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特許7268211反射型マスクブランク、反射型マスク及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスク及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20230425BHJP
   G03F 1/58 20120101ALI20230425BHJP
   G03F 1/80 20120101ALI20230425BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230425BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20230425BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/58
G03F1/80
C23C14/06 E
C23C14/06 A
C23C14/08 K
H01L21/302 105A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022011849
(22)【出願日】2022-01-28
(62)【分割の表示】P 2021502175の分割
【原出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2022064956
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2019035300
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】笑喜 勉
(72)【発明者】
【氏名】池邊 洋平
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/122972(WO,A1)
【文献】特開2011-187746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、多層反射膜、吸収体膜及びエッチングマスク膜をこの順で有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜が、バッファ層と、バッファ層の上に設けられた吸収層とを有し、吸収体膜の膜厚が55nm以下であり、
前記バッファ層が、タンタル(Ta)を含有する材料からなり、前記バッファ層の膜厚が0.5nm以上25nm以下であり、
前記吸収層が、クロム(Cr)及び窒素(N)を含有する材料からなり、前記吸収層の膜厚が35nm以上53nm以下であり、
前記エッチングマスク膜が、タンタル(Ta)を含有する材料からなり、
前記バッファ層の膜厚は、前記エッチングマスク膜の膜厚より薄いことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記バッファ層の材料が、タンタル(Ta)と、窒素(N)及びホウ素(B)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含み、前記バッファ層の膜厚が25nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記バッファ層の材料がタンタル(Ta)、窒素(N)及びホウ素(B)を含み、前記窒素とホウ素の合計含有量は、5原子%以上50原子%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記バッファ層の前記窒素の含有量は、前記ホウ素の含有量よりも少ないことを特徴とする請求項3項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記バッファ層の材料が、タンタル(Ta)及び酸素(O)を含み、前記バッファ層の膜厚が15nm以下であるであることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記バッファ層の前記タンタルの含有量が、50原子%以上95原子%以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記バッファ層の材料が水素を含み、前記水素の含有量が0.1原子%以上5原子%以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
エッチングマスク膜の材料が、タンタル(Ta)と、酸素(O)、窒素(N)及びホウ素(B)から選らばれる1以上の元素とを含有する材料であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記エッチングマスク膜の材料が、タンタル(Ta)と、窒素(N)及びホウ素(B)から選らばれる1以上の元素とを含有し、酸素(O)の含有量が10原子%以下の材料であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、前記多層反射膜を保護するための保護膜を有することを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の反射型マスクブランクにおける前記吸収体膜がパターニングされた吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項12】
EUV光を発する露光光源を有する露光装置に、請求項11に記載の反射型マスクをセットし、被転写基板上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造などに使用される露光用マスクを製造するための原版である反射型マスクブランク、反射型マスク及びその製造方法、並びに半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置製造における露光装置の光源の種類は、波長436nmのg線、同365nmのi線、同248nmのKrFレーザ、同193nmのArFレーザと、波長を徐々に短くしながら進化している。より微細なパターン転写を実現するため、波長が13.5nm近傍の極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet)を用いたEUVリソグラフィが開発されている。EUVリソグラフィでは、EUV光に対して透明な材料が少ないことから、反射型のマスクが用いられる。反射型マスクは、低熱膨張基板上に露光光を反射するための多層反射膜を有する。反射型マスクは、当該多層反射膜を保護するための保護膜の上に、所望の転写用パターンが形成されたマスク構造を基本構造としている。また、転写用パターンの構成から、代表的なものとして、バイナリー型反射マスクと、位相シフト型反射マスク(ハーフトーン位相シフト型反射マスク)とがある。バイナリー型反射マスクの転写用パターンは、EUV光を十分吸収する比較的厚い吸収体パターンからなる。位相シフト型反射マスクの転写用パターンは、EUV光を光吸収により減光させ、且つ多層反射膜からの反射光に対してほぼ位相が反転(約180°の位相反転)した反射光を発生させる比較的薄い吸収体パターンからなる。位相シフト型反射マスク(ハーフトーン位相シフト型反射マスク)は、透過型光位相シフトマスクと同様に、位相シフト効果によって高い転写光学像コントラストが得られるので解像度向上効果がある。また、位相シフト型反射マスクの吸収体パターン(位相シフトパターン)の膜厚が薄いことから精度良く微細な位相シフトパターンを形成できる。
【0003】
EUVリソグラフィでは、光透過率の関係から多数の反射鏡からなる投影光学系が用いられている。そして、反射型マスクに対してEUV光を斜めから入射させて、これらの複数の反射鏡が投影光(露光光)を遮らないようにしている。入射角度は、現在、反射マスク基板垂直面に対して6°とすることが主流である。投影光学系の開口数(NA)の向上とともに8°程度のより斜入射となる角度にする方向で検討が進められている。
【0004】
EUVリソグラフィでは、露光光が斜めから入射されるため、シャドーイング効果と呼ばれる固有の問題がある。シャドーイング効果とは、立体構造を持つ吸収体パターンへ露光光が斜めから入射されることにより影ができ、転写形成されるパターンの寸法や位置が変わる現象のことである。吸収体パターンの立体構造が壁となって日陰側に影ができ、転写形成されるパターンの寸法や位置が変わる。例えば、配置される吸収体パターンの向きが斜入射光の方向と平行となる場合と垂直となる場合とで、両者の転写パターンの寸法と位置に差が生じ、転写精度を低下させる。
【0005】
このようなEUVリソグラフィ用の反射型マスク及びこれを作製するためのマスクブランクに関連する技術が特許文献1及び2に開示されている。また、特許文献1には、シャドーイング効果が小さく、且つ位相シフト露光が可能で、十分な遮光枠性能を持つ反射型マスクを提供することが記載されている。従来、EUVリソグラフィ用の反射型マスクとして位相シフト型反射マスクを用いることで、バイナリー型反射マスクの場合よりも位相シフトパターンの膜厚を比較的薄くして、シャドーイング効果による転写精度の低下の抑制を図っている。
【0006】
また、特許文献2には、少なくとも最上層と、それ以外の下層とからなる積層構造の吸収体層を備えた反射型マスクブランクスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-212220号公報
【文献】特開2004-39884号公報
【発明の開示】
【0008】
パターンを微細にするほど、及びパターン寸法やパターン位置の精度を高めるほど半導体装置の電気特性性能が上がり、また、集積度向上やチップサイズを低減できる。そのため、EUVリソグラフィには従来よりも一段高い高精度微細寸法パターン転写性能が求められている。現在では、hp16nm(half pitch 16nm)世代対応の超微細高精度パターン形成が要求されている。このような要求に対し、シャドーイング効果を小さくするために、更なる薄膜化が求められている。特に、EUV露光の場合において、吸収体膜(位相シフト膜)の膜厚を60nm未満、好ましくは50nm以下とすることが要求されている。
【0009】
特許文献1及び2に開示されているように、従来から反射型マスクブランクの吸収体膜(位相シフト膜)を形成する材料としてTaが用いられてきた。しかし、EUV光(例えば、波長13.5nm)におけるTaの屈折率nが約0.943あり、その位相シフト効果を利用しても、Taのみで形成される吸収体膜(位相シフト膜)の薄膜化は60nmが限界である。より薄膜化を行うためには、例えば、バイナリー型反射型マスクブランクの吸収体膜としては、消衰係数kが高い(吸収効果が高い)金属材料を用いることができる。波長13.5nmにおける消衰係数kが大きい金属材料としては、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)がある。しかし、Co薄膜及びNi薄膜は、パターニングする際のエッチングが比較的困難であることが知られている。
【0010】
また、Ta系材料よりもkが大きいCrを含む材料(Cr系材料)の吸収体膜を用いることが考えられる。しかしながら、Cr系材料のエッチングは、塩素ガス及び酸素ガスの混合ガスによりエッチングするため、Cr系材料の吸収体膜のパターン形成のためには、レジスト膜の膜厚を厚くすることが必要になる。そのため、Cr系材料の吸収体膜を用いる場合には、レジスト膜の厚膜化によって微細なパターンが形成できないという問題が生じることになる。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑み、反射型マスクのシャドーイング効果をより低減するとともに、微細で高精度な吸収体パターンを形成できる反射型マスクブランク及びこれによって作製される反射型マスクの提供、並びに半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、EUV光における吸収体膜の反射率が2%以下である反射型マスクを製造するための反射型マスクブランク、及びこれによって作製される反射型マスクの提供、並びに半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0013】
(構成1)
本発明の構成1は、基板上に、多層反射膜、吸収体膜及びエッチングマスク膜をこの順で有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜が、バッファ層と、バッファ層の上に設けられた吸収層とを有し、
前記バッファ層が、タンタル(Ta)又はケイ素(Si)を含有する材料からなり、前記バッファ層の膜厚が0.5nm以上25nm以下であり、
前記吸収層が、クロム(Cr)を含有する材料からなり、前記バッファ層のEUV光に対する消衰係数よりも吸収層の消衰係数が大きく、
前記エッチングマスク膜が、タンタル(Ta)又はケイ素(Si)を含有する材料からなり、前記エッチングマスク膜の膜厚が0.5nm以上14nm以下であることを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0014】
(構成2)
本発明の構成2は、前記バッファ層の材料が、タンタル(Ta)と、酸素(O)、窒素(N)及びホウ素(B)から選らばれる1以上の元素とを含有する材料であることを特徴とする、構成1の反射型マスクブランクである。
【0015】
(構成3)
本発明の構成3は、前記バッファ層の材料が、タンタル(Ta)と、窒素(N)及びホウ素(B)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含み、前記バッファ層の膜厚が25nm以下であることを特徴とする構成1又は2の反射型マスクブランクである。
【0016】
(構成4)
本発明の構成4は、前記バッファ層の材料が、タンタル(Ta)及び酸素(O)を含み、前記バッファ層の膜厚が15nm以下であるであることを特徴とする構成1又は2の反射型マスクブランクである。
【0017】
(構成5)
本発明の構成5は、前記吸収層の材料が、クロム(Cr)と、窒素(N)及び炭素(C)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料あることを特徴とする構成1乃至4の何れかの反射型マスクブランクである。
【0018】
(構成6)
本発明の構成6は、前記吸収層の材料が、クロム(Cr)及び窒素(N)を含み、前記吸収層の膜厚が25nm以上60nm未満であることを特徴とする構成1乃至5の何れかの反射型マスクブランクである。
【0019】
(構成7)
本発明の構成7は、前記エッチングマスク膜の材料が、タンタル(Ta)と、酸素(O)、窒素(N)及びホウ素(B)から選らばれる1以上の元素とを含有する材料であることを特徴とする構成1乃至6の何れかの反射型マスクブランクである。
【0020】
(構成8)
本発明の構成8は、前記エッチングマスク膜の材料が、タンタル(Ta)と、窒素(N)及びホウ素(B)から選らばれる1以上の元素とを含有し、酸素(O)を含有しない材料であることを特徴とする構成1乃至6の何れかの反射型マスクブランクである。
【0021】
(構成9)
本発明の構成9は、前記エッチングマスク膜の材料が、ケイ素(Si)と、酸素(O)及び窒素(N)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料であることを特徴とする構成1乃至6の何れかの反射型マスクブランクである。
【0022】
(構成10)
本発明の構成10は、前記バッファ層の材料が、ケイ素(Si)と、酸素(O)及び窒素(N)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料であることを特徴とする構成9の反射型マスクブランクである。
【0023】
(構成11)
本発明の構成11は、前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、保護膜を有することを特徴とする構成1乃至10の何れかの反射型マスクブランクである。
【0024】
(構成12)
本発明の構成12は、前記エッチングマスク膜の上にレジスト膜を有することを特徴とする構成1乃至11の何れかの反射型マスクブランクである。
【0025】
(構成13)
本発明の構成13は、構成1乃至12の何れかの反射型マスクブランクにおける前記吸収体膜がパターニングされた吸収体パターンを有することを特徴とする反射型マスクである。
【0026】
(構成14)
本発明の構成14は、構成1乃至12の何れかの反射型マスクブランクの前記エッチングマスク膜を、フッ素系ガスを含むドライエッチングガスによってパターニングし、前記吸収層を、塩素系ガスと酸素ガスとを含むドライエッチングガスによってパターニングし、前記バッファ層を、塩素系ガスを含むドライエッチングガスによってパターニングして吸収体パターンを形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法である。
【0027】
(構成15)
本発明の構成15は、EUV光を発する露光光源を有する露光装置に、構成13の反射型マスクをセットし、被転写基板上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【0028】
本発明によれば、反射型マスクのシャドーイング効果をより低減するとともに、微細で高精度な吸収体パターンを形成できる反射型マスクブランクを提供することができる。また、本発明によれば、吸収体膜の膜厚を薄くすることができて、シャドーイング効果を低減でき、且つ微細で高精度な吸収体膜を形成した反射型マスク及びその製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、微細で且つ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【0029】
また、本発明によれば、EUV光における吸収体膜の反射率が2%以下である反射型マスクを製造するための反射型マスクブランク、及びこれによって作製される反射型マスクの提供、並びに半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の反射型マスクブランクの概略構成を説明するための要部断面模式図である。
図2図2(a)から(e)は、反射型マスクブランクから反射型マスクを作製する工程を要部断面模式図にて示した工程図である。
図3】CrN吸収層の膜厚をd1、TaBNバッファ層の膜厚をd2とし、バッファ層の膜厚d2を2~20nmの範囲で変化させたときの、膜厚D(=d1+d2、nm)と、吸収体膜の表面でのEUV光の反射率(%)との関係を示す図である。
図4】CrN吸収層の膜厚をd1、TaBNバッファ層の膜厚をd2とし、吸収体膜の膜厚D(=d1+d2)を47nmとし、TaBNバッファ層の膜厚d2を0~47nmまで変化させたときの、吸収体膜の表面でのEUV光の反射率(%)を示す図である。
図5】CrN吸収層の膜厚をd1、TaBOバッファ層の膜厚をd2とし、バッファ層の膜厚d2を2~20nmの範囲で変化させたときの、吸収体膜の膜厚D(=d1+d2、nm)と、吸収体膜の表面でのEUV光の反射率(%)との関係を示す図である。
図6】CrN吸収層の膜厚をd1、TaBOバッファ層の膜厚をd2とし、吸収体膜の膜厚D(=d1+d2)を47nmとし、TaBOバッファ層の膜厚d2を0~47nmまで変化させたときの、吸収体膜の表面でのEUV光の反射率(%)を示す図である。
図7】シミュレーションによって得られた吸収体膜(吸収層/バッファ層)の膜厚D(=d1+d2)と、吸収体膜の表面でのEUV光の反射率(%)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。なお、図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略することがある。
【0032】
<反射型マスクブランク100の構成及びその製造方法>
図1は、本発明の実施形態の反射型マスクブランク100の構成を説明するための要部断面模式図である。同図に示されるように、反射型マスクブランク100は、基板1と、第1主面(表面)側に形成された露光光であるEUV光を反射する多層反射膜2と、当該多層反射膜2を保護するために設けられる保護膜3と、EUV光を吸収する吸収体膜4と、エッチングマスク膜6とを有し、これらがこの順で積層される。本実施形態の反射型マスクブランク100では、吸収体膜4が、バッファ層42と、バッファ層42の上に設けられた吸収層44とを有する。また、基板1の第2主面(裏面)側には、静電チャック用の裏面導電膜5が形成される。
【0033】
また、上記反射型マスクブランク100は、裏面導電膜5が形成されていない構成を含む。更に、上記反射型マスクブランク100は、エッチングマスク膜6の上にレジスト膜11を形成したレジスト膜付きマスクブランクの構成を含む。
【0034】
本明細書において、例えば、「基板1の主表面の上に形成された多層反射膜2」との記載は、多層反射膜2が、基板1の表面に接して配置されることを意味する場合の他、基板1と、多層反射膜2との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの上に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0035】
以下、反射型マスクブランク100の各構成について具体的に説明をする。
【0036】
<<基板1>>
基板1は、EUV光による露光時の熱による吸収体パターン4aの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO-TiO系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0037】
基板1の転写パターン(後述の吸収体膜4をパターニングしたものがこれを構成する)が形成される側の第1主面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光の場合、基板1の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、吸収体膜4が形成される側と反対側の第2主面は、露光装置にセットするときに静電チャックされる面であって、142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。
【0038】
また、基板1の表面平滑度の高さも極めて重要な項目である。転写用吸収体パターン4aが形成される基板1の第1主面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(RMS)で0.1nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑度は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0039】
更に、基板1は、その上に形成される膜(多層反射膜2など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0040】
<<多層反射膜2>>
多層反射膜2は、反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものであり、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜の構成となっている。
【0041】
一般的には、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期程度積層された多層膜が、多層反射膜2として用いられる。多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。また、多層膜は、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。なお、多層反射膜2の最表面の層、即ち多層反射膜2の基板1と反対側の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、基板1から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜2の最表面を構成すると容易に酸化されてしまい反射型マスク200の反射率が減少する。そのため、最上層の低屈折率層上に高屈折率層を更に形成して多層反射膜2とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となるので、そのままでよい。
【0042】
本実施形態において、高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層が採用される。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素(O)を含むSi化合物でもよい。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィ用反射型マスク200が得られる。また、本実施形態において基板1としてはガラス基板が好ましく用いられる。Siはガラス基板との密着性においても優れている。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び白金(Pt)から選ばれる金属単体、又はこれらの合金が用いられる。例えば波長13nmから14nmのEUV光に対する多層反射膜2としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。なお、多層反射膜2の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成し、当該最上層(Si)とRu系保護膜3との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成するようにしてもよい。これにより、マスク洗浄耐性を向上させることができる。
【0043】
このような多層反射膜2の単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。なお、多層反射膜2の各構成層の厚み及び周期は、露光波長により適宜選択すればよく、ブラッグ反射の法則を満たすように選択される。多層反射膜2において高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在する。高屈折率層同士、そして低屈折率層同士の厚みが同じでなくてもよい。また、多層反射膜2の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi(高屈折率層)の膜厚は、3nmから10nmとすることができる。
【0044】
多層反射膜2の形成方法は当該技術分野において公知である。例えばイオンビームスパッタリング法により、多層反射膜2の各層を成膜することで形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、先ずSiターゲットを用いて厚さ4nm程度のSi膜を基板1上に成膜し、その後Moターゲットを用いて厚さ3nm程度のMo膜を成膜し、これを1周期として、40から60周期積層して、多層反射膜2を形成する(最表面の層はSi層とする)。また、多層反射膜2の成膜の際に、イオン源からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して、イオンビームスパッタリングを行うことにより多層反射膜2を形成することが好ましい。
【0045】
<<保護膜3>>
本実施形態の反射型マスクブランク100は、多層反射膜2と吸収体膜4との間に、保護膜3を有することが好ましい。多層反射膜2上に保護膜3が形成されていることにより、反射型マスクブランク100を用いて反射型マスク200(EUVマスク)を製造する際の多層反射膜2表面へのダメージを抑制することができるので、EUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0046】
保護膜3は、後述する反射型マスク200の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から多層反射膜2を保護するために、多層反射膜2の上に形成される。また、電子線(EB)を用いた吸収体パターン4aの黒欠陥修正の際の多層反射膜2の保護も兼ね備える。保護膜3は、エッチャント、及び洗浄液等に対して耐性を有する材料で形成される。ここで、図1では保護膜3が1層の場合を示しているが、3層以上の積層構造とすることもできる。例えば、最下層と最上層を、上記Ruを含有する物質からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させた保護膜3としても構わない。例えば、保護膜3は、ルテニウムを主成分として含む材料により構成されることもできる。すなわち、保護膜3の材料は、Ru金属単体でもよいし、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及びレニウム(Re)などから選択される少なくとも1種の金属を含有したRu合金であってよく、窒素を含んでいても構わない。このような保護膜3は、特に、吸収体膜4のうちのバッファ層42を、塩素系ガス(Cl系ガス)のドライエッチングでパターニングする場合に有効である。保護膜3は、塩素系ガスを用いたドライエッチングにおける保護膜3に対する吸収体膜4のエッチング選択比(吸収体膜4のエッチング速度/保護膜3のエッチング速度)が1.5以上、好ましくは3以上となる材料で形成されることが好ましい。
【0047】
このRu合金のRu含有量は50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、更に好ましくは95原子%以上100原子%未満である。特に、Ru合金のRu含有量が95原子%以上100原子%未満の場合は、保護膜3への多層反射膜2の構成元素(ケイ素)の拡散を抑えつつ、EUV光の反射率を十分確保することができる。更に、この保護膜3の場合は、マスク洗浄耐性、吸収体膜4(具体的には、バッファ層42)をエッチング加工したときのエッチングストッパー機能、及び多層反射膜2の経時変化防止の保護膜機能を兼ね備えることが可能となる。
【0048】
EUVリソグラフィでは、露光光に対して透明な物質が少ないので、マスクパターン面への異物付着を防止するEUVペリクルが技術的に簡単ではない。このことから、ペリクルを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィでは、EUV露光によってマスクにカーボン膜が堆積したり、酸化膜が成長したりするといった露光コンタミネーションが起こる。そのため、EUV反射型マスク200を半導体装置の製造に使用している段階で、度々洗浄を行ってマスク上の異物やコンタミネーションを除去する必要がある。このため、EUV反射型マスク200では、光リソグラフィ用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されている。Tiを含有したRu系保護膜3を用いると、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、又は濃度が10ppm以下のオゾン水などの洗浄液に対する洗浄耐性が特に高く、マスク洗浄耐性の要求を満たすことが可能となる。
【0049】
このようなRu又はその合金などにより構成される保護膜3の厚みは、その保護膜3としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜3の厚みは、好ましくは、1.0nmから8.0nm、より好ましくは、1.5nmから6.0nmである。
【0050】
保護膜3の形成方法としては、公知の膜形成方法と同様のものを特に制限なく採用することができる。具体例としては、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0051】
<<吸収体膜4>>
本実施形態の反射型マスクブランク100では、多層反射膜2又は保護膜3の上に、EUV光を吸収する吸収体膜4が形成される。吸収体膜4は、EUV光を吸収する機能を有する。本実施形態の吸収体膜4は、バッファ層42と、バッファ層42の上(基板1とは反対側)に設けられた吸収層44とを有する。本実施形態の反射型マスクブランク100は、タンタル(Ta)又はケイ素(Si)を含有する材料からなるバッファ層42及びクロム(Cr)を含有する材料からなる吸収層44を含む吸収体膜4、並びに後述する所定の材料のエッチングマスク膜6を含むことにより、レジスト膜11及び吸収体膜4の薄膜化が可能となる。
【0052】
後述するように、本実施形態の吸収体膜4のうち、吸収層44は、Crを含有する材料からなる。Crを含有する薄膜が、Ruを主材料とする保護膜3の表面に接して配置される場合、吸収層44と保護膜3のエッチング選択比が高くないという問題が生じる。そのため、本実施形態の吸収体膜4では、吸収層44と保護膜3との間に、所定の材料のバッファ層42を配置することにした。
【0053】
本実施形態の反射型マスクブランク100の吸収体膜4を構成するバッファ層42及び吸収層44の膜厚を得るために、図3~6に示すようなシミュレーションを行なった。EUV光における吸収体膜4の反射率が2%以下であれば、半導体装置のリソグラフィのための反射型マスク200として用いることができる。
【0054】
図3~6に示すシミュレーションに用いた構造は、基板1上にMo/Si周期膜の多層反射膜2、及びルテニウムを材料とする保護膜3(膜厚:3.5nm)が形成され、さらにその上にバッファ層42(膜厚:d2)及び吸収層44(膜厚:d1)を形成した構造である。Mo/Si周期膜の多層反射膜2は、Si層の膜厚を4.2nm、Mo層の膜厚を2.8nmとし、基板1の上に単層のSi層及び単層のMo層を1周期として40周期積層し、最上層として膜厚が4.0nmのSi層を配置した構造とした。また、吸収体膜4(吸収層44/バッファ層42)の膜厚をD(=d1+d2)とした。なお、本構造は、反射型マスク200を製造したときの、吸収体膜4の反射率と、バッファ層42及び吸収層44の膜厚との関係を考察するものなので、エッチングマスク膜6は配置されない構造とした。反射型マスク200を製造する際には、エッチングマスク膜6は最終的に除去されるからである。
【0055】
図3に、吸収層44(材料:CrN)の膜厚をd1、バッファ層42(材料:TaBN)の膜厚をd2とし、バッファ層42の膜厚d2を2~20nmの範囲で変化させたときの、吸収体膜4の膜厚D(=d1+d2、nm)と、吸収体膜4の表面でのEUV光の反射率(%)との関係を示す。図3に示すように、膜厚Dに伴うEUV光の干渉のため、反射率は、膜厚Dの変化に対して振動的な振る舞いを示す。また、図3から明らかなように、CrNの吸収層44及びTaBNのバッファ層42を有する吸収体膜4の場合には、吸収体膜4が47nm付近になったときにEUV光の反射率が2%以下となる極小値、55nm付近になったときに反射率が1%以下となる極小値を取ることが理解できる。なお、図3に用いた構造の場合には、2%以下のEUV光の反射率を得るために、吸収体膜4の膜厚Dは、少なくとも46nm程度以上必要であることが理解できる。
【0056】
図3において、吸収体膜4が47nm付近になったときに反射率が2%以下となる極小値を取ることから、さらに吸収体膜4の膜厚が47nmの場合について、考察する。図4は、吸収体膜4の膜厚D(=d1+d2)を47nmとし、バッファ層42(材料:TaBN)の膜厚d2を0~47nmまで変化させたときの、吸収体膜4の表面でのEUV光の反射率(%)を示す。なお、バッファ層42の膜厚d2の変化に伴い、吸収層44(材料:CrN)の膜厚d1は、47~0nmまで変化することになる。図4に示すように、吸収体膜4の膜厚D(=d1+d2)を47nmとした場合、バッファ層42(材料:TaBN)の膜厚d2が0~24nm付近(概ね膜厚d2が0~25nm付近)までの範囲で、EUV光の反射率が2%以下となることが理解できる。したがって、TaBNのバッファ層42の膜厚d2が25nm以下であれば、EUV光の反射率が2%以下という要求を満足することができる。
【0057】
図5に、バッファ層42の材料をTaBOとした他は、図3の場合と同様の、吸収体膜4の膜厚D(nm)と、吸収体膜4の表面でのEUV光の反射率(%)との関係を示す。すなわち、図5に、吸収層44(材料:CrN)の膜厚をd1、バッファ層42(材料:TaBO)の膜厚をd2とし、バッファ層42の膜厚d2を2~20nmの範囲で変化させたときの、吸収体膜4の膜厚D(=d1+d2、nm)と、吸収体膜4の表面でのEUV光の反射率(%)との関係を示す。図3と同様に、図5では、膜厚Dに伴うEUV光の干渉のため、反射率は、膜厚Dの変化に対して振動的な振る舞いを示す。また、図5から明らかなように、CrNの吸収層44及びTaBOのバッファ層42を有する吸収体膜4の場合には、吸収体膜4が47nm付近になったときにEUV光の反射率が2%以下となる極小値、55nm付近になったときに反射率が1%以下となる極小値を取ることが理解できる。なお、図5に用いた構造の場合には、2%以下のEUV光の反射率を得るために、TaBOバッファ層の膜厚が10nm以下のときに、吸収体膜4の膜厚Dは、少なくとも46nm程度以上必要であることが理解できる。
【0058】
図5において、吸収体膜4が47nm付近になったときに反射率が2%以下となる極小値を取ることから、図4の場合と同様に、さらに吸収体膜4の膜厚が47nmの場合について、考察する。図4の場合と同様に、図6は、吸収体膜4の膜厚D(=d1+d2)を47nmとし、バッファ層42(材料:TaBO)の膜厚d2を0~47nmまで変化させたときの、吸収体膜4の表面でのEUV光の反射率(%)を示す。なお、バッファ層42の膜厚d2の変化に伴い、吸収層44(材料:CrN)の膜厚d1は、47~0nmまで変化することになる。図6に示すように、吸収体膜4の膜厚D(=d1+d2)を47nmとした場合、バッファ層42(材料:TaBO)の膜厚d2が0~14nm付近(概ね0~15nm付近)までの範囲で、EUV光の反射率が2%以下となることが理解できる。したがって、TaBOのバッファ層42の膜厚d2が15nm以下であれば、EUV光の反射率が2%以下という要求を満足することができる。
【0059】
図7に、シミュレーションによって得られた吸収体膜4(吸収層44/バッファ層42)の膜厚D(=d1+d2)と、吸収体膜4の表面でのEUV光の反射率(%)との関係を示す。シミュレーションに用いた構造は、基板1上にMo/Si周期膜の多層反射膜2、及びルテニウムを材料とする保護膜3(3.5nm)が形成され、さらにその上にバッファ層42(膜厚:d2=2nm)及び吸収層44(膜厚:d1)を形成した構造である。なお、Mo/Si周期膜の多層反射膜2は、上述の図3~6のシミュレーションと同様の構造とした。バッファ層42の材料は、TaBN及びTaBOとした。参考のために、バッファ層42を有しない、従来の構造であるTaBN膜単層の吸収体膜4の膜厚Dと、吸収体膜4の表面でのEUV光の反射率(%)との関係を示す。図7から、CrN吸収層44を有する吸収体膜4(吸収層44/バッファ層42)の場合には、従来のTaBN膜単層の吸収体膜4と比べて、EUV光の反射率(%)が大きく低下していることが見て取れる。したがって、本実施形態の吸収体膜4を用いることにより、従来より薄い吸収体膜4の場合であっても2%以下の反射率を達成できることが理解できる。
【0060】
また、バッファ層42として機能を有するためには、バッファ層42の膜厚が0.5nm以上であることが必要である。したがって、本実施形態の反射型マスクブランク100において、バッファ層42が、タンタル(Ta)を含有する材料からなる場合には、2%以下の反射率を達成するために、バッファ層42の膜厚を0.5nm以上25nm以下にすることが必要であるといえる。
【0061】
以上のシミュレーションの結果から、バッファ層42の材料としてTaBN及びTaBOを用いた場合に、所定の膜厚の範囲であれば、従来より薄い吸収体膜4の場合であっても2%以下の反射率を達成できることについて説明した。同様のシミュレーションを、バッファ層42の材料としてケイ素(Si)を含有する材料を用いた場合について行い、同様の結果を得た。
【0062】
すなわち、上述と同様のシミュレーションにより、本実施形態の反射型マスクブランク100において、バッファ層42が、ケイ素(Si)を含有する材料からなる場合にも、2%以下の反射率を達成するために、バッファ層42の膜厚を0.5nm以上17nm以下にすることが必要であるとの結果を得た。また、バッファ層42が、ケイ素(Si)を含有する材料からなる場合にも、2%以下のEUV光の反射率を得るために、吸収体膜4の膜厚Dは、少なくとも46nm程度以上必要であるとの結果を得た。
【0063】
次に、バッファ層42がタンタル(Ta)を含有する材料からなる場合について、さらに説明する。
【0064】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、バッファ層42の材料が、タンタル(Ta)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)及び水素(H)から選らばれる1以上の元素とを含有する材料であることが好ましい。また、バッファ層42の材料は、タンタル(Ta)と、酸素(O)、窒素(N)、ホウ素(B)及び水素(H)から選らばれる1以上の元素とを含有する材料であることがより好ましい。上述のシミュレーション結果から明らかなように、バッファ層42の材料を、所定のタンタル(Ta)系材料とすることにより、従来より薄い吸収体膜4の場合であっても2%以下の反射率を達成できる。
【0065】
また、バッファ層42の材料が所定のタンタル(Ta)を含む材料であることにより、クロム(Cr)を含有する材料からなる吸収層44のエッチングの際に、バッファ層42のエッチングが実質的になされないエッチングガスを選択することができる。
【0066】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、バッファ層42の材料が、タンタル(Ta)と、窒素(N)及びホウ素(B)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含み、バッファ層42の膜厚が25nm以下であることが好ましい。また、図4に示すように、バッファ層42の膜厚が薄い方が、EUV光反射率をより低くすることができると共に、膜厚に対する振動を小さくすることができる。そのため、バッファ層42の膜厚は、15nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、4nm未満が特に好ましい。なお、バッファ層42の材料は、タンタル(Ta)及び窒素(N)を含み、ホウ素(B)を含まないようにしてもよい。また、バッファ層42の材料は、タンタル(Ta)及びホウ素(B)を含み、窒素(N)を含まないようにしてもよい。バッファ層42の材料をタンタル(Ta)と、窒素(N)及びホウ素(B)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料とすることにより、吸収層44がクロム(Cr)を含有する材料からなる層である場合でも、保護膜3と、吸収層44との間のエッチング選択比に関する問題を回避し、適切なエッチングガスを選択することができる。また、吸収体膜4の膜厚を薄くすることができるので、反射型マスク200のシャドーイング効果をより低減することができる。
【0067】
バッファ層42中のタンタル含有量は、50原子%以上であることが好ましく、70原子%以上であることがより好ましい。バッファ層42中のタンタル含有量は、95原子%以下であることが好ましい。バッファ層42中の窒素とホウ素の合計含有量は、50原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることがより好ましい。バッファ層42中の窒素とホウ素の合計含有量は、5原子%以上であることが好ましい。窒素の含有量はホウ素の含有量よりも少ない方が好ましい。窒素の含有量が少ない方が塩素ガスでのエッチングレートが速くなり、バッファ層42を除去しやすいからである。バッファ層42中の水素含有量は、0.1原子%以上であることが好ましく、5原子%以下であることが好ましく、3原子%以下であることがより好ましい。
【0068】
タンタル(Ta)と、窒素(N)及びホウ素(B)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含有する材料からなる本実施形態のバッファ層42は、フッ素系ガス又は酸素を含まない塩素系ガスによりエッチングすることができる。
【0069】
フッ素系ガスとしては、CF、CHF、C、C、C、C、CH、CHF、C、SF、及びF等を用いることができる。塩素系ガスとしては、Cl、SiCl、CHCl、CCl、及びBCl等を用いることができる。また、これらのエッチングガスは、必要に応じて、更に、He及び/又はArなどの不活性ガスを含むことができる。
【0070】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、バッファ層42の材料が、タンタル(Ta)及び酸素(O)を含み、バッファ層42の膜厚が15nm以下であることが好ましい。また、図6に示すように、バッファ層42の膜厚が薄い方が、EUV光反射率をより低くすることができると共に、膜厚に対する振動を小さくすることができるため、バッファ層42の膜厚は、10nm以下がより好ましく、4nm未満がさらに好ましい。なお、バッファ層42の材料は、タンタル(Ta)及び酸素(O)の他、ホウ素(B)及び/又は水素(H)を含むことができる。バッファ層42の材料をタンタル(Ta)及び酸素(O)を含む材料とすることにより、吸収層44がクロム(Cr)を含有する材料からなる層である場合でも、保護膜3と、吸収層44との間のエッチング選択比に関する問題を回避し、適切なエッチングガスを選択することができる。また、吸収体膜4の膜厚を薄くすることができるので、反射型マスク200のシャドーイング効果をより低減することができる。
【0071】
バッファ層42中のタンタル含有量は、50原子%以上であることが好ましく、70原子%以上であることがより好ましい。バッファ層42中のタンタル含有量は、95原子%以下であることが好ましい。バッファ層42中の酸素含有量は、70原子%以下であることが好ましく、60原子%以下であることがより好ましい。バッファ層42中の窒素含有量は、エッチング容易性の観点から10原子%以上であることが好ましい。バッファ層42中の水素含有量は、0.1原子%以上であることが好ましく、5原子%以下であることが好ましく、3原子%以下であることがより好ましい。
【0072】
タンタル(Ta)及び酸素(O)を含有する材料からなる本実施形態のバッファ層42は、上述のフッ素系ガスによりエッチングすることができる。
【0073】
次に、バッファ層42がケイ素を含有する材料からなる場合について説明する。
【0074】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、バッファ層42の材料が、ケイ素、ケイ素化合物、ケイ素及び金属を含む金属ケイ素、又はケイ素化合物及び金属を含む金属ケイ素化合物の材料であり、ケイ素化合物の材料が、ケイ素と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び水素(H)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含むことが好ましい。また、エッチングマスク膜6の材料のうちケイ素化合物の材料が、ケイ素と、酸素(O)及び窒素(N)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含むことがより好ましい。
【0075】
ケイ素を含む材料として、具体的には、SiO、SiN、SiON、SiC、SiCO、SiCN、SiCON、MoSi、MoSiO、MoSiN、及びMoSiON等を挙げることができる。ケイ素を含む材料として、SiO、SiN又はSiONを用いることが好ましい。なお、材料は、本発明の効果が得られる範囲で、ケイ素以外の半金属又は金属を含有することができる。また、金属ケイ素化合物としては、モリブデンシリサイドを用いることができる。
【0076】
上述のタンタル系材料のバッファ層42の場合と同様に、バッファ層42がケイ素系の材料である場合にも、保護膜3と、吸収層44との間のエッチング選択比に関する問題を回避して、吸収体膜4の膜厚を薄くすることができる。そのため、反射型マスク200のシャドーイング効果をより低減することができる。
【0077】
バッファ層42は、後述するエッチングマスク膜6と同じ材料で形成することが好ましい。この結果、バッファ層42をパターニングしたときにエッチングマスク膜6を同時に除去できる。また、バッファ層42とエッチングマスク膜6とを同じ材料で形成し、組成比を互いに異ならせてもよい。また、バッファ層42はタンタルを含有する材料で形成し、エッチングマスク膜6はケイ素を含有する材料で形成してもよい。また、バッファ層42はケイ素を含有する材料で形成し、エッチングマスク膜6はタンタルを含有する材料で形成してもよい。
【0078】
バッファ層42の膜厚は、吸収体膜4のエッチングの際に保護膜3にダメージを与えて光学特性が変わることを抑制する観点から、0.5nm以上であり、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは2nm以上である。また、バッファ層42の膜厚は、吸収体膜4とバッファ層42の合計膜厚を薄くする、即ち吸収体パターン4aの高さを低くする観点から、25nm以下であることが好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、4nm未満であることが特に好ましい。
【0079】
また、バッファ層42の消衰係数は、0.01以上0.035未満とすることができる。
【0080】
また、バッファ層42及びエッチングマスク膜6を同時にエッチングする場合には、バッファ層42の膜厚は、エッチングマスク膜6の膜厚と同じであること、又はエッチングマスク膜6の膜厚より薄いことが好ましい。更に、(バッファ層42の膜厚)≦(エッチングマスク膜6の膜厚)の場合には、(バッファ層42のエッチング速度)≦(エッチングマスク膜6のエッチング速度)の関係を満たすことが好ましい。
【0081】
ケイ素を含有する材料からなるバッファ層42は、フッ素系ガスによりエッチングすることができる。
【0082】
次に、本実施形態の吸収体膜4に含まれる吸収層44について説明する。
【0083】
実施形態の反射型マスクブランク100では、EUV光の吸収を、主に吸収層44において行う。そのため、吸収層44の材料は、消衰係数が比較的大きいクロム(Cr)を含有する材料からなる。そのため、吸収層44の材料は、バッファ層42よりもEUV光に対する消衰係数が大きい。吸収層44の消衰係数は、0.035以上が好ましい。
【0084】
吸収層44の材料は、クロム(Cr)と、窒素(N)及び炭素(C)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料あることが好ましい。なお、吸収層44の材料は、消衰係数kに対して悪影響を与えない範囲で、クロム(Cr)、窒素(N)及び炭素(C)以外の成分、例えば酸素(O)及び/又は水素(H)等を含むことができる。消衰係数kが大きいクロム(Cr)を含む所定の材料で吸収層44を形成することにより、タンタル(Ta)を含む材料よりも消衰係数kが大きい吸収層44を得ることができる。そのため、吸収体膜4の膜厚を薄くすることができるので、反射型マスク200のシャドーイング効果をより低減することができる。
【0085】
吸収層44の材料は、クロム(Cr)と、窒素(N)及び炭素(C)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含むクロム化合物である。クロム化合物としては、例えば、CrN、CrC、CrON、CrCO、CrCN、CrCON、CrBN、CrBC、CrBON、CrBCN及びCrBOCN等が挙げられる。吸収層44の消衰係数を大きくするためには、酸素を含まない材料とすることが好ましい。この場合、塩素系ガスに対するエッチング選択比を上げることも可能である。酸素を含まないクロム化合物として、例えばCrN、CrC、CrCN、CrBN、CrBC及びCrBCN等が挙げられる。クロム化合物のCr含有量は、50原子%以上100原子%未満であることが好ましく、80原子%以上100原子%未満であることがより好ましい。クロム化合物の窒素(N)含有量は、5原子%以上が好ましく、20原子%以下が好ましく、15原子%以下がより好ましい。また、本明細書において、「酸素を含まない」とは、クロム化合物における酸素の含有量が10原子%以下、好ましくは5原子%以下であるものが該当する。なお、材料は、本発明の効果が得られる範囲で、クロム以外の金属を含有することができる。
【0086】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、吸収層44の材料が、クロム(Cr)及び窒素(N)を含み、吸収層44の膜厚が25nm以上60nm未満であることが好ましい。また、吸収層44の膜厚の上限は、50nm未満であることがより好ましい。また、吸収層44の膜厚の下限は、35nm以上であることがより好ましく、45nm以上であることがさらに好ましい。吸収層44の材料をクロム(Cr)及び窒素(N)を含む材料とすることにより、吸収層44の膜厚を上記の膜厚にすることができるので、吸収体膜4の膜厚を従来より薄くすることができる。そのため、反射型マスク200のシャドーイング効果をより低減することができる。
【0087】
クロム(Cr)を含有する材料からなる本実施形態の吸収層44は、上述の塩素系ガス及び酸素ガスの混合ガスによりエッチングすることができる。
【0088】
EUV光の吸収を目的とした吸収体膜4の場合、吸収体膜4に対するEUV光の反射率が2%以下、好ましくは1%以下となるように、膜厚が設定される。また、シャドーイング効果を抑制するために、吸収体膜4の膜厚は、60nm未満、好ましくは50nm以下とすることが求められる。
【0089】
また、吸収体膜4(吸収層44)の表面には、酸化層を形成してもよい。吸収体膜4(吸収層44)の表面に酸化層を形成することにより、得られる反射型マスク200の吸収体パターン4aの洗浄耐性を向上させることができる。酸化層の厚さは、1.0nm以上が好ましく、1.5nm以上がより好ましい。また、酸化層の厚さは、5nm以下が好ましく、3nm以下がより好ましい。酸化層の厚さが1.0nm未満の場合には薄すぎて効果が期待できず、5nmを超えるとマスク検査光に対する表面反射率に与える影響が大きくなり、所定の表面反射率を得るための制御が難しくなる。
【0090】
酸化層の形成方法は、吸収体膜4(吸収層44)が成膜された後のマスクブランクに対して、温水処理、オゾン水処理、酸素を含有する気体中での加熱処理、酸素を含有する気体中での紫外線照射処理及びOプラズマ処理等を行うことなどが挙げられる。また、吸収体膜4(吸収層44)を成膜後に吸収体膜4(吸収層44)の表面が大気に晒される場合、表層に自然酸化による酸化層が形成されることがある。特に、場合によっては、膜厚が1~2nmの酸化層が形成される。
【0091】
<<エッチングマスク膜6>>
本実施形態の反射型マスクブランク100のエッチングマスク膜6は、タンタル(Ta)又はケイ素(Si)を含有する材料からなる。また、エッチングマスク膜6の膜厚は0.5nm以上14nm以下である。
【0092】
適切なエッチングマスク膜6を有することにより、反射型マスク200のシャドーイング効果をより低減するとともに、微細で高精度な吸収体パターンを形成できる反射型マスクブランク100を得ることができる。
【0093】
図1に示すように、エッチングマスク膜6は、吸収体膜4の上に形成される。エッチングマスク膜6の材料としては、エッチングマスク膜6に対する吸収層44のエッチング選択比が高い材料を用いる。ここで、「Aに対するBのエッチング選択比」とは、エッチングを行いたくない層(マスクとなる層)であるAとエッチングを行いたい層であるBとのエッチングレートの比をいう。具体的には「Aに対するBのエッチング選択比=Bのエッチング速度/Aのエッチング速度」の式によって特定される。また、「選択比が高い」とは、比較対象に対して、上記定義の選択比の値が大きいことをいう。エッチングマスク膜6に対する吸収層44のエッチング選択比は、1.5以上が好ましく、3以上が更に好ましい。
【0094】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、エッチングマスク膜6の材料が、タンタル(Ta)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)及び水素(H)から選らばれる1以上の元素とを含有する材料であることが好ましい。また、エッチングマスク膜6の材料は、タンタル(Ta)と、酸素(O)、窒素(N)、ホウ素(B)及び水素(H)から選らばれる1以上の元素とを含有する材料であることがより好ましい。エッチングマスク膜6の材料が、タンタル(Ta)を含む所定の材料であることにより、クロム(Cr)を含有する材料からなる吸収層44のエッチングガスに対して、耐性のあるエッチングマスク膜6を形成することができる。
【0095】
エッチングマスク膜6中のタンタル含有量は、50原子%以上であることが好ましく、70原子%以上であることがより好ましい。エッチングマスク膜6中のタンタル含有量は、95原子%以下であることが好ましい。エッチングマスク膜6中の酸素含有量は、70原子%以下であることが好ましく、60原子%以下であることがより好ましい。エッチングマスク膜6中の窒素含有量は、エッチング容易性の観点から10原子%以上であることが好ましい。エッチングマスク膜6中の水素含有量は、0.1原子%以上であることが好ましく、5原子%以下であることが好ましく、3原子%以下であることがより好ましい。
【0096】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、エッチングマスク膜6の材料が、タンタル(Ta)と、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)及び水素(H)から選らばれる1以上の元素とを含有し、酸素(O)を含有しない材料であることが好ましい。また、エッチングマスク膜6の材料は、タンタル(Ta)と、窒素(N)、ホウ素(B)及び水素(H)から選らばれる1以上の元素とを含有し、酸素(O)を含有しない材料であることがより好ましい。エッチングマスク膜6の材料が、タンタル(Ta)を含み、酸素(O)を含有しない所定の材料であることにより、より品質が安定したエッチングマスク膜6を得ることができる。なお、本明細書において、「酸素を含まない」とは、タンタル化合物における酸素の含有量が10原子%以下、好ましくは5原子%以下であるものが該当する。
【0097】
エッチングマスク膜6中のタンタル含有量は、50原子%以上であることが好ましく、70原子%以上であることがより好ましい。エッチングマスク膜6中のタンタル含有量は、95原子%以下であることが好ましい。エッチングマスク膜6中の窒素とホウ素の合計含有量は、50原子%以下であることが好ましく、30原子%以下であることがより好ましい。エッチングマスク膜6中の窒素とホウ素の合計含有量は、5原子%以上であることが好ましい。窒素の含有量はホウ素の含有量よりも少ない方が好ましい。窒素の含有量が少ない方が塩素ガスでのエッチングレートが速くなり、エッチングマスク膜6を除去しやすいからである。エッチングマスク膜6中の水素含有量は、0.1原子%以上であることが好ましく、5原子%以下であることが好ましく、3原子%以下であることがより好ましい。
【0098】
なお、エッチングマスク膜6の表面近傍の部分(表層)は、酸素(O)を含むことができる。エッチングマスク膜6の形成の際には、酸素(O)を含有しない材料を用いた場合でも、エッチングマスク膜6の表層が、自然酸化膜由来の酸素を含む場合がある。エッチングマスク膜6の形成の際には、酸素(O)を含有しない材料を用いることが好ましい。エッチングマスク膜6の表層以外の部分が酸素(O)を含有しないことにより、より品質が安定したエッチングマスク膜6を得ることができる。
【0099】
タンタル(Ta)を含有する材料からなる本実施形態のエッチングマスク膜6は、上述のフッ素系ガス又は酸素を含まない塩素系ガスによりエッチングすることができる。また、酸素を含まないタンタル(Ta)を含有する材料からなる本実施形態のエッチングマスク膜6は、酸素を含まない上述の塩素系ガスによってエッチングすることができる。
【0100】
本実施形態のエッチングマスク膜6の材料は、ケイ素を含有する材料を用いることができる。ケイ素を含有する材料は、ケイ素、ケイ素化合物、ケイ素及び金属を含む金属ケイ素、又はケイ素化合物及び金属を含む金属ケイ素化合物の材料であり、ケイ素化合物の材料が、ケイ素と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び水素(H)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料であることが好ましい。また、エッチングマスク膜6の材料のうちケイ素化合物の材料が、ケイ素と、酸素(O)及び窒素(N)から選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料であることがより好ましい。エッチングマスク膜6の材料が、ケイ素(Si)を含む所定の材料であることにより、クロム(Cr)を含有する材料からなる吸収層44のエッチングガスに対して、耐性のあるエッチングマスク膜6を形成することができる。
【0101】
ケイ素を含む材料として、具体的には、SiO、SiN、SiON、SiC、SiCO、SiCN、SiCON、MoSi、MoSiO、MoSiN、及びMoSiON等を挙げることができる。ケイ素を含む材料として、SiO、SiN又はSiONを用いることが好ましい。なお、材料は、本発明の効果が得られる範囲で、ケイ素以外の半金属又は金属を含有することができる。また、金属ケイ素化合物としては、モリブデンシリサイドを用いることができる。
【0102】
ケイ素を含有する材料からなるエッチングマスク膜6は、フッ素系ガスによりエッチングすることができる。
【0103】
エッチングマスク膜6の膜厚は、転写パターンを精度よく吸収体膜4に形成するエッチングマスクとしての機能を得る観点から、0.5nm以上であり、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることがさらに好ましい。また、レジスト膜11の膜厚を薄くする観点から、エッチングマスク膜6の膜厚は、14nm以下であり、12nm以下であることが好ましく、10nm以下がより好ましい。
【0104】
エッチングマスク膜6とバッファ層42とは、同じ材料としてもよい。また、エッチングマスク膜6とバッファ層42とは、同じ金属を含む組成比が異なる材料としてもよい。エッチングマスク膜6及びバッファ層42がタンタルを含む場合、エッチングマスク膜6のタンタル含有量がバッファ層42のタンタル含有量より多く、かつエッチングマスク膜6の膜厚をバッファ層42の膜厚よりも厚くしてもよい。エッチングマスク膜6及びバッファ層42が水素を含む場合、エッチングマスク膜6の水素含有量がバッファ層42の水素含有量よりも多くてもよい。
【0105】
<<レジスト膜11>>
本実施形態の反射型マスクブランク100は、エッチングマスク膜6の上にレジスト膜11を有することができる。本実施形態の反射型マスクブランク100には、レジスト膜11を有する形態も含まれる。本実施形態の反射型マスクブランク100では、適切な材料及び/又は適切な膜厚の吸収体膜4(バッファ層42及び吸収層44)及びエッチングガスを選択することにより、レジスト膜11の薄膜化も可能である。
【0106】
レジスト膜11の材料としては、例えば化学増幅型レジスト(CAR:chemically-amplified resist)を用いることができる。レジスト膜11をパターニングし、吸収体膜4(バッファ層42及び吸収層44)をエッチングすることにより、所定の転写パターンを有する反射型マスク200を製造することができる。
【0107】
<<裏面導電膜5>>
基板1の第2主面(裏面)側(多層反射膜2形成面の反対側)には、一般的に、静電チャック用の裏面導電膜5が形成される。静電チャック用の裏面導電膜5に求められる電気的特性(シート抵抗)は通常100Ω/□(Ω/Square)以下である。裏面導電膜5の形成方法は、例えばマグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法により、クロム、又はタンタル等の金属、並びにそれらの合金のターゲットを使用して形成することができる。
【0108】
裏面導電膜5のクロム(Cr)を含む材料は、Crにホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択した少なくとも一つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。
【0109】
裏面導電膜5のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらの何れかにホウ素、窒素、酸素及び炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。
【0110】
タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含む材料としては、その表層に存在する窒素(N)が少ないことが好ましい。具体的には、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含む材料の裏面導電膜5の表層の窒素の含有量は、5原子%未満であることが好ましく、実質的に表層に窒素を含有しないことがより好ましい。タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含む材料の裏面導電膜5において、表層の窒素の含有量が少ない方が、耐摩耗性が高くなるためである。
【0111】
裏面導電膜5は、タンタル及びホウ素を含む材料からなることが好ましい。裏面導電膜5が、タンタル及びホウ素を含む材料からなることにより、耐摩耗性及び薬液耐性を有する導電膜23を得ることができる。裏面導電膜5が、タンタル(Ta)及びホウ素(B)を含む場合、B含有量は5~30原子%であることが好ましい。裏面導電膜5の成膜に用いるスパッタリングターゲット中のTa及びBの比率(Ta:B)は95:5~70:30であることが好ましい。
【0112】
裏面導電膜5の厚さは、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されない。裏面導電膜5の厚さは、通常10nmから200nmである。また、この裏面導電膜5はマスクブランク100の第2主面側の応力調整も兼ね備えている。すなわち、裏面導電膜5は、第1主面側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マスクブランク100が得られるように調整されている。
【0113】
<反射型マスク200及びその製造方法>
本実施形態の反射型マスク200は、上述の反射型マスクブランク100における吸収体膜4がパターニングされた吸収体パターン4aを有する。
【0114】
反射型マスク200の吸収体パターン4aがEUV光を吸収し、吸収体パターン4aの開口部でEUV光を反射することができる。そのため、所定の光学系を用いてEUV光を反射型マスク200に照射することにより、所定の微細な転写パターンを被転写物に対して転写することができる。
【0115】
本実施形態の反射型マスクブランク100を使用して、反射型マスク200を製造する。ここでは概要説明のみを行い、後に実施例において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0116】
反射型マスクブランク100を準備する。反射型マスクブランク100の第1主面の吸収体膜4の上に形成されたエッチングマスク膜6の上に、レジスト膜11を形成する(反射型マスクブランク100としてレジスト膜11を備えている場合は不要)。このレジスト膜11に所望のパターンを描画(露光)し、更に現像、リンスすることによって所定のレジストパターン11aを形成する。
【0117】
反射型マスクブランク100の場合は、このレジストパターン11aをマスクとしてエッチングマスク膜6をエッチングして、エッチングマスクパターン6aを形成する。レジストパターン11aを酸素アッシング又は熱硫酸などのウェット処理で剥離する。次に、エッチングマスクパターン6aをマスクとして吸収層44をエッチングすることにより、吸収層パターン44aが形成される。次に、露出したエッチングマスクパターン6a及び吸収層パターン44aをマスクとしてバッファ層42をエッチングしてバッファ層パターン42aを形成する。エッチングマスクパターン6aを除去して、吸収層パターン44a及びバッファ層パターン42aからなる吸収体パターン4aを形成する。最後に、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄を行う。
【0118】
なお、エッチングマスクパターン6aの除去は、バッファ層42のパターニングの際に、バッファ層42と同時にエッチングして除去することも可能である。
【0119】
本実施形態の反射型マスク200では、エッチングマスクパターン6aを除去せずに、吸収体パターン4aの上に残すことができる。ただし、その場合、エッチングマスクパターン6aを均一な薄膜として残す必要がある。エッチングマスクパターン6aの薄膜としての不均一性を避ける点から、本実施形態の反射型マスク200では、エッチングマスクパターン6aを配置せず、除去することが好ましい。
【0120】
本実施形態の反射型マスク200の製造方法は、上述の本実施形態の反射型マスクブランク100のエッチングマスク膜6を、フッ素系ガスを含むドライエッチングガスによってパターニングすることが好ましい。タンタル(Ta)を含有するエッチングマスク膜6の場合には、フッ素系ガスを用いて好適にドライエッチングをすることができる。また、吸収層44を、塩素系ガスと酸素ガスとを含むドライエッチングガスによってパターニングすることが好ましい。クロム(Cr)を含有する材料からなる吸収層は、塩素系ガスと酸素ガスとを含むドライエッチングガスを用いて好適にドライエッチングをすることができる。また、バッファ層42を、塩素系ガスを含むドライエッチングガスによってパターニングすることが好ましい。タンタル(Ta)を含有するバッファ層42の場合には、塩素系ガスを含むドライエッチングガスを用いて好適にドライエッチングをすることができる。このようにして、反射型マスク200の吸収体パターン4aを形成することできる。
【0121】
以上の工程により、シャドーイング効果が少ない高精度微細パターンを有する反射型マスク200が得られる。
【0122】
<半導体装置の製造方法>
本実施形態の半導体装置の製造方法は、EUV光を発する露光光源を有する露光装置に、本実施形態の反射型マスク200をセットし、被転写基板上に形成されているレジスト膜に転写パターンを転写する工程を有する。
【0123】
本実施形態の半導体装置の製造方法によれば、吸収体膜4の膜厚を薄くすることができて、シャドーイング効果を低減でき、且つ微細で高精度な吸収体膜4を形成した反射型マスク200を、半導体装置の製造のために用いることができる。そのため、微細で且つ高精度の転写パターンを有する半導体装置を製造することができる。
【0124】
上記本実施形態の反射型マスク200を使用してEUV露光を行うことにより、半導体基板上に反射型マスク200上の吸収体パターン4aに基づく所望の転写パターンを、シャドーイング効果による転写寸法精度の低下を抑えて形成することができる。また、吸収体パターン4aが、側壁ラフネスの少ない微細で高精度なパターンであるため、高い寸法精度で所望のパターンを半導体基板上に形成できる。このリソグラフィ工程に加え、被加工膜のエッチング、絶縁膜及び導電膜の形成、ドーパントの導入、並びにアニールなど種々の工程を経ることで、所望の電子回路が形成された半導体装置を製造することができる。
【0125】
より詳しく説明すると、EUV露光装置は、EUV光を発生するレーザープラズマ光源、照明光学系、マスクステージ系、縮小投影光学系、ウエハステージ系、及び真空設備等から構成される。光源にはデブリトラップ機能と露光光以外の長波長の光をカットするカットフィルタ及び真空差動排気用の設備等が備えられている。照明光学系と縮小投影光学系は反射型ミラーから構成される。EUV露光用反射型マスク200は、その第2主面に形成された導電膜により静電吸着されてマスクステージに載置される。
【0126】
EUV光源の光は、照明光学系を介して反射型マスク200垂直面に対して6°から8°傾けた角度で反射型マスク200に照射される。この入射光に対する反射型マスク200からの反射光は、入射とは逆方向にかつ入射角度と同じ角度で反射(正反射)し、通常1/4の縮小比を持つ反射型投影光学系に導かれ、ウエハステージ上に載置されたウエハ(半導体基板)上のレジストへの露光が行われる。この間、少なくともEUV光が通る場所は真空排気される。また、この露光にあたっては、マスクステージとウエハステージを縮小投影光学系の縮小比に応じた速度で同期させてスキャンし、スリットを介して露光を行うスキャン露光が主流となっている。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、半導体基板上にレジストパターンを形成することができる。本発明では、シャドーイング効果の小さな薄膜で、しかも側壁ラフネスの少ない高精度な吸収体パターン4aを持つマスクが用いられている。このため、半導体基板上に形成されたレジストパターンは高い寸法精度を持つ所望のものとなる。そして、このレジストパターンをマスクとして使用してエッチング等を実施することにより、例えば半導体基板上に所定の配線パターンを形成することができる。このような露光工程や被加工膜加工工程、絶縁膜や導電膜の形成工程、ドーパント導入工程、あるいはアニール工程等その他の必要な工程を経ることで、半導体装置が製造される。
【実施例
【0127】
以下、実施例について図面を参照しつつ説明する。なお、実施例において同様の構成要素については同一の符号を使用し、説明を簡略化若しくは省略する。
【0128】
[実施例1]
実施例1の反射型マスクブランク100は、図1に示すように、裏面導電膜5と、基板1と、多層反射膜2と、保護膜3と、吸収体膜4と、エッチングマスク膜6とを有する。吸収体膜4はバッファ層42及び吸収層44からなる。そして、図2(a)に示されるように、吸収体膜4上にレジスト膜11を形成する。図2(a)から(e)は、反射型マスクブランク100から反射型マスク200を作製する工程を示す要部断面模式図である。
【0129】
下記の説明において、成膜した薄膜の元素組成は、ラザフォード後方散乱分析法により測定した。
【0130】
先ず、実施例1(実施例1-1から1-5)の反射型マスクブランク100について説明する。
【0131】
第1主面及び第2主面の両主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板であるSiO-TiO系ガラス基板を準備し基板1とした。平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程よりなる研磨を行った。
【0132】
SiO-TiO系ガラス基板1の第2主面(裏面)に、CrN膜からなる裏面導電膜5をマグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により下記の条件にて形成した。
裏面導電膜5の形成条件:Crターゲット、ArとNの混合ガス雰囲気(Ar:90%、N:10%)、膜厚20nm。
【0133】
次に、裏面導電膜5が形成された側と反対側の基板1の主表面(第1主面)上に、多層反射膜2を形成した。基板1上に形成される多層反射膜2は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜2とするために、MoとSiからなる周期多層反射膜2とした。多層反射膜2は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、Arガス雰囲気中でイオンビームスパッタリング法により基板1上にMo層及びSi層を交互に積層して形成した。先ず、Si膜を4.2nmの厚みで成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの厚みで成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの厚みで成膜し、多層反射膜2を形成した。ここでは40周期としたが、これに限るものではなく、例えば60周期でも良い。60周期とした場合、40周期よりも工程数は増えるが、EUV光に対する反射率を高めることができる。
【0134】
引き続き、Arガス雰囲気中で、Ruターゲットを使用したイオンビームスパッタリング法によりRu膜からなる保護膜3を3.5nmの膜厚で成膜した。
【0135】
次に、保護膜3の上にバッファ層42及び吸収層44からなる吸収体膜4を形成した。なお、表1に、実施例1の保護膜3、バッファ層42、吸収層44、エッチングマスク膜6の材料、消衰係数、材料の組成比、エッチングガス及び膜厚を示す。
【0136】
具体的には、まず、DCマグネトロンスパッタリング法により、TaBN膜からなるバッファ層42を形成した。TaBN膜は、TaB混合焼結ターゲットを用いて、ArガスとNガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリングで、表1に示すように、2~20nmの膜厚で成膜した。
【0137】
表1に示すように、実施例1-1から1-5のTaBN膜の元素比率は、Taが75原子%、Bが12原子%、Nが13原子%であった。また、表1に示すように、TaBN膜(バッファ層42)の波長13.5nmにおける消衰係数kは0.030であった。
【0138】
次に、マグネトロンスパッタリング法により、CrN膜からなる吸収層44を形成した。CrN膜は、Crターゲットを用いて、ArガスとNガスの混合ガス雰囲気にて、反応性スパッタリングで、表1に示すように、27~46nmの膜厚で成膜した。
【0139】
表1に示すように、実施例1-1から1-5のCrN膜の元素比率は、Crが90原子%、Nが10原子%であった。また、表1に示すように、CrN膜(吸収層44)の波長13.5nmにおける消衰係数kは0.038であった。
【0140】
次に、DCマグネトロンスパッタリング法により、吸収層44の上に、TaBO膜からなるエッチングマスク膜6を形成した。TaBO膜は、TaBターゲットを用いて、ArガスとOガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリングで、表1に示すように、6nmの膜厚で成膜した。
【0141】
表1に示すように、実施例1-1から1-5のTaBO膜の元素比率は、Taが41原子%、Bが6原子%、Oが53原子%であった。
【0142】
以上のようにして、実施例1-1から1-5の反射型マスクブランク100を製造した。
【0143】
次に、上記実施例1-1から1-5の反射型マスクブランク100を用いて、実施例1の反射型マスク200を製造した。
【0144】
反射型マスクブランク100のエッチングマスク膜6の上に、レジスト膜11を80nmの厚さで形成した(図2(a))。レジスト膜11の形成には、化学増幅型レジスト(CAR)を用いた。このレジスト膜11に所望のパターンを描画(露光)し、更に現像、リンスすることによって所定のレジストパターン11aを形成した(図2(b))。次に、レジストパターン11aをマスクにして、TaBO膜(エッチングマスク膜6)のドライエッチングを、CFガスとHeガスの混合ガス(CF+Heガス)を用いて行うことで、エッチングマスクパターン6aを形成した(図2(c))。レジストパターン11aを酸素アッシングで剥離した。エッチングマスクパターン6aをマスクにして、CrN膜(吸収層44)のドライエッチングを、ClガスとOガスの混合ガス(Cl+Oガス)を用いて行うことで、吸収層パターン44aを形成した(図2(d))。
【0145】
その後、Clガスを用いたドライエッチングにより、バッファ層42をパターニングした。TaO系の薄膜は、塩素系ガスのドライエッチングに対する耐性が高く、実施例1-1から1-5のエッチングマスク膜6はTaBO膜(TaO系の薄膜)なので、バッファ層42をClガスでドライエッチングしたときに、6nmのエッチングマスク膜6は十分なエッチング耐性を有していた。その後、エッチングマスクパターン6aをCFガスとHeガスの混合ガスにより除去した(図2(e))。最後に純水(DIW)を用いたウェット洗浄を行って、実施例1-1から1-5の反射型マスク200を製造した。
【0146】
なお、必要に応じてウェット洗浄後マスク欠陥検査を行い、マスク欠陥修正を適宜行うことができる。
【0147】
上述のようにして製造した実施例1-1から1-5の反射型マスク200に対して、波長13.5nmにおける吸収体パターン4aのEUV光反射率を測定した。表1の「EUV光反射率」欄に、実施例1-1から1-5のEUV光反射率を示す。
【0148】
実施例1-1から1-5の反射型マスク200では、バッファ層42及び吸収層44からなる吸収体パターン4aの膜厚は47~48nmであり、従来のTa系材料で形成された吸収体膜4よりも薄くすることができ、シャドーイング効果を低減することができた。また、実施例1-1から1-5の吸収体膜4のEUV光反射率は2%以下だった。
【0149】
実施例1-1から1-5で作製した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0150】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜及び導電膜の形成、ドーパントの導入、並びにアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を製造することができた。
【0151】
[実施例2(実施例2-1から2-3)及び参考例1(参考例1-1及び1-2)]
表2に、実施例2及び参考例1の保護膜3、バッファ層42、吸収層44、エッチングマスク膜6の材料、消衰係数、材料の組成比、エッチングガス及び膜厚を示す。実施例2及び参考例1は、バッファ層42をTaBO膜、エッチングマスク膜6をTaBN膜とした場合の実施例であって、膜厚を表2に示すようにした以外は、基本的に実施例1と同様である。バッファ層42のTaBO膜の成膜は、実施例1のエッチングマスク膜6のTaBO膜の成膜と同様に行った。表2に示すように、TaBO膜(バッファ層42)の波長13.5nmにおける消衰係数kは0.023であった。また、エッチングマスク膜6のTaBN膜の成膜は、実施例1のバッファ層42のTaBN膜の成膜と同様に行った。
【0152】
次に、上記実施例2及び参考例1の反射型マスクブランク100を用いて、実施例1の場合と同様に、実施例2及び参考例1の反射型マスク200を製造した。表2に、実施例2及び参考例1の反射型マスク200を製造の際に、バッファ層42、吸収層44及びエッチングマスク膜6のエッチングのために用いたエッチングガスの種類を示す。なお、TaN系の薄膜は、フッ素系ガスのドライエッチングによりエッチングが可能である。実施例2及び参考例1のエッチングマスク膜6はTaBN膜(TaN系の薄膜)なので、バッファ層42をCFガス及びHeガスの混合ガスでドライエッチングしたときに、同時にエッチングされる。そのために、実施例2及び参考例1では、表2に示すように、エッチングマスク膜6の膜厚を、バッファ層42よりも厚くした。
【0153】
上述のようにして製造した実施例2-1から2-3並びに参考例1-1及び1-2の反射型マスク200に対して、波長13.5nmにおける吸収体パターン4aのEUV光反射率を測定した。表2の「EUV光反射率」欄に、実施例2-1から2-3並びに参考例1-1及び1-2のEUV光反射率を示す。
【0154】
表2に示すように、実施例2-1から2-3のEUV光反射率は2%以下だった。これに対して参考例1-1及び1-2では、EUV光反射率が2%を超えていた。参考例1-1及び1-2では、消衰係数の大きい吸収層44の膜厚が32nm以下になり、吸収層44におけるEUV光の吸収が十分に行えず、反射率が高くなったものと考えられる。実施例2及び参考例1のようにバッファ層42の消衰係数が0.025以下の材料を用いた場合には、吸収層44は、少なくとも35nmは必要であるといえる。
【0155】
実施例2-1から2-3の反射型マスク200では、バッファ層42及び吸収層44からなる吸収体パターン4aの膜厚は47~48nmであり、従来のTa系材料で形成された吸収体膜4よりも薄くすることができ、シャドーイング効果を低減することができた。
【0156】
実施例2-1から2-3で作製した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0157】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜及び導電膜の形成、ドーパントの導入、並びにアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を製造することができた。
【0158】
[実施例3]
表3に、実施例3の保護膜3、バッファ層42、吸収層44、エッチングマスク膜6の材料、消衰係数、材料の組成比、エッチングガス及び膜厚を示す。実施例3は、バッファ層42をTaBO膜とした場合の実施例であって、膜厚を表3に示すようにした以外は、基本的に実施例1と同様である。バッファ層42のTaBO膜の成膜は、実施例1のエッチングマスク膜6のTaBO膜の成膜と同様に行った。
【0159】
次に、上記実施例3の反射型マスクブランク100を用いて、実施例1の場合と同様に、実施例3の反射型マスク200を製造した。表3に、実施例3の反射型マスク200を製造の際に、バッファ層42、吸収層44及びエッチングマスク膜6のエッチングのために用いたエッチングガスの種類を示す。実施例3では、バッファ層42をパターニングするとともに、エッチングマスクパターン6aを同時に除去した。
【0160】
上述のようにして製造した実施例3の反射型マスク200に対して、波長13.5nmにおける吸収体パターン4aのEUV光反射率を測定した。表3の「EUV光反射率」欄に、実施例3のEUV光反射率を示す。
【0161】
表3に示すように、実施例3のEUV光反射率は1.4%であり、2%以下だった。
【0162】
実施例3の反射型マスク200では、バッファ層42及び吸収層44からなる吸収体パターン4aの膜厚は48nmであり、従来のTa系材料で形成された吸収体膜4よりも薄くすることができ、シャドーイング効果を低減することができた。
【0163】
実施例3で作製した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0164】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜及び導電膜の形成、ドーパントの導入、並びにアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を製造することができた。
【0165】
[実施例4(実施例4-1から4-4)]
表4に、実施例4(実施例4-1から4-4)の保護膜3、バッファ層42、吸収層44、エッチングマスク膜6の材料、消衰係数、材料の組成比、エッチングガス及び膜厚を示す。実施例4は、エッチングマスク膜6をTaBN膜とした場合の実施例であって、膜厚を表4に示すようにした以外は、基本的に実施例1と同様である。エッチングマスク膜6のTaBN膜の成膜は、実施例1のバッファ層42のTaBN膜の成膜と同様に行った。
【0166】
次に、上記実施例4の反射型マスクブランク100を用いて、実施例1の場合と同様に、実施例4の反射型マスク200を製造した。表4に、実施例4の反射型マスク200を製造の際に、バッファ層42、吸収層44及びエッチングマスク膜6のエッチングのために用いたエッチングガスの種類を示す。表4に示すように、実施例4では、エッチングマスク膜6(TaBN膜)のエッチングのために、実施例4-1から4-4で異なったエッチングガスを用いた。なお、レジスト膜11は、フッ素系ガスのドライエッチングに対する耐性が高い。そのため、実施例4-2から4-4のように、エッチングマスク膜6をフッ素系ガスによってドライエッチングする場合には、レジスト膜11の膜厚を薄くすることが可能である。具体的には、実施例4-1で80nm程度であったレジスト膜11の膜厚を、30~50nmにすることができるので、より微細パターンを形成することができる。
【0167】
上述のようにして製造した実施例4の反射型マスク200に対して、波長13.5nmにおける吸収体パターン4aのEUV光反射率を測定した。表4の「EUV光反射率」欄に、実施例4のEUV光反射率を示す。
【0168】
表4に示すように、実施例4のEUV光反射率はすべて0.6%であり、すべて2%以下だった。
【0169】
実施例4の反射型マスク200では、バッファ層42及び吸収層44からなる吸収体パターン4aの膜厚は55nmであり、従来のTa系材料で形成された吸収体膜4よりも薄くすることができ、シャドーイング効果を低減することができた。
【0170】
実施例4で作製した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0171】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜及び導電膜の形成、ドーパントの導入、並びにアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を製造することができた。
【0172】
[実施例5]
表5に、実施例5の保護膜3、バッファ層42、吸収層44、エッチングマスク膜6の材料、消衰係数、材料の組成比、エッチングガス及び膜厚を示す。実施例5は、バッファ層42及びエッチングマスク膜6をSiO膜とした場合の実施例であって、膜厚を表5に示すようにした以外は、基本的に実施例1と同様である。バッファ層42及びエッチングマスク膜6のSiO膜の成膜は、次のようにして行った。
【0173】
実施例5のバッファ層42及びエッチングマスク膜6の形成のためのSiO膜の成膜は、RFマグネトロンスパッタリング法により行った。具体的には、Arガス雰囲気中でSiOターゲットを用いて、表5に示すように、バッファ層42を3.5nm、及びエッチングマスク膜6を6nmの膜厚で成膜した。それ以外の成膜については、実施例1と同様である。
【0174】
次に、上記実施例5の反射型マスクブランク100を用いて、実施例1の場合と同様に、実施例5の反射型マスク200を製造した。表5に、実施例5の反射型マスク200を製造の際に、バッファ層42、吸収層44及びエッチングマスク膜6のエッチングのために用いたエッチングガスの種類を示す。
【0175】
上述のようにして製造した実施例5の反射型マスク200に対して、波長13.5nmにおける吸収体パターン4aのEUV光反射率を測定した。表5の「EUV光反射率」欄に、実施例5のEUV光反射率を示す。
【0176】
表5に示すように、実施例5のEUV光反射率は1.8%であり、2%以下だった。
【0177】
実施例5の反射型マスク200では、バッファ層42及び吸収層44からなる吸収体パターン4aの膜厚は47.5nmであり、従来のTa系材料で形成された吸収体膜4よりも薄くすることができ、シャドーイング効果を低減することができた。
【0178】
実施例5で作製した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0179】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜及び導電膜の形成、ドーパントの導入、並びにアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を製造することができた。
【0180】
[比較例1]
比較例1として、従来のTaBN膜を吸収体膜4とするマスクブランクを製造した。表6に、比較例1の保護膜3、吸収体膜4の材料、消衰係数、材料の組成比、エッチングガス及び膜厚を示す。比較例1は、吸収体膜4をTaBN膜(単層膜)とし、エッチングマスク膜6を形成しなかった以外は、基本的に実施例1と同様である。吸収体膜4のTaBN膜の成膜は、実施例1のバッファ層42のTaBN膜と同様にして行った。
【0181】
次に、上記比較例1の反射型マスクブランク100を用いて、実施例1の場合と同様に、比較例1の反射型マスク200を製造した。表6に、比較例1の反射型マスク200を製造の際に、吸収体膜4のエッチングのために用いたエッチングガスの種類を示す。
【0182】
上述のようにして製造した比較例1の反射型マスク200に対して、波長13.5nmにおける吸収体パターン4aのEUV光反射率を測定した。表6の「EUV光反射率」欄に、比較例1のEUV光反射率を示す。
【0183】
表6に示すように、比較例1のEUV光反射率は1.4%であり、2%以下だった。
【0184】
比較例1の反射型マスク200では、従来のTa系材料で形成された吸収体パターン4aの膜厚は62nmであり、シャドーイング効果を低減することができなかった。
【0185】
【表1】
【0186】
【表2】
【0187】
【表3】
【0188】
【表4】
【0189】
【表5】
【0190】
【表6】
【符号の説明】
【0191】
1 基板
2 多層反射膜
3 保護膜
4 吸収体膜
4a 吸収体パターン
5 裏面導電膜
6 エッチングマスク膜
6a エッチングマスクパターン
11 レジスト膜
11a レジストパターン
42 バッファ層
42a バッファ層パターン
44 吸収層
44a 吸収層パターン
100 反射型マスクブランク
200 反射型マスク
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図2(e)】
図3
図4
図5
図6
図7