IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧 ▶ 三菱電機特機システム株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人帯広畜産大学の特許一覧

<>
  • 特許-時間差測定装置及び到来方向推定装置 図1
  • 特許-時間差測定装置及び到来方向推定装置 図2
  • 特許-時間差測定装置及び到来方向推定装置 図3
  • 特許-時間差測定装置及び到来方向推定装置 図4
  • 特許-時間差測定装置及び到来方向推定装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】時間差測定装置及び到来方向推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/808 20060101AFI20230425BHJP
   G01S 3/86 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
G01S3/808
G01S3/86
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019078771
(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公開番号】P2020176902
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】394025094
【氏名又は名称】三菱電機特機システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】津久井 智也
(72)【発明者】
【氏名】新甫 友昂
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 真吾
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-092767(JP,U)
【文献】特開平05-288823(JP,A)
【文献】特開2009-204469(JP,A)
【文献】特開2010-071757(JP,A)
【文献】国際公開第2017/216999(WO,A1)
【文献】特開2000-111630(JP,A)
【文献】特開2000-261410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 - 1/82
G01S 3/80 - 5/14
G01S 5/18 - 7/64
G01S 13/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定距離を隔てて設けられ、所定の伝搬路から到来した受信波を受信することにより一対の受信信号を各々出力する一対の受信部と、
前記一対の受信信号にノイズ抑圧処理を施すことにより一対の抑圧信号を生成するノイズ抑圧部と、
前記一対の抑圧信号に基づいて前記受信波の到来時間差を検出する時間差検出部とを備え
前記ノイズ抑圧部は、
前記一対の受信信号から前記伝搬路のインパルス応答を示す一対の応答信号を生成するインパルス応答取得部と、
前記一対の応答信号から所定時間長を切り出すことにより前記一対の抑圧信号を出力する信号切出部とを備え、
前記インパルス応答取得部は、
前記一対の受信信号にDFT処理を各々施すことにより一対の受信周波数信号を生成する一対の受信DFT部と、
前記受信波に基本波を示す基準信号を生成する基準信号発生部と、
前記基準信号にDFT処理を施すことにより基準周波数信号を生成する基準DFT部と、
前記一対の受信周波数信号を前記基準周波数信号で各々除算することにより一対の周波数応答信号を生成する一対の除算部と、
前記一対の周波数応答信号にIDFT処理を施すことにより一対の応答信号を生成する一対のIDFT部と、
前記一対の応答信号に絶対値演算を施することにより前記一対の抑圧信号を生成する一対の絶対値演算部と、を備える時間差測定装置と、
当該時間差測定装置が出力する前記到来時間差に基づいて前記受信波の到来角を推定する到来角推定部と
を備えることを特徴とする到来方向推定装置。
【請求項2】
前記基準信号発生部は、所定時間長の前記基準信号を連続して複数生成することを特徴とする請求項1に記載の到来方向推定装置
【請求項3】
前記基準信号毎に前記到来時間差を取得して平均化処理する平均化処理部をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の到来方向推定装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間差測定装置及び到来方向推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、水中の測位対象物から発せられた音響信号を複数のハイドロフォンで受信し、上記音響信号毎に相関関数演算を行い、この演算結果に基づいて異なる2個のハイドロフォンが受信した音響信号の到達時間差を求め、この到達時間差を用いて測位対象物の位置が特定する水中測位システムおよび水中測位方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-128968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記背景技術では海等の水中に存在する測位対象物の位置を特定するが、水域によっては音響信号が水底等に反射して伝搬する。この結果、受信器(ハイドロフォン)では、本来の直接波に加えて反射波等のノイズが受信される。このノイズは、到達時間差を求める上で外乱として作用し、推定精度を低下させる要因である。例えば、2つの受信器で受信される2つの受信波について、基本波とノイズの強度関係が逆転していると、到達時間差に比較的大きな誤差が含まれることになる。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、外乱の影響を従来よりも抑制して到来時間差を求めることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、時間差測定装置に係る第1の解決手段として、所定距離を隔てて設けられ、所定の伝搬路から到来した受信波を受信することにより一対の受信信号を各々出力する一対の受信部と、前記一対の受信信号にノイズ抑圧処理を施すことにより一対の抑圧信号を生成するノイズ抑圧部と、前記一対の抑圧信号に基づいて前記受信波の到来時間差を検出する時間差検出部とを備える、という手段を採用する。
【0007】
本発明では、時間差測定装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記ノイズ抑圧部は、前記一対の受信信号から前記伝搬路のインパルス応答を示す一対の応答信号を生成するインパルス応答取得部と、前記一対の応答信号から所定時間長を切り出すことにより前記一対の抑圧信号を出力する信号切出部とを備える、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、時間差測定装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記インパルス応答取得部は、前記一対の受信信号に離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transformation)処理を各々施すことにより一対の受信周波数信号を生成する一対の受信DFT部と、前記受信波に基本波を示す基準信号を生成する基準信号発生部と、前記基準信号にDFT処理を施すことにより基準周波数信号を生成する基準DFT部と、前記一対の受信周波数信号を前記基準周波数信号で各々除算することにより一対の周波数応答信号を生成する一対の除算部と、前記一対の周波数応答信号に逆離散フーリエ変換(IDFT:Inverse Discrete Fourier Transformation)処理を施すことにより一対の応答信号を生成する一対のIDFT部と、前記一対の応答信号に絶対値演算を施することにより前記一対の抑圧信号を生成する一対の絶対値演算部とを備える、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、時間差測定装置に係る第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記基準信号発生部は、所定時間長の前記基準信号を連続して複数生成する、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、時間差測定装置に係る第5の解決手段として、上記第4の解決手段において、前記基準信号毎に前記到来時間差を取得して平均化処理する平均化処理部をさらに備える、という手段を採用する。
【0011】
また、本発明では、到来方向推定装置に係る解決手段として、第1~第5のいずれかの解決手段に係る時間差測定装置と、当該時間差測定装置が出力する前記到来時間差に基づいて前記受信波の到来角を推定する到来角推定部とを備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外乱の影響を従来よりも抑制して到来時間差を求めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る時間差測定装置及び到来方向推定装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態における到来角θを示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態におけるノイズ抑圧部の詳細構成を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施形態におけるノイズ抑圧部の効果を示す特性図である。
図5】本発明の一実施形態における基準信号のDFT処理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る時間差測定装置及び到来方向推定装置は、図1に示すように一対のハイドロホン1A,1B、一対の増幅器2A,2B、ノイズ抑圧部3、時間差検出部4及び到来角推定部5を備えている。これら各構成要素のうち、ノイズ抑圧部3、時間差検出部4及び到来角推定部5は、信号処理装置Aの構成品である。
【0015】
一対のハイドロホン1A,1Bは、所定距離を隔てて設けられ、離間した対象物Xから所定の伝搬路に発信され、当該伝搬路から到来する受信波Wを受信する受信器である。これら一対のハイドロホン1A,1Bは、受信波Wを受信することにより電気信号である一対の受信信号y(t),y(t)を生成して一対の増幅器2A,2Bに各々出力する。
【0016】
すなわち、一対のハイドロホン1A,1Bのうち、第1のハイドロホン1Aは、対象物Xから到来する受信波Wを受信して第1の受信信号y(t)を第1の増幅器2Aに出力する。また、第2のハイドロホン1Bは、対象物Xから到来する受信波Wを受信して第2の受信信号y(t)を第2の増幅器2Bに出力する。
【0017】
ここで、上記伝搬路は、例えば海や湖等の水中である。また、対象物Xは例えば水中を航行する潜水艇であり、所定の音波(基本波)を水中(伝搬路)に発信する。受信波Wは、この基本波が水中を伝搬して一対のハイドロホン1A,1Bに到来する音波である。
【0018】
基本波(音波)の伝搬路では、海底や湖底等の形状に応じて基本波(音波)が反射することがある。すなわち、一対のハイドロホン1A,1Bが受信する受信波Wには、基本波の他に1あるいは複数回の反射を経て到来してきた反射波等のノイズが含まれている。受信波Wは、対象物Xが実際に発信した基本波に反射波等のノイズが重畳した混合波である。
【0019】
したがって、一対の受信信号y(t),y(t)は、下式(1)、(2)に示すように、基本波を示す基準信号x(t)とノイズを示すノイズ信号n(t),n(t)とを含むものである。なお、この式(1)、(2)において、〇と×とを組み合わせた演算記号は、畳込演算子である。また、h’(t)は、対象物Xから第1のハイドロホン1Aまでの基本波の伝搬路の伝達特性を示し、h’(t)は、対象物Xから第2のハイドロホン1Bまでの基本波の伝搬路の伝達特性(時間特性)を示している。
【0020】
【数1】
【0021】
本実施形態に係る時間差測定装置は、図2に示すように、一対の受信信号y1(t),y2(t)の到来時間差Δtを一対のハイドロホン1A,1Bにおける受信波Wの到来時間差として測定する装置であり、また本実施形態に係る到来方向推定装置は、上記到来時間差Δtに基づいて受信波Wの到来角θを推定する装置である。
【0022】
一対のハイドロホン1A,1Bとの距離は、一対のハイドロホン1A,1Bから対象物Xまでの距離に比べて極めて短いので、一対のハイドロホン1A,1Bに到達する受信波Wは、図2に示すように平行波として扱うことができる。この図2では、第1のハイドロホン1Aの位置をP1で示し、第2のハイドロホン1Bの位置をP2で示している。位置P1と位置P2との距離を「D」、また水中における音波の伝搬速度を「S」とすると、到来角θは下式(3)で表される。
【0023】
【数2】
【0024】
第1の増幅器2Aは、第1の受信信号y(t)を所定の増幅度で電圧増幅してノイズ抑圧部3に出力し、第2の増幅器2Bは、第2の受信信号y(t)を所定の増幅度で電圧増幅してノイズ抑圧部3に出力する。
【0025】
第1のハイドロホン1A及び第1の増幅器2Aは第1の受信部を構成し、第2のハイドロホン1B及び第2の増幅器2Bは第2の受信部を構成している。すなわち、本実施形態に係る時間差測定装置及び到来方向推定装置は、一対の受信部を備えている。
【0026】
ノイズ抑圧部3は、一対の受信信号y(t),y(t)に所定のノイズ抑圧処理を施すことにより一対の抑圧信号|h’(t)|,|h’(t)|を生成する。この一対の抑圧信号|h’(t)|,|h’(t)|は、一対の受信信号y(t),y(t)に含まれるノイズ成分を抑圧した電気信号である。
【0027】
より具体的には、ノイズ抑圧部3は図3に示す詳細構成備える。すなわち、このノイズ抑圧部3は、一対の受信DFT部3a,3b、基準信号発生部3c、基準DFT部3d、一対の除算部3e,3f、一対のIDFT部3g,3h、一対の絶対値演算部3i,3j及び一対の信号切出部3m,3nを備えている。
【0028】
一対の受信DFT部3a,3bは、一対の受信信号y(t),y(t)にDFT処理を各々施すことにより一対の受信周波数信号Y(f),Y(f)を生成し、当該一対の受信周波数信号Y(f),Y(f)を一対の除算部3e,3fに各々出力する。
【0029】
すなわち、一対の受信DFT部3a,3bのうち、第1の受信DFT部3aは、第1の受信信号y(t)にDFT処理を各々施すことにより第1の受信周波数信号Y(f)を生成して第1の除算部3eに出力する。また、第2の受信DFT部3bは、第2の受信信号y(t)にDFT処理を各々施すことにより第2の受信周波数信号Y(f)を生成して第1の除算部3eに出力する。
【0030】
このような一対の受信周波数信号Y(f),Y(f)は、上述した式(1)、(2)に基づいて下式(4),(5)のように表される。なお、この式(4),(5)におけるN(f),N(f)は、上述したノイズ信号n(t),n(t)をDFT処理(周波数変換)したものであり、H’(f),H’(f)は、上述した伝達特性h’(t),h’(t)をDFT処理(周波数変換)した周波数応答信号である。
【0031】
【数3】
【0032】
基準信号発生部3cは、上述した受信波Wの基本波を示す基準信号x(t)を生成する信号発生器である。この基準信号x(t)は、インパルス応答の測定に一般的に用いられるM系列信号、TSP(Time Stretched Pulse)信号あるいは周波数領域等化信号等である。この基準信号発生部3cは、所定時間長の基準信号x(t)を時間を空けることなく連続して複数生成して基準DFT部3dに順次出力する。
【0033】
基準DFT部3dは、このような基準信号x(t)にDFT処理を施すことにより基準周波数信号X(f)を生成し、当該基準周波数信号X(f)を一対の除算部3e,3dfに各々出力する。
【0034】
一対の除算部3e,3fは、一対の受信周波数信号Y(f),Y(f)を基準周波数信号X(f)で各々除算することにより一対の周波数応答信号H(f),H(f)を生成して一対のIDFT部3g,3hに各々出力する。これら一対の周波数応答信号H(f),H(f)は、上式(4),(5)に基づいて下式(6),(7)のように表される。
【0035】
【数4】
【0036】
すなわち、一対の除算部3e,3fのうち、第1の除算部3eは、第1の受信周波数信号Y(f)を基準周波数信号X(f)で除算することにより第1の周波数応答信号H(f)を生成して第1の絶対値演算部3iに出力する。また、第2の除算部3fは、第2の受信周波数信号Y(f)を基準周波数信号X(f)で除算することにより第2の周波数応答信号H(f)を生成して第2の絶対値演算部3jに出力する。
【0037】
一対のIDFT部3g,3hは、一対の周波数応答信号H(f),H(f)にIDFT処理を施すことにより一対の応答信号h(t),h(t)を生成して一対の絶対値演算部3i,3jに各々出力する。一対の応答信号h(t),h(t)は、受信波W(音波)の伝搬場におけるインパルス応答に相当する時間信号である。
【0038】
すなわち、一対のIDFT部3g,3hのうち、第1のIDFT部3gは、第1の周波数応答信号H(f)にIDFT処理を施すことにより第1の応答信号h(t)を生成して第1の絶対値演算部3iに出力する。また、第2のIDFT部3hは、第2の周波数応答信号H(f)にIDFT処理を施すことにより第2の応答信号h(t)を生成して第2の絶対値演算部3iに出力する。
【0039】
これら一対の応答信号h(t),h(t)は、上述した式(6),(7)に基づいて下式(8),(9)のように表される。
【0040】
【数5】
【0041】
一対の絶対値演算部3i,3jは、一対の応答信号h(t),h(t)に絶対値演算を施することにより一対の絶対値応答信号|h(t)|,|h(t)|を生成して一対の信号切出部3m,3nに各々出力する。
【0042】
すなわち、一対の絶対値演算部3i,3jのうち、第1の絶対値演算部3iは、第1の応答信号h(t)に絶対値演算を施することにより第1の絶対値応答信号|h(t)|を生成して第1の信号切出部3mに出力する。また、第2の絶対値演算部3jは、第2の応答信号h(t)に絶対値演算を施することにより第2の絶対値応答信号|h(t)|を生成して第2の信号切出部3nに出力する。
【0043】
一対の信号切出部3m,3nは、所定時間長の時間窓を用いることにより一対の絶対値応答信号|h(t)|,|h(t)|から所定時間長を切り出すことにより一対の抑圧信号|h’(t)|,|h’(t)|を時間差検出部4に各々出力する。
【0044】
すなわち、一対の信号切出部3m,3nのうち、第1の信号切出部3mは、第1の絶対値応答信号|h(t)|から所定時間長を切り出して第1の抑圧信号|h’(t)|として時間差検出部4に出力する。また、第2の信号切出部3nは、第2の絶対値応答信号|h(t)|から所定時間長を切り出して第2の抑圧信号|h’(t)|として時間差検出部4に出力する。
【0045】
なお、上述した一対の受信DFT部3a,3b、基準信号発生部3c、基準DFT部3d、一対の除算部3e,3f、一対のIDFT部3g,3h及び一対の絶対値演算部3i,3jは、一対の受信信号から周囲空間のインパルス応答を示す一対の応答信号を生成するインパルス応答取得部3Aを構成している。
【0046】
時間差検出部4は、一対の抑圧信号|h’(t)|,|h’(t)|に一般相互相関関数処理を施することにより到来時間差Δtを検出する。一般相互相関関数(Generalized Cross-correlation Function:GCC)は、2つの信号の時間差を取得する手法として周知のものであり、相互相関関数(Cross-correlation Function)を拡張したものである。この時間差検出部4は、到来時間差Δtを到来角推定部5に出力する。また、この時間差検出部4は、本発明の平均化処理部に相当するものであり、複数の基準信号毎に到来時間差Δtを取得して平均化処理することにより到来時間差Δtの信頼性を向上させる。
【0047】
到来角推定部5は、上述した式(1)に基づいて到来角θを求める。すなわち、この到来角推定部5は、一対のハイドロホン1A,1Bの距離Dと、音波の伝搬速度Sを予め記憶しており、当該距離D、伝搬速度S及び時間差検出部4から取得した到来時間差Δtを式(1)に代入することにより到来角θを演算する。
【0048】
次に、本実施形態に係る時間差測定装置及び到来方向推定装置の動作について、図4及び図5をも参照して詳しく説明する。
【0049】
図4(a)は、一対の受信信号y(t),y(t)の一例を示しており、図4(b)は、このような一対の受信信号y(t),y(t)に対応する一対の応答信号h(t),h(t)を示している。一対の受信信号y1(t),y2(t)は、上述した反射波等の雑音が含まれている関係で基本波が殆ど識別できない時間信号である。
【0050】
これに対して、一対の応答信号h(t),h(t)は、上述した式(8)、(9)にも示されているように、基準信号x(t)を用いた受信波Wの伝搬場におけるインパルス応答(時間応答特性)を示すものであり、ノイズ信号n(t),n(t)が基準信号x(t)によって抑圧された信号である。このような一対の応答信号h(t),h(t)は、図4(b)に示すように、基本波が最も高いレベルの信号成分として現れる信号である。
【0051】
すなわち、ノイズ抑圧部3のインパルス応答取得部3Aは、一対の受信信号y(t),y(t)にノイズ抑圧処理を施すことにより、反射波等の雑音(ノイズ)が抑圧された一対の応答信号h(t),h(t)を生成する。そして、インパルス応答取得部3Aは、一対の応答信号h(t),h(t)に絶対値演算を施した一対の絶対値応答信号|h(t)|,|h(t)|を一対の信号切出部3m,3nに出力する。
【0052】
ここで、受信波Wは不確定なタイミングで一対のハイドロホン1A,1Bで受信されるので、一対の受信信号y(t),y(t)は、不確定なタイミングで一対の受信DFT部3a,3bに入力される。これに対して、基準信号発生部3cは基準信号x(t)を間隔を空けることなく順次連続的に発生させるので、基準DFT部3dには基準信号x(t)が間隔を空けることなく連続的に入力される。
【0053】
そして、一対の受信DFT部3a,3bは、所定時間長の時間窓を用いて一対の受信信号y(t),y(t)を切り出すことによりDFT処理を行い、また基準DFT部3dは、上記時間長と同じ時間長の時間窓を用いて基準信号x(t)を切り出すことによりDFT処理を行う。
【0054】
図5(a)の上段に示すように、1つの基準信号x(t)を正確にDFT処理するためには、時間窓による切出タイミングを基準信号x(t)に同期させる必要があるが、本実施形態では、図5(a)の下段に示すように間隔を空けることなく順次連続的に基準信号x(t)が基準DFT部3dに入力されるので、時間窓による切出タイミングを基準信号x(t)に同期させることなく、基準信号x(t)を正確にDFT処理することができる。
【0055】
そして、一対の信号切出部3m,3nは、一対の絶対値応答信号|h(t)|,|h(t)|から所定時間長の信号を切り出すことにより一対の抑圧信号|h’(t)|,|h’(t)|を時間差検出部4に出力する。この一対の抑圧信号|h’(t)|,|h’(t)|は、上述した一対の応答信号h(t),h(t)と同様に、基本波に対して雑音が抑圧された時間信号である。
【0056】
時間差検出部4は、このような一対の抑圧信号|h’(t)|,|h’(t)|を用いて一対のハイドロホン1A,1Bにおける受信波Wの到来時間差Δtを推定する。この到来時間差Δtは、従来のように一対の受信信号y(t),y(t)を用いる場合に比較して精度が良い。
【0057】
すなわち、本実施形態によれば、一対の抑圧信号|h’(t)|,|h’(t)|を生成するノイズ抑圧部3が時間差検出部4の前段に設けられるので、一対の受信信号y1(t),y2(t)を直接用いる場合に比較して、基本波に重畳する反射波等の外乱の影響を抑制して到来時間差Δtを求めることが可能である。
【0058】
また、本実施形態では、基準信号x(t)が時間を空けることなく連続的に基準DFT部3dに入力されるので、図5(b)に示すように、基準DFT部3dによって複数時刻に切り出された基準信号x(t)に基づいて複数の到来時間差Δtを取得することができる。そして、このような複数の到来時間差Δtを平均化処理することによって、該らの影響をより軽減して検出精度がより高い到来時間差Δtを取得することができる。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、水中を伝搬する音波を受信波Wとしたが、本発明はこれに限定されない。本発明は音波以外の波動にも適用可能である。すなわち、対象物Xは、水中に存在するものに限定されない。
【0060】
(2)上記実施形態では、インパルス応答取得部3Aを採用することにより一対の受信信号y(t),y(t)に重畳するノイズ信号n(t),n(t)を抑圧したが、本発明はこれに限定されない。本発明のノイズ抑圧部として、他の方式のノイズ抑圧処理を一対の受信信号y(t),y(t)に施すものを採用してもよい。
【0061】
(3)上記実施形態では、一般相互相関関数を用いることにより到来時間差Δtを検出したが、本発明はこれに限定されない。到来時間差Δtの検出手法として、例えば相互相関関数あるいは整合フィルタを用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
A 信号処理装置
X 対象物
W 受信波
1A,1B ハイドロホン(受信部)
2A,2B 増幅器(受信部)
3 ノイズ抑圧部
3a,3b 受信DFT部
3c 基準信号発生部
3d 基準DFT部
3e,3f 除算部
3g,3h IDFT部
3i,3j 絶対値演算部
3m,3n 信号切出部
3A インパルス応答取得部
4 時間差検出部
5 到来角推定部
図1
図2
図3
図4
図5