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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】複合部材の製造方法、及び複合部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/02 20060101AFI20230426BHJP
   B24C 1/00 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B29C65/02
B24C1/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019186847
(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公開番号】P2021062497
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】堀江 永有太
(72)【発明者】
【氏名】山口 英二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由華
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-207547(JP,A)
【文献】特開2003-273493(JP,A)
【文献】特開2016-016429(JP,A)
【文献】特開2011-224974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ部材と繊維強化樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法であって、
前記アルミ部材の表面をブラスト加工するブラスト加工工程と、
前記ブラスト加工された前記アルミ部材の表面と水とを、熱及びプラズマの少なくとも一方を用いて反応させて、前記アルミ部材の表面をアルミ水酸化物に改質する表面水酸化工程と、
前記アルミ水酸化物に改質された前記アルミ部材の表面に前記繊維強化樹脂部材を直接接合する接合工程と、
を含み、
前記表面水酸化工程では、前記水により前記アルミ部材の表面を洗浄するとともに、前記アルミ部材の表面を前記アルミ水酸化物に改質する、
複合部材の製造方法。
【請求項2】
前記アルミ水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項3】
前記表面水酸化工程は、水熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、液中プラズマ及び水を混入させた大気圧プラズマの何れか1つを用いて前記アルミ部材の表面と水とを反応させる、請求項1又は2に記載の複合部材の製造方法。
【請求項4】
前記ブラスト加工工程で用いられる砥粒の粒子径は、30 μm~710 μmである、請求項1~3の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項5】
前記接合工程は、プレス成形又は超音波接合により前記アルミ部材の表面に前記繊維強化樹脂部材を直接接合する、請求項1~4の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合部材の製造方法、及び複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複合部材の製造方法を開示する。この方法では、母材と樹脂部材とを接合した複合部材が製造される。母材の表面には、マイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸が形成される。樹脂部材がマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸に入り込んで硬化することにより、ミリオーダーの凹凸の場合と比べて強いアンカー効果が生じる。このため、この方法で製造された複合部材は、優れた接合強度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/141381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウムは、鉄と比べて軽量であって強度も高い。このため、種々の部品として採用されており、複合部材の母材としても有力である。特許文献1記載の製造方法は、アルミニウムを母材とする複合部材の接合強度をさらに向上させるという観点から、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、アルミ部材と繊維強化樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法が提供される。製造方法は、ブラスト加工工程と、表面水酸化工程と、接合工程とを含む。ブラスト加工工程では、アルミ部材の表面をブラスト加工する。表面水酸化工程では、ブラスト加工されたアルミ部材の表面と水とを、熱及びプラズマの少なくとも一方を用いて反応させて、アルミ部材の表面をアルミ水酸化物に改質する。接合工程では、アルミ水酸化物に改質されたアルミ部材の表面に繊維強化樹脂部材を直接接合する。
【0006】
この製造方法によれば、アルミ部材の表面がブラスト加工される。ブラスト加工後のアルミ部材の表面には、凹凸が形成される。この凹凸はアンカー効果に寄与する。しかし、凹凸は噴射材の衝突によって形成されるため、鋭角な突起となる。鋭角な突起は、繊維強化樹脂部材の破断の起点となるおそれがある。この製造方法によれば、ブラスト加工後のアルミ部材の表面がアルミ水酸化物に改質される。これにより、鋭角な突起は丸み付けされる。そして、アルミ水酸化物に改質されたアルミ部材の表面に繊維強化樹脂部材が直接接合される。繊維強化樹脂部材は、丸み付けされた凹凸に入り込んで硬化する。このように、この製造方法によれば、表面水酸化工程によって繊維強化樹脂部材の破断の起点となり得る鋭角な突起を除去できるため、複合部材の接合強度を向上させることができる。さらに、アルミ部材の表面において、アルミ水酸化物のヒドロキシル基の酸素原子と、樹脂に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、アルミ部材の表面と繊維強化樹脂部材との間で化学的な結合が生じることから、接合強度を向上させることができる。さらに、アルミ水酸化物からなるアルミ部材の表面は、数十~数百nmの細孔を有する。このため、アンカー効果を増強できる。また、複合部材に衝撃が加わった場合、繊維強化樹脂部材がアルミ部材と強固に接合しているため繊維強化樹脂部材がアルミ部材から剥離する前に繊維強化樹脂部材の中の繊維が断裂する。これにより、複合部材に加わる衝撃が吸収される。このように、繊維強化樹脂部材が接合された複合部材は、繊維を含有しない樹脂部材が接合された複合部材と比べて、高い衝撃吸収性能を有する。
【0007】
一実施形態においては、アルミ水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含んでもよい。
【0008】
一実施形態においては、表面水酸化工程では、水によりアルミ部材の表面を洗浄するとともに、アルミ部材の表面をアルミ水酸化物に改質してもよい。アルミ部材の表面に炭素汚れが存在する場合、樹脂原料の濡れ性が低下するとともに、アルミ部材の表面と繊維強化樹脂部材との間の化学的な結合を阻害するおそれがある。この構成によれば、アルミ水酸化物への改質に用いられる水によってアルミ部材の表面が洗浄されるため、炭素汚れに起因する接合強度の低下を抑制できる。
【0009】
一実施形態においては、表面水酸化工程は、水熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、液中プラズマ及び水を混入させた大気圧プラズマの何れか1つを用いてアルミ部材の表面と水とを反応させてもよい。アルミ部材の表面改質は、上述した処理で実現できる。
【0010】
一実施形態においては、ブラスト加工工程で用いられる砥粒の粒子径は、30μm~710 μmとしてもよい。これにより、アルミ部材の表面に形成された酸化膜を適切に除去できるため、アルミ部材の表面に均一なアルミ水酸化膜を形成できる。
【0011】
一実施形態においては、接合工程は、プレス成形又は超音波接合によりアルミ部材の表面に繊維強化樹脂部材を直接接合してもよい。これにより、繊維強化樹脂部材をアルミ部材の表面に容易に接合できる。
【0012】
本開示の他の形態によれば、複合部材が提供される。複合部材は、その表面に凹凸を有するとともに、その表面にアルミ水酸化膜が形成されたアルミ部材と、アルミ水酸化膜が形成されたアルミ部材の表面に直接接触する繊維強化樹脂部材と、を備える。
【0013】
この複合部材では、繊維強化樹脂部材と直接接触するアルミ部材の表面に凹凸があるため、アンカー効果を奏する。さらに、アルミ部材の表面にアルミ水酸化膜が形成されている。アルミ水酸化膜のヒドロキシル基の酸素原子と、樹脂に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、アルミ部材の表面と繊維強化樹脂部材との間で化学的な結合が生じることから、接合強度を向上させることができる。さらに、アルミ水酸化膜が形成されたアルミ部材の表面は、数十~数百nmの細孔を有する。このため、アンカー効果を増強できる。また、複合部材に衝撃が加わった場合、繊維強化樹脂部材がアルミ部材と強固に接合しているため繊維強化樹脂部材がアルミ部材から剥離する前に繊維強化樹脂部材の中の繊維が断裂する。これにより、複合部材に加わる衝撃が吸収される。このように、繊維強化樹脂部材が接合された複合部材は、繊維を含有しない樹脂部材が接合された複合部材と比べて、高い衝撃吸収性能を有する。
【0014】
一実施形態においては、アルミ水酸化膜は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一側面および実施形態によれば、優れた接合強度を有する複合部材の製造方法、及び、優れた接合強度を有する複合部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る複合部材を示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿った複合部材の断面図である。
図3】実施形態に係る複合部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の概念図である。
図4】実施形態に係る複合部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の構成を説明する図である。
図5図4の噴射ノズルの断面図である。
図6】プレス成形に用いられる金型の上面図である。
図7図6のVII-VII線に沿った金型の断面図である。
図8】実施形態に係る複合部材の製造方法のフローチャートである。
図9】ブラスト加工の概念図である。
図10】ブラスト加工の走査を説明する図である。
図11】複合部材の製造工程を説明する図である。
図12】アルミ部材の表面観察結果である。
図13】アルミ部材の表面の組成分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、本実施形態における「接合強度」は「剪断強度」として説明する。
【0018】
[複合部材]
図1は、実施形態に係る複合部材1を示す斜視図である。図1に示されるように、複合部材1は、複数の部材が接合により一体化された部材である。例えば、複合部材1は、繊維強化樹脂部材と、繊維強化樹脂部材に対する異種部材とを接合させた部材である。繊維強化樹脂部材に対する異種部材とは、熱膨張率、熱伝達率、強度などが繊維強化樹脂部材に対して異なる性質を有する材料で形成された部材である。複合部材1は、後述のとおり衝撃吸収性能を有する。
【0019】
複合部材1は、アルミ部材2及び繊維強化樹脂部材3を備える。アルミ部材2は、一例として板状の部材である。繊維強化樹脂部材3は、アルミ部材2の表面に直接接触している。図1では、繊維強化樹脂部材3は、アルミ部材2の表面の一部(アルミ部材2の接触面4)に直接接触しており、重ね継手構造を有する。アルミ部材2の材料は、アルミニウム又はアルミニウムの合金である。
【0020】
繊維強化樹脂部材3の材料は、熱可塑性の繊維強化樹脂又は熱硬化性の繊維強化樹脂である。熱可塑性の繊維強化樹脂は、例えば、アラミド繊維強化熱可塑性樹脂(AFRTP:Aromatic polyamide Fiber Reinforced Thermo Plastics)、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(GFRTP:Glass Fiber Reinforced Thermo Plastics)を含む。熱硬化性の繊維強化樹脂は、例えば、アラミド繊維強化樹脂(AFRP:Aromatic polyamide Fiber Reinforced Plastics)炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、ガラス繊維強化樹脂(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)を含む。
【0021】
図2は、図1のII-II線に沿った複合部材1の断面図である。図2に示されるように、アルミ部材2は、その表面2aの一部(接触面4)に凹凸2bを有する。凹凸2bは、マイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸である。マイクロオーダーの凹凸とは、1μm以上1000μm未満の高低差を有する凹凸である。ナノオーダーの凹凸とは、1nm以上1000nm未満の高低差を有する凹凸である。凹凸2bは、端部が面取りされている。そのため、凹凸2bは丸みを帯びており、鋭角となる箇所を有しない。繊維強化樹脂部材3は凹凸2bの中に入り込んで固着されているため、アンカー効果を奏する。
【0022】
さらに、アルミ部材2の表面には、アルミ水酸化膜2dが形成される。アルミ水酸化膜2dは、アルミ水酸化物により構成される膜であり、その表面に数十~数百nmの細孔を有する。アルミ水酸化物は、ヒドロキシル基を有するアルミニウムの化合物である。アルミ水酸化膜2dは、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む。アルミ水酸化膜2dは、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの何れか1つで形成されてもよい。アルミ水酸化膜2dは、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの中から選択された複数の種類のアルミ水酸化物で形成されてもよい。
【0023】
繊維強化樹脂部材3は、その一部が凹凸2bに入り込んだ状態で、アルミ部材2に接合される。このような構造は、後述する金型20を用いたプレス成形により形成される。なお、複合部材1は、プレス成形以外の手法、例えば、超音波接合、射出成形、又は振動接合などにより接合されてもよい。繊維強化樹脂部材3は、繊維部5及び樹脂部6から形成される。繊維部5の材料は、例えば、アラミド繊維、炭素繊維、又はガラス繊維などの繊維である。樹脂部6の材料は、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリプロピレン、アクリルニトリルブタジエンスチレンなどの樹脂である。例えば、繊維部5に樹脂部6を含侵させて半硬化状態にしたプリプレグを積層し、熱及び圧力をかけることにより、繊維強化樹脂部材3が製造される。
【0024】
以上、本実施形態に係る複合部材1は、繊維強化樹脂部材3と直接接触するアルミ部材2の表面2aに凹凸2bがあるため、アンカー効果を奏する。さらに、アルミ部材2の表面2aにアルミ水酸化膜2dが形成される。アルミ水酸化膜2dのヒドロキシル基の酸素原子と、樹脂に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、アルミ部材2の表面2aと繊維強化樹脂部材3との間で化学的な結合が生じることから、接合強度を向上させることができる。さらに、アルミ水酸化膜2dが形成されたアルミ部材2の表面2aは、数十~数百nmの細孔を有するため、アンカー効果を増強できる。このため、この複合部材1は、優れた接合強度を有する。また、複合部材1に衝撃が加わった場合、繊維強化樹脂部材3がアルミ部材2と強固に接合しているため繊維強化樹脂部材3がアルミ部材2から剥離する前に繊維強化樹脂部材3の中の繊維部5が断裂する。これにより、複合部材1に加わる衝撃が吸収される。よって、繊維強化樹脂部材3が接合された複合部材1は、繊維部5を含有しない樹脂部材が接合された複合部材と比べて、高い衝撃吸収性能を有する。このような高い衝撃吸収性能は、繊維強化樹脂部材3が接合された箇所に付与される。このため、アルミ部材2の変形態様は、繊維強化樹脂部材3の接合箇所に応じて制御され得る。
【0025】
[複合部材の製造方法]
複合部材1の製造方法に用いる装置概要を説明する。最初に、アルミ部材2の表面にブラスト加工を行う装置を説明する。ブラスト加工装置は、重力式(吸引式)のエアブラスト装置、直圧式(加圧式)のエアブラスト装置、遠心式のブラスト装置、等何れのタイプを用いてもよい。本実施形態に係る製造方法は、一例として、いわゆる直圧式(加圧式)のエアブラスト装置を用いる。図3は、複合部材1の製造方法に用いるブラスト加工装置10の概念図である。ブラスト加工装置10は、処理室11、噴射ノズル12、貯留タンク13、加圧室14、圧縮気体供給機15及び集塵機(不図示)を備える。
【0026】
処理室11の内部には、噴射ノズル12が収容されており、処理室11にてワーク(ここではアルミ部材2)に対してブラスト加工が行われる。噴射ノズル12にて噴射された噴射材は、粉塵とともに処理室11の下部に落下する。落下した噴射材は、貯留タンク13に供給され、粉塵は集塵機へ供給される。貯留タンク13に貯留された噴射材は加圧室14に供給され、圧縮気体供給機15により加圧室14が加圧される。加圧室14に貯留された噴射材は、圧縮気体ととともに噴射ノズル12に供給される。このように、噴射材を循環させながらワークがブラスト加工される。
【0027】
図4は、実施形態に係る複合部材1の製造方法に用いるブラスト加工装置10の構成を説明する図である。図4に示されるブラスト加工装置10は、図3に示された直圧式のブラスト装置である。図4では、処理室11の壁面を一部省略して示している。
【0028】
図4に示されるように、ブラスト加工装置10は、圧縮気体供給機15が接続され密閉構造に形成された噴射材の貯留タンク13及び加圧室14と、加圧室14内に貯留タンク13と連通する定量供給部16と、定量供給部16に連接管17を介して連通する噴射ノズル12と、噴射ノズル12の下方にワークを保持しながら可動する加工テーブル18と、制御部19とを備える。
【0029】
制御部19は、ブラスト加工装置10の構成要素を制御する。制御部19は、一例として表示部及び処理部を含む。処理部は、CPU及び記憶部などを有する一般的なコンピュータである。制御部19は、設定された噴射圧力及び噴射速度に基づいて貯留タンク13及び加圧室14へ圧縮気体を供給する圧縮気体供給機15のそれぞれの供給量を制御する。また、制御部19は、設定されたワークとノズルとの間の距離、及び、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数など)に基づいて、噴射ノズル12の噴射位置の制御をする。具体的な一例として、制御部19は、ブラスト加工処理前に設定された走査速度(X方向)と送りピッチ(Y方向)とを用いて噴射ノズル12の位置を制御する。制御部19は、ワークを保持する加工テーブル18を移動させることにより、噴射ノズル12の位置を制御する。
【0030】
図5は、図4の噴射ノズル12の断面図である。噴射ノズル12は、本体部である噴射管ホルダー120を有する。噴射管ホルダー120は、内部に噴射材及び圧縮気体を通過させる空間を有する筒状部材である。噴射管ホルダー120の一端は、噴射材導入口123であり、その他端は噴射材吐出口122である。噴射管ホルダー120の内部には、噴射材導入口123側から噴射材吐出口122に向けて先細りした内壁面が形成されており、傾斜角度を有する円錐形状の収束加速部121が構成されている。噴射管ホルダー120の噴射材吐出口122側には、円筒形状の噴射管124が連通して設けられている。収束加速部121は、噴射管ホルダー120の円筒形部の中間から噴射管124に向けて先細りしている。これにより、圧縮気体流115が形成される。
【0031】
噴射ノズル12の噴射材導入口123には、ブラスト加工装置10の連接管17が接続されている。これにより、貯留タンク13、加圧室14内の定量供給部16、連接管17、及び、噴射ノズル12が順次連接された噴射材経路を形成している。
【0032】
このように構成されたブラスト加工装置10は、制御部19により制御された供給量の圧縮気体が圧縮気体供給機15から貯留タンク13及び加圧室14に供給される。そして、一定の圧流力によって、貯留タンク13内の噴射材は、加圧室14内の定量供給部16で定量され、連接管17を介して噴射ノズル12に供給され、噴射ノズル12の噴射管よりワークの加工面に噴射される。これにより、常に一定の噴射材がワークの加工面に噴射される。そして、噴射ノズル12のワークの加工面への噴射位置が制御部19により制御され、ワークがブラスト加工される。
【0033】
また、噴射された噴射材とブラスト加工で生じた切削粉は、図示しない集塵機により吸引される。処理室11から集塵機に向かう経路には図示しない分級機が配置されており、再使用可能な噴射材とその他微粉(再使用できないサイズとなった噴射材やブラスト加工で生じた切削粉)とに分離される。再利用可能な噴射材は貯留タンク13に収容され、再び噴射ノズル12に供給される。微粉は集塵機にて回収される。
【0034】
次に、プレス成形について説明する。プレス成形は、所定の金型に金属と樹脂とを装着し、金型を閉じ、所定時間熱及び圧力を加えることで金型と樹脂とを接合させる成形方法である。図6は、プレス成形に用いられる金型の断面図である。図7は、図6のVII-VII線に沿った金型の断面図である。図6図7に示されるように、金型20は、金型本体21(上金型21a及び下金型21b)を備える。上金型21aと下金型21bとの間には、アルミ部材2を装着するための空間22及び繊維強化樹脂部材3を装着するための空間23を備えている。空間23には、圧力センサ27及び温度センサ28が設けられており、空間23の圧力及び温度が検出される。圧力センサ27及び温度センサ28の検出結果に基づいて、図示しない成形機のパラメータが調整され成形品が製造される。パラメータには、金型温度、プレス圧力、保持時間、保持時の圧力、熱処理温度、熱処理時間などが含まれる。金型20で成形された成形品は、所定面積で接合する重ね継手構造となる。
【0035】
次に、複合部材1の製造方法の一連の流れを説明する。図8は、実施形態に係る複合部材1の製造方法MTのフローチャートである。図8に示されるように、最初に、準備工程(S10)として、所定の噴射材がブラスト加工装置10に充填される。噴射材(砥粒)の粒子径は、例えば30μm~710 μmである。噴射材の粒子径が小さくなるほど、質量が小さくなるため、慣性力が低くなる。このため、噴射材の粒子径が30 μmより小さい場合には所望の形状の凹凸2bを形成することが困難となる。また、工業的に使用されるアルミ部材2は一般的に大気中に保管されており、その表面は厚さ60nm~300 nmの不均一なアルミニウムの非結晶酸化膜で覆われている。このため、薬剤による表面エッチングや表面レーザ加工は、アルミニウムの非結晶酸化膜の存在によって、不均一な表面処理となるおそれがある。後述する表面水酸化工程においてアルミ部材2の表面を均一に改質するためには、アルミニウムの非結晶酸化膜を厚さ約30nm以下の膜とする必要がある。しかし、噴射材の粒子径が710 μmを超える場合には、アルミニウムの非結晶酸化膜を厚さ約30 nm以下となるまで削ることが困難となる。このため、アルミ部材2の表面に形成されたアルミ酸化物を充分に除去できない。凹凸の形成とアルミニウムの非結晶酸化膜の除去との両方を実現できる砥粒の粒子径は、30μm~710 μmとなる。
【0036】
ブラスト加工装置10の制御部19は、準備工程(S10)として、ブラスト加工条件を取得する。制御部19は、ブラスト加工条件を、オペレータの操作又は記憶部に記憶された情報に基づいて取得する。ブラスト加工条件には、噴射圧力、噴射速度、ノズル間距離、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数)などが含まれる。噴射圧力は、例えば0.5~2.0MPaである。噴射圧力が小さくなるほど、慣性力が低くなる。このため、噴射圧力が0.5MPaより小さい場合には所望の形状の凹凸2bを形成することが困難となる。噴射圧力が大きくなるほど、慣性力が高くなる。このため、アルミ部材2との衝突により噴射材が粉砕され易くなる。その結果、(1)衝突のエネルギーが凹凸2bの形成以外に分散されることから加工効率が悪い(2)噴射材の損耗が激しく、経済的でない、等の問題が発生する。このような問題は、噴射圧力が2.0MPaを越えた場合に顕著となる。制御部19は、ブラスト加工条件を管理することで、アルミ部材2の表面2aの凹凸2bの大きさや深さ、密度などをマイクロオーダー又はナノオーダーで精密にコントロールする。なお、ブラスト加工条件には、ブラスト加工対象領域を特定する条件が含まれていてもよい。この場合、選択的な表面処理が可能となる。
【0037】
次に、ブラスト加工装置10は、ブラスト加工工程(S12)として、以下の一連の処理を行う。まず、ブラスト加工対象となるアルミ部材2が処理室11内の加工テーブル18上にセットされる。次に、制御部19は、図示しない集塵機を作動させる。集塵機は、制御部19の制御信号に基づいて、処理室11の内部を減圧して負圧状態とする。次に、噴射ノズル12は、制御部19の制御信号に基づいて、噴射圧力0.5~2.0MPaの範囲で、噴射材を圧縮空気の固気二相流として噴射する。次いで、制御部19は、加工テーブル18を作動させ、アルミ部材2を固気二相流の噴射流中(図4では噴射ノズルの下方)に移動させる。図9は、ブラスト加工の概念図である。図9に示されるように、噴射ノズル12からアルミ部材2の表面2aの一部領域2cへ噴射材が噴射される。ここで、制御部19は、加工テーブル18の作動を継続させて、アルミ部材2に対して噴射流が予め設定された軌跡を描くように作動させる。図10は、ブラスト加工の走査を説明する図である。図10に示されるように、制御部19は、加工テーブル18を送りピッチPで走査する軌跡Lに従って動作させる。これにより、アルミ部材2の表面に所望のマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2bが形成される。
【0038】
粒子径30~710μmの噴射材を用いて、噴射圧力0.5~2.0MPaの範囲でブラスト加工をすることにより、アルミ部材2の表面2aに所望のマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2b(例えば、算術平均傾斜RΔa及び二乗平均平方根傾斜RΔqがそれぞれ0.17~0.50、0.27~0.60に制御された凹凸2b)が形成される。さらに、アルミ部材2の表面の非結晶酸化膜が厚さ約9nm以下の膜となる。ブラスト加工装置10の作動を停止した後、アルミ部材2を取り出し、ブラスト加工が完了する。
【0039】
図11は、複合部材の製造工程を説明する図である。図11の(A)に示されるように、ブラスト加工後のアルミ部材2の表面2aの凹凸2bは、鋭角な突起を有する。
【0040】
続いて、表面水酸化工程(S14)として、ブラスト加工されたアルミ部材2の表面2aと水とを、熱及びプラズマの少なくとも一方を用いて反応させて、アルミ部材2の表面2aをアルミ水酸化物に改質する。表面水酸化工程では、水熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、液中プラズマ及び水を混入させた大気圧プラズマの何れか1つを用いてアルミ部材2の表面2aと水とを反応させる。以下では、一例として、水熱処理を用いる場合を説明する。水熱処理では、ブラスト加工されたアルミ部材2を60℃以上に加熱された純水に所定の期間、浸漬させる。これにより、図11の(B)に示されるように、凹凸2bは、丸み付けられる。さらに、アルミ部材2の表面2aが主に水酸化アルミニウムに改質し、アルミ水酸化膜2dが形成される。水熱処理において、ブラスト加工されたアルミ部材2を70℃以上に加熱された純水に所定の期間浸漬させることで、アルミ部材2の表面2aが主にベーマイトに改質し、アルミ水酸化膜2dが形成される。アルミ水酸化膜2dは、ベーマイトに限定されず、ダイアスポア、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの何れか1つで形成されてもよい。アルミ水酸化膜2dは、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの中から選択された複数の種類のアルミ水酸化物で形成されてもよい。なお、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、液中プラズマ及び水を混入させた大気圧プラズマにおいても水の温度は60℃以上であればよい。水の温度は、アルミニウムの材質変化を抑制する観点から300℃以下であればよい。
【0041】
表面水酸化工程(S14)では、水によりアルミ部材の表面を洗浄してもよい。水熱処理で表面水酸化工程を行った場合、水によりアルミ部材の表面が洗浄され、表面炭素濃度を低下させることができる。なお、水熱処理と超音波洗浄とを組み合わせて、積極的に表面炭素濃度を低下させてもよい。例えば、アルミ部材2を60℃以上に加熱された純水に浸漬させた状態で純水に超音波を照射する。これにより、水熱処理と表面洗浄とを同時に行うことができる。
【0042】
次に、図示しない成形機は、接合工程(S16)として、上述した金型20を用いてプレス成形を行う。まず、金型20が型開きされ、表面がアルミ水酸化物に改質されたアルミ部材2が空間22に装着され、繊維強化樹脂部材3が空間23に装着され、金型20が型閉じされる。成形機は、圧力センサ27の検出結果に基づいて、設定された保持時間の間、圧力が設定値となるように制御する。また、成形機は、温度センサ28の検出結果に基づいて、金型温度が設定値になるように制御する。その後、成形機は、設定された圧力、熱処理温度及び熱処理時間に基づいて、熱処理を行う。その後、成形機は、金型20を型開きして、アルミ部材2及び繊維強化樹脂部材3が一体化された複合部材1を取り出す。接合工程(S16)が終了すると、図8に示されたフローチャートが終了する。これにより、図11の(C)に示される複合部材1が製造される。
【0043】
以上説明したように、製造方法MTによれば、アルミ部材2の表面2aがブラスト加工される。ブラスト加工後のアルミ部材2の表面2aには、鋭角な突起を有する凹凸2bが形成される。その後、ブラスト加工後のアルミ部材2の表面2aは主にベーマイトに改質される。これにより、鋭角な突起は丸み付けされる。その後、アルミ水酸化物に改質されたアルミ部材2の表面2aに繊維強化樹脂部材3が直接接合される。繊維強化樹脂部材3は、丸み付けされた凹凸2bに入り込んで硬化する。このように、製造方法MTによれば、表面水酸化工程(S14)によって繊維強化樹脂部材3の破断の起点となり得る鋭角な突起を除去できるため、複合部材1の接合強度を向上させることができる。さらに、アルミ部材2の表面において、主にベーマイトのヒドロキシル基の酸素原子と、樹脂に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、アルミ部材2の表面2aと繊維強化樹脂部材3との間で化学的な結合が生じることから、接合強度を向上させることができる。さらに、主にベーマイトからなるアルミ部材2の表面2aは、数十~数百nmの細孔を有する。このため、アンカー効果を増強できる。さらに、ブラスト加工によってアルミ部材2の表面2aに形成されていたアルミ酸化膜が除去される。アルミ酸化膜はアルミ水酸化膜2dの形成を阻害する要因となる。製造方法MTによれば、アルミ水酸化物を形成する前にアルミ酸化膜が除去されるため、アルミ部材2の表面2aを均質なアルミ水酸化物に改質できる。また、複合部材1に衝撃が加わった場合、繊維強化樹脂部材3がアルミ部材2と強固に接合しているため繊維強化樹脂部材3がアルミ部材2から剥離する前に繊維強化樹脂部材3の中の繊維部5が断裂する。これにより、複合部材1に加わる衝撃が吸収される。よって、繊維強化樹脂部材3が接合された複合部材1は、繊維部5を含有しない樹脂部材が接合された複合部材と比べて、高い衝撃吸収性能を有する。このような高い衝撃吸収性能は、繊維強化樹脂部材3が接合された箇所に付与される。このため、アルミ部材2の変形態様は、繊維強化樹脂部材3の接合箇所に応じて制御され得る。
【0044】
製造方法MTによれば、アルミ水酸化膜2dは、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む。前述したアルミ水酸化物のうち、複数の種類のアルミ水酸化物が組み合わさって構成されたアルミ水酸化膜2dは、前述したアルミ水酸化物のいずれか1種類のアルミ水酸化物で構成されたアルミ水酸化膜2dと比べて、表面水酸化工程(S14)において水を加熱する温度を低く抑えた状態で形成される。
【0045】
製造方法MTによれば、アルミ水酸化物への改質に用いられる水によってアルミ部材2の表面2aが洗浄されるため、炭素汚れに起因する接合強度の低下を抑制できる。製造方法MTによれば、ブラスト加工工程で用いられる砥粒の粒子径を30μm~710 μmとすることによって、アルミ部材2の表面2aに形成された酸化膜を適切に除去できるため、アルミ部材2の表面2aに均一なアルミ水酸化膜2dを形成できる。
【0046】
本実施形態の製造方法MTによれば、接合工程(S16)のプレス成形において、アルミ部材2及び繊維強化樹脂部材3は金型20により固定されるため、他の接合方法に比べて接合後の複合部材1の寸法精度を高くできる。
【0047】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は、上記本実施形態に限定されるものでなく、本実施形態以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0048】
[母材、繊維強化樹脂部材の変形例]
上記実施形態に係るアルミ部材2及び繊維強化樹脂部材3として、板状部材を例として示したが、形状に限定されることはなく、互いに接触可能なあらゆる形状を採用できる。上記実施形態に係る繊維強化樹脂部材3は、アルミ部材2の表面の一部に接触していたが、アルミ部材2の表面全てに接触していてもよい。
【0049】
[接合の変形例]
アルミ部材2と繊維強化樹脂部材3との接合は、超音波接合であってもよい。超音波接合では、成形機は、アルミ部材2及び繊維強化樹脂部材3の少なくとも一方を超音波振動させてアルミ部材2と繊維強化樹脂部材3とを接合させてもよい。超音波接合では、アルミ部材2と繊維強化樹脂部材3との接合箇所のみが加熱されるので、アルミ部材2及び繊維強化樹脂部材3の熱膨張率の差による接合後の複合部材1の反りの発生を抑えることができる。
【実施例
【0050】
[噴射材の砥粒サイズ]
最初にブラスト加工工程(S12)を実行する前のアルミ部材2の酸化被膜の膜厚を計測した。「オージェ電子分光法(AES:Auger electron spectroscopy)」を用いてアルミ酸化皮膜の深さ方向分析を行った。酸化物/金属の界面付近では酸化物と金属成分が同時に検出されるためにこれらをスペクトル合成法によって分離して、酸化被膜の膜厚を求めた。酸化被膜の膜厚は72nmであった。次に、図3図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行後、アルミ部材2の酸化被膜の膜厚を計測した。砥粒の中心粒径が600μm~710 μmの噴射材を用いた場合、酸化被膜の膜厚は13 nmであった。砥粒の中心粒径が41 μm~50 μmの噴射材(最大粒子径127 μm以下、平均粒子径57μm ± 3 μm)を用いた場合、酸化被膜の膜厚は9 nmであった。このため、少なくとも710 μm以下の噴射材を用いることで、アルミ部材2の表面2aの酸化被膜を除去できることが確認された。
【0051】
[アルミ部材の表面状態の確認]
図3図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS(Japanese Industrial Standards):A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm~125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0 MPaとした。ブラスト加工工程後に、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM:FieldEmission Scanning Electron Microscope)を用いて表面観察した。
【0052】
続いて、表面水酸化工程(S14)を実行した。ブラスト加工されたアルミニウム板を90℃の純水に5分間浸漬させた。そして、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて表面観察した。
【0053】
図12は、アルミ部材の表面観察結果である。図12の(A)はブラスト加工工程(S12)後のアルミニウム板の表面観察結果であり、図12の(B)は表面水酸化工程(S14)後のアルミニウム板の表面観察結果である。同様に、図12の(C),(E)はブラスト加工工程(S12)後のアルミニウム板の表面観察結果であり、図12の(D),(F)は表面水酸化工程(S14)後のアルミニウム板の表面観察結果である。
【0054】
図12の(A),(C)に示されるように、ブラスト加工工程(S12)後のアルミ部材2の表面2aは、凹凸が形成されていること、鋭角の突起があることが確認された。これに対して、図12の(B),(D)に示されるように、表面水酸化工程(S14)後のアルミ部材2の表面2aは、全体的に丸みを帯びていることが確認された。また、図12の(E),(F)を比較してわかるように、表面水酸化工程(S14)後のアルミニウム板の表面には、数十~数百nmの細孔が存在することが確認された。
【0055】
[アルミ部材の表面の組成確認]
[実施例:表面処理品]
図3図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm~125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0 MPaとした。続いて、表面水酸化工程(S14)を実行した。ブラスト加工されたアルミニウム板を90℃の純水に5分間浸漬させた。
[比較例:未処理品]
ブラスト加工工程(S12)および表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)とした。
【0056】
フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いて、全反射測定法(ATR:Attenuated Total Reflectance)で表面処理品及び未処理品の表面組成を分析した。分析結果を図13に示す。
【0057】
図13は、アルミ部材の表面の組成分析結果である。図13に示されるグラフは、横軸が波数、縦軸が吸光度である。グラフ中において上に示される波形データが表面処理品の組成分析結果であり、グラフ中において下に示される波形データが未処理品の組成分析結果である。図13に示されるように、未処理品の波形データにおいては、炭素汚れ(C-H等)に起因するピークが波数3960m-1、3930 m-1、2873 m-1に出現し、アルミ酸化物に起因するピーク(Al-O)が波数946 m-1に出現した。ベーマイトに起因するピークは確認されなかった。これに対して、表面処理品のデータにおいては、処理前に存在した炭素汚れ(C-H等)に起因するピークおよびアルミ酸化物に起因するピーク(Al-O)が消滅し、ベーマイトに起因するピークが波数3268m-1、3113 m-1に出現した。このように、表面処理によって、アルミ部材2の表面の酸化物及び炭素汚れが除去され、アルミ水酸化物が形成されていることが確認された。
【0058】
[表面炭素濃度の確認]
表面水酸化工程(S14)を実行したアルミ部材2の表面炭素濃度と、未処理品の表面炭素濃度とを計測し、比較した。計測にはX線光電子分光法(XPS:X-rayPhotoelectron Spectroscopy)を用いた。その結果、未処理品の表面炭素濃度は40 at%であったのに対して、表面水酸化工程(S14)を実行したアルミ部材2の表面炭素濃度は8at%となった。このように、水熱処理の二次的効果として洗浄効果があることが確認された。
【0059】
[せん断強度の確認]
実施例1及び比較例1~4を用意してせん断強度を確認した。
[実施例1]
図3図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm~125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0 MPaとした。続いて、表面水酸化工程(S14)を実行した。ブラスト加工されたアルミニウム板を90℃の純水に5分間浸漬させた。続いて、接合工程(S16)を実行した。図6及び図7に示される金型20を用いて、アルミ部材2に繊維強化樹脂部材3を接合させた。繊維強化樹脂部材3は、CFRTPを用いた。繊維強化樹脂部材3は、縦、横、厚さが10mm×45 mm×3.0 mmとなるように設定した。プレス成形の保持時(型閉じ時)において、金型温度は220 ℃、保持圧力は5MPa、保持時間は300 sとした。アルミ部材2と繊維強化樹脂部材3との重なりは5mmとした。
[比較例1~4]
比較例1は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。このアルミ部材とCFRTPとを接合させた部材を比較例1とした。
比較例2は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。このアルミ部材とCFRTPとを接着剤により接合させた部材を比較例2とした。接着剤は、第2世代アクリル系接着剤(SGA)工業用を用いた。
比較例3は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行せず、実施例1と同一の表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
比較例4は、アルミ部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行し、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0060】
[接合強度評価]
上記条件で作成された実施例1及び比較例1~4のせん断強度を測定した。評価装置は、ISO 19095に準拠する試験方法で測定した。比較例1のせん断強度は、0MPaであり、比較例2のせん断強度は、10MPaであり、比較例3のせん断強度は、1MPaであり、比較例4のせん断強度は、10MPaであり、実施例1のせん断強度は、20MPaであった。
【0061】
比較例1と比較例3とを比較することにより、表面水酸化工程(S14)だけではせん断強度の向上に大きく寄与しないことが確認された。比較例1と比較例4とを比較することにより、ブラスト加工工程(S12)はせん断強度の向上に寄与することが確認された。実施例1と比較例1,3,4とを比較することにより、ブラスト加工工程(S12)と表面水酸化工程(S14)との組合せは、せん断強度の向上に大きく寄与することが確認された。また、実施例1と比較例2とを比較することにより、接着剤による接合と比較して、ブラスト加工工程(S12)と表面水酸化工程(S14)との組合せは、せん断強度の向上に大きく寄与することが確認された。さらに、実施例1における接合方法は、比較例2における接着剤による接合と比較して短時間で完了することが確認された。
【0062】
[衝撃吸収性能の確認]
実施例2及び比較例5を用意して衝撃吸収性能を確認した。
[実施例2]
アルミ部材の一部に対して、繊維強化樹脂部材としてCFRTPを接合した。アルミ部材として、ハット型アルミ構造体を用いた。ハット型アルミ構造体は、アルミニウム板(JIS:A5052)により形成され、頂部の幅、奥行き、高さが33mm×300 mm×32 mmとなるように設定した。ハット型アルミ構造体の底部の幅は、65 mmとなるように設定した。ハット型アルミ構造体のうち、CFRTPが接合される部位に図3図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm~125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0 MPaとした。続いて、表面水酸化工程(S14)を実行した。ブラスト加工されたハット型アルミ構造体を90℃の純水に5分間浸漬させた。続いて、接合工程(S16)を実行した。図6及び図7に示される金型20を用いて、ハット型アルミ構造体に治具で当て物をした上でハット型アルミ構造体にCFRTPを接合させ、複合部材を成形した。プレス成形時において、金型温度は220℃、保持圧力は5MPa、保持時間は300 sとした。CFRTPの面積の割合は、ハット型アルミ構造体の内壁部も含めた全表面積に対して約5.1%であった。CFRTPの重量の割合は、ハット型アルミ構造体に対して約6.7%であった。
[比較例5]
比較例5は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)で形成されたハット型アルミ構造体を用いた。このハット型アルミ構造体とCFRTPとを接着剤により接合させた部材を比較例5とした。接着剤は、第2世代アクリル系接着剤(SGA)工業用を用いた。他の条件は実施例2と同一とした。
【0063】
[衝撃吸収性能評価]
上記条件で作成された実施例2及び比較例5の衝撃吸収性能として、落錘衝撃試験機を用いて衝撃耐荷重及び衝撃吸収エネルギーを測定した。落錘衝撃試験機は、複合部材を支持する3点曲げ治具と、複合部材に衝撃を加えるドロップハンマーと、ドロップハンマーを案内するガイドポストとを備える。3点曲げ治具は、複合部材を支持する1対の支持台を有する。1対の支持台は、実施例2の複合部材及び比較例5の複合部材の奥行方向の両端部を支持する。3点曲げ治具の1対の支持台間の長さは、240mmである。ドロップハンマーの重量は、13.10 kgである。ドロップハンマーは、ガイドポストに沿って落下し、3点曲げ治具に支持された複合部材の奥行方向の中央に落下することで、複合部材を3点曲げする。ドロップハンマーが複合部材に当接する際の速度は、10m/sである。
【0064】
実施例2の複合部材の衝撃耐荷重は、比較例5の複合部材の衝撃耐荷重と比較して約20%だけ大きくなった。実施例2の複合部材の衝撃吸収エネルギーは、比較例5の複合部材の衝撃吸収エネルギーと比較して約10%だけ大きくなった。実施例2と比較例5と比較することにより、接着剤による接合と比較して、ブラスト加工工程(S12)と表面水酸化工程(S14)との組合せは、衝撃耐荷重及び衝撃吸収エネルギーの向上に大きく寄与することが確認された。
【符号の説明】
【0065】
1…複合部材、2…アルミ部材、3…繊維強化樹脂部材、10…ブラスト加工装置、11…処理室、12…噴射ノズル、13…貯留タンク、14…加圧室、15…圧縮気体供給機、16…定量供給部、17…連接管、18…加工テーブル、19…制御部、20…金型、21…金型本体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13