(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物、これを用いた絶縁被膜の形成方法、および絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 22/00 20060101AFI20230426BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230426BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
C23C22/00 B
C22C38/00 303U
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2018520421
(86)(22)【出願日】2015-12-22
(86)【国際出願番号】 KR2015014108
(87)【国際公開番号】W WO2017069336
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2018-04-23
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-28
(31)【優先権主張番号】10-2015-0146105
(32)【優先日】2015-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ミン スウ
(72)【発明者】
【氏名】ジュ,ヒョン ドン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヒョン キ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ジェ キュン
(72)【発明者】
【氏名】キム,チャン スウ
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】山本 佳
【審判官】井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-207868号公報(JP,A)
【文献】特開平6-73555号公報(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099355号(WO,A1)
【文献】特開平8-277475号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合
物からなる第1成分(A)、および
平均粒径が互いに異なる第1
コロイダルシリカと第2
コロイダルシリ
カからなる第2成分(B)、を含み、
前記第1成分(A)に対する前記第2成分の重量比(第2成分/第1成分)は、1.3~1.8であり、
前記第1
コロイダルシリカ
の固形分に対する前記第2
コロイダルシリカの
固形分の重量比
率が1:9~9:1であ
り、
前記第2成分(B)は、
全固形分含有量が20重量%以上30重量%以下であり、
前記複合金属リン酸塩は、
全固形分含有量が58~63重量%である、
ことを特徴とする方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物。
【請求項2】
前記第2成分(B)は、
平均粒径が12nmの第1
コロイダルシリカと、
平均粒径が5nmの第2
コロイダルシリ
カからなることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物。
【請求項3】
前記第2成分(B)は
不可避に不純物として含まれるナトリウム含有量が0.60重量%未満(ただし、0重量%を除く)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物。
【請求項4】
前記第1成分(A)は、
第1リン酸マグネシウム(Mg(H
2PO
4)
2)および第1リン酸アルミニウム(Al(H
2PO
4)
3)を含む複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合
物からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物。
【請求項5】
前記複合金属リン酸塩は、
前記第1リン酸マグネシウム(Mg(H
2PO
4)
2)および前記第1リン酸アルミニウム(Al(H
2PO
4)
3)の混合物の総量100重量%に対して、前記第1リン酸アルミニウム(Al(H
2PO
4)
3)の含有量が70重量%未満(ただし、0重量%を除く)であることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物。
【請求項6】
酸化クロム、固体シリカ、またはこれらの混合物をさらに含むものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物。
【請求項7】
方向性電磁鋼板の一面または両面に、絶縁被膜形成用組成物を塗布する段階と、
前記塗布された絶縁被膜形成用組成物を乾燥して、絶縁被膜を形成する段階と、を含み、
前記絶縁被膜形成用組成物は、
複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合
物からなる第1成分(A)、および
平均粒径が互いに異なる第1
コロイダルシリカと第2
コロイダルシリ
カからなる第2成分(B
)、を含み、
前記第1成分(A)に対する前記第2成分の重量比(第2成分/第1成分)は、1.3~1.8であり、
前記第1
コロイダルシリカ
の固形分に対する前記第2
コロイダルシリカ
の固形分の重量比
率が1:9~9:1であ
り、
前記第2成分(B)は、
全固形分含有量が20重量%以上30重量%以下であり、
前記複合金属リン酸塩は、
全固形分含有量が58~63重量%である、
ことを特徴とする方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法。
【請求項8】
前記方向性電磁鋼板の一面または両面に、絶縁被膜形成用組成物を塗布する段階は、
前記絶縁被膜形成用組成物の温度を20±5℃の範囲に制御して塗布することを特徴とする請求項7に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法。
【請求項9】
前記方向性電磁鋼板の一面または両面に、絶縁被膜形成用組成物を塗布する段階において、
前記方向性電磁鋼板の片面(m
2)あたり、前記絶縁被膜形成用組成物を0.5~6.0g/m
2塗布することを特徴とする請求項7又は8に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法。
【請求項10】
前記塗布された絶縁被膜形成用組成物を乾燥して、絶縁被膜を形成する段階は、
550~900℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法。
【請求項11】
前記塗布された絶縁被膜形成用組成物を乾燥して、絶縁被膜を形成する段階は、
10~50秒間行われることを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法。
【請求項12】
前記方向性電磁鋼板の一面または両面に、絶縁被膜形成用組成物を塗布する段階の前に、前記方向性電磁鋼板を製造する段階をさらに含み、
前記方向性電磁鋼板を製造する段階は、
鋼スラブを準備する段階と、
前記鋼スラブを熱間圧延して、熱延板を製造する段階と、
前記熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階と、
前記冷延板を脱炭焼鈍する段階と、
前記脱炭焼鈍された鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍して1次被膜を含む方向性電磁鋼板を得る段階と、を含み、
前記鋼スラブの組成は、ケイ素(Si):2.7~4.2重量%およびアンチモン(Sb):0.02~0.06重量%を含有し、スズ(Sn):0.02~0.08重量%、クロム(Cr):0.01~0.30重量%、酸可溶性アルミニウム(Al):0.02~0.04重量%、マンガン(Mn):0.05~0.20重量%、炭素(C):0.04~0.07重量%、および硫黄(S):0.001~0.005重量%を含み、窒素(N):10~50ppmを含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物からなることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法。
【請求項13】
方向性電磁鋼板、および
前記方向性電磁鋼板の一面または両面に位置する絶縁被膜、を含み、
前記絶縁被膜は、
複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合
物からなる第1成分(A)、および
平均粒径が互いに異なる第1
コロイダルシリカと第2
コロイダルシリ
カからなる第2成分(B)、を含み、
前記第1成分(A)に対する前記第2成分の重量比(第2成分/第1成分)は、1.3~1.8であり、
前記第1
コロイダルシリカ
の固形分に対する前記第2
コロイダルシリカ
の固形分の重量比
率が1:9~9:1であ
り、
前記第2成分(B)は、
全固形分含有量が20重量%以上30重量%以下であり、
前記複合金属リン酸塩は、
全固形分含有量が58~63重量%である、
方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物を塗布及び乾燥して形成されたものであることを特徴とする絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板。
【請求項14】
前記絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板は、
800℃で応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)時、Ps/Pbが3.0以下(ただし、0を除く)であることを特徴とする請求項13に記載の絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板。
(ただし、前記Ps/Pbは、前記温度で応力除去焼鈍後、シンクロトロンX線(synchrotron X-ray)で前記絶縁被膜の結晶化度を測定した結果値に関するもので、ベースラインピーク(Pb)に対するシリカ結晶化ピーク(Ps)の比を意味する)
【請求項15】
前記絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板は、
840℃で応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)時、Ps/Pbが6.0以下(ただし、0を除く)であることを特徴とする請求項13又は14に記載の絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板。
(ただし、前記Ps/Pbは、前記温度で応力除去焼鈍後、シンクロトロンX線(synchrotron X-ray)で前記絶縁被膜の結晶化度を測定した結果値に関するもので、ベースラインピーク(Pb)に対するシリカ結晶化ピーク(Ps)の比を意味する)
【請求項16】
前記絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板は、
880℃で応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)時、Ps/Pbが8.0以下(ただし、0を除く)であることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1項に記載の絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板。
(ただし、前記Ps/Pbは、前記温度で応力除去焼鈍後、シンクロトロンX線(synchrotron X-ray)で前記絶縁被膜の結晶化度を測定した結果値に関するもので、ベースラインピーク(Pb)に対するシリカ結晶化ピーク(Ps)の比を意味する)
【請求項17】
前記方向性電磁鋼板は、
ケイ素(Si):2.7~4.2重量%およびアンチモン(Sb):0.02~0.06重量%を含有し、スズ(Sn):0.02~0.08重量%、クロム(Cr):0.01~0.30重量%、酸可溶性アルミニウム(Al):0.02~0.04重量%、マンガン(Mn):0.05~0.20重量%、炭素(C):0.04~0.07重量%、および硫黄(S):0.001~0.005重量%を含み、窒素(N):10~50ppmを含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物からなる方向性電磁鋼板、および1次被膜を含むものであることを特徴とする請求項13乃至16のいずれか1項に記載の絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物、これを用いた絶縁被膜の形成方法、および絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、一般に、Si成分の含有量が3.1重量%の電磁鋼板で、結晶粒の方位が(110)[001]方向に整列された集合組織を有していて、圧延方向に優れた磁気的特性を示す。
このような磁気的特性は、方向性電磁鋼板の鉄損を減少させて絶縁性を改善すると、より向上することが知られている。これに関連し、方向性電磁鋼板の鉄損を減少させる方法の一つとして、表面に高張力の絶縁被膜をする方法が活発に研究されている。
【0003】
一方、方向性電磁鋼板の製品化のために、表面に絶縁被膜を形成した後、適切な形態に加工し、加工による応力を除去するために応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)を実施することが一般的であるが、このようなSRA工程で高熱によって再度絶縁被膜の張力が減少して、鉄損が増加し絶縁性が減少する問題が相次いで発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施例では、先に指摘された問題、つまり、SRA後、絶縁被膜の張力が減少することによる問題を解消できる方向性電磁鋼板の絶縁被膜用組成物、これを用いた絶縁被膜の形成方法、および絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物は、複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合物を含む第1成分(A)、および平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを含む第2成分(B)を含み、第1成分(A)100重量部基準で、第2成分は50~250重量部含まれるものであることを特徴とする。
【0006】
具体的には、第1成分(A)に対する第2成分の重量比(第2成分/第1成分)は、1.3~1.8であってもよい。
第2成分(B)は、平均粒径が12nmの第1コロイダルシリカと、平均粒径が5nmの第2コロイダルシリカとを含むものであってもよい。
より具体的には、第1コロイダルシリカに対する第2コロイダルシリカの重量比率が1:9~9:1であってもよい。
この時、第2成分(B)は、全固形分含有量が20重量%以上30重量%以下であってもよい。
【0007】
また、第2成分(B)は、不可避に不純物として含まれるナトリウム含有量が0.60重量%未満(ただし、0重量%を除く)であってもよい。
一方、第1成分(A)は、第1リン酸マグネシウム(Mg(H
2
PO4)2)および第1リン酸アルミニウム(Al(H
2
PO4)3)の中から選択される1種の複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合物であってもよい。
具体的には、複合金属リン酸塩は、第1リン酸マグネシウム(Mg(H
2
PO4)2)および第1リン酸アルミニウム(Al(H
2
PO4)3)の混合物であり、第1リン酸アルミニウム(Al(H
2
PO4)3)の含有量が70重量%未満(ただし、0重量%を除く)であってもよい。
【0008】
複合金属リン酸塩は、全固形分含有量が58~63重量%であってもよい。
複合金属リン酸塩の誘導体は、下記化学構造式1または2で表されるものであってもよい。
【化1】
【化2】
他方、絶縁被膜形成用組成物は、酸化クロム、固体シリカ、またはこれらの混合物;をさらに含んでもよい
【0009】
本発明の方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法は、方向性電磁鋼板の一面または両面に、絶縁被膜形成用組成物を塗布する段階と、塗布された絶縁被膜形成用組成物を乾燥して、絶縁被膜を形成する段階と、を含み、絶縁被膜形成用組成物は、複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合物を含む第1成分(A)と、平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを含む第2成分(B)と、を含み、第1成分(A)100重量部基準で、第2成分は50~250重量部含まれるものであることを特徴とする。
【0010】
具体的には、方向性電磁鋼板の一面または両面に、絶縁被膜形成用組成物を塗布する段階において、方向性電磁鋼板の片面(m2)あたり、絶縁被膜形成用組成物を0.5~6.0g/m2塗布するものであってもよい。
この後、塗布された絶縁被膜形成用組成物を乾燥して、絶縁被膜を形成する段階は、550~900℃の温度範囲で、10~50秒間行われるものであってもよい。
一方、方向性電磁鋼板の一面または両面に、絶縁被膜形成用組成物を塗布する段階の前に、方向性電磁鋼板を製造する段階をさらに含み、方向性電磁鋼板を製造する段階は、鋼スラブを準備する段階と、鋼スラブを熱間圧延して、熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する段階と、冷延板を脱炭焼鈍する段階と、脱炭焼鈍された鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍して1次被膜を含む方向性電磁鋼板を得る段階と、を含み、鋼スラブの組成は、ケイ素(Si):2.7~4.2重量%およびアンチモン(Sb):0.02~0.06重量%を含有し、スズ(Sn):0.02~0.08重量%、クロム(Cr):0.01~0.30重量%、酸可溶性アルミニウム(Al):0.02~0.04重量%、マンガン(Mn):0.05~0.20重量%、炭素(C):0.04~0.07重量%、および硫黄(S):0.001~0.005重量%を含み、窒素(N):10~50ppmを含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物からなるものであってもよい。
【0011】
本発明のさらに他の実施例では、方向性電磁鋼板、および方向性電磁鋼板の一面または両面に位置する絶縁被膜を含み、絶縁被膜は、複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合物を含む第1成分(A)と、平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを含む第2成分(B)と、を含み、第1成分(A)100重量部基準で、第2成分は50~250重量部含まれるものである、絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板を提供する。
【0012】
具体的には、絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板は、800℃で応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)時、Ps/Pbが3.0以下(ただし、0を除く)であり、840℃で応力除去焼鈍時、Ps/Pbが6.0以下(ただし、0を除く)であり、880℃で応力除去焼鈍時、Ps/Pbが8.0以下(ただし、0を除く)であってもよい。
(ただし、Ps/Pbは、それぞれの温度で応力除去焼鈍後、シンクロトロンX線(synchrotron X-ray)で絶縁被膜の結晶化度を測定した結果値に関するもので、ベースラインピーク(Pb)に対するシリカ結晶化ピーク(Ps)の比を意味する。)
一方、方向性電磁鋼板は、ケイ素(Si):2.7~4.2重量%およびアンチモン(Sb):0.02~0.06重量%を含有し、スズ(Sn):0.02~0.08重量%、クロム(Cr):0.01~0.30重量%、酸可溶性アルミニウム(Al):0.02~0.04重量%、マンガン(Mn):0.05~0.20重量%、炭素(C):0.04~0.07重量%、および硫黄(S):0.001~0.005重量%を含み、窒素(N):10~50ppmを含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物からなる方向性電磁鋼板、および1次被膜を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施例によれば、高熱でのSRA後にも優れた張力を維持して、鉄損増加および絶縁性減少の問題を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1および比較例1に対して、SRA処理前、そしてSRA処理後(800、840、および880℃の温度でそれぞれSRA処理)、シンクロトロンX線で被膜の結晶化度を測定したグラフである。
【
図2】市販の方向性電磁鋼板サンプルにおいて、SRA処理時間と温度による鉄損変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔本発明の実施例〕
本発明の実施例では、方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物、これを用いた絶縁被膜の形成方法、および絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板をそれぞれ提供する。
本発明の一実施例では、複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合物を含む第1成分(A)、および平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを含む第2成分(B)を含み、第1成分(A)100重量部基準で、第2成分は50~250重量部含まれるものである、方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物を提供する。
【0016】
本発明の他の実施例では、方向性電磁鋼板の一面または両面に、絶縁被膜形成用組成物を塗布する段階と、塗布された絶縁被膜形成用組成物を乾燥して、絶縁被膜を形成する段階と、を含み、絶縁被膜形成用組成物は、複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合物を含む第1成分(A)と、平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを含む第2成分(B)と、を含み、第1成分(A)100重量部基準で、第2成分は50~250重量部含まれるものである、方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法を提供する。
本発明のさらに他の実施例では、方向性電磁鋼板、および方向性電磁鋼板の一面または両面に位置する絶縁被膜を含み、絶縁被膜は、複合金属リン酸塩、その誘導体、またはこれらの混合物を含む第1成分(A)と、平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを含む第2成分(B)と、を含み、第1成分(A)100重量部基準で、第2成分は50~250重量部含まれるものである、絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板を提供する。
【0017】
本発明の実施例で使用されるリン酸塩は、Mx(H
2
PO4)yの化学式で表されるもので、Mx(PO4)yの化学式で表される金属リン酸塩(metal phosphate)と区別するために、「複合金属リン酸塩」と定義する。
「複合金属リン酸塩」は、リン酸(H3PO4)と、金属水酸化物(Mx(OH)y)または金属酸化物(MxO)との反応を利用して製造され、その具体例としては、後述する実施例で使用される第1リン酸アルミニウム(Al(H
2
PO4)3)および第1リン酸マグネシウム(Mg(H
2
PO4)2)をはじめとして、第1リン酸コバルト(Co(H
2
PO4)2)、第1リン酸カルシウム(Ca(H
2
PO4)2)、第1リン酸亜鉛(Zn(H
2
PO4)2)などがある。
【0018】
以下、本発明の実施例を詳しく説明する。ただし、これは例として提示されるものであり、これによって本発明が制限されず、本発明は後述する請求範囲の範疇によってのみ定義される。
方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物は、1)第1成分によって基本的に絶縁被膜と鋼板との間に接着力を付与しながらも、2)第2成分によって高熱でのSRA後にも優れた張力を維持して、鉄損増加および絶縁性減少の問題を最小化することができる。
具体的には、1)第1成分として含まれる複合金属リン酸塩は、無機物質として、絶縁被膜と鋼板との間に接着力を付与し、SRA後にも耐食性、絶縁性、密着性等絶縁被膜としての基本的な性能が優れて発現するのに寄与する。
【0019】
また、2)第2成分として含まれるコロイダルシリカは、絶縁被膜の張力を向上させる機能をするものである。この時、平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを用いることによって、平均粒径が同一のものを使用する場合に比べて、高温の応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)後、シリカ成分が結晶化される現象を最小化することができる。
具体的には、高熱で長時間SRAを行う場合、通常コロイダルシリカ成分の結晶化が進行して、絶縁被膜の張力が急激に低下することが知られている。このように絶縁被膜の張力が低下すると、鉄損が増加し、磁気的特性が増加して、方向性電磁鋼板の商品性が低下することがある。
【0020】
このような問題を解消するために、第2成分では、平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを用いたのである。より具体的には、通常使用されるものより平均粒径が小さいコロイダルシリカを用いてSRAによる結晶化の問題を解消しようとした。ただし、平均粒径が小さいコロイダルシリカだけで過度に均一なネットワーク構造を形成する場合には、むしろSRAによる結晶化を誘導できて、通常使用される平均粒径のコロイダルシリカを適切に配合した。
さらに、通常使用されるコロイダルシリカは、その製造過程上、ナトリウム成分(Na+)を不可避に含んでいるが、このようなナトリウム成分の含有量が多いほどコロイダルシリカの反応性は高くなるが、ガラス転移温度が低下する傾向があり、SRA後に絶縁被膜の性能を低下させることがある。この点も考慮して、第2成分として使用されるコロイダルシリカは、通常使用されるものより低いナトリウム含有量を有するように調節したものを選択することができる。
【0021】
より具体的には、方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物は、次の考察過程により導出されたものである。
〔I.応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)後の鉄損増加の原因の考察〕
一般に、方向性電磁鋼板は、被膜張力と絶縁を付与する2次コーティング(つまり、絶縁被膜の形成)が行われた後、コイル形態に製造される。このように製造されたコイルは、最終製品の製造時、変圧器の用途および大きさに応じて適当な大きさのフープ(hoop)形態に再加工されて使用される。
例えば、柱上用配電変圧器に使用される巻鉄心変圧器の場合、フープ形態に切られた鉄心を若干の応力を加えて加工するフォーミング(forming)過程が必要になり、このようなフォーミング過程の後に、材料に加えられた応力を除去するために、高温で熱処理、つまり、SRAする過程を経る。
【0022】
したがって、SRAの目的は、フォーミング時に損傷していた鉄損を再び回復する工程と見なすことができる。しかし、従来の製品の場合、応力除去焼鈍後にむしろ鉄損が増加する現象が観察され、このような製品で変圧器に製造された場合、変圧器の無負荷鉄損が増加して変圧器の性能に悪い影響を与えてしまう。
これに関連し、SRA後に鉄損が増加する原因を、素材自体(つまり、方向性電磁鋼板自体)の側面と、その表面の側面で、それぞれ検討してみた。
まず、素材的な側面で、市販の方向性電磁鋼板サンプルを2つ準備して、人為的に2つの形態の応力、具体的には、永久的な変形(Twin)および一時的な変形(Slip)をそれぞれ加えた後、通常の条件下、850℃の温度で2時間SRAを行った。その結果、2つのサンプルとも鉄損が増加する現象を観察することができた。これにより、SRA後に鉄損が増加する現象は、素材および素材に加えられる応力の種類に関係なく発生するものと判断した。
【0023】
一方、表面的な側面で、SRA実行温度、時間、および気体雰囲気の影響を調べるために、下記表1の条件でSRA試験を行い、その結果も表1に記した。また、SRA処理時間と温度による鉄損変化をグラフで表現して、
図2に示した。
具体的には、表1および
図2で、SRA実行温度が高くなるほど、鉄損の増加程度が深刻化し、特に875℃では急激に増加することが確認される。これと独立して、800℃では、SRA実行時間が長くなっても鉄損の増加程度が良好な方であるが、820℃以上でSRA実行時間が長くなるほど鉄損の増加程度が深刻化したことが確認された。また、SRA実行時、気体雰囲気によっては、水素気体が含まれている場合、鉄損の増加程度が深刻化することが確認された。
【表1】
上記の結果から、SRA後、素材自体に欠陥が発生するよりは、表面に欠陥が発生することが、鉄損増加のより直接的な原因と判断することができる。
【0024】
〔II.応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)後の表面欠陥発生の原因の考察〕
より具体的には、SRA後に表面に欠陥が発生する原因を考察するためには、SRA前の方向性電磁鋼板の最表面に位置する絶縁被膜に対する考察が先行される必要がある。通常、絶縁被膜形成用組成物の製造時、目的の絶縁被膜を機能性を様々な物質を配合する。
まず、本発明の一実施例では、主要成分の一つとしてコロイダルシリカを選択し、これは絶縁被膜に張力を付与する役割を果たし、通常の絶縁被膜形成(つまり、乾燥)温度の800℃で、シリカの連鎖反応による縮合反応が起こる。
【0025】
このような反応は、下記化学反応式で表される。具体的には、互いに異なるシリカ(つまり、AおよびB)が連鎖的に縮合反応して、シリカ縮合重合体(つまり、C)が生成される。
【化3】
この時、シリカ縮合重合体(C)は強力なネットワーク構造をなし、これは熱的に非常に安定し、熱による損傷が少ないことが知られている。しかし、これはあくまでも平坦化焼鈍工程の熱処理温度までその安定性が維持されることを意味するものであり、SRA工程の高熱(つまり、先に言及した、850℃の温度)ではその安定性が維持されることは難しい。
【0026】
その理由として、シリカ縮合重合体(C)のネットワーク構造は、SRA工程の高熱で結晶に成長する点が挙げられる。後述するが、
図1に示したように、コロイダルシリカを含む組成物で絶縁被膜を形成し、880℃でSRA実行後、シンクロトロンX線で被膜の結晶化度を測定した時、ベースラインピーク(Pb)に対するシリカ結晶化ピーク(Ps)の比(Ps/Pb)が8.0以上で、結晶化度が非常に高くなったことが確認される。
このように確認された事実から、方向性電磁鋼板用絶縁被膜の特性を、絶縁被膜形成直後の特性およびSRAまで終えた後の特性に区分することができ、絶縁被膜の形成直後には張力および絶縁性に優れていなければならず、SRAまで終えた後には張力の減少が最小化されてこそ、製品への製造時に優れた特性(例えば、変圧器の効率など)が発現できると判断される。
このような判断から、本発明の一実施例では、絶縁被膜形成直後の張力および絶縁性のためにシリカ縮合重合体(C)のネットワーク構造を形成しながらも、SRAまで終えた後の張力の減少を最小化するためには、過度に均一なネットワーク構造の形成を防止する方策を考慮することとした。
【0027】
〔III.コロイダルシリカの粒径およびナトリウム成分の含有量による考察〕
通常、コロイダルシリカは、その平均粒径が小さいほど、反応性が増加することが知られている。そこで、本発明の一実施例では、通常使用されるコロイダルシリカより小さい平均粒径のものを選択して、反応性を向上させてシリカ縮合重合体(C)のネットワーク構造を形成し、絶縁被膜形成直後の張力および絶縁性を改善することとした。
ただし、SRAまで終えた後の張力の減少を最小化するために、過度に均一なネットワーク構造が形成されないように、通常使用される平均粒径のコロイダルシリカを適切に配合して、その反応性を調節し、過度に均一なネットワーク構造を形成しないようにした。
一方、コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム溶液をイオン交換樹脂で処理して製造され、不可避に極微量のナトリウム成分を含むことが知られている。これに関連し、コロイダルシリカの反応性には、その(平均)粒径だけでなく、不可避に不純物として含まれるナトリウム成分も関与し得る。
【0028】
具体的には、コロイダルシリカの平均粒径が小さいほど、そして不可避に不純物として含まれるナトリウム成分の含有量が高いほど、反応性が増加するのである。しかし、コロイド状シリカ内のナトリウム成分の含有量が増加するほどガラス転移温度が低下する傾向があり、ガラス転移温度が900℃より低いことが一般的である。
したがって、本発明の一実施例では、コロイダルシリカ内のナトリウム量を減少させることによって、ガラス転移温度を高めて耐熱性を向上させる方策も考慮した。
【0029】
〔IV.一連の考察により導出された本発明の実施例〕
上記のような一連の考察により、先に提示した本発明の実施例が導出された。
具体的には、方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物は、1)複合金属リン酸塩を含む第1成分によって、基本的に絶縁被膜と鋼板との間に接着力を付与しながらも、2)平均粒径が互いに異なる2種以上のコロイダルシリカを含む第2成分によって、絶縁被膜形成直後の張力および絶縁性を改善し、高熱でのSRA後にも優れた張力を維持して、鉄損増加および絶縁性減少の問題を最小化することができるのである。
【0030】
以下、方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物、これを用いた絶縁被膜の形成方法、および絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板についてより具体的に説明する。
〔方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用組成物〕
まず、第1成分(A)として、第1リン酸マグネシウム(Mg(H
2
PO4)2)および第1リン酸アルミニウム(Al(H
2
PO4)3)の中から選択される1種の複合金属リン酸塩を単独で使用することもできるが、これらを混合して使用してもよい。
後者の場合、第1成分(A)の総量100重量%に対して、第1リン酸アルミニウム(Al(H
2
PO4)3)の含有量が70重量%以上とならないように制限する。これは、範囲以上で、第1リン酸アルミニウム(Al(H
2
PO4)3)内のアルミニウム成分(Al+3)が、第2成分に含まれるコロイダルシリカの結晶化を増加させるからである。
ただし、そのいずれの場合でも、第1成分(A)の総量100重量%に対して、固形分含有量は58~63重量%に限定するが、58重量%以下の場合、第1成分内のフリーリン酸(H3PO4)が増加して、絶縁被膜の形成時に表面吸湿度が増加することが憂慮され、63重量%以上の場合、純リン酸(H3PO4)対比、過剰固形分が析出することが憂慮されるからである。
【0031】
先に簡単に言及したが、第1成分(A)として含まれる複合金属リン酸塩は、金属水酸化物(Mx(OH)y)または金属酸化物(MxO)とリン酸(H3PO4)との反応を利用して製造できる。
例えば、85重量%のフリーリン酸(H3PO4)を含むリン酸水溶液を100重量部基準とし、金属水酸化物(Mx(OH)y)または金属酸化物(MxO)をそれぞれ投入し、80℃以上で反応させると、それぞれの複合金属リン酸塩を得ることができる。
この時、金属水酸化物(Mx(OH)y)または金属酸化物(MxO)の投入量は、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)の場合に1~40重量部、水酸化コバルト(Co(OH)2)の場合に1~10重量部、酸化カルシウム(CaO)の場合に1~15重量部、酸化亜鉛(ZnO)の場合に1~20重量部、酸化マグネシウム(MgO)の場合に1~10重量部で、それぞれリン酸水溶液を100重量部基準としたものである。
【0032】
この時、複合金属リン酸塩による絶縁被膜の密着性を向上させるために、その製造過程でホウ酸を添加し、3時間以上維持することによって、複合金属リン酸塩およびホウ酸の縮合反応を誘導することができる。つまり、先に言及した「複合金属リン酸塩の誘導体」は、複合金属リン酸塩およびホウ酸の縮合反応の生成物を意味する。
ただし、添加されるホウ酸は、複合金属リン酸塩100重量部対比5~7重量部に限定し、3重量部以下の少ない添加量の場合、密着性の向上に寄与するところが少なく、7重量部以上の過剰添加量の場合、析出して絶縁被膜の表面を粗くする原因となるからである。
【0033】
具体的には、複合金属リン酸塩の誘導体は、下記化学構造式1または2で表されるものであってもよい。
【化1】
【化2】
【0034】
一方、第2成分として含まれるコロイダルシリカは、固形分含有量が30重量%、平均粒径が12nmのもの(第1コロイダルシリカ)と共に、固形分含有量が20重量%、平均粒径が5nmのもの(第2コロイダルシリカ)を混合して使用することができる。
これは、先に考察された内容を考慮して、平均粒径が小さい第2コロイダルシリカを用いて絶縁被膜形成直後の特性を改善すると同時に、SRA後の過度の結晶化を防止するために、平均粒径が通常の大きさである第1コロイダルシリカを配合したのである。
この時、第1コロイダルシリカに対する第2コロイダルシリカの重量比率が1:9~9:1、具体的には1:3~3:1となるように配合することができる。これは、第2成分内の第1コロイダルシリカの含有量が10重量%以下の場合、SRA後の結晶性が高くなることが憂慮され、90重量%以上の場合、反応性が低くなって絶縁被膜形成直後の張力が低くなる問題が憂慮されることを考慮したのである。
さらに、第2成分は、第1成分(A)100重量部基準で、50~250重量部含まれるように組成できるが、50重量部以下の場合、絶縁被膜の張力増加効果を期待しにくく、250重量部以上の場合、相対的に第1成分の含有量が少なくなって絶縁被膜の密着性が低下し得るからである。
【0035】
より具体的には、第1成分(A)に対する第2成分の重量比(第2成分/第1成分)は、1.3~1.8であってもよく、この範囲の臨界的意義は、後述する実施例および比較例を対比することによって裏付けられる。
他方、絶縁被膜形成用組成物には、機能性を補強する用途で、酸化クロム、固体シリカ、またはこれらの混合物;がさらに含まれる。
具体的には、第1成分(A)100重量部基準で、酸化クロムは5~15重量部、固体シリカは5~15重量部でそれぞれ使用することができる。
【0036】
〔方向性電磁鋼板の絶縁被膜の形成方法〕
方向性電磁鋼板組成物を用いて、方向性電磁鋼板の一面または両面に、片面あたりの塗布量が0.5~6.0g/m2となるように塗布した後、550~900℃の温度範囲で10~50秒間加熱処理することによって乾燥して、絶縁被膜を形成することができる。
この時、方向性電磁鋼板組成物の塗布時、温度を20±5℃に制御する場合、片面あたりの塗布量が4.0~5.0g/m2で実現され、20℃下の場合、粘度が増加して一定の塗布量を実現しにくく、20℃以上では、組成物内のコロイダルシリカのゲル化現象が加速化して絶縁被膜の表面品質が低下し得るからである。
一方、方向性電磁鋼板としては、仕上げ焼鈍まで行われて1次被膜を有するもので、ケイ素(Si):2.7~4.2重量%およびアンチモン(Sb):0.02~0.06重量%を含有し、スズ(Sn):0.02~0.08重量%、クロム(Cr):0.01~0.30重量%、酸可溶性アルミニウム(Al):0.02~0.04重量%、マンガン(Mn):0.05~0.20重量%、炭素(C):0.04~0.07重量%、および硫黄(S):0.001~0.005重量%を含み、窒素(N):10~50ppmを含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物からなる方向性電磁鋼板、および1次被膜を含むものを選択することができる。
【0037】
〔絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板〕
上記の方法により、絶縁被膜が形成された方向性電磁鋼板は、800℃で応力除去焼鈍(Stress Relief Annealing、SRA)時、Ps/Pbが3.0以下、具体的には2.5以下(ただし、0を除く)であり、840℃で応力除去焼鈍時、Ps/Pbが6.0以下、具体的には5.4以下(ただし、0を除く)であり、880℃で応力除去焼鈍時、Ps/Pbが8.0以下、具体的には7.1以下(ただし、0を除く)であってもよい。
ここで、Ps/Pbは、それぞれの温度で応力除去焼鈍後、シンクロトロンX線(synchrotron X-ray)で絶縁被膜の結晶化度を測定した結果値に関するもので、ベースラインピーク(Pb)に対するシリカ結晶化ピーク(Ps)の比を意味する。
【0038】
より具体的には、絶縁被膜の結晶化度を測定する時、ビームパワーCo Ka(6.93keV)、斜入角1度、step0.02度に限定し、ベースラインピーク(Pb)は14~22度での平均強度または秒あたりの平均強度(counter per second)で決定し、シリカの結晶化ピーク(Ps)は24.5~26度での平均強度または秒あたりの平均強度(counter per second)で決定することができる。
各温度でSRA時、Ps/Pb値は、後述する実施例によって裏付けられる。
【0039】
以下、本発明の好ましい実施例、これに対比される比較例、およびこれらの評価例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
具体的には、(1)同一物性の方向性電磁鋼板(300×60mm)を供試片とし、(2)互いに異なる絶縁被膜形成用組成物を製造し、(3)それぞれ絶縁被膜を形成して、(4)SRA前後の特性を比較評価し、実施例および比較例の如何を決定した。
(1)方向性電磁鋼板の選択
C:0.055重量%、Si:3.1重量%、P:0.033重量%、S:0.004重量%、Mn:0.1重量%、Al:0.029重量%、N:0.0048重量%、Sb:0.03重量%、Mg:0.0005重量%を含み、残部はFeおよびその他不可避に添加される不純物からなるもので、厚さ0.23mmであり、仕上げ焼鈍まで行われて1次被膜を有する方向性電磁鋼板(300×60mm)を供試片として選択した。
【0040】
(2)絶縁被膜形成用組成物の製造
複合金属リン酸塩:本実施例に使用された複合金属リン酸塩は、先に説明したように、金属酸化物および正リン酸(H3PO4)を反応させて、第1アルミニウムリン酸塩および第1マグネシウムリン酸塩をそれぞれ製造した。
この時、それぞれの複合金属リン酸塩(100重量%基準)の固形分は62.5重量%であった。
第1アルミニウムリン酸塩:第1マグネシウムリン酸塩の重量比率が5:5となるように混合した形態の複合金属リン酸塩を、すべてのサンプルに共通に使用した。この時、
コロイダルシリカ:次のようなX~Zの互いに異なるコロイダルシリカを選択した。
X:平均粒径が5nmであり、Xコロイダルシリカ総量100重量%基準で、固形分含有量は20重量%、ナトリウム含有量は0.45重量%であるコロイダルシリカ
Y:平均粒径が12nmであり、Yコロイダルシリカ総量100重量%基準で、固形分含有量は30重量%、ナトリウム含有量は0.29重量%であるコロイダルシリカ
Z:平均粒径が12nmであり、Zコロイダルシリカ総量100重量%基準で、固形分含有量は30重量%、ナトリウム含有量は0.60重量%であるコロイダルシリカ
【0041】
各サンプルの製造:製造された複合金属リン酸塩を選択し、複合金属リン酸塩100重量部基準で、下記表2の組成を満足するように、コロイダルシリカ、酸化クロム、固体シリカ(平均粒径:500~1000nm)を配合して、各サンプルを製造した。
【表2】
表2で、サンプル2および8を除き、サンプル1対比の客観的な性能評価のために、全組成物内の固形分含有量は同一に製造した。一方、サンプル2および8の場合、複合金属リン酸塩およびコロイダルシリカの含有量比を他のサンプルと大きく異ならせて、他のサンプルと区別される物性の変化があるかを確認することとした。
【0042】
(3)絶縁被膜の形成
各サンプルを用いて、方向性電磁鋼板の片面あたり4g/m2の塗布量で塗布し、850℃で30秒間乾燥させて、それぞれ2μmの厚さに絶縁被膜を形成した。
(4)SRA前後の特性比較評価
各サンプルで絶縁被膜が形成された鋼板に対して、下記表3に示しているように、100体積%N2、または95体積%N2、および5体積%H2の混合気体雰囲気で、それぞれ800、840、または875℃に温度を異ならせ、2時間以上熱処理(SRA)した。
【0043】
各SRA前後のサンプルに対して、次の基準で鉄損、絶縁性、および結晶化度を測定し、その結果も下記表3に記した。
また、サンプル4およびサンプル1に対して、SRA処理前、そしてSRA処理後(800、840、および880℃の温度でそれぞれSRA処理)、シンクロトロンX線で被膜の結晶化度を測定して、
図1のグラフで示した。
鉄損:長さ300mm、幅60mmの試片を、単板磁性測定器を用いて、印加磁場1.7T、周波数50Hzで製品およびSRA後の試片の鉄損変化を測定した。
絶縁性:フランクリンテスターにより、300PSIの圧力下、入力0.5V、1.0Aの電流を通した時の収納電流値で表した。
結晶化度:シンクロトロンX線を用いて結晶化度を測定し、この時、条件はビームパワーCo Ka(6.93keV)、斜入角1度、step0.02度に固定した。また、ベースラインピーク(Pb)は14~22度での平均強度または秒あたりの平均強度(counter per second)で決定し、結晶化ピーク(Ps)は24.5~26度での平均強度または秒あたりの平均強度(counter per second)で決定した。
【0044】
【0045】
〔コロイダルシリカの平均粒径による評価〕
まず、表3および
図1の結果に関連し、同一の平均粒径のコロイダルシリカだけを用いたサンプル1とは異なり、互いに異なる平均粒径のコロイダルシリカを用いたサンプル3~7の場合、各温度でのSRA前後の鉄損および絶縁性の側面で優れた特性が現れる。このような特性は、表3の結晶化度によって裏付けられる。
サンプル1の場合、SRA温度が高くなるほど結晶化度値も増加し、特に、880℃の高熱で結晶化度が12.5まで増加する。それに対し、サンプル3~7の場合、SRA後の結晶化度を8.0以下に制御することができ、最大3.0まで抑制することができた。
また、サンプル1は、SRA前に比べてSRA後の鉄損が増加する傾向を示すが、この傾向は絶縁値の変化にも関係する。一般に、SRA時の結晶化度が増加すると、電気伝導性が増加し、絶縁性は低くなり、これをサンプル1が反証する。しかし、サンプル3~7の場合、SRA実行中にシリカの結晶成長を最小化した結果であって、SRA後の絶縁性の低下を最大限に防止することができた。
【0046】
〔コロイダルシリカ内のナトリウム含有量による評価〕
一方、サンプル1およびサンプル4~7の鉄損を比較する時、サンプル4~7でSRA前後の鉄損増加率が少ないか、むしろ減少することが確認される。
これは、サンプル4~7で使用されたコロイダルシリカの場合、サンプル1対比、ナトリウム成分(Na+)の含有量が低くて、反応性が少し低くなる代わりに、ガラス転移温度が高くなって、耐熱性が向上したことに起因するのである。
ここで、コロイダルシリカの反応性が低くなるのは、それだけ強固な絶縁被膜の形成が難しいとの意味で、SRA後に鉄損が増加する恐れがあるが、このような恐れはコロイダルシリカの平均粒径を適切に制御することにより解消できた。
つまり、サンプル4~7では、通常使用される平均粒径の12nmのコロイダルシリカと、それより小さい平均粒径の5nmのコロイダルシリカを適切に配合することによって、反応表面積を増加させた。
これにより、コロイダルシリカ内のナトリウム成分(Na+)の含有量減少による反応性低下の問題を相殺しただけでなく、むしろサンプル1に比べて張力を向上させることができた。
この事実は、表3のSRA前の鉄損測定値を比較した時、サンプル4~7の最も低いものから、立証可能である。
【0047】
〔配合比による評価〕
一方、サンプル4~6は、コロイダルシリカ/複合金属リン酸塩の重量比率が1.3~1.8の範囲に製造されたものである。サンプル7は、この範囲を満足せず、サンプル4~6に比べてすべての評価結果が悪いことが確認される。そこで、コロイダルシリカおよび複合金属リン酸塩の配合比(コロイダルシリカ/複合金属リン酸塩)を範囲に適切に制御する必要があると評価される。
これと同時に、互いに異なる平均粒径のコロイダルシリカの配合比(X/Y)を最適な範囲に導出するために、各配合比を極端に制御したサンプル2、7、および8の特性を確認することができる。
具体的には、X/Yの構成比が1/9~9/1の範囲を満足しない場合、あるいはコロイダルシリカ/複合金属リン酸塩の重量比率が0.5~2.7の範囲を満足しない場合、鉄損や絶縁性の側面で劣る特性が現れた。
【0048】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態に製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。