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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】建築材料および建築材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20230426BHJP
   C23C 10/24 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B32B15/04 Z
C23C10/24
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018172569
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020044664
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 知記
(72)【発明者】
【氏名】野本 恭平
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-254053(JP,A)
【文献】特開2013-007094(JP,A)
【文献】特開2015-117777(JP,A)
【文献】特開平01-266309(JP,A)
【文献】特開平09-003614(JP,A)
【文献】特開平06-122957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/04
C23C 10/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)と、前記鉄系金属部材(A)に接合された部材(B)と、を備え、
前記窒化物層の厚さが1μm以上50μm以下である、建築材料であって、
前記窒化物層は、前記鉄系金属部材(A)の表面全体を覆うように形成されている、建築材料
【請求項2】
請求項1に記載の建築材料において、
前記部材(B)が前記窒化物層を介して前記鉄系金属部材(A)と接合している建築材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建築材料において、
前記鉄系金属部材(A)と前記部材(B)との間に接着剤層(C)をさらに備える建築材料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の建築材料において、
前記微細凹凸構造の間隔周期が0.01μm以上500μm以下の範囲である建築材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建築材料において、
前記窒化物層の表面硬度がHv300以上である建築材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の建築材料において、
前記部材(B)が、木材、石材、セメント部材、粘土、金属部材、樹脂部材、コンクリート部材およびモルタル部材から選択される少なくとも一種の部材を含む建築材料。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の建築材料を製造するための製造方法であって、
鉄系金属部材の表面の少なくとも一部を窒化処理することにより、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)を作製する工程(a)と、
前記鉄系金属部材(A)に前記部材(B)を接合させる工程(b)と、
を備える建築材料の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の建築材料の製造方法において、
前記工程(b)では、前記窒化物層を介して前記鉄系金属部材(A)に前記部材(B)を接合させる建築材料の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の建築材料の製造方法において、
前記工程(b)では、接着剤層(C)を介して前記鉄系金属部材(A)に前記部材(B)を接合させる建築材料の製造方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の建築材料の製造方法において、
前記工程(a)における前記窒化処理が、塩浴窒化処理、塩浴軟窒化処理、ガス窒化処理、ガス軟窒化処理、イオン窒化処理およびプラズマ窒化処理から選択される少なくとも一種の処理を含む建築材料の製造方法。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか一項に記載の建築材料の製造方法において、
前記工程(a)の前に、前記鉄系金属部材に窒化処理以外の粗化処理をおこなう工程を含む建築材料の製造方法。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか一項に記載の建築材料の製造方法において、
前記工程(a)の前および/または後に、前記鉄系金属部材の洗浄処理をおこなう工程を含む建築材料の製造方法。
【請求項13】
請求項7乃至12のいずれか一項に記載の建築材料の製造方法において、
前記工程(a)の後に、前記鉄系金属部材(A)に窒化処理以外の皮膜形成処理をおこなう工程を含む建築材料の製造方法。
【請求項14】
建築材料を製造するための製造方法であって、
鉄系金属部材の表面の少なくとも一部を窒化処理することにより、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)を作製する工程(a)と、
前記鉄系金属部材(A)に前記部材(B)を接合させる工程(b)と、
を備え、
前記工程(a)における前記窒化処理が、塩浴窒化処理、塩浴軟窒化処理、ガス窒化処理、ガス軟窒化処理、イオン窒化処理およびプラズマ窒化処理から選択される少なくとも一種の処理を含み、
前記建築材料は、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)と、前記鉄系金属部材(A)に接合された部材(B)と、を備え、
前記窒化物層の厚さが1μm以上50μm以下である、建築材料の製造方法。
【請求項15】
建築材料を製造するための製造方法であって、
鉄系金属部材の表面の少なくとも一部を窒化処理することにより、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)を作製する工程(a)と、
前記鉄系金属部材(A)に前記部材(B)を接合させる工程(b)と、
を備え、
前記工程(a)の前および/または後に、前記鉄系金属部材の洗浄処理をおこなう工程を含み、
前記建築材料は、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)と、前記鉄系金属部材(A)に接合された部材(B)と、を備え、
前記窒化物層の厚さが1μm以上50μm以下である、建築材料の製造方法。
【請求項16】
建築材料を製造するための製造方法であって、
鉄系金属部材の表面の少なくとも一部を窒化処理することにより、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)を作製する工程(a)と、
前記鉄系金属部材(A)に前記部材(B)を接合させる工程(b)と、
を備え、
前記工程(a)の後に、前記鉄系金属部材(A)に窒化処理以外の皮膜形成処理をおこなう工程を含み、
前記建築材料は、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)と、前記鉄系金属部材(A)に接合された部材(B)と、を備え、
前記窒化物層の厚さが1μm以上50μm以下である、建築材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築材料および建築材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄系金属部材は、木材などの他の建築材料に比べて強度などの点で優れている。しかし、鉄系金属部材は、錆などが発生しやすいため、例えば防錆処理されて使用されている。
【0003】
鉄系金属部材に防錆性を付与する技術としては、例えば、鉄系金属部材の表面を窒化処理する技術が挙げられる(例えば特許文献1参照)。
特許文献1には、表面に窒素拡散層を有する耐食性鉄鋼材料であって、この窒素拡散層に、窒素が0.04質量%以上であって、当該耐食性鉄鋼材料の固溶上限値以下の範囲で固溶していることを特徴とする耐食性鉄鋼材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-44212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄系金属部材をコンクリートやセメントなどの他の部材と接合して建築材料に用いる場合がある。このような複合構造体からなる建築材料には、防錆性だけでなく、鉄系金属部材と他の部材との良好な接合性も求められる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、防錆性を有するとともに、鉄系金属部材と他の部材との接合性が良好な建築材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
窒化処理の途中工程で、窒素拡散層を形成する工程があるが、その際に表面に凹凸構造が生じ、最終的にはその凹凸構造を埋める工程が存在する。
一方で、本発明者らの検討によれば、窒化処理した鉄系金属部材の表面に形成された凹凸構造を残したまま、鉄系金属部材と他の部材とを接合した場合、鉄系金属部材と他の部材との接合性が良好になることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す建築材料および建築材料の製造方法が提供される。
【0009】
[1]
微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)と、上記鉄系金属部材(A)に接合された部材(B)と、を備える建築材料。
[2]
上記[1]に記載の建築材料において、
上記部材(B)が上記窒化物層を介して上記鉄系金属部材(A)と接合している建築材料。
[3]
上記[1]または[2]に記載の建築材料において、
上記鉄系金属部材(A)と上記部材(B)との間に接着剤層(C)をさらに備える建築材料。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の建築材料において、
上記微細凹凸構造の間隔周期が0.01μm以上500μm以下の範囲である建築材料。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の建築材料において、
上記窒化物層の表面硬度がHv300以上である建築材料。
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の建築材料において、
上記部材(B)が、木材、石材、セメント部材、粘土、金属部材、樹脂部材、コンクリート部材およびモルタル部材から選択される少なくとも一種の部材を含む建築材料。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の建築材料を製造するための製造方法であって、
鉄系金属部材の表面の少なくとも一部を窒化処理することにより、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)を作製する工程(a)と、
上記鉄系金属部材(A)に上記部材(B)を接合させる工程(b)と、
を備える建築材料の製造方法。
[8]
上記[7]に記載の建築材料の製造方法において、
上記工程(b)では、上記窒化物層を介して上記鉄系金属部材(A)に上記部材(B)を接合させる建築材料の製造方法。
[9]
上記[7]または[8]に記載の建築材料の製造方法であって、
上記工程(b)では、接着剤層(C)を介して上記鉄系金属部材(A)に上記部材(B)を接合させる建築材料の製造方法。
[10]
上記[7]乃至[9]のいずれか一つに記載の建築材料の製造方法において、
上記工程(a)における上記窒化処理が、塩浴窒化処理、塩浴軟窒化処理、ガス窒化処理、ガス軟窒化処理、イオン窒化処理およびプラズマ窒化処理から選択される少なくとも一種の処理を含む建築材料の製造方法。
[11]
上記[7]乃至[10]のいずれか一つに記載の建築材料の製造方法において、
上記工程(a)の前に、上記鉄系金属部材に窒化処理以外の粗化処理をおこなう工程を含む建築材料の製造方法。
[12]
上記[7]乃至[11]のいずれか一つに記載の建築材料の製造方法において、
上記工程(a)の前および/または後に、上記鉄系金属部材の洗浄処理をおこなう工程を含む建築材料の製造方法。
[13]
上記[7]乃至[12]のいずれか一つに記載の建築材料の製造方法において、
上記工程(a)の後に、上記鉄系金属部材(A)に窒化処理以外の皮膜形成処理をおこなう工程を含む建築材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防錆性を有するとともに、鉄系金属部材と他の部材との接合性が良好な建築材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。なお、文中の数字範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0012】
1.建築材料
本実施形態に係る建築材料は、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)と、鉄系金属部材(A)に接合された部材(B)と、を備える。
本実施形態に係る建築材料は、鉄系金属部材(A)の表面には防錆性を有する窒化物層が形成されているため、本実施形態に係る建築材料に防錆性を付与することが可能である。ここで、窒化物層は、鉄系金属部材(A)の表面の一部または全部を覆うように形成されていればよいが、本実施形態に係る建築材料の鉄系金属部材(A)部分の防錆性をより良好にする観点から、窒化物層は、鉄系金属部材(A)の表面全体を覆うように形成されていることが好ましい。
【0013】
鉄系金属部材(A)の表面には、部材(B)との間の接合強度の向上に寄与する微細凹凸構造を有する窒化物層が形成されているため、基本的には接着剤を使用しなくても鉄系金属部材(A)と部材(B)との間の接合性確保が可能となる。
具体的には鉄系金属部材(A)の表面に形成された窒化物層の微細凹凸構造の中に部材(B)の一部が進入することによって、鉄系金属部材(A)と部材(B)との間に物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現し、鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合強度を良好にできる。すなわち、本実施形態に係る建築材料の好ましい一態様として、部材(B)は窒化物層を介して鉄系金属部材(A)と接合している態様が挙げられる。
【0014】
また、本実施形態に係る建築材料は、基本的には接着剤を使用しなくても鉄系金属部材(A)と部材(B)との間の接合性確保が可能であるが、必要に応じて鉄系金属部材(A)と部材(B)との間に接着剤層(C)をさらに備えてもよい。
この場合、鉄系金属部材(A)と部材(B)との間の少なくとも一部に接着剤層(C)が設けられていてもよいし、鉄系金属部材(A)と部材(B)との間の全体に接着剤層(C)が設けられていてもよい。
本実施形態に係る建築材料が接着剤層(C)をさらに備える場合、部材(B)の少なくとも一部は接着剤層(C)を介して鉄系金属部材(A)と接合している。また、接着剤層(C)の少なくとも一部が、鉄系金属部材(A)の表面に形成された窒化物層の微細凹凸構造の中に進入することによって、鉄系金属部材(A)と接着剤層(C)とが接着していることが好ましい。これにより、鉄系金属部材(A)と接着剤層(C)との接着力をより一層良好にでき、その結果、鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合性をより一層良好にすることができる。
【0015】
本実施形態に係る建築材料は、鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合性が良好であるため、鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合部への水分や湿気の浸入を防ぐこともできる。つまり、本実施形態に係る建築材料の接合部における気密性や水密性を向上させることもできる。
【0016】
以下、鉄系金属部材(A)、部材(B)、および建築材料の製造方法について説明する。
【0017】
<鉄系金属部材(A)>
本実施形態に係る鉄系金属部材とは鉄系材料により構成され、所定の建築物を組み立てることが可能な部品材のことを示す。
鉄系材料とは、例えば、鉄、鉄鋼材、ステンレス鋼、鉄とアルミニウムとの合金、鉄とチタンとの合金、鉄とマグネシウムとの合金などが挙げられ、これらの中でも、鉄鋼材、ステンレス鋼が好ましく、鉄鋼材として、SS、SCM、SPCC、炭素鋼が好ましい。
【0018】
鉄系金属部材(A)の形状は、部材(B)と接合できる形状であれば特に限定されず、例えば、平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状などとすることができる。また、これらの組み合わせからなる構造体であってもよい。
【0019】
鉄系金属部材(A)は、鉄系材料を切断、プレスなどによる塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工などの除肉加工によって上述した所定の形状に加工された後に、後述する窒化処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。
【0020】
本実施形態において鉄系金属部材(A)の表面には微細凹凸構造を有する窒化物層が形成されている。
微細凹凸構造を有する窒化物層の厚さは特に限定されないが、本実施形態に係る建築材料における鉄系金属部材(A)部分の防錆能をより高めつつ、鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合強度をより向上させる観点から、1μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上30μm以下がより好ましく、10μm以上20μm以下がさらに好ましい。
【0021】
また、本実施形態に係る窒化物層は、例えば、Fe-N-C系を主体とする化合物層である。
【0022】
上記微細凹凸構造は、鉄系金属部材(A)と部材(B)とをより一層強固に接合する観点から、間隔周期が0.01μm以上500μm以下であることが好ましい。
上記微細凹凸構造の間隔周期は凸部から隣接する凸部までの距離の平均値であり、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真から求めることができる。
具体的には、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡により、鉄系金属部材(A)の表面を撮影する。その写真から、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部から隣接する凸部までの距離をそれぞれ測定する。凸部から隣接する凸部までの距離の全てを積算して50で除したものを間隔周期とする。
【0023】
上記微細凹凸構造の間隔周期は、好ましくは0.02μm以上100μm以下、より好ましくは0.05μm以上50μm以下、さらに好ましくは0.05μm以上20μm以下、特に好ましくは0.10μm以上10μm以下である。
上記微細凹凸構造の間隔周期が上記下限値以上であると、上記微細凹凸構造の凹部に部材(B)がより多く進入することができ、鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合強度をより向上させることができる。また、上記微細凹凸構造の間隔周期が上記上限値以下であると、鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合部に隙間が生じることをより一層抑制できる。その結果、鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合部の隙間から水分などの不純物が浸入することを抑制できるため、本実施形態に係る建築材料を高温、高湿下で用いた際、強度が低下することを抑制できる。
【0024】
鉄系金属部材(A)と部材(B)との接合強度をより一層向上させる観点から、JIS B0601:2001に準拠して測定される、微細凹凸構造を有する窒化物層の算術平均粗さ(Ra)が好ましくは0.2μm以上1μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上0.8μm以下である。
【0025】
本実施形態に係る窒化物層の表面硬度は、耐摩耗性の観点から、Hv300以上であることが好ましい。また、本実施形態に係る窒化物層の表面硬度は、鉄系金属部材(A)の種類によって大きく変化するものであり、クラックや欠けなどを防止し、かつ経済性などの観点から、例えば、鉄系金属部材(A)の種類が、SS400系鉄鋼材の場合ではHv350~900、好ましくはHv500~800であり、SCM440系鉄鋼材の場合ではHV600~1000、好ましくはHV700~900であり、ステンレス鋼ではHv800~1200、好ましくはHV900~1100であることが好ましい。なお、上記例示の素材は本実施形態に係る鉄系金属材料の一例であり、建築材料として用いられる鉄系金属材料であれば幅広く用いることができる。
ここで、本実施形態に係る窒化物層の表面硬度はビッカース硬度(HV)を意味し、JIS Z2244(2009)に規定されるビッカース硬さ試験-試験方法に基づいて、試験片にダイヤモンド圧子を押し込む方法で測定したときの値である。
【0026】
また、鉄系金属部材(A)の表面には、窒化物層以外の被膜が形成されていてもよい。このような被膜としては、例えば、酸化物皮膜、防錆皮膜、化成皮膜、セラミック皮膜などが挙げられる。これらの被膜は窒化物層上に形成されているのが好ましい。
【0027】
<部材(B)>
本実施形態に係る部材(B)は特に限定されず、例えば、建築材料として公知の材料を用いることができる。より具体的には、部材(B)としては、木材、石材、セメント部材、粘土、金属部材、樹脂部材、コンクリート部材、モルタル部材などが挙げられる。
これらの部材は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、成形性および強度の観点から、コンクリート部材が好ましい。
【0028】
<接着剤層(C)>
本実施形態に係る接着剤層(C)は特に限定されず、例えば、公知の接着剤を用いることができる。より具体的には、接着剤層(C)を構成する接着剤としては、フェノール系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、石油樹脂などのホットメルト系接着剤などが挙げられる。
これらの接着剤は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
2.建築材料の製造方法
本実施形態に係る建築材料の製造方法は、鉄系金属部材の表面の少なくとも一部を窒化処理することにより、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)を作製する工程(a)と、鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させる工程(b)と、を備える。
【0030】
工程(a)では、鉄系金属部材の表面の少なくとも一部を窒化処理することにより、微細凹凸構造を有する窒化物層が表面の少なくとも一部に形成された鉄系金属部材(A)を作製する。窒化処理は公知の窒化処理方法を用いることができる。このような窒化処理としては、例えば、塩浴窒化処理、塩浴軟窒化処理、ガス窒化処理、ガス軟窒化処理、イオン窒化処理、プラズマ窒化処理などが挙げられる。
これらの窒化処理は一種類を単独でおこなってもよいし、二種類以上の処理を組み合わせておこなってもよい。
これらの窒化処理の中でも、部材(B)との間の接合強度の向上に寄与する微細凹凸構造を効果的に得ることができる点から、塩浴窒化処理および塩浴軟窒化処理が好ましい。
【0031】
本実施形態に係る建築材料の製造方法において、工程(a)の前に、鉄系金属部材に窒化処理以外の粗化処理をおこなってもよい。これにより、鉄系金属部材の表面に微細凹凸構造を付与できるため、鉄系金属部材と窒化物層との密着性をより一層良好にすることができる。
鉄系金属部材の粗化処理方法としては特に限定されず、公知の粗化処理方法を採用できる。例えば、NaOHなどの無機塩基水溶液および/または塩酸、硝酸などの無機酸水溶液に鉄系金属部材を浸漬する方法;例えばダイヤモンド砥粒研削またはブラスト加工によって作製した凹凸を有する金型パンチをプレスすることにより鉄系金属部材表面に凹凸を形成する方法や、サンドブラスト、ローレット加工、レーザー加工により鉄系金属部材表面に凹凸形状を作製する方法等の機械的切削;陽極酸化法により鉄系金属部材を処理する方法、国際公開第2009/31632号パンフレットに開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、及び水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に鉄系金属部材を浸漬する方法;特許5129903号に記載されているように鉄系金属部材をクエン酸に浸漬させたのち過マンガン酸カリウム水溶液で処理する方法などが挙げられる。これらの方法は、使用する鉄系金属部材の金属種や、凹凸形状によって適宜使い分けて採用される。
【0032】
本実施形態に係る建築材料の製造方法において、工程(a)の前および/または後に、鉄系金属部材の洗浄処理をおこなってもよい。
例えば、鉄系金属部材に機械油などの著しい汚染がある場合は、工程(a)の前に水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液、希塩酸や硝酸水溶液等の無機酸水溶液、脱脂等によって洗浄処理を行なうことが好ましい。
また、工程(a)やその後の工程で鉄系金属部材に処理液や油等が付着した場合は、洗浄処理によって付着液や油を除去するのが好ましい。
また、工程(a)によってスマットなどが生じた場合は、工程(a)の後に超音波洗浄などによってスマットなどを除去することが好ましい。
【0033】
また、本実施形態に係る建築材料の製造方法において、工程(a)の後に、上記鉄系金属部材(A)に窒化処理以外の皮膜形成処理をおこなってもよい。このような皮膜形成処理としては、例えば、酸化物皮膜形成処理、防錆皮膜形成処理、化成皮膜形成処理、セラミック皮膜形成処理などが挙げられる。これらの被膜形成処理は、公知の方法に基づいておこなうことができる。
【0034】
工程(b)では、鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させる。
鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させる方法は特に限定されず、窒化物層を介して鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させる方法や、接着剤層(C)を介して鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させる方法などが挙げられる。
【0035】
ここで、窒化物層を介して鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させる方法としては特に限定されず、公知の成形方法を採用できる。例えば、部材(B)の少なくとも一部が鉄系金属部材(A)における窒化物層と接するように、部材(B)を形成するための原材料を鉄系金属部材(A)が配置された型に流し込み、その後、原材料を所望の形状に固化することによって、窒化物層を介して鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させることができる。
また、接着剤層(C)を介して鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させる方法としては特に限定されず、公知の成形方法を採用できる。例えば、部材(B)の少なくとも一部が鉄系金属部材(A)の表面に付与された接着剤層(C)と接するように、部材(B)を形成するための原材料を鉄系金属部材(A)が配置された型に流し込み、その後、原材料を所望の形状に固化することによって、接着剤層(C)を介して鉄系金属部材(A)に部材(B)を接合させることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。