(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】波長変換部材及びその製造方法、並びに発光装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20230426BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20230426BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20230426BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20230426BHJP
【FI】
G02B5/20
C09K11/02 Z
H01S5/022
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2018173558
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2017237557
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古山 忠仁
【審査官】倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-511836(JP,A)
【文献】特開2014-197708(JP,A)
【文献】特開2016-225581(JP,A)
【文献】特開2016-149389(JP,A)
【文献】特開2003-258308(JP,A)
【文献】特開2003-243727(JP,A)
【文献】特開2007-157798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
C09K 11/02
H01S 5/022
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機バインダー中に蛍光体粉末と熱伝導性フィラーが分散されてなる波長変換部材であって、
無機バインダーと熱伝導性フィラーの屈折率差が0.2以下であり、
無機バインダーと熱伝導性フィラーの各含有量の体積比が40:60~5:95であ
り、空隙率が10%以下であることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
近接する複数の熱伝導性フィラー同士の距離、及び/または、熱伝導性フィラーとそれに近接する蛍光体粉末との距離が、0.08mm以下であることを特徴とする請求項
1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
複数の熱伝導性フィラー同士、及び/または、熱伝導性フィラーと蛍光体粉末が接触していることを特徴とする請求項1
又は2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
熱伝導性フィラーの平均粒子径D
50が1~50μmであることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項5】
熱伝導性フィラーが、蛍光体粉末より高い熱伝導率を有することを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
熱伝導性フィラーが酸化物セラミックスからなることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項7】
熱伝導性フィラーが、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛及びマグネシアスピネルから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項
6に記載の波長変換部材。
【請求項8】
酸化物セラミックスが、酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項6に記載の波長変換部材。
【請求項9】
無機バインダーの軟化点が1000℃以下であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項10】
無機バインダーがガラスであることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項11】
厚みが1000μm以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項12】
熱拡散率が1mm
2/s以上であることを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の波長変換部材の製造方法であって、
無機バインダー、蛍光体粉末及び熱伝導性フィラーの混合粉末を焼結用金型に入れる工程、及び
混合粉末を加熱プレスする工程、を備えることを特徴とする波長変換部材の製造方法。
【請求項14】
加熱プレスを、ホットプレス装置、放電プラズマ焼結装置または熱間静水圧プレス装置により行うことを特徴とする請求項13に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項15】
加熱プレスを行う際の温度が1000℃以下であることを特徴とする請求項13または14に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の波長変換部材と、波長変換部材に励起光を照射する光源とを備えてなることを特徴とする発光装置。
【請求項17】
光源がレーザーダイオードであることを特徴とする請求項16に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発する光の波長を別の波長に変換する波長変換部材及びその製造方法、並びに波長変換部材を用いた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の発光装置として、低消費電力、小型軽量、容易な光量調節という観点から、LEDやLD等の励起光源を用いた発光装置に対する注目が高まってきている。そのような次世代発光装置の一例として、例えば特許文献1には、青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置された発光装置が開示されている。この発光装置は、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリクス中に蛍光体粉末を分散させたものが用いられている。しかしながら、当該波長変換部材を用いた場合、励起光源からの光により樹脂が劣化し、発光装置の輝度が低くなりやすいという問題がある。特に、励起光源が発する熱や高エネルギーの短波長(青色~紫外)光によってモールド樹脂が劣化し、変色や変形を起こすという問題がある。
【0004】
そこで、樹脂マトリクスに代えてガラスマトリクス中に蛍光体粉末を分散固定した、完全無機固体からなる波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。当該波長変換部材は、母材となるガラスがLEDの熱や照射光により劣化しにくく、変色や変形といった問題が生じにくいという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-208815号公報
【文献】特開2003-258308号公報
【文献】特許第4895541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ハイパワー化を目的として、励起光源として用いるLEDやLDの出力が上昇している。それに伴い、励起光源からの熱や、励起光を照射された蛍光体から発せられる熱により波長変換部材の温度が上昇し、その結果、発光強度が経時的に低下する(温度消光)という問題がある。また、場合によっては、波長変換部材の温度上昇が顕著となり、構成材料(ガラスマトリクス等)が融解するおそれがある。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、ハイパワーの励起光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解を抑制することが可能な波長変換部材及びその製造方法、並びに当該波長変換部材を用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の波長変換部材は、無機バインダー中に蛍光体粉末と熱伝導性フィラーが分散されてなる波長変換部材であって、無機バインダーと熱伝導性フィラーの屈折率差が0.2以下であり、無機バインダーと熱伝導性フィラーの各含有量の体積比が40:60~5:95であることを特徴とする。上記構成のように、波長変換部材に含まれる熱伝導性フィラーの含有量を無機バインダーに対して多くすることで、励起光自体の熱や、励起光を波長変換部材に照射した際に蛍光体粉末から発生する熱が熱伝導性フィラーを介して伝わり、効率良く外部に放出される。これにより、波長変換部材の温度上昇を抑制して、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解を抑制することが可能となる。また、熱伝導性フィラーと無機バインダーの屈折率差を上記の通り小さくすることで、熱伝導性フィラーと無機バインダーの界面反射に起因する光散乱を軽減でき、励起光または蛍光体粉末から発せられる蛍光の光取出し効率を向上させることができる。
【0009】
本発明の波長変換部材は、空隙率が10%以下であることが好ましい。このようにすれば、波長変換部材内部において熱伝導性の低い空気の存在割合が低下し、波長変換部材の熱伝導率を向上させることができる。また、無機バインダー、熱伝導性フィラーまたは蛍光体粉末と、空隙に含まれる空気との屈折率差による光散乱を低減できるため、波長変換部材の透光性を向上させることができる。
【0010】
本発明の波長変換部材は、近接する複数の熱伝導性フィラー同士の距離、及び/または、熱伝導性フィラーとそれに近接する蛍光体粉末との距離が、0.08mm以下であることが好ましい。特に、複数の熱伝導性フィラー同士、及び/または、熱伝導性フィラーと蛍光体粉末が接触していることが好ましい。このようにすれば、熱伝導性の低い無機バインダーを伝熱する距離が短くなり、さらには複数の熱伝導性フィラー間で熱伝導経路が形成されるため、波長変換部材内部で発生した熱を外部に伝導させやすくなる。
【0011】
本発明の波長変換部材は、熱伝導性フィラーの平均粒子径D50が1~50μmであることが好ましい。このようにすれば、複数の熱伝導性フィラー間、または熱伝導性フィラーと蛍光体粉末の距離を短くできるため、熱を効率よく外部に放出しやすくなる。
【0012】
本発明の波長変換部材は、熱伝導性フィラーが蛍光体粉末より高い熱伝導率を有することが好ましい。
【0013】
本発明の波長変換部材は、熱伝導性フィラーとして例えば酸化物セラミックスからなるものを使用することができる。具体的には、熱伝導性フィラーが、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛及びマグネシアスピネルから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
本発明の波長変換部材は、無機バインダーの軟化点が1000℃以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の波長変換部材は、無機バインダーがガラスであることが好ましい。
【0016】
本発明の波長変換部材は、厚みが1000μm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の波長変換部材は、熱拡散率が1mm2/s以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の波長変換部材の製造方法は、上記の波長変換部材の製造方法であって、無機バインダー、蛍光体粉末及び熱伝導性フィラーの混合粉末を焼結用金型に入れる工程、及び混合粉末を加熱プレスする工程、を備えることを特徴とする。このようにすれば、熱伝導性フィラー同士、あるいは熱伝導性フィラーと蛍光体粉末とが接触しやすくなる。また、波長変換部材内部に空隙が残存しにくくなり、緻密な波長変換部材を得ることが可能となる。
【0019】
本発明の波長変換部材の製造方法は、加熱プレスを、ホットプレス装置、放電プラズマ焼結装置または熱間静水圧プレス装置により行うことが好ましい。
【0020】
本発明の波長変換部材の製造方法は、加熱プレスを行う際の温度が1000℃以下であることが好ましい。このようにすれば、加熱プレス時における蛍光体粉末の熱劣化を抑制することができる。
【0021】
本発明の発光装置は、上記の波長変換部材と、波長変換部材に励起光を照射する光源とを備えてなることを特徴とする。
【0022】
本発明の発光装置は、光源がレーザーダイオードであることが好ましい。このようにすれば、発光強度を高めることが可能となる。なお、光源としてレーザーダイオードを用いた場合は、波長変換部材の温度が上昇しやすくなるため、本発明の効果を享受しやすくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ハイパワーの励起光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解を抑制することが可能な波長変換部材及びその製造方法、並びに当該波長変換部材を用いた発光装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る波長変換部材を示す模式的断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る波長変換部材を用いた発光装置を示す模式的側面図である。
【
図3】実施例のNo.1の波長変換部材の部分断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0026】
(波長変換部材)
図1は、本発明の一実施形態に係る波長変換部材を示す模式的断面図である。波長変換部材10は、無機バインダー1中に蛍光体粉末2と熱伝導性フィラー3が分散されてなるものである。本実施形態に係る波長変換部材10は透過型の波長変換部材である。波長変換部材10の一方の主面から励起光を照射すると、入射した励起光の一部が蛍光体粉末2により波長変換されて蛍光となり、当該蛍光は他方の主面から外部に照射される。波長変換部材10の形状は特に限定されないが、通常は平面形状が矩形や円形の板状である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態では複数の熱伝導性フィラー3が互いに近接または接触している。それにより、複数の熱伝導性フィラー3の間に存在する熱伝導性の低い無機バインダー1の距離が短くなっている。特に、複数の熱伝導性フィラー3同士が接触している箇所では熱伝導経路が形成されている。また、本実施形態では熱伝導性フィラー3が蛍光体粉末2に近接または接触しており、それにより蛍光体粉末2と熱伝導性フィラー3の間に存在する熱伝導性の低い無機バインダー1の距離が短くなっている。特に、熱伝導性フィラー3と蛍光体粉末2が接触している箇所では熱伝導経路が形成されている。近接する複数の熱伝導性フィラー3同士の距離、及び/または、熱伝導性フィラー3とそれに近接する蛍光体粉末2との距離は、0.08mm以下、特に0.05mm以下であることが好ましい。このようにすれば、蛍光体粉末2で発生した熱を外部に伝導させやすくなり、波長変換部材10の温度が不当に上昇することを抑制できる。
【0028】
なお、近接する複数の熱伝導性フィラー3同士の距離、及び、熱伝導性フィラー3とそれに近接する蛍光体粉末2との距離は、波長変換部材10の反射電子像による断面画像から測定することができる。
【0029】
以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0030】
無機バインダー1としては、製造時の焼成工程における蛍光体粉末2の熱劣化を考慮し、軟化点が1000℃以下のものを使用することが好ましい。そのような無機バインダー1としてはガラスが挙げられる。ガラスは樹脂等の有機系マトリクスと比較して耐熱性に優れるとともに、熱処理により軟化流動しやすいため、波長変換部材10の構造を緻密化しやすいという特徴がある。ガラスの軟化点は250~1000℃であることが好ましく、300~950℃であることがより好ましく、400~900℃の範囲内であることがさらに好ましく、400~850℃の範囲内であることが特に好ましい。ガラスの軟化点が低すぎると、波長変換部材10の機械的強度や化学的耐久性が低下する場合がある。また、ガラス自体の耐熱性が低いため、蛍光体粉末2から発生する熱により軟化変形するおそれがある。一方、ガラスの軟化点が高すぎると、製造時の焼成工程において蛍光体粉末2が劣化して、波長変換部材10の発光強度が低下する場合がある。なお、波長変換部材10の化学的安定性及び機械的強度を高める観点からはガラスの軟化点は500℃以上、600℃以上、700℃以上、800℃以上、特に850℃以上であることが好ましい。そのようなガラスとしては、ホウケイ酸塩系ガラス、ケイ酸塩系ガラス、アルミノケイ酸塩系ガラス等が挙げられる。ただし、ガラスの軟化点が高くなると、焼成温度も高くなり、結果として製造コストが高くなる傾向がある。また、蛍光体粉末2の耐熱性が低い場合、焼成時に劣化するおそれがある。よって、波長変換部材10を安価に製造する場合や、耐熱性の低い蛍光体粉末2を使用する場合は、ガラスマトリクスの軟化点は550℃以下、530℃以下、500℃以下、480℃以下、特に460℃以下であることが好ましい。そのようなガラスとしては、スズリン酸塩系ガラス、ビスマス酸塩系ガラス、テルライト系ガラスが挙げられる。
【0031】
なお、無機バインダー1に使用されるガラスとしては、通常、ガラス粉末が使用される。ガラス粉末の平均粒子径は50μm以下、30μm以下、10μm以下、特に5μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒子径が大きすぎると、緻密な焼結体が得られにくくなる。ガラス粉末の平均粒子径の下限は特に限定されないが、通常、0.5μm以上、さらには1μm以上である。
【0032】
なお、本明細書において平均粒子径はレーザ回折法で測定した値を指し、レーザ回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径(D50)を表す。
【0033】
蛍光体粉末2は、励起光の入射により蛍光を出射するものであれば、特に限定されるものではない。蛍光体粉末2の具体例としては、例えば、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、カルコゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体、ガーネット系化合物蛍光体から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。また励起光として青色光を用いる場合、例えば、緑色光、黄色光または赤色光を蛍光として出射する蛍光体を用いることができる。
【0034】
蛍光体粉末2の平均粒子径は1~50μm、特に5~30μmであることが好ましい。蛍光体粉末2の平均粒子径が小さすぎると、発光強度が低下しやすくなる。一方、蛍光体粉末2の平均粒子径が大きすぎると、発光色が不均一になる傾向がある。
【0035】
波長変換部材10中における蛍光体粉末2の含有量は1~70体積%、1~50体積%、特に1~30体積%であることが好ましい。蛍光体粉末2の含有量が少なすぎると、所望の発光強度が得られにくくなる。一方、蛍光体粉末2の含有量が多すぎると、波長変換部材10の熱拡散率が低くなり放熱性が低下しやすくなる。
【0036】
熱伝導性フィラー3は、無機バインダー1より高い熱伝導率を有している。特に、熱伝導性フィラー3は無機バインダー1及び蛍光体粉末2より高い熱伝導率を有していることが好ましい。具体的には、熱伝導性フィラー3の熱伝導率は5W/m・K以上、20W/m・K以上、40W/m・K以上、特に50W/m・K以上であることが好ましい。
【0037】
熱伝導性フィラー3としては、酸化物セラミックスが好ましい。酸化物セラミックスの具体例としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、マグネシアスピネル(MgAl2O4)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、熱伝導率の比較的高い酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムを用いることが好ましく、特に熱伝導率が高く光吸収の少ない酸化マグネシウムを用いることがより好ましい。なお、マグネシアスピネルは比較的入手しやすく安価である点で好ましい。
【0038】
熱伝導性フィラー3の平均粒子径は1μm以上、5μm以上、10μm以上、特に20μm以上であることが好ましい。熱伝導性フィラー3の平均粒子径が小さすぎると、熱伝導性フィラー3同士が近接しにくくなる、あるいは、熱伝導性フィラー3同士の接触による熱伝導経路が形成されにくくなるため、十分な放熱効果が得られにくくなる。なお、熱伝導性フィラー3の平均粒子径が大きすぎると、複数の熱伝導性フィラー3の間に形成される空間が大きくなり、波長変換部材10の緻密性が低下しやすくなるため、50μm以下、40μm以下、特に30μm以下であることが好ましい。
【0039】
波長変換部材10中における無機バインダー1と熱伝導性フィラー3の各含有量の体積比は40:60~5:95であり、38:62~10:90であることが好ましく、37:63~15:85であることがより好ましく、35:65~20:80であることがさらに好ましい。熱伝導性フィラー3の含有量が少なすぎる(無機バインダー1の含有量が多すぎる)と、所望の放熱効果が得られにくくなる。一方、熱伝導性フィラー3の含有量が多すぎる(無機バインダー1の含有量が少なすぎる)と、波長変換部材10中における空隙が多くなるため、所望の放熱効果が得られなくなったり、波長変換部材10内部の光散乱が過剰となり蛍光強度が低下しやすくなる。
【0040】
なお、波長変換部材10中における無機バインダー1と熱伝導性フィラー3の含有量は、基本的に蛍光体粉末2の含有量に応じて決定する。具体的には、波長変換部材10中における無機バインダー1と熱伝導性フィラー3の合量は、蛍光体粉末2の含有量を考慮し、30~99体積%、50~99体積%、特に70~99体積%の範囲で調整することが好ましい。
【0041】
波長変換部材10中における空隙率(体積%)は10%以下、5%以下、特に3%以下であることが好ましい。空隙率が大きすぎると、放熱効果が低下しやすくなる。また、波長変換部材10内部の光散乱が過剰となり、蛍光強度が低下しやすくなる。
【0042】
無機バインダー1と熱伝導性フィラー3の屈折率差(nd)は0.2以下であり、0.15以下、特に0.1以下であることが好ましい。当該屈折率差が大きすぎると、無機バインダー1と熱伝導性フィラー3の界面での反射が大きくなり、その結果、光散乱が過剰となり蛍光強度が低下しやすくなる。
【0043】
波長変換部材10の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。波長変換部材10が厚すぎると、波長変換部材10における光の散乱や吸収が大きくなりすぎ、蛍光の出射効率が低下する傾向がある。また、波長変換部材10の温度が高くなって、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解が発生しやすくなる。なお、波長変換部材10の厚みの下限値は、30μm程度であることが好ましい。波長変換部材10が薄すぎると、機械的強度が低下しやすくなったり、励起光が蛍光体粉末2に吸収されにくくなり、発光強度が低下しやすくなる。
【0044】
波長変換部材10の励起光入射側表面に、励起光の反射損失低減や入射側への蛍光漏出の抑制を目的として、反射防止膜やバンドパスフィルター、さらにはモスアイ構造などのマイクロストラクチャー構造を設けてもよい。
【0045】
波長変換部材10は上記構成を有することにより優れた熱拡散性を有する。具体的には、波長変換部材10の熱拡散率は1mm2/s以上、2mm2/s以上、3mm2/s以上、特に4mm2/s以上であることが好ましい。
【0046】
また波長変換部材10を金属やセラミック等の別の放熱部材に接合して使用してもよい。このようにすれば、波長変換部材10で発生した熱をより一層効率よく外部に放出することが可能となる。
【0047】
(波長変換部材の製造方法)
波長変換部材10は、無機バインダー1、蛍光体粉末2及び熱伝導性フィラー3の混合粉末を焼結用金型に入れる工程、及び、混合粉末を加熱プレスする工程、により製造することができる。
【0048】
加熱プレスは、例えばホットプレス装置、放電プラズマ焼結装置または熱間静水圧プレス装置により行うことができる。これらの装置を使用することにより、緻密な焼結体を容易に得ることができる。
【0049】
加熱プレスを行う際の温度は1000℃以下、950℃以下、特に900℃以下であることが好ましい。加熱プレスを行う際の温度が高すぎると、蛍光体粉末2が熱劣化しやすくなる。なお、加熱プレスを行う際の温度が低すぎると、緻密な焼結体が得られにくくなるため、250℃以上、300℃以上、特に400℃以上であることが好ましい。
【0050】
加熱プレスする際の圧力は、緻密な焼結体が得られるよう、例えば10~100MPa、特に20~60MPaの範囲で適宜調整することが好ましい。
【0051】
焼成時の雰囲気は真空等の減圧雰囲気とすることが好ましい。このようにすれば、焼成時の脱泡が促進され、緻密な焼結体が得られやすくなる。
【0052】
焼結用金型の材質は特に限定されず、例えばカーボン製金型を使用することができる。
【0053】
(発光装置)
図2は、上述した実施形態に係る波長変換部材を用いた発光装置を示す模式的側面図である。
図2に示すように、発光装置20は、波長変換部材10と光源4を備えている。光源4から出射された励起光L
0は波長変換部材10により蛍光L
1に変換される。また励起光L
0の一部は波長変換部材10をそのまま透過する。このため、波長変換部材10からは、励起光L
0と蛍光L
1との合成光L
2が出射することとなる。例えば、励起光L
0が青色光であり、蛍光L
1が黄色光である場合、白色の合成光L
2を得ることができる。
【0054】
発光装置20には上述の波長変換部材10を用いているため、波長変換部材10に励起光L0が照射されることにより発生した熱を、効率良く外部に放出することができる。よって、波長変換部材10の温度が不当に上昇することを抑制できる。
【0055】
光源4としては、LEDやLDが挙げられる。発光装置20の発光強度を高める観点からは、光源4は高強度の光を出射できるLDを用いることが好ましい。光源としてLDを用いた場合は、波長変換部材10の温度が上昇しやすくなるため、本発明の効果を享受しやすくなる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の波長変換部材を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
表1は本発明の実施例(No.1~10)及び比較例(No.11~13)を示す。
【0058】
【0059】
熱伝導性フィラー、無機バインダー及び蛍光体粉末を、表1に記載の割合となるように混合することにより混合粉末を得た。なお表において、蛍光体粉末の含有量は混合粉末に占める含有量であり、残部を熱伝導性フィラーと無機バインダーが占める。各材料としては以下のものを使用した。
【0060】
(a)熱伝導性フィラー
MgO(熱伝導率:約42W/m・K、平均粒子径D50:43μmまたは8μm)
Al2O3(熱伝導率:約20W/m・K、平均粒子径D50:9μm)
MgAl2O4(熱伝導率:約16W/m・K、平均粒径D50:20μm)
【0061】
(b)無機バインダー
無機バインダーA(ケイ酸バリウム系ガラス粉末、軟化点:790℃、屈折率(nd):1.71、平均粒子径D50:2.5μm)
無機バインダーB(ホウケイ酸塩系ガラス、軟化点:850℃、屈折率(nd):1.56、平均粒子径D50:1.4μm)
無機バインダーC(スズリン酸塩系ガラス、軟化点:380℃、屈折率(nd):1.82、平均粒子径D50:3.8μm)
無機バインダーD(ビスマス系ガラス、軟化点:450℃、屈折率(nd):1.91、平均粒子径D50:2.7μm)
無機バインダーE(ホウケイ酸系ガラス、軟化点:775℃、屈折率(nd):1.49、平均粒子径D50:1.3μm)
【0062】
(c)蛍光体粉末
YAG蛍光体(Y3Al5O12、平均粒子径:15μm)
CASN蛍光体(CaAlSiN3、平均粒子径:18μm)
【0063】
得られた混合粉末を、富士電波工業製ホットプレス炉(ハイマルチ5000)内に設置されたφ40mmカーボン製金型に入れ、加熱プレスを行った。加熱プレスの条件としては、真空雰囲気下表1に示す熱処理温度まで昇温し、40MPaの圧力で20分間加圧した後、N2ガスを導入しながら徐冷し、常温まで冷却した。得られた焼結体に対し切削加工を施すことにより、5mm×5mm×1mmの板状の波長変換部材を得た。
【0064】
得られた波長変換部材について、以下の方法で空隙率、熱拡散率、励起光の透過率及び耐熱性を評価した。結果を表1に示す。また、No.1の波長変換部材の部分断面写真を
図3に示す。
【0065】
空隙率は、波長変換部材の反射電子像による断面写真について、画像解析ソフトWinroofを用いて二値化し、得られた処理画像において空隙の占める面積割合から算出した。
【0066】
熱拡散率は、アイフェイズ社製の熱拡散率測定装置i-phaseにより測定した。
【0067】
励起光の透過率は以下のようにして測定した。中央部にφ3mmの開口部が形成された30mm×30mm×2mmのアルミニウム板2枚を準備し、当該2枚のアルミニウム板の間に波長変換部材を挟持して固定した。波長変換部材はアルミニウム板の略中央部に位置するように固定し、各アルミニウム板の開口部から波長変換部材が露出するようにした。アルミニウム板の一方の開口部から、露出した波長変換部材に対してLDの励起光(波長445nm、出力3W)を照射した。アルミニウム板の他方の開口部から出射された光を積分球内部に取り込んだ後、標準光源によって校正された分光器へ導光し、光のエネルギー分布スペクトルを測定した。得られたスペクトルにおける励起光波長のピーク高さをP1とした。別途、LDの励起光を直接積分球内部に取り込んで、同様に測定した光のエネルギー分布スペクトルの励起光波長ピーク高さをP0とした。この場合、P1/P0の値を「励起光の透過率」とした。
【0068】
波長変換部材の耐熱性は以下のようにして評価した。上記の励起光の透過率の測定試験において、波長変換部材に対しLDを60秒間照射し、波長変換部材のガラスマトリクスの状態を観察した。ガラスマトリクスに変化がない場合を「○」、ガラスマトリクスが融解した場合を「×」として評価した。
【0069】
表1から明らかなように、実施例であるNo.1~10の波長変換部材は、熱拡散率が2.32mm2/s以上と高く、耐熱性も良好であった。一方、比較例であるNo.11の波長変換部材は、熱伝導性フィラーと無機バインダーの屈折率差が0.24と大きいため、両者の界面での光散乱が強くなり過ぎ、波長変換部材の励起光の透過率が0.08と低くなった。No.12の波長変換部材は、熱伝導性フィラーの比率が小さすぎるため、熱拡散率が0.44mm2/sと低く、耐熱性に劣っていた。No.13の波長変換部材は、熱伝導性フィラーの比率が大きすぎるため、空隙率が大きくなった。その結果、光散乱が大きくなり、励起光の透過率が0.04と低くなった。以上の通り、No.1~10の波長変換部材は、内部で発生した熱を効率良く外部に放出でき、かつ光取り出し効率に優れ、耐熱性にも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の波長変換部材は、白色LED等の一般照明や特殊照明(例えば、プロジェクター光源、自動車のヘッドランプ光源、内視鏡の光源)等の構成部材として好適である。
【符号の説明】
【0071】
1 無機バインダー
2 蛍光体粉末
3 熱伝導性フィラー
4 光源
10 波長変換部材
20 発光装置