(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】リサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20230425BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20230425BHJP
C08L 77/10 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
D01F6/60 371Z
C08K3/00
C08L77/10
(21)【出願番号】P 2019076405
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠介
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-286061(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101058903(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/60
C08K 3/00
C08L 77/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物を、
(1)該メタ型全芳香族ポリアミド繊維に対して5~50質量%の無機塩を含有するアミド系溶媒に溶解させた後、
(2)該溶解物にメタ型全芳香族ポリアミド重合物を溶解させてメタ型全芳香族ポリアミド紡糸用ドープを調製し、
(3)該紡糸用ドープを無機塩を30~45質量%、アミド系溶媒を1~20質量%含む凝固液に紡出した後、延伸することにより、
破断強度3.0~6.0cN/dtexのメタ型全芳香族ポリアミド繊維とすることを特徴とするリサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項2】
繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維の、下記方法により測定した重量平均分子量が20万以上である請求項1記載のリサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
(重量平均分子量の測定方法)
サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(昭和電工(株)製Shodex(登録商標)
カラムGPC KD-806、KD-804、KD-802)を装着した高速液体クロマ
トグラフィー装置((株)島津製作所製Prominence(登録商標))にて分析を
おこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を
用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレン
セット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
【請求項3】
メタ型全芳香族ポリアミド重合物を、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド
繊維に対して、1~150質量%溶解させる請求項1又は2記載のリサイクルメタ型全芳
香族ポリアミド繊維の製造方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物を再溶解し紡糸することにより、リサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する方法に関するものである。さらに詳しくはメタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物を、無機塩を含有するアミド系溶媒に溶解させた後、該溶解物に、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミドとは別の未使用のメタ型全芳香族ポリアミド重合物を溶解させて紡糸用ドープを調製し、該紡糸用ドープを塩凝固液に紡出した後、水洗、湿式延伸、乾燥、熱延伸することにより、実用上充分な破断強度を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得る、リサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性および難燃性に優れていることは周知であり、かかる全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(以下メタアラミドと称する場合がある。)の繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものである。これらの特性を発揮して、例えば防護衣等の防災安全衣料用途やフィルター、電子部品等の産業用途に用いられている。このようなメタアラミド繊維はステープルファイバーとして製造されることがほとんどであり、布帛や紡績糸に加工され、様々な用途へと利用されている。
【0003】
一方、これら布帛や紡績糸を廃棄する際は、化学的安定性および難燃性の観点から焼却処分等を行うことができないため、埋め立てによる処分が一般的であり、産業用繊維として利用されている状況から多量のアラミド繊維廃棄物が大きな環境負荷を与えることが問題となっている。
【0004】
上記のような問題に対し、メタアラミド繊維をリサイクルする方法がいくつか報告されている。例えば、使用済み耐熱性高機能紡績糸製品を所望により予め洗浄し、ついで解砕処理に付し、得られた解砕物を開繊して綿状物となし、かかる綿状物を紡績して糸を形成することでリサイクル耐熱性高機能紡績糸を得る方法が報告されている(特開2004-100066号公報、特開2006-37240号公報、特開2006-23340号公報、特開2005-105491号公報など)。
【0005】
一方、上記のように繊維状製品をそのまま再利用するのではなく、化学処理を施すことで繊維溶解物とし、利用する方法も報告されている。例えば、特開2014-70133号公報や特開2007-321069号公報には、アラミド繊維を製造・加工する工程において発生するアラミド繊維屑を無機塩含有溶媒と混合し、せん断等をかけることでアラミド溶解物(ドープ)を製造する方法を報告している。
【0006】
また、特開平7-286061号公報や特開2007-321310号公報には、上記のようにして作成したアラミドドープを水中でせん断を与えながら攪拌することでフィブリッド化させ、構造材へ使用可能なアラミドパルプとする方法が報告されている。このように難燃性のアラミド繊維をリサイクルすることは、環境負荷低減に加え高付加価値製品であることから、その意義は大きい。
【0007】
しかし、上記に記載した各方法は汚損が無い、または汚損が軽微な布帛や紡績糸、繊維屑を使用することを前提としており、使用環境が過酷で非常に汚損が激しいものや一部化学構造が分解してしまっているものなどは、再利用することは難しい。例えば、生産工場の熱排気ガスを濾過する際に使用される耐熱バグフィルターにはアラミド繊維が多く利用され、大量に廃棄されているが、使用環境の過酷さゆえ汚損以外にも化学分解により分子量が大きく低下しており、繊維本来の強度を保つことができない。
【0008】
そこで、アラミド繊維のリサイクル方法として、使用済みの布帛や紡績糸、繊維屑を再溶解して作製したアラミドドープを新たに紡糸することで、リサイクルアラミド繊維を製造する方法が考えられるが、このような方法はこれまで知られていない。その理由は、繊維中への汚損物混入による欠点の増加と、上記のように分子量の大きな低下によって繊維の強度と紡糸安定性が低下することが大きな課題となっているためである。
【0009】
したがって、上記のように汚損や低分子量化した使用済みの布帛や紡績糸、繊維屑を再溶解して作製したアラミドドープを新たに紡糸することにより、リサイクルアラミド繊維を製造する方法が開発できれば工業的に非常に有用なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-100066号公報
【文献】特開2006-37240号公報
【文献】特開2006-23340号公報
【文献】特開2005-105491号公報
【文献】特開2014-70133号公報
【文献】特開2007-321069号公報
【文献】特開平7-286061号公報
【文献】特開2007-321310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、かかる従来技術における問題点を解消し、耐熱性、難燃性、機械物性などの優れた性質を持ったメタアラミド繊維において、使用済みの布帛や紡績糸、繊維屑などの繊維構造物をリサイクルすることで、新たに破断強度が高いリサイクルメタアラミド繊維を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、汚損および低分子量化した使用済みの布帛や紡績糸、繊維屑などの繊維構造物を再溶解した後、該溶解物に、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミドとは別のメタ型全芳香族ポリアミド重合物を溶解させて紡糸用ドープを調製し、該紡糸用ドープを塩凝固液に紡出した後、水洗、湿式延伸、乾燥、熱延伸することにより、破断強度が3.0~6.0cN/dtexのリサイクルアラミド繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明によれば、
1.メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物を、
(1)該メタ型全芳香族ポリアミド繊維に対して5~50質量%の無機塩を含有するアミド系溶媒に溶解させた後、
(2)該溶解物にメタ型全芳香族ポリアミド重合物を溶解させてメタ型全芳香族ポリアミド紡糸用ドープを調製し、
(3)該紡糸用ドープを無機塩を30~45質量%、アミド系溶媒を1~20質量%含む凝固液に紡出した後、延伸することにより、
単繊維繊度0.5~15dtex、破断強度3.0~6.0cN/dtexのメタ型全芳香族ポリアミド繊維とすることを特徴とするリサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
2.繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維の、下記方法により測定した重量平均分子量が20万以上である上記1記載のリサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
(重量平均分子量の測定方法)
サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(昭和電工(株)製Shodex(登録商標)カラムGPC KD-806、KD-804、KD-802)を装着した高速液体クロマトグラフィー装置((株)島津製作所製Prominence(登録商標))にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
3.メタ型全芳香族ポリアミド重合物を、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維に対して、1~150質量%溶解させる上記1又は2記載のリサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、メタ型全芳香族ポリアミド(メタアラミド)繊維から構成される繊維構造物をアミド系溶媒に再溶解させた後、該溶解物に、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミドとは別のメタ型全芳香族ポリアミド重合物を溶解させて紡糸用ドープを調製し、該メタ型全芳香族ポリアミドドープを特定の凝固条件において紡糸することにより、その破断強度が3.0~6.0cN/dtexと良好なリサイクルメタアラミド繊維が提供される。
【0015】
また、本発明で使用する繊維構造物は使用環境により汚損があり、ポリマーの重量平均分子量が例えば60万以下と化学分解が進んでいる状態であってもリサイクルできる点で環境負荷低減へ大きく貢献でき、本発明の工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明のリサイクルメタアラミド繊維を構成するメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0017】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドからなる繊維のみを使用した布帛または紡績糸である。メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モルである。
【0018】
そして、本発明のリサイクルメタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロロベンゼン、2,6-ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0019】
メタ型全芳香族ポリアミドを構成するメタ型芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3-クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0020】
本発明においては、上記メタ型全芳香族ポリアミドからなる繊維から構成される繊維構造物を使用する。ここで、繊維構造物とは、メタ型全芳香族ポリアミド繊維からなる、或いはメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含むモノフィラメント、ヤーン、紡績糸、綿、組紐、織編物、不織布などの布帛等を指し、新品、不良品、市場で使用されているものも対象である。本発明においては、メタ型全芳香族ポリアミド繊維以外の繊維を混合した繊維構造物も使用することができるが、後述するアミド系溶媒への溶解操作の後、不溶の他繊維成分を濾過によって取り除く必要がある。
【0021】
本発明で使用する繊維構造物を構成するメタアラミド繊維は、使用環境により化学分解が進行したものが想定されるが、メタアラミドの重量平均分子量は20万以上であればよく、好ましくは30万以上である。一方で、分子量が20万未満の場合、十分な強度を持った繊維を得るためには後述する工程において、非常に多くの未使用のメタ型全芳香族ポリアミドを混合する必要があり、リサイクルの効果が少なくなる。
【0022】
本発明のリサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物を用いて、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、洗浄工程、湿式(沸水)延伸工程、乾熱処理工程、熱延伸工程を経て製造される。
【0023】
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物を溶媒に溶解して、紡糸液(ドープ)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常アミド系溶媒を用い、該溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらの中では溶解性と取扱い安全性の観点から、NMP、またはDMAcを用いることが好ましい。
【0024】
本発明では繊維を溶解するために無機塩を導入する必要があり、メタ型全芳香族ポリアミド繊維に対して5~50質量%の無機塩を含有するアミド系溶媒を使用することが肝要である。50質量%を超える無機塩を含むと繊維の溶解速度は上がるが、後述する紡糸溶液の濃度調整が難しくなる。なお、無機塩としては塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウムなどの塩化物塩を使用することが好ましい。
【0025】
本発明においては、紡糸液調整の際、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維に対して、該繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミドとは別の未使用のメタ型全芳香族ポリアミド重合物を混合し、濃度および重量平均分子量を調整する。
【0026】
この際使用するメタ型全芳香族ポリアミド重合物は、上記メタ型全芳香族ポリアミド繊維と同様の組成からなり、重量平均分子量は60万以上であることが好ましい。なお、該メタ型全芳香族ポリアミド重合物を得るための重合方法はどのような方法でも良い。また、該メタ型全芳香族ポリアミド重合物は、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維に対して1~150質量%の割合で使用されることが好ましい。該重量比率は、使用する繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維の重量平均分子量により決定する必要があり、後述する紡糸工程において十分な繊維が得られる重量比率を採用することが好ましい。
【0027】
尚、後述する紡糸工程において十分な紡糸性と繊維強度を得るためには、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維、およびそれに混合させるメタ型全芳香族ポリアミド重合物の重量平均分子量がいずれも50万以上であることが好ましい。該メタ型全芳香族ポリアミド重合物を混合しなかった場合、繊維構造物を構成するメタ型全芳香族ポリアミド繊維が有する重量平均分子量にもよるが、延伸不良により十分な強度が発現しない、或いは紡調が安定せず生産が行えないという問題が発生する。
【0028】
紡糸液中のメタ型全芳香族ポリアミドの濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度およびメタ型全芳香族ポリアミドの溶解性の観点から、適当な濃度を選択すればよく、通常は10~30質量%の範囲とすることが好ましい。安定な紡糸を達成するためには15~25質量%の範囲とすることがさらに好ましい。加えて、無機塩の濃度は1~15質量%であることが好ましい。
【0029】
かくして得られたメタ型全芳香族ポリアミド紡糸液は、紡糸・凝固工程において凝固液中に紡出して凝固させる。紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が10~30000個、紡糸孔径が0.03~0.2mmのステープルファイバー用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。また、紡糸口金から紡出する際のドープの温度は、20~90℃の範囲が適当であるが、特に70~90℃が好ましい。
【0030】
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得るために用いる凝固浴としては、塩化カルシウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム等の無機塩を30質量%以上、好ましくは35~45質量%含み、アミド系溶剤を1~20質量%、好ましくは3~15質量%含む水溶液を50~90℃の範囲で用いる。また、実質的に無機塩を含まないアミド系溶媒の水溶液を用いる方法も知られているが、このような凝固液では安定な紡糸が不可能であるか、十分な強度の糸を得ることができない。
【0031】
かくして得られた凝固糸は水性洗浄浴にて十分水洗され、湿式延伸工程に送られる。通常、湿式延伸は沸水延伸浴中で行われ、その際の延伸倍率は1.5~5.0倍が適当であり、さらに好ましくは2.0~3.5倍の範囲である。本発明においては、湿式延伸を当該倍率の範囲で行い、分子鎖配向を上げることにより、最終的に得られる繊維の破断強度を確保することができる。
【0032】
上記洗浄・湿式延伸工程を経た繊維に対して、好ましくは、乾熱処理工程を実施する。乾熱処理工程においては、上記洗浄・湿式延伸工程により洗浄と延伸が実施された繊維を、好ましくは100~250℃、さらに好ましくは100~200℃の範囲で、乾熱処理をする。ここで、乾熱処理は、特に限定されないが、定長下で行うのが好ましい。なお、上記の乾熱処理の温度は、熱板、加熱ローラーなどの繊維加熱手段の設定温度をいう。
【0033】
本発明においては、上記乾熱処理工程を経た繊維に対して、熱延伸工程を施す。熱延伸工程においては、300~380℃で熱処理を加えながら、延伸を実施する。延伸倍率は1.2~5.0倍が適当であり、さらに好ましくは1.5~3.5倍の範囲である。
【0034】
以上の方法により得られるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の破断強度は3.0~6.0cN/dtexである。さらに、単繊維繊度は0.5~15.0dtexである。該単繊維繊度が0.5dtex未満または15dtex以上の場合、工程通過性が劣り、安定な紡糸を達成することが出来ない。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。尚、実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0036】
[重量平均分子量Mw]
サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(昭和電工(株)製Shodex(登録商標)カラムGPC KD-806、KD-804、KD-802)を装着した高速液体クロマトグラフィー装置((株)島津製作所製Prominence(登録商標))にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
【0037】
[単糸繊度]
JIS L 1015に準じ、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛け繊度にて表記した。
【0038】
[破断強度]
引張試験機(インストロン社製、型式:5565)を用いて、JIS L 1015に基づき、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g/dtex)
引張速度 :20mm/分
【0039】
[実施例1]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物である使用済み布帛(重量平均分子量46万のメタ型全芳香族ポリアミド繊維織物)を、塩化カルシウム粉末を含むN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた後、質量比で等量のメタ型全芳香族ポリアミド粉末(重量平均分子量78万)を溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が18%、塩化カルシウムの質量濃度が2.5%になるよう調整した。
【0040】
このポリマー溶液を89℃に加温し紡糸原液として、孔径0.12mm、孔数100の吐出孔が円形の紡糸口金から70℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムが35質量%、NMPが3質量%、残りの水が62質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)120cmにて糸速5.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0041】
この凝固糸条を第1~第2水洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は230秒とした。なお、第1~第2水性洗浄浴温度はそれぞれ20、30℃の水を用いた。次に、この洗浄糸条を90℃の沸水中にて2.5倍に延伸し、引続き95℃の温水中に40秒浸漬し、洗浄した。
【0042】
次に表面温度170℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、表面温度340℃の熱板にて1.5倍に延伸し、リサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維は単繊維繊度2.1dtex、破断強度4.4cN/dtexであった。
【0043】
[実施例2]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物である使用済み布帛(重量平均分子量46万のメタ型全芳香族ポリアミド繊維織物)を、塩化カルシウム粉末を含むN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた後、質量比で等量のメタ型全芳香族ポリアミド粉末(重量平均分子量78万)を溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が18%、塩化カルシウムの質量濃度が2.5%になるよう調整した。
【0044】
このポリマー溶液を89℃に加温し紡糸原液として、孔径0.12mm、孔数100の吐出孔が円形の紡糸口金から89℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴の組成は、塩化カルシウムが40質量%、NMPが15質量%、残りの水が45質量%であり、浸漬長(有効凝固浴長)120cmにて糸速5.0m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出した。
【0045】
この凝固糸条を第1~第2水洗浄浴にて水洗し、この際の総浸漬時間は230秒とした。なお、第1~第2水性洗浄浴温度はそれぞれ20℃、30℃の水を用いた。次に、この洗浄糸条を90℃の沸水中にて2.4倍に延伸し、引続き95℃の温水中に40秒浸漬し、洗浄した。
【0046】
次に表面温度170℃のローラーに巻回して乾熱処理した後、表面温度340℃の熱板にて2.4倍に延伸し、リサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維は単繊維繊度1.7dtex、破断強度5.6cN/dtexであった。
【0047】
[実施例3]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物である使用済み布帛(重量平均分子量39万のメタ型全芳香族ポリアミド繊維織物)を、塩化カルシウム粉末を含むN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた後、質量比で等量のメタ型全芳香族ポリアミド粉末(重量平均分子量78万)を溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が18%、塩化カルシウムの質量濃度が2.5%になるよう調整した。
【0048】
このポリマー溶液を実施例1に記載の方法と同様の方法により紡糸、水洗、延伸、乾熱処理し、リサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維は単繊維繊度2.3dtex、破断強度4.0cN/dtexであった。
【0049】
[実施例4]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物である使用済み布帛(重量平均分子量46万のメタ型全芳香族ポリアミド繊維織物)を、塩化カルシウム粉末を含むN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた後、布帛に対して10質量%のメタアラミド粉末(重量平均分子量78万)を溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が18%、塩化カルシウムの質量濃度が2.5%になるよう調整した。
【0050】
このポリマー溶液を実施例1に記載の方法と同様の方法により紡糸、水洗、延伸、乾熱処理し、リサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維は単繊維繊度2.5dtex、破断強度3.0cN/dtexであった。
【0051】
[比較例1]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物である使用済み布帛(重量平均分子量39万のメタ型全芳香族ポリアミド繊維織物)を、塩化カルシウム粉末を含むN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が18%、塩化カルシウムの質量濃度が2.5%になるよう調整した。
【0052】
このポリマー溶液を実施例1に記載の方法と同様の方法により紡糸、水洗、延伸、乾熱処理しようとしたが、延伸工程において多量の断糸が発生し、安定してリサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることはできなかった。得られた繊維は単繊維繊度2.5dtex、破断強度1.4cN/dtexであった。
【0053】
[比較例2]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される繊維構造物である使用済み布帛(重量平均分子量34万のメタ型全芳香族ポリアミド繊維織物)を、塩化カルシウム粉末を含むジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させた後、質量比で等量のメタ型全芳香族ポリアミド粉末(重量平均分子量78万)を溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。この際、ポリマー溶液に対してメタ型全芳香族ポリアミドの質量濃度が20%、塩化カルシウムの質量濃度が5%になるよう調整した。
【0054】
このポリマー溶液を、DMAc水溶液からなる凝固浴中に吐出して紡糸、水洗、延伸、乾熱処理しようとしたが、延伸工程において多量の断糸が発生し、リサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、メタ型全芳香族ポリアミド繊維から構成される、使用済み、即ち、汚損があり、化学分解が進んでいる状態にある繊維構造物を再溶解させ紡糸することでその破断強度が3.0~6.0cN/dtexと良好なリサイクルメタ型全芳香族ポリアミド繊維が提供される。従って、本発明は環境負荷低減へ大きく貢献できるだけでなく、産業上の利用可能性は高く、その工業的価値は極めて大きい。