IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッカ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-酸化重合インキの乾燥装置及び乾燥方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】酸化重合インキの乾燥装置及び乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 23/04 20060101AFI20230425BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20230425BHJP
   F26B 3/28 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
B41F23/04 B
C09D11/101
F26B3/28
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019038843
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020142391
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】590001717
【氏名又は名称】ニッカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳一
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-017710(JP,A)
【文献】特開2009-149037(JP,A)
【文献】特開2010-095583(JP,A)
【文献】特開2007-056186(JP,A)
【文献】特開昭61-235477(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0139022(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013009135(DE,A1)
【文献】特開2001-158080(JP,A)
【文献】特開平11-228899(JP,A)
【文献】特表2010-540726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 23/04
C09D 11/101
F26B 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾性油としてのキリ油又はアマニ油を含有する酸化重合インキを塗布した紙面の印刷面を酸素濃度30%以上の雰囲気下で、波長254nmを主波長とする紫外線を照射して前記キリ油又はアマニ油のエレオステアリン酸エステル構造を共鳴させて、紫外線照射による増感作用によって酸素雰囲気中で酸素と付加して過酸化物を生じ、分解して酸化重合の乾燥を行うことを特徴とする酸化重合インキの乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の酸素を吸収して酸化重合反応によって乾燥する酸化重合インキの乾燥装置及び乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の酸素を吸収して酸化重合反応によって乾燥する酸化重合インキを用いた印刷がある。この酸化重合インキの主な乾燥方法は、自然乾燥、熱風乾燥、赤外線加熱乾燥、オゾン乾燥、電子線照射乾燥などがある。このうち自然乾燥は、乾燥時間が長く工業的利用には不向きであるため、熱風乾燥、赤外線加熱乾燥、オゾン乾燥、電子線照射乾燥のいずれか1つ又はこれらを組み合わせた方法が主流となっている。特許文献1に開示の酸化重合インキの乾燥方法は、酸素濃度5000ppm以上30%以下の雰囲気中で電子線を照射して乾燥させている。
しかしながら、オゾン乾燥は乾燥時間の短縮化が図れるが、有害なオゾンを発生させる都合上、この排気設備が必須となる。また電子線照射手段は取り扱う資格者が欠かせず、かつ初期導入費用がコスト高となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-158080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、キリ油又はアマニ油を含有する酸化重合インキを短時間かつ低コストで乾燥可能な酸化重合インキの乾燥装置及び乾燥方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するための第1の手段として、乾性油としてのキリ油又はアマニ油を含有する酸化重合インキを塗布した印刷物の印刷面と対向するケーシングと、
前記ケーシング内に取り付けて前記印刷面に向けて紫外線を照射する紫外線照射手段と、前記ケーシング内を酸素雰囲気にする酸素供給手段と、を備え、
前記紫外線照射手段は、波長254nmを主波長とする紫外線を照射して前記キリ油又はアマニ油のエレオステアリン酸エステル構造を共鳴させて、紫外線照射による増感作用によって酸素雰囲気中で酸素と付加して過酸化物を生じ、分解して酸化重合の乾燥を行うことを特徴とする酸化重合インキの乾燥装置を提供することにある。
上記第1の手段によれば、波長254nmを主波長とする紫外線によりキリ油又はアマニ油の乾燥が促進して酸化重合インキを短時間で乾燥させることができる。またオゾンが発生することがなく排気設備が必要ない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための第2の手段として、第1の手段において、前記酸素供給手段は、酸素濃度が30%以上の酸素雰囲気にすることを特徴とする酸化重合インキの乾燥装置を提供することにある。
上記第2の手段によれば、酸化重合に必要な酸素量を供給でき、速やかな乾燥が実現できる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための第3の手段として、第1又は第2の手段において、前記紫外線照射手段は、アマルガムランプであることを特徴とする酸化重合インキの乾燥装置を提供することにある。
上記第3の手段によれば、オゾンを用いることなく乾燥できる。またオゾンの発生がなく作業環境が良く、設備コストの低廉化が図れる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための第4の手段として、乾性油としてのキリ油又はアマニ油を含有する酸化重合インキを塗布した紙面の印刷面を酸素濃度30%以上の雰囲気下で、波長254nmを主波長とする紫外線を照射して前記キリ油又はアマニ油のエレオステアリン酸エステル構造を共鳴させて、紫外線照射による増感作用によって酸素雰囲気中で酸素と付加して過酸化物を生じ、分解して酸化重合の乾燥を行うことを特徴とする酸化重合インキの乾燥方法を提供することにある。
上記第4の手段によれば、波長254nmを主波長とする紫外線によりキリ油又はアマニ油の乾燥が促進して酸化重合インキを短時間で乾燥させることができる。またオゾンが発生することがなく排気設備が必要ない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、波長254nmを主波長とする紫外線によりキリ油又はアマニ油の乾燥が促進して酸化重合インキを短時間で乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の酸化重合インキの乾燥装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の酸化重合インキの乾燥装置及び乾燥方法の実施形態について、図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0012】
[酸化重合インキの乾燥装置10]
図1は本発明の酸化重合インキの乾燥装置の説明図である。本発明の酸化重合インキの乾燥装置10は、キリ油又はアマニ油を含有する酸化重合インキを塗布した紙面の印刷面と対向するケーシング20と、前記ケーシング20内に取り付けて前記印刷面に向けて紫外線を照射する紫外線照射手段30と、前記ケーシング20内を酸素雰囲気にする酸素供給手段40と、を備えている。
本実施形態の酸化重合インキは、組成物に顔料と、樹脂、乾性油、石油系溶剤からなるビヒクルと、被膜強化剤、乾燥促進剤、裏移り防止剤のいずれか1つ以上からなる補助剤を有している。このうち乾性油は不飽和脂肪酸の混合グリセライドからなり、不飽和二重結合が酸化重合反応に寄与している。不飽和度の高い、換言するとヨウ素価が高い油は乾燥が速いことが知られており、本発明ではヨウ素価の高いキリ油(ヨウ素価145~176)又はアマニ油(ヨウ素価168~190)を含有する酸化重合インキを乾燥対象としている。
【0013】
ケーシング20は、搬送手段12で搬送される酸化重合インキを印刷した印刷物14の印刷面と対向する箇所に取り付けている。ケーシング20は、印刷物14の幅長さよりも長く、換言すると幅方向を跨る箱状に形成している。ケーシング20の内部には、紫外線照射手段30と、酸素供給手段40を取り付けている。またケーシング20は、所定濃度の酸素雰囲気となる内部空間を有している。
紫外線照射手段30は、波長254nmを主波長とする紫外線を照射可能とし、本実施形態ではアマルガムランプを適用している。アマルガムランプは、円筒形状の石英管の内部に不活性ガスとアマルガム合金を封入した低圧ランプである。石英管は軸方向の両端に一対の電極を備え、内部に後述するアマルガム合金及び不活性ガスの混合ガスを低圧力で封入している。
アマルガム合金は、水銀と金属の合金であり、本実施形態では一例としてインジウムと水銀の合金を用いている。このようなアマルガム合金は、石英管の端部から中心に向けて所定長さの内壁に2か所溶着している。なお、アマルガム合金を構成する水銀を組み合わせる金属は、インジウムのほかにも波長254nmの紫外線を照射可能であれば、種々の金属を用いることができる。
不活性ガスは、複数の不活性ガスを混合したものであり、本実施形態では、一例としてアルゴンとネオンの混合ガスを用いている。なお、アルゴンガスとネオンガスの混合比は種々の割合に設計変更できる。
【0014】
このような構成のアマルガムランプは、一対の電極間に電圧を印加すると、不活性ガスを放電加熱して、アマルガム合金を溶融し、放電電子がアマルガム合金を励起して、低圧水銀ランプと同様に、波長254nmを主波長とする紫外線を発光し、波長365nmの紫外線をわずかながら発光する。アマルガムランプは、低圧水銀ランプと比べて、長時間照射により加熱されても、紫外線の発光強度が低下して不安定になるなどの影響がなく、安定した紫外線照射を行うことができる。なおかつ紫外線照射中の管面温度が150度と、低圧水銀ランプに比べて低温度を維持でき、排熱手段を用いる必要がない。このとき印刷面の温度は約40度となる。印刷物がフィルム等の場合であっても、変形、劣化のおそれがない。またアマルガムランプはオゾンを発生することがなく、管面温度も低温のためにケーシング20に排気設備を設ける必要がない。
【0015】
酸素供給手段40は、酸素ボンベと供給管と供給ノズルからなり、供給ノズルは搬送手段12の幅方向に亘って配置し、かつ搬送方向に沿って紫外線照射手段30と交互に配置している。本実施形態の酸素供給手段40は、ケーシング20内の酸素濃度が30%以上となるように設定されている。本実施形態の酸素供給手段40は、ケーシング20が内部空間を有する箱状に形成されて排気設備を設けていないため、酸素の供給量を大幅に低減できる。
【0016】
[酸化重合インキの乾燥方法]
上記構成による本発明の酸化重合インキの乾燥方法について、以下説明する。
キリ油又はアマニ油を含有する酸化重合インキを印刷(塗布)した印刷物14が搬送手段12によって、ケーシング20内に搬送されると、ケーシング20内での酸素濃度30%以上の雰囲気下、波長254nmを主波長とする紫外線が照射される。
このとき酸化重合インキに含まれるキリ油又はアマニ油は波長254nmを主波長とする紫外線が照射されることによって、キリ油又はアマニ油のエレオステアリン酸エステル構造が共鳴して、紫外線照射による増感作用によって酸素雰囲気中で酸素と付加して過酸化物を生じる。次に分解して酸化重合の乾燥が行われる。
本実施形態の乾燥方法によれば、波長254nmを主波長とする紫外線照射と、酸素濃度30%以上の雰囲気下で用紙に印刷されたインキの乾燥は、わすか数秒で完全乾燥した。
【0017】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、上記実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
また、本発明は、実施形態において示された組み合わせに限定されることなく、種々の組み合わせによって実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の酸化重合インキの乾燥装置及び乾燥方法は、特に酸化重合インキで印刷された紙、フィルム等の容器、包装製造分野おいて産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0019】
10 酸化重合インキの乾燥装置
12 搬送手段
14 印刷物
20 ケーシング
30 紫外線照射手段
40 酸素供給手段
図1