(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー及びリグニン又はそれらの複合体を含む組成物並びにリグノセルロース由来材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/16 20060101AFI20230426BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20230426BHJP
C08B 5/14 20060101ALI20230426BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230426BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230426BHJP
D06M 11/55 20060101ALI20230426BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20230426BHJP
【FI】
C08L1/16
C08L97/00
C08B5/14
C08J5/04 CEQ
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
C08K3/013
D06M11/55
D06M101:06
(21)【出願番号】P 2021059316
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 光博
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】佐古 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】大野 ふみ
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0303750(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08B,
C08J,D06M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質を含む組成物であって、
前記リグニン由来物質が、
クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、ソーダリグニン、ソーダアントラキノンリグニン、硫酸リグニン、グリコールリグニン、酵素加水分解リグニン、水熱処理リグニン、水蒸気爆砕処理リグニン、オルガノソルブリグニン及びそれらの塩から選択され、
前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及び前記リグニン由来物質が複合体を形成しており、
前記複合体が、前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及び前記リグニン由来物質が架橋している複合体である
前記組成物。
【請求項2】
前記リグニン由来物質が、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、メトキシ基、カルボニル基、アルケン部位又はエーテル部位を含
み、前記架橋が、前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーのヒドロキシ基と、前記リグニン由来物質が有する前記基又は部位との間の縮合反応又は付加反応により生じた化学結合である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの硫酸エステル基が、式(1)
【化1】
(式中、Mは、1価~3価の陽イオンを示す)
の化学式で示される、請求項1
又は2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの結晶化度が、20%~99%である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1種の物質をさらに含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
有機フィラー及び無機フィラーからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーをさらに含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの含有量が、前記組成物の総重量に対して、0.03重量%~85重量%である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記リグニン由来物質の含有量が、前記組成物の総重量に対して、0.03重量%~85重量%である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーと前記リグニン由来物質との重量比(硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー:リグニン由来物質)が、0.05:99.5~85.0:15.0である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
(A)(a)リグニン含有率がリグノセルロース全重量に対して20重量%以上であるリグノセルロースと、
(b)硫酸と、
(c)アルデヒド、ケトン、ボロン酸、2-メトキシプロペン、ジメチルカーボネート、及び2,2-ジメトキシプロパンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、(d)溶剤としてのジメチルスルホキシドと、
(e)無水酢酸及びプロピオン酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸無水物と、
を混合して混合液を調製し、反応させて反応物を得る工程と、
(B)工程(A)より得られた前記反応物を塩基により中和して中和物を得る工程と、
(C)工程(B)より得られた前記中和物を第1の固体成分と第1の液体成分とに分離する工程と
(D)工程(C)より得られた前記第1の固体成分中に含まれる硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体と水若しくは有機溶剤又はその混合液とをせん断力を加えながら混合し、解繊し、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とを含む複合体を得る工程と
を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の組成物を製造する方法。
【請求項11】
工程(A)において、前記混合液におけるリグノセルロースの割合が、前記混合液全重量に対して5重量%~50重量%である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、(a)及び(e)を、記載された順に時間差で添加する、請求項
10又は
11に記載の方法。
【請求項13】
工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、(a)及び(e)を記載された順に添加し、30分以上混合し、反応させた後、(e)を追加添加して、反応させる、請求項
10~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、及び(a)を記載された順に添加後、50℃以上に加熱しながら混合し、反応させ、続いて50℃以下に冷却して、(e)を添加後、反応させる、請求項
10~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程(A)において、(d)、(b)、(c)、(a)及び(e)の前記反応物における溶液部分を20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度が0.5以上になってから、工程(B)を実施する、請求項
10~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーと前記リグニン由来物質とが相互作用している複合体であって、前記リグニン由来物質が、
クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、ソーダリグニン、ソーダアントラキノンリグニン、硫酸リグニン、グリコールリグニン、酵素加水分解リグニン、水熱処理リグニン、水蒸気爆砕処理リグニン、オルガノソルブリグニン及びそれらの塩から選択され、前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーと前記リグニン由来物質とが架橋している、前記複合体。
【請求項17】
前記リグニン由来物質が、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、メトキシ基、カルボニル基、アルケン部位又はエーテル部位を含
み、前記架橋が、前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーのヒドロキシ基と、前記リグニン由来物質が有する前記基又は部位との間の縮合反応又は付加反応により生じた化学結合である、請求項
16に記載の複合体。
【請求項18】
前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの結晶化度が、20%~99%である、請求項
16又は17に記載の複合体。
【請求項19】
前記硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーと前記リグニン由来物質との重量比(硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー:リグニン由来物質)が、0.05:99.5~85.0:15.0である、請求項
16~
18のいずれか一項に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー(「CNF」ともいう)及びリグニン又はそれらの複合体を含む組成物並びにリグノセルロース由来材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりからバイオマス由来材料の実用化を目指した検討が世界中で展開されている。例えば木質(木材チップなど)や草本、ヤシガラ、ナッツシェルなどのリグノセルロース系バイオマスを原料とする場合、その構成要素であるセルロース、リグニン、及びヘミセルロースを余すことなく産業に利用することができれば循環型資源利用とCO2固定化の両者に大きく貢献することとなる。
【0003】
セルロースは、セルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタル(「CNC」ともいう)などのナノサイズのセルロース(「ナノセルロース」ともいう)とすることで、樹脂やゴム、さらにコンクリートと複合化させた際に、強度、柔軟性、伸び率などの各種物性の向上につながり、環境適合型の新材料として着目されている。
【0004】
リグニンは、β-O-4結合の縮合を抑制しながら脱重合(分解)させると、低分子であるリグニンモノマー(「モノリグノール」ともいう)と比較的高分子量のリグニンオリゴマーとを取り出すことができる。モノリグノールは、各種フェノール系誘導体としての利用のほか、バニリンなどの香料としての利用が可能となる。リグニンオリゴマー及び脱重合処理を行わないリグニンそのものもまた、フェノール樹脂骨格を有することから、樹脂やゴムとの混合組成物や単体での材料用途検討が進められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、リグノセルロースから直接セルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、硫酸エステル化セルロースナノファイバー及び当該セルロースナノファイバーの製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、リグノセルロースからセルロース、リグニンオリゴマー、モノリグノール、及びヘミセルロースを回収する方法が記載されている。
【0008】
特許文献4には、リグノセルロースからセルロースナノクリスタルを製造する方法が記載されている。
【0009】
このように、リグノセルロース系バイオマスの各構成要素の分離・製造方法及び用途について検討がなされている中で、バイオマスを余すことなく利用するための検討もまた進められている。
【0010】
例えば、非特許文献1では、セルロースナノファイバーとリグニンとの複合体の検討がなされている。
【0011】
非特許文献2では、セルロースナノクリスタルとリグニンとの複合体の検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-308802号公報
【文献】特開2020-41255号公報
【文献】国際公開第2017/178513号
【文献】国際公開第2012/014213号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Wangxia Wangら、「Lignin Redistribution for Enhancing Barrier Properties of Cellulose-Based Materials」、Polymers 2019、11、1929
【文献】Umesh Agarwalら、「Production of high lignin-containing and lignin-free cellulose nanocrystals from wood」、Cellulose、2018、25、5791
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、リグノセルロース系バイオマスを余すことなく利用するためには様々な課題がある。
【0015】
例えば、特許文献1及び2のようなリグノセルロース由来のTEMPO酸化セルロースナノファイバーや硫酸エステル化セルロースナノファイバー単体は、成型性が乏しく、また、樹脂やゴムなどの材料との複合化を行う際に材料との相溶性が十分ではない。
【0016】
非特許文献1におけるセルロースナノファイバーは、非修飾セルロースナノファイバーであるため、リグニンとの相互作用が弱く、複合体としての強度が十分ではない。
【0017】
【化1】
(式中、細い点線は、非修飾セルロースとリグニンとの間に弱い相互作用が存在することを示す。)
【0018】
また、非特許文献2におけるセルロースナノクリスタルは長さが短く剛性が強いため、セルロースナノクリスタルとリグニンとの複合体はセルロースナノファイバーとリグニンとの複合体と比較して脆くなりやすい。
【0019】
さらに、特許文献3及び4におけるナノセルロースの製造方法では、リグノセルロースをKP法やDP法などの蒸解法により、パルプ及びリグニン成分を単離したものを原料とする方法が一般的である。この方法では、セルロースナノファイバーを製造する場合、セルロースの乾燥工程、セルロースの化学処理工程、ろ過・洗浄工程が必要であるために、時間と多大なエネルギーが必要である。また、セルロースナノクリスタルを製造する場合、セルロースの酸加水分解反応工程に時間がかかり、製造コストの増大につながる。さらに、パルプ及びリグニン成分を単離するためのKP法やDP法は、不安定であるリグニン成分の縮合反応を進行させてしまい、利用価値の高いモノリグノールの収率を大幅に低下してしまう。
【0020】
そこで、モノリグノールの生成収率を上げるために、リグノセルロースを溶剤などで十分に膨潤させ、且つリグニン由来物質の水酸基(OH基)を保護してβ-O-4結合の縮合を抑制する方法が検討され、特許文献3には、リグニン由来物質のOH基を保護する方法として、リグニン由来物質のOH基とアルデヒドやケトンなどの保護基とをアセタール反応させることが記載されている。
【0021】
しかしながら、特許文献3に記載のアセタール反応は平衡反応であるため、はじめに投入されるアルデヒドやケトンなどの保護基がアセタール反応によるリグニン由来物質のOH基の保護により消費されると、化学平衡は脱保護化に偏りやすくなってしまう。この化学平衡を保護化に偏らせるためにアルデヒドやケトンなどの保護基を過剰に仕込むことも考えられるが、アルデヒドやケトンなどの保護基はリグノセルロースの膨潤を抑制してしまうため、その結果、モノリグノールの生成収率の向上にはつながらない。
【0022】
図1に、従来技術に基づく、リグノセルロース系バイオマスからリグノセルロース由来材料、すなわち硫酸エステル化CNF、CNC、ヘミセルロース及びモノリグノールを並列的に製造する方法の概略を示す。
【0023】
したがって、本発明は、リグノセルロース系バイオマスを余すことなく利用するための、セルロースナノファイバー及びリグニン又はそれらの複合体を含む組成物並びにリグノセルロース系バイオマスからリグノセルロース由来材料を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記したように、セルロースナノファイバーは、それ単独である場合、成型性に乏しい。一方で、セルロースナノファイバーとリグニン由来物質とを組み合わせることで複合体を作製したとしても、セルロースナノファイバーが非修飾セルロースナノファイバー(OH基保有)、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(カルボキシ基(COOH基)保有)、又はリン酸エステル化セルロースナノファイバー(リン酸エステル基保有)である場合、セルロースナノファイバー-リグニン由来物質間の相互作用が弱いため、複合体の強度が弱い。
【0025】
【化2】
(式中、細い点線は、TEMPO酸化セルロースとリグニンとの間に弱い相互作用が存在することを示し、Mは、1価~3価の陽イオンを示す。)
【0026】
【化3】
(式中、細い点線は、リン酸エステル化セルロースとリグニンとの間に弱い相互作用が存在することを示し、Mは、1価~3価の陽イオンを示す。)
【0027】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、セルロースナノファイバーとして硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー(「硫酸エステル化セルロースナノファイバー」ともいう)を使用することで、硫酸エステル化セルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体(「硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体」ともいう)におけるセルロースナノファイバー-リグニン由来物質間の相互作用を強くでき、その結果、成型性を向上できることを見出した。
【0028】
【化4】
(式中、太い点線は、硫酸エステル化セルロースとリグニンとの間に強い相互作用が存在することを示し、Mは、1価~3価の陽イオンを示す。)
【0029】
さらに、本発明者らは、リグノセルロース系バイオマスからのリグノセルロース由来材料の製造において、リグノセルロース系バイオマスにおけるリグニンの縮合反応を抑制するためのリグニン由来物質のOH基の保護化反応と同時に、セルロースの化学処理(硫酸エステル化処理)を行うことで、当該バイオマス由来材料の製造の低エネルギー化及び短時間化を達成できることを見出した。
【0030】
さらに、本発明者らは、リグニン由来物質のOH基の保護化反応を溶剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)及び無水酢酸又はプロピオン酸無水物の存在下で実施することで、リグノセルロースの膨潤を抑制することなくリグニン由来物質のOH基を保護し、モノリグノールの生成収率を向上できることを見出した。
【0031】
さらに、本発明者らは、リグノセルロース系バイオマスを余すことなく利用するために、硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体、硫酸エステル化セルロースナノクリスタル、モノリグノールを並列的に製造する方法を見出した。
【0032】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質を含む組成物。
(2)硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの硫酸エステル基が、式(1)
【化5】
(式中、Mは、1価~3価の陽イオンを示す)
の化学式で示される、(1)に記載の組成物。
(3)硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質が複合体を形成している、(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)複合体が、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質が水素結合している複合体である、(3)に記載の組成物。
(5)複合体が、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質が架橋している複合体である、(3)に記載の組成物。
(6)樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1種の物質をさらに含む、(1)~(5)のいずれか1つに記載の組成物。
(7)有機フィラー及び無機フィラーからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーをさらに含む、(1)~(6)のいずれか1つに記載の組成物。
(8)硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とをせん断力を加えながら混合することを含む、(4)に記載の組成物を製造する方法。
(9)(A)(a)リグニン含有率がリグノセルロース全重量に対して20重量%以上であるリグノセルロースと、
(b)硫酸と、
(c)アルデヒド、ケトン、ボロン酸、2-メトキシプロペン、ジメチルカーボネート、及び2,2-ジメトキシプロパンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、
(d)溶剤としてのジメチルスルホキシドと、
(e)無水酢酸及びプロピオン酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸無水物と、
を混合して混合液を調製し、反応させて反応物を得る工程と、
(B)工程(A)より得られた反応物を塩基により中和して中和物を得る工程と、
(C)工程(B)より得られた中和物を第1の固体成分と第1の液体成分とに分離する工程と
を含む、リグノセルロース由来材料を製造する方法。
(10)工程(A)において、混合液におけるリグノセルロースの割合が、混合液全重量に対して5重量%~50重量%である、(9)に記載の方法。
(11)工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、(a)及び(e)を、記載された順に時間差で添加する、(9)又は(10)に記載の方法。
(12)工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、(a)及び(e)を記載された順に添加し、30分以上混合し、反応させた後、(e)を追加添加して、反応させる、(9)~(11)のいずれか1つに記載の方法。
(13)工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、及び(a)を記載された順に添加後、50℃以上に加熱しながら混合し、反応させ、続いて50℃以下に冷却して、(e)を添加後、反応させる、(9)~(12)のいずれか1つに記載の方法。
(14)工程(A)において、(d)、(b)、(c)、(a)及び(e)の反応物における溶液部分を20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度が0.5以上になってから、工程(B)を実施する、(9)~(13)のいずれか1つに記載の方法。
(15)(D)工程(C)より得られた第1の固体成分中に含まれる硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体と水若しくは有機溶剤又はその混合液とをせん断力を加えながら混合し、解繊し、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とを含む複合体を得る工程をさらに含む、(9)~(14)のいずれか1つに記載の方法。
(16)(D’)工程(C)より得られた第1の固体成分中に含まれる硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体と水若しくは有機溶剤又はその混合液及び硫酸とを混合し、加熱し、硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを得る工程をさらに含む、(9)~(15)のいずれか1つに記載の方法。
(17)(D’’)工程(C)より得られた第1の固体成分とTHF溶剤とを混合して懸濁物を得て、得られた懸濁物をセルロースを含む第2の固体成分と第2の液体成分とに分離する工程、及び分離された第2の液体成分中の未架橋のリグニン由来物質を解重合処理してモノリグノールを得る工程をさらに含む、(9)~(16)のいずれか1つに記載の方法。
(18)硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが相互作用している複合体。
(19)硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが水素結合している、(18)に記載の複合体。
(20)硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している、(18)に記載の複合体。
【発明の効果】
【0033】
本発明によって、リグノセルロース系バイオマスを余すことなく利用するための、セルロースナノファイバー及びリグニン又はそれらの複合体を含む組成物並びにリグノセルロース系バイオマスからリグノセルロース由来材料を効率よく製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】従来技術に基づくリグノセルロース系バイオマスからリグノセルロース由来材料を並列的に製造する方法の概略を示すスキームである。
【
図2】本発明の水素結合複合体の実施態様の例を示す図である。
【
図3】本発明の水素結合複合体の実施態様の例を示す図である。
【
図4】本発明の架橋複合体の実施態様の例を示す図である。
【
図5】本発明の組成物の実施態様の例を示す図である。
【
図6】本発明の水素結合複合体の製造方法の一例を示すスキームである。
【
図7】本発明のリグノセルロース由来材料の製造方法の一例を示すスキームである。
【
図8】本発明のリグノセルロース由来材料の並列的な製造方法の一例を示すスキームである。
【
図9】本発明のリグノセルロース由来材料の並列的な製造方法の一例を示すスキームである。
【
図11】本発明のシステムの制御システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明のセルロースナノファイバー及びリグニン又はそれらの複合体を含む組成物並びにリグノセルロース由来材料の製造方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0036】
本発明は、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質を含む組成物に関する。
【0037】
ここで、セルロースとは、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した多糖類であり、(C6H10O5)nで示される。
【0038】
セルロースナノファイバーとは、セルロースから構成された繊維であり、繊維幅(繊維径(円相当直径))は、通常1nm~500nmであり、繊維長は、通常0.1μm~6μmである。
【0039】
なお、本明細書等において、「数値~数値」で表現される範囲は、当該数値を含む範囲を意味する。例えば前記「1nm~500nm」は、「1nm以上500nm以下」、すなわち、1nm及び500nmを含む1nmから500nmの範囲を示す。
【0040】
繊維幅及び繊維長は、限定されないが、例えば原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅及び繊維長を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。
【0041】
硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとは、硫酸エステル化セルロースナノファイバーともいい、セルロースナノファイバーを構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つが、硫酸エステル基に置換されているセルロースナノファイバーである。硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの硫酸エステル基は、下記の式(1)で示される硫酸エステル基(式中、Mは1価~3価の陽イオンを示す)であることが好ましい。
【0042】
【0043】
式(1)中のMで表される1価~3価の陽イオンとしては、水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。なお、Mが2価又は3価の陽イオンの場合、当該陽イオンは、2つ又は3つの-OSO3-との間でイオン結合を形成する。
【0044】
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
【0045】
ここで、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。遷移金属としては、鉄、ニッケル、パラジウム、銅、銀などが挙げられる。その他の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどが挙げられる。
【0046】
アンモニウムイオンとしては、NH4
+だけでなく、NH4
+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンが挙げられ、例えば、NH4
+、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオンなどが挙げられる。
【0047】
Mで示される陽イオンとしては、リグニンとの相互作用の強さ及び加工性の高さから、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、又は第四級アンモニウムカチオンが好ましい。以上列挙した陽イオンは、いずれか1種でもよいが、2種以上を組み合わせてもよい。
【0048】
硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーは、硫酸エステル基の他に、他の置換基を有していてもよい。ここで、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーが他の置換基を有する場合、他の置換基は、セルロースナノファイバーを構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つと置換されている。他の置換基としては、例えば、限定されないが、アニオン性置換基及びその塩、エステル基、エーテル基、アシル基、アルデヒド基、アルキル基、アルキレン基、アリール基、これらの2種以上の組み合わせなどが挙げられる。他の置換基が2種以上の組み合わせの場合、それぞれの置換基の含有比率は限定されない。他の置換基としては、中でも、ナノ分散性の観点からアニオン性置換基及びその塩、又はアシル基が好ましい。アニオン性置換基及びその塩としては、特にカルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基が好ましい。アニオン性置換基が塩の形態である場合、ナノ分散性の観点からナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。また特に好ましいアシル基としては、ナノ分散性の観点からアセチル基が好ましい。
【0049】
硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーにおける硫酸エステル化修飾率は、用途などに応じて任意の適切な値に設定することができる。硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの硫酸エステル化修飾率は、セルロースナノファイバー中の硫黄含有率(重量%)で表すことができる。硫酸エステル化修飾セルロースナノファイバー中の硫黄含有率(重量%)は、限定されないが、通常0.05重量%~30重量%であり、好ましくは0.1重量%~25重量%であり、より好ましくは0.5重量%~22重量%である。硫黄含有率が30重量%より高くなると結晶化度及び耐熱性が低下するおそれがある。硫黄含有率が0.05重量%未満となるとセルロースナノファイバーにおける硫酸エステル基とリグニン由来物質との相互作用が十分に得られないおそれがある。
【0050】
セルロースナノファイバー中の硫黄含有率(重量%)は、例えば燃焼吸収-イオンクロマトグラフィー(IC)法により求めることができる。あるいは、セルロースナノファイバー中の硫黄含有率(重量%)は、赤外分光法(IR)で確認することもできる。硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの硫黄含有率は、例えば以下の方法で測定することができる。
【0051】
・測定方法:燃焼吸収-IC
・測定装置:日本ダイオネクス株式会社製のICS-1500
・測定条件:磁性ボードに試料を秤量し、酸素雰囲気下(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)で燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させて吸収液を得る。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液をイオンクロマトグラフィーに供する。測定結果からセルロースナノファイバーに対する硫酸イオン濃度を算出する。さらに、下記式により硫酸イオン濃度から硫黄含有率を換算する。なお、この方法によるセルロースをベースとした硫酸イオン濃度の検出限界値は0.01重量%である。そのため、硫酸イオン濃度から換算した硫黄含有率の定量下限値は0.01重量%である。そのため、硫黄含有率が0.01重量%未満である硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーは無修飾(すなわち、硫酸エステル化修飾されていない)セルロースナノファイバーであり得る。
・硫黄含有率(重量%)=硫酸イオン濃度×32/96
【0052】
本発明の硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの平均繊維径は、前記で定義したセルロースナノファイバーの繊維径と同等であり、通常1nm~500nmの範囲である。セルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは2nm~100nmであり、より好ましくは3nm~50nmであり、さらに好ましくは5nm~20nmである。平均繊維径が1nm未満であるとナノファイバーの強度などの性能面も低下するおそれがある。平均繊維径が500nmを超えると、繊維径が大きいためナノファイバーとしての性能が発揮されにくい傾向がある。なお、平均繊維径は、前記のセルロースナノファイバーと同じように、原子間力顕微鏡画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均した値である。
【0053】
本発明の硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの結晶化度は、用いる原料セルロースに依存し得る。例えば、綿類セルロースは本来の結晶化度が木材類セルロースと比べ高くなり得る。すなわち、セルロースナノファイバーの結晶化度は用いる原料セルロースにより異なる。しかしながら、セルロースナノファイバーの結晶化度はそのリグニン由来物質との均一化、加工性、耐熱性、補強効果などセルロースナノファイバーの性能を左右するため、通常20%~99%であり、好ましくは30%~95%、より好ましくは40%~90%、さらに好ましくは50%~85%である。結晶化度が20%より低くなるとセルロースナノファイバーの耐熱性や剛直性が低下するおそれがある。一方、99%を超えるとリグニン由来物質との均一化が困難になる。
【0054】
リグニンとは、フェニルプロパンを骨格とする構成単位体が縮合してできた網状高分子化合物であり、天然のバイオマスから取り出される前の未変性の組成である。また、リグニンは、各バイオマスの種類に特有の割合で、芳香核単位のグアイアシル核(G核)、シリンギル核(S核)、p-ヒドロキシフェニル核(H核又はP核)が結合した構造を有する。
【0055】
リグニン由来物質とは、天然のバイオマスからいずれかの手法により抽出された化合物であり、分子内の一部の置換基に変性を伴う。また、バイオマスより抽出されたリグニン由来物質を、さらにいずれか手法により分子内の一部の置換基を更に置換した化合物もリグニン由来物質に分類される。リグニン由来物質としては、例えばクラフトリグニン、リグニンスルホン酸、ソーダリグニン、ソーダアントラキノンリグニン、硫酸リグニン、グリコールリグニン、酵素加水分解リグニン、水熱処理リグニン、水蒸気爆砕処理リグニン、オルガノソルブリグニン及びそれらの塩などが挙げられる。
【0056】
リグニンの重量平均分子量は、限定されないが、通常1,500~500,000、好ましくは10,000~200,000である。リグニンの重量平均分子量が1,500を下回ると組成物として脆くなりやすく、500,000を超えるとセルロースと混合した際に均一分散が達成されにくくなる。
【0057】
本発明の組成物は、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーを、組成物の総重量に対して、通常0.03重量%~85重量%、好ましくは5重量%~50重量%で含む。
【0058】
本発明の組成物は、リグニン由来物質を、組成物の総重量に対して、通常0.03重量%~85重量%、好ましくは5重量%~50重量%で含む。
【0059】
本発明の組成物では、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質との重量比(硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー:リグニン由来物質)は、通常0.05:99.5~85.0:15.0、好ましくは5.0:95.0~50.0:50.0である。
【0060】
本発明の組成物が、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質を含むことにより、硫酸エステル化セルロースナノファイバーの硫酸エステル基の、OH基、COOH基、及びリン酸エステル基と比較した場合における小さな酸解離定数によって、硫酸エステル基とリグニン由来物質のOH基との間で強い相互作用を形成することができる。また、それにより、硫酸エステル化セルロースとリグニンの相溶性を向上することができる。したがって、本発明の組成物が、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質を、前記の含有量で含むことにより、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーに含まれるSO4基とリグニン由来物質に含まれるOH基との間に強い相互作用が形成されるため、当該組成物を使用して成型したときに、成型性をより向上することができる。
【0061】
なお、本発明は、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーに含まれるSO4基とリグニン由来物質に含まれるOH基との間に形成される強い相互作用(水素結合)を利用することにあるため、本発明の組成物には、結果として硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが組み合わされた状態になる組み合わせ又は組成物、例えば溶媒中に加えて使用するような、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質をそれぞれ固体の形態で含む組み合わせ又は組成物も含まれる。
【0062】
本発明は、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体(硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体)及び当該複合体を含む組成物にも関する。
【0063】
硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体とは、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが互いに相互作用している複合体である。
【0064】
本発明における複合体において、各材料間の相互作用としては、水素結合、イオン結合、共有結合、双極子相互作用などが挙げられる。
【0065】
例えば、本発明における複合体としては、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質が水素結合している複合体(「水素結合複合体」ともいう)が挙げられる。
【0066】
水素結合とは、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーに含まれるSO4基のS及び/又はOとリグニン由来物質に含まれるOH基のHとの間に形成される引力的相互作用である。
【0067】
本発明における水素結合複合体では、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質との重量比(硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー:リグニン由来物質)は、通常0.05:99.5~85.0:15.0、好ましくは5.0:95.0~50.0:50.0である。
【0068】
本発明における水素結合複合体における各材料の重量比が前記範囲であることにより、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーに含まれるSO4基とリグニン由来物質に含まれるOH基との間により強固な水素結合が形成され、当該組成物を使用して成型したときに、成型性をさらにより向上することができる。
【0069】
例えば、本発明における複合体としては、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質が架橋している複合体(「架橋複合体」ともいう)が挙げられる。
【0070】
架橋とは、セルロースのヒドロキシ基と、リグニン由来物質のヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、メトキシ基、カルボニル基、アルケン部位又はエーテル部位との間で縮合反応や付加反応を生じさせ、化学結合をつくりだすことを指す。
【0071】
化学結合の種類としては、結合が成り立つ限り限定されず、1種以上の架橋剤を介して結合が形成される。
【0072】
結合の種類としては、限定されないが、例えばウレタン結合、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、尿素結合などが挙げられる。
【0073】
本発明における架橋複合体では、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質との重量比(硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー:リグニン由来物質)は、通常0.05:99.5~85.0:15.0、好ましくは5.0:95.0~50.0:50.0である。
【0074】
本発明における架橋複合体の各材料の重量比が前記範囲であることにより、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーに含まれるSO4基とリグニン由来物質に含まれるOH基との間に形成される強い相互作用(水素結合)に加え、各材料間の結びつきがより強固になり、当該組成物を使用して成型したときに、成型性をさらにより向上することができる。
【0075】
架橋複合体の重量平均分子量は、限定されないが、通常1,000~200,000、好ましくは10,000~100,000である。架橋複合体の重量平均分子量が1,000未満であると複合体が脆くなりやすく、200,000を超えると架橋が過剰のため固く加工性が低下する。
【0076】
架橋複合体において、架橋の形成は、特に限定されないが、赤外分光、近赤外分光、ラマン分光、NMR、元素分析、GPC、DSCなど、架橋構造に由来する結合の同定や、架橋に由来する物理定数や物性の変化より確認することができる。
【0077】
本発明の組成物は、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質又はそれらの複合体の他に、添加物をさらに含んでいてもよい。
【0078】
添加物としては、限定されないが、例えば樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1種の物質、有機フィラー及び無機フィラーからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーなどが挙げられる。
【0079】
樹脂及びゴムとしては、限定されないが、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂(高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、アクリルアミド樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどが挙げられる。
【0080】
有機フィラーとしては、限定されないが、例えば、上述の樹脂及びゴムを粒状にしたものの他、有機物からなる色素、UV吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤などの機能性化合物などが挙げられる。
【0081】
無機フィラーとしては、限定されないが、例えば、シリカ、マイカ、タルク、クレー、カーボン、炭酸塩、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化物、例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、セラミックス、例えばフェライトなどが挙げられる。
【0082】
本発明の組成物は、添加物を、組成物の総重量に対して、通常0.1重量%~10.0重量%、好ましくは0.5重量%~5.0重量%で含む。
【0083】
本発明の組成物が添加物として無機フィラーや樹脂やゴムを粒状にした有機フィラーを含むことにより、本発明の組成物を成型したときの成型性、特に破断強度を向上させることができる。また、有機フィラーが機能性化合物である場合、各種機能性化合物特有の特性付与と破断強度及び折り曲げ耐性の両立が達成される。
【0084】
図2~5に、本発明の実施態様の例を示す。
図2Aは、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質が水素結合している複合体(水素結合複合体)の一例を示す。
図2Bは、硫酸エステル基及びカルボキシ基を有するセルロースナノファイバー並びにリグニン由来物質が水素結合している複合体(水素結合複合体)の一例を示す。
図2Cは、硫酸エステル基及びリン酸エステル基を有するセルロースナノファイバー並びにリグニン由来物質が水素結合している複合体(水素結合複合体)の一例を示す。
図3Dは、硫酸エステル基及びアセチル基を有するセルロースナノファイバー並びにリグニン由来物質が水素結合している複合体(水素結合複合体)の一例を示す。
図3Eは、硫酸エステル基、リン酸エステル基及びアセチル基を有するセルロースナノファイバー並びにリグニン由来物質が水素結合している複合体(水素結合複合体)の一例を示す。
図2A~C及び
図3D~Eの複合体では、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの硫酸エステル基とリグニン由来物質のOH基との間に強い静電相互作用が発生し、当該相互作用は複合体としての強度向上につながる。また、当該複合体は、柔軟性も兼ね備える。
図4Fは、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質が架橋している複合体(架橋複合体)の一例を示す。
図4Fの複合体では、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーの硫酸エステル基とリグニン由来物質のOH基との間の強い静電相互作用に加え、架橋により複合体としての強度がさらに向上している。一方、当該複合体は、柔軟性も兼ね備える。
図5Gは、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体並びに樹脂を含む組成物の一例を示す。
図5Hは、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体並びに無機フィラー及び有機フィラーを含む組成物の一例を示す。
図5Iは、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体、樹脂並びに無機フィラー及び有機フィラーを含む組成物の一例を示す。
【0085】
本発明による複合体は、成型加工が可能であり、各種の筐体や容器の用途で利用することができる。また、シート状に成型加工が可能であることから、本発明の複合体単独や紙などとの積層によるパッケージ用途としての利用が可能である。
【0086】
本発明はまた、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質若しくはそれらの複合体を含む組成物、又はリグノセルロース由来材料を製造する方法にも関する。
【0087】
本発明の一実施形態として、本発明の組成物の製造方法は、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とを、混合、好ましくはせん断力を加えながら混合することを含む。この際、必要に応じて、前記の添加物を添加することもできる。
【0088】
硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとしては、前記のものを使用することができる。硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとしては、例えば特許文献2に記載の硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーを使用することができる。
【0089】
リグニン由来物質としては、前記のものを使用することができる。リグニン由来物質としては、例えばIndulin AT(シグマアルドリッチ製)、アルカリリグニン(シグマアルドリッチ製)、リグニンスルホン酸(東京化成工業株式会社製)、グリコールリグニン(株式会社リグノマテリア製)などを使用することができる。
【0090】
本発明では、例えば硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーと、リグニン由来物質とを、場合により溶媒、例えば水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどを投入した容器の中に、好ましくは前記組成物における各材料の比率になるように添加し、各材料にせん断力を加えることができる装置、例えば撹拌機、三本ロール機、二軸混錬機、3軸遊星混錬機、ディスパー、ペイントシェイカー、ビーズミル、カッターミキサー、プラネタリーミキサーなどを使用して、混合する。
【0091】
混合条件は、限定されず、当業者に公知の条件を使用することができ、例えば、通常20℃~150℃において、通常5分間~1時間混合することができる。
【0092】
本発明の前記製造方法によって、本発明の複合体又は組成物、すなわち、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質又はそれらの複合体、特に硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質が水素結合している複合体又は当該複合体を含む組成物を製造することができる。
【0093】
図6に、本発明の前記実施形態による水素結合複合体の製造方法の一例を示す。
図6では、市販のパルプから硫酸エステル化セルロースナノファイバーを調製し、調製した硫酸エステル化セルロースナノファイバーと市販のリグニン誘導体とをせん断力を加えながら混合し、硫酸エステル化セルロースナノファイバー及びリグニン誘導体の複合体を調製する。
【0094】
本発明の一実施形態として、本発明のリグノセルロース由来材料の製造方法は、
(A)(a)リグニン含有率がリグノセルロース全重量に対して20重量%以上であるリグノセルロースと、
(b)硫酸と、
(c)アルデヒド、ケトン、ボロン酸、2-メトキシプロペン、ジメチルカーボネート、及び2,2-ジメトキシプロパンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、
(d)溶剤としてのジメチルスルホキシドと、
(e)無水酢酸及びプロピオン酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸無水物と、
を混合して混合液を調製し、反応させて反応物を得る工程と、
(B)工程(A)より得られた反応物を塩基により中和して中和物を得る工程と、
(C)工程(B)より得られた中和物を第1の固体成分と第1の液体成分とに分離する工程と
を含む。
【0095】
まず、工程(A)では、(a)リグニン含有率がリグノセルロース全重量に対して20重量%以上であるリグノセルロースと、(b)硫酸と、(c)アルデヒド、ケトン、ボロン酸、2-メトキシプロペン、ジメチルカーボネート、及び2,2-ジメトキシプロパンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、(d)溶剤としてのジメチルスルホキシドと、(e)無水酢酸及びプロピオン酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸無水物と、を混合して混合液を調製し、反応させることで、リグニン由来物質のOH基を保護し、且つセルロースナノファイバーを硫酸エステル化し、且つ硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とを架橋させる。
【0096】
工程(A)における(a)のリグノセルロースは、リグニン含有率がリグノセルロース全重量に対して20重量%以上であるリグノセルロースである。(a)のリグノセルロースは、リグニン含有率がリグノセルロース全重量に対して20重量%以上、特に30重量%以上であることが好ましい。(a)のリグノセルロースは、例えば樹皮を除去済みのウッドチップを用いることができ、松ウッドチップ、杉ウッドチップ、ヒノキウッドチップ、白樺ウッドチップとしてガーデニング用品として流通するものの他、端材としても入手可能である。また、ナッツシェルなどは食品加工工場の廃棄物として入手することができる。
【0097】
工程(A)における(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液における(a)のリグノセルロースの割合は、限定されないが、(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液全重量に対して、通常5重量%~50重量%、好ましくは15重量%~30重量%である。
【0098】
工程(A)における(a)のリグノセルロースのリグニン含有率及び混合液中の含有量が前記範囲であることにより、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体だけでなく、利用価値の高いモノリグノールを効率よく回収することができる。
【0099】
工程(A)における(b)の化合物は、硫酸である。
【0100】
工程(A)における(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液における(b)の硫酸の割合は、限定されないが、(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液全重量に対して、通常0.5重量%~3.0重量%である。
【0101】
工程(A)における(b)の硫酸の混合液中の含有量が前記範囲であることにより、セルロースの硫酸エステル化を効率よく実施することができる。
【0102】
工程(A)における(c)の化合物は、アルデヒド、ケトン、ボロン酸、2-メトキシプロペン、ジメチルカーボネート、及び2,2-ジメトキシプロパンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0103】
(c)の化合物において、アルデヒドとしては、限定されないが、ホルムアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、アセトアルデヒド、ブタナール、ペンタナールなどが挙げられる。
【0104】
(c)の化合物において、ケトンとしては、限定されないが、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0105】
(c)の化合物において、ボロン酸としては、限定されないが、フェニルボロン酸、メチルボロン酸、2-チオフェンボロン酸などが挙げられる。
【0106】
工程(A)における(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液における(c)の化合物の割合は、限定されないが、(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液全重量に対して、通常0.5重量%~10.0重量%である。
【0107】
工程(A)における(c)の化合物の種類及び混合液中の含有量が前記範囲であることにより、リグニン由来物質のOH基を効率よく保護することができる。
【0108】
工程(A)における(d)の溶剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)である。
【0109】
工程(A)における(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液における(d)の溶剤の割合は、限定されないが、(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液全重量に対して、通常40.0重量%~85.0重量%である。
【0110】
工程(A)における(d)の溶剤の種類及び混合液中の含有量が前記範囲であることにより、溶剤がリグノセルロースを効率よく膨潤させ、リグニン成分の抽出効率を高くすることができる。
【0111】
工程(A)における(e)のカルボン酸無水物は、無水酢酸及びプロピオン酸無水物からなる群から選択される少なくとも1種のカルボン酸無水物である。また、ピバル酸無水物、安息香酸無水物の他、TFAや塩化オキサリル、ハロゲンをさらに含んでいてもよい。
【0112】
工程(A)における(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液における(e)のカルボン酸無水物の割合は、限定されないが、(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合液全重量に対して、通常3.0重量%~15.0重量%である。
【0113】
工程(A)における(e)の化合物の種類及び混合液中の含有量が前記範囲であることにより、リグニン由来物質のOH基を効率よく保護することができる。
【0114】
工程(A)における(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)の混合条件及び反応条件は限定されない。例えば、工程(A)において、(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)を、通常50℃~120℃で、通常0.5時間~5.0時間混合し、反応させる。
【0115】
工程(A)では、(d)に、(b)、(c)、(a)及び(e)を、それぞれ記載された順に時間差で添加することが好ましい。
【0116】
ここで、「材料を時間差で添加する」とは、1つの材料を添加した後、通常1分~60分、好ましくは5分~30分間空けてから次の材料を添加することを示す。
【0117】
工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、(a)及び(e)を、それぞれ記載された順に時間差で添加することにより、得られたリグノセルロース由来材料、特に硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体又は当該複合体を含む組成物を成型したときの成型性、特に折り曲げ耐性を向上することができる。さらに、リグニン由来物質のβ-O-4結合の保護化反応も効率的に進行するため、リグニンモノマーの収率も向上する。
【0118】
工程(A)では、(d)に、(b)、(c)、(a)及び(e)を、記載された順に添加し、通常30分以上、好ましくは60分以上、通常120分以下、好ましくは90分以下混合し、反応させた後、(e)を追加添加して、反応させる、好ましくはさらに混合、通常30分~120分間混合し、反応させることが好ましい。
【0119】
工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、(a)及び(e)を、記載された順に添加し、一定時間経過後、(e)を追加添加して、反応させることにより、セルロースのヒドロキシ基が効果的に硫酸エステル化され、得られたリグノセルロース由来材料、特に硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体又は当該複合体を含む組成物を成型したときの成型性、特に折り曲げ耐性を向上することができる。さらに、リグニン由来物質のβ-O-4結合の保護化反応も効率的に進行するため、リグニンモノマーの収率も向上する。
【0120】
工程(A)では、(d)に、通常25℃~50℃で、(b)、(c)、及び(a)を添加後、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、通常120℃以下、好ましくは100℃以下に加熱しながら、通常30分~120分間混合して反応させ、続いて50℃以下、好ましくは40℃以下、通常20℃以上に冷却して、(e)を添加後、反応させる、好ましくはさらに混合、通常30分~120分間混合して、反応させることが好ましい。
【0121】
工程(A)において、(d)に、(b)、(c)、及び(a)を添加後、一定温度に加熱しながら混合して反応させ、続いて一定温度に冷却して(e)を添加後反応させることにより、セルロースのヒドロキシ基が効果的に硫酸エステル化され、得られたリグノセルロース由来材料、特に硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体又は当該複合体を含む組成物を成型したときの成型性、特に折り曲げ耐性を向上することができる。さらに、リグニン由来物質のβ-O-4結合の保護化反応も効率的に進行するため、リグニンモノマーの収率も向上する。
【0122】
工程(A)の完了の判断、すなわち工程(A)から工程(B)に進む判断は、反応時間などで行うこともできるが、例えば反応物における溶液部分の吸光度の値から行ってもよい。例えば、工程(A)は、(d)、(b)、(c)、(a)及び(e)の反応物における溶液部分を20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度に基づいて、完了させる、つまり、混合及び/又は反応を停止することができる。具体的には、工程(A)の実施中に、(d)、(b)、(c)、(a)及び(e)の反応物における溶液の一部をサンプリングして、20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度を測定し、当該吸光度が通常0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上になったら混合及び/又は反応を停止し、工程(B)に進むことができる。
【0123】
工程(A)において、混合及び反応の停止時期を反応物における溶液部分を20倍に希釈した溶液の吸光度により決定することにより、利用価値の高いモノリグノールの生成効率を向上することができる。
【0124】
工程(A)では、DMSO及び無水酢酸又はプロピオン酸無水物は、(反応式1)に示すアルブライト・ゴールドマン酸化反応により、リグニン由来物質のOH基をアルデヒド基に変換する。このため、反応開始時に投入する(c)の化合物、特にアルデヒドが消費されても、反応式1により生成されるアルデヒドが補充されることで、リグニン由来物質のOH基の保護化反応の化学平衡はアセタール反応を推進する方向を維持することになる。また、反応式1で生じたリグニン由来物質のアルデヒド基(CHO基)は、隣接するリグニン由来物質のOH基とアセタール反応する。その結果、本発明によれば、モノリグノール生成収率向上に必要なリグノセルロースの膨潤と化学平衡のアセタール反応を推進する方向とを共に達成することができる。
【0125】
【0126】
したがって、本発明の工程(A)では、(a)~(e)の原料を混合することにより、リグニン由来物質のOH基を保護し、且つセルロースナノファイバーを硫酸エステル化し、且つ硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とを架橋させることができる。
【0127】
続いて、工程(B)では、工程(A)より得られた反応物を塩基により中和する。
【0128】
塩基としては、限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アンモニアなどが挙げられる。
【0129】
中和は、反応物の溶液部分のpHが通常5.0~8.0、好ましくは6.5~7.5になるまで実施される。
【0130】
工程(B)において中和を行うことにより、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質又はそれらの複合体を含む組成物は長期間保存した際の物性変化を大幅に抑制する事ができる。
【0131】
さらに、工程(C)では、工程(B)より得られた中和物を第1の固体成分と第1の液体成分とに分離する。ここで、第1の固体成分には、硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体が含まれ、第1の液体成分には、未架橋のリグニン由来物質、ヘミセルロース成分及びジメチルスルホキシド溶剤とが含まれる。
【0132】
中和物を第1の固体成分と第1の液体成分とに分離する方法は、限定されないが、当技術分野で公知の分離技術、例えばフィルターろ過、加圧ろ過、減圧ろ過、遠心分離、スクリューろ過、圧搾ろ過などが挙げられる。工程(C)の固液分離は、任意の含液率で調整が可能である。このため、工程(C)で得られる硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体は、未架橋のリグニン由来物質を含んでいてもよい。
【0133】
固液分離の含液率の調整により、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質との量論比を制御する事ができ、得られたリグノセルロース由来材料、特に硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体又は当該複合体を含む組成物を成型したときの成型性、特に破断強度や折り曲げ耐性を向上させることができる。
【0134】
工程(C)により、第1の固体成分である硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体と第1の液体成分である未架橋のリグニン由来物質、ヘミセルロース成分及びジメチルスルホキシド溶剤とを分離することにより、下記で詳細を説明する工程(D)、工程(D’)、(D’’)及び工程(D’’’)において、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体、硫酸エステル化セルロースナノクリスタル、セルロース及びモノリグノールをそれぞれ並列的に得ることができる。
【0135】
本発明の一実施形態として、本発明のリグノセルロース由来材料の製造方法は、
(D)工程(C)より得られた第1の固体成分に含まれる硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体と水若しくは有機溶剤又はその混合液とをせん断力を加えながら混合し、硫酸エステル基を有するセルロースにおける負電荷を帯びた硫酸エステル基同士による静電反発を発生させて、繊維幅をナノサイズにまで解繊し、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とを含む複合体、特に硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体を得る工程
をさらに含んでもよい。
【0136】
混合条件は、限定されないが、硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体と水若しくは有機溶剤又はその混合液とを、通常5℃~40℃で、通常0.1時間~2時間混合する。
【0137】
工程(D)では、例えば、工程(C)より得られた硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体を、溶媒としての水を投入した容器の中に、混合液全重量に対して通常0.1重量%~10重量%になるように添加し、当該硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体にせん断力を加えることができる装置、例えば撹拌機、三本ロール機、二軸混錬機、3軸遊星混錬機、ディスパー、ペイントシェイカー、ビーズミル、カッターミキサー、プラネタリーミキサーなどを使用して混合することにより、リグノセルロース由来材料としての、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体の分散液を得ることができる。また、必要に応じて分散液を凍結乾燥やスプレードライなどの公知の方法で乾燥することにより、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体の固体成分を得ることができる。
【0138】
図7に、本発明の前記実施形態によるリグノセルロース由来材料の製造方法(A)~(D)の一例を示す。
図7では、(A)乾燥させたリグノセルロース系バイオマス(a)と、前記(b)~(e)の材料とを、好ましくは(d)、(b)、(c)、(a)、(e)の順で混合させて、バイオマス中のリグニン由来物質のOH基の保護とセルロースの硫酸エステル化を同時に実施し、その後、(B)中和工程、(C)分離工程を経て、(D)せん断力を加えながら混合・解繊することにより、リグノセルロース由来材料としての硫酸エステル化セルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体の分散液を調製する。また必要に応じて分散液を凍結乾燥やスプレードライなどの公知の方法で乾燥することにより、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体の固体成分を得ることができる。
【0139】
本発明の一実施形態として、本発明のリグノセルロース由来材料の製造方法は、
(D’)工程(C)より得られた第1の固体成分に含まれる硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体と水若しくは有機溶剤又はその混合液及び硫酸とを混合し、加熱することで硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを得る工程
をさらに含んでもよい。
【0140】
工程(D’)では、例えば、工程(C)より得られた第1の固体成分に含まれる硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体(混合液全重量に対して通常2重量%~20重量%)と、水(混合液全重量に対して通常20重量%~50重量%)と、硫酸(混合液全重量に対して通常40重量%~70重量%)とを混合して混合液を調製し、混合液を、通常40℃~90℃に加熱したまま、通常20分間~3時間撹拌することにより、リグノセルロース由来材料としての硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを得ることができる。
【0141】
工程(D’)を工程(A)、続いて工程(C)の後に実施することにより、工程(D’)における酸加水分解反応時間を短縮することができる。
【0142】
本発明の一実施形態として、本発明のリグノセルロース由来材料の製造方法は、
(D’’)工程(C)より得られた第1の固体成分、特に未架橋のリグニン由来物質を含む第1の固体成分とTHF溶剤とを混合して懸濁物を得て、得られた懸濁物をセルロースを含む第2の固体成分と第2の液体成分とに分離する工程、及び分離された第2の液体成分中の未架橋のリグニン由来物質を解重合処理してモノリグノールを得る工程
をさらに含んでもよい。
【0143】
懸濁物を第2の固体成分と第2の液体成分とに分離する方法は、限定されないが、当技術分野で公知の分離技術、例えばフィルターろ過、加圧ろ過、減圧ろ過、遠心分離、スクリューろ過、圧搾ろ過などが挙げられる。
【0144】
工程(D’’)では、第1の固体成分とTHF溶剤とを混合して得られた懸濁物から、第2の固体成分としてセルロースを得ると共に、第2の液体成分として未架橋のリグニン由来物質を得て、当該未架橋のリグニン由来物質を当技術分野で公知の解重合処理を使用してモノリグノールを得ることができ、したがって、セルロース及びモノリグノールを並列的に得ることができる。
【0145】
本発明の一実施形態として、本発明のリグノセルロース由来材料の製造方法は、
(D’’’)工程(C)より得られたリグニン由来物質、ヘミセルロース、及びジメチルスルホキシドからなる第1の液体成分に対し、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤を加えてリグニン由来物質沈殿させ、分離技術、例えばろ過などによりヘミセルロース成分及びジメチルスルホキシドを液分として除去し、単離したリグニン由来物質に解重合処理することでモノリグノールを得る工程
をさらに含んでもよい。
【0146】
工程(D’’’)では、当技術分野で公知の解重合処理を使用することにより、すなわち工程(C)より得られた第1の液体成分に対し、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶剤を加えてリグニン由来物質を沈殿させ、ろ過などの分離技術によりヘミセルロース成分及びジメチルスルホキシドを液分として除去し、単離したリグニン由来物質を解重合処理して、モノリグノールを得ることができる。
【0147】
工程(D’’)及び工程(D’’’)では、例えば、工程(C)及び単離処理により得られたリグニン由来物質(混合液全重量に対して通常0.5重量%~20重量%)と、テトラヒドロフラン(混合液全重量に対して通常80重量%~99重量%)と、水素ガス(導入圧力0.8MPa~5MPa、密閉)と、金属触媒、例えばルテニウムカーボン、パラジウムカーボン、白金カーボンなどとを混合して混合液を調製し、混合液を、通常100℃~250℃に加熱したまま、通常1時間~6時間撹拌することにより、リグノセルロース由来材料としてのモノリグノールを得ることができる。
【0148】
本発明の前記製造方法によって、リグノセルロース由来材料、特に硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体、当該複合体を含む組成物、硫酸エステル化セルロースナノクリスタル、セルロース、モノリグノールを並列的に効率よく製造することができる。
【0149】
図8及び9に、本発明の前記実施形態による架橋複合体の製造方法(A)~(D’’’)の一例を示す。
図8では、(A)乾燥させたリグノセルロース系バイオマス(a)と、前記(b)~(e)の材料とを、好ましくは(d)、(b)、(c)、(a)、(e)の順で混合させて、バイオマス中のリグニン由来物質のOH基の保護とセルロースの硫酸エステル化を同時に実施し、その後、(B)中和工程、(C)分離工程を経て、第1の固体成分について、(D)せん断力を加えながら混合・解繊することにより、硫酸エステル化セルロース及びリグニン由来物質の複合体から硫酸エステル化セルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体を調製し、(D’)硫酸エステル化セルロースを酸加水分解することにより、硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを調製し、第1の液体成分について(D’’’)リグニン由来物質を解重合処理して、モノリグノールを調製して、各リグノセルロース由来材料を並列的に製造する。
【0150】
図9では、(A)乾燥させたリグノセルロース系バイオマス(a)と、前記(b)~(e)の材料とを、好ましくは(d)、(b)、(c)、(a)、(e)の順で混合させて、バイオマス中のリグニン由来物質のOH基の保護とセルロースの硫酸エステル化を同時に実施し、その後、(B)中和工程、(C)ろ過(ヘミセルロース分離処理)工程を経て、第1の固体成分(未架橋のリグニン由来物質を含む)と、第1の液体成分であるヘミセルロースとに分離し、第1の固体成分(未架橋のリグニン由来物質を含む)について、(D)せん断力を加えながら混合・解繊することにより、硫酸エステル化セルロース及びリグニン由来物質の複合体から硫酸エステル化セルロースナノファイバー及びリグニン由来物質の複合体を調製し、(D’)硫酸エステル化セルロースを酸加水分解することにより、硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを調製し、(D’’)THFを加えて、ろ過、洗浄することにより、第2の固体成分としてのセルロースと、第2の液体成分としてのリグニン由来物質とを得て、リグニン由来物質を解重合処理して、モノリグノールを調製して、各リグノセルロース由来材料を並列的に製造する。
【0151】
本発明はまた、本発明の製造方法に基づく、リグノセルロース由来材料を製造するためのシステム及び当該システムを制御するための制御システムに関する。
【0152】
図10に本発明のシステムの一例を示し、
図11に本発明のシステムの制御システムの一例を示す。
【0153】
図10より、本発明のシステムは、
(工程(A)のためのシステム)
乾燥機であって、原料であるリグノセルロース系バイオマスを乾燥してリグノセルロース乾燥体を得るための乾燥機と、
乾燥機と反応槽とを接続する搬送機であって、乾燥機から反応槽にリグノセルロース乾燥体を搬送するための搬送機と、
反応槽であって、搬送機により搬送されたリグノセルロース乾燥体において、リグノセルロースに含まれるリグニン由来物質のOH基を保護し、且つセルロースを硫酸エステル化し、且つ硫酸エステル化セルロースとリグニン由来物質とを架橋させて架橋複合体を得て、架橋複合体を含む反応物を得るための反応槽と、
(工程(B)~工程(C)のためのシステム)
反応槽と中和・ろ過・洗浄槽とを接続する搬送機であって、反応槽から中和・ろ過・洗浄槽に反応物を搬送するための搬送機と、
中和・ろ過・洗浄槽であって、搬送機により搬送された反応物を中和・ろ過・洗浄して固体(硫酸エステル基を有するセルロース及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースとリグニン由来物質とが架橋している複合体)及び液体を得るための中和・ろ過・洗浄槽と、
(工程(D)のためのシステム)
中和・ろ過・洗浄槽と解繊処理槽とを接続する搬送機であって、中和・ろ過・洗浄槽から解繊処理槽に固体を搬送するための搬送機と、
解繊処理槽であって、搬送機により搬送された固体を解繊処理して硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバー及びリグニン由来物質からなり、硫酸エステル基を有するセルロースナノファイバーとリグニン由来物質とが架橋している複合体を得るための解繊処理槽と、
解繊処理槽と貯槽とを接続する搬送機であって、解繊処理槽から貯槽に複合体を搬送するための搬送機と、
貯槽であって、搬送機により搬送された複合体を保存するための貯槽と、
(工程(D’)のためのシステム)
中和・ろ過・洗浄槽と加水分解槽とを接続する搬送機であって、中和・ろ過・洗浄槽から加水分解槽に固体を搬送するための搬送機と、
加水分解槽であって、搬送機により搬送された固体を加水分解処理して硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを含む分散液を得るための加水分解槽と、
加水分解槽とろ過・洗浄槽とを接続する搬送機であって、加水分解槽からろ過・洗浄槽に硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを含む分散液を搬送するための搬送機と、
ろ過・洗浄槽であって、搬送機により搬送された硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを含む分散液をろ過・洗浄して硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを得るためのろ過・洗浄槽と、
ろ過・洗浄槽と分散機とを接続する搬送機であって、ろ過・洗浄槽から分散機に硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを搬送するための搬送機と、
分散機であって、搬送機により搬送された硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを分散して分散硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを得るための分散機と、
分散機と貯槽とを接続する搬送機であって、分散機から貯槽に分散硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを搬送するための搬送機と、
貯槽であって、搬送機により搬送された分散硫酸エステル化セルロースナノクリスタルを保存するための貯槽と、
ろ過・洗浄槽と活性汚泥槽とに接続する搬送機であって、ろ過・洗浄槽から活性汚泥槽に活性汚泥を搬送するための搬送機と、
活性汚泥槽であって、搬送機により搬送された炭化水素を処理・保存するための活性汚泥槽と、
(工程(D’’)のためのシステム)
中和・ろ過・洗浄槽と蒸留塔とを接続する搬送機であって、中和・ろ過・洗浄槽から蒸留塔に液体を搬送するための搬送機と、
蒸留塔であって、搬送機により搬送された液体を揮発成分と不揮発成分とに分離する蒸留塔と、
蒸留塔に接続された揮発成分を回収するための溶媒回収槽又は不要成分回収槽と、
蒸留塔に接続された不揮発成分を回収するための再沈殿槽であって、不揮発成分にジエチルエーテルを添加し、リグニン成分を含む固体とヘミセルロース成分が溶解した液体とを含む懸濁液を得るための再沈殿槽と、
再沈殿槽とろ過器とを接続する搬送機であって、再沈殿槽からろ過器に懸濁液を搬送するための搬送機と、
ろ過器であって、搬送機により搬送された懸濁液から固体及び液体を得るためのろ過器と、
ろ過器と加圧反応槽とを接続する搬送機であって、ろ過器から加圧反応槽に固体を搬送するための搬送機と、
加圧反応槽であって、搬送機により搬送された固体を解重合処理してクルードなモノリグノールを含む液体を得るための加圧反応槽と、
加圧反応槽と蒸留塔とを接続する搬送機であって、加圧反応槽から蒸留塔にモノリグノールを含む液体を搬送するための搬送機と、
蒸留塔であって、搬送機により搬送されたモノリグノールを含む液体を単一成分ごとに分離精製してモノリグノールを得るための蒸留塔と、
蒸留塔と貯槽とを接続する搬送機であって、蒸留塔から貯槽にモノリグノールを搬送するための搬送機と、
貯槽であって、搬送機により搬送されたモノリグノールを保存するための貯槽と、
ろ過器とエバポレーターとを接続する搬送機であって、ろ過器からエバポレーターに液体を搬送するための搬送機と、
エバポレーターであって、搬送機により搬送された液体を蒸留してヘミセルロース及び廃液としての炭化水素活性汚泥を得るためのエバポレーターと、
エバポレーターと貯槽とを接続する搬送機であって、エバポレーターから貯槽にヘミセルロースを搬送するための搬送機と、
貯槽であって、搬送機により搬送されたヘミセルロースを保存するための貯槽と、
エバポレーターと活性汚泥槽とを接続する搬送機であって、エバポレーターから活性汚泥槽に廃液としての炭化水素を搬送するための搬送機と
を含む。
【0154】
図11により、本発明のシステムは、本発明の制御システムによって、本発明のシステムを用いた本発明の製造方法を、手動又は自動で容易に実施することができる。
【実施例】
【0155】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0156】
1.サンプルの調製
試料A:硫酸エステル化セルロースナノファイバーの調製
5Lフラスコにジメチルスルホキシド3000g、無水酢酸333g、98%硫酸43gを添加し、スターラーチップで撹拌した。続いて、パルプ(NBKP、CARIBOO)100gを添加し、室温で4時間撹拌し、硫酸エステル化処理を行った。その後、5%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、反応系のpHを7.0に中和した。続いて、フラスコ内容物をナイロンメッシュ(PA-11μ、アズワン株式会社製)でろ過し、同時に蒸留水によるリンスを行った。得られた硫酸エステル化パルプを10Lフラスコに移し、固形分濃度が0.5%となるように蒸留水を加えて超音波処理を行うことで、固形分濃度0.5%の硫酸エステル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。続いて、硫酸エステル化セルロースナノファイバー水分散液を液体窒素で凍結させ、凍結乾燥機(FDU-12AS、アズワン株式会社製)で乾燥処理することにより、平均繊維径が10nmである硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体(試料A)を得た。
【0157】
試料B:硫酸エステル化セルロースナノファイバーの調製2
試料Aの調製方法において、98%硫酸の添加量を66gにしたこと以外は、試料Aの調製方法と同様にすることで、平均繊維径が4nmである硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体(試料B)を得た。
【0158】
試料C:硫酸エステル化セルロースナノファイバーの調製3
試料Aの調製方法において、98%硫酸の添加量を33gにしたこと以外は、試料Aの調製方法と同様にすることで、平均繊維径が50nmである硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体(試料C)を得た。
【0159】
試料D:硫酸エステル化セルロースナノファイバーの調製4
試料Cの調製方法において、硫酸エステル化処理における撹拌を室温で1時間にしたこと以外は、試料Cの調製方法と同様にすることで、平均繊維径が600nmである硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体(試料D)を得た。
【0160】
試料E:硫酸エステル化セルロースナノファイバーの調製5
試料Cの調製方法において、硫酸エステル化処理における撹拌を室温で0.5時間にしたこと以外は、試料Cの調製方法と同様にすることで、平均繊維径が650nmである硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体(試料E)を得た。
【0161】
試料F:TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調製
パルプ(NBKP、CARIBOO)100g(絶乾)を、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシド(TEMPO)25mmolと臭化ナトリウム200mmolとを溶解した水溶液5Lに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。温度を20℃にした後、反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)640mmolを添加し、酸化反応を開始した。反応中は20℃を一定に保った。反応中は系内のpHが低下したが、3N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。3時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化処理したパルプを得た。上記で得られた酸化パルプの濃度1%(w/v)のスラリーを、超高圧ホモジナイザー(140MPa)で3回処理して、透明なゲル状のTEMPO酸化セルロースナノファイバーの水分散液を得た。続いて、TEMPO酸化セルロースナノファイバーの水分散液を液体窒素で凍結させ、凍結乾燥機(FDU-12AS、アズワン株式会社製)で乾燥処理することにより、平均繊維径が10nmであるTEMPO酸化セルロースナノファイバー乾燥体(試料F)を得た。
【0162】
試料G:リン酸エステル化セルロースナノファイバーの調製
尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gを、水109gに溶解させて、リン酸化試薬を調製した。乾燥したパルプ(NBKP、CARIBOO)の抄上げシートを、カッターミル及びピンミルで処理し、綿状の繊維にした。この綿状の繊維を、絶乾質量で100g取り、リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた後、手で練り合わせ、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを、140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機にて80分間加熱処理し、リン酸化パルプを得た。得られたリン酸化パルプを、パルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得た。前記工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを、10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12~13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得た。前記工程を2回繰り返した。脱水洗浄後に得られたセルロース繊維にイオン交換水を添加し、0.5質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(クレアミックス-11S、エム・テクニック株式会社製)を用いて、6900回転/分の条件で180分間解繊処理した。その後、イオン交換水を添加してスラリー固形分濃度0.25質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(H-2000B、RNローター、CKN1コレクタ、株式会社コクサン製)を用いて連続遠心を行った。この時、解繊液を送液ポンプにて100ml/分で送液し、18000Gの条件で遠心分離を行った。得られた上澄み液を回収し、リン酸エステル化セルロースナノファイバーの水分散液を得た。続いて、リン酸エステル化セルロースナノファイバーの水分散液を液体窒素で凍結させ、凍結乾燥機(FDU-12AS、アズワン株式会社製)で乾燥処理することにより、平均繊維径が10nmであるリン酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体(試料G)を得た。
【0163】
試料H:非修飾セルロースナノファイバーの調製
セルロースナノファイバー水分散液(BiNFi-s、株式会社スギノマシン製)を液体窒素で凍結させ、凍結乾燥機(FDU-12AS、アズワン株式会社製)で乾燥処理することにより、非修飾セルロースナノファイバー乾燥体(試料H)を得た。
【0164】
試料I:硫酸エステル基及びカルボキシ基を共に有するセルロースナノファイバーの調製
試料Fの調製方法において、「パルプ(NBKP、CARIBOO)100g(絶乾)」を「試料Aの硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体100g」に変更した以外は、試料Fの調製方法と同様にすることで、平均繊維径が10nmである硫酸エステル基及びカルボキシ基を共に有するセルロースナノファイバー乾燥体(試料I)を得た。
【0165】
試料J:硫酸エステル基及びリン酸エステル基を共に有するセルロースナノファイバーの調製
試料Gの調製方法において、「乾燥したパルプ(NBKP、CARIBOO)の抄上げシートを、カッターミル及びピンミルで処理し、綿状の繊維にした。この綿状の繊維を、絶乾質量で100g」を「試料Aの硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体100g」に変更した以外は、試料Gの調製方法と同様にすることで、平均繊維径が10nmである硫酸エステル基及びリン酸エステル基を共に有するセルロースナノファイバー乾燥体(試料J)を得た。
【0166】
試料K:硫酸エステル基及びアセチル基を共に有するセルロースナノファイバーの調製
試料Aの硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体100gを、無水酢酸:酢酸=9:1(体積比)の反応液の入ったシャーレに浸し、室温下のデシケータ内で、1kPaの減圧下に30分間置くことで、反応液を硫酸エステル化セルロースナノファイバー乾燥体に含浸させた。常圧に戻し、室温下の暗所で、N2雰囲気下に5日間静置し、アセチル化処理を行った。続いて、固形成分をメタノール、流水、蒸留水にて洗浄後、60℃で1時間減圧乾燥することにより、平均繊維径が10nmである硫酸エステル基及びアセチル基を共に有するセルロースナノファイバー乾燥体(試料K)を得た。
【0167】
実施例1
試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合し、混合物を得た。続いて、混合物を三本ロール(三本ロール1983型、株式会社井元製作所製)で100℃に加熱しながら4パスさせることで、厚さ20μmのシート状の硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を作製した。続いて、得られたシート状の成形体2枚で1枚の紙基材(定性ろ紙No.2、φ110mm、厚さ0.26mm、株式会社アドバンテック製)を挟むように両面に重ね、100℃で加熱したプレス成型機(4ton両締め油圧成型機、株式会社岩城工業製)で2分間加熱・加圧することでシート状の積層体とした。続いて、被試験部が厚さ0.26mm、幅10mm、長さ100mmとなるように試料裁断機(SDL200、株式会社ダンベル製)で裁断することにより、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例1)を作製した。
【0168】
実施例2
2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、無水酢酸81.1gを添加し、スターラーチップで撹拌した。続いて、上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し、95℃で4時間撹拌することで、セルロース成分中のOH基を硫酸エステル化し、且つセルロース成分のOH基とリグニン成分のOH基とをホルムアルデヒド分子でアセタール反応によって架橋した。このとき、反応溶液を20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度が0.4であることを確認した。続いて、40%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pH7にすることで反応を停止させた。続いて、ジエチルエーテル150gを加え、セルロース成分及びリグニン由来物質成分を沈殿させ、ヘミセルロース成分を溶解させた。続いて、ナイロンメッシュ(PA-11μ、アズワン株式会社製)でろ過して沈殿物を取り出した。沈殿物は105℃で30分間乾燥することでセルロース固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロース-リグニン由来物質複合体(架橋複合体及び未架橋体を含む)を得た。続いて、得られた硫酸エステル化セルロース-リグニン由来物質複合体80gを、実施例1と同様に三本ロール処理することにより硫酸エステル化セルロースのナノ解繊を兼ねて厚さ20μmのシート状の成形体を得た。続いて、得られたシート状の成形体2枚で1枚の紙基材(定性ろ紙No.2、φ110mm、厚さ0.26mm、株式会社アドバンテック製)を挟むように両面に重ね、100℃で加熱したプレス成型機(4ton両締め油圧成型機、株式会社岩城工業製)で2分間加熱・加圧することでシート状の積層体とした。続いて、当該積層体を、実施例1と同様にダンベル型に裁断することにより、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例2)を作製した。また、硫酸エステル化セルロース-リグニン由来物質複合体2gを耐圧リアクター(Series4560、Parr社製)に投入し、5重量%ルテニウムカーボン1g、THF200mLを加え、水素ガスを4MPaの導入圧力で注入した。続いて、耐圧リアクターを200℃で3時間加熱した後、室温に降温させた。続いて、ナイロンメッシュ(PA-11μ、アズワン株式会社製)で固体成分であるリグニン由来オリゴマー及びルテニウムカーボンを取り除き、可溶成分を得た。続いて、可溶成分からエバポレーターで溶剤を留去することで、モノリグノールを得た。
【0169】
実施例3
試料A5gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)5gと低密度ポリエチレンペレット(株式会社サンプラテック製)90gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合し、混合物を得た。続いて、混合物に対して、実施例1と同様に、三本ロール処理、紙基材との積層体作製及びダンベル型の裁断処理を行うことにより、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)及び低密度ポリエチレンからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例3)を作製した。
【0170】
実施例4
実施例2の方法により得られたセルロース固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロース-リグニン由来物質複合体10gと低密度ポリエチレンペレット(サンプラテック社製)90gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合して作製した混合物を、実施例1と同様に三本ロール処理することで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)及び低密度ポリエチレンからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例4)を作製した。
【0171】
実施例5
実施例3において、「低密度ポリエチレンペレット」を「PHBHペレット(株式会社カネカ製)」に変更したこと以外は、実施例3と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)及びPHBHからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例5)を作製した。
【0172】
実施例6
実施例4において、「低密度ポリエチレンペレット」を「PHBHペレット(株式会社カネカ製)」に変更したこと以外は、実施例4と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)及びPHBHからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例6)を作製した。
【0173】
実施例7
自転公転ミキサー(株式会社シンキー製)を用いて試料A5gとクラフトリグニン(Indulin AT、シグマアルドリッチ製)5gと固形分濃度50重量%である天然ゴムラテックス(ケニス株式会社製)180gとを常温で混合した。続いて、得られた混合物をテフロントレイに入れ、80℃で3日間乾燥させた後、ラジカル発生剤(パーヘキサ25B-40、日油株式会社製)3gを加えて三本ロール(三本ロール1983型、株式会社井元製作所製)で100℃に加熱しながら4パスさせることで、厚さ20μmのシート状の硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体及び天然ゴムからなる成形体を作製した。続いて、この成形体に対して、実施例1と同様に、紙基材との積層体作製及びダンベル型の裁断処理を行うことにより、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)及び天然ゴムからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例7)を作製した。
【0174】
実施例8
固形分濃度50重量%である天然ゴムラテックス(ケニス株式会社製)180gと実施例2におけるセルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体10gを常温で混合し、得られた混合物をテフロントレイに入れ、80℃で3日間乾燥させた。続いて、天然ゴムラテックスの乾燥体とラジカル発生剤(パーヘキサ25B-40、日油株式会社製)3gとを加えて三本ロール(三本ロール1983型、株式会社井元製作所製)で100℃に加熱しながら4パスさせることで、厚さ20μmのシート状の硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体及び天然ゴムからなる成形体を作製した。続いて、この成形体に対して、実施例1と同様に、紙基材との積層体作製及びダンベル型の裁断処理を行うことにより、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)及び天然ゴムからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例8)を作製した。
【0175】
実施例9
実施例1において、「試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」を「試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとシリカ(HS-208、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)1gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)及びシリカからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例9)を作製した。
【0176】
実施例10
実施例2において、「得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体を、実施例1と同様に三本ロール処理すること」を「得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体100gとシリカ(HS-208、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)1gとを、実施例1と同様に三本ロール処理すること」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)及びシリカからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例10)を作製した。
【0177】
実施例11
実施例3において、「試料A5gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)5gと低密度ポリエチレンペレット(株式会社サンプラテック製)90gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」を「試料A5gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)5gと低密度ポリエチレンペレット(株式会社サンプラテック製)90gとシリカ(HS-208、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)1gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」に変更したこと以外は、実施例3と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)、低密度ポリエチレン及びシリカからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例11)を作製した。
【0178】
実施例12
実施例4において、「得られたセルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体10gと低密度ポリエチレンペレット(サンプラテック社製)90gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合して作製した混合物を、実施例1と同様に三本ロール処理すること」を「得られたセルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体10gと低密度ポリエチレンペレット(サンプラテック社製)90gとシリカ(HS-208、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)1gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合して作製した混合物を、実施例1と同様に三本ロール処理すること」に変更したこと以外は、実施例4と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)、低密度ポリエチレン及びシリカからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例12)を作製した。
【0179】
実施例13
実施例1において、「試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」を「試料A0.03gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)99.97gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が0.03%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例13)を作製した。
【0180】
実施例14
実施例1において、「試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」を「試料A0.05gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)99.95gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が0.05%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例14)を作製した。
【0181】
実施例15
実施例1において、「試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」を「試料A5gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)95gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例15)を作製した。
【0182】
実施例16
実施例1において、「試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」を「試料A30gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)70gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が30%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例16)を作製した。
【0183】
実施例17
実施例1において、「試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」を「試料A80gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)20gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が80%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例17)を作製した。
【0184】
実施例18
実施例1において、「試料A50gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」を「試料A85gとクラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)15gとをビーカー内でスパチュラを用いて混合」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が85%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例18)を作製した。
【0185】
実施例19
実施例2において、「95℃で4時間撹拌する」を「95℃で1時間撹拌したところで、繊維質成分の一部(20.5g分)を除去し、更に95℃で3時間撹拌する」に変更した以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例19)を作製した。
【0186】
実施例20
実施例1において、「試料A」を「試料B」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例20)を作製した。
【0187】
実施例21
実施例1において、「試料A」を「試料C」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例21)を作製した。
【0188】
実施例22
実施例1において、「試料A」を「試料D」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例22)を作製した。
【0189】
実施例23
実施例1において、「試料A」を「試料E」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例23)を作製した。
【0190】
実施例24
実施例1において、「混合物を三本ロール(三本ロール1983型、株式会社井元製作所製)で100℃に加熱しながら4パスさせること」を「混合物を二軸混錬機(超小型連続式二軸混錬機KRCジュニア、株式会社栗本鐵工所製)により混錬した後、100℃で加熱したプレス成型機(4ton両締め油圧成型機、株式会社岩城工業製)によりプレスすること」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例24)を作製した。
【0191】
実施例25
実施例2において、「得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体を、実施例1と同様に三本ロール処理すること」を「得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体を、実施例24と同様に二軸混錬機処理すること」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例25)を作製した。
【0192】
実施例26
実施例3において、「混合物に対して、実施例1と同様に、三本ロール処理、紙基材との積層体作製及びダンベル型の裁断処理を行うこと」を「混合物に対して、実施例24と同様に、二軸混錬機処理、紙基材との積層体作製及びダンベル型の裁断処理を行うこと」に変更したこと以外は、実施例3と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)及び低密度ポリエチレンからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例26)を作製した。
【0193】
実施例27
実施例4において、「混合物を、実施例1と同様に三本ロール処理すること」を「混合物を、実施例24と同様に二軸混錬機処理すること」に変更したこと以外は、実施例4と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)及び低密度ポリエチレンからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例27)を作製した。
【0194】
実施例28
実施例1において、「混合物を三本ロール(三本ロール1983型、株式会社井元製作所製)で100℃に加熱しながら4パスさせること」を「混合物を100℃で加熱したプレス成型機(4ton両締め油圧成型機、株式会社岩城工業製)によりプレスすること」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例28)を作製した。
【0195】
実施例29
実施例2において、「得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体を、実施例1と同様に三本ロール処理すること」を「得られた硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体を、実施例28と同様にプレス成型機処理すること」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例29)を作製した。
【0196】
実施例30
実施例3において、「混合物に対して、実施例1と同様に、三本ロール処理、紙基材との積層体作製及びダンベル型の裁断処理を行うこと」を「混合物を、実施例28と同様に、プレス成型機処理、紙基材との積層体作製及びダンベル型の裁断処理すること」に変更したこと以外は、実施例3と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)及び低密度ポリエチレンからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例30)を作製した。
【0197】
実施例31
実施例4において、「混合物を、実施例1と同様に三本ロール処理すること」を「混合物を、実施例28と同様にプレス成型機処理すること」に変更したこと以外は、実施例4と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)及び低密度ポリエチレンからなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例31)を作製した。
【0198】
実施例32
実施例2において、「37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g」を「アセトン19.7g」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例32)を作製した。
【0199】
実施例33
実施例2において、「37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g」を「フェニルボロン酸41.4g」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例33)を作製した。
【0200】
実施例34
実施例2において、「37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g」を「2-メトキシプロペン24.4g」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例34)を作製した。
【0201】
実施例35
実施例2において、「37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g」を「ジメチルカーボネート30.5g」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例35)を作製した。
【0202】
実施例36
実施例2において、「37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g」を「2,2-ジメトキシプロパン35.3g」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例36)を作製した。
【0203】
実施例37
実施例2において、「無水酢酸81.1g」を「プロピオン酸無水物103.2g」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例37)を作製した。
【0204】
実施例38
実施例2において、「2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、無水酢酸81.1gを添加し、スターラーチップで撹拌した。続いて、上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し、95℃で4時間撹拌することで」を「2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、松由来の針葉樹ウッドチップ150gを記載されている材料の順に投入し、95℃で30分間撹拌した後に、無水酢酸81.1gを投入し、95℃で4時間撹拌することで」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例38)を作製した。
【0205】
実施例39
実施例2において、「2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、無水酢酸81.1gを添加し、スターラーチップで撹拌した。続いて、上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し、95℃で4時間撹拌することで」を「2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、松由来の針葉樹ウッドチップ150g、無水酢酸81.1gを記載されている材料の順に投入し、95℃で30分間撹拌した後に、無水酢酸81.1gを追加で投入することで」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例39)を作製した。
【0206】
実施例40
実施例2において、「2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、無水酢酸81.1gを添加し、スターラーチップで撹拌した。続いて、上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し、95℃で4時間撹拌することで」を「2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、松由来の針葉樹ウッドチップ150gを記載されている材料の順に投入し、95℃で30分間撹拌し、温度を45℃に降温させた後に、無水酢酸81.1gを追加で投入することで」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例40)を作製した。
【0207】
実施例41
実施例2において、「95℃で4時間撹拌することで、セルロース成分中のOH基を硫酸エステル化し、且つセルロース成分のOH基とリグニン成分のOH基とをホルムアルデヒド分子でアセタール反応によって架橋した。このとき、反応溶液を20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度が0.4であることを確認した」を「95℃で5時間撹拌することで、セルロース成分中のOH基を硫酸エステル化し、且つセルロース成分のOH基とリグニン成分のOH基とをホルムアルデヒド分子でアセタール反応によって架橋した。このとき、反応溶液を20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度が0.5であることを確認した」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例41)を作製した。
【0208】
実施例42
実施例2において、「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し」を「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ35gを投入し」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例42)を作製した。
【0209】
実施例43
実施例2において、「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し」を「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ45gを投入し」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例43)を作製した。
【0210】
実施例44
実施例2において、「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し」を「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ364gを投入し」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例44)を作製した。
【0211】
実施例45
実施例2において、「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し」を「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ849gを投入し」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例45)を作製した。
【0212】
実施例46
実施例2において、「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し」を「上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ1038gを投入し」に変更したこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例46)を作製した。
【0213】
実施例47
2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、無水酢酸81.1gを添加し、スターラーチップで撹拌した。続いて、上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し、続いて、95℃で4時間撹拌した。このとき、反応溶液を20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度が0.4であることを確認した。続いて、ナイロンメッシュ(PA-11μ、アズワン株式会社製)でろ過して、固体成分を取り出した。
【0214】
新たに1Lフラスコを準備し、そこに、取り出した固体成分を投入し、さらに58%硫酸500mLを加えて、50℃に加熱した。続いて、ナイロンメッシュによるろ過により取り出した固体成分を、新たに準備した1Lフラスコに投入し、3時間撹拌した。続いて、1Lフラスコの内容物を、遠心分離機(CT18R、エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ株式会社製)により、20,000Gで10分間処理した。続いて、上澄み液をデカンテーションで除去した後、蒸留水400mLを添加して、ペレットを懸濁させた。続いて、「遠心分離機処理-デカンテーションによる上澄み液の除去-蒸留水400mLの添加によるペレット懸濁」を2セット行うことで、硫酸エステル化セルロースナノクリスタル水分散液(実施例47)を作製した。
【0215】
実施例48
2000mLフラスコにジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2g、無水酢酸81.1gを添加し、スターラーチップで撹拌した。続いて、上記フラスコ内に、リグノセルロースとして松由来の針葉樹ウッドチップ150gを投入し、95℃で4時間撹拌した。このとき、反応溶液を20倍に希釈した溶液の波長500nmにおける吸光度が0.4であることを確認した。続いて、40%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pH7にすることで反応を停止させた。続いて、ナイロンメッシュ(PA-11μ、アズワン株式会社製)でろ過してセルロースに由来する固体成分を除き、茶褐色の可溶成分を得た。続いて、可溶成分にジエチルエーテル510gを加え、リグニン由来物質成分を沈殿させ、ヘミセルロース成分を溶解させた。続いて、ナイロンメッシュ(PA-11μ、アズワン株式会社製)でろ過してリグニン由来物質成分を得た。耐圧リアクター(Series4560、Parr社製)に、リグニン由来物質成分2g、5重量%ルテニウムカーボン1g、THF200mLを加え、水素ガスを4MPaの導入圧力で注入した。続いて、耐圧リアクターを200℃で3時間加熱した後、室温に降温させた。続いて、ナイロンメッシュ(PA-11μ、アズワン株式会社製)で固体成分であるリグニン由来オリゴマー及びルテニウムカーボンを取り除き、可溶成分を得た。続いて、可溶成分からエバポレーターで溶剤を留去することで、モノリグノール(実施例48)を得た。
【0216】
実施例49
実施例1において、「試料A」を「試料I」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル基及びカルボキシ基を共に有するセルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例49)を作製した。
【0217】
実施例50
実施例1において、「試料A」を「試料J」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル基及びリン酸エステル基を共に有するセルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例50)を作製した。
【0218】
実施例51
実施例1において、「試料A」を「試料K」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である硫酸エステル基及びアセチル基を共に有するセルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(実施例51)を作製した。
【0219】
比較例1
実施例1において、「試料A」を「試料F」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%であるTEMPO酸化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(比較例1)を作製した。
【0220】
比較例2
2000mLフラスコに、ジメチルスルホキシド730g、98%硫酸10.5g、37%ホルムアルデヒド水溶液28.2gを添加し、スターラーチップで撹拌した。続いて、上記フラスコ内に、試料F50g、クラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)50gを投入し、95℃で4時間撹拌することで、TEMPO酸化セルロースナノファイバー分子中のOH基とクラフトリグニン中のOH基とをホルムアルデヒド分子のアセタール化により、TEMPO酸化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)を得た。続いて、得られたTEMPO酸化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体を、実施例1と同様に三本ロール処理することにより厚さ20μmのシート状の成形体を得た。続いて、得られたシート状の成形体2枚で1枚の紙基材(定性ろ紙No.2、φ110mm、厚さ0.26mm、株式会社アドバンテック製)を挟むように両面に重ね、100℃で加熱したプレス成型機(4ton両締め油圧成型機、株式会社岩城工業製)で2分間加熱・加圧することでシート状の積層体とした。続いて、当該積層体を、実施例1と同様に、ダンベル型に裁断することにより、セルロースナノファイバー固形分割合が50%であるTEMPO酸化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(比較例2)を作製した。
【0221】
比較例3
実施例1において、「試料A」を「試料G」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%であるリン酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(比較例3)を作製した。
【0222】
比較例4
比較例2において、「試料F」を「試料G」に変更したこと以外は、比較例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%であるリン酸エステル化セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(比較例4)を作製した。
【0223】
比較例5
実施例1において、「試料A」を「試料H」に変更したこと以外は、実施例1と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が50%である非修飾セルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体(水素結合複合体)からなる成形体を含むダンベル型サンプル(比較例5)を作製した。
【0224】
比較例6
実施例2において、「ジメチルスルホキシド」を「ジメチルホルムアミド」に変更し、無水酢酸を添加しなかったこと以外は、実施例2と同様にすることで、セルロースナノファイバー固形分割合が5%であるセルロースナノファイバー-リグニン由来物質複合体からなる成形体を含むダンベル型サンプル(比較例6)を作製した。
【0225】
比較例7
クラフトリグニン(シグマアルドリッチ製、Indulin AT)100gを、三本ロール(三本ロール1983型、井元製作所製)で100℃に加熱しながら4パスさせることで、厚さ20μmのシート状のリグニン由来物質からなる成形体を作製した。続いて、得られたシート状の成形体2枚で1枚の紙基材(定性ろ紙No.2、φ110mm、厚さ0.26mm、株式会社アドバンテック製)を挟むように両面に重ね、100℃で加熱したプレス成型機(4ton両締め油圧成型機、株式会社岩城工業製)で2分間加熱・加圧することでシート状の積層体とした。続いて、被試験部が厚さ0.26mm、幅10mm、長さ100mmとなるように試料裁断機(SDL200、株式会社ダンベル製)で裁断することにより、リグニン由来物質からなる成形体を含むダンベル型サンプル(比較例7)を作製した。
【0226】
2.サンプルの評価
各実施例及び比較例のサンプルについて、破断強度、折り曲げ耐性、及びモノリグノール回収量を以下の方法で評価した。
【0227】
<破断強度評価>
ダンベル型サンプル(実施例1~46及び49~51並びに比較例1~7)を、JIS-C-2151、ASTM-D-882に準じて、テンシロンRTF-2410(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、グリップ間隔50mm、速度200mm/minで引っ張り、ダンベル型サンプルにおける紙基材(定性ろ紙No.2、φ110mm、厚さ0.26mm、株式会社アドバンテック製)のみが切断(破断)したときの破断強度と、紙基材以外の部分(実施例1~46及び49~51並びに比較例1~7と示す)が切断(破断)したときの破断強度をそれぞれ3回測定し平均値を求めた。続いて、得られた破断強度の平均値について、紙基材のみの破断強度に対する実施例1~46及び49~51並びに比較例1~7の破断強度の向上率{(実施例1~46及び49~51並びに比較例1~7の破断強度/紙基材のみの破断強度)×100}を求め、以下の基準で破断強度を評価した。
【0228】
◎: 破断強度の向上率が200%以上
○: 破断強度の向上率が100%以上200%未満
△: 破断強度の向上率が30%以上100%未満
×: 破断強度の向上率が30%未満
【0229】
<破断伸度評価>
ダンベル型サンプル(実施例1~46及び49~51並びに比較例1~7)の中央部を180度折り曲げて、ステンレス板(φ110mm、重量5kg)で30秒保持した。30秒後、サンプルの折り曲げを解除し、サンプルの屈曲部を、光学顕微鏡(BX53M、オリンパス株式会社製)を用いて100倍の倍率で観察した。前記の「折り曲げ-観察」を繰り返し、サンプル崩壊が起きるまでの折り曲げ回数を測定した。各サンプルについて3回試験を行い、3回の平均値について、以下の基準で折り曲げ耐性を評価した。
【0230】
◎: 20回折り曲げても試料の崩壊なし
○: 15回以上19回以下の折り曲げで試料が崩壊
△: 5回以上14回以下の折り曲げで試料が崩壊
×: 4回以下の折り曲げで試料が崩壊
【0231】
<モノリグノール抽出量評価>
原料となるリグノセルロースの仕込み重量と、最終的に回収されたモノリグノールの重量とを、精密天秤TXC623N(株式会社島津製作所製)で計測して、比率{(最終的に回収されたモノリグノールの重量/リグノセルロースの仕込み重量)×100}を求め、以下の基準でモノリグノール抽出量を評価した。
【0232】
○: 比率が7%以上
△: 比率が5%以上7%未満
×: 比率が5%未満
【0233】
3.サンプルの評価結果
(セルロースナノファイバー(CNF)の修飾効果、CNFとリグニン由来物資との相互作用の効果、及び添加物の効果)
表1に結果を示す。
【0234】
【0235】
表1より、硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体は、カルボキシ化CNF-リグニン由来物質複合体、リン酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体及び非修飾CNF-リグニン由来物質複合体と比較して、破断強度及び折り曲げ耐性に優れることがわかった。また、硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体(架橋複合体)は、硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体(水素結合体)と比較して、破断強度及び折り曲げ耐性に優れることがわかった。さらに、硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体にポリエチレン、PHBH又は天然ゴムなどの添加物を加えることで、破断強度及び折り曲げ耐性を向上できることがわかった。
【0236】
(硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体におけるCNF固形分割合の効果、及びCNF繊維幅の効果)
表2に結果を示す。
【0237】
【0238】
表2より、硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体におけるCNF固形分割合が0.03重量%超85重量%未満、好ましくは0.05重量%~80重量%のときに、破断強度及び折り曲げ耐性をさらに向上できることがわかった。また、CNF繊維幅が600nm超になると、破断強度が低下することがわかった。これは、CNF繊維幅の増加に伴いCNFの比表面積が低下することで、リグニン由来物質との相互作用点が減少するためであると考えられる。さらに、硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体において、硫酸エステル化CNFが、硫酸エステル基に加えて、他の置換基として、カルボキシ基、リン酸エステル基又はアセチル基を有していても、良好な破断強度及び折り曲げ耐性を有することがわかった。
【0239】
(混合方法の効果)
表3に結果を示す。
【0240】
【0241】
表3より、硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体調製時の混合を三本ロール及び二軸混錬などによるせん断力が掛かる混合にすることで、均一分散が達成されることにより、破断強度及び折り曲げ耐性を向上できることがわかった。
【0242】
(試薬(c)及び(e)の効果)
表4に結果を示す。
【0243】
【0244】
表4より、試薬(c)としては、アルデヒドとしてのホルムアルデヒド、ケトンとしてのアセトン、ボロン酸、2-メトキシプロペン、ジメチルカーボネート、又は2,2-ジメトキシプロパンを使用することができ、試薬(e)としては、無水酢酸又はプロピオン酸無水物を使用することができることがわかった。また、試薬(e)がないと、アルブライト・ゴールドマン酸化反応によるアルデヒド生成が起こらず、化学平衡が保護化(アセタール化)寄りにならないため、リグニン由来物質の保護化不十分でβ-O-4結合は縮合してしまい、モノリグノール抽出が不十分になることがわかった。
【0245】
(試薬の添加法の効果、及び反応停止時の効果)
表5に結果を示す。
【0246】
【0247】
表5より、試薬(e)を試薬(a)~(d)よりも後に添加すること、試薬(e)を追加添加すること、又は試薬(e)を試薬(a)~(d)よりを添加し、降温後に添加することにより折り曲げ耐性を向上できることがわかった。また、混合(反応)の停止を、反応液を20倍に希釈した溶液の500nmの吸光度が0.5以上になってから行うことで、モノリグノール抽出率を向上できることがわかった。
【0248】
(反応系総量に対するリグノセルロース量の効果)
表6に結果を示す。
【0249】
【0250】
表6より、反応系総量に対するリグノセルロース量を、4重量部超55重量部未満、好ましくは、5重量部~50重量部にすることで、モノリグノール抽出率を向上できることがわかった。反応系総量に対するリグノセルロース量が4重量部以下では、収量が低く、反応系総量に対するリグノセルロース量が55重量部以上では、撹拌効率が落ちるためであると考えられる。
【0251】
(リグノセルロース由来材料の製造効果)
表7に結果を示す。
【0252】
【0253】
表7より、本発明により、硫酸エステル化CNF-リグニン由来物質複合体、硫酸エステル化CNC、及びモノリグノールを効率よく合成できることがわかった。