(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイド短繊維、繊維構造体、フィルター用フェルトおよびバグフィルター
(51)【国際特許分類】
D01F 6/76 20060101AFI20230426BHJP
D04H 1/4326 20120101ALI20230426BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
D01F6/76 D
D04H1/4326
B01D39/16 A
(21)【出願番号】P 2019500679
(86)(22)【出願日】2018-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2018045684
(87)【国際公開番号】W WO2019124189
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2017244793
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018038566
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉本 武司
(72)【発明者】
【氏名】光永 怜央
(72)【発明者】
【氏名】森 達哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐真
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-266869(JP,A)
【文献】特開2017-214681(JP,A)
【文献】国際公開第2006/059509(WO,A1)
【文献】特開2012-127018(JP,A)
【文献】特開2009-209509(JP,A)
【文献】特開2007-031845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/96
D01F 9/00 - 9/04
D04H 1/00 - 18/04
B01D 39/00 - 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.70~0.95dtexであり、強度が4.5~5.5cN/dtexであり、繊維長が20~100mmであり、繊維のメルトフローレート(MFR)値が200~295g/10分であるポリフェニレンサルファイド短繊維。
【請求項2】
結晶化度が30~40%であり、剛直非晶量が40~60%である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド短繊維。
【請求項3】
複屈折(Δn)が0.25~0.30である、請求項1又は2に記載のポリフェニレンサルファイド短繊維。
【請求項4】
捲縮数が10~16山/25mm、捲縮度が12~20%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリフェニレンサルファイド短繊維。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリフェニレンサルファイド短繊維を10質量%以上含む繊維構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の繊維構造体で構成される層を少なくとも1層以上含むフィルター用フェルト。
【請求項7】
請求項6に記載のフィルター用フェルトが袋状に縫製されてなるバグフィルター。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリフェニレンサルファイド短繊維の製造方法であって、MFR200~295g/10分のポリフェニレンサルファイド樹脂を用い、溶融紡糸法により、未延伸糸を作製し、80~170℃の温度、2~5倍の倍率で延伸し、190℃~270℃の温度、1.05~1.15倍の倍率で定長熱処理を行い、スタッフィング型クリンパーで捲縮を付与し、乾燥を行い、油剤を付与後、所定の長さに切断してポリフェニレンサルファイド短繊維を得る製造方法。
【請求項9】
ポリフェニレンサルファイド短繊維を含む繊維構造体の製造方法であって、繊維構造体の態様が不織布であり、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリフェニレンサルファイド短繊維をカードマシンに通して不織布とする方法を用いるポリフェニレンサルファイド短繊維を含む繊維構造体の製造方法。
【請求項10】
フィルター用フェルトの製造方法であって、エアー流入面の濾過層を形成する繊維ウェブ31、織物(骨材)32、エアー排出面の非濾過層を形成する繊維ウェブ33の3層構造から成り、ウェブ31を請求項9の方法で作製し、織物(骨材)32と積層した後、ウェブ33を作製し、前記ウェブ31と織物(骨材)を積層したものに更に積層した後、これらを絡合して一体化する方法を用い、ウェブを絡合して一体化する方法として、ニードルパンチやウォータージェットパンチを用いるフィルター用フェルトの製造方法。
【請求項11】
請求項6に記載のフィルター用フェルトを袋状に縫製し、バグフィルターとする製造方法であって、前記
縫製に使用される縫糸として、ポリアリーレンサルファイド、フッ素化樹脂およびフッ素化樹脂共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種で構成された糸を使用するバグフィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バグフィルターに好適なポリフェニレンサルファイド短繊維及びバグフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略すことがある)樹脂は、優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性および耐湿熱性などエンジニアリングプラスチクスとして好適な性質を有しており、射出成型や押出成型用を中心として各種の電気部品、電子部品、機械部品、自動車部品、フィルム、および繊維などに使用されている。
【0003】
例えば、廃ガス集塵用のバグフィルター等の各種産業用フィルターに用いられる濾布には、PPS素材が広く用いられている。このような濾布としては、PPS短繊維の紡績糸から作製された基布にPPS短繊維を積層し、これをニードルパンチングして一体化したものが挙げられる。
【0004】
このような濾布は、廃ガス中のダストを捕集し、ダストを含まない排ガスを外へと排気するために使用される。バグフィルターに求められる性質として、ダスト捕集性能および機械強度が挙げられる。
【0005】
排ガス中の煤塵濃度を低下させるために、ダスト捕集性能に優れたバグフィルターが求められている。バグフィルターのダスト捕集性能を向上させるためには、用いる繊維を細繊度化することが一般的な方法である。細繊度の繊維を用いることで、濾布を構成する繊維本数が多くなるため、ダストを絡め取りやすくなる。
【0006】
また、バグフィルターにおいて、濾布に付着したダストを効率的に離脱させる方法として、パルスジェット方式が採用されることが多い。パルスジェット方式とは、濾布の表面に付着したダストが蓄積しないうちに、濾布に高速の気流を定期的に吹きつけて濾布を振動させ、濾布の表面に付着したダストを払い落とす方式である。このようなパルスジェット方式により、ダストの払い落としは可能となるが、当然ながら、外力として加えられる高速の気流は濾布の機械強度を経時的に低下させやすい。定期的に外力が加えられた際に、濾布の機械強度や濾布の寸法安定性が不十分な場合、濾布が破断されバグフィルターとしての機能を果たせなくなるという課題がある。すなわち、バグフィルターに求められる特性として機械強度が重要である。そして、バグフィルターの機械強度を向上させるためには特に、用いる繊維の引張強度を高めることが重要である。以上から、細繊度であり、かつ高強度であることが、バグフィルターに供試するPPS繊維の特性として重要である。
【0007】
細繊度PPS繊維を得る方法として、フロー延伸と呼ばれる特殊な延伸方法が提案されている(特許文献1)。この提案では確かに、0.22dtexと細繊度の原綿が得られている。
【0008】
また、高倍率延伸を行うことで高強度PPS繊維を得る方法が提案されている(特許文献2)。この提案では確かに、5cN/dtex以上の高強度繊維が得られている。更に、特許文献3では、剛直非晶量を特定の範囲とすることで、5cN/dtex以上の高強度原綿が得られている。
【0009】
更に、特許文献4では、電界紡糸を行うことで極細かつ機械的強度に優れたポリアリーレンスルフィド繊維を得る方法が提案されている。この提案では確かに、1μm(約0.01dtex)以下の極細繊度で、かつ5.5cN/dtex以上の高強度繊維が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平2-216214号公報
【文献】特開2012-246599号公報
【文献】国際公開第2013/125514号
【文献】特開2015-67919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1ではフロー延伸と呼ばれる特殊な延伸方法を用いており、繊維生産性が低下してしまう。また、強度を向上させる方法に関する記載もなく、機械強度が十分とは言えなかった。
【0012】
特許文献2に記載の方法で実際に得られた繊維は10dtex以上、特許文献3に記載の方法で実際に得られた繊維は2dtex以上と、いずれも、ダスト捕集性能を高めるには十分に細いとは言えない繊度であった。特許文献2では高剛性・高強度とするため、10dtex以上の太繊度繊維を前提としているが、細繊度繊維にて高剛性・高強度とする方法については言及されていない。特許文献3では高分子量のPPSを用いる方法が記載されているが、高分子量PPSでは曳糸性が劣位であり、細繊度化には不利である。
【0013】
特許文献4では細繊度かつ高強度の繊維が得られているが、電界紡糸という特殊な紡糸を用いており、溶融紡糸などの紡糸方法と比較すると繊維生産性が劣るものであった。
【0014】
本発明の課題は、繊維生産性およびフェルト生産性を落とすことなく、ダスト捕集性能向上と機械強度向上を可能とする、ポリフェニレンサルファイド短繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
繊維生産性およびフェルト生産性を落とすことなく、ダスト捕集性能向上と機械強度向上を可能とする、ポリフェニレンサルファイド短繊維を提供するには、以下が重要であることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
1.単繊維繊度が0.70~0.95dtexであり、強度が4.5~5.5cN/dtexであり、繊維長が20~100mmであり、メルトフローレート(MFR)値が200~295g/10分であるポリフェニレンサルファイド短繊維。
さらに、本発明の好ましい様態としては、以下のとおりである。
2.結晶化度が30~40%であり、剛直非晶量が40~60%である。
3.複屈折(Δn)が0.25~0.30である。
4.捲縮数が10~16山/25mm、捲縮度が12~20%である。
5.本発明のポリフェニレンサルファイド短繊維を10質量%以上含む繊維構造体。
6.前記の繊維構造体で構成される層を少なくとも1層以上含むフィルター用フェル7.前記のフィルター用フェルトが袋状に縫製されてなるバグフィルター。
8.MFR200~295g/10分のポリフェニレンサルファイド樹脂を用い、溶融紡糸法により、未延伸糸を作製し、80~170℃の温度、2~5倍の倍率で延伸し、190℃~270℃の温度、1.05~1.15倍の倍率で定長熱処理を行い、スタッフィング型クリンパーで捲縮を付与し、乾燥を行い、油剤を付与後、所定の長さに切断してポリフェニレンサルファイド短繊維を得る製造方法。
9.繊維構造体の態様が不織布であり、前記1~4のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド短繊維をカードマシンに通して不織布とする方法を用いるポリフェニレンサルファイド短繊維を含む繊維構造体の製造方法。
10.フィルター用フェルトの製造方法であって、エアー流入面の濾過層を形成する繊維ウェブ31、織物(骨材)32、エアー排出面の非濾過層を形成する繊維ウェブ33の3層構造から成り、ウェブ31を前記9の方法で作製し、織物(骨材)32と積層した後、ウェブ33を作製し、前記ウェブ31と織物(骨材)を積層したものに更に積層した後、これらを絡合して一体化する方法を用い、ウェブを絡合して一体化する方法として、ニードルパンチやウォータージェットパンチを用いるフィルター用フェルトの製造方法。
11.前記6に記載のフィルター用フェルトを袋状に縫製し、バグフィルターとする製造方法であって、前記縫製に使用される縫糸として、ポリアリーレンサルファイド、フッ素化樹脂およびフッ素化樹脂共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種で構成された糸を使用するバグフィルターの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繊維生産性およびフェルト生産性を落とすことなく、ダスト捕集性能向上と機械強度向上を可能とするポリフェニレンサルファイド短繊維が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のポリフェニレンサルファイド短繊維を含む不織布を用いたフィルター材(濾布)の分解断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0019】
本発明で用いられるPPSは、繰り返し単位として、下記の構造式(I)で示されるp-フェニレンサルファイド単位や、m-フェニレンサルファイド単位などのフェニレンサルファイド単位を含有するポリマーを意味する。
【0020】
【0021】
PPSは、p-フェニレンサルファイド単位またはm-フェニレンサルファイド単位のみのホモポリマーまたはp-フェニレンサルファイド単位とm-フェニレンサルファイド単位の両者を有する共重合体であってもよく、また、本発明の効果を損なわない限り、他の芳香族サルファイドとの共重合体あるいは混合物であっても構わない。
【0022】
本発明で用いられるPPS樹脂としては、耐熱性や耐久性の観点からは、上記の構造式(I)で示される繰り返し単位であるp-フェニレンサルファイド単位を好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上含むPPS樹脂が好ましく用いられる。この場合、PPS樹脂中のその他の共重合成分が、m-フェニレンサルファイド単位や他の芳香族サルファイド単位であることが好ましい。
【0023】
本発明におけるPPS樹脂の重量平均分子量は、30000~90000であることが好ましい。重量平均分子量が30000未満のPPS樹脂を用いて溶融紡糸を行った場合、紡糸張力が低く紡糸時に糸切れが多発することがあり、また、重量平均分子量が90000を超えるPPS樹脂を用いると、溶融時の粘度が高すぎて紡糸設備を特殊な高耐圧仕様にしなければならず、設備費用が高額になって不利である。より好ましい重量平均分子量は、40000~60000である。
【0024】
本発明においてPPS樹脂を用いる場合、PPS樹脂の市販品としては、東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)や、(株)クレハ製“フォートロン”(登録商標)などが挙げられる。
【0025】
本発明でのPPS短繊維の繊維長は20~100mmであり、好ましくは40~80mmである。繊維長をこの範囲とすることで、後工程でのフェルト加工性を良好にすることができる。
【0026】
本発明で用いられるPPS短繊維の単繊維繊度は0.70~0.95dtexであり、好ましくは0.75~0.85dtexである。単繊維繊度を0.70dtex以上とすることで紡糸操業性を良好にすることができ、また、フェルト加工時のフライ抑制など、カード通過性を良好にすることができる。また、単繊維繊度を0.95dtex以下とすることでダスト捕集性能を向上させることができる。
【0027】
本発明で用いられるPPS短繊維の強度は4.5~5.5cN/dtexであり、好ましくは4.7~5.1cN/dtexである。強度を4.5cN/dtex以上とすることでフェルトの機械強度を向上させることができ、また、強度を5.5cN/dtex以下とすることで延伸操業性を良好にすることができることに加えて、短繊維の捲縮付与性を向上させることができ、フェルト加工時のフライ抑制など、カード通過性を向上させることができる
本発明のPPS短繊維を製造する際に原料として用いるPPS樹脂のメルトフローレート(MFR)値は200~295g/10分であり、好ましくは210~270g/10分、更に好ましくは220~250g/10分である。MFR値を200g/10分以上とすることで溶融時の流動性を確保でき、細繊度PPS短繊維を得ることを可能とする。また、MFR値を295g/10分以下とすることで十分なポリマーの分子量が得られ、高強度PPS短繊維を得ることを可能とする。
【0028】
なお、PPSは加水分解等で劣化することのない樹脂であるため、本発明のPPS短繊維自体のMFRも、その原料であるPPS樹脂と同じく、200~295g/10分、好ましくは210~270g/10分、更に好ましくは220~250g/10分となる。
【0029】
本発明のPPS短繊維においては、単繊維繊度0.70~0.95dtexおよび強度4.5~5.5cN/dtexを同時に満たすことが極めて重要である。従来の溶融紡糸法によって細繊度PPS短繊維を製造する場合、MFR値が高く曳糸性の良い樹脂を用いることが通常であるが、そのような樹脂は分子量が低いことが多く、強度を高くすることが困難であった。一方、従来の溶融紡糸法によって高強度PPS短繊維を製造する場合、MFR値が低く高分子量の樹脂を用いることが通常であるが、その場合は曳糸性が悪く紡糸操業性が劣位となり、繊度を細くすることが困難であった。高強度かつ太繊度ではダスト捕集性能が劣位となり、細繊度かつ低強度ではフェルトの機械強度が劣位となるのである。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、200~295g/10分という特定のMFR範囲の樹脂を用いることで、細繊度と高強度を両立できることを見出したのである。
【0030】
本発明のPPS短繊維の伸度は50.0%以下であることが好ましく、40.0%以下がより好ましい。伸度が低いほど、分子鎖が繊維軸方向に高配向化していることを示しており、強度物性を高める上で好ましい。伸度の下限は、良好な取り扱い性および工程通過性を確保するため、5.0%以上が好ましい。
【0031】
本発明のPPS短繊維の180℃での乾熱収縮率は20%以下であることが好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。乾熱収縮率が低いほど、フェルト作成時やフィルターとしての実使用時の収縮を抑えることができるために好ましい。乾熱収縮率の下限は特に制限されないが、現実的に可能な範囲として1%以上である。
【0032】
本発明のPPS短繊維の結晶化度は30~40%であることが好ましい。結晶化度を30%以上とすることで、高強度の繊維を得ることができる。また、結晶化度を40%以下とすることで、短繊維の捲縮付与性を向上させることができ、フェルト加工時のフライ抑制など、カード通過性を向上させることができる。
【0033】
本発明のPPS短繊維の剛直非晶量は40~60%であることが好ましく、より好ましくは43~55%、更に好ましくは45~50%である。剛直非晶とは、高分子の結晶と完全非晶との中間の状態を表し、次式に示す通り、繊維を形成する結晶・非晶の全体(100%)から結晶化度(%)、可動非晶量(%)を差し引いた残りの量を言う。
【0034】
剛直非晶量[%]=100[%]-結晶化度[%]-可動非晶量[%] 。
【0035】
なお、ここで、本発明で言う可動非晶量とは、実施例で後述するように温度変調DSCによる測定から求められる。剛直非晶量を40%以上とすることで、高強度の繊維を得ることができる。また、剛直非晶量を60%以下とすることで、短繊維の捲縮付与性を向上させることができ、フェルト加工時のフライ抑制など、カード通過性を向上させることができる。
【0036】
本発明のPPS短繊維の複屈折(Δn)は0.25~0.30であることが好ましい。複屈折を0.25以上とすることで高強度の繊維を得ることができる。また、複屈折を0.30以下とすることで、短繊維の捲縮付与性を向上させることができ、フェルト加工時のフライ抑制など、カード通過性を向上させることができる。
【0037】
本発明のPPS短繊維の捲縮数は10~16山/25mmであることが好ましく、より好ましくは12~16山/25mmである。更に、捲縮度は12~20%であることが重要であり、好ましくは15~20%である。捲縮数を10山/25mm以上、捲縮度を12%以上とすることで繊維間の絡合性が高くなり、フェルト加工時のフライ抑制など、カード通過性を向上させることが可能となる。また捲縮数を16山/25mm以下、捲縮度を20%以下とすることでフェルト加工時のネップの発生を抑制でき、フェルト加工性を向上させることが可能となる。
【0038】
従来の溶融紡糸法によって高強度PPS短繊維を製造する場合、MFR値が低く高分子量の樹脂を用いることが通常であったが、その場合は剛性が高くなるため、捲縮数度を高くすることが困難であった。高強度かつ低捲縮数度ではフェルト加工性が劣位となり、低強度かつ高捲縮数度ではフェルトの機械強度が劣位となる。そこで本発明者らが鋭意検討した結果、200~295g/10分という特定のMFR範囲のPPS樹脂を用いることで、高強度と高捲縮数度を両立でき、すなわちフェルトの機械強度およびフェルト加工性を両立できることを見出した。すなわち、200~295g/10分という特定のMFR範囲のPPS樹脂を用いることで、細繊度、高強度、および高捲縮数度を両立でき、繊維生産性およびフェルト生産性を落とすことなく、ダスト捕集性能向上と機械強度向上を両立できることを見出した。
【0039】
本発明のPPS短繊維は、それを含む繊維構造体とすることができる。かかる繊維構造体は、本発明のPPS短繊維を繊維構造体に対して10質量%以上含んで成ることが好ましく、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは40質量%以上含んで成る。本発明のPPS短繊維を10質量%以上含むことにより、ダスト捕集性能向上の効果を得ることができる。
【0040】
上記繊維構造体には、本発明のPPS短繊維を用いて成る綿状物、さらに他繊維と混合した綿状物、紡績糸、不織布、織物や編物などの布帛が挙げられるが、不織布が好適に選択され、特にウェブ状の乾式不織布が好適に選択される。
【0041】
上記本発明の繊維構造体は、それを含むフィルター用フェルトとすることができる。かかるフィルター用フェルトは、本発明の繊維構造体で構成される層を少なくとも1層以上含むことが好ましい。本発明の繊維構造体を1層以上含むことにより、ダスト捕集性能向上の効果を得ることができる。本発明の繊維構造体の形態に特に制限はなく、綿状の物、不織布、織物、編物などが挙げられるが、不織布が好適に選択され、特にウェブ状の乾式不織布が好適に選択される。本発明の繊維構造体で構成される層以外の層としては、形態に特に制限はなく、綿状の物、不織布、織物、編物などが挙げられる。本発明の繊維構造体で構成される層以外の層に用いられる素材については、耐熱性、耐薬品性を有していることが好ましいため、ポリアリーレンサルファイド、フッ素化樹脂およびフッ素化樹脂共重合体などが好ましく用いられ、特にポリアリーレンサルファイド、中でもポリフェニレンサルファイド(PPS)が好ましく用いられる。
【0042】
本発明のフィルター用フェルトの構成について、特に制限はないが、好ましい一例を分解断面図にて
図1に示す。
図1は、本発明のPPS短繊維を含む不織布を用いたフィルター材(濾布)の分解断面図である。
図1において、エアー流入面の濾過層を形成する繊維ウェブ31とは、例えば表面濾過用フィルター材において、ダストが含まれたエアーが最初にフィルター材と接触する面のことを示す。すなわち、ダストをフィルター材表面で捕集しダスト層を形成させる面のことを示す。本発明の繊維構造体はこの繊維ウェブ31に用いられ、本発明のPPS短繊維を10質量%以上含んで成る。また反対側の面は、エアー排出面の非濾過層を形成する繊維ウェブ33で形成されており、ダストが除去されたエアーが排出される面のことを示す。また、繊維ウェブ31と繊維ウェブ33の間に、織物(骨材)32をはさみ、ニードルパンチ工程でフェルトにする。このように作製されたフェルトにより、寸法安定性、引っ張り強力および耐摩耗性等の機械的強度に優れ、かつダスト捕集性に優れたフィルター用フェルトを得ることが可能となる。
【0043】
本発明のフィルター用フェルトは、袋状に縫製し、耐熱性の要求されるゴミ焼却炉や石炭ボイラー、もしくは金属溶鉱炉などの排ガスを集塵するバグフィルターとして好適に使用される。この縫製に使用される縫糸としては、耐熱性、耐薬品性を有する素材で構成された糸を使用することが好ましいため、ポリアリーレンサルファイド、フッ素化樹脂およびフッ素化樹脂共重合体が好ましく用いられ、特にポリアリーレンサルファイドが好ましく用いられる。
【0044】
次に、本発明のPPS短繊維を製造する方法の例について説明する。
【0045】
上記のような、MFR200~295g/10分のPPS樹脂を用い、溶融紡糸法により得ることができる。前記したPPS樹脂の粉末またはペレットを溶融し、その溶融した樹脂を紡糸口金から紡出する。溶融紡糸機としては、一般的にはプレッシャー・メルター型紡糸機か、1軸または2軸のエクストルーダー型紡糸機を用いる。溶融ポリマーは、次いで口金から吐出され、冷却風の吹きつけにより冷却固化される。冷却固化された後の繊維は、収束剤として油剤を適量付与された後、所定の引取装置で引き取られる。具体的な溶融温度は通常305~340℃であり、冷却風の風速は通常35~100m/分であり、冷却風の温度は通常室温またはそれ以下の温度であり、引取速度は通常400~3000m/分の範囲である。
【0046】
引き取られた繊維は、通常は、次いで延伸工程に供される。延伸工程では、好ましくは、加熱浴中や熱板上や熱ローラー上を走行することにより、延伸温度80~170℃程度で延伸される。延伸倍率は好ましくは2~5倍、より好ましくは3~4倍が採用される。延伸段数として、1段延伸であっても良いが、2段延伸が好ましい。
【0047】
熱延伸後、定長熱処理を行うことにより、更に繊維の結晶化が進み、また剛直非晶量も増加する。従来の定長熱処理は、糸条の長さを実質的に一定に保って熱処理を施すか、糸条を数%弛緩させるリラックスを取ることが通常であった。しかし本発明の製造においては、定長熱処理時に若干の延伸を加えること、すなわち1.05~1.15倍の倍率を採用することが重要である。
【0048】
定長熱処理温度は、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは210℃以上とすることにより、PPS短繊維に、前述のような強度、結晶化度、剛直非晶量、複屈折を好適に付与することができる。また、好ましくは270℃以下、より好ましくは240℃以下とすることにより、繊維間の擬似接着を好適に抑えることができる。
【0049】
定長熱処理時間は、好ましくは5秒間以上とすることにより、PPS短繊維に、前述のような強度、結晶化度、剛直非晶量、複屈折を好適に付与することができる。一方、定長熱処理時間が長すぎても、強度、結晶化度、剛直非晶量、複屈折は飽和するのみであり、定長熱処理時間の上限値としては12秒間程度が好ましい。
【0050】
本発明者らは、特定のMFRのPPS樹脂からなる繊維に、上記のような特定の条件で定長熱処理を施すことで、繊度および強度を好適にすることができることを見出した。すなわち、延伸における定長熱処理時の分子配向性と熱セット性を制御することで、細繊度を達成できるような高MFRのPPS樹脂であっても、高強度化できるのである。
【0051】
定長熱処理を行った糸条を、次いで、スタッフィングボックス型クリンパーにて捲縮付与する。またその際に、スチーム等により捲縮を熱固定しても良い。既に定長熱処理により結晶化しているPPS繊維の糸条に捲縮状態を固定するには、捲縮付与時の温度として、定長熱処理温度以上の温度を採用することが重要であるが、スチーム温度が高すぎると、繊維同士の融着が発生することがある。
【0052】
その後、必要に応じて油剤を、繊維量に対し好ましくは0.01~3.0質量%付与し、弛緩熱処理を好ましくは50~150℃の温度で5~60分間行う。そして、所定の長さに切断してPPS短繊維を得る。これらの工程の順序は、必要に応じて入れ替えてもよい。
【0053】
次に、本発明の繊維構造体を製造する方法について説明する。
【0054】
本発明の繊維構造体の態様としては、混合綿、不織布、織物や編物などの布帛などが挙げられるが、不織布が好適に選択され、特に乾式不織布が好適に選択される。不織布を作製する方法として、本発明のPPS短繊維をカードマシンに通して不織布とする方法を好適に用いることができる。ここで、本発明の繊維構造体は、本発明のPPS短繊維を10質量%以上含んでいれば良く、カード通過前に他繊維と混綿させることができる。
【0055】
次に、本発明のフィルター用フェルトを製造する方法について説明する。
【0056】
本発明のフィルター用フェルトは、エアー流入面の濾過層を形成する繊維ウェブ31、織物(骨材)32、エアー排出面の非濾過層を形成する繊維ウェブ33の3層構造から成る。まずウェブ31を前記の方法で作製し、織物(骨材)32と積層した後、ウェブ33を作製し、前記ウェブ31と織物(骨材)を積層したものに更に積層した後、これらを絡合して一体化する方法を好適に用いることができる。また、ウェブを絡合して一体化する方法としては、ニードルパンチやウォータージェットパンチが好ましい。
【0057】
本発明のPPS短繊維は、ウェブ31に用いられる。補強布および第2ウェブ層のウェブに使用される素材は、耐熱性、耐薬品性を有していることが好ましいため、ポリアリーレンサルファイド、フッ素化樹脂およびフッ素化樹脂共重合体が好ましく用いられ、特にポリアリーレンサルファイド、中でもポリフェニレンサルファイドが好ましく用いられる。
【0058】
次に、本発明のバグフィルターを製造する方法について説明する。
【0059】
本発明のフィルター用フェルトを袋状に縫製し、バグフィルターとすることができる。この縫製に使用される縫糸としては、耐熱性、耐薬品性を有する素材で構成された糸を使用することが好ましいため、ポリアリーレンサルファイド、フッ素化樹脂およびフッ素化樹脂共重合体などが好ましく用いられ、特にポリアリーレンサルファイド、中でもポリフェニレンサルファイドが好ましく用いられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(1)繊維生産性(紡糸操業性)
紡糸時の1錘当たりの糸切れ回数を、紡糸開始後、0~36時間の間カウントした。1錘当たりの糸切れ回数が3回未満の場合をS、3回以上6回未満の場合A、6回以上9回未満の場合をB、9回以上の場合をCとした。
【0062】
(2)フェルト生産性(カードネップ)
25℃、65%RHの条件下でローラーカードにて、20g/m2、幅50cmのウェブを速度30m/分で1時間カーディングし、カード出ウェブでのネップ発生状態について、10分おきに長手方向に1mのサンプルを採取した際のネップ個数を目視で確認した。ネップが無く非常に良好な状態をS、8個以下の場合をA、9個~11個の場合をB、12個以上の場合をCとした。
【0063】
(3)フェルト生産性(カードフライ)
25℃、65%RHの条件下でローラーカードにて、20g/m2、幅50cmのウェブを速度30m/分で1時間カーディングし、カードでのフライ(風綿)発生量が10g以下の場合をS、10gを超え25g以下の場合をA、25gを超え35g以下の場合をB、35gを超える場合をCとした。
【0064】
(4)出口ダスト濃度(mg/m3)
VDI-3926 Part Iに規定される装置を用い、JIS Z 8909-1(2005年)に規定される測定条件に従ってフィルターの集じん性能試験を行った。
【0065】
各数値は、以下の通りである。
ダスト:JIS Z 8901(2006年)に規定される試験用粉体第10種
入口ダスト濃度:5g/m3
ろ過速度:2m/分
パルス用圧縮エアータンク圧力:500kPa
払い落とし圧力損失:1000Pa
パルス噴射時間:50ms
JIS Z 8909-1の7.2eに規定される「エージング・安定化処理をしたろ布の集じん性能測定」に従ってエージング・安定化処理されたろ過布に、払い落としを30回行った期間中の通気量とフィルター通過ダスト量から、出口ダスト濃度を算出した。
【0066】
(5)フェルト強度(N/5cm)
JIS L1085(1998年)の方法により、定速伸張型引張試験機にて、フェルトの試験片5サンプルの平均値として、タテ方向、ヨコ方向それぞれ算出した。
【0067】
(6)繊度
繊度はJIS L1015(2010年)に準じて測定した。
【0068】
(7)強度
引張り試験機(オリエンテック社製“テンシロン”)を用いて、JIS L1015(2010年)記載の方法により、試料長2cm、引張り速度2cm/分の条件で応力-歪み曲線を求め、これらから切断時の引張強度を求めた。
【0069】
(8)結晶化度
示差走査熱量計(TA Instruments社製DSCQ1000)で窒素下、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定を行い、観測される発熱ピークの温度(結晶化温度)での結晶化熱量をΔHc(J/g)とした。また、200℃以上の温度にて観測される吸熱ピークの温度(融点)での融解熱量をΔHm(J/g)とした。ΔHmとΔHcの差を完全結晶PPSの融解熱量(146.2J/g)で割り、結晶化度Xc(%)を求めた(次式1)。
【0070】
Xc={(ΔHm-ΔHc)/146.2}×100 (1)
<DSC>
・雰囲気:窒素流(50mL/分)
・温度・熱量校正:高純度インジウム
・比熱校正:サファイア
・温度範囲:0~350℃
・昇温速度:10℃/分
・試料量:5mg
・試料容器:アルミニウム製標準容器。
【0071】
(9)剛直非晶量
上記(8)と同一機器の温度変調DSCを窒素下、昇温速度2℃/分の条件、温度振幅1℃、温度変調周期60秒の条件で示差走査熱量測定を行い、得られたチャートのガラス転移温度(Tg)前後のベースラインに補助線を引き、その差を比熱差(ΔCp)とし、完全非晶PPSのTg前後での比熱差(ΔCp0:0.2699J/g℃)で割り、次式(2)より可動非晶量(Xma)を求めた。さらに、次式(3)により、全体からの結晶化度(Xc)と可動非晶量(Xma)の差から剛直非晶量(Xra)を算出した。
Xma(%)=ΔCp/ΔCp0×100 (2)
Xra(%)=100-(Xc+Xma) (3)
<温度変調DSC>
・雰囲気:窒素流(50mL/分)
・温度・熱量校正:高純度インジウム
・比熱校正:サファイア
・温度範囲:0~250℃
・昇温速度:2℃/分
・試料量:5mg
・試料容器:アルミニウム製標準容器。
【0072】
(10)複屈折(Δn)
オリンパス(株)製BH-2偏光顕微鏡により、Na光源で波長589nmにてコンペンセーター法により単繊維のレターデーションと糸径を測定することにより求めた。
【0073】
(11)捲縮数
捲縮数はJIS L1015(2010年)に準じて測定した。
【0074】
(12)捲縮度
けん縮度はJIS L1015(2010年)に準じて測定した。
【0075】
(13)メルトフローレート(MFR)値
JIS K7210(1999年)に準じて、温度315.5℃、荷重5000gの条件でメルトフローレート値を測定した。
【0076】
[実施例1]
まず、細繊度繊維を次に記す方法で作製した。
【0077】
MFR値が240g/10分である東レ(株)製PPSペレットを、160℃の温度で5時間真空乾燥を行った後、プレッシャー・メルター型溶融紡糸機に供給して、紡糸温度320℃、吐出量400g/分で溶融紡糸し、室温の冷却風で冷却されて固化された後、収束剤として通常のPPS用紡糸油剤を付与し、引取速度1,200m/分で引き取って未延伸糸を得た。
【0078】
得られた未延伸糸を95℃の温水中で延伸倍率を3.3倍として一段目延伸を行い、次いでスチーム中で総延伸倍率が3.5倍となるように二段目延伸を行い、更に230℃のホットドラムに接糸させた状態で1.10倍の倍率にて定長熱処理を行った。次いで、スタッフィング型クリンパーで捲縮を付与し、乾燥を行い、油剤を付与後、51mm長にカットし、細繊度・高強度PPS短繊維を得た。繊度は0.83dtex、強度は5.1cN/dtexと、細繊度・高強度であった。
【0079】
一方、単繊維繊度3.0dtex、カット長76mmのPPS短繊維(東レ(株)製“トルコン”(登録商標)S101-3.0T76mm)を用い、単糸番手20s、合糸本数2本の紡績糸(総繊度600dtex)を得た。この紡績糸を用いて平織り組織の織物を製織し、経糸密度26本/2.54cm、緯糸密度18本/2.54cmのPPS紡績糸からなる平織物を得た。この平織物を骨材として、その片面に、混繊によって質量比50:50で得られた、細繊度・高強度PPS短繊維と、通常繊度PPS短繊維(繊度2.2dtex、カット長51mm、東レ(株)製“トルコン”(登録商標)S371-2.2T51mm)を、オープナーとカーディング処理した後、刺針密度50本/cm2で仮ニードルパンチして得られた繊維ウェブを、194g/m2の目付で積層した。この繊維ウェブが、エアー流入面の濾過層を形成する。織物のもう一方の面に、カット長51mmのPPS繊維(東レ(株)製“トルコン”S371-2.2T51mm)100%を、オープナーとカーディング処理した後、刺針密度50本/cm2で、仮ニードルパンチして得られた繊維ウェブを、220g/m2の目付で積層した。この繊維ウェブが、エアー排出面の非濾過層を形成する。さらに、ニードルパンチ加工により織物(骨材)と上述の繊維ウェブとを交絡させ、目付が544g/m2で、総刺針密度が300本/cm2のフィルターを得た。
【0080】
生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。紡糸操業性およびフェルト生産性は良好であった。また、フェルトの機械強度は、タテ:1380N/5cm、ヨコ:1720N/5cmと良好であり、機械強度の向上を確認した。ダスト捕集性能の指標となる出口ダスト濃度は0.21mg/m3と良好であり、ダスト捕集性の向上を確認した。
【0081】
[実施例2]
実施例1において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が215g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用い、一段目延伸倍率を3.2倍、総延伸倍率を3.4倍とした以外は、実施例1と同様にして、細繊度・高強度PPS短繊維を得た。繊度は0.88dtex、強度は4.8cN/dtexと、細繊度・高強度であった。
【0082】
得られた細繊度・高強度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。紡糸操業性およびフェルト生産性は良好であった。また、フェルトの機械強度は、タテ:1005N/5cm、ヨコ:1680N/5cmと良好であり、機械強度の向上を確認した。ダスト捕集性能の指標となる出口ダスト濃度は、0.22mg/m3と良好であり、ダスト捕集性の向上を確認した。
【0083】
[実施例3]
実施例1において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が260g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用い、一段目延伸倍率を3.5倍、総延伸倍率を3.7倍とした以外は、実施例1と同様にして、細繊度・高強度PPS短繊維を得た。繊度は0.77dtex、強度は4.7cN/dtexと、細繊度・高強度であった。
【0084】
得られた細繊度・高強度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。紡糸操業性およびフェルト生産性は良好であった。また、フェルトの機械強度は、タテ:903N/5cm、ヨコ:1508N/5cmと良好であり、機械強度の向上を確認した。ダスト捕集性能の指標となる出口ダスト濃度は、0.15mg/m3と良好であり、ダスト捕集性の向上を確認した。
【0085】
[実施例4]
実施例2において、細繊度繊維を作製する際に、一段目延伸倍率を3.0倍、総延伸倍率を3.2倍とした以外は、実施例1と同様にして、細繊度・高強度PPS短繊維を得た。繊度は0.92dtex、強度は4.5cN/dtexと、細繊度・高強度であった。
【0086】
得られた細繊度・高強度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。紡糸操業性およびフェルト生産性は良好であった。また、フェルトの機械強度は、タテ:899N/5cm、ヨコ:1500N/5cmと良好であり、機械強度の向上を確認した。ダスト捕集性能の指標となる出口ダスト濃度は、0.29mg/m3と良好であり、ダスト捕集性の向上を確認した。
【0087】
[実施例5]
実施例1において、細繊度繊維を作製する際に、一段目延伸倍率を3.4倍、総延伸倍率を3.6倍とした以外は、実施例1と同様にして、細繊度・高強度PPS短繊維を得た。繊度は0.79dtex、強度は5.2cN/dtexと、細繊度・高強度であった。
【0088】
得られた細繊度・高強度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。紡糸操業性およびフェルト生産性は良好であった。また、フェルトの機械強度は、タテ:1402N/5cm、ヨコ:1733N/5cmと良好であり、機械強度の向上を確認した。ダスト捕集性能の指標となる出口ダスト濃度は、0.16mg/m3と良好であり、ダスト捕集性の向上を確認した。
【0089】
[実施例6]
実施例1において、細繊度繊維を作製する際に、定長熱処理時の倍率を1.15倍とした以外は、実施例1と同様にして、細繊度・高強度PPS短繊維を得た。繊度は0.80dtex、強度は5.2cN/dtexと、細繊度・高強度であった。
【0090】
得られた細繊度・高強度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。紡糸操業性およびフェルト生産性は良好であった。また、フェルトの機械強度は、タテ:1400N/5cm、ヨコ:1722N/5cmと良好であり、機械強度の向上を確認した。ダスト捕集性能の指標となる出口ダスト濃度は、0.20mg/m3と良好であり、ダスト捕集性の向上を確認した。
【0091】
[実施例7]
実施例1において、細繊度繊維を作製する際に、一段目延伸倍率を3.5倍、総延伸倍率を3.7倍、定長熱処理時の倍率を1.05倍とした以外は、実施例1と同様にして、細繊度・高強度PPS短繊維を得た。繊度は0.79dtex、強度は4.8cN/dtexと、細繊度・高強度であった。
【0092】
得られた細繊度・高強度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。紡糸操業性およびフェルト生産性は良好であった。また、フェルトの機械強度は、タテ:1011N/5cm、ヨコ:1707N/5cmと良好であり、機械強度の向上を確認した。ダスト捕集性能の指標となる出口ダスト濃度は、0.16mg/m3と良好であり、ダスト捕集性の向上を確認した。
【0093】
[実施例8]
実施例1において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が205g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、細繊度・高強度PPS短繊維を得た。繊度は0.89dtex、強度は5.2cN/dtexと、細繊度・高強度であった。
【0094】
得られた細繊度・高強度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。紡糸操業性およびフェルト生産性は良好であった。また、フェルトの機械強度は、タテ:1400N/5cm、ヨコ:1730N/5cmと良好であり、機械強度の向上を確認した。ダスト捕集性能の指標となる出口ダスト濃度は、0.28mg/m3と良好であり、ダスト捕集性の向上を確認した。
【0095】
[比較例1]
実施例1において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が185g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用い、一段目延伸倍率を2.9倍、総延伸倍率を3.1倍とした以外は、実施例1と同様にして、PPS短繊維を得た。
【0096】
得られた細繊度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。MFR値の低い樹脂を用いた場合、紡糸操業性およびフェルト生産性が劣位であった。
【0097】
[比較例2]
実施例1において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が205g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用い、一段目延伸倍率を3.0倍、総延伸倍率を3.1倍、定長熱処理時の倍率を1.0倍とした以外は、実施例1と同様にして、PPS短繊維を得た。
【0098】
得られた細繊度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。PPS短繊維の強度が不十分であり、フェルトの機械強度が劣位であった。
【0099】
[比較例3]
比較例2において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が185g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用い、一段目延伸倍率を2.9倍、総延伸倍率を3.1倍とした以外は、比較例2と同様にして、PPS短繊維を得た。
【0100】
得られた細繊度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。MFR値の低い樹脂を用いた場合、PPS短繊維の繊度が太く、ダスト捕集性能が劣位であった。
【0101】
[比較例4]
比較例2において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が310g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用い、一段目延伸倍率を3.8倍、総延伸倍率を4.0倍とした以外は、比較例2と同様にして、PPS短繊維を得た。
【0102】
得られた細繊度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。MFR値の高い樹脂を用いた場合、PPS短繊維の強度が不十分であり、フェルトの機械強度が劣位であった。
【0103】
[比較例5]
比較例2において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が350g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用い、一段目延伸倍率を4.0倍、総延伸倍率を4.3倍とした以外は、比較例2と同様にして、PPS短繊維を得た。
【0104】
得られた細繊度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。PPS短繊維の繊度が細すぎる場合、フェルト生産性が劣位であった。また、MFR値の高い樹脂を用いた場合、PPS短繊維の強度が不十分であり、フェルトの機械強度が劣位であった。
【0105】
[比較例6]
比較例3において、細繊度繊維を作製する際に、MFR値が105g/10分である東レ(株)製PPSペレットを用いた以外は、比較例3と同様にして、PPS短繊維を得た。
【0106】
得られた細繊度PPS短繊維を用いて、実施例1と同様の方法でフィルター材を得た。生産性およびフェルト性能・フィルター性能を、表1に示す。MFR値の低い樹脂を用いた場合、紡糸操業性が劣位であり、PPS短繊維の繊度が太く、ダスト捕集性も劣位であった。また、PPS短繊維の強度が高く、フェルト生産性も劣位であった。
【0107】
【符号の説明】
【0108】
31:繊維ウェブ(エアー流入面の濾過層)
32:織物(骨材)
33:繊維ウェブ(エアー排出面の非濾過層)