(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】アンギュラ玉軸受用保持器
(51)【国際特許分類】
F16C 33/38 20060101AFI20230425BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20230425BHJP
F16C 33/44 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/16
F16C33/44
(21)【出願番号】P 2019060273
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕晃
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-52785(JP,A)
【文献】特開2016-118294(JP,A)
【文献】特開2015-48874(JP,A)
【文献】特開2013-72499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(10)の内輪肩落とし部(11)と外輪(20)の外輪肩部(21)間に収まる小環状部(31)と、外輪(20)の外輪肩落とし部(22)と内輪(10)の内輪肩部(12)間に収まる大環状部(32)と、前記小環状部(31)と大環状部(32)とを繋ぎ周方向に複数個所に設置される柱部(33)とを備え、小環状部(31)と大環状部(32)と柱部(33)とにより周方向に等間隔に形成されるポケット(34)に、内輪(10)と外輪(20)の間に配列される複数の玉(40)を保持するアンギュラ玉軸受用保持器において、
前記柱部(33)は、小環状部(31)から大環状部(32)側に向かって軸方向に延びる内径側柱部分(33a)と、大環状部(32)から小環状部(31)側に向かって軸方向に延びる外径側柱部分(33b)とを有し、内径側柱部分(33a)の外周面と外径側柱部分(33b)の内周面とが繋がるように形成されており、
内径側柱部分(33a)の大環状部(32)寄りの軸方向側面(33c)は、内径側柱部分(33a)の内周面と、外径側柱部分(33b)内周面又は大環状部(32)の内周面とを繋ぐようにして形成されており、
外径側柱部分(33b)の小環状部(31)寄りの軸方向側面(33d)は、外径側柱部分(33b)の外周面と、内径側柱部分(33a)の外周面又は小環状部(31)の外周面とを繋ぐようにして形成されており、
前記小環状部(31)の外径面(31b)は、当該小環状部(31)の内径面(31a)よりも玉セットのピッチ径(PCD)に近く、前記大環状部(32)の内径面(32b)は、当該大環状部(32)の外径面(32a)よりも前記ピッチ径(PCD)に近い形状を有し、
さらに、前記小環状部(31)の外径面(31b)及び内径側柱部分(33a)の外周面と、前記大環状部(32)の内径面(32b)及び外径側柱部分(33b)の内周面とは、緩やかな傾斜面(角度β)によって構成されており、
前記小環状部(31)の玉受け面が円筒径状の小径側玉受け面(35b)及び球形径状の小径側玉受け面(35a)の連続した二つの面から成り、円筒径状の小径側玉受け面(35b)が径方向外方に位置し、球形径状の小径側玉受け面(35a)が径方向内方に位置し、大環状部(32)の玉受け面が円筒径状の大径側玉受け面(36b)及び球形径状の大径側玉受け面(36a)の連続した二つの面から成り、円筒径状の大径側玉受け面(36b)が径方向内方に位置し、球形径状の大径側玉受け面(36a)が径方向外方に位置することを特徴とするアンギュラ玉軸受用の合成樹脂製保持器。
【請求項2】
前記ポケット(34)を形成する球形形状の小径側玉受け面(35a)と球形形状の大径側玉受け面(36a)の球面部直径寸法は同一であり、円筒形状の小径側玉受け面(35b)及び円筒形状の大径側玉受け面(36b)の円筒部直径寸法も同一であり、円筒部高さの合計値が玉径直径寸法の10~15%であることを特徴とする請求項1記載のアンギュラ玉軸受用の合成樹脂製保持器。
【請求項3】
前記小環状部(31)の外径面(31b)及び内径側柱部分(33a)の外周面と、前記大環状部(32)の内径面(32b)及び外径柱部分(33b)の内周面とで形成する傾斜部の角度βが軸方向に対し2~15°の傾斜を有することを特徴とする請求項1又は2記載のアンギュラ玉軸受用の合成樹脂製保持器。
【請求項4】
前記円筒形状の小径側玉受け面(35b)及び円筒形状の大径側玉受け面(36b)の円筒部が、前記小環状部(31)の外径面(31b)及び内径側柱部分(33a)の外周面と、前記大環状部(32)の内径面(32b)及び外径柱部分(33b)の内周面とで形成する傾斜部と直角の角度を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかの項に記載のアンギュラ玉軸受用保持器。
【請求項5】
樹脂製である請求項1~4のいずれかの項に記載のアンギュラ玉軸受用保持器。
【請求項6】
射出成形にて作製される請求項1~5のいずれかの項に記載のアンギュラ玉軸受用保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンギュラ玉軸受用保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
アンギュラ玉軸受は、内輪と外輪の間に複数の玉を保持器によって等間隔に保持したものであり、内輪と外輪の対向面に肩落とし部と肩部を備えている。
【0003】
そして、内輪と外輪に肩落とし部を備えたアンギュラ玉軸受に用いる合成樹脂製保持器として、内輪肩落とし部と外輪肩部間に収まる小環状部と、外輪肩落とし部と内輪肩部間に収まる大環状部と、小環状部と大環状部との間を繋ぐ周方向に複数個所に設置される柱部とを有し、小環状部と大環状部と柱部とにより周方向に等間隔に窓型のポケットを形成したものがあり、このポケットに玉を保持している。
【0004】
一般的に、アンギュラ玉軸受用保持器としては、保持器の内外径間に亘って単一球面状に形成されたものが提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、単一な円筒形状ではなく、周方向すきまを大きくし、周方向の転動体とポケット内径面の接触面積を大きくすることで、保持器に無理な力が発生しない形状のものも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平4-78331号公報
【文献】特開2011-185315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のアンギュラ玉軸受に用いられる合成樹脂製の保持器は、射出成形機を用いて成形され、成形金型は、樹脂の種類毎に膨張・収縮率、樹脂の粘度、ガスの発生量等が異なるため、各樹脂材専用の金型を用意している。そのため、個数に関わらず、保持器材質が異なる場合は新しい成形金型が必要となる。特に、膨張・収縮率が異なる異種樹脂材を同一金型で射出成形した場合、出来上がりの寸法が異なり、最悪の場合ポケットすきまが無くなってしまい軸受としての性能に大きく影響する。
【0008】
そこで、この発明は、同一の成形金型で異なる材質の樹脂を成形しても、出来上がりの寸法差によるポケットすきまの消失を緩和することができる構造のアンギュラ玉軸受用保持器を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、この発明は、内輪10の内輪肩落とし部11と外輪20の外輪肩部21間に収まる小環状部31と、外輪20の外輪肩落とし部22と内輪10の内輪肩部12間に収まる大環状部32と、前記小環状部31と大環状部32とを繋ぎ周方向に複数箇所に設置される柱部33とを備え、小環状部31と大環状部32と柱部33とにより周方向に等間隔に形成されるポケット34に、内輪10と外輪20の間に配列される複数の玉40を保持するアンギュラ玉軸受用保持器30において、前記柱部33は、小環状部31から大環状部32側に向かって軸方向に延びる内径側柱部分33aと、大環状部32から小環状部31側に向かって軸方向に延びる外径側柱部分33bとを有し、内径側柱部分33aの外周面と外径側柱部分33bの内周面とが繋がるように形成されており、内径側柱部分33aの大環状部32寄りの軸方向側面33cは、内径側柱部分33aの内周面と、外径側柱部分33b内周面又は大環状部32の内周面とを繋ぐようにして形成されており、外径側柱部分33bの小環状部31寄りの軸方向側面33dは、外径側柱部分33bの外周面と、内径側柱部分33aの外周面又は小環状部31の外周面とを繋ぐようにして形成されており、前記小環状部31の外径面31bは、当該小環状部31の内径面31aよりも玉セットのピッチ径PCDに近く、前記大環状部32の内径面32bは、当該大環状部32の外径面32aよりも前記ピッチ径PCDに近い形状を有し、さらに、前記小環状部31の外径面31b及び内径側柱部分33aの外周面と、前記大環状部32の内径面32b及び外径側柱部分33bの内周面とは、緩やかな傾斜面角度βによって構成されており、前記小環状部31の内径面31aと前記大環状部32の外径面32aは軸方向に沿った円筒面によって形成され、前記小環状部31は、ポケット34に入った玉40の位置を定める球形形状の小径側玉受け面35aと円筒形状の小径側玉受け面35bとを有し、前記大環状部32は、前記玉40の位置を定める球形形状の大径側玉受け面36aと円筒形状の大径側玉受け面36bとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、この発明に係るアンギュラ玉軸受用保持器は、単一の球形のポケット形状ではなく、球形部の中央に円筒形状を挟んだポケット形状、即ち、小環状部31の内径面31aと前記大環状部32の外径面32aは軸方向に沿った円筒面によって形成され、前記小環状部31は、ポケット34に入った玉40の位置を定める球形形状の小径側玉受け面35aを有し、前記大環状部32は、前記玉40の位置を定める球形形状の大径側玉受け面36aを有するので、アキシアル方向のポケットすきまは大きく変化せずに、従来より大きなラジアル方向のポケットすきまを確保でき、標準寸法から全体的に収縮(膨張)した場合の寸法差の特にラジアル方向のポケットすきまの減少を緩和することができる。
【0011】
ポケット自体の膨張・収縮だけでなく、ポケットPCDの膨張・収縮も考慮すると、保持器寸法が全体的に膨張もしくは収縮した場合、アキシアル方向のすきまの減少よりも、ラジアル方向のすきまの減少の方が優位である。
【0012】
そのため、この発明に係るアンギュラ玉軸受用保持器は、ラジアル方向のすきまを通常の球形のポケット形状品よりも大きくとることで、異なる収縮率の樹脂を同一金型を用いて成形した保持器の出来栄えによるポケットすきまの減少によるポケットすきま消失を緩和することができる。
【0013】
具体的には、ポケットを球形とポケット球形部直径の10~15%の高さを持つ円筒形状部からなる形状を採用することで、同一成形金型で収縮率差が5%以内の異なる樹脂を成形した場合でもポケットすきまを維持し、軸受としての性能を損なうことのない保持器を成形可能である。
【0014】
ただ単にポケット径を大きくすること(あらかじめ大きなポケットすきまを確保すること)とは異なり、幅方向のポケットすきまには大きな変更がないため、中央値での性能は、通常の単一球形のポケット形状の保持器と変わらないため、保持器としての性能を劣化させることはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施形態に係る保持器を用いたアンギュラ玉軸受の断面図である。
【
図4】
図3の保持器を矢印A方向から見た図である。
【
図6】この発明の実施形態に係る保持器を成形する金型の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
この発明の実施形態に係るアンギュラ玉軸受用の保持器30は、特に、コンプレッサ用のアンギュラ玉軸受に適用される。
【0018】
図1に示すアンギュラ玉軸受は、内輪10と外輪20の間に複数の玉40を保持器によって等間隔に保持したものであり、内輪10の外周面に、内輪軌道面10aと、この内輪軌道面10aの軸方向の一方に内輪肩落とし部11と、他方に内輪肩部12と有し、外輪の内周面に、外輪軌道面20aと、この外輪軌道面の20aの軸方向の一方に外輪肩落とし部22と、他方に外輪肩部21とを有し、内輪肩部12と外輪肩落とし部22とが対向し、外輪肩部21と内輪肩落とし部11とが対向している。
【0019】
玉40は、例えば、鋼球やセラミックス等からなる。
【0020】
この発明に係る保持器30は、内輪10の内輪肩落とし部11と外輪20の外輪肩部21間に収まる小環状部31と、外輪20の外輪肩落とし部22と内輪10の内輪肩部12間に収まる大環状部32と、前記小環状部31と大環状部32とを繋ぎ周方向に複数箇所に設置される柱部33とを備え、小環状部31と大環状部32と柱部33とにより、内輪10と外輪20の間に配列される複数の玉40を保持するポケット34を周方向に等間隔に形成している。
【0021】
前記柱部33は、小環状部31から大環状部32側に向かって軸方向に延びる内径側柱部分33aと、大環状部32から小環状部31側に向かって軸方向に延びる外径側柱部分33bとを有する。
【0022】
内径側柱部分33aの外周面と外径側柱部分33bの内周面とが繋がるように形成されている。
【0023】
内径側柱部分33aの大環状部32寄りの軸方向側面33cは、内径側柱部分33aの内周面と、外径側柱部分33b内周面又は大環状部32の内周面とを繋ぐようにして形成されている。
【0024】
外径側柱部分33bの小環状部31寄りの軸方向側面33dは、外径側柱部分33bの外周面と、内径側柱部分33aの外周面又は小環状部31の外周面とを繋ぐようにして形成されている。
【0025】
前記小環状部31の外径面31bは、当該小環状部31の内径面31aよりも玉セットのピッチ径PCDに近く、前記大環状部32の内径面32bは、当該大環状部32の外径面32aよりも前記ピッチ径PCDに近い形状を有する。
【0026】
さらに、前記小環状部31の外径面31b及び内径側柱部分33aの外周面と、前記大環状部32の内径面32b及び外径側柱部分33bの内周面とは、射出成形の際に、後述するアキシアルドロータイプ金型の軸方向への型抜きを行いやすいように、緩やかな傾斜面(角度β)によって構成されている。
【0027】
前記小環状部31の内径面31aと前記大環状部32の外径面32aは軸方向に沿った円筒面によって形成され、前記小環状部31は、ポケット34に入った玉40の位置を定める球形形状の小径側玉受け面35aと円筒形状の小径側玉受け面35bとを有する。
【0028】
前記大環状部32は、前記玉40の位置を定める球形形状の大径側玉受け面36aと円筒形状の大径側玉受け面36bとを有する。
【0029】
前記ポケット34を形成する球形形状の小径側玉受け面35aと球形形状の大径側玉受け面36aの球面部直径寸法は同一であり、円筒形状の小径側玉受け面35b及び円筒形状の大径側玉受け面36bの円筒部直径寸法も同一であり、円筒部高さの合計値が玉径直径寸法の10~15%である。
【0030】
前記小環状部31の外径面31b及び内径側柱部分33aの外周面と、前記大環状部32の内径面32b及び外径側柱部分33bの内周面とで形成する傾斜部の角度βが軸方向に対し2~15°の傾斜を有する。
【0031】
保持器30は、例えば、ガラス繊維やカーボン繊維等で補強されたナイロンやPPS、PEEK、またはフェノールなどの樹脂製であり、射出成形にて作製される。ただし、前記樹脂材に限定されるものではない。
【0032】
図6は、保持器30を射出成形にて成形する成形金型50を概略示す断面図である。同図に示すように、成形金型50は、断面略L形の金型部品50a、50bが組み合わされて構成される。
【0033】
金型部品50a、50bは、互いに軸方向Cにスライド可能に構成される。金型部品50a、50bが組み合わされた状態でキャビティが形成される。保持器30は、所望の形状に成形された後、金型部品50a、50bを軸方向に相対的に隔離されて成形金型50から取り出される。
【0034】
円筒形状の小径側玉受け面35b及び円筒形状の大径側玉受け面36bの円筒部の中心軸51は同一であり、断面略L形の金型部品50a、50bの合せ面52に対し垂直の角度を有する。
【0035】
この発明の保持器30は、異なる材質の樹脂を同一の成形金型50で成形した場合の出来上がりの寸法差によるポケットすきまの消失を、ポケット34の形状を、球形形状の小径側玉受け面35a及び大径側玉受け面36aの球形と、円筒形状の小径側玉受け面35b及び大径側玉受け面36bの円筒とからなる形状を採用することにより緩和し、保持器30の成形金型50を異種樹脂材料で兼用することを可能としている。
【0036】
円筒形状の小径側玉受け面35b及び大径側玉受け面36bの高さは、小径側玉受け面35a及び大径側玉受け面36aの球形部直径の10~15%であり、合せ面に対して直角の角度を持つ。
【0037】
ポケット個数(ボール個数)、ポケット球形部半径には特別な縛りは無く、これまでの設計と同一とする。
【0038】
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0039】
10 :内輪
10a :内輪軌道面
11 :内輪肩落とし部
12 :内輪肩部
20 :外輪
20a :外輪軌道面
21 :外輪肩部
22 :外輪肩落とし部
30 :保持器
31 :小環状部
31a :内径面
31b :外径面
32 :大環状部
32a :外径面
32b :内径面
33 :柱部
33a :内径側柱部分
33b :外径側柱部分
33c :軸方向側面
33d :軸方向側面
34 :ポケット
35a :小径側玉受け面
35b :小径側玉受け面
36a :大径側玉受け面
36b :大径側玉受け面
40 :玉
50 :成形金型
50a :金型部品
50b :金型部品
β :角度