IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋マテリアル株式会社の特許一覧

特許7267802充填補修用ポリマーセメントグラウトモルタル
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】充填補修用ポリマーセメントグラウトモルタル
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230425BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20230425BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20230425BHJP
   C04B 24/24 20060101ALI20230425BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 A
C04B22/08 B
C04B24/22 A
C04B24/24 A
E04G23/02 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019059686
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158348
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高山 浩平
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】実開昭48-002241(JP,U)
【文献】特開2004-307319(JP,A)
【文献】特開昭58-076656(JP,A)
【文献】特開昭54-118456(JP,A)
【文献】特開2014-129211(JP,A)
【文献】特開2016-037407(JP,A)
【文献】特開2009-132558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、非晶質アルミノシリケートと、細骨材と、セメント用ポリマーと、亜硝酸カルシウムと、減水剤と、水とを含み、
前記セメント用ポリマーが合成ゴム系であり、
前記セメントにおいて、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント又はアルミナセメントの含有率が、前記セメント全質量に対して25質量%以下であり、
前記亜硝酸カルシウムの含有量が、前記セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1~3質量部であり、
前記減水剤が、前記セメント100質量部に対して0.5~5質量部であり、
前記非晶質アルミノシリケートの含有量が、前記セメント100質量部に対して1~15質量部であり、
前記水の含有量が、前記セメント100質量部に対して28~50質量部であり、
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」のフロー試験に準じて測定した引抜きフロー値(直後フロー)が220mm以上である、充填補修用ポリマーセメントグラウトモルタル。
【請求項2】
前記セメント用ポリマーの含有量が、前記セメント100質量部に対して、固形分換算で8~20質量部である、請求項1に記載のポリマーセメントグラウトモルタル。
【請求項3】
膨張材を更に含む、請求項1又は2に記載のポリマーセメントグラウトモルタル。
【請求項4】
前記減水剤がナフタレンスルホン酸系減水剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマーセメントグラウトモルタル。
【請求項5】
前記亜硝酸カルシウムの含有量が、前記ポリマーセメントグラウトモルタル1mあたり3~10kg/mである請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーセメントグラウトモルタル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメントグラウトモルタル組成物及びポリマーセメントグラウトモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物はセメントの水和物である水酸化カルシウムの存在により、pH12~13の強アルカリ性を呈するため、内部の鉄筋表面には不動態皮膜が形成され鉄筋の腐食が抑制されている。しかしながら、環境等の様々な要因によってコンクリート中の塩化物イオン濃度が上昇すると鉄筋表面の不導体被膜が破壊されてしまう。その結果、鉄筋の腐食が進行してコンクリートにひび割れが生じる等の劣化現象が起こる。このコンクリートの劣化現象を塩害という。
【0003】
塩害を受けたコンクリート構造物の補修方法としては、鉄筋に接触する塩化物イオンを物理的に遮断する方法と、鉄筋表面の不導体被膜を化学的に再生して再劣化を防止する方法がある。
【0004】
塩化物イオンを物理的に遮断するための材料としては、コンクリートとの接着強度も高く遮塩性にも優れるポリマーセメントモルタル(例えば、特許文献1)や、非晶質アルミノシリケートを利用してコンクリート自体を緻密化し、塩化物イオンの浸透を防ぐセメント組成物が用いられている(例えば、特許文献2)。
【0005】
鉄筋表面の不導体被膜を再生させるための材料としては、亜硝酸塩を混和させたモルタルが用いられている(例えば、特許文献3)。一般的に亜硝酸塩としては亜硝酸カルシウムや亜硝酸リチウムが用いられるが、亜硝酸リチウムはモルタルの硬化が遅延する上に高価であるといった面から亜硝酸カルシウムが広く使われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-000820号公報
【文献】特開2018-172267号公報
【文献】特開2015-202994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、亜硝酸カルシウムは凝結促進剤としても機能するため、亜硝酸カルシウムをモルタルに添加した場合、モルタルのしまりを助長してグラウト材の流動性の低下や可使時間が低下してしまい、ポンプ圧送が困難となる場合や、充填不足が発生してしまう場合がある等、施工時間の確保が困難となることがある。また、非晶質アルミノシリケートをモルタルに添加した際、水セメント比(W/C)50質量%以下の低水比の場合は、練り混ぜにくくなる等の施工性に課題があった。
【0008】
特にポリマーセメントグラウトモルタルではポンプ圧送性や充填性が求められるため、可使時間が長く施工性のよい材料が好適である。そのため、遮塩性に更に優れ、防錆効果も備えるポリマーセメントモルタルが求められているが、遮塩性の向上、防錆効果の付与、施工性及び可使時間の確保といった課題を両立することは困難であった。
【0009】
したがって、本発明では、施工性、可使時間及び遮塩性に優れ、且つ防錆剤を含むポリマーセメントグラウトモルタル組成物及びポリマーセメントグラウトモルタルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、非晶質アルミノシリケートの含有量とセメントの組成を調整することで、亜硝酸カルシウムを含むにもかかわらず施工性及び可使時間に優れ、良好な遮塩性を示すポリマーセメントグラウトモルタル組成物及びポリマーセメントグラウトモルタルが得られることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、以下の[1]~[6]で示される。
[1]セメントと、非晶質アルミノシリケートと、細骨材と、セメント用ポリマーと、亜硝酸カルシウムとを含み、セメントにおいて、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、速硬性セメント又はアルミナセメントの含有率が、セメント全質量に対して25質量%以下であり、非晶質アルミノシリケートの含有量が、セメント100質量部に対して1~15質量部である、ポリマーセメントグラウトモルタル組成物。
[2]セメント用ポリマーの含有量が、セメント100質量部に対して、固形分換算で8~20質量部である、[1]のポリマーセメントグラウトモルタル組成物。
[3]亜硝酸カルシウムの含有量が、セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1~3質量部である、[1]又は[2]のポリマーセメントグラウトモルタル組成物。
[4]ナフタレンスルホン酸系減水剤を更に含む、[1]~[3]のいずれかのポリマーセメントグラウトモルタル組成物。
[5][1]~[4]のいずれかのモルタル組成物と、水とを含み、水の含有量が、セメント100質量部に対して28~50質量部である、ポリマーセメントグラウトモルタル。
[6]亜硝酸カルシウムの含有量が、ポリマーセメントグラウトモルタル1mあたり3~10kg/mである[5]のポリマーセメントグラウトモルタル。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、施工性、可使時間及び遮塩性に優れ、且つ防錆剤を含むポリマーセメントグラウトモルタル組成物及びポリマーセメントグラウトモルタルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物は、セメントと、非晶質アルミノシリケートと、細骨材と、セメント用ポリマーと、亜硝酸カルシウムとを含む。
【0015】
セメントは、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカフュームを含む混合セメント;エコセメント;速硬性セメント等が挙げられる。セメントとしては、可使時間を十分に確保できるという観点から、普通ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントが好ましい。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0016】
本実施形態に係るセメントにおいて、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、速硬性セメント又はアルミナセメントの含有率は、セメント全質量に対して25質量%以下である。当該セメントの含有率が上記割合外である場合、十分な可使時間を確保できない。早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、速硬性セメント又はアルミナセメントの含有率は、可使時間を確保しやすいという観点から、セメント全質量に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。また、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、速硬性セメント又はアルミナセメントは実質的に含まれなくてもよい。
【0017】
非晶質アルミノシリケートは、粘土鉱物に由来し、非晶質部分を含むアルミノシリケートであれば特に限定されず、いずれも使用可能である。原料である粘土鉱物の例としては、カオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイト型鉱物、及びこれらが混合生成した混合層鉱物が挙げられる。非晶質アルミノシリケートは、これらの結晶性アルミノシリケートを、例えば焼成・脱水して非晶質化することにより得られる。非晶質アルミノシリケートとしては、反応性に更に優れるという観点から、カオリナイト、ハロサイト、ディッカイト等のカオリン鉱物由来のものが好ましく、カオリナイトを焼成して得られるメタカオリンがより好ましい。非晶質アルミノシリケートは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
本明細書において「非晶質」とは、粉末X線回折装置による測定で、原料である粘土鉱物に由来するピークがほぼ見られなくなることをいう。本実施形態に係る非晶質アルミノシリケートは非晶質の割合が70質量%以上であればよく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%、即ち粉末X線回折装置による測定で原料である粘土鉱物に由来するピークが全く見られないものが最も好ましい。非晶質の割合は標準添加法により求めた値である。非晶質の割合が高いアルミノシリケート、即ち結晶質の割合が低いアルミノシリケートは、非晶質の割合が低いアルミノシリケートに比べて、同じ混和量における強度発現性が更によい傾向にある。アルミノシリケートの非晶質化のための加熱としては、外熱キルン、内熱キルン、電気炉等による焼成、及び溶融炉を用いた溶融等が挙げられる。
【0018】
非晶質アルミノシリケートの含有量は、セメント100質量部に対して1~15質量部である。非晶質アルミノシリケートの含有量が上記範囲外であると練り混ぜしにくくなる等の施工性の低下が見られ、遮塩性も十分ではない。非晶質アルミノシリケートの含有量は、施工性を更に確保しつつ、より良好な遮塩性が得られやすいという観点から、セメント100質量部に対して2~12質量部であることが好ましく、3.5~10質量部であることがより好ましい。
【0019】
非晶質アルミノシリケートの比表面積(BET法)は、8~15m/gであることが好ましく、9~13m/gであることがより好ましい。非晶質アルミノシリケートの比表面積が上記範囲内であれば、モルタルが硬化した時により緻密にすることができ、遮塩性が向上しやすい。
【0020】
細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石砂等を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。細骨材は、通常用いられる粒径5mm以下のもの(5mmふるい通過分)を使用することが好ましい。
【0021】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対して120~250質量部であることが好ましく、140~240質量部であることがより好ましく、160~230質量部であることが更に好ましい。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性が得られやすく、材料分離抵抗性を確保しやすい。
【0022】
セメント用ポリマーは、JIS A 6203:2015「セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂」に規定されるポリマーが好ましい。このようなセメント用ポリマーとしては、ポリマーディスパージョン、再乳化形粉末樹脂等が挙げられる。ポリマーディスパージョンとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴム系;天然ゴム系;ゴムアスファルト系;エチレン酢酸ビニル系;アクリル酸エステル系;樹脂アスファルト系等が挙げられる。ポリマーディスパージョンは、中でも、合成ゴム系、エチレン酢酸ビニル系及びアクリル酸エステル系が好ましく、具体的には、合成ゴムラテックス、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニルがより好ましい。再乳化形粉末樹脂としては、スチレンブタジエンゴム等の合成ゴム系;アクリル酸エステル系;エチレン酢酸ビニル系;酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル;酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル等が挙げられる。セメント用ポリマーとしては、ポリマーディスパージョンを用いてもよく、再乳化形粉末樹脂を用いてもよく、ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂を併用してもよい。
【0023】
セメント用ポリマーの中でも、コンクリートとの付着性がより向上するという観点から、スチレンブタジエンゴムのポリマーディスパージョン及び/又は再乳化粉末樹脂が好ましい。スチレンブタジエンゴムは、スチレン及びブタジエンを共重合した合成ゴムの一種であり、スチレン含有量や加硫量により品質を適宜調整することができる。セメント混和用としては、安定性や付着性を向上させるという観点から、結合スチレン量が50~70質量%のものが多く使用されている。セメント用ポリマーは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0024】
セメント用ポリマーの含有量は、セメント100質量部に対し、固形分換算で8~20質量部であることが好ましく、9~18質量部であることがより好ましく、10~16質量部であることが更に好ましい。セメント用ポリマーの含有量が上記範囲内であれば、コンクリートとの付着性や遮塩性に更に優れるものとなる。
【0025】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物は亜硝酸カルシウムを含む。亜硝酸カルシウムの含有量は、セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1~3質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがより好ましく、0.3~1質量部であることが更に好ましい。亜硝酸カルシウムの含有量が上記範囲内であれば、可使時間を確保しやすく、鉄筋に十分な防錆性を付与できる傾向にある。
【0026】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物は減水剤を含んでもよい。減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、アクリル系減水剤が挙げられる。これらの中では、良好な流動性が得られやすいという観点から、ナフタレンスルホン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0027】
減水剤の含有量は、セメント100質量部に対し、0.2~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましく、0.8~2質量部であることが更に好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、材料分離が起き難く、良好な流動性が得られやすく、硬化時の圧縮強度も向上しやすい。
【0028】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物は膨張材を含んでもよい。膨張材は、コンクリート用膨張材として一般に使用されているJIS適合の膨張材(JIS A 6202:2008)であれば、何れの膨張材でもかまわない。膨張材としては、例えば、遊離生石灰を主成分とする膨張材(生石灰系膨張材)、アーウィンを主成分とする膨張材(エトリンガイト系膨張材)、遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材が挙げられる。膨張材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。膨張材はブレーン比表面積が2000~6000cm/gのものを使用することが好ましい。
【0029】
膨張材の含有量は、セメント成分100質量部に対して1~5質量部であることが好ましく、1.5~3.5質量部であることがより好ましい。膨張材の含有量が上記範囲内であれば、流動性を確保しつつ、硬化後に乾燥収縮によるひび割れを起こしにくい。
【0030】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては、例えば、増粘剤、発泡剤、消泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維、高炉スラグ微粉末、石粉、土鉱物粉末、スラグ粉末、フライアッシュ、シリカフューム、無機質フィラー、火山灰等が挙げられる。
【0031】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物を製造する方法は、特に限定されず、例えば、V型混合機や可傾式コンクリートミキサー等の重力式ミキサー、ヘンシェル式ミキサー、噴射型ミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー等のミキサーにより混合することで製造することができる。
【0032】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物は、水と混合してポリマーセメントグラウトモルタルとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、セメント100質量部に対して28~50質量部であることが好ましく、30~45質量部であることがより好ましく、32~40質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、より流動性を確保しやすく、材料分離の発生、硬化体の収縮の増加及び初期強度発現性の低下を抑制しやすい。
【0033】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタルにおいて、亜硝酸カルシウムの含有量が、ポリマーセメントグラウトモルタル1mあたり3~10kg/mであることが好ましく、3~8kg/mであることがより好ましく、3~5kg/mであることが更に好ましい。亜硝酸カルシウムの含有量が上記範囲内であれば、可使時間を確保しやすく、鉄筋に十分な防錆性を付与できる傾向にある。
【0034】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタルの調製は、通常のモルタル組成物と同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、モルタルミキサー、グラウトミキサー、ハンドミキサー、傾胴ミキサー、二軸ミキサー等が挙げられる。
【0035】
本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物及びポリマーセメントグラウトモルタルは、施工性や可使時間を確保でき、遮塩性にも優れているものである。また、本実施形態のポリマーセメントグラウトモルタル組成物及びポリマーセメントグラウトモルタルは亜硝酸カルシウムを含むため、鉄筋に対して防錆効果を付与できる。したがって、ポリマーセメントグラウトモルタル組成物及びポリマーセメントグラウトモルタルは、劣化を受けた鉄筋コンクリート構造物の断面修復、欠損部の充填補修等に好適に用いることができる。
【実施例
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
実施例で用いる材料は以下のとおりである。
セメント:普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント
細骨材:珪砂、石灰石砂の混合品
減水剤:ナフタレンスルホン酸系減水剤
非晶質アルミノシリケート:メタカオリン(比表面積11.5m/g)
膨張材:生石灰系膨張材
セメント用ポリマー:スチレン・ブタジエン共重合体
亜硝酸カルシウム
【0038】
[ポリマーセメントグラウトモルタル組成物の配合設計]
セメント100質量部に対し、各種材料を表1に示す割合として配合設計した。セメント用ポリマー、亜硝酸カルシウム及び水は予め混合したポリマー混和液を用いた。セメント用ポリマーと亜硝酸カルシウムは固形分換算である。
【0039】
[ポリマーセメントグラウトモルタルの作製]
20℃環境下において、10Lの円筒容器に表1に示す配合で設計したポリマーセメントグラウトモルタル組成物の各材料と、ポリマー混和液又は水とを添加し、ハンドミキサーで90秒混練してポリマーセメントグラウトモルタルを約3L作製した。実施例1~3、及び比較例1~3のポリマーセメントグラウトモルタル1mあたりにおいて、亜硝酸カルシウムの濃度は4kg/mであった。
【0040】
[評価方法]
各項目について以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
・流動性試験
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」のフロー試験に準じて流動性試験を実施した。フロー値は引抜きフロー値を測定した。フロー値が220mm以上の場合○、材料分離が生じる又は220mm未満の場合×と評価した。
・流動性保持試験
30℃環境下の試験室において練混ぜ終了から30分後のポリマーセメントグラウトモルタルの流動性を評価した。フロー値が200mm以上の場合○、200mm未満の場合×と評価した。
・初期なじみ
所定量の水(ポリマー混和液含む)に対し、ポリマーセメントグラウトモルタル組成物を投入した後、ハンドミキサーで攪拌し、粉体と水分がなじむまでの時間を目視にて計測し評価した。材料がなじむまで30秒以上時間の有するものを×と評価した。
・塩化物イオン浸透深さ
縦10cm×横10cm×高さ40cmの型枠にポリマーセメントグラウトモルタルを流し込み、供試体を作製した。その後、供試体を28日間気中養生とした。養生後、10質量%の塩化ナトリウム溶液に供試体を26週間浸漬させた。供試体を割裂し、割裂した断面にフルオレセインナトリウム水溶液及び硝酸銀水溶液(0.1N)を吹きかけ、供試体表面から発色しない部分までの長さを塩化物イオンの浸透深さとした。
【0041】
【表1】