(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】置換ハロキノリン誘導体、その調製方法及び適用
(51)【国際特許分類】
C07D 215/44 20060101AFI20230425BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20230425BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C07D215/44 CSP
A61K31/4706
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020557388
(86)(22)【出願日】2019-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2019050175
(87)【国際公開番号】W WO2019134975
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-11-05
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】520100435
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・コート・ダジュール
【氏名又は名称原語表記】Universite Cote d’Azur
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】520244496
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ウニヴェルシテール・ドゥ・ニース
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・パッスロン
(72)【発明者】
【氏名】ラシッド・ベンヒーダ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ダオ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・マルコ・ド・ドナティス
(72)【発明者】
【氏名】アントニー・マルタン
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102249997(CN,A)
【文献】特表2001-500890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0234267(US,A1)
【文献】特表2013-514320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】
(式中、
R
1は、OCH
2CH
2OCH
3又はOCH
3であり、
R'
1は、H又はOHであり、
R
2は、Cl、F、Br又はIであり、
ただし、
R
1がOCH
2CH
2OCH
3である場合、R'
1はHであり、
R
1がOCH
3である場合、R'
1はOHである)
の化合物、またはその薬学的に許容される塩及び/又はその光学異性体、互変異性体、溶媒和物若しくは同位体変種である化合物。
【請求項2】
R
2がClである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
7-クロロ-N-(4-(2-メトキシエトキシ)フェニル)キノリン-4-アミン
である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
7-クロロ-N-(3-(ヒドロキシ)-4-(メトキシ)フェニル)キノリン-4-アミン
である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項5】
がんの処置に使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記がんが固形腫瘍がんである、請求項5に記載
の化合物。
【請求項7】
前記がんが黒色腫、結腸がん、肺がん、膵臓がん、腎臓がん、メルケルがん、有棘細胞がん、前立腺がん、乳がん及び膀胱がんから選択される、請求項5または6に記載
の化合物。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物と、
任意選択で、少なくとも1種の薬学的に許容される担体と
を含む、医薬組成物。
【請求項9】
前記化合物が7-クロロ-N-(4-(2-メトキシエトキシ)フェニル)キノリン-4-アミンである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記化合物が7-クロロ-N-(3-(ヒドロキシ)-4-(メトキシ)フェニル)キノリン-4-アミンである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
少なくとも1種の免疫調節化合物であって、好ましくは免疫調節抗体であり、更により好ましくは抗PD1抗体、抗CTLA4抗体、抗PD-L1抗体及びこれらの2種以上の混合物から選択される抗体である、前記免疫調節化合物、並びに/又は
少なくとも1種の別の治療的処置薬
を追加で含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
治療的処置薬が、抗がん剤、ニトロソウレアアルキル化剤、BRAF阻害剤、MEK阻害剤、抗PD1融合タンパク質、養子細胞療法薬、治療用がんワクチン、T/NK細胞活性化剤から選ばれる、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
がんの処置における、同時、個別又は逐次使用のための組み合わせ調製物としての、請求項8から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記がんが固形腫瘍がんである、請求項13に記載
の医薬組成物。
【請求項15】
前記がんが黒色腫、結腸がん、肺がん、膵臓がん、腎臓がん、メルケルがん、有棘細胞がん、前立腺がん、乳がん及び膀胱がんから選択される、請求項13または14に記載
の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの処置に活性がある新規な置換ハロキノリン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニン細胞の形質転換に起因する皮膚黒色腫は、若年成人の間で最も致死的ながんの1種である。その発生率は、過去数十年間に劇的な速度で増加してきた。黒色腫は、他の臓器への浸潤及び急速な転移を起こす能力が高い。
【0003】
細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)、並びに、より最近ではプログラム細胞死1(PD1)及びプログラム細胞死リガンド1(PDL-1)を標的とする免疫チェックポイント遮断は、がん治療における最近の飛躍的進歩である。当初は、転移性黒色腫の処置のために開発されたが、これらの標的に対する抗体は、患者の全生存率を有意に上昇させ、腎臓、前立腺、結腸、及び肺のがん等の他の固形がんの処置に対しても、現在評価が行われている。抗PD1抗体は、抗CTLA-4抗体よりも良好な結果を示してきたが、がんの種類及び処置の組合せによっては、奏功率は低いままである(10%~57%)。黒色腫の処置には、抗PD1と抗CTLA-4との組合せが、これまでのところ最良の完全奏功率11.5%を挙げているが、グレード3又はグレード4の副作用のほぼ70%の割合に関連している。したがって、これらのアプローチから恩恵を受ける患者はほとんどなく、反応の予測因子は未だに特定されていない。エビデンスの蓄積により、インターフェロンガンマ(IFN-γ)が抗PD1処置に対する反応において重要な役割を果たすことが示唆されている(1~3)。黒色腫の処置に対する全ての免疫ベースのアプローチ(抗PD1を含む)のメタ分析は、白斑脱色素の患者の無進行生存率及び全生存率が他の患者と比較して著しく良好であることを示した(4)。更に、白斑患者は、黒色腫を発症するリスクが3分の1である(5)。益々多くのデータが、白斑脱色素のプロセスに関与するIFN-γ/CXCL10経路が、黒色腫のリスクの決定において重要な役割を果たすことを示している(6)。したがって、IFN-γ反応は、チェックポイント遮断処置アプローチを容易にする主要な要因として関与している。本願の発明者らは最近、非標準的なNF-kB経路の阻害、及び上流のNF-kB-誘導キナーゼ(NIK)の阻害が、EZH2転写の減少を通じて黒色腫細胞における老化プログラムを回復させ、腫瘍成長を有意に抑制することを示した(7)。細胞老化が腫瘍免疫監視を誘導又は増強する可能性があるとのエビデンスが益々増えている(8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第3,538,214号
【文献】米国特許第4,060,598号
【文献】米国特許第4,173,626号
【文献】米国特許第3,119,742号
【文献】米国特許第3,492,397号
【非特許文献】
【0005】
【文献】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第19版(Mack Publishing Company、1995)
【文献】Bioorg. Med. Chem. 2013、21(11)、3147~3153頁
【文献】J. Med. Chem.、2015、58(14)、5522~5537頁
【文献】「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」、Stahl及びWermuth著(Wiley-VCH、Weinheim、Germany、2002)
【文献】J Pharm Sci、64(8)、1269~1288頁、Haleblian著(1975年8月)
【文献】「Pro-drugs as Novel Delivery Systems」、第14巻、ACS Symposium Series(T. Higuchi及びW. Stella)
【文献】「Bioreversible Carriers in Drug Design」、Pergamon Press、1987(E. B Roche編、American Pharmaceutical Association)
【文献】「Design of Prodrugs」、H. Bundgaard著(Elsevier、1985)」
【文献】「Stereochemistry of Organic Compounds」、E. L. Eliel著(Wiley、New York、1994)
【文献】「Chiral Separation Techniques」、G. Subramanian著、John Wiley & Sons、2008
【文献】「Preparative Enantioselective Chromatography」、G. B. Cox著、Wiley、2005
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、転写レベルでEZH2を減少させ、処理された細胞によるIFN-γ反応の産生を誘導する新規なNIK阻害剤を提供する。これらのNIK阻害剤は、特異的毒性を何ら示すことなく皮下腫瘍のサイズを縮小し、抗PD1処置と組み合わせた場合には、腫瘍サイズの劇的な縮小、場合によっては完全な退縮をもたらす。これらの効果は、処理された腫瘍内のM1タイプマクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞及びT細胞の数及び活性化における著しい増大と関連している。
【0007】
本発明は、一般式(I):
【0008】
【0009】
(式中、R1、R'1及びR2は、下記に示す意味を有する)、
の化合物及びこうした化合物を含有する医薬組成物、並びにその使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】化合物42、43(10μM)又はDMSO(対照)と共に96時間インキュベートしたA375がん細胞においてqPCRにより検出されたEZH2のmRNAレベルを示すグラフである。
【
図2】化合物42、43(10μM)又はDMSO(対照)と共に96時間インキュベートしたA375がん細胞においてqPCRにより検出されたp21のmRNAレベルを示すグラフである。
【
図3】化合物42、43(10μM)又はDMSO(対照)で96時間処理したA375がん細胞の上清においてELISAにより検出されたIFN-γレベルを示すグラフである。
【
図4】化合物42及び43を用いたin vitro用量反応試験を示すグラフである。
【
図5】化合物42単独の場合又は抗PD-1抗体と組み合わせた場合のin vivo効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、より詳細には、一般式(I):
【0012】
【0013】
(式中、
R1は、OCH2CH2OCH3又はOCH3であり、
R'1は、H又はOHであり、
R2は、クロロ(Cl)、フルオロ(F)、ブロモ(Br)及びヨード(I)から選択されるハロ基であり、
ただし、
R1がOCH2CH2OCH3である場合、R'1はHであり、
R1がOCH3である場合、R'1はOHである)
の化合物、その薬学的に許容される塩及び/又はその光学異性体、互変異性体、溶媒和物若しくは同位体変種に関する。
【0014】
本発明の有利な実施形態によると、R2のためのハロ基は、クロロ(Cl)である。
【0015】
一般式(I)の化合物は、より詳細には下記の通りである:
- 7-クロロ-N-(4-(2-メトキシエトキシ)フェニル)キノリン-4-アミン(化合物42)、及び
- 7-クロロ-N-(3-(ヒドロキシ)-4-(メトキシ)フェニル)キノリン-4-アミン(5-((7-クロロキノリン-4-イル)アミノ)-2-メトキシフェノールとも称される)(化合物43)。
【0016】
式(I)の化合物、それらの薬学的に許容される塩及び/又は誘導形態(その光学異性体、互変異性体、溶媒和物若しくは同位体変種)は、様々ながんの治療及び予防に好適な、有益な薬学的に活性な化合物である。
【0017】
したがって、本発明はまた、がん、即ち固形腫瘍がん(tumor cancer)、好ましくは黒色腫、結腸がん、肺がん、膵臓がん、腎臓がん、メルケルがん、有棘細胞がん、前立腺がん、乳がん、膀胱がん及びリンパ腫から選択されるがんの処置に使用するための、先に定義した通りの式(I)の化合物、並びに、適切な場合には、それらの薬学的に許容される塩及び/又はその光学異性体、互変異性体、溶媒和物若しくは同位体変種に関する。
【0018】
特定の実施形態において、がんは黒色腫である。
【0019】
一般式(I)の化合物は、単独で投与しても、組み合わせて投与してもよい。これらは、1又は複数種の他の薬物と組み合わせて投与することもできる。
【0020】
一般に、これらは、1又は複数種の薬学的に許容される賦形剤又は担体と共に製剤として投与される。
【0021】
「賦形剤」又は「担体」という用語は、本明細書においては本発明の化合物以外の任意の原材料を記載するために使用される。賦形剤の選択は、特定の投与方法、溶解度及び安定性に対する賦形剤の影響、並びに剤形の性質等の要因に大きく依存することになる。
【0022】
本発明の化合物の送達に好適な医薬組成物及びそれらの調製方法は、当業者には容易に明らかとなる。こうした組成物及びそれらの調製方法は、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第19版(Mack Publishing Company、1995)に見出すことができる。
【0023】
したがって、本発明の別の態様は、先に定義した通りの一般式(I)の化合物と、任意選択で、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物である。
【0024】
本発明の別の有利な実施形態によると、先に定義した通りの医薬組成物は、
- 少なくとも1種の免疫調節化合物であって、好ましくは免疫調節抗体であり、更により好ましくは抗PD1抗体、抗CTLA4抗体、抗PD-L1抗体及びこれらの2種以上の混合物から選択される抗体である前記免疫調節化合物、並びに/又は
- 少なくとも1種の別の治療薬
を追加で含む。
【0025】
「免疫調節化合物」という用語は、ホストの免疫系の成分(例えば、免疫細胞、又は細胞内因子、免疫成分、サイトカイン、ケモカイン若しくはこうした分子を調節する遺伝子)の1又は複数種を調整する化合物を指す。
【0026】
好ましくは、免疫調節化合物は、免疫刺激剤である。免疫調節剤としては、小分子、ペプチド、ポリペプチド、融合タンパク質、抗体を挙げることができるが、これに限定されない。免疫調節抗体は、がん患者において広く持続的な抗がん免疫反応を促進する能力のために、抗がん治療の有望なクラスとなっている。
【0027】
好適な例は、以下の通りである:
- 抗PD1抗体は、ニボルマブ、ピジジルマブ(pidizilumab)、ペムブロリズマブ、チスレリズマブ及びAMP-514、
- 抗CTLA4抗体は、イピリムマブ、
- 抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、ウトミルマブ及びMPDL3280Aである。
【0028】
追加の治療薬も、式(I)の化合物、又はその薬学的に許容される塩、誘導形態若しくは組成物、又は先に列挙した病状の処置のための当技術分野で公知の1又は複数種の化合物であってもよい。
【0029】
例えば、追加の治療薬は、式(I)の化合物とは異なるクラスの治療薬から選択される。
【0030】
式(I)の化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは誘導形態と組み合わせて使用しうる他の治療薬の好適な例としては、以下が挙げられるが、決してこれに限定されない:
- ダカルバジン等のがんの治療に使用される抗がん剤、
- フォテムスチン等のニトロソウレアアルキル化剤、
- ベムラフェニブ又はダブラフェニブ等のBRAF阻害剤、
- トラメチニブ等のMEK阻害剤、
- AMP-224等の抗PD1融合タンパク質、
- 他の免疫チェックポイント遮断剤、又は一般にがんを処置するための免疫アプローチに基づく治療的処置薬、即ち、生物学的若しくは化学的化合物、又は養子細胞療法薬、治療用がんワクチン、T/NK細胞活性化剤等の細胞療法薬。
【0031】
本発明は、より詳細には、がん、即ち固形腫瘍がん、好ましくは黒色腫、結腸がん、肺がん、膵臓がん、腎臓がん、メルケルがん、有棘細胞がん、前立腺がん、乳がん、膀胱がん及びリンパ腫から選択されるがんの処置における、同時、個別又は逐次使用のための組み合わせ調製物としての先に定義した通りの医薬組成物に関する。
【0032】
例えば、特定の疾患又は病状の処置を目的として、活性化合物の組み合わせを投与することが望ましい場合があるので、2種以上の医薬組成物であって、そのうちの少なくとも1種が本発明による化合物を含有する医薬組成物を、組成物の共投与に好適なキットの形態で好都合に組み合わせうることは、本発明の範囲内である。
【0033】
したがって、本発明のキットは、2種以上の別個の医薬組成物であって、そのうちの少なくとも1種が本発明による式(I)の化合物を含有する医薬組成物、及び容器、分割ボトル、又は分割ホイルパケット等の、前記組成物を別個に保持する手段を含む。こうしたキットの例は、錠剤、カプセル剤等の包装に用いられる慣用のブリスタパックである。
【0034】
本発明のキットは、様々な剤形を、例えば非経口投与すること、別個の組成物を異なる投与間隔で投与すること、又は別個の組成物を互いに対して滴定することに特に好適である。服薬遵守を助けるため、キットは、典型的には投与のための指示書を含み、いわゆる記憶補助を備えていてもよい。
【0035】
先に言及したように、式(I)の化合物、又はその薬学的に許容される塩、誘導形態若しくは組成物は、患者に共投与して、がん、即ち固形腫瘍がん、好ましくは黒色腫、結腸がん、肺がん、膵臓がん、腎臓がん、メルケルがん、有棘細胞がん、前立腺がん、乳がん、膀胱がん及びリンパ腫から選択されるがんの処置等の何らかの特に所望の治療的最終結果を得るための1又は複数種の追加の治療薬との組み合わせとして使用することもできる。
【0036】
好ましくは、本発明の化合物は、単独で、又は組み合わせて、黒色腫、結腸がん、肺がん、膵臓がん、腎臓がん、メルケルがん、有棘細胞がん、前立腺がん、乳がん、膀胱がん及びリンパ腫に罹患している転移期の患者に投与される。
【0037】
本明細書において使用する場合、式(I)の化合物及び1又は複数種の他の治療薬について使用される「共投与」、「共投与する」及び「組み合わせて」という用語は、下記を意味することが意図され、下記に指し、下記を含む:式(I)の化合物と治療薬とのこうした組合せの、処置を必要とする患者への同時投与であって、こうした成分を実質的に同じ時点において前記患者に対して放出する単一の剤形に、前記成分が一緒に製剤化されている場合;式(I)の化合物と治療薬とのこうした組み合わせの、処置を必要とする患者への実質的同時投与であって、こうした成分が、前記患者によって実質的に同じ時点において摂取される別個の剤形に互いに別々に製剤化されており、結果として前記成分が実質的に同じ時点において前記患者に対して放出される場合;式(I)の化合物と治療薬とのこうした組み合わせの、処置を必要とする患者への逐次投与であって、こうした成分が、前記患者によって各投与間にかなりの時間間隔を開けて連続した時点において摂取される別個の剤形に互いに別々に製剤化されており、結果として前記成分が実質的に異なる時点において前記患者に対して放出される場合;及び、式(I)の化合物と治療薬とのこうした組合せの、治療を必要とする患者への逐次投与であって、こうした成分を制御された方式で前記患者に対して放出する単一の剤形に、前記成分が一緒に製剤化されており、結果として、前記成分が並行して、連続して並びに/又は同じ時点及び/若しくは異なる時点において前記患者に対して投与され、各部分が、同じ経路又は異なる経路で投与されうる場合。
【0038】
本発明の化合物は、結晶質又は非晶質生成物として投与してもよい。これらは、沈殿、結晶化、凍結乾燥、噴霧乾燥、又は蒸発乾燥等の方法により、例えば、固形プラグ、粉末、又はフィルムとして得てもよい。マイクロ波又は無線周波数乾燥をこの目的のために用いてもよい。
【0039】
本発明の化合物は、任意の好適な経路により投与してもよい。
【0040】
したがって、本発明の化合物は、経口、口腔、経鼻、非経口(例えば静脈内、筋肉内若しくは皮下)、局所若しくは直腸内投与のための、又は吸入若しくは吹送による投与に好適な形態での医薬組成物として製剤化してもよい。
【0041】
経口投与の場合、医薬組成物は、例えば、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン若しくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース若しくはリン酸カルシウム);滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク若しくはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン若しくはデンプングリコール酸ナトリウム);又は湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等の薬学的に許容される賦形剤を用い、従来の手段によって調製された錠剤又はカプセル剤の形態をとってもよい。
【0042】
錠剤は、当技術分野で周知の方法によってコーティングしてもよい。経口投与用の液体調製物は、例えば、液剤、シロップ剤又は懸濁剤の形態をとってもよく、使用前に水又は他の好適なビヒクルと共に構成するための乾燥生成物として提供されてもよい。こうした液体調製物は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、メチルセルロース又は硬化食用脂);乳化剤(例えば、レシチン又はアカシア);非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル又はエチルアルコール);及び保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル若しくはプロピル又はソルビン酸)等の薬学的に許容される添加剤を用い、従来の手段によって調製してもよい。
【0043】
口腔投与の場合、組成物は、従来の方法で製剤化された錠剤又はトローチ剤の形態をとってもよい。本発明の化合物は、当業者に周知の方法に従って徐放用に製剤化することもできる。こうした製剤の例は、米国特許第3,538,214号、第4,060,598号、第4,173,626号、第3,119,742号、及び第3,492,397号に見出すことができ、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0044】
本発明の化合物は、従来のカテーテル技法又は点滴の使用を含む、注入による非経口投与用に製剤化してもよい。注入用製剤は、単位剤形で、例えばアンプルで提供してもよく、保存剤を添加した多用量容器で提供してもよい。組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁剤、液剤又は乳剤等の形態をとってもよく、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤等の配合剤を含有してもよい。或いは、活性成分が、使用前に好適なビヒクル、例えば、滅菌発熱性物質除去水と共に再構成するための粉末の形態であってもよく、非経口製剤は、典型的には塩、炭水化物及び緩衝剤等(好ましくはpHが3~9)の賦形剤を含有してもよい水溶液であるが、用途によっては、滅菌非水溶液として、又は滅菌発熱性物質除去水等の好適なビヒクルと共に使用する乾燥形態としてより好適に製剤化してもよい。
【0045】
ヒト患者への投与の場合、本発明の化合物の一日総用量は、当然ながら投与方法にもよるが、典型的には0.001mg~5000mgの範囲又は0.001mg~10000mgの範囲である。例えば、一日静注用量は、0.001mg~40mgしか要しない場合もある。一日総用量は、単回投与しても、分割投与してもよく、医師の判断で、本明細書に記載の典型的な範囲外となってもよい。
【0046】
これらの投与量は、体重が約65kg~70kgの平均的なヒト対象に基づくものである。医師は、幼児又は高齢者等の、体重がこの範囲外の対象に対する用量を容易に決定することができる。
【0047】
本明細書における「処置」への言及は全て、治癒的、緩和的及び予防的処置を含むことを理解すべきである。
【0048】
以下に続く説明は、式(I)の化合物を適用しうる治療的用途に関する。
【0049】
本発明の更に別の態様はまた、抗がん活性を有する薬物の製造のための、式(I)の化合物、又はその薬学的に許容される塩、誘導形態若しくは組成物の使用に関する。
【0050】
特に、本発明は、がん、即ち固形腫瘍がん、好ましくは黒色腫、結腸がん、肺がん、膵臓がん、腎臓がん、メルケルがん、有棘細胞がん、前立腺がん、乳がん、膀胱がん及びリンパ腫から選択されるがんの処置のための薬物の製造ための、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、誘導形態若しくは組成物の使用に関する。
【0051】
結果として、本発明は、式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩、誘導形態若しくは組成物の有効量を用いてヒトを含む哺乳動物を処置するための特に興味深い方法を提供する。
【0052】
より正確には、本発明は、ヒトを含む哺乳動物におけるがん疾患、特に先に列挙した疾患及び/又は病状の処置ための特に興味深い方法であって、式(I)の化合物、その薬学的に許容される塩及び/又は誘導形態の有効量を前記哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。
【0053】
式(I)の化合物は、特に明記しない限り、従来の手順を用いて、例えば、様々な置換基が式(I)の化合物について先に定義した通りである下記の例示的方法によって調製しうる。
【0054】
したがって、一般式(I)の化合物は、対応する4-クロロ-7-ハロキノリンから出発して、適切なアミンとの芳香族求核置換により調製することができる:
【0055】
【0056】
一般式(I)において、R2=フルオロ又はブロモである化合物は、対応する4-クロロ-7-ハロキノリンから出発して、以前に報告された手順に従い調製することができる(例えば、Bioorg. Med. Chem. 2013、21(11)、3147~3153頁;J. Med. Chem.、2015、58(14)、5522~5537頁参照)。
【0057】
式(I)の化合物の薬学的に許容される塩としては、その酸付加塩及び塩基性塩が挙げられる。
【0058】
好適な酸付加塩は、無毒性の塩を形成する酸から形成される。
【0059】
例としては、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸塩/臭化物、ヨウ化水素酸塩/ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、サッカリン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩及びトリフルオロ酢酸塩、並びにキシナホ酸塩が挙げられる。
【0060】
好適な塩基性塩は、無毒性の塩を形成する塩基から形成される。
【0061】
例としては、アルミニウム、アルギニン、ベンザチン、カルシウム、コリン、ジエチルアミン、ジオラミン、グリシン、リジン、マグネシウム、メグルミン、オラミン、カリウム、ナトリウム、トロメタミン及び亜鉛の塩が挙げられる。酸及び塩基の半塩、例えば、半硫酸塩及び半カルシウム塩もまた形成されうる。
【0062】
好適な塩に関する概説については、「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」、Stahl及びWermuth著(Wiley-VCH、Weinheim、Germany、2002)を参照されたい。
【0063】
式(I)の化合物の薬学的に許容される塩は、3つの方法:
(i)式(I)の化合物を所望の酸又は塩基と反応させること;
(ii)式(I)の化合物の好適な前駆体から酸若しくは塩基に不安定な保護基を除去すること、又は所望の酸若しくは塩基を使用して好適な環状前駆体、例えば、ラクトン若しくはラクタムを開環すること;又は
(iii)式(I)の化合物の1種の塩を、適切な酸若しくは塩基との反応によって、又は好適なイオン交換カラムによって別の塩に変換すること
のうちの1つ又は複数によって調製できる。
【0064】
3つの反応は全て、典型的には溶液中で行われる。結果として得られる塩は沈殿し、ろ過によって収集できるか、溶媒の蒸発によって回収できる。結果として得られる塩のイオン化度は、完全にイオン化した状態からほぼイオン化していない状態まで異なりうる。
【0065】
本発明の化合物は、非溶媒和形態と溶媒和形態の両方で存在してもよい。
【0066】
「溶媒和物」という用語は、本明細書においては、本発明の化合物と化学量論量の1又は複数種の薬学的に許容される溶媒分子、例えばエタノールとを含む分子複合体を記述するために使用される。
【0067】
「水和物」という用語は、前記溶媒が水である場合に採用される。
【0068】
本発明の範囲内に含まれるのは、包接化合物、薬物-ホスト包接錯体等の複合体であり、そこでは、前述の溶媒和物とは対照的に、薬物とホストが化学量論量又は非化学量論量で存在する。更に含まれるのは、2種以上の有機及び/又は無機成分であって、化学量論量又は非化学量論量で存在してもよい成分を含有する薬物の複合体である。結果として得られる複合体は、イオン化されていても、部分的にイオン化されていても、イオン化されていなくてもよい。こうした複合体の概説については、J Pharm Sci、64(8)、1269~1288頁、Haleblian著(1975年8月)を参照されたい。
【0069】
以下、式(I)の化合物に対する言及は全て、その塩、溶媒和物及び錯体、並びにその塩の溶媒和物及び錯体についての言及を含む。
【0070】
本発明の化合物は、上記に定義されるような式(I)の化合物を含み、以下に定義されるようなその多形体及び晶癖、そのプロドラッグ及び異性体(光学異性体、幾何異性体及び互変異性体を含む)、並びに同位体で標識された式(I)の化合物を全て含む。
【0071】
記載したとおり、式(I)の化合物のいわゆる「プロドラッグ」も、本発明の範囲内に含まれる。したがって、それ自体は薬理学的活性をほとんど又は全く持たない可能性のある式(I)の化合物のある特定の誘導体が、身体内又は身体上に投与された場合、例えば加水開裂によって所望の活性を有する式(I)の化合物に変換される可能性がある。こうした誘導体は、「プロドラッグ」と呼ばれる。プロドラッグの使用に関する更なる情報は、「Pro-drugs as Novel Delivery Systems」、第14巻、ACS Symposium Series(T. Higuchi及びW. Stella)、及び「Bioreversible Carriers in Drug Design」、Pergamon Press、1987(E. B Roche編、American Pharmaceutical Association)に見出すことができる。
【0072】
本発明によるプロドラッグは、例えば、式(I)の化合物中に存在する適切な官能基を、例えば、「Design of Prodrugs」、H. Bundgaard著(Elsevier、1985)」に記載されているような「プロ部分」として当業者に公知のある特定の部分で置き換えることによって生成することができる。
【0073】
本発明によるプロドラッグの幾つかの例としては、例えば、式(I)の化合物がアルコール官能基(-OH)を含有する場合、式(I)の化合物のアルコール官能基の水素が(C1~C6)アルカノイルオキシメチルにより置き換えられている化合物が挙げられる。
【0074】
前述の例及び他のプロドラッグタイプの例に従う更なる置換基の例は、前述の参考文献に見出すことができる。
【0075】
本発明の範囲内に更に含まれるのは、式(I)の化合物の代謝産物、即ち、薬物の投与時にin vivoで形成される化合物である。
【0076】
本発明による代謝産物の幾つかの例としては、式(I)の化合物がフェノール部分を含有する場合が挙げられる。
【0077】
1つ又は複数の不斉炭素原子を含有する式(I)の化合物は、2種以上の立体異性体として存在する可能性がある。本発明の範囲内に含まれるのは、式(I)の化合物の全ての立体異性体、幾何異性体及び互変異性型であり、2種以上の異性を呈する化合物、及びその1又は複数種の混合物が含まれる。
【0078】
更に含まれるのは、対イオンが光学的に活性のある酸付加塩若しくは塩基性塩、例えばD-乳酸塩若しくはL-リジン、又はラセミ体、例えばDL-酒石酸塩若しくはDL-アルギニンである。
【0079】
個々のエナンチオマーの調製/単離のための従来の技法としては、好適な光学的に純粋な前駆体からのキラル合成、又は、例えば、キラル高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用したラセミ化合物(又は塩若しくは誘導体のラセミ化合物)の分割が挙げられる。
【0080】
或いは、ラセミ化合物(又はラセミ前駆体)を、好適な光学活性化合物、例えばアルコールと反応させてもよく、式(I)の化合物が酸性又は塩基性部分を含有する場合には、酒石酸又は1-フェニルエチルアミン等の酸又は塩基と反応させてもよい。結果として得られるジアステレオ異性体混合物は、クロマトグラフィー及び/又は分別結晶化により分離してもよく、ジアステレオ異性体の一方又は両方を、当業者に周知の手段によって対応する純粋なエナンチオマーに変換してもよい。
【0081】
本発明のキラル化合物(及びそのキラル前駆体)は、体積で0~50%、典型的には2%~20%のイソプロパノールと、体積で0~5%のアルキルアミン、典型的には0.1%のジエチルアミンとを含有する炭化水素、典型的にはヘプタン又はヘキサンからなる移動相を持つ不斉樹脂上でのクロマトグラフィー、典型的にはHPLC(キラルカラム)を用いて、エナンチオマーが富化された形態で得ることができる。逆相HPLCの場合、CH3CNとH2O、MeOH又はiPrOHとH2Oが、溶媒として使用される。溶出液の濃縮により、富化混合物が得られる。
【0082】
立体異性体の集合体は、当業者に公知の従来の技法によって分離でき、例えば、「Stereochemistry of Organic Compounds」、E. L. Eliel著(Wiley、New York、1994)、「Chiral Separation Techniques」、G. Subramanian著、John Wiley & Sons、2008、「Preparative Enantioselective Chromatography」、G. B. Cox著、Wiley、2005を参照されたい。
【0083】
本発明による薬学的に許容される溶媒和物としては、結晶化溶媒が同位体で置換されうるもの、例えばD2Oが挙げられる。
【0084】
下記の実施例は、式(I)の化合物の調製及びその薬理学的特性を説明する。
【実施例1】
【0085】
本発明の化合物(I)の調製
化合物42及び43を、以下の手順に従い調製した。
【0086】
・7-クロロ-N-(4-(2-メトキシエトキシ)フェニル)キノリン-4-アミン(化合物42)
エタノール中の4,7-ジクロロキノリン(1mmol、1当量)と4-(2-メトキシエトキシ)アニリン(1mmol、1当量)の混合物を、80℃で1時間のマイクロ波照射に供した。混合物を室温に冷却してから酢酸エチルを添加し、結果として得られた沈殿物を収集し、酢酸エチルとジエチルエーテルで洗浄して、更なる精製をすることなく純粋な生成物を得た。
【0087】
【0088】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 14.79 (s, 1H), 11.13 (s, 1H), 8.87 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 8.49 (d, J = 7.1 Hz, 1H), 8.18 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 7.86 (dd, J = 9.1, 2.1 Hz, 1H), 7.40 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.14 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 6.65 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 4.21 - 4.13 (m, 2H), 3.75 - 3.67 (m, 2H), 3.34 (s, 3H).
13C NMR (101 MHz, DMSO) δ 157.2, 154.8, 142.6, 138.5, 137.76, 128.9, 126.7, 126.6, 125.6, 118.6, 115.2, 115.12, 99.5, 69.8, 66.7, 57.7.
MS: ESI (m/z): [M+H]+ C18H17ClN2O2の計算値329.09 実測値329.32
HPLC: 純度 λ254: 99.4%, tR: 3.54
【0089】
・7-クロロ-N-(3-(ヒドロキシ)-4-(メトキシ)フェニル)キノリン-4-アミン(化合物43)(5-((7-クロロキノリン-4-イル)アミノ)-2-メトキシフェノールとも称される)
エタノール中の4,7-ジクロロキノリン(1mmol、1当量)と5-アミノ-2-メトキシフェノール(1mmol、1当量)の混合物を、80℃で1時間のマイクロ波照射に供した。混合物を室温に冷却してから酢酸エチルを添加し、結果として得られた沈殿物を収集し、酢酸エチルとジエチルエーテルで洗浄して、更なる精製をすることなく純粋な生成物を得た。
【0090】
【0091】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 14.41 (s, 1H), 10.88 (s, 1H), 9.56 (s, 1H), 8.76 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 8.49 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 8.10 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 7.86 (dd, J = 9.1, 2.1 Hz, 1H), 7.09 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 6.91 - 6.81 (m, 2H), 6.72 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 3.84 (s, 3H).
13C NMR (101 MHz, DMSO) δ 154.7, 147.1, 146.7, 142.5, 138.5, 137.7, 129.0, 126.6, 125.5, 118.6, 115.7, 115.2, 112.4, 112.3, 99.6, 55.3.
MS: ESI (m/z): [M+H]+ C16H13ClN2O2の計算値301.06 実測値301.14
HPLC: 純度λ254: 99.0%, tR: 3.21
【実施例2】
【0092】
本発明の化合物42及び43のIN VITRO活性
材料及び方法
がん細胞増殖アッセイ(A375、A549、PC3、HT-29、MiaPaca-2及びMCF-7)
試験を行ったがん細胞は、下記の通りである:ヒト黒色腫細胞(A375)、肺がん細胞(A549)、前立腺がん細胞(PC3)、結腸腺がん(HT29)、膵臓がん(MiaPaca2)及び乳がん(MCF-7)。
【0093】
細胞は、Malassezチャンバーを用いて計数した。平均及び標準偏差を、三重反復実験から算出した。抗増殖効果をトリパンブルー色素排除アッセイにより評価した。端的に言えば、細胞を12ウェルプレートに播種し、表示の化合物を追加して1又は10μMとした培地中で48時間又は96時間増殖させた。細胞をPBSで洗浄し、トリプシン処理により分離し、収集してトリパンブルーで着色した。
【0094】
死細胞及び生細胞を計数し、増殖を次のように算出した:増殖(%)=[(処理細胞数/未処理細胞数)×100]。
【0095】
比較として、細胞生存率も判定し、次のように算出した:生存率(%)=100-[(死細胞数/全細胞)×100]。
【0096】
得られた結果をTable 1a(表1)(生存率)及びTable 1b(表2)(増殖)に要約する。
【0097】
メラニン細胞生存率アッセイ(MHN)
細胞生存率効果をトリパンブルー色素排除アッセイにより評価した。端的に言えば、細胞を12ウェルプレートに播種し、表示の化合物を追加して10μMとした培地中で96時間増殖させた。細胞をPBSで洗浄し、トリプシン処理により分離し、収集してトリパンブルーで着色した。死細胞及び生細胞を計数し、細胞生存率を次のように計算した:生存率(%)=100-[(死細胞数/全細胞)×100]。
【0098】
得られた結果をTable 2(表3)に要約する。
【0099】
EZH2及びp21遺伝子発現の定量的RT-PCR分析
RNAeasy minikit(Qiagen社)を用い、製造元の手順に従い全RNAを細胞から単離した。AMV逆転写システム(Promega社)を用いて逆転写を遂行し、Power Sybr green(Applied Biosystems, Life Technologies社、Grand Island、NY)を用い、製造元の指示に従い定量的PCRを遂行した。PCRは、Step One plus Real-Time PCRシステム(Applied Biosystems社)で行った。分析は全て、三重反復で行い、溶融曲線分析を対照に対して遂行して生成物の品質と特異性を求めた。発現レベルを、SB34を正規化群として相対定量の比較法を用いて算出した。データは、スチューデントt-検定を用いて統計的有意性について分析した。結果を、対照に対する平均±SEMとして提示する。
【0100】
EZH2(受入番号NM004456.4)及びp21(CDKN1A)(受入番号 NM078467.2)用のPCRプライマーは、プライマーバンク又はプライマーデポ(http://pga.mgh.harvard.edu/primerbank/、https://primerdepot.nci.nih.gov)から入手し、それらの特異性を、プライマーブラスト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/primer-blast/)を用いて検証した。
【0101】
得られた結果をTable 3(表4)並びに
図1(EZH2)及び
図2(p21)に要約する。
【0102】
ELISA測定
96時間処理した細胞からの上清を、ELISA(peprotech社、カタログ番号900-k27及び900-k98)キットにより、製造元の指示に従い、ヒト又はマウスのIFN-γ含有量について試験を行った。
【0103】
得られた結果をTable 4(表5)及び
図3に要約する。
【0104】
定量的老化関連ベータ-ガラクトシダーゼアッセイ
細胞抽出物中の老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-Gal)の活性を、酵素によって開裂されてフルオロフォア4-メチルウンベリフェロンを生成するまで蛍光を発しない4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシド(4-MUG)の開裂を測定することにより定量化した。フルオロフォアの産生を、報告されているように(Gary及びKindell、2005)、365/460nmの発光/励起波長でモニターした。
【0105】
得られた結果をTable 5(表6)に要約する。
【0106】
ミクロソーム安定性(マウス肝臓ミクロソーム)
ミクロソーム安定性を、37℃でマウス肝臓ミクロソーム(0.5mg/mL)とNADPH補因子(1mM)を用いて評価した。残存する化合物のパーセンテージを、5分の時点でLC-MSよりクロマトグラム上で化合物のピークの下の面積を測定することによって判定する。
【0107】
得られた結果をTable 6(表7)に要約する。
【0108】
結果及び結論
得られた結果をTable 1a(表1)、Table 1b(表2)、Table 2(表3)~Table 6(表7)に要約する。
【0109】
【0110】
【0111】
Table 1a(表1)は、化合物42及び43が、未処理のものと比較して、処理されたがん細胞の生存率に有意に影響しないことを示している。
【0112】
他方、Table 1b(表2)は、化合物42及び43、より詳細には化合物42が、試験を行った全てのがん細胞(ヒト黒色腫細胞(A375)、肺がん細胞(A549)、前立腺がん細胞(PC3)、結腸腺がん(HT29)、膵臓がん(MiaPaca2)及び乳がん(MCF-7))の増殖を強力に抑制することを示している。
【0113】
初期の時点(96時間まで)においては、生存率の低下は観察されない。化合物は、NIKに対して非拮抗阻害を実現し、拮抗NIK阻害剤で観察されるオフターゲット効果なしに強力な選択性をもたらす(9)。EZH2に対するその作用により、NIKの阻害は、p21等の細胞周期に関与する幾つかの重要な遺伝子の脱メチル化をもたらし、そのため、その発現を増加させる。結果として、これまで試験を行った全ての処理された細胞の増殖が強力に抑制される(化合物と細胞株によっては55%から3.5%になる)。
【0114】
【0115】
Table 2(表3)は、化合物42及び43が、ヒトメラニン細胞の生存率に有意に影響しないことを示している。
【0116】
NIK及び下流標的EZH2は、通常の細胞では発現されないか、非常に低レベルである。したがって、本発明の化合物によるNIKの選択的阻害は、正常な細胞を変化させず、メラニン細胞等の正常な細胞の生存率を変更しない。
【0117】
【0118】
Table 3(表4)は、化合物42と共に細胞をインキュベートすると、対照化合物(DMSO)と共にインキュベートした場合比較して、EZH2のmRNA発現の劇的な低下をもたらすことを示している(
図1)。これに対応し、化合物42での処理は、p21 mRNA発現の大幅な増加をもたらす(
図2)。
【0119】
細胞を化合物43で処理すると、p21 mRNA発現の有意な増加と共に、EZH2 mRNA発現のより穏やかな低下が観察された。
【0120】
化合物42及び43は、非標準的なNF-kB経路を調節するNIKを阻害することによって作用し、それが次にEZH2を転写的に阻害する。
【0121】
EZH2は、p21のメチル化を促進してp21を減少させ、IFN-γの転写をそのプロモータへの直接的相互作用によって阻害するため、中心的な標的である。
【0122】
本発明の化合物は、EZH2転写を減少させることによりp21を増加させ、老化を促進する。したがって、それは、処理された細胞の増殖の低下を誘導する。免疫活性化は、処理された細胞によるIFN-γの誘導された分泌によるものである。
【0123】
【0124】
Table 4(表5)は、化合物42及び43、特に化合物42で処理されたA375細胞が、IFN-γを産生及び分泌する一方で、未処理細胞ではIFN-γがほとんど検出できないことを実証している(
図3)。
【0125】
EZH2は、IFN-γの産生を、そのプロモータ部位に直接干渉することにより阻害する。EZH2をその転写レベルで下方制御することにより、化合物は、処理されたがん細胞によるIFN-γの転写及びその産生を誘導する。Table 4(表5)は、対照と比較して、処理されたがん細胞による培地中でのIFN-γの分泌の著しい増加を示している。このIFN-γの局所産生は、in vivoでがん細胞の排除に関与する免疫細胞を引き寄せて活性化するために不可欠である。
【0126】
【0127】
非標準的なNFkB経路の阻害は、p21のメチル化を減少させ、そのためにその発現を増加させることによってEZH2を減少させ、老化プログラムを回復させることが示されてきた(9)。Table 5(表6)は、本発明の化合物(NIKを選択的に阻害することにより非標準的なNFkB経路を阻害する)が、対照と比較して、処理された細胞における老化の著しい増加を誘導することを示している。この老化の増加は、Table 3(表4)に示すp21の発現の増加と合致している。
【0128】
【0129】
Table 6(表7)は、化合物43が、42と比較して高いミクロソーム安定性を呈することを示している(41%対21%)。ミクロソーム安定性は、薬物の最初の経路代謝に対するin vitro評価として機能し、そのため、in vitro肝クリアランスを代表するものであり、in vivo安定性の初期指標である。
【実施例3】
【0130】
本発明の化合物42及び43のIN VITRO活性
黒色腫細胞株A375を段階的濃度の化合物42及び43で96時間処理した。培養期間の終了時に、細胞濃度を判定した。
【0131】
結果は、A375増殖の阻害が、5mM前後の化合物42及び43で開始されることを実証している(
図4参照)。
【0132】
化合物42は、0.42μM、化合物43は、1.83μMのIC50を有する。
【実施例4】
【0133】
本発明の化合物42のIN VIVO活性
B9黒色腫細胞を、皮下接種した。
【0134】
化合物42を、50mg/kgの割合で1日1回IP投与した。抗PD1化合物(BE0146-クローンRMP1-14)を、10mg/kgの割合で1日1回IP投与した。
【0135】
処置は、腫瘍が可視(50から100mm3の間)となったときに施した。
【0136】
【0137】
参考文献:
本願を通して、様々な参考文献が、本発明が関係する先端技術を記述している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み込まれる。
(参考文献)