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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】反射防止板
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20230425BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230425BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230425BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230425BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230425BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20230425BHJP
【FI】
G02B1/111
B32B7/023
B32B27/18 Z
B32B27/20 Z
B32B27/00 101
C08J7/046 A CER
C08J7/046 CEZ
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020514040
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013696
(87)【国際公開番号】W WO2019202942
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2018080725
(32)【優先日】2018-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】林 大祐
(72)【発明者】
【氏名】新井 祐
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-133034(JP,A)
【文献】特開2004-93773(JP,A)
【文献】特開2003-176426(JP,A)
【文献】特開2016-138208(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0090403(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/111
B32B 7/023
B32B 27/18
B32B 27/20
B32B 27/00
C08J 7/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基板上に、ハードコート層、低屈折率層を有する反射防止層、保護層およびオーバーコート層が、この順で積層されてなる反射防止板であって、
低屈折率層が、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物90~98質量部と(D)金属キレート化合物10~2質量部の合計100質量部に対し、(B-2)平均粒子径が10~150nmの中空シリカ微粒子50~200質量部を含有してなる硬化性組成物の硬化体であって、その厚みが50~200nmであり、その屈折率が1.20~1.45であり、
保護層が、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物90~98質量部と(D)金属キレート化合物10~2質量部の合計100質量部に対し、(B-3)微粒子7.5~35質量部を含有してなる硬化性組成物の硬化体であり、当該微粒子は内部に空洞を有しない非中空の球状シリカであって、その平均粒子径が5nm以上10nm以下の球状シリカ微粒子であり保護層の厚みが10~15nmであり、その屈折率が1.45~1.50であり、
オーバーコート層が、(E)フッ素含有ケイ素化合物の重合体からなり、その厚みが5~15nmである
ことを特徴とする、前記反射防止板。
【請求項2】
反射防止層が、低屈折率層、および当該低屈折率層の透明樹脂基板側に設けられた屈折率が1.50~1.75の中屈折率層の二層から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射防止板。
【請求項3】
中屈折率層が、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物90~95質量部と(D)金属キレート化合物10~5質量部の合計100質量部に対し、(F)有機・無機複合化合物100~175質量部、(G)金属酸化物粒子150~300質量部を含有してなる硬化性組成物の硬化体であることを特徴とする請求項2に記載の反射防止板。
【請求項4】
(F)有機・無機複合化合物が、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ノボラックフェノール化合物、或いはポリアミック酸化合物にアルコキシシリル基が結合した構造の複合化合物であることを特徴とする請求項3に記載の反射防止板。
【請求項5】
反射防止層が、低屈折率層、屈折率が1.50~1.75の中屈折率層、および低屈折率層と中屈折率層の間に設けられた屈折率が1.60~2.00の高屈折率層の三層から構成され、高屈折率層の屈折率が中屈折率層の屈折率より大きいことを特徴とする請求項1に記載の反射防止板。
【請求項6】
高屈折率層が、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物75~95質量部と(D)金属キレート化合物25~5質量部の合計100質量部に対し、(G)金属酸化物粒子100~600質量部を含有してなる硬化性組成物の硬化体であることを特徴とする請求項5に記載の反射防止板。
【請求項7】
ハードコート層が、(A)重合性単量体、(B-1)シリカ微粒子、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物、および(D)金属キレート化合物を含有してなる硬化性組成物の樹脂性硬化体からなり、
(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物95~99質量部、および(D)金属キレート化合物1~5質量部の合計100質量部に対して、(A)重合性単量体が1500~2000質量部、(B-1)シリカ微粒子が300~500質量部であること、
を特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の反射防止板。
【請求項8】
ハードコート層形成用の硬化性組成物において、(A)重合性単量体が、6官能以上のウレタンアクリレート単量体、3~4官能ウレタンアクリレート単量体および2官能アクリレート単量体を含有してなり、6官能以上のウレタンアクリレート単量体100質量部に対して3~4官能ウレタンアクリレート単量体が5.0~15.0質量部であり、2官能アクリレート単量体が5.0~10.0質量部であることを特徴とする請求項7に記載の反射防止板。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の反射防止板が、反射防止板の透明樹脂基板を介して表示装置表面に積層されてなることを特徴とする反射防止表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止能が高く、しかも、耐摩耗性及び防汚性に優れた反射防止板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、Cathode-Ray Tube(CRT)、Liquid Crystal Display(LCD)、プラズマデイスプレイ(PDP)などの表示装置の前面パネルには、表面での反射を防止して画面を見やすくするために反射防止膜が積層されているか或いは反射防止板が装着されている。
プラスチック基板上に多層の膜を形成した、反射防止能を有する透明樹脂積層板も公知であり、例えば、透光性を有するプラスチック基板上に、高屈折率層、低屈折率層、コート層が、順に積層された、耐磨耗性、耐擦傷性、密着性及び透光性に優れた透明樹脂積層板が知られている(特許文献1)。
昨今、金融機関の現金自動預け払い機(ATM)、自動券売機等のタッチパネルにおいても、より視認性を確保するために反射防止機能が要求されるようになってきた。
上記タッチパネルは、通常屋内で使用されるために環境の影響を受けにくい。しかしながら、カーナビゲーションシステムで使用されるタッチパネルは、自動車が本来屋外で使用されるものであり、砂塵が多い気象条件や海岸付近の地理条件下で使用することもたびたびある。砂は、硬度が高くしかも粒子が鋭角な突起部を有するため、砂を多く含む環境下でタッチパネルを使用すると、その表面に傷が入って表面がぎらついたり表面が剥がれたりして、反射防止能が大きく低下することが起こる。更に、タッチパネルにおいては、必然的に指の脂質分によって指紋が残って同様に視認性が減少するので、防汚性も要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-288202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決して、高度の反射防止能を発現すると共に、耐摩耗性及び防汚性に優れた反射防止板を提供することを目的とする。
本願発明者らは上記課題について種々検討した結果、反射防止能を発現する低屈折率層の視野側に特定組成の保護層を設けること、更に、低屈折率層中に含まれる低屈折率を達成するためのシリカ微粒子の粒子径と配合量、並びに保護層に含まれるシリカ微粒子の粒子径と配合量を制御することにより耐摩耗性が向上することを見出した。更にまた、最外層に特定組成のオーバーコート層を設けることにより防汚性が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明により、
透明樹脂基板上に、ハードコート層、低屈折率層を有する反射防止層、保護層およびオーバーコート層が、この順で積層されてなる反射防止板であって、
低屈折率層が、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物90~98質量部と(D)金属キレート化合物10~2質量部の合計100質量部に対し、(B-2)平均粒子径が10~150nmの中空シリカ微粒子50~200質量部を含有してなる硬化性組成物の硬化体であって、その厚みが50~200nmであり、その屈折率が1.20~1.45であり、
保護層が、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物90~98質量部と(D)金属キレート化合物10~2質量部の合計100質量部に対し、(B-3)微粒子7.5~35質量部を含有してなる硬化性組成物の硬化体であり、当該微粒子は内部に空洞を有しない非中空の球状シリカであって、その平均粒子径が5nm以上10nm以下の球状シリカ微粒子であり保護層の厚みが10~15nmであり、その屈折率が1.45~1.50であり、
オーバーコート層が、(E)フッ素含有ケイ素化合物の重合体からなり、その厚みが5~15nmであることを特徴とする、前記反射防止板が提供される。
【0006】
上記反射防止板の発明において、
1)反射防止層が、低屈折率層、および当該低屈折率層の透明樹脂基板側に設けられた屈折率が1.50~1.75の中屈折率層の二層から構成されていること、
2)中屈折率層が、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物90~95質量部と(D)金属キレート化合物10~5質量部の合計100質量部に対し、(F)有機・無機複合化合物100~175質量部、(G)金属酸化物粒子150~300質量部を含有してなる硬化性組成物の硬化体であること、
3)上記(F)有機・無機複合化合が、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ノボラックフェノール化合物、或いはポリアミック酸化合物にアルコキシシリル基が結合した構造の複合化合物であること、
4)反射防止層が、低屈折率層、屈折率が1.50~1.75の中屈折率層、および低屈折率層と中屈折率層の間に設けられた屈折率が1.60~2.00の高屈折率層の三層から構成され、高屈折率層の屈折率が中屈折率層の屈折率より大きいこと、
5)高屈折率層が、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物75~95質量部と(D)金属キレート化合物25~5質量部の合計100質量部に対し、(G)金属酸化物粒子100~600質量部を含有してなる硬化性組成物の硬化体であること、
6)ハードコート層が、(A)重合性単量体、(B-1)シリカ微粒子、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物、および(D)金属キレート化合物を含有してなる硬化性組成物の樹脂性硬化体からなり、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物95~99質量部、および(D)金属キレート化合物1~5質量部の合計100質量部に対して、(A)重合性単量体が1500~2000質量部、(B-1)シリカ微粒子が300~500質量部であること、
7)前記ハードコート層形成用の硬化性組成物において、(A)重合性単量体が、6官能以上のウレタンアクリレート単量体、3~4官能ウレタンアクリレート単量体および2官能アクリレート単量体を含有してなり、6官能以上のウレタンアクリレート単量体100質量部に対して3~4官能ウレタンアクリレート単量体が5.0~15.0質量部であり、2官能アクリレート単量体が5.0~10.0質量部であること、
が好適である。
【0007】
更に、本発明により、
上記反射防止板が、反射防止板の透明樹脂基板を介して表示装置表面に積層されてなることを特徴とする反射防止表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の反射防止板は、高度の反射防止能に加えて耐摩耗性に優れる。更に、脂質に対する防汚性にも優れる。
従って、一般の表示装置のみならず、カーナビゲーションシステムのタッチパネル、一眼レフカメラ、医療用パネルなどの高い耐摩耗性が要求される装置のパネルに有効に使用される。更にはスマートフォン、タブレット等の屋外で使用される表示装置にも好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の代表的な反射防止板の断面構造を示す模式図である。
図2】本発明の他の態様の反射防止板の断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の反射防止板は、透明樹脂基板、ハードコート層、反射防止層、保護層およびオーバーコート層が、この順で積層された基本構造を有している。更に、これらの層が、前記特定された構造、物性、成分から構成されることに特徴がある。
【0011】
〔透明樹脂基板〕
透明樹脂基板としては、耐衝撃強度に優れ視野性の障害にならない透明樹脂であれば何ら制限はない。透明性及び耐衝撃強度の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂或いはポリメチルメタクリレート樹脂からなる基板が好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂とポリメチルメタクリレート樹脂との積層基板でもよい。当該基板の厚みは、要求される透明度や耐衝撃強度から適宜選択して設計されるが、通常、0.2~3.0mmの範囲から選択される。
【0012】
〔ハードコート層〕
透明樹脂基板上にハードコート層が積層され、この層の上に、後述する反射防止層が形成される。
当該ハードコート層は、反射防止板の強度、並びに透明樹脂基板と反射防止層との密着性に寄与する層であり、この密着性の向上により、本発明の反射防止板の耐摩耗性および硬度が優れたものとなる。
当該ハードコート層は樹脂性硬化体からなる。通常、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンプレポリマー;グリセリンジ(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、グリセリンジ(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレオリゴマーなどの重合性多官能アクリレートを重合硬化して得られる、樹脂性硬化体が用いられる。
特に、前出の透明樹脂基板と反射防止層との密着性、並びにそれ自体の硬度を優れたものとするためには、下記組成物の樹脂性硬化体が好適である。
即ち、好適なハードコート層の形成に用いられる硬化性組成物は、(A)重合性単量体、(B-1)シリカ微粒子、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物、および(D)金属キレート化合物を含んでなる硬化性組成物の硬化体からなり、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物95~99質量部、および(D)金属キレート化合物1~5質量部の合計100質量部に対して、(A)重合性単量体が1500~2000質量部、(B-1)シリカ微粒子が300~500質量部である。
【0013】
<重合性単量体>
重合硬化後にハードコート層の母材となる成分である。他の必須成分と組み合わせて用いられその種類は特に制限はない。
当該重合性単量体としては、以下の化合物が挙げられる。
単官能アクリレート単量体:
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のアクリレート単量体が挙げられる。
2官能アクリレート単量体:
エチレングリコール(メタ)アクリレート等の2官能アクリレート化合物、或いは、ジイソシアネート化合物と水酸基を複数有している(メタ)アクリレート化合物との重付加反応によって得られ且つ(メタ)アクリロイル基が2個に制御されている2官能ウレタンアクリレート化合物が挙げられる。重合付加反応の条件、各原料等については、従来公知の方法が何ら制限なく採用される。
3~4官能アクリレート単量体:
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3~4官能アクリレート化合物、或いは、ジイソシアネート化合物と水酸基を複数有している(メタ)アクリレート化合物との重付加反応によって得られ且つ(メタ)アクリロイル基が3~4個に制御されている3~4官能ウレタンアクリレート化合物が挙げられる。重合付加反応の条件、各原料等については、従来公知の方法が何ら制限なく採用される。
6官能アクリレート単量体:
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの(メタ)アクリロイル基が6個存在している(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。好ましくは、ジイソシアネート化合物と水酸基を複数有している(メタ)アクリレート化合物との重付加反応によって得られ且つ(メタ)アクリロイル基が6個に制御されている6官能ウレタンアクリレート化合物が、表面硬度が高く緻密な層を形成する点で好適に用いられる。重合付加反応の条件、各原料等については、従来公知の方法が何ら制限なく採用される。
上記各単量体は市販されているので一般に入手可能である。各種ウレタンアクリレート単量体も、新中村化学工業社、共栄社化学社、ケーエスエム社、根上工業社、日本合成化学工業社、巴工業社、東洋ケミカルズ社などから市販されている。
【0014】
上記重合性単量体は、硬化後の硬化体の硬度に加えて、耐衝撃性や反射防止層との密着性、更には単量体の粘度などを勘案して適宜組み合わせて用いられる。特に、(A)重合性単量体が、6官能以上のウレタンアクリレート単量体100質量部に対し、3~4官能ウレタンアクリレート単量体5.0~15.0質量部、2官能アクリレート単量体5.0~10.0質量部を含有する混合組成物である場合、反射防止層との密着性、耐光性、柔軟性、硬度の点で大変好ましい。
【0015】
<(B-1)シリカ微粒子>
ハードコート層に用いるシリカ微粒子は、密着性や塗布性の向上に寄与する粒子であり、その性状は特に限定されないが、通常、球状であって、平均粒子径が5~30nm、屈折率が1.44~1.50である。平均粒子径が上記範囲を外れると、耐クラック性が悪くなる傾向にある。
上記シリカ微粒子は単粒子からなる、内部が密な、内部に空洞を有しない非中空の粒子であり、密度は通常1.9g/cm以上である。当該シリカ微粒子はそれ自体公知で市販されているので、上記平均粒子径と屈折率を満足する市販品を選択して使用すればよい。該シリカ微粒子は、通常、溶媒に分散された状態で供されるので、この溶媒は、ハードコート層形成用の硬化性組成物の溶液中に必然的に混入し、他の溶媒と同様に挙動する。
【0016】
<(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物>
シランカップリング化合物又はその加水分解物は、それ自体が加水分解して緻密な珪酸質の被膜を形成する。
該シランカップリング化合物としては、公知のものを制限なく使用できる。例えば、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
該シランカップリング化合物は、その種類によっては、水や溶剤に対する溶解性を向上させる目的で、希薄な酸等で予め加水分解された分解物とすることが好適である。予め加水分解する方法は特に制限なく、酢酸などの酸触媒を用いてその一部を加水分解する方法が一般的である。
【0017】
<(D)金属キレート化合物>
架橋剤としての機能を有する成分であり、形成されるハードコート層をより緻密な硬化体とする働きをなす。
該金属キレート化合物は、二座配位子を代表例とするキレート剤が、四価のチタン金属イオン、四価のジルコニウム金属イオン、三価のアルミニウム金属イオンなどの金属イオンに配位した化合物である。
具体的には、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテイト)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテイト)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテイト)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテイト)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテイト)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテイト)チタン等のチタンキレート化合物;
トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテイト)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテイト)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテイト)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテイト)ジルコニウム、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテイト)ジルコニウム、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテイト)ジルコニウム、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテイト)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物;
ジエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ-i-プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテイト)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテイト)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物
が挙げられる。
【0018】
好適なハードコート層形成用の組成物は、前出の(A)重合性単量体、(B-1)シリカ微粒子、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物、および(D)金属キレート化合物を含有してなる硬化性組成物であり、下記特定比率で配合されることが好ましい。
(A)重合性単量体は、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物と(D)金属キレート化合物との合計量100重量部に対して1500~2000質量部とする。1500質量部未満では、ハードコート層の形成が不十分となり、2000質量部を超えると外観不良を起こす。
(B-1)シリカ微粒子は、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物と(D)金属キレート化合物との合計量100重量部に対して、300~500質量部とする。300質量部未満では、外観が不十分となり、500質量部を超えると耐衝撃性が悪くなる傾向にある。
(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物の配合量は、(D)金属キレート化合物との合計量100重量部に対して、95~99質量部とするのが好ましい。95質量部未満であると膜密着性が悪く、99質量部を超えるとハードコート層の平滑性が悪くなる傾向にある。
(D)金属キレート化合物の配合量は、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物との合計量100重量部に対して、1~5質量部とするのが好ましい。この範囲を外れると、このハードコート層上に形成される反射防止層との間の密着性が悪くなるか或いは層の緻密性が不十分となり硬度が低下する傾向にある。
上記硬化性組成物には、粘度調整や易塗布性の目的で任意の添加剤を本来の目的を損なわない範囲で添加することができる。従来公知の紫外線吸収剤も添加することもできる。特に、該組成物を透明樹脂基板上で硬化させてハードコート層とするために、通常、熱重合開始剤または光重合開始剤重合開始剤が触媒量、通常、組成物中の固形分全量を基準にして、0.01~20質量%添加される。この重合開始剤は、硬化性組成物を硬化して得られるハードコート層の諸特性には本質的影響を与えない。
【0019】
<ハードコート層の形成>
上記各必須成分、更に任意成分は、通常、室温付近で、下記溶媒と任意の順序で混合、攪拌されて硬化性組成物の溶液とされる。この溶液を前記透明樹脂基板に塗布した後、50℃以上で溶媒を乾燥させ、次いで紫外線照射により硬化させてハードコート層が形成される。該層の厚みは1~100μm、好ましくは1~30μm、さらに好ましくは1~10μmの範囲に設定される。
使用される溶媒は、エチルアルコール、(イソ)プロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;酢酸(イソ)ブチルなどの酢酸エステル系溶媒;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶媒等が適している。これらの溶媒は、ハードコート層形成の際に、蒸発除去される。
溶液の透明樹脂基板上への塗工方法は特に制限されず、ディップコート法、ロールコート法、ダイコート法、フローコート法、スプレー法等の方法が採用されるが、外観品位や層厚制御の観点からディップコート法が好適である。
【0020】
〔反射防止層〕
本発明の反射防止板は、前記透明樹脂基板上に積層されたハードコート層の上に、直接反射防止層が積層されている。該反射防止層は、屈折率が1.25~1.40の低屈折率層を必須層として有する。低屈折率層の屈折率がこの範囲を外れると反射防止層として機能しない。なお、後述するように、反射防止層が、複数の反射防止層から成る場合には、当該低屈折率層は、反射防止層の最外層(視野側)に位置する。
【0021】
<(B-2)中空シリカ微粒子>
低屈折率層に含有させる中空シリカ微粒子は、該層の屈折率を制御する粒子である。平均粒子径が10~150nmであることが必須であり、低屈折率層の層厚よりも小さい粒子径を選択しなければならない。
当該中空シリカ微粒子は、その内部が空洞であり、空隙率は20~70%、好ましくは30~50%であり、屈折率は通常1.30以下である。
平均粒子径が上記範囲を外れると、反射性能が低下したりヘイズ率が上昇するだけでなく、例え保護層を設けたとしても、本発明の効果である耐摩耗性が向上しない。好ましい平均粒子径は50~100nmで、さらに好ましい平均粒子径は50~70nmである。
上記中空シリカ微粒子は、市販品の中から、上記平均粒子径を満たすものを選択して使用すればよい。該中空シリカ微粒子も、通常、溶媒に分散された状態で供されるので、この溶媒は、前記(B-1)シリカ微粒子の場合と同様に挙動する。
(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物および(D)金属キレート化合物は、ハードコート層の項で説明されたものが、同様に使用される。
【0022】
<低屈折率層形成用組成物>
低屈折率層形成用組成物は、上記(B-2)中空シリカ微粒子、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物および(D)金属キレート化合物を必須成分とする硬化性の組成物である。
本発明の反射防止板が、反射防止能に加えて優れた耐摩耗性を発現するために、下記組成とすることが重要である。
(B-2)中空シリカ微粒子は、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物と(D)金属キレート化合物との合計量100重量部に対して、50~200質量部とする。50質量部未満では低屈折率を達成できなく、200質量部を超えると耐摩耗性が低下して本発明の特徴が損なわれる。
(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物と(D)金属キレート化合物とは、90:10~98:2となる質量比(合計100質量部)で使用される。両者の配合比がこの数値範囲内を満たさない場合は、低屈折率層としての、層強度、塗膜不良が起き、基本的な層特性が発現せず層として機能しない。
低屈折率層形成用組成物には、上記必須成分に加えて、透明樹脂基板に対する密着性を向上させ、層を緻密化して高強度化するために、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルコキシケイ素化合物を配合することができる。更に、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物或いは前記テトラアルコキシケイ素化合物の加水分解、縮合を促進させるために、塩酸水溶液等の酸水溶液を適宜の量で低屈折率層形成用組成物中に配合することもできる。
【0023】
<低屈折率層の形成>
低屈折率層は、透明樹脂基板上に積層されたハードコート層上に形成される。該低屈折率層の形成は、ハードコート層の形成に準じ、低屈折率層形成用組成物の溶液を、硬化体であるハードコート層上に塗布した後乾燥し、次いで70~120℃で加熱、硬化させて行う。該層の厚みは、反射防止性能の観点から、通常50~200nmの範囲に設定される。
尚、反射防止層が後出の中屈折率層と低屈折率層との二層からなる場合は、ハードコート層上に、先ず中屈折率層を形成し、次いで該層の上に低屈折率層が形成される。更に、反射防止層が後出の中屈折率層、高屈折率層、および低屈折率層との三層から成る場合は、ハードコート層上に、先ず中屈折率層を形成し、次いで該層の上に高屈折率層、更にその上に低屈折率層が形成される。
【0024】
<中屈折率層>
本発明の透明樹脂積層板は、その反射防止効果をより高めるために、低屈折率層の透明樹脂基板側に中屈折率層が積層された二層構造とすることが好ましい。
該中屈折率層は、その屈折率が1.50~1.75であり、厚みが50~200nmである層が好適である。
この中屈折率層は、代表的には、前出の(C)シランカップリング化合物またはその加水分解物90~95質量部および(D)金属キレート化合物10~5質量部の合計100質量部に対して、(F)有機・無機複合化合物100~175質量部、(G)金属酸化物粒子150~300質量部を含有してなる硬化性組成物を硬化させて形成する。
【0025】
<(F)有機・無機複合化合物>
中屈折率層には、ハードコート層と中屈折率層の上に積層される低屈折率層との密着性および耐アルカリ性の向上のために、有機・無機複合化合物を用いる。
有機・無機複合化合物とは、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物にアルコキシシリル基が結合した複合化合物である。化合物間でエポキシ基の架橋と、アルコキシシリル基のゾルゲル硬化によるシリカ粒子の生成とが起こって、ガラスのようにガラス転移温度(Tg)が無い、有機材料と無機材料の長所を併せ持つ硬化体となる化合物である。
有機・無機複合化合物は様々なタイプの化合物が存在する。例えば、ビスフェノールAエポキシ化合物、ノボラックフェノール化合物、或いはポリアミック酸化合物などにアルコキシシリル基が結合した構造の複合化合物が挙げられる。好適な有機・無機複合化合物としては、最も中屈折率層の硬度を損なうことなく、しかも入手が容易であるという観点から、ビスフェノールA型エポキシ化合物にアルコキシシリル基が結合した複合化合物が挙げられる。
【0026】
<(G)金属酸化物粒子>
金属酸化物粒子は、中屈折率層の屈折率が1.50~1.75になることを満たす目的で含有させる。代表的には、平均粒子径が10~100nmであり、屈折率が1.70以上2.80以下の金属酸化物粒子である。
金属酸化物粒子としては、酸化ジルコニウム粒子(屈折率=2.40);酸化ジルコニウムと、酸化ケイ素等の他の酸化物とを分子レベルで複合化させて屈折率を調整した複合ジルコニウム金属酸化物粒子;酸化チタニウム粒子(屈折率=2.71);酸化チタニウムと、酸化ケイ素や酸化ジルコニウム等の他の酸化物とを分子レベルで複合化させて屈折率を調整した複合チタニウム金属酸化物粒子;シリカ粒子(屈折率=1.55)などが使用される。これらの金属酸化物粒子から選択して、或いは適宜組み合わせて、所望の屈折率の層となるように調整する。このような粒子はそれ自体公知であり、市販されている。
【0027】
<中屈折率層の形成>
中屈折率層は、透明樹脂基板上に積層されたハードコート層の上に形成される。該中屈折率層の形成は、前記低屈折率層の形成と同様にして実施され、該層の厚みは、反射防止性能の観点から、50~200nmの範囲に設定される。
【0028】
<高屈折率層>
本発明の反射防止板は、極めて高い反射防止効果を発現させるために、屈折率が1.20~1.45である低屈折率層と屈折率が1.50~1.75である中屈折率層の間に高屈折率層が積層された三層構造とすることが、特に好ましい。
該高屈折率層は、その屈折率が1.60~2.00であり、厚みが50~200nmである層が好適である。なお、該高屈折率層の屈折率は、中屈折率層の屈折率より高いことを必須とする。
この高屈折率層は、代表的には、前出の(C)シランカップリング化合物またはその加水分解物75~95質量部および(D)金属キレート化合物25~5質量部の合計100質量部に対して、(g)金属酸化物粒子100~600質量部を含有してなる硬化性組成物を硬化させて形成する。(g)金属酸化物粒子は、高屈折率層の屈折率が1.60~2.00になるように、前出の金属酸化物粒子から選択して、或いはこれらを組みわせて使用される。
【0029】
<高屈折率層の形成>
高屈折率層は、ハードコート層上に積層された前記中屈折率層の上に形成され、次いで当該高屈折率層の上に低屈折率層が形成されて三層構造となる。該高屈折率層の形成は、前記低屈折率層及び中屈折率層の形成と同様にして実施される。
【0030】
〔保護層〕
本発明において、耐摩耗性を発現するために必須の層であり、使用するシリカ微粒子の形状、粒子径及びその含有量、並びに層厚が重要な要件となる。
即ち、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物90~98質量部と(D)金属キレート化合物10~2質量部の合計100質量部に対し、(B-3)平均粒子径が10nm以下で且つ球状のシリカ微粒子7.5~35質量部を含有させることが必要である。硬化後の硬化体の屈折率は1.45~1.50とする。
(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物と(D)金属キレート化合物との配合比を、90:10~98:2質量部(合計100質量部)の範囲にすることは、反射防止板の耐摩耗性が向上させるために必要である。
(B-3)球状シリカ微粒子は、球状であり且つ平均粒子径が10nm以下であることが必須である、両条件を満たさない場合はたとえ保護層を設けても、オーバーコート層が平滑に塗布されないため高度の耐摩耗性が発現しない。平均粒子径の下限値は特に制限はないが、入手のし易さから5nm以上が好ましい。
当該球状シリカ微粒子の配合量は、(C)シランカップリング化合物又はその加水分解物と(D)金属キレート化合物の合計100質量部に対し、7.5~35重量部とする必要がある。7.5質量部未満では保護膜の屈折率が上がることに加え耐摩耗性の効果が発現しなく、しかも製膜性が低下して反射防止層の上に均一な保護膜が形成されない。35質量部を超えると、保護膜が脆くなり外観不良となる。
また、硬化後の硬化体の屈折率は1.45~1.50とする必要がある。これを満足しないと反射防止能が落ちる。
層の厚みは10~15nmとする必要がある。10nm未満では保護層として機能しなくなり、15nmを超えると反射率が上がり、反射防止能が低下してしまう。
【0031】
(C)シランカップリング化合物またはその加水分解物および(D)金属キレート化合物は、ハードコート層の項で説明したものが何ら制限なく使用できる。
(B-3)球状シリカ微粒子は、単粒子からなる、内部が密な、内部に空洞を有しない非中空の球状粒子であり、密度は通常1.9g/cm以上である。当該球状シリカ微粒子はそれ自体公知で市販されているので、上記平均粒子径と屈折率を満足させる市販品を選択して使用すればよい。該シリカ微粒子は、通常、溶媒に分散された状態で供されるので、この溶媒は、保護層形成用の硬化性組成物溶液中に必然的に混入し、他の溶媒と同様に挙動する。
保護層を形成するための硬化性組成物の調製、保護層の形成方法は、反射防止層のそれらと同様に実施すればよい。
【0032】
〔オーバーコート層〕
オーバーコート層は、本発明の反射防止板が本来の耐摩耗性を発現すると共に、高度の防汚性を発揮するために設けられた層であり、フッ素含有ケイ素化合物の重合体からなる。
フッ素含有ケイ素化合物の重合体とは、具体的には、パーフルオロポリエーテル構造を主鎖としてその一端または両端に加水分解基であるアルコキシシリル基が存在する化合物を主成分とし、当該化合物が縮重合された重合体である。パーフルオロポリエーテル構造の存在により、油脂分の付着性が弱まり、高い防汚性が発現する。
当該フッ素含有ケイ素化合物は、3M製「NovecTMシリーズ」;東レ・ダウコーニング製「Dow Corning(登録商標)シリーズ」;信越化学製「SHIN-ETSU SUBELYNTMシリーズ」;ダイキン製「オプツール」;旭硝子製の「SURECO(登録商標)シリーズ」などとして、イソプロピルエーテル、ヘキサン、フッ素系有機溶媒等の有機溶媒に溶解された溶液状態で市販されているので、これらを入手し使用することが好適である。
上記フッ素含有ケイ素化合物を含有する溶液は、通常の方法で、保護層の上に塗布されたのち、100℃前後の温度で約6~8時間保持することにより、乾燥・硬化されて重合体となる。
該オーバーコート層の厚みは、その機能を発現するために、通常5~15nmの範囲に設定される。
【0033】
本発明の反射防止板は、前記層構成のものに限定されない。例えば、透明樹脂積層板の裏側には、アクリル系、ゴム系、シリコーン系の粘着剤からなる、粘着剤層を設けることができる。また、透明樹脂基板の表及び裏の両面に、ハードコート層、反射防止層、保護層およびオーバーコート層を積層してもよい。
本発明の反射防止板を装着する表示装置には何ら制限はない。CRT、LCD、PDPなどの一般の表示装置、スマートフォン、タブレット、ATM、自動券売機等のタッチパネルなどが挙げられる。特に一眼レフカメラ、医療用パネル、カーナビゲーションシステムで使用されるタッチパネルに装着した場合、その性能が最大限に発揮される。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
以下の実施例及び比較例で用いた各種成分と略号、並びに試験方法は、次の通りである。
【0035】
(A)重合性単量体
a-1;2官能アクリレート
エチレングリコールジアクリレート
a-2;3官能ウレタンアクリレート
末端にアクリレート基を3個有するウレタンアクリレート
a-3;6官能ウレタンアクリレート
末端にアクリレート基を6個有するウレタンアクリレートプレポリマー
(B)シリカ微粒子
b-1:球状シリカ微粒子
球状、平均粒子径:7nm、屈折率=1.46、
IPA分散、固形部:20wt%
b-2:中空シリカ微粒子
中空粒子、平均粒子径:60nm、屈折率=1.30、
IPA分散、固形部:20wt%
b-3:シリカ微粒子
球状シリカ微粒子「b-1」を使用
b-4:シリカ微粒子
球状、平均粒子径:20nm、屈折率=1.47、
IPA分散、固形部:20wt%
(C)シランカップリング化合物
c-1:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(γ-GPS)
(D)金属キレート化合物1
d-1:アルミニウムトリスアセチルアセトナート(ATAA)
(E)フッ素含有ケイ素化合物
e-1:パーフルオロポリエーテル主鎖アルコキシシランを含有する溶液
溶媒;フッ素系溶剤、有効成分濃度;20wt%、
粘度(25℃)=1.0mm/s
(F)有機・無機複合化合物
f-1:アルコキシ基含有シラン変性エポキシ化合物
トリアルコキシメチルシリル基で修飾されたビスフェノールA型
エポキシ化合物
(G)金属酸化物粒子
g-1:ジルコニア粒子
屈折率=2.42、平均粒子径=60~70nm
PGM(1-メトキシ-2-プロパノール)分散、固形部:55
wt%
g-2:ジルコニア粒子
屈折率=2.40、平均粒子径=20~30nm
アルコール分散、固形部:20wt%
(H)その他配合物
h-1;IPA(イソプロピルアルコール)
h-2;SBAC(酢酸第二ブチルエステル)
h-3;NPA(ノルマルプロピルアルコール)
h-4;MIBK(メチルイソブチルケトン)
h-5;エタノール
h-6;光重合開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)
h-7;紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系)
h-8;0.05N酢酸
【0036】
〔全光線反射率〕
日本分光社製「V-650」試験機を用いて、走査速度1000nm/minの速度、波長380~780nmの範囲で、最下点(透明樹脂基板表面)における反射率を測定した。数値が小さいほど反射防止能に優れることを示す。
【0037】
〔視感平均反射率〕
日本分光社製「V-650」試験機を用いて、走査速度1000nm/minの速度、波長380~780nmの範囲で、最下点(透明樹脂基板表面)における反射率を測定した。その反射率とJIS Z 8722に記載の重価係数をかけることにより算出した。数値が小さいほど反射防止能に優れることを示す。
【0038】
〔耐摩耗性試験〕
1.カナキン耐摩耗性:
擦り試験器に試験片をセットし、日本規格協会製のカナキン布3号を用い、500g/cm荷重で40mm間を3000回往復させ、キズの入り方とその本数を測定し、評価した。評価基準は以下のとおりであり、透過光は透明樹脂積層板を透過した光を意味し、反射光は当該積層板表面で反射した光を意味する。
「〇」:透過光、反射光の何れで観察しても、キズは確認されなかった。
「△」:透過光で観察するとキズが数本確認されたが、反射光では確認されなかった。
「×」:透過光、反射光の何れで観察しても、キズが数本確認された。
2.スチールウール耐摩耗性:
擦り試験器に試験片をセットし、スチールウール#0000(日本スチールウール社「BONSTER」)上で500g/cm荷重で40mm間を20往復させ、キズの入り方とその本数を測定し、評価した。評価基準は以下のとおりであり、透過光は透明樹脂積層板を透過した光を意味し、反射光は当該積層板表面で反射した光を意味する。金属を使用した本試験は、カナキン耐摩耗性試験に比して大変厳しい条件での試験法である。
「〇」:透過光、反射光の何れで観察しても、キズは確認されなかった。
「△」:透過光で観察するとキズが数本確認されたが、反射光では確認されなかった。
「×」:透過光、反射光の何れで観察しても、キズが数本確認された。
【0039】
[防汚性試験]
試験片をパイロット社製の油性マーカー「M-10EF-B」で、約2mm幅の線を描き、マジックインクのはじきを確認した。
「○」:マジックインクが球状で試験片からはじかれている状態
「△」:マジックインクが線状で試験片からはじかれている状態
「×」:マジックインクが試験片になじんで線が残っている状態
【0040】
実施例1
厚さ1mmの芳香族ポリカーボネート樹脂(PC)とポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)との積層樹脂基板(PC層の厚み0.93mm、PMMA層の厚み0.07mm、PC層側にフィルムマスキングを施している)のPMMA側に、以下の方法でハードコート層、その上に反射防止層、更に保護層およびオーバーコート層を順に形成した。
[ハードコート層形成用溶液組成]
(A)重合性単量体
a-1;8g
a-2;14g
a-3;125g
(B)シリカ微粒子
b-1;200g(分散溶媒を含む)
(C)シランカップリング化合物
c-1;12g
(D)金属キレート化合物
d-1;1g
(H)その他配合物
h-1;305g
h-4;315g
h-7;11.2g
h-8;2.8g
[低屈折率層形成用溶液組成]
(B)シリカ微粒子
b-2;50g(分散溶媒を含む)
(C)シランカップリング化合物
c-1;10g
(D)金属キレート化合物
d-1;0.5g
(H)その他配合物
h-2;465g
h-3;465g
h-8;4.5g
[保護層形成用溶液組成]
(B)シリカ微粒子
b-3(b-1);3.5g(分散溶媒を含む)
(C)シランカップリング化合物
c-1;7.1g
(D)金属キレート化合物
d-1;0.4g
(H)その他配合物
h-2;493g
h-3;493g
h-8;3.3g
[オーバーコート層形成用溶液組成]
(E)フッ素含有ケイ素化合物の重合体
e-1;750g(分散溶媒を含む:固形分1.5g)
【0041】
先ず、上記組成のハードコート層形成用組成物を用いて積層透明樹脂基板をディップコートし、60℃、5分間乾燥し、UV硬化して厚さ1.5μmのハードコート層を形成した。次いで、該ハードコート層を有する基板を、反射防止層形成用組成物でディップコートし、90℃、20分間加熱処理し、厚さ86nmの反射防止層(低屈折率層)を形成した。その後保護層形成用組成物をディップコートで塗布した後、90℃、20分間加熱処理を行って保護膜を形成した。最後にオーバーコート形成用組成物を、ディップコート法で塗布した後90℃で6時間加熱処理を行ってオーバーコート層を形成して、本発明の反射防止板を得た。
得られた反射防止板の全光線反射率、視感平均反射率、カナキン耐摩耗性、スチールウール耐摩耗性、防汚染性を前記試験方法に従って測定し評価した。結果を表3に示す。
【0042】
実施例2、3
表1に示す、保護層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、反射防止板を作製し同様に測定を行った。結果を表4に示す。
【0043】
実施例4、5
表1に示す、低屈折率層形成用組成物を用いた以外は、実施例2と同様にして、反射防止板を作製し同様に測定を行った。結果を表4に示す。
【0044】
実施例6、7
表2に示す、中屈折率層形成用組成物および高屈折率層形成用組成物を用いて、三層からなる反射防止層とした以外は、実施例1と同様にして反射防止板を作製した。実施例1と同様にして積層透明樹脂基板上にハードコート層を形成した後、先ず、表2に示す中屈折率層形成用組成物を用いて中屈折率層を、次いで高屈折率層形成用組成物を用いて高屈折率層を形成した。塗布方法や形成条件は低屈折率層と同じである。その後、実施例1に準じて、低屈折率層、保護層、オーバーコート層を順に形成して反射防止板を得た。結果を表4に示した。なお、中屈折率層形成用組成物に用いた溶媒は、IPA(h-1)とMIBK(h-4)の組成比が40対60(質量比)の溶媒であり、高屈折率層形成用組成物に用いた溶媒は、エタノール(h-5)100質量%からなる溶媒である。
【0045】
比較例1~6
表3に示す、保護層形成用組成物、低屈折率層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして反射防止板を作製し、同様に測定を行った。結果を表4に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
実施例1と比較例1或いは比較例2との比較により保護層中の球状シリカ微粒子の量が不足しても或いは過剰にあっても、高度の耐摩耗性は発現しない。また、比較例3より、保護層の層厚が10nm未満の場合は、弱い摩耗試験であるカナキン耐摩耗性も低く耐摩耗性が極めて悪い。比較例4より、低屈折率層中の中空シリカ微粒子の配合量が過剰の場合は、弱い摩耗試験であるカナキン耐摩耗性も低く耐摩耗性が極めて悪い。比較例5より、低屈折率層中の中空シリカ微粒子の配合量が不足する場合は、反射防止能が発現しないだけでなく耐摩耗性も発現しない。比較例6より、保護層中の球状シリカ微粒子の平均粒子径が10nmを超える場合は、オーバーコート層の塗膜性が落ちるため、耐摩耗性、防汚性が発現しなくなる。
図1
図2