(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】蒸留酒
(51)【国際特許分類】
C12H 6/02 20190101AFI20230425BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20230425BHJP
【FI】
C12H6/02
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2019107279
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】高木 大介
(72)【発明者】
【氏名】牛久 純
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-067316(JP,A)
【文献】特開2018-050504(JP,A)
【文献】特開2016-135110(JP,A)
【文献】Journal of Agricultural and Food Chemistry,2008年,Vol.56,p.9030-9036
【文献】ROKU GIN|商品情報|サントリーバーテンダーズクラブ, [online], 11-06-2017 uploaded, [Retrieved on 10-01-2023], Retrieved from the internet:<URL: https://web.archive.org/web/20170611210247/http://bartendersclub.suntory.co.jp/brand/2017/06_roku_gin/>
【文献】ジンの基礎講座~ボタニカルの抽出・蒸留方法とは?, [online], 30-10-2017 uploaded, [Retrieved on 10-01-2023], Retrieved from the internet:<URL: https://web.archive.org/web/20171030185603/http://liquorpage.com/how-to-make-use-of-botanicals-to-gin/>
【文献】和の素材で高級ジン, 日経テレコン, [online], 日経MJ(流通新聞),2017年5月26日,p.14, [Retrieved on 10-01-2023], Retrieved from the Internet: <URL: http://t21.nikkei.co.jp>
【文献】Japanese Craft Gin,Mintel GNPD, [online], ID#:5212555 ,2017年11月, [Retrieved on 10-01-2023], Retrieved from the Internet: <URL: https://portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
C12H
A23L
C11B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
Mintel GNPD
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレンジの果皮を含む柑橘類果実を、5~45℃にて4~72時間、エタノール水溶液に浸漬させた後、このエタノール水溶液を、留出液のエタノール濃度が
52~80%である間に常圧で蒸留することを含む、蒸留酒の製造方法。
【請求項2】
蒸留中にエタノールおよび水を追加することをしない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エタノール水溶液に柑橘類果実を浸漬させる温度が
10~40℃であり、浸漬させる時間が
8~48時間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
オレンジの果皮が、冷凍したオレンジの果皮を含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの方法で製造した蒸留酒。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかの方法で製造した蒸留酒を配合した飲食品。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかの方法で製造した蒸留酒を配合する工程を含む、飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留酒およびその製造方法に関する。また、本発明は、蒸留酒を配合した飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
果実や果皮等の香気成分を含有する精油やアルコール水溶液を蒸留により製造する方法が知られている。
例えば、特許文献1には、柑橘類又はリンゴの生の果実の皮をアルコールに浸漬し、減圧蒸留することを特徴とする蒸留酒の製造法が記載されている。また、特許文献2には、柑橘類の搾汁残渣にセルラーゼやペクチナーゼなどの酵素処理を行い、そして減圧蒸留を行って、効率よくエッセンシャルオイルやフローラルウォーターを製造することが記載されている。
【0003】
また、蒸留に関して、特許文献3には、蒸留して得られる凝縮液の一部を還流させながら蒸留する方法が記載されている。さらに、特許文献4には、柚子の果皮を蒸留釜に入れて常圧蒸留する際に、エタノールと水を追加しながら、留出液のエタノール濃度が10~50%であるタイミングで蒸留することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4302871号公報
【文献】特開2004-18737号公報
【文献】特許第2829407号公報
【文献】特開2016-67316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、蒸留酒の蒸留においては、留出のタイミングによって回収した蒸留酒の香味が異なり、条件によっては、好ましくない臭い、例えば、煮詰まり臭や焦げ臭が顕在化してしまうことがある。
【0006】
柑橘類の香りを付与した蒸留酒は、それ単独で飲用されることはもちろん、他の飲料や食品に配合したりして使用される。しかしながら、柑橘類の優れた香りを十分に残しつつも、蒸留による好ましくない臭いを防止することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題について鋭意検討した結果、柑橘類を浸漬したエタノール水溶液を蒸留する際、エタノールおよび水を追加することなく、留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度が一定範囲にあると、留出液への刺激の強い成分、あるいは好ましくない臭いの移行を増加させずに、柑橘類の好ましい香気成分を多く取得できることを見出した。
【0008】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
(1) 柑橘類果実を浸漬させたエタノール水溶液を、留出液のエタノール濃度が50~80%である間に常圧で蒸留することを含む、蒸留酒の製造方法。
(2) 蒸留中にエタノールおよび水を追加することをしない、(1)に記載の方法。
(3) エタノール水溶液に柑橘類果実を浸漬させる温度が5~45℃であり、浸漬させる時間が4~72時間である、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 柑橘類果実がオレンジの果皮を含む、(1~(3)のいずれかに記載の方法。
(5) (1)~(4)のいずれかの方法で製造した蒸留酒。
(6) (1)~(4)のいずれかの方法で製造した蒸留酒を配合した飲食品。
(7) (1)~(4)のいずれかの方法で製造した蒸留酒を配合する工程を含む、飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、柑橘類を浸漬したエタノール水溶液からの蒸留において、留出液への好ましくない臭いの移行を防止しつつ、柑橘類の香気成分をより多く取得することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
エタノール水溶液
本発明において蒸留酒の原料として用いられる「エタノール水溶液」は、エタノールを含有する水溶液を意味する。当該水溶液は、エタノールと水に加えて、香気成分などの他の成分を含んでもよい。当該エタノール水溶液の範囲には、エタノールを含む酒類も含まれる。そのような酒類としては、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ジン、ウオツカ、ニュートラルスピリッツ、醸造酒などを挙げることができる。
【0011】
本発明においては、柑橘類果実およびエタノール水溶液を原料として用いる。本発明においては、エタノール水溶液に柑橘類果実を浸漬して使用する。柑橘類果実は特に制限されないが、例えば、オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライム、柚子などを挙げることができ、特にオレンジが好ましい。柑橘類果実の部位は特に制限されず、果肉、果皮、果汁のいずれも使用できるが、果実の香気成分の多くは果皮とその近傍の果肉に多く存在しているので、果皮を使用することが好ましい。冷凍物、冷蔵物、乾燥物のいずれであってもよく、その水分量も限定されない。果皮はそれだけで用いてもよいが、果実や果肉と共に用いてもよい。好ましくは、柑橘類の生の果皮を冷凍させたものを用いる。
【0012】
本発明の好ましい態様において、柑橘類果実としてオレンジを使用する。オレンジは、柑橘類に属する植物であり、スイートオレンジ、サワーオレンジ、マンダリンオレンジに大別される。本発明においては、オレンジであれば産地や品種などは問わずに自由に使用でき、スイートオレンジであれば、例えば、早生種、中生種、晩生種などの普通オレンジ、ネーブルオレンジ、ブラッドオレンジなど、ビターオレンジであれば、例えば、ダイダイなどを挙げることができる。本発明の好ましい態様において、オレンジとして、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジを使用することができる。
【0013】
本発明においては、柑橘類果実の他に他の生物原料をアルコール水溶液に加えてもよい。アルコール水溶液に加える原料は、植物原料であっても動物原料であってもよく、植物原料の例としては、果実、果皮、ハーブ、草根木皮(シソ、桜葉など)、根菜類、野菜類、スパイス、コーヒーなどの焙煎原料が挙げられ、好ましい原料は、果実、果皮及びハーブであり、原料は単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。冷凍物、冷蔵物、乾燥物のいずれであってもよく、その水分量も限定されない。
【0014】
柑橘類果実と併用する果実は、特に限定されないが、例えば、リンゴ、ブドウ、マスカット、さくらんぼ、メロン、スイカ、カシス、モモ、熱帯果実(パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ等)、その他果実(ウメ、ナシ、洋ナシ、アンズ、スモモ、ベリー(ストロベリー、ジュニパーベリー、クランベリー、ブルーベリー、ラズベリーなどを含む)、キウイフルーツ等)などの果実及びその果皮が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。果実の香気成分の多くは果皮とその近傍の果肉に多く存在しているので、果皮を原材料として用いることが好ましい。
【0015】
また、本発明において用いられるハーブは、ハーブとして知られているものであれば特に限定されないが、例えば、シソ、山椒、茶(学名 Camellia sinensis (L.) Kuntze)、シナモン、コリアンダーなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
蒸留前のアルコール水溶液に添加される原料は、蒸留前に加工処理が施されたものでもよい。例えば、生物原料を乾燥させてから蒸留に供してもよいが、乾燥させず生のまま用いることもできる。また、生物原料は、蒸留前に裁断してもよいし、凍結してもよい。さらに、凍結物を粉砕してもよい。また、生物原料を搾汁して生成する搾り粕も、原料として用いることができる。本発明においては、それらの加工処理の二種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0017】
柑橘類果実を添加するアルコール水溶液について、そのエタノールと水の比率は限定されないが、エタノールと水の容量比は、好ましくは5:95~99:1、より好ましくは5:95~80:20、より好ましくは5:95~50:50、より好ましくは10:90~40:60、より好ましくは10:90~30:70である。
【0018】
本発明においては、蒸留の際にエタノールや水を添加することはしない。これらを追加で添加することによって、作業に手間がかかり作業者の負荷が増大したり、加水する事により蒸留によって得られる液体生成物の量が増えるため、収集できる香り成分が薄まったりしてしまう。加水しない方が蒸留液の香味を濃くすることができ、得られる液体生成物の量も少なくなるため保管スペースも少量で良い。
【0019】
蒸留の結果得られる蒸留酒のエタノール濃度は、10~80%、好ましくは20~75%、より好ましくは30~70%、さらに好ましくは35~65%、特に好ましいのは40~60%である。なお、本明細書におけるエタノール濃度はv/v%を意味し、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、エタノール水溶液から、必要に応じて濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いて、試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留出液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。
【0020】
(蒸留)
本発明においては、まず、オレンジなどの柑橘類果実をエタノール水溶液に添加する。柑橘類果実の添加は、蒸留の際に加熱される容器(例えば、蒸留釜)の中で行ってもよいし、それらの一部又は全てを混合してから、混合物を当該容器に入れてもよい。添加後、浸漬する時間は特に制限されないが、4~72時間が好ましく、8~48時間がより好ましく、12~24時間がさらに好ましい。浸漬温度も特に制限されないが、5~45℃が好ましく、10~40℃がより好ましく、15~35℃がさらに好ましい。柑橘類果実とエタノール水溶液の混合比は、特に限定されないが、例えば、柑橘類果実を、エタノール水溶液の0.5~50%(w/v)、10%~50%(w/v)、又は20~30%(w/v)用いることができる。混合により得られる混合物には、本発明の効果に悪影響を与えない限り、柑橘類果実、エタノール、水に加えて、他の成分が含まれていてもよい。例えば、エタノール及び水を供給するために、エタノール水溶液を用いることができ、それは酒類であってもよい。また、酒類として、発酵もろみを用いることができる。
【0021】
次いで、当該混合物を加熱して蒸留を開始する。蒸留は、減圧下で行ってもよいし、常圧で(減圧や加圧のための処理をしないで)蒸留を行ってもよい。好ましくは、蒸留は、常圧で加熱をして行う。蒸留の際の圧力は、典型的には、95kPa~106kPaである。また、本発明の方法は、典型的には単式蒸留釜を用いて行われ、蒸留釜の上に段塔をつけても、実施することができる。
【0022】
当該混合物が加熱されて蒸気が生成し、当該蒸気が冷却器を用いて凝縮され、留出液が生成する。留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度は50~80%であり、52~75%が好ましく、53~70%がより好ましく、55~63%がさらに好ましく、56~60%が特に好ましい。当該留出液のエタノール濃度は、一時的に当該数値範囲となるだけでもよいが、出来るだけ長い期間に当該数値範囲となることが好ましい。
【0023】
当該留出液のエタノール濃度は、留出液が、その生成時に有しているエタノール濃度を意味し、これは生成時期に依存して変化する。この濃度は、生成後しばらく経過しても大きく変化しないため、生成直後ではなく、しばらく時間が経過してから測定しても、生成時の濃度を見積もることができる。例えば、留出液を比較的少量のフラクションに分けて、各フラクションのエタノール濃度を測定すれば、留出液が生成時に有していたエタノール濃度、又はそれに非常に近い値を求めることができる。一方、測定方法が適切でない場合、例えば、比較的多量のフラクションに分けて各フラクションのエタノール濃度を測定する場合や、エタノール濃度の異なる複数のフラクションを合わせてからエタノール濃度を測定する場合には、正確な生成時のエタノール濃度が得られないことがある。
【0024】
(蒸留酒の利用)
本発明によって得られた柑橘類果実の香りを有する蒸留酒は、そのまま飲用することもでき、場合によっては、ある程度希釈された後に飲用することもできる。また、例えば、飲食品に利用することができる。従って、得られた留出液のフラクションを全てまとめて利用してもよいが、好ましくない臭いを有するフラクションを排除して、好ましいフラクションだけを集めて利用することもできる。このためには、例えば、留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度が50~80%、好ましくは52~75%、より好ましくは53~70%、さらに好ましくは55~63%、特に好ましくは56~60%であるときに得られたフラクションだけを集めることができる。場合により、留出液の生成時の当該留出液のエタノール濃度が当該範囲に下がる前に得られたフラクションも利用してもよい。
【0025】
本発明によって得られた柑橘類の香りを有する蒸留酒は、そのまま、あるいは水又はエタノールで希釈して飲用に供することができる。その場合には、必要に応じて、砂糖、液糖、酸味料等の追加成分を添加してもよい。あるいは、本発明に係る蒸留酒は、飲料や食品に添加することもできる。そのような飲料や食品の例としては、チューハイなどのアルコール飲料、炭酸飲料、果実飲料、紅茶等の飲料、及びアイスクリーム、ケーキ、飴、ガム、菓子、パン等の食品が挙げられる。当該エタノール水溶液の添加量については特段の制限はなく、その添加量は、付与する香気の程度と嗜好性によって決定される。
【0026】
本発明の蒸留酒を配合した容器詰飲料を製造する場合、使用される容器は、特に制限されず、一般的な容器を使用することができる。樹脂製容器としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)を好適な例として挙げることができる。樹脂製容器の他にも、例えば、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などを挙げることができ、このような容器に密閉した形態で提供することができる。容量は、特に限定されないが、例えば150mL~1000mLであり、好ましくは190mL~800mLである。
【0027】
本発明の蒸留酒を配合した容器詰飲料を製造する場合、加熱殺菌をすることが可能であり、加熱殺菌の条件は、例えば、食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる方法を選択することができ、具体的には、60~150℃、好ましくは90~150℃、より好ましくは110~150℃で、1秒間~60分間、好ましくは1秒間~30分間とすることができる。容器として耐熱性容器(金属缶、ガラス等)を使用する場合には、レトルト殺菌(110~140℃、1~数十分間)を行えばよい。また、容器として非耐熱性容器(PETボトル、紙容器等)を用いる場合は、例えば、調合液を予めプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後(UHT殺菌:110~150℃、1~数十秒間)、一定の温度まで冷却した後、容器に充填することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の具体例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載し、濃度などは重量基準である。
【0029】
実験1:蒸留酒の製造と評価
(1)蒸留酒の製造と評価
オレンジの果皮を10~35℃で、18時間エタノール水溶液に浸漬させた上で、常圧蒸留によって蒸留酒を製造した。蒸留釜、冷却塔、留出液回収容器などは、一般的な装置を使用した。
【0030】
オレンジ(バレンシア産)の冷凍果皮300gをニュートラルスピリッツ(エタノール濃度50v/v%)700mlと混合し、18時間浸漬して静置した。次いで、蒸留釜を加熱して蒸留を開始した。
【0031】
蒸留の際は、留出液を30mlずつ取得して、蒸留酒のフラクションを得た。留出液のエタノール濃度が49v/v%より低くなると、煮詰まった香りが強くなった。この実験においては、エタノール及び水の追加は蒸留中に実施しなかった。
【0032】
得られた蒸留酒について、訓練されたパネリスト3名により、各フラクションのオレンジの特徴的な香気について官能評価を行い、協議した上でスコアを決定した。評価基準は以下の通りである。
・5点:オレンジの特徴を強く感じる。
・4点:オレンジの特徴をやや強く感じる。
・3点:オレンジの特徴を感じる。
・2点:オレンジの特徴をわずかに感じる。
・1点:オレンジの特徴を感じない。
【0033】
【0034】
表から明らかなように、留出液のエタノール濃度を50~80v/v%の段階の留出液を回収することによって、オレンジの好ましい香りを有する蒸留酒を得ることができた。
(2)香気成分の分析
得られた蒸留酒について、柑橘類に特徴的な香気成分とされるヌートカトン(Nootkatone)とカリオフィレンオキシド(Caryophyllene Oxide)の含有量を確認した。具体的には、フラクション1~12をすべて合わせた蒸留酒とフラクション1~9をすべて合わせた蒸留酒について、標品を用いてガスクロマトグラフィー(GLC)法によって定量した。
【0035】
結果を下表に示すが、本発明によって得られた蒸留酒は、柑橘類に特徴的な香気成分を多く含有することが確認された。
【0036】
【0037】
実験2:容器詰アルコール飲料の製造と評価
実験1で製造したオレンジの香気を有する蒸留酒を配合して、容器詰アルコール飲料を製造した。
【0038】
実施例の飲料サンプルには実験1で製造した柑橘蒸留酒(フラクション8~12を混合しアルコール度数58v/v%に調整したもの)を0.1%配合し、比較例の飲料サンプルには実験1で製造した蒸留酒を配合しなかった。具体的には、容器詰アルコール飲料は、果糖ぶどう糖液糖(最終濃度4w/v%)、ブラジル産バレンシアオレンジ果汁(最終濃度3w/v%、ストレート果汁換算)、酸味料(クエン酸、最終濃度0.3w/v%)を配合し、水およびニュートラルスピリッツ(58v/v%)を添加して最終的なアルコール濃度を5v/v%に調整した(飲料のpH:約3.3)。
【0039】
得られた容器詰飲料について、オレンジの香味と総合的な美味しさを評価した。具体的には、訓練されたパネリスト3名により飲料サンプルの官能評価を行い、各パネリストの評価点を平均してスコアを決定した。評価基準は以下の通りである。
(オレンジの香味)
・5点:オレンジの特徴を強く感じる。
・4点:オレンジの特徴をやや強く感じる。
・3点:オレンジの特徴を感じる。
・2点:オレンジの特徴をわずかに感じる。
・1点:オレンジの特徴を感じない
(飲料としての美味しさ)
・5点:非常においしい
・4点:美味しい
・3点:普通
・2点:美味しさに欠ける
・1点:美味しくない
【0040】
【0041】
実験3:容器詰アルコール飲料の製造と評価
ニュートラルスピリッツの代わりに各種蒸留酒(アルコール濃度:40v/v%)を使用した以外は、実験2と同様にして容器詰アルコール飲料を製造して評価した(最終的なアルコール濃度:5v/v%)。
(使用した蒸留酒)
・ウイスキー:「サントリーウイスキー角瓶」
・ジン:「サントリードライジン エクストラ」
・バーボン:「ジムビーム」
・ブランデー:「サントリーブランデーV.S.O.P」
・テキーラ:「テキーラ サウザ シルバー」
・ラム:「サントリーラム ゴールド」
【0042】
【0043】
オレンジの香味を付与させた本発明の蒸留酒を配合することによって優れた容器詰アルコール飲料を製造することができ、特に、ウイスキー、ジン、バーボンとブレンドした飲料はオレンジの香りが蒸留酒と調和して、総合的に優れたアルコール飲料となった。
【0044】
実験4:容器詰アルコール飲料の製造と評価
アルコール濃度が6v/v%のウイスキーハイボール飲料を調製して評価した。具体的には、市販のバーボンウイスキー(「ジムビーム」、ビームサントリー製、アルコール濃度:40v/v%)167ml、市販の炭酸水(サントリーソーダ、サントリーフーズ製)833mlを混合し、さらに、ニュートラルスピリッツ(アルコール濃度:58v/v%)、オレンジ果汁、実験1で製造した柑橘蒸留酒(フラクション8~12を混合しアルコール度数58v/v%に調整したもの)を下表のように添加した。
【0045】
得られた飲料サンプルについて、オレンジらしさと飲料としての美味しさを実験2および実験3と同様にして評価したところ、本発明による柑橘蒸留酒を配合することによって、バランスのよい柑橘の香りが好ましい飲料が得られた。
【0046】