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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】走行車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20230426BHJP
   B62D 11/04 20060101ALI20230426BHJP
   A01D 34/64 20060101ALI20230426BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B62D11/04 Z
A01D34/64 P
A01B69/00 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019040292
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2020145831
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】萬治 寧大
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-117026(JP,A)
【文献】特開昭63-003679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10-00-20/50
B62D 11/04
A01D 34/64
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の駆動輪と、
前記左右一対の駆動輪を夫々駆動可能な左右一対のモータと、
前記左右一対のモータに対する夫々の操作量を受け付け可能な操作量受付部と、
前記操作量の大小に基づいて、PI制御である第1制御方式で前記モータを駆動する期間、及び、P制御である第2制御方式で前記モータを駆動する期間の双方を含むことが可能な予め設定された制御周期内における、前記PI制御により前記モータを駆動する期間と前記P制御により前記モータを駆動する期間とを設定可能であって、前記モータを駆動する制御方式を前記P制御から前記PI制御に切り替える際は、前記制御周期内における前記P制御により前記モータを駆動する期間の割合を徐々に低減させると共に、前記PI制御により前記モータを駆動する期間の割合を徐々に増大させるように設定する設定部と、
前記設定部による設定結果に基づいて前記モータを駆動可能なモータ駆動部と、
を備える走行車両。
【請求項2】
前記設定部は、前記制御周期内における前記第1制御方式の期間と前記第2制御方式の期間との一方の割合を100%から0%に徐々に低減させると共に、前記第1制御方式の期間と前記第2制御方式の期間との他方の割合を0%から100%に徐々に増大させる請求項1に記載の走行車両。
【請求項3】
前記設定部は、前記モータの回転数が所定の回転数未満の場合に、前記制御周期内における前記第1制御方式の期間を零に設定し、前記モータの回転数が前記所定の回転数以上の場合に、前記制御周期内における前記第2制御方式の期間を零に設定する請求項1又は2に記載の走行車両。
【請求項4】
前記設定部は、前記操作量が当該操作量を受け付けた際の前記モータの回転数を予め設定された変化量よりも増大させるものである場合に、前記制御周期内において、前記第1制御方式の期間と前記第2制御方式の期間との双方を零より大きい値に設定する請求項1又は2に記載の走行車両。
【請求項5】
前記左右一対の駆動輪は、操向輪としても用いられる請求項1からのいずれか一項に記載の走行車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対の駆動輪の夫々を駆動可能な走行車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右一対の駆動輪の夫々が、左右一対のモータで駆動される走行車両が利用されてきた。このような走行車両には、モータに流れる電流を制御するためにPI(Proportional-Integral)制御が利用されるものがある。PI制御は、公知であるので詳細な説明は省略するが、所謂比例動作及び積分動作を組み合わせて制御を行うものである。このようなPI制御を拡張したPID制御を利用して車両の駆動を制御する技術として、例えば下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1は、車両の車輪を駆動するモータの電流をPID制御により制御する車両の制御装置(以下「制御装置」)が記載されている。この制御装置は、操舵にふらつきが生じた場合であっても、車両の挙動を安定させることができるように、走行路の曲率と車両速度から求まるヨーレートから算出した操舵角と運転者によるステアリング操舵角とに基づいて、PID制御の積分項の出力を補正するための積分項補正ゲインを算出する積分項補正ゲイン算出部を有している。特に、積分項補正ゲインは、ヨーレートから算出した操舵角とステアリング操舵角とを比較した結果を時間微分して得られる微分値に基づいて算出され、微分値が大きいほど積分項補正ゲインが小さくなるように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-132406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、走行車両には、左右一対のモータのうち、一方を回転させると共に、他方を停止させて、その場で旋回させるような小回り走行を行うことが可能なものもある。その際、一方のモータに対する運転指示を行う操作レバーはゼロ速付近の低速指示が多くなる。係る場合、特許文献1に記載の技術は、ヨーレートから算出した操舵角とステアリング操舵角とを比較した結果を時間微分して得られる微分値に基づいて積分項補正ゲインが設定されていると、駆動輪がゼロ速(極低速を含む)でロックされ、ユーザに違和感を与える可能性がある。
【0006】
そこで、ユーザに与える違和感を低減することが可能な走行車両が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る走行車両の特徴構成は、左右一対の駆動輪と、前記左右一対の駆動輪を夫々駆動可能な左右一対のモータと、前記左右一対のモータに対する夫々の操作量を受け付け可能な操作量受付部と、前記操作量の大小に基づいて、PI制御である第1制御方式で前記モータを駆動する期間、及び、P制御である第2制御方式で前記モータを駆動する期間の双方を含むことが可能な予め設定された制御周期内における、前記PI制御により前記モータを駆動する期間と前記P制御により前記モータを駆動する期間とを設定可能であって、前記モータを駆動する制御方式を前記P制御から前記PI制御に切り替える際は、前記制御周期内における前記P制御により前記モータを駆動する期間の割合を徐々に低減させると共に、前記PI制御により前記モータを駆動する期間の割合を徐々に増大させるように設定する設定部と、前記設定部による設定結果に基づいて前記モータを駆動可能なモータ駆動部と、を備えている点にある。
【0008】
このような特徴構成とすれば、設定された制御パラメータ(制御ゲイン、各種制限値、制御モードやアルゴリズムの切り替え、マップ、モータの励磁オン&オフ等)を有する制御方式でモータを駆動する際に、ユーザが加減速を行った場合であっても、制御方式の切り替え時に制御パラメータ(特にゲイン)の不連続性を改善することができる。したがって、操作量受付部が受け付けた操作量に応じて、ユーザに違和感を与えることなく、スムーズに走行車両を走行させることが可能となる。
また、このような構成とすれば、PI制御とP制御との間で制御方式を切り替える場合に、走行車両の挙動に関し、ユーザに違和感を与えることなく、スムーズに走行することが可能となる。
【0009】
また、前記設定部は、前記制御周期内における前記第1制御方式の期間と前記第2制御方式の期間との一方の割合を100%から0%に徐々に低減させると共に、前記第1制御方式の期間と前記第2制御方式の期間との他方の割合を0%から100%に徐々に増大させると好適である。
【0010】
このような構成とすれば、制御周期内における第1制御方式の期間と第2制御方式の期間との一方の割合を徐々に低減させると共に、制御周期内における第1制御方式の期間と第2制御方式の期間との他方の割合を徐々に増大させることにより、制御周期内に第1制御方式の期間のみを設けた場合と、制御周期内に第2制御方式の期間のみを設けた場合との間で制御方式を切り替える際に中間状態を作ることができる。したがって、制御方式を切り替える際に制御パラメータの不連続性を緩和し、スムーズな制御方式の切り替えを実現できる。また、このような構成とすれば、公知のDUTY制御のように、制御パラメータを変更できるので、容易に制御することができる。
【0011】
また、前記設定部は、前記モータの回転数が所定の回転数未満の場合に、前記制御周期内における前記第1制御方式の期間を零に設定し、前記モータの回転数が前記所定の回転数以上の場合に、前記制御周期内における前記第2制御方式の期間を零に設定すると好適である。
【0012】
このような構成とすれば、回転数に応じて制御方式を切り替える場合に、走行車両の挙動に関し、ユーザに違和感を与えることなく、スムーズに走行することが可能となる。
【0013】
あるいは、前記設定部は、前記操作量が当該操作量を受け付けた際の前記モータの回転数を予め設定された変化量よりも増大させるものである場合に、前記制御周期内において、前記第1制御方式の期間と前記第2制御方式の期間との双方を零より大きい値に設定するように構成しても良い。
【0014】
このような構成とすれば、加速度に応じて制御方式を切り替える場合に、走行車両の挙動に関し、ユーザに違和感を与えることなく、スムーズに走行することが可能となる。
【0017】
また、前記左右一対の駆動輪は、操向輪としても用いられると好適である。
【0018】
このような構成とすれば、例えば、左右一対の駆動輪のうちの一方を回転させずに、左右一対の駆動輪のうちの他方を回転させて旋回する際でも、路面を傷つけることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】走行車両の斜視図である。
図2】走行車両の電気系統及び動力系統を示す系統図である。
図3】制御周期内において設定されるP制御の期間とPI制御の期間との説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る走行車両は、モータの制御方式を切り替えた際であってもスムーズな走行を行うことができるように構成される。以下、本実施形態の走行車両1について説明する。
【0021】
図1には、本実施形態の走行車両1の一例である乗用電動芝刈機の斜視図が示される。また、図2には、走行車両1の電気系統図及び動力系統図が示される。本実施形態では、走行車両1として芝刈り作業を行いながら圃場を走行する乗用電動芝刈機を例に挙げて説明する。
【0022】
電力制御装置9は、作業(芝刈り作業)を行いながら走行する走行車両1の使用電力を制御する。走行車両1の使用電力には、走行車両1の走行のために利用される電力、走行車両1が行う作業のために利用される電力、走行車両1を利用するユーザのために利用される電力がある。具体的には、走行車両1の走行のために利用される電力は例えば走行車両1が備える左右一対の駆動輪3を夫々駆動するモータ20に供給される電力が相当し、走行車両1が行う作業のために利用される電力は例えば草刈り作業に利用される刈り刃を回転させるモータ(後述する「モーア用モータ130a,130b,130c」)に供給される電力が相当する。また、走行車両1を利用するユーザのために利用される電力は例えばインストルメントパネル99の表示に利用される電力が相当する。電力制御装置9は、このような作業を行う走行車両1に搭載され、各電力を夫々の機能を実行する機能部に適切に分配する。
【0023】
図1及び図2に示されるように、乗用電動芝刈機は、前輪であるキャスタ輪5と後輪である駆動輪3とによって支持される機体4、機体4の後部に配置されたバッテリ23、バッテリ23の前方に配置された運転座席11、運転座席11の後方から立設された転倒保護フレーム12、キャスタ輪5と駆動輪3との間で機体4の下方空間に昇降リンク機構を介して昇降可能に機体4から吊り下げられた作業ユニットの一例であるモーアユニット13を備えている。
【0024】
駆動輪3は走行制御装置2により動作が制御される走行制御ユニット6により駆動され、モーアユニット13はモーア制御装置7により動作が制御される。ここで、キャスタ輪5は左側キャスタ輪5a及び右側キャスタ輪5bからなり、駆動輪3は左側駆動輪3a及び右側駆動輪3bからなる。
【0025】
運転座席11の前方には運転者の足載せ場であるフロアプレートが設けられており、そこからブレーキペダル14が突き出ている。運転座席11の両側には、左操縦レバー8aと右操縦レバー8bが配置されている。さらに、運転座席11の側方に電気制御系のスイッチボタンやスイッチレバー等を有する電気操作パネル18が設けられる。電気操作パネル18には、モーアユニット13を起動させるためのモーアスイッチ及び上述したインストルメントパネル99も配置される。なお、上述した左操縦レバー8a及び右操縦レバー8bは、特に区別する必要がない場合には、操縦レバー8として説明する。
【0026】
本実施形態では、左側駆動輪3aと右側駆動輪3bは、夫々インホイールモータである左側モータ21と右側モータ22からの回転力を動力源としている。左側モータ21はインバータ10を構成する左側給電部41を介して電力が供給され、右側モータ22にはインバータ10を構成する右側給電部42を介して電力が供給される。夫々の供給される電力を変化させることで、回転速度及びトルクの少なくともいずれか一方を変化させることが可能となる。左側駆動輪3aと右側駆動輪3bの回転速度(周速)を互いに相違させることができ、左側駆動輪3aと右側駆動輪3bの回転速度差によって乗用電動芝刈機の方向転換が行われる。
【0027】
走行制御ユニット6は、乗用電動芝刈機の走行及び旋回を制御する機能部であって、本実施形態では上述した左側モータ21、右側モータ22、インバータ10(特に左側給電部41及び右側給電部42)を含んで構成される。インバータ10は、左側モータ21及び右側モータ22の夫々に給電する。インバータ10から出力される電力は、走行制御装置2によって算定される速度指示値(目標値)に対応しているが、走行負荷によって、その実際の回転速度(実速度)が目標値より小さくなった場合には、モータ出力トルクが大きくなるように電力が修正される。一方、例えば下り坂等において、実際の回転速度(実速度)が目標値より大きくなった場合には、モータ出力トルクが小さくなるように電力が修正される。
【0028】
モーアユニット13は、3つの回転ブレード131a,131b,131cを備える。回転ブレード131a,131b,131cは、夫々モーア用モータ130a,130b,130cを駆動源としている。モーア用モータ130a,130b,130cは、インバータ10を構成するモーア給電部43を介して電力供給が行われる。モーア給電部43は、モーア制御装置7により制御される。このモーア制御装置7は、上述した走行制御装置2及び電力制御装置9と共に、制御装置100を構成する。
【0029】
左操縦レバー8aの操作量(揺動角)は左操縦角検出センサ80aにより検出され、右操縦レバー8bの操作量(揺動角)は右操縦角検出センサ80bにより検出される。また、ブレーキペダル14の操作角はブレーキ検出センサ80cにより検出され、モーアスイッチの操作はモーアセンサ80dにより検出される。また、左側駆動輪3aの回転速度は左後輪回転検出センサ70aにより検出され、右側駆動輪3bの回転速度は右後輪回転検出センサ70bにより検出される。また、モーア用モータ130a,130b,130cの回転速度は回転センサ100a,100b,100cにより検出される。各センサの検出結果は制御装置100に伝達され、制御装置100により適宜利用される。
【0030】
走行制御装置2では、操縦レバー8の操作量に基づいて左側モータ21と右側モータ22に供給する電力量が算定される。また、走行制御装置2は、公知のフィードバック制御により、上述した電力量を補正する。すなわち、走行制御装置2は、左側モータ21及び右側モータ22に要求される必要駆動トルク(以下単に必要トルクと略称する)を算出する。必要トルクとは、左操縦レバー8a又は右操縦レバー8bによる操作量に応じて設定される目標回転速度に基づいて算定される制御量では実回転速度が目標回転速度に達しなかった場合に、実速度が目標速度となるために左側モータ21又は右側モータ22に要求されるトルク量を意味している。走行制御装置2は、左操縦角検出センサ80a及び右操縦角検出センサ80bの検出結果に基づく左側駆動輪3a及び右側駆動輪3bの目標回転速度と、左後輪回転検出センサ70aと右後輪回転検出センサ70bとによって得られる左側駆動輪3a及び右側駆動輪3bの実回転速度とから必要トルクを導出する。走行制御装置2は、算定された必要トルクに基づいて、電力量を補正する。
【0031】
次に、本実施形態に係る、モータ20の制御方式の切り替えに係る機能(以下「切替機能」とする)について説明する。切替機能は、駆動輪3、モータ20、操作量受付部51、設定部52、モータ駆動部53の各機能部により実現される。特に、操作量受付部51、設定部52、モータ駆動部53は、上記切替機能に係る処理を行うために、CPUを中核部材としてハードウェア又はソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0032】
駆動輪3は、上述したように機体4に設けられ、本実施形態では左側駆動輪3a及び右側駆動輪3bから構成される。モータ20は、左右一対の駆動輪3を夫々の駆動可能である。モータ20は、上述したように、本実施形態では左側モータ21と右側モータ22とから構成され、左側モータ21が左側駆動輪3aに回転力を入力し、右側モータ22が右側駆動輪3bに回転力を入力する。
【0033】
本実施形態では、左側駆動輪3aと右側駆動輪3bとは、夫々、左側モータ21と右側モータ22とにより、互いに独立して回転力が入力可能に構成され、左側駆動輪3aと右側駆動輪3bとの夫々に入力される回転力の差異に応じて、走行車両1は旋回することが可能となる。したがって、本実施形態では、左右一対の駆動輪3は、操向輪としても用いられる。
【0034】
操作量受付部51は、左右一対のモータ20に対する夫々の操作量を受付可能である。本実施形態では、上述したように運転座席11の両側に、左操縦レバー8aと右操縦レバー8bが配置され、左操縦レバー8aと右操縦レバー8bはユーザにより操作される。したがって、操作量受付部51は、左操縦レバー8aと右操縦レバー8bとからなる操縦レバー8が相当し、操縦レバー8が左右一対のモータ20に対する操作量を受け付ける。
【0035】
設定部52は、操作量の大小に基づいて、モータ20の駆動を制御する所定の制御周期T内における、所定の第1制御パラメータを有する第1制御方式の期間と所定の第2制御パラメータを有する第2制御方式の期間とを設定可能である。操作量とは、上述した操作量受付部51により受け付けられた操作量であって、操作量受付部51から設定部52に伝達される。
【0036】
ここで、本実施形態では、モータ20は公知のPWM(Pulse Width Modulation)制御により駆動される
【0037】
また、本実施形態では一つの制御周期内において互いに異なる2つの制御方式を切り替えてモータ20の駆動を制御可能に構成される。2つの制御方式のうちの一方が、所定の第1制御パラメータを有する第1制御方式で、2つの制御方式のうちの他方が、所定の第2制御パラメータを有する第2制御方式である。本実施形態では、所定の第1制御パラメータを有する第1制御方式は、積分ゲインが所定の第1値であると共に比例ゲインが所定の第2値であるPI制御が用いられ、所定の第2制御パラメータを有する第2制御方式は、積分ゲインが零値であると共に比例ゲインが所定の第3値であるP制御が用いられる。したがって、本実施形態では、設定部52は御周期T内において、PI制御を行う期間とP制御を行う期間とを設定する。ここで、本実施形態における制御パラメータとして、例えば制御ゲイン、各種制限値、制御モードやアルゴリズムの切り替え、マップ、モータの励磁オン&オフ等を用いることが可能である。
【0038】
図3には、設定部52により設定される所定の制御周期Tの一例が示される。PWM制御における制御周期Tは制御周波数に応じて一定値であり、設定部52は図3に示されるように、当該制御周期Tにおいて、P制御の期間tpとPI制御の期間tpiとを設定する。
【0039】
具体的には、図3の(A)の例では、P制御の期間tpが制御周期Tにおける100%の期間に設定され、PI制御の期間tpiが制御周期Tにおける0%で設定される。図3の(B)の例では、P制御の期間tpが制御周期Tにおける75%の期間に設定され、PI制御の期間tpiが制御周期Tにおける25%で設定される。また、図3の(C)の例では、P制御の期間tpが制御周期Tにおける50%の期間に設定され、PI制御の期間tpiが制御周期Tにおける50%で設定される。また、図3の(D)の例では、P制御の期間tpが制御周期Tにおける25%の期間に設定され、PI制御の期間tpiが制御周期Tにおける75%で設定される。更に、図3の(E)の例では、P制御の期間tpが制御周期Tにおける0%の期間に設定され、PI制御の期間tpiが制御周期Tにおける100%で設定される。もちろん、図3は一例であって、制御周期TにおけるP制御の期間tp及びPI制御の期間tpiは、他の割合になるように設定することは可能である。
【0040】
例えば、設定部52は、モータ20の回転数が所定の回転数未満の場合に、制御周期T内におけるPI制御の期間tpiを零に設定し、モータ20の回転数が所定の回転数以上の場合に、制御周期T内におけるP制御の期間tpを零に設定する。モータ20の回転数とは、左側モータ21及び右側モータ22の夫々の所定時間における回転数であって、例えば1000rpmである。
【0041】
ここで、設定部52は、左側モータ21及び右側モータ22の夫々を、互いに独立して制御周期T内におけるPI制御の期間tpi及び制御周期T内におけるP制御の期間tpを設定する。したがって、設定部52は、左側モータ21の回転数が例えば1000rpm未満である場合には、PI制御の期間tpiを図3の(A)のように零に設定し、左側モータ21の回転数が例えば1000rpm以上である場合には、P制御の期間tpを図3の(E)のように零に設定する。同様に、設定部52は、右側モータ22の回転数が例えば1000rpm未満である場合には、PI制御の期間tpiを図3の(A)のように零に設定し、右側モータ22の回転数が例えば1000rpm以上である場合には、P制御の期間tpを図3の(E)のように零に設定する。
【0042】
ここで、図3の(A)の制御状態から図3の(E)の制御状態に切り替える際、すなわち、ある時点で左側モータ21及び右側モータ22を駆動する制御方式をP制御からPI制御に切り替える際に、走行車両1が急加速を行ったり、或いはゼロターン時に路面が傷ついたりすることが想定される。そこで、設定部52は、左側モータ21及び右側モータ22の夫々の駆動する制御方式をP制御からPI制御に切り替える際に、制御周期T内におけるP制御の期間tpの割合を100%から0%に徐々に低減させると共に、PI制御の期間tpiの割合を0%から100%に徐々に増大させると好適である。すなわち、左側モータ21及び右側モータ22の夫々の駆動する制御方式をP制御からPI制御に切り替える際は、設定部52は、図3の(A)の制御状態から図3の(E)の制御状態に切り替える間に、図3の(B)-(D)の制御状態を設けると好適である。
【0043】
モータ駆動部53は、設定部52による設定結果に基づいてモータ20を駆動可能である。設定部52による設定結果とは、上述した設定部52により設定されたモータ20を駆動する制御方式である。したがって、モータ駆動部53には、設定部52により設定されたモータ20を駆動する制御方式が伝達される。このようなモータ駆動部53は、上述した左側給電部41及び右側給電部42が相当する。以上のように構成することで、走行車両1が滑らかに走行することができると共に、駆動輪3がゼロ速(極低速を含む)でロックされることを防止でき、地面に傷が付くことを防止できる。
【0044】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、走行車両1として電動芝刈機を例に挙げて説明したが、走行車両1は、例えば圃場において耕耘作業を行うトラクタであっても良いし、田植機であっても良い。また、圃場において穀稈の刈り取り作業を行うコンバインであっても良いし、播種を行う直播機であっても良いし、薬剤散布等を行う乗用管理機であっても良い。すなわち、走行車両1には、芝刈機、トラクタ、田植機、コンバイン、直播機、乗用管理機が含まれる。もちろん、圃場においてこれらとは異なる作業を行う走行車両1に本発明を適用することも可能である。更には、乗用の走行車両1だけでなく、遠隔操作が可能な走行車両1に適用することも可能である。
【0045】
上記実施形態では、第1制御方式がPI制御であって、第2制御方式がP制御であるとして説明したが、第1制御方式及び第2制御方式は他の制御方式であっても良い。具体的には、第1制御方式及び第2制御方式として、ファジー制御やニューロ制御を用いることが可能であるし、PID制御を用いることも可能である。また、第1制御方式及び第2制御方式は、互いに同じ制御方式を用いて構成し、互いの制御パラメータを変更して構成することも可能である。
【0046】
上記実施形態では、設定部52は、制御周期T内におけるP制御の期間tpの割合を100%から0%に徐々に低減させると共に、PI制御の期間tpiの割合を0%から100%に徐々に増大させるとして説明したが、設定部52は、制御周期T内におけるPI制御の期間tpiの割合を100%から0%に徐々に低減させると共に、P制御の期間tpの割合を0%から100%に徐々に増大させるように構成することも可能である。
【0047】
また、設定部52は、制御周期T内におけるP制御の期間tpの割合及びPI制御の期間tpiの割合を変更することなく固定値とし、制御周期Tを変更するように構成することも可能である。
【0048】
上記実施形態では、設定部52は、左側モータ21の回転数が例えば1000rpm未満である場合には、PI制御の期間tpiを図3の(A)のように零に設定し、左側モータ21の回転数が例えば1000rpm以上である場合には、P制御の期間tpを図3の(E)のように零に設定するとして説明し、右側モータ22の回転数が例えば1000rpm未満である場合には、PI制御の期間tpiを図3の(A)のように零に設定し、右側モータ22の回転数が例えば1000rpm以上である場合には、P制御の期間tpを図3の(E)のように零に設定するとして説明した。この1000rpmは一例であって、他の回転数とすることも可能である。更には、図3の(A)-(E)を、モータ20の回転速度に応じて、順次切り替えるように構成することも可能である。係る場合、モータ20の回転速度が遅い程、図3の(A)のように設定し、モータ20の回転速度が速い程、図3の(E)のように設定すると良い。
【0049】
上記実施形態では、設定部52は、モータ20の回転数が所定の回転数未満の場合に、制御周期T内における第1制御方式の期間を零に設定し、モータ20の回転数が所定の回転数以上の場合に、制御周期T内における第2制御方式の期間を零に設定するとして説明した。例えば、設定部52は、操作量が当該操作量を受け付けた際のモータ20の回転数を予め設定された変化量よりも増大させるものである場合に、制御周期T内において、第1制御方式の期間と第2制御方式の期間との双方を零より大きい値に設定するように構成することも可能である。
【0050】
すなわち、走行車両1を加速させる指示がない場合には図3の(A)の制御方式でモータ20を駆動し、走行車両1を加速させる指示を受けた場合に図3の(E)の制御方式でモータ20を駆動するように構成すると好適である。係る場合、図3の(A)から図3の(E)に切り替える際にも、図3の(B)-(D)を介して、図3の(A)から図3の(E)に切り替えると良い。あるいは、走行車両1を加速させる指示がない場合には図3の(E)の制御方式でモータ20を駆動し、走行車両1を加速させる指示を受けた場合に図3の(A)の制御方式でモータ20を駆動するように構成すると好適である。係る場合、図3の(E)から図3の(A)に切り替える際にも、図3の(D)、(C)、(B)を介して、図3の(E)から図3の(A)に切り替えても良い。なお、「操作量を受け付けた際のモータ20の回転数」とは、操作量を受ける直前のモータ20の回転数が相当する。また、図3の(B)-(D)の切り替えは、加速度を閾値とすると好適である。
【0051】
上記実施形態では、左右一対の駆動輪3は、操向輪として用いられるとして説明したが、左右一対の駆動輪3は、操向輪として用いなくても良い。
【0052】
上記実施形態では、図3の(B)-(D)において、制御周期T内においてP制御の期間tpとPI制御の期間tpiとを設定する場合に、制御周期T内において先にP制御の期間tpを設定し、後にPI制御の期間tpiを設定するように示した。しかしながら、制御周期TにおいてP制御の期間tpとPI制御の期間tpiとを設定する場合に、制御周期T内において先にPI制御の期間tpiを設定し、後にP制御の期間tpを設定するように構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、左右一対の駆動輪の夫々を駆動可能な走行車両に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1:走行車両
3:駆動輪
20:モータ
51:操作量受付部
52:設定部
53:モータ駆動部
T:制御周期
図1
図2
図3