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特許7268459DCモータ制御装置、分巻DCモータ及びDCモータ制御方法
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  • 特許-DCモータ制御装置、分巻DCモータ及びDCモータ制御方法 図1
  • 特許-DCモータ制御装置、分巻DCモータ及びDCモータ制御方法 図2
  • 特許-DCモータ制御装置、分巻DCモータ及びDCモータ制御方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】DCモータ制御装置、分巻DCモータ及びDCモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/298 20160101AFI20230426BHJP
【FI】
H02P7/298 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019076611
(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2020174503
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛史
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-217890(JP,A)
【文献】特開2005-033958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分巻DCモータが有するアーマチャに電流を流すための第1ハーフブリッジ回路の第1及び第2スイッチング素子にアーマチャ電圧に基づき生成された駆動信号を入力するとともに前記分巻DCモータが有するフィールドコイルに電流を流すための第2ハーフブリッジ回路の第3及び第4スイッチング素子にフィールド電圧に基づき生成された駆動信号を入力することにより前記分巻DCモータの回転速度を制御するモータドライバを備えたDCモータ制御装置であって、
前記モータドライバは、
前記分巻DCモータの回転数の指令を受け付ける回転数指令受付部と、
前記分巻DCモータの最大許容電流を受け付ける最大許容電流受付部と、
前記アーマチャに流れるアーマチャ電流を取得するアーマチャ電流取得部と、
前記フィールドコイルに流れるフィールド電流を取得するフィールド電流取得部と、
Va_targetを前記アーマチャ電圧の目標値と表し、Rをアーマチャコイル抵抗と表し、Iaを前記アーマチャ電流取得部により取得されるアーマチャ電流と表し、Kを誘起電圧計数と表し、Moter Speed Limitを前記分巻DCモータの回転数の指令と表し、Ifを前記フィールド電流取得部により取得されるフィールド電流と表す場合、下記(1)式により前記アーマチャ電圧の目標値を算出するアーマチャ目標電圧算出部と、
Va_target=R*Ia+K*Moter Speed Limit*If・・・(1)
前記アーマチャ電流取得部により取得されるアーマチャ電流を前記分巻DCモータの最大許容電流に従って制御するためのアーマチャ電圧事前参照値をPI制御により推定するアーマチャ電圧推定部と、
前記アーマチャ電圧の目標値と前記アーマチャ電圧事前参照値との大きさを比較し、そのうち小さいほうをアーマチャ電圧参照値として指令するアーマチャ電圧参照値指令部と、
予め記憶部に記憶されたアーマチャ電流とフィールド電流の目標値との関係を表したテーブルを参照して、前記アーマチャ電流取得部により取得されるアーマチャ電流に対応するフィールド電流の目標値を算出するフィールド目標電流算出部と、
前記フィールド電流取得部により取得されたフィールド電流を前記フィールド目標電流算出部により算出されるフィールド電流の目標値に従って制御するためのフィールド電圧事前参照値をPI制御により推定し、その推定したフィール電圧事前参照値をフィールド電圧参照値として指令するフィールド電圧事前参照値算出部と、
前記アーマチャ電圧参照値指令部により指令されたアーマチャ電圧参照値に基づいて前記アーマチャ電圧を出力するアーマチャ電圧出力部と、
前記フィールド電圧事前参照値算出部により指令されたフィールド電圧参照値に基づいて前記フィールド電圧を出力するフィールド電圧算出部と、
を備えることを特徴とするDCモータ制御装置。
【請求項2】
前記アーマチャ目標電圧算出部は、Va_cmdを前記アーマチャ電圧参照値指令部から前記アーマチャ目標電圧算出部にフィードバックされたアーマチャ電圧参照値と表し、V_emfを前記分巻DCモータの誘導電圧と表す場合、下記(2)式により前記アーマチャ電圧の目標値を算出する
Va_target=(Va_cmd+V_emf)+K*Moter Speed Limit*If・・・(2)
ことを特徴とする請求項1に記載のDCモータ制御装置。
【請求項3】
前記アーマチャ目標電圧算出部は、Va_cmdを前記アーマチャ電圧参照値指令部から前記アーマチャ目標電圧算出部にフィードバックされたアーマチャ電圧参照値と表し、Vdcを前記第1及び第2ハーフブリッジ回路に並列接続される電源の電圧と表し、Va_midを前記第1及び第2スイッチング素子の間の中点の電位と表す場合、下記(3)式により前記アーマチャ電圧の目標値を算出する
Va_target=(Va_cmd-(Vdc-Va_mid)+K*Moter Speed Limit*If・・・(3)
ことを特徴とする請求項1に記載のDCモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の前記DCモータ制御装置を備えた分巻DCモータ。
【請求項5】
分巻DCモータが有するアーマチャに電流を流すための第1ハーフブリッジ回路の第1及び第2スイッチング素子にアーマチャ電圧に基づき生成された駆動信号を入力するとともに前記分巻DCモータが有するフィールドコイルに電流を流すための第2ハーフブリッジ回路の第3及び第4スイッチング素子にフィールド電圧に基づき生成された駆動信号を入力することにより前記分巻DCモータの回転速度を制御するDCモータ制御方法であって、
前記分巻DCモータの回転数の指令を受け付ける回転数指令受付ステップと、
前記分巻DCモータの最大許容電流を受け付ける最大許容電流受付ステップと、
前記アーマチャに流れるアーマチャ電流を取得するアーマチャ電流取得ステップと、
前記フィールドコイルに流れるフィールド電流を取得するフィールド電流取得ステップと、
Va_targetを前記アーマチャ電圧の目標値とし、Rをアーマチャコイル抵抗とし、Iaを前記アーマチャ電流取得ステップにより取得されるアーマチャ電流とし、Kを誘起電圧計数とし、Moter Speed Limitを前記分巻DCモータの回転数の指令とし、Ifを前記フィールド電流取得ステップにより取得されるフィールド電流とする場合、下記(1)式によりアーマチャ電圧の目標値を算出するアーマチャ目標電圧算出ステップと、
Va_target=R*Ia+K*Moter Speed Limit*If・・・(1)
前記アーマチャ電流取得ステップにより取得されるアーマチャ電流を前記分巻DCモータの最大許容電流に従って制御するためのアーマチャ電圧事前参照値をPI制御により推定するアーマチャ電圧推定ステップと、
前記アーマチャ電圧の目標値と前記アーマチャ電圧事前参照値との大きさを比較し、そのうち小さいほうをアーマチャ電圧参照値として指令するアーマチャ電圧参照値指令ステップと、
予め記憶部に記憶されたアーマチャ電流とフィールド電流の目標値との関係を表したテーブルを参照して、前記アーマチャ電流取得ステップにより取得されるアーマチャ電流に対応するフィールド電流の目標値を取得するフィールド目標電流算出ステップと、
前記フィールド電流取得ステップにより取得されたフィールド電流を前記フィールド目標電流算出ステップにより算出されるフィールド電流の目標値に従って制御するためのフィールド電圧事前参照値をPI制御により推定するフィールド電圧事前参照値算出ステップと、
前記アーマチャ電圧参照値指令ステップにより指令されたアーマチャ電圧参照値に基づいて前記アーマチャ電圧を出力するアーマチャ電圧出力ステップと、
前記フィールド電圧事前参照値算出ステップにより指令されたフィールド電圧参照値に基づいて前記フィールド電圧を出力するフィールド電圧算出部ステップと、
を含むことを特徴とするDCモータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCモータ制御装置、分巻DCモータ及びDCモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、DCモータの回転数を制御するにあたり、コストの低減等を目的としてセンサレスでDCモータを制御するセンサレス制御のDCモータ制御装置が知られている。
【0003】
センサレスのDCモータを制御するにあたっては、アーマチャ(armature:電機子)電圧とフィールド(field system:界磁)電流とに対応する回転数の関係を予め評価して、マップを作成している。そして、DCモータ制御装置は、所望の回転数となるように、作成したマップに従い、アーマチャ電圧を指令することでDCモータの回転数の制御を行っている。関連する技術として、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-178588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アーマチャ電圧とフィールド電流とに対応するDCモータの回転数の関係は、DCモータの負荷によって変化する。このため、DCモータの回転数を精度よく制御するためにはアーマチャ電圧とフィールド電流とに対応する回転数の関係を予め負荷ごとに数多く評価しなければならない。そして、評価したアーマチャ電圧とフィールド電流とに対応する回転数の関係のマップを負荷ごとに数多く記憶しておく必要があるため煩雑である。
【0006】
本発明の一側面に係る目的は、DCモータの回転数をセンサレスで精度よく制御することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一つの形態であるDCモータ制御装置は、アーマチャ及びフィールドを有する分巻DCモータの回転速度を制御するためのモータドライバを備える。前記モータドライバは、前記分巻DCモータの回転数の指令を受け付ける回転数指令受付部と、前記回転数指令受付部により受け付けた指令に基づいて前記分巻DCモータにフィールド電圧を出力するフィールド電圧出力部と、前記回転数指令受付部により受け付けた指令に基づいて前記分巻DCモータにアーマチャ電圧を出力するアーマチャ電圧出力部と、前記分巻DCモータのフィールド電流を取得するフィールド電流取得部と、前記アーマチャの特性に関する項、及び前記アーマチャの回転数を含むフィールド電流に関する項を含む計算式により前記分巻DCモータに出力すべきアーマチャ電圧の目標値を算出するアーマチャ目標電圧算出部と、前記アーマチャ電圧の目標値と前記アーマチャに印加するアーマチャ電圧事前参照値との大きさを比較し、そのうち小さいほうをアーマチャ電圧参照値として指令するアーマチャ電圧参照値指令部と、を備える。
【0008】
このため、アーマチャ目標電圧算出部は、アーマチャの特性に関する項、及びアーマチャの回転数を含むフィールド電流に関する項を含む計算式により分巻DCモータに出力すべきアーマチャ電圧の目標値を算出することができる。したがって、計算式によりアーマチャ電圧の目標値を算出することができるため、分巻DCモータの負荷状態に関係なくセンサレスで分巻DCモータの回転数を精度よく制御することができる。
【0009】
また、アーマチャ電圧参照値指令部は、アーマチャ電圧の目標値とアーマチャに印加するアーマチャ電圧事前参照値との大きさを比較し、そのうち小さいほうをアーマチャ電圧参照値として指令することができる。したがって、アーマチャ電圧事前参照値がアーマチャ電圧の目標値よりも小さい場合には、アーマチャ電圧参照値指令部は、アーマチャ電圧事前参照値をアーマチャ電圧参照値として指令することにより、アーマチャ電流が過剰に大きくなることを抑制することができる。
【0010】
また、前記DCモータ制御装置は、前記分巻DCモータのアーマチャ電流を取得するアーマチャ電流取得部と、前記アーマチャ電流取得部により取得された前記アーマチャ電流の実測値と前記分巻DCモータの最大許容電流に基づいたPI制御によって前記アーマチャ電圧事前参照値を推定するアーマチャ電圧推定部と、を更に備える。これにより、分巻DCモータの回転制御を緻密に行なうことができるため、分巻DCモータの損傷を抑制することができる。
【0011】
また、前記アーマチャ電圧参照値指令部は、前記アーマチャ電圧の目標値と前記アーマチャ電圧事前参照値との比較結果を、前記アーマチャ電圧推定部による前記アーマチャ電圧事前参照値の推定にフィードバックする。これにより、アーマチャに印加するアーマチャ電流を最大にすることができ、DCモータの性能向上を図ることができる。
【0012】
また、前記アーマチャ目標電圧算出部は、前記アーマチャの特性に関する項、及びアーマチャの回転数を含むフィールド電流に関する項を含む前記計算式の算出にアーマチャ印加電圧を用いる。したがって、計算式の算出に、熱変化による影響を受ける項を含まないアーマチャ印加電圧を用いることで、DCモータ制御装置に対する熱等によるアーマチャ特性の変化に対する堅牢性を高め、アーマチャ電圧の目標値を精度よく算出することができる。
【0013】
また、分巻DCモータは。前記DCモータ制御装置を備える。これにより、DCモータ制御装置と分巻DCモータとを一体に形成することができる。
【0014】
また、アーマチャ及びフィールドを有する分巻DCモータの回転速度を制御するDCモータ制御方法であって、前記DCモータ制御方法は、前記分巻DCモータの回転数の指令を受け付ける回転数指令受付ステップと、前記分巻DCモータのフィールド電流を検出するフィールド電流検出ステップと、前記アーマチャの特性に関する項、及び前記アーマチャの回転数を含むフィールド電流に関する項を含む計算式により前記分巻DCモータに出力すべきアーマチャ電圧の目標値を算出するアーマチャ目標電圧算出ステップと、前記アーマチャ電圧の目標値と前記アーマチャに印加するアーマチャ電圧事前参照値との大きさを比較し、そのうち小さいほうをアーマチャ電圧参照値として指令するアーマチャ電圧参照値指令ステップと、を含む。
【0015】
このため、アーマチャの特性に関する項、及びアーマチャの回転数を含むフィールド電流に関する項を含む計算式により分巻DCモータに出力すべきアーマチャ電圧の目標値を算出することができる。したがって、計算式によりアーマチャ電圧の目標値を算出することができるため、分巻DCモータの負荷状態に関係なくセンサレスで分巻DCモータの回転数を精度よく制御することができる。
【0016】
また、アーマチャ電圧の目標値とアーマチャに印加するアーマチャ電圧事前参照値との大きさを比較し、そのうち小さいほうをアーマチャ電圧参照値として指令することができる。したがって、アーマチャ電圧事前参照値がアーマチャ電圧の目標値よりも小さい場合には、アーマチャ電圧事前参照値をアーマチャ電圧参照値として指令することにより、アーマチャ電流が過剰に大きくなることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、DCモータの回転数をセンサレスで精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のDCモータ制御装置40を含むDCモータ装置1の一例を示す図である。
図2】本実施形態のDCモータ制御装置の機能ブロックの一例を示す図である。
図3】回転数指令値[rpm]に対するDCモータ10の回転数の実測値[rpm]の関係を示すグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面に基づいて本実施形態について詳細を説明する。
図1は、本実施形態のDCモータ制御装置40を含むDCモータ装置1の一例を示す図である。図1に示すDCモータ装置1は、車両(例えば、電動フォークリフト、ハイブリッドカー、又は電気自動車)などに搭載される。DCモータ装置1は、分巻DCモータ10、モータコントローラ20、バッテリ30、DCモータ制御装置40を備える。なお、DCモータ装置1は、図1に示してない他の回路構成を備えていてもよい。
【0020】
分巻DCモータ10は、例えば、直流分巻モータである。分巻DCモータ10は、アーマチャ(電機子)11とフィールドコイル(界磁コイル)12を有する。アーマチャ11はロータに設けられ、フィールドコイル12はステータに設けられる。
【0021】
モータコントローラ20は、4つのスイッチング素子Q1~Q4を備える。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4が2組のハーフブリッジ回路を構成している。
【0022】
直流電源としてのバッテリ30の正極に正極母線Lpが接続されるとともにバッテリ30の負極に負極母線Lnが接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間にスイッチング素子Q1,Q2が直列接続されている。また、正極母線Lpと負極母線Lnとの間にスイッチング素子Q3,Q4が直列接続されている。
【0023】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2の間の中点C1と正極母線Lpとの間にフィールドコイル12が直列接続されている。そして、フィールドコイル12には、アーマチャ電流(Ia)が流れる。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4の間の中点C2と正極母線Lpとの間にアーマチャ11が直列接続されている。そして、アーマチャ11には、フィールド電流(If)が流れる。アーマチャ11とフィールドコイル12は並列に接続される。各スイッチング素子Q1~Q4には、MOSFETが使用されている。
【0024】
スイッチング素子Q1、Q2のゲート端子には、DCモータ駆動装置40から出力されたアーマチャ電圧(Va)に基づき生成された駆動信号が入力される。但し、基本的には下アームのスイッチング素子Q2に、DCモータ駆動装置40から出力されたアーマチャ電圧(Va)に基づき生成された駆動信号が入力される。
【0025】
スイッチング素子Q3、Q4のゲート端子には、DCモータ駆動装置40から出力されたフィールド電圧(Vf)に基づき生成された駆動信号が入力される。但し、基本的には下アームのスイッチング素子Q4に、DCモータ駆動装置40から出力されたフィールド電圧(Vf)に基づき生成された駆動信号が入力される。アーマチャ電圧(Va)を出力する方法及びフィールド電圧(Vf)を出力する方法については後述する。なお、スイッチング素子としてIGBT(絶縁ゲートバイポーラ型トランジスタ)を使用してもよい。
【0026】
DCモータ装置1はDCモータ制御装置40を有する。DCモータ制御装置40は少なくともCPU(Central Processing Unit)41を有する。CPU41は、MCU(メインコントロールユニット:Main control unit)50、MD(モータドライバ:Motor driver)60を有する。
【0027】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2の間の中点C1とDCモータ制御装置40との間にはフィールド電流センサ21が接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4の間の中点C2とDCモータ制御装置40との間にはアーマチャ電流センサ22が接続されている。
【0028】
フィールド電流センサ21は、フィールドコイル12に流れるフィールド電流(If)を測定する。フィールド電流センサ21により測定されたフィールド電流(If)は、DCモータ制御装置40へ入力される。
【0029】
アーマチャ電流センサ22は、アーマチャ11に流れるアーマチャ電流(Ia)を測定する。アーマチャ電流センサ22により測定されたアーマチャ電流(Ia)は、DCモータ制御装置40へ入力される。
【0030】
図2は、本実施形態のDCモータ制御装置40の機能ブロックの一例を示す図である。DCモータ制御装置40は、MCU50、MD60を備える。なお、DCモータ制御装置40は、図2に示してない他の回路構成を備えていてもよい。MCU50とMD60とは任意の接続方法により接続されている。図2では、MCU50とMD60とはそれぞれ独立して構成されているが、MCU50の中にMD60を入れたり、MD60の中にMCU50を入れて構成してもよい。
【0031】
MCU50は、MD60に対し、分巻DCモータ10に対する回転数の指令(以下、「回転数指令(Ref_speed)」と呼ぶ)を行う。回転数指令(Ref_speed)は、分巻DCモータ10に対し指令された目標とする回転数[rpm]の情報(以下、「回転数指令値」とも呼ぶ)が含まれる。また、MCU50は、MD60に対し、分巻DCモータ10の最大許容電流(Ia_max)の指令を行う。最大許容電流(Ia_max)には、DCモータ装置1が損傷されるのを未然に防ぐために、実際に制限をかけたいアーマチャ電流の最大値が設定される。
【0032】
MD60は、回転数指令受付部61、フィールド電圧出力部(Vf_out)62、アーマチャ電圧出力部(Va_out)63、フィールド電流取得部64、アーマチャ電流取得部65、最大許容電流受付部66、アーマチャ目標電圧算出部67、フィールド目標電流算出部(Ia/If)68、アーマチャ電圧推定部69、アーマチャ電圧参照値指令部70、フィールド電圧事前参照値算出部71を備える。なお、MD60は、図2に示してない他の回路構成を備えていてもよい。
【0033】
回転数指令受付部61は、MCU50からの分巻DCモータ10の回転数指令(Ref_speed)を受け付ける。回転数指令受付部61は、MCU50以外の図示しない回路から分巻DCモータ10の回転数指令(Ref_speed)を受け付けることもできる。また、回転数指令受付部61は、MD60内の図示しない回路から回転数指令(Ref_speed)を受け付けることもできる。
【0034】
フィールド電圧出力部(Vf_out)62は、回転数指令受付部61により受け付けた回転数指令(Ref_speed)に基づいて分巻DCモータ10にフィールド電圧(Vf)を出力する。具体的には、フィールド電圧出力部(Vf_out)62は、後述のフィールド電圧事前参照値算出部71により指令されたフィールド電圧参照値(Vf_reference)に基づいて分巻DCモータ10にフィールド電圧(Vf)を出力する。
【0035】
アーマチャ電圧出力部(Va_out)63は、回転数指令受付部61により受け付けた回転数指令(Ref_speed)に基づいて分巻DCモータ10にアーマチャ電圧(Va)を出力する。具体的には、アーマチャ電圧出力部(Va_out)63は、後述のアーマチャ電圧参照値指令部70により指令されたアーマチャ電圧参照値(Va_reference)に基づいて分巻DCモータ10にアーマチャ電圧(Va)を出力する。
【0036】
フィールド電流取得部64は、フィールド電流センサ21(図1参照)により測定されたフィールドコイル12に流れるフィールド電流の実測値(If)を取得する。アーマチャ電流取得部65は、アーマチャ電流センサ22(図1参照)により測定されたアーマチャ11に流れるアーマチャ電流の実測値(Ia)を取得する。
【0037】
最大許容電流受付部66は、MD60からの分巻DCモータ10の最大許容電流(Ia_max)の指令を受け付ける。
【0038】
アーマチャ目標電圧算出部67は、回転数指令受付部61により受け付けた分巻DCモータ10の回転数指令(Ref_speed)[rpm]と、フィールド電流取得部64により取得されたフィールド電流の実測値(If)と、が入力する。
【0039】
アーマチャ目標電圧算出部67は、アーマチャ11の特性に関する項、及びアーマチャ11の回転数を含むフィールド電流に関する項を含む計算式により分巻DCモータ10に出力すべきアーマチャ電圧の目標値(Va_target)を算出する。アーマチャ11の特性に関する項、及びアーマチャ11の回転数を含むフィールド電流(If)に関する項を含む計算式は、この実施形態では(1)式で表される。
Va_target = R*Ia+k*Motor Speed Limit*If・・・(1)
【0040】
Va_targetは、アーマチャ電圧の目標値を表す。Rは、アーマチャコイル抵抗[Ω]を表す。アーマチャコイル抵抗(電機子抵抗)[Ω]は、分巻DCモータ10に依存する値であり予め設定されている。Iaは、アーマチャ電流[A]を表す。Iaは、アーマチャ11の特性に関する項の一例である。Iaは、アーマチャ電流取得部65により取得されたアーマチャ電流の実測値が入力される。kは、誘起電圧係数を表す。Motor Speed Limitは、分巻DCモータ10の回転数指令(Ref_speed)[rpm]を表す。Motor Speed Limitは、回転数指令受付部61により受け付けた分巻DCモータ10の回転数指令(Ref_speed)[rpm]が入力される。Motor Speed Limitは、アーマチャ11の回転数に関する項の一例である。Ifは、フィールド電流[A]を表す。Ifは、フィールド電流取得部64により取得されたフィールド電流の実測値が入力される。Ifは、フィールド電流に関する項の一例である。
【0041】
(1)式には、分巻DCモータ10の負荷に関する項は含まれない。したがって、アーマチャ目標電圧算出部67は、(1)式によりアーマチャ電圧の目標値(Va_target)を算出することができるため、分巻DCモータ10の負荷状態に関係なくセンサレスで分巻DCモータ10の回転数を精度よく制御することができる。
【0042】
上述の(1)式に含まれるアーマチャコイル抵抗Rとアーマチャ電流Iaは、熱による変動が大きい。したがって、アーマチャ目標電圧算出部67は、(1)式のうち、アーマチャコイル抵抗Rとアーマチャ電流Iaの項を、アーマチャ指令電圧(Va_cmd)と誘導電圧(V_emf)の項に置き換えた(2)式によりアーマチャ電圧の目標値(Va_target)を算出することができる。
Va_target = (Va_cmd-V_emf)+k*Motor Speed Limit*If・・・(2)
【0043】
Va_cmdは、モータコントローラ20がアーマチャ11に対してかけたい電圧を表す。Va_cmdは、アーマチャ11の特性に関する項の一例である。具体的には、Va_cmdは、アーマチャ電圧参照値指令部70により指令されたアーマチャ電圧参照値(Va_reference)がフィードバックされて入力された値を表す。V_emfは、分巻DCモータ10の誘導電圧を表す。
【0044】
さらに、アーマチャ目標電圧算出部67は、(2)式のうち、誘導電圧(V_emf)の項を、バッテリ30の電圧(Vdc)と中点C1の電位(Va_mid)との差分の項に置き換えた(3)式によりアーマチャ電圧の目標値(Va_target)を算出することができる。中点C1の電位(Va_mid)は、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との間で測定される電位である。アーマチャ目標電圧算出部67は、バッテリ30の電圧(Vdc)と中点C1の電位(Va_mid)との差分を算出することにより、誘導電圧(V_emf)を算出することができる。
Va_target = (Va_cmd-(Vdc-Va_mid))+k*Motor Speed Limit*If・・・(3)
【0045】
Vdcは、バッテリ30の電荷(上位側の電圧)を表す。Va_midは、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2の間の中点C1の電位を表す。
【0046】
Va_cmdは、アーマチャ電圧参照値指令部70により指令されたアーマチャ電圧参照値(Va_reference)がフィードバックされた値が入力されるため、アーマチャ電圧参照値(Va_reference)により指令される前は未定である。したがって、DCモータ制御装置40の運転開始時は、前回終了時に記憶したアーマチャ電圧参照値(Va_reference)または予め定めた初期値がVa_cmdに入力される。
【0047】
(3)式は、アーマチャコイル抵抗Rの項を含まないため、熱変化による影響を考慮しなくてよい。このため、アーマチャ目標電圧算出部67は、分巻DCモータ10に出力すべきアーマチャ電圧の目標値(Va_target)を精度よく算出することができる。したがって、(3)式によれば、DCモータ制御装置40に対する熱等によるアーマチャ特性の変化に対する堅牢性を高めることができる。
【0048】
フィールド目標電流算出部68は、分巻DCモータ10に出力すべきフィールド電流の目標値(If_target)を算出する。フィールド目標電流算出部68は、予めMD60の記憶部に記憶されたアーマチャ電流(Ia)とフィールド電流の目標値(If_target)との関係を表したテーブルを参照して、フィールド電流の目標値(If_target)を算出する。アーマチャ電流(Ia)とフィールド電流の目標値(If_target)との関係を表したテーブルには、図示しないが、例えば、アーマチャ電流(Ia) 0A,100A,200A,300Aに対しそれぞれ5A,30A,60A,90Aがフィールド電流の目標値(If_target)として設定されている。
【0049】
例えば、アーマチャ電流(Ia)が100Aであった場合、フィールド目標電流算出部68は、アーマチャ電流(Ia)とフィールド電流の目標値(If_target)との関係を表したテーブルを参照し、フィールド電流の目標値(If_target)として30Aを算出する。
【0050】
アーマチャ電圧推定部69は、アーマチャ電流取得部65により取得されたアーマチャ電流の実測値(Ia)と、最大許容電流受付部66により受け付けた分巻DCモータ10の最大許容電流(Ia_max)の指令と、が入力する。
【0051】
アーマチャ電圧推定部69は、アーマチャ電流の実測値(Ia)と、分巻DCモータ10の最大許容電流(Ia_max)との大きさを比較し、そのうち小さい方を採用する。そして、アーマチャ電圧推定部69は、アーマチャ電流(Ia)を分巻DCモータ10の最大許容電流(Ia_max)に従って制御するためのアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)をPI制御により推定する。アーマチャ電圧推定部69は、前回算出したアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)の値を使って積算するロジックにより今回のアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)を算出する。アーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)は、アーマチャ11に電荷すべきアーマチャ電圧の予測値である。
【0052】
アーマチャ電圧参照値指令部70は、アーマチャ目標電圧算出部67により算出されたアーマチャ電圧の目標値(Va_target)と、アーマチャ電圧推定部69により算出されたアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)と、が入力する。アーマチャ電圧参照値指令部70は、アーマチャ電圧の目標値(Va_target)とアーマチャ11に印加するアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)との大きさを比較し、そのうち小さいほうをアーマチャ電圧参照値(Va_reference)として指令する。
【0053】
アーマチャ電圧出力部(Va_out)63は、アーマチャ電圧参照値指令部70により指令されたアーマチャ電圧参照値(Va_reference)に基づいて分巻DCモータ10にアーマチャ電圧(Va)を出力する。
【0054】
したがって、アーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)がアーマチャ電圧の目標値(If_target)よりも小さい場合には、アーマチャ電圧参照値指令部70は、アーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)をアーマチャ電圧参照値(Va_reference)として指令することにより、アーマチャ電流が過剰に大きくなることを抑制することができる。
【0055】
また、アーマチャ電圧参照値指令部70は、アーマチャ電圧の目標値(Va_target)とアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)との比較結果を、アーマチャ電圧推定部69によるアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)の算出にフィードバックする。具体的には、アーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)の演算結果が指令された場合には、アーマチャ電圧参照値指令部70は、フィードバックを行わない。アーマチャ電圧推定部69は、自身で算出したアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)の演算結果を有しているためである。
【0056】
一方、アーマチャ電圧の目標値(Va_target)の演算結果が指令された場合には、アーマチャ電圧参照値指令部70は、アーマチャ電圧の目標値(Va_target)をアーマチャ電圧推定部69へフィードバックする。アーマチャ電圧推定部69は、アーマチャ目標電圧算出部67が算出したアーマチャ電圧の目標値(Va_target)の演算結果を有していないためである。したがって、アーマチャ電圧の目標値(Va_target)の演算結果が指令されたにも関わらず、フィードバックが行われない場合には、アーマチャ電圧推定部69は、アーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)の推定をPI制御により追随できなくなる。このため、アーマチャ電圧推定部69には、分巻DCモータ10の最大許容電流(Ia_max)の指令に従い抑制できなくなるため、分巻DCモータ10の最大許容電流(Ia_max)を超えるオーバーシュートが発生することとなる。
【0057】
この場合、PI制御の積分項の分だけ遅れが出るため、オーバーシュートが発生してからアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)が抑制される動きとなってしまう。ようやくアーマチャ電流(Ia)から超えたときには、すでに積分項は最大限溜まっている状態となる。したがって、フィードバックがなかった場合には、積分項が持ちうる最大の値となってしまう。このため、分巻DCモータ10の定格であった場合は、分巻DCモータ10自身が破壊されることとなる。
【0058】
これに対し、本実施形態では、アーマチャ電圧推定部69は、アーマチャ電流取得部65により取得されたアーマチャ電流の実測値と分巻DCモータ10の最大許容電流(Ia_max)に基づいたPI制御によってアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)を推定する。これにより、分巻DCモータ10の回転制御を緻密に行なうことができるため、分巻DCモータ10の損傷を抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、アーマチャ電圧参照値指令部70は、アーマチャ電圧の目標値(Va_target)とアーマチャ電圧事前参照値(Va_pre-reference)との比較結果を、アーマチャ電圧事前参照値の算出にフィードバックする。これにより、アーマチャ11に印加するアーマチャ電流を最大にすることができ、DCモータ10の性能向上を図ることができる。
【0060】
フィールド電圧事前参照値算出部71は、フィールド電流取得部64により取得されたフィールド電流の実測値(If)と、フィールド目標電流算出部68により算出したフィールド電流の目標値(If_target)と、が入力する。
【0061】
フィールド電圧事前参照値算出部71は、フィールド電圧(If)をフィールド電流の目標値(If_target)に従って制御するためのフィールド電圧事前参照値(Ia_pre_reference)をPI制御により推定する。フィールド電圧事前参照値(Ia_pre_reference)は、フィールドコイル12に電荷すべきフィールド電圧の予測値である。フィールド電圧事前参照値算出部71は、算出したフィールド電圧事前参照値(Ia_pre_reference)をフィールド電圧参照値(Vf_reference)として指令する。
【0062】
フィールド電圧出力部(Vf_out)62は、フィールド電圧事前参照値算出部71により指令されたフィールド電圧参照値(Vf_reference)に基づいて分巻DCモータ10にフィールド電圧(Vf)を出力する。
【0063】
図3は、回転数指令値[rpm]に対するDCモータ10の回転数の実測値[rpm]の関係を示すグラフを示す図である。
【0064】
図3のうち、四角印は、MCU50から分巻DCモータ10に対し指令された回転数指令値[rpm]を測定点ごとにプロットした情報を表す。三角印は、レーザーセンサと反射パネルにより実際に測定した分巻DCモータ10の実回転数[rpm]を測定点ごとにプロットした情報を表す。ひし形印は、回転数指令値[rpm]と実回転数[rpm]とにより算出した偏差[rpm]を測定点ごとにプロットした情報を表す。
【0065】
図3に示すように、実回転数[rpm]は、回転数指令値[rpm]で指令した回転数[rpm]の全域にわたって、ほぼ一致している。したがって、本実施形態のDCモータ制御装置40は、分巻DCモータ10の回転数をセンサレスで精度よく制御することできる。
【0066】
本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0067】
例えば、図1によれば、分巻DCモータ10とDCモータ制御装置40とは別体として構成されているがこの限りではない。例えば、分巻DCモータ10にDCモータ制御装置40を含めて一体に構成してもよい。これにより、DCモータ制御装置40と分巻DCモータ10とを一体に形成することができる。
【符号の説明】
【0068】
1: DCモータ装置
10: 分巻DCモータ
11: アーマチャ
12: フィールドコイル
20: モータコントローラ
21: フィールド電流センサ
22: アーマチャ電流センサ
30: バッテリ
40: DCモータ制御装置
41: CPU
50: MCU
60: MD
61: 回転数指令受付部
62: フィールド電圧出力部
63: アーマチャ電圧出力部
64: フィールド電流取得部
65: アーマチャ電流取得部
66: 最大許容電流受付部
67: アーマチャ目標電圧算出部
68: フィールド目標電流算出部
69: アーマチャ電圧推定部
70: アーマチャ電圧参照値指令部
71: フィールド電圧事前参照値算出部
Q1~Q4: スイッチング素子
C1,C2: 中点
図1
図2
図3