(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】マルチコア光ファイバおよびマルチコア光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20230426BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
G02B6/44 366
G02B6/02 481
(21)【出願番号】P 2020513108
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007637
(87)【国際公開番号】W WO2019198365
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2018074674
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/061184(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/161825(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0227410(US,A1)
【文献】SAKAMOTO et al.,Fiber Twisting- and Bending-Induced Adiabatic/Nonadiabatic Super-Mode Transition in Coupled Multicore Fiber,Journal of Lightwave Technology,米国,IEEE,2016年02月15日,Vol.34, No.4,pp.1228-pp.1237
【文献】坂本泰志他,高空間多重密度ランダム結合型12コアファイバ,2017年電子情報通信学会総合大会, 通信講演論文集2,日本,電子情報通信学会,2017年03月22日,B-13-25,p. 386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/036
6/10
1/44
IEEE Xplore
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコアにより構成された少なくとも1つの結合コア群と、前記結合コア群を取り囲む共通クラッドと、をそれぞれが備えた複数本のマルチコア光ファイバを内蔵するマルチコア光ファイバケーブルであって、
前記複数本のマルチコア光ファイバそれぞれは、
当該マルチコア光ファイバケーブルに曲げが付与されていない状態での前記マルチコア光ファイバの曲率の、前記マルチコア光ファイバの長手方向に沿った平均値をC
avg[m
-1]、
5[m
-1
]以上の曲率C
bend
、前記マルチコア光ファイバを曲率C
bend
で曲げた状態でのコア間パワー結合係数h
b
、および前記マルチコア光ファイバを0.1[m
-1
]以下の曲率にまっすぐにした状態でのコア間パワー結合係数h
s
に基づいてC
bend
・h
b
/h
s
で規定される、前記マルチコア光ファイバの仮想曲率をC
f[m
-1]、
前記マルチコア光ファイバの平均捻じれ率をf
twist[ターン/m]、
前記複数のコアのうち隣接するコア間のモード結合係数をκ[m
-1]、
前記隣接するコア間の伝搬定数の平均値をβ[m
-1]、
前記隣接するコア間のコア中心間隔をΛ[m]、
とするとき、
前記隣接するコア間のコア中心間隔Λが、波長1550nmにおける前記隣接するコア間のモード結合係数κが1×10
-1[m
-1]以上1×10
3[m
-1]以下であるように設定され、
かつ、
1530nm以上1625nm以下の波長帯において、(βΛC
avg)/(2κ)または(βΛC
f)/(2κ)で規定されるXの値が以下の式(1):
【数1】
を満たすマルチコア光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記複数本のマルチコア光ファイバそれぞれにおいて、前記Xの値が以下の式(2):
【数2】
を満たす請求項1に記載のマルチコア光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記曲率の平均値C
avgは、0.1[m
-1]以上20[m
-1]以下の範囲内に収まっている、
請求項1または2に記載のマルチコア光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記仮想曲率C
fは、0.01~1[m
-1]の範囲内に収まっている、
請求項1または2に記載のマルチコア光ファイバケーブル。
【請求項5】
前記曲率の平均値C
avgは、0.3[m
-1]以上となる第1範囲と、10[m
-1]以下となる第2範囲のうち、少なくともいずれかの範囲内に収まっている、
請求項1~4のいずれか一項に記載のマルチコア光ファイバケーブル。
【請求項6】
前記複数本のマルチコア光ファイバそれぞれにおいて、
全モード励振時の伝送損失が、1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、0.20dB/km以下、0.18dB/km以下、0.16dB/km以下、または0.15dB/km以下であり、
波長分散のモード平均が、16ps/(nm・km)以上であり、
全空間モードにおいて、直径30mmのマンドレルに1ターン巻きつけたときの曲げ損失が、波長1550nmにおいて0.2dB以下であり、
全空間モードにおいて、直径20mmのマンドレルに巻きつけたときの曲げ損失が、波長1550nmにおいて20dB/m以下であり、
全空間モードにおいて、半径30mmのマンドレルに100ターン巻きつけたときの曲げ損失が、波長1550nmにおいて0.5dB以下であり、
1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、モード依存損失の平均値が、0.01dB/km
1/2以下であり、
1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、空間モード分散の平均値が、10ps/km
1/2以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のマルチコア光ファイバケーブル。
【請求項7】
複数のコアにより構成された少なくとも1つの結合コア群と、前記結合コア群を取り囲む共通クラッドと、を備えたマルチコア光ファイバであって、
5[m
-1
]以上の曲率C
bend
、前記マルチコア光ファイバを曲率C
bend
で曲げた状態でのコア間パワー結合係数h
b
、および前記マルチコア光ファイバを0.1[m
-1
]以下の曲率にまっすぐにした状態でのコア間パワー結合係数h
s
に基づいてC
bend
・h
b
/h
s
で規定される、前記マルチコア光ファイバの仮想曲率をC
f[m
-1]、
前記マルチコア光ファイバの平均捻じれ率をf
twist[ターン/m]、
前記複数のコアのうち隣接するコア間のモード結合係数をκ[m
-1]、
前記隣接するコア間の伝搬定数の平均値をβ[m
-1]、
前記隣接するコア間のコア中心間隔をΛ[m]
とするとき、
前記隣接するコア間のコア中心間隔Λが、波長1550nmにおける前記隣接するコア間のモード結合係数κが1×10
-1[m
-1]以上1×10
3[m
-1]以下であるように設定され、
かつ、
前記マルチコア光ファイバの曲率の、前記マルチコア光ファイバの長手方向に沿った平均値C
avgが0.1[m
-1]以上20[m
-1]以下の範囲内または0.3[m
-1]以上10[m
-1]以下の範囲内に設定された状態で、1530nm以上1625nm以下の波長帯において、(βΛC
avg)/(2κ)または(βΛC
f)/(2κ)で規定されるXの値が以下の式(3):
【数3】
を満たすマルチコア光ファイバ。
【請求項8】
前記仮想曲率C
fは、0.01[m
-1]以上1[m
-1]以下の範囲内に収まっている、
請求項7に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項9】
全モード励振時の伝送損失が、1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、0.20dB/km以下、0.18dB/km以下、0.16dB/km以下、または0.15dB/km以下であり、
波長分散のモード平均が、16ps/(nm・km)以上であり、
全空間モードにおいて、直径30mmのマンドレルに1ターン巻きつけたときの曲げ損失が、波長1550nmにおいて0.2dB以下であり、
全空間モードにおいて、半径30mmのマンドレルに100ターン巻きつけたときの曲げ損失が、波長1550nmにおいて0.5dB以下であり、
1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、モード依存損失の平均値が、0.01dB/km
1/2以下であり、
1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、各波長における空間モード間の群遅延時間差の最大値の平均値が、10ps/km
1/2以下である、
請求項7または8に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項10】
前記共通クラッドは、前記結合コア群を構成する前記複数のコア全てを覆う共通の光学クラッドと、前記光学クラッドの周囲を覆う物理クラッドとを含み、
前記複数のコアそれぞれの外径が6μm以上15μm以下であり、
前記長手方向に直交する当該マルチコア光ファイバの断面において、純シリカの屈折率を基準とした比屈折率差をΔとするとき、前記複数のコアそれぞれの面積平均のΔと前記光学クラッドのΔの差は0.2%以上0.5%
以下であり、前記物理クラッドのΔは前記光学クラッドよりも高く、かつ、前記物理クラッドのΔと前記光学クラッドのΔの差は0.0%以上0.35%以下である、
請求項7~9のいずれか一項に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項11】
前記結合コア群が、2個以上7個以下のコアにより構成され、
前記物理クラッドの外径が125±1μmであり、
前記物理クラッドと前記物理クラッドに最も近い近接コアの中心との最短距離をD
J、前記近接コアの半径をa、前記光学クラッドの中心と前記近接コアの中心との距離をD
offsetとするとき、
D
J/a≧7.68×10
-2・(log
10(D
offset/a))
2-2.21×10
-1・(log
10(D
offset/a))+3.15
または、
D
J/a≧7.57×10
-2・(log
10(D
offset/a))
2-2.25×10
-1・(log
10(D
offset/a))+3.40
なる式を満たす、
請求項10に記載のマルチコア光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチコア光ファイバ(以下、「MCF」と記す)および該MCFを含むMCFケーブルに関するものである。
【0002】
本願は、2018年4月9日に出願された日本特許出願第2018-074674号による優先権を主張するものであり、その内容に依拠すると共に、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0003】
近年、MIMO(Multi-Input and Multi-Output)信号処理技術を用いて空間モード間のクロストークを補償し、空間分割多重伝送を行う光ファイバ伝送システムの開発が行われるようになってきた。係る光ファイバ伝送システムに適用可能な伝送媒体の一つとしては、例えば、互いにモード結合が生じするように複数のコアが配置された結合コア群を有するMCFが知られており、この結合コア群は、複数のコア間においてモード結合を生じさせることで、実質的に一つのマルチモード伝送路とみなすことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】ECOC2015,We.1.4.1
【文献】JLT 34(4),1228 (2016).
【文献】S. Fan and J. M. Kahn, "Principal modes in multimode waveguides," Opt. Lett. 30(2), 135-137(2005).
【文献】M. Koshiba, K. Saitoh, K. Takenaga, and S. Matsuo, "Analytical expression of average power-coupling coefficients for estimating intercore crosstalk in multicore fibers," IEEE Photon. J. 4(5), 1987-1995 (2012).
【文献】T. Hayashi, T. Sasaki, E. Sasaoka, K. Saitoh, and M. Koshiba, " Physical interpretation of intercore crosstalk in multicore fiber: effects of macrobend, structure fluctuation, and microbend," Opt. Express 21(5), 5401-5412 (2013).
【文献】T. Sakamoto, T. Mori, M. Wada, T. Yamamoto, F. Yamamoto, and K. Nakajima, “Fiber twisting and bending induced adiabatic/nonadiabatic super-mode transition in coupled multi-core fiber,” J. Lightw. Technol., vol. 34, no. 4, pp. 1228-1237, Feb. 2016.
【発明の概要】
【0005】
本開示に係るMCFケーブル(マルチコア光ファイバケーブル)は、複数本のMCF(マルチコア光ファイバ)を内蔵する。各MCFは、少なくとも1つの結合コア群と、該結合コア群を取り囲む共通クラッドと、を備える。なお、結合コア群は、複数のコアにより構成される。また、各MCFは、MCFケーブルに曲げが付与されていない状態での当該MCFの曲率の、当該MCFの長手方向に沿った平均値をCavg[m-1]、当該MCFの仮想曲率をCf[m-1]、当該MCFの平均捻じれ率をftwist[ターン/m]、複数のコアのうち隣接するコア間のモード結合係数をκ[m-1]、隣接するコア間の伝搬定数の平均値をβ[m-1]、隣接するコア間のコア中心間隔をΛ[m]とするとき、第1および第2条件を満たすよう調整されたコア構造、コア配列および平均捻じれ率(ファイバ捻じれ率)を有する。第1条件は、波長1550nmにおいて隣接するコア間のモード結合係数κが1×10-1[m-1]以上1×103[m-1]以下であるようにコア中心間隔Λが設定される。第2条件は、最大ランダムさの少なくとも10分の1以上のランダムさのモード結合を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示に係るMCFが適用可能な光ファイバ伝送システムの概略構成を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、本開示に係るMCFの断面構造の一例を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、本開示に係るMCFケーブルの断面構造の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、1個のコアと該コア周辺のクラッドの一部を含む領域に適用可能な屈折率分布の種々のタイプを列挙した表である。
【
図4A】
図4Aは、インパルスレスポンスの20dB全幅とモード結合係数の評価結果を示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、インパルスレスポンスの20dB全幅とパワー結合係数の評価結果を示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは、式(1)中のパラメータbとDGD/aの関係を示すグラフである。
【
図5B】
図5Bは、式(1)中のパラメータbとκ/(βΛC)との関係を示すグラフである。
【
図6】平均捻じれ率f
twist[ターン/m]の異なるシミュレーション結果であって、ランダムさが最大となるモード結合が生じるβΛC/(2κ)とκ/f
twistの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
発明者は、従来の光ファイバ伝送システムに適用可能な結合コア群を有するMCF(結合型MCF)について検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、従来の光ファイバ伝送システムによる空間多重伝送の場合、MIMO信号処理の負荷増加を抑制するため、空間モード間の群遅延時間差(DGD:Differential Group Delay)を低減する必要がある。発明者の知る限り、ランダムなモード結合の発生するMCFにおいて結合コア群内の隣接するコア同士のコア中心間隔やファイバの捻じれによって空間モード間DGDも小さくなることはあったが、どの様な結合型MCFを実現すれば空間モード間DGDを小さくすることができるかは知られていなかった。
【0008】
換言すれば、結合コア群を構成するコア間のモード結合の度合いが強すぎると、コア中心間隔と空間モード間DGDの線形性が損なわれることは知られていなかった。すなわち、適度なコア中心間隔に設定された結合コア群では、ファイバ曲げとファイバ捻れにより、ファイバ長手方向に亘って離散的にランダムなモード結合が多数発生するため、空間モード間DGDの累積が緩やかになると考えられることになる。一方で、コア中心間隔が非常に小さくなるとファイバ曲げとファイバ捻れがコア間結合に与える摂動が、コア間のモード結合の強さに比して小さくなり、結果、ランダムなモード結合が発生しにくくなり空間モード間DGDの累積が大きくなると考えられることになる。例えば、上記非特許文献1には、結合型MCFの各結合コア群で発生するランダムなモード結合がファイバ曲げおよび捻じれの影響を受けることが、コアモード間のモード結合の観点から開示されている。また、上記非特許文献2には、結合型MCFの各結合コア群で発生するランダムなモード結合がファイバ曲げおよび捻じれの影響を受けることが、固有モード間のモード結合の観点から開示されている。
【0009】
しかしながら、上述の非特許文献1および上記非特許文献2のいずれにも、どの様な結合型MCFを実現すれば、十分なランダムさが確保されたモード結合を実現でき、空間モード間のDGDや損失差の累積を抑制できるのか明らかでなかった。具体的には、コア間のモード結合係数、コア中心間隔、ファイバ曲げ半径、ファイバ捻じれ率(本明細書では、平均捻じれ率ftwistで規定)などが、どの様な数値範囲に収まり、また、どの様な関係にある時にランダムなモード結合が発生するのかが明らかでなかった。
【0010】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、結合コア群を構成するコア間においてランダムなモード結合を効率的に発生させるための構造を備えたMCFおよび該MCFを含むMCFケーブルを提供することを目的としている。
【0011】
[本開示の効果]
本開示によれば、結合コア群を構成するコア間においてランダムなモード結合が効率的に発生するため、空間モード間のDGDや損失差の累積が効果的に低減され得る。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0013】
(1)本開示に係るMCFケーブル(マルチコア光ファイバケーブル)は、複数本のMCF(マルチコア光ファイバ)を内蔵する。本開示に係るMCFは、本開示に係るMCFケーブルに適用可能なMCFであって、上記複数本のMCFそれぞれに相当する。また、これら複数本のMCFは、複数のコアにより構成された少なくとも1つの結合コア群と、該結合コア群を取り囲む共通クラッドと、をそれぞれが備える。
【0014】
(2)本開示に係るMCFケーブルに内蔵される複数本のMCFおよび本開示に係るMCFのそれぞれは、その一態様として、ケーブル化時のファイバ曲げ曲率を想定して低空間モード分散(インパルスレスポンスの自己相関関数の標準偏差で定義される)を実現するための構成を備える。具体的には、巨視的には当該MCFが直線状態にある(ファイバ曲げ曲率が巨視的には零である)ときにも微細なファイバ曲げ(マイクロベンド)や摂動が生じている。このマイクロベンドや摂動の影響を巨視的なファイバ曲げが加わっていることに置き換えて仮想的に表したファイバ曲げ曲率である当該MCFの仮想曲率Cf[m-1]は、Cf=Cbend・hb/hs(hbは光ファイバを5[m-1]以上の曲率Cbendで曲げた状態でのコア間パワー結合係数、hsは光ファイバを0.1[m-1]以下の曲率にまっすぐにした状態でのコア間パワー結合係数)で定義される。また、当該MCFケーブルに内蔵された状態でのMCFの曲率の、該MCFの長手方向に沿った平均値をCavg[m-1]、MCFの平均捻じれ率をftwist[ターン/m]、結合コア群を構成する複数のコアのうち隣接するコア間のモード結合係数をκ[m-1]、結合コア群内における隣接するコア間の伝搬定数の平均値をβ[m-1]、結合コア群内における隣接するコア間のコア中心間隔をΛ[m]とするとき、当該MCFは、以下の第1および第2条件を満たすのが好ましい。
【0015】
なお、第1条件として、隣接するコア間のコア中心間隔Λは、波長1550nmにおける隣接するコア間のモード結合係数κが1×10
-1[m
-1]以上1×10
3[m
-1]以下であるように設定される。第2条件として、1530nm以上1625nm以下の波長帯において、(βΛC
avg)/(2κ)または(βΛC
f)/(2κ)で規定されるXの値が以下の式(1):
【数1】
を満たす。このように、第1および第2条件を満たすことにより、十分なランダムさが確保されたモード結合が引き起こされる。結果、空間モード間におけるDGDや損失差の累積が低減されるとともに、ファイバ単位断面積当たりのコア数の増大が可能になる。
【0016】
(3)本開示の一態様として、Xの値は以下の式(2):
【数2】
を満たしてもよい。この場合、モード結合のランダムさの程度を高めることができ、空間モード間におけるDGDや損失差の累積が更に低減され得る。
【0017】
(4)本開示の一態様として、曲率の平均値Cavgは、0.1[m-1]以上20[m-1]以下の範囲内に収まっているのが好ましい。また、本開示の一態様として、仮想曲率Cfは、0.01[m-1]以上1[m-1]以下の範囲内に収まるのが好ましい。さらに、本開示の一態様として、曲率の平均値Cavgは、第1範囲および第2範囲のいずれかの範囲内に収まってもよい。第1範囲は、0.3[m-1]以上となる範囲で規定される。第2範囲は、10[m-1]以下となる範囲で規定される。なお、これらの態様に示された曲率の平均値Cavgは、長距離伝送に適したケーブル内のファイバ曲率を想定した範囲である。
【0018】
(5)本開示に係るMCFケーブルに内蔵される複数本のMCFおよび本開示に係るMCFのそれぞれは、その一態様として、長距離伝送用の結合型MCFとして、以下に列挙された特性を有するのが好ましい。具体的に、本開示に係るMCFケーブルに内蔵される複数本のMCFそれぞれは、以下に列挙された数値範囲にそれぞれ収まる全モード励振時の伝送損失、波長分散(chromatic dispersion)のモード平均、全空間モードにおける1ターン当たりの曲げ損失、全空間モードにおける曲げ損失、全空間モードにおける100ターン当たりの曲げ損失、モード依存損失の平均値、および各波長における空間モード間のDGDの最大値の平均値を有するのが好ましい。
【0019】
すなわち、全モード励振時の伝送損失は、1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、0.20dB/km以下、0.18dB/km以下、0.16dB/km以下、または0.15dB/km以下であるのが好ましい。波長分散のモード平均は、16ps/(nm・km)以上であるのが好ましい。全空間モードにおいて、直径30mmのマンドレルに1ターン巻きつけたときの曲げ損失は、波長1550nmにおいて0.2dB以下であるのが好ましい。全空間モードにおいて、直径20mmのマンドレルに巻きつけたときの曲げ損失は、波長1550nmにおいて20dB/m以下であるのが好ましい。全空間モードにおいて、半径30mmのマンドレルに100ターン巻きつけたときの曲げ損失は、波長1550nmにおいて0.5dB以下であるのが好ましい。1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、モード依存損失の平均値は、0.01dB/km1/2以下であるのが好ましい。1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、空間モード分散の平均値は、10ps/km1/2以下であるのが好ましい。また、1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、各波長における空間モード間のDGDの最大値の平均値は、10ps/km1/2以下であるのが好ましい。
【0020】
(6)本開示に係るMCFケーブルに内蔵される複数本のMCFおよび本開示に係るMCFのそれぞれは、その一態様として、上記第1条件の他、以下の第3条件を満たしてもよい。具体的に、第3条件として、曲率の平均値C
avgが0.1[m
-1]以上20[m
-1]以下の範囲内、または、0.3[m
-1]以上10[m
-1]以下の範囲内に設定された条件下で、1530nm以上1625nm以下の波長帯において、(βΛC
avg)/(2κ)または(βΛC
f)/(2κ)で規定されるXの値が以下の式(3):
【数3】
を満たす。
【0021】
なお、本開示の一態様として、仮想曲率Cfは、0.01[m-1]以上1[m-1]以下の範囲内に収まっているのが好ましい。
【0022】
(7)本開示の一態様として、本開示に係るMCFケーブルに内蔵される複数本のMCFおよび本開示に係るMCFのそれぞれにおいて、共通クラッドは、結合コア群を構成する複数のコア全てを覆う共通の光学クラッドと、該光学クラッドの周囲を覆う物理クラッドとを含む。また、当該MCFにおいて、結合コア群を構成する複数のコアそれぞれの外径は、6μm以上15μm以下であるのが好ましい。長手方向に直交する当該MCFの断面において、純シリカの屈折率を基準とした比屈折率差をΔとするとき、複数のコアそれぞれの面積平均のΔと光学クラッドのΔの差は、0.2%以上0.5%以下であり、物理クラッドのΔは光学クラッドよりも高く、かつ、物理クラッドのΔと光学クラッドのΔの差は0.0%以上1%以下、0.0%以上0.5%以下、または0.0%以上0.35%以下であるのが好ましい。
【0023】
(8)本開示の一態様として、結合コア群は、2個以上7個以下のコアにより構成され、物理クラッドの外径は125±1μm(124μm以上126μm以下)であってもよい。この構成において、物理クラッドと物理クラッドに最も近い近接コアの中心との最短距離をDJ、近接コアの半径をa、光学クラッドの中心と近接コアの中心との距離をDoffsetとするとき、当該MCFは、
DJ/a≧7.68×10-2・(log10(Doffset/a))2-2.21×10-1・(log10(Doffset/a))+3.15
または、
DJ/a≧7.57×10-2・(log10(Doffset/a))2-2.25×10-1・(log10(Doffset/a))+3.40
なる式を満たすのが好ましい。
【0024】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示に係るMCFおよびMCFケーブルの具体例を、以下に添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、これら例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、また、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0026】
図1は、本開示の一実施形態に係るMCFケーブルが適用可能な光ファイバ伝送システムの概略構成を示す図である。
図1に示された光ファイバ伝送システム1は、伝送路として適用された本開示の一実施形態に係るMCF100と、MCF100の一方の端部側に配置された送信局10と、MCF100の他方の端部に配置された受信局20と、を備える。MCF100は、互いにモード結合する複数のコアにより構成された少なくとも1つの結合コア群を含むMCFである。送信局10には、複数の送信器11(TX
1~TX
N)と、これら複数の送信器11からの光信号をMCF100の各コアに導くためのコネクタ部品(ファンイン・ファンアウト・デバイス:FI/FO)12が設けられている。また、受信局20には、複数の受信器21(RX
1~RX
N)と、MCF100を伝搬した空間モードそれぞれを対応するに受信器21に分配するためのコネクタ部品(FI/FO)22を備える。また、当該光ファイバ伝送システム1では、MCF100の結合コア群内で発生した空間モード間のクロストークを、MIMO信号処理により補償する構造として、送信局10内には送信器11それぞれを制御するためのMIMO信号処理部13が配置され、また、受信局20内には受信器21それぞれを制御するためのMIMO信号処理部23が配置されている。
【0027】
図2Aには、一例として、MCF100の具体的な断面構造が示されている。
図2Aに示された断面図は、MCF100の長手方向に直交する断面である。MCF100は、結合コア群110と、これら結合コア群110を取り囲む共通クラッド120を備える。なお、共通クラッド120は、結合コア群110それぞれにおいて、当該結合コア群110を構成する複数のコア全てを覆う光学クラッドと、該光学クラッドを覆う物理クラッドを含む。すなわち、
図2Aに示されたMCF100の断面において、破線で囲まれた領域それぞれが光学クラッドであり、該破線で囲まれた領域の外側が物理クラッドである。
【0028】
各結合コア群110は、隣接コア同士が所定のコア中心間隔Λになるように配置され、互いにモード結合する複数のコアから構成されている。なお、コア中心間隔Λは、各結合コア群110における隣接コアの中心間距離で規定される。また、結合コア群110は一つでも複数であってもよい。結合コア群110が複数の場合は、結合コア群110同士は、非結合状態(低クロストーク)になるよう十分な距離Dだけ離間している。
【0029】
また、送信局10および受信局20の間には、それぞれが上述のような構造を有する複数本のMCF100を内蔵するMCFケーブル300が敷設されてもよい。
図2Bは、一実施形態に係るMCFケーブルの構成例の一例を示す図である。
図2Bに示されるように、MCFケーブル300は、支持部材310と、支持部材310を中心軸として螺旋状に撚り合わせるようにして支持部材310に所定ピッチで巻きつけられた複数のMCF100と、その巻きつけられた状態を保持するように複数のMCF100上に巻きつけられた強度部材250と、強度部材250の周りを覆うケーブル外被200を備える。この
図2Bに示された一例では、MCFケーブル300は、4本のMCF100を保持している。
【0030】
ケーブルが真直ぐな場合でも、複数のMCF100それぞれは、その長手方向に沿って所定のピッチで支持部材310に巻きつけられることにより、一定の曲率半径CRの曲げが付与される。ケーブル外被200は、MCF100を外力から保護するように、強度部材250の全体を覆っている。強度部材250は、例えば、アラミド繊維(東レ・デュポン株式会社製の「ケブラー(登録商標)」や帝人株式会社製の「テクノーラ(登録商標)」)等であってもよい。強度部材250を設けることにより、MCFケーブル300が引っ張られた際にMCF100に伸び歪みが加わりにくくなるだけでなく、クッション効果により、MCF100を外部衝撃から保護する役割を果たすことができる。
【0031】
支持部材310は、抗張力線(tension member)のような金属材料であっても、ケーブル外被200の収縮に抵抗する抗収縮材であってもよい。なお、
図2Bの例において、MCF100は、記載簡略のため、1本のみ記載しているが、実際には当該MCFケーブル300に含まれる全てのMCF100が支持部材310に巻かれている。
【0032】
各コアの屈折率分布やそれに伴う光学特性については、用途に応じて適正な構造を選択することができるが、コアそれぞれの構造は均一でも良く、またそれぞれ異なった構造であってもよい。また、MCF100の断面内におけるコア数に制限は無く、収容されるコア数に応じてMCF100の断面直径(ガラス直径)および共通クラッドの外周面上に設けられる被覆樹脂の外径は適切に設定され得る。なお、
図3の表には、1個のコアと該コア周辺のクラッドの一部を含む領域に適用可能な屈折率分布の種々のタイプが列挙されている。
【0033】
具体的に、(各コアの屈折率分布の形状)/(それを覆う光学クラッドの屈折率分布の形状)で表される分布形状は、ステップ/マッチド型(タイプa)、先端凹ステップ/マッチド型(タイプb)、先端凸ステップ/マッチド型(タイプc)、グレーデッド/マッチド型(タイプd)、ステップ/ディプレスト型(タイプe)、2重ステップ/マッチド型(タイプf)、ステップ/トレンチ型(タイプg)等のいずれも適用可能であり、コアとクラッドの屈折率分布を任意に組み合わせることが可能である。また、各コアは、コアを伝搬するモード数が一つであるシングルモード動作を前提とした構造であっても、複数モードを伝搬するマルチモード動作を前提とした構造を備えてもよい。ただし、数モード動作を前提とする場合、各結合コア群110を構成するコア同士のパワー結合係数は、各コアのLP01同士のパワー結合係数とする。
【0034】
図4Aおよび
図4Bは、一実施形態に係るMCF100の結合コア群として用意された複数のサンプルについて、インパルスレスポンスの20dB全幅とモード結合係数およびパワー結合係数それぞれの評価結果を示すグラフである。特に、
図4Aは、インパルスレスポンスの20dB全幅[ns](最大値から20dB低い値のパルス全時間幅)とモード結合係数[m
-1]との関係を示すグラフであり、
図4Bは、インパルスレスポンスの20dB全幅[ns]とパワー結合係数[m
-1]との関係を示すグラフである。
【0035】
用意されたサンプル1~6は、それぞれ、6つの結合コア群110を有するMCFであって、各結合コア群110は、2個のコアにより構成されている。また、共通クラッド120を基準とした各コアの比屈折率差Δは、0.41%、各コアのコア径は9.0μmである。サンプル1におけるコア中心間隔Λは12.5μm、サンプル2におけるコア中心間隔Λは15.0μm、サンプル3におけるコア中心間隔Λは17.5μm、サンプル4におけるコア中心間隔Λは20.0μm、サンプル5におけるコア中心間隔Λは25.0μm、サンプル6におけるコア中心間隔Λは27.5μmである。なお、サンプル1~6のいずれも、6つの結合コア群110同士は、十分な非結合状態になるよう距離Dだけ離間している。
【0036】
また、上記サンプル1~6において、ファイバ長を66mに設定し、各結合コア群110におけるコア間の、波長1550nmにおけるインパルスレスポンスの20dB全幅を、光周波数領域反射測定(OFDR:Optical Frequency Domain Reflectometry)を用いて評価した。なお、このOFDRでは、半径140mmのボビンに巻いた状態に設定されたサンプル1~6それぞれの片端から光を入射し、他方の端部でのフレネル反射のピークが測定される。
【0037】
上述のような構造を有するサンプル1~6それぞれの結合コア群110におけるコア間の、波長1550nmにおけるモード結合係数の計算値は、サンプル1(Λ=12.5μm)の結合コア群110では4.5×102[m-1]、サンプル2(Λ=15.0μm)の結合コア群110では1.6×102[m-1]、サンプル3(Λ=17.5μm)の結合コア群110では5.7×101[m-1]、サンプル4(Λ=20.0μm)の結合コア群110では2.1×101[m-1]、サンプル5(Λ=25.0μm)の結合コア群110では2.6×100[m-1]、サンプル6(Λ=27.5μm)の結合コア群110では9.4×10-1[m-1]であった。用意されたサンプル1~6のモード結合係数は、1×10-1[m-1]以上1×103[m-1]以下の範囲内に収まっている。
【0038】
また、サンプル1~6それぞれの各結合コア群110におけるコア間の、波長1550nmにおけるパワー結合係数の計算値は、サンプル1(Λ=12.5μm)の結合コア群110では7.6×101[m-1]、サンプル2(Λ=15.0μm)の結合コア群110では8.1×100[m-1]、サンプル3(Λ=17.5μm)の結合コア群110では9.0×10-1[m-1]、サンプル4(Λ=20.0μm)の結合コア群110では1.0×10-1[m-1]、サンプル5(Λ=25.0μm)の結合コア群110では1.3×10-3[m-1]、サンプル6(Λ=27.5μm)の結合コア群110では1.5×10-4[m-1]であった。
【0039】
上述のように、用意されたサンプル1~6のモード結合係数は、1×10
-1[m
-1]以上1×10
3[m
-1]以下の範囲内に収まっているが、特定条件下では、モード結合係数およびパワー結合係数を絞り込むことも可能である。すなわち、
図4Aおよび
図4Bから分かるように、サンプル6の結合コア群では、インパルスレスポンスの20dB全幅が急激に増加している。インパルスレスポンスの20dB全幅の急激な増加を免れているサンプル5の結合コア群と同等のインパルスレスポンスの20dB全幅である1.1ns以下を実現するためには、モード結合係数は、2.6×10
0[m
-1]以上1.6×10
2[m
-1]以下であることが望ましく、パワー結合係数は、1.3×10
-3[m
-1]以上8.1×10
0[m
-1]以下であることが望ましい。更に、インパルスレスポンスの20dB全幅が最も小さいレベルの0.4ns以下になるためには、モード結合係数は、2.1×10
1[m
-1]以上5.7×10
1[m
-1]以下であることが更に望ましく、パワー結合係数は、1.0×10
-1[m
-1]以上9.0×10
-1[m
-1]以下であることが更に望ましいことが分かる。したがって、一実施形態に係るMCF100において、各結合コア群110におけるコア中心間隔Λは、モード結合係数またはパワー結合係数の上記の制限された範囲を満たすように設定することも可能である。
【0040】
更に、一実施形態に係るMCF100は、適度な曲げが付与されているのが望ましい。また、一実施形態に係るMCF100は、共通クラッド中心(当該MCF100の長手方向に直交する共通クラッド120の断面における中心)を回転軸とする捻じりが付与されているのが望ましい。このような捻じりは、光ファイバ線引き中にガラスが融けた状態の時に付与されてもよいし、光ファイバ線引後にガラスが固まった状態で付与されてもよい。
【0041】
次に、空間モード間DGDの累積の低減について検討する。MCFのファイバ長をLとし、aを比例定数とするとき、該空間モード間DGDは、ファイバ長Lに対して以下の式(4):
【数4】
に従って増加すると考えることができる。
【0042】
空間モード間でランダムな結合が生じていなければ、最も空間モード間DGDが大きくなるb=1となり、空間モード間で十分にランダムな結合が生じていれば、空間モード間DGDの増加がファイバ長Lの増加に対して緩やかになる(b=0.5)ことが偏波モード分散等の例からも知られている。
図5Aは、DGD/aとファイバ長Lとの関係を示す図であり、グラフG510はb=0.5のときの関係、グラフG520はb=1のときの関係をそれぞれ示す。
【0043】
ここで、発明者は、比例定数aをDGD scaling factorとし、bをDGD growth rateとするとき、bがどのような値となるかについて、ランダムシミュレーション計算により調べた。シミュレーションは、コアモードのモード結合方程式を使用して行われた。簡単のために偏波モードが縮退しているものと考えて、これら縮退モードを無視した2コア(すなわち合計2モード)のモード結合方程式は、以下の式(5):
【数5】
のように表すことができる。ここで、κはコア間モード結合係数、βは各コアの伝搬定数、Λはコア中心間隔(コア同士の中心間隔)、Cはファイバの曲率(曲げ半径の逆数)、θはある基準に採った時に曲げ方向に対するファイバの回転角である。また、各パラメータの添え字(下付き文字)はコア番号を表す。上記式(5)を解いていくと、以下の式(6):
【数6】
のような形のz=0からz=Lの伝達式を求めることができる。ここで、Tはコア数(合計モード数)×コア数(合計モード数)の伝達行列である。この伝達行列Tを上記非特許文献3に記載されたgroup-delay operatorの形に変形することで該group-delay operator行列の固有値を求め、その最大値と最小値の差を採ることで空間モード間DGDをシミュレーションすることができる。
【0044】
図5Bには、このような手法により、1530nm以上1625nm以下の波長帯においてΛ、C,θのzに対する変化率を複数水準とって計算を行った結果が示されている。なお、隣接コア間のモード結合係数をκ、各隣接コアの伝搬定数をβ(ここでは2コアで等しいものとする)、コア中心間隔(隣接コア同士の中心間隔)をΛ、と考えることができる。この
図5Bの結果から、DGD growth rate bはκ/(βΛC)に対して明確な依存性を示すことが分かる。ここで、κ/(βΛC)の分子であるκは上記式(5)の非対角要素に入っていることからもわかるように、隣接する2個のコアの電界振幅の結合度合いを表し、分母である(βΛC)は、対角要素である曲げの影響を受けた等価的な伝搬定数の差(言い換えるとコアモードの伝搬定数がファイバ曲げによって受ける摂動)の最大値に当たる。κ/(βΛC)が0.1以下ではbが0.5付近の値を取っているのに対して、κ/(βΛC)が0.1から1に近づくにつれてbは1に近づいていき、κ/(βΛC)が1以上ではbは1となる。このことから、空間モード間DGDの低減のためにはκ/(βΛC)が0.1以下になるようにコア構造およびコア配列を調整する必要がある。すなわち、空間モード間DGDを低減するためにκ/(βΛC)が0.1以下であることが望ましい。
【0045】
この結果は、伝搬定数差がMCFの長手方向に沿ってわずかしか変化しない、あるいは、コア間のモード結合が強すぎる(βΛC<<κ、つまりκ/(βΛC)>>1)場合は,コアモードが結合したスーパーモードが安定的に伝搬するため、スーパーモード同士は非結合でありかつスーパーモード間のDGDがb=1で累積していく。これに対して、コア間のモード結合係数が適度な範囲にあり、かつ、伝搬定数差がMCFの長手方向に沿って変化する場合(変化の最大値であるβΛCが大きい、つまりκ/(βΛC)は小さい、空間モード間でのランダムな結合が発生してbが0.5に近づき、空間モード間DGDの累積が緩やかになると理解することができる。
【0046】
よって、ケーブル内におけるMCFの曲率の、該MCFのファイバ長手方向に沿った平均値をCavg[m-1]、結合コア群内における隣接するコア間でのモード結合係数をκ[m-1]、結合コア群内における隣接するコア間での伝搬定数の平均値をβ[m-1]、結合コア群内における隣接するコア間のコア中心間隔をΛ[m]とするとき、κ/(βΛCavg)が1530nm以上1625nm以下の波長帯において0.1以下となるように、コア構造とコア配列が調整されたMCFを内蔵することで、MCFケーブルにおける空間モード間DGDの累積を低減することが可能になる。また、コア中心間隔を大きくするほどκ/(βΛCavg)は小さくなっていくことから、κ/(βΛCavg)が小さすぎるとコア密度が低下し、また、コア間の結合が弱くなりモード結合自体が非常に弱くなる。この場合、空間モード間DGDの低減に必要な十分ランダムなモード結合が起こらなくなる。したがって、κ/(βΛCavg)は0.01以上であることが望ましい。なお、このときに、Cavgは、MCFに対して十分制御して付与された曲率の平均値であってもよく、意図せず付与された曲率も含めた曲率の平均値であってもよい。具体的に、Cavgは、ケーブルに曲げが付与されていない状態で0.1[m-1]以上20[m-1]以下の範囲内に収まるのが好ましい。また、Cavgは、ケーブルに曲げが付与されていない状態で0.3[m-1]以上となる第1範囲と、ケーブルに曲げが付与されていない状態で10[m-1]以下となる第2範囲のうち、少なくともいずれかの範囲内に収まっていればよい。
【0047】
また、上記非特許文献4および上記非特許文献5に基づいて考察すると、たとえMCFが直線状態であっても(実際のCが0であったとしても)、ファイバ構造の長手方向に沿った変動やマイクロベンドによって、実質的には0.01[m-1]以上1[m-1]以下、または、0.1[m-1]以上1[m-1]以下のC(=Cf)が付与されているのと同等の、MCFの長手方向に沿ったコア間伝搬定数差の変動が生じていると考えられる。このような光ファイバをまっすぐにした状態の曲率Cは、仮想曲率Cf[m-1]=Cbend・hb/hs(hbは光ファイバを5[m-1]以上の曲率Cbendで曲げた状態でのコア間パワー結合係数、hsは光ファイバを0.1[m-1]以下の曲率にまっすぐにした状態でのコア間パワー結合係数)で見積もることができ、κ/(βΛCf)が1530nm以上1625nm以下の波長帯において0.1以下となるように、コア構造とコア配列が調整されたMCFを内蔵することで、MCFケーブルにおける空間モード間DGDの累積を低減することができる。また、コア中心間隔を大きくするほどκ/(βΛCf)が小さくなっていくことから、κ/(βΛCf)が小さすぎるとコア密度が低下し、また、コア間の結合が弱くなりモード結合自体が非常に弱くなる。この場合、空間モード間DGDの低減に必要な十分ランダムなモード結合が起こらなくなる。したがって、κ/(βΛCf)は0.01以上であることも望ましい。
【0048】
以下、κ/(βΛCavg)に下限についての一実施形態に係るMCFのサンプルおよび比較例について言及する。
【0049】
一実施形態に係るMCFとして試作されたサンプルは、それぞれがリング型屈折率分布を有する2個以上7個以下のコアと、これらコアを覆う共通の光学クラッドと、該光学クラッドを覆う、外径125μmの物理クラッドを備える。コア外径は約11.3μm、純シリカの屈折率を基準とした比屈折率差をΔとするとき、コアの面積平均のΔと光学クラッドのΔの差は約0.34%、物理クラッドのΔは光学クラッドのΔよりも高く、かつ、物理クラッドのΔと光学クラッドのΔの差は0.05%以上0.1%以下である。物理クラッドと該物理クラッドに最も近い近接コアの中心との最短距離をDJ、該近接コアの半径をa、該近接コアと光学クラッドの中心との距離をDoffsetとするとき、
DJ/a≧7.68×10-2・(log10(Doffset/a))2-2.21×10-1・(log10(Doffset/a))+3.15
または、
DJ/a≧7.57×10-2・(log10(Doffset/a))2-2.25×10-1・(log10(Doffset/a))+3.40
なる式を満たす。
【0050】
このようなMCFのサンプルにおいて、κ/(βΛC)が2.7×10-2となるように調整された場合の空間モード分散(空間モード間DGDの二乗平均平方根)の値を測定したところ、およそ6.1ps/km1/2となった。
【0051】
一方、比較例では、κ/(βΛC)が2×10-3以上3×10-3以下となるように調整された場合の空間モード分散の値を測定したところ、およそ32ps/km1/2と、κ/(βΛC)が0.01以上の一実施形態に係るMCFのサンプルと比べて5倍近く悪化している。
【0052】
なお、一実施形態に係るMCFにおいて、コアおよび共通クラッドは、ガラス製またはシリカガラスからなるのが好ましい。更に、共通クラッドの周囲は、例えば樹脂、金属、炭素などからなる保護材によって覆われてもよい。コアそれぞれガラスには、微量のアルカリ金属が添加されていてもよい。
【0053】
長距離伝送時の光信号対雑音比を向上させられるために望ましい特性としては、全モード励振時の伝送損失は、1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、0.20dB/km以下、0.18dB/km以下、0.16dB/km以下、または、0.15dB/km以下であるのが好ましい。波長分散のモード平均は、16ps/(nm・km)以上であるのが好ましい。全空間モードにおいて、直径30mmのマンドレルに1ターン巻きつけたときの曲げ損失は、波長1550nmにおいて0.2dB以下であるのが好ましい。全空間モードにおいて、直径20mmのマンドレルに巻きつけたときの曲げ損失は、波長1550nmにおいて20dB/m以下であるのが好ましい。全空間モードにおいて、半径30mmのマンドレルに100ターン巻きつけたときの曲げ損失は、波長1550nmにおいて0.5dB以下であるのが好ましい。1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、モード依存損失の平均値は、0.01dB/km1/2以下であるのが好ましい。1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、各波長における空間モード間DGDの最大値の平均値は、10ps/km1/2以下であるのが好ましい。なお、それぞれ上述のような特性を有する複数のMCFが内蔵されたMCFケーブル全体としては、1530nm以上1565nm以下の波長帯または1460nm以上1625nm以下の波長帯において、空間モード分散の平均値は、10ps/km1/2以下である。
【0054】
さらに、一実施形態に係るMCFの望ましい特性として、外的応力付与下において、各コアに局在する空間モードの実効断面積(effective area)は、全ての空間モードにおいて60μm2以上180μm2以下であることが、長距離伝送時の光信号対雑音比を向上させられるために望ましい。
【0055】
上記望ましい特性を得るための構成として、一実施形態に係るMCFにおいて、共通クラッドは、結合コア群を構成する複数のコア全てを覆う共通の光学クラッドと、光学クラッドの周囲を覆う物理クラッドとを含むのが好ましい。特に、上述の特性の実現に望ましいコア構造として、複数のコアそれぞれの外径が6μm以上15μm以下であるのが好ましい。また、長手方向に直交する当該MCFの断面において、純シリカの屈折率を基準とした比屈折率差をΔとするとき、複数のコアそれぞれの面積平均のΔと光学クラッドのΔの差は約0.2%以上0.5%以下であり、物理クラッドのΔは光学クラッドよりも高く、かつ、物理クラッドのΔと光学クラッドのΔの差は0.0%以上1%以下、または、0.0以上0.5%以下、または、0.0以上0.35%以下であるのが好ましい。
【0056】
上述のようなコア構造を満たす一実施形態に係るMCFは、外径125μmの物理クラッド内でのコア数を増加するため、以下のような構造を有するのが好ましい。すなわち、結合コア群は、2個以上7個以下、または、8個以上15個以下のコアにより構成される。物理クラッドの外径は125±1μm(124μm以上126μm以下)である。物理クラッド内や光学クラッドと物理クラッド界面のOH基に起因する伝送損失増加を抑えるため、物理クラッドと物理クラッドに最も近い近接コアの中心との最短距離をDJ、該近接コアの半径をa、光学クラッドの中心と近接コアの中心との距離をDoffsetとするとき、
DJ/a≧7.68×10-2・(log10(Doffset/a))2-2.21×10-1・(log10(Doffset/a))+3.15
または、
DJ/a≧7.57×10-2・(log10(Doffset/a))2-2.25×10-1・(log10(Doffset/a))+3.40
なる式を満たすのが好ましい。
【0057】
次に、空間モード間のDGDや損失差の累積を効果的に抑制するために必要なランダムなモード結合を生じさせるため、結合コア群110におけるコア間のモード結合係数、コア中心間隔、ファイバ曲げ半径、ファイバ捻じれ率(平均捻じれ率ftwist)などの条件について検討する。
【0058】
上述のように、ファイバ長Lに対して空間モード間DGDは式(4)に従って増加すると考えられる。したがって、
図5Aにも示されたように、空間モード間でランダムなモード結合が生じていなければ、空間モード間DGDはグラフG520(b=1)に従う。一方、空間モード間でランダムなモード結合が十分に生じていれば、空間モード間DGDはグラフG520(b=0.5)に従う。このことは、偏波モード分散等の例からも知られている。
【0059】
ここで、bを0.5に近づけるためには、光ファイバの固有モード間で、よりランダムなモード結合が起こり、空間モード間で、モードごとに導波している光の成分が交換されることが望ましい。本来、固有モード同士は直交しており、伝搬中のモード結合は生じないはず。しかしながら、光ファイバの長手方向に沿った変化や変動、例えば、曲げ半径の変化、ファイバ捻じれ率の変化、ガラス構造の微細な変動、マイクロベンドによるランダム且つ微小な曲げの付与などにより、固有モードの電界分布がファイバ位置により変化する様になる。このような長手方向に沿った変化や変動により固有モード間の直交性が崩れ、結果、固有モード間でのモード結合が生じる様になる。
【0060】
ここで、光ファイバを、区間内が一様な微小区間の連続により表すものと仮定する。加えて、固有モード間でのパワーの結合が、隣接区間の間での固有モードの電界分布の変化による、区間同士の接続点での電界分布の不整合により生じると仮定する。これらの仮定の下、2コア間のパワー結合について計算を行ったところ、パワー結合はコア同士を結ぶ線分がファイバの曲げ径方向に直交するファイバの長手位置(位相整合点)で最大になることが確認できた。なお、位相整合点で固有モード間のパワー結合係数が最大になるのは、上記非特許文献6などの既存の文献でも明らかになっている通りである。
【0061】
次に、位相整合点を1回通過したときに、最もランダムなモード結合が起こる(1コア入射の際にちょうど2コアでパワーが2等分される)条件について計算したところ、コアの伝搬定数β、コア中心間隔Λ、コア間モード結合係数κ、ファイバの曲げ曲率(曲げ半径の逆数)C、ファイバの平均捻じれ率f
twist([ターン/m]:単位長さ当たり何回転ファイバが捻じれているか)に関わらず、以下の式(7):
【数7】
を満たすときに、最もランダムな結合が生じることを新たに明らかにすることができた。
図6の各マークは数値シミュレーションで求めた、最もランダムな結合が生じるβΛC/(2κ)とκ/f
twistの関係であり、実線は経験的に得られた上記の式をプロットした線(Empirical fitting)である。
図6から分かるように、平均捻じれ率f
twistの違いなどに依存せず一意に、最もランダムなモード結合が生じる条件を表すことができる。
【0062】
なお、
図6において、矢印a1で示された位置は、f
twist=0.1[ターン/m]のときのκ/f
twistの下限を示し、矢印a2で示された位置は、f
twist=0.1[ターン/m]のときのκ/f
twistの上限を示す。同様に、矢印b1で示された位置は、f
twist=1[ターン/m]のときのκ/f
twistの下限を示し、矢印b2で示された位置は、f
twist=1[ターン/m]のときのκ/f
twistの上限を示す。矢印c1で示された位置は、f
twist=2[ターン/m]のときのκ/f
twistの下限を示し、矢印c2で示された位置は、f
twist=2[ターン/m]のときのκ/f
twistの上限を示す。矢印d1で示された位置は、f
twist=10[ターン/m]のときのκ/f
twistの下限を示し、矢印d2で示された位置は、f
twist=10[ターン/m]のときのκ/f
twistの上限を示す。したがって、f
twist=0.1[ターン/m]のときのシミュレーション結果は、矢印a1の位置と矢印a2の位置に挟まれた区間にプロットされている。f
twist=1[ターン/m]のときのシミュレーション結果は、矢印b1の位置と矢印b2の位置に挟まれた区間にプロットされている。f
twist=2[ターン/m]のときのシミュレーション結果は、矢印c1の位置と矢印c2の位置に挟まれた区間にプロットされている。f
twist=10[ターン/m]のときのシミュレーション結果は、矢印d1の位置と矢印d2の位置に挟まれた区間にプロットされている。
【0063】
位相整合点を1つ通過したときのパワー結合の比率が0.5(=b)に近いほどをランダムなモード結合が生じる。一方、固有モード間のパワー結合の比率が1になってしまうと、固有モード間でランダムではない完全なパワーの移行が生じるため、コアモード間が非結合となり、コアモード間でのDGDや損失差などが累積するため望ましくない。
【0064】
そこで、βΛC/(2κ)(=[2κ/(βΛC)]
-1)をXとするとき(CはC
avgまたはC
f)、空間モード間においてモード結合のランダムさが最大となるXの値は、上記式(7)から以下の式(8):
【数8】
となる。本明細書では、上記式(8)を指標として、空間モード間におけるモード結合の「ランダムさ」を表現するものとする。
【0065】
位相整合点を1つ通過したときのパワー結合の比率が0.5となる最大ランダムさを示す上記式(8)のときと比べて、ランダムさが少なくとも10分の1以上のモード結合を実現可能にする場合、Xの値は、以下の式(9a)および式(9b):
【数9】
で規定される範囲に収まるのが好ましい。
【0066】
上記式(8)のときと比べて、ランダムさが少なくとも5分の1以上のモード結合を実現可能にする場合、Xの値は以下の式(10a)および式(10b):
【数10】
で規定される範囲に収まるのが好ましい。
【0067】
更に、上記式(8)のときと比べて、ランダムさが少なくとも2分の1以上のモード結合を実現可能にする場合、Xの値は以下の式(11a)および式(11b):
【数11】
で規定される範囲に収まるのが好ましい。
【符号の説明】
【0068】
1…光ファイバ伝送システム、10…送信局、11…送信器(TX1~TXN)、12…コネクタ部品、20…受信局、21…受信器(RX1~RXN)、100…MCF(マルチコア光ファイバ)、110…結合コア群、120…共通クラッド、300…MCFケーブル(マルチコア光ファイバケーブル)。