(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】インジケータ材料
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20230426BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20230426BHJP
C09B 11/28 20060101ALI20230426BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20230426BHJP
G01N 21/77 20060101ALI20230426BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
G01N31/00 Z
G01N21/78 C
C09B11/28 E
C09B67/20 F
G01N21/77 A
G01N31/22 122
G01N31/00 V
(21)【出願番号】P 2019019344
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】515270655
【氏名又は名称】株式会社足柄製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】松井 和則
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥平
(72)【発明者】
【氏名】橋本 晃
(72)【発明者】
【氏名】長島 萌美
(72)【発明者】
【氏名】梅木 伊織
(72)【発明者】
【氏名】石井 昭光
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-160030(JP,A)
【文献】特表2005-536852(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0070924(KR,A)
【文献】特開2010-066170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00 - 31/22
G01N 21/77
C09B 11/28
C09B 67/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色及び/又は蛍光発光する色素を含む有機酸検知用のインジケータ材料であって、
検知対象である前記有機酸は、揮発性カルボン酸ガスであり、
キサンテン系色素とポリアクリル酸ナトリウム樹脂とを併用したことを特徴とするインジケータ材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジケータ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルコールやカルボン酸等の有機酸ガスが、抗菌、殺菌、洗浄等の用途に広く用いられている。この有機酸ガスは、人体に有害であるが、空気中に気体として存在していても視覚的に認知することが難しい。そこで、従来より、有機酸との化学反応に基づく発色及び/又は蛍光発光の変化を利用したインジケータが存在する。このインジケータは、有機酸と接触した量により色調が変化するため、空気中に存在する当該有機酸の濃度を視覚的に判別することができる。
【0003】
例えば、空気中のガス成分を視覚的に判別可能とするインジケータとして、特許文献1には、飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなることを特徴とするアルコールセンサが開示されている。特許文献1に開示のアルコールセンサは、キサンテン系色素の一種であるローダミンBを用いることで、光学的・電気的に低濃度のアルコール検出を行っている。他にも、ローダミンBの極性変化に伴う発色・蛍光性を利用することで、アンモニア(特許文献2)、二酸化窒素(非特許文献1)、トルエン(非特許文献2)、脂肪族アミン(非特許文献3)など、種々のガス検出を可能とする報告例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-128160号公報
【文献】特開2010-66170号公報
【文献】T. Ohyama, Y.Yamada Maruo, T. Tanaka, T. Hayashi, Sens. Actuat. B: Chem., 59, 16-20 (1999).
【文献】R. Rosty, B. Kebbekus, V. Zaitsev, Sens. Actuat. B: Chem., 107, 347-352 (2005).
【文献】E. Hwang, I.A. Levitsky, W.B. Euler, J. Appl. Polym. Sci., 116(4), 2425-2432 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、キサンテン系色素はガス検知剤として有用ではあるが、これまでに十分な視認性を有し、外部装置を不要とし、短時間で簡便な製作を可能とする有機酸ガス用センサは開発されていない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、感度が高く、応答性が良好でありながらも、視認性に優れたインジケータ材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究の結果、以下のインジケータ材料を提供するに至った。
【0008】
本発明に係るインジケータ材料は、発色及び/又は蛍光発光する色素を含む有機酸検知用のインジケータ材料であって、キサンテン系色素とポリアクリル酸ナトリウム樹脂とを併用したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るインジケータ材料は、検知対象が揮発性カルボン酸ガスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインジケータ材料は、作製及び使用が極めて簡便でありながら、有機酸の存在を視覚的に容易且つ明瞭に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ローダミンB色素の分子構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明に係るインジケータ材料は、発色及び/又は蛍光発光する色素を含む有機酸検知用インジケータ材料であって、キサンテン系色素とポリアクリル酸ナトリウム樹脂とを併用したことを特徴とする。本発明に係るインジケータ材料は、キサンテン系色素として特にローダミンB色素及び/又はウラニン色素をポリアクリル酸ナトリウム樹脂の表面に担持又は接触させることで、変色成分であるこれら色素が有機酸に反応して色調変化を示し、有機酸の存在を視覚的に容易且つ明瞭に判別することができる。以下、「ローダミンB色素」、「ウラニン色素」、「ポリアクリル酸ナトリウム樹脂」について順次説明する。
【0014】
ローダミンB色素: ローダミンB色素には、
図1に示すように、カチオン型(RBH
+)、双性イオン型(RB
±)、ラクトン型(RB
0)の3種類の分子構造が存在する。ここで、カチオン型は、pH4以下で557nm付近に吸収ピーク及び585nm付近に蛍光ピークを示す。また、双性イオン型は、pH4以上で553nm付近に吸収ピーク及び580nm付近に蛍光ピークを示す。ここで、カチオン型と双性イオン型は、ピンク~赤紫の発色を呈すると共に紫外線照射下でオレンジ色の蛍光を発する。ラクトン型は、無色で非蛍光性である。
【0015】
ローダミンB色素がどの分子構造になるかは、ローダミンB分子の周辺環境の極性やpHに依存する。ラクトン型は、弱塩基性且つ極性の小さい環境下で安定な構造である。具体的に、ローダミンB色素は、pHが8~12程度で、且つ、固体マトリックスを1gとナイルレッド(NR)2mgとの混合物の吸収スペクトルから得たENT値が0.17以下、又は固体マトリックス1gとライハルト染料(RD)2mgとの混合物の吸収スペクトルから得たENT値が0.51以下となる環境下でラクトン型となる。
【0016】
従って、ローダミンB色素は、後述するポリアクリル酸ナトリウム樹脂と接触することで、ラクトン型となり無色に消色する。本発明に係るインジケータ材料は、この性質を活用したものである。すなわち、ローダミンB色素をポリアクリル酸ナトリウム樹脂に担持又は接触させた状態でアルコールや酢酸等の有機酸に暴露した際、ローダミンB色素の分子構造がラクトン型から双性イオン型になる酸塩基平衡反応を利用してインジケータ材料をピンク~赤紫に高感度で素早く発色させる。
【0017】
ウラニン色素: ウラニン色素には、
図2に示すように、カチオン型、中性型、モノアニオン型、ジアニオン型の4種類の分子構造が存在する。ウラニン色素は、pHに依存して多様な構造変化を示し発色(pHが5~6程度以下で黄色、pHが7以上で緑色を呈する)すると共に黄色~緑色の蛍光を発する。本発明に係るインジケータ材料は、この性質を活用したものである。すなわち、ウラニン色素を後述するポリアクリル酸ナトリウム樹脂に担持又は接触させた状態でアルコールや酢酸等の有機酸に暴露した際、ウラニン分子の構造がジアニオン型からモノアニオン型へ変化し、インジケータ材料がオレンジ色から薄い黄色へ高感度で素早く変色する。
【0018】
ポリアクリル酸ナトリウム樹脂: ポリアクリル酸ナトリウム樹脂は、高吸水性高分子(SAP)の一種であり、上述した極性が低く且つ弱塩基性の性質条件を満たす物質である。例えば、ローダミンB色素を極力吸光度の低い溶媒に溶かし、ポリアクリル酸ナトリウム樹脂に担持又は接触させることで、インジケータ材料作製直後の色が薄いものとなり、当該インジケータ材料により低濃度の有機酸であっても視覚的に容易に判別することが可能となる。ここで、当該溶媒としては、エタノールよりも吸光度の低いt-ブタノール(ブチルアルコール)を好適に用いることができる。
【0019】
また、本発明に係るインジケータ材料において、ポリアクリル酸ナトリウム樹脂は、幅広い重合度の市販品を用いることができる。市販のポリアクリル酸ナトリウム樹脂は、ローダミンB色素やウラニン色素との付着性が良く、有機酸の検知材料として好適である。
【0020】
インジケータ材料の構成と用途: 本発明に係るインジケータ材料は、キサンテン系色素とポリアクリル酸ナトリウム樹脂を含む限り、使用目的に応じてこれら以外の物質を適宜含めることもできる。ここで、ポリアクリル酸ナトリウム樹脂を100重量部としたときに、キサンテン系色素を0.01~1.0重量部の割合で併用することが好ましい。キサンテン系色素が0.01重量部未満になると、視認性に優れたインジケータ材料を得ることができない。一方、キサンテン系色素が1.0重量部を超えると、インジケータ材料が発色又は変色した際の視認性の向上効果が飽和するため、経済的に不利となる。また、この場合、当該キサンテン系色素としてローダミンB色素を用いると、当該ローダミンB色素の分子構造を安定してラクトン型とすることができなくなる。
【0021】
そして、本発明に係るインジケータ材料において、検知対象は揮発性カルボン酸ガスであることが好ましい。本発明に係るインジケータ材料は、100ppm程度の酢酸ガスに暴露させた場合に、視覚的に判別可能な程度に高い応答性で色調変化する。従って、本発明に係るインジケータ材料によれば、例えば三酢酸セルロース(TAC)をベースフィルムとした記録保存用フィルムにおいて、加水分解が生じることにより発生する酢酸ガスの吸収材の交換タイミングを従来のように臭いで判断する必要がなくなる。
【0022】
インジケータ材料の調整方法: 以下に当該インジケータ材料を調整(作製)する方法について一例を以下に説明する。
【0023】
本発明に係るインジケータ材料は、まず、ポリアクリル酸ナトリウム樹脂の粉末と、t-ブタノールにローダミンB色素粉末及び/又はウラニン色素を溶かした溶液とを乳鉢に入れる。次に、これらを乳棒で1分間以上混合し、得られた混合物を50℃以上で10分間以上乾燥することによって作製することができる。本発明に係るインジケータ材料は、このようにして簡便に任意の形状及び大きさに作製することができるため、安価に小型化を実現することができる。
【0024】
インジケータ材料の形状形態: 本発明に係るインジケータ材料は、上述した調整方法において、乾燥後得られたものを粉々に粉砕して粉状とすることもできる。粉状のインジケータ材料は、フィルム状やブロック状のものよりも有機酸に対する反応速度が早くなり、より高感度で且つ応答性が良好なものとなる。なお、本発明に係るインジケータ材料は、固体形態に限定されず、上述した調整方法において乾燥させずに液体形態として使用すること(スプレーや塗料等)もできる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、酢酸ガス暴露時における固相ローダミンB材料のL*、a*、b*値の変化を確認した。
【0026】
測定試料の作製: ポリアクリル酸ナトリウム樹脂(以下、「SAP」と称する)に対するローダミンB色素(以下、「RB」と称する)の質量比を1.0%、0.1%、0.01%、0.001%とし、SPA粉末とRB粉末を乳鉢で混合して固相RBインジケータを作製した。
【0027】
測定方法: 酢酸ガスを含むデシケーター内にRB材料を入れ、5min経過後に取り出し、変色したRB材料のL*、a*、b*値の変化を分光測色計で測定した。以下に、得られたL*値の変化を表1、a*値の変化を表2、b*値の変化を表3にそれぞれ示す。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
測定試料の評価: 表1~表3に示す結果より、酢酸ガス濃度が増加するに伴って、L*値及びb*値は低下、a*値は上昇する傾向がみられた。ただし、RB1.0%については、b*値と酢酸ガス濃度との相関性がみられなかった。また、RB比が高くなる程L*値は小さくなる傾向がみられたが、a*値はRB0.1%の場合が最も大きく、b*値はRB0.1%の場合が最も小さくなった。RB1.0%の場合については、他のRB比とは異なる変色機構を示す可能性がある。今回の結果から、RB比が0.001~0.1%において、暴露する酢酸ガス濃度に応じてL*、a*、b*値が変化し、その濃度範囲は10~数千ppmであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るインジケータ材料は、感度が高く、応答性が良好でありながらも、視認性に優れたものである。従って、本発明に係るインジケータ材料は、アルコールや酢酸等の有機酸を使用するあらゆる場所において好適に用いることができる。また、作製及び使用が簡便であるため、使用する人や場所を問わない。さらに、有機酸の濃度の変動に応じて発色と消色とを交互に繰り返すため、長期間何度も使用することができ、可逆式の有機酸検知用インジケータとして好適に用いることができる。