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  • 特許-磁気ディスク基板の研磨方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】磁気ディスク基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20230426BHJP
   B24B 1/00 20060101ALI20230426BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20230426BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20230426BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
G11B5/84 A
B24B1/00 D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019072237
(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公開番号】P2020170578
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】岩田 徹
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-174012(JP,A)
【文献】特開2019-016417(JP,A)
【文献】特開2009-172709(JP,A)
【文献】特開2019-008846(JP,A)
【文献】特開2012-025873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
B24B 1/00
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う磁気ディスク基板の研磨方法であって、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)平均一次粒子径10~150nmのコロイダルシリカAと、平均粒子径200~500nmの粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、水を含有し、
前記コロイダルシリカAに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90質量%であり、
前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、
全シリカ粒子に占める前記コロイダルシリカAの割合が20~80質量%、前記粉砕された湿式法シリカ粒子の割合が20~80質量%であり、前記コロイダルシリカAの平均一次粒子径に対する前記粉砕された湿式法シリカ粒子の平均粒子径の比の値が2.0~15.0であり、前記全シリカ粒子の濃度が2~40質量%である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程、
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程、
(3)コロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項2】
アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う磁気ディスク基板の研磨方法であって、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)平均一次粒子径10~150nmのコロイダルシリカAと、平均粒子径200~500nmの粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、水を含有し、
前記コロイダルシリカAに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90質量%であり、
前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、
全シリカ粒子に占める前記コロイダルシリカAの割合が20~80質量%、前記粉砕された湿式法シリカ粒子の割合が20~80質量%であり、前記コロイダルシリカAの平均一次粒子径に対する前記粉砕された湿式法シリカ粒子の平均粒子径の比の値が2.0~15.0であり、前記全シリカ粒子の濃度が2~40質量%である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程、
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程、
(3)コロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項3】
アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う磁気ディスク基板の研磨方法であって、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)平均一次粒子径10~150nmのコロイダルシリカAと、平均粒子径200~500nmの粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、水を含有し、
前記コロイダルシリカAに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90質量%であり、
前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、
全シリカ粒子に占める前記コロイダルシリカAの割合が20~80質量%、前記粉砕された湿式法シリカ粒子の割合が20~80質量%であり、前記コロイダルシリカAの平均一次粒子径に対する前記粉砕された湿式法シリカ粒子の平均粒子径の比の値が2.0~15.0であり、前記全シリカ粒子の濃度が2~40質量%である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程、
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程、
(3)コロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【請求項4】
前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体である請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項5】
前記アミド基を有する単量体が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドから選ばれる1種または2種以上の単量体である請求項1又は請求項3に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項6】
前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる単量体である請求項2又は請求項3に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項7】
前記研磨剤組成物Aおよび前記研磨剤組成物Bが、酸および/またはその塩をさらに含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【請求項8】
前記研磨剤組成物Aおよび前記研磨剤組成物Bが、酸化剤をさらに含有している請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨方法に関する。特に、磁気記録媒体用基板として広く使用されている、アルミニウムハードディスク基板の研磨方法に関する。中でもアルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨方法に関する。特には、アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。そこで、高記録密度磁気信号の検出感度を向上させる必要があり、磁気ヘッドの浮上高さをより低下し、単位記録面積を縮小する技術開発が進められている。磁気ディスク基板は、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、平滑性および平坦性の向上(表面粗さ、うねり、ロールオフの低減)や表面欠陥の低減(残留砥粒、スクラッチ、突起、ピット等の低減)が厳しく要求されている。
【0003】
このような要求に対して、うねりが小さく、かつロールオフが小さいといった表面品質向上と生産性向上を両立させる観点から、磁気ディスク基板の研磨方法においては、2段階以上の研磨工程を有する多段研磨方式が採用されることが多い(特許文献1)。一般に、多段研磨方式の最終研磨工程、すなわち、仕上げ研磨工程では、表面粗さの低減、スクラッチ、突起、ピット等の傷の低減の観点から、シリカ粒子を含む研磨剤組成物が使用される。一方、それより前の研磨工程(粗研磨工程ともいう)では、生産性向上の観点から、アルミナ粒子を含む研磨剤組成物が使用される場合が多い。
【0004】
しかし、アルミニウムハードディスク基板の研磨を行う場合、アルミナ粒子はアルミニウム合金基板に比べてかなり硬度が高いため、アルミナ砥粒が基板に固着することにより、うねりが悪化し、それが仕上げ研磨に悪影響を与えることが問題になっていた。
【0005】
このような問題の解決策として、粗研磨工程においてコロイダルシリカ含有研磨剤組成物を使用した研磨を行う研磨方法が開示されている(特許文献2~6)。また、コロイダルシリカと粉砕された湿式法シリカ粒子の組み合わせにより研磨速度の向上を図る提案もされている(特許文献7)。
【0006】
また、2種類の研磨スラリーを同一研磨定盤上に順次供給する多段階研磨方法によって、うねりを改善する提案もなされている(特許文献8)。
【0007】
ハードディスクの磁気記録密度向上に伴って、従来よりも表面平滑性の要求が厳しくなっており、うねりやシャローピットの改善が強く求められている。シャローピットは、従来のピットよりも浅く小さなへこみであり、従来のピットが無くなることに加えて、さらにシャローピットを低減することが課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭62-208869号公報
【文献】特開2010-167553号公報
【文献】特表2011-527643号公報
【文献】特開2014-29754号公報
【文献】特開2014-29755号公報
【文献】特開2012-155785号公報
【文献】WO2015/146941号公報
【文献】特開2018-174012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、磁気ディスク基板の研磨工程において、生産性を維持しつつ、基板表面上のうねり、シャローピット、ロールオフをさらに低減することが求められている。
【0010】
そこで本発明は、生産性を維持しつつ、多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面のうねり、シャローピット、ロールオフの低減を実現できる磁気ディスク基板の研磨工程を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明によれば、以下の磁気ディスク基板の研磨方法が提供される。
【0012】
[1] アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う磁気ディスク基板の研磨方法であって、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)平均一次粒子径10~150nmのコロイダルシリカAと、平均粒子径200~500nmの粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、水を含有し、
前記コロイダルシリカAに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90質量%であり、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、全シリカ粒子に占める前記コロイダルシリカAの割合が20~80質量%、前記粉砕された湿式法シリカ粒子の割合が20~80質量%であり、前記コロイダルシリカAの平均一次粒子径に対する前記粉砕された湿式法シリカ粒子の平均粒子径の比の値が2.0~15.0であり、前記全シリカ粒子の濃度が2~40質量%である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程、
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程、
(3)コロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【0013】
[2] アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う磁気ディスク基板の研磨方法であって、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)平均一次粒子径10~150nmのコロイダルシリカAと、平均粒子径200~500nmの粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、水を含有し、
前記コロイダルシリカAに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90質量%であり、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、全シリカ粒子に占める前記コロイダルシリカAの割合が20~80質量%、前記粉砕された湿式法シリカ粒子の割合が20~80質量%であり、前記コロイダルシリカAの平均一次粒子径に対する前記粉砕された湿式法シリカ粒子の平均粒子径の比の値が2.0~15.0であり、前記全シリカ粒子の濃度が2~40質量%である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程、
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程、
(3)コロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【0014】
[3] アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う磁気ディスク基板の研磨方法であって、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う磁気ディスク基板の研磨方法。
(1)平均一次粒子径10~150nmのコロイダルシリカAと、平均粒子径200~500nmの粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、水を含有し、
前記コロイダルシリカAに占める粒子径30~70nmの粒子の割合が10~90質量%であり、前記水溶性高分子化合物が、カルボン酸基を有する単量体アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であり、重量平均分子量が1,000~1,000,000であり、全シリカ粒子に占める前記コロイダルシリカAの割合が20~80質量%、前記粉砕された湿式法シリカ粒子の割合が20~80質量%であり、前記コロイダルシリカAの平均一次粒子径に対する前記粉砕された湿式法シリカ粒子の平均粒子径の比の値が2.0~15.0であり、前記全シリカ粒子の濃度が2~40質量%である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程、
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程、
(3)コロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
【0017】
] 前記カルボン酸基を有する単量体が、アクリル酸またはその塩、メタクリル酸またはその塩から選ばれる単量体である前記[]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0018】
] 前記アミド基を有する単量体が、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドから選ばれる1種または2種以上の単量体である前記[]又は前記[]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0019】
] 前記スルホン酸基を有する単量体が、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩から選ばれる単量体である前記[]又は前記[]に記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0020】
] 前記研磨剤組成物Aおよび前記研磨剤組成物Bが、酸および/またはその塩をさらに含有し、pH値(25℃)が0.1~4.0の範囲にある前記[1]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【0021】
] 前記研磨剤組成物Aおよび前記研磨剤組成物Bが、酸化剤をさらに含有している前記[1]~[]のいずれかに記載の磁気ディスク基板の研磨方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、多段研磨方式における粗研磨工程後の、基板表面上のうねり、シャローピット、ロールオフが低減された基板を、生産性よく製造できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】基板の表面を研磨した場合のロールオフの測定について説明するための基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0026】
本発明は、多段研磨方式における粗研磨工程と仕上げ研磨工程とを含む磁気ディスク基板の研磨方法において、前記粗研磨工程を同一の研磨機において、特定のコロイダルシリカAと粉砕された湿式法シリカ粒子と水溶性高分子化合物と、水を含有する研磨剤組成物Aを用いる前段の粗研磨と、前段の粗研磨後のリンス処理と、前記リンス処理後のコロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bを用いる後段の粗研磨を行うことにより、研磨速度を維持しつつ、粗研磨工程後の基板表面上のうねりとシャローピットとロールオフを低減できるという知見に基づく。
【0027】
以下に、本発明の基板研磨方法を説明する。本発明の基板研磨方法における被研磨基板は、磁気ディスク基板であり、好適にはニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板である。
【0028】
本発明の磁気ディスク基板の研磨方法は、下記(1)~(3)の工程を有し、各工程(1)~(3)を同一研磨機で行う方法である。
(1)平均一次粒子径10~150nmのコロイダルシリカAと、平均粒子径200~500nmの粉砕された湿式法シリカ粒子と、水溶性高分子化合物と、水を含有し、全シリカ粒子に占める前記コロイダルシリカAの割合が20~80質量%、前記粉砕された湿式法シリカ粒子の割合が20~80質量%であり、前記コロイダルシリカAの平均一次粒子径に対する前記粉砕された湿式法シリカ粒子の平均粒子径の比の値が2.0~15.0であり、前記全シリカ粒子の濃度が2~40質量%である研磨剤組成物Aを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の前段の研磨を行う工程、
(2)工程(1)で得られた前記磁気ディスク基板をリンス処理する工程、
(3)コロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bを研磨機に供給して、前記磁気ディスク基板の後段の研磨を行う工程。
各工程について、具体的に以下で説明する。
【0029】
工程(1):前段の研磨
本発明の磁気ディスク基板の基板研磨方法は、多段研磨方式における粗研磨工程で、コロイダルシリカAと粉砕された湿式法シリカ粒子と水溶性高分子化合物と、水を含有する研磨剤組成物Aを被研磨基板の研磨対象面に供給し、研磨対象面に研磨パッドを接触させ、研磨パッドおよび/または被研磨対象基板を動かして研磨対象面を研磨する工程(1)を有する。工程(1)で使用される研磨機としては、特に限定されず、磁気ディスク基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0030】
工程(2):リンス処理
多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面上のうねりを低減する観点から、本発明の磁気ディスク基板の基板研磨方法は、前記工程(1)の後に、同一の研磨機において、工程(1)で得られた基板をリンス処理する中間リンス工程(工程(2))を有する。リンス処理に用いるリンス液としては、特に制限されないが、製造コストの点からは蒸留水、イオン交換水、純水、および超純水等の水が使用され得る。また、工程(2)は、生産性の観点から、工程(1)で使用した研磨機から被研磨基板を取り出すことなく、同じ研磨機内で行う。工程(2)は、具体的には、リンス液を被研磨基板の研磨対象面に供給し、被研磨基板を動かして研磨対象面をリンス処理することを含み得る。なお、本発明において、リンス処理とは、基板表面に残留した砥粒、研磨屑を排出することを目的とした処理をいい、基板表面を平坦化するために、基板表面を溶解しながら砥粒で削る(化学機械研磨)研磨処理とは異なる処理をいう。
【0031】
工程(3):後段の研磨
本発明の基板研磨方法は、多段研磨方式における粗研磨工程後の基板表面上のうねりを低減する観点から、コロイダルシリカBおよび水を含有する研磨剤組成物Bをリンス処理工程(2)で得られた基板の研磨対象面に供給し、研磨対象面に研磨パッドおよび/または被研磨基板を動かして研磨対象面を研磨する工程(3)を有する。生産性向上の観点、および粗研磨工程後の基板表面上のうねり低減の観点から、工程(1)~(3)は、同一の研磨機、研磨パッドで連続して行う。
【0032】
本発明の基板研磨方法は、アルミニウム合金基板の表面にニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用基板の研磨を多段研磨方式で行う際に、最終研磨工程よりも前の研磨工程で行う方法として利用することができる。本発明の基板研磨方法は、前述の、多段研磨方式における前段の粗研磨工程(1)、リンス処理工程(2)、後段の粗研磨工程(3)において、前段の粗研磨工程(1)で使用する研磨剤組成物が特定のコロイダルシリカAと粉砕された湿式法シリカ粒子と水溶性高分子化合物を含有することにより、粗研磨工程後の基板表面上のシャローピットとうねりとロールオフが効果的に低減された基板を効率的に製造するものである。以下に、本発明の基板研磨方法で使用される研磨剤組成物について説明する。
【0033】
(A)研磨剤組成物A
本発明の基板研磨方法の工程(1)で使用する研磨剤組成物Aは、コロイダルシリカAおよび粉砕された湿式法シリカ粒子を含有する水系組成物であり、水溶性高分子化合物を必須成分として含有する。ここで、水溶性高分子化合物は、(a)カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体、(b)カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体、(c)カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体とを必須単量体とする共重合体であることが好ましい。尚、研磨剤組成物Aは、さらにpH調整のために、または任意成分として、酸および/またはその塩を含有してもよい。また、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。
【0034】
(A-1)コロイダルシリカA
本発明の研磨剤組成物Aに含有されるコロイダルシリカAは、平均一次粒子径は通常10~150nmであり、好ましくは20~100nmである。平均一次粒子径が10nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。平均一次粒子径が150nm以下であることにより、うねりやシャローピットなどの表面平滑性の悪化を抑制することができる。好ましくは、コロイダルシリカAに占める30~70nmの粒子の割合が10~90体積%、さらに好ましくは12~80体積%であることにより、うねりやシャローピットなどの表面平滑性をさらに良好にできる。
【0035】
コロイダルシリカは、球状、鎖状、金平糖型(表面に凸部を有する粒子状)、異形型などの形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。本発明で使用されるコロイダルシリカAとしては、球状、または球状に近いコロイダルシリカが好ましい。球状または球状に近いコロイダルシリカを用いることで、シャローピットなどの表面平滑性を向上させることができる。
【0036】
コロイダルシリカAは、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムを原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させて粒子を成長させる水ガラス法、テトラエトキシシラン等のアルコキシシランを酸またはアルカリでの加水分解による縮合反応によって粒子を成長させるアルコキシシラン法などによって得られる。
【0037】
(A-2)湿式法シリカ粒子
本発明の研磨剤組成物Aに含有される湿式法シリカ粒子は、ケイ酸アルカリ水溶液と無機酸または無機酸水溶液とを反応容器に添加することにより、沈殿ケイ酸として得られる湿式法シリカから調製される粒子のことを指しており、湿式法シリカ粒子には、上述のコロイダルシリカは含まれない。
【0038】
湿式法シリカの原料であるケイ酸アルカリ水溶液としては、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸カリウム水溶液、ケイ酸リチウム水溶液などが挙げられるが、一般的にはケイ酸ナトリウム水溶液が好ましく使用される。無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等を挙げることができるが、一般的には硫酸が好ましく使用される。反応終了後、反応液を濾過、水洗し、その後乾燥機で水分が6%以下になるように乾燥を行う。乾燥機は静置乾燥機、噴霧乾燥機、流動乾燥機のいずれでもよい。その後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、さらに分級を行い、湿式法シリカ粒子を得る。このように粉砕工程により粉砕された湿式法シリカ粒子の粒子形状は、角部を有しており、球状に近い粒子よりも研磨能力が高い。
【0039】
湿式法シリカ粒子の平均粒子径は、通常200~500nmであり、好ましくは250~400nmである。平均粒子径が200nm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。平均粒子径が500nm以下であることによりうねりやシャローピットなどの表面平滑性の悪化を抑制することができる。
【0040】
湿式法シリカ粒子の平均粒子径(b)とコロイダルシリカAの平均一次粒子径(a)の比の値(b/a)は2.0~15.0であり、好ましくは2.5~12.0であり、さらに好ましくは3.0~10.0である。平均粒子径の比が2.0以上であることにより、研磨速度を向上させることができる。平均粒子径の比が15.0以下であることにより、うねりやシャローピットなどの表面平滑性の悪化を抑制することができる。
【0041】
コロイダルシリカAと湿式法シリカ粒子の合計濃度は、研磨剤組成物Aの2~40質量%であり、好ましくは3~30質量%である。シリカ粒子の合計濃度が2質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。シリカ粒子の合計濃度が40質量%以下であることにより、必要以上のシリカ粒子を使用することなく、十分な研磨速度を維持することができる。
【0042】
全シリカ粒子に占めるコロイダルシリカAの割合は、20~80質量%であり、好ましくは30~70質量%である。コロイダルシリカAの割合が20質量%以上であることにより、うねりやシャローピットなどの表面平滑性の悪化を抑制することができる。コロイダルシリカAの割合が80質量%以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0043】
全シリカ粒子に占める湿式法シリカ粒子の割合は、20~80質量%であり、好ましくは30~70質量%である。湿式法シリカ粒子の割合が80質量%以下であることにより、表面平滑性の悪化を抑制することができる。湿式法シリカ粒子の割合が20質量%以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0044】
研磨剤組成物Aは、コロイダルシリカAおよび湿式法シリカ粒子以外のシリカ粒子を含有してもよい。例えば、ヒュームドシリカを含有してもよい。ヒュームドシリカは、揮発性シラン化合物(一般的には四塩化ケイ素が用いられる。)を酸素と水素の混合ガスの炎の中(1000℃内外)で加水分解させたもので、極めて微細で高純度なシリカ粒子である。コロイダルシリカと比べると、コロイダルシリカが個々に分散した一次粒子として存在するのに対し、ヒュームドシリカは一次粒子が多数凝集し、鎖状につながり二次粒子を形成している。この二次粒子の形成により、研磨パッドへの保持力が高くなり、研磨速度を向上させることができる。
【0045】
(A-3)水溶性高分子化合物
研磨剤組成物Aに含有される水溶性高分子化合物は、(a)カルボン酸基を有する単量体およびアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体、(b)カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体、(c)カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体のいずれかであることが好ましい。
【0046】
(A-3-1)カルボン酸基を有する単量体
カルボン酸基を有する単量体としては、不飽和脂肪族カルボン酸およびその塩が好ましく用いられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0047】
(A-3-2)アミド基を有する単量体
アミド基を有する単量体の具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどを使用することができる。N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドの具体例としては、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-iso-プロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-iso-ブチルアクリルアミド、N-sec-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-iso-プロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-iso-ブチルメタクリルアミド、N-sec-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0048】
(A-3-3)スルホン酸基を有する単量体
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。好ましくは、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。
【0049】
(A-3-4)共重合体
研磨剤組成物Aに含有される水溶性高分子化合物は、共重合体であることが好ましい。水溶性高分子化合物が、(a)カルボン酸基を有する単量体とアミド基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の場合、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は50~95mol%が好ましく、60~93mol%がさらに好ましい。アミド基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~50mol%が好ましく、7~40mol%がさらに好ましい。(b)カルボン酸基を有する単量体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の場合、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は30~95mol%が好ましく、40~90mol%がさらに好ましい。スルホン酸基を有する単量体の割合は5~70mol%が好ましく、10~60mol%がさらに好ましい。(c)カルボン酸基を有する単量体、アミド基を有する単量体、およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体の場合、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、50~95mol%が好ましく、60~93mol%がより好ましく、70~90mol%がさらに好ましい。アミド基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、1~40mol%が好ましく、3~30mol%がより好ましく、5~20mol%がさらに好ましい。スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、0.01~20mol%が好ましく、0.1~10mol%がより好ましく、0.2~5mol%がさらに好ましい。
【0050】
(A-3-5)水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。上記水溶液重合の重合溶媒としては、水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。また、上記単量体成分の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。上記有機溶媒としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
以下に、上記水性溶媒を用いた水溶性高分子化合物の製造方法を説明する。重合反応では、公知の重合開始剤を使用できるが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類等の油溶性過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの過酸化物系のラジカル重合開始剤は、1種類のみ使用しても、または2種類以上併用してもよい。上述した過酸化物系のラジカル重合開始剤の中でも、生成する水溶性高分子化合物の分子量の制御が容易に行えることから、過硫酸塩やアゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルが特に好ましい。
【0052】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、水溶性高分子化合物の全単量体合計質量に基づいて、0.1~15質量%、特に0.5~10質量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1質量%以上にすることにより、共重合率を向上させることができ、15質量%以下とすることにより、水溶性高分子化合物の安定性を向上させることができる。
【0053】
また、場合によっては、水溶性高分子化合物は、水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記の過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組み合わせを挙げることができる。
【0054】
水溶性高分子化合物の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-プロパンチオール、2-メルカプトエタノールおよびチオフェノール等が挙げられる。
【0055】
水溶性高分子化合物を製造する際の重合温度は、特に制限されないが、重合温度は60~100℃で行うのが好ましい。重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が円滑に進行し、かつ生産性優れるものとなり、100℃以下とすることで、着色を抑制することができる。
【0056】
また、重合反応は、加圧または減圧下に行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。重合時間は2~20時間、特に3~10時間で行うことが好ましい。
【0057】
重合反応後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行う。中和に使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
【0058】
(A-3-6)重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、1,000~1,000,000であり、好ましくは2,000~800,000であり、さらに好ましくは3,000~600,000である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものである。水溶性高分子化合物の重量平均分子量が、1,000未満の場合は、研磨後のうねりが悪化する。また1,000,000を超える場合には、水溶液の粘度が高くなり取扱いが困難になる。
【0059】
(A-3-7)濃度
研磨剤組成物A中の水溶性高分子化合物の濃度は、固形分換算で0.0001~3.0質量%であり、好ましくは0.0005~2.0質量%であり、さらに好ましくは0.001~1.0質量%である。水溶性高分子化合物の濃度が0.0001質量%より少ない場合には、水溶性高分子化合物の添加効果が十分に得られず、3.0質量%より多い場合には、水溶性高分子化合物の添加効果は頭打ちとなり、必要以上の水溶性高分子化合物を添加することになるので、経済的でない。
【0060】
(A-4)酸および/またはその塩
研磨剤組成物Aでは、pH調整のために、または任意成分として、酸および/またはその塩を使用することができる。使用される酸および/またはその塩としては、無機酸および/またはその塩と有機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0061】
無機酸および/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0062】
有機酸および/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸および/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸および/またはその塩、有機ホスホン酸および/またはその塩が挙げられる。これらの酸および/またはその塩は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0063】
有機ホスホン酸および/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、およびその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0064】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩の組み合わせ、リン酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩の組み合わせなどが挙げられる。
【0065】
(A-5)酸化剤
研磨剤組成物Aは、研磨促進剤として酸化剤を含有してもよい。酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0066】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸およびその塩、次亜塩素酸及びその塩などが好ましく、さらに好ましくは過酸化水素である。
【0067】
研磨剤組成物A中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましい。より好ましくは0.1~5.0質量%である。
【0068】
(A-6)研磨剤組成物Aの物性(pH)
研磨剤組成物AのpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~4.0である。より好ましくは0.5~3.0である。研磨剤組成物AのpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。研磨剤組成物AのpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0069】
(B)研磨剤組成物B
本発明の基板研磨方法の工程(3)で使用する研磨剤組成物Bは、コロイダルシリカBを含有する水性組成物であり、水溶性高分子化合物は任意成分として含有するものである。さらに、酸および/またはその塩、酸化剤などを含有してもよい。
【0070】
(B-1)コロイダルシリカB
研磨剤組成物Bに含有されるコロイダルシリカBは、平均粒子径(D50)が10~150nmであることが好ましい。より好ましくは20~100nmである。コロイダルシリカは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、当該原料を水溶液中で縮合反応させて粒子を成長させる水ガラス法で得られる。またはテトラエトキシシラン等のアルコキシシランを原料とし、当該原料をアルコール等の水溶性有機溶媒を含有する水中で、酸またはアルカリでの加水分解による縮合反応によって粒子を成長させるアルコキシシラン法によっても得られる。
【0071】
コロイダルシリカは球状、鎖状、金平糖型、異形型などの形状が知られており、水中に一次粒子が単分散してコロイド状をなしている。研磨剤組成物Bに含有されるコロイダルシリカBとしては、球状または球状に近いコロイダルシリカが特に好ましい。
【0072】
研磨剤組成物B中のコロイダルシリカBの濃度は、0.1~20質量%であることが好ましい。より好ましくは0.2~10質量%である。
【0073】
(B-2)水溶性高分子化合物
研磨剤組成物Bは、任意成分として水溶性高分子化合物を含有することができる。研磨剤組成物Bに含有される水溶性高分子化合物は、カルボン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする重合体とを含む混合物および/またはカルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体であることが好ましい。それぞれの単量体の具体例としては、研磨剤組成物Aの場合と同様の化合物を挙げることができる。
【0074】
(B-2-1)カルボン酸基を有する単量体
カルボン酸基を有する単量体としては、不飽和脂肪族カルボン酸およびその塩が好ましく用いられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0075】
(B-2-2)スルホン酸基を有する単量体
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、およびこれらの塩などが挙げられる。
【0076】
(B-2-3)アミド基を有する単量体
その他の単量体としては、アミド基を有する単量体も使用することができる。具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0077】
(B-2-4)構成単位の割合
水溶性高分子化合物中の、カルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~95mol%が好ましく、8~92mol%がより好ましく、10~90mol%がさらに好ましい。スルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、5~95mol%が好ましく、8~92mol%がより好ましく、10~90mol%がさらに好ましい。上記の割合は、重合体の混合物の場合は、混合物全体としてカルボン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合およびスルホン酸基を有する単量体に由来する構成単位の割合の好ましい範囲を示している。
【0078】
(B-2-5)水溶性高分子化合物の製造方法
水溶性高分子化合物の製造方法は、研磨剤組成物Aの場合と同様に、水溶液重合法が好ましく、水溶液重合法によれば、均一な溶液として水溶性高分子化合物を得ることができる。具体的には、水性溶媒を用いてラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合により水溶性高分子化合物を製造する方法が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、過硫酸塩、水溶性過酸化物、油溶性過酸化物、アゾ化合物、などが挙げられる。また、開始剤として、水溶性レドックス系重合開始剤を用いてもよい。水溶性高分子化合物の分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。重合反応終了後、必要に応じて塩基性化合物で中和を行ってもよい。
【0079】
(B-2-6)重量平均分子量
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、1,000~1,000,000であり、好ましくは2,000~800,000であり、さらに好ましくは3,000~600,000である。なお、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸換算で測定したものである。上記の重量平均分子量の範囲は、水溶性高分子化合物が重合体の混合物の場合は、混合物全体の重量平均分子量の好ましい範囲である。
【0080】
(B-2-7)濃度
水溶性高分子化合物の研磨剤組成物B中の濃度は、固形分換算で0.0001~3.0質量%であり、好ましくは0.0005~2.0質量%であり、さらに好ましくは0.001~1.0質量%である。
【0081】
(B-3)酸および/またはその塩
研磨剤組成物Bは、pH調整のために、または任意成分として、酸および/またはその塩を使用することができる。使用される酸および/またはその塩としては、無機酸および/またはその塩と有機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0082】
無機酸および/またはその塩としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の無機酸および/またはその塩が挙げられる。
【0083】
有機酸および/またはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸および/またはその塩、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸等のカルボン酸および/またはその塩、有機ホスホン酸および/またはその塩が挙げられる。これらの酸および/またはその塩は、1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0084】
有機ホスホン酸および/またはその塩としては、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、およびその塩から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。
【0085】
上記の化合物は、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい実施態様であり、具体的には、硫酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩との組み合わせ、リン酸および/またはその塩と有機ホスホン酸および/またはその塩の組み合わせなどが挙げられる。
【0086】
(B-4)酸化剤
研磨剤組成物Bは、任意成分として酸化剤を含有することができる。研磨剤組成物Bに含有することができる酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、ハロゲンオキソ酸またはその塩、酸素酸またはその塩、これらの酸化剤を2種以上混合したもの等を用いることができる。
【0087】
具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、過酸化カリウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸の金属塩、ジクロム酸の金属塩、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。中でも過酸化水素、過硫酸およびその塩、次亜塩素酸およびその塩などが好ましく、さらに好ましくは過酸化水素である。
【0088】
研磨剤組成物B中の酸化剤含有量は、0.01~10.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05~5.0質量%である。
【0089】
(B-5)研磨剤組成物Bの物性(pH)
研磨剤組成物BのpH値(25℃)の範囲は、好ましくは0.1~4.0である。より好ましくは、0.5~3.0である。研磨剤組成物BのpH値(25℃)が0.1以上であることにより、表面荒れを抑制することができる。研磨剤組成物BのpH値(25℃)が4.0以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【実施例
【0090】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲に属する限り、種々の態様で実施できることはいうまでもない。
【0091】
[研磨剤組成物の調製方法]
実施例1~6、参考例1、比較例1~9で使用した研磨剤組成物は、前段研磨に於いては、表1に記載の材料を、表1に記載の含有量で含んだ研磨剤組成物である。後段研磨に於いては、表2に記載の材料を、表2に記載の含有量で含んだ研磨剤組成物である。尚、表1でアクリル酸の略号をAA、N-tert-ブチルアクリルアミドの略号をTBAA、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の略号をATBSとした。また、各実施例、参考例、及び各比較例の研磨試験の結果を表3に示した。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
[湿式法シリカ粒子の平均粒子径]
湿式法シリカ粒子の平均粒子径は、動的光散乱式粒度分析測定装置(日機装(株)製、マイクロトラックUPA)を用いて測定した。湿式法シリカ粒子の平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。
【0095】
[コロイダルシリカの粒子径]
コロイダルシリカの粒子径(Heywood径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、透過型電子顕微鏡 JEM2000FX(200kV)を用いて倍率10万倍の視野を撮影し、この写真を解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて解析することによりHeywood径(投射面積円相当径)として測定した。コロイダルシリカの平均粒子径は前述の方法で2000個程度のコロイダルシリカの粒子径を解析し、小粒径側からの積算粒径分布(累積体積基準)が50%となる粒子径を上記解析ソフト(マウンテック(株)製、Mac-View Ver.4.0)を用いて算出した平均粒子径(D50)である。
【0096】
[重量平均分子量]
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリアクリル酸換算で測定したものであり、以下にGPC測定条件を示す。
【0097】
[GPC条件]
カラム:G4000PWXL(東ソー(株)製)+G2500PWXL(東ソー(株)製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1(容積比)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出:210nm(UV)
サンプル:濃度5mg/ml(注入量100μl)
検量線用ポリマー:ポリアクリル酸 分子量(ピークトップ分子量:Mp)11.5万、2.8万、4100、1250(創和科学(株)、American Polymer Standards Corp.)
【0098】
[研磨条件]
無電解ニッケル-リンめっきされた外径95mmのアルミディスクを研磨対象として、下記研磨条件で研磨を行った。
【0099】
[前段研磨条件]
研磨機:SPEEDFAM(社)製、9B両面研磨機
研磨パッド:(株)FILWEL社製、P1パッド
定盤回転数:上定盤 -7.7rpm
下定盤 23.5rpm
研磨剤組成物供給量: 90ml/min
研磨時間:研磨量が1.2~1.5μm/片面となる時間まで研磨する(240~720秒)。
加工圧力: 120g/cm
尚、前段研磨では、研磨剤組成物Aを使用した。
【0100】
[リンス条件]
研磨機:前段研磨と同じ
研磨パッド:前段研磨と同じ
定盤回転数:前段研磨と同じ
リンス液供給量:3リットル/min
リンス時間:20秒
加工圧力:120g/cm
尚、リンス液には純水を使用した。
【0101】
[後段研磨条件]
研磨機:前段研磨と同じ
研磨パッド:前段研磨と同じ
定盤回転数:前段研磨と同じ
研磨剤組成物供給量:90ml/min
研磨時間:40秒
加工圧力:120g/cm
尚、後段研磨では、研磨剤組成物Bを使用した。上記研磨条件で研磨試験を行った結果を表3に示す。ただし、比較例7~9では、後段研磨を実施しなかった。
【0102】
[研磨速度比]
研磨速度比は、研磨後に減少したアルミディスクの質量を測定し、下記式に基づいて算出した。
研磨速度(μm/min)=アルミディスク質量減少量(g)/研磨時間(min)/アルミディスク片面の面積(cm)/無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度(g/cm/2×10
(ただし、上記式中、アルミディスク片面の面積は65.9cm、無電解ニッケル-リンめっき皮膜の密度は、8.0g/cm
研磨速度比は、上記式を用いて求めた比較例2の研磨速度を1(基準)とした場合の相対値である。
【0103】
[うねり]
アルミディスクのうねりは、アメテック社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した。測定条件は、アメテック社製の測定装置(New View 8300(レンズ:1.4倍、ズーム:1.0倍)、波長は、100~500μmおよび500~1000μmとし、測定エリアは、6mm×6mmとし、アメテック社製の解析ソフト(Mx)を用いて解析を行った。
【0104】
[シャローピット]
シャローピットは、アメテック社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡(New View 8300)を用いて測定した。
測定条件は以下の通りである。
レンズ 1.4倍
ZOOM 0.5倍
1視野の測定エリア 12mm×12mm
Measurement Type Surface
Measurement Mode CSI
Scan Length 5μm
【0105】
アルミディスク全体をカバーする1辺が95mmの正方形を設定し、それを100区画に分け、95mm径のアルミディスク表面を全てスキャンした。その際、各スキャンデータは20%オーバーラップする設定とした。得られた各スキャンデータをつなぎ合せ、アルミディスク全面を観察した。各区画を観察する際には、マウスで拡大しながらシャローピットの有無を確認した。アルミディスク全面を観察した結果、シャローピットがほとんど認められない場合に「○(良)」と評価した。シャローピットが若干認められた場合に「△(可)」と評価した。シャローピットが多数認められた場合に「×(不可)」と評価した。
【0106】
[ロールオフ比]
端面形状の評価として、端面だれの度合いを数値化したロールオフを測定した。ロールオフはアメテック社製の測定装置(New View 8300(レンズ:1.4倍、ズーム:1.0倍)とアメテック社製の解析ソフト(Metro Pro)を用いて測定した。
【0107】
ロールオフの測定方法について図1を用いて説明する。図1は、研磨の対象物である無電解ニッケル-リンめっきをした外径95mmのアルミディスクの、ディスクの中心を通過し研磨した表面に対して垂直な断面図を表す。ロールオフの測定にあたり、まずディスクの外周端に沿って垂線hを設け、垂線hから研磨した表面上のディスクの中心に向かって垂線hに対して平行で垂線hからの距離が3.90mmである線jを設け、ディスクの断面の線が線jと交わる位置を点Aとした。また、垂線hに対して平行で垂線hからの距離が0.30mmである線kを設け、ディスクの断面の線が線kと交わる位置を点Bとした。点Aと点Bを結んだ線mを設け、さらに線mに垂直な線tを設け、ディスクの断面の線が線tと交わる位置を点C、線mが線tと交わる位置を点Dとした。そして、点C-D間の距離が最大となるところでの距離をロールオフとして測定した。
【0108】
ロールオフ比は、上記方法を用いて測定した比較例2のロールオフを1(基準)とした場合の相対値である。
【0109】
【表3】
【0110】
[考察]
実施例1,2,3と比較例1の対比、参考と比較例2の対比、および実施例と比較例3の対比から、水溶性高分子化合物を含有することにより、研磨速度が向上し、ロールオフも改善されることがわかる。なお、実施例2と実施例3は、実施例1の水溶性高分子化合物の組成を変更したものである。参考は、実施例1のコロイダルシリカA中の粒子径30~70nmの粒子の割合を変更したものである。実施例は、実施例1のコロイダルシリカAの平均粒子径と湿式法シリカ粒子の平均粒子径を変更したものである。
【0111】
実施例1と比較例5の対比により、湿式法シリカ粒子の割合が20質量%以上であることにより、研磨速度が向上し、ロールオフも改善されることがわかる。実施例1と比較例6の対比により、コロイダルシリカAの割合が20質量%以上であることにより、シャローピットは顕著に減少し、うねりも改善されることがわかる。実施例と比較例4の対比により、湿式法シリカ粒子の平均粒子径が500nm以下であることにより、シャローピットが減少し、うねりが顕著に改善されることがわかる。実施例1と比較例7の対比、実施例2と比較例8の対比および実施例3と比較例9の対比により、後段研磨を実施することにより、うねりが改善されることがわかる。以上のことから、本願発明の研磨剤組成物を使用して本願発明の研磨方法で研磨することにより、研磨速度、うねり、シャローピット、ロールオフのバランスが向上することが明らかである。
【0112】
実施例1,参考に対して、コロイダルシリカA中の粒子径30~70nmの粒子の割合が多い点で異なるが、それにより、さらに研磨速度は向上し、うねりとシャローピットも改善されている。なお、実施例と実施例は、実施例1のコロイダルシリカA中の粒子径30~70nm粒子の割合をさらに高くなったものである。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の基板研磨方法は、半導体、ハードディスクといった磁気記録媒体などの電子部品の研磨に使用することができる。特にガラス磁気ディスク基板やアルミニウム磁気ディスク基板などの磁気記録媒体用基板の表面研磨に使用することができる。さらには、アルミニウム合金製の基板表面に無電解ニッケル-リンめっき皮膜を形成した磁気記録媒体用アルミニウム磁気ディスク基板の表面研磨に使用することができる。
図1