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特許7268034多関節支持アームを備える眼の治療装置の移動を制御するためのデバイスおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】多関節支持アームを備える眼の治療装置の移動を制御するためのデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/50 20160101AFI20230425BHJP
   A61F 9/008 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
A61B90/50
A61F9/008 120E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020538897
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2019051876
(87)【国際公開番号】W WO2019145487
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】1850578
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518356419
【氏名又は名称】ケラノヴァ
【氏名又は名称原語表記】KERANOVA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ブーラロ、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ロマノ、ファブリツィオ
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193030(JP,A)
【文献】特表2017-534355(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169135(WO,A1)
【文献】特開2001-061783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0281404(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/00-90/98
A61F 9/007-9/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の治療装置の移動を制御するためのデバイス(5)であって、
前記治療装置は、
-支持アーム(2)であって、当該アーム(2)の自由端が、ヒトまたは動物の眼の組織と一列に並ぶことが意図されており、当該アーム(2)が、3つの直交軸X、YおよびZに沿って2つずつ、当該アーム(2)の自由端の移動を可能にするように関節が付けられており、
・X軸は、水平方向に延びる長手方向を規定し、
・Y軸は、水平方向に延びる横方向を規定し、Y軸とX軸は、水平面XYを規定し、
・Z軸は、垂直方向を規定し、水平面XYに対して垂直である、支持アーム(2)と、
-測定対の取得のために前記アーム(2)に取り付けられる取得システム(4)であって、前記測定対が、
・前記眼の組織の画像と、
・前記アーム(2)の自由端と前記眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を代表するシグナルと
を含む、取得システム(4)と
を備え、
前記制御デバイス(5)は、
-時間経過に伴って、複数の測定対を連続して取得するために前記取得システム(4)を制御する手段と、
-各測定対を処理する手段であって、当該処理手段が、
・現在の測定対から、前記アームの自由端と前記眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を概算する手段と、
・現在の測定対の画像から、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の現在の水平位置と、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを計算する手段と
を含む、処理手段と、
-サーボ制御手段であって、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より大きい場合、現在の水平位置と所望な最終の水平位置との間のずれを小さくするために、水平面XYにおいて前記アーム(2)を水平方向に移動させる命令を作成し、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より小さい場合、及び、概算された前記垂直距離が、第2の閾値より大きい場合、前記アームの自由端と前記眼の組織との間の距離を小さくするために、垂直方向に沿って前記アーム(2)を垂直に移動させる命令を作成し、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より小さい場合、及び、測定された前記垂直距離が、第2の閾値より小さい場合、前記アームを固定する命令を作成する
ためのサーボ制御手段と
を備えることを特徴とする、制御デバイス。
【請求項2】
前記計算手段が、
-現在の測定対の画像から、前記眼の組織の少なくとも1つの目的の点の水平位置を検出する手段と、
-検出された前記目的の点の前記水平位置から、
・水平面XYにおける前記アームの自由端の現在の水平位置と、
・水平面XYにおける前記アームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを評価する手段と
を含む、請求項1に記載の制御デバイス。
【請求項3】
前記検出手段が、取得した画像中の3つの同心円を検出するための形状認識アルゴリズムを実施することによって、取得した画像において前記眼の組織を特定することが可能である、請求項2に記載の制御デバイス。
【請求項4】
前記治療装置は、前記アームの自由端に加えられる機械的な力を測定するために、前記アームの自由端に取り付けられる力センサ(3)をさらに備え、、
-前記処理手段は、前記アームの自由端が、当該アームのZ軸に沿った垂直移動を妨害する要素と接触しているかどうかを判定するために、測定された前記機械的な力と第3の閾値とを比較する手段を含み、
-前記サーボ制御手段は、測定された前記機械的な力が第3の閾値より大きい場合、前記アームを固定する命令を作成するようにプログラミングされている
請求項1~3のいずれか一項に記載の制御デバイス。
【請求項5】
前記取得システムが、Z軸に沿った垂直距離を代表するシグナルを取得するために、
-レーザ測距による取得手段、および/または
-超音波による取得手段、
-画像処理による取得手段
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の制御デバイス。
【請求項6】
前記サーボ制御手段が、前記アームの現在の位置と所望な最終の位置との間の前記アームの移動を可能にする要素移動命令を作成するようにプログラミングされており、前記サーボ制御手段が、それぞれの要素移動命令の後に固定命令を作成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の制御デバイス。
【請求項7】
眼の治療装置の移動を制御する装置作動方法であって、
前記治療装置は、
-支持アーム(2)であって、当該アーム(2)の自由端が、ヒトまたは動物の眼の組織と一列に並ぶことが意図されており、当該アーム(2)が、3つの直交軸X、YおよびZに沿って2つずつ、当該アーム(2)の自由端の移動を可能にするように関節が付けられており、
・X軸は、水平方向の長手方向を規定し、
・Y軸は、水平方向の横方向を規定し、Y軸とX軸は、水平面XYを規定し、
・Z軸は、垂直方向を規定し、水平面XYに対して垂直である、支持アーム(2)と、
-測定対の取得のために前記アーム(2)に取り付けられる取得システム(4)であって、前記測定対が、
・前記眼の組織の画像と、
・前記アームの自由端と前記眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を代表するシグナルと
を含む、取得システム(4)と
を備え、
前記作動方法が、
前記制御装置が、前記取得システムを介し、時間経過に伴って、複数の測定対を連続して取得する段階(802)と、
前記制御装置が、各測定対を処理する段階(803)であって、当該処理段階が、
前記制御装置が、現在の測定対から、前記アームの自由端と前記眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を概算する工程と、
前記制御装置が、現在の測定対の画像から、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の現在の水平位置と、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを計算する工程と
からなる、処理段階と、
前記制御装置が、前記アーム(2)の移動をサーボ制御する段階であって、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より大きい場合、前記制御装置が、現在の水平位置と所望な最終の水平位置との間のずれを小さくするために、水平面XYにおいて前記アーム(2)を水平方向に移動させる命令を作成すること(805)、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より小さい場合、及び、概算された前記垂直距離が、第2の閾値より大きい場合、前記制御装置が、前記アームの自由端と前記眼の組織との間の距離を小さくするために、垂直方向に沿って前記アーム(2)を垂直に移動させる命令を作成すること(808)、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より小さい場合、及び、測定された前記垂直距離が、前記第2の閾値より小さい場合、前記制御装置が、前記アームを固定する命令を作成すること(810)
によりサーボ制御する段階と
を含むことを特徴とする、作動方法。
【請求項8】
前記計算工程が、
-現在の測定対の画像から、前記眼の組織の少なくとも1つの目的の点の水平位置を検出するサブ工程と、
-検出された前記目的の点の水平位置から、
・水平面XYにおける前記アームの自由端の現在の水平位置と、
・水平面XYにおける前記アームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを評価するサブ工程と
を含む、請求項7に記載の作動方法。
【請求項9】
前記検出サブ工程が、取得した画像中の3つの同心円を検出するための形状認識アルゴリズムを実施することによって、取得した画像において前記眼の組織を特定することからなる、請求項8に記載の作動方法。
【請求項10】
前記治療装置が、前記アーム(2)の自由端に加えられる機械的な力を測定するために、前記アーム(2)の自由端に取り付けられる力センサ(3)をさらに備え、
-前記処理段階が、前記アームの自由端が、当該アームのZ軸に沿った垂直移動を妨害する要素と接触しているかどうかを判定するために、測定された前記機械的な力と第3の閾値とを比較する工程を含み、
-前記サーボ制御工程が、測定された前記機械的な力が前記第3の閾値より大きい場合、前記アームを固定する命令の作成を含む
請求項7~9のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項11】
前記取得段階が、
-Z軸に沿った垂直距離を代表するシグナルのレーザ測距による取得、および/または
-Z軸に沿った垂直距離を代表するシグナルの超音波による取得、および/または
-Z軸に沿った垂直距離を代表するシグナルからの、取得した画像の抽出
を含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項12】
前記サーボ制御工程が、
-前記アームの現在の位置と所望な最終の位置との間の前記アームの移動を可能にする要素移動命令を作成すること、
-それぞれの要素移動命令の後に固定命令を作成すること、
-計算された前記水平方向のずれが第1の閾値より小さく、測定された前記垂直距離が第2の閾値より小さくなるまで、前記サブ工程を繰り返すこと
を含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼に対する手術、より具体的には、
- 白内障(水晶体のレベルで)などの眼の前部に対する手術、および/または
- 屈折外科手術(角膜のレベルで)、および/または
- 緑内障または他の網膜の病変を治療することを意図した手術
を行うことが意図された治療機器を用いることによる、眼の病変の治療の一般的な技術分野に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、3つの直交軸X、YおよびZに沿った多関節ロボットアームの移動を可能にするために、多関節ロボットアームに取り付けられた眼の病変の治療システムの移動を制御するためのデバイスおよび方法に関する。
【0003】
本発明は、概して、治療機器が、物理的因子(例えば、光波、超音波、マイクロ波など)によって、眼の中における表面または深部で作動する場合、隣接構造に損傷を与えることなく標的に到達するために、その経路が正確に制御されなければならないとの用途を見出したものである。
【0004】
以下、角膜または水晶体などのヒトまたは動物の組織をフェムト秒レーザによって切断するためのシステムを組み込んだ多関節ロボットアームを備える治療機器を参照しつつ、本発明を説明する。
【0005】
しかし、以下に説明する本発明を、眼の病変を治療するための任意の他の種類のシステムを組み込んだ多関節ロボットアームの移動を制御するために使用してもよいことは、当業者にはきわめて明らかである。
【背景技術】
【0006】
眼の病変の治療のために、レーザを備える多くの治療機器アイテムが存在する。この場合、レーザは光学的なメスとして使用される。
【0007】
このようなレーザは、外科器械を用いることなく、眼の透明組織に、深部で、切開部を作成することができる。このようなレーザは、迅速であり、忍容性が良好であるという利点を有するが、中でも、手術者に依存する手動による外科手術をなくすという利点を有する。
【0008】
したがって、レーザを用いて行われる手術は、非常に正確なものとなり、繰り返すことが可能になる。また、人間の手術者によって行われる動作では達成することができない安全性の保証を与え、その結果、レーザの使用は、ある程度自動化された手術の検討を可能にし、機械が施術者の代わりに外科手術の工程を行う。
【0009】
レーザを備える治療機器が治療手順の工程を行うために、以下の2つの重要な段階が事前に実施されなければならない:
(i)治療手順中に眼が移動するのを防ぐために、また、眼の軸と機械の参照フレームとを整列させるために、眼に治療機器を取り付ける。
このような方法で、機械と眼が整列し、互いに固定され、治療手順中に変形したり、または移動したりする危険がなく、治療を安全に開始することができる。
(ii)レーザ光によって到達される領域を切断または断片化し得るように、この領域の輪郭を描くために、OCT(光干渉断層撮影)またはScheimpflug(可視光マッピング)またはUBM(超音波バイオ顕微鏡)型などの一体化した画像システムによって、患者の眼の眼内構造のマッピングを行う。
【0010】
工程(i)を行うために、患者の眼を吸引し、これを所定位置にしっかりと保持することが可能な吸引リングが設けられた固定部材を、患者の眼に対して位置決めする必要がある。
【0011】
現在のところ、段階(i)および(ii)の間(次いで治療段階の間)に、眼の中で作動し、眼球の固定を必要とする治療機器は全て、手術者によって手動で操作される固定部材が設けられている。
【0012】
このような治療機器は、多くの欠点を有する。
- 固定部材の手動での位置決めは、ある程度の変動が起こり、この変動は、多くの因子に依存する。固定部材の位置決めの質は、特に、手術者によって変わる。
このことは、患者の固定状態における変動を誘発し、治療の質は、固定部材の位置決めの質に非常に依存することが知られている。
- 手術者(例えば外科医)が固定部材の位置決めに必要とする時間は非常に大切であり、したがって、より正確な方法で、繰り返し可能な方法で、そして非常に低い費用で機械に割り当てることが可能な動作を行うことは、非常に高価である。
- 固定部材の操作は、手術者が最適な状態に置かれていなかったり、また眼球を観察したり、固定部材の位置決めが正しいか否かを知ることは様々な障害によって妨害されていることが多いため、行うことが困難なことが多い。
- 手術者の、眼の固定部材の適切な位置決めを判断する能力、空間における基準(センタリングレベル、傾きの存在、回転の存在など)を用いた指標に基づかなければならない視察能力は、きわめて正確なレベルの定義を用いながら、X、YまたはZあるいはトリム位置決めの欠陥を修正することが可能なセンサおよび画像システムが備えられている機械の能力に比べてかなり低い。
- 患者は、手術者のデリカシーに依存して、治療の有効性を損なう可能性がある不快感、損傷、または固定部材の不適切な位置決めを経験する場合がある。
【0013】
本発明の目的は、ロボットの移動、視力、センサ、組み込まれた視力によって作成される画像を解釈する能力、眼球固定部材を位置決めする段階を自動化する能力を有する、知的な自律システムを提案することである。
【発明の概要】
【0014】
この目的のために、本発明は、眼の治療装置の移動を制御するためのデバイスであって、
前記治療装置は、
-支持アームであって、当該アームの自由端が、ヒトまたは動物の眼の組織と一列に並ぶことが意図されており、当該アームが、3つの直交軸X、YおよびZに沿って2つずつ、当該アームの自由端の移動を可能にするように関節が付けられており、
・X軸は、水平方向の長手方向を規定し、
・Y軸は、水平方向の横方向を規定し、X軸と共に水平面XYを規定し、
・Z軸は、垂直方向を規定し、水平面XYに対して垂直である、支持アームと、
-測定対の取得のために前記アームに取り付けられる取得システムであって、前記測定対が、
・前記眼の組織の画像と、
・前記アームの自由端と眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を代表するシグナルと
を含む、取得システムと
を備え、
前記制御デバイスは、
-時間経過に伴って、複数の測定対を連続して取得するために前記取得システムを制御する手段と、
-各測定対を処理する手段であって、当該処理手段が、
・現在の測定対から、前記アームの自由端と前記眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を概算する手段と、
・現在の測定対の画像から、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の現在の水平位置と、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを計算する手段と
を含む、処理手段と、
-サーボ制御手段であって、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より大きい場合、現在の水平位置と所望な最終の水平位置との間のずれを小さくするために、水平面XYにおいて前記アームを水平方向に移動させる命令を作成し、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より小さい場合、また、概算された前記垂直距離が、第2の閾値より大きい場合、前記アームの自由端と前記眼の組織との間の距離を小さくするために、垂直方向に沿って前記アームを垂直に移動させる命令を作成し、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より小さい場合、また、測定された前記垂直距離が、第2の閾値より小さい場合、前記アームを固定する命令を作成する
ためのサーボ制御手段と
を備えることを特徴とする、制御デバイスに関する。
【0015】
したがって、本発明は、治療装置を位置決めする段階を、既存の解決策よりも正確に、繰り返し可能に、低い費用にすることを可能にする。
【0016】
制御デバイスの好ましいが非限定的な態様は、以下のとおりである。
-前記計算手段は、
・現在の測定対の画像から、前記眼の組織の少なくとも1つの目的の点の水平位置を検出する手段と、
・検出された前記目的の点の水平位置から、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の現在の水平位置と、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを評価する手段と
を含んでいてもよく、
-前記検出手段は、取得した画像中の3つの同心円を検出するための形状認識アルゴリズムを実施することによって、取得した画像において前記眼の組織を特定する能力を有し、
-前記治療装置は、前記アームの自由端に加えられる機械的な力を測定するために、前記アームの自由端に取り付けられる力センサをさらに備えていてもよく、
・前記処理手段は、前記アームの自由端が、当該アームのZ軸に沿った垂直移動を妨害する要素と接触しているかどうかを判定するために、測定された前記機械的な力と第3の閾値とを比較する手段を含み、
・前記サーボ制御手段は、測定された前記機械的な力が第3の閾値より大きい場合、前記アームを固定する命令を作成するようにプログラミングされており、
-前記取得システムは、Z軸に沿った垂直距離を代表するシグナルを取得するために、
・レーザ測距による取得手段、および/または
・超音波による取得手段、
・画像処理による取得手段
を含んでいてもよく、
-前記サーボ制御手段は、前記アームの現在の位置と所望な最終の位置との間の前記アームの移動を可能にする要素移動命令を作成するようにプログラミングされていてもよく、前記サーボ制御手段は、それぞれの要素移動命令の後に固定命令を作成する。
【0017】
本発明はまた、眼の治療装置の移動を制御するための方法であって、
前記治療装置は、
-支持アームであって、当該アームの自由端が、ヒトまたは動物の眼の組織と一列に並ぶことが意図されており、当該アームが、3つの直交軸X、YおよびZに沿って2つずつ、当該アームの自由端の移動を可能にするように関節が付けられており、
・X軸は、水平方向の長手方向を規定し、
・Y軸は、水平方向の横方向を規定し、X軸と共に水平面XYを規定し、
・Z軸は、垂直方向を規定し、水平面XYに対して垂直である、支持アームと、
-測定対の取得のために前記アームに取り付けられる取得システムであって、前記測定対が、
・前記眼の組織の画像と、
・前記アームの自由端と前記眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を代表するシグナルと
を含む、取得システムと
を備え、、
前記制御方法が、
-前記取得システムを介し、時間経過に伴って、複数の測定対を連続して取得する段階と、
-各測定対を処理する段階であって、当該処理段階が、
・現在の測定対から、前記アームの自由端と前記眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を概算する工程と、
・現在の測定対の画像から、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の現在の水平位置と、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを計算する工程と
からなる、処理段階と、
-前記アームの移動をサーボ制御する段階であって、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より大きい場合、現在の水平位置と所望な最終の水平位置との間のずれを小さくするために、水平面XYにおいて前記アームを水平方向に移動させる命令を作成すること、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より小さい場合、また、概算された前記垂直距離が、第2の閾値より大きい場合、前記アームの自由端と前記眼の組織との間の距離を小さくするために、垂直方向に沿って前記アームを垂直に移動させる命令を作成すること、
・計算された前記水平方向のずれが、第1の閾値より小さい場合、また、測定された前記垂直距離が、第2の閾値より小さい場合、前記アームを固定する命令を作成すること
によりサーボ制御する段階と
を含むことを特徴とする、方法に関する。
【0018】
制御方法の好ましいが非限定的な態様は、以下のとおりである。
-前記計算工程は、
・現在の測定対の画像から、前記眼の組織の少なくとも1つの目的の点の水平位置を検出するサブ工程と、
・検出された前記目的の点の水平位置から、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の現在の水平位置と、
■水平面XYにおける前記アームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを評価するサブ工程と
を含んでいてもよく、
-前記検出サブ工程は、取得した画像中の3つの同心円を検出するための形状認識アルゴリズムを実施することによって、取得した画像において前記眼の組織を特定することからなっていてもよく、
-前記治療装置は、前記アームの自由端に加えられる機械的な力を測定するために、前記アームの自由端に取り付けられる力センサをさらに備えていてもよく、
・前記処理段階は、前記アームの自由端が、当該アームのZ軸に沿った垂直移動を妨害する要素と接触しているかどうかを判定するために、測定された前記機械的な力と第3の閾値とを比較する工程を含み、
・サーボ制御工程は、測定された前記機械的な力が第3の閾値より大きい場合、前記アームを固定する命令の作成を含み、
-前記取得段階は、
・Z軸に沿った垂直距離を代表するシグナルのレーザ測距による取得、および/または
・Z軸に沿った垂直距離を代表するシグナルの超音波による取得、および/または
・Z軸に沿った垂直距離を代表するシグナルからの、取得した画像の抽出
を含んでいてもよく、
-前記サーボ制御工程は、
・前記アームの現在の位置と所望な最終の位置との間の前記アームの移動を可能にする要素移動命令を作成すること、
・それぞれの要素移動命令の後に固定命令を作成すること、
・計算された前記水平方向のずれが第1の閾値より小さく、測定された前記垂直距離が第2の閾値より小さくなるまで、前記サブ工程を繰り返すこと
を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面から非限定的な例として与えられるいくつかの代替的な実施形態についての以下の説明から明確に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、支持アームと本発明に係る制御デバイスとを備える治療装置を示し、前記アームは、図1では、引っ込められた位置にある。
図2図2は、支持アームと本発明に係る制御デバイスとを備える治療装置を示し、前記アームは、図2では、展開された位置にある。
図3図3は、治療装置に組み込まれた切断システムを模式的に示す。
図4図4は、制御デバイスで実行される制御方法の各工程を模式的に示す。
図5図5は、眼の病変を治療する手順中にアームを移動させる工程を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ヒトまたは動物の眼の組織のための治療装置の移動を制御するデバイスおよび方法に関する。以下の説明において、本発明は、一例として、眼の組織の切断について記載しており、本発明は、任意の他の種類の眼の治療に使用可能であることを理解されたい。
【0022】
図1を参照すると、治療装置の一例が示される。
【0023】
治療装置は、
-移動可能なボックス1と、
-ボックス1に取り付けられた多関節支持アーム2と、
-アーム2に取り付けられた切断システムと、
-アーム2の自由端に取り付けられた力センサ3と、
-アーム2に取り付けられ、画像と、アーム2の自由端と眼の組織との間の距離を代表するシグナルとを取得するための取得システム4と、
-ボックス1に組み込まれ、制御手段と処理手段とを含む制御デバイス5と
を備える。
【0024】
1.移動可能なボックス
ボックス1は、治療機器の移動を可能にする。ボックス1は、特に、車輪11と、金属フレームと、塵または病原性要素が中に留まり、成長するのを防ぐために最小限の凹部が存在するような適切なフェアリングとを備える。
【0025】
ボックス1は、好ましくは、外科的介入中のボックス1の移動を防ぐために、地面に対して固定する手段を備える。
【0026】
ボックス1は、治療機器の種々の要素(例えば、アーム2および制御デバイス5)を保有し、これらに電気エネルギーを供給する手段を備える。
【0027】
ボックス1は、さらに、実施者が治療機器を制御し、および/または患者の眼に適用される治療の進捗を追跡することを可能にする表示入力手段12(例えば、計画コンソール)を備えていてもよい。
【0028】
最後に、ボックス1は、通信手段13を備えていてもよく、遠隔のワークステーション(図示せず)とデータの交換をするためのワイヤを有するか、または有さず、またはボックス1に組み込まれていない場合には、制御デバイス5を備える。
【0029】
2.支持アーム
アーム2は、関節25~27によって接続された(旋回またはボールジョイント接続)いくつかのアームセグメント21~24を備えており、異なるセグメント21~24が互いに対して回転する際に移動が可能となる。
【0030】
それぞれの関節25~27は、動力とブレーキとを備える。有利には、各ブレーキは、電気エネルギーの供給がない場合には、能動的な種類のブレーキである。このことは、例えば、システムの欠陥または停電の場合に、アームの予測されない移動を防ぐことを可能にする。
【0031】
アームの関節の動力とブレーキは、以下を可能にする:
-ボックス1に対するアームセグメント21~24の自動的な移動、および
-ボックス1に対するアームセグメント21~24の固定。
【0032】
特に、アームは、3つの直交軸X、YおよびZに沿ってアームの自由端の移動を可能にするように関節が付けられており、
・X軸は、水平長手方向を規定し、
・Y軸は、水平横方向を規定し、X軸と共に水平面XYを規定し、
・Z軸は、垂直方向を規定し、水平面XYに対して垂直である。
【0033】
アーム2の自由端は、眼の組織を吸引し、これを所定位置にしっかりと保持することが可能な吸引リングが設けられた固定部材を備える。以下に記載する制御デバイスおよび方法は、治療される眼の組織に対し固定部材を自動的に位置決めすることが可能である。
【0034】
図1および図2に示されるように、アーム2は、
-ある介入室から別の介入室へ、および/または介入室内へのその輸送を容易にする引っ込められた位置(図1)と、
-治療される眼の組織に対し、その自由端を位置決めする前の初期の展開された位置(図2)との間を移動することができる。
【0035】
アーム2は、例えば、STAUBLI社によって上市されているTX260Lである。
【0036】
アーム2の移動は、制御デバイス5によって制御され、
-全ての時間に、アームの自由端の空間における現在の位置を決定し、
-所望な最終の位置(固定部材がセンタリングされ、眼の組織と接触する状態にある位置)に到達するように、1つ以上のモータを作動させることによって、アーム2の自由端の現在の位置を調節するための移動命令を作成し、
-ブレーキを作動させることによって、静止したアームを保持するためにアームを固定するための命令を作成する。
【0037】
有利には、アームは、例えば、欠陥または停電の場合に、その移動を手動で可能にするクラッチ解除手段を備えていてもよい。
【0038】
3.切断システム
図3を参照すると、本発明に係る治療装置と共に使用可能な切断システムの一実施形態が示される。切断システムは、
-フェムト秒レーザ100と、
-フェムト秒レーザ100の下流に配置される成形システム200、例えば、液晶空間光変調器(またはSLM)と、
-フェムト秒レーザ100と成形システム200との間にある光カプラ300と、
-成形システム200の下流の光学スキャナ400と、
-光学スキャナ400の下流の光学焦点調整システム500と
を備える。
【0039】
制御デバイス5は、成形システム200、光学スキャナ400および光学焦点調整システム500を操縦することを可能にする。
【0040】
フェムト秒レーザ100は、パルスの形態で初期レーザ光を発生させる能力を有する。「フェムト秒レーザ」とは、非常に短いパルスの形態でレーザ光を発生させることが可能な光源を意味し、その持続時間は、1フェムト秒~100ピコ秒、好ましくは、1~1000フェムト秒、特に、約100フェムト秒程度である。
【0041】
成形システム200は、フェムト秒レーザ100から出る初期レーザ光110の光路にまたがって延びている。成形システム200は、初期レーザ光110を、変調レーザ光210へと変換するのを可能にする。より具体的には、成形システムは、レーザ光110の位相を変調し、このレーザ光のエネルギーを、その焦点面内の複数の衝突点へと分配することを可能にし、この複数の衝突点は、パターンを規定する。言い換えると、成形システム200は、レーザ光の最終的なエネルギー分布を、組織700の切断面に対応する焦点面710内で変調することを可能にする。成形システム200は、フェムト秒レーザ100から出る一次レーザ光110の波面の空間プロファイルを変え、レーザ光のエネルギーを焦点面710内の異なる集光点へと分配するように適合される。したがって、成形システム200は、1つの衝突点を生成する正規分布のレーザ光から、位相マスクを用いて、位相変調によって成形される1つのレーザ光(SLMの上流および下流の1つの光)からその焦点面内のいくつかの衝突点を同時に生成するように、位相変調によってそのエネルギーを分配することを可能にする。
【0042】
光カプラ300は、フェムト秒レーザ100から出るレーザ光110を成形システム200の方へ伝送することを可能にする。光カプラ300は、有利には、光ファイバ、特に、中空コアフォトニック結晶ファイバ(PCF)を備える。中空コアフォトニック結晶ファイバは、中空領域(ファイバのコア)の本質的に内側に光を導く光ファイバであり、その結果、光出力のほんの小さな部分のみが、中実のファイバ材料(典型的にはガラス)内を伝播する。中空コアフォトニック結晶ファイバの魅力は、主に、中空領域内の主な導波が変調レーザ光の非線形の影響を最小限にし、高い損傷閾値を可能にすることである。有利には、中空コアフォトニック結晶ファイバの中空領域は、フェムト秒レーザ100から出るレーザ光の伝播損失を抑えるために、真空下に配置されてもよい。この目的のために、光カプラ300は、中空コアフォトニック結晶ファイバの各末端に密封状態で取り付けられた第1および第2の接続セルを備える。これらの接続セルは、ケーシング1に組み込まれた真空ポンプPに接続され、接続セルでポンピングすることによって、光ファイバの中空コアを真空下に置く。光ファイバ31の各末端で真空ポンピングを行うという事実によって、光ファイバ31の全長にわたって、中空コアを真空下に置くことが容易になる。
【0043】
光学スキャナ400は、変調レーザ光210を偏向し、焦点面710内で、ユーザによってあらかじめ定められた移動経路に沿って、パターンを移動させることを可能にする。
【0044】
光学焦点調整システム500は、光学スキャナ400から出る偏向されたレーザ光410の焦点面710(切断面に対応する)を移動することを可能にする。
【0045】
有利には、成形システム200、光学スキャナ400および光学焦点調整システム500は、アームの末端24に固定されたコンパートメントに取り付けられてもよく、一方、フェムト秒レーザは、ボックス1に組み込まれてもよく、光カプラ300は、ボックス1と末端セグメント24との間に延び、初期レーザ光110をフェムト秒レーザ100と成形システム200との間で伝播してもよい。
【0046】
4.力センサ
力センサ3は、アーム2の移動に抵抗して発生する機械的な力を検出することを可能にし、この力は、障害(物)の存在を反映し、アーム2の末端と眼の組織との間の接触を得ることに対応していてもよい。力センサ3は、アーム2の末端セグメント24に取り付けられていてもよい。
【0047】
力センサ3自体は当業者に知られている種類のものである。力センサ3は、アーム2の末端セグメント24の長手方向軸に沿って加えられる圧縮力および張力を捕捉し、測定する能力を有する。力センサ3は、アーム2の末端セグメント24に取り付けられる1つの(またはそれより多い)歪みゲージを備える。
【0048】
力センサ3によって測定されるそれぞれの機械的な力は、制御デバイス5に送られる。
【0049】
測定された機械的な力の値が、閾値より大きい場合、制御デバイスは、1つ以上の予め決められた作業を行う(アームを固定するための命令の作成、表示入力手段12に対する視覚刺激の発生命令、および/またはボックスに組み込まれたラウドスピーカに対する聴覚刺激の発生命令など)。
【0050】
5.取得システム
取得システム4は、治療される眼の組織に対するアーム2の移動を制御するために使用される測定対を取得することを可能にする。
【0051】
各測定対は、アーム2の自由端に対面して配置される領域の1つの(またはそれより多い)画像を含む。
【0052】
この目的のために、取得システム4は、OCT(光干渉断層撮影)またはScheimpflug(可視光マッピング)またはUBM(超音波バイオ顕微鏡)型の画像取得ユニットを備えていてもよい。このような画像取得ユニットは、アーム2の末端セグメント24(例えば、光学スキャナ400の上流にある)に取り付けられてもよい。この画像取得ユニットは、取得場において眼の組織を特定することが可能となるように、十分に広い取得場を有する(例えば、辺が50cm、距離が30cmの四角形に対応する周囲Pを観察する)ように配置される。有利には、画像取得ユニットは、眼の組織の認識を容易にするために、(同軸または非同軸の)照明手段が設けられていてもよい。
【0053】
各測定対はまた、アームの自由端と眼の組織との間の距離を代表する1つの(またはそれより多い)シグナルを含む。
【0054】
この目的のために、取得システム4は、レーザ測距ユニットまたは超音波測距ユニットまたは画像分析測距ユニット、またはアーム2の自由端とこの自由端に対面して配置される物体との間の距離を代表するシグナルを取得することが可能な、当業者に知られている任意の他の等価なデバイスによる測距を備えていてもよい。このような測距ユニットも、アーム2の末端セグメント24に取り付けられていてもよい。
【0055】
6.制御デバイス
制御デバイス5は、
-力センサ3によって測定される力だけではなく、取得システムに由来する測定対を処理すること、および
-治療装置を構成する種々の要素(アーム2、切断システム(特に、フェムト秒レーザ100、成形システム200、スキャナ400、光学焦点調整システム500、光カプラ300の真空ポンプなど)、力センサ3、取得システム4など)を操縦すること
を可能にする。
【0056】
制御デバイス5は、取得システム4の、制御シグナルの伝送、および力センサ3に由来する取得データの受信を可能にする1つの(またはそれより多い)通信バスによって、これらの種々の要素に接続される。
【0057】
制御デバイス5は、1つの(またはそれより多い)ワークステーションおよび/または1つの(またはそれより多い)コンピュータから構成されていてもよい。制御デバイス5は、治療装置の種々の要素の操縦を可能にし、また力センサ3および取得システム4により取得されたシグナルの処理を可能にするようにプログラミングされたプロセッサを備えている。
【0058】
制御デバイス5は、図4に示される方法を実行するようにプログラミングされている。この目的のために、制御デバイス5は、
-取得システム4を制御する手段と、
-取得システム4によって取得される各測定対を処理する手段と、
-アーム2を移動させ、固定するための命令を作成するサーボ制御手段と
を有する。
【0059】
制御手段は、取得システム4を作動させ、時間経過に伴って、複数の測定対を連続して取得することを可能にする。より具体的には、サーボ制御手段による固定命令のそれぞれの発生の後、制御手段は、新しい測定対の取得のために取得システムから作動シグナルを発する。この新しい測定対は、アームの末端の現在の位置と、その所望な最終位置との間のずれをアップデートするために、処理手段によって処理される。
【0060】
処理手段は、それぞれの取得した測定対から、眼の組織の三次元位置と、アームの末端の三次元位置とを検出する能力を有する。
【0061】
アームの自由端の三次元位置は、構造によって既知である。
【0062】
眼の組織の三次元位置は、その一部について、取得システム4に由来する測定対からの計算によって得られる。例えば、取得システム4によって取得される画像において、処理手段は、眼の典型的な形態(3個の同心円:白色の円(強膜)、その中心に着色した円が存在する(虹彩)、その中心に黒色の円が存在する(瞳))に近い形状を認識することによって、眼の組織、その二次元位置およびその中心を特定することができる。眼の組織の三次元位置を概算するのに必要な第3の座標は、測距ユニットによって取得されるシグナルから推測され、このシグナルは、アームの自由端と眼の組織との間の距離を代表する。
【0063】
取得システム4から受信した各測定対を処理するために、処理手段は、
-現在の測定対から、アームの末端と眼の組織との間のZ軸に沿った垂直距離を概算する手段と、
-現在の測定対の画像から、
・水平面XYにおけるアームの自由端の現在の水平位置と、
・水平面XYにおけるアームの自由端の所望な最終の水平位置と
の間の水平方向のずれを計算する手段と
を備える。
【0064】
サーボ制御手段は、水平面XY内のサーボ制御ループと、Z方向に沿ったサーボ制御ループとを実施するようにプログラミングされている。
【0065】
有利には、XY軸に沿ったアーム2の自由端の移動は、Z軸に沿ったアーム2の移動とは相関関係がない。特に、制御デバイス5は、
-第1に、水平面XYにおけるアーム2の自由端を、所望な最終の水平位置に配置するように移動させ、垂直軸Zに沿った自由端の任意の移動を防ぐ(すなわち、アームの自由端を眼の組織に持って行くことなく)、
-第2に、垂直軸Zに沿ってアーム2の自由端を移動させ、水平面XYにおける自由端の任意の移動を防ぐことによって、接触が得られるまで眼の組織に近づける
ようにプログラミングされる。
【0066】
このことは、患者に対する損傷(例えば、アームの自由端が眼の組織と既に接触している間に、XY面における移動が命令された場合に、患者の眼に対するアームの自由端の摩擦による)の任意のリスクを避けることを可能にする。
【0067】
制御デバイス5のサーボ制御手段は、アームの自由端を、初期の展開された位置から、固定部材がセンタリングされ且つ治療される眼の組織と接触した状態にある所望の最終の位置まで、移動させるための複数の連続した移動命令を作成する能力を有する。
【0068】
より具体的には、アーム2の自由端の現在の位置と所望な最終の位置との間の距離が、閾値より大きい場合、サーボ制御手段は、アームの自由端を所望な最終の位置に持って行くための複数の連続した要素移動命令を作成する。
【0069】
要素移動命令の各ミッションの間、サーボ制御手段は、固定命令を作成し、制御手段は、新しい測定対を取得するために、取得システム4から作動シグナルを発する。このことは、アーム2の移動全体で、患者の頭部の任意の予期せぬ移動を考慮して(この場合、所望な最終の位置はアップデートされ(てい)る)、アームの末端が所望な最終の位置に近づくことの検証を可能にする。
【0070】
7.操作原理
治療機器の操作の原理を、図4および図5を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
【0071】
7.1.治療装置の使用前
上記した治療装置の適切な操作のための前条件として、この装置が使用されるいずれの場所でも、室内の手術機器の位置をフロアマーキングで規定しておく必要があることは明記すべきであろう。この位置は、
-外科医の好み(右または左の位置、前向き、横または後ろ、近くまたは遠く)、
-患者が横たわるベッドの通常の最終位置、
-ベッドの形状、その寸法、その高さ、
-手術機器の作業範囲、またはアームがもはやその標的に到達することができない距離を超えた距離を記号で示しながら、患者の頭部の最終位置が、手術機器のロボットアームの接続点の周囲にセンタリングされる境界内にあることを確実にすることにより、距離拘束を遵守すること
に基づいて規定されるだろう。
【0072】
フロアマーキングが規定されたら、治療装置は、それぞれの使用時に同じ位置に配置される。この方法で、機械に対するそれぞれの患者の相対的な位置、特に、患者の頭部および眼の相対的な位置は、許容され得る誤差範囲を有することが知られており、この誤差範囲は、20センチメートルまでであってもよい。
【0073】
したがって、この装置の人間と機械との調和を介してアクセス可能なパラメータ化によって、本発明のシステム物を用いた眼の治療を受けるために準備している各患者の頭部が配置されるであろう、一辺が50cmの四角形に対応する周囲P(標的の特定の存在の周囲P)の座標を規定することが可能となる。この周囲Pの座標が保存されると、それぞれの使用時に、制御デバイス5は、周囲Pの中央にアームの末端の位置決めを制御する(デフォルトで、および完全なセンタリングを得るのに必要な繰り返しの前に)。この位置は、初期の展開された位置に対応する。
【0074】
固定部材のセンタリングおよび眼の組織への接触は、以下のように行われる。
【0075】
7.2.眼の組織に対するアームの自由端の自動的な位置決め
7.2.1.アームの展開
患者が横たわり、治療装置を所定の位置に置いたら、制御デバイス5は、アーム2の展開を制御する(工程801)。
【0076】
アーム2は、周囲Pの中央にアーム2の自由端を配置する(初期の展開された位置)ように、自動的に移動する(図5の最初の4つの工程に示される通り)。
【0077】
周囲Pの中央に到達したら、サーボ制御ループXYの繰り返しが開始される。
【0078】
7.2.2.XYサーボ制御ループ
XYサーボ制御ループは、それぞれの繰り返しで、
-画像を受信し、
-その分析、
-所望な最終の水平位置の座標XYを特定し、
-アーム2の自由端の現在の水平位置の座標X’、Y’を決定し、そして
-現在の水平位置と所望な最終の水平位置との間のずれを計算し、
-現在の水平位置と所望な最終の水平位置との間の残りの経路を計算し、
-アーム2に1つの(またはそれより多い)移動命令を送り、計算によって決定された経路に沿ってアーム2を移動させ、受信した画像の分析が、所望な最終の水平位置に到達した(X=X’およびY=Y’)と判定するまで、これを行う。次いで、アーム2の自由端は、眼の組織の中央を通る垂直軸と整列する、
といった機能がプログラミングされている。
【0079】
より具体的には、制御デバイス5の制御手段は、取得システム4から作動シグナルを発する。取得システム4は、画像と、アームの末端と眼の組織との間の距離を代表するシグナルを取得する。
【0080】
処理手段は、取得システム4によって取得された測定対を受信し、これを処理する(工程803)。
【0081】
特に、処理手段は、
-取得した画像において眼の組織を検出し、
-眼の組織の中央の位置を決定し、
-この眼の組織の中央の位置を、所望な最終の水平位置に対応するものとして規定し、
-アームの自由端の現在の水平位置を概算し、そして
-現在の水平位置と所望な最終の水平位置とを比較する(工程804)(例えば、現在の水平位置と所望な最終の水平位置との間の距離を計算することによって)。
【0082】
この比較の結果を、サーボ制御手段に送信し、
-現在の水平位置が、所望な最終の水平位置に一致する場合、Zサーボ制御ループの実施を制御し、
-そうでない場合、アーム2を水平方向に移動させる命令を作成する(工程805)。
【0083】
アーム2が、移動命令に従って移動したら、サーボ制御手段は、アーム2を固定するための命令を作成し(工程806)、XYにおいて所望な最終の水平位置にアーム2の自由端が到達するまで、以前の工程(取得システム4を作動し、測定対を処理するなど)が繰り返される。
【0084】
7.2.3.Zサーボ制御ループ
アーム2の自由端が、XYにおいて所望な最終の水平位置と整列したら、Zサーボ制御ループを実行してもよい。
【0085】
Zサーボ制御ループは、それぞれの繰り返しで、
-眼の組織に対するアーム2の末端からの現在の高さデータ(現在の位置Z’-所望な位置Z)を受信し、
-アームの末端の現在の垂直位置と所望な最終の垂直位置との間のずれを計算し、
-現在の垂直位置と所望な最終の垂直位置との間の残りの経路を計算し、
-アーム2に1つの(またはそれより多い)移動命令を送り、位置XYを変えることなく、計算によって決定された経路に沿って、軸Zに対してアーム2を移動させ、力センサ3が、所望な最終の垂直位置に到達したという事実を反映する接触(Z’=Z)を検出するまで、これを行う。次いで、アーム2の自由端が、眼の組織と接触する、
といった機能がプログラミングされている。
【0086】
より具体的には、制御デバイス5の処理手段は、軸Zに沿った垂直距離を代表するシグナルを処理し(工程803)、現在の垂直位置と所望な最終の垂直位置とを比較する(工程807)。
【0087】
この比較の結果を、サーボ制御手段に送信し、サーボ制御手段は、力センサ3によって測定されるシグナルも受信する。サーボ制御手段は、
-現在の垂直位置が、所望な最終の垂直位置と一致する場合、アーム2を固定する命令を作成し(工程810)、
-そうでない場合、アーム2を垂直方向に移動させる命令を作成する(工程808)。
【0088】
アーム2が、垂直移動命令に従って移動したら、サーボ制御手段は、アーム2を固定する命令を作成し(工程809)、現在の水平位置が、常に所望な最終の水平位置に対応するかを確認するために、XYサーボ制御ループの工程を含め、以前の工程が繰り返される。
【0089】
このことは、アーム2の位置決めの手順の間において患者に起こり得る移動を考慮することを可能にする。
【0090】
制御デバイス5は、正確かつセンタリングされた様式で、アームの自由端の位置決めを可能にする。この自由端は、眼の組織の治療を可能にする種々の作業コンポーネントを保有する。
【0091】
施術者にとって有用であり、不安をなくす方法で、図4に示される一連の様々な工程は、制御ペダルによって、および/または音声コマンドによって、および/または触覚検知型または非触覚検知型の人間と機械の調和によって制御することができる。
【0092】
8.結論
上述の本発明は、数秒で、人間の介入なく、迅速、正確、かつ繰り返し可能な様式で、患者の眼に眼球を固定する部材を自動的に位置決めすることを可能にする。その性能は、正確さを得るため、患者または施術者にかかわらず、動作を再現可能にするため、そして施術者を付加価値の低い仕事から免除することによって時間を節約するために、環境とは独立している。
【0093】
本発明はまた、さらなる安全性を提供し、したがって、介入時に患者によって生じるリスクを減らすことを可能にする。
【0094】
読者は、本明細書に記載される新しい教示および利点から物理的に逸脱することなく、上述の本発明に対して多くの改変がなされてもよいことを理解するであろう。例えば、上の記載において、固定部材は、ロボットアームの自由端に取り付けられた。これに代えて、固定部材は、ロボットアームから分離されていてもよい。この場合、固定部材は、ロボットアームの移動の前に、患者の眼に配置され、所望な最終の位置は、ロボットアームの自由端と、眼と接触している固定部材の表面とは反対側の固定部材のもう一方の面と接触することに対応する。結果として、この種の全ての改変は、添付の特許請求の範囲に記載の発明の範囲に組み込まれることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5