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特許7268947極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/22 20060101AFI20230426BHJP
【FI】
H01P1/22
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020544039
(86)(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 EP2019053738
(87)【国際公開番号】W WO2019174850
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】15/922,105
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァデーセ、サルヴァトーレ、ベルナルド
(72)【発明者】
【氏名】グマン、パトリク
(72)【発明者】
【氏名】ガンベッタ、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、ジェリー
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-018815(JP,U)
【文献】米国特許第04267531(US,A)
【文献】特開2016-051871(JP,A)
【文献】特開平11-074705(JP,A)
【文献】米国特許第04965538(US,A)
【文献】実開昭62-042302(JP,U)
【文献】特開2012-131705(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105789798(CN,A)
【文献】Jen-Hao Yeh, Jay LeFebvre, Shavindra Premaratne, F. C. Wellstood, B. S. Palmer,Microwave attenuators for use with quantum devices below 100 mK,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,AIP Publishing,2017年06月08日,Vol.121,p.224501-1~224501-8,http://dx.doi.org/10.1063/1.4984894,検索日:2022-07-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器であって、
第1の高熱伝導率基板と、
第2の高熱伝導率基板と、
前記第1の高熱伝導率基板と前記第2の高熱伝導率基板との間1つまたは複数の減衰器線路を含む信号導体であって、前記第1の高熱伝導率基板を前記信号導体の一方の側に押し付け、前記第2の高熱伝導率基板を前記信号導体のもう一方の側に押し付ける圧縮構成要素によって圧縮される、前記信号導体と、
を含み、前記圧縮構成要素が、前記信号導体の前記第1および第2の高熱伝導率基板への熱伝導率を助長し、前記第1および第2の高熱伝統率基板と前記信号導体との間の熱境界抵抗を減少させて、熱雑音を減少させる、前記極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器
を備える、デバイス。
【請求項2】
前記圧縮構成要素が少なくとも1つのビア、少なくとも1つのねじ、または少なくとも1つのクランプ構成要素、あるいはその組み合わせを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第1の高熱伝導率基板、または前記第2の高熱伝導率基板、あるいはその両方がサファイア基板を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記サファイア基板が0.5~1.0ミリメートルの厚さを有する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記第1の高熱伝導率基板が、少なくとも150ワット/メートル・ケルビンの熱伝導率を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記信号導体が、実質的に十字形を形成する減衰器線路および抵抗器を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を構築する方法であって、
第1の高熱伝導率基板と第2の高熱伝導率基板との間に減衰器線路を埋め込むことと、
圧縮構成要素を使用して、前記第1の高熱伝導率基板を前記減衰器線路の一方の側に押し付けること、および前記第2の高熱伝導率基板を前記減衰器線路のもう一方の側に押し付けることを含み、それによって、前記減衰器線路の前記第1および第2の高熱伝導率基板への熱伝導率を助長し、前記第1および第2の高熱伝導率基板と前記減衰器線路との間の熱境界抵抗を減少させて、熱雑音を減少させるように、前記基板を前記減衰器線路に押し込むことと、
を含む、方法。
【請求項8】
量子コンピューティング・デバイスの極低温希釈冷凍機内に前記極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を配置することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器であって、
減衰器を含む信号導体であって、実質的に平坦な第1の側、および前記第1の側の反対側の実質的に平坦な第2の側を有する、前記信号導体と、
圧縮構成要素によって前記信号導体の前記第1の側に押し付けられる第1の高熱伝導率基板と、
前記圧縮構成要素によって前記信号導体の前記第2の側に押し付けられる第2の高熱伝導率基板と、
を含み、
前記信号導体の前記第1および第2の側は、それぞれ、前記第1および前記第2の高熱伝導率基板に、前記信号導体の前記第1および第2の高熱伝導率基板への熱伝導率を助長し、前記第1および第2の高熱伝統率基板と前記信号導体との間の熱境界抵抗を減少させて、熱雑音を減少させるように押し付けられる、前記極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器
を備える、デバイス。
【請求項10】
前記第1の高熱伝導率基板が第1のサファイア基板を含み、前記第2の高熱伝導率基板が第2のサファイア基板を含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記第1の高熱伝導率基板が、少なくとも120ワット/メートル・ケルビンの熱伝導率を有する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項12】
第1および第2の高熱伝統率基板の間に減衰器を含む信号導体を備える極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器であって、
圧縮構成要素によって、前記信号導体の前記第1および第2の高熱伝統率基板への熱伝導率を助長し、前記第1および第2の高熱伝導率基板と前記信号導体との間の熱境界抵抗を減少させて、熱雑音を減少させるように、前記信号導体の第1の側が第1の高熱伝導率基板に押し付けられるとともに、第2の側が前記圧縮構成要素によって第2の高熱伝導率基板に押し付けられており、希釈冷凍機内で、前記信号導体が入力信号を受け取ってこれを減衰させ、減衰した信号をその出力とする、極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にマイクロ波減衰器に関し、より詳細には、量子コンピューティング用の極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波減衰器は、広範囲の周波数にわたって比較的安定した電力レベルを有するマイクロ波信号を提供するために使用される。室温マイクロ波減衰器は、広く入手可能であるが、そのようなデバイスは、熱的観点から効率的ではない。他の市販のマイクロ波減衰器は、熱化のために、または熱雑音を低減させるように設計されておらず、低温での良好な熱性能およびマイクロ波性能の両方を有していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Zagorodny et al., ”Microwave microstrip attenuators for GaAs monolithic integratedcircuits,” International Conference and Seminar on Micro/Nanotechnologies andElectron Devices Edm (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、マイクロ波減衰器デバイスの分野での上記課題に対処するためのデバイスおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下は、本発明の1つまたは複数の実施形態の基本的な理解を提供するための概要を提示する。本概要は、主要なまたは重要な要素を特定すること、あるいは特定の実施形態の任意の範囲または特許請求の範囲の任意の範囲を明確化することを意図したものではない。その唯一の目的は、後で提示されるより詳細な説明の前置きとして、概念を簡略化した形態で提示することである。
【0006】
一実施形態によると、デバイスは、第1の高熱伝導率基板および第2の高熱伝導率基板を含む極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を備えることができる。本デバイスは、第1の高熱伝導率基板と第2の高熱伝導率基板との間に1つまたは複数の減衰器線路を含む信号導体であって、第1の高熱伝導率基板を信号導体の一方の側(side)に押し付け、第2の高熱伝導率基板を信号導体のもう一方の側に押し付ける圧縮構成要素によって圧縮される、前記信号導体をさらに備えることができる。
【0007】
第1の高熱伝導率基板および第2の高熱伝導率基板は、第1のサファイア基板および第2のサファイア基板をそれぞれ含むことができる。圧縮構成要素は、少なくとも1つのビア、少なくとも1つのねじ、または少なくとも1つのクランプ構成要素、あるいはその組合せを含むことができる。圧縮構成要素は、基板と信号導体との間の熱伝導率を助長する。圧縮構成要素は、基板と信号導体との間の熱境界抵抗を減少させて、熱伝導率を増加させる。
【0008】
別の実施形態によると、デバイスは、第1のサファイア基板および第2のサファイア基板を含む減衰器を備えることができる。本デバイスは、第1のサファイア基板と第2のサファイア基板との間の信号導体であって、第1のサファイア基板を信号導体の一方の側に押し付け、第2のサファイア基板を信号導体のもう一方の側に押し付ける圧縮構成要素によって圧縮される、前記信号導体をさらに備えることができる。圧縮構成要素は、信号導体の熱伝導率を助長し、基板と信号導体との間の熱境界抵抗を減少させる。
【0009】
さらに別の実施形態によると、方法が提供される。本方法は、極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を構築することと、第1の高熱伝導率基板と第2の高熱伝導率基板との間に減衰器線路を埋め込むことと、第1の高熱伝導率基板を信号導体の一方の側に押し付けること、および第2の高熱伝導率基板を信号導体のもう一方の側に押し付けることを含む、減衰器線路を圧縮することと、を含むことができる。本方法は、量子コンピューティング・デバイスの極低温希釈冷凍機内に極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を配置することをさらに含むことができる。
【0010】
別の実施形態によると、極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を備えるデバイスを提供することができる。本デバイスは、減衰器を含む信号導体であって、実質的に第1の平坦な側、および第1の平坦な側の反対側の実質的に第2の平坦な側を有する、前記信号導体を備えることができる。第1の高熱伝導率基板は、圧縮構成要素によって信号導体の第1の側に押し付けることができ、第2の高熱伝導率基板は、圧縮構成要素によって信号導体の第2の側に押し付けることができる。
【0011】
さらに別の実施形態によると、極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器が記載される。減衰器を含む信号導体は、圧縮構成要素によって第1の高熱伝導率基板に押し付けられる第1の側を有することができ、圧縮構成要素によって第2の高熱伝導率基板に押し付けられる第2の側を有することができる。希釈冷凍機内では、信号導体は、入力信号を受け取り、入力信号を減衰器の出力で所望の減衰された信号に減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の例示的なある実施形態による、ねじまたはビアをクランプなどと共に使用して基板を一緒に押し付けて、減衰器線路に押し込むことができる極低温ストリップライン減衰器構造の正面図である。
図2】本開示の例示的なある実施形態による、ねじまたはビアをクランプなどと共に使用して基板を一緒に押し付けて、減衰器線路を圧縮することができる極低温ストリップライン減衰器構造の斜視図である。
図3】本開示の例示的なある実施形態による、極低温ストリップライン減衰器の減衰対周波数を示すグラフである。
図4】本開示の例示的なある実施形態による、極低温ストリップライン減衰器を使用して希釈冷凍機においてマイクロ波信号をフィルタリングおよび熱化するための例示的な構成要素を示すブロック図である。
図5】本開示の例示的なある実施形態による、クランプなどを使用して基板を一緒に押し付けて、減衰器線路に押し込むことができる極低温ストリップライン減衰器構造の正面図である。
図6】本開示の例示的なある実施形態による、極低温ストリップライン減衰器の構成要素の表現である。
図7】本開示の例示的なある実施形態による、減衰器の構成要素の表現である。
図8】本開示の例示的なある実施形態による、極低温ストリップライン減衰器を提供する方法の表現である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明は、単に例示的なものであり、実施形態、または実施形態の用途もしくは使用法、あるいはその両方を限定することは意図されていない。さらに、前の段落または発明を実施するための形態の段落で提示される、明示もしくは暗示されるいかなる情報によっても拘束される意図はない。
【0014】
ここで、図面を参照して1つまたは複数の実施形態を説明するが、同様の参照番号は、全体を通して同様の要素を指すために使用される。以下の記載では、説明の目的で、1つまたは複数の実施形態のより完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細が述べられている。しかしながら、様々な場合において、1つまたは複数の実施形態がこれらの具体的な詳細なしで実施され得ることは明らかである。
【0015】
さらに、本開示は、所与の例示的なアーキテクチャに関して記載されていることを理解されたい。しかしながら、他のアーキテクチャ、構造、基板材料およびプロセスの特徴、ならびにステップは、本開示の範囲内で変更することができる。
【0016】
また、層、領域または基板などの要素が別の要素の「上に(on)」または「上方に(over)」あるという場合、その要素は、他の要素のすぐ上にあってもよく、あるいは介在する要素が存在してもよいことを理解されるであろう。対照的に、要素が別の要素の「すぐ上に(directly on)」または「すぐ上方に(directly over)」あるという場合は、およびその場合に限り、介在する要素は存在しない。向きは、一般に相対的であり、例えば、「上に(on)」または「上方に(over)」は、反転させることができ、そのような場合は、反転させた向きで表現される場合、技術的には、下または下方/真下にあるように見えるとしても、変化していないと考えることができることに留意されたい。また、要素が別の要素に「接続されている(connected)」または「結合されている(coupled)」という場合、その要素は、他の要素に直接接続されていても、または結合されていてもよく、あるいは介在する要素が存在してもよいことを理解されるであろう。対照的に、要素が別の要素に「直接接続されている(directly connected)」または「直接結合されている(directlycoupled)」という場合は、およびその場合に限り、介在する要素は存在しない。
【0017】
本明細書における本原理の「一実施形態(one embodiment)」または「ある実施形態(an embodiment)」ならびにそれらの他の変形形態への言及は、その実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、特性などが本原理の少なくとも一実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して様々な場所に現われる「一実施形態において(in one embodiment)」または「ある実施形態において(in anembodiment)」という熟語の出現は、その他の変形形態と同様に、必ずしもすべて同じ実施形態を指すとは限らない。それぞれの実施形態で用いられる同様の要素の繰り返しの説明は、簡潔にするために省略される。
【0018】
本明細書に記載される技術は、一般に、量子コンピューティング技術での使用に適した極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を対象とする。一般に、本技術は、基板間に(減衰器を提供する)信号導体を有する、二重高熱伝導率(例えば、サファイア)基板の使用に基づく。他の材料は、酸化マグネシウム、石英、アモルファス・シリコン、シリコン、GaAs(ガリウム・ヒ素)またはダイヤモンドあるいはその組合せを含むことができるが、これらに限定されない。一般に、本明細書で言及されるような「高熱伝導率(high thermal conductivity)」材料には、約100W/m/K(ワット/メートル・ケルビン)以上の熱伝導率を有する材料が含まれる。一般に、信号導体を取り囲む基板は、ストリップラインを形成し、ストリップラインは、マイクロ波伝送に適したよく知られた伝送技術である。
【0019】
一般に、問題は、知られているマイクロ波減衰器が、低温で十分に良好な熱性能およびマイクロ波性能を有していないことである。本明細書に記載される解決策は、減衰器のための適切なマイクロ波応答を維持しながら、より最適な熱化を提供する。
【0020】
本目的のために、圧縮構成要素を使用して基板を信号導体の両側に押し付けることができる。これにより、熱境界抵抗(界面熱抵抗またはKapitza抵抗とも呼ばれる)が減少し、その結果、熱伝導が改善され、熱化が改善されて熱雑音が減少する。それでもさらに、本技術は、高熱伝導率(例えば、サファイア)基板のより高い熱伝導率の結果として熱化を改善する。したがって本明細書に記載される技術は、マイクロ波減衰器の記載された設計に関して、量子用途において希釈冷凍機用のマイクロ波伝送線路における多くの熱化問題を解決する。
【0021】
ここで、同様の番号が同じまたは類似の要素を表す図面を参照すると、図1(正面図)および図2(斜視図)は、基板102および103を含む、極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器デバイス100を提供(例えば、構成または製造あるいはその両方を)するための様々な構造を示す。構造は、縮尺通りであることは意図されていないことに留意されたい。さらに、図2では、下側基板103の外側縁部は、2つの周囲の基板層を視覚的に区別するのを助けるために、影付きで示されていることに留意されたい。
【0022】
1つまたは複数の実施形態において、基板102および103は、サファイア基板であってもよく、いずれかのまたは両方のサファイア基板が0.5mm~1mmの厚さを有し、熱伝導率(K)が200W/m/Kの範囲である。これらの特性を有するそうしたサファイア基板は、市販されている。基板は、同じ材料であってもよいが、必ずしもそうである必要はなく、しかしながらいずれにせよ、熱伝導率が高いほど、100W/m/K超、例えば150W/m/K以上がより望ましい。石英、シリコン、および他のガラス・タイプの材料などの他の材料は、所望の熱伝導率を提供することができる。
【0023】
基板102と103との間に1つまたは複数の信号導体線路106がある。信号導体線路106は、任意の適切な堆積技術を使用して基板上に堆積させることができる、ニッケルクロム(NiCr)/銅薄膜導体などを含むマイクロストリップ・ラインとすることができる。一般に、銅は、伝送線路を提供し、一方、NiCrは、減衰器部分を提供する。図2に示すように、薄膜抵抗器222に関連して、一実施形態は、一般に、十字形の減衰器回路を備える。減衰器の形状は、標準的なものにすることができ、例えば、Zagorodny et al., ”Microwave microstrip attenuators for GaAs monolithic integratedcircuits,” International Conference and Seminar on Micro/Nanotechnologies andElectron Devices Edm (2012)に由来することができる。頂部および底部の金属接地面/接地リードは、図1および図2には示されていないが、知られているように、接地面は、典型的には、基板102の上方にあり、別の接地面は、典型的には、基板103の下方にある(図示する向きで)。基板の材料は、同じ厚さであってもよいが、不平衡ストリップラインで使用する場合などでは、異なる厚さであってもよい。
【0024】
図1および図2には、圧縮構成要素108および109も示されている。例示的な圧縮構成要素は、基板102を(例えば、図示するように下向きに)信号導体線路106に押し込み、基板103を(例えば、図示するように上向きに)信号導体線路106に押し込むねじまたはビアを含む。容易に理解することができるように、単一のねじもしくはビアで十分であってもよく、または3つ以上のそのようなねじもしくはビアを使用することができ、例えば、両方の位置に、または、より多くの、同じ、もしくはより少ない圧力を個別に提供するために、例えば、信号導体に均等に圧力をかけるように、もしくは他の場所に比べてある特定の場所でより多くの圧力をかけるように、配置することができる。圧縮構成要素108および109(例えば、クランプ/ねじを有するビア)を使用して信号導体に加えられる圧力が増加すると、熱境界抵抗の減少/熱伝導の改善が助長され、結果として、「室温」マイクロ波減衰器、例えばGaAs(低温、例えば、約30K未満で、多少低いが、それでも比較的高い熱伝導率(約100W/m/K)を有するガリウム・ヒ素)に基づくもの、またはアルミナに基づくさらに低温のマイクロ波減衰器と比較して熱化が改善され、熱雑音が減少する。
【0025】
本明細書に記載される技術は、ストリップライン減衰器においてより最適な熱化を提供すると同時に、広範囲の周波数にわたって減衰器のための最先端のマイクロ波応答を維持する。図3は、対象の周波数帯域1~10GHzにおけるデシベル(dB)を単位とした減衰のグラフを示す。見て分かるように、反射は、最小限に抑えられ、本明細書に記載される減衰器(破線)については(-10dB辺りで)極めて平坦である。
【0026】
図4は、極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器442~444を希釈冷凍機に実装することができる例示的な回路/量子用途440を示す。図4のi、j、およびkによって表されるdB値は、任意の所望の減衰レベルとすることができ、i、j、およびkのいずれかは、互いに同じであっても、または異なっていてもよいことに留意されたい。図4に一般的に示されるように、希釈冷凍機は、例えば、外部真空缶446(例えば、300度K)、および例えば3度Kプレート448(時には内部真空缶と呼ばれる)に収容することができる。例示された希釈冷凍機は、スチル・プレート450(例えば、約1度K)、コールド・プレート452(例えば、約0.1度K)、および混合チャンバ454を備えることができる。一般に、量子用途は、信号の大きさを減少させ、熱雑音を減少させ、導体を熱化するために、希釈冷凍機の入力/出力線上にマイクロ波減衰器を必要とする。量子デバイスへの入力信号は、希釈冷凍機から測定デバイスへの出力信号と同様に減衰される。図3を参照して上述したように、減衰は、大きな周波数帯域にわたって実質的に等しく、したがって本明細書に記載される技術は、図4の回路/量子用途440において良好に機能する。マイクロ波信号は、減衰器内のNiCr/銅線(図1および図2)によって減衰されるが、熱エネルギーは、他の金属および高熱伝導率基板を介して放散される。
【0027】
図5は、例えば、クランプ508および509などを含む代替の圧縮構成要素を示す。圧着は、同様の代替案である。ねじまたはビア(例えば、クランプを有する)と同様に、単一のクランプまたは3つ以上のクランプを使用することができ、他の位置に対してある特定の位置で均一の、より多くの、またはより少ない圧力を提供するようにクランプを配置(位置決めまたは締め付けあるいはその両方を)することができる。図5の「圧縮力」(小さな矢印)によって表されるように、1つまたは複数の実施形態では、圧縮は、基板の全表面にわたって加えられる。同様に、圧縮構成要素508および509を使用して信号導体に加えられる圧力が増加すると、熱境界抵抗の減少/熱伝導の改善が助長され、結果として他の知られているマイクロ波減衰器と比較して熱化が改善され、熱雑音が減少する。
【0028】
図6は、極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器600を備えるデバイスの例示的なある実施形態を示す。例示されたデバイスは、第1の高熱伝導率基板602および第2の高熱伝導率基板604を含むことができる。例示されたデバイスは、第1の高熱伝導率基板602と第2の高熱伝導率基板603との間に1つまたは複数の減衰器線路を含む信号導体606をさらに備えることができる。信号導体は、第1の高熱伝導率基板602を信号導体606の一方の側に押し付け、第2の高熱伝導率基板603を信号導体606のもう一方の側に押し付ける圧縮構成要素608によって圧縮することができる。
【0029】
圧縮構成要素は、少なくとも1つのビアを含むことができる。圧縮構成要素は、少なくとも1つのねじを含むことができる。圧縮構成要素は、少なくとも1つのクランプ構成要素を含むことができる。圧縮構成要素は、信号導体の基板への熱伝導率を助長することができる。圧縮構成要素は、基板と信号導体との間の熱境界抵抗を減少させることができ、すなわち、境界抵抗の減少により、圧縮が強いほど熱伝導率が高くなる。
【0030】
第1の高熱伝導率基板は、第1のサファイア基板を含むことができる。第1のサファイア基板は、約0.5~1.0ミリメートルの厚さを有することができる。第1の高熱伝導率基板は、約200ワット/メートル・ケルビンの熱伝導率を有する。第2の高熱伝導率基板は、第2のサファイア基板を含むことができる。第2のサファイア基板は、約0.5~1.0ミリメートルの厚さを有することができる。
【0031】
第1の高熱伝導率基板は、第1のサファイア基板を含むことができ、第2の高熱伝導率基板は、第2のサファイア基板を含むことができる。第1のサファイア基板は、約0.5~1.0ミリメートルの厚さを有することができ、第2のサファイア基板は、約0.5~1.0ミリメートルの厚さを有することができる。
【0032】
図7は、減衰器700を備えるデバイスのブロック図である。デバイスは、第1のサファイア基板702、第2のサファイア基板703、および第1のサファイア基板と第2のサファイア基板との間の信号導体706を備えることができる。信号導体706は、第1のサファイア基板702を信号導体の一方の側に押し付け、第2のサファイア基板703を信号導体のもう一方の側に押し付ける圧縮構成要素708によって圧縮することができる。
【0033】
圧縮構成要素は、少なくとも1つのビア、または1つのねじを含むことができる。第1のサファイア基板は、約0.5~1.0ミリメートルの厚さを有することができ、第2のサファイア基板は、約0.5~1.0ミリメートルの厚さを有することができる。圧縮構成要素は、信号導体の熱伝導率を助長し、基板と信号導体との間の熱境界抵抗を減少させることができる。信号導体は、実質的に十字形を形成する減衰器線路および抵抗器を含むことができる。
【0034】
図8は、動作として示されるような方法を例示する。本方法は、極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を構築すること(動作802)を含むことができ、本動作は、第1の高熱伝導率基板と第2の高熱伝導率基板との間に減衰器線路を埋め込むこと(動作804)を含むことができる。動作806は、第1の高熱伝導率基板を信号導体の一方の側に押し付けること(動作808)、および第2の高熱伝導率基板を信号導体のもう一方の側に押し付けること(動作810)を含むことができる、基板を減衰器線路に押し込むことを表す。極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器は、量子コンピューティング・デバイスの極低温希釈冷凍機内に配置することができる。
【0035】
デバイスは、減衰器を含む信号導体を備える極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器を備えることができ、信号導体は、実質的に第1の平坦な側、および第1の平坦な側と反対側の実質的に第2の平坦な側を有する。第1の高熱伝導率基板は、圧縮構成要素によって信号導体の第1の側に押し付けられ、第2の高熱伝導率基板は、圧縮構成要素によって信号導体の第2の側に押し付けられる。第1の高熱伝導率基板は、第1のサファイア基板を含むことができ、第2の高熱伝導率基板は、第2のサファイア基板を含むことができる。第1の高熱伝導率基板は、少なくともの約120ワット/メートル・ケルビンの熱伝導率を有することができる。
【0036】
極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器は、減衰器を含む信号導体を備えることができる。信号導体は、その第1の側が圧縮構成要素によって第1の高熱伝導率基板に押し付けられるとともに、第2の側が圧縮構成要素によって第2の高熱伝導率基板に押し付けられている。希釈冷凍機内で、信号導体は、入力信号を受け取ってこれを減衰させ、減衰した信号を出力信号とすることができる。第1の高熱伝導率基板および第2の高熱伝導率基板は、少なくとも約120ワット/メートル・ケルビンの熱伝導率を有することができる。
【0037】
見て分かるように、量子コンピューティング用途に適した極低温ストリップライン・マイクロ波減衰器デバイスが記載されている。他の知られている解決策と比較した利点には、基板のより高い熱伝導率の結果としての改善された熱化が含まれる。さらに、熱化が改善されると同時に、基板(例えば、サファイア)の高い熱伝導率と併せて、金属線に対する高い圧力に起因する熱境界(Kapitza)抵抗が減少するため、熱雑音が減少する。
【0038】
上述したことは、単なる例を含む。もちろん、本開示を説明する目的で構成要素、材料などの考えられるすべての組合せを説明することは不可能であるが、当業者は、本開示の多くのさらなる組合せおよび並べ替えが可能であることを認識することができる。さらに、「含む(includes)」、「有する(has)」、「所有する(possesses)」などの用語が詳細な説明、特許請求の範囲、付録および図面で使用される限り、そのような用語は、「備える(comprising)」が特許請求の範囲において移行語として用いられる場合に解釈されるように、用語「備える(comprising)」と同様のやり方で包括的であることが意図されている。
【0039】
本発明の様々な実施形態の説明は、例示の目的で提示されているが、網羅的であること、または開示された実施形態に限定されることは意図されていない。本発明の実施形態の範囲および思想から逸脱することなく、多くの修正形態および変形形態が当業者には明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施形態の原理、市場で見出される技術に対する実際の応用もしくは技術的改良を最も良く説明するか、または当業者が本明細書で開示された実施形態を理解することができるように選択された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8