
14 予混合液用配管
15 ポンプ
20 せん断処理用ミキサ
30 分散体用配管
31 バルブ
40 ホモジナイザ
50 返送用配管
51 バルブ
60 乳化物用配管
70 乳化物貯留槽
71 槽本体
72 攪拌機
72a 攪拌翼