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特許7268860培養方法、培養装置、廃水処理方法及び廃水処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】培養方法、培養装置、廃水処理方法及び廃水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230426BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230426BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20230426BHJP
   C02F 3/00 20230101ALI20230426BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12M1/00 C
C12N1/20 D
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/00 G
B01D61/14 500
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019158659
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036781
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-01-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月4日発行日、化学工学会第50回秋季大会シンポジウム予稿集、講演番号Fc304
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月20日発表日、化学工学会第50回秋季大会シンポジウム、講演番号Fc304で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月15日発行日、日本水処理生物学会誌別巻第38号、33頁、47頁、日本水処理生物学会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月3日発表日、日本水処理生物学会第55回大会(郡山)、日本水処理生物学会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月15日発表日、第55回好塩微生物研究会講演会(川越)で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月15日発表日、第75回神奈川県支部CPD講座で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日平成31年1月7日、httpt://www.sciej-bio.org/newsletter/Newsletter_No.48pw.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月1日発行日、第53回日本水環境学会年会講演集233頁、671頁、公益社団法人日本水環境学会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月8日、9日発表日、第53回日本水環境学会年会(山梨)、発表番号Lー073、2ーEー14ー3
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月12日から15日発表日、東京ビッグサイト、2019NEW環境展で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年7月18日発表日、第8回排水処理技術セミナーで発表
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】井坂 和一
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-272287(JP,A)
【文献】特開2004-008923(JP,A)
【文献】特開2012-184470(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117243(WO,A1)
【文献】特開2006-272321(JP,A)
【文献】特開2012-196626(JP,A)
【文献】特開2012-237053(JP,A)
【文献】特開2007-125460(JP,A)
【文献】国際公開第2008/026309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
C12M 1/00
C02F 3/34
C02F 3/00
B01D 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地を用いて細胞を培養する細胞の培養方法であって、
前記細胞がアナモックス細菌であり、
前記培地中に含まれる金属元素のうち、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下であり、
前記Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を酸溶液として連続的、又は断続的に添加する培養方法。
【請求項2】
前記培地中に含まれる金属元素が、Fe、Cu、Zn、B、Co、Mn及びMoの中から選ばれる3種以上の金属元素を含む請求項1に記載の培養方法。
【請求項3】
前記細胞は、担体に固定化又は包括固定化されている、あるいは、膜分離により、前記培地中に維持されている請求項1又は2に記載の培養方法。
【請求項4】
前記培地は、金属元素を取り除いた水に、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を加えた培地である請求項1からのいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項5】
培地から金属元素を除去する金属元素除去部と、
前記金属元素除去部で前記金属元素が除去された培地に、前記培地中の、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下の範囲になるように、前記Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を酸溶液として連続的又は断続的に添加する金属元素添加部と、
前記金属元素添加部で、前記Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素が添加された培地を用いてアナモックス細菌を培養する培養部と、を備える培養装置。
【請求項6】
前記アナモックス細菌は、担体に固定化又は包括固定化されている、あるいは、膜分離により、前記培地中に維持されている請求項に記載の培養装置。
【請求項7】
金属元素を除去した水を使用した製造工程から排出された排水の廃水処理方法であって、
前記排水に、前記排水中のFe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下の範囲になるように、前記Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を酸溶液として連続的、又は断続的に添加する金属元素添加工程と、
アナモックス細菌を用いて前記排水の廃水処理を行う廃水処理工程と、を有する廃水処理方法。
【請求項8】
前記アナモックス細菌は、担体に固定化又は包括固定化されている、あるいは、膜分離により、前記排水中に維持されている請求項に記載の廃水処理方法。
【請求項9】
金属元素を除去した水を用いた製造設備から排出された排水の廃水処理装置であって、
前記排水に、前記排水中のFe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下の範囲になるように、前記Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を酸溶液として連続的に、又は断続的に添加する金属元素添加部と、
アナモックス細菌を用いて、前記金属元素添加部で前記Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素が添加された排水の廃水処理を行う廃水処理部と、を備える廃水処理装置。
【請求項10】
前記アナモックス細菌は、担体に固定化又は包括固定化されている、あるいは、膜分離により、前記排水中に維持されている請求項に記載の廃水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養方法、培養装置、廃水処理方法及び廃水処理装置に係り、特に、培地又は廃水中の金属元素濃度を特定した培養方法、培養装置、廃水処理方法及び廃水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する工場では、半導体表面に金属が残ると製品に悪影響を与えるため、金属元素を除去した水が用いられる。例えば、半導体のエッチング液として、金属元素を除去した水にフッ化アンモニウム(NHF)を主成分とする薬剤が使用されている。また、化学合成工場においても、金属元素を除去した水が用いられている。そのため、このような設備から排出される排水中には、廃水処理に用いられる細菌を維持するために必要な金属元素が含まれておらず、廃水処理を行う前に、金属元素を添加することが行われている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、純水を利用した洗浄工程により排水される窒素含有排水にホウ素を添加することが記載されている。また、下記の非特許文献1には、金属元素として、Mn、Mo、Co、Fe、Se、Ni、Cu、Zn及びBをEDTA錯体として添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-212635号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Van der Graaf et al., Microbiology 142:p.2187-2196 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
培地又は排水中に金属元素が不足する場合には、金属元素を添加することで、活性を向上させることができる。しかしながら、どの金属が培地又は排水中に含まれることで活性が向上するか、詳細な条件については検討されていなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、培地又は排水中に含まれる金属元素を制御することで、生物活性を向上させることができる培養方法、培養装置、廃水処理方法及び廃水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る培養方法は、培地を用いて細胞を培養する細胞の培養方法であって、培地中に含まれる金属元素のうち、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下である。
【0009】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る培養装置は、培地から金属元素を除去する金属元素除去部と、金属元素除去部で金属元素が除去された培地に、培地中の、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下の範囲になるように、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を添加する金属元素添加部と、金属元素添加部で、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素が添加された培地を用いて細胞を培養する培養部と、を備える。
【0010】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る廃水処理方法は、金属元素を除去した水を使用した製造工程から排出された排水の廃水処理方法であって、排水に、排水中のFe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下の範囲になるように、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を添加する金属元素添加工程と、細菌を用いて排水の廃水処理を行う廃水処理工程と、を有する。
【0011】
本発明の目的を達成するために、本発明に係る廃水処理装置は、金属元素を除去した水を用いた製造設備から排出された排水の廃水処理装置であって、排水に、排水中のFe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下の範囲になるように、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を添加する金属元素添加部と、細菌を用いて、金属元素添加部でFe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素が添加された排水の廃水処理を行う廃水処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の培養方法及び培養装置によれば、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下とすることで、細胞数を向上させることができる。また、本発明の廃水処理方法及び廃水処理装置によれば、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下である排水とすることで、廃水処理における生物活性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】培養装置を示す装置フローである。
図2】廃水処理装置を含む装置を示す装置フローである。
図3】実施例1及び実施例2で使用した装置を示す図である。
図4】実施例1の結果を示す図である。
図5】実施例2の結果を示す図である。
図6】実施例2の結果を示す図である。
図7】実施例3から実施例6で使用した処理装置を示す図である。
図8】実施例3の結果を示す図である。
図9】実施例4の結果を示す図である。
図10】実施例5の結果を示す図である。
図11】実施例6の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って、本発明に係る培養方法、培養装置、廃水処理方法及び廃水処理装置について説明する。なお、本明細書において、「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
[培養方法]
本実施形態の培養方法は、培地中に含まれる金属元素のうち、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の濃度が、0.005mg/L以上0.05mg/L以下である培養方法である。
【0016】
<培地の調整方法>
本実施形態の培養方法に用いられる培地の調整方法としては、Fe、Zn及びCoを選択的に吸着する吸着材等を用いて、所定の濃度範囲となるように処理することができる。
【0017】
また、すべての金属元素を取り除いた超純水を製造し、この超純水に必要な金属元素を添加することで所定の濃度とすることができる。このとき、添加する金属元素をFe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の元素の濃度が、0.005mg/L以上0.05mg/L以下となるように添加する。金属元素の濃度は、0.005mg/L以上0.02mg/L以下とすることがさらに好ましい。超純水を製造する方法としては、蒸留、イオン交換樹脂又は逆浸透膜などにより、金属元素を除去することで、製造することができる。製造される超純水としては、電気伝導率17MΩ・cm以上、電気抵抗率0.058μS/cm以下のものが好ましい。この方法で培地を製造することで、必要な金属元素の添加量を管理することができる。
【0018】
また、金属元素の中には、培地中から除去してしまうと細胞の増殖ができなくなるため、Fe、Cu、Zn、B、Co、Mn及びMoの中から選ばれる3種以上の金属元素を含むことが好ましい。なお、この3種以上の金属元素は、0.005mg/L以上0.05mg/L以下の濃度で添加したFe、Zn及びCoを含んで3種以上とする。その他、添加する金属元素としては、Al、Cr、Na、K、及びMgなどが挙げられる。添加する金属元素は、大量に添加するとコストかかり、また、活性を阻害する可能性がある。また、培地が排水である場合、廃水処理後の処理水を放流する先の環境汚染も懸念される。したがって、添加する金属元素の量としては、性能を維持することができる限度の量が必要であり、0.005mg/L以上とすることが好ましく、0.02mg/L以上とすることが好ましい。
【0019】
<培養方法及び培養期間>
培養は、金属元素を含む培地を培養槽に連続して供給する連続培養で行うことが好ましい。金属元素は、例えば、後述する培養装置、又は、廃水処理装置の金属元素添加部で培地中に供給することができる。金属元素の培地への添加は、酸溶液に金属を溶解させて添加することができる。酸溶液に含まれる酸としては、塩酸、硝酸、及び硫酸から選ばれる1種以上を用いることができる。酸溶液として添加する際のpHについては、特に限定されないが、6.0以下とすることが好ましく、4.0以下とすることがさらに好ましく、2.0以下とすることがより好ましい。また濃縮液中の金属濃度は、1000倍以上100000倍以下とすることが好ましく、2000倍以上50000倍以下とすることがより好ましく、3000倍以上30000倍以下とすることがより好ましい。なお、金属元素の添加は、金属元素が不足してもすぐに活性が下がるわけではないので、連続的に添加せず、断続的に添加してもよい。特に、Feについては、他の金属元素と比較し、活性の低下が緩やかであるため、Feのみ他の金属元素とは別に添加しても良い。
【0020】
また、金属元素はEDTA(エチレンジアミン四酢酸:ethylenediaminetetraacetic acid)溶液として、金属錯体として添加することもできる。ただし、EDTAは、微生物による分解性が良くないため、環境面の観点から酸溶液で添加することが好ましい。
【0021】
培養期間については、特に限定されないが、1週間以上、より好ましくは1か月以上である。細胞が分裂するまでの時間によって、効果が生じるまでの時間は異なる。すなわち、細胞内に維持されている金属元素は、分裂する細胞に受け継がれるため、分裂する時間が速い細胞であれば、金属元素の要求量も多くなり、早く効果が表れる。一方、寿命の長い細胞では、一旦取り込んでしまうと、細胞内で維持されるため、効果が生じるのに時間を要する。したがって、寿命の長い細胞に対しては、長い期間培養することで、高い効果を得ることができる。なお、回分培養で培養してもよく、短期的な培養を行ってもよい。
【0022】
<細胞>
本実施形態の培養方法で培養される細胞としては、主に、微生物細胞であるが、動物細胞にも適用することができる。特に、培地として窒素排水を用いる場合は、硝化細菌又はアナモックス細菌とすることができる。
【0023】
細菌は担体に固定化された状態で培養槽(培養部)に保持されていることが好ましい。細菌を固定化する方法としては、担体表面に付着固定化させ固定化担体とする方法、及び、担体内に細菌を包摂させて固定化し包括固定化担体とする方法がある。包括固定化担体とすることで、担体の内部に細胞を維持することができるので、長期の培養を行っても細胞(細菌)が流出することを防止することができる。
【0024】
担体としては、例えば、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ポリエチレングリコール、アクリルアミド等のゲル担体や、セルロース、ポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリウレタン等のプラスチック担体や、活性炭、珪藻土、ゼオライト等の無機担体等が挙げられる。担体の形態は、例えば、球、円筒、円柱、立方体、直方体等の適宜の形状に成形した浮遊担体を用いる流動床、スポンジ状、不織布状、中空糸状等とした担体濾材をハニカム状、波形状、格子状、繊維状、菊花状等に配列した固定床のいずれでもよい。流動床については、浮遊担体の大きさは、1mm以上10mm以下の範囲が好ましく、その充填率は、培養槽容量に対して10体積%以上40体積%以下の範囲が好ましい。一方、固定床については、その充填率は、培養槽容量に対して見かけ上の占有容積で10体積%以上50体積%以下の範囲が好ましく、その空隙率は、80%以上であることが好ましい。
【0025】
また、細胞を担体に固定化しない場合は、培養した細胞を分離する方法として、MBR(Membrane Bio Reactor)リアクターによる膜分離が挙げられる。これにより、培養した細胞が培養槽から流出することも防止することができる。膜の素材としては、PVDF(polyvinylidene difluoride)、PVC(polyvinyl chloride)、PE(polyethylene)等を用いることができるが、特に限定されない。膜の孔径は、分離する細胞のサイズに合わせて適切に選択することが好ましい。
【0026】
<培養装置>
図1は、本実施形態の培養装置を示す装置フローである。培養装置は、金属元素除去部14、金属元素添加部16及び培養部18を備える。培地供給配管12から供給された培地は、金属元素除去部14及び金属元素添加部16で処理され、培養部18に供給される。培養部18で、培養部18内に投入された細胞が培養される。培養部18で使用された培地は培地排出配管20から排出される。
【0027】
金属元素除去部14は、培地供給配管12から供給された培地から金属元素を除去する。金属元素除去部14としては、蒸留装置、イオン交換樹脂、逆浸透膜などを挙げることができる。
【0028】
金属元素添加部16は、Fe、Zn、及びCoの少なくとも1つ以上の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下となるように金属元素を添加する。金属元素の濃度は、0.005mg/L以上0.02mg/L以下とすることがさらに好ましい。また、その他の金属元素として、Cu、B、Mn、Mo、Al、Cr、Na、K、及びMgなどを添加することができる。金属元素の添加に用いられる装置は特に限定されない。
【0029】
培養部18は、金属元素添加部16で、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下とされた培地を用いで細胞の培養を行う。培養部18としては培養槽を挙げることができる。培養部18は、pHコントローラー及び温度調節手段を備え、培養部18内のpH及び温度が培養に最適な条件に適宜調節される。培養部18へは、金属元素添加部16で、金属元素が添加された培地が連続的に供給され、細胞の培養が行われる。培養部18内に投入される細胞としては、細胞をそのまま投入してもよく、細胞を担体に固定化した固定化担体又は包括固定化担体としてもよい。
【0030】
<廃水処理方法及び廃水処理装置>
上述した培養方法及び培養装置は、廃水処理方法及び廃水処理装置に適用することができる。図2は、本実施形態の廃水処理装置を含む装置を示す装置フローである。図2に示す装置は、金属元素除去部44、製造設備46、金属元素添加部48及び廃水処理部50を備える。なお、本実施形態の廃水処理装置は、金属元素添加部48及び廃水処理部50に相当する。
【0031】
金属元素除去部44は、原水配管42から供給された原水から金属元素を除去する。金属元素除去部44としては、蒸留装置、イオン交換樹脂、逆浸透膜などを挙げることができる。
【0032】
金属元素除去部44で金属元素が除去された水は、製造設備46に送られ、製造に用いられる(製造工程)。製造設備46は、金属元素が除去された水を用いる設備であり、例えば、半導体のエッチング処理を行う設備を挙げることができる。エッチング液には、フッ化アンモニウムを主成分とする薬剤が使用されており、エッチング処理を行う設備からは排水として、窒素排水が排出される。
【0033】
金属元素添加部48は、窒素排水中に、窒素排水中のFe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下の範囲になるように、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素を添加する(金属元素添加工程)。金属元素の濃度は、0.005mg/L以上0.02mg/L以下とすることがさらに好ましい。また、その他の金属元素として、Cu、B、Mn、Mo、Al、Cr、Na、K、及びMgなどを添加することができる。金属元素の添加に用いられる装置は特に限定されない。
【0034】
廃水処理部50は、金属元素添加部48で、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ
以上の金属元素の濃度が0.005mg/L以上0.05mg/L以下の範囲になるように、Fe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素が添加された排水を、細菌を用いて廃水処理を行う(廃水処理工程)。廃水処理部50としては、硝化槽及び脱窒槽を挙げることができる。廃水処理部50は、pHコントローラー及び温度調節手段を備え、廃水処理部50内のpH及び温度が廃水処理に最適な条件に適宜調節される。廃水処理部50へは、金属元素添加部48で、金属元素が添加された排水が連続的に供給され、廃水処理が行われる。廃水処理部50内に投入される細菌としては、細菌をそのまま投入してもよく、細菌を担体に固定化した固定化担体又は包括固定化担体としてもよい。また、細菌としては、排水が窒素排水である場合は、硝化細菌又はアナモックス細菌を用いることができる。細菌は、処理する廃水に含まれる成分に応じて適宜選択することができる。廃水処理部50で処理された処理水は、処理水排出配管52から排出される。
【0035】
本実施形態の廃水処理方法及び廃水処理装置によれば、排水中に含まれるFe、Zn及びCoの少なくとも1つ以上の金属元素の濃度を0.005mg/L以上0.05mg/L以下とすることができるので、細菌の生物活性を向上させることができ、廃水処理能力を向上させることができる。また、金属元素を除去した水を用いた製造設備からの排水に使用するため、排水に対して金属元素の濃度調製を容易に行うことができる。
【0036】
また、本実施形態の培養方法、培養装置、廃水処理方法及び廃水処理装置は、アナモックス反応の前処理工程となる、半量を亜硝酸に酸化する部分亜硝酸型硝化工程において好適に用いることができる。アナモックス反応を用いた窒素排水処理では、硝化工程での活性維持が極めて重要である。アナモックス反応は、アンモニアと亜硝酸を、窒素ガスへと変換する反応である。排水中には、通常、アンモニアしかはいっていないので、アンモニアの半量を亜硝酸に酸化する工程が必要である。
【0037】
後述する実施例で示す通り、処理水のアンモニアと亜硝酸がほぼ等量に含まれており、半量硝化ができていることがわかる。この性能を維持するためには、金属元素の添加が必須である。アナモックス反応では、アンモニアと亜硝酸の比率がずれ、どちらかが多くなりすぎると、処理水に残留して、性能が悪化することから、アナモックス反応の前処理工程となる、半量を亜硝酸に酸化する部分亜硝酸型硝化工程では、特に、硝化性能の維持が重要である。
【実施例
【0038】
以下に実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。
【0039】
(実施例1)<Zn制限試験>
図3に使用した実験装置100の図を示す。容積を1.44Lとした円筒型の反応槽110を用いて実験を行った。空気を供給できるようにガラス製の空気供給管102を取り付け、空気を、流量計104を用いて調整後、反応槽110に供給し、曝気させ,反応槽110内の担体106の流動と酸素供給を行った。曝気量は流量計104を用いて調整を行なった。また,原水は原水貯留槽108からポンプ(ペリスタポンプ)112を用いて、原水供給管114を通り供給した。反応槽110内のpH調整は、pHセンサー116により反応槽110内のpHを測定し、pHコントローラー118を用いてポンプ120を制御し、アルカリ溶液貯留槽122内の1N NaOH溶液の供給量を制御した。1N NaOH溶液は、アルカリ溶液供給管124を通り、反応槽110内に供給され、pH7.5となるように調整した。
【0040】
反応槽110内の水温は30℃、DO(Dissolved oxygen:溶存酸素)は4.0mg/L又は4.3mg/L、HRT(Hydraulic retention time:水理学的滞留時間)は6.9時間又は12時間、担体充填率は、13%又は7.4%とした。
【0041】
≪基本排水≫
実験は、まず立上げ運転を行った。すなわち、金属元素制限を行わないで立上げ(培養)し、処理水中のアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素がほぼ等量となり、定常状態になった後から、制限試験を行った。
【0042】
基本排水(基本培地)を以下に示す。原水(供試排水)としては、超純水(FP0120α-M00(オルガノ(株)製)を用いて製造)に表1に示すアンモニア合成排水を調整し、その後、表2に示す金属元素を、表2に示す濃度となるように添加した。なお、表2に示す値は、Van der Graaf et al., Microbiology 142:p.2187-2196 (1996)に記載された値である。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
≪供試担体≫
硝化菌を含む活性汚泥をポリエチレングリコール(PEG)系のゲルで包括固定化し、約4mmの球体に整形した。
【0046】
担体の作成には,表3に示す混合液[1](アルギン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール(PEG)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMED)、純水、活性汚泥)を、表4に示す混合液[2](CaCl・2HO、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS))に滴下し、アルギン酸で被膜を作ることにより、球形に整形し、その後PEGを重合させることで硝化菌を包括固定化した。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
処理水中のアンモニアと、亜硝酸の経過日変化の結果を図4に示す。43日目までは、表2に示す金属元素濃度となるように調整した基本排水を供給し処理を行い、43日目にZnの濃度を0mg/L、63日目にZnの濃度を0.005mg/L、70日目にZnの濃度を0.02mg/L、82日目にZnの濃度を0.1mg/Lに変更し、Znの添加量を制御した。
【0050】
図4に示すように、Znの添加を制限(0mg/L)すると、3週間で硝化性能が低下した。Znの添加量を0.005mg/Lとすることで、硝化性能の低下は抑えられ、硝化性能を維持することができた。さらに、Znの添加量を0.02mg/Lとすることで、活性が回復し、基本排水(Znの添加量が0.098mg/L)と同程度まで活性が回復した。Znの添加量を0.1mg/Lまで添加したが、Znの添加量が0.02mg/Lの時から活性の上昇は見られなかった。これらのことからZnは廃水処理に必須の微量元素であり、Znの添加量は、0.005mg/L以上とすることで、生物活性の低下を抑制し、生物活性を維持できることが確認できる。また、0.02mg/L以上とすることで、生物活性を回復することができる。Znの添加量は0.1mg/Lとしても、生物活性に変化は見られないため、添加する金属元素のコストを考慮すると上限は、0.05mg/L以下とすることが好ましい。
【0051】
(実施例2)<Fe制限試験>
実施例1の金属元素添加条件を変更して、同様に試験を行った。立ち上げ運転は、実施例1の基本排水を用いて行い、定常状態になった後、Feの濃度を0mg/Lとし、183日目にFeの濃度を0.005mg/Lとした。
【0052】
処理水中のアンモニアと、亜硝酸の経過日変化の結果を図5に、硝化速度の経過日変化の結果を図6に示す。Feを添加することで、亜硝酸性窒素濃度が上昇しており(図5)、また、硝化速度も上昇している(図6)ことから、亜硝酸型硝化プロセスの安定化には、Feを0.005mg/L以上添加する必要があることが確認できる。
【0053】
(実施例3)<Zn制限試験>
アナモックス細菌による窒素排水処理試験を実施した。図7に使用した実験装置200を示す。反応槽202の反応溶液は500mLであり、アナモックス担体204を100mL充填した(充填率:20%)。アナモックス担体は、アナモックス汚泥をポリエチレングリコール系のゲルで包括固定化し、3mm角の立方体に成形した担体を用いた。反応槽202は、ウォータージャケット206で水温35℃となるように調整した。反応槽202内のpHは、pHセンサー218により測定され、pHコントローラー(不図示)によりポンプ(不図示)を制御し、0.2N塩酸溶液を用いて、pH7.6に調整した。反応槽202は、原水(排水)を供給する原水供給管208、処理された処理水を排出する排出管210、0.2N塩酸溶液を供給する酸性溶液供給管212、及び、Nガスを供給するガス供給管214を備える。また、反応槽202内の処理水及びアナモックス担体204を撹拌させるための撹拌器216を備える。
【0054】
≪基本排水≫
基本排水(基本培地)を以下に示す。原水(供試排水)としては、超純水に、硫酸アンモニウム及び亜硝酸ナトリウムを窒素源とし、表5に示すアンモニア合成排水を調整し、その後、表6に示す金属元素を表6中の添加濃度となるように排水に添加した。
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
結果を図8に示す。35日目にZn添加濃度を0mg/Lとすると、処理水のアンモニアと亜硝酸が上昇し、活性が低下することが確認された。その後、Znを0.005mg/L添加すると、活性低下が抑制された。そして、Zn添加量を0.02mg/Lとすると活性が回復する傾向が確認された。さらに、Zn添加量を0.04mg/Lに増加させたが、活性は、Zn添加量が0.02mg/Lの場合と変化はなかった。これらのことからZnの添加量は、0.005mg/L以上とすることで、生物活性の低下を抑制し、生物活性を維持できることが確認できる。また、0.02mg/L以上とすることで、生物活性を回復することができ、0.04mg/Lにおいても、生物活性に変化は見られないため、添加する金属元素のコストを考慮すると上限は、0.05mg/L以下とすることが好ましい。
【0058】
(実施例4)<Fe制限試験>
実施例3の金属元素添加条件を変更して、同様に試験を行った。Feの影響を確認するため、表7に示す金属元素濃縮液に切り替え、Feの添加濃度を制御することで、Feを制限した。
【0059】
【表7】
【0060】
結果を図9に示す。108日後にFe添加濃度を0.005mg/Lとしても、処理水のアンモニアと亜硝酸に変化は見られず、活性は変わらなかった。その後、118日後にFe添加量を0.020mg/Lとすると活性が向上した。なお、図9の60日付近のピークは、酸素が混入したことによる操作上のミスによるものである。
【0061】
(実施例5)<Co制限試験>
実施例3の金属元素添加条件を変更して、同様に試験を行った。Coの影響を確認するため、表8に示す金属元素濃縮液に切り替え、Coの添加濃度を制御することで、Coを制限した。
【0062】
【表8】
【0063】
結果を図10に示す。図10中のNLRは窒素容積負荷(N-Loading Rate)を表し、NCRは窒素転換率(N-Conversion Rate)を表す。Coの添加濃度が0mg/Lの場合、NCRが低下することが確認された。35日後にCoの添加濃度を0.005mg/Lとしたところ、NCRの低下を抑え、一定に維持することができた。さらに、45日後にCo添加濃度を0.02mg/Lとすると、NCRが上昇し、活性を向上させることができた。79日後にCo添加濃度を0.059mg/Lまで上昇させたが、NCRは、Co添加濃度を0.02mg/Lとした場合と差は見られなかった。
【0064】
これらのことから、Coの添加量は、0.005mg/L以上とすることで、生物活性の低下を抑制し、生物活性を維持できることが確認できる。また、0.02mg/L以上とすることで、生物活性を回復することができ、0.059mg/Lにおいても、生物活性に変化は見られないため、添加する金属元素のコストを考慮すると上限は、0.05mg/L以下とすることが好ましい。
【0065】
(実施例6)<酸性溶液による添加>
金属元素を添加する溶液について検討を行った。添加する金属元素濃縮液の組成を表9に示す。また、結果を図11に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
図11に示すように、廃水処理を開始してから39日までは、従来の方法である、EDTA溶液により金属元素の添加を行った。39日後から金属元素の添加を塩酸溶液に変更して行った。塩酸溶液に変更した後においても、NCRの変化は見られなかった。したがって、金属元素を塩酸溶液で添加しても、EDTA溶液で添加しても効果に差は見られなかった。ただし、EDTA溶液から塩酸溶液に変更することで、金属元素濃縮溶液のコストを減らすことができる。また、EDTA溶液を用いた場合、金属錯体を形成するが金属錯体は、分解性が良くないため、塩酸溶液とすることで、環境面においても有効である。
【符号の説明】
【0068】
12…培地供給配管、14…金属元素除去部、16…金属元素添加部、18…培養部、20…培地排出配管、42…原水配管、44…金属元素除去部、46…製造設備、50…廃水処理部、52…処理水排出配管、100…実験装置、102…空気供給管、104…流量計、106…担体、108…原水貯留槽、110…反応槽、112…ポンプ、114…原水供給管、116…pHセンサー、118…pHコントローラー、120…ポンプ、122…アルカリ溶液貯留槽、124…アルカリ溶液供給管、200…実験装置、202…反応槽、204…アナモックス担体、206…ウォータージャケット、208…原水供給管、210…排出管、212…酸性溶液供給管、214…ガス供給管、216…撹拌器、218…pHセンサー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11