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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230426BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230426BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20230426BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230426BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230426BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20230426BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230426BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230426BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/133
H01M4/136
H01M4/58
H01M4/587
H01M10/0525
H01M10/0568
H01M10/0569
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022501779
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2021004135
(87)【国際公開番号】W WO2021166663
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020026926
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020127791
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 智之
(72)【発明者】
【氏名】四本 賢佑
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】横地 聡美
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友哉
(72)【発明者】
【氏名】水谷 英二
(72)【発明者】
【氏名】近藤 悠史
(72)【発明者】
【氏名】牧 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 義之
(72)【発明者】
【氏名】君島 健之
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
(72)【発明者】
【氏名】山岡 慎太郎
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-137875(JP,A)
【文献】特開2016-178125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 10/0525
H01M 4/58
H01M 4/136
H01M 4/133
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン構造の正極活物質を備える正極と、負極活物質として黒鉛を備える負極と、電解液とを具備し、
前記電解液は、LiPF6、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択されるアルキレン環状カーボネート、プロピオン酸メチル、並びに、前述した電解液の構成成分が還元分解を開始する電位よりも高い電位で還元分解を開始する添加剤を含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記添加剤が環状硫酸エステル及び/又はオキサレート硼酸塩である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記電解液がフッ素含有環状カーボネート及び/又は不飽和環状カーボネートを含有する請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記添加剤はリチウムジフルオロ(オキサラート)ボラート及び/又はリチウムビス(オキサラート)ボラートであり、かつ、前記電解液がフルオロエチレンカーボネート及び/又はビニレンカーボネートを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記電解液のリチウムイオン濃度が0.8~1.8mol/Lの範囲内である請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記電解液における前記プロピオン酸メチルの割合が前記アルキレン環状カーボネート及び前記プロピオン酸メチルの合計体積に対して50~95体積%である請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記電解液における全非水溶媒に対する前記アルキレン環状カーボネートの割合が5~30体積%である請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記正極の集電箔の片面に形成される正極活物質層の量が20mg/cm2以上であり、前記負極の集電箔の片面に形成される負極活物質層の量が10mg/cm2以上である請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
集電箔の片面に正極活物質層が形成されており、他面に負極活物質層が形成されている双極型電極を具備する請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記電解液は、前記プロピレンカーボネートを含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記電解液における前記アルキレン環状カーボネートに対する前記プロピレンカーボネートの割合が20~80体積%である請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記正極は、前記正極活物質としてLiMnxFeyPO4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する。)を含有し、
前記電解液は、第2の添加剤としてニトリル類を含有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリビン構造の正極活物質を備える正極、負極活物質として黒鉛を備える負極及び電解液を備えるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末、パーソナルコンピュータ、電気自動車などの電源として、容量に優れるリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池の容量をより高くするためには、高容量の正極活物質及び高容量の負極活物質を採用すればよい。
例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/32等の層状岩塩構造の正極活物質は、高容量の正極活物質として知られている。また、Si含有負極活物質はリチウムの吸蔵能力が高いため、高容量の負極活物質として知られている。
【0003】
しかしながら、層状岩塩構造の正極活物質を採用したリチウムイオン二次電池や、Si含有負極活物質を採用したリチウムイオン二次電池は、短絡などの異常が生じた際に、発熱量が大きいとの欠点があった。
【0004】
かかる欠点を解消するため、層状岩塩構造の正極活物質と比較して低容量であるものの熱安定性に優れるオリビン構造の正極活物質を採用し、かつ、Si含有負極活物質と比較して低容量であるものの熱安定性に優れる黒鉛を負極活物質として採用する手段がある。
オリビン構造の正極活物質及び負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池は、文献に記載されている。
【0005】
特許文献1には、オリビン構造の正極活物質を具備するリチウムイオン二次電池は安全性に優れる旨が記載されており(0014段落を参照)、そして、オリビン構造のLiFePO4を正極活物質として備え、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている(実験例1~6を参照)。
なお、特許文献1で使用されている電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比3:7で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものである。
【0006】
特許文献2には、オリビン構造の正極活物質は熱安定性が高い旨が記載されており(0011段落を参照)、そして、オリビン構造のLiFePO4を正極活物質として備え、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池が具体的に記載されている(実施例1~3を参照)。
なお、特許文献2で使用されている電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比3:2:5で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものである。
【0007】
リチウムイオン二次電池の電解液としては、特許文献1や特許文献2に具体的に記載されているとおり、エチレンカーボネートなどのアルキレン環状カーボネート、及び、ジメチルカーボネートやエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネートを混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/L程度の濃度で溶解した非水電解液を使用するのが一般的である。ここで、電解液の主溶媒として用いられているのは、鎖状カーボネートである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-123300号公報
【文献】特開2013-140734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したとおり、オリビン構造の正極活物質及び負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池において使用されている電解液は、鎖状カーボネートを主溶媒としアルキレン環状カーボネートを副溶媒とする混合溶媒に、LiPF6を1mol/L程度の濃度で溶解した非水電解液である。かかる電解液はリチウムイオン二次電池に採用される一般的な電解液である。
【0010】
しかしながら、産業界からは、より高性能のリチウムイオン二次電池が求められている。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものであり、オリビン構造の正極活物質及び負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池に適した電解液を提供し、かつ、かかる電解液を備える好適なリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
基礎検討を含む種々の実験の結果、電解液の主溶媒としてプロピオン酸メチルが好ましいこと、さらに、特定の添加剤を含む電解液がオリビン構造の正極活物質及び負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池に適することを本発明者は知見した。かかる知見に基づき、本発明者は本発明を完成した。
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池は、
オリビン構造の正極活物質を備える正極と、負極活物質として黒鉛を備える負極と、電解液とを具備し、
前記電解液は、LiPF6、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択されるアルキレン環状カーボネート、プロピオン酸メチル、並びに、前述した電解液の構成成分が還元分解を開始する電位よりも高い電位で還元分解を開始する添加剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池は優れた電池特性を示し、かつ、熱安定性に優れている。また、産業界からの電池の高容量化要求に応えるべく、本発明のリチウムイオン二次電池を高容量型の電池とした場合であっても、充放電レート特性の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】基礎検討1の各電解液におけるLiPF6の濃度と粘度の関係を示すグラフである。
図2】基礎検討2の各電解液におけるLiPF6の濃度と粘度の関係を示すグラフである。
図3】基礎検討2の各電解液におけるLiPF6の濃度とイオン伝導度の関係を示すグラフである。
図4】評価例2における、実施例1、実施例2及び比較例1の負極ハーフセルのグラフである。
図5】評価例2における、比較例1~比較例3の負極ハーフセルのグラフである。
図6】評価例11における、実施例22及び実施例23の負極をXPS分析したC1sスペクトルである。
図7】評価例11における、実施例22及び実施例23の負極をXPS分析したF1sスペクトルである。
図8】評価例15における、高温充放電サイクル試験の結果を表すグラフである。
図9】評価例16における、保存試験の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池は、
オリビン構造の正極活物質を備える正極と、負極活物質として黒鉛を備える負極と、電解液(以下、本発明の電解液ということがある。)とを具備し、
前記電解液は、LiPF6、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択されるアルキレン環状カーボネート、プロピオン酸メチル、並びに、前述した電解液の構成成分が還元分解を開始する電位よりも高い電位で還元分解を開始する添加剤(以下、本発明の添加剤ということがある。)を含有することを特徴とする。
なお、本明細書において電位とは、リチウムを基準とする電位(vsLi/Li+)を意味する。
【0018】
まず、本発明の電解液についての説明を行う。
本発明の電解液におけるリチウムイオン濃度は、イオン伝導度の点から、0.8~1.8mol/Lの範囲内が好ましく、0.9~1.5mol/Lの範囲内がより好ましく、1.0~1.4mol/Lの範囲内がさらに好ましく、1.1~1.3mol/Lの範囲内が特に好ましい。
【0019】
本発明の電解液にはリチウム塩としてLiPF6を含有する。リチウム塩としてはLiPF6以外のものを含有してもよい。LiPF6以外のリチウム塩として、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、FSO3Li、CF3SO3Li、C25SO3Li、C37SO3Li、C49SO3Li、C511SO3Li、C613SO3Li、CH3SO3Li、C25SO3Li、C37SO3Li、CF3CH2SO3Li、CF324SO3Li、(FSO22NLi、(CF3SO22NLi、(C25SO22NLi、FSO2(CF3SO2)NLi、FSO2(C25SO2)NLi、(SO2CF2CF2SO2)NLi、(SO2CF2CF2CF2SO2)NLi、FSO2(CH3SO2)NLi、FSO2(C25SO2)NLi、LiPO22、LiBF2(C24)、LiB(C242を例示できる。
【0020】
本発明の電解液に含有されるリチウム塩のうちLiPF6の割合としては、60~100モル%の範囲内が好ましく、70~100モル%の範囲内がより好ましく、80~99.5モル%の範囲内がさらに好ましい。その他の好適なLiPF6の割合として、90~99モル%の範囲内、95~98.5モル%の範囲内、97~98モル%の範囲内を例示できる。
【0021】
エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択されるアルキレン環状カーボネートは高誘電率の非水溶媒であり、リチウム塩の溶解及びイオン解離に寄与すると考えられる。
また、一般に、アルキレン環状カーボネートがリチウムイオン二次電池の充電時に還元分解されることにより、負極表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成されることが知られている。かかるSEI被膜の存在に因り、黒鉛を備える負極に対して、リチウムイオンの可逆的な挿入及び離脱が可能になると考えられている。
【0022】
アルキレン環状カーボネートは電解液の非水溶媒として有益ではあるものの、高粘度である。そのため、アルキレン環状カーボネートの割合が高すぎると、電解液のイオン伝導度や電解液中でのリチウムイオンの拡散に悪影響を及ぼす場合がある。また、アルキレン環状カーボネートは融点が比較的高いため、アルキレン環状カーボネートの割合が高すぎると、低温条件下にて、電解液が固化するおそれがある。
【0023】
他方、プロピオン酸メチルは低誘電率、低粘度、かつ、融点が低い非水溶媒である。
本発明の電解液においては、アルキレン環状カーボネートとプロピオン酸メチルが共存することで、アルキレン環状カーボネートの不利な点をプロピオン酸メチルが相殺する。すなわち、プロピオン酸メチルは、電解液の低粘度化、イオン伝導度の好適化、リチウムイオンの拡散係数の好適化及び低温条件下での固化防止に寄与していると考えられる。
【0024】
本発明の電解液の25℃における粘度としては、7mPa・s以下が好ましい。好適な粘度範囲として、0.8~6mPa・sの範囲内、1.0~4.5mPa・sの範囲内、1.1~4.0mPa・sの範囲内、1.2~3.0mPa・sの範囲内、1.3~2.5mPa・sの範囲内を例示できる。なお、1mPa・s=1cPである。
【0025】
本発明の電解液の25℃におけるイオン伝導度としては、5mS/cm以上が好ましい。好適なイオン伝導度の範囲として、6~30mS/cmの範囲内、7~25mS/cmの範囲内、10~25mS/cmの範囲内、12~25mS/cmの範囲内、13~20mS/cmの範囲内を例示できる。
【0026】
本発明の電解液の30℃におけるリチウムイオンの拡散係数としては、1×10-102/s以上が好ましい。好適なリチウムイオンの拡散係数の範囲として、1.5×10-10~10×10-102/sの範囲内、2.0×10-10~8.0×10-102/sの範囲内、2.5×10-10~7.0×10-102/sの範囲内、3.0×10-10~6.0×10-102/sの範囲内を例示できる。
【0027】
本発明の電解液において、アルキレン環状カーボネート及びプロピオン酸メチルの合計体積に対するアルキレン環状カーボネートの割合は、5~50体積%の範囲内であるのが好ましく、10~40体積%の範囲内であるのがより好ましく、12~30体積%の範囲内であるのがさらに好ましく、14~20体積%の範囲内であるのが特に好ましく、15~17体積%の範囲内であるのが最も好ましい。
【0028】
同様に、本発明の電解液において、アルキレン環状カーボネート及びプロピオン酸メチルの合計体積に対するプロピオン酸メチルの割合は、50~95体積%の範囲内であるのが好ましく、60~90体積%の範囲内であるのがより好ましく、70~88体積%の範囲内であるのがさらに好ましく、75~86体積%の範囲内であるのが特に好ましく、80~85体積%の範囲内であるのが最も好ましい。
【0029】
また、本発明の電解液における全非水溶媒に対するアルキレン環状カーボネートの割合としては、5~40体積%の範囲内であるのが好ましく、10~35体積%の範囲内であるのがより好ましく、12~30体積%の範囲内であるのがさらに好ましく、14~20体積%の範囲内であるのが特に好ましく、15~17体積%の範囲内であるのが最も好ましい。
【0030】
なお、アルキレン環状カーボネートとしては、エチレンカーボネートのみを選択してもよいし、プロピレンカーボネートのみを選択してもよく、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの両者を選択してもよい。
【0031】
ところで、一般的な非水溶媒に含まれるプロピレンカーボネートは、負極に黒鉛を用いたリチウムイオン二次電池において、黒鉛へのリチウムイオンの挿入および離脱を阻害すると考えられている。これはリチウムイオンに配位したプロピレンカーボネートが黒鉛の層間に共挿入されることに因るものと考えられている。
黒鉛へのリチウムイオンの挿入および離脱が阻害されれば、リチウムイオン二次電池の容量が十分に確保できず、リチウムイオン二次電池の電池特性が悪化する虞がある。したがって、プロピレンカーボネートを非水溶媒に含む電解液は、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池に適した電解液とは言い難いとと考えらえる。
【0032】
しかし、後述する実施例にも示すように、本発明の電解液が非水溶媒にプロピレンカーボネートを含んでいる場合にも、本発明のリチウムイオン二次電池には容量の低下が認められない。それどころか、当該本発明のリチウムイオン二次電池には、プロピレンカーボネートに由来すると考えらえる優れた耐久性が付与される。したがって、本発明の電解液は、アルキレン環状カーボネートとしてプロピレンカーボネートを含有するのが好ましい。
【0033】
また、リチウムイオン二次電池における耐久性の向上は、アルキレン環状カーボネートとしてエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを特定の割合で併用した場合に特に顕著であった。当該特定の割合として、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの体積比が20:80~80:20の範囲内、30:70~70:30の範囲内、25:75~50:50の範囲内、または、40:60~40:60の範囲内が挙げられる。本発明の電解液は、アルキレン環状カーボネートとしてエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを併用するのが好ましく、特に、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの体積比が上記のいずれかの範囲内であるのが好ましいといい得る。
【0034】
本発明の電解液が非水溶媒にプロピレンカーボネートを含有するにも拘わらず容量の低下がみられない理由は明らかではないが、当該理由には本発明の電解液の組成が関係するものと推測される。具体的には、本発明の電解液が、添加剤としてのオキサレート硼酸塩に加えて、フッ素含有環状カーボネート及び/又は不飽和環状カーボネートを含有することに因り、上記した効果が生じると推測される。このため、本発明のリチウムイオン二次電池が負極に黒鉛を有する場合、本発明の電解液は非水溶媒にプロピレンカーボネートを含有するのが好ましく、さらに、フッ素含有環状カーボネート及び/又は不飽和環状カーボネートを含有するのが好ましい。
【0035】
また、本発明の電解液における全非水溶媒に対するプロピオン酸メチルの割合としては、30~95体積%の範囲内であるのが好ましく、40~90体積%の範囲内であるのがより好ましく、50~89体積%の範囲内であるのがさらに好ましく、60~88体積%の範囲内であるのが特に好ましく、70~87体積%の範囲内であるのが最も好ましい。
【0036】
なお、プロピオン酸メチルと化学構造が類似するエステルとして、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル及び酪酸エチルが存在する。後述する具体的な実験結果から、メチルエステルはエチルエステルよりも電解液の物性及び電池特性の点で優れていることが判明した。したがって、エチルエステルは好ましいとはいえない。
【0037】
次に、メチルエステルであるプロピオン酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチルについて説明する。これらの融点及び沸点は、以下のとおりである。
プロピオン酸メチル 融点-88℃、沸点80℃
酢酸メチル 融点-98℃、沸点57℃
酪酸メチル 融点-95℃、沸点102℃
【0038】
リチウムイオン二次電池の動作環境は60℃程度になり得ると想定されるので、電解液に含まれる非水溶媒としては、沸点が60℃以上のものが好ましい。製造環境の点からみても、使用する非水溶媒の沸点は高い方が好ましい。また、エステルの炭素数が多いほどエステルの親油性が増加してリチウム塩の溶解や解離に不利になるので、エステルの炭素数は少ないほうが好ましい。
【0039】
以上の事項を総合すると、エステルとしてプロピオン酸メチルが最も適切であるといえる。
【0040】
本発明の添加剤は、電解液の他の構成成分、具体的には、LiPF6、アルキレン環状カーボネート及びプロピオン酸メチルが還元分解を開始する電位よりも高い電位で還元分解を開始する。
したがって、本発明のリチウムイオン二次電池の充電時には、負極表面において、本発明の添加剤の還元分解に由来するSEI被膜が優先的に形成されると考えられる。本発明の添加剤の存在に因り、本発明の添加剤以外の電解液の構成成分が過剰に還元分解されることが抑制されるといえる。
また、本発明のリチウムイオン二次電池が好適に作動することからみて、オリビン構造の正極活物質及び負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池の充放電条件下において、リチウムイオンは、本発明の添加剤の還元分解に由来するSEI被膜を、円滑に通過できるといえる。
【0041】
本発明の添加剤としては、環状硫酸エステル、オキサレート硼酸塩、ジハロゲン化リン酸塩を例示できる。本発明の添加剤として1種類を採用してもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0042】
環状硫酸エステルとは、以下の化学式で表される化合物である。
R-O-SO2-O-R(2つのRはアルキル基であり、互いに結合して、-O-S-O-と共に環を形成している。)
環状硫酸エステルとしては、5~8員環、5~7員環、5~6員環のものを例示でき、また、環状硫酸エステルの炭素数としては、2~6、2~5、2~4を例示できる。
【0043】
オキサレート硼酸塩としてはリチウム塩が好ましい。具体的なオキサレート硼酸塩として、LiB(C242、LiB(C24)X2(XはF、Cl、Br、Iから選択されるハロゲンである。)を例示できる。
好ましくは、オキサレート硼酸塩はLiB(C242すなわちリチウムビス(オキサラート)ボラート及び/又はLiB(C24)F2すなわちリチウムジフルオロ(オキサラート)ボラートであるのが良い。
【0044】
ジハロゲン化リン酸塩としてはリチウム塩が好ましい。具体的なジハロゲン化リン酸塩として、LiPO22(XはF、Cl、Br、Iから選択されるハロゲンである。)を例示できる。
【0045】
本発明の電解液における本発明の添加剤の添加量としては、本発明の添加剤以外の合計質量に対して0.1~5質量%の範囲内、0.3~4質量%の範囲内、0.5~3質量%の範囲内、1~2質量%の範囲内、0.6~2質量%の範囲内、0.6~1.5質量%の範囲内または0.6~1.4質量%の範囲内を例示できる。
【0046】
本発明の電解液は、アルキレン環状カーボネート及びプロピオン酸メチル以外の非水溶媒や、本発明の添加剤以外の添加剤を含有してもよい。
【0047】
特に、本発明の電解液は、フッ素含有環状カーボネート及び/又は不飽和環状カーボネートを含有するのが好ましい。本発明の添加剤と、フッ素含有環状カーボネート及び/又は不飽和環状カーボネートとの共存に因り、本発明のリチウムイオン二次電池の性能が向上する。
【0048】
フッ素含有環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-フルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-(フルオロメチル)-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-フルオロ-5-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オンを例示できる。
【0049】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、フルオロメチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、プロピルビニレンカーボネート、ブチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ジプロピルビニレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートを例示できる。
特に好ましくは、本発明の電解液は、フルオロエチレンカーボネート及び/又はビニレンカーボネートを含有するのが良い。
【0050】
本発明の電解液におけるフッ素含有環状カーボネート及び/又は不飽和環状カーボネートの添加量としては、これら以外の合計質量に対して0.1~5質量%の範囲内、0.3~4質量%の範囲内、0.5~3質量%の範囲内、1~2質量%の範囲内を例示できる。
【0051】
ところで本発明の発明者は、鋭意研究を重ねる過程で、本発明のリチウムイオン二次電池における正極がオリビン構造の正極活物質として後述するLiMnxFeyPO4を含む場合には、LiMnxFeyPO4を含まない場合に比べて、リチウムイオン二次電池の耐久性が低下するという知見を得た。これは、充放電に伴って正極から遷移金属が溶出し正極が劣化したことに因ると推測される。そして、本発明の電解液に含まれる添加剤、具体的にはオキサレート硼酸塩の一態様であるリチウムジフルオロ(オキサラート)ボラートが、その一因となっていると推測される。
【0052】
本発明の発明者は、当該知見に基づき、正極の劣化を抑制することを志向した。そして、本発明の電解液が既述した添加剤に加えて第2の添加剤としてニトリル類を含有する場合に、上記したリチウムイオン二次電池の劣化を抑制することが可能であることを見出した。その理由は定かではないが以下のように推測される。
【0053】
リチウムイオン二次電池の充放電に伴い、正極の表面にもまた電解液の酸化に因る被膜が形成される。当該被膜によって正極と電解液とを隔てることで、上記した正極の劣化を抑制できると期待される。
当該被膜は窒素を含むと考えられている。したがって本発明の電解液がニトリル類を含有する場合、当該ニトリル類は被膜の原料となり得る。つまり、本発明の電解液がニトリル類を含む場合には、正極表面に十分な量の窒素を供給することができ、正極表面における被膜の形成を促すことができると考えられる。
【0054】
なお、第2の添加剤としてニトリル類を含む本発明の電解液は、正極にLiMnxFeyPO4を含まない本発明のリチウムイオン二次電池に用いることも可能であり、この場合にも正極の劣化を抑制できる。
【0055】
本発明の電解液に含まれるニトリル類は、シアノ基を有するものであれば良く、具体的には、スクシノニトリル、アジポニトリル、2-エチルスクシノニトリル、アセトニトリル、メチルアセトニトリル、ジメチルアミノアセトニトリル、トリメチルアセトニトリル、フェニルアセトニトリル、ジクロロアセトニトリル、プロピオノニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ペンタンニトリル、ヘキサンジニトリル、オキサロニトリル、グルタロニトリル、アクリロニトリル、シクロプロパンカルボニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、エテンテトラカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル等を例示できる。
【0056】
電解液中のニトリル類の量の好ましい範囲としては、上記した添加剤と第2の添加剤(ニトリル類)とを除く電解液の合計質量を100質量%としたときに、0.05~10質量%の範囲内、0.08~5質量%の範囲内、0.1~2.0質量%の範囲内、または、0.25~1.0質量%の範囲内、の各範囲を例示できる。
【0057】
オリビン構造の正極活物質を備える正極は、具体的には、集電体と、集電体の表面に形成された、正極活物質を含有する正極活物質層とを備える。
【0058】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
【0059】
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0060】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。箔状の集電体(以下、集電箔という。)の場合は、その厚みが1μm~100μmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
オリビン構造の正極活物質は、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/32等の層状岩塩構造の正極活物質に比べて電子伝導性に乏しい。そのため、表面が粗い集電箔を用いること、具体的には、面粗さの算術平均高さSaが0.1μm≦Saである集電箔を用いることで、集電箔と正極活物質層間の抵抗を低減させることが好ましい。
【0062】
面粗さの算術平均高さSaとは、ISO 25178で規定される面粗さの算術平均高さを意味し、集電箔の表面における平均面に対する各点の高さの差の絶対値の平均値である。
【0063】
表面が粗い集電箔を準備するには、金属製の集電箔を炭素で被覆する方法や、金属製の集電箔を酸やアルカリで処理する方法で製造してもよいし、市販の表面が粗い集電箔を購入してもよい。
【0064】
オリビン構造の正極活物質を準備するには、市販のものを購入してもよいし、以下の文献などに記載された方法を参考に製造してもよい。オリビン構造の正極活物質としては、炭素で被覆されているものが好ましい。
【0065】
特開平11-25983号公報
特開2002-198050号公報
特表2005-522009号公報
特開2012-79554号公報
【0066】
オリビン構造の正極活物質を化学式で表した1例として、LiabPO4(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te、Moから選ばれる少なくとも1の元素である。aは0.9≦a≦1.2、bは0.6≦b≦1.1を満足する。)を例示できる。
【0067】
aの範囲としては0.95≦a≦1.1、0.97≦a≦1.05を例示できる。
【0068】
LiabPO4におけるMは、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、V、Teから選ばれる少なくとも1の元素であるのが好ましく、また、Mが2種類以上の元素で構成されるのがさらに好ましい。Mは、Mn、Fe及びVから選択されるのがより好ましい。bは0.95≦b≦1.05を満足するのが好ましい。
【0069】
LiabPO4としては、Mn及びFeが必須の構成元素であるLiMnxFeyPO4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する。)で表されるものが、さらに好ましい。x及びyの範囲として、0.5≦x≦0.9、0.1≦y≦0.5や、0.6≦x≦0.8、0.2≦y≦0.4、更には0.7≦x≦0.8、0.2≦y≦0.3を例示できる。
【0070】
オリビン構造の正極活物質としてはLiFePO4が汎用されているが、Mn及びFeが共存するLiMnxFeyPO4は、LiFePO4よりも反応電位が高いことが知られている。
【0071】
正極活物質層は、正極活物質以外に、導電助剤、結着剤、分散剤などの添加剤を含むことがある。なお、正極活物質層には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、オリビン構造の正極活物質以外の公知の正極活物質が含有されていてもよい。
【0072】
正極活物質層におけるオリビン構造の正極活物質の割合として、70~99質量%の範囲内、80~98質量%の範囲内、90~97質量%の範囲内を例示できる。
【0073】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。
【0074】
導電助剤は化学的に不活性な電子伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、カーボンナノチューブ、及び各種金属粒子等が例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック等が例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて正極活物質層に添加することができる。
【0075】
導電助剤の配合量は特に限定されない。正極活物質層における導電助剤の割合は、1~7質量%の範囲内が好ましく、2~6質量%の範囲内がより好ましく、3~5質量%の範囲内がさらに好ましい。
【0076】
結着剤は、正極活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割をするものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムを例示できる。
【0077】
結着剤の配合量は特に限定されない。正極活物質層における結着剤の割合は、0.5~7質量%の範囲内が好ましく、1~5質量%の範囲内がより好ましく、2~4質量%の範囲内がさらに好ましい。
【0078】
導電助剤及び結着剤以外の分散剤などの添加剤は、公知のものを採用することができる。
【0079】
負極活物質として黒鉛を備える負極は、具体的には、集電体と、集電体の表面に形成された、負極活物質を含有する負極活物質層を備える。集電体は、正極で説明したものを適宜適切に採用すればよい。なお、負極活物質層には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、黒鉛以外の公知の負極活物質が含有されていてもよい。
【0080】
黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛などリチウムイオン二次電池の負極活物質として機能するものであれば限定されない。
【0081】
負極活物質層における黒鉛の割合として、70~99質量%の範囲内、80~98.5質量%の範囲内、90~98質量%の範囲内、95~97.5質量%の範囲内を例示できる。
【0082】
負極活物質層は負極活物質以外に、結着剤、分散剤などの添加剤を含むことがある。結着剤は、正極で説明したものを適宜適切に採用すればよい。分散剤などの添加剤は公知のものを採用することができる。
【0083】
結着剤の配合量は特に限定されない。負極活物質層における結着剤の割合は、0.5~7質量%の範囲内が好ましく、1~5質量%の範囲内がより好ましく、2~4質量%の範囲内がさらに好ましい。
【0084】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリー状の活物質層形成用組成物を製造し、当該活物質層形成用組成物を集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0085】
また、特開2015-201318号等に開示される製造方法を用いて活物質層を形成してもよい。
具体的には、活物質と結着剤と溶媒とを含む合剤を造粒することで湿潤状態の造粒体を得る。当該造粒体の集合物を予め定められた型枠に入れ、平板状の成形体を得る。その後、転写ロールを用いて平板状の成形体を集電体の表面に付着させることで活物質層を形成する方法である。
【0086】
オリビン構造の正極活物質を備える正極及び負極活物質として黒鉛を備える負極を具備するリチウムイオン二次電池は、熱安定性に優れるといえるが、電極の単位体積当たりの容量は低い。
【0087】
産業界からは、高容量のリチウムイオン二次電池が求められている。その要求に応える手段としては、電極あたりの正極活物質及び負極活物質の量を増加する手段、具体的には、集電箔に対する正極活物質層及び負極活物質層の塗布量を増加する手段が考えられる。集電箔に対する正極活物質層及び負極活物質層の塗布量を増加する手段により、正極の集電箔の片面1平方センチメートルの面積上に存在する正極活物質層の質量(以下、「正極の目付け量」ということがある。)、及び、負極の集電箔の片面1平方センチメートルの面積上に存在する負極活物質層の質量(以下、「負極の目付け量」ということがある。)は増加する。
【0088】
正極の目付け量としては、20mg/cm2以上が好ましい。好適な正極の目付け量として、30~200mg/cm2の範囲内、35~150mg/cm2の範囲内、40~120mg/cm2の範囲内、50~1000mg/cm2の範囲内を例示できる。
【0089】
負極の目付け量としては、10mg/cm2以上が好ましい。好適な負極の目付け量として、15~100mg/cm2の範囲内、17~75mg/cm2の範囲内、20~60mg/cm2の範囲内、25~50mg/cm2の範囲内を例示できる。
【0090】
一般的に、目付け量が多く活物質層の厚みが厚い厚目付の電極を具備するリチウムイオン二次電池においては、低レートでの充放電容量と比較して、高レートでの充放電容量が不十分になるとのレート特性悪化現象が生じる。レート特性悪化現象は、リチウムイオン二次電池におけるリチウムイオンの拡散抵抗に関連すると考えられ、そして、リチウムイオンの拡散抵抗は、電解液の粘度及び電解液におけるリチウムイオンの拡散係数に関連すると考えられる。
【0091】
本発明の電解液はプロピオン酸メチルの存在に因り低粘度化されており、また、リチウムイオンの拡散係数に配慮して設計されている。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池においては、レート特性悪化現象がある程度抑制される。
【0092】
本発明のリチウムイオン二次電池は、集電箔の片面に正極活物質層が形成されており、他面に負極活物質層が形成されている双極型(バイポーラ)電極を具備するものでもよい。
【0093】
双極型電極の場合の集電箔には、複数の異種金属で構成された多層構造体を用いることができる。
多層構造体としては、基材金属に異種金属をメッキした構造や、基材金属に異種金属を圧延接合させた構造、異種金属同士を導電性を有する接着剤等で接合させた構造などが挙げられる。具体的には、アルミニウム箔にニッケルメッキが施された金属箔が挙げられる。
【0094】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるための、セパレータを具備する。
【0095】
セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。具体的には、電極とセパレータ間の高い接着性を実現するためにセパレータに接着層を設けた接着型のセパレータや、セパレータに無機フィラー等を含むコーティング膜を形成することで高温耐熱性を高めた塗布型セパレータなどを挙げることができる。
【0096】
リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について説明する。例えば、正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体及び負極の集電体から外部に通ずる正極端子及び負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0097】
また、リチウムイオン二次電池の電極として、双極型電極を用いた場合の具体的な製造方法について説明する。例えば、一の双極型電極の正極活物質層と、一の双極型電極と隣り合う双極型電極の負極活物質層とがセパレータを介して対向するように積層し電極体とする。電極体の周縁を樹脂等で被覆することで、一の双極型電極と一の双極型電極と隣り合う双極型電極との間に空間を形成し、当該空間内に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0098】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0099】
一般に、リチウムイオン二次電池における正極、セパレータ及び負極の状態としては、平板状の正極、平板状のセパレータ及び平板状の負極が積層されている積層型と、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型とが存在する。捲回型のリチウムイオン二次電池では、電極の活物質層に対して曲げる力が加わり、活物質層には曲げ応力が生じる。
【0100】
目付け量が多い厚目付の電極を具備するリチウムイオン二次電池の活物質層は、捲回型で生じる曲げる力に追従できる程度の柔軟性を有しているとはいえない。
【0101】
したがって、本発明のリチウムイオン二次電池のうち、厚目付の電極を具備するものは、平板状の正極、平板状のセパレータ及び平板状の負極が積層されている積層型であるのが好ましい。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、集電箔の両面に正極活物質層が形成された正極、セパレータ及び集電箔の両面に負極活物質層が形成された負極を、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極との順に繰り返して、多数層を積層したものが好ましい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、集電箔の片面に正極活物質層が形成されており、他面に負極活物質層が形成されている双極型電極を、セパレータと共に、多数層を積層したものが好ましい。
【0102】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0103】
以上、本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例
【0104】
以下に、実施例及び比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0105】
<基礎検討1:エステル溶媒と鎖状カーボネート溶媒の粘度の比較>
以下の表1で示す体積比で混合した溶媒に、LiPF6を溶解して、No.1~No.15の電解液を製造した。各電解液の25℃における粘度を、B型粘度計(Brookfield社、DV2T)にて、コーン型スピンドルを用いて、測定した。なお、コーン型スピンドルの回転速度は、表1に記載のとおりとした。
結果を表1及び図1に示す。
なお、ECとはエチレンカーボネートの略称であり、MPとはプロピオン酸メチルの略称であり、EPとはプロピオン酸エチルの略称であり、DMCとはジメチルカーボネートの略称である。
【0106】
【表1】
【0107】
表1及び図1の結果から、鎖状カーボネートであるジメチルカーボネートを主溶媒とする電解液と比較して、エステルを主溶媒とする電解液の粘度が低い傾向にあるといえる。また、No.1~No.10の結果から、プロピオン酸メチルを主溶媒とする電解液は、プロピオン酸エチルを主溶媒とする電解液よりも、粘度が低いことがわかる。
粘度の点からは、電解液の主溶媒としてプロピオン酸メチルを選択するのが好ましいといえる。
【0108】
以下の表2で示す体積比で混合した溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して、No.16~No.23の電解液を製造した。各電解液の25℃における粘度を、上記の粘度測定と同様の方法で測定した。なお、コーン型スピンドルの回転速度は、表2に記載のとおりとした。結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2の結果から、鎖状カーボネートであるジメチルカーボネートをプロピオン酸メチルに置換することで、電解液の粘度が低下することがわかる。他方、鎖状カーボネートであるジメチルカーボネートをプロピオン酸エチルに置換しても、電解液の粘度はほとんど変化しないといえる。
また、No.17~No.20の結果から、プロピオン酸メチルの体積がエチレンカーボネートの体積以上である場合、又は、プロピオン酸メチルの体積が全非水溶媒の体積に対して30体積%以上である場合に、電解液の粘度低下が顕著になるといえる。
【0111】
<基礎検討2:LiPF6の濃度及びエチレンカーボネート及びプロピオン酸メチルの割合と、粘度及びイオン伝導度の関係>
以下の表3で示す体積比で混合した溶媒に、LiPF6を溶解して、No.1~No.12の電解液を製造した。各電解液の粘度及びイオン伝導度を以下の条件で測定した。
結果を表3、図2及び図3に示す。
【0112】
<粘度>B型粘度計(Brookfield社、DV2T)にて、コーン型スピンドルを用いて25℃における各電解液の粘度を測定した。なお、コーン型スピンドルの回転速度は、表3に記載のとおりとした。
<イオン伝導度>白金極を備えたセルに電解液を封入し、25℃環境下にて、インピーダンス法により抵抗を測定した。抵抗の測定結果から、イオン伝導度を算出した。測定機器はSolartron 147055BEC(ソーラトロン社)を使用した。
【0113】
【表3】
【0114】
まず、粘度に関して考察する。
LiPF6の濃度が増加するに従い、電解液の粘度が増加することがわかる。そして、LiPF6の濃度増加に伴う粘度増加の度合いは、エチレンカーボネートの割合が低いほど、換言すればプロピオン酸メチルの割合が高いほど、抑制されるといえる。逆に言えば、エチレンカーボネートの割合が高く、プロピオン酸メチルの割合が低い電解液は、LiPF6の濃度増加にて、急激な粘度上昇が生じるといえる。
【0115】
厚目付の電極に採用される電解液においては、充放電時にリチウム塩濃度のバラツキが生じることが想定される。よって、電解液としては、リチウム塩濃度が変化した際に、粘度の変化が抑制されているものが好ましいといえる。この点からは、エチレンカーボネートの割合が低く、プロピオン酸メチルの割合が高い電解液が好ましいといえる。
【0116】
次に、イオン伝導度に関して考察する。
図3のグラフからみて、溶媒の組成が変化すると、イオン伝導度の極大値も変化するといえる。
【0117】
エチレンカーボネートを含有しない電解液の場合は、イオン伝導度の極大値はLiPF6の濃度が2mol/L付近にあることがわかるが、LiPF6の濃度が2mol/L以上の電解液においては、リチウムイオンが十分に解離されていないことが示唆される。また、エチレンカーボネートを含有しない電解液の場合は、LiPF6の濃度変化に対するイオン伝導度の変化が大きいといえる。
上述したとおり、厚目付の電極に採用される電解液においては、充放電時にリチウム塩濃度のバラツキが生じることが想定されるので、電解液としては、リチウム塩濃度が変化した際に、イオン伝導度の変化が抑制されているものが好ましいといえる。この点からは、エチレンカーボネートを含有しない電解液は好ましいとはいえない。
【0118】
エチレンカーボネートを15体積%含有する電解液の場合は、イオン伝導度の極大値はLiPF6の濃度が1.1~1.6mol/Lの範囲内にあるといえる。また、LiPF6の濃度変化に対するイオン伝導度の変化は比較的小さいといえる。
エチレンカーボネートを30体積%含有する電解液の場合は、イオン伝導度の極大値はLiPF6の濃度が0.9~1.4mol/Lの範囲内にあるといえる。また、LiPF6の濃度変化に対するイオン伝導度の変化は比較的小さいといえる。
エチレンカーボネートをある程度の割合で含有する電解液は、LiPF6の濃度変化に対するイオン伝導度の変化が比較的小さいので、厚目付の電極を備えるリチウムイオン二次電池の電解液として、好適といえる。
【0119】
なお、表3、図2及び図3の結果からみて、粘度とイオン伝導度には、一義的な相関関係は無いといえる。
粘度とイオン伝導度の結果を総合的に考察すると、エチレンカーボネートの割合は、5~25体積%の範囲内が好ましいと考えられる。
【0120】
<基礎検討3:LiPF6の濃度及びエチレンカーボネート及びプロピオン酸メチルの割合と、リチウムイオンの拡散係数及び輸率の関係>
以下の表4で示す体積比で混合した溶媒に、LiPF6を溶解して、No.1~No.9の電解液を製造した。30℃の条件下でのパルス磁場勾配NMR法にて、各電解液の拡散係数及び輸率を測定した。具体的には、電解液を入れたNMRチューブをPFG-NMR装置(ECA-500、日本電子)に供し、磁場パルス幅を変化させながら7Li及び19Fを対象として分析を行い、その結果から電解液中のLi+及びPF6 -の拡散係数を算出した。
リチウムイオンの輸率は以下の式で算出した。
輸率=(Li+の拡散係数)/(Li+の拡散係数+PF6 -の拡散係数)
以上の結果を表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
表4から、LiPF6の濃度が1.2mol/Lの電解液において、Li+及びPF6 -の両拡散係数が高いことがわかる。また、エチレンカーボネートの割合が低く、プロピオン酸メチルの割合が高い電解液において、両拡散係数が高いことがわかる。
以上の結果から、リチウムイオンの拡散係数の点では、LiPF6の濃度が1.2mol/L程度であって、エチレンカーボネートの割合が低く、プロピオン酸メチルの割合が高い電解液が好ましいといえる。
【0123】
<基礎検討4:ハーフセルの充放電>
以下の表5で示す体積比で混合した溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して、No.1~No.4の電解液を製造した。
【0124】
【表5】
【0125】
各電解液を用いて、以下の手順で、正極ハーフセル及び負極ハーフセルを製造した。
【0126】
正極活物質として炭素で被覆されたオリビン構造のLiFePO4、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が85:7.5:7.5となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
なお、正極の目付け量は15mg/cm2であった。
【0127】
対極として、厚さ0.2μmのリチウム箔が貼り付けられた銅箔を準備した。
セパレータとしてポリオレフィン製の多孔質膜を準備した。正極、セパレータ、対極の順に積層して極板群とした。極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたラミネート型電池を得た。これを正極ハーフセルとした。
【0128】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の目付け量は6.15mg/cm2であった。
【0129】
対極として、厚さ0.2μmのリチウム箔が貼り付けられた銅箔を準備した。
セパレータとしてポリオレフィン製の多孔質膜を準備した。負極、セパレータ、対極の順に積層して極板群とした。極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたラミネート型電池を得た。これを負極ハーフセルとした。
【0130】
正極ハーフセルに対して、0.05Cの一定電流にて、4.1Vまで充電を行い、2.5Vまで放電を行った(n=2)。
負極ハーフセルに対して、0.05Cの一定電流にて、0.01Vまで充電を行い、2.0Vまで放電を行った(n=2)。
以上の試験で得られた放電容量及びクーロン効率(=100×(放電容量)/(充電容量))を、表6及び表7に示す。
【0131】
【表6】
【0132】
【表7】
【0133】
正極ハーフセル及び負極ハーフセルのいずれにおいても、プロピオン酸メチルを含有する電解液を備えるハーフセルは、対応する割合でプロピオン酸エチルを含有する電解液を備えるハーフセルよりも、放電容量及びクーロン効率に優れることがわかる。
【0134】
また、プロピオン酸エチルを含有する電解液を備えるNo.3及びNo.4のハーフセルにおいては、プロピオン酸エチルの増加に伴うハーフセルの性能劣化が著しいが、プロピオン酸メチルを含有する電解液を備えるNo.1及びNo.2のハーフセルにおいては、プロピオン酸メチルの増加に伴うハーフセルの性能劣化は抑制されているといえる。
【0135】
基礎検討1での電解液の粘度の結果に加えて、オリビン構造の正極活物質を備える正極ハーフセル及び負極活物質として黒鉛を備える負極ハーフセルの充放電の結果においても、プロピオン酸メチルの有用性が裏付けられたといえる。
【0136】
(実施例1)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比30:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して0.5質量%に相当する量の1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド(以下、DTDと略すことがある。DTDは環状硫酸エステルの一態様である。)を加えて溶解することで、実施例1の電解液を製造した。
【0137】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の目付け量は6.15mg/cm2であり、負極活物質層の密度は1.5g/cm3であった。
【0138】
対極として、リチウム箔を貼付した銅箔を準備した。
セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。セパレータを負極と対極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに実施例1の電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例1の負極ハーフセルとした。
【0139】
正極活物質として炭素で被覆されたオリビン構造のLiFePO4、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が85:7.5:7.5となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
なお、正極の目付け量は15mg/cm2であり、正極活物質層の密度は2.2g/cm3であった。
【0140】
対極として、リチウム箔を貼付した銅箔を準備した。
セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。セパレータを正極と対極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに実施例1の電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例1の正極ハーフセルとした。
【0141】
(実施例2)
DTDに替えて、リチウムビス(オキサラート)ボラート(以下、LiBOBと略すことがある。LiBOBはオキサレート硼酸塩の一態様である。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の電解液、負極ハーフセル及び正極ハーフセルを製造した。
【0142】
(比較例1)
DTDを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の電解液及び負極ハーフセルを製造した。
【0143】
(比較例2)
DTDに替えて、ビニレンカーボネート(以下、VCと略すことがある。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の電解液及び負極ハーフセルを製造した。
【0144】
(比較例3)
DTDに替えて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LiFSIと略すことがある。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の電解液及び負極ハーフセルを製造した。
【0145】
(比較例4)
DTDに替えて、1,3-プロパンスルトン(以下、PSと略すことがある。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4の電解液及び負極ハーフセルを製造した。
【0146】
(比較例5)
DTDに替えて、トリフェニルホスフィンオキシド(以下、TPPOと略すことがある。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例5の電解液及び負極ハーフセルを製造した。
【0147】
(評価例1:初期容量測定)
実施例1~2、比較例1~5の負極ハーフセルに対して、0.05Cの一定電流にて、0.01Vまで充電を行い、2.0Vまで放電を行った(n=2)。
結果を表8に示す。
【0148】
【表8】
【0149】
表8の結果から、実施例1及び実施例2の負極ハーフセルの放電容量は、比較例1~比較例5の負極ハーフセルの放電容量と比較して、著しく大きいことがわかる。環状硫酸エステルであるDTD及びオキサレート硼酸塩であるLiBOBは、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池における電解液の添加剤として、好適であるといえる。
【0150】
(評価例2:還元分解電位測定)
実施例1~2、比較例1~3の負極ハーフセルに対して、0.05Cの一定電流にて、0.01Vまで充電を行った。得られた各負極ハーフセルの充電曲線に基づき、電位V(vsLi/Li+)の値を横軸とし、充電容量Qを電位Vで微分した値を縦軸とするグラフを作成した。
実施例1、実施例2及び比較例1の負極ハーフセルのグラフを重ね書きして図4に示し、比較例1~比較例3の負極ハーフセルのグラフを重ね書きして図5に示す。
【0151】
図4の比較例1の負極ハーフセルのグラフから、LiPF6、エチレンカーボネート、プロピオン酸メチルのうち、いずれかの物質が還元分解を開始する電位が、1.52V付近にあるといえる。なお、これらの構成成分のLUMO水準や還元分解電位、並びに、電解液中の状態から考察すると、リチウムイオンと配位し、LUMO水準が低下した状態のエチレンカーボネートの一部が、優先的に1.52V付近で還元分解を開始していると推定される。
【0152】
実施例1及び実施例2の負極ハーフセルのグラフには、1.52Vよりも高い電位に、下向きに凸のピークが存在するのがわかる。実施例1の負極ハーフセルにおける当該ピークは、DTDの還元分解に因るピークと考えられ、実施例2の負極ハーフセルにおける当該ピークは、LiBOBの還元分解に因るピークと考えられる。よって、実施例1及び実施例2の負極ハーフセルにおいては、DTD及びLiBOBの還元分解が、他の構成成分の還元分解よりも先に生じたといえる。
【0153】
他方、比較例1~比較例3の負極ハーフセルのグラフは同等であった。この結果から、比較例2及び比較例3の負極ハーフセルにおいては、ビニレンカーボネート以外の電解液に含まれる構成成分又はLiFSI以外の電解液に含まれる構成成分が、最初に還元分解すると考えられる。そのため、ビニレンカーボネート及びLiFSI以外の電解液に含まれる構成成分に由来するSEI被膜が負極の表面に優先的に形成されるといえる。
【0154】
以上の電解液の構成成分の還元分解挙動の差異が、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池の放電容量の値に影響したと考えられる。すなわち、DTDやLiBOBの還元分解に由来するSEI被膜が優れていたため、実施例1及び実施例2の負極ハーフセルの放電容量は大きかったと考えられる。
【0155】
(評価例3:正極ハーフセルの初期容量測定)
実施例1及び実施例2の正極ハーフセルに対して、0.05Cの一定電流にて、4.1Vまで充電を行い、3.0Vまで放電を行った(n=2)。
結果を表9に示す。
【0156】
【表9】
【0157】
表9の結果から、実施例1及び実施例2の正極ハーフセルは、初期充電容量及び初期放電容量がいずれも高く、かつ、ほぼ同等といえる。実施例1及び実施例2の正極ハーフセルは、好適な充放電が可能といえる。
本発明の電解液は、オリビン構造の正極活物質を備えるリチウムイオン二次電池における電解液として、好適であるといえる。
【0158】
(実施例3)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して0.5質量%に相当する量のDTDを加えて溶解することで、実施例3の電解液を製造した。
実施例3の電解液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例3の正極ハーフセル及び負極ハーフセルを製造した。
【0159】
(比較例6)
プロピオン酸メチルにLiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して0.5質量%に相当する量のDTDを加えて溶解することで、比較例6の電解液を製造した。
比較例6の電解液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例6の正極ハーフセル及び負極ハーフセルを製造した。
【0160】
(評価例4:各ハーフセルにおける充放電試験)
実施例1、実施例3及び比較例6の正極ハーフセルに対して、0.05Cの一定電流にて、4.1Vまで充電を行い、2.5Vまで放電を行った。
実施例1、実施例3及び比較例6の負極ハーフセルに対して、0.05Cの一定電流にて、0.01Vまで充電を行い、2.0Vまで放電を行った。
以上の結果を、表10に示す。
【0161】
【表10】
【0162】
表10の正極ハーフセルの充電容量と放電容量の数値から、実施例1及び実施例3の正極ハーフセルは可逆的に充放電が可能であるといえる。エチレンカーボネートを含有しない電解液を具備する比較例6の正極ハーフセルも、充電容量に対する放電容量の割合が低下したものの、可逆的に充放電が可能であるといえる。
表10の負極ハーフセルの充電容量と放電容量の数値から、実施例1及び実施例3の負極ハーフセルは可逆的に充放電が可能であるといえる。他方、エチレンカーボネートを含有しない電解液を具備する比較例6の負極ハーフセルにおいては、ほとんど充電ができなかったことがわかる。
以上の結果から、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池における電解液には、本発明の添加剤だけではなく、エチレンカーボネートなどの環状カーボネートの存在が必要であるといえる。
【0163】
(実施例4)
実施例1の電解液を用いて、以下のとおり、実施例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0164】
正極活物質として炭素で被覆されたオリビン構造のLiFePO4、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が90:5:5となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
なお、正極の製造において、正極の目付け量13.87mg/cm2を目標とし、正極活物質層の密度2g/cm3を目標とした。
【0165】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の製造において、負極の目付け量6.27mg/cm2を目標とし、負極活物質層の密度1.55g/cm3を目標とした。
【0166】
セパレータとしてポリプロピレン製の多孔質膜を準備した。正極と負極でセパレータを挟持して電極体とした。この電極体を実施例1の電解液と共に、袋状のラミネートフィルムに入れて密閉することで、実施例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0167】
(実施例5)
実施例2の電解液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例5のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0168】
(比較例7)
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比30:30:40で混合して、混合溶媒とした。混合溶媒にLiPF6及びLiFSIを溶解して、LiPF6の濃度が1mol/LでありLiFSIの濃度が0.1mol/Lである母液を製造した。母液に対し、0.2質量%に相当するビニレンカーボネートを添加して、比較例7の電解液を製造した。
比較例7の電解液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、比較例7のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0169】
(評価例5:初期容量及び出力試験)
実施例4、実施例5及び比較例7のリチウムイオン二次電池に対して、0.4Cの一定電流にて4.0Vまで充電を行った後に当該電圧を維持する定電圧充電を行い、その後、1Cの一定電流にて2.5Vまで放電を行った後に当該電圧を維持する定電圧放電を行った。ここで観測された正極活物質あたりの放電容量を初期容量とした。初期容量の試験は複数回行った。
【0170】
また、SOC60%に調整した実施例4、実施例5及び比較例7のリチウムイオン二次電池に対して、25℃の条件下、一定電流レートで10秒間放電させた場合の電圧変化量を測定した。当該測定を、電流レートを変えた複数の条件下で行った。得られた結果から、SOC60%の各リチウムイオン二次電池につき、電圧2.5Vまでの放電時間が10秒となる一定電流(mA)を算出した。SOC60%から2.5Vまでの電圧変化量に算出された一定電流を乗じた値を初期出力とした。初期出力の試験も複数回行った。
以上の結果の平均値を、表11に示す。
【0171】
【表11】
【0172】
表11の結果から、オリビン構造の正極活物質、負極活物質として黒鉛、及び、本発明の電解液を具備するリチウムイオン二次電池は、従来の電解液を具備するリチウムイオン二次電池と比較して、同等の初期容量及び初期出力を示すといえる。また、環状硫酸エステルであるDTDを添加剤として含有する電解液を具備することで、上記リチウムイオン二次電池の初期出力が著しく向上したといえる。
【0173】
(実施例6)
実施例3の電解液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例6のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0174】
(実施例7)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、0.5質量%に相当する量のDTD及び1質量%に相当する量のリチウムジフルオロ(オキサラート)ボラート(以下、LiDFOBと略すことがある。LiDFOBはオキサレート硼酸塩の一態様である。)を加えて溶解することで、実施例7の電解液を製造した。
実施例7の電解液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例7のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0175】
(実施例8)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、0.5質量%に相当する量のDTD及び1質量%に相当する量のLiFSIを加えて溶解することで、実施例8の電解液を製造した。
実施例8の電解液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例8のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0176】
(実施例9)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、0.5質量%に相当する量のDTD及び1質量%に相当する量のフルオロエチレンカーボネート(以下、FECと略すことがある。)を加えて溶解することで、実施例9の電解液を製造した。
実施例9の電解液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例9のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0177】
(実施例10)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、1質量%に相当する量のLiDFOB及び1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解することで、実施例10の電解液を製造した。
実施例10の電解液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例10のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0178】
(実施例11)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、1質量%に相当する量のLiDFOB及び1質量%に相当する量のフルオロエチレンカーボネートを加えて溶解することで、実施例11の電解液を製造した。
実施例11の電解液を用いたこと以外は、実施例4と同様の方法で、実施例11のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0179】
(評価例6:初期容量及び出力試験)
評価例5と同様の方法で、実施例6~11のリチウムイオン二次電池の試験を行った。結果の平均値を表12に示す。
【0180】
【表12】
【0181】
表12の結果から、環状硫酸エステルであるDTD及びオキサレート硼酸塩であるLiDFOBを併用すること、又は、環状硫酸エステルであるDTD若しくはオキサレート硼酸塩であるLiDFOBと共に他の添加剤を電解液に添加することで、オリビン構造の正極活物質及び負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池の性能がさらに向上するといえる。
【0182】
(実施例12)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比30:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、2質量%に相当する量のフルオロエチレンカーボネート及び1質量%に相当する量のDTDを加えて溶解することで、実施例12の電解液を製造した。
【0183】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の目付け量は9mg/cm2であった。
【0184】
対極として、リチウム箔を準備した。
セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。セパレータを負極と対極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに実施例12の電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例12の負極ハーフセルとした。
【0185】
(実施例13)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比30:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、2質量%に相当する量のビニレンカーボネート及び1質量%に相当する量のDTDを加えて溶解することで、実施例13の電解液を製造した。
実施例13の電解液を用いたこと以外は、実施例12と同様の方法で、実施例13のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0186】
(実施例14)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比30:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、1質量%に相当する量のDTDを加えて溶解することで、実施例14の電解液を製造した。
実施例14の電解液を用いたこと以外は、実施例12と同様の方法で、実施例14のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0187】
(実施例15)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比30:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して、1質量%に相当する量のLiDFOBを加えて溶解することで、実施例15の電解液を製造した。
実施例15の電解液を用いたこと以外は、実施例12と同様の方法で、実施例15のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0188】
(比較例8)
母液を電解液として使用したこと以外は、実施例12と同様の方法で、比較例8のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0189】
(評価例7:充放電サイクル試験及び充電時の抵抗)
実施例12~15及び比較例8のリチウムイオン二次電池に対して、0.065Cの電流で0.01Vまで充電を行い、1Vまで放電を行った。その後、0.16Cの電流で0.01Vまで充電した後に電圧の印加を10秒間休止し、引き続き、1Vまで放電する充放電サイクルを50回繰り返した。
1回目の充放電サイクルの放電容量に対する50回目の充放電サイクルの放電容量の百分率を容量維持率とした。
また、充放電サイクル毎に、0.01Vから電圧の印加を10秒間休止した時点までの電圧変化量と、電流値から、抵抗を算出した。1回目の充放電サイクル時の抵抗に対する50回目の充放電サイクル時の抵抗の百分率を抵抗増加率とした。
容量維持率、及び、抵抗増加率の結果を表13に示す。
【0190】
【表13】
【0191】
表13の結果から、環状硫酸エステルであるDTDとフッ素含有環状カーボネートであるフルオロエチレンカーボネートを併用した電解液、及び、環状硫酸エステルであるDTDと不飽和環状カーボネートであるビニレンカーボネートを併用した電解液は、負極活物質として黒鉛を備えるリチウムイオン二次電池の容量を好適に維持し、かつ、抵抗増加を抑制することがわかる。
実施例14、実施例15及び比較例8の結果から、添加剤不存在の電解液と比較すると、環状硫酸エステルであるDTD又はオキサレート硼酸塩であるLiDFOBを添加剤として単独で添加する効果は、程度が低いものの一応認められる。
【0192】
(実施例16)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.0mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して0.5質量%に相当する量のDTDを加えて溶解することで、実施例16の電解液を製造した。
【0193】
正極活物質として炭素で被覆されたオリビン構造のLiFePO4、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が90:5:5となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
なお、正極の目付け量は92mg/cm2であった。
【0194】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の目付け量は43mg/cm2であった。
【0195】
セパレータとしてポリプロピレン製の多孔質膜を準備した。正極と負極でセパレータを挟持して電極体とした。この電極体を実施例16の電解液と共に、袋状のラミネートフィルムに入れて密閉することで、実施例16のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0196】
(比較例9)
エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比20:5:35:40で混合して、混合溶媒とした。混合溶媒にLiPF6を溶解して、LiPF6の濃度が1.2mol/Lである比較例9の電解液を製造した。
比較例9の電解液を用いたこと以外は、実施例16と同様の方法で、比較例9のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0197】
(評価例8:厚目付電極に対する充放電試験)
実施例16及び比較例9のリチウムイオン二次電池に対して、0.05Cで3.75Vまで充電を行い、0.33Cで3.0Vまで放電を行った。得られた放電容量を表14に示す。
【0198】
SOC5%に調整した実施例16及び比較例9のリチウムイオン二次電池に対して、25℃の条件下、一定電流レートで5秒間放電させた場合の電圧変化量を測定した。当該測定を、電流レートを変えた複数の条件下で行った。得られた結果から、SOC5%の各リチウムイオン二次電池につき、電圧2.23Vまでの放電時間が5秒となる一定電流を算出した。SOC5%から2.23Vまでの電圧変化量に、算出された一定電流を乗じた値をSOC5%出力とした。SOC5%出力を表14に示す。
【0199】
SOC95%に調整した実施例16及び比較例9のリチウムイオン二次電池に対して、25℃又は40℃の条件下、電流1.1Cで電圧2.23Vまで放電させた。表14に、測定された放電容量(高レート放電容量)及び当該放電容量のSOC換算%を、温度条件毎に示す。
【0200】
【表14】
【0201】
実施例16のリチウムイオン二次電池及び比較例9のリチウムイオン二次電池は、正極及び負極の目付け量が多い厚目付電極を用いたリチウムイオン二次電池である。
表14の結果から、実施例16のリチウムイオン二次電池は、従来の電解液を備える比較例9のリチウムイオン二次電池と比較して、高レートにおける出力特性に優れるといえる。
オリビン構造の正極活物質を備える厚目付の正極と負極活物質として黒鉛を備える厚目付の負極の両者を具備するリチウムイオン二次電池において、本発明の電解液は、高レート放電により生じる容量低下をある程度抑制できたといえる。
【0202】
(実施例17)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のDTDを加えて溶解することで、実施例17の電解液を製造した。
【0203】
正極活物質として炭素で被覆されたオリビン構造のLiFePO4、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が90:5:5となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
なお、正極の目付け量は約13.9mg/cm2であった。
【0204】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の目付け量は約6.2mg/cm2であった。
【0205】
セパレータとしてポリプロピレン製の多孔質膜を準備した。正極と負極でセパレータを挟持して電極体とした。この電極体を実施例17の電解液と共に、袋状のラミネートフィルムに入れて密閉することで、実施例17のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0206】
(実施例18)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のDTDと1質量%に相当する量のフルオロエチレンカーボネートとを加えて溶解することで、実施例18の電解液を製造した。
実施例18の電解液を用いたこと以外は、実施例17と同様の方法で、実施例18のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0207】
(実施例19)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOBを加えて溶解することで、実施例19の電解液を製造した。
実施例19の電解液を用いたこと以外は、実施例17と同様の方法で、実施例19のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0208】
(実施例20)
実施例11の電解液を用いたこと以外は、実施例17と同様の方法で、実施例20のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0209】
(実施例21)
実施例10の電解液を用いたこと以外は、実施例17と同様の方法で、実施例21のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0210】
(比較例10)
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比30:30:40で混合して、混合溶媒とした。混合溶媒にLiPF6、LiFSI及びLiDFOBを溶解して、LiPF6の濃度が1mol/LでありLiFSIの濃度が0.1mol/LでありLiDFOBの濃度が0.2mol/Lである母液を製造した。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解することで、比較例10の電解液を製造した。
比較例10の電解液を用いたこと以外は、実施例17と同様の方法で、比較例10のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0211】
(評価例9:高温充放電サイクル試験)
実施例17~21及び比較例10のリチウムイオン二次電池に対して、高温充放電サイクル試験を行った。
〔容量確認〕
まず、高温充放電サイクル試験に先立ち、0.4Cレートで4.0VまでCC-CV充電を行った。次いで、1Cレートで2.5VまでCC-CV放電を行った。これにより、各リチウムイオン二次電池の放電容量を確認した。
〔高温充放電サイクル〕
その後、60℃で、0.4Cレートで4.0VまでCC-CV充電し、1Cレートで2.5Vとなるまで、又は、SOD90%となるまでCC放電する高温充放電サイクルを50回繰り返した。なお、ここでいう充電とは、負極から正極にリチウムイオンが移動し正極と負極との電位差が大きくなることを意味する。
50回目の充放電終了後、上記の容量確認と同様に各リチウムイオン二次電池の容量確認を行った。高温充放電サイクル前の放電容量に対する、高温充放電サイクル後の放電容量の百分率を、各リチウムイオン二次電池の容量維持率とした。高温充放電サイクル試験の結果を表15に示す。なお、試験はn=2で行い、表15にはその平均値を示した。
【0212】
【表15】
【0213】
表15に示すように、電解液の添加剤としてオキサレート硼酸塩であるLiDFOBを用いることで、当該添加剤として環状硫酸エステルであるDTDを用いる場合に比べて、高温下におけるリチウムイオン二次電池の容量維持率が向上する。このうち、フッ素含有環状カーボネートであるフルオロエチレンカーボネートや不飽和環状カーボネートであるビニレンカーボネートをLiDFOBに併用することにより、高温下におけるリチウムイオン二次電池の容量維持率をより向上させることができる。
特に、ビニレンカーボネートをLiDFOBに併用する場合には、非水溶媒としてプロピオン酸メチルでなくカーボネート系のものを用いる比較例10と同等以上に、高温下におけるリチウムイオン二次電池の容量維持率を高めることが可能である。
【0214】
(評価例10:保存試験)
実施例17~21及び比較例10のリチウムイオン二次電池につき、0.4Cレートで4.0VまでCC-CV充電を行い、このときの充電容量を基準(SOC100%)とした。当該SOC100の状態で、各リチウムイオン二次電池を40℃で14日間保存することで、保存試験を行った。
保存試験の前後に評価例9と同様に容量確認を行い、保存試験前の放電容量に対する、保存試験後の放電容量の百分率を、各リチウムイオン二次電池の容量維持率とした。保存試験の結果を表16に示す。なお、試験はn=2で行い、表16にはその平均値を示した。
【0215】
【表16】
【0216】
表16に示すように、保存試験においても高温充放電サイクル試験と同様に、電解液の添加剤として、オキサレート硼酸塩であるLiDFOBを用いることで、40℃で保存した後のリチウムイオン二次電池の容量維持率が向上し、当該容量維持率はLiDFOBにフルオロエチレンカーボネートやビニレンカーボネートを併用することによってより向上する。特に、ビニレンカーボネートをLiDFOBに併用することにより、非水溶媒としてカーボネート系のものを用いる比較例10と同等以上に、40℃で保存した後のリチウムイオン二次電池の容量維持率を高めることが可能である。
【0217】
(実施例22)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のDTDと1質量%に相当する量のビニレンカーボネートとを加えて溶解することで、実施例22の電解液を製造した。
【0218】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の目付け量は6.3mg/cm2であり、負極活物質層の密度は1.5g/cm3であった。
【0219】
対極として、厚さ0.2μmのリチウム箔が貼り付けられた銅箔を準備した。
セパレータとしてポリオレフィン製の多孔質膜を準備した。負極、セパレータ、対極の順に積層して極板群とした。極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたラミネート型電池を得た。これを実施例22の負極ハーフセルとした。
【0220】
(実施例23)
実施例10の電解液を用いたこと以外は、実施例22と同様の方法で、実施例23の負極ハーフセルを製造した。
【0221】
(評価例11:負極被膜の分析)
実施例22及び23の負極ハーフセルにつき、リニアスイープボルタンメトリー法にて電位を徐々に変化させ、その後の負極に形成された負極の成分を分析した。
まず、各負極ハーフセルを0.054mV/秒で開放電位から0.01Vに徐々に充電した。次いで各負極ハーフセルを0.01Vの定電圧で1時間保持し、その後0.054mV/秒で0.01Vから1.0Vにまで徐々に放電した。
上記のリニアスイープボルタンメトリー後、各負極ハーフセルをAr雰囲気下のグローブボックスにて解体し、負極を取り出した。取り出した負極を洗浄して、X線光電子分光法(XPS)により分析した。結果を図6及び7に示す。以下、必要に応じて、実施例22の負極ハーフセルにおける負極を実施例22の負極と称し、実施例23の負極ハーフセルにおける負極を実施例23の負極と称する。
【0222】
図6に示すように、実施例22の負極及び実施例23の負極のC1sスペクトルでは、炭素に由来する複数のピークが確認される。このうち電解液の非水溶媒の分解物に由来すると考えられる291~294eV付近のピーク及び287~290eV付近のピークについては、実施例22の負極では比較的大きく、実施例23の負極では比較的小さかった。
また、黒鉛に由来すると考えられる285eV付近のピークについては、実施例22の負極では比較的小さく、実施例23の負極では比較的大きかった。これは、実施例22の負極に形成されている被膜は比較的厚く、実施例23の負極に形成されている被膜を比較的薄いことを意味する。
これらの結果を勘案すると、電解液の添加剤としてLiDFOBを用いた実施例23の負極ハーフセルにおいては、電解液の添加剤としてDTDを用いた実施例22の負極ハーフセルと比較して、電解液に含まれる非水溶媒の分解が抑制され、その結果、負極には薄い被膜が形成されたものと推測される。
【0223】
図7に示すように、実施例22の負極及び実施例23の負極のF1sスペクトルでは、弗素に由来する複数のピークが確認される。このうち電解液の塩であるLiPF6の分解物に由来すると考えられる687~690eV付近のピークについては、実施例22の負極では比較的大きく、実施例23の負極では比較的小さかった。
また、LiFに由来すると考えられる685eV付近のピークについては、実施例22の負極では比較的小さく、実施例23の負極では比較的大きかった。
これらの結果を勘案すると、電解液の添加剤としてLiDFOBを用いた実施例23の負極ハーフセルにおいては、電解液の添加剤としてDTDを用いた実施例22の負極ハーフセルと比較して、電解液に含まれるLiPF6の分解が抑制され、かつ、LiFを多く含む被膜が形成されたと考えられる。
【0224】
既述したように、本発明のリチウムイオン二次電池の充電時には、負極表面において、本発明の添加剤の還元分解に由来するSEI被膜が優先的に形成されると考えられる。LiFを多く含むSEI被膜は電解液の構成成分の分解抑制に好適とされているため、電解液の添加剤としてLiDFOBを用いることで、負極に形成されるSEI被膜の性能をさらに向上させ得ることが期待される。
【0225】
(実施例24)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のLiBOBと1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解することで、実施例24の電解液を製造した。
【0226】
正極活物質として炭素で被覆されたオリビン構造のLiFePO4、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が90:5:5となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
なお、正極の製造において、正極の目付け量13.9mg/cm2を目標とし、正極活物質層の密度2g/cm3を目標とした。
【0227】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の製造において、負極の目付け量6.3mg/cm2を目標とし、負極活物質層の密度1.3g/cm3を目標とした。
【0228】
セパレータとしてポリプロピレン製の多孔質膜を準備した。正極と負極でセパレータを挟持して電極体とした。この電極体を実施例24の電解液と共に、袋状のラミネートフィルムに入れて密閉することで、実施例24のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0229】
(実施例25)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のLiBOBと1質量%に相当する量のフルオロエチレンカーボネートとを加えて溶解することで、実施例25の電解液を製造した。
実施例25の電解液を用いたこと以外は、実施例24と同様の方法で、実施例25のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0230】
(実施例26)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解することで、実施例26の電解液を製造した。
実施例26の電解液を用いたこと以外は、実施例24と同様の方法で、実施例26のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0231】
(実施例27)
実施例10の電解液を用いたこと以外は、実施例24と同様の方法で、実施例27のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0232】
(評価例12:保存試験)
実施例24~27のリチウムイオン二次電池につき、評価例10と同様の方法で保存試験を行った。
評価例12においても、保存試験の前後に評価例9と同様に容量確認を行い、保存試験前の放電容量に対する、保存試験後の放電容量の百分率を、各リチウムイオン二次電池の容量維持率とした。保存試験の結果を表17に示す。なお、試験はn=2で行い、表17にはその平均値を示した。
【0233】
【表17】
【0234】
表17に示すように、電解液の添加剤としてオキサレート硼酸塩であるLiBOBを用いた場合にも、電解液の添加剤としてオキサレート硼酸塩であるLiDFOBを用いた場合と同様に、40℃で保存した後のリチウムイオン二次電池の容量維持率が向上した。そして、当該容量維持率はLiBOBにフルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートのどちらを併用する場合にも、同程度の値であった。なお、比較例10のリチウムイオン二次電池の容量維持率は、95.9%であるため、LiBOB及びLiDFOBを電解液の添加剤として用いることで、非水溶媒としてカーボネート系のものを用いる比較例10と同等以上に、40℃で保存した後のリチウムイオン二次電池の容量維持率を高めることが可能であるといい得る。
【0235】
(実施例28)
実施例10の電解液を用い、以下のように実施例28のリチウムイオン二次電池を製造した。
正極活物質として炭素で被覆されたオリビン構造のLiFePO4、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が90:5:5となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
なお、正極の製造において、正極の目付け量40mg/cm2を目標とし、正極活物質層の密度2g/cm3を目標とした。
【0236】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の製造において、負極の目付け量18mg/cm2を目標とし、負極活物質層の密度1.3g/cm3を目標とした。
【0237】
セパレータとしてポリプロピレン製の多孔質膜を準備した。正極と負極でセパレータを挟持して電極体とした。この電極体を実施例10の電解液と共に、袋状のラミネートフィルムに入れて密閉することで、実施例28のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0238】
(比較例11)
比較例9の電解液を用いたこと以外は、実施例28と同様の方法で、比較例11のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0239】
(評価例13:レート特性評価試験)
実施例28及び比較例11のリチウムイオン二次電池につき、1C、2C、3C及び4Cの4通りの放電レートで、SOC95%から電圧2.29Vとなるまで放電を行った。そして、放電レート毎に、各リチウムイオン二次電池の放電終止時の容量すなわちレート容量を比較することで、実施例28及び比較例11のリチウムイオン二次電池のレート特性を評価した。なお、レート特性評価試験は、各Cレートにつきn=3で行い、その平均値を比較した。
各リチウムイオン二次電池につき、0.4Cレートで4.0VまでCC-CV充電を行ったときの充電容量をSOC100%とした。レート容量は、上記のSOC100%に対する百分率で表した。
また、放電レート毎に、比較例11のリチウムイオン二次電池のレート容量に対する実施例28のリチウムイオン二次電池のレート容量を百分率で表し、両者の差をレート容量の上昇率(%)とした。
結果を表18に示す。
【0240】
【表18】
【0241】
表18に示すように、電解液の非水溶媒としてプロピオン酸メチルを用いた実施例28のリチウムイオン二次電池は、電解液の非水溶媒としてカーボネート系のもののみを用いた比較例11のリチウムイオン二次電池に比べて、放電レート特性に優れている。特に、3Cレートや4Cレートと放電レートの高い場合には、実施例28のリチウムイオン二次電池のレート容量は、比較例11のリチウムイオン二次電池のレート容量の1.5倍にも達する。
この結果から、電解液の非水溶媒としてカーボネートに替えてプロピオン酸メチルを用いることで、リチウムイオン二次電池の放電レート特性を大きく向上させ得ることがわかる。
【0242】
(実施例29)
実施例10の電解液を用いたこと以外は、実施例24と同様の方法で、実施例29のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0243】
(比較例12)
エチレンカーボネートとプロピオン酸プロピル(以下、PPと略すことがある。)を体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOBと1質量%に相当する量のビニレンカーボネートとを加えて溶解することで、比較例12の電解液を製造した。
比較例12の電解液を用いたこと以外は、実施例24と同様の方法で、比較例12のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0244】
(比較例13)
エチレンカーボネートと酪酸メチル(以下、MBと略すことがある。)を体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOBと1質量%に相当する量のビニレンカーボネートとを加えて溶解することで、比較例13の電解液を製造した。
比較例13の電解液を用いたこと以外は、実施例24と同様の方法で、比較例13のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0245】
(比較例14)
エチレンカーボネートと酪酸エチル(以下、EBと略すことがある。)を体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOBと1質量%に相当する量のビニレンカーボネートとを加えて溶解することで、比較例14の電解液を製造した。
比較例14の電解液を用いたこと以外は、実施例24と同様の方法で、比較例14のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0246】
(比較例15)
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジメチルカーボネートを体積比30:30:40で混合して、混合溶媒とした。混合溶媒にLiPF6を溶解して、LiPF6の濃度が1mol/Lである母液を製造した。母液に対して0.2mol/Lに相当する量のLiDFOBと1質量%に相当する量のビニレンカーボネートとを加えて溶解することで、比較例15の電解液を製造した。
比較例15の電解液を用いたこと以外は、実施例24と同様の方法で、比較例15のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0247】
(評価例14:保存試験)
実施例29、比較例12~15のリチウムイオン二次電池につき、0.4Cレートで4.0VまでCC-CV充電を行い、このときの充電容量を基準(SOC100%)とした。当該SOC100の状態で、各リチウムイオン二次電池を40℃で11日間保存することで、保存試験を行った。
保存試験の前後に評価例9と同様に容量確認を行い、保存試験前の放電容量に対する、保存試験後の放電容量の百分率を、各リチウムイオン二次電池の容量維持率とした。
また、保存試験後、SOC60%に調整した各リチウムイオン二次電池に対して、25℃の条件下、一定電流レートで5秒間放電させた場合の電圧変化量を測定した。当該測定を、電流レートを変えた複数の条件下で行った。得られた結果から、SOC60%の各リチウムイオン二次電池につき、電圧2.5Vまでの放電時間が10秒となる一定電流(mA)を算出した。SOC60%から2.5Vまでの電圧変化量に算出された一定電流を乗じた値を出力とした。
以上の保存試験の結果を表19に示す。
【0248】
【表19】
【0249】
表19に示すように、電解液の非水溶媒としてプロピオン酸メチルを用いた実施例29のリチウムイオン二次電池は、容量維持率と出力の両方に優れ、特に出力においては非水溶媒としてカーボネート系のものを用いた比較例15を大きく上回っている。この結果から、非水溶媒としてプロピオン酸メチルを選択することの有用性が裏付けられる。
【0250】
(実施例30)
負極の製造において、負極の目付け量6.2mg/cm2を目標とし、負極活物質層の密度1.5g/cm3を目標としたこと以外は、実施例10と同様にして実施例30のリチウムイオン二次電池を製造した。なお、実施例30のリチウムイオン二次電池における電解液は、実施例10の電解液と同じものである。つまり当該電解液は、エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とし、当該母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOB及び1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解したものである。
【0251】
(実施例31)
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比10:5:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液としたこと以外は、実施例10と同様にして、実施例31の電解液を製造した。実施例31の電解液を用いたこと以外は実施例30と同様にして、実施例31のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0252】
(実施例32)
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比5:10:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液としたこと以外は、実施例10と同様にして、実施例32の電解液を製造した。実施例32の電解液を用いたこと以外は実施例30と同様にして、実施例32のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0253】
(実施例33)
プロピレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液としたこと以外は、実施例10と同様にして、実施例33の電解液を製造した。実施例33の電解液を用いたこと以外は実施例30と同様にして、実施例33のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0254】
(評価例15:高温充放電サイクル試験)
実施例30~33のリチウムイオン二次電池に対して、高温充放電サイクル試験を行った。
【0255】
〔容量確認〕
まず、高温充放電サイクル試験に先立ち、0.4Cレートで4.0VまでCC-CV充電を行った。次いで、1Cレートで2時間かけて2.5VまでCC-CV放電を行った。これにより、各リチウムイオン二次電池の放電容量を確認した。
【0256】
〔高温充放電サイクル〕
その後、60℃で、1Cレートで4.0VまでCC-CV充電し、1CレートでSOD90%となるまでCC放電する高温充放電サイクルを300回繰り返した。なお、ここでいう充電とは、正極から負極にリチウムイオンが移動し正極と負極との電位差が大きくなることを意味する。
300回目の充放電終了後、上記の容量確認と同様に各リチウムイオン二次電池の容量確認を行った。高温充放電サイクル前の放電容量に対する、高温充放電サイクル後の放電容量の百分率を、各リチウムイオン二次電池の容量維持率とした。各リチウムイオン二次電池の初期容量を表20に示し、高温充放電サイクル試験の結果を表21及び図8に示す。なお、試験はn=3で行い、表20及び21にはその平均値を示した。また図8におけるPC配合率とは、母液におけるエチレンカーボネートの体積とプロピレンカーボネートとの体積との和に対するプロピレンカーボネートの体積を百分率で表したものである。
【0257】
【表20】
【0258】
【表21】
【0259】
実施例30から33のリチウムイオン二次電池は、何れも負極に黒鉛を用いたものである。しかし表20に示すように、非水溶媒としてエチレンカーボネートのみを用いる場合にも、非水溶媒としてエチレンカーボネートに代えてプロピレンカーボネートを用いる場合にも、各リチウムイオン二次電池の初期容量に大きな差はなく、プロピレンカーボネートに因る電池特性への悪影響は認められなかった。これは、実施例30~33のリチウムイオン二次電池に用いた実施例10、31~33の電解液における他の成分の協働に因るものと推測される。
【0260】
また、表21に示すように、非水溶媒としてプロピレンカーボネートを用いる場合にはリチウムイオン二次電池の容量維持率が向上する。この容量維持率性向上の効果は、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを併用する場合により高まり、表21および図8に示すように、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの体積比が33:67~67:33の範囲内、または50:50~25:75の範囲内で特に顕著である。
【0261】
(評価例16:保存試験)
実施例30~33のリチウムイオン二次電池につき、0.4Cレートで4.0VまでCC-CV充電を行い、このときの充電容量を基準(SOC100%)とした。当該SOC100の状態で、各リチウムイオン二次電池を40℃で40日間保存することで、保存試験を行った。
保存試験の前後に評価例15と同様に容量確認を行い、保存試験前の放電容量に対する、保存試験後の放電容量の百分率を、各リチウムイオン二次電池の容量維持率とした。保存試験の結果を表22及び図9に示す。なお、試験はn=2で行い、表22にはその平均値を示した。また図9におけるPC配合率とは、母液におけるエチレンカーボネートの体積とプロピレンカーボネートとの体積との和に対するプロピレンカーボネートの体積を、百分率で表したものである。
【0262】
【表22】
【0263】
表22に示すように、保存試験においても、高温充放電サイクル試験と同様に、非水溶媒にプロピレンカーボネートを用いることで、40℃で保存した後のリチウムイオン二次電池の容量維持率が向上する。そして当該容量維持率向上の効果は、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを併用する場合により高まり、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの体積比が33:67~67:33の範囲内、または75:25~25:75の範囲内で特に顕著である。
【0264】
(実施例34)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOBと1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解することで、実施例34の電解液を製造した。なお、実施例34の電解液の組成は実施例10の電解液の組成と同じである。
【0265】
正極活物質として炭素で被覆されたオリビン構造のLiMn0.75Fe0.25PO4、導電助剤として炭素系導電助剤及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを、正極活物質と導電助剤と結着剤の質量比が94.6:0.4:5.0となるように混合し、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドンを添加してスラリー状の正極活物質層形成用組成物とした。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔の表面に正極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された正極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、アルミニウム箔の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
なお、正極の製造において、正極の目付け量13.9mg/cm2を目標とし、正極活物質層の密度1.8g/cm3を目標とした。
【0266】
負極活物質として黒鉛、結着剤としてカルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエンゴムを、黒鉛とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムの質量比が97:0.8:2.2となるように混合し、溶剤として水を添加してスラリー状の負極活物質層形成用組成物とした。負極用集電体として銅箔を準備した。銅箔の表面に負極活物質層形成用組成物を膜状に塗布した後に溶剤を除去して製造された負極前駆体を、厚み方向にプレスすることで、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極を製造した。
なお、負極の製造において、負極の目付け量6.3mg/cm2を目標とし、負極活物質層の密度1.3~1.35g/cm3を目標とした。
【0267】
セパレータとしてポリプロピレン製の多孔質膜を準備した。正極と負極でセパレータを挟持して電極体とした。この電極体を実施例34の電解液と共に、袋状のラミネートフィルムに入れて密閉することで、実施例34のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0268】
(参考例1)
エチレンカーボネートおよびプロピオン酸エチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液としたこと以外は、実施例34と同様にして、参考例1の電解液を製造した。参考例1の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、参考例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0269】
(参考例2)
エチレンカーボネートおよびプロピオン酸プロピルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液としたこと以外は、実施例34と同様にして、参考例2の電解液を製造した。参考例2の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、参考例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0270】
(実施例35)
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比15:15:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液としたこと以外は、実施例34と同様にして、実施例35の電解液を製造した。実施例35の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例35のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0271】
(実施例36)
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比15:30:55で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液としたこと以外は、実施例34と同様にして、実施例36の電解液を製造した。実施例36の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例36のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0272】
(比較例16)
エチレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して、比較例16の電解液とした。比較例16の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、比較例16のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0273】
(実施例37)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解することで、実施例37の電解液を製造した。実施例37の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例37のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0274】
(実施例38)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のフルオロエチレンカーボネートを加えて溶解することで、実施例38の電解液を製造した。実施例38の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例38のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0275】
(実施例39)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートと、母液に対して0.5質量%に相当する量の1,3-プロパンスルトンとを加えて溶解することで、実施例39の電解液を製造した。実施例39の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例39のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0276】
(実施例40)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートと、母液に対して0.5質量%に相当する量のスクシノニトリルとを加えて溶解することで、実施例40の電解液を製造した。実施例40の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例40のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0277】
(実施例41)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートと、母液に対して1質量%に相当する量のジフルオロリン酸リチウムとを加えて溶解することで、実施例41の電解液を製造した。実施例41の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例41のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0278】
(実施例42)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートと、母液に対して0.5質量%に相当する量のLiDFOBとを加えて溶解することで、実施例42の電解液を製造した。実施例42の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例42のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0279】
(実施例43)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネートと、母液に対して1.5質量%に相当する量のLiDFOBとを加えて溶解することで、実施例43の電解液を製造した。実施例43の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例43のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0280】
(実施例44)
エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネート、母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOB、及び、母液に対して0.5質量%に相当する量のスクシノニトリル加えて溶解することで、実施例44の電解液を製造した。実施例44の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例44のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0281】
(実施例45)
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比15:15:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネート、母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOB、及び、母液に対して0.5質量%に相当する量のスクシノニトリル加えて溶解することで、実施例45の電解液を製造した。実施例45の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例45のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0282】
(実施例46)
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比15:15:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネート、母液に対して1質量%に相当する量のLiDFOB、母液に対して0.5質量%に相当する量のスクシノニトリル、及び、母液に対して1質量%に相当する量のフルオロエチレンカーボネートを加えて溶解することで、実施例46の電解液を製造した。実施例46の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例46のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0283】
(実施例47)
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびプロピオン酸メチルを体積比15:15:70で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とした。母液に対して1質量%に相当する量のビニレンカーボネート、母液に対して0.5質量%に相当する量のLiDFOB、及び、母液に対して0.5質量%に相当する量のスクシノニトリルを加えて溶解することで、実施例47の電解液を製造した。実施例47の電解液を用いたこと以外は実施例34と同様にして、実施例47のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0284】
(評価例16:高温充放電サイクル試験試験)
実施例34~47、参考例1、2及び比較例16のリチウムイオン二次電池に対して、高温充放電サイクル試験を行った。
【0285】
〔容量確認〕
まず、高温充放電サイクル試験に先立ち、0.4Cレートで4.3VまでCC-CV充電を行った。その後、0.33Cレートで3VまでCC-CV放電を行った。これにより、各リチウムイオン二次電池の放電容量を確認した。
【0286】
〔高温充放電サイクル〕
その後、60℃で、1Cレートで4.3VまでCC-CV充電し、1CレートでSOD90%となるまでCC放電する高温充放電サイクルを100回繰り返した。なお、ここでいう充電とは、負極から正極にリチウムイオンが移動し正極と負極との電位差が大きくなることを意味する。
100回目の充放電終了後、上記の容量確認と同様に各リチウムイオン二次電池の容量確認を行った。高温充放電サイクル前の放電容量に対する、高温充放電サイクル後の放電容量の百分率を、各リチウムイオン二次電池の容量維持率とした。各リチウムイオン二次電池の初期容量を表23~27に示す。なお、試験はn=2で行い、表20及び21にはその平均値を示した。
【0287】
【表23】
【0288】
表23に示すように、電解液の主溶媒にプロピオン酸メチルを用いた実施例34のリチウムイオン二次電池は、電解液の主溶媒にプロピオン酸エチルを用いた参考例1のリチウムイオン二次電池や電解液の主溶媒にプロピオン酸プロピルを用いた参考例2のリチウムイオン二次電池に比べて、容量維持率が大きく、耐久性に優れている。このことから、LiMnxFeyPO4の一種であるLiMn0.75Fe0.25PO4を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池においても、主溶媒としてプロピオン酸メチルを用いる本発明の電解液が好適であることがわかる。
【0289】
【表24】
【0290】
表24に示すように、実施例35および36のように電解液の副溶媒としてエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを併用する場合には、実施例34のように副溶媒としてエチレンカーボネートのみを用いる場合と比較して、リチウムイオン二次電池の容量維持率が向上し耐久性に優れる。この結果から、LiMnxFeyPO4を正極活物質に用いる場合にもプロピレンカーボネートを非水溶媒に含有することが有用であるといい得る。
また、耐久性において実施例35>実施例36>実施例34であることから、LiMnxFeyPO4を正極活物質に用いる場合におけるエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの比率は、30:70~70:30の範囲内であるのが好ましく、60:40~40:60の範囲内であるのが特に好ましいといい得る。
【0291】
【表25】
【0292】
表25に示すように、実施例34、37~41の各リチウムイオン二次電池は、比較例16のリチウムイオン二次電池に比べて、容量維持率が高く耐久性に優れている。この結果から、LiMnxFeyPO4を正極活物質に用いる場合にも電解液に添加剤を含む本発明の電解液が有用であるといい得る。また、実施例34、実施例39および実施例40が耐久性に特に優れることから、当該添加剤としてはビニレンカーボネートとLiDFOBとを併用するか、または、添加剤であるビニレンカーボネートに加えて第2の添加剤としてニトリル類を用いるのが特に好適であるといい得る。
【0293】
【表26】
【0294】
表26に示すように、リチウムイオン二次電池の容量維持率は実施例34>実施例43>実施例42である。この結果から、LiMnxFeyPO4を正極活物質に用いる場合においてLiDFOBの好ましい含有量は、母液すなわち本発明の添加剤以外の合計質量に対して0.6~2質量%の範囲内、0.6~1.5質量%の範囲内または0.6~1.4質量%の範囲内であるのが特に好適といい得る。
【0295】
【表27】
【0296】
表27に示すように、LiMnxFeyPO4を正極活物質に用いかつ電解液に添加剤としてLiDFOBを用いるリチウムイオン二次電池の容量維持率は、電解液に第2の添加剤としてニトリル類を添加することでより向上することがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9