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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】切削用ビット及びその製法
(51)【国際特許分類】
   E21B 10/46 20060101AFI20230426BHJP
【FI】
E21B10/46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022072813
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2018100338の分割
【原出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2022090145
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591046858
【氏名又は名称】アロイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】下井谷 良信
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-069227(JP,A)
【文献】特開平11-123617(JP,A)
【文献】米国特許第05791422(US,A)
【文献】特開平06-212874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 10/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にチップを備えるビット本体の表面に超硬粒子を有する肉盛部が形成された切削用ビットの製造方法であって、
前記超硬粒子が球形状であるとともに、
溶接により溶解した肉盛材の流れの中に前記超硬粒子を落とし込んで沈降させて、前記肉盛部の中に前記超硬粒子が互いの間の隙間を小さくするように並んだ状態にする
切削用ビットの製造方法。
【請求項2】
前記肉盛部の表面に前記超硬粒子の存在による凹凸を現出させる
請求項1に記載の切削用ビットの製造方法。
【請求項3】
前記超硬粒子として粒径がφ0.5mm~φ2mmの範囲にあるものを使用する
請求項1または請求項2に記載の切削用ビットの製造方法
【請求項4】
先端にチップを備えるビット本体の表面に超硬粒子を有する肉盛部が形成された切削用ビットであって、
前記超硬粒子が粉末冶金によって球形状に成形されたものであり、
前記肉盛部の内部で前記超硬粒子が並んだ状態であるとともに、
前記肉盛部の表面に前記超硬粒子の存在による凹凸が形成された
切削用ビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、岩盤や岩石、コンクリート等の切削や掘削に用いられる切削用ビットに関する。
【背景技術】
【0002】
切削用ビットは、掘削装置などの建設機械のホルダに回転可能に取り付けて使用されるものであって、鋼鉄製のビット本体の先端に超硬合金製のチップが固定されている。
【0003】
チップは硬度が高いので摩耗しにくいが、ビット本体はチップに比べて摩耗しやすい。このため、切削や掘削の作業に伴ってビット本体のチップを保持している部分が摩耗するとチップが脱落してしまうことになる。チップが脱落する前に切削用ビットを新しいものに交換する必要があるが、交換作業には手間がかかる。しかも、交換作業は現場、例えばトンネル内などで容易にできるものではない。
【0004】
そこで、切削用ビットの耐久性を高めることが考えられている。そのための手段として、摩耗を抑制したい部分に肉盛部を形成することが行われている(下記特許文献1)。
【0005】
肉盛部は、超硬合金からなる超硬粒子を溶接によってビット本体の表面に被覆形成される。使用される超硬粒子は、超硬合金を粉砕して得られ、その超硬合金には廃品が用いられている。
【0006】
粉砕して得られる超硬粒子は、割って作られるので、切削用ビットに形成された従来の肉盛部の写真(図6参照)に示したように、角のある粒状である。
【0007】
このため、肉盛部の内部に存在する超硬粒子は不均一でばらばらであって、超硬粒子同士の間の隙間は大きく、しかも多い。この結果、超硬粒子の周囲は摩耗しやすい。そのうえ超硬粒子の角が突き出ているので、超硬粒子の周囲の摩耗に伴って超硬粒子が容易に脱落することになる。
【0008】
また、ビット本体がチップに比べて摩耗しやすいためか、これまでの切削用ビットは、下記特許文献2に開示されているように、チップ101を保持する部分102が比較的太く形成されていた。図7に示したように、チップを保持する部分102の直径d1はチップ101の直径d2に比べて2倍以上であり、またチップ101を保持する部分102の直径d1は鍔部103の直径d3の70%ほどに設定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実開平6-8498号公報
【文献】特開平9-209678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、耐久性を高めることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのための手段は、先端にチップを備えるビット本体の表面に超硬粒子を有する肉盛部が形成された切削用ビットの製造方法であって、前記超硬粒子が球形状であるとともに、溶接により溶解した肉盛材の流れの中に前記超硬粒子を落とし込んで沈降させて、前記肉盛部の中に前記超硬粒子が互いの間の隙間を小さくするように並んだ状態にする切削用ビットの製造方法である。
【0012】
この構成では、肉盛部を形成する際に溶接しながら埋め込まれる超硬粒子が球形状であるので、肉盛部の超硬粒子は比較的整然と並ぶ。このため、肉盛部の内部には、より多くの超硬粒子が高い一体性をもって存在するとともに、肉盛部は超硬粒子の角が突き出ない態様のものとなる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、超硬粒子の付着量が十分で高い一体性を有するとともに、超硬粒子の角が突き出ない肉盛部を得られるので、その肉盛部は、超硬粒子が脱落しにくく、補強の機能を十分に果たすものとなる。この結果、切削用ビットの耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】切削用ビットの片側断面図。
図2】切削用ビットの平面図。
図3】ビット本体の大きさを示す説明図。
図4】他の例に係るビット本体の大きさを示す説明図。
図5】肉盛部を示す写真。
図6】従来の肉盛部を示す写真。
図7】従来のビット本体の大きさを示す片側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0016】
図1に、切削用ビット11の片側断面図を、図2に切削用ビット11を先端側から見た平面図を示す。これらの図に示すように、切削用ビット11は、ビット本体13の先端にチップ15を備えた構造である。
【0017】
ビット本体13は鋼鉄製であって、掘削装置等のホルダ(図示せず)に回転可能に保持される円柱状の装着軸部31を有し、この装着軸部31より先に、鍔部32と、本体軸部33と、先端軸部34を先方に向けて順に有している。鍔部32は、使用時にホルダの先端面を覆う部分であって、装着軸部31よりも大径の円板状である。本体軸部33は鍔部32よりも小径の円柱状であり、鍔部32の先側の面32aは偏平な円錐状に形成され、正面視で円弧を描いている。先端軸部34は円錐台形状であり、本体軸部33の先端から先細りとなるテーパ面34aを外周面の全体に有している。先端軸部34の先端面34bには、チップ15の一部を埋設する丸穴状の凹所35が形成されている。凹所35の直径は、先端軸部34の直径よりも小さい。凹所35の深さは適宜設定されるが、先端軸部34に形成した凹所35にチップ15が保持されるので、本体軸部33がチップ15を支え保持する基部として機能する。
【0018】
チップ15は超硬合金からなり、ビット本体13の凹所35に埋設される円柱状の保持部51と、凹所35に固定した際にビット本体13の先端面34bから突出する略円錐状の先端部52を有している。チップ15は、ろう付けによってビット本体13に結合一体化される。
【0019】
このような構成を基本とする切削用ビット11は、切削や掘削作業時に切削用ビット11にかかる負荷を低減するための工夫がビット本体13になされている。また、ビット本体13の表面には、ビット本体13を補強するための肉盛部37,38が形成されている。
【0020】
まず、ビット本体13の形状について説明する。
【0021】
図3に示したように本体軸部33の太さは、従来よりも細く形成されている。
【0022】
具体的には、本体軸部33の太さ(直径D1)を、鍔部32の直径D3の0.5~0.6倍にするとともに、チップ15の直径D2の2倍以下としている。
【0023】
鍔部32の直径D3はホルダの大きさによって決まるが、この鍔部32の直径D3が例えばφ70mmであり、チップ15の直径D2がφ23mmである場合、本体軸部33の直径D1はφ39mmにするとよい。また図4に示したように、鍔部32の直径D3が例えばφ110mmであり、チップ15の直径D2がφ30mmである場合、本体軸部33の直径D1はφ60mmにするとよい。
【0024】
つぎに肉盛部37,38について説明する。
【0025】
肉盛部37,38は、ビット本体13の表面を補強するものであって、多数の超硬粒子39を有している。肉盛部37,38の形成は、超硬粒子39を溶接しながら付着させて、ビット本体13の表面に適宜厚の被覆層を形成するように行われる。具体的には、溶接により溶解した鉄の中に超硬粒子39を落とし込んで沈降させる。溶解した鉄の流れに入った超硬粒子39は、互いの間の隙間を小さくして密に並ぶ。
【0026】
この肉盛部37,38の形成に用いられる超硬粒子39は、図1に示したように球形状である。球形状とは、完全な球のみをいうのではなく、尖った角のない球のような形状をいい、見た目に球、又はそれに近い形状であれば足りる。この超硬粒子39は、廃品の超硬合金を粉砕して得るのではなく、粉末冶金によって球形状に成形したものを使用する。
【0027】
超硬粒子39の大きさは、肉盛部37,38の厚さにもよるが、小さい方が好ましい。数mmを超える大きさになると、超硬粒子39同士の間の隙間が大きくなって肉盛部37,38の一体性が低くなるおそれが考えられる。しかし、小さすぎると肉盛部37,38を形成する際の作業性が悪くなるおそれがある。このため、超硬粒子39の粒径は、たとえばφ0.5mm~φ2mm程度あるとよく、より好ましくは、φ0.5mm~φ1.5mm程度であるとよい。使用する超硬粒子39の大きさは、統一されていても、バラツキがあってもよい。
【0028】
超硬粒子39の大きさが前述の範囲の大きさである場合、肉盛部37,38の厚さはたとえば3mm前後であるとよい。
【0029】
肉盛部37,38の形成位置は、先端軸部34の外周面、つまりテーパ面34aと、鍔部32における先側の面32aの外周部である。図2に示したように、2箇所の肉盛部37,38は、同心の円を描いて形成されることになる。
【0030】
先端軸部34のテーパ面34aの肉盛部37は、テーパ面34aの全体に形成してもよい。また、肉盛部37の下端部37aが本体軸部33の先端部の垂直な面にまで延設されている。
【0031】
図5に、鍔部32に形成した肉盛部38の一部を拡大した写真を示す。この写真に示したように、肉盛部38に見られる超硬粒子39は角がない球形状であって、肉盛部38は全体として緻密な外観を呈している。
【0032】
以上のように構成された切削用ビット11では、本体軸部33が従来のものよりも細く、鍔部32の直径の0.5倍~0.6倍に設定されているので、作業時に切削用ビット11にかかる負担が軽減され、摩耗が低減される。このため、切削用ビット11の耐久性を高めることができる。
【0033】
また本体軸部33の太さはチップ15の直径の2倍以下であるので、本体軸部33の強度を維持しながらも太さを抑えることができる。
【0034】
そのうえ、チップ15を保持している先端軸部34のテーパ面34aには、肉盛部37が形成されているので、テーパ面34aを補強して先端軸部34の摩耗を低減できる。この点からも、切削用ビット11の耐久性を高められる。本体軸部33を従来よりも細くしたため、そのぶんテーパ面34aの角度は急になるが、テーパ面34aの肉盛部37は、その下端部37aを本体軸部33の先端部まで延設しているので、肉盛部37の強度を高められる。
【0035】
また前述のように本体軸部33が細いぶん、鍔部32の先側の面32aに摩擦力が作用することになるが、鍔部32の肉盛部38が鍔部32の摩耗を抑制するとともに、ホルダを保護する。ホルダの交換は高価であるので、この切削用ビット11は、ホルダの耐久性を高めるという点からも有益である。
【0036】
しかも、ビット本体13の表面を補強する肉盛部37,38は、球形状の超硬粒子39で構成されており、多くの超硬粒子39が密に並び緻密であって、尖った角のない状態となるので、球形状でない角のある超硬粒子からなる従来の肉盛部に比べて強度が高い。このため、耐久性を極めて良好にすることができる。
【0037】
このように、ビット本体13の形状と肉盛部37,38の構成とがあいまって、これまでにない良好な耐久性を得ることができる。
【0038】
以上の構成はこの発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の構成を採用することができる。
【0039】
たとえば、ビット本体の形状は前述のような鍔部を有するものでなくともよく、その場合には、肉盛部を形成する部位も、摩擦を低減したい部位に適宜設定される。
【符号の説明】
【0040】
11…切削用ビット
13…ビット本体
15…チップ
31…装着軸部
32…鍔部
32a…先側の面
33…本体軸部
34…先端軸部
34a…テーパ面
35…凹所
37,38…肉盛部
37a…下端部
39…超硬粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7