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7268422ジアリルフタレート樹脂成形材料および電子・電気機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】ジアリルフタレート樹脂成形材料および電子・電気機器
(51)【国際特許分類】
   C08L 31/08 20060101AFI20230426BHJP
   C08F 263/08 20060101ALI20230426BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20230426BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230426BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230426BHJP
   H01B 3/20 20060101ALI20230426BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230426BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C08L31/08
C08F263/08
C08F2/00 B
C08F2/44 A
B29C45/00
H01B3/20 K
C08K7/02
C08K5/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019050097
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020152759
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智晴
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-231771(JP,A)
【文献】特開2009-256671(JP,A)
【文献】特開昭52-147672(JP,A)
【文献】特開昭60-037104(JP,A)
【文献】特開2002-194166(JP,A)
【文献】特開2013-010883(JP,A)
【文献】特開昭58-191750(JP,A)
【文献】特開昭60-219233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08F251/00-297/08
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08C 19/00- 19/44
C08J 5/00- 5/24
H01B 3/00- 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの板状導電体の間に挟まれる絶縁シートを形成するために用いるジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
ジアリルフタレートプレポリマーと、ジアリルフタレートモノマーと、充填材と、を含み、
下記の手順Aに従って測定される、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料の流動長が、60mm以上200mm以下である、ジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
前記ジアリルフタレートプレポリマーの含有量は、前記ジアリルフタレート樹脂成形材料100質量部に対して、25質量部以上45質量部以下であり、
前記ジアリルフタレートモノマーの含有量は、前記ジアリルフタレートプレポリマー100質量部に対して0.2質量部以上5質量部以下である、ジアリルフタレート樹脂成形材料
(手順A)
金型温度165℃、注入圧力27.6MPaの条件にて、幅10mm、高さ0.25mmの矩形の流路に、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料を注入する。流路の上流先端から、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料が流動した流路の末端までの距離を取得し、この距離を流動長(mm)とする。
【請求項2】
請求項1に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
前記充填材の含有量は、前記ジアリルフタレートプレポリマー100質量部に対して、90質量部以上250質量部以下である、
ジアリルフタレート樹脂成形材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
下記の手順Bに従って測定される、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料の熱膨張異方性が1.0以上2.3以下であり、
下記の手順Cに従って測定される、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料の25℃における曲げ弾性率が、11.5GPa以上30GPa以下である、
ジアリルフタレート樹脂成形材料。
(手順B)
当該ジアリルフタレート樹脂成形材料を用い、ゲート寸法:8mm×3mm、射出圧力:100MPa、金型温度165℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向になるようにして、80mm×10mm×4mmtの成形体を作製し、該成形体から10mm×10mm×4mmtの試験片を切り出す。得られた試験片を用いて、熱機械分析装置TMAを用いて5℃/分の圧縮条件で、25℃から120℃の範囲における、流動方向の線膨張係数αMDと、流動に対して直交方向の線膨張係数αTDを算出する。熱膨張異方性を、αTD/αMDとする。
(手順C)
当該ジアリルフタレート樹脂成形材料を用い、ゲート寸法:8mm×3mm、射出圧力:100MPa、金型温度165℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向になるようにして、成形体を作製し、該成形体について、JISK6911に準拠して、25℃における曲げ弾性率(GPa)を測定する。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
前記充填材が、繊維状の無機充填材と、非繊維状の無機充填材と、を含む、ジアリルフタレート樹脂成形材料。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
反応開始剤を含む、ジアリルフタレート樹脂成形材料。
【請求項6】
請求項に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
前記反応開始剤が、有機過酸化物を含む、ジアリルフタレート樹脂成形材料。
【請求項7】
請求項に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
前記反応開始剤が、1分間での半減期を得るための分解温度が150℃~200℃のものを含む、ジアリルフタレート樹脂成形材料。
【請求項8】
少なくとも2つの板状導電体と、前記2つの板状導電体の間に挟まれる絶縁シートと、を有する電子・電気機器部品を備え、
前記絶縁シートが、請求項1~のいずれか一項に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料の硬化物で構成される、電子・電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリルフタレート樹脂成形材料および電子・電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでジアリルフタレート樹脂成形材料について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、ジアリルフタレート樹脂を含むジアリルフタレート樹脂成形材料が記載されている(特許文献1の表1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-256671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料において、耐トラッキング性および薄肉成形品の平面度の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、2つの板状導電体の間に挟まれる絶縁シートを形成するために用いるジアリルフタレート樹脂成形材料には、成形品について、耐トラッキング性のみならず、薄肉成形品の平面度を向上させることが要求されることを見出した。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、ジアリルフタレートプレポリマーと、ジアリルフタレートモノマーと、充填材とを含むジアリルフタレート樹脂成形材料において、矩形流路で測定される流動長を適切に制御することにより、耐トラッキング性および薄肉成形品の平面度を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
2つの板状導電体の間に挟まれる絶縁シートを形成するために用いるジアリルフタレート樹脂成形材料であって、
ジアリルフタレートプレポリマーと、ジアリルフタレートモノマーと、充填材と、を含み、
下記の手順Aに従って測定される、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料の流動長が、60mm以上200mm以下である、
ジアリルフタレート樹脂成形材料が提供される。
(手順A)
金型温度165℃、注入圧力27.6MPaの条件にて、幅10mm、高さ0.25mmの矩形の流路に、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料を注入する。流路の上流先端から、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料が流動した流路の末端までの距離を取得し、この距離を流動長(mm)とする。
【0007】
また本発明によれば、
少なくとも2つの板状導電体と、前記2つの板状導電体の間に挟まれる絶縁シートと、を有する電子・電気機器部品を備え、
前記絶縁シートが、上記のジアリルフタレート樹脂成形材料の硬化物で構成される、電子・電気機器が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐トラッキング性および薄肉成形品の平面度に優れたジアリルフタレート樹脂成形材料、およびそれを用いた電子・電気機器が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態のジアリルフタレート樹脂成形材料の概要について説明する。
【0010】
本実施形態のジアリルフタレート樹脂成形材料は、2つの板状導電体の間に挟まれる絶縁シートを形成するために用いるものである。このジアリルフタレート樹脂成形材料は、ジアリルフタレートプレポリマーと、ジアリルフタレートモノマーと、充填材と、を含む。そして、下記の手順Aに従って測定される、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料の流動長が、60mm以上200mm以下である。
【0011】
(手順A)
金型温度165℃、注入圧力27.6MPaの条件にて、幅10mm、高さ0.25mmの矩形の流路に、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料を注入する。流路の上流先端から、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料が流動した流路の末端までの距離を取得し、この距離を流動長(mm)とする。
【0012】
本発明者の知見によれば、ジアリルフタレートプレポリマーおよび充填材を用いることで、耐トラッキング性を向上でき、それにジアリルフタレートモノマーを併用することで、ジアリルフタレート樹脂成形材料の成形時における流動特性を高められることが見出された。そして、このようなジアリルフタレート樹脂成形材料において、矩形流路で測定される流動長を適切に制御することにより、耐トラッキング性および薄肉成形品の平面度を向上できることが判明した。
【0013】
ジアリルフタレート樹脂成形材料の流動長の下限は、60mm以上、好ましくは70mm以上、より好ましくは75mm以上である。これにより、成形時において、狭幅空間での成形性を高め、薄肉成形品の平面度に優れた成形品を実現できる。一方、上記流動長の上限は、特に限定されないが、例えば、200mm以下でもよく、150mm以下でもよい。これにより、成形品の諸特性のバランスを図ることができる。
【0014】
また、下記の手順Bに従って測定される、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料の熱膨張異方性の上限は、例えば、2.3以下、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.9以下である。これにより、平面方向に対して寸法安定性に優れた成形品を実現できる。一方、上記熱膨張異方性の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0以上でもよく、1.1以上でもよい。これにより、成形品の諸特性のバランスを図ることができる。
【0015】
(手順B)
当該ジアリルフタレート樹脂成形材料を用い、ゲート寸法:8mm×3mm、射出圧力:100MPa、金型温度165℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向になるようにして、80mm×10mm×4mmtの成形体を作製し、該成形体から10mm×10mm×4mmtの試験片を切り出す。得られた試験片を用いて、熱機械分析装置TMAを用いて5℃/分の圧縮条件で、25℃から120℃の範囲における、流動方向の線膨張係数αMDと、流動に対して直交方向の線膨張係数αTDを算出する。熱膨張異方性を、αTD/αMDとする。
【0016】
また、下記の手順Cに従って測定される、当該ジアリルフタレート樹脂成形材料の25℃における曲げ弾性率の下限は、例えば、11.5GPa以上、好ましくは12.0GPa以上、より好ましくは13.0GPa以上である。これにより、剛性に優れた成形品を実現できる。一方、上記25℃における曲げ弾性率の上限は、特に限定されないが、例えば、30GPa以下でもよく、25GPa以下でもよい。これにより、成形品の諸特性のバランスを図ることができる。
【0017】
(手順C)
当該ジアリルフタレート樹脂成形材料を用い、ゲート寸法:8mm×3mm、射出圧力:100MPa、金型温度165℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向になるようにして、成形体を作製し、該成形体について、JISK6911に準拠して、25℃における曲げ弾性率(GPa)を測定する。
【0018】
本実施形態では、たとえジアリルフタレート樹脂成形材料中に含まれる各成分の種類や配合量、ジアリルフタレート樹脂成形材料の調製方法等を適切に選択することにより、上記流動長、熱膨張異方性および曲げ弾性率を制御することが可能である。これらの中でも、たとえばジアリルフタレートモノマーの使用、ジアリルフタレートプレポリマーの種類、繊維状の無機充填材および非繊維状(例えば、球状)の無機充填材の併用と配合比、反応開始剤の種類を適切に選択すること等が、上記流動長、熱膨張異方性および曲げ弾性率を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0019】
本実施形態のジアリルフタレート樹脂成形材料を用いることにより、600Vの大電圧に耐え得る耐トラッキング性に優れた成形品を実現できる。この成形品は、薄肉成形品の平面度や平面方向における寸法安定性に優れることから、2つの導電体の間に挟まれて使用される絶縁シートに好適に用いられる。
【0020】
本実施形態の電子・電気機器は、少なくとも2つの板状導電体と、2つの導電体の間に挟まれる絶縁シートとを有する電子・電気機器部品、を備える。電子・電気機器部品に用いられる絶縁シートは、上記ジアリルフタレート樹脂成形材料の硬化物(成形品)で構成される。
【0021】
電子・電気機器部品が、3つ以上の板状導電体を備える場合、上下に隣接して配置された板状導電体の間のそれぞれに、さらには、板状導電体の最外層側に絶縁シートが設けられていてよい。
また、絶縁シートは、板状導電体の一面だけでなく、全面を覆うように構成されていてもよい。
【0022】
板状導電体は、例えば、銅、アルミ、合金等の導電性金属材料で構成される板状部材である。板状導電体の表面は、平面だけでなく、一部に湾曲面や屈曲面を有していてもよい。大電流を通しやすい導電性金属材料を使用できる。
【0023】
電子・電気機器として、小型・肉型などの省スペース化されたもの、高電圧や高速化されたものに用いられる。電子・電気機器部品を用いることによって、このような電子・電気機器の信頼性を向上させることが可能である。
【0024】
本実施形態のジアリルフタレート樹脂成形材料の組成について詳述する。
【0025】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、ジアリルフタレートプレポリマー(ジアリルフタレート樹脂)およびジアリルフタレートモノマーを含む。
【0026】
ジアリルフタレートプレポリマーは、フタル酸とアリルアルコールとのエステルであるジアリルフタレートモノマーを重合させて得られるアリル樹脂の1種である。これらは用いるフタル酸の種類により、無水フタル酸またはオルソフタル酸を用いたオルソタイプ、イソフタル酸を用いたメタタイプ、及びテレフタル酸を用いたパラタイプのものがある。これらのホモポリマーでもよく、2種以上を含む共重合体を含んでもよい。また、ベンゼン環上の水素原子が塩素、臭素等のハロゲン原子で置換されていてもよく、また分子内に存在する不飽和結合が全部または一部において、水添されたものを使用してもよい。
これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ジアリルフタレートプレポリマーの重量平均分子量(GPCにより測定され、標準ポリスチレン換算)は、例えば、20,000~60,000、好ましくは20,000~40,000、さらに好ましくは20,000~30,000である。
【0028】
ジアリルフタレートモノマーは、フタル酸とアリルアルコールとのエステルであり、上記ジアリルフタレート樹脂と同様にオルソタイプ、メタタイプ、パラタイプのものを用いてもよい。
【0029】
ジアリルフタレートプレポリマーの含有量は、ジアリルフタレート樹脂成形材料100質量部に対して、例えば、25質量部~45質量部、好ましくは30質量部~45質量部、より好ましくは32質量部~44質量部である。
【0030】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
また、ジアリルフタレート樹脂成形材料100質量%とは、樹脂組成物の固形分全体に対する含有量を意味する。樹脂組成物の固形分は、脂組成物中における不揮発分を指し、水や溶媒等の揮発成分を除いた残部を指す。
【0031】
ジアリルフタレートモノマーの含有量は、ジアリルフタレートプレポリマー100質量部に対して、例えば、0.2質量部~5質量部、好ましくは0.3質量部~3質量部、より好ましくは0.5質量部~1.5質量部である。ジアリルフタレートモノマーの添加量を適当に調整することで、ジアリルフタレートプレポリマーの含有量を低減させつつも、ジアリルフタレート樹脂成形材料の流動性を維持することができる。また、詳細なメカニズムは定かではないが、低粘度のジアリルフタレートプレポリマーを使用しつつ、ポリマーの含有量を低減させることで、流動性が高く、成形時の圧力勾配を低減できるので、薄肉成形品の平面度に優れた成形品を実現できる、と考えられる。
【0032】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、充填材を含む。
充填材として、無機充填材や有機充填材が用いられるが、電気絶縁性の観点から、無機充填材が使用されてもよい。
【0033】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、無機充填材として、ガラス繊維などの繊維状の無機充填材を含んでよい。
【0034】
ガラス繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、例えば、3μm~30μm、好ましくは6~15μmである。これにより、成形材料化段階での作業性を向上させ、得られた成形体の機械的強度を良好なものとすることができる。平均繊維径の下限を上記下限値以上とすることにより、機械的強度を向上できる。平均繊維径の上限を上記上限値以下とすることにより、成形材料製造時に混練ロールを使用する場合において、ロールへの追従性が低下して混練性が低下することを抑制できる。
【0035】
ガラス繊維は、特に限定されないが、例えば、A-ガラス、C-ガラス、D-ガラス、E-ガラス、R-ガラス、S-ガラス、T-ガラス、AR-ガラス等が挙げられる。
【0036】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、非繊維状の無機充填材として、球状、板状、不定形状の無機充填材を含んでもよい。
【0037】
非繊維状の無機充填材として、特に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、焼成クレー、未焼成クレー、ウォラストナイト、タルク、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化マグネシウム、硫酸バリウム等を用いてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
非繊維状の無機充填材の粒径としては、特に限定されないが、100メッシュ全通かつ体積平均粒径0.5~80μmであることが好ましく、更に好ましくは100メッシュ全通かつ体積平均粒径1~30μmである。粒径の下限を上記下限値以上とすることで、機械的強度を向上できる。また、成形品の線膨張係数における異方性を低減できるため、寸法安定性に優れた成形品を実現できる。一方、粒径の上限を上記上限値以下することで、機械的強度のバラツキを低減できる。
【0039】
充填材の含有量は、ジアリルフタレートプレポリマー100質量部に対して、例えば、90質量部~250質量部、好ましくは100質量部~230質量部、より好ましくは110質量部~200質量部である。充填材の含有量の下限を上記下限値以上とすることで、機械的強度に優れた成形品を実現できる。充填材の含有量の上限を上記上限値以上とすることで、流動性に優れたジアリルフタレート樹脂成形材料を実現できる。
【0040】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、充填材として、繊維状の無機充填材と、非繊維状の無機充填材と、を含んでもよい。粒状や不定形の非繊維状の無機充填材を含むことで、無機充填材の配向性を低くすることができ、成形品の線膨張異方性を小さくすることが可能である。また、充填材の含有量を高められるため、成形品の剛性を高めることができる。
【0041】
ガラス繊維の含有量は、ジアリルフタレートプレポリマー100質量部に対して、例えば、20質量部~120質量部、好ましくは30質量部~115質量部、より好ましくは35質量部~110質量部である。ガラス繊維の含有量の下限を上記下限値以上とすることで、実用上、必要な機械強度を保つことができる。ガラス繊維の含有量の上限を上記上限値以下とすることで、流動性、線膨張異方性を向上できる。
【0042】
非繊維状の無機充填材の含有量は、ジアリルフタレートプレポリマー100質量部に対して、例えば、20質量部~180質量部、好ましくは30質量部~170質量部、より好ましくは35質量部~150質量部である。非繊維状の無機充填材の含有量の下限を上記下限値以上とすることで、流動性、剛性、異方性等を実現できる。非繊維状の無機充填材の含有量の上限を上記上限値以下とすることで、諸特性のバランスに優れた成形品を実現できる。
【0043】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、反応開始剤を含んでもよい。
【0044】
反応開始剤として、通常使用される有機過酸化物を用いてもよい。有機過酸化物として、ジアルキルパーオキサイドやハイドロパーオキサイド、パーオキシエステルなどを用いてもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、分解温度が異なる2種以上を使用してもよい。
【0045】
有機過酸化物として、1分間での半減期を得るための分解温度が150℃~200℃のものを含んでもよい。反応開始剤が分解しない温度で各成分の混練を行うことができるので、反抗開始剤を介した反応の進行が抑制された状態のジアリルフタレート樹脂成形材料を得ることができる。これにより、流動性に優れたジアリルフタレート樹脂成形材料を実現できる。
【0046】
反応開始剤の含有量は、ジアリルフタレート樹脂成形材料100質量部に対して、例えば、0.1~5質量部、0.5~3質量部である。
【0047】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、以上に説明した成分のほか、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤として、カップリング剤、エラストマー、難燃剤、離型剤、硬化助剤、顔料等の添加剤が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
上記カップリング剤といては、例えば、アミノシラン、エポキシシラン、アクリルシラン、ビニルシラン等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
上記エラストマーとしては、例えば、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリイソブチレン、ポリウレタン、ポリビニルブチラールなどが用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
上記難燃剤は、金属水酸化物、未焼成クレー、ホウ素化合物及び窒素化合物からなる群から選択される一種を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
上記金属水酸化物は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
上記ホウ素化合物は、ホウ酸、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。
これらは、燃焼時に分解して水が発生し、燃焼場の熱を奪うことにより、難燃性を発現することができる。使用する場合は難燃性以外の特性への影響を考えて使い分けることができる。
【0052】
上記窒素化合物は、メラミンモノマー、メラミン樹脂、メラミンシアヌレート等が挙げられる。窒素化合物は燃焼時に不活性ガスを放出し、燃焼場の酸素濃度を希釈して燃焼を止めることにより、難燃性を発現することができる。
【0053】
上記難燃剤の配合量は、ジアリルフタレート樹脂成形材料100質量部に対して、例えば、0.1~20質量部、0.5~15質量部である。上記下限以上とすることにより、充分な難燃性を発現させることができる。また、上記上限以下とすることにより、成形品の硬化性を良好なものとすることができる。
【0054】
上記ジアリルフタレート樹脂成形材料は、ハロゲン化合物、アンチモン化合物、赤燐及び有機リン系化合物からなる群から選択される一種以上を実質的に含まないものとすることができる。好ましくは、上記ジアリルフタレート樹脂成形材料は、ハロゲン化合物、アンチモン化合物、赤燐及び有機リン系化合物を全て含まない。すなわち、非ハロゲン、非アンチモン、非リンである難燃剤を用いることが好ましい。これにより、環境に配慮されたクリーンなジアリルフタレート樹脂成形材料を実現できる。
【0055】
上記硬化促進剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が用いられる。
【0056】
上記離型剤としては、例えば、カルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸およびその金属塩類、ならびにパラフィン等を用いることができる。
【0057】
本実施形態のジアリルフタレート樹脂成形材料は、通常の方法により製造される。上記の各成分を所定の配合割合で混合し、加熱ロール、コニーダ、二軸押出機を使用して溶融混練した後、冷却、粉砕することにより得られる。
【0058】
本実施形態のジアリルフタレート樹脂成形材料を、射出成形、移送成形、圧縮成形、などの通常の成形方法により、成形品(シート状の硬化物)を得ることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0060】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0061】
<樹脂成形材料>
<実施例1~3、比較例1~3>
表1に示す配合比率に従って、各成分を混合し、90℃の加熱ロールにより5分間溶融混練した後取り出し、顆粒状に粉砕してジアリルフタレート樹脂成形材料を得た。
【0062】
表1に示す原料成分の情報は以下の通り。
(ジアリルフタレートプレポリマー)
・ジアリルフタレートプレポリマー1:ジアリルフタレート樹脂(大阪ソーダ社製、DAP-S、中粘度、オルソタイプ、重量平均分子量(ポリスチレン換算):3~4×10
・ジアリルフタレートプレポリマー2:ジアリルフタレート樹脂(大阪ソーダ社製、DAP-K、低粘度、オルソタイプ、重量平均分子量(ポリスチレン換算):2~3×10
【0063】
(ジアリルフタレートモノマー)
・ジアリルフタレートモノマー1:大阪ソーダ社製、製品名:ダイソーダップモノマー
【0064】
(反応開始剤)
・反応開始剤1:有機過酸化物(熱分解温度(1分間での半減期を得るための分解温度):175℃)と、有機過酸化物(熱分解温度(1分間での半減期を得るための分解温度):165℃)との混合物
【0065】
(充填材)
・ガラス繊維1:NSG社製、製品名:RES015-BM42、平均繊維径:11μm
・無機充填材1:デンカ社製、製品名:FB-5D、平均粒子径:4.7μm
【0066】
(添加剤)
・添加剤1:離型剤(ステアリン酸カルシウム)
【0067】
(顔料)
・顔料1:カーボンブラック
【0068】
<比較例4、5>
比較例4の樹脂成形材料として、ポリフェニレンスルフィド(PPS1、東レ社製、製品名:A504X90)、比較例5の樹脂成形材料として、ポリフェニレンスルフィド(PPS2、東レ社製、製品名:A660EX)を使用した。
【0069】
【表1】
【0070】
各実施例・各比較例の樹脂成形材料について、以下の評価項目に基づいて評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
<流動性>
金型温度165℃、注入圧力27.6MPaの条件にて、幅10mm、高さ0.25mmの矩形の流路に、各実施例・各比較例の樹脂成形材料を注入した。流路の上流先端から、当該樹脂成形材料が流動した流路の末端までの距離を取得し、この距離を流動長(mm)とした。
【0072】
<剛性>
各実施例・各比較例の樹脂成形材料を用い、ゲート寸法:8mm×3mm、射出圧力:100MPa、金型温度165℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向になるようにして、成形体を作製した。得られた成形体について、JISK6911に準拠して、25℃における曲げ弾性率(GPa)を測定した。
【0073】
<異方性>
(手順B)
各実施例・各比較例の樹脂成形材料を用い、ゲート寸法:8mm×3mm、射出圧力:100MPa、金型温度165℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、長手方向が流動方向になるようにして、80mm×10mm×4mmtの成形体を作製し、該成形体から10mm×10mm×4mmtの試験片を切り出した。
得られた試験片を用いて、熱機械分析装置TMAを用いて5℃/分の圧縮条件で、25℃から120℃の範囲における、流動方向の線膨張係数αMD(ppm/℃)と、流動に対して直交方向の線膨張係数αTD(ppm/℃)を算出した。熱膨張異方性を、αTD/αMDとした。
【0074】
<耐トラッキング性>
IEC 60112に準拠して行った。
【0075】
<薄肉成形品の平面度>
各実施例・各比較例の樹脂成形材料を用い、ゲート寸法:8mm×3mm、射出圧力:100MPa、金型温度165℃、充填時間:4秒の条件による射出成形により、120mm×120mm×1.5mmtの成形体を作製した。平面に置いた成形体の表面(120mm×120mm)において、測定地点を等間隔に位置する格子点の16点とし、その16点の高さについて3次元測定器を用いて測定した。16点の測定結果の中から、最大高さと最小高さの差分を反り量(mm)とした。
算出された反り量について、以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:反り量が0.8mm以下
○:反り量が0.8mm超え、1.2mm以下
△:反り量が1.2mm超え、1.6mm以下
×:反り量が1.6mm超え、2.0mm以下
××:反り量が2.0mm超え、もしくは成形不可
【0076】
実施例1~3のジアリルフタレート樹脂成形材料は、比較例1~5に比べて薄肉成形品の平面度に優れており、比較例4に比べて耐トラッキング性に優れた肉薄成形品を実現できることが分かった。また、実施例1~3のジアリルフタレート樹脂成形材料は、流動性、剛性、異方性に優れることが示された。
このような実施例1~3のジアリルフタレート樹脂成形材料は、2つの板状導電体の間に挟まれる絶縁シートに好適に用いることができる。