IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クリシア リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図1
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図2
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図3
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図4
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図5
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図6
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図7
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図8
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図9
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図10
  • 特許-スペルミジン産生のための微生物細胞 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】スペルミジン産生のための微生物細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20230425BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230425BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230425BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20230425BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230425BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20230425BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20230425BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20230425BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
C12N1/19
C12N1/15 ZNA
C12N1/21
C12P13/00
C12N15/09 Z
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/55
C12N15/60
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020523674
(86)(22)【出願日】2018-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 SE2018050763
(87)【国際公開番号】W WO2019013696
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】1750933-2
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】520011050
【氏名又は名称】クリシア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キン、ジンフー
(72)【発明者】
【氏名】クリボルクコ、アナスタシア
(72)【発明者】
【氏名】ダビッド、フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン、イェンス
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/144247(WO,A1)
【文献】国際公開第01/009358(WO,A1)
【文献】特表2009-501550(JP,A)
【文献】Pirkov I et al,FEBS Journal,2008年,Vol 275 No 16,4111-4120
【文献】Umeyama T et al,ACS Synthetic Biology,2013年,Vol 2 No 8,425-430
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12P 13/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペルミジンを産生することが可能な微生物細胞であって、
前記微生物細胞が、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.50)およびスペルミジン合成酵素(EC 2.5.1.16)の過剰発現のために遺伝子修飾され;
前記微生物細胞が、メチルチオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)(EC 2.4.2.28)、および分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼ(BAT)(EC 2.6.1.5、EC 2.6.1.57、EC 2.6.1.42)からなる群から選択されるメチオニンサルベージ経路中の少なくとも1つの酵素の過剰発現により、S-アデノシルメチオニン(SAM)生合成の促進のために遺伝子修飾され、
前記微生物細胞が、オルニチンデカルボキシラーゼ抗酵素(OAZ)の活性の減弱、またはOAZ1をコードする遺伝子の欠失もしくは破壊のために遺伝子修飾され、並びに
前記微生物細胞が、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)(EC 4.1.1.17)の過剰発現のために遺伝子修飾される、
上記微生物細胞。
【請求項2】
前記微生物細胞が、さらにN-アセチルグルタミン酸合成酵素(NAGS)(EC 2.3.1.1)、アセチルグルタミン酸キナーゼ(EC 2.7.2.8)、N-アセチル-γ-グルタミルリン酸レダクターゼ(EC 1.2.1.38)、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.11)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(EC 3.5.1.16)、およびオルニチンアセチルトランスフェラーゼ(EC 2.3.1.35)からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現のために遺伝子修飾される、請求項1に記載の微生物細胞。
【請求項3】
前記微生物細胞が、L-オルニチントランスアミナーゼ(EC 2.6.1.13)、および/もしくはオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(OTC)(EC 2.1.3.3)の活性の減弱、またはL-オルニチントランスアミナーゼをコードする遺伝子、およびOTCをコードする遺伝子からなる群から選択される、少なくとも1つの遺伝子の欠失もしくは破壊のために遺伝子修飾される、請求項1又は2に記載の微生物。
【請求項4】
前記微生物細胞が、S-アデノシルメチオニン合成酵素(MAT)(EC 2.5.1.6)の過剰発現によるS-アデノシルメチオニン(SAM)生合成の促進のために遺伝子修飾される、請求項1~のいずれか一項に記載の微生物細胞。
【請求項5】
前記微生物細胞が、メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)(EC 1.5.1.20)の過剰発現によるS-アデノシルメチオニン(SAM)生合成の促進のために遺伝子修飾される、請求項1~のいずれか一項に記載の微生物細胞。
【請求項6】
前記微生物細胞が、ホスホリボシル二リン酸(PRPP)5-アミドトランスフェラーゼ(EC2.4.2.14)の過剰発現によるS-アデノシルメチオニン(SAM)生合成の促進のために遺伝子修飾される、請求項1~のいずれか一項に記載の微生物細胞。
【請求項7】
前記微生物細胞が、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドのメチオニンへの変換の促進のために遺伝子修飾される、請求項1~のいずれか一項に記載の微生物細胞。
【請求項8】
前記微生物細胞が、ホモセリンデヒドロゲナーゼ[EC 1.1.1.3];ホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.31];O-アセチルホモセリン(チオール)-リアーゼ[EC 2.5.1.49](O-アセチルホモセリンアミノカルボキシプロピルトランスフェラーゼとも称される);および5-メチルテトラヒドロプテロイルトリグルタミン酸-ホモシステインS-メチルトランスフェラーゼ(METE)[EC 2.1.1.14]からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現による、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドのメチオニンへの変換の促進のために遺伝子修飾される、請求項に記載の微生物細胞。
【請求項9】
前記微生物細胞が、ピルビン酸塩のL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへの変換の促進のために遺伝子修飾される、請求項1~のいずれか一項に記載の微生物細胞。
【請求項10】
前記微生物細胞が、ピルビン酸カルボキシラーゼ(EC 6.4.1.1)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(EC 2.6.1.1)、アスパラギン酸キナーゼ(AK)(EC 2.7.2.4)、およびアスパラギン酸βセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(EC 1.2.1.11)からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現による、ピルビン酸塩のL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへの変換の促進のために遺伝子修飾される、請求項に記載の微生物細胞。
【請求項11】
前記微生物細胞が、RNAポリメラーゼIIメディエーター複合体のサブユニットであるSaccharomyces cerevisiae GAL11(配列番号:31)の過剰発現のために遺伝子修飾される、請求項1~10のいずれか一項に記載の微生物細胞。
【請求項12】
前記微生物細胞が、スペルミン合成酵素(EC 2.5.1.22)の過剰発現によるスペルミン生合成の促進のために遺伝子修飾される、請求項1~11のいずれか一項に記載の微生物細胞。
【請求項13】
前記微生物細胞が、Saccharomyces cerevisiae PDR1(配列番号:30)および/またはPDR2(配列番号:129)の過剰発現のために遺伝子修飾される、請求項1~12のいずれか一項に記載の微生物細胞。
【請求項14】
微生物細胞からのスペルミジンの産生に好適な培養培地中および培養条件において、請求項1~13のいずれか一項に記載の微生物細胞を培養すること、ならびに
前記培養培地および/または前記微生物細胞からスペルミジンを収集すること、
を含む、スペルミジンを産生する方法。
【請求項15】
食品添加物としての、請求項1~13のいずれか一項に記載の微生物細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体として遺伝子操作微生物の開発に関する。より具体的には、本発明は、経済的な様式で長寿促進化合物スペルミジンを産生することができる微生物細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
スペルミジンは、微生物、植物および動物において普遍的に見出される、低分子量の脂肪族窒素化合物である。細胞内で、それはL-オルニチン(L-アルギニン生合成における中間体)に由来する。近年、この化合物は、微生物から哺乳動物の範囲の多様な生物体において寿命を増進することを示した。加えて、スペルミジン取込みが多様な加齢関連病態(癌、多発性硬化症、骨粗鬆症、心血管性疾患、記憶障害、皮膚加齢、および脱毛を包含する)に対して緩和または保護することも示された。したがって、この化合物の経済的で確実で持続可能な供給を得ることについての興味が増している。
【0003】
複数の発明は、スペルミジンの化学的合成を記載している。しかしながら、これらの方法は、高価な基質の問題、鏡像異性的純度の低さ、または環境に優しくないことのいずれかに悩まされる。
【0004】
スペルミジンは、生物源(コムギ胚芽等)にも由来し得る。しかしながら、最も多くスペルミジンを生ずる天然源でさえおよそ200μg/gのレベルでしかスペルミジンを産生せず、純粋産物を得ることを非常に高価にする。
【0005】
微生物源からのスペルミジンの産生はこれらの問題を克服することができた。しかしながら、微生物性源は天然では低レベルのスペルミジンのみを産生し、したがって、追加の操作が経済的に実現可能な産生レベルを得るために要求される。今日まで、ほんの少数の研究しか、スペルミジンを過剰産生する微生物細胞の操作を記載していない。
【0006】
Qin et al[1]は、スペルミジン産生遺伝子を過剰発現させてスペルミジンを過剰産生させる(35mg/Lのスペルミジンをもたらす)ことと組み合わせた、酵母細胞におけるオルニチン代謝の操作を記載した。
【0007】
Kim et al[2]およびKim et al[3]は、細胞内スペルミジンの産生促進のために操作された酵母細胞を報告した。これらの細胞において、OAZ1(スペルミジン生合成経路のフィードバック阻害に関与するタンパク質であるオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)抗酵素をコードする)およびポリアミン輸送タンパク質をコードするTPO1が破壊されて、ODCに対するフィードバック阻害の緩和およびスペルミジン分泌の防止のそれぞれを介して細胞内スペルミジン値を増加させた。これは、スペルミジン合成遺伝子と組み合わせて、グラム乾燥細胞重量(DCW)あたり1.1mgのスペルミジンの含有量で、細胞スペルミジン含有量の増加を導いた。
【0008】
Kim et al[4]は、OAZ1の破壊、輸送担体TPO1の発現、および発酵の至適化と組み合わせて、酵母においてスペルミジン合成遺伝子を過剰発現させ、バッチで63.6mg/L、およびフェドバッチで最大224mg/L(2.2mg/g糖)のスペルミジンがもたらされることを報告した。
【0009】
しかしながら、微生物細胞中でのスペルミジン産生について、当分野での改善のための余地が依然として存在する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の主要な目的はスペルミジン産生のために改善された微生物細胞を提供することである。かかる細胞は、スペルミジンの発酵ベースの産生のために使用され得る。本明細書において開示される微生物細胞および方法は、スペルミジン産生に関与する補因子または補基質(特にS-アデノシルメチオニン(SAM))の合成および再生に関連する経路の修飾と、スペルミジン経路遺伝子の過剰発現を組み合わせる。SAMは後続してS-アデノシルメチオニンアミン(dSAM)へ変換され、スペルミジン合成において使用され得る。
【0011】
実施形態の態様は、スペルミジンを産生することが可能な微生物細胞に関する。微生物細胞は、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼおよび/またはスペルミジン合成酵素の過剰発現のために遺伝子修飾される。微生物細胞は、SAM生合成の促進のためにも遺伝子修飾される。
【0012】
実施形態の別の態様はスペルミジンを産生する方法に関する。方法は、培養培地中で、および微生物細胞からのスペルミジンの産生に好適な培養条件において、実施形態に従う微生物細胞を培養することを含む。方法は、培養培地および/または微生物細胞からスペルミジンを収集することも含む。
【0013】
実施形態のさらなる態様は、食品添加物としての実施形態に従う微生物細胞の使用に関する。
【0014】
微生物細胞中でスペルミジン産生を増加させる以前の取り組みは、SAMデカルボキシラーゼの過剰発現と、プトレシンをスペルミジンへ変換する遺伝子の過剰発現を組み合わせていた。dSAMのレベルの増加はスペルミジン産生のために有益であることが示されたが、研究は、SAMそれ自体がスペルミジン産生についての制限因子であることを報告していない。本発明者は、SAMそれ自体がスペルミジン産生について実際は限定することを意外にも見出した。dSAM(それは主にスペルミジンおよびスペルミンの産生に関与する)とは異なり、SAMが細胞中でよくみられる補基質であるので、これは意外なことであった。この補基質の前駆物質プールを増加させること、および/またはSAMのリサイクルを増加させることによって、スペルミジン産生を有意に増加させることができた。以前に報告されたストラテジーとこのストラテジーを組み合わせることによって、本発明者は、>1g/Lおよび>30mg/g DCWのスペルミジンの記録を生ずることができ、これは、以前のプロセスを上回る有意な改善を表わした。
【0015】
実施形態は、さらなる目的およびその利点と共に、添付の図面と一緒に以下の記載を参照することによって最も良好に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】真核生物微生物細胞(Saccharomyces cerevisiae等)中でのグルコースからスペルミジンの産生を導く生来の経路の概説。区画化無しににもかかわらず、類似する反応が原核生物の微生物においても起こる。オルニチン経路を経由してスペルミジン産生を増加させるのに標的とされ得る重要な反応について、EC番号を示す。EC番号の隣の上向き灰色矢印は遺伝子修飾を経由して増加する反応を表わす一方で、下向き矢印は減少する反応を表わす。
図2】SAM経路を経由してスペルミジン産生を増加させる、本発明において標的とされる反応の概説。重要な反応についてEC番号を示す。EC番号の隣の上向き灰色矢印は遺伝子修飾を経由して増加する反応を表わす一方で、下向き矢印は減少する反応を表わす。略語:SAM:S-アデノシルメチオニン、dSAM:S-アデノシルメチオニンアミン、MTA:5’-メチルチオアデノシン、MRP:S-メチル-5-チオ-D-リボース1-リン酸、MOB:4-メチルチオ-2-オキソブタン酸、THF:メチレンテトラヒドロ葉酸、H2S:硫化水素。
図3】異種経路遺伝子の過剰発現による微生物細胞中でのスペルミジンの産生。この例において、スペルミジンはプトレシンおよびL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドの縮合から産生される。異種酵素のカルボキシ(ノル)スペルミジンデヒドロゲナーゼ(CASDH/CANSDH)[EC 1.5.1.43]およびカルボキシ(ノル)スペルミジンデカルボキシラーゼ(CASDC/CANSDC)[EC 4.1.1.96]を、酵母細胞中で過剰に発現させる。酵素を、Campylobacter jejuni(プラスミドYP1)またはVibrio cholera(プラスミドYP2)のいずれかから採取する。酵母中でのこれらの酵素の過剰発現はスペルミジン産生の増加をもたらす。
図4】スペルミジン合成遺伝子の過剰発現とL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒド形成へ導く経路のアップレギュレーションを組み合わせることによる、微生物細胞中でのスペルミジンの産生。L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドに向けたフラックスの増加を、異種のアスパラギン酸キナーゼ(Cglycm)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(Cgasd)、およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(CgaspB)の過剰発現によって達成した。加えて、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(HOM6)をコードする内在性遺伝子の前へ弱いKex2pプロモーターを挿入することによって、競合するホモセリンデヒドロゲナーゼ反応に向けたフラックスを減少させた。すべての修飾を酵母S.cerevisiaeにおいて遂行した。図は、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドに向けたフラックスを増加させて、競合反応へのフラックスを減少させることが、スペルミジン生合成遺伝子の過剰発現単独に比較して、スペルミジンの産生の増加をもたらすことを示す。
図5】スペルミジン合成遺伝子(S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.50)およびスペルミジン合成酵素(EC 2.5.1.16)が挙げられる)の過剰発現に加えて、プトレシン生合成経路(「SPDの増加」)、およびメチオニンサルベージ経路のアップレギュレーションを組み合わせることによる、微生物細胞中でのスペルミジンの産生。S.cerevisiae中で、内在性MEU1遺伝子の過剰発現を介してメチルチオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)[EC 2.4.2.28]の活性を増加させること、または内在性BAT2遺伝子の過剰発現を介して分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼ(BAT)[EC 2.6.1.42])の活性を増加させることのいずれかは、メチオニンサルベージ経路を介するフラックスの増加およびスペルミジン産生の増加を可能にした。
図6】フェドバッチ発酵経由の微生物細胞中でのスペルミジンの産生。最も良好に産生する株(SPDC10)をグルコース限定フェドバッチ条件下で増殖させ、最大1.4g/Lのスペルミジンの産生がもたらされた。
図7】例1~4におけるプラスミド発現のために使用したコンストラクトのマップ。
図8】スペルミジン合成遺伝子(S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.50)およびスペルミジン合成酵素(EC 2.5.1.16)が挙げられる)の過剰発現に加えて、プトレシン生合成経路(「SPDの増加」)、およびメチオニンアデノシルトランスフェラーゼ(MAT)[EC 2.5.1.6]の過剰発現を組み合わせることによる、微生物細胞中でのスペルミジンの産生。S.cerevisiae中で、Streptomyces spectabilis(SsMAT)からの変異MATまたはLeishmania infantum JPCM5(SiMAT)からのMATのいずれかの過剰発現を介してMATの活性を増加させることは、MATを過剰発現しない株に比較して、スペルミジン産生の増加をもたらした。
図9】スペルミジン合成遺伝子(S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.50)およびスペルミジン合成酵素(EC 2.5.1.16)が挙げられる)の過剰発現に加えて、プトレシン生合成経路(「SPDの増加」)、およびメチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)[EC 1.5.1.20]の過剰発現を組み合わせることによる、微生物細胞中でのスペルミジンの産生。S.cerevisiae中で、酵母Met13p N末端触媒ドメインおよびArabidopsis thaliana MTHFR(AtMTHFR-1)C末端調節ドメイン(ScAtMTHFR)から構成されたキメラMTHFRの過剰発現を介してMTHFRの活性を増加させることは、MTHFRを過剰発現しない株に比較して、スペルミジン産生の増加をもたらした。
図10】スペルミジン合成遺伝子(S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.50)およびスペルミジン合成酵素(EC 2.5.1.16)が挙げられる)の過剰発現に加えて、プトレシン生合成経路(「SPDの増加」)、および多剤応答に関与する転写因子(S.cerevisiae PDR1およびPDR2)の過剰発現を組み合わせることによる、微生物細胞中でのスペルミジンの産生。S.cerevisiae中でのPDR1またはPDR2の過剰発現は、任意のPDRを過剰発現しない株に比較して、スペルミジン産生の増加をもたらした。
図11】スペルミジン合成遺伝子(S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.50)およびスペルミジン合成酵素(EC 2.5.1.16)が挙げられる)の過剰発現に加えて、プトレシン生合成経路(「SPDの増加」)、およびRNAポリメラーゼIIメディエーター複合体のサブユニット(特にS.cerevisiae GAL11)の過剰発現を組み合わせることによる、微生物細胞中でのスペルミジンの産生。S.cerevisiae中でのTEF1またはCYC1プロモーターのいずれかの制御下でのGAL11の過剰発現は、GAL11を過剰発現しない株に比較して、スペルミジン産生の増加をもたらした。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、本発明の実施形態が示される添付の図面および実施例を参照してここで以下に記載されるだろう。この記載は、本発明が実装され得るすべての異なる手法の羅列、または本発明へ追加され得るすべての特色を詳述することを意図しない。例えば、一実施形態に関して示された特色は他の実施形態へと取り込まれ、特定の実施形態に関して示された特色はその実施形態から削除され得る。したがって、本発明は、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書において説明される任意の特色または特色の組み合わせを除外または省略できることを企図する。加えて、本明細書において示唆される様々な実施形態への多数の変形および追加は、本開示に照らして当業者へ明らかになり、それは本発明から逸脱しない。したがって、以下の記載は、本発明のいくつかの特定の実施形態を例証することを意図し、すべての順列、組み合わせおよびその変形を余す所なく規定することを意図しない。
【0018】
本明細書において特別に定義されない限り、本明細書において使用される科学用語および専門用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するだろう。
【0019】
一般的に、本明細書において記載される、生化学、酵素学、分子生物学および細胞生物学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質および核酸化学およびハイブリダイゼーションの技法と関連して使用される呼称は、周知であり、当技術分野において通常使用されるものである。
【0020】
本明細書において言及される従来の方法および技法は、例えばMolecular Cloning,a laboratory manual[第2版]Sambrook et al.Cold Spring Harbor Laboratory、1989年中の、例えばそのセクションの1.21「Extraction And Purification Of Plasmid DNA」、1.53「Strategies For Cloning In Plasmid Vectors」、1.85「Identification Of Bacterial Colonies That Contain Recombinant Plasmids」、6「Gel Electrophoresis Of DNA」、14「In vitro Amplification Of DNA By The Polymerase Chain Reaction」、および17「Expression Of Cloned Genes In Escherichia coli」中でより詳細に説明される。
【0021】
本明細書の全体にわたって参照される酵素委員会(EC)番号(本明細書において「クラス」とも呼ばれる)は、例えばAcademic Press(ISBN 0-12-227164-5)によってthe International Union of Biochemistry and Molecular Biologyのために出版された、「Enzyme nomenclature 1992:recommendations of the Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology on the nomenclature and classification of enzymes」、Webb,E.C.(1992)、San Diego:として利用可能な資料「Enzyme Nomenclature」(1992年、サプリメント6~17を含む)中の、the Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology(NC-IUBMB)に従う。これは、各々の酵素クラスによって触媒される化学的反応に基づく番号順の分類スキームである。
【0022】
本明細書において本発明の記載で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載する目的のためだけであり、本発明を限定することは意図されない。
【0023】
本明細書において引用されるすべての出版物、特許出願、特許および他の参照は、参照が示される文章および/またはパラグラフに関連する教示のために、それらの全体を参照することによって援用される。
【0024】
文脈が特別に指示しない限り、本明細書において記載される本発明の様々な特色は任意の組み合わせで使用され得ることが特に意図される。さらに、本発明は、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書において説明される任意の特色または特色の組み合わせを除外または省略できることも企図する。例証のために、組成物が構成要素A、BおよびCからなることを明細書が述べるならば、A、BもしくはCのうちの任意のものまたはその組み合わせは、単独または任意の組み合わせで省略および棄権できることが特に意図される。
【0025】
本発明の記載および添付された請求項中で使用される時、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が特別に明らかに指摘しない限り、複数形を同様に包含することが意図される。
【0026】
さらに本明細書において使用される時、「および/または」は、付随するリストされた項目の1つまたは複数のうちの任意のおよびすべての組み合わせに加えて、代替(「または」)で解釈された場合の組み合わせの欠如を参照および網羅する。
【0027】
本明細書の記載および請求項の全体にわたって、「含む(comprise)」および「含有する(contain)」という単語ならびにその単語の変形(例えば「含むこと(comprising)」および「含む(comprises)」)は、「を包含するがこれらに限定されない(including but not limited to)」を意味し、他の部分、添加物、構成要素、整数またはステップを除外しない。本明細書の記載および請求項の全体にわたって、単数は、文脈が特別に要求しない限り複数を網羅する。特に、不定冠詞が使用される場合に、本明細書は、文脈が特別に要求しない限り、単数に加えて複数も企図するとして理解される。
【0028】
本明細書において使用される時、~から本質的に「なること」(“consisting” essentially of)という移行句は、請求項の範囲が、請求項中で列挙された規定の材料またはステップおよび請求された発明の基礎的および新規の特徴(複数可)に実質的に影響しないものを網羅するように解釈されることを意味する。したがって、~から本質的に「なること」という用語は、本発明の請求項中で使用した場合に、「含むこと」と同等であると解釈されることは意図されない。
【0029】
本発明の理解を容易にするために、多くの用語を以下に定義する。
【0030】
本明細書において使用される時、「ポリアミン」という用語は、2つ以上の第1級アミノ基を有する有機化合物を指す。ポリアミンについての例としては、プトレシン、カダバリン(cadavarine)、スペルミジンおよびスペルミンが挙げられる。
【0031】
さらに本明細書において使用される時、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、「核酸分子」、「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」という用語は、RNAまたはDNA(cDNA、DNAの断片または部分、ゲノムDNA、合成DNA、プラスミドDNA、mRNA、およびアンチセンスRNAを包含する)を指し、そのうちの任意のものは、一本鎖もしくは二本鎖、直線状もしくは分岐状、またはそのハイブリッドであり得る。本明細書において提供された核酸分子および/またはヌクレオチド配列は、5’から3’方向で左側から右側で本明細書において提示され、米国配列ルール(37CFR§§1.821~1.825)およびWorld Intellectual Property Organization(WIPO)Standard ST.25中で説明されるように、ヌクレオチド特性を表わすためのスタンダードコードを使用して表わされる。dsRNAが合成的に産生される場合に、稀な塩基(イノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチンおよびその他等)も、アンチセンス、dsRNAおよびリボザイム対合のために使用され得る。例えば、ウリジンおよびシチジンのC-5プロピンアナログを含有するポリヌクレオチドは、高い親和性によりRNAへ結合することおよび遺伝子発現の強力なアンチセンス阻害剤であることが示されている。他の修飾(RNAのホスホジエステル骨格またはリボース糖基中の2’-ヒドロキシへの修飾等)も行うことができる。
【0032】
本明細書において使用される時、「組換え体」という用語は、使用される場合に、特定の核酸(DNAまたはRNA)がクローニングステップ、制限ステップおよび/またはライゲーションステップの様々な組み合わせの産物であり、天然システム中で見出される内在性核酸とは区別可能な、構造的なコーディング配列または非コーディング配列を有するコンストラクトをもたらすことを意味する。
【0033】
本明細書において使用される時、「遺伝子」という用語は、mRNA、アンチセンスRNA、miRNA、抗マイクロRNAアンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチド(AMO)および同種のものを産生するのに使用することが可能な核酸分子を指す。遺伝子は、機能的タンパク質または遺伝子産物を産生するのに使用することが可能であってもなくてもよい。遺伝子は、コーディング領域および非コーディング領域(例えばイントロン、調節エレメント、プロモーター、エンハンサー、終結配列、ならびに/または5’非翻訳領域および3’非翻訳領域)の両方を含むことができる。遺伝子は「単離」され得、それによって、その天然状態で核酸に付随して通常は見出される構成要素が実質的にまたは本質的にない核酸が意味される。かかる構成要素としては、他の細胞材料、組換え体産生からの培養培地、および/または核酸の化学合成において使用される様々な化学物質が挙げられる。
【0034】
本明細書において定義される「破壊された遺伝子」は、部分的または完全に非機能的な遺伝子および遺伝子産物をもたらす、遺伝子への任意の突然変異または修飾を包含する。かかる突然変異または修飾は、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、欠失、置換、挿入、標的化配列の添加、および同種のものを包含するがこれらに限定されない。さらに、遺伝子の破壊は、遺伝子の転写を制御する制御エレメントの突然変異または修飾(プロモーター、ターミネーターおよび/または促進エレメントにおける突然変異または修飾等)によって、同様にまたはあるいは、達成され得る。かかる事例において、生来の修飾されていない制御エレメントに比較して、かかる突然変異または修飾は、部分的または完全に遺伝子の転写の喪失(すなわちより低い転写または低減した転写)をもたらす。その結果として、低減した(もしあれば)量の遺伝子産物が、転写および翻訳に続いて利用可能であろう。さらに、遺伝子の破壊は遺伝子からの局在化シグナルの追加または除去も伴うことができ、その生来の細胞内区画中での遺伝子産物の存在の減少をもたらす。
【0035】
遺伝子破壊の目的は、遺伝子産物の利用可能な量を低減すること(遺伝子産物の任意の産生を完全に阻止することを包含する)、または生来または野生型の遺伝子産物に比較して、酵素活性を欠損するかもしくはより低い酵素活性を有する遺伝子産物を発現することである。
【0036】
本明細書において使用される時、「欠失」または「ノックアウト」という用語は、無効であるかまたはノックアウトされる遺伝子を指す。
【0037】
酵素に関する場合に「減弱された活性」という用語は、対照または野生型の状態に比較して、その生来の区画中での酵素の活性の減少を指す。酵素の減弱された活性をもたらす操作は、ミスセンス突然変異、ナンセンス突然変異、欠失、置換、挿入、標的化配列の添加、標的化配列の除去、または同種のものを包含するがこれらに限定されない。さらに、酵素活性の減弱は、酵素をコードする遺伝子の転写を制御する制御エレメントの突然変異または修飾(プロモーター、ターミネーターおよび/または促進エレメントにおける突然変異または修飾等)によって、同様にまたはあるいは、達成され得る。減弱された酵素活性をもたらす修飾を含有する細胞は、かかる修飾を含有していない細胞に比較して、酵素のより低い活性を有するだろう。酵素の減弱された活性は、機能を持たない遺伝子産物(例えば野生型ポリペプチドの活性に比較して、活性を本質的に有していない(例えば約10%または場合によっては5%未満の)ポリペプチド)のコードによって達成され得る。
【0038】
遺伝子のコドン至適化バージョンは、細胞の中へ導入される外来性遺伝子を指し、そこで遺伝子のコドンは特定の細胞に関して至適化されている。一般的に、すべてのtRNAは、種を超えて同等にまたは同じレベルで発現されるとは限らない。遺伝子配列のコドン至適化は、その結果として最も優勢なtRNAに一致させるためにコドンを変化させること(すなわち所与の細胞中で比較的より優勢なtRNAによって認識される同義コドンにより、優勢でないtRNAによって認識されるコドンを変化させること)を包含する。この手法で、コドン至適化遺伝子からのmRNAがより効率的に翻訳される。コドンおよび同義コドンは好ましくは同じアミノ酸をコードする。
【0039】
本明細書において使用される時、「対立遺伝子」という用語は、所与の遺伝子のバリアント形態を指す。これは、遺伝子によってコードされたアミノ酸のうちの1つまたは複数が除去されるかまたは異なるアミノ酸によって置き換えられる、遺伝子の突然変異型を包含し得る。
【0040】
本明細書において使用される時、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指示するように互換的に使用される。「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は修飾も包含し、それらには、脂質付加、糖鎖付加、糖鎖付加、硫酸化、ヒドロキシル化、L-グルタミン酸残基のγ-カルボキシル化、およびADP-リボシル化が含まれるがこれらに限定されない。
【0041】
本明細書において使用される時、「酵素」という用語は、細胞中で化学的反応または生化学的反応を触媒するタンパク質として定義される。通常、本発明によれば、酵素をコードするヌクレオチド配列は、スペルミジンを産生する能力を細胞へ付与するために細胞中の対応する遺伝子の十分な発現を引き起こすヌクレオチド配列(プロモーター)へ、作動可能に連結される。
【0042】
本明細書において使用される時、「オープンリーディングフレーム(ORF)」という用語は、ポリペプチド、ペプチドまたはタンパク質をコードするRNAまたはDNAの領域を指す。
【0043】
本明細書において使用される時、「ゲノム」という用語は、宿主細胞中のプラスミドおよび染色体の両方を網羅する。例えば、宿主細胞の中へ導入された本開示のコード核酸は、それらが染色体へ組み込まれるかまたはプラスミドに局在させられるかにかかわらず、ゲノムの部分であり得る。
【0044】
本明細書において使用される時、「プロモーター」という用語は、1つまたは複数の遺伝子の転写を制御する機能を有し、遺伝子の転写開始部位の転写の方向に関して上流に所在する、核酸配列を指す。この文脈における好適なプロモーターは、構成的および誘導可能な天然のプロモーターに加えて、当業者に周知の操作されたプロモーターを包含する。
【0045】
真核生物宿主細胞(酵母細胞等)中での使用に好適なプロモーターは、PDC、GPD1、TEF1、PGK1およびTDHのプロモーターであり得る。他の好適なプロモーターとしては、GAL1、GAL2、GAL10、GAL7、CUP1、HIS3、CYC1、ADH1、PGL、GAPDH、ADC1、URA3、TRP1、LEU2、TPI、AOX1およびENO1のプロモーターが挙げられる。
【0046】
原核生物宿主細胞中での使用に好適なプロモーターとしては、バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼプロモーター、trpプロモーター、lacオペロンプロモーター、trcプロモーター、λプロモーターおよび同種のものが挙げられる。原核生物細胞に中での使用に好適な強いプロモーターの非限定例としては、lacUV5プロモーター、T5、T7、Trc、Tacおよび同種のものが挙げられる。枯草菌が宿主細胞として選択される場合に、例示的なプロモーターとしては、Prプロモーター、Spolプロモーター、タックプロモーターおよびLadプロモーターが挙げられる。
【0047】
本明細書において使用される時、「ターミネーター」という用語は、特別に指摘されなければ、「転写終結シグナル」を指す。ターミネーターは、ポリメラーゼの転写を妨害または停止する配列である。本明細書において使用される時、本開示に従う「組換え真核生物細胞」は、内在性核酸配列の追加コピー(複数可)を含有するか、または、真核生物細胞中で天然に存在しないポリペプチドもしくはヌクレオチドの配列により形質転換されるかもしくは遺伝子修飾される、細胞として定義される。野生型真核生物細胞は、本明細書において使用される時、組換え真核生物細胞の親細胞として定義される。
【0048】
本明細書において使用される時、本開示に従う「組換え原核生物細胞」は、内在性核酸配列の追加コピー(複数可)を含有するか、または、原核生物細胞中で天然に存在しないポリペプチドもしくはヌクレオチド配列により形質転換されるかもしくは遺伝子修飾される、細胞として定義される。野生型原核生物細胞は、本明細書において使用される時、組換え原核生物細胞の親細胞として定義される。
【0049】
本明細書において使用される時、「増加する(increase)」、「増加する(increases)」、「増加された(increased)」、「増加すること(increasing)」、「促進する(enhance)」、「促進された(enhanced)」、「促進すること(enhancing)」および「促進(enhancement)」という用語(およびその文法的変化形)は、対照に比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、150%、200%、300%、400%。500%もしくはそれ以上、またはその中の任意の範囲の上昇を指示する。
【0050】
本明細書において使用される時、「低減する(reduce)」、「低減する(reduces)」、「低減された(reduced)」、「低減(reduction)」、「減退する(diminish)」、「抑制する(suppress)」および「減少する(decrease)」という用語、ならびに類似の用語は、対照に比較して、少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、150%、200%、300%、400%。500%もしくはそれ以上、またはその中の任意の範囲の減少を意味する。
【0051】
遺伝子の発現の低減は、本明細書において使用される時、遺伝子の転写を低減する、遺伝子から転写されたmRNAの翻訳を低減する、および/またはmRNAから翻訳されたタンパク質の翻訳後プロセシングを低減する、遺伝子修飾を包含する。かかる遺伝子修飾としては、遺伝子の制御配列(プロモーターおよびエンハンサー等)へ適用された、挿入(複数可)欠失(複数可)、置き換え(複数可)または突然変異(複数可)が挙げられる。例えば、遺伝子のプロモーターをより少ない活性のまたは誘導可能なプロモーターによって置き換えて、それによって遺伝子の低減された転写をもたらすことができる。同様に、プロモーターのノックアウトは遺伝子の発現の低減(典型的にはゼロ)をもたらすだろう。
【0052】
本明細書において使用される時、本発明のヌクレオチド配列の「部分」または「断片」という用語は、参照核酸またはヌクレオチド配列に比べて低減された長さであり、参照核酸またはヌクレオチド配列に同一またはほとんど同一(例えば80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、98%、99%同一)のコンティグヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む、それらからから本質的になる、および/またはそれらからなる、ヌクレオチド配列を意味すると理解されるだろう。本発明に従うかかる核酸断片または部分は、適切な場合、それが構成物であるより大きなポリヌクレオチド中に含まれ得る。
【0053】
相同性を有する異なる核酸またはタンパク質は、本明細書において「ホモログ」と称される。ホモログという用語は、同じおよび他の種からのホモロガスな配列、ならびに同じおよび他の種からのオルソロガスな配列を包含する。「相同性」は、位置的な同一性のパーセントに関して2つ以上の核酸および/またはアミノ酸配列の間の類似性のレベル(すなわち配列の類似性または同一性)を指す。相同性は、異なる核酸またはタンパク質の中での類似する機能的特性の概念も指す。したがって、本発明の組成物および方法は、本発明のヌクレオチド配列およびポリペプチド配列へのホモログをさらに含む。「オルソロガス」は、本明細書において使用される時、種形成の間に共通の先祖遺伝子から生じた、異なる種におけるホモロガスなヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列を指す。本発明のヌクレオチド配列のホモログは、実質的な配列同一性(例えば前記ヌクレオチド配列へ少なくとも約70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%および/または100%)を有する。
【0054】
「過剰発現する(overexpress)」「過剰発現する(overexpresses)」または「過剰発現(overexpression)」という用語は、本明細書において使用される時、遺伝子のより高いレベルの活性(例えば遺伝子の転写);mRNAのタンパク質へのより高いレベルの翻訳;および/またはその生来または対照(例えば過剰発現されている特定の異種または組換えのポリペプチドにより形質転換されなかった)の状態における細胞中でよりも、より高いレベルの遺伝子産物(例えばポリペプチド)の産生を指す。過剰発現される遺伝子の典型例は、遺伝子の生来のプロモーターに比較して、別のプロモーターの転写制御下の遺伝子である。同様にまたはあるいは、遺伝子の制御エレメント(エンハンサー等)中の他の変化を使用して、特定の遺伝子を過剰発現させることができる。さらに、遺伝子から転写されるmRNAの翻訳に影響する(すなわち増加する)修飾を、あるいはまたは加えて使用して、本明細書において使用される遺伝子の過剰発現を達成することができる。これらの用語は、遺伝子のコピー数の増加ならびに/または細胞中のmRNAおよび/もしくは遺伝子産物の量の増加も指し得る。過剰発現は、対照レベルに比較して、細胞中で25%、50%、100%、200%、500%、1000%もしくは2000%高いレベル、またはその中の任意の範囲をもたらし得る。
【0055】
本明細書において使用される時、核酸(RNAまたはDNA)、タンパク質または遺伝子に関して使用される場合に、「外来性」または「異種」という用語は、それが導入される細胞、生物体、ゲノム、RNAまたはDNA配列の一部として、天然に存在しない核酸、タンパク質または遺伝子を指す(天然に存在するヌクレオチド配列の天然に存在しない複数のコピーを包含する)。かかる外来性遺伝子は、別の種もしくは株からの遺伝子、宿主細胞中で天然に存在する遺伝子の修飾、変異もしくは進化バージョン、もしくは宿主細胞中で天然に存在する遺伝子のキメラバージョン、または融合遺伝子であり得る。これらの前者の事例において、修飾、突然変異または進化は、遺伝子のヌクレオチド配列中の変化を引き起こして、それによって、宿主細胞中で天然に存在する遺伝子に比較して、別のヌクレオチド配列を備えた修飾、変異または進化した遺伝子が得られる。進化した遺伝子は、進化した遺伝子をコードし、野生型または生来の遺伝子に比較して、異なるヌクレオチド配列を備えた新しい遺伝子を引き出す遺伝子修飾(進化圧への突然変異または曝露等)によって得られる遺伝子を指す。モザイク遺伝子は1つまたは複数のコーディング配列の部分の組み合わせを介して形成されて、新しい遺伝子を産生する。これらの修飾は、融合遺伝子(それは全遺伝子配列を単一リーディングフレームへとマージし、多くの場合それらのもとの機能を多くの場合保持する)とは異なる。
【0056】
「内在性の」、「生来の」または「野生型の」核酸、ヌクレオチド配列、ポリペプチドまたはアミノ酸配列は、天然に存在するかまたは内在性の核酸、ヌクレオチド配列、ポリペプチドまたはアミノ酸配列を指す。したがって、例えば、「野生型mRNA」は、生物体中で天然に存在するかまたは内在性のmRNAである。「ホモロガスな」核酸配列は、それが導入される宿主細胞に天然に付随するヌクレオチド配列である。
【0057】
本明細書において使用される時、「修飾された」という用語は、それが生物体に関して使用される場合に、そのように修飾されていない他の点では同一の宿主生物と比較して、スペルミジンの産生を増加させるように修飾された宿主生物を指す。原理上は本開示に従うかかる「修飾」は、前記修飾を受けない他の点では同一の生物体におけるかかる産生と比較して、宿主生物におけるスペルミジンの産生を適切に変更する、任意の生理的修飾、遺伝子修飾、化学修飾または他の修飾を含み得る。大部分の実施形態において、しかしながら、修飾は遺伝子修飾を含むだろう。ある特定の実施形態において、本明細書において記載される時、修飾は宿主細胞の中へ遺伝子を導入することを含む。いくつかの実施形態において、修飾は、少なくとも1つの生理的修飾、化学修飾、遺伝子修飾または他の修飾を含み;他の実施形態において、修飾は、2つ以上の化学修飾、遺伝子修飾、生理的修飾または他の修飾を含む。2つ以上の修飾が行われるある特定の態様において、かかる修飾の使用は、生理的修飾、遺伝子修飾、化学修飾、または他の修飾の任意の組み合わせ(例えば1つまたは複数の遺伝子修飾(複数可)、化学修飾(複数可)および/または生理的修飾(複数可))を含み得る。ポリペプチドの活性をブーストする遺伝子修飾は、ポリペプチドをコードする遺伝子の1つまたは複数のコピーを導入すること(それは同じ活性を有するポリペプチドをコードする、宿主細胞中に既に存在する任意の遺伝子とは区別され得る);遺伝子の転写または翻訳を増加させるために細胞中に存在する遺伝子を変更すること(例えば1つもしくは複数のヌクレオチドを改変すること、1つもしくは複数のヌクレオチドへ追加の配列を添加すること、1つもしくは複数のヌクレオチドを置き換えること、例えば調節配列、プロモーター配列もしくは他の配列から配列を欠失させること、または調節配列、プロモーター配列もしくは他の配列をスワップさせること);および活性をブーストするために(例えば酵素活性を増加させること、フィードバック阻害を減少させること、特異的な細胞内所在位置を標的化すること、mRNAの安定性をブーストすること、タンパク質安定性をブーストことによって)、ポリペプチドをコードする遺伝子の配列(例えば非コーディングまたはコーディング)を変更すること、を包含するがこれらに限定されない。ポリペプチドの活性を低減する遺伝子修飾は、ポリペプチドをコードする遺伝子の一部またはすべてを欠失させること;ポリペプチドをコードする遺伝子を破壊する核酸配列を挿入すること;遺伝子の転写もしくは翻訳または遺伝子によってコードされるmRNAもしくはポリペプチドの安定性を低減するために細胞中に存在する遺伝子を変化させること(例えば1つもしくは複数のヌクレオチドへ追加の配列を添加すること、1つもしくは複数のヌクレオチドを改変すること、1つもしくは複数のヌクレオチドから配列を欠失させること、1つもしくは複数のヌクレオチドを置き換えること、またはプロモーター配列、調節配列もしくは他の配列をスワップすること(例えば1つまたは複数のヌクレオチドを置き換えること)によって)、を包含するがこれらに限定されない。
【0058】
「過剰産生」という用語は、宿主細胞におけるスペルミジンの産生を参照して本明細書において使用され、宿主細胞が、非修飾宿主細胞または野生型細胞と比較して、宿主細胞の代謝経路に関与する異なるポリペプチドをコードする核酸配列の導入により、または他の修飾の結果として、より多くのスペルミジンを産生していることを指示する。
【0059】
本明細書において使用される時、「フラックス」、「代謝フラックス」または「炭素フラックス」という用語は、所与の反応または反応のセットを介する分子のターンオーバーの率を指す。代謝経路中のフラックスは、経路に関与する酵素によって調節される。フラックスの増加の状態によって特徴づけられる経路または反応は、対照に比較して、所与の基質からの産物の生成率の増加を有する。フラックスの減少の状態によって特徴づけられる経路または反応は、対照に比較して、所与の基質からの産物の生成率の減少を有する。対象となる産物に向けたフラックスは、競合反応を除去または減少させることによって、または前記産物の生成に関与する酵素の活性の増加によって、増加され得る。
【0060】
本明細書において使用される時、「プトレシン生合成経路(biosynthetic pathway)」、「プトレシン生合成経路(biosynthesis pathway)」または「プトレシン経路」という用語は、炭素源(グルコース等)からのプトレシンの合成に向けたフラックスを駆動する酵素反応に加えて、プトレシン形成を低減する競合反応および抑制反応を指す。プトレシンの合成に向けたフラックスを駆動する酵素反応は、ピルビン酸塩をアセチル-CoAへ、アセチル-CoAをα-ケトグルタル酸塩へ、α-ケトグルタル酸塩をオルニチンへ、およびオルニチンをプトレシンへ変換する反応を包含するがこれらに限定されない(図1を参照)。この経路から中間体を消耗する競合反応は、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ[EC 2.1.3.3]およびL-オルニチントランスアミナーゼ[EC 2.6.1.13]によって触媒される酵素反応を包含する。さらに、抑制反応は、オルニチンデカルボキシラーゼ抗酵素(OAZ)の産生を包含し、それは、オルニチンデカルボキシラーゼ(そうでなければオルニチンのプトレシンへの脱カルボキシル化を触媒する)のインヒビターである。プトレシン生合成の増加は、プトレシンに向けたフラックスならびに/または競合反応および抑制反応のダウンレギュレーションを駆動する酵素ステップのうちの任意のものの過剰発現によって達成することができる。
【0061】
本明細書において使用される時、「スペルミジン生合成経路(biosynthetic pathway)」、「スペルミジン生合成経路(biosynthesis pathway)」または「スペルミジン経路」という用語は、プトレシンをスペルミジンへと変換する酵素によるプトレシン生合成経路に関与する反応の組み合わせを指す。これらの反応に関与する酵素の非限定実施例は、スペルミジン合成酵素(SPDS)[EC 2.5.1.16]、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ[EC 4.1.1.50]、カルボキシ(ノル)スペルミジンデヒドロゲナーゼ(CASDH/CANSDH)[EC 1.5.1.43]、およびカルボキシ(ノル)スペルミジンデカルボキシラーゼ(CASDC/CANSDC)[EC 4.1.1.96]である。この用語は、S-アデノシルメチオニン(SAM)形成に関与する反応を網羅しない。
【0062】
本明細書において使用される時、「S-アデノシルメチオニン(SAM)の合成に関与する酵素」、「S-アデノシルメチオニン経路」または「S-アデノシルメチオニン生合成経路」という用語は、炭素源(グルコース等)からのS-アデノシルメチオニンの合成のために要求される酵素反応を指す。これは、ピルビン酸塩をオキサロ酢酸塩へ、オキサロ酢酸塩をアスパラギン酸塩へ、アスパラギン酸塩をL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへ、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドをメチオニンへ、およびメチオニンをS-アデノシルメチオニンへ変換することに関与する反応を包含するがこれらに限定されない。加えて、これは、メチオニンサルベージ経路に関与する反応、葉酸合成および5-メチルテトラヒドロ葉酸への変換に関与する反応、ならびに硫酸同化に関与する反応を包含する(図2)。この用語は、SAMのS-アデノシルメチオニンアミン(dSAM)への脱カルボキシル化に関与する反応を網羅しない。
【0063】
本明細書において使用される時、「ベクター」という用語は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、それがその発現を確実にする追加ヌクレオチドへ作動可能に連結される、直線状または環状のDNA分子として定義される。
【0064】
酵母細胞の文脈において「導入すること」は、核酸分子が細胞の内部への接近を獲得するような様式で、細胞と核酸分子を接触させることを意味する。したがって、ポリヌクレオチドおよび/または核酸分子は、単一の形質転換事象において、分離した形質転換事象において、酵母細胞に導入され得る。したがって、「形質転換」という用語は、本明細書において使用される時、異種核酸の細胞の中への導入を指す。酵母細胞の形質転換は安定的または一過性であり得る。
【0065】
ポリヌクレオチドの文脈における「一過性形質転換」は、ポリヌクレオチドが細胞の中へ導入され、細胞のゲノムの中へ組み込まれないことを意味する。
【0066】
細胞の中へ導入されたポリヌクレオチドの文脈における「安定的に導入すること」または「安定的に導入された」によって、導入されたポリヌクレオチドが細胞のゲノムの中へ安定的に取り込まれ、したがって細胞がポリヌクレオチドにより安定的に形質転換されることが意図される。「安定的な形質転換」または「安定的に形質転換された」は、本明細書において使用される時、核酸分子が細胞の中へ導入され、細胞のゲノムの中へ組み込まれることを意味する。それゆえ、組み込む核酸分子は、その子孫によって、より詳細には、複数の続く世代の子孫によって受け継がれ得る。安定的な形質転換は、本明細書において使用される時、例えばミニ染色体として染色体外に維持される核酸分子も指し得る。
【0067】
一過性形質転換は、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)またはウェスタンブロット(それらは生物体の中へ導入された1つまたは複数の核酸分子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドの存在を検出することができる)によって検出され得る。細胞の安定的な形質転換は、例えば生物体(例えば酵母)の中へ導入された核酸分子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列による、細胞のゲノムDNAのサザンブロットハイブリダイゼーションアッセイによって検出され得る。細胞の安定的な形質転換は、例えば酵母または他の生物体の中へ導入された核酸分子のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズする核酸配列による、細胞のRNAのノーザンブロットハイブリダイゼーションアッセイによって検出され得る。細胞の安定的な形質転換は、当技術分野において周知であるような、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または他の増幅反応(核酸分子の標的配列(複数可)とハイブリダイズする特異的なプライマー配列を用い、標的配列(複数可)の増幅がもたらされ、それはスタンダードな方法に従って検出され得る)によっても検出され得る。形質転換は、当技術分野において周知の直接的なシーケンシングおよび/またはハイブリダイゼーションプロトコールによっても検出され得る。
【0068】
本発明の実施形態は、本明細書において定義されるようなポリペプチドのバリアントも網羅する。本明細書において使用される時、「バリアント」は、配列内の1つまたは複数のアミノ酸は他のアミノ酸で置換されるという点で、アミノ酸配列が由来する塩基配列とは異なるポリペプチドを意味する。例えば、配列番号:1のバリアントは、配列番号:1へ少なくとも約50%同一のアミノ酸配列(例えば少なくとも約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または約100%同一)を有し得る。バリアントおよび/または断片は、バリアント配列が、本明細書において規定の非バリアントアミノ酸配列を有する酵素へ類似または同一の機能的酵素活性特徴を有するという点で機能的なバリアント/断片である(および、これは本明細書の全体にわたって使用される時「機能的バリアント」という用語の意味である)。
【0069】
提示されたアミノ酸配列のうちの任意のものの「機能的バリアント」または「機能的断片」は、したがって、非バリアント配列と同じ酵素カテゴリー内にとどまる(すなわち同じEC番号を有する)任意のアミノ酸配列である。酵素が特定のカテゴリー内に入るかどうか決定する方法は、当業者(発明の技能の使用無しに酵素カテゴリーを決定できる)に周知である。好適な方法は、例えばInternational Union of Biochemistry and Molecular Biologyから得られ得る。
【0070】
アミノ酸が幅広く類似する特性を備えた異なるアミノ酸により置き換えられる場合に、アミノ酸置換は「保存的である」と考慮され得る。非保存的置換は、アミノ酸が異なるタイプのアミノ酸により置き換えられる場合である。
【0071】
「保存的置換」によって、同じクラスの別のアミノ酸によるアミノ酸の置換が意味され、そこでクラスは以下のように定義される。
アミノ酸クラスの例
非極性:A、V、L、I、P、M、F、W
非荷電極性:G、S、T、C、Y、N、Q
酸性:D、E
塩基性:K、R、H。
【0072】
当業者に周知であるように、配列の中へ挿入されるアミノ酸の側鎖が、置換されたアミノ酸の側鎖と類似する結合および接触を形成することができるので、保存的置換によってポリペプチドの一次構造を変更することは、そのポリペプチドの活性を有意に変更しないだろう。置換がポリペプチドの立体配座の決定において重要な領域中にある場合でさえ、これはそうある。
【0073】
本発明の複数の実施形態において、本明細書の他の箇所で定義されるように、もし非保存的置換がポリペプチドの酵素活性を妨げなければ、これは可能である。酵素の置換バージョンは、かかる非置換酵素と同じ酵素クラス(上で検討されたNC-IUBMB命名法を使用して決定されるような)中にとどまるように特徴を保持しなくてはいけない。
【0074】
大まかに言って、保存的置換よりも少ない非保存的置換は、ポリペプチドの生物学的活性を変更せずに可能であり得る。任意の置換の(および実際は任意のアミノ酸の欠失または挿入の)効果の決定は、完全に当業者のルーチンの能力内にあり、当業者はバリアントポリペプチドが本発明の態様に従う酵素活性を保持するかどうかを容易に決定することができる。例えば、ポリペプチドのバリアントが本発明の範囲内にある(すなわち上で定義されるような「機能的バリアントまたは断片」である)かどうかを決定する場合に、当業者は、バリアントまたは断片が本明細書の他の箇所で言及されるNC-IUBMB命名法を参照して定義されるように基質を変換する酵素活性を保持するかどうかを決定するだろう。すべてのかかるバリアントは本発明の範囲内である。
【0075】
スタンダードの遺伝コードを使用して、ポリペプチドをコードするさらなる核酸配列は、本明細書において開示されるものに加えて、当業者によって容易に考えられ製造され得る。核酸配列はDNAまたはRNAであり得、DNA分子である場合にそれは例えばcDNAまたはゲノムDNAを含み得る。本明細書の他の箇所で記載されるように、核酸は発現ベクター内に含有され得る。
【0076】
本発明の実施形態は、したがって、本発明の実施形態によって企図されるポリペプチドをコードするバリアント核酸配列を網羅する。核酸配列に関して「バリアント」という用語は、ポリヌクレオチド配列からのまたはその配列への、1つまたは複数のヌクレオチド(複数可)の任意の置換、変形、修飾、置き換え、欠失または添加を意味し、但し、ポリヌクレオチドによってコードされた結果として生じたポリペプチド配列は、基本的な配列によってコードされたポリペプチドと少なくとも同じまたは類似する酵素特性を提示する。この用語は、対立遺伝子バリアントを包含し、本発明の実施形態のポリヌクレオチド配列へ実質的にハイブリダイズするポリヌクレオチド(「プローブ配列」)も包含する。かかるハイブリダイゼーションは、低ストリンジェンシーおよび高ストリンジェンシーの条件でまたはそれらの条件の間で起こり得る。一般論として、低ストリンジェンシー条件は、プローブ配列の計算されたかまたは実際の融解温度(Tm)の約40~48℃下の温度(例えば実験室のおおよその周囲温度~約55℃)で0.330~0.825MのNaClバッファー溶液中で洗浄ステップが行われるハイブリダイゼーションとして定義される一方で、高いストリンジェンシー条件は、プローブ配列の計算されたかまたは実際のTmの約5~10℃下の温度(例えば約65℃)で0.0165~0.0330MのNaClバッファー溶液中での洗浄を包含する。バッファー溶液は例えばSSCバッファー(0.15MのNaClおよび0.015Mのクエン酸三ナトリウム)であり得、低ストリンジェンシー洗浄は3×SSCバッファー中で行われ、高ストリンジェンシー洗浄は0.1×SSCバッファー中で行われる。核酸配列のハイブリダイゼーションに関与するステップは、例えばMolecular Cloning,a laboratory manual[第2版]Sambrook et al.Cold Spring Harbor Laboratory、1989年(例えばそのセクション11中の「Synthetic Oligonucleotide Probes」)(参照することによって本明細書に援用される)中で記載される。
【0077】
好ましくは、核酸配列バリアントは、本発明の実施形態の核酸配列と共通するヌクレオチドを約55%以上有し、より好ましくは、少なくとも60%、65%、70%、80%、85%、または場合によっては90%、95%、98%または99%以上の配列同一性を有する。
【0078】
本発明のバリアント核酸は、特定の宿主細胞における発現のためにコドンを至適化され得る。
【0079】
本明細書において使用される時、「配列同一性」は、2つのヌクレオチド配列または2つのペプチドもしくはタンパク質配列の間の配列類似性を指す。類似性を配列アライメントによって決定して、配列間の構造的および/または機能的な関係性を決定する。
【0080】
アミノ酸配列間の配列同一性は、デフォルトパラメーター設定(タンパク質アライメントのために、ギャップコストExistence:11 Extension:1)を使用して、例えばhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiを経由してNational Center for Biotechnology Information(NCBI)(Bethesda、Md.、米国)から利用可能なNeedleman-Wunsch Global Sequence Alignment Toolを使用して、配列のアライメントを比較することによって決定され得る。本明細書中で言及される配列比較およびパーセンテージ同一性はこのソフトウェアを使用して決定された。配列同一性のレベルを例えば配列番号:1へ比較する場合に、高い同一性オーバーラップの短い領域を回避し、同一性の高い全体的な査定をもたらすために、これは好ましくは配列番号:1の全長に比べて行われるべきである(すなわち全体的なアライメント法が使用される)。例えば、例えば5つのアミノ酸を有する短いポリペプチド断片は、配列番号:1の全体内の5つのアミノ酸領域への100%同一の配列を有するかもしれないが、この断片が、配列番号:1中の位置に等価な他の位置でも同一のアミノ酸を有するより長い配列の一部を形成しなければ、これは100%のアミノ酸同一性を提供しない。比較される配列中の等価な位置が同じアミノ酸によって占有される場合に、その時分子はその位置で同一である。同一性のパーセンテージとしてのアライメントのスコアリングは、比較される配列によって共有される位置での同一のアミノ酸の数の関数である。配列を比較する場合に、至適アライメントは、配列の1つまたは複数の中へギャップを導入して、配列中の可能な挿入および欠失を考慮することを要求し得る。比較されている配列中の同一の分子の同じ数について、可能な限り少ないギャップによる配列アライメント(2つの比較された配列間のより高い関係性を反映する)が、多くのギャップによるものよりも高いスコアを達成するように、配列比較法は、ギャップペナルティを用いることができる。最大パーセント同一性の計算は、ギャップペナルティを考慮して、至適アライメントを産生することを包含する。上記のように、パーセンテージ配列同一性は、デフォルトパラメーター設定を使用して、Needleman-Wunsch Global Sequence Alignment toolを使用して決定され得る。Needleman-WunschアルゴリズムはJ.Mol.Biol.(1970)vol.48:443-53中で出版された。
【0081】
実施形態の態様は、スペルミジンを産生することが可能な微生物細胞に関する。微生物細胞は、プトレシン生合成の促進のために遺伝子修飾される。微生物細胞は、S-アデノシルメチオニン(SAM)生合成の促進のためにも遺伝子修飾される。
【0082】
したがって、実施形態の態様は、スペルミジンを産生することが可能な微生物細胞に関する。微生物細胞は、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ[EC 4.1.1.50]およびスペルミジン合成酵素[EC 2.5.1.16]からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現のために遺伝子修飾される。微生物細胞は、SAM生合成の促進のためにも遺伝子修飾される。
【0083】
本実施形態は、高レベルのスペルミジンを産生する能力を有する微生物細胞に関する。一般的な実施形態において、微生物細胞は、プトレシンのスペルミジンへの変換の促進およびSAM生合成の促進のために遺伝子修飾される。様々な実施形態に従うさらなる遺伝子修飾は、本明細書において開示される時、特に選択された遺伝子のダウンレギュレーションまたは減弱を含み、そこで、この遺伝子は、スペルミジンの消費経路および/または分解経路に関与する酵素をコードする。さらなるスペルミジン産生能力は、特に選択された遺伝子のダウンレギュレーション、減弱、欠失または過剰発現によって改善され、そこで、この遺伝子は、スペルミジン合成経路、5’-メチルチオアデノシン(MTA)サイクル、L-オルニチン合成および/またはL-グルタミン酸合成の経路に関与する酵素および/またはタンパク質をコードする。さらなる実施形態において、スペルミジン過剰産生は、スペルミジン形成のための補因子として作用するプロピルアミンドナーの生合成を導く経路における修飾と上記の修飾を組み合わせることによって得られる。かかる修飾は、プロピルアミンドナーの産生の原因である酵素ステップをコードする内在性遺伝子または異種遺伝子の過剰発現ならびに競合反応および/または抑制反応のダウンレギュレーションを包含し得る。さらなるスペルミジン産生能力は、ポリアミンエクスポートタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現、ポリアミン取込みタンパク質をコードする遺伝子のダウンレギュレーション、およびポリアミン毒性と関連する様々なタンパク質の発現の修飾によって改善され、非常に有効な全体のプロセスを付与する。
【0084】
以下において、本発明の様々な実施形態はより詳細に記載されるだろう。
【0085】
一実施形態において、微生物細胞は、Saccharomyces属、Kluyveromyces属、Zygosaccharomyces属、Candida属、Hansenula属、Torulopsis属、Kloeckera属、Pichia属、Schizosaccharomyces属、Trigonopsis属、Brettanomyces属、Debaromyces属、Nadsonia属、Lipomyces属、Cryptococcus属、Aureobasidium属、Trichosporon属、Lipomyces属、Rhodotorula属、Yarrowia属、Rhodosporidium属、Phaffia属、Schwanniomyces属、Aspergillus属、およびAshbya属からなる群から選択される、真核生物細胞である。特定の実施形態において、真菌細胞は、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces boulardii、Zygosaccharomyces bailii、Kluyveromyces lactis、Rhodosporidiumtoruloides、Yarrowia lipolytica、Schizosaccharomyces pombe、Pichia pastoris、Hansenula anomala、Candida sphaerica、またはSchizosaccharomyces malidevoransであり得る。Saccharomyces cerevisiaeは好ましい酵母種である。
【0086】
ある特定の実施形態において、微生物細胞は、原核生物細胞(細菌細胞または古細菌細胞等)である。細菌は、光合成細菌(例えばシアノバクテリア)でもあり得る。
【0087】
一実施形態において、微生物細胞は、Neisseria属、Spirillum属、Pasteurella属、Brucella属、Yersinia属、Francisella属、Haemophilus属、Bordetella属、Escherichia属、Salmonella属、Shigella属、Klebsiella属、Proteus属、Vibrio属、Pseudomonas属、Bacteroides属、Acetobacter属、Aerobacter属、Agrobacterium属、Azotobacter属、Spirilla属、Serratia属、Vibrio属、Rhizobium属、Chlamydia属、Rickettsia属、Treponema属、Fusobacterium属、Actinomyces属、Bacillus属、Clostridium属、Corynebacterium属、Erysipelothrix属、Lactobacillus属、Listeria属、Mycobacterium属、Myxococcus属、Nocardia属、Staphylococcus属、Streptococcus属、およびStreptomyces属からなる群から選択される、原核生物細胞である。使用され得る原核生物細胞の例としては、Escherichia coli、Bacillus subtilisおよび/ Corynebacterium glutamicumが挙げられる。
【0088】
開示された本発明の目的は、スペルミジン産生の増加のために操作された微生物細胞を提供することである。微生物細胞におけるスペルミジン産生を増加させる以前の取り組みは、細胞のオルニチンおよびプトレシンの産生経路への修飾がスペルミジン産生の改善をもたらしたことを報告し、それらの前駆体が限定的であったことを示唆する。プトレシンにおける限定は株特異的かもしれないが、本発明を評価する場合にプトレシンが限定的ではないことを保証し、スペルミジンの高力価を達成するために、より高レベルのプトレシンを産生するように以前に操作した株中でのSAM生合成経路を試験することを選択した。この株は、オルニチン(プトレシンへの前駆物質)およびプトレシンに向けたフラックスを増加させる修飾を含み、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼのダウンレギュレーション、オルニチンアミノトランスフェラーゼの欠失、ミトコンドリアアミノ酸輸送体AGC1の過剰発現、ミトコンドリアオルニチンインポーターORT1の過剰発現、NADP+依存性グルタミン酸デヒドロゲナーゼの過剰発現、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)抗酵素をコードする遺伝子の欠失、およびオルニチンデカルボキシラーゼの過剰発現が挙げられる。以前の研究において、本発明者は、これらの修飾が、使用されたバックグラウンド株のバックグラウンドにおいてオルニチンおよびプトレシンの産生を改善したことを見出したが、その代りにまたは同様に、他の修飾を使用して類似する効果を達成することができた([5]および他によって示されるように)。したがって、本明細書において提示される本発明の修飾は、上記の修飾を欠損する株(例えばプトレシンに向けたフラックスを増加させる異なる修飾を有する微生物株、高レベルのプトレシンを天然に産生できる株、またはプトレシンを供給される株)においてでさえ、スペルミジン産生を改善する。
【0089】
一実施形態において、微生物細胞がプトレシンをスペルミジンへ変換する能力が、増加される。これは、スペルミジン合成酵素(SPDS)[EC 2.5.1.16]の活性の増加によって達成され得る。例えば、SPDSの活性の増加は、SPDSのコード遺伝子を過剰発現させることによって達成され得る。SPDSコード遺伝子は、任意の公知の種(例えばTriticum aestivum)からのものであり得る。一実施形態において、Triticum aestivumからのSPDS(配列番号:19)は、S.cerevisiaeまたはE.coliの中へ導入される。例えばStreptomyces spectabilis、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens、Rattus norvegicus、Thermotoga maritima、Caenorhabditis elegansからの他の異種SPDSも、真核生物細胞または原核生物細胞中で過剰発現され得る。あるいはまたは加えて、内在性SPDSが過剰発現され得る。スペルミジン合成酵素の活性の増加は、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ[EC 4.1.1.50]の活性の増加とも組み合わせられ得る。これは、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させることによって達成され得る。あるいは、スペルミジン合成酵素の活性の増加の代わりに、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子のかかる過剰発現が使用され得る。例えば、内在性S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ遺伝子(SPE2;配列番号:21)は、S.cerevisiae中で過剰発現され得る。あるいは、内在性speD遺伝子は、E.coli中で過剰発現され得る。例えばStreptomyces griseochromogenes(Zea mays、Streptomyces spectabilis、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens、Rattus norvegicus、Mus musculus、Thermotoga maritima、Trypanosoma cruzi、Trypanosoma brucei、Caenorhabditis elegans)からの他の異種S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼも、真核生物細胞または原核生物細胞中で過剰発現され得る。
【0090】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ[EC 4.1.1.50]およびスペルミジン合成酵素[EC 2.5.1.16]からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現のために遺伝子修飾される。図1中で示されるように、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼは、SAMからのS-アデノシルメチオニンアミンの合成を触媒する。スペルミジン合成酵素は、このS-アデノシルメチオニンアミンをプトレシンと一緒に使用して、所望される産物スペルミジンを産生する。
【0091】
一実施形態において、L-オルニチンのプトレシンへの変換が増加される。これは、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)[EC 4.1.1.17]の活性の増加によって達成され得る。一実施形態において、ODCの活性は、ODCをコードする生来の遺伝子の過剰発現によって増加され得る。例えば、SPE1(配列番号:20)がS.cerevisiae中で過剰発現され得るか、またはspeC(Genbankアクセッション:NP_417440)がE.coli中で過剰発現され得る。あるいは、異種ODCは、例えばEscherichia coli、Streptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens、Rattus norvegicus、Nicotiana glutinosa、Trypanosoma brucei、Neurospora crassa、Entamoeba histolytica、Physarum polycephalum、Mus musculus、Plasmodium falciparumから発現され得る。
【0092】
加えてまたはあるいは、オルニチンのプトレシンへの変換は、オルニチンデカルボキシラーゼ抗酵素(OAZ)の活性の低減によっても増加され得る。OAZは、ODCへ結合して、プロテアソームによるユビキチン非依存性分解を刺激するODCのレギュレーターである。したがって、OAZの活性の低減は、ODCレベルの増加を促進することができる。OAZ活性の低減は、例えばOAZをコードする生来の遺伝子の破壊またはダウンレギュレートによって達成され得る。例えば、一実施形態において、OAZ(OAZ1;配列番号:23)をコードする生来の遺伝子は、S.cerevisiae中で破壊される。
【0093】
さらに、スペルミジン値は、細胞中のL-オルニチン濃度の増加によって増加され得る。これは、例えば細胞中のオルニチンを利用する反応の活性を減少させることによって達成され得る。例えば、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ[EC 2.1.3.3](それはオルニチンをシトルリンへ変換する)の活性は、減少され得る。これは、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードする生来の遺伝子の発現のダウンレギュレートすることによって達成され得る。例えば、一実施形態において、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードする生来のARG3遺伝子(配列番号:24)は、S.cerevisiae中でダウンレギュレートされ得る。別の実施形態において、L-オルニチントランスアミナーゼ[EC 2.6.1.13](それはオルニチンのL-グルタミン酸γ-セミアルデヒドへの変換を触媒する)の活性は、減少される。これは、例えばL-オルニチントランスアミナーゼ活性をコードする内在性遺伝子(例えばS.cerevisiae中でCAR2(配列番号:117))の破壊によって達成され得る。
【0094】
細胞質L-オルニチンの生産の増加のための他のストラテジーは、例えばアセチルグルタミン酸合成酵素[EC 2.3.1.1]、アセチルグルタミン酸キナーゼ[EC 2.7.2.8]およびN-アセチル-γ-グルタミル-リン酸レダクターゼ[EC 1.2.1.38]、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ[EC 2.6.1.11]、アセチルオルニチンデアセチラーゼ[EC 3.5.1.16]、ならびに/またはオルニチンアセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.35]の活性の増加による、グルタミン酸塩からのL-オルニチン産生経路を介するフラックスの増加を包含し得る。好ましい実施形態において、これらの酵素の活性はサイトゾル中で増加され得る。これは、例えばこれらの活性をコードする細菌性L-オルニチン生合成遺伝子(例えばE.coliまたはC.glutamicumからのargA(配列番号:103~104)、argB(配列番号:105~106)、argC(配列番号:107~108)、argD(配列番号:109~110)、argJ/argE(配列番号:111~112))の細胞中での発現/過剰発現、または内在性S.cerevisiaeオルニチン生合成遺伝子(例えばARG2(配列番号:113)、ARG5、6(配列番号:114)、ARG8(配列番号:115)および/またはARG7(配列番号:116))のサイトゾルへの標的化によって達成され得る。
【0095】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)[EC 4.1.1.17];N-アセチルグルタミン酸合成酵素(NAGS)[EC 2.3.1.1](アミノ酸-N-アセチルトランスフェラーゼとも称される);アセチルグルタミン酸キナーゼ[EC 2.7.2.8];N-アセチル-γ-グルタミル-リン酸レダクターゼ[EC 1.2.1.38];アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ[EC 2.6.1.11](アセチルオルニチントランスアミナーゼとも称される);アセチルオルニチンデアセチラーゼ[EC 3.5.1.16]およびオルニチンアセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.35](グルタメートN-アセチルトランスフェラーゼとも称される)からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0096】
図1中でより明らかに示されるように、上で言及される酵素は、炭素源(グルコース等)からのプトレシンの合成を包含するプトレシン生合成経路に関与する。より詳細には、上で言及された酵素は、α-ケトグルタル酸塩(それはこの場合はトリカルボン酸(TCA)サイクルのアウトプットである)からのプトレシンの合成に関与する。
【0097】
一実施形態において、微生物細胞は、オルニチンデカルボキシラーゼ抗酵素(OAZ);L-オルニチントランスアミナーゼ[EC 2.6.1.13](オルニチンアミノトランスフェラーゼとも称される);および/もしくはオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(OTC)[EC 2.1.3.3]の活性の減弱、またはOAZをコードする遺伝子、L-オルニチントランスアミナーゼをコードする遺伝子、およびOTCをコードする遺伝子からなる群から選択される、少なくとも1つの遺伝子の欠失もしくは破壊のために遺伝子修飾される。
【0098】
OTCおよびL-オルニチントランスアミナーゼは、オルニチンのシトルリンおよびグルミン酸γ-セミアルデヒドへの変換に関与する酵素である(図1を参照)。したがって、これらの2つの酵素は、中間体のオルニチンを消耗する経路に関与し、それによって基質としてオルニチンを使用することでODCと競合する。これらの酵素の活性の減弱またはこれらの酵素をコードする遺伝子の欠失もしくは破壊は、それによってODCのためのより高い量のオルニチン、およびそれによって微生物細胞におけるプトレシンの産生の促進をもたらすだろう。
【0099】
OAZはODCのインヒビターであり、それによってオルニチンからのプトレシンの合成におけるODCの活性を低減する。
【0100】
一実施形態において、上記の修飾のうちの任意のものは、SAMのレベルの増加を導く経路とさらに組み合わせられ得るか、またはこの経路は上記の修飾に依存せずに使用され得る。次いで、SAMは、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼによってdSAMへ脱カルボキシル化され、それはスペルミジン形成のためのプロピルアミンドナーとして供される。例えば、好ましい実施形態において、SAMの生合成の増加は、S-アデノシルメチオニン合成酵素(MAT)[EC 2.5.1.6](それはATPのアデノシル基をメチオニンの硫黄原子へ転移してSAMを形成することを触媒する)の活性の増加によって達成され得る。例えば、MATの活性の増加は、MATのコード遺伝子を過剰発現させることによって達成され得る。MATコード遺伝子は、任意の公知の種(例えばS.cerevisiae)からであり得る。1つの好ましい実施形態において、MATをコードする生来のSAM2遺伝子の過剰発現は、S.cerevisiae中で達成される。生来のSAM1遺伝子も過剰発現され得る。あるいは、MATをコードする内在性E.coli metK遺伝子は、E.coliまたはS.cerevisiae中で過剰発現され得る。加えて、他の真核生物源または原核生物源からの異種のMATは、例えばStreptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens、Rattus norvegicus、Cryptosporidium parvum、Leishmania donovani、Leishmania infantum、Sus scrofaからの細胞中で発現され得る。例えば、一実施形態において、Leishmania infantumからの異種のMAT(配列番号:25)は、微生物細胞中で過剰発現される。別の実施形態において、MATの突然変異対立遺伝子が発現される。例えば、リジン18、ロイシン31、イソロイシン65および/またはアスパラギン酸341が、それぞれアルギニン、プロリン、バリンおよび/またはグリシンへと変異される(K18R、L31P、I65V、D341G)、Streptomyces spectabilisからのMAT(配列番号:1)は、微生物細胞中で発現され得る。同様に、リジン21における好ましくはアルギニンへの突然変異を備えたS.cerevisiaeからのMAT(K21R)(配列番号:2)も発現され得る。
【0101】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、S-アデノシルメチオニン合成酵素(MAT)[EC 2.5.1.6](メチオニンアデノシルトランスフェラーゼとも称される)の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0102】
MATは、図2中で示されるようにメチオニンからのSAMの合成に関与する。
【0103】
一実施形態において、S-アデノシルメチオニン(SAM)レベルの増加は、メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)[EC 1.5.1.20](それは、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸の5-メチルテトラヒドロ葉酸(メチオニン生合成においてホモシステインをメチル化するために使用される)への還元を触媒する)の活性の増加によって増加される。例えば、MTHFRの活性の増加は、MTHFRのコード遺伝子を過剰発現させることによって達成され得る。MTHFRコード遺伝子は、任意の公知の種(例えばS.cerevisiae)からであり得る。1つの好ましい実施形態において、MTHFRをコードする生来のMET13遺伝子(配列番号:26)および/またはMET12遺伝子の過剰発現は、修飾されたS.cerevisiae中で達成される。別の実施形態において、キメラMTHFR(それは高レベルのSAMの蓄積に起因する抑制を受けない)は、微生物細胞中で発現され得る。例えば酵母Met13pのN末端触媒ドメインおよびArabidopsis thaliana MTHFR(AtMTHFR-1)のC末端調節ドメインのかかるキメラMTHFRが構成され得る(配列番号:3)。加えて、他の真核生物源または原核生物源からの異種のMTHFRは、例えばEscherichia coli、Streptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Arabidopsis属の種、Homo sapiens、Sus scrofa、Rattus norvegicusまたはClostridium formicaceticumからの微生物細胞中で発現/過剰発現され得る。
【0104】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)[EC 1.5.1.20]の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0105】
5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(N5,N10-メチレンテトラヒドロ葉酸;5,10-CH-THF)はMTHFRによって使用される基質であって、5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF、またはレボメ葉酸)を生成し、それは次にはメチオニンの産生における基質である(図2を参照)。
【0106】
特定の実施形態において、微生物細胞は、酵母Met13pのN末端触媒ドメインおよびArabidopsis thaliana MTHFRのC末端調節ドメインを含むキメラMTHFRの過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0107】
別の実施形態において、S-アデノシルメチオニン(SAM)のレベルは、葉酸濃度の増加によって増加される。これは、例えば葉酸補足によって達成され得る。これは、葉酸合成経路を介するフラックスを増加させることによって(例えばこの経路における酵素の活性を増加させるによって)も実現され得る。例えば、3-デオキシd-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸合成酵素[DAHPS][EC 2.5.1.54]、5官能性AROMタンパク質[EC 4.2.3.4、4.2.1.10、1.1.1.25、2.7.1.71、2.5.1.19]、コリスミ酸合成酵素[EC 4.2.3.5]、パラ-アミノ安息香酸(PABA)合成酵素[EC 6.3.5.8]、アミノデオキシコリスミ酸リアーゼ[EC 4.1.3.38]、葉酸合成タンパク質[EC 4.1.2.25、2.7.6.3、2.5.1.15]、GTP-シクロヒドロラーゼI[EC 3.5.4.16]、ジヒドロ葉酸合成酵素[EC 6.3.2.12]、ジヒドロ葉酸レダクターゼ[EC 1.5.1.3]、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.2.1]、またはグリシン切断複合体の活性である。これは、これらの活性をコードする内在性遺伝子を過剰発現させることによって達成され得る。例えば、内在性遺伝子ARO3、ARO4、ARO1、ARO2、ABZ1、ABZ2、FOL1、FOL2、FOL3、DFR1、SHM2、SHM1、LPD1、GCV2、GCV1またはGCV3は、S.cerevisiae細胞中で過剰発現され得る。
【0108】
別の実施形態において、S-アデノシルメチオニン(SAM)レベルは、プリン生合成経路(それは補因子(ATPおよびGTP)を供給することができる)を介するフラックスを増加することによって増加される。これは、経路における酵素の活性の増加によって達成され得る。例えば、PRPPアミドトランスフェラーゼ[EC 2.4.2.14](それはプリン生合成における第1のコミットされたステップを触媒する)の活性は、増加され得る。これは、この酵素をコードする内在性遺伝子の過剰発現によって達成され得る。例えば、内在性ADE4遺伝子(配列番号:27)は、S.cerevisiae中で過剰発現され得る。あるいは、内在性purF遺伝子(配列番号:28)は、E.coli中で過剰発現され得る。あるいは、フィードバック調節を受けない、PRPPアミドトランスフェラーゼをコードする遺伝子の突然変異対立遺伝子が発現され得る。例えば、アスパラギン酸310、リジン333および/またはアラニン417が、好ましくはそれぞれバリン、グルタミンおよびトリプトファンによって置き換えられる、Ashbya gossypiiからのADE4(D310V、K333Q、A417W、配列番号:4)は、真核生物細胞または原核生物細胞中で発現され得る。あるいは、アスパラギン酸293、リジン316および/またはセリン400が、好ましくはバリン、グルタミンおよびトリプトファンによって置き換えられる、Bacillus subtilisからの変異PurF(D293、K316、S400W、配列番号:5)は、微生物細胞中で発現され得る。
【0109】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、ホスホリボシル二リン酸(PRPP)5-アミドトランスフェラーゼ[EC 2.4.2.14](アミドホスホリボシルトランスフェラーゼとも称される)の過剰発現のために遺伝子修飾される。この酵素の過剰発現は、微生物細胞中のATPおよび/またはGTPのレベルを増加することを一般的に導くだろう。増加レベルのATPおよび/またはGRPは、今度は例えば微生物細胞中のSAM生合成において使用され得る。
【0110】
特定の実施形態において、微生物細胞は、D310V、K333QおよびA417Wからなる群から選択される、アミノ酸残基の少なくとも1つの突然変異を備えたAshbya gossypii ADE4遺伝子を含む。別の特定の実施形態において、微生物細胞は、D293V、K316QおよびS400Wからなる群から選択される、少なくとも1つの突然変異を備えたBacillus subtillis PurF遺伝子を含む。
【0111】
別の実施形態において、S-アデノシルメチオニン(SAM)レベルは、メチオニンサルベージ経路を経由してポリアミン合成から形成された5’-メチルチオアデノシンの再利用によって増加される。例えば、メチオニンサルベージ経路を介するフラックスは増加され得る。これは、この経路における酵素(メチルチオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)[EC 2.4.2.28]、5’-メチルチオリボース-1-リン酸イソメラーゼ(MRI)[EC 5.3.1.23]、5’-メチルチオリブロース-1-リン酸デヒドラターゼ(MDE)[EC 4.2.1.109]、2,3-ジオキソメチオペンタン(dioxomethiopentane)-1-リン酸エノラーゼ/ホスファターゼ[EC 3.1.3.77]、アシレズクトンジオキシゲナーゼ[EC 1.13.11.54]、または分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼ(BAT)[EC 2.6.1.5、EC 2.6.1.57、EC 2.6.1.42]等)の活性の増加によって行われ得る。例えば、MTAPの増加した活性は、MTAPのコード遺伝子を過剰発現させることによって達成され得る。MTAPコード遺伝子は、任意の公知の種(例えばS.cerevisiae)からであり得る。1つの好ましい実施形態において、MTAPをコードする生来のMEU1遺伝子(配列番号:17)の過剰発現は、修飾されたS.cerevisiae中で達成される。あるいは、S.cerevisiae MEU1遺伝子はE.coli中でも発現され得る。別の好ましい実施形態において、生来のBAT2遺伝子(配列番号:18)(それは分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼをコードする)の過剰発現は、修飾されたS.cerevisiae中で達成され得る。加えて、遺伝子MRI1(配列番号:118)、MDE1(配列番号:119)、UTR4(配列番号:120)、ADI1(配列番号:121)、ARO8(配列番号:122)、ARO9(配列番号:123)、またはBAT1(配列番号:124)(それらは、それぞれ5-メチルチオリボース-1-リン酸イソメラーゼ、メチルチオリブロース-1-リン酸デヒドラターゼ、2,3-ジオキソメチオペンタン-1-リン酸エノラーゼ/ホスファターゼ、アシレズクトンジオキシゲナーゼ、芳香族アミノトランスフェラーゼI、芳香族アミノトランスフェラーゼII、およびミトコンドリア分岐鎖アミノ酸(BCAA)アミノトランスフェラーゼをコードする)も過剰発現され得る。この経路は、原核生物宿主中でも過剰発現され得る。例えば、経路における酵素ステップは、E.coliの中へ導入され得る。これは、内在性tyrB遺伝子(それはE.coli中でBATをコードする)と組み合わせられる可能性があり得る。加えて、他の真核生物源または原核生物源からの異種遺伝子は、例えばStreptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens、Arabidopsis thaliana、Bos taurus、Pyrococcus furiosus、Sulfolobus solfataricusから発現され得る。
【0112】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、メチルチオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)[EC 2.4.2.28](S-メチル-5’-チオアデノシンホスホリラーゼとも称される);5-メチルチオリボース-1-リン酸イソメラーゼ(MRI)[EC 5.3.1.23](S-メチル-5-チオリボース-1-リン酸イソメラーゼとも称される);メチルチオリブロース-1-リン酸デヒドラターゼ(MDE)[EC 4.2.1.109];2,3-ジオキソメチオペンタン-1-リン酸エノラーゼ/ホスファターゼ[EC 3.1.3.77](アシレズクトン合成酵素とも称される);アシレズクトンジオキシゲナーゼ[EC 1.13.11.54];および分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼ(BAT)[EC 2.6.1.42](チロシントランスアミナーゼ[EC 2.6.1.5]および芳香族アミノ酸トランスアミナーゼ[EC 2.6.1.57]とも称される)からなる群から選択される、メチオニンサルベージ経路における少なくとも1つの酵素の過剰発現のために遺伝子修飾される。特定の実施形態において、微生物細胞は、MTAPおよび/またはBATの過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0113】
図2中で示されるように、メチオニンサルベージ経路は、5’-メチルチオリボース(MRP)および4-メチルチオ-2-オキソ酪酸塩(MOB)を経由して5’-メチルチオアデノシン(MTA)からメチオニンを合成することを含む。次いでサルベージ経路からのメチオニンは、SAMの産生のために基質として使用され得る。
【0114】
別の実施形態において、S-アデノシルメチオニン(SAM)レベルは、SAM産生のための細胞内メチオニン利用度を増加させることによって増加される。これは、例えばメチオニン補給によって達成され得る。あるいは、細胞内のメチオニンは、中間体のL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドに由来し得る。例えば、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドからのメチオニン形成の原因である経路を介するフラックスは、増加され得る。これは、経路における酵素(ホモセリンデヒドロゲナーゼ[EC 1.1.1.3]、ホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.31]、O-アセチルホモセリン(チオール)-リアーゼ[EC 2.5.1.49]、およびN5-メチルテトラヒドロプテロイルトリグルタミン酸-ホモシステインメチルトランスフェラーゼ(METE)[EC 2.1.1.14]等)の活性の増加によって行われ得る。例えば、好ましい実施形態において、O-アセチルホモセリン(チオール)-リアーゼの活性は、O-アセチルホモセリン(チオール)-リアーゼ(MET17またはSTR2)をコードする内在性遺伝子をS.cerevisiae中で過剰発現させるによって増加され得る。別の好ましい実施形態において、他の生物体(Corynebacterium acetophilum、Geobacillus stearothermophilus、Brevibacterium flavum、Thermus thermophiles(oah1)、Pseudomonas属の種、またはCorynebacterium glutamicum(metY)等)からのO-アセチルホモセリン(チオール)-リアーゼをコードする異種遺伝子も、酵母細胞または細菌細胞中で過剰発現され得る。別の好ましい実施形態において、N5-メチルテトラヒドロプテロイルトリグルタミン酸-ホモシステインメチルトランスフェラーゼの活性も増加され得る。これは、例えばMETE(MET6)をコードする内在性遺伝子をS.cerevisiae中で過剰発現させることによって行われ得る。別の好ましい実施形態において、他の生物体(Catharanthus roseus(MetE)、Neurospora crassa(me-8)またはE.coli(metE)等)からのMETEをコードする異種遺伝子は、微生物細胞中で過剰発現され得る。別の実施形態において、ホモセリンデヒドロゲナーゼおよびホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.31]の活性は、内在性遺伝子HOM6(配列番号:127)および/またはMET2をS.cerevisiae中で過剰発現させることによっても増加され得る。別の実施形態において、これらの酵素の活性は、他の源(Haemophilus influenzae、Paenibacillus polymyxa、Bacillus cereus、Thermotoga maritima、Bacillus cereus、Schizosaccharomyces pombe、またはCryptococcus neoformans等)からのこれらの酵素をコードする異種遺伝子を微生物細胞中で過剰発現させるによって増加され得る。好ましい実施形態において、Zea maysからのホモセリンデヒドロゲナーゼは、S.cerevisiaeまたはE.coli中で過剰発現される。加えて、他の真核生物源または原核生物源からの遺伝子は、例えばEscherichia coli、Streptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiensから発現され得る。
【0115】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドのメチオニンへの変換の促進のために遺伝子修飾される。
【0116】
特定の実施形態において、微生物細胞は、ホモセリンデヒドロゲナーゼ[EC 1.1.1.3];ホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.31];O-アセチルホモセリン(チオール)-リアーゼ[EC 2.5.1.49](O-アセチルホモセリンアミノカルボキシプロピルトランスフェラーゼとも称される);および5-メチルテトラヒドロプテロイルトリグルタミン酸-ホモシステインS-メチルトランスフェラーゼ(METE)[EC 2.1.1.14]からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0117】
L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドのメチオニンへのこの変換は図2中で示され、上記の酵素を包含する。この合成経路は、それによってSAMの産生において使用される微生物細胞中の基質メチオニンの量を増加させた。
【0118】
別の実施形態において、SAM合成のために必要とされるメチオニンは、システインに由来し得る。これは、例えばシスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)[EC 2.5.1.48](それはシステインをシスタチオニンへと変換する)の活性の増加によって行われ得る。これは、CGSをコードする内在性遺伝子を、S.cerevisiae(STR2)、E.coli(metB)、またはC.glutamicum(Cgl2446)中で過剰発現させることによって達成され得る。シスタチオンβリアーゼ[EC 4.4.1.8](CBL)(それはシスタチオンをホモシステインへ変換する)の活性は、同様にまたはあるいは、増加され得る。これは、シスタチオンβリアーゼ活性をコードする内在性遺伝子(S.cerevisiaeのIRC7もしくはSTR3、E.coliのmalYもしくはmetC、またはC.glutamicumのCgl2309等)を過剰発現させることによって行われ得る。他の源(例えばTriticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens、Arabidopsis thaliana、またはLysinibacillus sphaericus)からのCGSおよびCBLをコードする遺伝子も発現され得る。
【0119】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、シスタチオニンγ-シンターゼ[EC 2.5.1.48]およびシスタチオンβ-リアーゼ(CBL)[EC 4.4.1.8]からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現によって、システインのメチオニンへの変換の促進のために遺伝子修飾される。この合成経路は、それによってSAMの産生において使用される微生物細胞中の基質メチオニンの量を増加させた。
【0120】
上記の修飾は、セリンをシステインへ変換する酵素とも組み合わせられ得る。例えば、セリンアセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.30]およびシステインシンターゼA[EC 2.5.1.47]の活性の組み合わせを介するものである。これは、これらの活性をコードする遺伝子を発現/過剰発現させることによって行われ得る。例えば、E.coliからの遺伝子cysEおよびcysKは、原核生物細胞または真核生物細胞中で過剰発現され得る。
【0121】
別の実施形態において、S-アデノシルメチオニン(SAM)レベルは、内在性シスタチオニンβ-シンターゼ(CBS)[EC 4.2.1.22](それはセリンおよびホモシステインからのシスタチオニンの合成を触媒する)の活性を低減させることによって増加され得る。これは、例えばシスタチオニンβシンターゼ(CYS4)をコードする生来の遺伝子をS.cerevisiae中でダウンレギュレートすることによって行われ得る。あるいは、シスタチオニンγ-リアーゼ(CGS)[EC 4.4.1.1](それはシスタチオンのシステインへの変換を触媒する)の活性は、低減され得る。これは、例えばシスタチオニンγ-リアーゼ(CYS3)をコードする生来の遺伝子をS.cerevisiae中でダウンレギュレートすることによって行われ得る。したがって、一実施形態において、微生物細胞は、シスタチオニンβ-シンターゼ(CBS)[EC 4.2.1.22]の活性の減弱またはCBSをコードする遺伝子の欠失もしくは破壊のために遺伝子修飾される。
【0122】
この酵素は、ホモシステインのシスタチオニンへの変換(すなわちCBLに比較して反対の反応経路)を触媒する。したがって、CBSはホモシステインを枯渇させ、それは、今度は微生物細胞中のメチオニンのレベルを減少させる。
【0123】
別の実施形態において、S-アデノシルメチオニン(SAM)レベルは、ピルビン酸塩のL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへの変換を増加させることによって増加され得る。これは、ピルビン酸カルボキシラーゼ[EC 6.4.1.1]、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[EC 2.6.1.1]、アスパラギン酸キナーゼ(AK)[EC 2.7.2.4]、および/またはアスパラギン酸βセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ[EC 1.2.1.11]の活性を増加させることによって行われ得る。例えば、好ましい実施形態において、AKの活性は、AKをコードする内在性HOM3遺伝子(配列番号:29)をS.cerevisiae中で、またはmetL/LysC/thrA遺伝子をE.coli中で、過剰発現させることによって増加され得る。あるいは、AKの変異バージョンが導入され得る。例えば、HOM3の突然変異対立遺伝子(そこで、Ser399は交換される(例えばフェニルアラニンへ;S399F;配列番号:6))が発現され得る。この対立遺伝子はフィードバック調節を受けず、したがってより高いレベルのL-4-アスパルチル-リン酸の蓄積をもたらし得る。さらに、他の生物体からのフィードバック耐性対立遺伝子が発現され得る。例えば、グルタミン酸257(例えばリジンへ;E257K;配列番号:7)中の突然変異を備えたXenorhabdus bovieniiからのmetL、またはスレオニン359(例えばイソロイシンへ;T359I)もしくはグルタミン酸257(例えばリジンへ;E257K)中のいずれかまたは両方の(配列番号:8)突然変異を備えた同じ種からのリジン感受性アスパルトキナーゼ3は、微生物細胞の中へ導入され得る。加えて、スレオニン311が交換される(例えばイソロイシンへ;T311I;配列番号:22)Corynebacterium glutamicumからのフィードバック耐性AK(lysC遺伝子によってコードされる)も、発現され得る。さらに、他の生物体(例えばArabidopsis thaliana、Panicum miliaceum、Escherichia coli、Streptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens)からのAKをコードする遺伝子も、微生物細胞中で発現され得る。
【0124】
ピルビン酸塩のL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへの変換に関与する他の酵素の活性が増加され得る。例えば、ピルビン酸カルボキシラーゼ[EC 6.4.1.1](それはピルビン酸塩をオキサロ酢酸塩へ変換する)の活性は、ピルビン酸カルボキシラーゼをコードする内在性S.cerevisiae遺伝子(PYC1および/またはPYC2;それぞれ配列番号:125および配列番号:126)、または変異バージョン(プロリン458がセリンにより置き換えられた(P458C)C.glutamicum pyc等)の過剰発現によって増加され得る。他の生物体(例えばGallus gallus、Mycobacterium smegmatis、Escherichia coli、Streptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens)からのピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子も発現され得る。
【0125】
あるいはまたは加えて、中間体のオキサロ酢酸塩は、ホスホエノールピルビル酸(PEP)カルボキシラーゼ[EC 4.1.1.31]の活性の増加によって生成され得る。これは、PEPカルボキシラーゼをコードする遺伝子の過剰発現によって達成され得る。例えば、S.cerevisiae PCK1遺伝子またはE.coli Ppc遺伝子は、微生物細胞中で過剰発現され得る。あるいは、ロイシン620が置換される(例えばセリンによって、L620S)Ppcの突然変異バージョンは、微生物細胞中で発現され得る。別の実施形態において、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AAT)[EC 2.6.1.1]の活性が増加され得る。これは、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする内在性遺伝子(例えばAAT1および/またはAAT2)をS.cerevisiae中で過剰発現させることによって行われ得る。他の生物体(例えばArabidopsis thaliana、Panicum miliaceum、Escherichia coli、Streptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens)からのアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子も導入され得る。別の実施形態において、アスパラギン酸βセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ[EC 1.2.1.11]の活性は、アスパラギン酸βセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(HOM2)をコードする内在性遺伝子をS.cerevisiae中で過剰発現させるによって増加され得る。他の生物体(例えばGallus gallus、Mycobacterium smegmatis、Escherichia coli、Streptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens)からのアスパラギン酸βセミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子も発現され得る。
【0126】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、ピルビン酸塩のL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへの変換の促進のために遺伝子修飾される。
【0127】
特定の実施形態において、微生物細胞は、ピルビン酸カルボキシラーゼ[EC 6.4.1.1]、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[EC 2.6.1.1]、アスパラギン酸キナーゼ(AK)[EC 2.7.2.4]、およびアスパラギン酸βセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ[EC 1.2.1.11](アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼとも称される)からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0128】
図2中で示されるように、これらの酵素は、ピルビン酸塩のL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへの変換を触媒し、それは上記のようにメチオニンおよび次いでSAMへとさらに変換され得る。
【0129】
特定の実施形態において、微生物細胞は、アミノ酸セリン399の突然変異を備えたSaccharomyces cerevisiae HOM3、アミノ酸スレオニン359および/またはグルタミン酸257の突然変異を備えたXenorhabdus bovienii AK、ならびにスレオニン311の突然変異を備えたCorynebacterium glutamicum AKからなる群から選択される、AKをコードする少なくとも1つの遺伝子を含む。
【0130】
別の実施形態において、スペルミジンは、最初にL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドとプトレシンを縮合してカルボキシスペルミジンを形成し、続いて、脱カルボキシル化してスペルミジンを形成することによって形成され得る。例えば、微生物細胞中のL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドのレベルを促進する上記の修飾は、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドおよびプトレシンを縮合してカルボキシスペルミジンを形成することができる酵素(カルボキシ(ノル)スペルミジンデヒドロゲナーゼ(CASDH/CANSDH)[EC 1.5.1.43]等)をコードする異種遺伝子の発現と組み合わせられ得る。次いでカルボキシスペルミジンは、カルボキシ(ノル)スペルミジンデカルボキシラーゼ(CASDC/CANSDC)[EC 4.1.1.96]を経由してスペルミジンに変換され得る。例えば、Campylobacter jejuni(ヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号:10~11であり;タンパク質配列はそれぞれ配列番号:149~150である)、Vibrio cholera、Vibrio vulnificus、またはVibrio alginolyticusからのCASDH/CANSDHおよびCASDC/CANSDCは、S.cerevisiaeまたはE.coliの細胞中で発現され得る。これは、競合反応へのフラックスの低減とも組み合わせられ得る。例えば、別の実施形態において、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドのホモセリンへの変換が低減される。これは、ホモセリンデヒドロゲナーゼ[EC 1.1.1.3]をコードする内在性酵素のダウンレギュレートによって達成され得る。例えば、内在性HOM6(配列番号:127)遺伝子は、S.cerevisiae中でダウンレギュレートされ得る。
【0131】
別の実施形態において、上記の修飾はスレオニン産生経路へのフラックスの低減と組み合わせられるか、またはこの経路は上記の修飾に依存しないで使用され得る。これは、ホモセリンキナーゼ[EC 2.7.1.39]および/またはスレオニン合成酵素[EC 4.2.3.1;4.2.99.2]の活性を減少させることによって達成され得る。例えば、ホモセリンキナーゼをコードする内在性THR1遺伝子またはスレオニン合成酵素をコードする内在性THR4遺伝子は、S.cerevisiae中でダウンレギュレートまたは破壊され得る。あるいは、内在性thrBまたはthrC遺伝子(これらの活性をコードする)は、E.coli中でダウンレギュレートまたは破壊され得る。加えて、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ[EC 4.1.1.20]の活性は、例えば内在性lysA遺伝子をE.coli中でダウンレギュレートすることによって低減され得る。
【0132】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、内在性ホモセリンキナーゼ[EC 2.7.1.39]および/または内在性スレオニン合成酵素[EC 4.2.3.1および以前にEC 4.2.99.2としても公知である]の活性の減弱のために、またはホモセリンキナーゼをコードする内在性遺伝子および/もしくはスレオニン合成酵素をコードする内在性遺伝子の欠失もしくは破壊によって、遺伝子修飾される。
【0133】
これらの酵素は、スレオニン生合成経路(それは図2中で指示されるように基質としてホモセリンを使用する)に関与する。したがって、これらの酵素の活性の減弱またはこれらの酵素をコードする遺伝子の欠失もしくは破壊によって、ホモセリンはスレオニン生合成経路において枯渇されないが、むしろo-アセチルホモセリンへとさらに変換され得る。
【0134】
別の実施形態において、SAMのメチオニンへ戻る変換は、低減され得る。これは、S-アデノシルメチオニン-ホモシステインメチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.10]の活性の低減によって行われ得る。例えば、S-アデノシルメチオニン-ホモシステインメチルトランスフェラーゼ(SAM4またはMHT1)をコードする内在性遺伝子は、S.cerevisiae中でダウンレギュレートまたは破壊され得る。
【0135】
別の実施形態において、SAMレベルは、オキサロ酢酸塩のクエン酸塩への変換の低減によって増加される。これは、内在性クエン酸塩合成酵素[EC 2.3.3.1]の活性の低減によって達成され得る。これは、例えばクエン酸合成酵素(CIT1、CIT2またはCIT3等)をコードする内在性遺伝子をS.cerevisiae中でダウンレギュレートすることによって行われ得る。
【0136】
別の実施形態において、オキサロ酢酸塩のミトコンドリアの中への取込みが増加される。これは、オキサロ酢酸塩をミトコンドリアの中へ輸送する輸送体タンパク質の過剰発現によって行われ得る。例えば、オキサロ酢酸塩のためのミトコンドリア内膜輸送体をコードするS.cerevisiae遺伝子OAC1は、真核生物細胞中で過剰発現され得る。
【0137】
別の実施形態において、ミトコンドリアからサイトゾルの中へのアスパラギン酸塩の輸送が増加される。これは、アスパラギン酸輸送体の活性の増加によって達成され得る。例えば、内在性AGC1(それはミトコンドリアアミノ酸輸送体をコードする)は、S.cerevisiae中で過剰発現され得る。あるいは、サイトゾル中のアスパラギン酸塩の合成は、AATの細胞質バージョン(例えばS.cerevisiae AAT2または原核生物AAT)の発現によって増進され得る。これは、ミトコンドリアオキサロ酢酸輸送体(例えばS.cerevisiaeのOAC1)の発現を低減することによってサイトゾル中のオキサロ酢酸塩を増加させることとも組み合わせられ得る。加えて、ピルビン酸塩のミトコンドリアの中への輸送は、ミトコンドリアピルビン酸輸送タンパク質(例えばMPC1またはMPC2またはMPC3)の発現をS.cerevisiae中で減少させることによって減少され得る。
【0138】
別の実施形態において、フラックスは、アスパラギン酸塩を利用する他の内在性反応を低減することによって、アスパラギン酸塩からL-アスパラギン酸-4-リン酸(L-aspartate-4-phosphate)へと増加され得る。かかる反応についての例としては、アルギニノコハク酸合成酵素[EC 6.3.4.5]、アスパラギン合成酵素[EC 6.3.5.4]、ホスホリボシルアミノイミダゾールスクシノカルボザミド(phosphoribosyl amino imidazolesuccinocarbozamide)合成酵素[EC 6.3.2.6]、アデニロコハク酸合成酵素[EC 6.3.4.4]、およびアスパラギン酸トランスカルバミラーゼ[EC 2.1.3.2]が挙げられる。これは、これらの反応を触媒する酵素をコードする内在性遺伝子をダウンレギュレートすることによって達成され得る。例えば、アルギニノコハク酸合成酵素(ARG1)、アスパラギン合成酵素(ASN1またはASN2)、ホスホリボシルアミノイミダゾールスクシノカルボザミド合成酵素(ADE1)、アデニロコハク酸合成酵素(ADE12)、および/またはアスパラギン酸トランスカルバミラーゼ(URA2)をコードする遺伝子は、S.cerevisiae細胞中でダウンレギュレートされ得る。
【0139】
別の実施形態において、SAMレベルは、硫化水素(H2S)(SAMの前駆体)の形成の増加によって増加される。これは、ATPスルフリラーゼ[EC 2.7.7.4]、アデニリル硫酸キナーゼ[EC 2.7.1.25]、ホスホノアデニリル-硫酸(PAPS)レダクターゼ[EC 1.8.4.8]、および/または亜硫酸レダクターゼ[EC 1.8.1.2]の活性の増加によって硫酸同化経路を介するフラックスを増加させることによって、達成され得る。これは、これらの酵素活性をコードする内在性遺伝子の過剰発現によって達成され得る。例えば、MET3、MET14、MET16、MET5、MET10および/またはECM17は、S.cerevisiae中で過剰発現され得る。チオレドキシンが発現され得る。異種の源(例えばGallus gallus、Mycobacterium smegmatis、Escherichia coli、Streptomyces spectabilis、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens、Salmonella enterica亜種enterica serovar Typhimurium、Saccharomyces bayanus、Rattus norvegicus、Penicillium chrysogenum、Synechococcus属の種、Thiobacillus denitrificans、Spinacia oleracea、Spinacia oleracea、Euglena gracilis)からのこれらの活性をコードする遺伝子も、発現され得る。H2Sの形成は、培地中の硫酸塩の濃度の増加によって増加され得る。別の実施形態において、培地からの硫酸塩の取込みは、硫酸輸送体の発現の増加によって増加され得る。例えば、S.cerevisiaeの内在性硫酸透過酵素(SUL1、SUL2および/またはSUL3)が過剰発現され得る。加えて、異種の硫酸輸送体が導入され得る。さらに、亜硫酸塩の排出は、内在性排出輸送体(例えばS.cerevisiaeのSSU1)の破壊/ダウンレギュレーションによって低減され得る。別の実施形態において、硫酸同化を活性化する転写調節因子が、過剰発現され得る。例えば、内在性遺伝子MET28およびMET32は、S.cerevisiae中で過剰発現され得る。
【0140】
別の実施形態において、スペルミジン形成のためのSAM利用可能性は、SAMを利用する他の細胞性反応を減少させることによって増加される。例えば、エルゴステロール生合成に関与する反応は、ダウンレギュレートされ得る。これは、これらの反応に関与する内在性酵素を破壊/ダウンレギュレートすることによって達成され得る。例えば、Δ(24)-ステロールC-メチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.41;ERG6]および/またはC-24(28)ステロールレダクターゼ[EC 1.3.1.71;ERG4]をコードする内在性遺伝子は、S.cerevisiae中でダウンレギュレートされ得る。
【0141】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、内在性Δ(24)-ステロールC-メチルトランスフェラーゼ[EC2.1.1.41](ステロール24-C-メチルトランスフェラーゼとも称される)および/もしくは内在性C-24(28)ステロールレダクターゼ[EC1.3.1.71](Δ(24(24(1)))-ステロールレダクターゼとも称される)の活性の減弱のために、またはΔ(24)-ステロールC-メチルトランスフェラーゼをコードする内在性遺伝子および/もしくはC-24(28)ステロールレダクターゼをコードする内在性遺伝子の欠失もしくは破壊によって、遺伝子修飾される。
【0142】
Δ(24)-ステロールC-メチルトランスフェラーゼは、化学反応、S-アデノシル-L-メチオニン+5α-コレスタ-8,24-ジエン-3β-オール→S-アデノシル-L-ホモシステイン+24-メチレン-5α-コレスト-8-エン-3β-オールを触媒する。したがって、この酵素はSAMを枯渇させ、そのためそれは好ましくは減弱されるか、または好ましくはその遺伝子は微生物細胞中で欠失もしくは破壊される。内在性C-24(28)ステロールレダクターゼの破壊は、SAM蓄積の増加へ結びつけられている。
【0143】
さらなる実施形態において、内在性グリコーゲン分岐酵素[EC.2.4.1.18]の活性は低減され得る。例えば、内在性GLC3遺伝子は、S.cerevisiae中でダウンレギュレートされ得る。
【0144】
一実施形態において、微生物細胞は、内在性グリコーゲン分岐酵素の活性の減弱のために、またはグリコーゲン分岐酵素をコードする内在性遺伝子の欠失もしくは破壊によって、遺伝子修飾される。
【0145】
別の実施形態において、SAMレベルは、より良好な酸素利用可能性、細胞増殖、およびタンパク質発現を増進するために、ヘモグロビンを導入することによって増加され得る。例えば、Vitreoscilla属からのヘモグロビン(VHb)(配列番号:9)は、S.cerevisiae中で発現され得る。
【0146】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、ヘモグロビン(好ましくはVitreoscilla属のヘモグロビン)の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0147】
SAMレベルを増加する上記の実施形態のうちの任意のものは、微生物細胞中で組み合わせられ得る。
【0148】
別の実施形態において、上記の修飾の任意のものを使用して、他のポリアミン(スペルミン等)を産生することができる。これは、スペルミン合成酵素[EC 2.5.1.22]の活性を増加させることによって達成され、それは、例えばスペルミン合成酵素(SPE4、配列番号:128)をコードするS.cerevisiae遺伝子をS.cerevisiaeまたはE.coli中で過剰発現させることによって行われ得る。あるいは、他の生物体(例えばTriticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiens、Bos taurus)からのスペルミン合成酵素も発現され得る。加えて、スペルミンのスペルミジンへ戻る変換は、ポリアミンオキシダーゼ[EC 1.5.3.17]の活性を低減することによって(例えばこの酵素(例えばFMS1)をコードする生来の遺伝子をS.cerevisiae中で破壊することによって)低減され得る。
【0149】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、スペルミン生合成の促進のために遺伝子修飾される。特定の実施形態において、微生物細胞は、スペルミン合成酵素[EC 2.5.1.22]の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0150】
別の実施形態において、ポリアミンの培地の中へのエクスポートは促進され得る。これは、異なるエクスポートタンパク質(酵母TPO1、TPO2、TPO3、TPO4およびTPO5;Escherichia coli MdtJI、Shigella MdtJI、哺乳動物SLC3A2、Bacillus subtillis Blt輸送体および/または哺乳動物MDR1等)の過剰発現によって達成され得る。加えて、ポリアミンの取込みに関連する遺伝子(酵母DUR3、SAM3、AGP2および/またはGAP1等)は、ダウンレギュレートまたは欠失され得る。あるいは、ポリアミンの細胞内存在の増加は、ポリアミン輸送体TPO1、TPO2、TPO3、TPO4またはTPO5のダウンレギュレーションまたは欠失によって達成され得る。
【0151】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、Saccharomyces cerevisiae TPO1、TPO2、TPO3、TPO4およびTPO5、Escherichia coli MdtJI、哺乳動物SLC3A2、Bacillus subtillis Blt輸送体、ならびに哺乳動物MDR1からなる群から選択される、少なくとも1つのポリアミンエクスポートタンパク質の過剰発現によって、ポリアミンエクスポートの促進のために遺伝子修飾される。
【0152】
別の実施形態において、微生物細胞はSaccharomyces cerevisiae細胞であり、Saccharomyces cerevisiae DUR3、SAM3、AGP2およびGAP1からなる群から選択される、少なくとも1つのポリアミン取込みタンパク質のダウンレギュレーションによって、ポリアミン取込みの低減のために遺伝子修飾される。
【0153】
本発明の別の実施形態において、ポリアミンの培地へのエクスポートは、多剤応答に関与するエクスポーターの調節の原因である転写因子の過剰発現によって増加される。例えば、遺伝子PDR1(配列番号:30)および/またはPDR2(配列番号:129)は、S.cerevisiae中で過剰発現され得る。
【0154】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、Saccharomyces cerevisiae PDR1および/またはPDR2の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0155】
別の実施形態において、ポリアミン毒性への上記の株の耐性が増加される。複数の遺伝子のダウンレギュレーションおよび/または欠失は、酵母におけるポリアミン毒性への耐性の増加が付随した。これは、SRタンパク質キナーゼ(SRPK)(SKY1によってコードされる)、推定上のセリン/トレオニンプロテインキナーゼ(PTK2によってコードされる)、BRP1、およびFES1を包含する。加えて、複数の生来の遺伝子の過剰発現は、ポリアミン毒性への耐性の増加が付随した。これはQDR3およびYAP1を包含する。上記の遺伝子は、酵母におけるポリアミン毒性への至適の耐性を可能にする様々な組み合わせで、過剰発現および/またはダウンレギュレートされ得る。
【0156】
したがって、一実施形態において、微生物細胞はSaccharomyces cerevisiae細胞であり、SRタンパク質キナーゼ(SRPK)をコードするSKY1、推定上のセリン/トレオニンプロテインキナーゼをコードするPTK2、BRP1、およびFES1からなる群から選択される、少なくとも1つの遺伝子のダウンレギュレーションのために遺伝子修飾される。
【0157】
別の実施形態において、微生物細胞は、Saccahromyces cerevisiae QDR3および/またはYAP1の過剰発現のために遺伝子修飾される。
【0158】
さらなる実施形態において、微生物細胞は、多剤・毒素排出(MATE)ファミリーのメンバーの過剰発現、好ましくはSaccharomyces cerevisiae遺伝子ERC1の過剰発現、およびより好ましくはS51N、V263IおよびN545Iからなる群から選択される、少なくとも1つの突然変異を含むS.cerevisiae ERC1をコードする遺伝子のために、遺伝子修飾される。
【0159】
別の実施形態において、S-アデノシルメチオニンのレベルは、RNAポリメラーゼIIメディエーター複合体のサブユニットの過剰発現によって増加される。例えば、GAL11(配列番号:31)は、S.cerevisiae中で過剰発現され得る。
【0160】
したがって、一実施形態において、微生物細胞は、RNAポリメラーゼIIメディエーター複合体のサブユニットの過剰発現(好ましくはSaccharomyces cerevisiae GAL11の過剰発現)のために遺伝子修飾される。
【0161】
一実施形態において、微生物細胞は、培養培地の1Lあたり100mgを超えるスペルミジン、および/または1gのDCWあたり10mgを超えるスペルミジンを産生することが可能である。
【0162】
特定の実施形態において、微生物細胞は、培養培地の1Lあたり250mgを超える、好ましくは500mgを超える、およびより好ましくは750mgを超える(1gを超える等)スペルミジンを産生することが可能である。
【0163】
代替または追加の特定の実施形態において、微生物細胞は、1gのDCWあたり15mgを超える、好ましくは25mgを超える、およびより好ましくは30mgを超えるスペルミジンを産生することが可能である。
【0164】
上記の実施形態が組み合わせられ得る。
【0165】
実施形態の別の態様(それは上記の実施形態のうちの任意のものと随意に組み合わせられ得る)は、スペルミジンを産生することが可能な微生物細胞に関する。微生物細胞は、カルボキシ(ノル)スペルミジンデヒドロゲナーゼ(CASDH/CANSDH)[EC1.5.1.43](カルボキシノルスペルミジン合成酵素とも称される);およびカルボキシノルスペルミジンデカルボキシラーゼ(CANSDC)[EC 4.1.1.96]からなる群から選択される酵素をコードする少なくとも1つの異種遺伝子を含む。
【0166】
実施形態のこの態様は、それによってプトレシンおよびL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドの縮合を介するスペルミジンを産生することが可能な微生物細胞を提供する。特に、CASDHは、以下の反応、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒド+プトレシン+NADPH+H→カルボキシスペルミジン+HO+NADPを触媒する。次いでCANSDCは、カルボキシスペルミジンのスペルミジンへの変換(カルボキシスペルミジン→スペルミジン+CO)を触媒する。
【0167】
この態様の特定の実施形態において、微生物細胞は、内在性ホモセリンデヒドロゲナーゼ[EC 1.1.1.3]の活性の減弱のために、またはホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする内在性遺伝子の欠失もしくは破壊によって、遺伝子修飾される。
【0168】
実施形態のさらなる態様は、スペルミジンを産生する方法に関する。方法は、培養培地中で、および微生物細胞からのスペルミジンの産生に好適な培養条件において、実施形態のうちの任意のものに従う微生物細胞を培養することを含む。方法は、培養培地および/または微生物細胞からスペルミジンを収集することも含む。
【0169】
一実施形態において、培養培地はメチオニンを含む。
【0170】
実施形態のさらに別の態様は、食品添加物としての実施形態のうちの任意のものに従う微生物細胞の使用に関する。
【0171】
スペルミジンは、先に言及されるように正の効果を有し、例えば寿命を増進することおよび多様な加齢関連病態(癌、多発性硬化症、骨粗鬆症、心血管性疾患、記憶障害、皮膚加齢および脱毛等)に対して緩和または保護することが挙げられる。したがって、実施形態に従う微生物細胞を産生するスペルミジンは、次いで食品添加物として使用され得る。かかる事例において、微生物細胞は、一般に安全と認められる(GRAS)微生物細胞である。微生物細胞は、微生物細胞によってエンリッチされることが好適な任意の食物への食品添加物として使用され得る。非限定的であるが例示的な例は、ヨーグルトである。
【実施例
【0172】
例1
プトレシンおよびL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドをスペルミジンへ変換することができる異種遺伝子の発現によるプトレシンに向けたフラックスの増加による、微生物細胞中でのスペルミジン産生の増加。
本実施例は、プトレシンおよびL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドをスペルミジンへと変換することができる異種酵素の導入が、高レベルのプトレシンを産生するように以前に操作した微生物細胞中でのスペルミジン産生をさらに増加することを実証する。導入された修飾は、高レベルのL-オルニチン(プトレシンへの直接的な前駆物質)を産生するように以前に操作した酵母株に主として依存する(Qin et al[5])。これらの株は、プトレシンに向けたフラックスをさらに増加するように、ならびにさらに異種カルボキシスペルミジンデヒドロゲナーゼ(CASDH、カルボキシノルスペルミジン合成酵素としても公知)[EC 1.5.1.43]およびカルボキシスペルミジンデカルボキシラーゼ(CASDC)[EC 4.1.1.96]の過剰発現によって、修飾された。
【0173】
プトレシンは、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)の作用を経由してオルニチンから合成され得る。酵母において、ODCは、ODC抗酵素(OAZ)(それはODCへ結合し、分解の標的とする)を経由して調節される。したがって、本発明者は、同時に、OAZ(遺伝子OAZ1によってコードされる)を欠失させ、ODC(遺伝子SPE1によってコードされる)を過剰発現することによって、プトレシンに向けたフラックスを増加させた。株構築のための実験的な手順は、以下の通りであった。SPE1遺伝子をCEN.PK113-11CゲノムDNA(プライマーペア9/10による)からPCR増幅し、プロモーターTEF1p(プライマーペア7/8による)およびターミネーターPRM9t(プライマーペア11/12による)へ融合した。もたらされた断片TEF1p-SPE1-PRM9tをKanMXカセット(それはプラスミドPUC6からPCR増幅した)の3’部位へ融合し、断片KanMX-TEF1p-SPE1-PRM9t(プライマーペア3/12)を得た。OAZ1遺伝子座中にSPE1を組み込み同時にOAZ1遺伝子を欠失させるために、OAZ1の5’ORFの300bp(プライマーペア1/2による)およびOAZ1の3’ORFの300bp(プライマーペア13/6による)を、CEN.PK113-11CゲノムDNAからPCR増幅し、それぞれDNA断片OAZ1-UPおよびOAZ1-DOWNを得た。次いで、融合PCRを使用してOAZ1-UPおよびOAZ1-DOWNを断片KanMX-TEF1p-SPE1-PRM9t(プライマーペア1/6による)へ融合し、断片OAZ1-UP-KanMX-TEF1p-SPE1-PRM9t-OAZ1-DOWNを得た。オルニチンを過剰産生する株ORN-L(MATa SUC2 MAL2-8c ura3-52 his3-Δ1 ARG3p::KEX2p car2Δ::LoxP-CTC1t-AGC1-tHXT7p-TPIp-ORT1-pYX212t ura3::LoxP-TEF1p-GDH1-DIT1t)(Qin et al[5])のLiAc/SSキャリアDNA/PEG方法(Gietz et al[8])経由の形質転換のために、この断片を使用した。形質転換体をG418プレート上で選択し、コロニーPCRによって検証し、プトレシンを過剰産生する株PUT-B(KanMX)(MATa SUC2 MAL2-8c ura3-52 his3-Δ1 ARG3p::KEX2p car2Δ::LoxP-CTC1t-AGC1-tHXT7p-TPIp-ORT1-pYX212t ura3::LoxP-TEF1p-GDH1-DIT1t oaz1Δ::LoxP-KanMX-LoxP-TEF1p-SPE1-PRM9t)を得た。この実装において使用したすべてのプライマーを、表4中にリストする。
【0174】
いわゆるカルボキシスペルミジンスペルミジン経路によるスペルミジンの過剰産生を可能にするために、Campylobacter jejuni(CjCASDHおよびCjCASDC)またはVibrio cholera(VcCASDHおよびVcCASDC)のいずれかからのCASDHおよびCASDCを、評価した。使用されるすべての遺伝子を、Genscript(Piscataway、NJ、米国)によってS.cerevisiae中での発現のためにコドン至適化した。
【0175】
DNAアセンブラー方法(Shao et al[6])を、プラスミドYP1(CjCASDHおよびCjCASDCを発現する)およびYP2(VcCASDHおよびVcCASDCを発現する)の構築のために使用した。プラスミドYP1の構築のために、CjCASDH(ヌクレオチド配列番号:10;対応するタンパク質配列番号:149)およびCjCASDC(ヌクレオチド配列番号:11;対応するタンパク質配列番号:150)を、それぞれpUC57-CjCASDHおよびpUC57-CjCASDHから増幅した(それぞれプライマーペア132/133および137/136による)。プロモーターTPI1p(プライマーペア130/131による)、PGK1p(プライマーペア18/19による)、TEF1p(プライマーペア20/8による)を、CEN.PK113-11CゲノムDNAから増幅した。ターミネーターFBA1t-CYC1t(プライマーペア134/135による)を、プラスミドGO4(Qin et al[5])から増幅した。ターミネーターpYX212tを、プラスミドpYX212(プライマーペア9/294による)から増幅した。TPI1p、CjCASDH、FBA1t、CYC1t(それは互いにオーバーハングを有する)を、融合PCRによって融合し、断片TPI1p-CjCASDH-FBA1t-CYC1tを得た。同じ融合PCR手順に従って、FBA1t、CYC1t、CjCASDC、PGK1p、TEF1pおよびpYX212tを融合して、断片FBA1t-CYC1t-CjCASDC-PGK1p-TEF1p-pYX212t)を構築した。URA3選択マーカーを含有する酵母2μベクターpYX212を使用し、制限酵素SphIおよびEcoRIによる消化によって直線化した。LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法に従って、直線化ベクターを、断片TPI1p-CjCASDH-FBA1t-CYC1tおよびFBA1t-CYC1t-CjCASDC-PGK1p-TEF1p-pYX212tと共に、S.cerevisiae BY4741の中へ形質転換し、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択した。細胞密度(600nmでのOD)をGENESYS 20分光測光器(Thermo Scientific)によって測定した。Zymoprep Yeast Plasmid Miniprep II kitによって形質転換体から抽出したプラスミドをE.coli DH5αの中へ形質転換し、一晩の培養後に精製し、プラスミドYP1を得た。
【0176】
プラスミドYP2の構築のために、VcCASDH(ヌクレオチド配列番号:12;対応するタンパク質配列番号:151)およびVcCASDC(ヌクレオチド配列番号:13;対応するタンパク質配列番号:152)を、それぞれpUC57-VcCASDHおよびpUC57-VcCASDHから増幅した(それぞれプライマーペア140/141および143/142による)。プロモーターTPI1p、PGK1p、TEF1p、ターミネーターFBA1t、CYC1tを、上記のように表4中でリストしたプライマーにより、CEN.PK113-11CゲノムDNAから増幅した。ターミネーターpYX212tを、上記のように表4中でリストしたプライマーにより、プラスミドpYX212から増幅した。TPI1p、VcCASDH、FBA1t、CYC1t(それは互いにオーバーハングを有する)を、融合PCRによって融合し、断片TPI1p-VcCASDH-FBA1t-CYC1tを得た。プラスミドYP1に関して同じ融合PCR手順に従って、CYC1t、VcCASDC、PGK1p、TEF1pおよびpYX212tを融合して、断片CYC1t-VcCASDC-PGK1p-TEF1p-pYX212tを構築した。URA3選択マーカーを含有する酵母2μベクターpYX212を使用し、制限酵素SphIおよびEcoRIによる消化によって直線化した。LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法に従って、直線化ベクターを、断片TPI1p-VcCASDH-FBA1t-CYC1tおよびFBA1t-CYC1t-VcCASDC-PGK1p-TEF1p-pYX212tと共に、S.cerevisiae BY4741の中へ形質転換し、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択した。細胞密度(600nmでのOD)をGENESYS 20分光測光器(Thermo Scientific)によって測定した。Zymoprep Yeast Plasmid Miniprep II kitによって形質転換体から抽出したプラスミドをE.coli DH5αの中へ形質転換し、一晩の培養後に精製し、プラスミドYP2を得た。すべてのプラスミドを制限消化およびシーケンシングによって検証した。
【0177】
次いで株PUT-B(KanMX)(上で記載される)を、対照として作動させるために2つの空プラスミド(pYX212+p423GPD)(株SPDC3をもたらす)、CjCASDH/CjCASDCを評価するためにYP1およびp423GPD(株SPD11をもたらす)、またはVcCASDH/VcCASDCを評価するためにYP2およびp423GPD(株SPD12をもたらす)のいずれかにより、形質転換した。すべての株をPCRによって検証した。
【0178】
株の性能を、振盪フラスコ培養を経由して三重で比較した。振盪フラスコ培養のために、Delft培地(H)を使用し、それは以下のものからなっていた(1リットルあたり)。(NHSO、7.5g;KHSO、14.4g;MgSO・7HO、0.50g;微量金属、1ml、およびビタミン、1ml。微量金属溶液は以下のものからなっていた(1リットルあたり)。NaEDTA・5HO、19.0g;ZnSO・7HO、0.45g;MnCl・4HO、1g;CoCl・6HO、0.3g;CuSO・5HO、0.3g;NaMoO・2HO、0.4g;CaCl・2HO、0.45g;FeSO・7HO、0.3g;HBO、1g、およびKI、0.10g。微量金属溶液のpHを、乾熱減菌の前に2MのNaOHにより4.0へ調整した。ビタミン溶液は以下のものを含有していた(1リットルあたり)。d-ビオチン、0.05g;p-アミノ安息香酸、0.2g;ニコチン酸、1g;パントテン酸カルシウム、1g;ピリドキシン-HCl、1g;チアミン-HCl、1g、およびミオイノシトール、25g。ビタミン溶液のpHを、2MのNaOHにより6.5へ調整した。ビタミン溶液をフィルター滅菌し、4℃で保存した。この培地に、20g/リットルでグルコースを補足した。単一コロニーを2mlの液体培地の中へ最初に接種し、24~36時間培養した。次いで細胞を、最初のOD 0.05で、20mlの培地により100ml振盪フラスコ中で200rpm、30℃で5日間(120時間)増殖させた。
【0179】
0.1mlの液体培養を採取することによって、発酵サンプルを調製した。発酵サンプルに熱水(HW)抽出(Canelas et al[9])を行った。0.9mlのDelft培地を含有するチューブを、100℃で10分間水浴中で予め暖めた。次いで、熱いDelft培地を、0.1mlの発酵サンプルの上に迅速に注ぎ、混合物を直ちにボルテックスで撹拌し、サンプルを水浴中に置いた。30分後に、各々のチューブを5分間氷上に置いた。遠心分離後に、上清を誘導体化のために直接使用した。誘導体化のために、手順はKim et al [2]から適合させた。簡潔には、0.25mlの飽和NaHCO溶液および0.5mlの塩化ダンシル溶液(アセトン中で5mg/ml)を、0.5mlのサンプルへ添加した。次いで反応混合物を、時折振盪して40℃で1時間暗所でインキュベーションした。反応を、0.1mlの25%の水酸化アンモニウム、続いて0.3mlのMeOHの添加によって停止した。25mmのシリンジフィルター(0.45μmナイロン)を介して濾過したサンプルを、Kinetex(登録商標)2.6μm C18 100Åカラム(100×4.6mm、Phenomenex、Torrance、米国)を装備したHPLC検出のために使用した。以下のクロマトグラフィー条件を使用した。励起波長340nm、放射波長515nm、注入したサンプルは10μl、カラム温度40℃、検出器感度7、捕捉は3.4分で開始した。移動相は、1ml/分の速度で水およびメタノールであった。溶出プログラムは以下の通りであった。0~5分、50%~65%のMeOH;5~7.5分、65%~75%のMeOH;7.5~9.5分、75%~87.5%のMeOH;9.5~10.5分、87.5%~100%のMeOH;10.5~11.5分、100%のMeOH;11.5~13.5分、100%~50%のMeOH;13.5~16、50のMeOH。
【0180】
結果を表6中で示す。結果は、CjCASDHおよびCjCASDCまたはVcCASDHおよびVcCASDCのいずれかの過剰発現がスペルミジン産生に正の効果を有し(図3)、42mg/Lのスペルミジンを産生する最も良好な産生する株(SPD12)が有ることを示した。
【0181】
例2
L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドに向けた代謝フラックスの増加による、微生物細胞中でのスペルミジン産生の増加。
本実施例は、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドに向けた代謝フラックスの増加によって微生物細胞におけるスペルミジン産生をさらに増加できることを実証する。これは、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(それはL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドをホモセリンに変換するステップを触媒する)によって触媒される競合反応へのフラックスの低減と組み合わせて、オキサロ酢酸をL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへ変換するための3ステップ経路を過剰発現することによって達成される。
【0182】
オキサロ酢酸からL-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドへのフラックスを増加させるために、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[EC 2.6.1.1]をコードする遺伝子aspB(CgaspB)(配列番号:14)、突然変異T311Iを備えたアスパラギン酸キナーゼ[EC 2.7.2.4]をコードする遺伝子lysC(Cglycm)(配列番号:15)、およびアスパラギン酸-4-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ[EC 1.2.1.11]をコードする遺伝子asd(Cgasd)(配列番号:16)を、酵母細胞中での過剰発現のために選択した。すべての遺伝子を、Genscript(Piscataway、NJ、米国)によってコドン至適化して合成した。Gibsonのアセンブリー方法(Gibson et al[7])を、Cglycm、CgasdおよびCgaspBを過剰発現するプラスミドGP1の構築のために使用した。プラスミドGP1を構築するために、遺伝子Cglycm、CgasdおよびCgaspBを、それぞれPUC57-Cglycm、PUC57-CgasdおよびPUC57-CgaspBから(それぞれプライマーペア180/181、185/184および186/187を使用して)増幅した。プロモーターTDH3p、PGK1pおよびTEF1pを、それぞれプライマーペア25/26、18/19および20/8により酵母CEN.PK113-11CゲノムDNAから増幅した。ターミネーターTDH2t-ADH1tおよびFBA1t-TPI11tを、それぞれプライマーペア182/183および134/194によりプラスミドGO4/YO4(Qin et al[5])から増幅した。TDH3p、Cglycm、TDH2tおよびADH11t(それは互いにオーバーハングを有する)を、融合PCRによって融合し、断片TDH3p-Cglycm-TDH2t-ADH11tを得た。同じ融合PCR手順に従って、Cgasd、PGK1p、TEF1p、CgaspB、FBA1tおよびTPI1tをして、断片Cgasd-PGK1p-TEF1p-CgaspB-FBA1t-TPI1tを構築した。HIS3選択マーカーを含有する酵母2μベクターp423GPDを、骨格プラスミドとして使用した。これらの断片を一緒にアセンブルして、製造者の指示に従ってGibson Assembly Master Mix(New England BioLabs)によってプラスミドGP1を形成した。E.coliから抽出したプラスミドを制限消化およびシーケンシングによって検証した。この実装において使用したすべてのプライマーを、表4中にリストする。
【0183】
L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドをホモセリンへ変換する競合反応に向けたフラックスを減少させるために、この反応をコードする生来の遺伝子(S.cerevisiaeのHOM6)の前へより弱いプロモーターを挿入することによって、この反応を触媒するホモセリンデヒドロゲナーゼ酵素の活性を減少させるように設定した。選択された弱いプロモーターは、KEX2プロモーター(KEX2p)であった。シームレスの遺伝子挿入を、選択マーカー(それはダイレクトリピートの相同組換えによってループアウトされる)としてKluyveromyces lactis URA3(KlURA3)、およびSC+5-FOAプレート上での選択を使用することによって遂行した。プロモーター挿入カセットを融合PCRによって構築した。KEX2p(それはCEN.PK113-11CゲノムDNAから増幅される(プライマーペア201/202による))を、融合PCRによりKlURA3の3’へ融合し(プライマーペア199/200による)、断片KlURA3-KEX2pを得た。プロモーター領域(HOM6 ORFの5’部分)をCEN.PK113-11CゲノムDNAから増幅した。これらの断片を融合PCRによって一緒に融合し、プロモーター挿入断片HOM6p-リピート-KlURA3-KEX2p-5’HOM6(プライマーペア197/204による)を得た。次いでこの断片を使用して、プトレシン産生株PUT-B(KanMX)(MATa SUC2 MAL2-8c ura3-52 his3-Δ1 ARG3p::KEX2p car2Δ::LoxP-CTC1t-AGC1-tHXT7p-TPIp-ORT1-pYX212t ura3::LoxP-TEF1p-GDH1-DIT1t oaz1Δ::LoxP-KanMX-LoxP-TEF1p-SPE1-PRM9t)へ形質転換した。クローンをコロニーPCRによって検証した。後続して、正確なモジュール組み込みを備えた3~5のクローンをYPD液体培地中で一晩培養し、次いでSC-5-FOAプレート上にプレーティングしてKlURA3をループアウトさせた。もう一度、正確なクローンをコロニーPCRにより検証し、株PUT-B(KanMX)-HOM6(MATa SUC2 MAL2-8c ura3-52 his3-Δ1 ARG3p::KEX2p car2Δ::LoxP-CTC1t-AGC1-tHXT7p-TPIp-ORT1-pYX212t ura3::LoxP-TEF1p-GDH1-DIT1t oaz1Δ::LoxP-KanMX-LoxP-TEF1p-SPE1-PRM9t HOM6p::KEX2p)を得た。プラスミドYP2と一緒にプラスミドGP1を、株PUT-B(KanMX)-HOM6の中へ共形質転換し、スペルミジン産生株SPD06を得た。この実装において使用したすべてのプライマーを、表4中にリストする。上の例1中に記載されるように、株を培養および分析した。株SPD06は、L-アスパラギン酸-4-セミアルデヒドに向けたフラックスを増加する操作無しの類似の株よりも、有意に多くのスペルミジンを産生できたことが見出された(図4)。
【0184】
例3
メチオニンサルベージ経路における代謝フラックスの増加による、微生物細胞中でのスペルミジン産生の増加。
本実施例は、メチオニンサルベージ経路におけるフラックスの増加によってスペルミジン過剰産生株におけるスペルミジン産生を有意に改善できること実証する。特に、これは、この経路における律速酵素(メチルチオアデノシンホスホリラーゼ(MTAP)および分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼ(BAT))の活性の増加によって行われた。メチオニンサルベージ経路におけるフラックスの増加はより高いレベルのSAMを可能にし、脱カルボキシル化S-アデノシルメチオニン(dSAM)(それはスペルミジン合成のためのアミノプロピルドナーとして作用する)の増加量をもたらす。スペルミジン蓄積のために以前に操作した酵母株中でのスペルミジン産生に対する、メチオニンサルベージ経路の促進の効果を試験した。
【0185】
MTAP[EC 2.4.2.28]の活性を増加させるために、内在性MEU1遺伝子(ヌクレオチド配列番号:17;対応するタンパク質配列番号:147)を、プラスミドYP6経由の酵母中での過剰発現のために選択した。プラスミドをDNAアセンブラー方法によって構築した。最初に、MEU1およびプロモーターTPIpを、それぞれプライマーペア157/162および156/29を使用して、CEN.PK113-11CゲノムDNAから増幅した。ターミネーターpYX212tを、プラスミドpYX212(プライマーペア15/159による)から増幅した。TPI1p、MEU1およびpYX212t(それは互いにオーバーハングを有する)を、融合PCRによって融合し、断片TPI1p-MEU1-pYX212tを得た(プライマーペア156/159による)。URA3選択マーカーを含有する酵母2μベクターpYX212を使用し、制限酵素SphIおよびEcoRIによる消化によって直線化した。LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法に従って、直線化ベクターを、断片TPI1p-MEU1-pYX212tと共に、S.cerevisiae BY4741の中へ形質転換し、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択した。細胞密度(600nmでのOD)をGENESYS 20分光測光器(Thermo Scientific)によって測定した。Zymoprep Yeast Plasmid Miniprep II kitによって形質転換体から抽出したプラスミドをE.coli DH5αの中へ形質転換し、精製し、プラスミドYP6を得た。
【0186】
BAT[EC 2.6.1.42]の活性を増加させるために、内在性BAT2遺伝子(ヌクレオチド配列番号:18;対応するタンパク質配列番号:148)を、プラスミドYP7経由の酵母中での過剰発現のために選択した。DNAアセンブラー方法をプラスミドYP7の構築のために使用した。BAT2およびプロモーターTPI1pを、それぞれプライマーペア160/161および156/29により、CEN.PK113-11CゲノムDNAから増幅した。ターミネーターpYX212tを、プラスミドpYX212(プライマーペア15/159による)から増幅した。TPI1p、BAT2およびpYX212t(それは互いにオーバーハングを有する)を、融合PCRによって融合し、断片TPI1p-BAT2-pYX212tを得た。URA3選択マーカーを含有する酵母2μベクターpYX212を使用し、制限酵素SphIおよびEcoRIによる消化によって直線化した。LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法に従って、直線化ベクターを、断片TPI1p-BAT2-pYX212tと共に、S.cerevisiae BY4741の中へ形質転換し、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択した。細胞密度(600nmでのOD)をGENESYS 20分光測光器(Thermo Scientific)によって測定した。Zymoprep Yeast Plasmid Miniprep II kitによって形質転換体から抽出したプラスミドをE.coli DH5αの中へ形質転換し、精製し、プラスミドYP7を得た。すべてのプラスミドを消化およびシーケンシングによって検証した。
【0187】
プラスミドYP6またはYP7を、株SPD-B(KanMX)(MATa SUC2 MAL2-8c ura3-52 his3-Δ1 ARG3p::KEX2p car2Δ::LoxP-CTC1t-AGC1-tHXT7p-TPIp-ORT1-pYX212t ura3::LoxP-TEF1p-GDH1-DIT1t oaz1Δ::LoxP-KanMX-LoxP-pYX212t-SPE3-PGK1p-TEF1p-SPE1-PRM9t-DIT1t-SPE2-TDH3p)(それはプトレシン産生の増加に加えて、スペルミジン合成酵素およびS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼの過剰発現経由のプトレシンのスペルミジンへの変換の増加のために以前に操作した)において評価した。この株は例1中で記載されるものと同じ手順を使用して構築した。株SPD-B(KanMX)を、pYX212およびGO4(それぞれ空のプラスミドおよびオルニチン産生のための生合成ステップをコードするプラスミド)、YP6およびGO4、またはYP7およびGO4のいずれかにより形質転換した。これは、それぞれ株SPDC4、SPD07およびSPD08をもたらした。すべての株を、上の例1中で記載されるように、シーケンシングによって検証し、培養および分析によって評価した。結果は、SPDC4は既に高レベルのスペルミジンを産生できたが、MEU1またはBAT2のいずれかの過剰発現経由でメチオニンサルベージ経路を介するフラックスを増加することによって、スペルミジン産生を2倍にできたことを示した(図5)。
【0188】
例4
異種スペルミジン合成酵素の過剰発現およびフェドバッチ発酵による、スペルミジン産生のさらなる増加。
本実施例は、Triticum aestivum(TaSPDS)からの異種スペルミジン合成酵素[EC 2.5.1.16](それはスペルミジン産生をさらに増加するのに生来の酵母SPDSよりも効率的である)の過剰発現と、これまで記載された修飾をさらに組み合わせることができることを実証する。さらに、最も良好な産生株にフェドバッチ発酵を行うことは、スペルミジン産生力価の非常に高い増加を可能にした。
【0189】
したがって、Triticum aestivum(コムギ)からのスペルミジン合成酵素コード遺伝子TaSPDSを選んで、Genscript(Piscataway、NJ、米国)によってコドン至適化して合成した。SPE1(配列番号:20)およびSPE2(配列番号:21)に付随して、TaSPDS(配列番号:19)で、OAZ1遺伝子座中の染色体組み込みに基づいた共過剰発現を行った。プロモーター、ターミネーター、TaSPDS(プライマーペア283/282による)、SPE1、SPE2、KanMXカセット、約300bpの5’OAZ ORF、および約300bpの3’OAZ1 ORFを含有する断片を、例1中で記載されるような方法に従って、一緒に融合した。すべての関連する断片を、L-オルニチンプラットフォーム株ORN-L(MATa SUC2 MAL2-8c ura3-52 his3-Δ1 ARG3p::KEX2p car2Δ::LoxP-CTC1t-AGC1-tHXT7p-TPIp-ORT1-pYX212t ura3::LoxP-TEF1p-GDH1-DIT1t)(Qin et al[5])へ共形質転換した。形質転換体をG418プレート上で選択した。クローンをコロニーPCRによって検証し、株SPD-D(KanMX)(MATa SUC2 MAL2-8c ura3-52 his3-Δ1 ARG3p::KEX2p car2Δ::LoxP-CTC1t-AGC1-tHXT7p-TPIp-ORT1-pYX212t ura3::LoxP-TEF1p-GDH1-DIT1t oaz1Δ::LoxP-KanMX-LoxP-pYX212t-TaSPDS-PGK1p-TEF1p-SPE1-PRM9t-DIT1t-SPE2-TDH3p)を得た。
【0190】
次に、上記の遺伝子MEU1およびBAT2を単一のプラスミド(YP8)へと組み合わせて、DNAアセンブラー方法を経由して構築した。MEU1、BAT2、プロモーターTPI1p、TEF1pおよびPGK1p、ターミネーターFBA1tおよびCYC1tを、上の例3中で記載されるように、表4中でリストしたプライマーにより、CEN.PK113-11CゲノムDNAから増幅した。ターミネーターpYX212tを、上の例3中で記載されるように、表4中でリストしたプライマーにより、プラスミドpYX212から増幅した。TPI1p、MEU1、FBA1t、CYC1t、BAT2、PGK1p、TEF1pおよびpYX212t(それは互いにオーバーハングを有する)を、融合PCRによって融合し、断片TPI1p-MEU1-FBA1t-CYC1t-BAT2-PGK1p-TEF1p-pYX212tを得た。URA3選択マーカーを含有する酵母2μベクターpYX212を使用し、制限酵素SphIおよびEcoRIによる消化によって直線化した。LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法に従って、直線化ベクターを、断片TPI1p-MEU1-FBA1t-CYC1t-BAT2-PGK1p-TEF1p-pYX212tと共に、S.cerevisiae BY4741の中へ形質転換し、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択した。Zymoprep Yeast Plasmid Miniprep II kitによって形質転換体から抽出したプラスミドをE.coli DH5αの中へ形質転換し、精製し、プラスミドYP8を得た。プラスミドを制限消化およびシーケンシングによって検証した。
【0191】
プラスミドYP8を株SPD-D(KanMX)の中へ形質転換し、株SPD10を得て、それは上記のように培養した場合に149mg/Lのスペルミジンを産生することができた。
【0192】
発酵効率を改善し、TYR(力価、収率および速度)を増加するために、グルコース制限フェドバッチ発酵を開発した。好気性フェドバッチプロセスを、0.8リットルの作業体積による1LのDasGipベンチ発酵槽中で遂行した。一体化撹拌機(DasGip、Julich、ドイツ)を使用して、800rpmでの撹拌を保ち、温度を30℃で維持した。通気率を1vvmに設定した。培地のpHを、バッチ相の間に2NのKOHおよび供給相中で3NのKOHの自動添加によって4.0で保った。温度、撹拌、ガス抜き、pHおよびオフガス組成を、DasGipモニタリングおよび制御システムを使用して、モニターおよび制御した。溶存酸素濃度をオートクレーブ可能なポーラログラフ酸素電極(Mettler Toledo、Columbus、OH、米国)によりモニターし、DasGip制御系を使用するスターラー速度およびガス流速によって30%より上に保った。発酵からの流出ガスを、二酸化ジルコニウムおよび2ビーム赤外線センサーに基づいたオフガス分析器GA4を備えたDasGip fedbatch pro(登録商標)ガス分析系によって、酸素およびCO濃度のリアルタイム決定について分析した。
【0193】
フェドバッチ培養を、10g/リットルのグルコースを使用してバッチ培養として開始した。グルコース消費相から産生された残存エタノールが完全に枯渇させられた後でのみ、新鮮培地の供給を開始した。供給ストラテジーを、体積についての増殖速度定数を保ってデザインした。指数関数的供給率ν(t)(リットル/時)を、[10]に従って計算した。
【化1】

式中、x、sおよびVは、フェドバッチプロセスの開始時の、バイオマス密度(g DCW/リットル)、基質濃度(g/リットル)および反応器体積(リットル)であり、Yxsは、呼吸収率係数(gグルコース/g DCW)であり;sは、リザーバー中の増殖制限基質の濃度(gグルコース/リットル)であり;μは供給相の間の特定の増殖率(h-1)であり、tは供給時間であった。上の等式に従って、供給は、0.06 h-1の特異的な供給率により指数関数的に増加した。正確な供給率添加を、fermenter fb-pro software(DasGip)のプログラミングにより得て、DasGip制御系を使用して制御した。
【0194】
バッチ培養のために、Delft培地を使用し、それは以下のものからなっていた(1リットルあたり)。(NHSO、5g;KHSO、3g;MgSO・7HO、0.50g;0.05ml;微量金属、1ml、およびビタミン、1ml。微量金属溶液は以下のものからなっていた(1リットルあたり)。NaEDTA・5HO、19.0g;ZnSO・7HO、0.45g;MnCl・4HO、1g;CoCl・6HO、0.3g;CuSO・5HO、0.3g;NaMoO・2HO、0.4g;CaCl・2HO、0.45g;FeSO・7HO、0.3g;HBO、1g、およびKI、0.10g。微量金属溶液のpHを、乾熱減菌の前に2MのNaOHにより4.0へ調整した。ビタミン溶液は以下のものを含有していた(1リットルあたり)。d-ビオチン、0.05g;p-アミノ安息香酸、0.2g;ニコチン酸、1g;パントテン酸カルシウム、1g;ピリドキシン-HCl、1g;チアミン-HCl、1g、およびミオイノシトール、25g。ビタミン溶液のpHを、2MのNaOHにより6.5へ調整した。ビタミン溶液をフィルター滅菌し、4℃で保存した。この培地に、10g/リットルでグルコースを補足した。フェドバッチ培養のために使用した供給組成物は、上で記載されるものと同じ組成物を有していたが、(NHSO;KHSO;MgSO・7HO、ビタミン溶液および微量金属溶液の濃度を、3~5倍増加し、グルコース濃度を200~600g/リットルに設定した。グルコース制限フェドバッチ発酵は、スペルミジン産生の高い増加を可能にし、スペルミジン力価は1.4g/Lほどに増加した(図6)。
【0195】
例5
スペルミジン産生はS-アデノシルメチオニン合成酵素(MAT)の過剰発現によって増加される。
本実施例は、S-アデノシルメチオニン(SAM)の合成を増加させることによってスペルミジン産生を増加できることを実証する。SAMの合成の増加は、S-アデノシルメチオニン合成酵素(MAT)[EC 2.5.1.6](それはATPのアデノシル基をメチオニンの硫黄原子へ転移してSAMを形成することを触媒する)の過剰発現を介して得られる。スペルミジン産生に対するMAT過剰発現の効果を研究するために、2つの異種MATを酵母Saccharomyces cerevisiae中で発現させた。第1のMATは、リジン18、ロイシン31、イソロイシン65および/またはアスパラギン酸341が、それぞれアルギニン、プロリン、バリンおよびグリシンへと変異される(K18R、L31P、I65V、D341G)、Streptomyces spectabilisからのMAT(SsMAT)(タンパク質配列番号:1)であった。第2のMATは、Leishmania infantum JPCM5(SiMAT、タンパク質配列番号:25)からであった。
【0196】
各々の遺伝子を、S.cerevisiae中での発現のためにコドン至適化して合成した。コドン至適化遺伝子のヌクレオチド配列(制限部位XbaI/XhoIが隣接し、kozak配列を含む)は、SsMATについて配列番号:138およびSiMATについて配列番号:139である。次いで両方の遺伝子を、プライマーHX-fwd/HX-revを使用してPCRによって増幅した。精製PCR産物をXbaI/XhoIを使用して消化し、各々をTEF1プロモーターの制御下のプラスミドp416TEF[11]の中へクローン化し、プラスミドpBPSPD.ST01(SsMATを発現する)およびpBPSPD.ST02(SiMATを発現する)を得た。両方を消化/アガロースゲル電気泳動およびシーケンシングによって確認した。
【0197】
コンストラクトの試験のために使用されたバックグラウンド株は、オルニチンおよびスペルミジン代謝における修飾を含有してスペルミジン産生に向けたフラックスを促進するが、SAM代謝における修飾はない、SPDG(KanMX)であった。この株は、S.cerevisiae TPO4によってコードされたポリアミン輸送体を株SPDG(KanMX)中で過剰発現させることによって得られた。この遺伝子をTPI1プロモーターおよびEND2ターミネーターの制御下で発現させた。この株は例1中で記載されるものと同じ手順を使用して構築した。もたらされた株の遺伝子型は、MATa SUC2 MAL2-8c ura3-52 his3-Δ1 ARG3p::KEX2p car2Δ::LoxP-CTC1t-AGC1-tHXT7p-TPIp-ORT1-pYX212t ura3::LoxP-TEF1p-GDH1-DIT1t oaz1Δ::LoxP-KanMX-LoxP-pYX212t-TaSPDS-PGK1p-TEF1p-SPE1-PRM9t-DIT1t-SPE2-TDH3p-TPIp-TPO4-END2tである。
【0198】
スペルミジン産生に対するMAT過剰発現の効果を試験するために、LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法に従って、株SPDG(KanMX)を、プラスミドp416TEF(対照として使用される空のプラスミド)、プラスミドpBPSPD.ST01、またはプラスミドpBPSPD.ST02のいずれかにより形質転換し、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択した。これは、株SPD13、SPD14およびSPD15(それぞれ)をもたらした。
【0199】
株の性能を、振盪フラスコ培養を経由して三重で比較した。振盪フラスコ培養のために、Delft培地(H)を使用し、それは以下のものからなっていた(1リットルあたり)。(NHSO、7.5g;KHSO、14.4g;MgSO・7HO、0.50g;ヒスチジン、100mg;微量金属、1ml、およびビタミン、1ml。微量金属溶液は以下のものからなっていた(1リットルあたり)。NaEDTA・5HO、19.0g;ZnSO・7HO、0.45g;MnCl・4HO、1g;CoCl・6HO、0.3g;CuSO・5HO、0.3g;NaMoO・2HO、0.4g;CaCl・2HO、0.45g;FeSO・7HO、0.3g;HBO、1g、およびKI、0.10g。微量金属溶液のpHを、乾熱減菌の前に2MのNaOHにより4.0へ調整した。ビタミン溶液は以下のものを含有していた(1リットルあたり)。d-ビオチン、0.05g;p-アミノ安息香酸、0.2g;ニコチン酸、1g;パントテン酸カルシウム、1g;ピリドキシン-HCl、1g;チアミン-HCl、1g、およびミオイノシトール、25g。ビタミン溶液のpHを、2MのNaOHにより6.5へ調整した。ビタミン溶液をフィルター滅菌し、4℃で保存した。この培地に、20g/リットルでグルコースを補足し、pHを6MのKOHを使用して6へ調整した。単一コロニーを3mlの液体培地の中へ最初に接種し、24~36時間培養した。次いで細胞を、最初のOD 0.1で、20mlの培地により100ml振盪フラスコ中で200rpm、30℃で3日間(72時間)増殖させた。
【0200】
株によるスペルミジン産生を例1中で記載されるように分析し、それぞれの培養のODによって正規化した。結果は、いずれかのMATの発現がスペルミジン産生の増加をもたらすことを示した。空のプラスミド(SPD13)のみを保有する対照に比べて、SsMAT(SPD14)の発現はスペルミジン産生を64%増加したが、SiMAT(SPD15)の発現は産生を90%増加した(図8)。
【0201】
例6
スペルミジン産生はキメラメチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)の過剰発現によって増加される。
本実施例は、スペルミジン産生の増加が、メチレンテトラヒドロ葉酸レダクターゼ(MTHFR)[EC 1.5.1.20](それは、5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸の5-メチルテトラヒドロ葉酸(メチオニン生合成においてホモシステインをメチル化するために使用される)への還元を触媒する)の活性の増加によって増加され得ることを実証する。この実施例において、酵母Met13pのN末端触媒ドメインおよびArabidopsis thaliana MTHFR(AtMTHFR-1の)C末端調節ドメイン(ScAtMTHFR;タンパク質配列番号:3)から構成されるキメラMTHFRを使用した。遺伝子を、S.cerevisiae中での発現のためにコドン至適化して合成した。コドン至適化遺伝子のヌクレオチド配列(制限部位XbaI/XhoIが隣接し、kozak配列を含む)は、配列番号:140である。
【0202】
遺伝子を、プライマーHX-fwd/HX-revを使用してPCR増幅した。精製PCR産物をXbaI/XhoIを使用して消化し、TEF1プロモーターの制御下のプラスミドp416TEF[11]の中へクローン化し、プラスミドpBPSPD.ST031を得た。プラスミドpBPSPD.ST03を制限消化およびシーケンシングによって確認し、LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法を使用して株SPDG(KanMX)の中へ形質転換し、続いて、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択し、株SPD16を得た。
【0203】
MTHFR過剰発現の効果を試験するために、株SPD16および株SPD13(MTHFRを過剰発現しない対照株)を例5中で記載されるように培養し、例1中で記載されるように分析した。スペルミジン産生をそれぞれの培養のODによって正規化した。結果は、ScAtMTHFR(株SPD16)の過剰発現が、MTHFRを過剰発現しない株(株SPD13、それは空のプラスミドのみを保有する)に比較して、スペルミジン産生において50%の増加をもたらすことを示し、MTHFR活性の増加はスペルミジン産生に対する正の効果を有することを確認した(図9)。
【0204】
例7
スペルミジン産生は、多剤応答に関与するエクスポーターの調節の原因である転写因子の過剰発現によって増加される。
本実施例は、多剤応答に関与する転写因子(S.cerevisiae PDR1およびPDR2)の過剰発現がスペルミジン産生の増加をもたらすことを実証する。
【0205】
PDR1(ヌクレオチド配列番号:141;対応するタンパク質配列番号:30)およびPDR2(YRR1としても公知である;ヌクレオチド配列番号:142;対応するタンパク質配列番号:129)の各々を、それぞれプライマーPDR1-fwd/PDRR1-revおよびPDR2-fwd/PDRR2-revを使用するPCRによって、S.cerevisiaeゲノムから増幅し、それぞれ制限酵素XbaI/BamHIおよびXhoI/BamHIを使用して、プラスミドp416TEFの中へクローン化した。これはプラスミドpBPSPD.ST04(PDR1を発現する)およびpBPSPD.ST05(PDR2発現する)をもたらした。両方のプラスミドを消化/アガロースゲル電気泳動およびシーケンシングによって確認した。次いで、LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法を使用して、プラスミドを株SPDG(KanMX)の中へ個別に形質転換し、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択し、株SPD17(pBPSPD.ST04を含有する)およびSPD18(pBPSPD.ST05を含有する)をもたらした。
【0206】
株SPD17およびSPD18を、株SPD13(空のp416TEFを保有し任意のPDRを過剰発現しない対照株)と一緒に、例5中で記載されるように培養し、例1中で記載されるように分析した。スペルミジン産生をそれぞれの培養のODによって正規化した。結果は、いずれかのPDRの過剰発現がスペルミジン産生に対して正の効果を有することを示した(図10)。対照(株SPD13、PDR1を過剰発現しない)に比較して、PDR1(株SPD17)の過剰発現はスペルミジン産生において中等度の9%の増加をもたらしたが、PDR2(株SPD18)の過剰発現はスペルミジン産生において93%の増加をもたらした。
【0207】
例8
スペルミジン産生は、RNAポリメラーゼIIメディエーター複合体のサブユニットの過剰発現によって増加される。
本実施例は、RNAポリメラーゼIIメディエーター複合体のサブユニット、特にS.cerevisiae GAL11(配列番号:31で示されるタンパク質配列)の過剰発現がスペルミジン産生に対して正の効果を有することを示す。
【0208】
遺伝子GAL11(ヌクレオチド配列番号:143)を、プライマーGal11fwd/Gal11-revを使用してS.cerevisiae株CEN.PK113-7Dのゲノムから増幅し、制限酵素XbaI/BamHIを使用してプラスミドp416TEFおよびp416CYC[11]の中へクローン化した。これは、プラスミドpBPSPD.ST06(S.cerevisiae TEF1プロモーターの制御下でクローン化されたGAL11を備えた)およびプラスミドpBPSPD.ST07(S.cerevisiae CYC1プロモーターの制御下でクローン化されたGAL11を備えた)をもたらした。両方のプラスミドを消化/アガロースゲル電気泳動およびシーケンシングによって確認した。
【0209】
次いで、LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法を使用して、プラスミドを株SPDG(KanMX)の中へ個別に形質転換し、ウラシル無しのプレート(「SC-URA」)上で選択し、株SPD17(pBPSPD.ST06を含有する)およびSPD20(pBPSPD.ST07を含有する)をもたらした。株SPD19およびSPD20を、株SPD13(空のp416TEFを保有しGAL11を過剰発現しない対照株)と一緒に、例5中で記載されるように培養し、例1中で記載されるように分析した。スペルミジン産生をそれぞれの培養のODによって正規化した。
【0210】
結果は、GAL11の過剰発現がスペルミジン産生に対して正の効果を有することを示した(図11)。対照(株SPD13、GAL11を過剰発現しない)に比較して、TEF1プロモーターの制御下でのGAL11の過剰発現(株SPD19)は、スペルミジン産生において3.4倍の増加をもたらしたが、CYC1プロモーターの制御下でのGAL11の過剰発現(株SPD20)は、スペルミジン産生において2.5倍の増加をもたらした。
【0211】
例9
スペルミン産生の増加のための酵母菌株の構築。
本実施例の目的は、S-アデノシルメチオニン(SAM)レベルの増加の結果として、スペルミン産生の増加を有する株を構築する方法を記載することである。
【0212】
細胞によるスペルミジン産生を増加させるために、遺伝子S.cerevisiae SPE4(ヌクレオチド配列番号:144;対応するタンパク質配列番号:128)によってコードされるスペルミン合成酵素(EC 2.5.1.22)を、過剰発現させることができる。
【0213】
S.cerevisiae中でSPE4を過剰発現させるために、SPE4をS.cerevisiaeのゲノムから増幅し、TEF1プロモーターの制御下でベクターpIYC04[12]の中へクローン化し、プラスミドpIYC04-SPE4を得た。次いでこのプラスミドを、p416TEF(空のプラスミド)またはpBPSPD.ST02(SiMATを発現するp416TEF)のいずれかと共に株SPDG(KanMX)の中へ共形質転換し、それぞれ株SPD21およびSPD22を得た。LiAc/SSキャリアDNA/PEG方法を使用して形質転換を遂行し、ウラシルおよびヒスチジン無しのプレート(「SC-URA-HIS」)上で選択した。もたらされた株を、ヒスチジンを培地へ添加しないこと以外は例5中で記載されているように培養し、例1中で記載されるようにスペルミン産生について分析した。
【0214】
例10
スペルミジン/スペルミン産生の増加のための細菌細胞の構築。
本実施例の目的は、S-アデノシルメチオニン(SAM)レベルの増加の結果として、スペルミン産生の増加を有する細菌株を構築する方法を記載することである。
【0215】
スペルミジン産生の増加を備えたE.coli株を生成するために、株E.coli WL3110(K12 W3110由来(CGSC、Coli Genetic Stock Center)を使用することができる。この株を、内在性または異種のspeE(E.C.:2.5.1.16;配列番号:145)、speD(EC 4.1.1.50;配列番号:146)、およびMAT(EC 2.5.1.6;配列番号:139)遺伝子の過剰発現のためにいずれかプラスミドにより形質転換する。例えば、発現ベクターpTRC-LIC(プラスミド#62343;Addgene(Massachusetts、米国))を使用して、強いPtrcプロモーターの制御下で前述の遺伝子を系統的に共発現させる。クローニングを、発現ベクター(Ptrcプロモーター制御)へ30bpのオーバーハングプライマーを介する標的遺伝子の増幅を経由して行い、Gibsonクローニングアプローチ[13]を経由して実行する。スペルミンのテイラー産生のために、真核生物源からの異種スペルミン合成酵素(E.C.2.5.1.22)を発現させる(例えばS.cerevisiae、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiensに由来するもの)。例えば、スペルミン合成酵素遺伝子SPE4(GI:3201942;ヌクレオチド配列番号:144;対応するタンパク質配列番号:128)を、30bpオーバーハングプライマーによるPCRを使用してS.cerevisiaeゲノムDNA(CEN.PK113-11C)から増幅し、Gibsonクローニング(Gibson et al.2009)を経由して発現ベクターpTRCの中へクローン化した。
【0216】
スペルミジン産生の増加を備えたC.glutamicum株を生成するために、C.glutamicum株ATCC 13032を使用することができる。スペルミジン産生の増加のために、遺伝子speE(配列番号:145)、speD(EC 4.1.1.50;配列番号:146)、およびMAT(EC 2.5.1.6;配列番号:139)を、プラスミドベースの発現を介して過剰発現させることができる。例えば、E.coli-C.glutanicumシャトルベクターpMS2(ATTC(登録商標)67189TM)を、選択マーカーとしてのカナマイシンと共に使用することができる。30bpのオーバーハングプライマーを使用して断片を増幅し、後続して、speE、speDおよびMATを、シャトルベクターpMS2の中へGibsonクローニング[13]を経由してPtac制御下にクローン化し、発現ベクターpFDAMS2を生成する。修飾されたC.glutanicum株のATCC 13032株の中への形質転換後に(上を参照)、Schneider et al.2010[14]中で記載されるように培養する。スペルミンの産生のために、真核生物源からの異種スペルミン合成酵素(E.C.2.5.1.22)をプラスミドベースの発現を経由して発現させる(上を参照)。スペルミン合成酵素は、S.cerevisiae(SPE4、(ヌクレオチド配列番号:144;対応するタンパク質配列番号:128))、Triticum aestivum、Oryza sativa、Glycine max、Citrus sinesis、Homo sapiensに由来し得る。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4-1】

【表4-2】

【表4-3】

【表4-4】

【表4-5】

【表4-6】
【0217】
上で記載される実施形態は、本発明の少数の例示的実施例として理解されるべきである。様々な修飾、組み合わせおよび変化が、本発明の範囲から逸脱せずに、実施形態へ行われて得ることは、当業者によって理解されるだろう。特に、異なる実施形態中の異なる部分の解決法は、技術的に可能なところでは他の配置で組み合わせることができる。しかしながら、本発明の範囲は添付された請求項によって定義される。
【0218】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
0007268019000001.app