(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】エキスパンド方法、半導体装置の製造方法、及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230425BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
H01L21/78 W
H01L21/78 M
H01L21/78 Q
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2020505034
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008510
(87)【国際公開番号】W WO2019172217
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018040797
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲男 洋一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直也
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠知
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-127116(JP,A)
【文献】特開2007-146104(JP,A)
【文献】特開2003-064329(JP,A)
【文献】特開2002-083785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第一の粘着剤層と、
第二のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第二の粘着剤層と、
前記第一の粘着剤層と前記第二の粘着剤層との間の基材と、を有
し、
前記第一の粘着剤層が前記基材の第一の基材面に積層され、前記第二の粘着剤層が前記基材の第二の基材面に積層された粘着シートの前記第一の粘着剤層または前記第二の粘着剤層に複数の被着体を貼着する貼着工程と、
前記複数の被着体を保持する前記粘着シートを伸張させて、前記複数の被着体の間隔を拡げるエキスパンド工程と、
前記エキスパンド工程の後、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層にエネルギー線を照射して、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層を硬化させるエネルギー線照射工程と、を有する、
エキスパンド方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエキスパンド方法において、
前記第一のエネルギー線硬化性樹脂と、前記第二のエネルギー線硬化性樹脂とが同じである、
エキスパンド方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のエキスパンド方法において、
前記第一の粘着剤層の組成と、前記第二の粘着剤層の組成とが同じである、
エキスパンド方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記第一の粘着剤層の厚さと、前記第二の粘着剤層との厚さとが同じである、
エキスパンド方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記貼着工程において、前記第一の粘着剤層に前記複数の被着体を貼着し、
前記エネルギー線照射工程において、前記第二の粘着剤層側からエネルギー線を照射して、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層を硬化させる、
エキスパンド方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記被着体は、半導体チップである、
エキスパンド方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法であって、
ダイシング用粘着シートに貼着された被加工物をダイシングし、個片化した複数の被着体を得る工程と、を含み、
前記貼着工程においては、前記複数の被着体の前記ダイシング用粘着シートと接する面とは反対側の面に、前記粘着シートの前記第一の粘着剤層または前記第二の粘着剤層を貼着し、
前記貼着工程の後に、前記ダイシング用粘着シートと前記複数の被着体とを分離する工程を実施する、
半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシング用粘着シートと前記複数の被着体とを分離した後に、前記エキスパンド工程を実施する、
半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記ダイシング用粘着シートは、膨張性微粒子を含み、
前記ダイシング用粘着シートと前記複数の被着体とを分離する工程の際に、前記膨張性微粒子を膨張させて前記粘着シートに貼着した前記複数の被着体と前記ダイシング用粘着シートとを分離する、
半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記エキスパンド工程の後に、前記複数の被着体を、第二の基材及び第三の粘着剤層を有する第二の粘着シートに転写する第二の転写工程と、
前記第二の粘着シートに貼着された前記複数の被着体を、第三の基材及び第四の粘着剤層を有する第三の粘着シートに転写する第三の転写工程と、を含み、
前記第三の粘着シートは、膨張性微粒子を含み、
前記第二の転写工程においては、前記複数の被着体の前記第一の粘着剤層または前記第二の粘着剤層と接する面とは反対側の面に前記第二の粘着シートの前記第三の粘着剤層を貼着し、前記複数の被着体から、前記粘着シートを分離し、
前記第三の転写工程においては、前記複数の被着体の前記第三の粘着剤層と接する面とは反対側の面に前記第三の粘着シートの前記第四の粘着剤層を貼着し、前記複数の被着体から、前記第二の粘着シートを分離する、
半導体装置の製造方法。
【請求項11】
粘着シートであって、
第一のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第一の粘着剤層と、
第二のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第二の粘着剤層と、
前記第一の粘着剤層と前記第二の粘着剤層との間の基材と、を有し、
前記第一の粘着剤層が前記基材の第一の基材面に積層され、前記第二の粘着剤層が前記基材の第二の基材面に積層された前記粘着シートの前記第一の粘着剤層または前記第二の粘着剤層に複数の被着体を貼着する貼着工程と、
前記複数の被着体を保持する前記粘着シートを伸張させて、前記複数の被着体の間隔を拡げるエキスパンド工程と、
前記エキスパンド工程の後、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層にエネルギー線を照射して、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層を硬化させるエネルギー線照射工程と、を有するエキスパンド方法に使用される、
粘着シート。
【請求項12】
請求項11に記載の粘着シートにおいて、
前記第一のエネルギー線硬化性樹脂と、前記第二のエネルギー線硬化性樹脂とが同じである、
粘着シート。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の粘着シートにおいて、
前記第一の粘着剤層の組成と、前記第二の粘着剤層の組成とが同じである、
粘着シート。
【請求項14】
請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の粘着シートにおいて、
前記第一の粘着剤層の厚さと、前記第二の粘着剤層との厚さとが同じである、
粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスパンド方法、半導体装置の製造方法、及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、及び高機能化が進んでいる。電子機器に搭載される半導体装置にも、小型化、薄型化、及び高密度化が求められている。半導体チップは、そのサイズに近いパッケージに実装されることがある。このようなパッケージは、チップスケールパッケージ(Chip Scale Package;CSP)と称されることもある。CSPの一つとして、ウエハレベルパッケージ(Wafer Level Package;WLP)が挙げられる。WLPにおいては、ダイシングにより個片化する前に、ウエハに外部電極などを形成し、最終的にはウエハをダイシングして、個片化する。WLPとしては、ファンイン(Fan-In)型とファンアウト(Fan-Out)型が挙げられる。ファンアウト型のWLP(以下、「FO-WLP」と略記する場合がある。)においては、半導体チップを、チップサイズよりも大きな領域となるように封止部材で覆って半導体チップ封止体を形成し、再配線層や外部電極を、半導体チップの回路面だけでなく封止部材の表面領域においても形成する。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体ウエハから個片化された複数の半導体チップについて、その回路形成面を残し、モールド部材を用いて周りを囲んで拡張ウエハを形成し、半導体チップ外の領域に再配線パターンを延在させて形成する半導体パッケージの製造方法が記載されている。特許文献1に記載の製造方法において、個片化された複数の半導体チップをモールド部材で囲う前に、エキスパンドシートに貼り替え、エキスパンドシートを展延して複数の半導体チップの間の距離を拡大させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなFO-WLPの製造方法では、半導体チップ外の領域に上述した再配線パターン等を形成するために、エキスパンドシート(粘着シート)を伸張させて半導体チップ同士を十分に離間させ、伸張後の粘着シートの拡張状態を保持したいという課題があった。このような課題は、半導体チップに限らず、その他の被着体においても、同様にあった。
【0006】
本発明の目的は、エキスパンド工程において拡張した状態の粘着シート形状を保持可能なエキスパンド方法、及び当該エキスパンド方法に用いる粘着シートを提供することである。本発明の別の目的は、当該エキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、第一のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第一の粘着剤層と、第二のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第二の粘着剤層と、前記第一の粘着剤層と前記第二の粘着剤層との間の基材と、を有する粘着シートの前記第一の粘着剤層または前記第二の粘着剤層に複数の被着体を貼着する貼着工程と、前記粘着シートを伸張させて、前記複数の被着体の間隔を拡げるエキスパンド工程と、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層にエネルギー線を照射して、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層を硬化させるエネルギー線照射工程と、を有することを特徴とするエキスパンド方法が提供される。
【0008】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第一のエネルギー線硬化性樹脂と、前記第二のエネルギー線硬化性樹脂とが同じであることが好ましい。
【0009】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第一の粘着剤層の組成と、前記第二の粘着剤層の組成とが同じであることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第一の粘着剤層の厚さと、前記第二の粘着剤層との厚さとが同じ であることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記貼着工程において、前記第一の粘着剤層に前記複数の被着体を貼着し、前記エネルギー線照射工程において、前記第二の粘着剤層側からエネルギー線を照射して、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層を硬化させることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記被着体は、半導体チップであることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法であって、ダイシング用粘着シートに貼着された被加工物をダイシングし、個片化した複数の被着体を得る工程と、を含み、前記貼着工程においては、前記複数の被着体の前記ダイシング用粘着シートと接する面とは反対側の面に、前記粘着シートの前記第一の粘着剤層または前記第二の粘着剤層を貼着し、前記貼着工程の後に、前記ダイシング用粘着シートと前記複数の被着体とを分離する工程を実施する、ことを特徴とする半導体装置の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法において、前記ダイシング用粘着シートと前記複数の被着体とを分離した後に、前記エキスパンド工程を実施することが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法において、前記ダイシング用粘着シートは、膨張性微粒子を含み、前記ダイシング用粘着シートと前記複数の被着体とを分離する工程の際に、前記膨張性微粒子を膨張させて前記粘着シートに貼着した前記複数の被着体と前記ダイシング用粘着シートとを分離することが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法において、前記エキスパンド工程の後に、前記複数の被着体を、第二の基材及び第三の粘着剤層を有する第二の粘着シートに転写する第二の転写工程と、前記第二の粘着シートに貼着された前記複数の被着体を、第三の基材及び第四の粘着剤層を有する第三の粘着シートに転写する第三の転写工程と、を含み、前記第三の粘着シートは、膨張性微粒子を含み、前記第二の転写工程においては、前記複数の被着体の前記第一の粘着剤層または前記第二の粘着剤層と接する面とは反対側の面に前記第二の粘着シートの前記第三の粘着剤層を貼着し、前記複数の被着体から、前記粘着シートを分離し、前記第三の転写工程においては、前記複数の被着体の前記第三の粘着剤層と接する面とは反対側の面に前記第三の粘着シートの前記第四の粘着剤層を貼着し、前記複数の被着体から、前記第二の粘着シートを分離することが好ましい。
【0017】
本発明の一態様によれば、粘着シートであって、第一のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第一の粘着剤層と、第二のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第二の粘着剤層と、前記第一の粘着剤層と前記第二の粘着剤層との間の基材と、を有し、前記粘着シートの前記第一の粘着剤層または前記第二の粘着剤層に複数の被着体を貼着する貼着工程と、前記粘着シートを伸張させて、前記複数の被着体の間隔を拡げるエキスパンド工程と、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層にエネルギー線を照射して、前記第一の粘着剤層及び前記第二の粘着剤層を硬化させるエネルギー線照射工程と、を有するエキスパンド方法に使用されることを特徴とする粘着シートが提供される。
【0018】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記第一のエネルギー線硬化性樹脂と、前記第二のエネルギー線硬化性樹脂とが同じであることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記第一の粘着剤層の組成と、前記第二の粘着剤層の組成とが同じであることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記第一の粘着剤層の厚さと、前記第二の粘着剤層との厚さとが同じ であることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、エキスパンド工程において拡張した状態の粘着シート形状を保持可能なエキスパンド方法、及び当該エキスパンド方法に用いる粘着シートを提供できる。本発明の別の態様によれば、当該エキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シートの断面概略図である。
【
図2】2軸延伸エキスパンド装置を説明する平面図である。
【
図3A】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図3B】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図3C】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図4A】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図4B】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図5B】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図5C】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図5D】本発明の一実施形態に係る粘着シートの使用方法の第一態様を説明する断面図である。
【
図6】本発明の実施形態の変形に係る粘着シートの断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る粘着シートは、基材と、第一のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第一の粘着剤層と、第二のエネルギー線硬化性樹脂を含有する第二の粘着剤層と、を有する。
【0024】
[粘着シート]
図1には、本実施形態の一態様に係る粘着シート10の断面概略図が示されている。粘着シート10は、基材11と、第一の粘着剤層12と、第二の粘着剤層13と、を有する。粘着シート10の形状は、例えば、テープ状(長尺の形態)、及びラベル状(枚葉の形態)等、あらゆる形状をとり得る。本実施形態に係る粘着シートを、他の粘着シートと区別するために、第一の粘着シートと称する場合がある。
【0025】
(基材)
基材11は、第一の基材面11Aと、第一の基材面11Aとは反対側の第二の基材面11Bとを有する。本実施形態に係る粘着シート10においては、第一の基材面11Aに第一の粘着剤層12が設けられ、第二の基材面11Bに第二の粘着剤層13が設けられている。
【0026】
基材11の材料は、大きく延伸させ易いという観点から、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料であることが好ましく、熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0027】
また、基材11の材料としては、大きく延伸させ易いという観点から、ガラス転移温度(Tg)が比較的低い樹脂を使用することが好ましい。このような樹脂のガラス転移温度(Tg)は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることがさらに好ましい。
【0028】
熱可塑性エラストマーとしては、ウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びアミド系エラストマー等が挙げられる。熱可塑性エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
熱可塑性エラストマーとしては、大きく延伸させ易いという観点から、ウレタン系エラストマーを使用することが好ましい。
【0029】
ウレタン系エラストマーは、一般に、長鎖ポリオール、鎖延長剤、及びジイソシアネートを反応させて得られる。ウレタン系エラストマーは、長鎖ポリオールから誘導される構成単位を有するソフトセグメントと、鎖延長剤とジイソシアネートとの反応から得られるポリウレタン構造を有するハードセグメントとからなる。
【0030】
ウレタン系エラストマーを、長鎖ポリオールの種類によって分類すると、ポリエステル系ポリウレタンエラストマー、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマー、及びポリカーボネート系ポリウレタンエラストマー等に分けられる。ウレタン系エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。本実施形態では、ウレタン系エラストマーは、大きく延伸させ易いという観点から、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマーであることが好ましい。
【0031】
長鎖ポリオールの例としては、ラクトン系ポリエステルポリオール、及びアジペート系ポリエステルポリオール等のポリエステルポリオール;ポリプロピレン(エチレン)ポリオール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。本実施形態では、長鎖ポリオールは、大きく延伸させ易いという観点から、アジペート系ポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0032】
ジイソシアネートの例としては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。本実施形態では、ジイソシアネートは、大きく延伸させ易いという観点から、ヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましい。
【0033】
鎖延長剤としては、低分子多価アルコール(例えば、1,4-ブタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオール等)、及び芳香族ジアミン等が挙げられる。これらのうち、大きく延伸させ易いという観点から、1,6-ヘキサンジオールを使用することが好ましい。
【0034】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、ブテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・ブテン-αオレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-α・オレフィン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、及びスチレン・エチレン・ブチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むエラストマーが挙げられる。オレフィン系エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
オレフィン系エラストマーの密度は、特に限定されない。例えば、オレフィン系エラストマーの密度は、0.860g/cm3以上、0.905g/cm3未満であることが好ましく、0.862g/cm3以上、0.900g/cm3未満であることがより好ましく、0.864g/cm3以上、0.895g/cm3未満であることが特に好ましい。オレフィン系エラストマーの密度が上記範囲を満たすことで、基材11は、被着体としての半導体ウエハを粘着シートに貼付する時の凹凸追従性等に優れる。
【0036】
オレフィン系エラストマーは、このエラストマーを形成するために用いた全単量体のうち、オレフィン系化合物からなる単量体の質量比率(本明細書において「オレフィン含有率」ともいう。)が50質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。
オレフィン含有率が過度に低い場合には、オレフィンに由来する構造単位を含むエラストマーとしての性質が現れにくくなり、基材11は、柔軟性及びゴム弾性を示し難くなる。
柔軟性及びゴム弾性を安定的に得る観点から、オレフィン含有率は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0037】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-共役ジエン共重合体、及びスチレン-オレフィン共重合体等が挙げられる。スチレン-共役ジエン共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-イソプレン-スチレン共重合体等の未水添スチレン-共役ジエン共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体(SEPS、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体の水添加物)、及びスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS、スチレン-ブタジエン共重合体の水素添加物)等の水添スチレン-共役ジエン共重合体等を挙げることができる。また、工業的には、スチレン系エラストマーとしては、タフプレン(旭化成株式会社製)、クレイトン(クレイトンポリマージャパン株式会社製)、住友TPE-SB(住友化学株式会社製)、エポフレンド(株式会社ダイセル製)、ラバロン(三菱ケミカル株式会社製)、セプトン(株式会社クラレ製)、及びタフテック(旭化成株式会社製)等の商品名が挙げられる。スチレン系エラストマーは、水素添加物でも未水添物であってもよい。スチレン系エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
ゴム系材料としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、及び多硫化ゴム等が挙げられる。ゴム系材料は、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
基材11は、上記のような材料(例えば、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料)からなるフィルムが、複数、積層された積層フィルムでもよい。また、基材11は、上記のような材料(例えば、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料)からなるフィルムと、その他のフィルムとが積層された積層フィルムでもよい。
【0040】
基材11は、上記の樹脂系材料を主材料とするフィルム内に、添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、例えば、顔料、染料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、及びフィラー等が挙げられる。顔料としては、例えば、二酸化チタン、及びカーボンブラック等が挙げられる。また、フィラーとしては、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料、及びニッケル粒子のような金属系材料が例示される。こうした添加剤の含有量は特に限定されないが、基材11が所望の機能を発揮し得る範囲に留めることが好ましい。
【0041】
基材11は、第一の基材面11A及び第二の基材面11Bに積層される粘着剤層(第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13)との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、表面処理、またはプライマー処理が施されていてもよい。表面処理としては、酸化法、及び凹凸化法等が挙げられる。プライマー処理としては、基材11表面にプライマー層を形成する方法が挙げられる。酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン処理、及び紫外線照射処理等が挙げられる。凹凸化法としては、例えば、サンドブラスト法、及び溶射処理法等が挙げられる。
【0042】
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13がエネルギー線硬化性粘着剤を含有するため、基材11は、エネルギー線に対する透過性を有することが好ましい。エネルギー線硬化性粘着剤が紫外線硬化性粘着剤である場合には、基材11は、紫外線に対して透過性を有することが好ましい。エネルギー線硬化性粘着剤が電子線硬化性粘着剤である場合には、基材11は、電子線の透過性を有することが好ましい。
【0043】
基材11の厚さは、粘着シート10が所望の工程において適切に機能できる限り、限定されない。基材11の厚さは、20μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、基材11の厚さは、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0044】
また、基材11の第一の基材面11Aまたは第二の基材面11Bの面内方向において2cm間隔で複数箇所の厚さを測定した際の、基材11の厚さの標準偏差は、2μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。当該標準偏差が2μm以下であることで、粘着シート10は、精度の高い厚さを有しており、粘着シート10を均一に延伸することが可能となる。
【0045】
23℃において基材11のMD方向及びCD方向の引張弾性率が、それぞれ10MPa以上、350MPa以下であり、23℃において基材11のMD方向及びCD方向の100%応力が、それぞれ3MPa以上、20MPa以下であることが好ましい。
引張弾性率及び100%応力が上記範囲であることで、粘着シート10を大きく延伸することが可能となる。
基材11の100%応力は、次のようにして得られる値である。150mm(長さ方向)×15mm(幅方向)の大きさの試験片を、基材11から切り出す。切り出した試験片の長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかむ。つかみ具で試験片をつかんだ後、速度200mm/minで長さ方向に引張り、つかみ具間の長さが200mmとなったときの引張力の測定値を読み取る。基材11の100%応力は、読み取った引張力の測定値を、基材11の断面積で除算することで得られる値である。基材11の断面積は、幅方向長さ15mm×基材11(試験片)の厚みで算出される。当該切り出しは、基材11の製造時における流れ方向(MD方向)またはMD方向に直交する方向(CD方向)と、試験片の長さ方向とが一致するように行う。なお、この引張試験において、試験片の厚さは特別に制限されず、試験の対象とする基材の厚さと同じであってよい。
【0046】
23℃において基材11のMD方向及びCD方向の破断伸度が、それぞれ100%以上であることが好ましい。
基材11のMD方向及びCD方向の破断伸度が、それぞれ100%以上であることで、破断が生じることなく、粘着シート10を大きく延伸することが可能となる。
【0047】
基材の引張弾性率(MPa)及び基材の破断伸度(%)は、次のようにして測定できる。基材を15mm×140mmに裁断して試験片を得る。当該試験片について、JIS K7161:2014及びJIS K7127:1999に準拠して、23℃における破断伸度及び引張弾性率を測定する。具体的には、上記試験片を、引張試験機(株式会社島津製作所製,製品名「オートグラフAG-IS 500N」)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、破断伸度(%)及び引張弾性率(MPa)を測定する。なお、測定は、基材の製造時の流れ方向(MD)及びこれに直角の方向(CD)の双方で行う。
【0048】
(粘着剤層)
本実施形態に係る粘着シート10において、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13は、エネルギー線硬化性粘着剤を含有する。
【0049】
第一の粘着剤層12が含有する第一のエネルギー線硬化性樹脂と、第二の粘着剤層13が含有する第二のエネルギー線硬化性樹脂とが、同じ樹脂であることが好ましい。
【0050】
第一の粘着剤層12の組成と、第二の粘着剤層13の組成とが同じであることがより好ましい。
【0051】
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13の厚さは、特に限定されない。
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13の厚さは、それぞれ独立に、例えば、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13の厚さは、それぞれ独立に、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0052】
第一の粘着剤層12の厚さと、第二の粘着剤層13との厚さとが同じであることが好ましい。
【0053】
第一のエネルギー線硬化性樹脂と第二のエネルギー線硬化性樹脂とが、同じ樹脂であるとともに、第一の粘着剤層12の厚さと第二の粘着剤層13の厚さとが同じであることで、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を硬化させた際の収縮量の差が無いか又は小さくなり、粘着シート10のカールを抑制できる。
【0054】
第一の粘着剤層12の組成と、第二の粘着剤層13の組成とが同じであるとともに、第一の粘着剤層12の厚さと第二の粘着剤層13の厚さとが同じであることで、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を硬化させた際の収縮量の差が無いか又は小さくなり、粘着シート10のカールをさらに抑制できる。
【0055】
なお、第一の粘着剤層12が含有する第一のエネルギー線硬化性樹脂と、第二の粘着剤層13が含有する第二のエネルギー線硬化性樹脂とが、互いに異なる樹脂であってもよい。この場合は、第一の粘着剤層12を硬化させた際の収縮量と、第二の粘着剤層13を硬化させた際の収縮量との差が無いか又は小さくなるような、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13の組成、並びに粘着剤層の厚さであることが好ましい。収縮量の差を無くす、又は小さくするためには、例えば、後述する粘着剤層に用い得る材料の中から適宜選択して、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13の組成、並びに粘着剤層の厚さを調整すればよい。
【0056】
第一のエネルギー線硬化性樹脂及び第二のエネルギー線硬化性樹脂が、紫外線硬化性樹脂であることが好ましい。この場合、それぞれの粘着剤層に対して照射するエネルギー線を変更しなくとも、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を紫外線で硬化させることができるので、製造プロセスを簡略にできる。
【0057】
・エネルギー線硬化性樹脂(a1)
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13は、それぞれ独立に、エネルギー線硬化性樹脂(a1)を含有することが好ましい。エネルギー線硬化性樹脂(a1)は、分子内に、エネルギー線硬化性の二重結合を有する。
エネルギー線硬化性樹脂を含有する粘着剤層は、エネルギー線照射により硬化する。そのため、粘着シート10を伸張後、基材11の両面に設けられた第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を硬化させることで、粘着シート10の拡張状態は、保持され易くなる。
また、エネルギー線硬化性樹脂を含有する粘着剤層は、エネルギー線照射により硬化して粘着力が低下する。被着体と粘着シートとを分離したい場合、エネルギー線を粘着剤層に照射することにより、容易に分離できる。
【0058】
エネルギー線硬化性樹脂(a1)は、(メタ)アクリル系樹脂であることが好ましい。
【0059】
エネルギー線硬化性樹脂(a1)は、紫外線硬化性樹脂であることが好ましく、紫外線硬化性の(メタ)アクリル系樹脂であることがより好ましい。
【0060】
エネルギー線硬化性樹脂(a1)は、エネルギー線の照射を受けると重合硬化する樹脂である。エネルギー線としては、例えば、紫外線、及び電子線等が挙げられる。
エネルギー線硬化性樹脂(a1)の例としては、エネルギー線重合性基を有する低分子量化合物(単官能のモノマー、多官能のモノマー、単官能のオリゴマー、及び多官能のオリゴマー)が挙げられる。エネルギー線硬化性樹脂(a1)は、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等のアクリレート、ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート、及びイソボルニルアクリレート等の環状脂肪族骨格含有アクリレート、並びにポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、及びイタコン酸オリゴマー等のアクリレート系化合物が用いられる。エネルギー線硬化性樹脂(a1)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0061】
エネルギー線硬化性樹脂(a1)の分子量は、通常、100以上、30000以下であり、300以上、10000以下程度であることが好ましい。
【0062】
・(メタ)アクリル系共重合体(b1)
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13は、それぞれ独立に、(メタ)アクリル系共重合体(b1)をさらに含んでいることが好ましい。(メタ)アクリル系共重合体は、前述したエネルギー線硬化性樹脂(a1)とは異なる。
【0063】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)は、エネルギー線硬化性の炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。すなわち、本実施形態において、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13は、それぞれ独立に、エネルギー線硬化性樹脂(a1)と、エネルギー線硬化性の(メタ)アクリル系共重合体(b1)とを含有することが好ましい。
【0064】
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13は、それぞれ独立に、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対し、エネルギー線硬化性樹脂(a1)を10質量部以上の割合で含有することが好ましく、20質量部以上の割合で含有することがより好ましく、25質量部以上の割合で含有することがさらに好ましい。
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13は、それぞれ独立に、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対し、エネルギー線硬化性樹脂(a1)を80質量部以下の割合で含有することが好ましく、70質量部以下の割合で含有することがより好ましく、60質量部以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0065】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
また、(メタ)アクリル系共重合体(b1)の重量平均分子量(Mw)は、150万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。
なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0066】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)は、側鎖にエネルギー線硬化性を有する官能基(エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体(b2)(以下「エネルギー線硬化性重合体(b2)」という場合がある。)であることが好ましい。
【0067】
エネルギー線硬化性重合体(b2)は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(b21)と、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物(b22)とを反応させて得られる共重合体であることが好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0068】
アクリル系共重合体(b21)は、官能基含有モノマーから導かれる構成単位と、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、または(メタ)アクリル酸エステルモノマーの誘導体から導かれる構成単位とを含むことが好ましい。
【0069】
アクリル系共重合体(b21)の構成単位としての官能基含有モノマーは、重合性の二重結合と、官能基と、を分子内に有するモノマーであることが好ましい。官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、置換アミノ基、及びエポキシ基等からなる群から選択される少なくともいずれかの官能基であることが好ましい。
【0070】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0071】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、及びシトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。カルボキシ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0072】
アミノ基含有モノマーまたは置換アミノ基含有モノマーとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、及びn-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アミノ基含有モノマーまたは置換アミノ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0073】
アクリル系共重合体(b21)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1以上、20以下であるアルキル(メタ)アクリレートの他、例えば、分子内に脂環式構造を有するモノマー(脂環式構造含有モノマー)が好ましく用いられる。
【0074】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1以上、18以下であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等がより好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0075】
脂環式構造含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等が好ましく用いられる。脂環式構造含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0076】
アクリル系共重合体(b21)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、1質量%以上の割合で含有することが好ましく、5質量%以上の割合で含有することがより好ましく、10質量%以上の割合で含有することがさらに好ましい。
また、アクリル系共重合体(b21)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、35質量%以下の割合で含有することが好ましく、30質量%以下の割合で含有することがより好ましく、25質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0077】
さらに、アクリル系共重合体(b21)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を、50質量%以上の割合で含有することが好ましく、60質量%以上の割合で含有することがより好ましく、70質量%以上の割合で含有することがさらに好ましい。
また、アクリル系共重合体(b21)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を、99質量%以下の割合で含有することが好ましく、95質量%以下の割合で含有することがより好ましく、90質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0078】
アクリル系共重合体(b21)は、上記のような官能基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とを常法で共重合することにより得られる。
アクリル系共重合体(b21)は、上述のモノマーの他にも、ジメチルアクリルアミド、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、及びスチレン等からなる群から選択される少なくともいずれかの構成単位を含有していてもよい。
【0079】
上記官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(b21)を、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物(b22)と反応させることにより、エネルギー線硬化性重合体(b2)が得られる。
【0080】
不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基は、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基含有モノマー単位の官能基の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基がヒドロキシ基、アミノ基または置換アミノ基の場合、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基としてはイソシアネート基またはエポキシ基が好ましく、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基がエポキシ基の場合、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基としてはアミノ基、カルボキシ基またはアジリジニル基が好ましい。
【0081】
不飽和基含有化合物(b22)は、エネルギー線重合性の炭素-炭素二重結合を、1分子中に少なくとも1個含み、1個以上、6個以下含むことが好ましく、1個以上、4個以下含むことがより好ましい。
【0082】
不飽和基含有化合物(b22)としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(2-イソシアナトエチルメタクリレート)、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。
【0083】
不飽和基含有化合物(b22)は、アクリル系共重合体(b21)の官能基含有モノマーのモル数に対して、50モル%以上の割合(付加率)で用いられることが好ましく、60モル%以上の割合で用いられることがより好ましく、70モル%以上の割合で用いられることが更に好ましい。
また、不飽和基含有化合物(b22)は、アクリル系共重合体(b21)の官能基含有モノマーモル数に対して、95モル%以下の割合で用いられることが好ましく、93モル%以下の割合で用いられることがより好ましく、90モル%以下の割合で用いられることがさらに好ましい。
【0084】
アクリル系共重合体(b21)と不飽和基含有化合物(b22)との反応においては、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基と不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基との組合せに応じて、反応の温度、圧力、溶媒、時間、触媒の有無、及び触媒の種類を適宜選択することができる。これにより、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基と、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基とが反応し、不飽和基がアクリル系共重合体(b21)の側鎖に導入され、エネルギー線硬化性重合体(b2)が得られる。
【0085】
エネルギー線硬化性重合体(b2)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
また、エネルギー線硬化性重合体(b2)の重量平均分子量(Mw)は、150万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。
【0086】
・光重合開始剤(C)
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13は、それぞれ独立に、光重合開始剤(C)を含有することが好ましい。第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13が光重合開始剤(C)を含有することにより、重合硬化時間及び光線照射量を少なくすることができる。
【0087】
光重合開始剤(C)としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサンソン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノン、(2,4,6-トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2-ベンゾチアゾール-N,N-ジエチルジチオカルバメート、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-プロペニル)フェニル]プロパノン}、及び2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等が挙げられる。これら光重合開始剤(C)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
光重合開始剤(C)は、粘着剤層にエネルギー線硬化性樹脂(a1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)を配合する場合には、エネルギー線硬化性樹脂(a1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)の合計量100質量部に対して0.1質量部以上の量で用いられることが好ましく、0.5質量部以上の量で用いられることがより好ましい。
また、光重合開始剤(C)は、粘着剤層にエネルギー線硬化性樹脂(a1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)を配合する場合には、エネルギー線硬化性樹脂(a1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)の合計量100質量部に対して10質量部以下の量で用いられることが好ましく、6質量部以下の量で用いられることがより好ましい。
【0089】
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13は、上記成分以外にも、適宜他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、架橋剤(E)等が挙げられる。
【0090】
・架橋剤(E)
架橋剤(E)としては、(メタ)アクリル系共重合体(b1)等が有する官能基との反応性を有する多官能性化合物を用いることができる。このような多官能性化合物の例としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、メラミン化合物、アジリジン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、オキサゾリン化合物、金属アルコキシド化合物、金属キレート化合物、金属塩、アンモニウム塩、及び反応性フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0091】
架橋剤(E)の配合量は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、0.04質量部以上であることがさらに好ましい。
また、架橋剤(E)の配合量は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対して、8質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0092】
本実施形態に係る粘着シートの復元率が、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。本実施形態に係る粘着シートの復元率は、100%以下であることが好ましい。復元率が上記範囲であることで、粘着シートを大きく延伸することができる。
前記復元率は、粘着シート10を150mm(長さ方向)×15mm(幅方向)に切り出した試験片において、長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ、その後、つかみ具間の長さが200mmとなるまで200mm/minの速度で引張り、つかみ具間の長さが200mmに拡張された状態で1分間保持し、その後、つかみ具間の長さが100mmとなるまで200mm/minの速度で長さ方向に戻し、つかみ具間の長さが100mmに戻された状態で1分間保持し、その後、60mm/minの速度で長さ方向に引張り、引張力の測定値が0.1N/15mmを示した時のつかみ具間の長さを測定し、当該長さから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL2(mm)とし、前記拡張された状態におけるつかみ具間の長さ200mmから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL1(mm)としたとき、下記数式(数2)で算出される。
復元率(%)={1-(L2÷L1)}×100 ・・・ (数2)
【0093】
(剥離シート)
本実施形態に係る粘着シート10は、第一の粘着剤層12又は第二の粘着剤層13に被着体(例えば、半導体チップ等)を貼付するまでの間、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を保護する目的で、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13に剥離シートが積層されていてもよい。剥離シートの構成は任意である。剥離シートの例としては、剥離剤等により剥離処理したプラスチックフィルムが例示される。
プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエステルフィルム、及びポリオレフィンフィルムが挙げられる。ポリエステルフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又はポリエチレンナフタレート等のフィルムが挙げられる。ポリオレフィンフィルムとしては、例えば、ポリプロピレン、又はポリエチレン等のフィルムが挙げられる。
剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、及び長鎖アルキル系等を用いることができる。これら剥離剤の中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。
剥離シートの厚さは、特に限定されない。剥離シートの厚さは、通常、20μm以上、250μm以下である。
【0094】
(粘着シートの製造方法)
本実施形態に係る粘着シート10は、従来の粘着シートと同様に製造できる。
粘着シート10の製造方法は、第一の粘着剤層12を基材11の第一の基材面11Aに積層し、第二の粘着剤層13を第二の基材面11Bに積層できれば、特に詳細には限定されない。
粘着シート10の製造方法の第一の例としては、次のような方法が挙げられる。まず、第一の粘着剤層12を構成する粘着性組成物、及び所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗工液(第一の塗工液と称する場合がある。)、並びに第二の粘着剤層13を構成する粘着性組成物、及び所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗工液(第二の塗工液と称する場合がある。)を調製する。次に、第一の塗工液を、基材11の第一の基材面11Aの面上に、塗布手段により塗布して塗膜を形成する。塗布手段としては、例えば、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、及びナイフコーター等が挙げられる。次に、当該塗膜を乾燥させることにより、第一の粘着剤層12を形成できる。塗工液は、塗布を行うことが可能であれば、その性状は特に限定されない。塗工液は、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、粘着剤層を形成するための成分を分散質として含有する場合もある。第二の粘着剤層13は、基材11の第二の基材面11Bの面上に第二の塗工液を塗布して、第一の粘着剤層12と同様にして形成できる。第一の例の変形例として、第二の粘着剤層13を先に形成し、その後、第一の粘着剤層12を形成してもよい。
【0095】
また、粘着シートの製造方法の第二の例としては、次のような方法が挙げられる。まず、前述の剥離シートの剥離面上に第一の塗工液を塗布して第一の塗膜を形成する。次に、第一の塗膜を乾燥させて第一の粘着剤層12と剥離シートとからなる積層体を形成する。次に、この積層体の粘着剤層における剥離シート側の面と反対側の面に、基材11を貼付する。次に、基材11の露出している面に第二の塗工液を塗布して第二の塗膜を形成する。第二の塗膜を乾燥させて、第二の粘着剤層13を形成する。このようにして、剥離シート、第一の粘着剤層12、基材11、及び第二の粘着剤層13が積層された積層体を形成する。この積層体の第二の粘着剤層13にさらに剥離シートが積層されていてもよい。この積層体における剥離シートは、工程材料として剥離してもよいし、粘着剤層に被着体(例えば、半導体チップ、及び半導体ウエハ等)が貼付されるまで、粘着剤層を保護していてもよい。第二の例の変形例として、先に剥離シート、第二の粘着剤層13、及び基材11とからなる積層体を形成し、その後、第一の粘着剤層12を積層体に形成する方法でもよい。
【0096】
また、粘着シートの製造方法の第三の例としては、次のような方法が挙げられる。上述の第二の例と同様にして、剥離シート(第一の剥離シート)、第一の粘着剤層12、及び基材11が積層された第一の積層体を形成する。一方で、別の剥離シート(第二の剥離シート)の剥離面上に第二の塗工液を塗布して第二の塗膜を形成する。次に、第二の塗膜を乾燥させて第二の粘着剤層13と第二の剥離シートとからなる第二の積層体を形成する。第二の積層体の第二の粘着剤層13を、第一の積層体における基材11の露出面に貼り合わせることで、第一の剥離シート、第一の粘着剤層12、基材11、第二の粘着剤層13、及び第二の剥離シートが積層された第三の積層体が形成される。この第三の積層体における剥離シートは、工程材料として剥離してもよいし、粘着剤層に被着体(例えば、半導体チップ、及び半導体ウエハ等)が貼付されるまで、粘着剤層を保護していてもよい。第三の例の変形例として、剥離シート、第二の粘着剤層13、及び基材からなる第一の積層体を形成し、剥離シート及び第一の粘着剤層12からなる第二の積層体を形成し、第一の積層体と第二の積層体とを貼り合わせる方法でもよい。
【0097】
なお、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を基材11に積層させる順番は、特に限定されない。
【0098】
塗工液が架橋剤を含有する場合には、塗膜の乾燥の条件(例えば、温度、及び時間等)を変えることにより、または加熱処理を、別途、行うことにより、塗膜内の(メタ)アクリル系共重合体(b1)と架橋剤との架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成させればよい。この架橋反応を十分に進行させるために、上述の方法等によって基材11に第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を積層させた後、得られた粘着シート10を、例えば、23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0099】
本実施形態に係る粘着シート10の厚さは、30μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、粘着シート10の厚さは、400μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0100】
[粘着シートの使用方法]
本実施形態に係る粘着シート10は、様々な被着体に貼着できるため、本実施形態に係る粘着シート10を適用できる被着体は、特に限定されない。例えば、被着体としては、半導体チップ、及び半導体ウエハであることが好ましい。
【0101】
本実施形態に係る粘着シート10は、エキスパンド方法に好適に用いることもできる。
具体的には、粘着シート10を用いたエキスパンド方法であって、第一の粘着剤層12または第二の粘着剤層13に複数の被着体を貼着する貼着工程と、粘着シート10を伸張させて、前記複数の被着体の間隔を拡げるエキスパンド工程と、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13にエネルギー線を照射して、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を硬化させるエネルギー線照射工程と、を有するエキスパンド方法が挙げられる。
【0102】
このエキスパンド方法に関して、貼着工程において第一の粘着剤層12に前記複数の被着体を貼着し、エネルギー線照射工程において第二の粘着剤層13側からエネルギー線を照射して、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を硬化させる態様が好ましい。
【0103】
本実施形態に係る粘着シート10は、例えば、半導体加工用に用いることができる。
さらに、本実施形態に係る粘着シート10は、基材11の片面に貼着された複数の半導体チップの間隔を拡げるために使用することができる。
上述の粘着シート10を用いるエキスパンド方法は、半導体加工プロセスにも適用できる。具体的には、被着体が半導体チップ又は半導体ウエハである場合、半導体装置の製造方法における一工程として、粘着シート10を用いるエキスパンド方法を含むことができる。
【0104】
複数の半導体チップの拡張間隔は、半導体チップのサイズに依存するため、特に制限されない。粘着シート10は、粘着シート10の片面に貼着された複数の半導体チップにおける、隣り合う半導体チップの相互の間隔を、200μm以上拡げるために使用することが好ましい。なお、当該半導体チップの相互の間隔の上限は、特に制限されない。当該半導体チップの相互の間隔の上限は、例えば、6000μmであってもよい。
【0105】
また、本実施形態に係る粘着シート10は、少なくとも2軸延伸によって、粘着シート10の片面に積層された複数の半導体チップの間隔を拡げる場合にも使用することができる。この場合、粘着シート10は、例えば、互いに直交するX軸及びY軸における、+X軸方向、-X軸方向、+Y軸方向、及び-Y軸方向の4方向に張力を付与して引き延ばされ、より具体的には、基材11におけるMD方向及びCD方向にそれぞれ引き延ばされる。
【0106】
上記のような2軸延伸は、例えば、X軸方向、及びY軸方向に張力を付与する離間装置を使用して行うことができる。ここで、X軸及びY軸は直交するものとし、X軸に平行な方向のうちの1つを+X軸方向、当該+X軸方向に反対の方向を-X軸方向、Y軸に平行な方向のうちの1つを+Y軸方向、当該+Y軸方向に反対の方向を-Y軸方向とする。
【0107】
上記離間装置は、粘着シート10に対して、+X軸方向、-X軸方向、+Y軸方向、及び-Y軸方向の4方向に張力を付与し、この4方向のそれぞれについて、複数の保持手段と、それらに対応する複数の張力付与手段とを備えることが好ましい。各方向における、保持手段及び張力付与手段の数は、粘着シート10の大きさにもよるが、例えば、3個以上、10個以下程度であってもよい。
【0108】
ここで、例えば+X軸方向に張力を付与するために備えられた、複数の保持手段と複数の張力付与手段とを含む群において、それぞれの保持手段は、粘着シート10を保持する保持部材を備え、それぞれの張力付与手段は、当該張力付与手段に対応した保持部材を+X軸方向に移動させて粘着シート10に張力を付与することが好ましい。そして、複数の張力付与手段は、それぞれ独立に、保持手段を+X軸方向に移動させるように設けられていることが好ましい。また、-X軸方向、+Y軸方向及び-Y軸方向にそれぞれ張力を付与するために備えられた、複数の保持手段と複数の張力付与手段とを含む3つの群においても、同様の構成を有することが好ましい。これにより、上記離間装置は、各方向に直交する方向の領域ごとに、粘着シート10に対して異なる大きさの張力を付与することができる。
【0109】
一般に、4つの保持部材を用いて粘着シート10を、+X軸方向、-X軸方向、+Y軸方向及び-Y軸方向の4方向からそれぞれ保持し、当該4方向に延伸する場合、粘着シート10にはこれら4方向に加え、これらの合成方向(例えば、+X軸方向と+Y軸方向との合成方向、+Y軸方向と-X軸方向との合成方向、-X軸方向と-Y軸方向との合成方向及び-Y軸方向と+X軸方向との合成方向)にも張力が付与される。その結果、粘着シート10の内側領域における半導体チップの間隔と外側領域における半導体チップとの間隔に違いが生じることがある。
【0110】
しかしながら、上述した離間装置では、+X軸方向、-X軸方向、+Y軸方向及び-Y軸方向のそれぞれの方向において、複数の張力付与手段がそれぞれ独立に粘着シート10に張力を付与することができるため、上述したような粘着シート10の内側と外側との間隔の違いが解消されるように、粘着シート10を延伸することができる。
その結果、半導体チップの間隔を正確に調整することができる。
【0111】
図2には、2軸延伸可能なエキスパンド装置(離間装置)の一例として、エキスパンド装置100を説明する平面図が示されている。
図2中、X軸、及びY軸は、互いに直交する関係にあり、当該X軸の正の方向を+X軸方向、当該X軸の負の方向を-X軸方向、当該Y軸の正の方向を+Y軸方向、当該Y軸の負の方向を-Y軸方向とする。粘着シート10は、各辺がX軸またはY軸と平行となるように、エキスパンド装置100に設置できる。その結果、粘着シート10における基材11のMD方向は、X軸またはY軸と平行となる。なお、
図2中、被着体(半導体チップ)は、省略されている。
【0112】
図2に示されるように、エキスパンド装置100は、+X軸方向、-X軸方向、+Y軸方向、及び-Y軸方向のそれぞれに5つの保持手段101(計20個の保持手段101)を備える。各方向における5つの保持手段101のうち、保持手段101Aは、両端に位置し、保持手段101Cは、中央に位置し、保持手段101Bは、保持手段101Aと保持手段101Cとの間に位置する。粘着シート10の各辺を、これらの保持手段101によって把持させることができる。
エキスパンド装置100は、保持手段101のそれぞれに対応する、図示されていない複数の張力付与手段を有する。張力付与手段を駆動させることで、保持手段101をそれぞれ独立に移動させることができる。粘着シート10における+X軸方向側の一辺を把持する5つの保持手段101については、例えば、+X軸方向に第一の延伸速度で所定時間移動させることができる。それと同時に、これらの5つの保持手段101のうち、保持手段101A、及び保持手段101Bを、保持手段101Cから遠ざける方向(すなわち、+Y軸方向または-Y軸方向)に移動させることもできる。このとき、保持手段101Aは第一の延伸速度よりも遅い速度(例えば、第一の延伸速度の2/3の速度)で移動させ、保持手段101Bは第一の延伸速度よりも遅い速度(例えば、第一の延伸速度の1/3の速度)で移動させることができる。なお、保持手段101Cは、+Y軸方向、及び-Y軸方向へは移動させなくてもよい。粘着シート10における、+X軸方向以外の3方向側に位置する保持手段101についても、+X軸方向と同様に、各方向への移動と、保持手段101A、及び保持手段101Bを保持手段101Cから遠ざける方向への移動とを行うことができる。
【0113】
上記離間装置は、半導体チップの相互間隔を測定する測定手段をさらに備えることが好ましい。ここにおいて、上記張力付与手段は、測定手段の測定結果を基に、複数の保持部材を個別に移動可能に設けられていることが好ましい。上記離間装置が測定手段を備えることにより、上記測定手段による半導体チップの間隔の測定結果に基づいて、当該間隔をさらに調整することが可能となり、その結果、半導体チップの間隔をより正確に調整することが可能となる。
【0114】
なお、上記離間装置において、保持手段としては、例えば、チャック手段、及び減圧手段が挙げられる。チャック手段としては、例えば、メカチャック、及びチャックシリンダ等が挙げられる。減圧手段としては、例えば、減圧ポンプ、及び真空エジェクタ等が挙げられる。また、上記離間装置において、保持手段としては、接着剤、もしくは磁力等で粘着シート10を支持する構成であってもよい。また、チャック手段における保持部材としては、例えば、粘着シート10を下から支持する下支持部材と、下支持部材に支持された駆動機器と、駆動機器の出力軸に支持され、駆動機器が駆動することで粘着シート10を上から押さえつけることが可能な上支持部材とを備えた構成を有する保持部材を使用することができる。当該駆動機器としては、例えば、電動機器、及びアクチュエータ等が挙げられる。電動機器としては、例えば、回動モータ、直動モータ、リニアモータ、単軸ロボット、及び多関節ロボット等が挙げられる。アクチュエータとしては、例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ、ロッドレスシリンダ及びロータリシリンダ等が挙げられる。
【0115】
また、上記離間装置において、張力付与手段は、駆動機器を備え、当該駆動機器により保持部材を移動させてもよい。張力付与手段が備える駆動機器としては、上述した保持部材が備える駆動機器と同様の駆動機器を使用することができる。例えば、張力付与手段は、駆動機器としての直動モータと、直動モータと保持部材との間に介在する出力軸とを備え、駆動した直動モータが出力軸を介して保持部材を移動させる構成であってよい。
【0116】
本実施形態に係る粘着シート10を用いて半導体チップの間隔を拡げる場合、半導体チップ同士が接触した状態、または半導体チップの間隔が殆ど拡げられていない状態からその間隔を拡げてもよく、あるいは、半導体チップ同士の間隔が既に所定の間隔まで拡げられた状態から、さらにその間隔を拡げてもよい。
【0117】
半導体チップ同士が接触した状態、または半導体チップの間隔が殆ど拡げられていない状態からその間隔を拡げる場合としては、例えば、ダイシングシート上において半導体ウエハを分割することで複数の半導体チップを得た後、当該ダイシングシートから本実施形態に係る粘着シート10に複数の半導体チップを転写し、続いて、当該半導体チップの間隔を拡げることができる。あるいは、本実施形態に係る粘着シート10上において半導体ウエハを分割して複数の半導体チップを得た後、当該半導体チップの間隔を拡げることもできる。
【0118】
半導体チップ同士の間隔が既に所定の間隔まで拡げられた状態から、さらにその間隔を拡げる場合としては、その他の粘着シート、好ましくは本実施形態に係る粘着シート10を用いて半導体チップ同士の間隔を所定の間隔まで拡げた後、当該粘着シート10から本実施形態に係る別の粘着シート10に半導体チップを転写し、続いて、本実施形態に係る粘着シート10を延伸することで、半導体チップの間隔をさらに拡げることができる。なお、このような半導体チップの転写と粘着シートの延伸は、半導体チップの間隔が所望の距離となるまで複数回繰り返してもよい。
【0119】
[半導体装置の製造方法]
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、本実施形態に係る粘着シート10を用いたエキスパンド方法を含んでいることが好ましい。
【0120】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、ダイシング用粘着シートに貼着された被加工物(半導体ウエハ)をダイシングし、個片化した複数の被着体(半導体チップ)を得る工程(ダイシング工程)を含むことが好ましい。ダイシング用粘着シートは、膨張性微粒子を含むことが好ましい。
【0121】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法の貼着工程においては、複数の被着体(半導体チップ)のダイシング用粘着シートと接する面とは反対側の面に、粘着シート10の第一の粘着剤層12または第二の粘着剤層13を貼着することが好ましい。
【0122】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、貼着工程の後に、ダイシング用粘着シートと複数の被着体(半導体チップ)とを分離する工程を実施することが好ましい。ダイシング用粘着シートが膨張性微粒子を含む場合、膨張性微粒子を膨張させて粘着シート10に貼着した複数の被着体(半導体チップ)とダイシング用粘着シートとを分離することが好ましい。
【0123】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、ダイシング用粘着シートと複数の被着体(半導体チップ)とを分離した後に、エキスパンド工程を実施することが好ましい。
【0124】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、複数の被着体(半導体チップ)を、第二の基材及び第三の粘着剤層を有する第二の粘着シートに転写する工程(転写工程)を含むことが好ましい。第二の粘着シートは、膨張性微粒子を含むことが好ましい。
【0125】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において、複数の被着体(半導体チップ)の第一の粘着剤層12または前記第二の粘着剤層13と接する面とは反対側の面に第二の粘着シートの第三の粘着剤層を貼付し、第二の粘着シートに貼付した複数の被着体(半導体チップ)と粘着シート10とを分離することが好ましい。第二の粘着シートが膨張性微粒子を含む場合は、膨張性微粒子を膨張させて複数の被着体(半導体チップ)と第二の粘着シートとを分離することが好ましい。
【0126】
さらに、本実施形態に係る粘着シート10は、半導体チップの間隔を比較的大きく離間させることが求められる用途への使用が好ましく、このような用途の例としては、ファンアウト型の半導体ウエハレベルパッケージ(FO-WLP)の製造方法が好ましく挙げられる。このようなFO-WLPの製造方法の例として、以下に説明する第一態様が挙げられる。
【0127】
(第一態様)
以下、本実施形態に係る粘着シート10を使用したFO-WLPの製造方法の第一態様を説明する。
【0128】
図3Aには、ダイシングシートとしてのダイシング用粘着シートAに貼着された被加工物としての半導体ウエハWが示されている。
半導体ウエハWは、回路面W1を有し、回路面W1には、回路W2が形成されている。ダイシング用粘着シートAは、半導体ウエハWの回路面W1とは反対側の裏面W3に貼着されている。ダイシング用粘着シートAは、基材A1と、粘着剤層A2とを有する。粘着剤層A2は、基材A1に積層されている。
【0129】
[ダイシング工程]
図3Bには、半導体ウエハWのダイシング後、形成された複数の半導体チップCPがダイシング用粘着シートAに保持された状態が示されている。
ダイシング用粘着シートAに保持された半導体ウエハWは、ダイシングにより個片化され、複数の半導体チップCPが形成される(ダイシング工程という場合がある。)。半導体チップCPは、回路面W1と、回路面W1とは反対側の裏面W3と、を有する。回路面W1には、回路W2が形成されている。
ダイシングには、ダイシングソーなどの切断手段が用いられる。
ダイシングは、切断手段を用いる代わりに、半導体ウエハWに対してレーザ光を照射して行ってもよい。例えば、レーザ光の照射により、半導体ウエハWを完全に分断し、複数の半導体チップに個片化してもよい。
あるいは、レーザ光の照射により半導体ウエハWの内部に改質層を形成した後、後述するエキスパンド工程において、粘着シートを引き延ばすことで、半導体ウエハを改質層の位置で破断して、半導体チップCPに個片化してもよい。このようにして半導体チップに個片化する方法をステルスダイシングという場合がある。ステルスダイシングの場合、レーザ光の照射は、例えば、赤外域のレーザ光を、半導体ウエハWの内部に設定された焦点に集束されるように照射する。また、これらの方法においては、レーザ光の照射は、半導体ウエハWのいずれの側から行ってもよい。
ダイシング後、複数の半導体チップCPは、エキスパンドシートに一括転写されることが好ましい。
【0130】
ダイシング用粘着シートAは、膨張性微粒子を含むことが好ましい。この場合、基材A1及び粘着剤層A2の少なくともいずれかが膨張性微粒子を含むことが好ましい。膨張性微粒子は、外部刺激によって、それ自体が膨張することで粘着剤層の表面に凹凸を形成し、被着体(半導体チップ)との接着力を低下させることができれば特に限定されない。膨張性微粒子としては、例えば、加熱によって膨張する熱膨張性微粒子、及びエネルギー線の照射によって膨張するエネルギー線膨張性微粒子等が挙げられる。汎用性及び取り扱い性の観点から、膨張性微粒子としては、熱膨張性微粒子であることが好ましい。
ダイシング用粘着シートAに含まれる膨張性微粒子を膨張させることにより粘着剤層A2の粘着表面に凹凸を形成し、これにより粘着剤層A2の粘着表面と半導体チップCPとの接触面積を減少させ、粘着力を大幅に低下させることができる。その結果、ダイシング用粘着シートAと半導体チップCPとを分離する際には、半導体チップCPへの糊残り等もなく、半導体チップCPの清浄性を保ったまま、ダイシング用粘着シートAから半導体チップCPを容易に一括で分離することができる。
【0131】
[第一の転写工程]
図3Cには、ダイシング工程の後に、複数の半導体チップCPを、本実施形態に係る粘着シート10に転写する工程を説明する図が示されている。この工程を「転写工程」という場合があり、また、他の転写工程と区別するために「第一の転写工程」という場合もある。
【0132】
(第一の貼着工程)
第一の転写工程は、複数の半導体チップCPのダイシング用粘着シートAと接する面(裏面W3)とは反対側の面(回路面W1)に、粘着シート10の第一の粘着剤層12または第二の粘着剤層13を貼着する工程を含む。この工程を「貼着工程」という場合があり、また、他の貼着工程と区別するために「第一の貼着工程」という場合もある。
第一態様においては、第一の粘着剤層12を複数の半導体チップCPの回路面W1に貼着する。粘着シート10は、回路面W1を第一の粘着剤層12で覆うように貼着されることが好ましい。
【0133】
粘着シート10は、複数の半導体チップCPとともに、リングフレームに貼着されていてもよい。この場合、粘着シート10の第一の粘着剤層12の上に、リングフレームを載置し、これを軽く押圧し、固定する。その後、リングフレームの環形状の内側にて露出する第一の粘着剤層12を半導体チップCPの回路面W1に押し当てて、粘着シート10に複数の半導体チップCPを固定する。
【0134】
(第一の分離工程)
第一の転写工程は、さらに、前記貼着工程の後に、ダイシング用粘着シートAと複数の半導体チップCPとを分離する工程を含む。この工程を、「分離工程」という場合があり、また、他の分離工程と区別するために「第一の分離工程」という場合もある。
粘着シート10を貼着した後、ダイシング用粘着シートAを複数の半導体チップCPから分離すると、複数の半導体チップCPの裏面W3が露出する。
【0135】
図4Aには、ダイシング用粘着シートAを分離した後の複数の半導体チップCP及び粘着シート10が示されている。
【0136】
ダイシング用粘着シートAが膨張性微粒子を含む場合、膨張性微粒子を膨張させて粘着シート10に貼着した複数の半導体チップCPとダイシング用粘着シートAとを分離することが好ましい。ダイシング用粘着シートAに含まれる膨張性微粒子を膨張させることにより粘着剤層A2の粘着表面に凹凸を形成し、これにより粘着剤層A2の粘着表面と半導体チップCPとの接触面積を減少させ、粘着力を大幅に低下させることができる。その結果、糊残り等もなく、半導体チップCPの清浄性を保ったまま容易に一括で、半導体チップCPとダイシング用粘着シートAとを分離できる。
第一態様においては、粘着シート10の第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13がエネルギー線硬化性粘着剤を含有するため、ダイシング用粘着シートAが含有する膨張性微粒子は、熱膨張性微粒子であることが好ましい。
【0137】
[エキスパンド工程]
図4Bには、複数の半導体チップCPを保持する粘着シート10を引き延ばす工程を説明する図が示されている。この工程を、「エキスパンド工程」という場合があり、別のエキスパンド工程と区別するため、「第一のエキスパンド工程」と称する場合もある。
【0138】
本実施形態では、粘着シート10がエキスパンドシートとして用いられる。エキスパンド工程においては、粘着シート10を引き延ばして、複数の半導体チップCP間の間隔を拡げる。また、ダイシング工程でステルスダイシングを行った場合には、粘着シート10を引き延ばすことで、半導体ウエハを改質層の位置で破断し、複数の半導体チップCPに個片化するとともに、複数の半導体チップCP間の間隔を拡げることができる。
【0139】
エキスパンド工程において粘着シート10を引き延ばす方法は、特に限定されない。粘着シート10を引き延ばす方法としては、例えば、環状または円状のエキスパンダを押し当てて粘着シート10を引き延ばす方法、及び把持部材などを用いて粘着シート10の外周部を掴んで引き延ばす方法などが挙げられる。後者の方法としては、例えば、前述した離間装置等を使用して2軸延伸する方法が挙げられる。これらの方法の中でも、半導体チップCP間の間隔をより大きく拡げることが可能となるという観点から、2軸延伸する方法が好ましい。
【0140】
図4Bに示されているように、エキスパンド後の半導体チップCP間の距離をD1とする。距離D1としては、半導体チップCPのサイズに依存するため、特に制限されない。距離D1としては、例えば、それぞれ独立に、200μm以上、6000μm以下とすることが好ましい。
【0141】
[エネルギー線照射工程]
エキスパンド工程の後、粘着シート10にエネルギー線を照射して、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を硬化させる工程を実施する。この工程を「エネルギー線照射工程」という場合がある。
第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13が紫外線硬化性である場合、エネルギー線照射工程においては、粘着シート10に紫外線を照射する。エキスパンド工程の後に第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13を硬化させることで、延伸後の粘着シート10の形状保持性が向上する。その結果、第一の粘着剤層12及び第二の粘着剤層13に貼着された複数の半導体チップCPの整列性が維持され易い。
【0142】
[第二の転写工程]
図5Aには、エキスパンド工程及びエネルギー線照射工程の後に、複数の半導体チップCPを第二の粘着シート20に転写する工程を説明する図が示されている。この工程を、「転写工程」という場合があり、また、他の転写工程と区別するために「第二の転写工程」という場合もある。
第二の転写工程は、第一の転写工程と同様、第二の粘着シート20を複数の半導体チップCPに貼着する工程(第二の貼着工程)と、粘着シート10を分離する分離工程(第二の分離工程)と、を含む。
【0143】
(第二の貼着工程)
第二の貼着工程においては、複数の半導体チップCPの裏面W3に第二の粘着シート20の第三の粘着剤層22を貼着する。
エキスパンド工程及びエネルギー線照射工程の後、複数の半導体チップCPは、その回路面W1を第一の粘着剤層12に向けて貼着されている。そのため、回路面W1とは反対側の裏面W3に、第二の粘着シート20の第三の粘着剤層22を貼着する。エキスパンド工程後の複数の半導体チップCPの間隔を維持した状態で、半導体チップCPの裏面W3に第二の粘着シート20を貼着することが好ましい。
【0144】
第二の粘着シート20は、複数の半導体チップCPを保持できれば、特に限定されない。第一態様では、第二の基材21と、第三の粘着剤層22とを有する第二の粘着シート20を用いる。
【0145】
第二の粘着シート20は、ダイシング用粘着シートAと同様、膨張性微粒子を含むことが好ましい。この場合、第二の基材21及び第三の粘着剤層22の少なくともいずれかが膨張性微粒子を含むことが好ましい。
第二の粘着シート20に含まれる膨張性微粒子を膨張させることにより第三の粘着剤層22の粘着表面に凹凸を形成し、これにより第三の粘着剤層22の粘着表面と半導体チップCPとの接触面積を減少させ、粘着力を大幅に低下させることができる。その結果、第二の粘着シート20と半導体チップCPとを分離する際には、半導体チップCPへの糊残り等もなく、半導体チップCPの清浄性を保ったまま、第二の粘着シート20から半導体チップCPを容易に一括で分離することができる。
【0146】
第二の粘着シート20は、複数の半導体チップCPとともに、第二のリングフレームに貼着されていてもよい。この場合、第二の粘着シート20の第三の粘着剤層22の上に、第二のリングフレームを載置し、これを軽く押圧し、固定する。その後、第二のリングフレームの環形状の内側にて露出する第三の粘着剤層22を半導体チップCPの裏面W3に押し当てて、第二の粘着シート20に複数の半導体チップCPを固定する。
【0147】
(第二の分離工程)
第二の転写工程は、第二の粘着シート20を複数の半導体チップCPに貼着後、粘着シート10を分離する工程である。
図5Bには、粘着シート10を分離した後の複数の半導体チップCP及び第二の粘着シート20が示されている。
粘着シート10を分離すると複数の半導体チップCPの回路面W1が露出する。エキスパンド工程の後に、第一の粘着剤層12を硬化させたので、第一の粘着剤層12の粘着力が低下し、粘着シート10を半導体チップCPから剥離し易くなる。
粘着シート10を剥離した後も、エキスパンド工程において拡張させた複数の半導体チップCP間の距離D1が維持されていることが好ましい。
【0148】
[第三の転写工程]
図5Cには、第二の粘着シート20に貼着されていた複数の半導体チップCPを、第三の粘着シート30に転写する工程を説明する図が示されている。この工程を「転写工程」という場合があり、また、他の転写工程と区別するために「第三の転写工程」という場合もある。
第三の転写工程は、第二の転写工程と同様、第三の粘着シート30を複数の半導体チップCPに貼着する工程(第三の貼着工程)と、第二の粘着シート20を分離する工程(第三の分離工程)と、を含む。
第二の粘着シート20から第三の粘着シート30に転写された複数の半導体チップCPは、距離D1が維持されていることが好ましい。
【0149】
(第三の貼着工程)
第三の貼着工程においては、複数の半導体チップCPの回路面W1に第三の粘着シート30の第四の粘着剤層32を貼着する。
エキスパンド工程後の複数の半導体チップCPの間隔を維持した状態で、半導体チップCPの回路面W1に第三の粘着シート30を貼着することが好ましい。
【0150】
第三の粘着シート30は、複数の半導体チップCPを保持できれば特に限定されない。第三の粘着シート30は、第三の基材31と、第四の粘着剤層32とを有する。
【0151】
第三の粘着シート30は、ダイシング用粘着シートAと同様、膨張性微粒子を含んでいてもよい。
第三の粘着シート30に含まれる膨張性微粒子を膨張させることにより第四の粘着剤層32の粘着表面に凹凸を形成し、これにより第四の粘着剤層32の粘着表面と半導体チップCPとの接触面積を減少させ、粘着力を大幅に低下させることができる。その結果、第三の粘着シート30と後述する封止工程で形成する封止体とを分離する際には、半導体チップCPへの糊残り等もなく、半導体チップCPの清浄性を保ったまま、第三の粘着シート30から半導体チップCPを分離することができる。
【0152】
第三の粘着シート30が含む膨張性微粒子(第三の膨張性微粒子)、ダイシング用粘着シートAが含む膨張性微粒子(第一の膨張性微粒子)、及び第二の粘着シート20が含む膨張性微粒子(第二の膨張性微粒子)は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0153】
(第三の分離工程)
第三の貼着工程後の第三の分離工程においては、第二の粘着シート20を複数の半導体チップCPから分離する。第二の粘着シート20の第二の基材21及び第三の粘着剤層22の少なくともいずれかが膨張性微粒子を含む場合、膨張性微粒子を膨張させることで第三の粘着剤層22の表面に凹凸が形成され、第二の粘着シート20を半導体チップCPから剥離し易くなる。
【0154】
第二の粘着シート20及び第三の粘着シート30が、どちらも同種の外部刺激によって膨張する膨張性微粒子を含む場合、第二の粘着シート20を分離する際には、第三の粘着シート30の第四の粘着剤層32の粘着力が、第二の粘着シート20の第三の粘着剤層22の粘着力も大きくなるように、第二の粘着シート20及び第三の粘着シート30の種類及び剥離方法を選択することが好ましい。
また、第二の粘着シート20の粘着力を低下させるメカニズムと、第三の粘着シート30の粘着力を低下させるメカニズムとが、異なることが好ましい。例えば、第二の粘着シート20は、その粘着力が熱によって低下し、第三の粘着シート30は、その粘着力が紫外線によって低下するように、基材及び粘着剤層を選択することも好ましい。
【0155】
第三の粘着シート30上の複数の半導体チップCPを封止したい場合には、第三の粘着シート30として、封止工程用の粘着シートを用いることが好ましく、耐熱性を有する粘着シートを用いることがより好ましい。
第三の粘着シート30として耐熱性を有する粘着シートを用いる場合は、第三の基材31及び第四の粘着剤層32は、それぞれ、封止工程で課される温度に耐え得る耐熱性を有する材料で形成されていることが好ましい。第三の粘着シート30の別の態様としては、第三の基材、第三の粘着剤層、及び第四の粘着剤層を備えた粘着シートが挙げられる。この粘着シートは、第三の粘着剤層と第四の粘着剤層との間に第三の基材を含み、第三の基材の両面に粘着剤層を有する。
【0156】
第二の粘着シート20から第三の粘着シート30に転写された複数の半導体チップCPは、回路面W1を第四の粘着剤層32に向けて貼着されている。
【0157】
[封止工程]
図5Dには、封止部材60を用いて複数の半導体チップCPを封止する工程を説明する図が示されている。この工程を「封止工程」という場合がある。
【0158】
本実施形態において、封止工程は、複数の半導体チップCPが第三の粘着シート30に転写され、第二の粘着シート20が分離された後に実施される。
封止工程において、回路面W1が第三の粘着シート30に保護された状態で、複数の半導体チップCPを封止部材60によって覆うことにより封止体3が形成される。複数の半導体チップCPの間にも封止部材60が充填されている。ここで、第三の粘着シート30により回路面W1及び回路W2が覆われているので、封止部材60で回路面W1が覆われることを防止できる。
【0159】
封止工程により、所定距離ずつ離間した複数の半導体チップCPが封止部材60に埋め込まれた封止体3が得られる。封止工程においては、複数の半導体チップCPは、エキスパンド工程を実施した後の距離D1が維持された状態で、封止部材60により覆われることが好ましい。
【0160】
封止工程の後、第三の粘着シート30を封止体3から分離する分離工程を実施する。この工程を第四の分離工程という場合がある。
第三の粘着シート30を分離すると、半導体チップCPの回路面W1及び封止体3の第三の粘着シート30と接触していた面3Aが露出する。
【0161】
エキスパンド工程の後、転写工程及びエキスパンド工程を任意の回数繰り返すことで、半導体チップCP間の距離を所望の距離とし、半導体チップCPを封止する際の回路面の向きを所望の向きとすることができる。
【0162】
[再配線層形成工程及び接続工程]
封止体3から第三の粘着シート30を剥離した後、この封止体3に対して、半導体チップCPと電気的に接続する再配線層を形成する再配線層形成工程と、再配線層と外部端子電極とを電気的に接続する接続工程とが順に行われる。再配線層形成工程及び外部端子電極との接続工程によって、半導体チップCPの回路と外部端子電極とが電気的に接続される。
【0163】
[個片化工程]
外部端子電極が接続された封止体3を半導体チップCP単位で個片化する。封止体3を個片化させる方法は、特に限定されない。封止体3を個片化することで、半導体チップCP単位の半導体パッケージが製造される。半導体チップCPの領域外にファンアウトさせた外部電極を接続させた半導体パッケージは、ファンアウト型のウエハレベルパッケージ(FO-WLP)として製造される。
【0164】
[実装工程]
本実施形態では、個片化された半導体パッケージを、プリント配線基板等に実装する工程を含むことも好ましい。
【0165】
本実施形態に係る粘着シート10は、エキスパンド工程における拡張した状態の形状を保持し易い。そのため、以上説明したような、複数の半導体チップの間隔を大きく拡げ、シート伸張後の状態を維持する必要がある用途に好適に使用することができる。
【0166】
[実施形態の変形]
本発明は、上述の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲で、上述の実施形態を変形した態様などを含む。
【0167】
上述した第一態様に係るFO-WLPの製造方法は、一部の工程を変更したり、一部の工程を省略したりしてもよい。
【0168】
半導体ウエハや半導体チップにおける回路等は、図示した配列や形状等に限定されない。半導体パッケージにおける外部端子電極との接続構造等も、前述の実施形態で説明した態様に限定されない。前述の実施形態では、FO-WLPタイプの半導体パッケージを製造する態様を例に挙げて説明したが、本発明は、ファンイン型のWLP等のその他の半導体パッケージを製造する態様にも適用できる。
【0169】
前述の実施形態では、第一の粘着剤層12に複数の被着体(半導体チップCP)を貼着させる態様を例に挙げて説明したが、本発明は、このような態様に限定されない。例えば、第二の粘着剤層13に複数の被着体(半導体チップCP)を貼着させる態様であってもよい。
【0170】
前述の実施形態では、粘着シート10の上面側の粘着剤層に被着体(半導体チップCP)を貼着させ、粘着シート10の下面側からエネルギー線(紫外線)を照射する態様を例に挙げて説明したが、本発明は、このような態様に限定されない。例えば、粘着シート10の下面側の粘着剤層に被着体(半導体チップCP)を貼着させ、粘着シート10の上面側からエネルギー線(紫外線)を照射する態様であってもよい。
【0171】
粘着シートは、上述の実施形態で説明した態様に限定されない。本発明の粘着シートの別の態様としては、粘着シートにおいて、第一の粘着剤層及び第二の粘着剤層のいずれかにコート層が積層されていることが好ましい。被着体(半導体チップ等)は、コート層が積層されていない粘着剤層に貼着される。
【0172】
図6には、コート層14を有する粘着シート10Aが示されている。
コート層14の材質としては、例えば、エネルギー線硬化性樹脂と、無機充填剤とを含有する組成物であることが好ましい。エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、前述のエネルギー線硬化性樹脂(a1)を用いることができる。無機充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、及び窒化ホウ素等の粉末、これら粉末のいずれかを球形化したビーズ、単結晶繊維、並びにガラス繊維等が挙げられる。
コート層14の厚さは、0.5μm以上、5μm以下であることが好ましい。
【0173】
前記実施形態に係る半導体装置の製造方法において、エキスパンド工程の後に、複数の半導体チップCP間の距離D1をさらに拡張させたい場合には、粘着シート10を剥離後、第二の粘着シート20を引き延ばす工程(以下「第二のエキスパンド工程」という場合がある。)を実施してもよい。第二のエキスパンド工程を実施する場合、第二の粘着シート20として、エキスパンドシートを用いることが好ましい。このエキスパンドシートとしては、前記実施形態に係る粘着シート(第一の粘着シート)を用いることがより好ましい。
第二のエキスパンド工程では、複数の半導体チップCP間の間隔をさらに拡げる。第二のエキスパンド工程において第二の粘着シート20を引き延ばす方法は、特に限定されない。例えば、第二のエキスパンド工程も、第一のエキスパンド工程と同様に実施できる。
なお、第二のエキスパンド工程後の半導体チップCP間の間隔をD2とする。距離D2としては、半導体チップCPのサイズに依存するため、特に制限されないが、距離D2は、距離D1よりも大きい。距離D2としては、例えば、それぞれ独立に、200μm以上、6000μm以下とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0174】
10…粘着シート、11…基材、12…第一の粘着剤層、13…第二の粘着剤層、20…第二の粘着シート、21…第二の基材、22…第三の粘着剤層、30…第三の粘着シート、31…第三の基材、32…第四の粘着剤層、A…ダイシング用粘着シート、CP…半導体チップ(被着体)。