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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】床構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/82 20060101AFI20230426BHJP
   E04B 5/43 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
E04B1/82 U
E04B5/43 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019074418
(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公開番号】P2020172770
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】松岡 ちさと
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-117551(JP,A)
【文献】特開平08-120817(JP,A)
【文献】実開昭59-181499(JP,U)
【文献】実開昭60-014005(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
E04B 5/43
E04H 1/12
A47K 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層階建ての建物の上階フロアの床構造であり、
上床部と、
前記上床部に隣接すると共に、前記上床部よりも床高の低い下床部と、
建物上下方向に沿って配置され、前記上床部と前記下床部との間に生じる段差部を覆う遮音材と、
前記上床部を建物下方側から支持するH鋼からなる床梁と、を備え、
前記下床部は、
前記床梁のウエブ部に固定された連結部材と、当該連結部材に一端が固定されるとともに前記下床部の周縁部を下方側から支持する支持部材とを介して建物下方側から支持されることにより、下床部の下面が前記床梁の下フランジ部と建物高さ方向で略同位置、又は、当該下フランジ部よりも建物上方側に配置されるように設定されており、
前記段差部には、前記上床部と前記下床部との間に建物高さ方向の間隙が形成され、ロックウールからなる防火材が前記上床部と前記下床部との間を建物上下方向に沿って配置され、当該防火材の側面にシート状の前記遮音材が密着して配置されることにより前記間隙を覆っている、
床構造。
【請求項2】
前記遮音材は、シート状に形成され、前記上床部及び前記下床部に接触する面が粘着性を有する遮音シートによって構成されている、
請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記遮音材の上端部は、前記上床部に支持されて建物上方側に立設された建物の壁の壁面部に固定されている、
請求項1又は請求項2に記載の床構造。
【請求項4】
前記遮音材の上端部は、前記上床部と、前記上床部に支持されて建物上方側に立設された建物の壁との間に挟み込まれることにより固定されている、
請求項1又は請求項2に記載の床構造。
【請求項5】
前記上床部は、建物の一般居室の一般床部とされ、
前記下床部は、前記一般居室に隣接する浴室の浴室床部とされ、
前記浴室床部の建物上方側には所定の間隔を空けて前記浴室の内部に設置された浴室ユニットの底壁部が配置されている、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上床部(一般床部)と、この上床部に隣接すると共に、上床部よりも床高の低い下床部(下げ床部)を備えた床構造が開示されている。また、当該文献には、上床部を下方側から支持するH鋼の上フランジと下フランジの間に遮音材を配置して、上床部と下床部の段差部が原因となる音漏れを抑制し、上記床構造の遮音性能を向上させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-092524号公報
【0004】
しかしながら、上記先行技術では、上記H鋼の下方側には遮音材を配置することが出来ないため、段差部においてH鋼の下方側に位置する部位で遮音性能が低下する。よって、上記先行技術は、この点において改善の余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、建物内の床部に形成される段差部において、その遮音性能を向上させることができる床構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係る床構造は、上床部と、前記上床部に隣接すると共に、前記上床部よりも床高の低い下床部と、建物上下方向に沿って配置され、前記上床部と前記下床部との間に生じる段差部を覆う遮音材と、を備えている。
【0007】
第1の態様に係る床構造では、上床部と下床部の段差部を覆うように遮音材が配置されるため、上床部と下床部の間に遮音材が充填される。これにより、段差部の遮音性能が向上される。
【0008】
第2の態様に係る床構造は、第1の態様に記載の構成において、前記上床部と前記下床部は防火材料で構成され、前記遮音材と前記上床部及び前記下床部の間には、上床部と前記下床部との間に生じる段差部を覆う防火材が建物上下方向に沿って配置され、前記遮音材は、前記段差部において前記防火材と密着する構造とされている。
【0009】
第2の態様に係る床構造では、遮音材が段差部を覆うように配置された防火材に密着して配置されるため、防火材が遮音材も兼ねることにより段差部の遮音性能が一層向上する。更に、防火材料で構成された上床部と下床部、及び防火材によって連続した防火区画を形成することができるため、建物の防火性能が向上される。
【0010】
第3の態様に係る床構造は、第1の態様又は第2の態様に記載の構成において、前記遮音材は、シート状に形成され、前記上床部及び前記下床部に接触する面が粘着性を有する遮音シートによって構成されている。
【0011】
第3の態様に係る床構造では、遮音シートで構成された遮音材の粘着面を上床部と下床部に当接させることにより、段差部を容易に覆うことができる。また、粘着面で遮音材の位置決めができるため、施工性に優れる。
【0012】
第4の態様に係る床構造は、第1の態様~第3の態様の何れか1態様に記載の構成において、前記遮音材の上端部は、前記上床部に支持されて建物上方側に立設された建物の壁の壁面部に固定されている。
【0013】
第4の態様に係る床構造では、上床部から立設する壁と上床部との境界を遮音材で覆うことができる。これにより、段差部に加えて上床部と壁との間で発生する音漏れを抑制することができ、遮音材による建物の防音性能をより高めることができる。また、遮音材の固定部を壁の壁面に確保することにより、遮音材の取付が容易になる。
【0014】
第5の態様に係る床構造は、第1の態様~第3の態様の何れか1態様に記載の構成において、前記遮音材の上端部は、前記上床部と、前記上床部に支持されて建物上方側に立設された建物の壁との間に挟み込まれることにより固定されている。
【0015】
第5の態様に係る床構造では、壁と共に遮音材の上端部が上床部に固定されるため、遮音材と上床部の間に隙間が生じにくくなる。これにより、段差部の遮音効果がより一層向上される。
【0016】
第6の態様に係る床構造は、第1の態様~第5の態様の何れか1態様に記載の構成において、前記上床部は、建物の一般居室の一般床部とされ、前記下床部は、前記一般居室に隣接する浴室の浴室床部とされ、前記浴室床部の建物上方側には所定の間隔を空けて前記浴室の内部に設置された浴室ユニットの底壁部が配置されている。
【0017】
第6の態様に係る床構造では、一般居室に隣接する浴室に、一般居室の床面よりも床高の低い浴室床部が設けられ、この一般床部と浴室床部の間に段差が発生している。このような床構造の浴室では、一般床部と同じ床高の浴室床部に浴室ユニットを設置する場合に比べ、浴室ユニット内の床高を低く設定し、一般床部との高低差を低減することが可能となる。これにより、浴室をバリアフリーにすることができる。
【0018】
ところで、例えば、多層階建ての建物の上階フロアで上記構成の浴室を形成すると、浴室の浴室床部が下階フロアの天井部に近くなる。さらに、通常、浴室の浴室床部と浴室ユニットの底壁部との間には排水管等を配設するための空間が形成されている。このため、浴室ユニット内で発生した音が上記空間で反響しやすくなるため、下階フロアへの音漏れが発生しやすくなる。
【0019】
そこで、本発明においては、このような浴室において一般床部と浴室床部との間に生じる段差部を遮音材で充填することにより、建物内の遮音性能の向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、第1の態様に係る床構造によれば、建物内の床部に形成される段差部において、その遮音性能を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0021】
第2の態様に係る床構造によれば、建物内の床部に形成される段差部の遮音性能を向上させ、更に、防火性能を向上させることができるという優れた効果を有する。
【0022】
第3の態様に係る床構造によれば、遮音材の取付を容易にするという優れた効果を有する。
【0023】
第4の態様に係る床構造によれば、段差部の遮音を向上すると共に遮音材の取付を容易にするという優れた効果を有する。
【0024】
第5の態様に係る床構造によれば、遮音材と上床部の間における隙間の発生を防止し、段差部の遮音性能を一層向上させることができるという優れた効果を有する。
【0025】
第6の態様に係る床構造によれば、多層階建ての建物に設けられるバリアフリー浴室で生ずる音漏れを効果的に抑制することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態に係る床構造が適用された浴室であって、図3に示す領域Pを拡大して示す拡大断面図である。
図2】第1実施形態に係る床構造が適用された浴室の平面図である。
図3図2の3-3線に沿って切断した状態を示す断面図である。
図4図2の4-4線に沿って切断した状態を示す断面図である。
図5図4に示す領域Qを拡大して示す拡大断面図である。
図6】第2実施形態に係る床構造が適用された浴室であって、図1に対応する拡大断面図である。
図7】比較例としての床構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1実施形態〕
以下、図1図5を用いて、第1実施形態に係る床構造が適用された建物10の浴室12について説明する。
【0028】
(浴室12の構造)
図2には、建物10の内部に設けられた浴室12が平面図で示されている。また、図3には、浴室12の西側の側面が、図2の3-3線に沿って切断した断面図で示されている。また、図4には、浴室の北側の側面が、図2の4-4線に沿って切断した断面図で示されている。
【0029】
これらの図に示されるように、建物10の浴室12は、南側に配置された南壁部14と、北側に配置された北壁部16と、東側に配置された東壁部18と西側に配置された西壁部20によって、平面視で略矩形状に形成されている。また、その内部に、中空の直方体状に形成された浴室ユニット22が設置されている。なお、建物10は、一例として多層階建ての建物とされており、建物10内の各フロアに複数戸が隣接して設けられる集合住宅とされている。また、各図に示される浴室12は、建物10の上階フロア10Aに設けられた一戸内の浴室とされている。
【0030】
浴室12の南側及び西側に配置された南壁部14と西壁部20は、建物の一般内壁とされている。一方、浴室12の北側及び東側に配置された北壁部16と東壁部18は間仕切壁とされ、浴室12と、同一戸内の居室24、26との間を仕切っている。なお、浴室12に隣接して設けられた居室24、26が、本発明における「一般居室」に相当し、北壁部16と東壁部18が本発明における「建物の壁」に相当する。
【0031】
図3及び図4に示されるように、北壁部16と東壁部18は、浴室12に隣接する居室24、26の一般床部30にそれぞれ支持されて、建物上方側へ立設している。一般床部30は、防火材料としてのALC製のパネルを敷設することにより形成されている。また、居室24、26の床面は、一般床部30の上方側に床下地(符号省略)を敷設し、この床下地の上方側に意匠面を構成する仕上げ材(符号省略)が敷設されることにより形成されている。床下地は、一例として、パーチクルボードや捨貼合板、賃貸遮音マット等により構成されている。なお、一般床部30が、本発明における「上床部」に相当する。
【0032】
なお、防火材料とは、建築基準法に規定する不燃材料、準不燃材料、難燃材料のことをいう。
【0033】
図1及び図5に一部図示されるように、北壁部16と東壁部18は、骨格部材を構成する上下一対のランナ32と、複数のスタッド34を含んでいる。一対のランナ32は、一般床部30と居室24、26の天井(不図示)にそれぞれ固定され、建物上下方向に対向し、かつ平行に配置されている。各ランナ32は、縦断面視において、対向して配置された他のランナ側に開放された略コ字状をなす金属製の長尺部材として構成されている。一対のランナ32は、一般床部30及び居室24、26の天井と当接する面に複数のビスが打ち込まれることにより、一般床部30及び天井に固定されている。
【0034】
スタッド34は、一例として、角筒状に形成された金属製の長尺部材とされ、建物高さ方向を長手方向とし、ランナ32の延在方向に沿って所定の間隔を空けて複数配置されている。また、スタッド34は、上端部と下端部が一対のランナ32にそれぞれ嵌合されている。スタッド34の居室24、26に面した側面には、ビス等の固定具を用いて内壁材36が固定されている。また、この内壁材36の上層には、北壁部16と東壁部18の意匠面を構成する図示しない仕上げ材が配置されている。一方、本実施形態では、浴室12の内部に浴室ユニット22が設置されているため、北壁部16と東壁部18の浴室に面した側面は意匠面とならない。よって、スタッド34の浴室12に面した側面には内壁材36のみが固定されている。
【0035】
(浴室ユニット22の構造)
図2図4に示されるように、浴室ユニット22は、四方を囲うように立設された側壁部38と、側壁部38の上端部と結合した天井部40と、側壁部38の下端部と結合した底壁部42と、によって中空の直方体状に形成されている。浴室ユニット22の内部には、浴室12の西側に浴槽44が設けられ、浴槽44に隣接して浴室の東側に洗い場46が設けられている。また、東側に位置する側壁部38には、浴室ユニット22の出入口48が形成されている。この出入口48は、東壁部18に形成された開口部50と結合され、隣接する居室26と連通されている。つまり、本実施形態では、居室26が浴室12の脱衣所とされている。
【0036】
図4に示されるように、浴室ユニット22の底壁部42は、東側の略半分が洗い場床部42Aとされ、洗い場46の床面を構成している。洗い場床部42Aは、東側の一端から底壁部42の中央に形成される排水口52へ向かって傾斜する勾配床とされている。また、底壁部42は、西側の略半部が浴槽支持部42Bとされ、浴槽44の底面に固定された連結具(符号省略)を介して浴槽44を建物下方側から支持している。
【0037】
上記構成の浴室ユニット22は、底壁部42の下面に固定された複数の脚部54を介して浴室12の浴室床部56に載置されている。これにより、浴室ユニット22の底壁部42と浴室床部56との間に空間58が形成される。この空間58には、排水口52に接続された排水管60が配策される構成となっている。また、浴室床部56は、上述した一般床部30と同様に、防火材料としての軽量気泡コンクリート(ALC)製のパネルを敷設することにより形成されている。なお、浴室床部56が、本発明における「下床部」に相当する。
【0038】
図3及び図4に示されるように、浴室床部56の床高は、浴室12に隣接する居室24、26の一般床部30の床高よりも低く設定されている。これにより、居室24、26の一般床部30と浴室床部56との間に段差部62が形成され、段差部62には、建物高さ方向の間隙が形成されている。
【0039】
このように、一般床部30よりも床高の低い浴室床部56の上に浴室ユニット22を設置すると、段差部62の高さ分、浴室床部56内の洗い場46の床高が建物下方側に下げられている。このため、居室26(脱衣所)の床高と洗い場の床高の高低差が低減されており、浴室12が、バリアフリー浴室とされている。一例として、本実施形態では、居室26の床高と洗い場の床高が略同一に設定されている。
【0040】
上記構成の建物10の床部の支持構造について説明すると、居室24、26の一般床部30は、水平方向に沿って延在し、建物の躯体を構成する床梁64に建物下方側から支持されている(図1図3図4図5参照)。本実施形態の床梁64は、H鋼で構成されており、ウエブ部64Aと、上フランジ部64Bと、下フランジ部64Cと、を含んでいる。ウエブ部64Aは、床梁64の縦断面視で、建物高さ方向に沿って配置されている。上フランジ部64Bは、ウエブ部64Aの上端からそれぞれ略水平に張り出している。下フランジ部64Cは、ウエブ部64Aの下端からそれぞれ略水平に張り出し、上フランジ部64Bと対向して配置されている。一般床部30は、床梁64の上フランジ部64Bの上に載置されることにより、床梁64によって建物下方側から支持されている。
【0041】
一方、浴室床部56は、部材を介して上述した床梁64に支持されている。具体的に説明すると、パネル状の浴室床部56の周縁部に沿って配置された床梁64には、ウエブ部64Aに連結部材66が固定されている。連結部材66は、折曲された板体で構成され、一端がウエブ部64Aにボルト68とナット70(ウエルドナット)を用いて締結されている。また、連結部材66の他端は浴室床部56側に延出されている。この他端には、断面L字状に形成され、床梁64の延在方向に沿って延びる支持部材72の一側面72Aが溶接等の方法で固定されている。そして、浴室床部56の周縁部が、支持部材72の他側面72Bの上に載置されている。これにより、連結部材66と支持部材72を介して浴室床部56が床梁64に支持されている。なお、この状態では、浴室床部56の下面が、床梁64の下フランジ部64Cと建物高さ方向で略同位置、又は、下フランジ部64Cよりも建物上方側に配置されるように設定されている。
【0042】
(本発明の要部)
図1及び図5に示されるように、本実施形態では、一般床部30と浴室床部56の段差部62を覆うように、防火材74と遮音シート76が配置されている。防火材74は、一例として防火材料に含まれるロックウールで形成されており、段差部62を覆うように建物高さ方向に沿って配置されている。
【0043】
防火材74の上端部は、一般床部30の端面30Aと無垢材で形成された当て部材78に挟持されている。そして、当て部材78にビス80を打ち込むことにより、防火材74の上端部が一般床部30の端面30Aに固定されている。一方、防火材74の下端部は、当該下端部を上方側から覆うように配置された後述する遮音シート76の下端部と共にビス82を用いて浴室床部56の上面に固定されている。これにより、防火材料で構成された一般床部30と浴室床部56、防火材74によって、居室24、26と浴室12を含む連続した防火区画が形成されている。また、一般床部30及び浴室床部56を形成するALC製のパネルや防火材74を形成するロックウールは断熱性に優れるため、当該防火区画によって連続した断熱ラインが形成されている。なお、防火区画とは、建築物内部の火災の延焼防止のために、一定の部分を他の部分と防火的に隔てた区画である。
【0044】
また、上記防火材74は、浴室12に面した側面が遮音シート76で覆われている。なお、遮音シート76が、本発明における「遮音材」に相当する。遮音シート76は、シート状に形成されており、一例として、不織布の吸音材と高比重ゴムシートで構成されている。また、一方の面が、粘着面76Aとされており、接着剤が塗布されることにより粘着性が付与されている。この遮音シート76は、粘着面76Aが防火材74と密着するように建物高さ方向に沿って配置されている。これにより、遮音シート76が、防火材74と一体的に構成され、段差部62を覆うように配置されている。なお、粘着面を有しない遮音シートを防火材74に密着(当接)させて段差部を覆う構成としてもよい。
【0045】
図1に示されるように、遮音シート76の上端部は、粘着面76Aの粘着性とテープ84によって、北壁部16の内壁材36の壁面に固定されている。これにより、遮音シート76の上端部が、北壁部16及び東壁部18の壁面に固定されている。
【0046】
一方、図5に示されるように、浴室ユニット22の出入口48と東壁部18の開口部50が連結された部分では、防火材74の上端部と当て部材78が、ビス86を用いて一般床部30の端面30Aに固定されている。更に、遮音シート76の上端部が、当て部材78に重ね合わされており、防火材74、当て部材78、と共に、ビス87を用いて一般床部30の端面30Aに固定されている。また、この状態では、防火材74、当て部材78、遮音シート76の上端部が一般床部30の上面と略面一となるように配置されている。
【0047】
また、図1図5に示されるように、遮音シート76の下端部は、防火材74の下端部を覆うように延在し、上述したビス82に加えて、粘着面76Aの粘着性とテープ84を用いて浴室床部56に固定されている。なお、遮音シート76において、ビス82との固定部と異なる部位に、遮音シート76と浴室床部56とを直接ビスで固定する部位を設けてもよい。
【0048】
(作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について、図7に示す床構造と対比しつつ説明する。図7に示す床構造では、建物90の上階フロア90Aの一般床部92の上方側に浴室94と浴室94に隣接する居室96(脱衣所)が形成されている。また、浴室94と居室96を仕切る間仕切壁98に形成された開口部100が、浴室ユニット102の出入口(符号省略)と連結されている。このような床構造においては、浴室ユニット102と居室96が共通の一般床部92の上方側に設けられているため、浴室94と居室96との間に段差部が生じない。よって、下階フロア90Bの天井部104を介して上階フロア90Aの生活音が伝わりにくい。一方で、浴室ユニット102内の床面が居室96の床面の床高よりも高くなるため、居室96と浴室ユニット102を出入りする際に、段差部106を乗り越える必要がある。
【0049】
これに対し、本実施形態では、一般居室(居室24、26)に隣接する浴室12に、一般居室の一般床部30よりも床高の低い浴室床部56が設けられ、この一般床部30と浴室床部56の間に段差部62が発生している。このような床構造の浴室12では、一般床部と同じ床高の浴室床部に浴室ユニットを設置する場合に比べ、浴室ユニット22内の床高を下げて一般床部30との高低差を低減することが可能となる。これにより、浴室12をバリアフリーにすることができる。
【0050】
ところで、本実施形態のように、多層階建ての建物10の上階フロア10Aの浴室12では、浴室12の浴室床部56が下階フロアの天井部(不図示)に近くなる。さらに、通常、浴室12の浴室床部56と浴室ユニット22の底壁部42との間には排水管60等を配設するための空間58が形成されている。このため、浴室ユニット22内で発生した音が空間58で反響しやすくなるため、一般床部30と浴室床部56の間の段差部62を通じて下階フロアへの音漏れが発生しやすくなる。
【0051】
一般床部30と浴室床部56の段差部62を覆うように遮音シート76が配置されるため、一般床部30と浴室床部56の間に遮音シート76が充填される。これにより、段差部62の遮音効果を向上させることができる。
【0052】
また、本実施形態では、遮音シート76が段差部62を覆うように配置された防火材74に密着して配置されるため、防火材74が遮音材としての機能も兼ねることにより段差部62の遮音効果が一層向上する。更に、防火材料で構成された一般床部30と浴室床部56、及び防火材74によって連続した防火区画を形成することができるため、建物10の防火性能を向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態では、遮音シート76の粘着面76Aを一般床部30と浴室床部56に当接させることにより、段差部62を容易に覆うことができる。また、粘着面76Aにより遮音シート76の位置決めができるため、施工性に優れる。
【0054】
また、本実施形態では、遮音シート76の上端部が北壁部16及び東壁部18の壁面(内壁材36の壁面)に固定されているため、北壁部16及び東壁部18と一般床部30との境界を遮音シート76で覆うことができる。これにより、段差部62に加えて一般床部30と壁との間で発生する音漏れを抑制することができ、遮音シート76による建物の防音性能をより高めることができる。また、遮音シート76の固定部を北壁部16及び東壁部18の壁面に確保することにより、遮音シート76の取付が容易になる。
【0055】
また、本実施形態では、一般床部30と浴室床部56が、建物10の躯体を構成する共通の床梁64によって支持されている。これにより、床高が互いに異なる複数の床部が、各床部の床高に対応する建物躯体によって別途支持される構造に比べて、部材点数を抑えることができる。その結果、建物の施工コストの削減及び工期の短縮を図ることができ、更に、建物全体の重量の低減に寄与することができる。
【0056】
〔第2実施形態〕
以下、図6を用いて、本発明に係る床構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0057】
図6に示されるように、この第2実施形態では、遮音シート76の上端部が、一般床部30と東壁部18の間に挟み込まれている点に特徴がある。具体的には、遮音シート76の上端部は、床下地材(符号省略)を介して一般床部30の上方側に配置され、当該上端部を建物上方側から挟み込むように東壁部18が一般床部30に固定されている。これにより、遮音シート76の上端部は、粘着面76Aの粘着性とテープ84を用いて床下地材の上面に固定されている。また、東壁部18と共に一般床部30に固定されることにより、遮音シート76と一般床部30の間の気密性が高められている。
【0058】
(作用・効果)
上記構成の床構造は、基本的には第1実施形態に係る床構造の構成を踏襲しているため、同様の作用及び効果を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態では、北壁部16及び東壁部18と共に遮音シート76の上端部が一般床部30に固定されるため、遮音シート76と一般床部30の間に隙間が生じにくくなる。これにより、段差部62の遮音効果をより一層向上させることができる。
【0060】
[補足説明]
上記各実施形態では、本発明に係る床構造が浴室12と一般居室(居室24、26)との間に生じる床高の段差部に適用されたが、本発明はこれに限らない。例えば、玄関の土間と一般居室又は廊下等との間に生じる床高の段差部に適用してもよい。すなわち、一般居室の床部を構成する一般床部と、一般床部よりも床高の低い土間を構成する土間床部との間に形成される段差部を遮音材で覆う構成としてもよい。
【0061】
また、上記各実施形態では、遮音シート76が防火材74の浴室12側に配置される構成としたが、本発明はこれに限らず、防火材74を設けない構成としてもよい。
【0062】
また、上記各実施形態では、一般床部30及び浴室床部56が防火材料で形成される構成としたが、本発明はこれに限らず、防火材料に含まれない材料で形成してもよい。
【0063】
また、上記各実施形態では、遮音材が樹脂材料で形成された遮音シート76で構成されているが、本発明はこれに限らない。板状でもよく、ブロック状でもよい。また、樹脂製に限らず、ロックウール、グラスウール製としてもよい。
【0064】
また、上記各実施形態では、遮音シート76の上端部及び下端部の縁がテープ84によって固定される構成としたが、遮音シート76が粘着面76Aを備える構成においては、テープ84を省略してもよい。更に、遮音シート76の下端部が、防火材74の下端部と共にビス82を用いて固定されない構成としてもよい。上記構成では、シールの糊代幅等の確保が不要となるため、遮音シートのサイズの拡大を抑制することができる。
【0065】
また、上記各実施形態では、北壁部16と東壁部18の浴室に面した側面に内壁材36が配置される構成としたが、本発明はこれに限らず、浴室に面した側面に内壁材36を配置しない構成とし、遮音シート76の上端部がランナ32又はスタッド34の上端部に固定される構成としてもよい。また、この場合に、遮音シート76の外側から内壁材36を固定して、遮音シート76の上端部がランナ32と内壁材36の間に挟み込まれるように固定される構成としてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 建物
12 浴室
16 北壁部(建物の壁)
18 東壁部(建物の壁)
22 浴室ユニット
24 居室(一般居室)
26 居室(一般居室)
30 一般床部(上床部)
42 底壁部
56 浴室床部(下床部)
62 段差部
74 防火材
76 遮音シート(遮音材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7