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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】医療用具
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/04 20060101AFI20230425BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20230425BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20230425BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20230425BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20230425BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20230425BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20230425BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20230425BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20230425BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230425BHJP
   A61M 25/00 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L29/12
A61L29/08 100
A61L29/14
A61L31/04 110
A61L31/04 120
A61L31/06
A61L31/10
A61L31/12
A61L31/14
A61M25/00 500
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020501778
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006073
(87)【国際公開番号】W WO2019163764
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2018027839
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】倉本 政則
(72)【発明者】
【氏名】横手 成実
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158700(WO,A1)
【文献】特開平08-109221(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056611(WO,A1)
【文献】特表2002-501788(JP,A)
【文献】特表2015-500088(JP,A)
【文献】特表2003-513712(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084716(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/038063(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/00-29/18
A61L 31/00-31/18
A61M 25/00-25/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層の少なくとも一部に形成され、スルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位と、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位と、光反応性基を有する重合性単量体(C)由来の構成単位とを含む、親水性共重合体を含む接着層と、
前記接着層の少なくとも一部に形成され、高分子電解質および多糖からなる群より選択される少なくとも一種の親水性高分子を含む表面潤滑層と、を有し、
前記重合性単量体(A)は、下記式(1)で表され、
【化1】

上記式(1)中、
11 は、水素原子またはメチル基であり、
は、酸素原子または-NH-であり、
12 およびR 15 は、それぞれ独立して、メチレン基、エチレン基またはトリメチレン基であり、
13 およびR 14 は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である、
前記重合性単量体(B)は、下記式(2)、(3)または(4)で表され、
【化2】

上記式(2)中、
21 は、水素原子またはメチル基であり、
は、酸素原子または-NH-であり、
22 は、炭素原子数3~5の分岐鎖のアルキレン基であり、
Xは、スルホン酸基(-SO H)、硫酸基(-OSO H)および亜硫酸基(-OSO H)ならびにこれらのアルカリ金属塩の基からなる群より選択される基である;
【化3】

上記式(3)中、
31 は、水素原子またはメチル基であり、
32 は、単結合または炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、
Xは、スルホン酸基(-SO H)、硫酸基(-OSO H)および亜硫酸基(-OSO H)ならびにこれらのアルカリ金属塩の基からなる群より選択される基である;
【化4】

上記式(4)中、
41 は、水素原子またはメチル基であり、
42 は、炭素原子数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、
Xは、スルホン酸基(-SO H)、硫酸基(-OSO H)および亜硫酸基(-OSO H)ならびにこれらのアルカリ金属塩の基からなる群より選択される基である、
前記重合性単量体(C)は、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-ブロモベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-ブロモベンゾフェノンおよび4-スチリルメトキシベンゾフェノンからなる群より選択され、
前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、10~99モル%であり、
前記重合性単量体(B)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、1~99モル%であり、
前記重合性単量体(C)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、0.1~20モル%であり、
前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量、前記重合性単量体(B)由来の構成単位の含有量および前記重合性単量体(C)由来の構成単位の含有量の合計が、全単量体由来の構成単位の合計量100モル%に対して、95モル%を超え、
前記基材層は、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂から形成され、
前記高分子電解質は、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、メタクリルオキシエチルスルホン酸および2-アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS)ならびにこれらのアルカリ金属塩からなる群より選択される不飽和モノマーの重合体系物質であり、
前記多糖は、アルギン酸、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、カルボキシメチルセルロース、硫酸セルロース、カルボキシエチルセルロース、および硫酸デキストラン及びデキストリンならびにこれらのアルカリ金属塩からなる群より選択される、医療用具。
【請求項2】
基材層と、
前記基材層の少なくとも一部に形成され、スルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位と、スルホン酸基(-SO H)、硫酸基(-OSO H)および亜硫酸基(-OSO H)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位と、光反応性基を有する重合性単量体(C)由来の構成単位とを含む、親水性共重合体を含む接着層と、
前記接着層の少なくとも一部に形成され、高分子電解質および多糖からなる群より選択される少なくとも一種の親水性高分子を含む表面潤滑層と、を有し、
前記重合性単量体(A)は、下記式(1)で表され、
【化5】

上記式(1)中、
11 は、水素原子またはメチル基であり、
は、酸素原子または-NH-であり、
12 およびR 15 は、それぞれ独立して、メチレン基、エチレン基またはトリメチレン基であり、
13 およびR 14 は、それぞれ独立して、炭素原子数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である、
前記重合性単量体(B)は、下記式(2)で表され、
【化6】

上記式(2)中、
21 は、水素原子またはメチル基であり、
は、酸素原子または-NH-であり、
22 は、炭素原子数3~5の分岐鎖のアルキレン基であり、
Xは、スルホン酸基(-SO H)、硫酸基(-OSO H)および亜硫酸基(-OSO H)ならびにこれらのアルカリ金属塩の基からなる群より選択される基である、
前記重合性単量体(C)は、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-ブロモベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-ブロモベンゾフェノンおよび4-スチリルメトキシベンゾフェノンからなる群より選択され、
前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、10~99モル%であり、
前記重合性単量体(B)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、1~99モル%であり、
前記重合性単量体(C)由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、0.1~20モル%であり、
前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量、前記重合性単量体(B)由来の構成単位の含有量および前記重合性単量体(C)由来の構成単位の含有量の合計が、全単量体由来の構成単位の合計量100モル%に対して、95モル%を超え、
前記基材層は、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂から形成され、
前記高分子電解質は、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、メタクリルオキシエチルスルホン酸および2-アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS)ならびにこれらのアルカリ金属塩からなる群より選択される不飽和モノマーの重合体系物質であり、
前記多糖は、アルギン酸、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、カルボキシメチルセルロース、硫酸セルロース、カルボキシエチルセルロース、および硫酸デキストラン及びデキストリンならびにこれらのアルカリ金属塩からなる群より選択される、医療用具。
【請求項3】
前記重合性単量体(A)は、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジエチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジエチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジメチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジエチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシドおよび{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジエチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記重合性単量体(B)は、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、1-[(メタ)アクリロイルオキシメチル]-1-プロパンスルホン酸、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]-2-プロパンスルホン酸、3-[(メタ)アクリロイルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレートおよび3-スルホプロピル(メタ)アクリレートならびにこれらのアルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医療用具。
【請求項5】
前記基材層は、ポリアミド樹脂から形成され、
前記重合性単量体(A)は、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシドであり、
前記重合性単量体(B)は、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩であり、
前記重合性単量体(C)は、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノンであり、
前記重合性単量体(A)由来の構成単位の含有量、前記重合性単量体(B)由来の構成単位の含有量および前記重合性単量体(C)由来の構成単位の含有量の合計が、全単量体由来の構成単位の合計量100モル%に対して、99モル%を超え、
前記高分子電解質は、スチレンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩の重合体系物質であり、
前記多糖は、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロースまたはこれらのアルカリ金属塩からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の医療用具。
【請求項6】
前記医療用具は、カテーテル、ステントまたはガイドワイヤである、請求項のいずれか1項に記載の医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する表面潤滑層を有する医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カテーテルは、その外径を細径化して血管の末梢部への挿通性を高めることで、様々な病変部の診断や治療に使用されている。そのため、カテーテルによる診断又は治療では、カテーテルと生体管腔内面との間のクリアランスが極めて小さくなり、カテーテル表面に高い摩擦抵抗が生じる場合がある。そのため、カテーテルは、カテーテル表面に潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を付与するコーティングが求められている。
【0003】
また、カテーテルの基材は、様々な材料を使用して構成されるため、多種多様である。そのため、カテーテルの基材にコーティングを施す際、カテーテルは、基材の表面と表面潤滑層との間に接着層を設けることで、基材に対し、表面潤滑層を強固に接着させる必要がある。
【0004】
例えば、米国特許第5,977,517号(特開2010-29688号公報に相当)には、アクリル樹脂や、エポキシ樹脂、アセタール樹脂などを主成分に含む接着層を設けた医療器具が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、米国特許第5,977,517号に記載のコーティングは、万が一に表面潤滑層が摩耗し、接着層が露出した場合、接着層がアクリル樹脂や、エポキシ樹脂、アセタール樹脂などを主成分に含むため、十分な潤滑性を発揮することができない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する医療用具を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、十分な潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する接着層ならびに、前記接着層と強固に接着すると共に優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する表面潤滑層を有する医療用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に形成され、スルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位と、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位と、光反応性基を有する重合性単量体(C)由来の構成単位とを含む、親水性共重合体を含む接着層と、前記接着層の少なくとも一部に形成され、前記親水性共重合体を溶解もしくは膨潤し得る溶媒に溶解可能な親水性高分子を含む表面潤滑層と、を有する医療用具によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る医療用具の代表的な実施形態の表面の積層構成を模式的に表した部分断面図である。
図2図1の実施形態の応用例として、表面の積層構成の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。
図3】実施例1~3および比較例1で用いた潤滑性および耐久性試験装置(摩擦測定機)の模式図である。
図4】実施例1~3および比較例1における潤滑性および耐久性試験結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~60%RHの条件で測定する。
【0011】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。同様に、「(メタ)アクリロイル」との語は、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリロイル基」との語は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の双方を包含する。
【0012】
また、本明細書において「置換」とは、特に定義しない限り、C1~C30アルキル基、C2~C30アルケニル基、C2~C30アルキニル基、C1~C30アルコキシ基、アルコキシカルボニル基(-COOR、RはC1~C30アルキル基)、ハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI原子)、C6~C30アリール基、C6~C30アリールオキシ基、アミノ基、C1~C30アルキルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、C1~C30アルキルチオ基またはヒドロキシル基で置換されていることを指す。なお、ある基が置換される場合、置換された構造がさらに置換される前の定義に含まれるような置換の形態は除外される。例えば、置換基がアルキル基である場合、置換基としてのこのアルキル基はさらにアルキル基で置換されることはない。
【0013】
また、本明細書において、「重合性単量体」を単に「単量体」とも称する。
【0014】
また、本明細書において、ある構成単位がある単量体に「由来する」とされる場合には、当該構成単位が、その構成単位に対応する単量体に存在する重合性不飽和二重結合(C=C)が単結合(-C-C-)になることにより生じる2価の構成単位であることを意味する。
【0015】
本発明は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に形成され、スルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位と、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位と、光反応性基を有する重合性単量体(C)由来の構成単位とを含む、親水性共重合体を含む接着層と、前記接着層の少なくとも一部に形成され、前記親水性共重合体を溶解もしくは膨潤し得る溶媒に溶解可能な親水性高分子を含む表面潤滑層と、を有する医療用具を提供する。本発明に係る医療用具は、優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する表面潤滑層を形成することができる。また、本発明に係る親水性共重合体を含む接着層は、基材層と良好な接着性を有する。また、本発明に係る親水性共重合体を含む接着層は、表面潤滑層に含まれる親水性高分子と良好な接着性を有し、さらに接着層に含まれる親水性共重合体自体が十分な潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮するため、表面潤滑層と接着層が相まって、非常に優れた潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する。
【0016】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係る医療用具の好ましい実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る医療用具(以下、単に「医療用具」とも称する)の代表的な実施形態の表面の積層構造を模式的に表した部分断面図である。図2は、本実施形態の応用例として、表面の積層構造の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。なお、図1および図2中、1は基材層を、1aは基材層コア部を、1bは基材表面層を、2は接着層を、3は表面潤滑層を、10は医療用具を、それぞれ表す。
【0018】
図1および図2に示されるように、本実施形態の医療用具10では、基材層1と、基材層1の表面の少なくとも一部を覆うように固定化された(図中では、図面内の基材層1表面の全体(全面)に固定化された例を示す)親水性共重合体を含む接着層2と、接着層2の表面の少なくとも一部を覆うように固定化された(図中では、図面内の接着層2表面の全体(全面)に固定化された例を示す)親水性高分子を含む表面潤滑層3と、を備える。接着層2は、親水性共重合体の光反応性基を介して基材層1および表面潤滑層3に結合している。
【0019】
以下、本実施形態の医療用具の各構成について説明する。
【0020】
<基材層(基材)>
本実施形態で用いられる基材層としては、後述の親水性共重合体に含まれる光反応性基と反応して化学結合を形成しうるものであれば、いずれの材料から構成されてもよい。具体的には、基材層1を構成(形成)する材料は、金属材料、高分子材料、セラミックス等が挙げられる。ここで、基材層1は、図1に示されるように、基材層1全体(全部)が上記いずれかの材料で構成(形成)されても、または、図2に示されるように、上記いずれかの材料で構成(形成)された基材層コア部1aの表面に他の上記いずれかの材料を適当な方法で被覆(コーティング)して、基材表面層1bを構成(形成)した構造を有していてもよい。後者の場合の例としては、樹脂材料等で形成された基材層コア部1aの表面に金属材料が適当な方法(メッキ、金属蒸着、スパッタ等従来公知の方法)で被覆(コーティング)されて、基材表面層1bを形成してなるもの;金属材料やセラミックス材料等の硬い補強材料で形成された基材層コア部1aの表面に、金属材料等の補強材料に比して柔軟な高分子材料が適当な方法(浸漬(ディッピング)、噴霧(スプレー)、塗布・印刷等の従来公知の方法)で被覆(コーティング)あるいは基材層コア部1aの補強材料と基材表面層1bの高分子材料とが複合化(適当な反応処理)されて、基材表面層1bを形成してなるもの等が挙げられる。よって、基材層コア部1aが、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造(複合体)などであってもよい。また、基材層コア部1aと基材表面層1bとの間に、さらに別のミドル層(図示せず)が形成されていてもよい。さらに、基材表面層1bに関しても異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造(複合体)などであってもよい。
【0021】
上記基材層1を構成(形成)する材料のうち、金属材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の医療用具に一般的に使用される金属材料が使用される。具体的には、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630等の各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル-チタン(Ni-Ti)合金、ニッケル-コバルト(Ni-Co)合金、コバルト-クロム(Co-Cr)合金、亜鉛-タングステン(Zn-W)合金等の各種合金が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記金属材料には、使用用途であるカテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の基材層として最適な金属材料を適宜選択すればよい。
【0022】
また、上記基材層1を構成(形成)する材料のうち、高分子材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の医療用具に一般的に使用される高分子材料が使用される。具体的には、ポリアミド樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、変性ポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン等のスチロール樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられ、後述の接着層との接着性の観点から高密度ポリエチレン(HDPE)、変性ポリエチレン等のポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂が好ましい。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記高分子材料には、使用用途であるカテーテル、ステント、ガイドワイヤ等の基材層として最適な高分子材料を適宜選択すればよい。
【0023】
また、上記基材層の形状は、特に制限されることはなく、シート状、線状(ワイヤ)、管状など使用態様により適宜選択される。
【0024】
<接着層(親水性共重合体)>
本発明に係る接着層に含まれる親水性共重合体は、スルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)(以下、「単量体A」とも称する)由来の構成単位と、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する重合性単量体(B)(以下、「単量体B」とも称する)由来の構成単位と、光反応性基を有する重合性単量体(C)(以下、「単量体C」とも称する)由来の構成単位と、を含むことを特徴とする。当該親水性共重合体は、十分な潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を発揮する接着層を形成することができる。また、当該親水性共重合体は、基材層および後述の当該親水性共重合体を溶解もしくは膨潤し得る溶媒に溶解可能な親水性高分子と良好な接着性を有する。かような効果が奏されるメカニズムについては完全には明らかではないが、以下のメカニズムが推定されている。
【0025】
単量体C由来の構成単位に含まれる光反応性基は、活性エネルギー線の照射により反応活性種を生成し、基材層表面および後述の当該親水性共重合体を溶解もしくは膨潤し得る溶媒に溶解可能な親水性高分子と反応して化学結合を形成する。ゆえに、本発明に係る親水性共重合体を含む接着層は、基材層上に強固に固定化され、表面潤滑層を強固に固定化するため、耐久性(潤滑維持性)に優れる。
【0026】
なお、上記メカニズムは推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。
【0027】
本発明において、本発明の作用効果に影響を及ぼさない限り、接着層と基材層との間に他の層を有しても構わないが、好ましくは、接着層は基材層の直上に位置する。
【0028】
以下、本発明に係る接着層に含まれる親水性共重合体を構成する各重合性単量体について説明する。
【0029】
[重合性単量体]
(重合性単量体A)
重合性単量体A(単量体A)は、スルホベタイン構造を有する重合性単量体である。単量体A由来の構成単位に含まれるスルホベタイン構造は、潤滑性付与効果に優れる。ゆえに、単量体A由来の構成単位を有する親水性共重合体は、潤滑性に優れると考えられる。また、単量体Aの単独重合体はNaCl水溶液には可溶であるが、水や低級アルコールには溶解しないまたは溶解しにくい。ゆえに、スルホベタイン構造は静電相互作用が強い可能性が示唆される。このため、本発明に係る親水性共重合体を含む接着層の内部には、強い凝集力が働く。これにより、接着層は高い強度を有する(耐久性に優れる)と考えられる。なお、上記は推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。
【0030】
ここで、「スルホベタイン構造」とは、正電荷と硫黄元素を含む負電荷とが隣り合わない位置に存在し、正電荷を有する原子には解離しうる水素原子が結合しておらず、電荷の総和がゼロである構造を指す。
【0031】
単量体Aの例としては、特に制限されないが、以下の一般式で表される化合物が挙げられる。
【0032】
【化1】
【0033】
上記一般式中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素原子数1~30のアルキレン基または置換されてもよい炭素原子数6~30のアリーレン基であってもよく、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素原子数1~30のアルキル基または置換されてもよい炭素原子数6~30のアリール基であってもよく、Yは、アクリロイル基(CH=CH-C(=O)-)、メタクリロイル基(CH=C(CH)-C(=O)-)、ビニル基(CH=CH-)等のエチレン性不飽和基を有する基であってもよい。但し、上記一般式中、正電荷および負電荷の総和はゼロである。
【0034】
炭素原子数1~30のアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。
【0035】
炭素原子数6~30のアリーレン基の例としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基、フェナントレニレン基、ピレニレン基、ペリレニレン基、フルオレニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。
【0036】
炭素原子数1~30のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-アミル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基等が挙げられる。
【0037】
炭素原子数6~30のアリール基の例としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基等が挙げられる。
【0038】
中でも、潤滑性および耐久性(潤滑維持性)のさらなる向上の観点から、単量体Aは、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0039】
【化2】
【0040】
上記式(1)中、R11は、水素原子またはメチル基である。また、Zは、酸素原子(-O-)または-NH-であり、好ましくは酸素原子(-O-)である。
【0041】
また、上記式(1)中、R12およびR15は、潤滑性および耐久性(潤滑維持性)のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1~12の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、さらにより好ましくは炭素数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数1~3の直鎖のアルキレン基(メチレン基、エチレン基またはトリメチレン基)である。
【0042】
上記式(1)中、R13およびR14は、潤滑性および耐久性(潤滑維持性)のさらなる向上の観点から、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~12の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、さらにより好ましくは炭素数1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0043】
上記式(1)で表される化合物の例としては、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジエチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジエチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジメチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジエチル-(2-スルホエチル)アンモニウムヒドロキシド、{3-[(メタ)アクリロイルオキシ]プロピル}ジエチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、中でも、{2-[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル}ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシドが好ましい。上記の化合物は、単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0044】
単量体Aは、合成品または市販品のいずれを用いてもよい。市販品としては、シグマアルドリッチ株式会社等より入手することができる。また、合成する場合は、A.Laschewsky,polymers,6,1544-1601(2014)等を参照することができる。
【0045】
また、単量体Aは、上記一般式で表される化合物に限らず、正電荷が末端に存在する形態を有する化合物であってもよい。
【0046】
当該親水性共重合体において、単量体A由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、好ましくは0.1~99モル%であり、より好ましくは1~99モル%であり、さらにより好ましくは5~99モル%であり、特に好ましくは10~99モル%である。かような範囲であれば、潤滑性および溶剤溶解性のバランスが良好となる。なお、当該モル%は、重合体を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対する単量体Aの仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。
【0047】
(重合性単量体B)
重合性単量体B(単量体B)は、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する重合性単量体である。かような基を導入することで、水系溶剤中でアニオン化して、親水性共重合体間で静電反発が生じる。その結果、親水性共重合体間でのスルホベタイン構造同士の静電相互作用および光反応性基同士の疎水性相互作用が低減する。ゆえに、当該共重合体の溶剤溶解性が向上する。この向上効果は、単量体Cの光反応性基がベンゾフェノン基である場合において特に顕著である。ベンゾフェノン基は芳香環を複数有するためπ-π相互作用によって会合しやすく、これによりベンゾフェノン基を含む重合体は凝集して不溶化しやすい。そこで、単量体B由来の構成単位を導入することで、上記のように静電反発が生じ、ベンゾフェノン基同士の会合が抑制されるため、重合体の溶解性あるいは分散性が飛躍的に向上すると考えられる。なお、上記メカニズムは推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。あるいは、単量体Cがエステル基を含む場合においても、上記の向上効果は良好に得られる。また、単量体Bは、上記基以外に、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和基を有することが好ましい。
【0048】
中でも、溶剤溶解性のさらなる向上の観点から、単量体Bは、下記式(2)、(3)または(4)で表される化合物であることが好ましく、下記式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0049】
【化3】
【0050】
上記式(2)中、R21は、水素原子またはメチル基である。また、Zは、酸素原子(-O-)または-NH-であり、好ましくは-NH-である。
【0051】
上記式(2)中、R22は、溶剤溶解性のさらなる向上の観点から、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、好ましくは炭素原子数1~12の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、より好ましくは炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、さらにより好ましくは炭素原子数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素原子数3~5の分岐鎖のアルキレン基である。炭素原子数3~5の分岐鎖のアルキレン基は、-CH(CH)-CH-、-C(CH-CH-、-CH(CH)-CH(CH)-、-C(CH-CH-CH-、-CH(CH)-CH(CH)-CH-、-CH(CH)-CH-CH(CH)-、-CH-C(CH-CH-、-C(CH-CH(CH)-等で表される基であり(但し、上記式(2)における上記基の連結順序は特に制限されない)、中でも、-C(CH-CH-で表される基が特に好ましい。
【0052】
上記式(2)中、Xは、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される基であり、酸の解離度(すなわちアニオン化のし易さ)ひいては共重合体の溶剤溶解性の観点から、好ましくはスルホン酸基および硫酸基ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される基であり、モノマーの入手のし易さという点で、より好ましくはスルホン酸基またはその塩の基である。ここで、塩は、特に制限されないが、例えば、上記基のアルカル金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)がある。
【0053】
上記式(2)で表される化合物の例としては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、1-[(メタ)アクリロイルオキシメチル]-1-プロパンスルホン酸、2-[(メタ)アクリロイルオキシ]-2-プロパンスルホン酸、3-[(メタ)アクリロイルオキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、3-スルホプロピル(メタ)アクリレートおよびこれらの塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0054】
上記式(2)で表される化合物は、合成品または市販品のいずれを用いてもよく、市販品としては、東京化成工業株式会社、シグマアルドリッチ株式会社等より入手することができる。
【0055】
【化4】
【0056】
上記式(3)中、R31は、水素原子またはメチル基である。
【0057】
上記式(3)中、R32は、単結合または炭素原子数1~20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、好ましくは単結合または炭素原子数1~12の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、より好ましくは単結合または炭素原子数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、さらにより好ましくは単結合または炭素原子数1~4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、特に好ましくは単結合である。ここで、アルキレン基の具体的な例示は、上記式(2)と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0058】
上記式(3)中、Xは、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される基であり、酸の解離度(すなわちアニオン化のし易さ)ひいては共重合体の溶剤溶解性の観点から、好ましくはスルホン酸基および硫酸基ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される基であり、モノマーの入手のし易さという点で、より好ましくはスルホン酸基またはその塩の基である。
【0059】
上記式(3)で表される化合物の例としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-プロペン-1-スルホン酸、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸、およびこれらの塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0060】
上記式(3)で表される化合物は、合成品または市販品のいずれを用いてもよく、市販品としては、旭化成ファインケム株式会社、東京化成工業株式会社(例えば、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸ナトリウム塩)等より入手することができる。
【0061】
【化5】
【0062】
上記式(4)中、R41は、水素原子またはメチル基である。
【0063】
上記式(4)中、R42は、炭素原子数1~20の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、好ましくは炭素原子数1~12の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、より好ましくは炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、さらにより好ましくは炭素原子数1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基である。ここで、アルキレン基の具体的な例示は、上記式(2)と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0064】
上記式(4)中、Xは、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される基であり、酸の解離度(すなわちアニオン化のし易さ)ひいては共重合体の溶剤溶解性の観点から、好ましくはスルホン酸基および硫酸基ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される基であり、モノマーの入手のし易さという点で、より好ましくはスルホン酸基またはその塩の基である。
【0065】
上記式(4)で表される化合物の例としては、2-スルホキシエチルビニルエーテル、3-スルホキシ-n-プロピルビニルエーテルおよびこれらの塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0066】
上記式(4)で表される化合物は、合成品または市販品のいずれを用いてもよい。
【0067】
当該親水性共重合体において、単量体B由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、好ましくは0.1~99モル%であり、より好ましくは0.2~99モル%であり、さらにより好ましくは0.5~99モル%であり、特に好ましくは1~99モル%である。かような範囲であれば、潤滑性および溶剤溶解性のバランスが良好となる。なお、当該モル%は、重合体を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対する単量体Bの仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。
【0068】
(重合性単量体C)
重合性単量体C(単量体C)は、光反応性基を有する重合性単量体である。ここで、「光反応性基」は、活性エネルギー線を照射することで、ラジカル、ナイトレン、カルベン等の反応活性種を生成し、基材層(樹脂)や表面潤滑層(親水性高分子)と反応して化学結合を形成しうる基をいう。これにより、当該親水性共重合体を含む接着層は、基材層や表面潤滑層の表面に強固に固定化することができる。ゆえに、当該接着層を基材層と表面潤滑層との間に配置することにより、医療用具は十分な耐久性(潤滑維持性)を発揮することができる。また、単量体Cは、上記光反応性基以外に、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和基を有することが好ましい。
【0069】
光反応性基の例としては、アジド基、ジアゾ基、ジアジリン基、ケトン基、キノン基等が挙げられる。
【0070】
アジド基としては、例えば、フェニルアジド、4-フルオロ-3-ニトロフェニルアジド等のアリールアジド基;ベンゾイルアジド、p-メチルベンゾイルアジド等のアシルアジド基;エチルアジドホルメート、フェニルアジドホルメート等のアジドホルメート基;ベンゼンスルホニルアジド等のスルホニルアジド基;ジフェニルホスホリルアジド、ジエチルホスホリルアジド等のホスホリルアジド基;等が挙げられる。
【0071】
ジアゾ基としては、例えば、ジアゾメタン、ジフェニルジアゾメタン等のジアゾアルカン;ジアゾアセトフェノン、1-トリフルオロメチル-1-ジアゾ-2-ペンタノン等のジアゾケトン;t-ブチルジアゾアセテート、フェニルジアゾアセテート等のジアゾアセテート;t-ブチル-α-ジアゾアセトアセテート等のα-ジアゾアセトアセテート;等から誘導される基等が挙げられる。
【0072】
ジアジリン基としては、例えば、3-トリフルオロメチル-3-フェニルジアジリン等から誘導される基等が挙げられる。
【0073】
ケトン基としては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントロン、キサンチン、チオキサントン等の構造を有する基等が挙げられる。
【0074】
キノン基としては、例えば、アントラキノン等から誘導される基等が挙げられる。
【0075】
これらの光反応性基は、医療用具の基材層の種類などに応じて、適宜選択される。例えば、基材層がポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等から形成される場合には、ケトン基またはフェニルアジド基であることが好ましく、モノマーの入手のし易さの点で、ベンゾフェノン構造を有する基(ベンゾフェノン基)であることがより好ましい。
【0076】
単量体Cの例としては、2-アジドエチル(メタ)アクリレート、2-アジドプロピル(メタ)アクリレート、3-アジドプロピル(メタ)アクリレート、4-アジドブチル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-メトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-4’-ブロモベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-4’-ブロモベンゾフェノン、4-スチリルメトキシベンゾフェノン、4-(メタ)アクリロイルオキシチオキサントン等が挙げられる。
【0077】
単量体Cは、合成品または市販品のいずれを用いてもよく、市販品としては、MRCユニテック株式会社等より入手することができる。
【0078】
当該親水性共重合体において、単量体C由来の構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計を100モル%としたとき、好ましくは0.1~40モル%であり、より好ましくは0.1~30モル%であり、さらにより好ましくは0.1~25モル%であり、特に好ましくは0.1~20モル%である。かような範囲であれば、親水性共重合体は基材層(樹脂)や表面潤滑層(親水性高分子)と十分に結合できるため、当該親水性共重合体を含む接着層は、基材層や表面潤滑層により強固に固定化されうる。また、かような範囲であれば、他の単量体(単量体A及びB)が十分量存在できるため、親水性共重合体は、単量体Aによる十分な潤滑性および耐久性、ならびに単量体Bによる溶剤溶解性をより有効に向上することができる。なお、当該モル%は、重合体を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対する単量体Cの仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。
【0079】
当該親水性共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の単量体A、単量体Bおよび単量体C以外の重合性単量体(以下、「その他の単量体」とも称する)に由来する構成単位を含んでもよい。本発明の親水性共重合体において、その他の単量体に由来する構成単位の含有量は、全単量体由来の構成単位の合計量100モル%に対して、好ましくは10モル%未満、より好ましくは5モル%未満、さらにより好ましくは1モル%未満である(下限値:0モル%)。好ましくは、本発明の親水性共重合体は、単量体A、単量体Bおよび単量体Cから構成される。なお、当該モル%は、重合体を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対するその他の単量体の仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。
【0080】
当該親水性共重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。共重合体の構造も特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0081】
当該親水性共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは数千~数百万であり、より好ましくは1,000~1,000,000であり、特に好ましくは5,000~500,000である。本発明において、「重量平均分子量」は、ポリエチレングリコールを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
【0082】
[親水性共重合体の製造方法]
当該親水性共重合体の製造方法は、特に制限されず、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
【0083】
重合方法は、通常、上記の単量体A、単量体B、単量体C、および必要に応じてその他の単量体を、重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌および加熱することにより共重合させる方法が採用される。
【0084】
重合温度は、特に制限されないが、好ましくは25~100℃であり、より好ましくは30~80℃である。重合時間も、特に制限されないが、好ましくは30分~24時間であり、より好ましくは1~8時間である。
【0085】
重合溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール等のアルコール類などの水性溶媒であることが好ましい。重合に用いる原料を溶解させる観点から、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
重合性単量体の濃度は、特に制限されないが、重合溶媒(mL)に対する各重合性単量体の合計固形分量(g)として、好ましくは0.05~1g/mLであり、より好ましくは0.1~0.5g/mLである。また、全単量体の合計仕込み量(モル)に対する各単量体の好ましい仕込み量(モル)の割合は、上述したとおりである。
【0087】
重合性単量体を含む反応溶液は、重合開始剤を添加する前に脱気処理を行ってもよい。脱気処理は、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスにて、反応溶液を0.5~5時間程度バブリングすればよい。脱気処理の際は、反応溶液を30~100℃程度に加温しても良い。
【0088】
重合体の製造には、従来公知の重合開始剤を用いることができ、特に制限されるものではないが、例えば2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物等の酸化剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせたレドックス系重合開始剤等が使用できる。
【0089】
重合開始剤の配合量は、重合性単量体の合計量(モル)に対して、好ましくは0.001~10モル%であり、より好ましくは0.001~5モル%である。
【0090】
さらに、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
【0091】
重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等で行うこともできる。また、重合反応中は、反応液を攪拌しても良い。
【0092】
共重合体は、重合反応中に析出してもよい。重合後の共重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。
【0093】
精製後の共重合体は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、または加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥または減圧乾燥が好ましい。
【0094】
得られた共重合体における各重合性単量体由来の構成単位の割合は、NMR、IR等の公知の手段を用い、各構成単位に含まれる基のピーク強度を分析することで確認することができる。
【0095】
得られた共重合体に含まれる未反応単量体は、共重合体全体に対して0.01重量%以下であることが好ましい。未反応単量体は少ないほど好ましい(下限値:0重量%)。残留する単量体の含量は、高速液体クロマトグラフィー等公知の手段で測定できる。
【0096】
<表面潤滑層(親水性高分子)>
本発明における表面潤滑層は、接着層に含まれる親水性共重合体を溶解もしくは膨潤し得る溶媒に溶解可能な親水性高分子を含む。ここで、「親水性共重合体を溶解し得る」とは、親水性共重合体が、23℃(液温)で溶媒中に0.01g/100g 溶媒以上(好ましくは0.1g/100g 溶媒以上)の割合で溶解することを意味する。また、「親水性高分子が溶媒に溶解可能である」とは、23℃(液温)で溶媒中に0.01g/100g 溶媒以上(好ましくは0.1g/100g 溶媒以上)の割合で溶解することを意味する。
【0097】
また、上記溶媒は、接着層に含まれる親水性共重合体を溶解もしくは膨潤し得るものである。具体的には、上記溶媒は、接着層を形成する際に使用される親水性共重合体のコート液(塗布液)を構成する溶媒を意図する。例えば、下記実施例1では、「親水性高分子が溶媒に溶解可能である」とは、親水性共重合体のコート液(塗布液)を構成する溶媒であるメタノール/水(7/3 v/v)(液温:23℃)に、親水性高分子が0.01g/100g メタノール/水(7/3 v/v)以上の割合で溶解することを意味する。
【0098】
本発明において、本発明の作用効果に影響を及ぼさない限り、表面潤滑層と接着層との間に他の層を有しても構わないが、好ましくは、表面潤滑層は接着層の直上に位置する。また、本発明の作用効果に影響を及ぼさない限り、表面潤滑層の上に他の層を有していてよいが、好ましくは表面潤滑層上に他の層が配置されない(表面潤滑層が最表層である)ことが好ましい。
【0099】
溶媒としては、水、低級アルコール、もしくは水および低級アルコールの混合溶媒であることが好ましい。ここで低級アルコールとは、炭素原子数1~3のアルコール、すなわち、メタノール、エタノール、n-プロパノールまたはイソプロパノールを指す。
【0100】
親水性高分子は、水、低級アルコール、もしくは水および低級アルコールの混合溶媒に溶解可能であれば特に限定されない。そのような親水性高分子は、通常、1つ以上の親水性官能基、例えばヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基またはその塩、ホスホン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、硫酸基またはその塩、亜硫酸基またはその塩、双性イオン基、および/またはエーテル基を有する。これらのうち、接着層に含まれる親水性共重合体を溶解もしくは膨潤し得る溶媒への溶解性や潤滑性の向上効果などの観点から、親水性高分子は、アニオン性の官能基を有することが好ましく、スルホン酸基またはその塩、硫酸基またはその塩、およびカルボキシル基またはその塩からなる群より選択される少なくとも一種の基を有することがより好ましく、スルホン酸基またはその塩、およびカルボキシル基またはその塩からなる群より選択される少なくとも一種の基を有することが特に好ましい。
【0101】
親水性高分子の具体例としては、例えば、高分子電解質、多糖、たんぱく質、ポリペプチド、ポリ核酸、非イオン性高分子が挙げられる。
【0102】
高分子電解質としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、ビニル硫酸、ビニルホスホン酸、ビニルリン酸、ビニルボロン酸、シトラコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、リン酸メタクリルオキシエチル、メタクリルオキシエチル硫酸、スチレンスルホン酸、メタクリルオキシエチルスルホン酸及び2-アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS)、2-メチル-2-プロペン酸エチル-2-リン酸エステル(HEMAホスフェート)、メタクリロイルオキシPPG-7ホスフェート、β-カルボキシエチルアクリレート、3-アクリルアミド-3-メチルブタン酸、AMBAポリアクリル酸などの陰イオン性もしくは陰イオン化可能なエチレン性不飽和モノマーもしくはその塩の重合体系物質、カルボキシベタイン(メタ)アクリレート、カルボキシベタイン(メタ)アクリルアミド、スルホベタイン(メタ)アクリレート、スルホベタイン(メタ)アクリルアミド、ホスホベタインメタクリレート(MPC)等の両性エチレン性不飽和モノマーの重合体系物質が挙げられる。ここで、塩の形態は、特に制限されないが、例えば、上記モノマーのアルカル金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)がある。
【0103】
多糖としては、例えば、アルギン酸、ペクチン、カラギーナン、キサンタン、コンドロイチン硫酸、アラビアガム、グアガム、カラヤガム、トラガカントガム、アラビノキシラン、へパラン硫酸、デンプン、ガム、セルロース誘導体、カルボキシメチルデンプン、リン酸デンプン、ヒドロキシプロピルデンプンリン酸、硫酸デンプン、デンプン-2-ヒドロキシプロピルクエン酸、カルボキシメチルグアー、カルボキシメチルヒドロキシプロピルグアー、その他の陰イオン性ガラクトマンナン誘導体、カルボキシメチルセルロース、ポリアニオン性セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース、及びカルボキシエチルセルロース、デキストラン及びデキストリン、硫酸デキストラン及びデキストリンが挙げられる。なお、これらの多糖は塩の形でも良い。ここで、塩の形態は、特に制限されないが、例えば、上記多糖のアルカル金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)がある。
【0104】
ポリペプチドとしては、例えば、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸もしくはその塩が挙げられる。ここで、塩の形態は、特に制限されないが、例えば、上記ポリペプチドのアルカル金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)がある。
【0105】
非イオン性の高分子としては、例えば、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、などの非イオン性不飽和モノマーの重合体系物質、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、などのポリオール不飽和モノマーの重合体系物質、2-メタクリロイルオキシエチル-D-グリコシド、2-メタクリロイルオキシエチル-D-マンノシド、などの糖ペンダント不飽和モノマーの重合体系物質、ポリエチレンオキサイド系ポリマー物質、水溶性ナイロン樹脂、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0106】
これらのうち、潤滑性や親水性共重合体との結合性(ゆえに耐久性)のより向上効果などの観点から、親水性高分子は、高分子電解質または多糖であることが好ましい。すなわち、本発明は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に形成され、スルホベタイン構造を有する重合性単量体(A)由来の構成単位と、スルホン酸基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)および亜硫酸基(-OSOH)ならびにこれらの塩の基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する重合性単量体(B)由来の構成単位と、光反応性基を有する重合性単量体(C)由来の構成単位とを含む、親水性共重合体を含む接着層と、前記接着層の少なくとも一部に形成され、高分子電解質および多糖からなる群より選択される少なくとも一種の親水性高分子を含む表面潤滑層と、を有する医療用具をも提供する。また、上記観点から、親水性高分子は、スルホン酸基またはその塩、硫酸基またはその塩、およびカルボキシル基またはその塩からなる群より選択される少なくとも一種の基を有する高分子電解質または多糖であるであることがより好ましく、スルホン酸基またはその塩、およびカルボキシル基またはその塩からなる群より選択される少なくとも一種の基を有する高分子電解質または多糖であることが特に好ましい。
【0107】
[医療用具の製造方法]
本発明に係る医療用具の製造方法は、上記の親水性共重合体を接着層、上記の親水性高分子を表面潤滑層として使用すること以外は特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜改変して適用できる。例えば、前記親水性共重合体を溶剤に溶解してコート液を調製し、このコート液を医療用具の基材層上にコーティングして接着層を形成した後、前記親水性高分子を溶剤に溶解してコート液を調製し、このコート液を予め接着層が形成された基材層にコーティングして表面潤滑層を形成する方法が好ましい。このような方法により、医療用具表面に潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を付与することができる。
【0108】
(接着層の塗布工程)
上記方法において、親水性共重合体を溶解するのに使用される溶剤としては、作業安全性(毒性の低さ)及び溶解性の観点から、水、低級アルコール、もしくは水および低級アルコールの混合溶媒が好ましい。ここで、低級アルコールとは、炭素原子数1~3の第1級アルコール、すなわち、メタノール、エタノール、n-プロパノールまたはイソプロパノールを指す。上記低級アルコールは、単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0109】
また、コート液中の親水性共重合体の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.01~50重量%であり、より好ましくは0.05~40重量%であり、さらにより好ましくは0.1~30重量%である。かような範囲であれば、コート液の塗工性が良好であり、得られる接着層は十分な潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を有する。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な接着層を容易に得ることができる。このため、後の活性エネルギー線の照射(接着層の固定化工程)により、親水性共重合体は基材層と強固でかつ均一な化学結合を形成できる。また、生産効率の点で好ましい。なお、親水性共重合体の濃度が0.001重量%未満の場合、基材層表面に十分な量の親水性共重合体を固定できない場合がある。また、親水性共重合体の濃度が20重量%を超える場合、コート液の粘度が高くなりすぎて、均一な厚さの接着層を得られない場合がある。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0110】
コート液を塗布する前に、紫外線照射処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、シランカップリング処理、リン酸カップリング処理等により基材層表面を予め処理してもよい。コート液の溶剤が水のみである場合、疎水性の基材層表面に塗布することは困難であるが、基材層表面をプラズマ処理することで基材層表面が親水化する。これにより、コート液の基材層表面への濡れ性が向上し、均一な接着層を形成することができる。また、金属やフッ素系樹脂等のC-H結合を持たない基材層表面に上記処理を施すことで、親水性共重合体の光反応性基との共有結合の形成が可能となる。
【0111】
基材層表面にコート液を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)が好ましい。
【0112】
(接着層の乾燥工程)
上記のように本発明の親水性共重合体を含むコート液中に基材層を浸漬した後、コート液から基材層を取り出して、被膜を乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、被膜から溶媒を除去できれば特に制限されず、ドライヤー等を用いて温風処理を行ってもよいし、自然乾燥させてもよい。また、乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧下または減圧下で行ってもよい。乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0113】
(接着層の固定化工程)
上記乾燥工程後の被膜に対し、活性エネルギー線を照射する。これにより、被膜中(親水性共重合体の単量体C)の光反応性基が活性化し、光反応性基と基材層中に含まれるアルキル基(炭化水素基)との間で化学結合が形成される。より具体的に、ベンゾフェノン構造を有する光反応性基と、基材層を構成する樹脂(炭化水素基を有する材料)との組み合わせの場合について説明する。親水性共重合体がベンゾフェノン構造を有する光反応性基を含む場合、紫外線を照射することで光反応性基内に2個のラジカルが生成する。このうち1個のラジカルが樹脂内のアルキル基(炭化水素基)から水素原子を引き抜き、代わりに材料に1個のラジカルが生成する。その後、光反応性基内の残りのラジカルと材料に生成したラジカルとが結合することにより、接着層中の親水性共重合体の光反応性基と基材層内の材料(樹脂)との間で共有結合が形成される。このような化学結合により、親水性共重合体を含む接着層は、基材層に強固に固定化される。ゆえに、当該接着層は、十分な耐久性(潤滑維持性)を発揮することができる。
【0114】
活性エネルギー線としては、紫外線(UV)、電子線、ガンマ線等が挙げられるが、好ましくは紫外線または電子線であり、人体への影響を考慮すると、より好ましくは紫外線である。活性エネルギー線が紫外線である際の紫外線の積算光量(表面潤滑層を塗布する前の接着層への紫外線の積算光量)は、特に制限されないが、好ましくは100~10,000mJ/cmであり、より好ましくは500~5,000mJ/cmである。紫外線を照射する装置としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を例示することができる。
【0115】
上記の活性エネルギー線照射を行った後、溶剤(例えば、コート液調製に用いる溶剤)で被膜を洗浄し、未反応の親水性共重合体を除去してもよい。
【0116】
基材層への被膜(接着層)の固定化は、FT-IR、XPS等の公知の分析手段を用いて確認することができる。例えば、活性エネルギー線の照射前後でFT-IR測定を行い、活性エネルギー線照射によって形成される結合のピークと不変である結合のピークとの比を比較することにより、確認することができる。
【0117】
上記方法により、本発明に係る医療用具は、前記親水性共重合体を含む接着層が基材層の表面に形成される。
【0118】
(表面潤滑層の塗布工程)
ここでは、前記親水性高分子を溶剤に溶解してコート液を調製し、このコート液を上記にて形成された接着層上に塗布する。上記方法において、親水性高分子を溶解するのに使用される溶剤としては、作業安全性(毒性の低さ)および溶解性の観点から、水、低級アルコール、または水および低級アルコールの混合溶媒が好ましい。ここで低級アルコールとは、炭素原子数1~3の第1級アルコール、すなわち、メタノール、エタノール、n-プロパノールまたはイソプロパノールを指す。上記低級アルコールは、単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。
【0119】
また、コート液中の親水性高分子の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.01~50重量%であり、より好ましくは0.05~40重量%であり、さらにより好ましくは0.1~30重量%である。かような範囲であれば、コート液の塗工性が良好であり、得られる表面潤滑層は潤滑性および耐久性(潤滑維持性)に優れる。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な表面潤滑層を容易に得ることができる。このため、後の活性エネルギー線の照射(表面潤滑層の固定化工程)により、親水性共重合体は表面潤滑層(親水性高分子)と強固でかつ均一な化学結合を形成できる。また、生産効率の点で好ましい。なお、親水性高分子の濃度が0.001重量%未満の場合、接着層層表面に十分な量の親水性高分子を固定できない場合がある。また、親水性高分子の濃度が20重量%を超える場合、コート液の粘度が高くなりすぎて、均一な厚さの表面潤滑層を得られない場合がある。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0120】
接着層表面にコート液を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)が好ましい。
【0121】
(表面潤滑層の乾燥工程)
上記のように親水性高分子を含むコート液中に、予め接着層が形成された基材層を浸漬した後、コート液から基材層を取り出して、被膜を乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、被膜から溶媒を除去できれば特に制限されず、ドライヤー等を用いて温風処理を行ってもよいし、自然乾燥させてもよい。また、乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧下または減圧下で行ってもよい。乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0122】
(表面潤滑層の固定化工程)
上記乾燥工程後の被膜に対し、活性エネルギー線を照射する。これにより、接着層中(親水性共重合体の単量体C)の未反応の光反応性基が活性化し、光反応性基と親水性高分子中に含まれるアルキル基(炭化水素基)との間で化学結合が形成される。より具体的に、接着層中の親水性共重合体のベンゾフェノン構造を有する光反応性基と、表面潤滑層(親水性高分子)との組み合わせの場合について説明する。親水性共重合体がベンゾフェノン構造を有する光反応性基を含む場合、紫外線を照射することで光反応性基内に2個のラジカルが生成する。このうち1個のラジカルが親水性高分子内のアルキル基(炭化水素基)から水素原子を引き抜き、代わりに親水性高分子に1個のラジカルが生成する。その後、光反応性基内の残りのラジカルと親水性高分子のラジカルとが結合することにより、接着層中の親水性共重合体の光反応性基と表面潤滑層中の親水性高分子との間で共有結合が形成される。このような化学結合により、親水性高分子を含む表面潤滑層は、接着層に強固に固定化される。ゆえに、当該表面潤滑層は、優れた耐久性(潤滑維持性)を発揮することができる。
【0123】
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、ガンマ線等が挙げられるが、好ましくは紫外線または電子線であり、人体への影響を考慮すると、より好ましくは紫外線である。活性エネルギー線が紫外線である際の紫外線の積算光量(表面潤滑層への紫外線の積算光量)は、特に制限されないが、好ましくは500~90,000mJ/cmであり、より好ましくは900~65,000mJ/cmであり、さらに好ましくは1,400~40,000mJ/cmである。また、表面潤滑層を塗布した後の接着層への紫外線の積算光量は、特に制限されないが、好ましくは600~100,000mJ/cmであり、より好ましくは1,000~75,000mJ/cmであり、さらに好ましくは1,500~50,000mJ/cmである。なお、上記「表面潤滑層を塗布した後の接着層への紫外線の積算光量」とは、接着層への紫外線の積算光量と表面潤滑層への紫外線の積算光量との合計値を意味する。紫外線を照射する装置としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を例示することができる。
【0124】
上記の活性エネルギー線照射を行った後、溶剤(例えば、コート液調製に用いる溶剤)で被膜を洗浄し、未反応の親水性共重合体を除去してもよい。
【0125】
接着層への被膜(表面潤滑層)の固定化は、FT-IR、XPS等の公知の分析手段を用いて確認することができる。例えば、活性エネルギー線の照射前後でFT-IR測定を行い、活性エネルギー線照射によって形成される結合のピークと不変である結合のピークとの比を比較することにより、確認することができる。
【0126】
上記方法により、本発明に係る医療用具は、前記親水性高分子を含む表面潤滑層が接着層の表面に形成される。
【0127】
[医療用具の用途]
本発明に係る医療用具10は、体液や血液などと接触して用いられ、体液や生理食塩水などの水系液体中において表面が潤滑性を有し、操作性の向上や組織粘膜の損傷の低減をなしうる。具体的には、血管内で使用されるカテーテル、ステント、ガイドワイヤ等が挙げられる。すなわち、本発明の一実施形態に係る医療用具は、カテーテル、ステントまたはガイドワイヤである。その他にも以下の医療用具が示される。
【0128】
(a)胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用チューブなどの経口もしくは経鼻的に消化器官内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0129】
(b)酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテルなどの経口または経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0130】
(c)尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテルのカテーテルやバルーンなどの尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0131】
(d)吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテルなどの各種体腔、臓器、組織内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0132】
(e)留置針、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテルおよびダイレーターあるいはイントロデューサーなどの血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類、あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤ、スタイレットなど。
【0133】
(f)人工気管、人工気管支など。
【0134】
(g)体外循環治療用の医療用具(人工肺、人工心臓、人工腎臓など)やその回路類。
【実施例
【0135】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各例中の部および%はいずれも重量基準である。以下の例では、特に規定のない室温放置条件は全て、23℃/55%RHである。
【0136】
<共重合体の製造>
シグマアルドリッチ社製[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(MSPB)1.40g(5.0mmol)、シグマアルドリッチ社製2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩(AMPS(Na))50wt%水溶液1.83g(4.0mmol)およびMRCユニテック株式会社製4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)0.266g(1.0mmol)を2,2,2-トリフルオロエタノール/水(8/2 v/v)混合溶媒10mLに溶解させて、反応液を調製した。次に、この反応液を30mLのナス型フラスコに入れ、十分な窒素バブリングによって酸素を除き、重合開始剤4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)2.8mg(0.010mmol)を添加した後、素早く密閉し、75℃の水浴で3時間重合を行った。次に、アセトン中で再沈殿し、デカンテーションで上澄みを除去することで、共重合体を得た。
【0137】
得られた共重合体の組成は、モル%でMSPB:AMPS(Na):MPB=50:40:10であった。ここで、得られた共重合体は本発明に係る接着層に含まれる親水性共重合体に相当する。また、得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)をGPCにて測定したところ、110,000であった。
【0138】
[実施例1]
前記得られた共重合体(本発明に係る親水性共重合体に相当)を10重量%になるように、メタノール/水(7/3 v/v)に溶解し、コート液を調製した。次にポリアミドチューブ(外径2.4mm×長さ70mm)を上記コート液にディップし、15mm/secの速度で引き上げた。次に、ポリアミドチューブをドライヤーで30秒間乾燥させ、溶媒を除去した。次に、ポリアミドチューブに波長365nm、ランプ電力1kWの紫外線(UV)を照射距離200mm、サンプル搬送速度2m/minの条件で照射した(積算光量:1,000mJ/cm)。UV照射装置はウシオ電機株式会社のUVC-1212/1MNLC3-AA04(高圧水銀ランプ)を使用した。次に、シグマアルドリッチ社製ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(本発明に係る親水性高分子に相当)を5重量%になるように、メタノール/水(5/5 v/v)に溶解し、コート液を調製した。次に先ほど親水性共重合体をコートしたポリアミドチューブを上記コート液にディップし、5mm/secの速度で引き上げた。次に、ポリアミドチューブをドライヤーで30秒間乾燥させ、溶媒を除去した。次に、ポリアミドチューブに波長365nm、ランプ電力1kWのUVを照射距離200mm、サンプル搬送速度2m/minの条件で照射して(積算光量:9,000mJ/cm)、サンプルを得た。UV照射装置はウシオ電機株式会社のUVC-1212/1MNLC3-AA04(高圧水銀ランプ)を使用した。
【0139】
なお、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは、メタノール/水(7/3 v/v)(液温:23℃)に0.1g/100g メタノール/水(7/3 v/v)以上の割合で溶解する。一方、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムは、アセトン(液温:23℃)には溶解しない(溶解度:0.01g/100g アセトン未満)。
【0140】
次に、得られたサンプルについて、下記方法にしたがって、図3に示される摩擦測定機(トリニティーラボ社製、ハンディートライボマスターTL201)20を用いて、潤滑性および耐久性(潤滑維持性)を評価した。
【0141】
すなわち、上記サンプル16をシャーレ12中に固定し、サンプル16全体が浸る高さの生理食塩水17中に浸漬した。このシャーレ12を、図3に示される摩擦測定機20の移動テーブル15に載置した。HDPE端子(φ10mm、R1mm)13をポリアミドチューブに接触させ、端子上に450gの荷重14をかけた。摺動距離20mm、摺動速度16.7mm/secの設定で、移動テーブル15を水平に10回往復移動させた際の摺動抵抗値(gf)を測定した。1往復目から10往復目までの往路時における摺動抵抗値を往復回数毎に平均し、試験力としてグラフにプロットすることにより、10回の繰り返し摺動に対する摺動抵抗値の変化を評価した。
【0142】
[実施例2]
ポリスチレンスルホン酸ナトリウムの代わりに和光純薬工業社製コンドロイチン硫酸Cナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして、サンプルの作製および摺動抵抗値の測定を行った。なお、コンドロイチン硫酸Cナトリウムは、メタノール/水(7/3 v/v)(液温:23℃)に0.1g/100g メタノール/水(7/3 v/v)以上の割合で溶解する。一方、コンドロイチン硫酸Cナトリウムは、アセトン(液温:23℃)には溶解しない(溶解度:0.01g/100g アセトン未満)。
【0143】
[実施例3]
前記得られた共重合体(本発明に係る親水性共重合体に相当)を10重量%になるように、メタノール/水(7/3 v/v)に溶解し、コート液を調製した。次にポリアミドチューブ(外径2.4mm×長さ70mm)を上記コート液にディップし、15mm/secの速度で引き上げた。次に、ポリアミドチューブをドライヤーで30秒間乾燥させ、溶媒を除去した。次に、ポリアミドチューブに波長365nm、ランプ電力1kWの紫外線(UV)を照射距離200mm、サンプル搬送速度2m/minの条件で照射した(積算光量:1,000mJ/cm)。UV照射装置はウシオ電機株式会社のUVC-1212/1MNLC3-AA04(高圧水銀ランプ)を使用した。次に、シグマアルドリッチ社製カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(本発明に係る親水性高分子に相当)を0.1重量%になるように、メタノール/水(5/5 v/v)に溶解し、コート液を調製した。次に先ほど親水性共重合体をコートしたポリアミドチューブを上記コート液にディップし、5mm/secの速度で引き上げた。次に、ポリアミドチューブをドライヤーで30秒間乾燥させ、溶媒を除去した。次に、ポリアミドチューブに波長365nm、ランプ電力1kWのUVを照射距離200mm、サンプル搬送速度2m/minの条件で照射して(積算光量:9,000mJ/cm)、サンプルを得た。UV照射装置はウシオ電機株式会社のUVC-1212/1MNLC3-AA04(高圧水銀ランプ)を使用した。
【0144】
なお、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、メタノール/水(7/3 v/v)(液温:23℃)に0.1g/100g メタノール/水(7/3 v/v)以上の割合で溶解する。一方、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、アセトン(液温:23℃)には溶解しない(溶解度:0.01g/100g アセトン未満)。
【0145】
次に、得られたサンプルについて、実施例1と同様にして摺動抵抗値の測定を行った。
【0146】
[比較例1]
ポリスチレンスルホン酸ナトリウムの代わりにN,N-ジメチルアクリルアミドとグリシジルメタクリレートのブロック共重合体を用い、N,N-ジメチルアクリルアミドとグリシジルメタクリレートのブロック共重合体を溶解する溶媒としてメタノール/水(5/5 v/v)の代わりにアセトンを用いた以外は実施例1と同様にして、サンプルの作製および摺動抵抗値の測定を行った。なお、N,N-ジメチルアクリルアミドとグリシジルメタクリレートのブロック共重合体は、メタノール/水(7/3 v/v)(液温:23℃)には溶解しない(溶解度:0.01g/100g メタノール/水(7/3 v/v)未満)。一方、N,N-ジメチルアクリルアミドとグリシジルメタクリレートのブロック共重合体は、アセトン(液温:23℃)に0.1g/100g アセトン以上の割合で溶解する。
【0147】
また、前記得られた共重合体(本発明に係る親水性共重合体に相当)は、アセトン(液温:23℃)には溶解しない(溶解度:0.01g/100g アセトン未満)。
【0148】
本例で使用したN,N-ジメチルアクリルアミドとグリシジルメタクリレートのブロック共重合体は、下記の方法に従って、製造した。
【0149】
すなわち、50℃のアジピン酸2塩化物72.3gにトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間塩酸を減圧除去して、オリゴエステルを得た。次に、得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、これを、水酸化ナトリウム5g、31%過酸化水素6.93g、界面活性剤としてのジオクチルホスフェート0.44g及び水120gよりなる溶液中に滴下し、-5℃で20分間反応させた。得られた生成物は、水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物を(PPO)を得た。
【0150】
次に、このPPOを0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)を9.5g、さらにベンゼン30gを溶媒として、80℃で2時間、減圧下で撹拌しながら重合した。重合後に得られた反応物をジエチルエーテルで再沈殿して、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリグリシジルメタクリレート(PPO-GMA)を得た。
【0151】
続いて、得られたPPO-GMA1.0g(GMA 7mmol相当)を、ジメチルアクリルアミド(DMAA)9.0g、溶媒としてのジメチルスルホキシド90gに仕込み、80℃で18時間、反応させた。反応後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し)、分子内にエポキシ基を有する湿潤時に潤滑性を発現するブロック共重合体(構成単位(A):構成単位(B)=GMA:DMAA=1:14(モル比))を得た。このようにして得られたブロック共重合体について、NMRおよびATR-IRにより分析したところ、分子内にエポキシ基が存在することを確認した。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)によって測定されたブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、約150万であった。
【0152】
実施例1~3および比較例1の結果を図4に示す。実施例1~3のサンプルは、比較例1のサンプルに比べて、摺動値が有意に低かった。また、比較例1は摺動抵抗値の上昇が見られたのに対し、実施例1~3のサンプルは、摺動回数に応じて摺動抵抗値が上昇する現象は見られなかった。これは、比較例1の溶媒であるアセトンが前記親水性共重合体を溶解、または膨潤し得ないため、表面潤滑層が接着層と相互作用することができず、十分な接着性を得られなかったことによると推測される。
【0153】
一方で、比較例1のサンプルは初期摺動抵抗値と比べると、摺動抵抗値は上昇したものの、十分な潤滑性と耐久性(潤滑維持性)を維持していた。これは、表面潤滑層が剥離し、接着層が露出したものの、接着層自体が潤滑性と耐久性(潤滑維持性)を有することによると推測される。このことから、本発明に係る親水性共重合体を用いて形成された接着層は前記表面潤滑層に対して優れた接着性を有し、かつ、前記接着層自体も十分な潤滑性と耐久性(潤滑維持性)を発揮することを示唆している。
【0154】
本出願は、2018年2月20日に出願された日本特許出願番号2018-027839号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0155】
1 基材層
1a 基材層コア部
1b 基材表面層
2 接着層
3 表面潤滑層
10 医療用具
12 シャーレ
13 HDPE端子
14 荷重
15 移動テーブル
16 ポリアミドチューブ(サンプル)
17 生理食塩水
20 摩擦測定機
図1
図2
図3
図4