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特許7267779最適制御装置、最適制御方法及びコンピュータプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】最適制御装置、最適制御方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20230425BHJP
【FI】
G05B13/02 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019038925
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020144468
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 祐太
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
【審査官】仁木 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-102876(JP,A)
【文献】特開2014-135851(JP,A)
【文献】特開2017-033104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/00 - 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく値であって前記制御対象プロセスの最適化に関する評価対象となる値である評価量とに基づいて、前記評価量が最適値に近づくように前記操作量を更新する極値制御を実行する極値制御部と、
前記極値制御において前記操作量の信号に作用することにより前記操作量を変化させるディザー信号を出力するディザー信号出力部と、
前記操作量及び前記評価量の測定結果に基づいて推定される関数であって前記操作量と前記評価量との関係を表す評価関数の勾配と、前記ディザー信号の振幅と、の対応関係を表す振幅関数に基づいて、前記ディザー信号の振幅の大きさを決定する振幅決定部と、
を備え、
前記振幅関数は、前記勾配の入力に対して、前記勾配に応じて定まる出力値であって予め設定された上限値以下に定まる前記出力値を前記ディザー信号の振幅の大きさとして出力する、
最適制御装置。
【請求項2】
前記振幅関数は、前記上限値を与える勾配値まで前記振幅の大きさを単調増加させ、前記勾配値以降では前記振幅の大きさを前記上限値とする関数によって表される、
請求項1に記載の最適制御装置。
【請求項3】
前記振幅関数は、前記ディザー信号の振幅の大きさを前記上限値以下の一定値として出力する勾配の範囲を複数有する、
請求項1又は2に記載の最適制御装置。
【請求項4】
前記振幅関数を変更する操作の入力を受け付ける入力部と、
前記入力に応じて前記振幅関数の設定情報を更新する設定更新部と、
をさらに備える請求項1から3のいずれか一項に記載の最適制御装置。
【請求項5】
コンピュータが、
制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく値であって前記制御対象プロセスの最適化に関する評価対象となる値である評価量とに基づいて、前記評価量が最適値に近づくように前記操作量を更新する極値制御を実行する極値制御ステップと、
前記極値制御において前記操作量の信号に作用することにより前記操作量を変化させるディザー信号を出力するディザー信号出力ステップと、
前記操作量及び前記評価量の測定結果に基づいて推定される関数であって前記操作量と前記評価量との関係を表す評価関数の勾配と、前記ディザー信号の振幅と、の対応関係を表す振幅関数に基づいて、前記ディザー信号の振幅の大きさを決定する振幅決定ステップと、
実行する最適制御方法であって、
前記振幅関数は、前記勾配の入力に対して、前記勾配に応じて定まる出力値であって予め設定された上限値以下に定まる前記出力値を前記ディザー信号の振幅の大きさとして出力する、
最適制御方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から4のいずれか一項に記載の最適制御装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、最適制御装置、最適制御方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラント等のリアルタイム制御を実現する方法の1つとして極値制御が注目されている。極値制御は、意図的な変化を与えた操作量に対する制御量の応答を観測し、その制御量に係る評価量が最適値に近づくように操作量を更新していくことで、最適な操作量を探索していく制御方法であり、制御対象のプロセス(以下「制御対象プロセス」という。)を記述した複雑なモデルを用いることなく制御対象の操作量を制御することができるモデルフリーの最適制御技術である。
【0003】
一方で、操作量に意図的な変化を与えることは制御量を不安定にさせる可能性があるため、プラント等を安定的に運用するという観点からは、操作量に与えた変化によって生じる制御量の変動を可能な限り抑制したいというニーズがある。従来、このような課題を解決するために極値制御に対する種々の改良が試みられているが、必ずしも十分な抑制効果を得られるに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-033104号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】W,Libin, C,Chen, Z,Hui, A Novel Fast Extremum Seeking Scheme Without Steady-State Oscillation. Proceedings of the 33rd Chinese Control Conference, July 28-30, 2014, Nanjing, China.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、より安定した極値制御を実現することができる最適制御装置、最適制御方法及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の最適制御装置は、極値制御部と、ディザー信号出力部と、振幅決定部と、を持つ。極値制御部は、制御対象プロセスの操作量と、前記操作量に応じて変化する制御量に基づく値であって前記制御対象プロセスの最適化に関する評価対象となる値である評価量とに基づいて、前記評価量が最適値に近づくように前記操作量を更新する極値制御を実行する。ディザー信号出力部は、前記極値制御において前記操作量の信号に作用することにより前記操作量を変化させるディザー信号を出力する。振幅決定部は、前記操作量及び前記評価量の測定結果に基づいて推定される関数であって前記操作量と前記評価量との関係を表す評価関数の勾配と、前記ディザー信号の振幅と、の対応関係を表す振幅関数に基づいて、前記ディザー信号の振幅の大きさを決定する。前記振幅関数は、前記勾配の入力に対して、前記勾配に応じて定まる値であって予め設定された上限値以下の値を前記ディザー信号の振幅の大きさとして出力する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態において、従来の極値制御コントローラの第1の構成例を示す図。
図2】第1の実施形態において、従来の極値制御コントローラの第1の動作例を示す図。
図3】第1の実施形態において、従来の極値制御コントローラの第2の構成例を示す図。
図4】第1の実施形態において、従来の極値制御コントローラの第2の動作例を示す図。
図5】第1の実施形態の極値制御コントローラの機能構成の具体例を示す図。
図6】第1の実施形態における振幅関数の具体例を示す図。
図7】第1の実施形態の極値制御コントローラの動作例を示す図。
図8】第1の実施形態において、第1の適用例における水処理プロセスの構成例を示す図。
図9】第1の実施形態において、第2の適用例における返送率制御装置によって得られる効果の具体例を示す図。
図10】第2の実施形態の極値制御コントローラの機能構成の具体例を示す図。
図11】第2の実施形態における振幅関数の具体例を示す図。
図12】第3の実施形態の極値制御コントローラの機能構成の具体例を示す図。
図13】第3の実施形態における振幅関数の具体例を示す図。
図14】第3の実施形態の極値制御コントローラによって改善しうる従来方式の極値制御の動作例を示す図。
図15】第4の実施形態の極値制御コントローラの機能構成の具体例を示す図。
図16】第4の実施形態における振幅関数の第1の具体例を示す図。
図17】第4の実施形態において、複数の極値を持つ評価関数の具体例を示す図。
図18】第4の実施形態における振幅関数の第2の具体例を示す図。
図19】第5の実施形態の極値制御コントローラの機能構成の具体例を示す図。
図20】第5の実施形態の極値制御コントローラの動作例を示す図。
図21】第5の実施形態の極値制御コントローラの動作例を示す図。
図22】第5の実施形態の極値制御コントローラの動作例を示す図。
図23】第5の実施形態の極値制御コントローラの動作例を示す図。
図24】第5の実施形態の極値制御コントローラの動作例を示す図。
図25】第5の実施形態の極値制御コントローラの動作例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の最適制御装置、最適制御方法及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
[概略]
図1は、従来の極値制御コントローラの第1の構成例を示す図である。極値制御の基本的な概念は、操作量を意図的に変化させたときの制御量の応答を観測し、観測された制御量に基づく評価量が最適値に近づくように操作量を更新していくことで、評価量の最適値を与える最適な操作量を探索していく制御方法である。ここで、評価量とは、極値制御において最適化の評価対象となる値であり、制御量に基づく評価関数によって決定される値である。この意味では、評価量は制御量そのものであってもよい。すなわち、換言すれば、極値制御は、操作量の更新と評価量の観測とを繰り返すことによって、制御点を、評価量が最適化される評価関数の極値点に近づけていく制御方法であると言うことができる。
【0011】
また、上述のとおり、極値制御では、新たな操作量が評価量の観測値に基づいて決定される。より詳細には、極値制御では、評価関数は、操作量及び評価量の観測値に基づいて推定される。そのため、極値制御においては、操作量と評価量との関係性を示す制御モデルは必ずしも必要ない。これはすなわち、評価関数が操作量に対して未知の関数であるようなプロセスをも極値制御の対象になりうるということである。そのため、極値制御は、あらゆるプロセスの自動制御を実現することができる可能性のある技術として近年注目されている。図1は、このような極値制御を実現する極値制御コントローラ1の基本的な構成を図示したものである。
【0012】
なお、図1における制御対象プロセスTPは、極値制御コントローラ1から操作量を示す信号(以下「操作量信号」という。)uを入力し、その入力に応じて評価量を示す信号(以下「評価量信号」という。)yを出力するuに対して未知の評価関数y=f(u)として機能する任意のプロセスを表す。
【0013】
具体的には、極値制御コントローラ1は、ハイパスフィルタ11(High-Pass Filter)、ディザー信号発生器12(ディザー信号出力部の一例)、乗算器13、ローパスフィルタ14(Low-Pass Filter)、積分器15、増幅器16及び加算器17を備える。ハイパスフィルタ11は、制御対象プロセスTPから入力した評価量信号にフィルタ処理を施して乗算器13に出力する。ディザー信号発生器12は、ディザー信号を生成して乗算器13及び増幅器16に出力する。乗算器13は、ハイパスフィルタ11の出力信号とディザー信号とを乗算してローパスフィルタ14に出力する。ローパスフィルタ14は、乗算器13の出力信号にフィルタ処理を施して積分器15に出力する。積分器15は、ローパスフィルタ14の出力信号を積分した信号を加算器17に出力する。増幅器16は、ディザー信号を増幅して加算器17に出力する。加算器17は、積分器15の出力信号と、増幅器16の出力信号とを加算した信号を操作量信号uとして制御対象プロセスTPに出力する。
【0014】
このように構成される極値制御コントローラ1において、ハイパスフィルタ11は、フィードバックされた評価量信号からその最適値に応じた一定値のバイアスを除去する役割を持つ。また、ディザー信号発生器12は操作量に対して意図的な変化を与え、評価量を操作量に応じて変化させる役割を持つ。ローパスフィルタ14は、ディザー信号が掛け合わされた評価量信号から低周波成分を抽出する役割を持つ。これにより、評価量が操作量の変化によって増加したのか又は減少したのかが分かる。積分器15は、ローパスフィルタ14によって抽出された評価量信号の低周波成分を積分することにより、評価量を評価関数の最適値に近づけるために動かすべき操作量の方向を決定する役割を持つ。
【0015】
図2は、従来の極値制御コントローラの第1の動作例を示す図である。図2は、評価量の最適値を与える操作量(以下「操作量の最適値」という。)が1である場合に、操作量の初期値を2として操作量の最適値を探索したシミュレーション結果を示す。図2の結果から、基本的な極値制御の手法では、操作量の値が初期値の2から最適値の1に収束していく一方で、操作量が最適値に収束した後も振動し続けていることが分かる。これは、基本的な構成の極値制御では、ディザー信号の振幅が常に一定であることによる。この場合、操作量が最適値に収束した後も評価量が増減を繰り返すことになるため好ましくない。
【0016】
このような基本的な構成の極値制御に対して、ディザー信号の振幅を制御対象プロセスの状態に応じて変化させる手法が提案されている(例えば非特許文献1参照)。
【0017】
図3は、従来の極値制御コントローラの第2の構成例を示す図である。極値制御コントローラ2は、ローパスフィルタ14に代えてローパスフィルタ21を備える点、増幅器16に代えて増幅部22を備える点で第1の構成例に係る従来の極値制御コントローラ1と異なる。増幅部22は、ローパスフィルタ221、振幅決定部222及び乗算器223を備える。このように構成された第2の構成例に係る従来の極値制御コントローラ2は、増幅部22が評価量の増加速度(すなわち評価関数の勾配)が大きくなるほどより大きな振幅となるようにディザー信号を増幅することにより、収束期における操作量の振れ幅を小さくすることができる。
【0018】
図4は、従来の極値制御コントローラの第2の動作例を示す図である。図4は、図2と同様の制御対象プロセスの操作量の最適値を図2と同様の条件で探索したシミュレーション結果を示す。図4の結果から、第2の構成例に係る従来の極値制御では、操作量が最適値に収束していくにつれて操作量の振れ幅も小さくなっていくことが分かる。しかしながら、その一方で、探索開始直後から操作量がある程度収束するまでの過渡期において操作量の振れ幅が大きくなっている。この場合、操作量が収束するまでの過渡期において評価量も大きく増減することになるため好ましくない。
【0019】
これに対して第1の実施形態の極値制御コントローラは、ディザー信号による操作量の振動を、収束期、過渡期によらず抑制することができる。以下、第1の実施形態の極値制御コントローラについて詳細に説明する。
【0020】
[詳細]
図5は、第1の実施形態の極値制御コントローラ3の機能構成の具体例を示す図である。極値制御コントローラ3は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。極値制御コントローラ3は、プログラムの実行によって、制御対象プロセスTPを極値制御によって制御する最適制御装置として機能する。具体的には、極値制御コントローラ3は、グラジエント法に基づく極値制御コントローラであり、グラジエント法に基づく極値制御部30として、ハイパスフィルタ11、乗算器13、ローパスフィルタ31、積分器15及び加算器17を備える。なお、極値制御コントローラ3は、ローパスフィルタ14に代えてローパスフィルタ31を備える点、増幅器16に代えて増幅部32を備える点で基本的な極値制御の構成と異なる。それ以外の構成は基本的な極値制御の構成と同様であるため、同様の構成については図1と同じ符号を付すことに図5での説明を省略する。
【0021】
また、極値制御コントローラ3の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0022】
増幅部32は、ローパスフィルタ321、振幅決定部322及び乗算器323を備える。ローパスフィルタ321は、乗算器13の出力信号にフィルタ処理を施して振幅決定部322に出力する。振幅決定部322は、ローパスフィルタ321の出力信号に基づいてディザー信号の振幅の大きさを決定する機能を有する。具体的には、振幅決定部322は、評価量の増加速度(すなわち評価関数の勾配η)とディザー信号の振幅Aとの関係を示す関数(以下「振幅関数」という。)を用いてディザー信号の振幅の大きさを決定する。より詳細には、振幅決定部322は、評価量の増加速度が所定値以下である場合には、評価量の増加速度が大きいほど振幅を大きくし、評価量の増加速度が所定値を超えた場合には、振幅を一定の大きさに保つように振幅の大きさを決定する。乗算器323は、振幅決定部322の出力信号とディザー信号とを掛け合わせることにより、振幅決定部322が決定した大きさの振幅となるようにディザー信号を増幅する。
【0023】
図6は、第1の実施形態における振幅関数の具体例を示す図である。図6に示すグラフの横軸は評価関数の勾配η(評価量の増加速度)を表し、縦軸はディザー信号の振幅Aを表す。ここで、評価関数の勾配ηは、ローパスフィルタ321の出力信号によって与えらえる。この場合、振幅決定部322は、勾配ηが閾値ηlim以下である場合には振幅Aを勾配ηに比例して増減させ、勾配ηが閾値ηlimを超えた場合には振幅Aを上限値Amaxに固定する。すなわち、振幅決定部322は、勾配ηが閾値以下である場合には可変振幅方式でディザー信号の振幅を決定し、勾配ηが閾値を超えた場合には固定振幅方式でディザー信号の振幅を決定する。
【0024】
図7は、第1の実施形態の極値制御コントローラ3の動作例を示す図である。図7は、図2と同様の制御対象プロセスの操作量の最適値を図2と同様の条件で探索したシミュレーション結果を示す。図7から明らかなように、第1の実施形態の極値制御コントローラ3は、過渡期及び収束期の両方で操作量の振動を抑制できることが分かる。
【0025】
このように構成された第1の実施形態の極値制御コントローラ3によれば、評価量の増加速度が大きい場合にはディザー信号の振幅が上限値以上に大きくならないようにすることで過渡期における操作量の振動を抑制することができる。また、一方で、評価量の増加速度が小さい場合には評価量の増減とともにディザー信号の振幅を増減させることで収束期における操作量の振動を抑制することができる。
【0026】
また、第1の実施形態の最適制御方法によれば、ディザー信号の振幅を可変値とする範囲と固定値とする範囲とを、評価関数の勾配ηの閾値ηlimによって定めることができ、多くのパラメータの調整を必要としない。そのため、構成や設計等が複雑化することを抑制しつつ、かつ制御対象プロセスを安定的に稼働させることが可能となる。
【0027】
なお、第1の実施形態において評価関数の勾配ηについて設定すべき閾値ηmaxは、ディザー信号の振幅Amaxによって定まるが、この振幅Amaxや、極値制御に関する諸パラメータ(例えば、ディザー信号の周波数ω、ローパスフィルタのカットオフ周波数ω、ハイパスフィルタのカットオフ周波数ω、積分器のゲインKIなどであり、以下「極値制御パラメータ」という。)は、制御対象プロセスの特性に基づいて適切に決定されれば、従来提案されているどのような指針に基づいて決定されてもよい(例えば特許文献1参照)。
【0028】
以下、第1の実施形態の極値制御コントローラ3を水処理プロセスの制御に適用した例について説明する。
【0029】
(第1の適用例)
図8は、第1の適用例における水処理プロセスの構成例を示す図である。例えば、図8に示す水処理システム400は、生物学的廃水処理プロセスを実現するシステムの一例であり、最初沈澱池41、生物反応槽42、最終沈澱池43、濾過池44の順に被処理水を送る過程で被処理水を浄化するシステムである。
【0030】
水処理システム400において、まず、被処理水は最初沈澱池41に送られる。最初沈澱池41では、沈澱処理による被処理水の固液分離が行われる。これにより比重の大きな固形物が被処理水から分離され、その上澄み液が後段の生物反応槽42に送られる。最初沈澱池41の底部に沈澱した汚泥は汚泥引き抜きポンプ411によって適宜引き抜かれ、余剰汚泥として余剰汚泥貯留槽45に送られる。余剰汚泥貯留槽45に送られた余剰汚泥は汚泥処理ポンプ451によって図示しない汚泥処理工程に送られ、処理される。
【0031】
生物反応槽42では、微生物の働きを利用して被処理水に含まれる不要物の分解及び除去が行われる。具体的には、生物反応槽42では、被処理水中の有機物の分解やリンの除去、アンモニアの消化、窒素の除去等の処理が行われる。また、これらの処理を促進させるため、生物反応槽42には、槽内の被処理水に空気を供給するブロア421や、最終沈澱池43の余剰汚泥の一部(以下「返送汚泥」ともいう。)を生物反応槽42に返送する返送汚泥ポンプ422が備えられる。ブロア421による空気の供給により被処理水中の好気微生物が活性化され、余剰汚泥の返送により生物反応槽42内の微生物量が必要量に維持される。生物反応槽42で処理された被処理水は後段の最終沈澱池43に送られる。
【0032】
最終沈澱池43では最初沈澱池41と同様に沈澱処理による被処理水の固液分離が行われる。これにより活性汚泥等の固形物が被処理水から程度分離され、その上澄み液が後段の濾過池44に送られる。また、最終沈澱池43には、余剰汚泥を適宜引き抜いて余剰汚泥貯留槽45に送る余剰汚泥ポンプ431が備えられる。
【0033】
濾過池44では膜を用いた被処理水の濾過処理が行われる。これにより最終沈澱池43で分離することができなかった細かい固形物が被処理水から分離される。濾過処理を経た被処理水は浄化処理を完了した処理済みの水(以下「処理水」という。)として、例えば河川等に放流される。
【0034】
このような生物学的廃水処理プロセスにおいては、ブロア421による被処理水の曝気風量を操作量とし、処理水の水質(例えば処理水の窒素濃度又はリン濃度など)を制御量とする制御が行われるのが一般的である。この場合、第1の実施形態の極値制御コントローラ3は、処理水の水質に基づく評価量を入力し、その評価量を評価関数の最適値(ここでは最小値)に近づけるような曝気風量を操作量として出力する曝気風量制御装置5として適用することができる。
【0035】
この場合、評価関数は、例えば処理水の窒素濃度及びリン濃度の関数として定義することができる。このような評価関数に基づいて操作量の最適値を探索する場合、評価関数は曝気風量の上限値から下限値までの範囲内で与えられる操作量に対して少なくとも1つの極値を持つように設定される必要がある。このような評価関数の設定方法の一例として、排水賦課金の考え方に基づく水質コストと、返送汚泥ポンプ422の電力コストと、ブロア421の電力コストとの総和(以下「総コスト」という。)として評価量を定義する方法が考えられる。
【0036】
返送汚泥ポンプ422及びブロア421の電力コストは、返送汚泥の流量と返送汚泥ポンプ422とブロア421の定格電力などから算出することができる。一方、処理水の窒素濃度及びリン濃度は、返送汚泥の返送流量(又は返送率)やブロア421による曝気風量を変更することで大きく変化することが知られている。そこで、水質コストは、処理水中の全窒素による水質コスト(TNコスト)と、処理水中の全リンによる水質コスト(TPコスト)と和として、例えば次の式(1)で表すことができる。
【0037】
【数1】
【0038】
なお、曝気風量を増加させると窒素の除去率が向上してTNコストが減少し、逆に曝気風量を減少させるとリンの除去率が向上してTPコストが減少する。この場合、電力コストの最小化は必ずしも被処理水の水質を維持することにつながらない。そのため、このような場合には、評価関数は水質コストを総コストとする関数として定義されてもよい。
【0039】
一方、水質コスト間に上記のようなトレードオフの関係がない場合には、総コストに電力コストを含めて最適値を探索することにより、評価関数が曝気風量の上限値から下限値までの範囲内で与えられる操作量に対して少なくとも1つの極値を持つように設定することができる。
【0040】
また、評価関数には、処理水が満たすべき水質が制約条件として組み込まれてもよい。例えば、評価関数には、処理水の水質が所定の規制値を超えた場合に総コストを増大させる関数が制約条件として組み込まれてもよい。このような評価関数を用いた場合、水質が規制値を超えたことに応じて総コストが増大することになるため、極値制御が水質を規制値以下に抑えるように機能することが期待できる。
【0041】
なお、上記の特許文献1にも記載されているが、ディザー信号の周期(すなわちω/2π)は制御対象プロセス(ここでは水処理プロセス)の時定数よりも十分に長く設定されることが望ましい。これにより、ディザー信号による操作量の変化に起因して発生した評価量の変化をより正確に捉えることが可能になる。
【0042】
また、簡単のため、図8では評価量を取得して曝気風量制御装置5に出力する評価量出力部51を、曝気風量制御装置5とは別体の一の機能部として示したが、評価量出力部51は、曝気風量制御装置5の一部として構成されてもよい。
【0043】
(第2の適用例)
また、別の適用例として、第1の実施形態の極値制御コントローラ3を水処理システム400における返送汚泥ポンプ422の制御に適用することも可能である。上述のとおり、水処理システム400では、TNコストとTPコストとが微生物の処理能力に関してトレードオフの関係にあるが、微生物の処理能力は曝気風量のみならず、微生物の量によっても左右される。そのため、TNコストとTPコストとは、最終沈澱池43から生物反応槽42に戻される返送汚泥の量に関してもトレードオフの関係にある。そこで、生物反応槽42に流入する被処理水の量に示す返送汚泥の量(以下「返送率」という。)を操作量とした場合においても、第1の変形例と同様に、総コストが操作量の取り得る範囲内で少なくとも1つの最小値をとるように評価関数を定義することができる。
【0044】
この場合、第1の実施形態の極値制御コントローラ3は、処理水の水質に基づく評価量を入力し、その評価量(総コスト)を評価関数の最適値(ここでは最小値)に近づけるような返送率を操作量として出力する返送率制御装置(図示せず)として適用することができる。
【0045】
図9は、第2の適用例における返送率制御装置によって得られる効果の具体例を示す図である。図9(A)は第2の構成例に係る従来方式の極値制御コントローラによって得られた制御結果の例を表し、図9(B)は本実施形態の極値制御コントローラによって得られた制御結果の例を表す。いずれの場合も、制御開始時点において約0.9であった返送率が約0.2に収束した例を示している。これらの動作例を見ても分かるように、適用例の返送率制御装置は、過渡期及び収束期の両方において、操作量の振れ幅が過度に大きくなることを抑制することができている。特に、収束期においてはゼロに近い振れ幅を実現することができており、収束期だけを見ても従来の極値制御方式より高い抑制効果を奏することが分かる。
【0046】
生物学的廃水処理プロセスにおいて、返送率は処理水の水質を大きく変動させる要因の一つである。そのため、過渡期又は収束期における操作量の振れ幅が大きい従来の極値制御方法では、処理水の水質を返送率の極値制御によって管理することが難しい場合があった。これに対して第1の実施形態の極値制御コントローラ3は、過渡期及び収束期の両方において、操作量の振れ幅が過度に大きくなることを抑制することができるため、返送率の制御に極値制御を適用した場合であっても、生物学的廃水処理プロセスを安定的に稼働させることが可能となる。
【0047】
以上、第1の実施形態の適用例として、曝気風量を操作量とする第1の適用例と、余剰汚泥の返送率を操作量とする第2の適用例を説明したが、生物学的廃水処理プロセスにおける操作量を曝気風量又は返送率に限定するものではい。また、説明した2つの適用例は、第1の実施形態の極値制御コントローラ3の適用先となる制御対象プロセスを生物学的廃水処理プロセスに限定するものではない。第1の実施形態の極値制御コントローラ3は、操作量に対する未知の評価関数が操作量の取り得る範囲において極値を持つプロセスであれば、どのようなプロセスでも制御対象プロセスとすることができ、どのような操作量でも操作の対象とすることができる。
【0048】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態の極値制御コントローラ3aの機能構成の具体例を示す図である。極値制御コントローラ3aは、増幅部32に代えて増幅部32aを備える点で第1の実施形態の極値制御コントローラ3と異なる。また、増幅部32aは、振幅決定部322に代えて振幅決定部322aを備える点で第1の実施形態における増幅部32と異なる。それ以外の構成は第1の実施形態の極値制御コントローラ3の構成と同様であるため、同様の構成については図5と同じ符号を付すことに図10での説明を省略する。
【0049】
振幅決定部322aは、第1の実施形態における振幅決定部322が所定値を超える勾配ηに対してはディザー信号の振幅を固定値(上限値)とする一方で、所定値以下の勾配ηに対してはディザー信号の振幅を勾配ηに比例する可変値としたのに対し、振幅の上限値Amaxを上界とする飽和関数を用いてディザー信号の振幅の大きさを決定する点で第1の実施形態における振幅決定部322と異なる。なお、飽和関数は、上限値Amax以下の値を上界とするものであればよく、必ずしも上限値Amaxを上界とする必要はない。
【0050】
図11は、第2の実施形態における振幅関数の具体例を示す図である。例えば、図11に示す飽和関数F(η)は、A=Alimに上界を持つシグモイド関数であり、次の式(2)によって表される。ここでAはディザー信号の振幅を表す。
【0051】
【数2】
【0052】
このようなシグモイド関数を用いることにより、ηが小さいときにはディザー信号の振幅を大きく変動させ、またηが大きいときには上界値Alimに近い大きさにディザー信号の振幅を維持することができる。
【0053】
また、飽和関数を以下の式(3)のように定義することにより、勾配ηの絶対値を式(2)に適用することができるため、ディザー信号の振幅を常に正値に保つことが可能となる。これにより、ディザー信号の振幅が負値となった場合に探索方向が変更されてしまうことを防ぎ、制御が不安定化するのを抑制することが可能になる。
【0054】
【数3】
【0055】
このように構成された第2の実施形態の極値制御コントローラ3aによれば、過渡期及び収束期の両方で操作量の振動を抑制できることに加え、過渡期と収束期と境界付近における操作量の振動を第1の実施形態よりもさらに抑制できることが期待できる。
【0056】
なお、この効果は、振幅決定部322aが、勾配ηに応じて滑らかに変化する飽和関数を用いてディザー信号の振幅を決定することによるものである。その意味で、飽和関数は、振幅の上限値Alimを上界とし、評価量の増加速度(すなわち評価関数の勾配η)が小さいほど勾配が大きく、かつ評価量の増加速度が大きいほど勾配がゼロに近づく(すなわち上界に漸近する)ような関数であって、勾配ηに対して滑らかに変化する振幅Aを決定する関数であれば、必ずしもシグモイド関数である必要はない。例えば、飽和関数は、複数の関数を滑らかかつ上記の条件を満たすように接合した関数であってもよい。
【0057】
(第3の実施形態)
図12は、第3の実施形態の極値制御コントローラ3bの機能構成の具体例を示す図である。極値制御コントローラ3bは、増幅部32に代えて増幅部32bを備える点で第1の実施形態の極値制御コントローラ3と異なる。また、増幅部32bは、振幅決定部322に代えて振幅決定部322bを備える点で第1の実施形態における増幅部32と異なる。それ以外の構成は第1の実施形態の極値制御コントローラ3の構成と同様であるため、同様の構成については図5と同じ符号を付すことに図12での説明を省略する。
【0058】
振幅決定部322bは、評価量の増加速度(評価関数の勾配η)が所定値以下である場合には、評価量の増加速度が大きいほど振幅を大きくし、評価量の増加速度が所定値を超えた場合には、振幅を一定の大きさに保つように振幅の大きさを決定する点では第1の実施形態における振幅決定部322と同様であるが、所定値以下の勾配ηについては複数の単調増加関数を用いてディザー信号の振幅の大きさを決定することができる点で第1の実施形態における振幅決定部322と異なる。具体的には、振幅決定部322bは、所定値以下の勾配ηについて振幅の大きさを決定する第1決定部3221と、所定値を超える勾配ηについて振幅の大きさを決定する第2決定部3222と、を備える。
【0059】
図13は、第3の実施形態における振幅関数の具体例を示す図である。例えば、第3の実施形態における振幅関数は、図13に示すようなn次関数(n>0)と0次関数との接合関数F(η)として与えられる。この振幅関数F(η)は例えば以下の式(4)によって表される。式(4)は、べき指数P(>0)及び係数r(>0)によって規定されるP次関数F1と0次関数F2とをη=1において接合したものである。図13は、Pの値が1、P1、P2である場合の例を示している。ここで、P1>1であり、0<P2<1である。
【0060】
【数4】
【0061】
このように定義した振幅関数F(η)は、P=1の場合には第1の実施形態と同様の振幅関数となる一方で、0<P<1の場合には可変領域(0≦η≦ηlim)における振幅の大きさを対数関数的に増加させ、P>1の場合には可変領域における振幅の大きさを指数関数的に増加させる関数となる。このため、可変領域における振幅の大きさは、0<P<1ときはP=1の場合よりも大きくなり、P>1のときにはP=1の場合よりも小さくなる。
【0062】
この場合、第1決定部3221が0≦η≦ηlimの範囲のηについて、第2決定部3222がηlim<ηの範囲のηについて、それぞれディザー信号の振幅の大きさを決定することにより、振幅決定部322bは、全体としては、任意の値のηについてディザー信号の振幅の大きさを1つ決定するように機能する。
【0063】
図14は、第3の実施形態の極値制御コントローラ3bによって改善しうる従来方式の極値制御の動作例を示す図である。第1の実施形態又は第2の実施形態では、図6図11に示したような振幅関数を用いてディザー信号の振幅を決定することにより、過渡期及び収束期の両方において操作量の振動を抑制できることについて説明したが、極値制御パラメータの設定状況や制御対象プロセスの状態などによっては、操作量の振動が必ずしも十分に抑制されない場合がある。このような状況は、ディザー信号の振幅が変化する速度と、評価量が最適値に収束する速度(以下「収束速度」という。)とのバランスが取れていないことによって発生するものと考えられる。
【0064】
[ケース1]
例えば、図14(A)に示すように、操作量が最適値(ここでは1)に収束する前に振幅の大きさがゼロに近くなってしまい、最適値の探索がそれ以上進まなくなってしまう状況が発生する場合がある。そして、このような状況はディザー信号の振幅が縮小する速度(以下「振幅縮小速度」という。)が、評価量の収束速度に対して速すぎるために発生するものと考えられる。
【0065】
そのため、このような場合には、収束点(すなわちη=0)から離れた領域(例えばηlim/2<η<ηlimの領域)における振幅縮小速度を遅くすることで、可変振幅領域におけるディザー信号の振幅をより大きくするように振幅関数を変更すればよい。例えば、図6に示した振幅関数(図13のP=1の場合に相当)でこの問題が発生した場合には、可変振幅領域(すなわち0<η<ηlim)の1次関数を上に凸のP次関数(0<P<1)に変更することによってディザー信号の振幅を大きくすることができる。
【0066】
[ケース2]
一方で、図14(B)に示すように、操作量が最適値に収束したにも関わらず操作量に振動が残ってしまう状況が発生する場合もある。このような状況は、図14(A)の場合とは逆に、ディザー信号の振幅縮小速度が、評価量の収束速度に対して遅すぎるために発生するものと考えられる。そのため、このような場合には、収束点から離れた領域(例えばηlim/2<η<ηlim)における振幅縮小速度を速くすることで、可変振幅領域におけるディザー信号の振幅をより小さくするように振幅関数を変更すればよい。例えば、図6に示した振幅関数(図13のP=1の場合に相当)でこの問題が発生した場合には、可変振幅領域(すなわち0<η<ηlim)の1次関数を下に凸のP次関数(1<P)に変更することによってディザー信号の振幅を小さくすることができる。
【0067】
なお、ここでは第1の実施形態における振幅関数をP=1のP次関数として式(4)のように定義し、そのべき指数Pを変更することによって振幅関数を変更する場合について説明したが、可変振幅領域について以下の条件を満たす関数であれば、変更後の振幅関数は他のどのような関数に置き換えられてもよい。
【0068】
[ケース1の場合]
・上に凸の関数(換言すれば二階微分値が負の値となる関数)である。
・振幅の上限値以下で単調増加する関数である。
[ケース2の場合]
・下に凸の関数(換言すれば二階微分値が正の値となる関数)である。
・振幅の上限値以下で単調増加する関数である。
【0069】
このように構成された第3の実施形態の極値制御コントローラ3bは、ディザー信号の振幅の大きさを決定する際に用いる振幅関数を変更することができるように構成される。このような極値制御コントローラ3bによれば、制御対象プロセスの運転管理者は、最適値の探索状況や操作量の振動の状況等に応じて振幅関数を切り替えることで、ディザー信号の振幅が変化する速度と、評価量の収束速度とのバランスを調整することができるため、極値制御の探索可能性を向上させるとともに、ディザー信号による操作量の振動を、より効果的に抑制することが可能となる。
【0070】
また、制御対象プロセスの運転管理者は、上記のケース1やケース2のように極値制御が適切に機能しない状況が発生した場合には、適切な制御条件を試行錯誤により見出さなければならない場合もある。そして、このような作業は、極値制御パラメータの再設計や試験等を伴うため、非常に負荷が高い作業となる。これに対して、第3の実施形態の極値制御コントローラ3bは、極値制御パラメータの変更までは必要とせずに、振幅関数を変更するのみで極値制御の挙動を微調整することができる。そのため、第3の実施形態の極値制御コントローラ3bによれば、制御対象プロセスの運転管理や極値制御の設計等に係る労力を低減することも可能になる。
【0071】
なお、第3の実施形態では、第1の実施形態における振幅関数(図6参照)を例にとり、その変更方法について説明したが、振幅関数は、変更前後で振幅縮小速度が変化し、かつ極値探索の収束性及び操作量の振動の抑制を阻害しない範囲でどのような関数として定義されてもよい。例えば、変更前の振幅関数は、第2の実施形態における飽和関数(式(2)及び図11参照)として定義されてもよい。この場合、振幅関数の変更を、例えばシグモイド関数のパラメータ値(例えば変数xの係数など)の変更によって行うことができ、変更前後での振幅縮小速度を異ならせることができる。
【0072】
また、振幅関数が式(4)のようにべき乗項を含む関数として定義される場合、べき指数Pや勾配ηの値によっては極値制御が不安定化する可能性がある。例えば、Pが整数でない振幅関数に対して勾配ηが負の値で与えられた場合、振幅Aを実数値として演算することができなくなる。また、Pが1以上の奇数である振幅関数に対しては、勾配ηが負の値で与えられた場合であっても振幅Aを実数値として演算することができるが、振幅Aが負の値となってしまう。このような状況を回避するためには、振幅関数は、勾配ηの絶対値|η|を入力する関数として定義されるとよい。ただし、Pが2以上の偶数の場合など、振幅Aの値が常に実数値かつ正の値となる場合には、振幅関数は勾配ηの絶対値ではなく実値を入力する関数として定義されてもよい。
【0073】
(第4の実施形態)
図15は、第4の実施形態の極値制御コントローラ3cの機能構成の具体例を示すブロック図である。極値制御コントローラ3cは、増幅部32に代えて増幅部32cを備える点で第1の実施形態の極値制御コントローラ3と異なる。また、増幅部32cは、振幅決定部322に代えて振幅決定部322cを備える点で第1の実施形態における増幅部32と異なる。それ以外の構成は第1の実施形態の極値制御コントローラ3の構成と同様であるため、同様の構成については図5と同じ符号を付すことに図15での説明を省略する。
【0074】
振幅決定部322cは、評価量の増加速度(評価関数の勾配η)が所定値以下である場合には可変振幅方式でディザー信号の振幅の大きさを決定し、評価量の増加速度が所定値を超えた場合には固定振幅方式でディザー信号の振幅の大きさを決定する点では第1の実施形態における振幅決定部322と同様であるが、所定値を超える勾配ηに対して複数の固定振幅領域を有する点で第1の実施形態における振幅決定部322と異なる。具体的には、振幅決定部322cは、勾配ηの出力先を勾配ηの大きさに応じて切り替えるスイッチ3223と、勾配ηの値に応じた振幅の大きさを出力する複数の決定部3224と、を備える。図15は、複数の決定部3224の一例として第1~第N(Nは2以上の整数)の決定部3224-1~3224-Nを示す。
【0075】
図16は、第4の実施形態における振幅関数の第1の具体例を示す図である。例えば、第1の具体例における振幅関数F(η)は、評価関数の勾配ηがηlimを超える領域において、ディザー信号の振幅の大きさを第1の上限値Amax1とする第1の固定振幅領域と、第2の上限値Amax2とする第2の固定振幅領域とを有する関数として表される。
【0076】
例えば、この場合、スイッチ3223は、ローパスフィルタ321から入力した評価関数の勾配ηの値が0≦η≦ηlim1の範囲にある場合にはその値を第1の決定部3224-1に出力し、勾配ηの値がηlim1≦η≦ηlim2の範囲にある場合にはその値を第2の決定部3224-2に出力し、ηlim2<ηの範囲にある場合にはその値を第3の決定部3224-3に出力するように構成される。
【0077】
この場合、第1の決定部3224-1は、勾配ηの値の入力に対してαηの値をディザー信号の振幅の大きさとして出力するように構成される。また、この場合、第2の決定部3224-2は、勾配ηの値によらず、ディザー信号の振幅の大きさとして常にAmax1の値を出力するように構成される。同様に、第3の決定部3224-3は、勾配ηの値によらず、ディザー信号の振幅の大きさとして常にAmax2の値を出力するように構成される。このような構成により、振幅決定部322cは、全体としては、任意の値のηについてディザー信号の振幅の大きさを1つ決定するように機能する。
【0078】
このように構成された第4の実施形態の極値制御コントローラ3cは、評価量の増加速度(評価関数の勾配η)が所定値を超えた場合において、ディザー信号の振幅の大きさを、評価量の増加速度に応じた固定値とすることができる。このような構成を備えることにより、第4の実施形態の極値制御コントローラ3cは、評価関数が複数の最適値を持つ場合においても、より適切な最適値を探索することが可能になる。
【0079】
図17は、複数の極値を持つ評価関数の具体例を示す図である。図17に示す評価関数は、操作量uにおいて極小値yをとり、操作量uにおいて極小値yよりも小さい極小値yをとる関数である。この場合、評価量の最適値はyとなる。このような未知の評価関数に対して、操作量uの右側から最適値の探索が開始される場合には第1~第3の実施形態で説明した方法によって極小値yを探索することができるが、操作量uの左側から最適値の探索が開始される場合には操作量がuに到達した時点で探索が終了してしまい、最適値yを与える操作量uに到達することができない。
【0080】
このような場合、操作量をより大きく振動させることにより、操作量がuを超えて最適値yを与えるuに収束するようにすることができる場合がある。例えば、図17に示す評価関数について、第1の実施形態における振幅関数(例えば図6参照)に基づく最適値の探索を点P1から開始した後、操作量がuに収束した場合を想定する。この場合、評価関数が評価量yとは別の極小値yを持つことが想定される場合には、探索開始時点におけるディザー信号の振幅を図6における上限値Amax1よりもさらに大きな上限値Amax2とすることで、極値制御が収束方向に向かい始める前に操作量を他の最適値(ここではu)に近づけていくことができる。
【0081】
また、これに対して、極値制御が収束方向に向かい始めた後に操作量を他の最適値(ここではu)に近づけていくことも可能である。図18は、第4の実施形態における振幅関数の第2の具体例を示す図である。第2の具体例における振幅関数F(η)は、第1の実施形態における振幅関数(例えば図6参照)の可変振幅領域の一部を固定振幅領域に変更したものである。このような振幅関数を用いた場合、点P1から最適値の探索を開始した後、評価量が極小値yに近づいていく過程でディザー信号の振幅が一旦は可変振幅となった後に再び固定振幅に戻されることになる。これにより、操作量がuに収束することを回避し、最適値(ここではu)に近づけていくことができる。
【0082】
このように構成された第4の実施形態の極値制御コントローラ3cによれば、評価関数が複数の極値を持つと想定される場合においても、操作量の振動を抑制しつつ、評価量が他の最適値に収束するようにディザー信号の振幅を調整することが可能となる。
【0083】
なお、第4の実施形態では、振幅関数に上限値の異なる2つの固定振幅領域が定義された場合について説明したが、振幅関数に定義される固定振幅領域の数や固定振幅の大きさは、想定する評価関数の形状や極値の数、極値探索の開始点等に応じて適宜変更されてよい。
【0084】
(第5の実施形態)
図19は、第5の実施形態の極値制御コントローラ3dの機能構成の具体例を示す図である。第5の実施形態の極値制御コントローラ3dは、ニュートン法に基づく極値制御コントローラに第1の実施形態と同様の増幅部32を適用したものである。具体的には、極値制御コントローラ3dは、ニュートン法に基づく極値制御部33と、極値制御部33が出力する操作量信号に作用させるディザー信号を出力するディザー信号発生器12と、ディザー信号を第1の実施形態と同様の方法で増幅する増幅部32と、を備える。
【0085】
一方、上述のとおり、第1の実施形態の極値制御コントローラ3は、グラジエント法に基づく極値制御部30として、ハイパスフィルタ11、乗算器13、ローパスフィルタ31、積分器15及び加算器17を備える。すなわち、ニュートン法に基づく極値制御部33は、乗算器331及び332、ローパスフィルタ333及び334、信号加算器335をさらに備える点、積分器15に代えて積分器15dを備える点でグラジエント法に基づく極値制御部と異なる。
【0086】
図20図25は、第5の実施形態の極値制御コントローラ3dの動作例を示す図である。図20は評価関数として2次関数を想定した場合の動作例を示し、図21は評価関数として5次関数を想定した場合の動作例を示す。また、図22は5次関数を想定した評価関数において最適値が変動する場合の動作例を示し、図23は0.5次関数を想定した評価関数において最適値が変動する場合の動作例を示す。また、図24は評価関数として符号反転正規分布関数を想定した場合の動作例を示し、図25は評価関数として非対称非線形関数を想定した場合の動作例を示す。
【0087】
なお、図20図25のいずれにおいても、左側の図は従来の可変振幅方式での制御結果を示しており、右側の図が第5の実施形態の極値制御コントローラ3dによる制御結果を示す。図20図25の各動作例からも分かるように、評価関数の勾配ηに応じ可変振幅方式と固定振幅方式とを使い分けてディザー信号の振幅を決定する方法は、グラジエント法に基づく極値制御(例えば第1~第4の実施形態)方式のみならず、ニュートン法に基づく極値制御(例えば第5の実施形態)方式にも有効であることが確認された。
【0088】
このように構成された第5の実施形態の極値制御コントローラ3dは、ニュートン法に基づく極値制御方式においても、過渡期及び収束期における操作量の振動を抑制することが可能となる。
【0089】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、操作量及び評価量の測定結果に基づいて推定される関数であって操作量と評価量との関係を表す評価関数の勾配と、ディザー信号の振幅と、の対応関係を表す振幅関数に基づいて、ディザー信号の振幅の大きさを決定する振幅決定部を持つことにより、より安定した極値制御を実現することができる。
【0090】
(変形例)
上述した各実施形態の極値制御コントローラにおいて、振幅決定部はハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアによって実現されてもよい。また、振幅決定部がソフトウェアによって実現される場合、極値制御コントローラは、振幅関数の設定情報を磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置に記憶し、振幅決定部がその記憶装置から設定情報を取得するように構成されてもよい。また、この場合、極値制御コントローラは、振幅関数の変更操作を受け付ける入力部と、その入力に応じて振幅関数の設定情報を更新する設定更新部と、を備えるように構成されてもよい。さらに、この場合、極値制御コントローラは、設定情報の内容を表示する表示部を備えるように構成されてもよい。
【0091】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0092】
1…従来例の極値制御コントローラ、11…ハイパスフィルタ、12…ディザー信号発生器、13…乗算器、14…ローパスフィルタ、15、15d…積分器、16…増幅器、17…加算器、2…従来例の極値制御コントローラ、21…ローパスフィルタ、22…増幅部、221…ローパスフィルタ、222…振幅決定部、223…乗算器、3,3a,3b,3c,3d…極値制御コントローラ、30…グラジエント法に基づく極値制御部、31…ローパスフィルタ、32,32a,32b,32c…増幅部、321…ローパスフィルタ、322,322a,322b,322c…振幅決定部、3221…第1決定部、3222…第2決定部、323…乗算器、33…ニュートン法に基づく極値制御部、331,332…乗算器、333,334…ローパスフィルタ、335…信号加算器、400…水処理システム、41…最初沈澱池、411…汚泥引き抜きポンプ、42…生物反応槽、421…ブロア、422…返送汚泥ポンプ、43…最終沈澱池、431…送る余剰汚泥ポンプ、44…濾過池、45…余剰汚泥貯留槽、451…汚泥処理ポンプ、5…曝気風量制御装置、51…評価量出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図17
図18
図19
図20
図21
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