(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】低分子量セルロースエーテルの制御された調製方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/08 20060101AFI20230425BHJP
C08B 11/193 20060101ALI20230425BHJP
C08B 11/02 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C08B11/08
C08B11/193
C08B11/02
(21)【出願番号】P 2020505333
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 US2018040196
(87)【国際公開番号】W WO2019036123
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-06-15
(32)【優先日】2017-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521153216
【氏名又は名称】ニュートリション アンド バイオサイエンシズ ユーエスエー 1,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】アペル、ロバート ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ウィアー、ジョセフ エル.
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-239845(JP,A)
【文献】特表2015-521209(JP,A)
【文献】特表2014-534302(JP,A)
【文献】特公昭45-005272(JP,B1)
【文献】特開2014-148668(JP,A)
【文献】特表2006-507373(JP,A)
【文献】特表2002-531594(JP,A)
【文献】特公昭48-041037(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
初期セルロースエーテ
ルの総重量基準で0.5~10重量%の水を含有する初期セルロースエーテル
の粉末を得ること;
(b)前記初期セルロースエーテル
の粉末を30~130℃の範囲の温度に加熱すること;
(c)工程(b)における加熱前、加熱中、及び/又は加熱後に、重炭酸塩、炭酸塩、塩基性アルミナ、弱塩基性樹脂、及び強塩基性樹脂からなる群から選択される固体塩基を
前記初期セルロースエーテル
の粉末に添加し、前記初期セルロースエーテル
の粉末と混合して
初期セルロースエーテル/塩基混合物を形成すること;
(d)
前記初期セルロースエーテル/塩基混合物に揮発性酸を添加して混合すること;並びに
(e)前記揮発性酸に前記初期セルロースエーテルを加水分解させて、前記初期セルロースエーテルよりも低い粘度を有する最終的なセルロースエーテルを形成すること;
を含む方法。
【請求項2】
工程(d)で添加される酸の量が
前記初期セルロースエーテル
の重量を基準として0.08~0.5重量パーセントであり、工程(c)で添加される固体塩基のモル量が工程(d)で添加される酸のモル数の0.4~1.25倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(d)において酸を添加した後に追加の塩基が添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記
初期セルロースエーテル
の粉末が、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択されるセルロースエーテルのうちの一方又は両方である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記固体塩基が重炭酸ナトリウムである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記初期セルロースエーテル
の粉末が、2,000ミリパスカル・秒より大きい粘度を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記最終
的なセルロースエーテルが1~25,000ミリパスカル・秒の範囲の粘度を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記最終
的なセルロースエーテルが1~4,000ミリパスカル・秒以下の粘度を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記最終
的なセルロースエーテルが5~8の範囲のpHを有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記最終
的なセルロースエーテルが、セルロースエーテルの重量を基準として20重量部未満のホルムアルデヒドを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエーテルの酸触媒による低粘度セルロースエーテルへの加水分解に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の粘度を有するセルロースエーテルは、酸触媒による加水分解により低粘度のセルロースエーテルへと変性させることができる。セルロースエーテルの粘度はセルロースエーテルの分子量に従うため、高分子量のセルロースエーテルは低分子量のセルロースエーテルよりも大きい粘度を有している。高分子量セルロースエーテルの加水分解により、低分子量/粘度のセルロースエーテルが得られる。
【0003】
米国特許第6261218号明細書には、セルロースエーテルの例示的な酸触媒による加水分解プロセスが記載されており、この中では、摂氏50~130度(℃)の温度の酸にさらされている間に高分子量(高粘度)セルロースエーテル粉末が反応器内で回転される。加水分解反応を停止するために、回転反応器に塩基を添加することにより酸触媒がクエンチされる。酸触媒を塩基で中和すると、加水分解反応が停止し、出発セルロースエーテルよりも低い分子量及び低い粘度を有するセルロースエーテルが得られる。このプロセスの課題は、塩基による酸のクエンチは瞬間的なものではないため、目的のセルロースエーテル粘度で反応を正確に停止することである。結果として、加水分解を制御して目標粘度に更に近いセルロースエーテル生成物を得ることは、具体的なプロセスにおける経験と、塩基をいつ添加し、酸をクエンチするために目標のセルロースエーテル生成物にどれだけ添加するかを予測する能力とが必要とされる。
【0004】
図1は、所定の温度でのそのようなセルロースエーテルの酸触媒による加水分解の代表的な粘度対時間曲線の図を示している。セルロースエーテル粘度の初期の低下は迅速であり、比較的急激な初期粘度の低下の後に変曲点と最終粘度までの長いテールが続く。そのような加水分解プロセスを使用して、特定の粘度、特に約500ミリパスカル*秒(mPa*s)以上の特定の粘度を有するセルロースエーテルを再現可能に得ることは、粘度が反応中にこの範囲で急速に変化するため難題である。ある実行から次の実行へのプロセスの何らかの変動が、この範囲のセルロースエーテル生成物の粘度の劇的な変化をもたらす可能性がある。この範囲の目標粘度の生成物に近いセルロースエーテルを製造するために必要とされる反応パラメータが何であるかを特定することだけでも難題である。
【0005】
反応温度を下げると、反応速度を穏やかにすることができ、また時間に対する初期粘度の低下を緩やかにすることができる。しかしながら、温度を下げると反応速度も低下するため、安定した最終粘度を有する生成物を得るためにより長い反応時間(加水分解及び加水分解のクエンチ)が必要になる。結果として、温度を下げると、特定の中間の粘度のセルロースエーテルを得ることにおける正確性及び精度があまり高まらずに反応が遅くなる傾向がある。
【0006】
セルロースエーテル生成物、特に500mPa*s以上の粘度を有するセルロースエーテル生成物をより正確且つ再現可能に調製するために、加水分解の終点をより詳細に制御しながら高粘度セルロースエーテルを加水分解する方法を特定すること、及び酸触媒による現在の加水分解プロセスよりも短時間で安定した粘度を有する最終セルロースエーテルを製造するためのそのようなプロセスのための方法を特定することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、セルロースエーテル生成物、特に500mPa*s以上の粘度を有するセルロースエーテル生成物をより正確且つ精密に調製するために、加水分解の終点をより詳細に制御しながら高粘度セルロースエーテルを加水分解する方法を特定すること、及び酸触媒による現在の加水分解プロセスよりも短時間で安定した粘度を有する最終セルロースエーテルを製造するためのそのようなプロセスのための方法を特定することの課題に対する解決手段を提供することである。
【0008】
本発明は、酸を添加する前に塩基をセルロースエーテルに添加することを必要とし、加水分解の後に塩基が添加される典型的な酸触媒による加水分解プロセスとは異なる。本発明は、酸を添加する前に高粘度セルロースエーテルに塩基を最初に添加することで加水分解反応速度を抑え、それにより得られるセルロースエーテル生成物の粘度をより詳細に制御できることを驚くほど且つ予想外に発見した結果である。
【0009】
更に驚くべきことは、本発明の方法が、同等の粘度を有する市販のセルロースエーテルと比較してより低いホルムアルデヒド濃度を含む最終セルロースエーテルを生成するという発見である。
【0010】
第1の態様では、本発明は、(a)セルロースエーテル粉末の総重量基準で0.5~10重量%の水を含有する初期セルロースエーテル粉末を得ること;(b)初期セルロースエーテル粉末を30~130℃の範囲の温度に加熱すること;(c)工程(b)における加熱前、加熱中、及び/又は加熱後に、セルロースエーテル粉末に固体塩基を添加し、初期セルロースエーテル粉末と混合してセルロースエーテル/塩基混合物を形成すること;(d)セルロースエーテル/塩基混合物に揮発性酸を添加して混合すること;並びに(e)揮発性酸に初期セルロースエーテルを加水分解させて、初期セルロースエーテルよりも低い粘度を有する最終セルロースエーテルを形成すること;を含む方法である。
【0011】
本発明は、目的のセルロースエーテル生成物よりも高い粘度を有するセルロースエーテルから1ミリパスカル*秒以上の粘度を有するセルロースエーテル生成物を調製するために有用であり、既存の酸触媒による加水分解プロセスよりも速く、再現性よく行う。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】高粘度セルロースエーテルの酸触媒による加水分解の例示的なセルロースエーテル粘度対時間の曲線を示すプロットである。このプロットは、米国特許第6261218号明細書に記載されているプロセスと同様に、塩基の不存在下でセルロースエーテルに酸が添加される典型的なプロセスの曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
試験方法は、日付が試験方法番号と共に示されていない限り、本文書の優先日時点で最も新しい試験方法を指す。試験方法への言及には、試験協会と試験方法番号の両方への言及が含まれる。試験方法の組織は次の略語のうちの1つによって言及される:ASTMはASTMインターナショナル(以前は米国試験材料協会として知られていた)を指し;ENは欧州規格を指し;DINはドイツ規格協会を指し;ISOは国際標準化機構を指す。USP40-NF35は、2017年5月1日付の米国薬局方(第40版)及び国民医薬品規格(National Formulary standard)(第35版)及びそれらの追補を指す。
【0014】
「及び/又は」は「及び、又は代替として」を意味する。「複数」は2つ以上を意味する。別段の指示がない限り、全ての範囲には端点が含まれる。
【0015】
セルロースエーテルには、アルキルセルロースエーテル及びヒドロキシアルキルセルロースエーテルが含まれる。具体的な例として、セルロースエーテルとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシブチルメチルセルロースのうち任意の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。メチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのアルキルセルロースエーテルが特に興味深い。
【0016】
本発明の初期セルロースエーテルは、望ましくは、1,000ミリパスカル*秒(mPa*s)以上、典型的には2,000mPa*s以上、3,000mPa*s以上、4,000mPa*s以上、5,000mPa*s以上、10,000mPa*s以上、20,000mPa*s以上、30,000mPa*s以上、40,000mPa*s以上、50,000mPa*s以上、75,000mPa*s以上、100,000mPa*s以上、200,000mPa*s以上、更には300,000mPa*s以上の粘度を有する。粘度に関する公知の技術的な上限はないが、初期セルロースエーテルは、典型的には500,000mPa*s以下、400,000mPa*s以下、350,000mPa*s以下、300,000mPa*s以下、200,000mPa*s以下、100,000mPa*s以下、50,000mPa*s以下、20,000mPa*s以下、10,000mPa*s以下の粘度を有し、また9,000mPa*s以下、8,000mPa*s以下、7,000mPa*s以下、6,000mPa*s以下、更には5,000mPa*s以下の粘度を有し得る。本明細書では、USP40-NF35、4552ページの「ヒプロメロース」に記載されている方法によりセルロースエーテルの2重量パーセント(wt%)水溶液を調製することによって、セルロースエーテルの20℃での粘度を決定する。
【0017】
初期セルロースエーテルは粉末形態(すなわちセルロースエーテル粉末)である。これは、初期セルロースエーテルが粒子形態であることを意味する。望ましくは、初期セルロースエーテルは、注入可能且つ流動可能なさらさらした粉末である。典型的には、初期セルロースエーテルは、10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上の体積平均粒径を有し、それと同時に典型的には1000μm以下、好ましくは750μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは250μm以下である。平均粒径は光散乱により決定される。
【0018】
初期セルロースエーテルは水(すなわち水分)を含む。望ましくは、初期セルロースエーテルは、0.5重量%以上の濃度の水を含み、また0.6重量%以上、0.7重量%以上、0.8重量%以上、0.9重量%以上、1.0重量%以上、2.0重量%以上、3.0重量%以上、4.0重量%以上、5.0重量%以上、6.0重量%以上、7.0重量%以上、8.0重量%以上、更には9.0重量%以上の水の濃度を有していてもよく、それと同時に典型的には10重量%以下であり、また9.0重量%以下、8.0重量%以下、7.0重量%以下、6.0重量%以下、5.0重量%以下、4.0重量%、3.0重量%以下、2.0重量%以下、更には1.0重量%以下であってもよい。初期セルロースエーテルの水の濃度は、USP40-NF35、4552ページの「ヒプロメロース」に記載されている方法により決定される。水の重量%は、湿ったセルロースエーテルの総重量基準である。
【0019】
初期セルロースエーテルは、摂氏30度(℃)以上の温度(反応温度)まで加熱され、また40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、更には100℃以上の温度まで加熱されてもよく、それと同時に、典型的には130℃以下であり、また120℃以下、110℃以下、100℃以下、90℃以下、80℃以下、更には70℃以下であってもよい。典型的には、反応温度に到達した後、反応温度はプロセス全体を通じて+/-5℃以内に維持される。
【0020】
より速い加水分解反応速度のためにはより高い温度が望ましく、本発明においては、塩基の存在なしで酸が添加されるプロセス(酸優先プロセス)においてよりも許容され得る。酸優先プロセスは急速な加水分解を経験するため、目的の中粘度のセルロースエーテル生成物を正確且つ精密に見つけるのが困難であり、また反応温度を上げても加水分解が速くなるだけであり、目標粘度を見つけることはより困難になる。本方法においては、反応速度は、酸の加水分解反応と競合する塩基の存在により和らげられる。塩基が存在すると、酸触媒加水分解と同時に塩基による酸の中和が起こるため、酸優先プロセスと比較して反応をより大きく制御することができる。したがって、本発明は、目標の最終生成物粘度を達成することを有害に妨げることなしに、より高い反応温度の使用を可能にする。
【0021】
初期セルロースエーテルの加熱前、加熱中、及び/又は加熱後に、初期セルロースエーテルに固体塩基を添加し、これらを一緒に混合することでセルロースエーテル/塩基混合物を形成する。これは、加熱前に、加熱中に、加熱後に、又はこれらの期間の任意の組み合わせに、塩基を初期セルロースエーテルに添加できることを意味する。望ましくは、固体塩基は、揮発性酸を添加する後続の工程の前に均一なセルロースエーテル/塩基混合物を形成するように初期セルロースエーテルと混合される。
【0022】
固体塩基は、重炭酸塩(重炭酸ナトリウムなど)、炭酸塩(炭酸ナトリウム及び/又は炭酸カリウムなど)、塩基性アルミナ、弱塩基性樹脂(トリアルキルアミン含有樹脂など)、及び強塩基性樹脂(テトラアルキルアンモニウムヒドロキシル含有樹脂など)からなる群から選択される塩基のうちの任意の1種又は任意の2種以上の組み合わせであってもよい。本発明における使用のためには重炭酸ナトリウムが特に望ましい固体塩基である。
【0023】
セルロースエーテル/塩基混合物に揮発性酸を添加し、セルロースエーテル/塩基混合物と酸と混合する。酸は、より低い粘度のセルロースエーテルへの初期セルロースエーテルの加水分解を触媒する。理論に拘束されるものではないが、揮発性酸が入れられる時点で固体塩基が存在すると、おそらく酸がセルロースエーテル/塩基混合物に混合される際に加水分解の速度が穏やかになり、それにより大規模な加水分解が起こる前にセルロースエーテル/塩基混合物全体にわたって酸がより均一に分布すると考えられる。セルロースエーテル/塩基混合物全体への酸の均一な分布により、セルロースエーテルの均一な加水分解が可能になる。均一な加水分解は、高い局所的な酸濃度のため過度に加水分解が局所化されることを回避することを助けるために望ましい。
【0024】
更に、理論に拘束されるものではないが、塩基による中和と加水分解を触媒することとの間の酸の競合は、加水分解プロセスを遅くする傾向があり、それにより最終セルロースエーテル粘度の標的化をより容易にすることができる。
【0025】
加えて、酸を添加する前に塩基が初期セルロースエーテル全体に分布しているため、これが酸をクエンチするように塩基を加水分解反応に混合する必要がないことから、加水分解反応のクエンチは、より予測可能なポイントでより均一に生じる。
【0026】
揮発性酸は、望ましくは、ハロゲン化水素及びギ酸からなる群から選択される酸のうちの任意の1種又は2種以上の任意の組み合わせである。例示的なハロゲン化水素としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、及びヨウ化水素が挙げられる。望ましくは、揮発性酸は塩化水素である。揮発性酸は、後に除去する必要が生じ得る水分が入ることを回避するために無水であることが望ましい。
【0027】
望ましくは、初期セルロースエーテルの粉末重量に対して0.05重量%以上、0.06重量%以上、0.07重量%以上、0.08重量%以上、0.09重量%以上、0.10重量%以上、0.12重量%以上、0.15重量%以上、0.18重量%以上、0.20重量%以上、0.22重量%以上、0.24重量%以上、0.26重量%以上、0.28重量%以上、更には0.30重量%以上の濃度までの揮発性酸、それと同時に好ましくは1.0重量%以下、0.90重量%以下、0.80重量%以下、0.70重量%以下、0.60重量%以下、0.50重量%以下、0.45重量%以下、0.40重量%以下、0.35重量%以下、0.30重量%以下、0.28重量%以下、0.26重量%以下、0.24重量%以下、0.22重量%以下、更には0.20重量%以下の酸が添加される。
【0028】
セルロースエーテル/塩基混合物を形成するために初期セルロースエーテル粉末に添加される固体塩基の量は、セルロースエーテル/塩基混合物に添加される揮発性酸の量に基づいて計算される。望ましくは、セルロースエーテル/塩基混合物を形成するために初期セルロースエーテルに添加される固体塩基のモル数は、セルロースエーテル/塩基混合物に添加される揮発性酸のモル数の0.25倍以上、0.3倍以上、0.4倍以上、0.5倍以上、0.6倍以上、0.7倍以上、0.8倍以上、0.9倍以上、1.0倍以上、更には1.1倍以上である。それと同時に、セルロースエーテル/塩基混合物を形成するために初期セルロースエーテルに添加される固体塩基のモル数は、典型的にはセルロースエーテル/塩基混合物に添加される揮発性酸のモル数の2.0倍以下、1.5倍以下、1.4倍以下、1.3倍以下、1.2倍以下、1.1倍以下、更には1.0倍以下である。
【0029】
セルロースエーテルに揮発性酸を添加した後、揮発性酸に初期セルロースエーテルを加水分解させ、初期セルロースエーテルよりも低い粘度を有する最終セルロースエーテルを形成する。望ましくは、加水分解反応が起こるように、セルロースエーテル/塩基混合物と揮発性酸の混合が継続される。1時間離れた加水分解反応から回収されたセルロースエーテルの2つのサンプルが互いに5%以内の粘度を持っていることにより示されるように、セルロースエーテル生成物が安定した時点で、加水分解反応が完了し、最終セルロースエーテルが形成される。
【0030】
最終セルロースエーテルの粘度は、初期セルロースエーテルの粘度よりも低い。最終セルロースエーテルの粘度が初期セルロースエーテルの粘度よりも低い場合には、初期セルロースエーテルの粘度に関係なく、最終セルロースエーテルは、望ましくは25,000mPa*s以下、20,000mPa*s以下、15,000mPa*s以下、12,000mPa*s以下、10,000mPa*s以下、9,000mPa*s以下、8,000mPa*s以下、7,000mPa*s以下、6,000mPa*s以下、好ましくは5,000mPa*s以下、4,000mPa*s以下、3,500mPa*s以下、3,000mPa*s以下、2,500mPa*s以下、2,000mPa*s以下、1,500mPa*s以下、1,000mPa*s以下、900mPa*s以下、800mPa*s以下、700mPa*s以下、600mPa*s以下、500mPa*s以下、400mPa*s以下、300mPa*s以下、又は更には100mPa*s以下の粘度を有するが、それと同時に典型的には1mPa*s以上、2mPa*s以上、3mPa*s以上、5mPa*s以上、10mPa*s以上、20mPa*s以上、30mPa*s以上、40mPa*s以上、50mPa*s以上、75mPa*s以上、好ましくは100mPa*s以上であり、またこれは200mPa*s以上、300mPa*s以上、400mPa*s以上、500mPa*s以上、600mPa*s以上、700mPa*s以上、800mPa*s以上、900mPa*s以上、更には1,000mPa*s以上であってもよい。セルロースエーテルの20℃での粘度は、USP40-NF35、4552ページの「ヒプロメロース」に記載されている方法によりセルロースエーテルの2重量%(wt%)水溶液を調製することにより決定される。
【0031】
本発明の方法は、揮発性酸の添加中及び/又は添加後に、セルロースエーテル/塩基混合物への追加の固体塩基の添加を含んでいてもよい。それに加えて、或いはその代わりに、pHを変更するために追加の固体塩基を最終セルロースエーテルに添加してもよい。得られる生成物の最終pHを上げるために、並びに/又は酸のクエンチ速度を上げるため及びその結果として加水分解反応速度を上げるために、追加の固体塩基を添加することができる。
【0032】
典型的には、最終セルロースエーテルは5.0以上のpHを有し、5.5以上、6以上、6.5以上、7以上、7.5以上のpHを有していてもよく、それと同時に典型的には8以下、7.5以下、7以下、更には6.5以下のpHを有する。最終セルロースエーテルのpHは、USP40-NF35、4552ページの「ヒプロメロース」に記載されている方法により決定される。
【0033】
望ましくは、本方法の全ての工程は同じ反応器の中で行われる。すなわち、望ましくはプロセス全体が単一の反応器の中で行われる。反応器中の成分の均一性を継続的に求めるために、固体塩基の添加から加水分解反応の完了までのプロセス全体を通して混合を維持して最終セルロースエーテルを形成することが望ましい。
【0034】
本方法の利点は、比較的低いホルムアルデヒド含有率のセルロースエーテルを生成することである。最終セルロースエーテルは、典型的には、ホルムアルデヒドの除去作用なしに、加水分解が完了した直後に、最終セルロースエーテル100万重量部当たり、20重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下、更に好ましくは9重量部以下、また更に好ましくは8重量部以下、7重量部以下、6重量部以下、5重量部以下、4重量部以下、3重量部以下、2重量部以下、更には1重量部以下のホルムアルデヒド濃度を有する。それと同時に、最終セルロースエーテルは、望ましくはホルムアルデヒドを含まないものの、最終セルロースエーテル100万重量部当たり、1重量部以上、2重量部以上、3重量部以上、4重量部以上、更には5重量部のホルムアルデヒドを含み得る。これは、セルロースエーテル100万重量部を基準として、75重量部以上、80重量部以上、90重量部以上、100重量部以上、120重量部以上、150重量部以上、更には175重量部以上のホルムアルデヒド濃度を有する市販の他のいくつかの中粘度(250~4000mPa*s)のセルロースエーテル材料とは対照的である。ホルムアルデヒドは、セルロースエーテル、特に食品グレード及び医薬品グレードのセルロースエーテルの望ましくない成分である。そのため、本発明の方法は、目標とする最終セルロースエーテル粘度の達成だけでなく、同等の粘度を有する他のセルロースエーテル生成物よりもホルムアルデヒドが少ないセルロースエーテル生成物、特に低~中粘度のセルロースエーテル生成物の達成においても詳細な制御を実現する。最終セルロースエーテルのホルムアルデヒド含有率(すなわち「ホルムアルデヒドが含まれないこと」)の決定は、有機抽出、ジニトロフェニルヒドラジンによる誘導体化、及び高速液体クロマトグラフィーにより行われる。Journal of Chromatography B,879(2011)1282-1289に記載されている方法と同様の方法が適している。
【実施例】
【0035】
出発セルロースエーテル
表1は、メトキシ基及びヒドロキシプロピル基の置換度並びにセルロースエーテルの粘度の観点から、以下の実施例(Ex)及び比較例(Comp Ex)の出発物質として使用されるセルロースエーテルを説明している。置換度は、セルロースエーテルの重量に対する置換基の重量%で報告されている。材料は、METHOCELTMの商品名でThe Dow Chemical Companyから入手可能である(METHOCELはThe Dow Chemical Companyの商標である)。
【0036】
【0037】
再現性及び反応時間の例示
実施例(Ex)及び比較例(Comp Ex)A~E及び実施例(Ex)1~8は、より高い粘度の出発(原料)セルロースから4,000mPa*sの最終粘度を有するセルロースエーテル(K4Mセルロースエーテル)を製造する試みを例示している。
【0038】
表2には、比較例A~E及び実施例1~8のそれぞれについての、反応温度、酸に対する塩基(重炭酸ナトリウム)のモル当量、セルロースエーテルに対する酸の重量%、反応時間、及び安定生成物の最終粘度が含まれている。
【0039】
「反応時間」は、セルロースエーテルに酸を最初に添加してから最終生成物が安定しているとみなされるまでの時間を指す。1時間開けて採取した2つのサンプルが互いに5%以内の粘度を有している場合に、最終生成物は「安定」であるとみなされる。
【0040】
比較例A~E - 4,000mPa*sの目標生成物
塩基を添加して加水分解をクエンチする前に、酸を添加して原料であるセルロースエーテルの加水分解を開始することにより、以下のプロセスに従って比較例A及びBを調製する。
【0041】
40キログラム(kg)のK300M原料セルロースエーテル(含水率2重量%)を1000リットルのジャケット付き回転式反応器の中に入れる。回転を開始し、70℃まで加熱する。反応器のヘッドスペースに無水塩化水素を添加する。30分間混合する。乾燥重炭酸ナトリウム粉末を添加し、反応が「安定」とみなされるまで混合を継続する。総反応時間及び最終粘度を記録する。結果を表2に示す。
【0042】
比較例A及びBは本質的に同じように行われるが、粘度がほぼ1桁異なる最終生成物を生成する。これは、加水分解を開始するために酸を添加し、その後に引き続いて塩基を添加してクエンチする公知のプロセスで得られる不十分な再現性を示している。
【0043】
比較例C~Eは、反応で使用される酸の量を除いては比較例A及びBと同様である。比較例C~Eは、加水分解を開始するために酸を添加し、その後に引き続いて塩基を添加してクエンチする公知の反応プロセスにおける、最終生成物の最終粘度に対する酸の量のわずかな変化の劇的な影響を示している。
【0044】
反応条件における最終粘度の不十分な再現性と極端な感度は、
図1の曲線で示されている加水分解中の粘度の急激な低下の結果である。塩基の前に酸が添加され、その後に加水分解をクエンチするために塩基が添加される場合、加水分解反応を制御して曲線に沿った正確な点でこれを停止することは非常に困難である。
【0045】
特に、反応を実行する(すなわち安定な粘度を有する生成物を製造する)ためには4.5時間という時間も要する。
【0046】
実施例1~8 - 4,000mPa*sの目標生成物
酸を添加して加水分解を開始する前に、原料であるセルロースエーテルに塩基を添加する本発明の方法に従って実施例1~8を調製する。
【0047】
50kgのK100M原料セルロースエーテル(含水率2重量%)と乾燥重炭酸ナトリウム粉末(添加される無水塩化水素のモル数に対して1.25モル当量)とを1000リットルのジャケット付き回転式反応器の中に入れて原料/塩基混合物を形成する。原料/塩基混合物を回転させ、反応温度まで加熱する(表2を参照)。無水塩化水素(表2を参照)を反応器のヘッドスペースに添加する。安定な生成物が得られるまで得られた混合物の回転を継続する。反応時間及び最終生成物粘度を記録する。結果を表2に示す。
【0048】
実施例4~8は、5つの再現された反応に対する最終粘度における約16%の偏差を示しており、本発明の方法を使用した目標粘度についての高度な再現性を示している。
【0049】
実施例1~8は、本発明の方法により得られた生成物の最終粘度が、比較例A~Eに示す公知の方法よりも酸濃度や反応温度などのプロセス変数に対する感度がはるかに低いことを示している。
【0050】
実施例1~8は、比較例A~Eよりも速い反応時間と組み合わされて、再現性及び反応条件に対する感度の低下の利点が得られることを更に示している。特に、加水分解反応の開始時の粘度の非常に急激な初期の低下のため(
図1を参照)、比較例A~Eのより大きい原料粘度は、実施例1~6の反応時間と比較した場合、反応時間に対して無視できるほどの寄与しかない。
【0051】
【0052】
実施例9~16 - 15,000mPa*sの目標生成物
表3に示されている条件を使用したことを除いては実施例1~8と同様の方法で実施例9~16を調製する。実施例9~16は、最終生成物の粘度が15,000mPa*sであることを目標とする。この粘度は、実施例1~8及び比較例A~Eの4,000mPa*sの目標よりも加水分解反応中の粘度の急激な低下中に生じることから(
図1を参照)、再現性よく達成するためにはより難しい最終粘度である。それにもかかわらず、表3のデータは、本発明の方法が目標の15,000mPa*の生成物の再現可能な結果を達成することを示している。データは更に、本発明の方法が、加水分解反応中に使用される酸の量の20%の変動による影響をほとんど受けないままであることを明らかにしている。
【0053】
【0054】
実施例17~29 - 本発明の方法の汎用性
実施例17~29は、様々な異なる原料、原料水分含有率、塩基、反応温度、塩基のモル当量、及び酸の濃度を使用するだけでなく、様々な異なる最終粘度を達成する本発明の方法を例示する。表4には、実施例17~29についての反応条件及び結果が含まれている。
【0055】
以下の手順を使用して実施例17~29を調製する。800gの原料セルロースエーテルと塩基とを7リットルのガラス製反応器に入れる。オーブン内で反応器を回転させ、反応温度まで加熱し、反応器の中身を反応温度で1時間平衡化する。無水塩化水素を反応器のヘッドスペースに添加し、安定な生成物が得られるまで回転させる。反応時間及び最終生成物の粘度を記録する。結果を表4に示す。
【0056】
表4のデータは、様々な異なる最終粘度を達成し、様々な異なる原料、原料含水率、塩基、反応温度、塩基濃度、及び酸濃度を使用できる本発明の方法の例を示している。
【0057】
【0058】
実施例30及び比較例F~H - ホルムアルデヒド
以下の手順を使用して実施例30を調製する。800gのK4Mセルロースエーテル原料と6.6gの重炭酸ナトリウム粉末塩基とを7リットルのガラス製反応器に入れる。オーブン内で反応器を回転させ、85℃の反応温度まで加熱し、反応器の中身を反応温度で1時間平衡化する。0.3重量%(原料セルロースエーテル基準)の無水塩化水素を反応器のヘッドスペースに添加し、安定な生成物が得られるまで回転させる。反応時間は1.5時間である。最終生成物の粘度は197mPa*sであり、最終pHは6.8である。実施例30の生成物は、最終生成物の百万重量部当たり11重量部のホルムアルデヒド濃度を有する。
【0059】
比較例F~Hは、それぞれBENECELTM K250、K750、及びK1500水溶性ポリマーとして市販されている市販のセルロースエーテル製品に対応する(BENECELはHercules LLCの商標である)。比較例F(BENECEL K250)は、259mPa*sの粘度、及び生成物の百万重量部当たり184重量部のホルムアルデヒド濃度を有する。比較例G(BENECEL K750)は、752mPa*sの粘度、及び生成物の百万重量部当たり128重量部のホルムアルデヒド濃度を有する。比較例H(BENECEL K1500)は、1800mPa*sの粘度、及び生成物の百万重量部当たり89重量部のホルムアルデヒド濃度を有する。
【0060】
実施例30及び比較例F~Hは、本発明の方法が、類似の粘度を有する市販のセルロースエーテルよりも著しく低いホルムアルデヒド濃度を有するセルロースエーテル生成物を生成することを示している。
(態様)
(態様1)
(a)セルロースエーテル粉末の総重量基準で0.5~10重量%の水を含有する初期セルロースエーテル粉末を得ること;
(b)前記初期セルロースエーテル粉末を30~130℃の範囲の温度に加熱すること;
(c)工程(b)における加熱前、加熱中、及び/又は加熱後に、前記セルロースエーテル粉末に固体塩基を添加し、前記初期セルロースエーテル粉末と混合してセルロースエーテル/塩基混合物を形成すること;
(d)前記セルロースエーテル/塩基混合物に揮発性酸を添加して混合すること;並びに
(e)前記揮発性酸に前記初期セルロースエーテルを加水分解させて、前記初期セルロースエーテルよりも低い粘度を有する最終セルロースエーテルを形成すること;
を含む方法。
(態様2)
工程(d)で添加される酸の量が初期セルロースエーテル粉末重量を基準として0.08~0.5重量パーセントであり、工程(c)で添加される固体塩基のモル量が工程(d)で添加される酸のモル数の0.4~1.25倍である、態様1に記載の方法。
(態様3)
工程(d)において酸を添加した後に追加の塩基が添加される、態様1又は2に記載の方法。
(態様4)
前記セルロースエーテル粉末が、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択されるセルロースエーテルのうちの一方又は両方である、態様1~3のいずれか1項に記載の方法。
(態様5)
前記固体塩基が重炭酸ナトリウムである、態様1~4のいずれか1項に記載の方法。
(態様6)
前記初期セルロースエーテル粉末が、2,000ミリパスカル*秒より大きい粘度を有する、態様1~5のいずれか1項に記載の方法。
(態様7)
前記最終セルロースエーテルが1~25,000ミリパスカル*秒の範囲の粘度を有する、態様1~6のいずれか1項に記載の方法。
(態様8)
前記最終セルロースエーテルが1~4,000ミリパスカル*秒以下の粘度を有する、態様7に記載の方法。
(態様9)
前記最終セルロースエーテルが5~8の範囲のpHを有する、態様1~8のいずれか1項に記載の方法。
(態様10)
前記最終セルロースエーテルが、セルロースエーテルの重量を基準として20重量部未満のホルムアルデヒドを含む、態様1~9のいずれか1項に記載の方法。