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  • 特許-偽造防止媒体および真贋判定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】偽造防止媒体および真贋判定方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20230426BHJP
   G07D 7/12 20160101ALI20230426BHJP
【FI】
B41M3/14
G07D7/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019089662
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020185674
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西谷 果純
(72)【発明者】
【氏名】牛腸 智
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-184536(JP,A)
【文献】特表昭57-500923(JP,A)
【文献】特開2009-078431(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168742(WO,A1)
【文献】特開2015-017261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
G07D 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、蛍光インキからなる印刷層を備えた偽造防止媒体において、
蛍光体インキからなる印刷層は、青色領域の光により励起され蛍光を発光する蛍光体と、波長が315nm~400nmの光を吸収する紫外線吸収剤と、を含有することを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の偽造防止媒体を使用した真贋判定方法であって、
波長が315nm~400nmの光を偽造防止媒体に照射した時に、蛍光を発光した場合は贋と判定し、蛍光を発光しなかった場合は、次のステップ2に進むステップ1と、
青色領域の光を偽造防止媒体に照射した時に、蛍光を発光した場合は真と判定し、蛍光を発光しなかった場合は贋と判定するステップ2と、を備えていることを特徴とする真贋判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光インキを使用した偽造防止媒体に関する。特に、可視光下では視認する事が困難であるが、特定波長の励起光を照射することで可視光領域の蛍光を発光して視認可能となる蛍光発光層が設けられた偽造防止媒体と、その偽造防止媒体を用いた真贋判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偽造品が横行しているインクジェットインクカートリッジなどの物品や保険証などの個人を認証する証明書等は、第三者に偽造や改竄をされない様にするため、常に新たな偽造防止媒体を盛り込むことが要求されている。更に、真贋判定が容易であることも併せて要求されている。
【0003】
この様な要求に対応してセキュリティ性を高めるために、赤外線吸収インキや蛍光発光インキ等が従来から広く用いられている。蛍光インキは、可視光照射下では肉眼で視認する事が困難であるが紫外線や赤外線を照射することにより、肉眼あるいはカメラによって容易に確認することができるインキであり、通常は、赤、緑、青等の各色に発光する蛍光体が含まれている。
【0004】
この様な蛍光体を用いた偽造防止方法としては、例えば、基材上の一部に蛍光体を含有する蛍光画像部を、可視光下では目視不可能な状態で設けておく手段が挙げられる。この様な蛍光画像形成物に対して、蛍光体を励起させる紫外線を照射することにより、蛍光画像部を発光させることにより真贋判定を行うものである。
【0005】
しかしながら近年においては、蛍光発光インキが比較的容易に入手できるようになった。また、ブラックライトなどの紫外線照射機器も容易に入手できることから、それらを使用して偽造が行なわれやすい状況になってきている。例えば、従来は近紫外線のUVA(波長が315nm~400nmの紫外線)で励起させ蛍光発光を検知することで真贋判定を行っていたが、そのUVAを発光する光源であるブラックライトなどが、誰でも容易に入手可能となっている。また、青色領域の波長で蛍光体を励起させ、黄色領域の蛍光発光させることで、白色として視認する蛍光体および視認方法があるが、この様な蛍光体は誰でも入手可能であるため、容易に偽造可能な状態である。また、この様な蛍光体は、UVAによっても蛍光を発するという問題がある。
そのため、青色領域の波長で励起した時は蛍光発光を示すが、紫外線領域の波長では励起されない蛍光体または蛍光体層が待望されていた。
【0006】
この様な技術に類似した先行技術としては、例えば、特許文献1に白色基材の表面に、所定の文字や図形や模様などを現すよう少なくとも蛍光インキによって印刷された偽造防止用シートが開示されている。この偽造防止用シートにおいては、白色基材は、蛍光増白剤を含有し、白色基材の表面は、蛍光インキによってベタ印刷されたベタ印刷領域と、蛍光インキまたは非蛍光インキによって網点印刷された網点印刷領域と、印刷がなされない非印刷領域と、に区分され、ベタ印刷領域は、可視光線下では蛍光インキ色に発光し、300nmから450nmの波長で発光するブラックライトの近紫外線下では発光せず、前記非印刷領域は、可視光線下では白色であり、前記300nmから450nmの波長で発光するブラックライトの近紫外線下では青色に発光することが特徴となっている。そのため、青色領域の波長の光で励起した時は蛍光発光を示すが、紫外線領域の波長の光では励起されない蛍光体層に関する技術とは異なる。
【0007】
また、特許文献2には、真偽判別領域を有する発光印刷物が開示されている。この発光印刷物では、真偽判別領域に、長波領域の紫外線及び/又は短波領域の紫外線を照射することによって、それらの紫外線が変化することで発光色が変化する特性を有する多色発光部が形成され、多色発光部の上に、多色発光部を励起させる紫外線のうち、短波領域の紫外線を選択的に吸収する特性を有する物質又は長波領域の紫外線を選択的に吸収する特性を有する物質を、多色発光部の一部分で重なり合わせたオーバープリント部が形成されてなり、可視光下の視認画像、紫外線長波光照射時の視認画像、紫外線短波光照射時の視認画像及び紫外線長短波光照射時の視認画像において、それぞれ視認される発光色及び/又は発光部位が異なることにより真偽判別を行うことが特徴である。そのため、青色領域の波長の光で励起した時は蛍光発光を示すが、紫外線領域の波長の光では励起されない蛍光体層に関する技術とは異なる。
【0008】
また、特許文献3には、赤外励起赤外検出の条件で画像が得られることを特徴とする第1の分割パターンと、紫外励起可視検出の条件で画像が得られることを特徴とする第2の分割パターンを含む認証媒体の認証方法が開示されている。この技術においては、認証媒体に対応した照射光を、紫外光又は赤外光のうちから選択し、認証媒体に対応した検出波長を選択するため、検出波長以外の波長をカットするフィルタを設置し、認証媒体に対して、選択した照射光を照射し、照射光の照射により、検出波長で検出される認証媒体の反射、透過又は吸収による反射パターン、透過パターン又は吸収パターンを、フィルタを介して画像として撮影装置に取り込み、取り込んだ画像に二値化処理を行った後、演算処理を行い、合成画像を形成し、合成画像をあらかじめ設定されている処理方法によってデコード処理し、デコード処理によって得られた情報と、あらかじめ記憶している認証情報を照合することによって認証することが特徴である。そのため、青色領域の波長の光で励起した時は蛍光発光を示すが、紫外線領域の波長の光では励起されない蛍光体層に関する技術とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-196484号公報
【文献】特許第448790号公報
【文献】特許第4604160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の事情に鑑み、本発明は、蛍光発光を示す蛍光インキを使用した偽造防止媒体において、青色領域の波長の光で励起され蛍光発光を示し、UVAの領域の波長の光では励起されず蛍光発光を示さない偽造防止媒体と、その偽造防止媒体を使用した真贋判定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決する手段として、請求項1に記載の発明は、基材上に、蛍光インキからなる印刷層を備えた偽造防止媒体において、
蛍光体インキからなる印刷層は、青色領域の光により励起され蛍光を発光する蛍光体と、波長がUVAの領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、を含有することを特徴とする偽造防止媒体である。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の偽造防止媒体を使用した真贋判定方法であって、
UVAの領域の光を偽造防止媒体に照射した時に、蛍光を発光した場合は贋と判定し、蛍光を発光しなかった場合は、次のステップ2に進むステップ1と、
青色領域の光を偽造防止媒体に照射した時に、蛍光を発光した場合は真と判定し、蛍光を発光しなかった場合は贋と判定するステップ2と、を備えていることを特徴とする真贋判定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の偽造防止媒体は、青色領域の光により励起され蛍光を発光する蛍光体と、UVAの領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、を含有する蛍光インキからなる印刷層を備えている。そのため、偽造防止媒体に、UVAの領域の紫外線を照射した場合は紫外線吸収剤により紫外線が吸収されるため蛍光を発光せず、青色領域の光を照射した場合は蛍光を発光する。
【0014】
本発明の真贋判定方法は、本発明の偽造防止媒体を使用しているため、偽造防止媒体にUVAの領域の紫外線を照射した時に、蛍光を発光した場合は贋と判定することができる。蛍光を発光しなかった場合は、更に青色光を照射した時に、蛍光を発光した場合は真と判定することができ、蛍光を発光しなかった場合は贋と判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例と比較例において作製したサンプルの励起波長に対する励起強度の依存性の例を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<偽造防止媒体>
本発明の偽造防止媒体について説明する。
本発明の偽造防止媒体は、基材上に、蛍光インキからなる印刷層を備えた偽造防止媒体である。
本発明の偽造防止媒体における蛍光インキは、青色領域の光により励起され蛍光を発光する蛍光体と、波長が315nm~400nmの光を吸収する紫外線吸収剤と、を含有することが特徴である。なお、ここで青色領域の光とは、波長400nm~500nmの光を指すものとする。
【0017】
印刷層の構成部材としては、少なくとも蛍光インキが使用される。その他の材料が含まれていても構わない。
【0018】
(基材)
基材としては、特に限定されないが、例えば、アート紙、コート紙、あるいは上質紙等の用紙や、コートボール、コートマニラ等の板紙、あるいは特殊証券用紙等が挙げられる。また、各種の樹脂フィルムや、白色PET、白色塩ビ等からなるシートも使用でき、これらの中から適宜のものを用途等に応じて選択して用いればよい。これらの用紙や、樹脂フィルム、シート等からなる基材には、蛍光増白剤が多く含まれていないことが望ましい。
【0019】
(蛍光インキ)
蛍光インキとしては、青色領域の波長の光で励起され、蛍光を発光する蛍光体と、紫外線の一部を吸収する紫外線吸収材を含有してなる画像形成部材が用いられる。紫外線を吸収する波長の範囲としては、UVA(315nm~400nm)であることが好ましい。
【0020】
(蛍光体)
蛍光体としては、青色領域の光の照射により蛍光を発光する物質であって、無機蛍光体と有機蛍光体に大別することができる。
本発明において使用する蛍光体は、青色領域の光により励起され蛍光を発光すると同時
に、UVA領域の紫外線を発光するブラックライトから照射される比較的波長の長い365nm付近の紫外線で励起され蛍光を発光する蛍光体を好適に使用することができる。
具体的には、YAl12:Ceなどの材料を使用することができる。
【0021】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄等が代表例として挙げられる。特にベンゾトリアゾール系紫外線吸収材は長波長に波長成分を有する紫外線に顕著な吸収特性を有していることで知られる。また、ポリウレタン樹脂やポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体、ゼラチン、ポリビニルアルコール等は短波長側に波長成分を有する紫外線を特に吸収する特性を持っていることで知られている。これらの中では、UVA(波長が315nm~400nmの紫外線)を吸収する紫外線吸収剤を使用すれば良い。UVAに加え、UVB(波長が280nm~315nmの紫外線)、UVC(波長が200nm~280nmの紫外線)を吸収する紫外線吸収剤を含んでいても構わない。
【0022】
(偽造防止媒体の製造方法)
本発明の偽造防止媒体の製造方法としては、従来から使用されてきた製造方法を使用すれば良い。各種の印刷法を使用して、基材上にインキを印刷して、印刷層を形成することができる。異なるのは、使用するインキとして、青色領域の光により励起され蛍光を発光する蛍光体と、波長がUVAの領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤と、を含有する蛍光インキを使用して、基材上にその蛍光インキによる印刷層が最表面に配置された構成であるか、または印刷層の上に透明層が配置された構成であっても構わない。蛍光インキに使用する蛍光体は、UVAの波長領域の光によって励起され蛍光を発光するものであっても良い。
【0023】
例えば、基材の上に、印刷法を使用して通常のプロセスインキなどの非蛍光インキを印刷し、更にその上に蛍光インキを印刷すれば良い。蛍光インキだけを用いて印刷しても良い。印刷法としては、特に限定する必要は無いが、例えば、平版オフセット印刷をはじめ、インクジェット印刷などの可変印刷技術を使用しても良い。
【0024】
<真贋判定方法>
次に、本発明の偽造防止媒体を使用した真贋判定方法について説明する。
本発明の真贋判定方法は、UVA(波長が315nm~400nmの紫外線)の領域の光を偽造防止媒体に照射した時に、蛍光を発光した場合は贋と判定し、蛍光を発光しなかった場合は、次のステップ2に進むステップ1と、青色領域の光を偽造防止媒体に照射した時に、蛍光を発光した場合は真と判定し、蛍光を発光しなかった場合は贋と判定するステップ2と、を備えていることが特徴である。
【0025】
(ステップ1)
ステップ1は、偽造防止媒体にUVAの領域の光を照射して、目視により蛍光を観察する。偽造防止媒体が正規品である場合は、印刷層に使用されている蛍光インキが、本発明の蛍光インキであるため、UVAの領域の光が照射されても吸収されてしまうため、蛍光を発光しない。そのため、蛍光を発光した場合は贋(偽物)と判定することができる。また、蛍光を発光しなかった場合は、次のステップ2に進む。
【0026】
(ステップ2)
ステップ2は、青色領域の光を偽造防止媒体に照射して、目視により蛍光を観察する。
偽造防止媒体が正規品である場合は、印刷層に使用されている蛍光インキが、本発明の蛍光インキであるため、青色領域の光が照射されると蛍光を発光する。そのため、蛍光を発光した場合は真(本物)と判定することができる。また、蛍光を発光しなかった場合は
、贋と判定することができる。
【0027】
本発明の真贋判定方法は、機械読取りにより真贋判定が可能である。具体的には、検査対象物の偽造防止媒体を、検査装置に装填した後は、検査装置が自動的に真贋判定することが可能である。検査装置に検査対象を装填する工程を自動化することも可能である。例えば、検査対象物を検査装置に装填または検査装置の所定の位置の位置に載置する。その後、自動的に、UVA領域の光を照射して検査対象物からの蛍光を、光センサを使用して測定すれば良い。
【0028】
蛍光が測定された場合は、贋と判定し、蛍光が測定されなかった場合は、光源を切り替えて、青色領域の光を照射し、蛍光を測定する。蛍光が測定された場合は、真と判定し、蛍光が測定されなかった場合は、贋と判定することができる。以上の動作は、専用の検査装置を、制御用プログラムを備えた制御装置により制御することにより可能である。
また、プログラム動作が不可能な検査装置であっても、光源の切り替えを人が操作することにより、人手により検査することも可能である。
【実施例
【0029】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0030】
<実施例1>
450nmに励起波長を有し、562nmで発光する蛍光顔料D3450(根本特殊化学社製)10質量%と、紫外線吸収剤Tinvin477(BASF社製)1質量%と、塩酢ビ樹脂系ワニスSS8WAC(東洋インキ株式会社製)89質量%と、を混練して作製した蒸発乾燥タイプのインキをポリエチレンテレフタレートフィルム上にスクリーン印刷にて印刷塗工することにより、蛍光体インキからなる印刷層を備えたラベル(A)を作製した。
【0031】
<比較例1>
紫外線吸収剤Tinvin477を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、蛍光体インキからなる印刷層を備えたラベル(B)を作製した。
【0032】
<励起特性の測定>
実施例1と比較例1で作製したラベル(A)とラベル(B)について、波長300nm~500nmの範囲における励起強度(562nmの蛍光の発光強度)を測定した。励起強度の測定には、蛍光分光光度計Fluorolog-3(堀場製作所製)を使用した。
【0033】
<測定結果>
ラベル(A)とラベル(B)の測定結果を表1に示す。紫外線吸収剤を含まないラベル(B)では、450nmよりも短波長側においても蛍光発光が測定されたのに対し、ラベル(A)においては、450nmよりも短波長側においては蛍光発光が急速に減衰し、400nm以下では測定されなかった。なお、図1において、ラベル(A)の測定結果を実線Aで、ラベル(B)の測定結果を破線Bで示した。
【0034】
以上の結果をまとめると、表1に示した様に、励起波長365nmでは、ラベル(A)は蛍光発光しないが、ラベル(B)は発光する。また、励起波長450nmでは、ラベル(A)もラベル(B)も共に発光する。そのため、本発明の蛍光体インキの印刷層を備えた偽造防止媒体(ラベル(A))を真正品に貼付しておくことにより、真贋判定が可能となる。
【0035】
【表1】
図1