(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】熱成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/10 20060101AFI20230426BHJP
B29C 51/26 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B29C51/10
B29C51/26
(21)【出願番号】P 2019125431
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203466(JP,A)
【文献】実開昭60-85913(JP,U)
【文献】特開平5-31743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、該基台を収容可能な型枠と、該型枠の枠上縁部に対して加熱面を密接可能な熱板と、を有し、前記型枠と前記熱板との間にシートを配置させ、該シートに対して上方から加熱し、前記基台に保持された成形基材に対して前記熱板で加熱されて軟化した前記シートを金型賦形する、又は接着する熱成形装置を用いた熱成形方法であって、
前記熱成形装置は、前記熱板に第1接続管によって接続され、前記加熱面から吸引可能な第1真空ポンプと、前記型枠に第2接続管によって接続され、前記型枠内を減圧可能な第2真空ポンプと、前記第1接続管及び前記第2接続管を連通可能に切り換える切換弁と、を備え、
前記熱板によって前記シートを加熱する際に、前記切換弁によって前記第1接続管及び前記第2接続管を連通し、前記第1真空ポンプ及び前記第2真空ポンプによって前記熱板の前記加熱面から真空吸引して、前記シートと前記熱板との間の上空間を減圧する工程と、
前記熱板で加熱されて軟化した前記シートを金型賦形する、又は接着する際に、前記切換弁によって前記第1接続管及び前記第2接続管の連通部分を遮断し、前記第2真空ポンプによって前記型枠から真空吸引して、前記シートの下側の下空間を減圧する工程と、
を有することを特徴とする熱成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形装置を用いた熱成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート(表皮シート)を成形基材の外表面に接着する装置として、真空プレス積層成形装置や熱板加熱による熱成形装置等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
例えば、特許文献1に開示されている真空プレス積層成形装置は、上下のチャンバーを備えている。下部チャンバーは、成形基材を収容するとともに上部チャンバー側の周縁部にシートをセットすることが可能である。上部チャンバーは、上方にヒーターを備えた熱板を有し、真空タンク及び加圧タンクに接続されて上下のチャンバーからなるチャンバー内を真空及び加圧可能に設けられている。下部チャンバーは、真空タンクに接続され、チャンバー内が真空可能に設けられている。
【0003】
そして、特許文献1に記載の真空プレス積層成形装置では、中間チャンバーを減圧してシートを基材より引き離した状態にて、下部チャンバーを減圧する。これにより、基材とシートとの間の空気がシートにより阻害されることなく充分に排除され、この後に上部チャンバーが加圧される。そのため、上部チャンバーと下部チャンバーとの差圧によりシートが真空状態にて基材に密着するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の熱成形方法では、シートの接着面(下面)が被覆に必要な状態まで軟化するまで加熱する必要があった。そのため、熱板の加熱面において真空ポンプによる真空吸引を行ってシートを加熱面に吸着せることで、シートの加熱効率を高め、効率的に加熱している。ところが、真空ポンプでは目標真空度に到達させるまでに時間を要し、熱成形にかかるサイクルタイムが長くなるという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、動作効率の向上を図ることが可能となり、熱成形にかかるサイクルタイムを短くすることができる熱成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る熱成形方法は、基台と、該基台を収容可能な型枠と、該型枠の枠上縁部に対して加熱面を密接可能な熱板と、を有し、前記型枠と前記熱板との間にシートを配置させ、該シートに対して上方から加熱し、前記基台に保持された成形基材に対して前記熱板で加熱されて軟化した前記シートを金型賦形する、又は接着する熱成形装置を用いた熱成形方法であって、前記熱成形装置は、前記熱板に第1接続管によって接続され、前記加熱面から吸引可能な第1真空ポンプと、前記型枠に第2接続管によって接続され、前記型枠内を減圧可能な第2真空ポンプと、前記第1接続管及び前記第2接続管を連通可能に切り換える切換弁と、を備え、前記熱板によって前記シートを加熱する際に、前記切換弁によって前記第1接続管及び前記第2接続管を連通し、前記第1真空ポンプ及び前記第2真空ポンプによって前記熱板の前記加熱面から真空吸引して、前記シートと前記熱板との間の上空間を減圧する工程と、前記熱板で加熱されて軟化した前記シートを金型賦形する、又は接着する際に、前記切換弁によって前記第1接続管及び前記第2接続管の連通部分を遮断し、前記第2真空ポンプによって前記型枠から真空吸引して、前記シートの下側の下空間を減圧する工程と、を有することを特徴としている。
【0008】
本発明では、熱板の加熱面によって加熱されて軟化したシートを、型枠内に収容される基台に保持された成形基材の表面に全体にわたって一様に金型賦形、又は被覆することができる。熱板の加熱面にシートを吸着させて加熱する際に、切換弁によって第1接続管及び第2接続管を連通し、第1真空ポンプと第2真空ポンプの2台のポンプを使用して加熱面から真空吸引させてシートの上側の上空間を減圧することができる。そのため、このときの上空間における目標とする真空度に到達する上昇時間を短縮することができ、動作効率の向上を図ることが可能となり、熱成形にかかるサイクルを短くすることができる。また一定時間における真空度を高くすることも可能である。
【0009】
また、本発明では、熱板の加熱面における吸引時に2台の真空ポンプを使用できるので、熱板に第1接続管によって接続される第1真空ポンプの容量を小さくすることが可能となる。
一方で、シートの下側となる型枠内の下空間を減圧する際には、切換弁によって第1接続管及び第2接続管の連通部分を遮断し、第1真空ポンプでシートの熱板側を減圧し、第2真空ポンプで下空間を減圧することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱成形方法によれば、動作効率の向上を図ることが可能となり、熱成形にかかるサイクルタイムを短くすることができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態による熱成形装置の構成を示す縦断面図である。
【
図2】真空ポンプの接続系統の概略構成を示す図である。
【
図3】
図1に示す熱成形方法の成形動作のタイムチャートを示す図である。
【
図4】
図1に示す熱成形装置を用いた熱成形方法を説明するための側面図である。
【
図5】
図4に続く熱成形方法を説明するための側面図である。
【
図6】
図5に続く熱成形方法を説明するための側面図である。
【
図7】(a)~(c)は、真空ポンプの作動状態を示す図であって、
図2に対応する図である。
【
図8】実施例による熱成形装置の概略構成を示す側面図である。
【
図9】実施例の結果を示す図であって、時間tと真空圧Paとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による熱成形方法について、図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態による熱成形方法は、熱板加熱方式を採用した熱成形装置1を用い、熱板3の加熱によって軟化したシート4を、型枠2のチャンバー2A内に配置された基台5に保持された成形基材6の表面6aに被覆する方法である。
【0014】
ここで、熱成形品6A(
図5参照)は、例えば自動車部品等で表裏面を有する部品が採用され、樹脂製の成形基材6の表面6aに加熱により軟化したシート4を吸着させて被覆することにより熱成形された成形品である。なお、成形基材6は、本実施形態においては概略で有頂筒状をなす形状となっているが、基台5に保持可能であればとくに限定されるものではない。
【0015】
熱成形装置1は、シート4を被覆させる成形基材6を保持する基台5と、基台5及び成形基材6を収容可能な空間(チャンバー2A)を有する型枠2と、型枠2の枠上縁部21aに対して加熱面3aを密接可能な熱板3と、を備えている。この熱成形装置1は、型枠2と熱板3との間にシート4を配置させ、このシート4に対して上方から加熱し、加熱により軟化したシート4を基台5に保持された成形基材6に接着する構成となっている。
【0016】
シート4は、印刷層と、該印刷層の表面側に設けられた不図示の保護フィルムまたはキャリアフィルムと、を有し、印刷層の裏面側に接着層を有した公知の多層シートである。シート4の材質は、熱板3によって加熱及び成形され、且つ冷却された際に固化し得るものである。なお、シート4として、ロール状に巻き取られたロールシートを採用してもよい。
なお、シート4は、図示しないシート巻出装置によって順次巻き出され、図示しないシート切断部によって切断されて、各熱成形品6Aの成形毎に加熱面3aに沿って連続的に供給することができる。
【0017】
成形基材6は、シート4が被覆・接着され、例えばポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる成形品の本体である。但し、成形基材6の材質は、前記樹脂に限定されるものではない。
【0018】
型枠2は、上面視で矩形状のステンレス等の金属製の部材からなり、底盤20と、底盤20の外周部から上方に向けて立設された側壁21と、を有している。底盤20と四方の側壁21によって囲まれる内側のチャンバー2A内には、成形基材6を保持させるための基台5が底盤20上に固定されている。
【0019】
型枠2は、スライド可能な枠架台23上に載置され、熱板3の下側の成形位置と、その成形位置から離れた所定の退避位置(図示省略)との間で移動可能となっている。つまり、型枠2が前記退避位置のときに、型枠2のチャンバー2A内の基台5に対して成形基材6が着脱される。なお、型枠2自体が上記のように移動可能な構成であれば、枠架台23は省略することも可能である。
ここで、型枠2の横移動の動作や後述する第2真空ポンプ7Bや加圧ポンプの駆動は、不図示の制御部によって制御される。
【0020】
底盤20の側壁21寄りの位置には、多数の型枠通気孔22、22、…が形成されている。これら型枠通気孔22は、第2接続管72を介して真空タンク(図示省略)を備えた第2真空ポンプ7Bに接続されている。本実施形態の熱成形装置1による熱成形時には、第2真空ポンプ7Bを駆動させて真空吸引することでチャンバー2A内を減圧することができる。
【0021】
側壁21は、枠上縁部21aの位置がチャンバー2A内に収容される基台5及びこの基台5に保持される成形基材6よりも上方となる高さを有している。枠上縁部21aは、熱板3との間でシート4を挟持する部分である。すなわち、枠上縁部21aにおいて、熱板3Aがシート4を挟んで気密な状態で当接し、これにより型枠2と熱板3とが閉止状態となってチャンバー2A内が密閉空間となる。そのため、シート4が枠上縁部21aと熱板3との間に挟持された状態において、シート4を挟んだ上下に気密な空間が画成される。
【0022】
型枠2に収容される基台5は、金属等からなり、底盤20上に配設されている。成形基材6は、基台5の中央で上方に向けて凸状に形成された保持部5aに被着されて保持される。保持部5aは、成形基材6の裏面(シート4の被覆面4aの反対面)に沿った形状に形成されている。
【0023】
そして、基台5に保持された成形基材6は、不図示の加圧タンク等によって熱板3からチャンバー2A側に圧縮空気が導入されることで、底盤20側に向けて下降したシート4によって被覆・接着される。
【0024】
熱板3は、
図1に示すように、所定の成形位置に配置される型枠2の上方に位置し、その型枠2に対して不図示の伸縮装置によって上下移動可能に設けられている。熱板3は、下面側に滑らかな平面からなる加熱面3aを有し、シート4を吸着して加熱することで軟化させる構成となっている。具体的に熱板3は、下方に移動した状態で、成形位置に配置される型枠2の枠上縁部21aに上方から密接した状態で配置される。
ここで、熱板3の上下移動の動作や後述する第1真空ポンプ7Aや加圧ポンプの駆動は、不図示の制御部によって制御される。
【0025】
熱板3の上面3bには、複数のヒーター31,31,…が所定の間隔をあけて設けられている。
熱板3の加熱面3aには、この加熱面3aに開口する複数の熱板通気孔32,32,…が所定の間隔をあけて形成されている。これら熱板通気孔32は、
図2に示すように、第1接続管71を介して真空タンク(図示省略)を備えた第1真空ポンプ7Aに接続されている。成形時には、第1真空ポンプ7Aを駆動させて真空吸引することでチャンバー2A内を減圧することができる。
【0026】
また、熱板3の熱板通気孔32は、コンプレッサによって圧縮空気を貯める加圧タンクを備えた加圧ポンプ(図示省略)に接続されている。この加圧ポンプは、上述した第1真空ポンプ7Aと切り替え可能に設けられている。
このような構成により、熱成形時には、適宜、第1真空ポンプ7Aと加圧ポンプとの接続を切り替え、真空状態に維持された真空タンクを開放し、シート4を熱板通気孔32より真空吸引させて加熱面3aに密着させたり、加圧ポンプより熱板通気孔32より圧縮空気を加熱面3aからチャンバー2A内に向けて供給して加圧し、シート4を成形基材6側に向けて下降させることが可能となっている。なお、本実施形態のように真空タンクを設けずに、第1真空ポンプ7Aのみの駆動によって直接吸引させることで真空度を高めるようにしてもよい。
【0027】
上述したように、本実施形態の熱成形装置1では、熱板3と第1真空ポンプ7Aとを接続する第1接続管71には流路を開閉する第1切換弁73が設けられ、型枠2と第2真空ポンプ7Bとを接続する第2接続管72には流路を開閉する第2切換弁74が設けられている。そして、第1接続管71における第1切換弁73より第1真空ポンプ7A側の位置と、第2接続管72における第2切換弁74より第2真空ポンプ7B側の位置と、を接続する連結管75が設けられている。連結管75には、流路を開閉する第3切換弁76が設けられている。
例えば、熱板3の熱板通気孔32においてシート4の上側の上空間K1を減圧する際には、第2切換弁74を閉じ、第1切換弁73及び第3切換弁76を開いた状態で、第1真空ポンプ7Aと第2真空ポンプ7Bとの2台を駆動して真空吸引することが可能である。
【0028】
なお、本実施形態の熱成形装置1には、とくに図示しないが、成形基材6に被覆されたシート4の不要部分をトリミングする切断治具が設けられている。この切断治具は、例えば型枠2の底盤20に設けられ、刃部を上方に向けて配置し、基台5に保持されている成形基材6に対して所定の間隔をあけて上下方向に対向する位置に配置されている。このように切断治具が構成され、切断治具の刃部が成形基材6に被覆したシート4に当たってカットし、トリミングすることができる。
【0029】
次に、上述した熱成形装置1を使用して熱成形品6Aを成形する際の熱成形方法について、
図3の動作フロー等を用いて説明する。ここで、
図4に示す型枠2の位置を熱成形が行われる初期位置とする。なお、
図3は、熱成形装置1を使用した熱成形方法の一例であって、各動作の時間や、開始時間、終了時間、各動作のタイミング等は適宜変更することができる。
【0030】
先ず、型枠2が上述した初期位置から退避した退避位置に位置している状態で、型枠2の底盤20上に配置された基台5の保持部5aに成形基材6が保持される(
図4参照)。その後、
図4に示すように、型枠2を初期位置に移動させ、上昇位置にある熱板3の下方に配置する。続いて、型枠2の枠上縁部21aに沿って延在し、かつ面方向に張った状態でシート4を供給する。このとき熱板3の加熱面3aは、シート4の上方に所定の間隔をあけて対向した状態となる。
【0031】
次に、
図1に示すように、熱板3によってシート4を加熱する工程が行われる。具体的には、熱板3を下降し、加熱面3aの外周部をシート4を介して型枠2の枠上縁部21aに上方から当接させる。これにより、シート4は、枠上縁部21aと熱板3とによって全周にわたって隙間なく挟持された状態となる。また、型枠2の上部開口が塞がれることでチャンバー2A内が密閉状態となる。これによりシート4は、熱板3の加熱面3aに接触した状態となる。そして、シート4を挟んだ上下の空間(上空間K1、下空間K2)が互いに隔離された状態となる。
なお、シート4は、ロール状のシート4を枠上縁部21a上に巻き出して、熱板3で挟持した後に不図示の切断手段により所定の大きさに切断するようにしてもよい。あるいは、予め設定された大きさのシート4を枠上縁部21a上に配置させて熱板3で挟持するようにしてもよい。
【0032】
熱板3の下降した後、熱板3の熱板通気孔32より吸引することによりシート4の上側の空間(上空間K1)を真空にする(上真空動作S1:ON)。熱板3の加熱面3aは、ヒーター31によって加熱されており、熱板3において
図2に示す両真空ポンプ7A、7Bを作動させて複数の熱板通気孔32、32、…を通じて加熱面3aとシート4との間の上空間K1を真空吸引して減圧し、その加熱面3aにシート4を吸着させて加熱する。このとき、シート4は、加熱面3aに接触することにより加熱される。
【0033】
具体的に上真空動作S1は、
図7(a)に示すように、第1切換弁73を開き、第2切換弁74を閉じ、第3切換弁76を開くことで、第1真空ポンプ7Aと第2真空ポンプ7Bの2台(
図3の「熱板真空2台」と示す範囲の時間)を使用して第1接続管71及び連結管75を介して所定時間(これを上真空時間T1とする)だけ吸引する。これにより、シート4は加熱面3aに吸着して加熱される。ここで、
図7(a)~(c)の第1接続管71、第2接続管72、及び連結管75において、太線は真空ポンプ7A、7Bに対して連通状態であることを示している。
【0034】
そして、上真空動作S1を開始(ON)した後のタイミングで、シート4の下側の空間(下空間K2)を不図示の圧空ポンプを使用して所定時間(これを下圧空時間T2とする)だけ圧空する(下圧空動作S2:ON)。下圧空動作S2は、下圧空時間T2が上真空時間T1よりも短く、かつ上真空動作S1の終了前よりも早く終了となる。下圧空動作S2で下圧空を行うことで、シート4は下側からも上方に向けて押圧されてさらに加熱面3aに対して確実に密着することになる。そして、所定の下圧空時間T2が経過したときに真空ポンプ7A、7Bを停止する、又は真空ポンプ7A、7Bを大気圧にすることで、シート4の下空間K2内を排気し、下圧空動作S2が終了する(下圧空動作S2:OFF)。
【0035】
次に、下圧空動作S2が終了したタイミングで、
図7(b)に示すように、上真空動作S1で使用した2台の真空ポンプ7A、7Bを第1真空ポンプ7Aの1台(
図3の「熱板真空1台」と示す範囲の時間)に切り替える。つまり、第3切換弁76を閉じ、加熱面3aによる真空吸引を第1接続管71を介して第1真空ポンプ7Aのみで行うようにする(上直引き真空動作S11:ON)。このとき第2真空ポンプ7Bから型枠2に繋がる第2接続管72は第2切換弁74が閉じているので、第2真空ポンプ7Bによる真空吸引の動作は行われない状態となる。
【0036】
次に、熱板3による加熱によって軟化したシート4を成形基材6の表面6aに被覆する工程が行われる。
先ず、上述したようにシート4の下側の下空間K2を排気する(下排気動作S3:ON)を行うことにより、下空間K2が圧空開放となる。さらに、
図5及び
図7(c)に示すように、第2切換弁74を開くことで第2真空ポンプ7Bにより型枠2の底盤20に形成されている複数の型枠通気孔22、22、…から真空吸引して減圧することで高真空度状態とする(下真空動作S4:ON、下直引き真空動作S41:ON)。このときの下真空動作S4が動作する時間を下真空時間T3とする。このときは、
図3の「熱板真空1台、型枠真空1台」と示す範囲の時間となる。
【0037】
そして、上真空時間T1が経過したときに、第1切換弁73を閉じて上空間K1を排気することにより真空開放する(上排気動作S5:ON、上真空開放動作S6:ON)。これにより、熱板3による真空吸引が停止される。つまり、下真空動作S4の減圧動作を維持した状態で、シート4の吸着動作を停止させ、熱板3とシート4との間の上空間K1を大気開放する。
【0038】
さらに、下真空時間T3の経過後に上空間K1を圧空する(上圧空動作S7:ON)。このときの上圧空動作S7が動作する時間を上圧空時間T4とする。
このように下空間K2を減圧するとともに上空間K1を真空開放することで、下空間K2が高真空度状態となり、
図5に示すように、熱板3の加熱面3aに吸着していたシート4が加熱面3aから離れ、さらに下方に移動することになる。つまり、熱板3の加熱面3aに吸着されたシート4が所定温度に加熱され、所定時間(上真空時間T1)が経過した後に、熱板3の熱板通気孔32による真空吸引を停止させてシート4の吸着動作を停止する。これにより、熱板3とシート4との間が大気開放されるので、シート4を挟んだ上空間K1と下空間K2とに圧力差が生じる。そして、加熱によって軟化したシート4が熱板3の加熱面3aから離れて底盤20(成形基材6)側に向かって移動し、成形基材6の表面6aを覆うように密着して押し付けられ、シート4が成形基材6の表面6aを被覆して接着される。
【0039】
その後、被覆されたシート4に対して不図示の切断治具を用いて適宜なカットラインでカットすることでシート4のトリミングが行われる。ここで、圧空(上圧空動作S7:ON)において成形基材6を切断治具の刃に押し当てる際には、基材保持がONからOFFの状態に切り替えられる。
なお、熱板3とシート4との間を大気開放する際には、真空ポンプ7A、7Bの各々に接続されている真空タンクを加圧タンクに切り替えることで、熱板3の熱板通気孔32より圧縮空気を送り出して上空間を加圧するようにしてもよい。
【0040】
次いで、
図6に示すように、成形基材6にシート4が被覆されて熱成形された熱成形品6Aを基台5から取り外す工程を行う。具体的には、熱板3を上昇させて型枠2の上方へ移動させ、かつ平面視で型枠2を成形位置から退避位置へ移動させる。そして、退避位置に位置する型枠2において熱成形品6Aを基台5から分離させて取り外す。
以上の動作によって熱成形品6Aが完成し、1つの熱成形品6Aを熱成形する一連の成形動作が完了する。
【0041】
次に、上述した熱成形方法による作用について、図面に基づいて説明する。
本実施形態では、
図1及び
図5に示すように、熱板3の加熱面3aによって加熱されて軟化したシート4を、型枠2内に収容される基台5に保持された成形基材6の表面6aに全体にわたって一様に被覆することができる。
熱板3の加熱面3aにシート4を吸着させて加熱する際に、
図7(a)に示すように、第1切換弁73を開き、第2切換弁74を閉じ、第3切換弁76を開くことによって第1接続管71及び第2接続管72を連結管75を介して連通し、第1真空ポンプ7Aと第2真空ポンプ7Bの2台のポンプを使用して加熱面3aから真空吸引させてシート4の上側の上空間K1を減圧することができる。そのため、このときの上空間K1における目標とする真空度に到達する上昇時間を短縮することができ、動作効率の向上を図ることが可能となり、熱成形にかかるサイクルを短くすることができる。また一定時間における真空度を高くすることも可能である。
【0042】
また、本実施形態では、熱板3の加熱面3aにおける吸引時に2台の真空ポンプ7A、7Bを使用できるので、熱板3に第1接続管71によって接続される第1真空ポンプ7Aの容量を小さくすることが可能となる。
【0043】
一方で、シート4の下側となる型枠2内の下空間K2を減圧する際には、第1切換弁73及び第2切換弁74を開き、第3切換弁76を閉じることによって第1接続管71及び第2接続管72の連通部分(連結管75)を遮断し、第1真空ポンプ7Aでシート4の熱板側を減圧し、第2真空ポンプ7Bで下空間K2を減圧することができる。
【0044】
上述のように本実施形態による熱成形方法では、動作効率の向上を図ることが可能となり、熱成形にかかるサイクルタイムを短くすることができる。
【0045】
次に、上述した本実施形態による熱成形方法による効果を裏付けるための実施例について、以下説明する。
【0046】
(実施例)
本実施例では、上述した
図8に示す熱成形装置100を使用し、真空ポンプ1台を使用したケースと、真空ポンプ2台を使用したケースで真空吸引し、熱板側真空度(
図9に示す実線)における目標真空度に到達したときの真空ポンプの真空圧P
0と、時間tを測定し、上述した実施形態の効果を確認した。
図8に示す熱成形装置100は、熱板101の加熱面における平面形状で縦200mm、横200mmのものを採用し、型枠102として縦200mm、横200mm、高さ50mmのものを採用している。
図8に示す符号103は、シートである。
【0047】
図9は、シート103を型枠102と熱板101との間に挟持させた状態でシート103の熱板101側を真空吸引するとともに、型枠102側を真空吸引しときの熱板側真空度を実線で示し、型枠側真空度を破線で示している。そして、熱板側真空度において、目標真空度に達するまでの時間t(秒)と、真空ポンプの真空圧P
0(Pa)を測定した。
図9のグラフにおいて、縦軸の真空圧P
0は、紙面上側において1000Paであり、紙面下方に向かうほど真空圧P
0が上昇することを示している。本実施例で使用する2台の真空ポンプは、熱板101側に接続される熱板用真空ポンプAは容量300L/minのものを使用し、型枠用真空ポンプBは容量1000L/minのものを使用している。
【0048】
熱板101の真空吸引方法としては、2台の真空ポンプA、Bの使用状態を変えた2ケースで行った。
第1ケースは、熱板101が目標真空圧(熱板真空到達圧P11)に到達するまで、熱板101に接続される熱板用真空ポンプAと型枠102に接続される型枠用真空ポンプBの2台の真空ポンプを熱板101に接続して真空吸引を行い、熱板真空到達圧P11に達した後は、型枠側真空ポンプBの接続を熱板101から型枠102に切り替えて行うケースである。
第2ケースは、熱板側真空ポンプAのみを熱板101に接続し、型枠側真空ポンプBは型枠102のみに接続してそれぞれ真空吸引を行うケースである。すなわち、熱板101が目標真空圧(熱板真空到達圧P11)に到達するまでの間も、熱板101には熱板用真空ポンプAの1台のみが接続されたものである。
【0049】
図9の結果では、第1ケース及び第2ケースの熱板側真空度において、真空ポンプを駆動し、熱板101に対して真空吸引してから時間t11で熱板101の真空圧P
0が上昇し始め、時間t12で熱板101が目標真空度に達した。2台の真空ポンプA、Bを使用する第1ケースでは、目標真空度に達したときの熱板真空到達圧P11は400Paとなった。また真空圧上昇開始の時間t11から目標真空度に達した真空度到達時間T11(t12-t11)は4秒であった。一方、1台の真空ポンプAを使用する第2ケースでは、目標真空度に達したときの熱板真空到達圧P11は500Paとなった。また真空圧上昇開始の時間t11から目標真空度に達した真空度到達時間T11(t12-t11)は5秒であった。
【0050】
なお、熱板側真空度において、目標真空度に達した後、所定時間が経過したタイミングで成形が開始される。第1ケースの場合には、熱板用真空ポンプAで熱板101に対して真空吸引を継続するとともに、型枠用真空ポンプBの接続を熱板101側から型枠102側に切替えて型枠102に対して真空吸引を行うことを所定時間まで行ってから成形が開始される。
【0051】
このように、熱板側真空度における真空度到達時間T11は、2台の真空ポンプA、Bを使用する第1ケースが1台の真空ポンプAの第2ケースより1秒短縮されていることを確認できた。つまり、熱板101側における目標真空度に到達するまでは、2台の真空ポンプA、Bを使用することで上昇時間を短縮することができ、動作効率を向上できることがわかった。
さらに、上述したような熱板101側の真空度に到達する上昇時間を短縮できる効果より、熱板用真空ポンプの容量を型枠用真空ポンプの容量よりも小さくできることも確認することができた。
【0052】
以上、本発明による熱成形方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0053】
例えば、本実施形態では、熱板3が上下移動する構成としているが、これに限定されることはなく、型枠2と熱板3とが上下方向に相対的に近接可能であればよく、熱板3の位置を固定とし、その熱板3に対して型枠2が上下移動可能に設けられていてもよい。或いは、型枠2と熱板3とがそれぞれ上下方向に移動できる構成であっても勿論かまわない。したがって、型枠2の位置が限定されるものではなく、熱成形時において、熱板3と型枠2とが平面視で重なるように設けられていればよい。
【0054】
また、本実施形態の熱成形方法において、各動作(上真空動作S1、下圧空動作S2、下排気動作S3、下真空動作S4、上排気動作S5、上真空開放動作S6、上圧空動作S7、上直引き真空動作S11、下直引き真空動作S41)の時間、タイミング等は、シート4の材質、厚さ、接着剤の種類、成形基材6の材質等の条件に応じて設定することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、シート4を成形基材6に被覆接着する熱成形方法を対象としているが、このような貼り合わせ成形の場合のみならず、転写トリムレスによりシート最上層のキャリアフィルムを剥離させて加飾層のみ(本発明のシートに相当する)を成形基材に転写させる場合も含んでいる。
【0056】
さらに、本実施形態では、熱板3によって軟化させたシート4を成形基材6に被覆する熱成形方法を対象としているが、シート被覆に限らない。例えば、熱板3の加熱によって軟化したシート4を基台5を金型として賦形する金型賦形を対象とした熱成形品を成形することも可能である。この金型賦形の場合も、熱成形方法は、上述した実施形態と同様の方法により行うことができる。
【0057】
また、型枠2(基台5、枠架台23を含む)、熱板3の形状、大きさ、及びシートの切断手段などの構成は、適宜、設定することができる。
【0058】
さらに、シート4のトリミングの工程は、本実施形態のように成形時と同時でもよいし、成形後、別工程で行うようにしてもよい。
【0059】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 熱成形装置
2 型枠
2A チャンバー
3 熱板
3a 加熱面
4 シート
5 基台
6 成形基材
6A 熱成形品
6a 表面
7A 第1真空ポンプ
7B 第2真空ポンプ
20 底盤
21 側壁
21a 枠上縁部
22 型枠通気孔
32 熱板通気孔
71 第1接続管
72 第2接続管
73 第1切換弁
74 第2切換弁
75 連結管
76 第3切換弁
K1 上空間
K2 下空間