(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】消泡剤組成物およびそれを含有する水硬性組成物用混和剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/32 20060101AFI20230425BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20230425BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20230425BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230425BHJP
C08G 65/335 20060101ALI20230425BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230425BHJP
B01D 19/04 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C04B24/32 Z
C04B24/02
C04B24/04
C04B28/02
C08G65/335
C08L71/02
B01D19/04 B
(21)【出願番号】P 2020509384
(86)(22)【出願日】2019-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2019014400
(87)【国際公開番号】W WO2019189922
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2018070364
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221797
【氏名又は名称】東邦化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 朋久
(72)【発明者】
【氏名】對馬 大郎
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105385426(CN,A)
【文献】特開昭61-111950(JP,A)
【文献】特開平01-051353(JP,A)
【文献】特開2012-041198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 24/32
C04B 24/02
C04B 24/04
C04B 28/02
C08L 71/02
C08G 65/335
B01D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
R
1O-(A
1O)
n1-R
2 (1)
(式中、
R
1は炭素原子数1乃至30のアルキル基、炭素原子数2乃至30のアルケニル基又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
R
2は水素原子又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
A
1Oは炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
n1は6乃至100の整数を表す。)
又は下記一般式(2):
R
4O-(A
2O)
n2-R
3O-(A
3O)
n3-R
5 (2)
(式中、
R
3は炭素原子数1乃至30の2価の炭化水素基を表し、
R
4及びR
5はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
A
2O及びA
3Oはそれぞれ独立して炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
n2及びn3はそれらの合計が6乃至100の整数となる0又は正の整数を表す。)
で示されるポリオキシアルキレン化合物(A)と、
下記一般式(3):
(式中、
R
6は炭素原子数1乃至30のアルキル基、炭素原子数2乃至30のアルケニル基、又は炭素原子数6乃至30のアリール基を表し、
A
4Oは炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
p
は1乃至50の整数を表し、
qは1乃至3の整数を表し、
Mは水素原子、アルカリ金属原子、第2族金属原子、アンモニウム基、または有機アンモニウム基を表す。)
で示されるリン酸エステル化合物
であって、
式(3)で表される化合物全量中のリン酸モノエステル及びその塩の割合が10乃至70質量%、リン酸ジエステル及びその塩の割合が20乃至80質量%、リン酸トリエステルの割合が0乃至10質量%であるリン酸エステル化合物(B)とを含有する消泡剤組成物。
【請求項2】
ポリオキシアルキレン化合物(A)とリン酸エステル化合物(B)の質量比(A)/(B)が、99/1乃至60/40である、請求項1に記載の消泡剤組成物。
【請求項3】
さらに、下記一般式(4):
R
7O-(A
5O)
m-H (4)
(式中、
R
7は炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数2乃至5のアルケニル基を表し、
A
5Oは炭素原子数2乃至3のオキシアルキレン基を表し、
mは1乃至5の整数を表す。)
で表される構造を有するグリコールエーテル(C)を含む、請求項1又は2に記載の消泡剤組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン化合物(A)が、下記一般式(5):
R
1´O-(EO)
k-R
2´ (5)
(式中、
R
1´は炭素原子数12乃至30の不飽和脂肪酸残基を表し、
R
2´は水素原子又は炭素原子数12乃至30の不飽和脂肪酸残基を表し、
EOは乃至オキシエチレン基を表し、
n4は6乃至100の整数を表す。)
で示されるポリオキシアルキレン化合物(A´)を含有する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の消泡剤組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の消泡剤組成物を含有する、水硬性組成物用混和剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消泡剤組成物およびそれを含有する水硬性組成物用混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでコンクリートの品質を向上する目的で種々のセメント混和剤が使用されてきた。中でもAE剤(空気連行剤)やAE減水剤は、コンクリート中に空気泡を連行させることにより未硬化のコンクリートの流動性を高め、施工時の作業性や硬化コンクリートの耐凍害性を改善させる目的で多用されている。しかし、コンクリート中に連行される空気量が増加すると粗大気泡が生じやすくなり、充填ムラやひいては硬化体の強度低下をもたらし、更に硬化体表面に空隙(気泡痕)を形成して美観を損ねる要因となる。
【0003】
このような背景から、コンクリート用混和剤はコンクリート用の消泡剤を併用して使用されることが一般的であり、消泡剤を内添した製品形態として生コン工場に運搬され、混和剤のタンクに保管されることが多い。例えば、特許文献1、2には特定構造のポリオキシアルキレン脂肪酸エステルを消泡剤成分として含有するコンクリート用混和剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-111950号公報
【文献】特開平1-51353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コンクリート用の消泡剤は、その化学構造中に疎水性部分を有するため、水中で分離しやすく、特に攪拌設備を有していない混和剤タンクに保管した場合、消泡剤成分の分離が時間の経過と共に顕著に現れる。製品中で消泡剤成分が分離した状態で混和剤を使用した場合、コンクリートのフレッシュ性状確認試験において、空気量のバラツキが生じ、正確に空気量を管理出来ない事例が確認されている。消泡剤の親水性を高めることでコンクリート混和剤中での相溶性は改善されるものの、粗大気泡の消泡性は低下することとなり、消泡性と混和剤中での相溶性を両立するコンクリート用消泡剤が求められている。
【0006】
本発明の目的は、消泡性と水硬性組成物用混和剤中での相溶性を両立する消泡剤及びコンクリート表面に粗大な気泡痕が少なく、表面美観に優れるコンクリートを作製することができる水硬性組成物用混和剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討を行った結果、特定のリン酸エステル化合物を消泡剤と併用することにより、消泡性と水硬性組成物用混和剤中での相溶性を両立する消泡剤を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の[1]乃至[4]に記載の消泡剤組成物、並びに[5]に記載の水硬性組成物用混和剤に関するものである。
【0008】
[1]下記一般式(1):
R
1O-(A
1O)
n1-R
2 (1)
(式中、
R
1は炭素原子数1乃至30のアルキル基、炭素原子数2乃至30のアルケニル基又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
R
2は水素原子又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
A
1Oは炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
n1は6乃至100の整数を表す。)
又は下記一般式(2):
R
4O-(A
2O)
n2-R
3O-(A
3O)
n3-R
5 (2)
(式中、
R
3は炭素原子数1乃至30の2価の炭化水素基を表し、
R
4及びR
5はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
A
2O及びA
3Oはそれぞれ独立して炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
n2及びn3はそれらの合計が6乃至100の整数となる0又は正の整数を表す。)
で示されるポリオキシアルキレン化合物(A)と、
下記一般式(3):
(式中、
R
6は炭素原子数1乃至30のアルキル基、炭素原子数2乃至30のアルケニル基、又は炭素原子数6乃至30のアリール基を表し、
A
4Oは炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
pは0又は1乃至50の整数を表し、
qは1乃至3の整数を表し、
Mは水素原子、アルカリ金属原子、第2族金属原子、アンモニウム基、または有機アンモニウム基を表す。)
で示されるリン酸エステル化合物(B)とを含有する消泡剤組成物。
【0009】
[2]ポリオキシアルキレン化合物(A)とリン酸エステル化合物(B)の質量比(A)/(B)が、99/1乃至60/40である、[1]に記載の消泡剤組成物。
【0010】
[3]さらに、下記一般式(4):
R7O-(A5O)m-H (4)
(式中、
R7は炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数2乃至5のアルケニル基を表し、
A5Oは炭素原子数2乃至3のオキシアルキレン基を表し、
mは1乃至5の整数を表す。)
で表される構造を有するグリコールエーテル(C)を含む[1]又は[2]に記載の消泡剤組成物。
【0011】
[4]前記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン化合物(A)が、下記一般式(5):
R1´O-(EO)k-R2´ (5)
(式中、
R1´は炭素原子数12乃至30の不飽和脂肪酸残基を表し、
R2´は水素原子又は炭素原子数12乃至30の不飽和脂肪酸残基を表し、
EOはオキシエチレン基を表し、
kは6乃至100の整数を表す。)
で示されるポリオキシアルキレン化合物(A´)を含有する、[1]乃至[3]のいずれかに記載の消泡剤組成物。
【0012】
[5][1]乃至[4]のいずれかに記載の消泡剤組成物を含有する、水硬性組成物用混和剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の消泡剤組成物は、消泡性と水硬性組成物用混和剤中での相溶性に優れている。また、本発明の消泡剤組成物を含有する水硬性組成物用混和剤を使用することにより、フレッシュ性状や強度発現性を損なうことなくコンクリート表面に粗大な気泡痕が少なく、表面美観に優れるコンクリートを作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の消泡剤組成物を詳細に説明する。
本発明の消泡剤組成物は、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるポリオキシアルキレン化合物(A)と、下記一般式(3)で表されるリン酸エステル化合物(B)とを含有する。
【0015】
<ポリオキシアルキレン化合物(A)>
本発明の消泡剤組成物を構成するポリオキシアルキレン化合物(A)は、下記一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物から選ばれる1種又は2種以上の混合物である。
R1O-(A1O)n1-R2 (1)
(式中、
R1は炭素原子数1乃至30のアルキル基、炭素原子数2乃至30のアルケニル基又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
R2は水素原子又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
A1Oは炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
n1は6乃至100の整数を表す。)
R4O-(A2O)n2-R3O-(A3O)n3-R5 (2)
(式中、
R3は炭素原子数1乃至30の2価の炭化水素基を表し、
R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数2乃至30のアシル基を表し、
A2O及びA3Oはそれぞれ独立して炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
n2及びn3はそれらの合計が6乃至100の整数となる0又は正の整数を表す。)
【0016】
上記炭素原子数1乃至30のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(ミルスチル基)、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(パルミチル基)、オクタデシル基(ステアリル基)、イコシル基、ドコシル基(ベヘニル基)、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。これらの中でも、消泡効果の観点から、炭素原子数8乃至24のアルキル基が好ましく、炭素原子数12乃至22のアルキル基がより好ましい。
【0017】
炭素原子数2乃至30のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられ、これらは分岐構造、環状構造を有していてもよい。これらの中でも、消泡効果の観点から、炭素原子数8乃至24のアルケニル基が好ましく、炭素原子数12乃至22のアルケニル基がより好ましい。
【0018】
炭素原子数2乃至30のアシル基としては、炭素原子数8乃至30の飽和又は不飽和の脂肪酸残基が好ましく、例えば、2-エチルヘキサン酸残基、カプリン酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、ベヘン酸残基、イソパルミチン酸残基、イソステアリン酸残基、オレイン酸残基、リノール酸残基、リノレイン酸残基等が挙げられる。これらの中でも、消泡効果の観点から、炭素原子数8乃至24のアシル基が好ましく、炭素原子数12乃至22のアシル基がより好ましい。
【0019】
炭素原子数1乃至30の2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、1,2-プロピレン基、1,3-プロピレン基、1,2-ブチレン基、1,3-ブチレン基、1,4-ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、2-メチルプロピレン基、2-メチルへキシレン基、テトラメチルエチレン基等の炭素原子数1乃至20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基;シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチレン-トリメチルシクロヘキシル基、ビシクロへキシレン基、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,6-ジイル基等の炭素原子数3乃至20のシクロアルキレン基;1,4-ジメチレンシクロペンタン基、1,4-ジエチレンシクロペンタン基、1,4-ジメチレンシクロヘキサン基、1,4-ジエチレンシクロヘキサン基等の炭素原子数5乃至14のアルキレン-シクロアルキレン-アルキレン基;フェニレン基、トリレン基、ジメチルフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、アントリレン基、トリメチルフェニレン基等の炭素原子数6乃至20のアリーレン基等が挙げられる。
【0020】
A1O、A2O及びA3Oは炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシエチレン基、1,2-または1,3-オキシプロピレン基、1,2-、1,3-または1,4-オキシブチレン基が挙げられ、これらの内、好ましいのはオキシエチレン基と1,2-オキシプロピレン基である。
【0021】
n1はアルキレンオキサイドの付加モル数であり、6乃至100の整数であるが、消泡効果の点で好ましくは10乃至50の整数である。n1が2以上の場合、n1個のA1Oは同一でも異なっていてもよく、異なる場合は-(A1O)n1-はランダム付加、ブロック付加または交互付加のいずれの付加形式でもよい。中でも、消泡効果の観点から、エチレンオキサイドの付加モル数が2乃至15であれば好ましく、5乃至10であればより好ましく、プロピレンオキサイドの付加モル数が10乃至70であれば好ましく、20乃至40であればより好ましい。
【0022】
n2及びn3はアルキレンオキサイドの付加モル数であり、合計が6乃至100の整数、消泡効果の点で好ましくは10乃至50の整数となる0又は正の整数である。n2とn3の合計が2以上の場合、アルキレンオキサイドの種類は同一でも異なっていてもよく、異なる場合はランダム付加、ブロック付加または交互付加のいずれの付加形式でもよい。中でも、消泡効果の観点から、エチレンオキサイドの付加モル数の合計が2乃至15であれば好ましく、5乃至10であればより好ましく、プロピレンオキサイドの付加モル数の合計が10乃至70であれば好ましく、20乃至40であればより好ましい。
【0023】
ポリオキシアルキレン化合物(A)としては、消泡効果の観点から下記一般式(1a)で表されるポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックとを有する化合物が特に好ましい。
R1O-(EO)n4-(PO)n5-R2 (1a)
(式中、R1、R2は式(1)中のものと同じものを表し、
EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を表し、
n4は2乃至15の整数、好ましくは5乃至10の整数を表し、
n5は10乃至70の整数、好ましくは20乃至40の整数を表す。)
【0024】
本発明の消泡剤組成物中におけるポリオキシアルキレン化合物(A)の含有量は、消泡効果の観点から、好ましくは60乃至99質量%、より好ましくは70乃至97質量%、特に好ましくは80乃至95質量%である。
【0025】
本発明の消泡剤組成物は、水硬性組成物用混和剤中での相溶性改善効果の観点から、下記一般式(1b)で表されるポリオキシアルキレン化合物(A´)を1乃至15質量%含むことが好ましく、2乃至10質量%含むことがより好ましい。
R1´O-(EO)k-R2´ (1b)
(式中、R1´は炭素原子数12乃至30の不飽和脂肪酸残基を表し、
R2´は水素原子又は炭素原子数12乃至30の不飽和脂肪酸残基を表し、
EOはオキシエチレン基を表し、
kは6乃至100の整数、好ましくは7乃至20の整数を表す。)
炭素原子数12乃至30の不飽和脂肪酸残基としては、オレイン酸残基、リノール酸残基、リノレイン酸残基等が挙げられる。
【0026】
<リン酸エステル化合物(B)>
本発明の消泡剤組成物を構成するリン酸エステル化合物(B)は、下記一般式(3)で表される構造を有する、リン酸モノエステル及びその塩、リン酸ジエステル及びその塩、及びリン酸トリエステルから選ばれる1種の化合物又は2種以上の混合物を含む。
(式中、
R
6は炭素原子数1乃至30のアルキル基、炭素原子数2乃至30のアルケニル基、又は炭素原子数6乃至30のアリール基を表し、
A
4Oは炭素原子数2乃至4のオキシアルキレン基を表し、
pは0又は1乃至50の整数を表し、
qは1乃至3の整数を表し、
Mは水素原子、アルカリ金属原子、第2族金属原子、アンモニウム基、または有機アンモニウム基を表す。)
【0027】
上記式中、R3における炭素原子数1乃至30のアルキル基、炭素原子数2乃至30のアルケニル基の具体例としては、前述の一般式(1)におけるものとして例示した基を挙げることができるが、相溶性改善効果の観点から炭素原子数1乃至12のアルキル基が好ましく、炭素原子数1乃至5のアルキル基がより好ましい。
【0028】
炭素原子数6乃至30のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基、ナフチル基等の無置換のアリール基、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基等の置換基を有する前記アリール基が挙げられる。
【0029】
上記式中、pはオキシアルキレン基の付加モル数であって、0又は1乃至50の整数を表す。中でも、相溶性改善効果の観点から、nは1乃至30であることが好ましく、2乃至20であることが更に好ましく、特に好ましくは2乃至10である。
【0030】
上記式中、qは1乃至3の整数を表し、すなわち式(3)で表される化合物は、qが1のときリン酸モノエステル及びその塩、qが2のときリン酸ジエステル及びその塩、並びにqが3のときリン酸トリエステルとなる。
式(3)で表される化合物全量中のリン酸モノエステル及びその塩/リン酸ジエステル及びその塩/リン酸トリエステル及びその塩の割合は、相溶性改善効果の観点から、リン酸モノエステル及びその塩が10乃至70質量%であれば好ましく、20乃至60質量%であればより好ましく、リン酸ジエステル及びその塩が20乃至80質量%であれば好ましく、30~70質量%であればより好ましく、リン酸トリエステル及びその塩が0~10質量%であれば好ましく、0~5質量%であればより好ましい。
【0031】
式中、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。アルカリ金属としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等が挙げられ、第2族金属としては、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等が挙げられる。有機アンモニウム基とは、有機アミン由来のアンモニウム基であり、前記有機アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。これらの中でも、粗大な気泡が発生しにくい点で水素原子が好ましい。
【0032】
本発明の消泡剤組成物中におけるリン酸エステル化合物(B)の含有量は、水硬性組成物用混和剤中での相溶性改善効果の観点から、好ましくは1乃至40質量%であるが、より好ましくは2乃至20質量%、特に好ましくは3乃至10質量%である。
また、ポリオキシアルキレン化合物(A)とリン酸エステル化合物(B)の質量比(A)/(B)は、相溶性改善効果の観点から、好ましくは99/1乃至60/40、より好ましくは98/2乃至80/20、さらに好ましくは97/3乃至90/10である。
【0033】
<グリコールエーテル(C)>
本発明の消泡剤組成物には、水硬性組成物用混和剤中での相溶性改善効果の観点から、さらに下記一般式(4)で表されるグリコールエーテル(C)を含むことが好ましい。
R7O-(A5O)m-H (4)
(式中、
R7は炭素原子数1乃至5のアルキル基、炭素原子数2乃至5のアルケニル基を表し、
A5Oは炭素原子数2乃至3のオキシアルキレン基を表し、
mは1乃至5の整数を表す。)
【0034】
グリコールエーテル(C)としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0035】
本発明の消泡剤組成物中におけるグリコールエーテル(C)の含有量は、水硬性組成物用混和剤中での相溶性改善効果の観点から、好ましくは0.1乃至20質量%、より好ましくは1乃至10質量%、特に好ましくは2乃至6質量%である。
【0036】
本発明の消泡剤組成物の調整時に任意に添加できる成分としては、公知公用の界面活性剤、増粘剤、防腐剤、消泡剤等を挙げることができ、これらも適宜配合し得る。それら各成分の配合割合は選択された成分の種類や使用目的に応じて適宜決定され得る。また、本発明の消泡剤組成物は必要に応じて水又は水系溶媒により希釈してもよい。
【0037】
本発明の消泡剤組成物は、公知公用の水硬性組成物用の添加剤を適宜採用して組合せた水硬性組成物用混和剤の形態にて用いることができる。具体的には、従来公知のセメント分散剤、減水剤、高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、起泡剤、消泡剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、分離低減剤、増粘剤、収縮低減剤、養生剤、撥水剤等からなる群から選択される少なくとも一種の他の添加剤を配合することができる。
水硬性組成物用混和剤中における本発明の消泡剤組成物の含有量は、0.03乃至0.2質量%であれば好ましい。
なお、本明細書において水硬性組成物とは、水和反応により硬化する物性を有する粉体(水硬性粉体)、例えばセメント、石膏、フライアッシュ等を含有する組成物を指す。また、水硬性粉体がセメントである場合、水硬性組成物をセメント組成物ともいう。
【0038】
一般にセメント分散剤は、コンクリートの製造条件及び性能要求等に応じて、適宜組み合わされ使用される。本発明のセメント分散剤の場合も同様であり、セメント分散剤として単独、あるいは主剤として使用されるものであるが、スランプロスの大きいセメント分散剤の改質助剤として、或いは、初期減水性が高いセメント分散剤として併用して使用され得るものである。
【0039】
公知のセメント分散剤としては、特公昭59-18338号公報、特許第2628486号公報、特許第2774445号公報等に記載のポリカルボン酸系共重合体の塩があり、またナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、リグニンスルホン酸塩、グルコン酸ソーダ、糖アルコールも挙げられる。
【0040】
AE剤を具体的に例示すると、アニオン系AE剤、ノニオン系AE剤、及び両性系AE剤が挙げられる。
凝結遅延剤を例示すると、無機質系凝結遅延剤、有機質系凝結遅延剤が挙げられる。
促進剤としては、無機系促進剤、有機系促進剤が挙げられる。
増粘剤・分離低減剤を例示すると、セルロース系水溶性高分子、ポリアクリルアミド系水溶性高分子、バイオポリマー、非イオン系増粘剤などが挙げられる。
消泡剤を例示すると非イオン系消泡剤類、シリコーン系消泡剤類、高級アルコール類、これらを主成分とした混合物などが挙げられる。
【0041】
本発明の水硬性組成物用混和剤が、例えばセメント組成物に適用される場合、該セメント組成物を構成する成分は、従来慣用のコンクリート用成分であり、セメント(例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、低熱・中庸熱ポルトランドセメント又は高炉セメント等)、骨材(すなわち細骨材及び粗骨材)、混和材(例えばシリカフューム、炭酸カルシウム粉末、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等)、膨張材及び水を挙げることができる。
【0042】
本発明の消泡剤組成物は、塗料用消泡剤や、パルプ製造工程、抄紙工程、排水処理工程、建材抄造工程、発酵工程、感光性樹脂の現像工程及びポリマー重合工程等、各種製造工程用消泡剤としても好適に適用できる。
【実施例】
【0043】
以下実施例により本発明を説明する。ただし本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。なお、特に定めのない限り、%は質量%を表すものとする。
【0044】
製造例1
温度計、撹拌機、圧力計、窒素導入管を備えたステンレス製高圧反応器にステアリルアルコールを202g、96%水酸化カリウム4gを仕込み、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で150℃まで加熱した。安全圧下で150℃を保持したままエチレンオキサイド198gを5時間で反応器内に導入し、1時間その温度を保持した。その後、120℃まで冷却し、安全圧下で120℃に保持したままプロピレンオキサイド1088gを10時間で反応器内に導入し、4時間その温度を保持してアルキレンオキサイド付加反応を完結させ、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールモノステアリルエーテル1492g(A1化合物)を得た。
【0045】
製造例2
温度計、撹拌機、圧力計、窒素導入管を備えたステンレス製高圧反応器に1-トリデカノールを200g、96%水酸化カリウム2.8gを仕込み、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で150℃まで加熱した。そして、安全圧下で150℃を保持したままエチレンオキサイド182gを2時間で反応器内に導入し、1時間その温度を保持した。その後、120℃まで冷却し、安全圧下で120℃に保持したままプロピレンオキサイド1177gを10時間で反応器内に導入し、4時間その温度を保持した。その後、再び150℃まで加熱し、安全圧下で150℃を保持したままエチレンオキサイド200gを2時間で反応器内に導入し、1時間その温度を保持しアルキレンオキサイド付加反応を完結させた。得られた化合物(1762g)に65%のステアリン酸220g、次亜燐酸ソーダ0.6gを仕込み、窒素雰囲気下で220℃まで加熱した。酸価が2.0以下となるまで225℃で18時間エステル化反応を行い、1-トリデカノールのポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンエーテルのステアリン酸エステル1983g(A2化合物)を得た。
【0046】
製造例3
温度計、撹拌機、圧力計、窒素導入管を備えたステンレス製高圧反応器にオレイン酸を216g、96%水酸化カリウム0.2gを仕込み、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で170℃まで加熱した。そして、安全圧下で170℃を保持したままエチレンオキサイド270gを5時間で反応器内に導入し、その後1時間その温度を保持し、ポリエチレングリコールのオレイン酸エステル486g(A3化合物)を得た。
【0047】
製造例4
温度計、撹拌機、圧力計、窒素導入管を備えたステンレス製高圧反応器にメタノールを77g、96%水酸化カリウム1.2gを仕込み、反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で120℃まで加熱した。そして、安全圧下で120℃を保持したままプロピレンオキサイド708gを10時間で反応器内に導入し、2時間その温度を保持した。その後、150℃まで加熱し、安全圧下で150℃を保持したままエチレンオキサイド216gを5時間で反応器内に導入し、1時間その温度を保持してアルキレンオキサイド付加反応を完結させ、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル1002gを得た。その後、反応容器を40℃とし、89%リン酸88.5g(ラサ工業(株)社製)を4時間かけて滴下し、滴下終了後、同温で2時間熟成した。その後、95℃に加温し、下部から窒素を5m3/hrで導入しながら、4時間熟成させ、理論量に対し90%以上の反応水が検水管へ留出したことを確認し、反応を終了し、リン酸エステル化合物1091g(B1化合物)を得た。B1化合物の酸価測定により算出したリン酸モノエステル/リン酸ジエステル/リン酸トリエステルの割合は、40/60/0(質量%)であった。
【0048】
製造例5
表1に示す通り、アルコールAO付加物におけるアルキレンオキサイドの付加モル数並びにアルコールの種類を変化させた以外には、B1化合物の製造例と同様の手順にて、本発明のリン酸エステル化合物B2とB3を製造した。
【0049】
【0050】
製造例6
窒素およびエチレンオキサイド導入管を備えたステンレス製オートクレーブにメタノール140gを仕込み、次いでナトリウムメトキシド0.10gを仕込んだ。その後系内の窒素置換を行い、反応温度120℃にてエチレンオキサイド385gを導入し、その後125℃で45分間の熟成を行い、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル合成液525gを得た。合成液を蒸留することによりエチレンオキサイドの付加モル数が1モルの留分を除去し、C1化合物を得た。この化合物の組成をガスクロマトグラフィーで測定したところ、エチレンオキサイドの付加モル数が2モルのポリエチレングリコールモノメチルエーテルの含有率は99.5%であった。また、平均分子量は120であった。
【0051】
製造例7
表2に示す通り、アルコールAO付加物におけるアルキレンオキサイドの付加モル数を変化させた以外には、C1化合物の製造例と同様の手順にて、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルC2とC3を製造した。
【0052】
【0053】
<コンクリート用混和剤の調整>
ポリカルボン酸系高性能AE減水剤を20%水溶液として調整を行う。製造例1乃至7で得られたポリアルキレングリコール化合物とリン酸エステル化合物、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルを表4乃至表6に示す割合で混合し、消泡剤組成物の調整を行った。前記ポリカルボン酸系ポリマー20%水溶液に対し、0.2%消泡剤を混合しコンクリート用混和剤の調整を行った後、透明なガラス製容器に充填した。
【0054】
<消泡剤の混和剤中での相溶性試験>
前記消泡剤を混合したコンクリート混和剤を20℃で28日間適宜混合攪拌を行いながら目視にて混和剤中の相溶性について確認試験を行った。結果を表4乃至表6に示す。
(相溶性の評価基準)
20℃で28日間経過後のコンクリート混和剤を目視により観察し、以下の評価基準により相溶性の評価を行った。
◎:混和剤中では消泡剤は溶解しており、溶液は透明。付着、分離は確認されない。
○:混和剤中では消泡剤は溶解しており、付着、分離は確認されないが白濁している。
△ :混和剤中で消泡剤が白濁し、容器上面に白い筋が見られる。容器壁面への付着が激しい。
× : 混和剤中で消泡剤が完全に分離している。容器壁面への付着が激しい。
【0055】
<フレッシュ性状試験>
混和剤へ消泡剤を添加し、20℃経時28日経過後の上記相溶性試験を行った後、各混和剤を普通ポルトランドセメントに対して1.0%添加し、下記表3に示すコンクリート配合にて、フレッシュコンクリート試験を行った。コンクリートの練り混ぜは55リットル強制二軸ミキサを使用し、粗骨材、セメント、細骨材に、各々の混和剤を予め加え調製した水を加えて、所定の時間練り混ぜを行った。結果を表4乃至表6に示す。
その後、コンクリートの排出直後に、フレッシュコンクリート試験としてスランプ試験(JIS A 1101)、空気量の測定(JIS A 1128)を行った。
【0056】
<圧縮強度試験>
フレッシュコンクリート試験の項において作製した直後のコンクリートを、φ10×20cmの型枠に充填した。一日封緘養生後、脱型しその後28日間水中養生した供試体について、JIS A 1108に従って28日圧縮強度を測定した。また、上記手順にて得られたコンクリート供試体(材齢28日)について、以下の基準にて外観(粗大な気泡痕の多さ)を評価した。結果を表4乃至表6に示す。
(外観(粗大な気泡痕の多さ)の評価基準)
◎:供試体表面に粗大な気泡痕が全く観察されない
○:供試体表面に粗大な気泡痕がわずかに観察される。
×:供試体表面に粗大な気泡痕が目立って観察される。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
上記表4乃至表5に示すとおり、本発明の消泡剤組成物を用いた実施例1乃至14は、消泡性、強度発現性を低下させることなく、混和剤中での相溶性に優れ、コンクリート表面に粗大な気泡痕が少なく、表面美観に優れるコンクリートを作製出来ることが分かった。
これに対し、表6に示すとおり、比較例1乃至4は、消泡性・強度発現性が本発明の消泡剤組成物を使用した場合と同等であったが、混和剤中での相溶性が劣り、作製されたコンクリートの表面美観も劣る結果であった。