(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】電力管理システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/14 20060101AFI20230426BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
H02J3/14 130
H02J3/00 130
(21)【出願番号】P 2019023172
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】細井 通成
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
(72)【発明者】
【氏名】花尾 隆史
(72)【発明者】
【氏名】福見 渉
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-182847(JP,A)
【文献】特開2014-183632(JP,A)
【文献】特開2018-170901(JP,A)
【文献】特開2018-160964(JP,A)
【文献】特開2015-204698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/14
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の負荷を有する需要家が受電する電力を制御する電力管理システムであって、
前記電力管理システムを管理する集中管理装置から入力される指標に基づいて、前記需要家の受電電力の目標値である目標電力値を算出する目標電力算出装置と、
前記需要家の受電電力を検出した電力瞬時値と前記目標電力値とを比較し、比較結果に応じて、前記複数の負荷の稼動状態を調整する制御装置と、
を備え
、
前記比較結果は、前記目標電力値と前記電力瞬時値との差であり、
前記制御装置は、
前記比較結果の正負が前回の比較結果とは異なる場合、今回の比較時から禁止時間が経過するまでの間、直前の前記稼動状態の調整とは反対の調整を行わず、
前記禁止時間が経過した直後の比較結果の正負が前記禁止時間の計時を開始したときの比較結果と同じ場合、前記禁止時間をより長い時間に変更する、
ことを特徴とする電力管理システム。
【請求項2】
複数の負荷を有する需要家が受電する電力を制御する電力管理システムであって、
前記電力管理システムを管理する集中管理装置から入力される指標に基づいて、前記需要家の受電電力の目標値である目標電力値を算出する目標電力算出装置と、
前記需要家の受電電力を検出した電力瞬時値と前記目標電力値とを比較し、比較結果に応じて、前記複数の負荷の稼動状態を調整する制御装置と、
目標デマンドを設定する目標デマンド設定部と、
前記電力瞬時値に基づいて予測デマンドを予測するデマンド予測部と、
前記目標デマンドおよび前記予測デマンドに基づいて、第2の目標電力値を算出する調整電力算出部と、
前記目標電力値および前記第2の目標電力値のうち小さい方を出力する切替部と、
を備え
、
前記制御装置は、前記目標電力値に代えて、前記切替部より出力される値を用いる、
ことを特徴とする電力管理システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記電力瞬時値が前記目標電力値に基づく所定の電力範囲内にある場合、前記稼動状態の調整を行わない、
請求項1
または2に記載の電力管理システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記目標電力算出装置が前記集中管理装置から正常な前記指標を取得できない場合、または、前記制御装置が前記目標電力算出装置から正常な前記目標電力値を取得できない場合、所定の値を前記目標電力値として用いる、
請求項1ないし
3のいずれかに記載の電力管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要家などが受電する電力を制御する電力管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統に接続された複数の電力装置を管理して、電力系統との間で送受される電力の制御を行う電力システムが普及しつつある。例えば、特許文献1には、集中管理装置と複数の電力装置とを備え、自律分散協調制御方式により出力電力の制御を行う電力システムの一例が開示されている。集中管理装置は、電力システム全体の出力電力を目標電力に制御するための指標を算出する。複数の電力装置は、集中管理装置が算出した共通の指標を用いて、それぞれ設定されている最適化問題に基づいて、自装置の出力電力の目標値を算出する。そして、出力電力が当該目標値となるように、自装置の出力電力を制御する。各電力装置が指標に基づいて、自律的に出力電力を制御することで、電力システム全体の出力電力が目標電力に制御される。集中管理装置は、各電力装置の状態などを把握することなく、指標を算出して送信するだけなので、演算や通信の負担が小さい。したがって、高性能で高価な集中管理装置は必要でなく、初期導入費用を軽減できる。また、電力システムを拡張する場合に、集中管理装置の大きな改修が必要にならない。
【0003】
特許文献1においては、電力装置として、太陽光発電装置および蓄電装置を想定している。一方、集中管理装置による管理対象を、需要家(例えばビルディング)での受電電力を制御するBEMS(Building Energy Management System)などまで拡張したいという要望がある。BEMSでの電力制御においては、電力会社との間で契約された契約電力(目標デマンド値)に基づいて、負荷の調整が行われる。すなわち、BEMSは、使用電力の計測値に基づいて、デマンド時限(例えば30分)の間に受電する電力量(または、受電する電力の平均電力)であるデマンド値を監視し、デマンド値の予測値が目標デマンド値を超えないように、負荷のオンオフや負荷の出力調整(以下では、まとめて「負荷の稼動状態の調整」と記載する場合がある)を行う。特許文献2には、このような制御を行うデマンドコントローラが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-148627号公報
【文献】特開2014-236579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽光発電装置および蓄電装置は、パワーコンディショナによる出力電力制御を行っており、出力電力の瞬時値が目標値に一致するように行う制御(以下では「瞬時値ベースでの制御」とする)を行う。一方、BEMSは、平均値であるデマンド値が目標値に一致するように行う制御(以下では「デマンド値ベースでの制御」とする)を行う。集中管理装置は、管理対象として、瞬時値ベースでの制御を行う太陽光発電装置などを想定しているので、デマンド値ベースでの制御を行うBEMSは、管理対象に適していない。BEMSが集中管理装置の管理対象に加わった場合、BEMSはデマンド値ベースで制御を行うので、需要家の各負荷の稼動状態の調整を頻繁に行う。これにより、需要家での消費電力が変動し、電力システム全体の出力電力も変動する。この変動により指標も変動するので、電力システム全体に影響を及ぼす。また、各負荷の稼動状態の調整が頻繁に行われた結果、デマンド値が目標デマンド値を超過してしまう場合がある。なお、工場での受電電力を制御するFEMS(Factory Energy Management System)、および、家庭での受電電力を制御するHEMS(Home Energy Management System)などの、需要家での受電電力を制御する他の電力管理システムも同様である。
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、集中管理装置による管理対象に適した電力管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供される電力管理システムは、複数の負荷を有する需要家が受電する電力を制御する電力管理システムであって、前記電力管理システムを管理する集中管理装置から入力される指標に基づいて、前記需要家の受電電力の目標値である目標電力値を算出する目標電力算出装置と、前記需要家の受電電力を検出した電力瞬時値と前記目標電力値とを比較し、比較結果に応じて、前記複数の負荷の稼動状態を調整する制御装置とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御装置は、前記電力瞬時値が前記目標電力値に基づく所定の電力範囲内にある場合、前記稼動状態の調整を行わない。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記比較結果は、前記目標電力値と前記電力瞬時値との差であり、前記制御装置は、前記比較結果の正負が前回の比較結果とは異なる場合、今回の比較時から禁止時間が経過するまでの間、直前の前記稼動状態の調整とは反対の調整を行わず、前記禁止時間が経過した直後の比較結果の正負が前記禁止時間の計時を開始したときの比較結果と同じ場合、前記禁止時間をより長い時間に変更する。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、目標デマンドを設定する目標デマンド設定部と、前記電力瞬時値に基づいて予測デマンドを予測するデマンド予測部と、前記目標デマンドおよび前記予測デマンドに基づいて、第2の目標電力値を算出する調整電力算出部と、前記目標電力値および前記第2の目標電力値のうち小さい方を出力する切替部とを更に備え、前記制御装置は、前記目標電力値に代えて、前記切替部より出力される値を用いる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御装置は、前記目標電力算出装置が前記集中管理装置から正常な前記指標を取得できない場合、または、前記制御装置が前記目標電力算出装置から正常な前記目標電力値を取得できない場合、所定の値を前記目標電力値として用いる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、制御装置は、目標電力値と電力瞬時値とを比較し、比較結果に応じて、複数の負荷のそれぞれの稼動状態を調整する。つまり、制御装置は、瞬時値ベースで、需要家の受電電力を制御する。したがって、制御装置は、平均値であるデマンド値ベースでの制御を行う場合と比較して、各負荷の稼動状態が頻繁に調整されることを抑制できる。つまり、本発明に係る電力管理システムは、従来の電力管理システムと比較して、集中管理装置による管理対象に適している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る電力管理システムを備える電力システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る電力管理システムおよびビルディングの内部構成を示すブロック図である。
【
図3】(a)は目標電力演算部に設定される各設定値の一例を示しており、(b)は(a)に示す各設定値が設定されたときの、指標に対する目標電力値の変化特性を示している。
【
図4】制御装置が行う制御処理を説明するためのフローチャートである。
【
図5】制御装置が行う制御処理により投入される負荷の数の変化を示すタイムチャートである。
【
図6】制御装置が行う制御処理によるチャタリング抑制効果を確認するためのシミュレーションの結果を示している。
【
図7】第2実施形態に係る電力管理システムの内部構成を示すブロック図である。
【
図8】指標に対して投入される負荷の数を検証するためのシミュレーションの結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係る電力管理システムを備える電力システムの全体構成を示すブロック図である。電力システムGは、電力系統Eに連系しており、電力系統Eから送受電可能である。電力システムGは、電力システムGと電力系統Eとの接続点における電力(以下「接続点電力」とする)が目標電力となるように、自律分散協調制御方式により出力電力の制御を行う。なお、以下の説明において、電力システムGが電力系統Eに送電している(逆潮流している)場合、接続点電力を正の値とする。一方、電力システムGが電力系統Eから受電している場合、接続点電力を負の値とする。電力システムGは、集中管理装置F、パワーコンディショナC1~Cn、パワーコンディショナD1~Dm、ビルディングB1~Bk、および電力管理システムA1~Akを備えている。
【0016】
集中管理装置Fは、接続点電力を監視し、接続点電力を目標電力に瞬時値制御するための指標を算出する。本実施形態では、集中管理装置Fは、電力システムGと電力系統Eとの接続点で検出した電力値を、接続点電力P(t)として用いる。なお、集中管理装置Fは、各パワーコンディショナC1~Cn,D1~Dmがそれぞれ検出した出力電力の検出値、および、各電力管理システムA1~Akがそれぞれ検出した、ビルディングB1~Bkの受電電力の検出値を受信して、これらの検出値から算出される推算値を接続点電力P(t)として用いてもよい。集中管理装置Fは、設定された目標電力Pcと接続点電力P(t)との差に基づいて指標prを算出し、算出した指標prを、各パワーコンディショナC1~Cn,D1~Dm、および、各電力管理システムA1~Akに送信する。なお、通信方法は限定されず、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0017】
パワーコンディショナC1~Cnは、それぞれ太陽電池が接続され、太陽電池が発電した直流電力を交流電力に変換して出力する。各パワーコンディショナC1~Cnは、目標電力算出部91および出力制御部92を備えている。目標電力算出部91は、集中管理装置Fから受信した指標prを用いて、あらかじめ設定されている最適化問題に基づいて、自装置の出力電力の目標値である目標電力値Prefを算出する。出力制御部92は、目標電力算出部91が算出した目標電力値Prefに基づいて、出力電力の制御を行う。
【0018】
パワーコンディショナD1~Dmは、それぞれ蓄電池が接続され、蓄電池の充放電を行う。
図1においては省略しているが、各パワーコンディショナD1~Dmは、パワーコンディショナC1~Cnと同様、目標電力算出部91および出力制御部92を備えている。パワーコンディショナD1~Dmの目標電力算出部91には、蓄電池の充放電に適した最適化問題があらかじめ設定されている。
【0019】
電力管理システムA1~Akは、それぞれ対応するビルディングB1~Bkの受電電力を制御する。以下では、電力管理システムA1~Akを区別せず説明する場合、「電力管理システムA」と記載する。また、ビルディングB1~Bkを区別せず説明する場合、「ビルディングB」と記載する。各電力管理システムA1~Akは、目標電力算出装置11および制御装置12を備えている。目標電力算出装置11は、集中管理装置Fから受信した指標prを用いて、あらかじめ設定されている最適化問題に基づいて、ビルディングBの受電電力の目標値である目標電力値PIN
refを算出する。目標電力算出装置11には、負荷の制御に適した最適化問題があらかじめ設定されている。制御装置12は、目標電力算出装置11が算出した目標電力値PIN
refに基づいて、ビルディングBの受電電力の制御を行う。電力管理システムA1~Akの詳細については、後述する。
【0020】
各パワーコンディショナC1~Cn,D1~Dmおよび各電力管理システムA1~Akが、集中管理装置Fから受信した共通の指標prに基づいて、それぞれが自律的に出力電力(受電電力)を制御することで、電力システムG全体の出力電力(接続点電力P(t))が目標電力Pcに制御される。本実施形態においては、集中管理装置Fによって算出される指標prが大きいほど、接続点電力P(t)が小さくなり、指標prが小さいほど、接続点電力P(t)が大きくなる。パワーコンディショナC1~Cn,D1~Dmおよび集中管理装置Fの詳細な説明は省略する。
【0021】
図2は、電力管理システムAの詳細を説明するための図であり、電力管理システムAおよびビルディングBの内部構成を示すブロック図である。
【0022】
ビルディングBは、分電盤21および複数の負荷22を備えている。分電盤21は、電力系統Eに繋がる電力線が接続されており、電力線を介して電力を受電し、各負荷22に供給する。各負荷22は、ビルディングBの各フロアや各部屋に配置されている負荷設備であり、例えば空調設備や照明設備などである。各負荷22は、それぞれ分電盤21に接続されており、分電盤21から電力を供給される。また、各負荷22の稼動状態は、電力管理システムAの制御部122(後述)によって、それぞれ個別に調整される。ビルディングBが受電する受電電力P
INは、瞬時電力値として検出され、電力管理システムAに入力される。なお、受電電力P
INは、分電盤21に接続する電力線でまとめて検出(
図2参照)されてもよいし、各負荷22に供給される電力をそれぞれ検出して、検出された各検出値に基づいて算出してもよい。受電電力P
INは、受電する場合を正の値とし、送電する場合を負の値とする。なお、ビルディングBは、発電設備を備えていてもよい。この場合、各負荷22による消費電力から、発電設備の発電電力を減じた電力が受電電力P
INになる。
【0023】
電力管理システムAは、対応するビルディングBの受電電力PINを制御する。電力管理システムAは、目標電力算出装置11および制御装置12を備えている。本実施形態では、目標電力算出装置11および制御装置12は別体の装置であり、目標電力算出装置11と制御装置12とは通信可能である。なお、目標電力算出装置11と制御装置12とは、有線通信を行ってもよいし、無線通信を行ってもよい。目標電力算出装置11は、ネットワーク回線を介して集中管理装置Fに接続しており、集中管理装置Fから受信した指標prに基づいて目標電力値PIN
refを算出して制御装置12に送信するゲートウェイコンピュータコンピュータである。制御装置12は、目標電力算出装置11から入力された目標電力値PIN
refに基づいて、ビルディングBの受電電力の制御を行う制御装置である。制御装置12は、一般的なBEMSの電力監視制御装置とは制御の手法が異なり、制御処理のプログラムが異なるだけであり、ハードウエアとしては従来の電力監視制御装置と同様である。制御装置12は、従来の電力監視制御装置の制御処理のプログラムを、本実施形態に係る制御処理のプログラムに置き換えることで構成してもよい。なお、目標電力算出装置11および制御装置12は別体ではなく、1個の装置であってもよい。すなわち、電力管理システムAがCPUやメモリを備える1個のコンピュータ装置であって、目標電力算出装置11および制御装置12を当該コンピュータ装置の機能構成として備えていてもよい。
【0024】
目標電力算出装置11は、目標電力演算部111を備えている。目標電力演算部111は、集中管理装置Fから受信した指標prを用いて、あらかじめ設定されている最適化問題に基づいて、ビルディングBの受電電力PINの目標電力値PIN
refを算出する。この最適化問題は、評価関数と制約条件とを含んでいる。
【0025】
目標電力演算部111は、設定されている評価関数から導出される下記(1),(2)式で示す演算式が設定されており、この演算式によって、目標電力値P
IN
refを算出する。指標限界pr
lmtは、集中管理装置Fが算出する指標prの最大値および最小値を定義する値である。a
1,a
3は設定パラメータであり、制御の対象とするビルディングBが有する負荷22の特性などに応じて設定される。パラメータa
1は、主に指標prの変化に応じた目標電力値P
IN
refの変化量を調整する値であり、0以上の値が設定される。パラメータa
3は、主に、目標電力値P
IN
refが変化し始める指標prを調整する値である。下記(2)式は、下記(1)式で算出されたP
IN
tmpの正負を反転させるための式である。制御装置12はビルディングBの受電電力P
INの制御を行うが、受電電力P
INは受電する場合を正の値とする。これは、電力システムGが電力系統Eに送電する場合に接続点電力を正の値とするのとは、正負が反転した運用になる。したがって、指標prを用いて下記(1)式で算出されたP
IN
tmpを下記(2)式により正負を反転させることで、受電電力P
INの目標電力値P
IN
refとしている。なお、目標電力演算部111は、下記(1)式で示す演算式ではなく、設定されている評価関数を解くことで、目標電力値P
IN
refを算出してもよい。
【数1】
【0026】
制約条件は、下記(3)式に示す条件が設定されている。ST
targetは、基準とする目標値であり、通常時に必要である負荷22をすべて最大出力で使用したときの受電電力である。U
limは、ST
targetから許容される増加量である。L
limは、ST
targetから許容される減少量である。
【数2】
【0027】
目標電力演算部111は、上記(1),(2)式に示す演算式によって算出された目標電力値PIN
refが、設定された制約条件(上記(3)式)を満たしていない場合には、制約条件を満たすように、目標電力値PIN
refの補正を行う。例えば、算出された目標電力値PIN
refが、STtarget+Ulimよりも大きかった場合、目標電力演算部111は、目標電力値PIN
refをSTtarget+Ulimに補正する。
【0028】
目標電力演算部111には、パラメータa1,a3、STtarget、Ulim、およびLlimが設定されている。これらの設定値は、受信する指標prが正の値の時と負の値の時とでそれぞれ別々に設定可能である。以下の説明において、指標prが正の値(0を含む)である時に対応した設定を「正の指標設定」といい、指標prが負の値である時に対応した設定を「負の指標設定」という。
【0029】
図3(a)は、目標電力演算部111に設定される各設定値の一例を示している。同図(b)は、同図(a)に示す各設定値が設定されたときの、指標prに対する目標電力値P
IN
refの変化特性(実線)を示している。同図(b)においては、横軸が指標prであり、縦軸が目標電力値P
IN
refである。また、破線でP
IN
tmpの変化特性を示している。
【0030】
同図(a)に示す一例では、正の指標設定の各設定値と負の指標設定の各設定値とは同じとしている。STtarget=500、Ulim=0、Llim=-500が設定されることで、目標電力値PIN
refの範囲は、0kW以上、500kW以下に制約されている。また、a3=500が設定されることで、指標prが「0」のときに目標電力値PIN
refが500kWになるように設計されている。また、a1=1が設定されることで、指標prが-prlmtのときに目標電力値PIN
refが0kWになるように設計されている。したがって、目標電力値PIN
refの変化特性は、同図(b)に示すように、指標prが負の値のときには指標prに比例して、指標prが大きいほど大きくなり、指標prが正の値のときには基準とする目標値STtargetに固定される特性になっている。なお、目標電力演算部111に設定される各設定値は限定されず、制御の対象とするビルディングBが有する負荷22の特性などに応じて、適宜設定すればよい。
【0031】
制御装置12は、比較部121および制御部122を備えている。比較部121は、所定の制御周期Tごとに、目標電力演算部111より入力される目標電力値PIN
refと、検出された瞬時電力値である受電電力PINとを比較し、比較結果を制御部122に出力する。本実施形態では、比較部121は、目標電力値PIN
refから受電電力PINを減算した値を、比較結果として出力する。また、本実施形態では、制御周期Tとして例えば10秒が設定されている。なお、制御周期Tの設定時間は限定されない。制御部122は、比較部121より入力される比較結果に基づいて、各負荷22の稼動状態を調整する。制御部122は、受電電力PINが目標電力値PIN
refより大きい場合(比較結果が負の値の場合)、その差に応じて、負荷22をオフにする。各負荷22には優先順位が設定されている。例えば廊下や階段、あまり使用されていない部屋などに配置されている負荷22は、オフになってもあまり大きな影響を及ぼさないので、低い優先順位が設定される。制御部122は、優先順位の低い負荷22から順に、受電電力PINを目標電力値PIN
refまで削減するのに必要なだけの負荷22をオフにする。以下では、この操作を「遮断操作」と記載する。一方、制御部122は、受電電力PINが目標電力値PIN
refより小さい場合(比較結果が正の値の場合)、その差に応じて、オフになっている負荷22のうち優先順位の高い負荷22から順にオンにする。以下では、この操作を「再投入操作」と記載する。
【0032】
遮断操作または再投入操作によって各負荷22の稼動状態を調整して受電電力PINを制御する場合、稼動状態の微調整ができないので、チャタリングが問題になる。制御部122は、チャタリングを抑制するために、目標電力値PIN
refの上下にそれぞれ例えば数kWの不感帯領域を設けている。制御部122は、受電電力PINが当該不感帯領域にある場合、つまり、比較部121より入力される比較結果が不感帯領域に対応する範囲の場合、各負荷22の稼動状態を調整しない。ただし、不感帯領域を広く設定し過ぎると、チャタリングを抑制できる代わりに細かな制御ができなくなる。つまり、不感帯領域の設定は、チャタリングの抑制と細かな制御とのトレードオフになる。不感帯領域は、チャタリングの頻繁な発生を抑制しつつ、ある程度細かな制御が行えるように設定される。
【0033】
不感帯領域が設定されている場合でも、遮断操作および再投入操作により受電電力PINが不感帯領域を超えて変化する場合、チャタリングが発生する。制御部122は、チャタリングをより抑制するために、遮断操作および再投入操作を禁止する操作禁止時間を設定している。制御部122は、比較部121より入力される比較結果の正負が前回と同じ場合、すぐに遮断操作または再投入操作を行う。つまり、制御部122は、前回の比較結果が負の値で、今回の比較結果も負の値である場合、すぐに遮断操作を行い、前回の比較結果が正の値で、今回の比較結果も正の値である場合、すぐに再投入操作を行う。一方、制御部122は、比較部121より入力される比較結果の正負が前回と異なる場合、今回の比較時から操作禁止時間が経過するまでの間、直前の操作とは反対の操作を行わない。つまり、制御部122は、前回の比較結果が負の値で、今回の比較結果が正の値である場合、操作禁止時間の間、再投入操作を行わない。また、前回の比較結果が正の値で、今回の比較結果が負の値である場合、操作禁止時間の間、遮断操作を行わない。なお、操作禁止時間の間でも、制御部122は、直前の操作と同じ操作は行う。操作禁止時間は、あらかじめ設定されており、遮断操作の操作禁止時間(以下では、「遮断禁止時間」と記載する)TOFFと、再投入操作の操作禁止時間(以下では、「再投入禁止時間」と記載する)TONとで、異なる時間としてもよい。本実施形態では、遮断禁止時間TOFFとして例えば60秒が設定され、再投入禁止時間TONとして例えば30秒が設定されている。なお、遮断禁止時間TOFFおよび再投入禁止時間TONの設定時間は限定されない。操作禁止時間の間、直前の操作とは反対の操作が行われないので、チャタリングが抑制される。
【0034】
また、制御部122は、チャタリングが発生していると判断した場合、制御をチャタリングモードに切り替える。制御部122は、操作禁止時間が経過した直後に比較部121より入力される比較結果の正負が、操作禁止時間の計時を開始したときの比較結果(すなわち、今回の操作禁止時間を開始する判断のもとになった比較結果)と同じ場合、チャタリングが発生していると判断する。つまり、操作禁止時間が経過したにもかかわらず、直前の操作とは反対の操作を行う必要があるので、チャタリングが発生していると判断する。一方、制御部122は、操作禁止時間が経過した後、比較部121より入力される比較結果の正負が、操作禁止時間の計時を開始したときの比較結果と同じになったときが、操作禁止時間が経過した直後でなかった場合、チャタリングが抑制されたと判断して、チャタリングモードを解除する。つまり、制御部122は、操作禁止時間が経過した直後の比較結果が操作を要しない結果である場合、または、操作禁止時間が経過した直後の比較結果の正負が操作禁止時間の計時を開始したときの比較結果と異なる場合、チャタリングモードを解除する。つまり、操作禁止時間が経過したときに、直前の操作とは反対の操作を行う必要がなくなっているので、チャタリングが抑制されたと判断する。制御部122は、チャタリングモード時には、制御周期T、遮断禁止時間TOFFおよび再投入禁止時間TONの設定時間を、チャタリングモードでない時(通常モード)の時間より長い時間に切り替える。本実施形態では、所定の係数α(例えば「3」)が設定されており、制御部122は、チャタリングモード時には、制御周期T、遮断禁止時間TOFFおよび再投入禁止時間TONの設定時間を、通常モード時の設定時間のα倍の時間に変更する。チャタリングモード時には、各設定時間が長くなるので、チャタリングがより抑制される。
【0035】
図4は、制御装置12が行う制御処理を説明するためのフローチャートである。当該制御処理は、制御周期Tごとに実行される。最初に制御処理が実行されるとき(初期設定)は、チャタリングモードに切り替えられていない通常モードであり、制御周期T、遮断禁止時間T
OFFおよび再投入禁止時間T
ONには通常モード時の設定時間が設定されている。
【0036】
まず、目標電力値PIN
refと受電電力PINとの比較が行われる(S1)。具体的には、比較部121が、目標電力演算部111より入力された目標電力値PIN
refと、瞬時電力値として検出された受電電力PINとを比較する。次に、受電電力PINが、目標電力値PIN
refの不感帯領域内に入るか否かが判別される(S2)。受電電力PINが不感帯領域内の場合(S2:YES)、遮断操作および再投入操作は行われず、制御処理が終了する。
【0037】
受電電力PINが不感帯領域外の場合(S2:NO)、前回の制御での操作と同じ操作を行う制御(順方向制御)であるか否かが判別される(S3)。具体的には、制御部122が、比較部121より入力される比較結果の正負が前回と同じであるか否かを判別する。順方向制御である場合(S3:YES)、ステップS10に進んで、すぐに、遮断操作または再投入操作が行われ(S10)、制御処理が終了する。
【0038】
順方向制御でない場合(S3:NO)、すなわち、前回の制御での操作とは異なる操作を行う制御(逆方向制御)である場合、前回の操作禁止時間が終了した後の最初の逆方向制御であるか否かが判別される(S4)。最初の逆方向制御である場合(S4:YES)、操作禁止時間の計時を開始し(S5)、遮断操作および再投入操作は行われず、制御処理が終了する。最初の逆方向制御でない場合(S4:NO)、操作禁止時間の継続中であるか否かが判別される(S6)。操作禁止時間の継続中である場合(S6:YES)、遮断操作および再投入操作は行われず、制御処理が終了する。
【0039】
操作禁止時間の継続中でない場合(S6:NO)、操作禁止終了直後であるか否かが判別される(S7)。具体的には、制御部122が、遮断禁止時間TOFFまたは再投入禁止時間TONの計時を終了した直後の制御であるか否かを判断する。操作禁止終了直後である場合(S7:YES)、チャタリングモードに切り替えられる(S8)。制御部122は、チャタリングモードであった場合はチャタリングモードを継続し、通常モードであった場合はチャタリングモードに切り替える。チャタリングモードでは、制御周期T、遮断禁止時間TOFFおよび再投入禁止時間TONの設定時間が通常モード時の時間より長い時間に切り替えられる。操作禁止終了直後でない場合(S7:NO)、通常モードに切り替えられる(S9)。制御部122は、通常モードであった場合は通常モードを継続し、チャタリングモードであった場合は通常モードに切り替える。通常モードでは、制御周期T、遮断禁止時間TOFFおよび再投入禁止時間TONの設定時間が元の時間に切り替えられる。
【0040】
次に、対応する操作(遮断操作または再投入操作)が行われ(S10)、制御処理が終了する。なお、
図4のフローチャートに示す処理は一例であって、制御装置12が行う制御処理は上述したものに限定されない。
【0041】
図5は、制御装置12が行う制御処理により投入される負荷22の数の変化を示すタイムチャートである。
【0042】
時刻t1において、通常モードであり、目標電力値P
IN
refと受電電力P
INとが比較され、比較結果が負の値であり、前回も負の値であった(図示なし)ので、順方向制御であると判断される。したがって、すぐに遮断操作が行われて、投入されている負荷数が減少している。なお、
図5においては、比較のタイミングを白丸で示し、比較結果が負の値であることを下向きの矢印で表している。次に、制御周期T後の時刻t2において、比較結果が正の値であり、前回が負の値であったので、逆方向制御であると判断される。したがって、時刻t2から再投入禁止時間T
ONが経過する時刻t3まで、再投入操作が行われない。なお、
図5においては、比較結果が正の値であることを上向きの矢印で表している。時刻t2から時刻t3までの間の比較のタイミングでは、受電電力P
INが目標電力値P
IN
refの不感帯領域内に入っているため、操作が行われていない。時刻t3においても同様である。
【0043】
次に、時刻t3の操作から制御周期T後の時刻t4において、比較結果が正の値であり、前回の操作(時刻t1参照)とは異なる操作を行う逆方向制御であるが、再投入禁止時間TONが経過しているので、再投入操作が行われて、投入されている負荷数が増加している。また、再投入禁止時間TONの経過直後(時刻t3参照)ではないので、通常モードが継続されている。次に、制御周期T後の時刻t5において、比較結果が正の値であり、前回が正の値であったので、順方向制御であると判断される。したがって、すぐに再投入操作が行われて、投入されている負荷数が増加している。次に、制御周期T後の時刻t6において、比較結果が負の値であり、前回が正の値であったので、逆方向制御であると判断される。したがって、時刻t6から遮断禁止時間TOFFが経過する時刻t7まで、遮断操作が行われない。時刻t6から時刻t7までの間の比較のタイミングでは、受電電力PINが目標電力値PIN
refの不感帯領域内に入っているため、操作が行われていない。
【0044】
次に、時刻t7において、比較結果が負の値であり、前回の操作(時刻t5参照)とは異なる操作を行う逆方向制御であるが、遮断禁止時間T
OFFが経過しているので、遮断操作が行われて、投入されている負荷数が減少している。また、遮断禁止時間T
OFFの経過直後なので、チャタリングモードに切り替えられている。次に、時刻t7の操作から制御周期T後の時刻t8において、比較結果が正の値であり、前回が負の値であったので、逆方向制御であると判断される。したがって、時刻t8から再投入禁止時間T
ONが経過する時刻t9まで、再投入操作が行われない。チャタリングモードなので、制御周期Tおよび再投入禁止時間T
ONが通常モード時より長い時間(
図5では3倍の時間)に変更されている。時刻t8から時刻t9までの間の比較のタイミングでは、受電電力P
INが目標電力値P
IN
refの不感帯領域内に入っているため、操作が行われていない。次に、時刻t9において、比較結果が正の値であり、前回の操作(時刻t7参照)とは異なる操作を行う逆方向制御であるが、再投入禁止時間T
ONが経過しているので、再投入操作が行われて、投入されている負荷数が増加している。また、再投入禁止時間T
ONの経過直後なので、チャタリングモードが継続されている。
【0045】
その後、チャタリングモードのままの時刻t11において、比較結果が負の値であり、前回も負の値であった(図示なし)ので、順方向制御であると判断される。したがって、すぐに遮断操作が行われて、投入されている負荷数が減少している。次に、制御周期T後の時刻t12において、比較結果が正の値であり、前回が負の値であったので、逆方向制御であると判断される。したがって、時刻t12から再投入禁止時間TONが経過するまで、再投入操作が行われない。時刻t12から時刻t13までの間の比較のタイミングでは、受電電力PINが目標電力値PIN
refの不感帯領域内に入っているため、操作が行われていない。時刻t13においても同様である。
【0046】
次に、時刻t13の操作から制御周期T後の時刻t14において、比較結果が正の値であり、前回の操作(時刻t11参照)とは異なる操作を行う逆方向制御であるが、再投入禁止時間TONが経過しているので、再投入操作が行われて、投入されている負荷数が増加している。また、再投入禁止時間TONの経過直後(時刻t13参照)ではないので、通常モードに切り替えられている。次に、制御周期T後の時刻t15において、比較結果が正の値であり、前回が正の値であったので、順方向制御であると判断される。したがって、すぐに再投入操作が行われて、投入されている負荷数が増加している。通常モードなので、制御周期Tが通常モード時の短い時間に変更されている。
【0047】
図6は、制御装置12が行う制御処理によるチャタリング抑制効果を確認するためのシミュレーションの結果を示している。同図(b)は、制御装置12の制御処理によるシミュレーション結果を示している。一方、同図(a)は、比較のために行ったシミュレーション結果を示しており、制御装置12の制御処理において、チャタリングモードへの切り替え処理を省略したものである。同図(a)、(b)において、1番上が集中管理装置Fから受信した指標prの変化を示しており、上から2番目が投入された負荷22の数の変化を示している。また、上から3番目が目標電力演算部111から入力される目標電力値P
IN
refの変化を示しており、1番下が検出された受電電力P
INの変化を示している。
【0048】
同図(a)に示すように、チャタリングモードへの切り替え処理を省略した場合、負荷22の投入および遮断を頻繁に繰り返しており、チャタリングが発生している。一方、同図(b)に示すように、制御装置12が行う制御処理では、負荷22の投入および遮断の頻度が抑制されており、チャタリングが抑制されていることが解る。なお、
図6においては、電力システムGでの制御対象を1個のビルディングBと電力管理システムAとしてシミュレーションしたので、受電電力P
INの変化がそのまま反映した指標prが算出されている。実際には、他の電力管理システムAおよびパワーコンディショナC1~Cn、D1~Dmと協調して制御が行われるので、指標prは本シミュレーションのように激しく変化しない。
【0049】
また、制御装置12は、通信断や通信の信号異常が発生するなどの通信異常により目標電力算出装置11から正常な目標電力値PIN
refを入力されない場合、制御を独立運転モードに切り替える。目標電力算出装置11と制御装置12との通信に異常が発生すると、制御装置12が目標電力算出装置11から正常な目標電力値PIN
refを取得できなくなる。また、集中管理装置Fと目標電力算出装置11との通信に異常が発生すると、目標電力算出装置11が集中管理装置Fから正常な指標prを取得できなくなり、その結果、制御装置12には、正常でない目標電力値PIN
refが入力される。これらの場合、制御装置12は正しく制御を行うことができない。独立運転モードでは、制御装置12は、あらかじめ設定されている固定値を目標電力値PIN
refとして使用する。固定値としては、ビルディングBが最低限必要とする電力値が設定される。これにより、ビルディングBは、通信異常が発生した場合でも、最低限必要とする電力を受電することができる。制御装置12は、目標電力算出装置11から目標電力値PIN
refが入力されない場合や、目標電力算出装置11から入力される目標電力値PIN
refがあらかじめ設定された正常範囲内にない場合に、通信異常を検出して、制御を独立運転モードに切り替える。なお、制御装置12は、集中管理装置Fと目標電力算出装置11との通信断や通信の信号異常、または、目標電力算出装置11と制御装置12との通信断や通信の信号異常を検出することで、通信異常を検出してもよい。
【0050】
次に、本実施形態に係る電力管理システムAの作用および効果について説明する。
【0051】
本実施形態によると、比較部121は、目標電力演算部111より入力される目標電力値PIN
refと、検出された瞬時電力値である受電電力PINとを比較し、比較結果を制御部122に出力する。制御部122は、比較部121より入力される比較結果に基づいて、各負荷22の稼動状態を調整する。つまり、制御装置12は、瞬時値ベースで、ビルディングBの受電電力PINを制御する。したがって、制御装置12は、平均値であるデマンド値ベースでの制御を行う場合と比較して、各負荷22の稼動状態が頻繁に調整されることを抑制できる。つまり、電力管理システムAは、従来の電力管理システムと比較して、集中管理装置Fによる管理対象に適している。また、各負荷22の稼動状態の調整が抑制されることで、デマンド値が目標デマンド値を超過することが抑制される。
【0052】
また、本実施形態によると、制御部122は、目標電力値PIN
refの上下にそれぞれ不感帯領域を設け、受電電力PINが当該不感帯領域にある場合、各負荷22の稼動状態を調整しない。これにより、チャタリングが抑制される。
【0053】
また、本実施形態によると、制御部122は、操作禁止時間を設定し、比較部121より入力される比較結果の正負が前回と異なる場合、前回の操作から操作禁止時間が経過したときに、遮断操作または再投入操作を行う。操作禁止時間の間、遮断操作および再投入操作が行われないので、チャタリングが抑制される。
【0054】
また、本実施形態によると、制御部122は、操作禁止時間の終了直後に、比較部121より入力される比較結果の正負が前回と異なる場合、チャタリングが発生していると判断し、制御をチャタリングモードに切り替える。チャタリングモード時には、制御周期T、遮断禁止時間TOFFおよび再投入禁止時間TONの設定時間が、通常モード時の時間より長い時間に切り替えられる。これにより、チャタリングが発生しているときに、遮断操作および再投入操作の操作間隔をより長くできる。これにより、チャタリングが抑制される。
【0055】
また、本実施形態によると、制御装置12は、通信異常により目標電力算出装置11から正常な目標電力値PIN
refを入力されない場合、制御を独立運転モードに切り替える。独立運転モードでは、制御装置12は、あらかじめ設定されている固定値を目標電力値PIN
refとして使用する。これにより、ビルディングBは、通信異常が発生した場合でも、固定値で設定された電力を受電することができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、制御部122が遮断操作および再投入操作により、受電電力PINを制御する場合について説明したが、これに限られない。制御部122は、各負荷22の出力の抑制と抑制の解除により、受電電力PINを制御してもよい。各負荷22の出力の抑制の例として、例えば、負荷22が空調設備の場合、風量の低減や設定温度の変更などが考えられ、負荷22が照明設備の場合、光量の低減などが考えられる。この場合、制御部122は、遮断操作および再投入操作を行う場合と比べて、より細かな制御を行うことができる。
【0057】
また、本実施形態においては、制御部122は、チャタリングの対策として、不感帯領域の設定、操作禁止時間の設定、および、チャタリングモードへの切り替えを行っているが、これに限られない。制御部122は、不感帯領域の設定のみを行ってもよいし、操作禁止時間の設定のみを行ってもよいし、操作禁止時間の設定およびチャタリングモードへの切り替えのみを行ってもよい。また、チャタリングがあまり問題にならない場合は、制御部122は、チャタリングの対策を行わなくてもよい。
【0058】
図7は、第2実施形態に係る電力管理システムA’を説明するための図であり、電力管理システムA’の内部構成を示すブロック図である。
図7において、第1実施形態に係る電力管理システムAと同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、
図7においては、ビルディングBの内部構成の記載を省略している。
【0059】
本実施形態に係る電力管理システムA’は、制御装置12の内部構成が、第1実施形態に係る電力管理システムAとは異なる。本実施形態に係る制御装置12は、比較部121、制御部122、デマンド予測部123、目標デマンド設定部124、調整電力算出部125、および切替部126を備えている。
【0060】
本実施形態に係る目標電力演算部111は、第1実施形態に係る目標電力演算部111と同様のものであり、集中管理装置Fから受信した指標prを用いて、第1の目標電力値P1
refを算出する。第1の目標電力値P1
refは、瞬時値ベースでの制御を行うための目標電力値であり、第1実施形態に係る目標電力演算部111が算出する目標電力値PIN
refに相当する。
【0061】
デマンド予測部123は、検出された瞬時電力値である受電電力PINを入力され、デマンド時限でのデマンド値を予測する。予測の方法は、一般的に知られている手法を用いればよい。デマンド予測部123は、予測したデマンド値(予測デマンド値)を調整電力算出部125に出力する。目標デマンド設定部124は、目標デマンド値を設定されており、目標デマンド値を調整電力算出部125に出力する。目標デマンド値は、例えば電力会社との間で契約された契約電力に基づいて設定される。調整電力算出部125は、予測デマンド値を目標デマンド値に制御するための目標電力値である第2の目標電力値P2
refを算出する。第2の目標電力値P2
refは、いわゆる調整電力である。
【0062】
切替部126は、比較部121に入力される目標電力値PIN
refを、第1の目標電力値P1
refと第2の目標電力値P2
refとで切り替える。切替部126は、目標電力演算部111から第1の目標電力値P1
refを入力され、調整電力算出部125から第2の目標電力値P2
refを入力される。そして、より小さい方を、目標電力値PIN
refとして、比較部121に出力する。比較部121および制御部122は、第1実施形態に係る比較部121および制御部122と同様のものである。
【0063】
制御装置12は、切替部126が出力する目標電力値PIN
refに基づいて、受電電力PINの制御を行う。つまり、制御装置12は、瞬時値ベースでの制御を行うための第1の目標電力値P1
refと、デマンド値ベースでの制御を行うための第2の目標電力値P2
refとのうち、より小さい方の目標電力値を用いて制御を行う。
【0064】
図8は、指標prに対して投入される負荷22の数を検証するためのシミュレーションの結果を示している。同図(a)は、第1実施形態に係る電力管理システムAによるシミュレーション結果を示している。一方、同図(b)は、第2実施形態に係る電力管理システムA’によるシミュレーション結果を示している。同図(a)、(b)において、1番上が集中管理装置Fから受信した指標prの変化を示しており、上から2番目が目標電力値P
IN
refの切り替えを示しており、上から3番目が投入された負荷22の数の変化を示している。
【0065】
同図(a)に示すように、電力管理システムAでは目標電力値PIN
refは切り替えられずに固定されている。なお、上から2番目に示されているのは、目標電力値PIN
refの切り替えであって、目標電力値PIN
refの値自体ではない。目標電力値PIN
refの値は、指標prに応じて変化する。同図(a)の負荷数の変化において、四角で囲まれた部分を見ると、指標prにおいて大きな値が継続しているので、負荷数が増加して最大数の状態が継続している。これは、電力システムG全体として消費電力に余裕がある(接続点電力P(t)が目標電力Pcを上回っている)ので、接続点電力P(t)を小さくするために大きな指標prが継続している状態である。電力管理システムAは、受電電力PINを増加させて、電力システムGの出力電力の目標達成に貢献している。しかし、この状態が続くと、ビルディングBが契約した目標デマンド値を超過する可能性がある。
【0066】
一方、同図(b)に示すように、電力管理システムA’では、目標電力値PIN
refが第1の目標電力値P1
refと第2の目標電力値P2
refとで切り替えられている。同図(b)の負荷数の変化において、四角で囲まれた部分を見ると、同図(a)と同様に指標prにおいて大きな値が継続しているが、負荷数がある程度増加したところで、目標電力値PIN
refが第1の目標電力値P1
refから第2の目標電力値P2
refに切り替えられることで、負荷数が減少している。そして、負荷数がある程度減少したところで、目標電力値PIN
refが第2の目標電力値P2
refから第1の目標電力値P1
refに切り替えられている。つまり、電力管理システムA’は、受電電力PINを増加させて電力システムGの目標達成に貢献しつつ、目標デマンド値を超過する可能性がある場合は、デマンド値の抑制を優先して受電電力PINを減少させている。
【0067】
本実施形態によると、制御装置12は、目標電力演算部111が算出した第1の目標電力値P1
refと、調整電力算出部125が算出した第2の目標電力値P2
refとのうちより小さい方を目標電力値PIN
refとし、これに基づいて、受電電力PINの制御を行う。集中管理装置Fは、電力システムG全体として消費電力に余裕がある場合、接続点電力P(t)を小さくするために大きな指標を出力する。この場合、当該指標に基づいて算出された第1の目標電力値P1
refは大きくなる。しかし、第1の目標電力値P1
refが、デマンド値に基づく第2の目標電力値P2
refより大きくなると、目標電力値PIN
refが第2の目標電力値P2
refに切り替えられる。これにより、制御装置12は、デマンド値ベースでの制御を行うので、デマンド値が目標デマンド値を超えないように制御される。つまり、電力管理システムA’は、ビルディングBが契約した目標デマンド値を超えない範囲で、電力システムGの出力電力の目標達成に貢献することができる。
【0068】
なお、本実施形態においては、制御装置12が、デマンド予測部123、目標デマンド設定部124、調整電力算出部125、および切替部126を備える場合について説明したが、これに限られない。目標電力算出装置11が、デマンド予測部123、目標デマンド設定部124、調整電力算出部125、および切替部126を備えてもよい。
【0069】
なお、上記第1および第2実施形態においては、需要家がビルディングBである場合、すなわち、電力管理システムA(A’)がBEMSである場合について説明したが、これに限れない。電力管理システムA(A’)は、需要家が工場であるFEMS、または、需要家が家庭であるHEMSなどであってもよく、その他の需要家での受電電力を制御するものであってもよい。
【0070】
本発明に係る電力管理システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る電力管理システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0071】
A:電力管理システム、11:目標電力算出装置、111:目標電力演算部、112:デマンド予測部、113:目標デマンド設定部、114:調整電力算出部、115:切替部、12:制御装置、B:ビルディング、22:負荷、F:集中管理装置