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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】電気チップ及び光モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/82 20060101AFI20230426BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20230426BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
H01L21/82 L
H01L27/04 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019158660
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021039973
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢越 輝昭
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-320137(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173263(WO,A1)
【文献】特表2019-512962(JP,A)
【文献】特開2014-120194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/82
H01L 21/822
H01L 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ基板上に並置され、複数のレーンの各々に伝送される電気信号を、レーン毎に処理する複数の電気信号処理回路と、
前記複数の電気信号処理回路の各々と重なる領域に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の各々に電力を供給するための、メッシュ状に形成された配線を有する電源配線網と、
を含み、
前記電源配線網は、前記レーン間の境界に対応する各領域に、前記配線の一部が分断されてなるスリットを有する
電気チップ。
【請求項2】
前記電源配線網は、
第1の配線層に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の並ぶ方向に沿って伸びる互いに平行な複数の第1の配線と、
前記第1の配線層に積層された第2の配線層に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の並ぶ方向と交差する方向に沿って伸びる互いに平行な複数の第2の配線と、
を含み
前記スリットは、前記複数の第1の配線のうちの一部が分断された部分によって構成されている
請求項1に記載の電気チップ。
【請求項3】
前記第1の配線及び前記第2の配線には、それぞれ、電源電位及びグランド電位のいずれかが印加され、
前記第1の配線及び前記第2の配線は、同じ電位が印加される配線同士が、当該配線の交差部においてビアを介して接続されている
請求項2に記載の電気チップ。
【請求項4】
前記スリットは、前記電気信号処理回路において電力消費量が相対的に多い部分に対応する領域に配置されている
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気チップ。
【請求項5】
電気信号を処理する電気チップと、
前記電気信号に対応する光信号を処理する光チップと、
を含み、
前記電気チップは、
チップ基板上に並置され、複数のレーンの各々に伝送される電気信号を、レーン毎に処理する複数の電気信号処理回路と、
前記複数の電気信号処理回路の各々と重なる領域に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の各々に電力を供給するための、メッシュ状に形成された配線を有する電源配線網と、
を含み、
前記電源配線網は、前記レーン間の境界に対応する各領域に、前記配線の一部が分断されてなるスリットを有する
光モジュール。
【請求項6】
開口部を有するモジュール基板を更に含み、
前記光チップは、前記開口部に収容され、
前記電気チップが前記開口部に迫り出した状態で前記モジュール基板に接続され、前記電気チップの前記開口部に迫り出した部分が前記光チップに接続されている
請求項5に記載の光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、電気チップ及び光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の内部素子によって生じるスイッチングノイズを低減させる技術として、以下の技術が知られている。例えば、複数の電源用パッド間を接続する電源配線を有する半導体集積回路装置において、電源配線領域内の隣接する電源用パッド間に、電源配線の長手方向に平行にスリット状の間隙領域を形成したものが知られている。
【0003】
また、電源パターンとグランドパターンとを備えた回路基板に、複数の電子装置が搭載された電子装置搭載機器が知られている。この電子装置搭載機器は、回路基板の各々の電子装置の間に、少なくとも、電源パターン及びグランドパターンを分離する溝を有し、溝の周囲に、電源パターンとグランドパターンとを高周波的に接続する手段を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-2122号公報
【文献】特開2001-320137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のレーン(信号伝送路)を用いて信号伝送を行う光モジュール(光トランシーバ)は、各レーンに伝送される電気信号をレーン毎に処理する複数の信号処理回路を備えた電気チップを含んで構成される。電気チップは、信号処理回路の各々に電力を供給するための電源配線を有する。この電源配線を、例えば、レーン毎に独立して設けた場合には、電源配線に接続される端子(バンプ)の数が増加する。
【0006】
電源配線をレーン間で共有することで、電源配線に接続される端子(バンプ)の数を抑制することができる。しかしながら、電源配線をレーン間で共有した場合には、あるレーンにおける信号処理回路の動作が、他のレーンの信号処理回路に影響を与えるクロストークが発生する。クロストークにより信号の伝送品質が劣化するため、クロストークを極力抑制することが好ましい。
【0007】
開示の技術は、1つの側面として、電源配線をレーン間で共有した場合におけるレーン間のクロストークを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術に係る電気チップは、チップ基板上に並置され、複数のレーンの各々に伝送される電気信号を、レーン毎に処理する複数の電気信号処理回路を有する。電気チップは、前記複数の電気信号処理回路の各々と重なる領域に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の各々に電力を供給するための、メッシュ状に形成された配線を有する電源配線網を有する。前記電源配線網は、前記レーン間の境界に対応する各領域に、前記配線の一部が分断されてなるスリットを有する。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、1つの側面として、電源配線をレーン間で共有した場合におけるレーン間のクロストークを抑制する、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】開示の技術の実施形態に係る光モジュールの構成の一例を示す斜視図である。
図2図1における2-2線に沿った断面図である。
図3】開示の技術の実施形態に係る電気チップ及び光チップの機能的な構成の一例を示す機能ブロック図である。
図4】開示の技術の実施形態に係る光チップの構成の一例を示す平面図である。
図5】開示の技術の実施形態に係る電気チップの断面構造の一例を模式的に示した図である。
図6】開示の技術の実施形態に係る電源配線網の構成の一例を示す斜視図である。
図7A】開示の技術の実施形態に係る送信側電気信号処理回路から出力される信号のアイパターンの一例を示す図である。
図7B】開示の技術の実施形態に係る送信側電気信号処理回路から出力される信号のアイパターンの一例を示す図である。
図8】シミュレーションによって取得した、クロストークの周波数特性を示すグラフである。
図9A】スリットの長さを約1mmとした電源配線網のシミュレーションモデルを示す図である。
図9B】スリットの長さを約2mmとした電源配線網のシミュレーションモデルを示す図である。
図9C】スリットを有さない電源配線網のシミュレーションモデルを示す図である。
図10】電力消費量が相対的に多い回路ブロック11aの近傍にスリット16を配置した場合の構成の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、開示の技術の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
【0012】
図1は、開示の技術の実施形態に係る光モジュール(光トランシーバ)1の構成の一例を示す斜視図である。図2は、図1における2-2線に沿った断面図である。光モジュール1は、電気チップ10、光チップ20及びモジュール基板30を含んで構成されている。
【0013】
モジュール基板30は、ガラスエポキシ樹脂等の絶縁体に配線を形成したプリント配線基板である。モジュール基板30は、その中央に開口部31が設けられており、モジュール基板30の表面と光チップ20の表面とが同一面内に延在するように、開口部31内に光チップ20が収容されている。
【0014】
光チップ20は、例えば、シリコンフォトニクス技術を用いて形成された光導波路、受光素子、光変調回路と、レーザダイオードとを1パッケージにしたデバイスである。光チップ20には、光チップ20に入力される光信号及び光チップ20から出力される光信号を伝送する光ファイバ40が接続されている。
【0015】
電気チップ10は、光チップ20に入出力される光信号に対応する電気信号を処理する回路を備えたデバイスである。電気チップ10は、一端が開口部31に迫り出した状態でモジュール基板30にバンプ50を介して接続されている。これにより、電気チップ10に設けられた回路が、モジュール基板30に形成された配線に電気的に接続される。電気チップ10の開口部31に迫り出した部分は、バンプ50を介して光チップ20に接続されている。これにより、電気チップ10に設けられた回路が、光チップ20に設けられた回路に接続される。このように、電気チップ10が、光チップ20とモジュール基板30とを跨ぐ構成とすることで、信号経路を短くすることができるので、信号の高速伝送を実現することが可能である。
【0016】
図3は、電気チップ10及び光チップ20の機能的な構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0017】
電気チップ10は、複数のレーン(信号伝送路)の各々に伝送される電気信号を、レーン毎に処理する複数の送信側電気信号処理回路11及び複数の受信側電気信号処理回路12を含んで構成されている。なお、本実施形態においては、送信側(TX側)及び受信側(RX)にそれぞれ4つのレーンを有する構成が例示しているが、これに限定されるものではなく、レーン数は、適宜増減することが可能である。
【0018】
送信側電気信号処理回路11は、それぞれ、モジュール基板30を介して供給される電気信号を受信する受信回路、該電気信号に含まれるクロックとデータとを分離するCDR(Clock Data Recovery)回路、及び該データに応じて光チップ20を駆動する光出力ドライバを含み得る。
【0019】
受信側電気信号処理回路12は、それぞれ、光チップ20が備える受光素子から供給される光電流を電圧信号に変換するTIA(トランスインピーダンスアンプ)と、該電圧信号に含まれるクロックとデータとを分離するCDR回路、及び該データに応じて後段回路を駆動する電気出力ドライバを含み得る。
【0020】
光チップ20は、電気チップ10によって処理される電気信号に対応する光信号を処理する。具体的には、光チップ20は、送信側電気信号処理回路11の各々から供給される電気信号を、レーン毎に処理して光信号として出力する4つの光信号送信部21を有する。光信号送信部21は、それぞれ、信号光を生成するレーザダイオード、及び送信側電気信号処理回路11が備える光出力ドライバから供給される駆動信号に基づいて、信号光を変調する光変調回路を含み得る。
【0021】
また、光チップ20は、外部から供給される光信号を受信し、レーン毎に処理して電気信号として出力する4つの光信号受信部22を有する。光信号受信部22は、それぞれ、受信した光信号に応じた光電流を発生させるフォトダイオード等の受光素子を含み得る。
【0022】
図4は、電気チップ10の構成の一例を示す平面図である。なお、図4においては、送信側(TX側)のみが示され、受信側(RX側)の表示が省略されているが、受信側の構成も送信側と同様である。例えば、受信側の構成要素は、チップ基板13上において、図4に示す送信側の構成要素に並置される。
【0023】
図4に示すように、電気チップ10を構成するチップ基板13上には、送信側の4つレーン60の各々について領域が割り当てられている。送信側電気信号処理回路11の各々は、チップ基板13上の、レーン60毎に割り当てられた領域内に配置されている。すなわち、4つの送信側電気信号処理回路11は、チップ基板13上に並置されている。チップ基板13は、各レーン60が並ぶ方向と交差する方向の一端側においてモジュール基板30に接続され、他端側において光チップ20に接続されている。
【0024】
電気チップ10は、送信側電気信号処理回路11の各々と重なる領域に設けられた電源配線網14を有する。電源配線網14は、送信側電気信号処理回路11の各々に電力を供給するための、メッシュ状に形成された配線を含んで構成されている。
【0025】
図5は、電気チップ10の断面構造の一例を模式的に示した図である。電気チップ10は、シリコン等の半導体によって構成されるチップ基板13と、チップ基板13上に設けられた複数の配線層M1~M11を有する。送信側電気信号処理回路11の各々は、公知の半導体プロセスを用いてチップ基板13に形成されている。複数の配線層M1~M11は、SiO等の絶縁体からなる絶縁膜と、Al等の導電体からなる導電膜とを交互に積層することにより形成される。配線層M11にバンプ50(図2参照)が接続され、バンプ50を介してモジュール基板30及び光チップ20と、電気チップ10とが接続される。本実施形態において、電源配線網14は、配線層M9及びM10に形成された配線14A、14Bによって構成されている。なお、配線層の層数及び電源配線網14を構成する配線14A、14Bが属する配線層は、適宜変更することが可能である。
【0026】
図6は、電源配線網14の構成の一例を示す斜視図である。電源配線網14は、配線層M9に設けられ、送信側電気信号処理回路11の並ぶ方向(レーン60が並ぶ方向)に沿って伸びる、互いに平行な複数の配線14Aを有する。複数の配線14Aのうちの一部には、モジュール基板30を介してグランド電位が印加され、複数の配線14Aのうちの他の一部には、モジュール基板30を介して電源電位が印加される。図6において、電源電位が印加される配線14Aが、ドットによる塗りつぶしで表示され、グランド電位が印加される配線14Aが白抜きで表示されている。
【0027】
電源配線網14は、配線層M9に積層された配線層M10に設けられ、送信側電気信号処理回路11の並ぶ方向(レーン60が並ぶ方向)と交差する方向に沿って伸びる、互いに平行な複数の配線14Bを有する。複数の配線14Bのうちの一部には、モジュール基板30を介してグランド電位が印加され、複数の配線14Bのうちの他の一部には、モジュール基板30を介して電源電位が印加される。図6において、電源電位が印加される配線14Bが、ドットによる塗りつぶしにより表示され、グランド電位が印加される配線14Bが白抜きで表示されている。
【0028】
配線層M9に設けられた配線14Aのうち、グランド電位が印加される配線14Aと、配線層M10に設けられた配線14Bのうち、グランド電位が印加される配線14Bとが、これらの配線の交差部においてビア15を介して接続される。同様に、配線層M9に設けられた配線14Aのうち電源電位が印加される配線14Aと、配線層M10に設けられた配線14Bのうち、電源電位が印加される配線14Bとが、これらの配線の交差部においてビア15を介して接続される。
【0029】
互いに交差する方向に伸びる配線14Aと配線14Bとの組み合わせによって電源配線網14を構成することで、電源配線網14は、メッシュ状とされる。このように、メッシュ状の電源配線網14を、送信側電気信号処理回路11の各々と重なる領域に設けることで、電源電圧の配線ドロップが抑制され、送信側電気信号処理回路11の各々に供給される電源電圧の均一性を高めることが可能となる。
【0030】
図4に示すように、電源配線網14は、レーン60間の境界Bに対応する各領域に、電源配線網14を構成する配線の一部が分断されてなるスリット16を有する。スリット16の各々は、電源配線網14の、光チップ20側の端部からレーン60間の境界Bに沿って伸びている。図6に示すように、スリット16は、レーン60の並ぶ方向に沿って伸びる複数の配線14Aのうちの一部が、レーン60間の境界Bを跨ぐ部分において分断されることにより形成される。
【0031】
図7Aは、4つの送信側電気信号処理回路11のうちの1つのみを動作させた場合における、当該動作させた1つの送信側電気信号処理回路11から出力される信号(PAM4信号)のアイパターンの一例を示す図である。図7Bは、4つの送信側電気信号処理回路11のうちの互いに隣接する2つを動作させた場合であって、電源配線網14にスリットを設けない構成におけるアイパターンの一例を示す図である。
【0032】
図7Aに示すように、4つの送信側電気信号処理回路11のうちの1つのみを動作させた場合には、クロストークは発生しないため、良好なアイパターンが得られる。一方、図7Bに示すように、複数の送信側電気信号処理回路11を同時に動作させた場合には、クロストークが発生し、アイパターンが劣化する。クロストークは、電源配線をレーン間で共有する場合に顕著となる。すなわち、各レーンで共通の電源配線網14を用いて、各レーン60の送信側電気信号処理回路11に対する電力供給を行う構成とした場合には、あるレーンで生じた電源電圧の変動が、他のレーンにおいて伝送される信号に影響を及ぼしやすくなる。クロストークに対処するために、電源配線をレーン毎に独立して設けた場合には、電源配線に接続されるバンプの数が増加する。本実施形態に係る光モジュール1は、電気チップ10が、光チップ20とモジュール基板30とを跨ぐブリッジ構造であり、電気チップ10において、モジュール基板30との接合に用いられる領域が制限される。このため、バンプ数の増加に対応することが困難となる場合がある。
【0033】
本実施形態に係る光モジュール1によれば、電源配線網14は、レーン60間の境界Bに対応する各領域に、電源配線網14を構成する配線の一部が分断されてなるスリット16を有する。これにより、あるレーン60で生じた電源電圧の変動が、他のレーン60に及ぼす影響(すなわちクロストーク)を抑制することができる。
【0034】
スリット16の、レーン60間の境界Bに沿った長さを変化させた場合の、クロストークの周波数特性の変化をシミュレーションによって取得した。図8は、シミュレーションによって取得した、クロストークの周波数特性を示すグラフである。図8には、スリット16の長さL1を約1mmとした場合(図9A)、スリット16の長さL1を約2mmとした場合(図9B)、及びスリット16を設けない場合(図9C)のそれぞれについて、クロストークの周波数特性が示されている。なお、チップ基板13の、スリット16の伸長方向における長さL2は、約3mmである。また、図9Bに示したスリット16の長さを約2mmとした場合のスリット16の終端位置は、モジュール基板30の端部の位置に一致している。
【0035】
クロストークは、レーン60Aに設けられた送信側電気信号処理回路11のみを動作させた場合の、レーン60B内の点Bにおいて観測される信号S2の、レーン60A内の点Aにおいて観測される信号S1に対する透過率をデシベル表示することにより定量化した。すなわち、信号S2の信号S1に対する透過率が小さい程(減衰率が大きい程)、クロストークが抑制されていることを意味する。
【0036】
スリット16を設けない場合の14GHzにおける透過率は、-25.6B[dB]であった。スリット16の長さL1を1mmとした場合の14GHzにおける透過率は-97.6[dB]であった。スリット16の長さL1を2mmとした場合の14GHzにおける透過率は-169.0[dB]であった。このように、レーン60間の境界Bに対応する各領域に、電源配線網14を構成する配線の一部が分断されてなるスリット16を設けることで、クロストークを抑制することができる。また、スリット16の長さLを長くすることで、クロストークの抑制効果を高めることが可能である。
【0037】
一方、スリット16の長さL1が長くなる程、各レーン60における電源配線網14の抵抗値が大きくなり、電圧ドロップが大きくなることが想定される。そこで、スリット16の、レーン60間の境界Bに沿った長さを変化させた場合の、電源配線網14の抵抗値の変化をシミュレーションによって取得した。
【0038】
スリット16を設けない場合の点Aと点Cとの間の電源配線網14の抵抗値は、0.888Ωであった。スリット16の長さL1を1mmとした場合の点Aと点Cとの間の電源配線網14の抵抗値は、1.089Ωであった。スリット16の長さL1を2mmとした場合の点Aと点Cとの間の電源配線網14の抵抗値は、1.2840Ωであった。このように、スリット16の長さL1が長くなる程、各レーン60における電源配線網14の抵抗値が大きくなり、電圧ドロップが大きくなる。すなわち、クロストークの抑制と、電圧ドロップとはトレードオフの関係にあることから、電圧ドロップが問題とならない範囲で、クロストークを抑制するように、スリット16の長さL1を設定することが好ましい。
【0039】
以上のように、開示の技術の実施形態に係る光モジュール1によれば、電源配線をレーン間で共有する場合におけるレーン間のクロストークを抑制することが可能となる。
【0040】
以上の説明では、電源配線網14の光チップ20側の端部を起点とするスリット16を例示したが、スリット16の、レーン60間の境界B上における配置(スリット16の起点及び終点の位置)は、適宜変更することが可能である。スリット16は、送信側電気信号処理回路11を構成する回路ブロックのうち、特に、電力消費量が相対的に多い回路ブロックの近傍に配置されることが好ましい。
【0041】
図10は、電力消費量が相対的に多い回路ブロック11aの近傍にスリット16を配置した場合の構成の一例を示す平面図である。スリット16を電力消費量の相対的に多い回路ブロック11aの近傍に配置する場合、スリット16の起点及び終点の位置は、レーン60間の境界B上における電源配線網14の端部から離間した位置に配置され得る。スリット16を、電力消費量が相対的に多い回路ブロック11aの近傍に配置することでクロストークの抑制効果を更に高めることが可能である。
【0042】
なお、光モジュール1は、開示の技術における光モジュールの一例である。電気チップ10は、開示の技術における電気チップの一例である。光チップ20は、開示の技術における光チップの一例である。モジュール基板30は、開示の技術におけるモジュール基板の一例である。送信側電気信号処理回路11は、開示の技術における電気信号処理回路の一例である。電源配線網14は、開示の技術における電源配線網の一例である。スリット16は、開示の技術におけるスリットの一例である。配線14Aは、開示の技術における第1の配線の一例である。配線14Bは、開示の技術における第2の配線の一例である。配線層M9は、開示の技術における第1の配線層の一例である。配線層M10は、開示の技術における第2の配線層の一例である。
【0043】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0044】
(付記1)
チップ基板上に並置され、複数のレーンの各々に伝送される電気信号を、レーン毎に処理する複数の電気信号処理回路と、
前記複数の電気信号処理回路の各々と重なる領域に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の各々に電力を供給するための、メッシュ状に形成された配線を有する電源配線網と、
を含み、
前記電源配線網は、前記レーン間の境界に対応する各領域に、前記配線の一部が分断されてなるスリットを有する
電気チップ。
【0045】
(付記2)
前記電源配線網は、
第1の配線層に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の並ぶ方向に沿って伸びる互いに平行な複数の第1の配線と、
前記第1の配線層に積層された第2の配線層に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の並ぶ方向と交差する方向に沿って伸びる互いに平行な複数の第2の配線と、
を含み
前記スリットは、前記複数の第1の配線のうちの一部が分断された部分によって構成されている
付記1に記載の電気チップ。
【0046】
(付記3)
前記第1の配線及び前記第2の配線には、それぞれ、電源電位及びグランド電位のいずれかが印加され、
前記第1の配線及び前記第2の配線は、同じ電位が印加される配線同士が、当該配線の交差部においてビアを介して接続されている
付記2に記載の電気チップ。
【0047】
(付記4)
前記スリットは、電気信号処理回路において電力消費量が相対的に多い部分に対応する領域に配置されている
付記1から付記3のいずれか1つに記載の電気チップ。
【0048】
(付記5)
電気信号を処理する電気チップと、
前記電気信号に対応する光信号を処理する光チップと、
を含み、
前記電気チップは、
チップ基板上に並置され、複数のレーンの各々に伝送される電気信号を、レーン毎に処理する複数の電気信号処理回路と、
前記複数の電気信号処理回路の各々と重なる領域に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の各々に電力を供給するための、メッシュ状に形成された配線を有する電源配線網と、
を含み、
前記電源配線網は、前記レーン間の境界に対応する各領域に、前記配線の一部が分断されてなるスリットを有する
光モジュール。
【0049】
(付記6)
開口部を有するモジュール基板を更に含み、
前記光チップは、前記開口部に収容され、
前記電気チップが前記開口部に迫り出した状態で前記モジュール基板に接続され、前記電気チップの前記開口部に迫り出した部分が前記光チップに接続されている
付記6に記載の光モジュール。
【0050】
(付記7)
前記電源配線網は、
第1の配線層に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の並ぶ方向に沿って伸びる互いに平行な複数の第1の配線と、
前記第1の配線層に積層された第2の配線層に設けられ、前記複数の電気信号処理回路の並ぶ方向と交差する方向に沿って伸びる互いに平行な複数の第2の配線と、
を含み
前記スリットは、前記複数の第1の配線のうちの一部が分断された部分によって構成されている
付記5または付記6に記載の光モジュール。
【0051】
(付記8)
前記第1の配線及び前記第2の配線には、それぞれ、電源電位及びグランド電位のいずれかが印加され、
前記第1の配線及び前記第2の配線は、同じ電位が印加される配線同士が、当該配線の交差部においてビアを介して接続されている
付記1または付記2に記載の光モジュール。
【0052】
(付記9)
前記スリットは、前記電気信号処理回路において電力消費量が相対的に多い部分に対応する領域に配置されている
付記5から付記8のいずれか1つに記載の光モジュール。
【符号の説明】
【0053】
1 光モジュール
10 電気チップ
11 送信側電気信号処理回路
12 受信側電気信号処理回路
14 電源配線網
14A、14B 配線
16 スリット
20 光チップ
21 光信号送信部
22 光信号受信部
30 モジュール基板
60、60A、60B レーン
M1~M11 配線層
B 境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図10