(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】アグリコシル化抗体生産用形質転換マウスおよびこれから生産されたアグリコシル化抗体の用途
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20230425BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20230425BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
A01K67/027
C12N15/09 Z ZNA
C07K16/00
(21)【出願番号】P 2020568257
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 KR2019006912
(87)【国際公開番号】W WO2019235895
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0065394
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515276624
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・サム・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ホン・コ
(72)【発明者】
【氏名】ナン・エ・イ
(72)【発明者】
【氏名】スン・ヘ・キム
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504060(JP,A)
【文献】Nat. Biotechnol.,2018年,Vol. 36, No. 6,p. 536-539,published online 27 April 2018
【文献】Clinica Chimica Acta,2001年,Vol. 313,p. 15-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C07K 16/00 - 16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgG(immunoglobulin G)遺伝子が変形されたアグリコシル化抗体生産用
のヒトを除く動物モデルであって、
前記変形は、
IgG1重鎖の297番~299番アミノ酸配列をコードする領域を含む塩基のうち、配列番号2に相当する配列の、配列番号40の配列への置換;
IgG2b重鎖の297番~299番アミノ酸配列をコードする領域を含む塩基のうち、配列番号3に相当する配列の、配列番号37の配列への置換;
IgG2c重鎖の297番~299番アミノ酸配列をコードする領域を含む塩基のうち、配列番号4に相当する配列の、配列番号38の配列への置換;および
IgG3重鎖の297番~299番アミノ酸配列をコードする領域を含む塩基のうち、配列番号5に相当する配列の、配列番号39の配列への置換
からなる群より選択される1つ以上の置換により発生したものである、アグリコシル化抗体生産用
のヒトを除く動物モデル。
【請求項2】
前記動物は、ウサギ、ヤギまたはマウスである、請求項1に記載のアグリコシル化抗体生産用
のヒトを除く動物モデル。
【請求項3】
請求項1に記載の
ヒトを除く動物モデルに診断しようとする抗原を投与するステップを含む抗原に対するアグリコシル化抗体の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アグリコシル化抗体生産用形質転換マウス、これから生産された目的抗原に対するアグリコシル化抗体および生産されたアグリコシル化抗体で糖タンパク質バイオマーカーを分析して疾病を診断する方法に関する。
【0002】
本発明は、韓国科学技術情報通信部の課題番号NRF-2016M3A9B6903343、「アグリコシル化抗体生産システムのエンジニアリングによる正確な癌診断の開発」による韓国政府の支援を受けて行われた。
【0003】
また、本発明は、韓国国家科学技術研究会の課題番号CAP-15-03-KRIBB、「非臨床研究のためのグリカン-ヒト化モデルマウスの生成」による韓国政府の支援を受けて行われた。
【0004】
さらに、本発明は、韓国科学技術情報通信部の課題番号KGM5181813、「KRIBB研究イニシアチブプログラム(2015-2018)」による韓国政府の支援を受けて行われた。
【背景技術】
【0005】
疾病診断のためのマーカーとして糖タンパク質(glycoprotein)、疾病特異的抗原などが用いられている。例えば、前立腺癌の前立腺-特異的抗原(prostate-specific antigen、PSA)、大膓癌の癌胎児性抗原(carcinoembryogenic antigen、CEA)、睾丸癌および肝癌診断のためのアルファ-胎児タンパク質(alpha-fetoprotein;AFP)などがある。これらのマーカーは、疾病の進行過程でマーカーの量的増加だけでなく、タンパク質に結合している糖鎖も変化することが知られている。
【0006】
免疫グロブリン(immunoglobulin、Ig、抗体)は、疾病診断分野で幅広く用いられるものであり、IgG類型の抗体が診断市場を最も大きく占めている。IgGは二硫化結合で連結された2個の重鎖(heavy chain)と2個の軽鎖(light chain)とからなる。IgGは、重鎖のCH2不変ドメイン(constant domain)に存在するAsn297サイトに糖鎖修飾が起こる(N-糖質化)。N-糖質化はAsn-X(Proの他)-Ser/Thrという保存された配列(consensus sequence)で起こる。糖タンパク質を標的とする疾病診断分野において、IgGの糖鎖は診断結果を乱す重要な要素である。一例として、レクチン(lectin)は、糖タンパク質などの糖鎖を確認するために使用されるが、IgGの糖鎖にまで交差結合して分析結果を混同させることがある。この問題を解決するために、抗体の糖鎖部分を除去しようとする努力がなされてきており、PNGase切断法、ペプシン切断法、クロス-リンカー(cross-linker)方法などが行われていた。しかし、これらの方法は、酵素反応と化学反応の効率が完璧でなく、処理後にIgGの回収が難しいという限界があった。したがって、抗体の糖鎖問題を根本的に解決する必要が要求されている。
【0007】
本発明者らは、マウスのゲノムDNAにおいてIgG遺伝子を編集して抗体のN-糖質化配列を無糖質化配列に変形させた。また、このように作製されたマウスから抗体を生産して、生産された抗体がアグリコシル化抗体であることを究明し、これを用いてELISAとCLIA方法でAFP-L3を定量的に分析できることを証明することにより、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】JU, M.-S.等 A glycosylated full-length IgG antibodies: steps toward next-generation immunotherapeutics. Current opinion in biotechnology. 2014 [2014年7月16日電子出版]. Vol. 30, 128-139頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一つの目的は、IgG(immunoglobulin G)遺伝子を暗号化するDNAに混成化する1つ以上のgRNA(guide RNA)を暗号化するヌクレオチド配列;Cas9タンパク質を暗号化するヌクレオチド配列;ABE(adenine base editor)を暗号化するヌクレオチド配列;および前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む組換え発現ベクターまたは前記組換え発現ベクターから生産されたRNAを提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、前記組換え発現ベクターまたはRNAが導入されたアグリコシル化抗体(aglycosylated antibody)生産用動物モデルの作製用形質転換細胞株または受精卵を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記受精卵をヒトを除く動物である代理母の卵管に移植するステップを含むアグリコシル化抗体生産用動物モデルの製造方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、IgG(immunoglobulin G)遺伝子の変形で得られたアグリコシル化抗体生産用動物モデルを提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記動物モデルに診断しようとする抗原を投与するステップを含む抗原に対するアグリコシル化抗体の生産方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、前記アグリコシル化抗体の生産方法で生産されたアグリコシル化抗体を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記アグリコシル化抗体;および糖タンパク質バイオマーカーを含む免疫診断キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様は、IgG(immunoglobulin G)遺伝子を暗号化するDNAに混成化する1つ以上のgRNA(guide RNA)を暗号化するヌクレオチド配列;Cas9タンパク質を暗号化するヌクレオチド配列;ABE(adenine base editor)を暗号化するヌクレオチド配列;および前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む組換え発現ベクターまたは前記組換え発現ベクターから生産されたRNAを提供する。
【0017】
本発明の一具体例によれば、前記IgGは、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2cおよびIgG3からなる群より選択される1つ以上のサブクラスのIgGであってもよい。
【0018】
本発明の一具体例によれば、前記gRNAは、配列番号2~5からなる群より選択されるいずれか1つの配列に相補的なヌクレオチド配列を含むことができる。
【0019】
本発明の他の態様は、前記組換え発現ベクターまたはRNAが導入されたアグリコシル化抗体(aglycosylated antibody)生産用動物モデルの作製用形質転換細胞株または受精卵を提供する。
【0020】
本発明のさらに他の態様は、前記受精卵をヒトを除く動物である代理母の卵管に移植するステップを含むアグリコシル化抗体生産用動物モデルの製造方法を提供する。
【0021】
本発明の一具体例によれば、前記動物は、ウサギ、ヤギまたはマウス(mouse)であってもよい。
【0022】
本発明の一具体例によれば、前記アグリコシル化抗体の生産は、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2cおよびIgG3からなる群より選択される1つ以上のサブクラスのIgGの変形によるものであってもよい。
【0023】
本発明の一具体例によれば、前記変形は、配列番号2に相当する配列の、配列番号40の配列への置換;配列番号3に相当する配列の、配列番号37の配列への置換;配列番号4に相当する配列の、配列番号38の配列への置換;および配列番号5に相当する配列の、配列番号39の配列への置換からなる群より選択される1つ以上の置換により発生したものであってもよい。
【0024】
本発明のさらに他の態様は、IgG(immunoglobulin G)遺伝子が変形されたアグリコシル化抗体生産用動物モデルを提供する。
【0025】
本発明の一具体例によれば、前記変形は、IgG1重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸Nの他のアミノ酸への置換;IgG2a重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸Nの他のアミノ酸への置換;IgG2b重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸Nの他のアミノ酸への置換;IgG2c重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸Nの他のアミノ酸への置換;およびIgG3重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸Nの他のアミノ酸への置換からなる群より選択される1つ以上の置換により発生したものであってもよい。
【0026】
本発明の一具体例によれば、前記N-S-T配列は、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2cおよびIgG3からなる群より選択されるいずれか1つのIgG重鎖の297番~299番アミノ酸配列であってもよい。
【0027】
本発明の一具体例によれば、前記変形は、配列番号2に相当する配列の、配列番号40の配列への置換;配列番号3に相当する配列の、配列番号37の配列への置換;配列番号4に相当する配列の、配列番号38の配列への置換;および配列番号5に相当する配列の、配列番号39の配列への置換からなる群より選択される1つ以上の置換により発生したものであってもよい。
【0028】
本発明の一具体例によれば、前記動物は、ウサギ、ヤギまたはマウスだけでなく、抗体を生産できるすべての動物であってもよい。
【0029】
本発明のさらに他の態様は、前記動物モデルに診断しようとする抗原を投与するステップを含む抗原に対するアグリコシル化抗体の生産方法を提供する。
【0030】
本発明のさらに他の態様は、前記アグリコシル化抗体の生産方法で生産されたアグリコシル化抗体を提供する。
【0031】
本発明のさらに他の態様は、前記アグリコシル化抗体;および糖タンパク質バイオマーカーを含む免疫診断キットを提供する。
【0032】
本発明の一具体例によれば、前記糖タンパク質バイオマーカーは、レクチンによって検出される。
【0033】
本発明の一具体例によれば、前記レクチンは、L4-PHA(Phytohemagglutinin-L4)、LCA(lens culinaris agglutinin)、DSA(Datura stramonium agglutinin)、AAL(Aleuria aurantia agglutinin)、セレクチン(Selectin)、Con A(Concanavalin-A)、WGA(Wheat germ agglutinin)、ジャカリン(Jacalin)、SNA(Sambucus Nigra agglutinin)またはガレクチン(galectin)であってもよい。
【0034】
本発明の一具体例によれば、前記糖タンパク質は、AFP-L3であってもよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明の形質転換マウスを用いれば、多様な目的抗原に対するアグリコシル化抗体を容易に生産することができ、生産されたアグリコシル化抗体で糖タンパク質バイオマーカーを精密に検出して疾病診断の精密化をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】レクチンは被分析物が存在しなくても捕獲抗体に結合できることを示す模式図である。
【
図2】適切なレクチンおよびアグリコシル化抗体を用いる免疫分析プラットフォームであるALIQUAT(Aglycosylated antibody-Lectin coupled Immunoassay for the QUAntification of Tumor marker)による特定のグリコフォーム(glycoform)分析方法を示す模式図である。
【
図3】IgG2c、IgG2b、IgG1およびIgG3に共通して存在するN-S-T配列を示す図である。
【
図4】ARMS(amplification refractory mutation system)およびPCRを用いて編集された突然変異のスクリーニング過程を示す模式図である。
【
図5】アデニン塩基編集過程の後に生まれた9個のpupのIgG2c遺伝子に対するサンガー配列分析の結果を示す図である。
【
図6】アデニン塩基編集過程の後に生まれた9個のpupのIgG2b遺伝子に対するサンガー配列分析の結果を示す図である。
【
図7】アデニン塩基編集過程の後に生まれた9個のpupのIgG3遺伝子に対するサンガー配列分析の結果を示す図である。
【
図8】アデニン塩基編集により編集されたIgG2cの塩基配列を示す図である。
【
図9】アデニン塩基編集により編集されたIgG2bの塩基配列を示す図である。
【
図10】アデニン塩基編集により編集されたIgG3の塩基配列を示す図である。
【
図11】IgG2cおよびIgG3におけるpup(#11)のサンガー配列分析の結果を示す図である。
【
図12】intermediate founderを選択するためのIgGの構造分析の結果を示す図である。(a)野生型IgGタンパク質構造はAsn残基にN-グリコシル化されたN-S-Tの保存されたモチーフを示す。(b)N-グリコシル化のない突然変異D-S-TおよびG-S-T抗体の仮想IgG2構造を示し、G-S-Tモチーフはβ-サンドイッチフォールドの構造的変形をもたらすことが分かる。
【
図13】アデニン塩基編集により編集されたIgG1の塩基配列を示す図である。
【
図14】ゲノム編集されたマウスと野生型マウスにおいて生産される抗体がIgG発現の同一のプロファイルを示すことを示す図である。また、IgG2bおよびIgG3遺伝子がノックアウトされたマウスにおいて、相応するサブクラス(subclass)の生産に欠陥を示す図である。
【
図15】IgG2b遺伝子がノックアウトされたマウスにおいて、相応するサブクラス(subclass)の遺伝子の欠陥を示す図である。
【
図16】IgG3遺伝子がノックアウトされたマウスにおいて、相応するサブクラスの遺伝子の欠陥を示す図である。
【
図17】肝細胞癌腫(hepatocellular carcinoma)の癌マーカーであるヒトAFPをモデル抗原として前記アグリコシル化抗体生産用動物に投与し、各免疫ステップで血清を採取してhAFPに対するdirect ELISA分析を行った結果、時間の経過により増加した反応性を示すグラフである。
【
図18】hAFPに対して特に特異的な抗体を生成するハイブリドーマクローンを示す図である。
【
図19】1E5、2A2および3A5クローンのIgG1サブクラスおよびカッパ(kappa)軽鎖の単クローン抗体の分泌を示す図である。
【
図20】1E5抗体の重鎖にはN-グリカンがないことを示す図である。
【
図21】1E5、2A2および3A5クローンの無糖質化(aglycosylation)を示す図である。
【
図22】フレームシフトナンセンス突然変異を有するFUT8
-/-突然変異細胞株クローンの遺伝子型を示す図である。
【
図23】FUT8
-/-HEK293-T細胞に対するPhoSLの結合性がないことを示す図である。
【
図24】AFPの他のglycoformを定量化するために、抗-hAFP抗体を用いて免疫ブロット分析した結果を示す図である。
【
図25】FUT8
-/-細胞におけるAFP-L3は現れず、野生型細胞におけるAFP-L3の生成比率は99.5%であることを確認した質量分析の結果を示す図である。
【
図26】有効性が確認された市販の抗体と比較して、0~20ng/mL AFPの範囲で優れた線形性を示すアグリコシル化抗体に対する標準曲線分析の結果を示すグラフである。
【
図27】L3陽性AFPサンプルに対するAALおよびアグリコシル化抗体を用いたレクチンELISA分析による敏感性と線形性に優れた標準曲線を示すグラフである。
【
図28】AFP-L3標準分子を1.0ng/mL未満のAFPレベルを示す正常血清にスパイクした場合、0~100ng/mLの範囲で良好な線形性を有する標準曲線を示すグラフである。
【
図29】アグリコシル化抗体ベースのレクチン-ELISA hAFPテストとμ-TAS分析によるAFPの濃度に対する%AFP-L3値を示すグラフである。
【
図30】熱条件に対するアグリコシル化抗体の安定性を示す図である。
【
図31】pH条件に対するアグリコシル化抗体の安定性を示す図である。
【
図32】酸化条件に対するアグリコシル化抗体の安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の一態様は、IgG(immunoglobulin G)遺伝子を暗号化するDNAに混成化する1つ以上のgRNA(guide RNA)を暗号化するヌクレオチド配列;Cas9タンパク質を暗号化するヌクレオチド配列;ABE(adenine base editor)を暗号化するヌクレオチド配列;および前記ヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含む組換え発現ベクターまたは前記組換え発現ベクターから生産されたRNAを提供する。
【0038】
本明細書では、アデニン塩基編集システム(adenine base editing system)を活用して細胞株または受精卵のIgG遺伝子を特異的に変形させるか、または形質転換体細胞複製手法の適用によって、ヒトを除く動物である代理母の卵管に受精卵を移植するステップを含むアグリコシル化抗体生産用動物モデルの製造方法、アグリコシル化抗体を生産する形質転換動物を生産する方法、および形質転換動物から生産されたアグリコシル化抗体の用途が提供される。
【0039】
本発明で使われる用語、「アデニン塩基編集システム(adenine base editing system)」は、nickase Cas9-hypothetical deoxyadenosine deaminase融合タンパク質(adenine base editor;ABE)とgRNA(guide RNA)から構成される単一塩基校正誘導システムであって、微生物の免疫体系として知られたCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)とhypothetical deoxyadenosine deaminaseシステムを用いて、所望の遺伝子塩基配列のうちアデニンをDNAの切断なしにグアニンに置換するように考案されたゲノム編集システムをいう。
【0040】
本発明で使われる用語、「adenine base editor(ABE)」は、adenine base editingシステムにおいて必須のタンパク質要素であって、nickase-Cas9 hypothetical deoxyadenosine deaminase融合タンパク質であり、gRNAと複合体を形成して単一塩基校正を誘導することができる。前記ABEタンパク質は2017年にDavid R.Liuによって開発されたものであってもよい。
【0041】
本発明で使われる用語、「base editor」は、既存のCRISPR/Cas9システムに対比して、ゲノムDNAにおいてより効率的に変形を媒介するタンパク質をいい、具体的には、「G-C to A-T」あるいは「A-T to G-C」転換が可能な塩基編集システム(base editing system)に使用される。本発明では、なかでも「A-T to G-C」転換を誘導するadenine base editorを用いてIgG遺伝子の変形を誘導した。
【0042】
本発明で使われる用語、「gRNA」は、標的DNAに相補的に結合可能な塩基配列を含むRNAであり、gRNAは、Cas9タンパク質あるいはadenine base editor内のnickase-Cas9部分と複合体を形成することができ、Cas9タンパク質あるいはadenine base editorタンパク質を標的DNAに持ち込むことが可能な単鎖RNAをいう。
【0043】
本発明の組換え発現ベクターまたはRNAを用いて受精卵または細胞を形質転換すれば、細胞内にgRNA断片を伝達することができ、伝達されたgRNA断片はIgG遺伝子を認識することができる。したがって、組換え発現ベクターまたはRNAを用いて受精卵または細胞を形質転換すれば、細胞内にgRNAを伝達することができ、伝達されたgRNAは、adenine base editorまたはCas9タンパク質複合体が認識可能な構造を形成する役割を果たすことができる。
【0044】
本発明で使われる用語、「変形」は、塩基配列のうち特定のアミノ酸をコーディングする配列を他のアミノ酸をコーディングする配列に変換することをいう。
【0045】
本発明で使われる用語、「組換え発現ベクター」は、目的のコーディング配列と、特定の宿主生物で作動可能に連結されたコーディング配列を発現するのに必須の適正核酸配列を含む組換えDNA分子を意味する。真核細胞で利用可能なプロモーター、エンハンサー、終結シグナルおよびポリアデニレーションシグナルは公知である。
【0046】
本発明で使われる用語、「作動可能に連結された」は、遺伝子発現調節配列と他のヌクレオチド配列との間の機能的な結合を意味する。前記遺伝子発現調節配列は、複製起点(replication origin)、プロモーターおよび転写終結配列(terminator)などからなる群より選択される1種以上であってもよい。転写終結配列は、ポリアデニル化配列(pA)であってもよいし、複製起点は、f1複製起点、SV40複製起点、pMB1複製起点、アデノ複製起点、AAV複製起点またはBBV複製起点などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明で使われる用語、「プロモーター」は、構造遺伝子からのDNAアップストリームの領域を意味し、転写を開始するためにRNAポリメラーゼが結合するDNA分子をいう。
【0048】
本発明の一具体例によるプロモーターは、特定遺伝子の転写開始を調節する転写調節配列の一つで、約100bp~約2500bpの長さのポリヌクレオチド断片であってもよい。プロモーターは、細胞、例えば、真核細胞(例えば、植物細胞、または動物細胞(例えば、ヒト、マウスなどの哺乳類細胞など)など)で転写開始を調節できれば、制限なく使用可能である。例えば、プロモーターは、CMVプロモーター(cytomegalovirus promoter(例えば、ヒトまたはマウスCMV immediate-earlyプロモーター)、U6プロモーター、EF1-alpha(elongation factor 1-a)プロモーター、EF1-alpha short(EFS)プロモーター、SV40プロモーター、アデノウイルスプロモーター(major late promoter)、pL λプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーター、ワクチニアウイルス7.5Kプロモーター、HSVのtkプロモーター、SV40E1プロモーター、呼吸器細胞融合ウイルス(Respiratory syncytial virus;RSV)プロモーター、メタロチオニンプロモーター(metallothionin promoter)、β-アクチンプロモーター、ユビキチンCプロモーター、ヒトIL-2(human interleukin-2)遺伝子プロモーター、ヒトリンホトキシン(human lymphotoxin)遺伝子プロモーターおよびヒトGM-CSF(human granulocyte-macrophage colony stimulating factor)遺伝子プロモーターからなる群より選択されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明の一具体例による組換え発現ベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクターおよびバクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびアデノ-関連ウイルスベクターのようなウイルスベクターからなる群より選択されるものであってもよい。組換え発現ベクターとして使用可能なベクターは、当業界で使用されるプラスミド(例えば、pcDNAシリーズ、pSC101、pGV1106、pACYC177、ColE1、pKT230、pME290、pBR322、pUC8/9、pUC6、pBD9、pHC79、pIJ61、pLAFR1、pHV14、pGEXシリーズ、pETシリーズ、pUC19など)、ファージ(例えば、λgt4λB、λ-Charon、λΔz1、M13など)またはウイルスベクター(例えば、アデノ-関連ウイルス(AAV)ベクターなど)などをベースとして作製できるが、これに限定されるものではない。
【0050】
本発明の組換え発現ベクターは、1つ以上の選択性マーカーをさらに含んでもよい。前記マーカーは、通常化学的な方法で選択できる特性を有する核酸配列で、形質注入された細胞を非形質注入細胞から区別できるすべての遺伝子がこれに相当する。例えば、グリホサート(glyphosate)、グルホシネートアンモニウム(glufosinate ammonium)またはホスフィノスリシン(phosphinothricin)のような除草剤抵抗性遺伝子、アンピシリン(ampicillin)、カナマイシン(kanamycin)、G418、ブレオマイシン(Bleomycin)、ハイグロマイシン(hygromycin)、クロラムフェニコール(chloramphenicol)のような抗生剤耐性遺伝子であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0051】
本発明の組換え発現ベクターの作製は、当該技術分野でよく知られた遺伝子組換え技術を利用して製造することができ、部位-特異的DNAの切断および連結は、当該技術分野で一般的に知られた酵素などを用いて行われる。
【0052】
本発明の組換え発現ベクターから生産した「RNA」は、前記組換え発現ベクターを鋳型として試験管内で合成されたmRNAをいう。
【0053】
本発明の一具体例によれば、前記IgGは、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2cおよびIgG3からなる群より選択される1つ以上のIgGであってもよい。
【0054】
マウスのIgG遺伝子、具体的には、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2cおよび/またはIgG3の変形によってアグリコシル化抗体がマウスから生産可能であり、好ましくは、IgG1、IgG2b、IgG2cおよびIgG3がすべて変形されることが好ましい。また、このように変形されたIgG遺伝子をマウスの繰り返し逆交配(back cross)によって固定させることにより、アグリコシル化抗体生産用マウス系統の確立が可能である。
【0055】
本発明の一具体例によれば、前記gRNAは、配列番号2~5からなる群より選択されるいずれか1つの配列に相補的なヌクレオチド配列を含むことができる。
【0056】
本発明の他の態様は、前記組換え発現ベクターまたはRNAが導入されたアグリコシル化抗体(aglycosylated antibody)生産用動物モデルの作製用形質転換細胞株または受精卵を提供する。
【0057】
本発明の一具体例による組換え発現ベクターまたはRNAが導入された形質転換受精卵を製造するために、野生型C57BL/6マウスを交配して受精卵を獲得したが、これに限定されるものではない。核酸分子を受精卵または胚に導入する当分野で公知の方法を使用することができ、当分野で公知のように好適な標準技術を選択して行うことができる。この方法には、例えば、電気穿孔法(electroporation)、微細注入法(microinjection)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の一具体例による組換え発現ベクターまたはRNAが導入された形質転換細胞株を製造するために、核酸分子を有機体、細胞、組織または器官に導入する当分野で公知の方法を使用することができ、当分野で公知のように宿主細胞によって好適な標準技術を選択して行うことができる。この方法には、例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオン性リポソーム法、および酢酸リチウム-DMSO法などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
形質転換細胞株として用いられる細胞の種類は、動物細胞または動物細胞由来の細胞であってもよく、好ましくは、哺乳類、好ましくは、マウス、ウサギおよびヤギなど抗体の生産に用いられる動物またはこれら動物由来の体細胞または受精卵および胚であってもよく、最も好ましくは、マウスまたはマウス由来の体細胞または受精卵および胚であってもよい。形質転換細胞株としてマウス由来の体細胞を用いる場合、生まれた直後にマウスが死亡する問題を改善することができる。
【0060】
本発明のさらに他の態様は、前記受精卵をヒトを除く動物である代理母の卵管に移植するステップを含むアグリコシル化抗体生産用動物モデルの製造方法を提供する。
【0061】
前記アグリコシル化抗体生産用動物モデルの製造方法は、体細胞核移植(SCNT;somatic cell nuclear transfer)によるものであってもよい。「体細胞核移植」は、生殖過程で一般的に行われる減数分裂および半数染色体保持生殖細胞を経由しなくても子孫を誕生させられる遺伝子組換え技術であって、生体が有する倍数体保持体細胞を核の除去された卵子に移植して受精卵を生産し、前記受精卵を生体内に移植して新しい個体を発生させる方法である。
【0062】
本発明で使われる用語、「核移植卵」は、核供与細胞が導入または融合された卵子をいい、「融合」は、核供与細胞と卵子の脂質膜部分との結合を意味する。例えば、脂質膜は、細胞のプラズマ膜または核膜であってもよい。融合は、核供与細胞と卵子が互いに隣接して位置している場合、または核供与細胞が受核卵子の卵黄周囲空間(perivitelline space)内に位置している場合に電気的刺激を加えることにより起こる。前記形質転換細胞株は核供与細胞であって、核受容体である卵子に核を伝達する細胞または細胞の核をいう。卵子は、好ましくは、第2次減数分裂中期まで到達した成熟卵子をいい、好ましくは、マウスの卵子であってもよい。
【0063】
本発明の一具体例によれば、前記動物は、ウサギ、ヤギまたはマウス(mouse)であってもよいが、これに限定しない。
【0064】
マウスは、すでに各種疾患の病理学的機序と治療のための研究に用いられており、特に、長い間経済動物として価値が認められ、他の中・大型動物を疾患モデルとして用いる時より倫理的な問題点を回避することができ、安定した飼育システムが構築されていて、実験動物モデルの開発時に保持および管理が容易であるという利点がある。また、ウサギおよびヤギなどはすでに抗体の生産に多様に活用されていて、本発明のアグリコシル化抗体の生産に容易に活用できる。抗体を生産可能なニワトリ、ウマなどその他の動物も活用可能である。
【0065】
本発明の一具体例によれば、前記アグリコシル化抗体の生産は、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2cおよびIgG3からなる群より選択される1つ以上のIgGの変形によるものであってもよい。
【0066】
IgG遺伝子を構成する塩基の一部の置換によるIgGの変形によって、アグリコシル化抗体を生産する動物モデルの製造が可能である。
【0067】
本発明の一具体例によれば、前記変形は、配列番号2に相当する配列の、配列番号40の配列への置換;配列番号3に相当する配列の、配列番号37の配列への置換;配列番号4に相当する配列の、配列番号38の配列への置換;および配列番号5に相当する配列の、配列番号39の配列への置換からなる群より選択される1つ以上の置換により発生したものであってもよい。
【0068】
本発明のさらに他の態様は、IgG(immunoglobulin G)遺伝子が変形されたアグリコシル化抗体生産用動物モデルを提供する。
【0069】
本発明のアグリコシル化抗体生産用動物モデルにおいて、前述した内容と重複する部分は、前述した意味と同じ意味で使用できる。
【0070】
本発明の一具体例によれば、前記変形は、IgG1重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中の1つ以上のアミノ酸の他のアミノ酸への置換;IgG2b重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中の1つ以上のアミノ酸の他のアミノ酸への置換;IgG2c重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中の1つ以上のアミノ酸の他のアミノ酸への置換;およびIgG3重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中の1つ以上のアミノ酸の他のアミノ酸への置換からなる群より選択される1つ以上の置換により発生したものであってもよい。
【0071】
さらに好ましくは、前記変形は、IgG1重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸NがN以外の他のアミノ酸に置換されるか、またはSがPに置換されるか、またはTがSではない他のアミノ酸に置換;IgG2b重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸NがN以外の他のアミノ酸に置換されるか、またはSがPに置換されるか、またはTがSではない他のアミノ酸に置換;IgG2c重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸NがN以外の他のアミノ酸に置換されるか、またはSがPに置換されるか、またはTがSではない他のアミノ酸に置換;およびIgG3重鎖のアミノ酸配列におけるN-S-T配列中のアミノ酸NがN以外の他のアミノ酸に置換されるか、またはSがPに置換されるか、またはTがSではない他のアミノ酸に置換からなる群より選択される1つ以上の置換により発生したものであってもよい。
【0072】
N-S-TのD-S-Tへの突然変異は、D-G-TまたはG-S-Tへの突然変異とは異なり、N-グリコシル化アスパラギン残基が免疫グロブリンβサンドイッチフォールド(fold)の二本鎖の間に露出したループに位置しているため、帯電した側鎖を有していても、アスパラギンと同一の幾何学的構造を示すアスパラギン酸は、グリシン(GST)に比べて潜在的幾何学的な構造的不安定性を回避することができるので、好ましい。
【0073】
本発明の一具体例によれば、前記N-S-T配列は、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2cおよびIgG3からなる群より選択されるいずれか1つのIgG重鎖の297番~299番アミノ酸配列であってもよい。
【0074】
本発明の一具体例によれば、前記変形は、配列番号2に相当する配列の、配列番号40の配列への置換;配列番号3に相当する配列の、配列番号37の配列への置換;配列番号4に相当する配列の、配列番号38の配列への置換;および配列番号5に相当する配列の、配列番号39の配列への置換からなる群より選択される1つ以上の置換により発生したものであってもよい。
【0075】
本発明の一具体例によれば、前記動物は、ウサギ、ヤギまたはマウスであってもよいが、これに限定しない。
【0076】
本発明のさらに他の態様は、前記動物モデルに診断しようとする抗原を投与するステップを含む抗原に対するアグリコシル化抗体の生産方法を提供する。
【0077】
本発明の一具体例によれば、前記アグリコシル化抗体の生産方法は、抗原の投与後、形質転換マウスからアグリコシル化抗体を分離および精製する過程を含むことができる。抗体の分離および精製は、当該技術分野で知られた方法、カラムを用いた分離またはタンパク質Gアガロースビーズを用いた分離方法などを利用することができるが、これに限定されるものではない。
【0078】
本発明のさらに他の態様は、前記アグリコシル化抗体の生産方法で生産されたアグリコシル化抗体を提供する。
【0079】
本発明の方法で生産されたアグリコシル化抗体は、抗体の重鎖に糖鎖が付加されない抗体、すなわち、糖質化反応が起こらない抗体であるので、糖鎖部分による交差結合を排除できるため、糖鎖研究のための多様な分子生物学的分析実験法と疾病の診断に用いるためのキットなどに有用に活用できる。
【0080】
本発明のさらに他の態様は、前記アグリコシル化抗体;および糖タンパク質バイオマーカーを含む免疫診断キットを提供する。
【0081】
本発明の免疫診断キットは、例えば、免疫診断用ストリップを用いるものであってもよい。前記ストリップは、生物学的試料が吸収されるサンプルパッド(sample pad);前記生物学的試料に存在する、検査しようとする疾病抗原と特異的に結合するアグリコシル化抗体を含む接合パッド(conjugation pad);検査しようとする疾病抗原に特異的に結合するアグリコシル化抗体が固定されている検査線(test line)および対照群抗体が固定されている対照線(control line)を含む反応膜(test membrane);および前記生物学的試料とそれぞれの抗体が反応した後に残る残量の試料が吸収される吸収パッド(absorption pad)を含むことができるが、これに限定されるものではない。また、当業界における免疫診断に一般的に使用される試薬をさらに含んでもよい。
【0082】
糖タンパク質(glycoprotein)は、2~6種類の単糖類とタンパク質とが共有結合で連結された複合タンパク質をいい、生体内のほぼすべての細胞に存在する。細胞の外部からのシグナルを検知、認識し、化学物質を運ぶ機能をし、各種炎症および疾病に関与することが知られている。したがって、糖タンパク質を分析することにより、多様な疾病の診断が可能である。
【0083】
本発明で使われる用語、「免疫診断(immunoassay)」は、特異的に反応する抗原-抗体反応に基づいて疾病の感染の有無、発病の有無、経過過程などを確認する方法をいい、酵素免疫検定法、蛍光免疫検定法などを含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本発明の一具体例によれば、前記糖タンパク質バイオマーカーは、レクチンによって検出される。
【0085】
本発明で使われる用語、「レクチン(lectin)」は、特定の糖分子と特異的に結合するタンパク質をいい、分子診断分野では、タンパク質に修飾された糖鎖の確認に使用されるものであってもよい。
【0086】
本発明の一具体例によれば、前記レクチンは、L4-PHA(Phytohemagglutinin-L4)、LCA(lens culinaris agglutinin)、DSA(Datura stramonium agglutinin)、AAL(Aleuria aurantia agglutinin)、セレクチン(Selectin)、Con A(Concanavalin-A)、WGA(Wheat germ agglutinin)、ジャカリン(Jacalin)、SNA(Sambucus Nigra agglutinin)、ガレクチン(galectin)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0087】
本発明の一具体例によれば、前記糖タンパク質は、AFP-L3であってもよいが、特定の疾病において特異的に診断に有効性があるバイオマーカーまで含むことができる。
【0088】
肝癌患者ではAFP-L3レベルが増加し、肝硬変、卵巣癌患者ではCA-125(mucin16、MUC16)のレベルが上昇することが知られている。前記アグリコシル化抗体にはレクチンが結合できないため、本発明のキットを用いて、生物学的試料に含まれている糖タンパク質の有無および量を正確に測定することができる。具体的には、本発明では、本発明のアグリコシル化抗体生産用動物モデルから生産されたアグリコシル化抗体としてAALを用いてAFP-L3の量を測定することにより、肝癌の信頼性ある診断が可能であることを具体的に確認した。
【0089】
本発明の一具体例によれば、本発明の免疫診断キットを用いて糖タンパク質を分析する方法は、当業界で知られたタンパク質の分析方法を追加的に使用することができ、例えば、ウェスタンブロット(Western blot)、ELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)、放射線免疫分析(otA:badioimmunoassay)、放射免疫拡散法、電気泳動、免疫沈殿分析法、FACSおよびタンパク質チップ方法などの方法を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を1つ以上の実施例を通じてより詳しく説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
実施例1.アグリコシル化抗体生産マウスの作製および評価方法
1-1.動物の用意
動物の使用および管理手続きはKRIBBの動物実験倫理委員会(IACUC)で検討および承認された。接合子(zygote)はC57BL/6Jマウスから得ており、ICR雌マウスを代理母(recipient)として用いた。遺伝子編集されたC57BL/6JマウスはBalb/cマウスと逆交配(back-cross)された。すべての動物は12時間の明暗周期で24℃の恒温および40%の湿度の無菌飼育場で飼育された。
【0092】
1-2.ABE(adenine base editor) mRNAの用意
pCMV-ABE7.10(addgene、#102919)およびxCas9(3.7)-ABE(7.10)(addgene、#108382)プラスミドベクターはAddgeneから購入した。プラスミドをAgeI(NEB)で37℃で2時間分解し、線形化されたベクターをPCR精製キット(QIAGEN)を用いて精製した。精製されたベクター1μgをmMESSAGE mMACHINE T7 Ultraキット(Thermo Fisher Scientific)を用いてmRNA合成のための鋳型として用いた。mRNAはMEGAclearキット(Thermo Fisher Scientific)を用いて分離し、凍結チューブバイアルに小分けした後、液体窒素に保存した。使用したABEの塩基配列は表1の通りである。
【0093】
【0094】
1-3.微細注入および電気穿孔によるゲノム編集および接合体の移植
PMSGホルモン(5IU、Merck)の注入後、48時間の間隔でC57BL/6J雌マウス(5週齢)の腹腔内にhCGホルモン(5IU)を注入した。雌マウスを9週齢のC57BL/6J雄マウスと交配させ、1細胞接合子を雌マウスの卵管膨大部(ampulla of oviduct)から得た。卵丘細胞(cumulus cell)は3mg/mlのhyaluronidase(Merck)が含有されたM2培地で培養して除去された。実施例1-2の表1の塩基配列を有するABE mRNA3μg/μlと、標的DNA結合のためのsgRNA(Toolgen、韓国)3μg/μlとを含む混合物を、LEICA DMIRB遠隔操縦機(Leica-microsystems)が装着されたFemtojet微量注入器(Eppendorf、ドイツ)を用いて接合子の細胞質に微量注入した。
【0095】
【0096】
一方、ゲノム編集のために、sgRNA500ng/μlおよび実施例1-2で用意したABE mRNA400ng/μlをopti-MEM(Gibco)に溶解して、電気穿孔(electroporation)用混合物を製造した。接合子を電気穿孔用混合物に懸濁させ、製造会社のプロトコルに従い、NEPA21電気穿孔機(NEPA GENE)を用いて電気穿孔した。
【0097】
微量注入および電気穿孔後、5%CO2補充された37℃の培養器で接合子をKSOM+AA培地(Millipore)で2細胞段階まで培養した後、生存可能な細胞を偽妊娠(pseudo-pregnant)代理母マウスの卵管に移植した。
【0098】
1-4.遺伝型の分析
ゲノムDNAを分離するために、1週齢のpupから足指を切断した。
【0099】
【0100】
単一塩基校正確認のために、H-Taq(Biofact)を用いたARMS(amplification refractory mutation system)によって遺伝子型(genotyping)の事前選別を表3のプライマーを用いて行い、標的部位でグアニンバンドのみを有するサンプルをサンガーシーケンシング分析した。最終突然変異は標的遺伝子座をPfuおよび特異的プライマーを用いてPCR増幅させた(表4)。PCR産物のサンガーシーケンシング分析方法で確認した。
【0101】
【0102】
1-5.ハイブリドーマ細胞の作製
TiterMax Gold補助剤(Merck)100μlにヒトAFP(Mybiosource)50μgを溶解させて抗原性溶液(antigenic solution)を製造し、ゲノム編集されたマウス(6週齢)の足裏に1週間隔で4回注入した。最終注入後、膝窩リンパ節(popliteal lymph node)を解剖してB細胞を得た後、既存の方法によりFO骨髓腫(myeloma)細胞と融合させた。単一融合細胞を培養皿に入れて、20%FBS、1xHAT(100μM hypoxanthine、0.4μM aminopterinおよび16μM thymidine)(Merck)、1x抗生剤-抗菌溶液(100units/mlペニシリン、100μg/ml streptomycin sulfateおよび0.25μg/ml amphotericin B)(Welgene、Korea)を添加したまま、2週間培養した。hAFPに対する抗体を生産する陽性クローンをindirect ELISA検査を用いて選別した。ヒトAFP溶液は1μg/mlの濃度でhAFPをPBSに溶解させて製造した。96-ウェルプレート(Thermo Fisher scientific)の表面をコーティングするために抗原溶液(100μl)を使用した。ブロッキング後、培養培地を100倍希釈しコーティングされたプレートのウェルに添加した後、インキュベーションした。TBS-Tween20(0.02%)で3回洗浄した後、HRP(Cell Signaling Technology、希釈比率:1:2000)がコンジュゲートされた抗-マウス二次抗体を処理し、TMB-ultra solution(Thermo Fisher Scientific)を処理した。0.2N H2SO4 100μlを添加して化学反応を停止させた後、VERSA maxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)を用いて450nmでの吸光度を測定した。アグリコシル化(aglycosylated)単クローン抗体を生産するために、陽性クローンを無血清培地(Gibco)で培養した。
【0103】
1-6.単クローン抗体の生産
実施例1-5で製造したハイブリドーマ細胞を5%CO2が補充されたチャンバで72時間100RPMで撹拌しながら、無血清培地(Gibco)で培養した。条件培地(conditioned media)を得ており、13,000gで30分間遠心分離して細胞破片を除去し、残留破片を0.22μmの注射器フィルタ(Millipore)で濾過して除去した。FPLCシステム(AKTA浄水器、GE healthcare Life Sciences)を用いたHiTrapTM Protein G HPcolumn(GE healthcare Life Sciences)で濾過液を精製した。PBS(phosphate-buffered saline)バッファーで平衡を合わせたカラムに1ml/minの流速で濾過液を通過させ、結合タンパク質を3ml/minの流速で50mMグリシン-HCl(pH2.5)で溶出させた。溶出した分画を1M Tris-HCl(pH8.0)で中和させた後、タンパク質安定化カクテル溶液(Thermo Fisher Scientific)と混合し、-20℃で保管した。
【0104】
1-7.FUT8ノックアウト細胞の作製
混成化されたオリゴヌクレオチド対をpSpCas9(BB)-2A-Puro(PX459)(Addgene plasmid #48139)ベクターにクローニングすることにより、FUT8標的化ガイドRNA構造物(表5)を生成した。
【0105】
【0106】
具体的には、10μgのベクターを50unitsのBbsIで1時間切断し、切断されたベクターをゲル抽出キット(Solgent)を用いて抽出した後、gRNA対(10pmol)を線形化されたベクターにクローニングした。標的配列はサンガーシーケンシング分析方法で確認した。ベクター構造物(10μg)を用いて、電圧1300V、パルス幅10msおよびパルス数3の電気穿孔機(electroporator)(Neon、Invitrogen)を用いてHEK293-T細胞(8×105細胞)を形質転換した。各ウェルに単一細胞を分注してクローンを形成し、各クローンに対してサンガーシーケンシング分析方法で遺伝子型分析を行ってFUT8-/-クローンを選別した。
【0107】
1-8.μ-Tas分析
自動分析器(automatic analyzer)(mTAS Wako i30、Wako Pure Chemical Industries、Osaka、Japan)でマイクロチップ毛細管電気泳動(microchip capillary electrophoresis)および液相結合分析(liquid-phase binding assay)を行って、残留血清検体でアルファ胎児蛋白(alpha-fetoprotein)であるAFP-L3を測定した。AFPに対して0.3~2000ng/mLの範囲で測定し、AFPの濃度が0.3ng/mlを超える血清でAFP-L3の濃度を計算した。試料のAFPの濃度が2,000ng/mL以上の場合、試料を製造会社の指針に従い、既存の結果に基づいて手動で希釈した。すべての検査は釜山(プサン)大学の梁山病院で行われ、検査前に被検体に関するいかなる情報も提供されなかった。
【0108】
1-9.免疫蛍光分析
編集されたHEK293-T細胞(2×104)をDEME培地の18mm×18mmのカバーガラス上で1日間成長させた。細胞をBD cytofix/cytoperm溶液(BD bioscience)で12時間固定した。その後、細胞を2時間室温で9ng/μlのPhoSL-alexa488の存在下で培養した。PBSで3回洗浄した後、1.5μg/mlのDAPIを含有するVectashield封入剤(mounting medium)(VECTOR Laboratories)でカバーガラスを覆った。Zeiss LSM510 Meta顕微鏡(Carl Zeiss MicroImaging)で蛍光をモニタリングした。
【0109】
1-10.サンドイッチレクチン-ELISA
緩衝液(pH7.4)0.1M重炭酸ナトリウム(sodium-bicarbonate)に溶解した抗-hAFPマウス単クローン抗体(#ab54745、Abcam)または抗-hAFPアグリコシル化抗体0.5μgでELISAウェルプレートを4℃で一晩コーティングした。プレートをTBS-0.1% Tween20で2回洗浄し、無蛋白ブロッキング緩衝液(Thermo Fisher Scientific)または0.5%ポリビニルアルコール+0.1% Tween 20を用いて室温で1時間ブロッキングした。それぞれのウェルに臨床試料または培養培地(100μl)を分注した。それぞれのウェルをRIPAバッファー(25mM Tris-HCl7.6、150mM NaCl、1%NP40、1%sodium deoxycholate、0.1%SDS)で5回以上洗浄し、再びTBS-0.1% Tween20で繰り返した。1:2,000で希釈した抗-hAFPウサギ多クローン抗体(#ab8201、Abcam)または1:1,000で希釈したビオチン-標識されたAAL(aleuria aurantia lectin)(#B-1395、VECTOR Laboratories)のうちの1つを室温で1時間処理した。十分に洗浄した後、それぞれHRPとコンジュゲートされた抗ウサギ二次抗体(Cell Signaling)またはストレプトアビジンを1:2,000で希釈し、室温で1時間処理した。TBS-0.1% Tween20で簡単に洗浄した後、TMP基質溶液(Thermo fisher Scientific)100μlを各ウェルに添加し、2N硫酸で反応を停止させた後、450nmでの吸光度を測定した。
【0110】
1-11.安定性テスト
脱グリコシル化された(deglycosylated)抗体は、50℃で15分間Rapid PNGase F非-還元型バッファーでPNGase-F(NEB)100unitsと市販中の抗-hAFP抗体(#MIA1305、Thermo fisher Scientific)10μgをインキュベーションして用意された。時間依存的および温度依存的タンパク質安定性は、PBS緩衝液でグリコシル化、脱グリコシル化またはアグリコシル化抗体を4℃または37℃で最大14日間インキュベーションして測定した。インキュベーションされた抗体を4~20%のMini-Protein TGXTMゲル(BioRad)で電気泳動させ、クマシーブルー染色によって視覚化した。タンパク質安定性は、pH3.0、7.0または10.0に調整された0.1Mリン酸塩バッファーで抗体を0~14日間インキュベーションしてモニタリングした。また、各抗体を0~3%のH2O2を含有したPBSバッファーで5時間、37℃の培養器でインキュベーションした。抗体の完全性(integrity)は前記記載のELISA分析によって測定された。
【0111】
1-12.統計分析
インデル(indel)効率に対する統計的テストは、two-tailed Student’s t-testを用いてSigma Plotで行われ、p value<0.05は有意なものと見なした。
【0112】
実施例2.ゲノム編集によるアグリコシル化抗体生産マウスの確立
免疫グロブリンG(IgG)はN-連結された糖タンパク質で、一般的な糖タンパク質と同じく、グリカン構造に異質性(heterogeneity)を示す。このような特性のため、レクチンを含むグリカン特異的プローブを用いて疾病特異的グリコール-バイオマーカーを測定するにあたり、ELISAまたはCLIAのような日常的に使用される免疫測定法(immunoassay)の使用が制限された。一方、レクチンは被分析物が存在しなくても捕獲抗体に結合可能であり(
図1)、グリカン構造は予測しにくく、batch-to-batch変形が容易なため、統制できない大きな空試験値(blank value)を生成する。このような問題は、適切なレクチンおよびアグリコシル化抗体を用いる免疫分析プラットフォームであるALIQUAT(Aglycosylated antibody-Lectin coupled Immunoassay for the QUAntification of Tumor marker)による特定のグリコフォーム(glycoform)分析によって解決できる(
図2)。したがって、本実施例では、ゲノム編集によりアグリコシル化抗体を生産するマウスを確立した。
【0113】
2-1.マウス接合体のゲノム編集の確認
HDR効率性を向上させるために様々なアプローチ方法が開発されたが、これらの方法は依然として非相同末端連結(Non-homologous end joining、NHEJ)ベースのノックアウト(knock-out)効率に比べて非常に低い。最近、二重鎖DNAの切断なしに、シトシンまたはアデニン塩基ベースの編集により高い効率でそれぞれ「C-G to T-A」または「A-T to G-C」転換が可能な塩基編集システム(base editing system)が開発された。C57BL/6のIgG遺伝子の配列分析の結果、塩基編集ウィンドウ(
図3)内でIgG2b、IgG2cおよびIgG3がN-グリコシル化アスパラギンコーディング配列(AAC)に編集可能なアデニンを共有することが明らかになった。1つまたは2つとものアデニンをグアニンに転換させると、非-アスパラギンコーディング配列が生成され、IgGからN-グリカンが無くなる。
【0114】
したがって、アグリコシル化抗体生産マウスを確立するために、実施例1-3により、C57BL/6マウス由来の接合体にIgG2b、IgG2cおよびIgG3を標的とするガイドRNAおよびABE7.10mRNAを同時に注入して当該遺伝子の変形を誘導した。その後、実施例1-4により、遺伝子型分析を行った。遺伝子型分析はARMS(amplification refractory mutation system)によって生まれたpup(n=24)で行われ、プライマーは、
図4にて矢印で表されているように、AからGに転換される時、異なる大きさのさらなるPCR生成物を生成するように設計された(
図4)。
【0115】
分析結果、すべてのIgG遺伝子に対して高効率のAからGへの転換が観察された。転換率(少なくとも1つの遺伝子座の転換)は、IgG2cが79.1%(19/24)、IgG2bが87.5%(21/24)、IgG3が62.5%(15/24)であることが確認された。遺伝子型の選別結果を比較した結果、3つの遺伝子で同時転換を示すと見られる15匹のpupを確認し、そのうち9匹に対して個別的にサンガー配列分析を行った。その結果、キメラ突然変異が含まれた場合、9匹のすべてのpupでIgG2c(
図5)、IgG2b(
図6)およびIgG3(
図7)の3つの遺伝子座に突然変異が発生したことが確認された。
【0116】
2-2.IgG2b、IgG2cおよびIgG3遺伝子編集されたintermediate founderマウスの確立
実施例2-1で選別した9匹のpupのうち、IgG1遺伝子座でゲノム編集を行うのに用いるために、他のpupに対比して、IgG2c(
図8)、IgG2b(
図9)およびIgG3(
図10)遺伝子で二対立因子性(biallelic)「A to G」転換率が高いpup(#11)を選択した。このpupはIgG2bで同型接合突然変異(homozygous mutation)を示し、IgG2cとIgG3でキメラ突然変異を示した(
図11)。
【0117】
【0118】
ゲノム編集されたpupと野生型C57BL/6マウスの交配して生じたpupを異型接合突然変異pupと数回繰り返し交配および繁殖させて、突然変異アミノ酸モチーフであるD-S-T、D-G-T、G-S-TおよびG-G-Tのうちの1つを有するように固定した。D-S-T突然変異は、N-グリコシル化アスパラギン残基が免疫グロブリンβサンドイッチフォールド(fold)の二本鎖の間に露出したループに位置しているため、帯電した側鎖を有していても、アスパラギンと同一の幾何学構造を示すアスパラギン酸はグリシン(GST)に比べて潜在的幾何学的構造の不安定性を回避できるため、intermediate founderとして、D-S-T突然変異を選択した。D-G-TまたはG-S-Tのような2つの突然変異の導入は、構造物の変形を最小化するために排除した(
図12)。intermediate founderを飼育し、IgG1遺伝子編集のために使用した。
【0119】
2-3.IgG1、IgG2b、IgG2cおよびIgG3遺伝子編集されたfounderマウスの確立
IgG1の標的部位はcanonical(NGG)を含まないが、標的の二本鎖ともNG PAM配列のみを含む。したがって、可能な隣接サイトを標的として供与DNAを用いてHDR媒介遺伝子編集を行ったが、IgG1遺伝子が編集されたpupを生成することができなかった。したがって、IgG1の遺伝子編集のために、NG配列に対する遺伝子標的化活性を示す実施例1-2のxCas9-ABEを用いて、実施例1-3によりIgG1遺伝子を編集した。
【0120】
その結果、2つのpupでheterogeneic転換が現れ、1つの対立遺伝子がセリンを暗号化する配列(TCA
GCAGCACTTTCCGTTCAGT;IgG1;配列番号40)に転換された(
図13)。編集されたpupをhomozygous IgG1になるまで数回繰り返し交配および繁殖させた。すべての突然変異は生殖腺転移(germ-line transmission)が行われ、IgG1、IgG2b、IgG2cおよびIgG3で累積されたアグリコシル化突然変異を有するfounderの確立に成功した。4つの対立遺伝子における突然変異はサンガーシーケンシングによって再び確認された。具体的なゲノム編集に対する手順は表7の通りである。
【0121】
【0122】
実施例3.ゲノム編集されたマウスにおいてヒトAFPに対して生成されたアグリコシル化単クローン抗体の生産確認
3-1.免疫グロブリンのすべてのサブクラス生産能力の確認
免疫グロブリンG(IgG)のN-グリコシル化はマウス、ウサギおよびヒトを含む高等真核生物の間で高度に保存されている。IgG N-グリコシル化が安定性を付与したり免疫反応調節に関与するという報告があるが、進化論的圧力によって高等生物体がIgGのN-グリコシル化を採用するようになったのかは明確ではない。
【0123】
したがって、欠陥のあるIgGが生産されるかを確認するために、実施例2で確立されたゲノム編集されたマウス由来IgGに対して免疫グロブリンアイソタイピング(isotyping)キットを用いてIgGプロファイリングを行った。
【0124】
その結果、ゲノム編集されたマウスは、野生型マウスと同一のプロファイルを示すことが確認された(
図14)。これに対し、IgG2b(
図15)およびIgG3(
図16)遺伝子がノックアウトされたマウスは、相応するサブクラス(subclass)の生産に欠陥を示すことが確認された。
【0125】
この結果により、ゲノム編集されたマウスは、免疫グロブリンのすべてのサブクラスを生産できる能力を保持していることが確認された。
【0126】
3-2.アグリコシル化抗体の生産確認
ゲノム編集されたマウスから生産される抗体がアグリコシル化抗体であるか否かを確認した。
【0127】
具体的には、肝細胞癌腫(hepatocellular carcinoma)において最も特徴的な腫瘍マーカーの一つであるヒトAFPをモデル抗原として用いた。同量の補助剤で乳化したヒトAFPを6週齢のゲノム編集されたマウス(n=5)の後ろ足に1週間隔で5回注射し、各免疫ステップで血清を採取してhAFPに対するdirect ELISA分析を行った。
【0128】
その結果、時間の経過により増加した反応性を示すことが確認され(
図17)、免疫化が進められたことが確認された。
【0129】
免疫化後、ネズミから膝窩リンパ節細胞を採取して、実施例1-5によりFO骨髓腫(myeloma)細胞と融合させ、HAT(hypoxanthine-aminopterin-thymidine)含有プレート上にハイブリドーマ細胞のコロニーを形成させて666個のハイブリドーマクローンを得た。
【0130】
その結果、ハイブリドーマクローンのうち、13.9%のクローン(93個)でhAFPに高い反応性を示す抗体が分泌されることが確認された(
図18)。
【0131】
3-3.単クローン抗体の生産性に優れたハイブリドーマクローンの選別
抗-hAFP抗体は、ヒト血清アルブミン(human serum albumin、HAS)に存在するエピトープに対して交差反応を示し得るため、HASに対する反応性を確認して反応性クローンを除いた。また、時間の経過により抗体の生産が減少したクローンは除き、抗体の生産が持続するクローンを選別して、1E5、2A2および3A5と指定された3個のクローンを選別した。3個のクローンはいずれもIgG1サブクラスおよびカッパ(kappa)軽鎖の単クローン抗体を分泌することが確認された(
図19)。また、MS分析により、新たに形成された突然変異領域にO-linkedグリコシル化のような翻訳後変形(post-translational modification)は存在しないことが確認された。
【0132】
3-4.選別されたハイブリドーマクローンで生産された抗体の無糖化の確認
生成された抗体が完全に無糖化されたことを確認するために、Concanavalin A(Con-A)を用いたレクチンブロット分析および抗-マウスIgG抗体を用いた免疫ブロット分析を行った。
【0133】
その結果、矢印で表されたCon-Aに反応する商業的に購入した抗体とは異なり、抗体(1E5)の重鎖にはN-グリカンがないことが確認された(
図20)。IgGはCH2領域以外にもN-グリカンの伝達は可能であるが、実施例3-3で確立された3個のクローンはN-グリコシル化の跡が現れないことが確認された(
図21)。
【0134】
実施例4.レクチン結合ELISA分析によるアグリコシル化抗体の妥当性検査
4-1.L3-null AFP標準を作るためのFUT8
-/-
突然変異クローンの作製
HEK293-T細胞は、GDP-フコース(fucose)においてcore N-グリカンへのフコース転移を触媒するFUT8(alpha-(1,6)-fucosyltransferase)を発現する。FUT8遺伝子には3つのスプライシング変異が存在し、触媒の活性に関連があり、すべての変異型が共有するエクソン9および11はグリコシルトランスフェラーゼ(glycosyltransferase)ファミリー23に属する。
【0135】
ALIQUAT(Aglycosylated antibody-Lectin coupled Immunoassay for the QUAntification of Tumor marker)システムを確立するために、実施例1-10によりアグリコシル化抗体の生産可能性をサンドイッチELISAプラットフォームでテストするに先立ち、AFP-L3が欠乏したhAFP標準を得ることが重要であるので、L3-null AFP標準を作るために、実施例1-7によりCRISPR-Cas9でエクソン9および11をそれぞれ標的化した。
【0136】
その結果、フレームシフトナンセンス突然変異を示すFUT8
-/-突然変異クローンを得た(
図22)。
【0137】
4-2.FUT8
-/-
細胞のAFP-L3を生成するか否かの確認
FUT8遺伝子の除去による機能的損失を調べるために、core-fucosylated N-glycanに特異的な結合性を示すことが知られたPhoSL(mushroom Pholiota squarrosa)由来レクチンを用いて、実施例1-9によりレクチン結合テストを行った。免疫蛍光(immunofluorescence)分析を行った結果、FUT8
-/-HEK293-T細胞はPhoSL結合性がないことが確認された(
図23)。
【0138】
一方、hAFPは野生型およびFUT8
-/-HEK293-T細胞ともにおいて過発現し、レクチン親和度電気泳動のために条件培地を得た。AFP-L3とAFP-L1が異なる移動性を示すようにLens culinaris agglutininが含まれたアガロースゲルでタンパク質の電気泳動を行った。抗-hAFP抗体を用いて免疫ブロット分析して、AFPの異なるglycoformを視覚化した(
図24)。AFP-L3は野生型HEK293-T細胞から得たAFP glycoformのほとんどを占めるのに対し、FUT8
-/-細胞はAFP-L3を生成しないことが確認された。また、質量分析の結果、FUT8
-/-細胞におけるAFP-L3は現れないことが確認され、野生型細胞におけるAFP-L3の生成比率は99.5%であることが確認され(
図25)、μ-Tas分析においても類似の結果を確認した。
【0139】
4-3.ALIQUATシステムにおける、アグリコシル化抗体の妥当性の確認
canonical sandwich ELISAおよびAALを用いるlectin-coupled ELISA分析により標準曲線を作成した。
【0140】
具体的には、canonical sandwich ELISAの場合、アグリコシル化抗体(1E5)または商業的抗体を捕獲(capture)抗体として用いた。検出(detection)抗体対は、商業的に利用可能な抗体のうち、捕獲抗体とマッチングされる抗体を選択した。標準曲線分析の結果、有効性が確認された市販の抗体と比較して敏感度は低いが、アグリコシル化抗体は0~20ng/mL AFPの範囲で優れた線形性を示すことが確認された(
図26)。
【0141】
アグリコシル化抗体の妥当性はAALレクチンを用いたAFP-L3テストによって証明された(
図27)。商業的抗体を用いたレクチンELISAは大きな空試験値(blank value)を示し、L3陽性AFPの増加した濃度は高い標準誤差(standard error)を有する光学密度の線形増加を反映しなかった。このパターンはL3陽性および陰性AFPサンプルともにおいて類似して観察された。しかし、アグリコシル化抗体を用いたレクチンELISA分析は、L3陽性AFPサンプルに対する線形性に優れた標準曲線を作った。0~1,000ng/mLの範囲でいかなる干渉も観察されておらず、特定のグリコフォーム(glycoform)定量化のための分析プラットフォームの提供において、レクチンとアグリコシル化抗体との組み合わせ使用による分析の妥当性を確認した。
【0142】
実施例5.アグリコシル化抗体ベースのレクチン-ELISA hAFPテストのμ-TAS分析代替可能性の確認
μ-TASは、LCAが内蔵された毛細管におけるAFP-L3の移動を電気泳動で分析する体外診断用免疫分析器である。分析器の高感度および強固性とAFP-L3測定の臨床的有用性のため、μ-TASはHCC進行の危険性評価のための試験管内検査のFDA承認を受けた。分析的妥当性と臨床的有用性にもかかわらず、μ-TAS分析は臨床的用途にいくつかの限界がある。一般的に高費用を要する分析であるので、癌検診のための日常的な臨床的使用が制限される。また、μ-TASはAFP-L3の用途で開発され、他のグリコフォーム分析への使用が困難である。
【0143】
これに対し、ALIQUAT方法は、多様な疾病特異的形態の検出のための汎用的かつ普遍的なプラットフォームを提供することができる。ただし、ALIQUATプラットフォームは、グリコフォーム特異的プローブおよびアグリコシル化抗体が利用可能な場合にのみ、他の疾病特異的グリコフォームのテストに容易に適用可能である。腫瘍特異的バイオマーカーに対する特異性を有する多様なレクチンがすでに利用可能なため、本発明のゲノム編集されたマウスから容易に生産できるアグリコシル化抗体がALIQUAT方法に適用できるかを確認するために、アグリコシル化抗体(1E5)がマグネチックビーズにコンジュゲーションされ、血清でhAFPを探知し、フコシル化された(fucosylated)形態がAALで追跡される化学発光免疫分析(chemiluminescent immunoassay、CLIA)プラットフォームに臨床サンプルを適用して分析の妥当性の有無を確認した。
【0144】
具体的には、AFP-L3標準分子を1.0ng/mL未満のAFPレベルを示す正常血清にスパイクした。標準曲線は0~100ng/mLの範囲で良好な線形性を示した(
図28)。その後、正常な志願者とhepatitis、cirrhosisおよびhepatocellular carcinoma患者から血清(n=19)を採取した。100ng/mLより高いAFPレベルを示す血清に対しては濃度が標準曲線の範囲内にあるように希釈した。それぞれの血清を均等体積に分けて、ALIQUAT方法および実施例1-8によるμ-TAS分析により測定した。
【0145】
測定された値をX軸に対してはAFPレベルで、Y軸に対しては%AFP-L3でプロットし、2つのプラットフォームから得た各値を比較した結果、比較分析はp value>0.05を示して、両検査が実質的に同一の結果を示すことが確認された(
図29)。
【0146】
実施例6.アグリコシル化抗体の保存されたタンパク質の安定性
タンパク質グリコシル化は、タンパク質の機能、タンパク質-タンパク質の相互作用、細胞-宿主認識など多様な効果を示す。また、タンパク質グリカンはin vivoおよびin vitroでタンパク質安定性を付与することが知られている(Bowden2012)。したがって、無糖質化によって抗体が保存および試験中にタンパク質安定性を失うか否かを、実施例1-11により確認した。
【0147】
具体的には、多様な条件で抗体の安定性を調べるために、市販のグリコシル化された抗体とPNGase-F処理によって生成された脱グリコシル化(deglycosylate)された形態の抗体を対照群として比較した。
【0148】
6-1.タンパク質の熱安定性の確認
PBSバッファーで多様な形態の抗体を14日間、4℃および37℃の条件で放置した。脱グリコシル化抗体は矢印で表しているように2つの異なる分解断片(degradation fragment)を示すことが確認された(
図30)。処理初期に断片が観察されたため、断片のうち、分子量が約35kDaの断片はPNGase-F処理によって発生したことが確認された。断片のうち、分子量が約50kDaの断片は37℃で時間により増加したことが確認された。しかし、本来のグリコシル化された形態は、調べられた条件下でいかなる分解生成物も現れていない。同様に、本発明者らはゲル上でアグリコシル化抗体に対する分解産物の跡を検出することができなかった。
【0149】
この結果により、グリカン自体の不在よりは、脱グリコシル化反応条件によってタンパク質の安定性がさらに損失することを確認した。
【0150】
6-2.タンパク質のpH安定性の確認
抗体は多様な反応条件または精製過程でpHの変化に露出しうる。したがって、多様なpH条件で多様なグリコフォーム抗体の安定性を調べた。
【0151】
具体的には、37℃で14日間、pH3.0、7.0および10.0のバッファーでインキュベーションした抗体をhAFP測定における検出抗体として用いた。テストの光学密度値を測定してタンパク質の結合力を評価した。その結果、グリコシル化およびアグリコシル化抗体は類似の安定性を示すことが確認された(
図31)。2種類の抗体とも中性(pH7.0)の条件で14日間高い安定性を示し、塩基性(pH10.0)の条件で高い抵抗性を示したのに対し、pH3.0では時間により安定性が減少した。対照的に、脱グリコシル化された形態は、中性pHにおいても完全性(integrity)において大きな損失を示した。pH7.0で14日間恒温培養した抗体のうち約50%の抗体が結合力を失い、pH10.0で培養した場合、損失がさらに著しかった。特に、脱グリコシル化された形態は、pH3.0で4日間培養する場合、結合力が完全に損失することが確認された。
【0152】
6-3.酸化条件に対するタンパク質の安定性の確認
酸化条件下で抗体の完全性について調べた結果、グリコシル化およびアグリコシル化抗体ともこのような条件に対する抵抗性を示すことが確認され、これは脱グリコシル化された形態の物理的特性と非常に対照的であった(
図32)。アグリコシル化抗体は3.0%のH
2O
2を含有するPBS緩衝液で1時間恒温処理した場合、10%未満の完全性の損失を示した。しかし、脱グリコシル化された抗体はこのような条件下で約50%の結合活性(avidity)の損失が確認された。この結果により、グリコシル化された免疫グロブリンGに対比してアグリコシル化抗体の安定性が低下しないことが確認された。
【0153】
これまで本発明についてその実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形した形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等範囲内にあるすべての差異点は本発明に含まれていると解釈されなければならない。
【配列表】