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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】改良体の品質予測方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20230426BHJP
   E02D 1/02 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02D1/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019157781
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036103
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000185972
【氏名又は名称】小野田ケミコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓至
(72)【発明者】
【氏名】木村 文彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 令男
(72)【発明者】
【氏名】山根 行弘
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-209963(JP,A)
【文献】特開2015-218524(JP,A)
【文献】特開2019-031794(JP,A)
【文献】特開2007-333498(JP,A)
【文献】特開2018-150775(JP,A)
【文献】特開2017-066795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械攪拌式深層混合処理工法において、予測モデルを用いて改良体の品質を予測する方法であって、
上記予測モデルは、施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む学習用入力データと、コア採取率からなる学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた、ニューラルネットワークによる学習によって作成されたものであり、
施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルから、予測用出力データとしてコア採取率を出力して、改良体の品質を予測することを特徴とする改良体の品質予測方法。
【請求項2】
上記工法に関するデータが、攪拌混合装置に関するデータ、及び事前配合試験で得られたデータから選ばれる少なくとも1種であり、
上記地盤に関するデータが、改良体を造成する最大深度、施工の対象となる地盤を構成する各地層の層厚、及び上記地盤の土質分類から選ばれる少なくとも1種であり、
上記施工時の施工条件に関するデータが、攪拌混合時のトルク、回転速度、貫入速度、引上げ速度、固化材スラリー吐出量、及び施工深度から選ばれる少なくとも1種であり、
上記地盤強度定数が、N値、及び粘着力から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の改良体の品質予測方法。
【請求項3】
上記予測モデルから出力されたコア採取率が、施工対象となる地盤の土質区分に応じて設定された、80~95%の範囲内の基準値未満であれば、上記改良体において、混合不良が発生していると判断し、上記基準値以上であれば、上記改良体において、混合不良が発生していないと判断する請求項1又は2に記載の改良体の品質予測方法。
【請求項4】
上記予測モデルから出力されたコア採取率が、改良体の、0.5~2mの範囲内の間隔であって任意に定めた間隔で区切られた区間から得られた少なくとも一つのコア採取率であって、出力されたコア採取率のうち、少なくとも一つのコア採取率が上記基準値未満であれば、上記改良体において混合不良が発生していると判断し、出力された全てのコア採取率が上記基準値以上であれば、上記改良体において混合不良が発生していないと判断する請求項3に記載の改良体の品質予測方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の改良体の品質予測方法を、機械攪拌式深層混合処理工法において行い、上記予測モデルを用いて出力されたコア採取率から、改良体において混合不良が発生していると判断した場合、上記基準値未満であるコア採取率が得られた上記改良体の区間について、2回目の、固化材スラリーの吐出を伴う攪拌混合を行う機械攪拌式深層混合処理工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良体の品質予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固化材を用いた深層を対象とする地盤改良工法の一つとして、機械攪拌による深層混合処理工法(以下、「機械攪拌式深層混合処理工法」という。)が知られている。該工法は、固化材と改良対象土を、攪拌翼を回転させることで攪拌混合して、地盤中に円柱状の改良体を造成するものである。
機械攪拌式深層混合処理工法において、改良の対象となる地盤に粘着力の大きい層が一定の厚さ以上存在した場合等の特殊な条件と攪拌翼の形状との関係で、攪拌翼と改良対象土が一体となって塊状となり回転する、「供回り」と呼ばれる現象が起こる場合がある。供回りが発生すると、固化材と改良対象土の混合が不十分となり、上記改良体の品質不良が発生する。
【0003】
供回りが起こりにくい攪拌混合装置として、特許文献1には、駆動装置によって回転する回転軸と、地盤を掘削する掘削ヘッドと、掘削された土壌と該土壌内に注入された固化材とを攪拌混合する攪拌翼と、前記回転軸に対して回転自在に取り付けられ、掘削された土壌と前記攪拌翼との供回りを防止する供回り防止板と、を備えた深層混合処理用の攪拌混合装置において、前記供回り防止板に、前記回転軸及び前記攪拌翼に付着して供回りする前記掘削された土壌からなる土塊を削る土塊削り板を着脱自在に取り付け、前記土塊削り板を、前記掘削された土壌中の障害物に当たることで変形する板厚に形成したことを特徴とする攪拌混合装置が記載されている。
また、供回りを検知、監視するための装置として、特許文献2には、単体軸と、攪拌翼と、削穴ビットと、供回り防止翼とからなる地盤改良装置において、前記単体軸と前記供回り防止翼の相対回転を検知するために、前記供回り防止翼に配置された被検知体と、前記被検知体に対応して前記単体軸に配置された検知手段とからなるセンサーと、前記センサーで検知された前記単体軸と前記供回り防止翼の相対回転による相対回転信号を前記単体軸の上部に伝達するための電線と、前記単体軸の上部に配置され、前記相対回転信号を無線信号に変換するための無線手段とからなることを特徴とする地盤改良翼の供回り検知装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-150775号公報
【文献】特開2017-66795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地盤改良後に、地盤中に造成された改良体の品質をボーリングによって確認した結果、供回りの発生等の混合不良によって改良体の品質不良が判明した場合、手直しの工事を行って、所定の品質を確保する必要がある。しかし、手直し工事を行う場合、工事全体の工程管理に深刻な遅れを生じさせ、経済的な損失が極めて大きくなるという問題がある。
本発明の目的は、地盤改良後にボーリングによる改良体の品質の確認結果を待つことなく、改良体の品質を予測することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、学習用入力データ(施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含むもの)と学習用出力データ(コア採取率からなるもの)の組み合わせである、学習用データを複数用いたニューラルネットワークによる学習によって作成された予測モデルに、予測用入力データ(施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含むデータを含むもの)を入力し、予測モデルからコア採取率を出力して、改良体の品質を予測する方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1] 機械攪拌式深層混合処理工法において、予測モデルを用いて改良体の品質を予測する方法であって、上記予測モデルは、施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む学習用入力データと、コア採取率からなる学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた、ニューラルネットワークによる学習によって作成されたものであり、施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルから、予測用出力データとしてコア採取率を出力して、改良体の品質を予測することを特徴とする改良体の品質予測方法。
【0007】
[2] 上記工法に関するデータが、攪拌混合装置に関するデータ、及び事前配合試験で得られたデータから選ばれる少なくとも1種であり、上記地盤に関するデータが、改良体を造成する最大深度、施工の対象となる地盤を構成する各地層の層厚、及び上記地盤の土質分類から選ばれる少なくとも1種であり、上記施工時の施工条件に関するデータが、攪拌混合時のトルク、回転速度、貫入速度、引上げ速度、固化材スラリー吐出量、及び施工深度から選ばれる少なくとも1種であり、上記地盤強度定数が、N値、及び粘着力から選ばれる少なくとも1種である前記[1]に記載の改良体の品質予測方法。
[3] 上記予測モデルから出力されたコア採取率が、施工対象となる地盤の土質区分に応じて設定された、80~95%の範囲内の基準値未満であれば、上記改良体において、混合不良が発生していると判断し、上記基準値以上であれば、上記改良体において、混合不良が発生していないと判断する前記[1]又は[2]記載の改良体の品質予測方法。
[4] 上記予測モデルから出力されたコア採取率が、改良体の、0.5~2mの範囲内の間隔であって任意に定めた間隔で区切られた区間から得られた少なくとも一つのコア採取率であって、出力されたコア採取率のうち、少なくとも一つのコア採取率が上記基準値未満であれば、上記改良体において混合不良が発生していると判断し、出力された全てのコア採取率が上記基準値以上であれば、上記改良体において混合不良が発生していないと判断する前記[3]に記載の改良体の品質予測方法。
[5] 前記[3]又は[4]に記載の改良体の品質予測方法を、機械攪拌式深層混合処理工法において行い、上記予測モデルを用いて出力されたコア採取率から、改良体において混合不良が発生していると判断した場合、上記基準値未満であるコア採取率が得られた上記改良体の区間について、2回目の、固化材スラリーの吐出を伴う攪拌混合を行う機械攪拌式深層混合処理工法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の改良体の品質予測方法によれば、地盤改良後のボーリングによる改良体の品質の確認結果を待つことなく、施工段階において、改良体の品質を迅速に予測することができる。
また、施工中あるいは改良体が硬化する前に、硬化後の改良体の品質を予測できることから、混合不良等によって品質不良が発生すると予測した場合、品質不良の発生が予測される箇所に対して、迅速に再度、固化材スラリーの吐出を伴う攪拌混合(以下、「スラリー吐出攪拌混合」ともいう。)することで、改良体の品質を改善することができる。これにより、地盤改良後に手直し工事を行う場合と比較して、工事全体の工程管理の深刻な遅れや、経済的な損失が極めて大きくなることを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の改良体の品質予測方法は、機械攪拌式深層混合処理工法において、予測モデルを用いて改良体の品質を予測する方法であって、予測モデルは、施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む学習用入力データと、コア採取率からなる学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた、ニューラルネットワークによる学習によって作成されたものであり、施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む予測用入力データを、作成された予測モデルに入力し、該予測モデルから、予測用出力データとしてコア採取率を出力して、改良体の品質を予測するものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明で用いられる予測モデルは、施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む学習用入力データと、コア採取率からなる学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた、ニューラルネットワークによる学習によって作成されたものである。
【0011】
学習用入力データとして用いられる、施工前に定められる工法に関するデータの例としては、攪拌混合装置に関するデータ、及び事前配合試験で得られたデータ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
攪拌混合装置に関するデータの例としては、深層混合処理工法で使用する予定の攪拌混合装置における、攪拌径、攪拌翼の種類、及び攪拌翼の形状等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
事前配合試験で得られたデータとは、施工前に、改良の対象となる地盤から採取した土と、固化材と、水と、必要に応じて配合される各種混和剤を用いて、実際に試験体を作製して、目標とする強度を満たす改良体を得るために必要な固化材の種類や添加量等を検討する際に得られるデータである。より具体的には、目標とする強度(例えば、原位置改良体28日強度);目標とする流動性(例えば、固化材と水と土を攪拌混合した直後の、フロー値、せん断抵抗(ベーンせん断)、液性限界試験指標);目標とする強度及び目標とする流動性を満足し、かつ、コア採取率が目標値(例えば、90%以上)を満たすことができる、固化材の種類、固化材の添加量、調整含水比:{(土の自然含水質量+添加した水の質量)/(土の乾燥質量)}、混和剤の種類、混和剤の添加量、水の添加量、及び固化材水比等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
学習用入力データとして用いられる、施工の対象となる地盤に関するデータの例としては、改良体を造成する最大深度、施工の対象となる地盤を構成する各地層の層厚、及び上記地盤の土質分類(地盤を構成する各地層の土質分類も含む)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、地盤に関するデータには、後述する地盤強度定数は含まれないものとする。
【0013】
学習用入力データとして用いられる、施工時の施工条件に関するデータとは、施工の際に得られるデータである。
具体的には、攪拌混合時のトルクや、攪拌翼の回転速度、貫入速度、引上げ速度や、固化材スラリー吐出量、及び施工深度等が挙げられる。これらのデータは、施工状況によって、適宜その数値が変わりうるデータである。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
学習用入力データとして用いられる、地盤強度定数の例としては、N値、及び粘着力等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
地盤強度定数は、標準貫入試験、三軸圧縮試験、一軸圧縮試験、及びベーンせん断試験等によって測定することができる。
上述した施工前に定められる工法に関するデータ等を学習用入力データとして用いることで、高い精度で改良体の品質を予測することができる。
【0015】
本明細書中、コア採取率とは、サンプラーによって採取されたコアの特定の区間(特定の長さ:「単位区間」ともいう。)に対する、該区間のコアの、改良対象土と固化材を攪拌混合することによって固化した部分の割合の総長を百分率で表したものである。
学習用出力データとして用いられるコア採取率としては、最終的に得られる改良体全長のコア採取率、最終的に得られる改良体全体の単位区間ごとのコア採取率(例えば、得られた改良体を、地表から、0.5~2mの範囲内の間隔であって任意に定めた(例えば、1m)間隔ごとに区切った各単位区間の全てのコア採取率)、改良体の特定の位置(改良体の地表側から特定の長さ(深度))における一つまたは複数の単位区間のコア採取率等を用いることができる。これらは目的に応じて適宜選択すればよい。
【0016】
本発明において用いられるニューラルネットワークは、特に限定されるものではなく、市販のソフトウェアや、該ソフトウェアをカスタマイズしたもの、あるいは、オープンソースソフトウェアを使用してプログラミングしたもの等を用いることができる。
また、ニューラルネットワークは、入力層と出力層の間に中間層を有する階層型のニューラルネットワークであってもよい。
ニューラルネットワークによる学習は、上述した施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む学習用入力データと、コア採取率からなる学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いて、ニューラルネットワークの従来知られている一般的な学習方法に従って行えばよい。
【0017】
なお、学習データとして用いられる、上述の学習用入力データ及び学習用出力データは、過去に実際に改良体を造成した際に得られた各種データ(実測値)を用いればよい。また、学習用入力データまたは学習用出力データとして、供回りの検出が可能な検出器を攪拌翼に装着することで得られる供回りの発生の有無を用いてもよい。
なお、学習データは、本発明において品質を予測する改良体とは直接的な関係のないデータあり、学習を行う目的で、事前に用意されるデータである。
学習に用いられる学習データ(学習用入力データと学習用出力データの組み合わせ)の個数は、特に限定されず、ニューラルネットワークの従来知られている一般的な学習方法に従えばよい。
【0018】
また、過去に実際に改良体を造成した際に得られた、複数の学習データの一部(例えば、20~30%)を、得られた予測モデルの信頼性を確認するためのテストデータとして用いてもよい。具体的には、予測モデルを作成した後、該予測モデルに、テストデータから得られる予測用入力データを入力し、予測モデルから得られたコア採取率(予測値)と、テストデータから得られたコア採取率(実測値)を比較することで、得られた予測モデルの信頼性を推し測ることができる。
ニューラルネットワークによる学習は、学習データとして使用されるデータの種類、学習データの個数、及び学習回数等を適宜変更しながら行われ、信頼性に優れた予測モデルが得られるまで行われる。
【0019】
上述した学習によって得られた予測モデルに、施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む予測用入力データを入力することで、予測モデルから、予測用出力データとしてコア採取率を得ることができる。
予測用入力データ(施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数)及び予測用出力データ(コア採取率)としては、段落0011~0015に記載されている学習用入力データ及び学習用出力データと同様のものが挙げられる。
また、予測モデルに入力される予測用入力データとしては、該予測モデルを作成する際に使用した学習用入力データと同じ種類のものが使用される。
なお、予測用入力データは、実際に、地盤改良の対象となる地盤に対して深層混合処理工法を行う際に得られるデータである。
【0020】
予測用出力データとして得られるコア採取率は、一つであっても複数であってもよい。例えば、予測用出力データとして、最終的に得られる改良体全長のコア採取率や、該改良体全体の単位区間ごとのコア採取率(例えば、得られた改良体を、地表から、0.5~2mの範囲内の間隔であって任意に定めた(例えば、1m)間隔ごとに区切った各単位区間の全てのコア採取率)を出力してもよく、該改良体の特定の位置(改良体の地表側から特定の長さ(深度))における一つまたは複数の単位区間のコア採取率を出力してもよい。これらは目的に応じて適宜選択すればよい。
【0021】
本発明の改良体の品質予測方法によれば、機械攪拌式深層混合処理工法において、予め作成した予測モデルに、施工前に定められる工法に関するデータ、施工の対象となる地盤に関するデータ、施工時の施工条件に関するデータ、及び、地盤強度定数を含む予測用入力データを入力することで、上記予測モデルから、予測用出力データとしてコア採取率を出力して、得られる改良体の品質(例えば、混合不良の発生の有無)を、高い精度で迅速に予測することができる。
予測モデルから出力されたコア採取率が、特定の基準値を満たさない(基準値未満である)場合、得られる改良体において混合不良が発生していると判断することができる。また、上記コア採取率が、特定の基準値を満たす(基準値以上である)場合、得られる改良体において混合不良が発生していないと判断することができる。
【0022】
また、出力されたコア採取率が、複数のコア採取率(例えば、改良体の、任意に定められる複数の区間から得られたコア採取率)である場合、出力されたコア採取率のうち、少なくとも一つのコア採取率が基準値未満であれば、改良体において混合不良が発生していると判断することができ、出力された全てのコア採取率が基準値以上であれば、改良体において混合不良が発生していないと判断することができる。
なお、混合不良の発生とは、固化材と改良土との混合が不十分な箇所が発生していること(より具体的には、攪拌混合した際に供回りが発生していること)をいう。
【0023】
上記特定の基準値は、好ましくは80~95%、より好ましくは85~95%の範囲内の数値であって、施工の対象となる地盤の土質分類に応じて設定される数値である。また、上記基準値は、コア採取率が得られる改良体の単位区間の大きさや、対象とする改良体の品質要求等に応じて、その数値を適宜変更してもよい。
本発明を建築基礎分野で用いる場合(建物を建設する前に、該建物を建設する地盤を改良する場合)には、地盤中に造成された、個々の円柱状の改良体がほぼ単独で、改良地盤上に建てられた建物の荷重等を支える状態が生じやすく、改良体の品質要求が厳格になる場合が多いと考えられることから、上記基準値は、例えば、コア採取率が改良体全長から得られたものである場合、対象となる地盤が砂質土である場合には95%、対象となる地盤が粘性土、ローム、有機質土、または高有機質土である場合には90%である。また、コア採取率が0.5~2mの範囲内であって任意に定めた(例えば、1m)単位区間から得られたものである場合、上記基準値は、対象となる地盤が砂質土である場合には90%、対象となる地盤が粘性土、ローム、有機質土、または高有機質土である場合には85%である。
一方、本発明を、土木分野で地盤改良を行った範囲内に存在する複数の円柱状の改良体が、原地盤と複合して土圧等の外力に抵抗するような場合に適用するときは、上記建築基礎分野で用いる場合に比較すると、改良体への品質要求が厳格にならず、上記基準値が緩和される場合も多い。
なお、本明細書中、「基準値未満」、「基準値以上」の各語は、特定の値を基準にして、2つの区分に分けるために便宜上、用いたものであるので、本発明において、各々、「基準値以下」、「基準値を超える」の語に置き換えることができるものとする。
【0024】
上述した改良体の品質予測方法を、機械攪拌式深層混合処理工法において行い、出力されたコア採取率から、改良体において混合不良が発生していると判断した場合、改良体の基準値を満たさない(例えば、80%未満である)コア採取率が得られた区間について、複数回のスラリー吐出攪拌混合(固化材スラリーの吐出を伴う攪拌混合)を行うことで、高い品質(混合不良が発生していない)の改良体を造成することができる。
上述した改良体の品質予測方法は、地盤中に改良体を造成した後、該改良体が完全に硬化する前(好ましくは、改良体を造成した直後)に行ってもよく、上記改良体の造成中(攪拌混合中)に随時行ってもよい。
【0025】
なお、機械攪拌式深層混合処理工法において、固化材スラリーの吐出を伴う攪拌混合は、通常、攪拌翼の貫入または引き上げを行う際のいずれか一方のみ行われる。
具体的には、攪拌翼を、改良体を造成する最大深度まで貫入する際に、固化材スラリーの吐出を伴う攪拌混合を行った場合、最大深度に達した攪拌翼を地表まで引き上げる際には、攪拌混合は行われるものの、固化材スラリーの吐出は行われない。また、機械攪拌式深層混合処理工法の1種である機械攪拌高圧噴射併用工法では、改良体を造成する深度(最大深度)まで攪拌翼を貫入する際に、攪拌は行われるものの、固化材スラリーの吐出(噴射)は行われず、最大深度に達した攪拌翼を、攪拌混合しながら地表まで引き上げる際に、固化材スラリーの吐出(噴射)を伴う攪拌混合が行われる。
【0026】
改良体の造成中(攪拌混合中)に、上記予測方法を随時行う方法としては、施工現場において、施工条件が変わった場合(例えば、地盤の土質が変わった場合等)において、適宜上記予測方法を行う方法や、攪拌混合しながら定期的に上記予測方法を行う方法等が挙げられる。
攪拌混合しながら定期的に上記予測方法を行う方法としては、攪拌混合するための攪拌翼が特定の深度(長さ)を、貫入する毎又は引き上げる毎に行ってもよく、特定の時間が経過する毎に行ってもよい。
特定の深度は、任意に定めればよく、例えば、コア採取率における単位区間に相当する深度(通常、0.5~2mの範囲内から任意に定められる深度)や、コア採取率における単位区間に相当する深度よりも短い深度(例えば、単位区間の1/10~1/2の長さに相当する深度)等が挙げられる。なお、上記特定の深度を、単位区間よりも短くした場合、コア採取率が得られた改良体の単位区間の一部分が、他のコア採取率が得られた改良体の単位区間の一部分と重複するが、これにより、改良体の様々な位置におけるコア摂取率のデータを大量に得ることできる。
特定の時間は、任意に定めれば良く、例えば、1分間である。
なお、攪拌混合しながら上述した改良体の品質予測方法を行う目的で、攪拌混合装置に各種検出装置を設けて、有線または無線で、施工時の施工条件に関するデータをリアルタイムで得られるようにし、攪拌混合装置の運転室あるいは近傍の施設において、コンピューターを用いて改良体の品質予測方法を行ってもよい。
【0027】
複数回のスラリー吐出攪拌混合は、例えば、基準値を満たさない(例えば、80%未満である)コア採取率が得られた区間のスラリー吐出攪拌混合を行った後、攪拌混合するための攪拌翼をコア採取率が得られた区間分(例えば、1m)引き上げて、次いで、再度の貫入を行いながら(機械攪拌高圧噴射併用工法では、攪拌翼をコア採取率が得られた区間分(例えば、1m)貫入して、次いで、再度の引き上げを行いながら)スラリー吐出攪拌混合をすることによって行われる。複数回とは、通常、2回(一つの区間に対して、最初のスラリー吐出攪拌混合を含めて、合計2回)である。
攪拌翼の再度の貫入(または引き上げ)を行う際には、スラリー吐出攪拌混合条件を適宜変更してもよい。例えば、目標とする強度を満足しつつ、土と固化材の混合時の流動性を増加させる目的で、固化材スラリーの吐出量を変更してもよい。
また、スラリー吐出攪拌混合条件を変更した後、変更した条件で再度のスラリー吐出攪拌混合をする前に、変更したスラリー吐出攪拌混合条件等を、上記予測モデルに入力し、出力されたコア採取率が基準値を満たすこと確認したうえで、再度の貫入(または引き上げ)を行ってもよい。
【0028】
攪拌混合しながら、改良体の品質予測方法を行い、基準値を満たさない(例えば、80%未満である)コア採取率が得られた区間について複数回のスラリー吐出攪拌混合を行う方法の具体例としては、以下の(1)~(4)の方法等が挙げられる。
(1)コア採取率として、造成される改良体全体の、単位区間ごとのコア採取率を全て出力する方法
該方法では、改良体の品質予測方法によって、機械攪拌式深層混合処理工法によって最終的に造成される改良体全体の、単位区間ごと(例えば、地表から1m間隔ごとに区切られた区間)のコア採取率を全て出力する。
得られた複数のコア採取率のうち、基準値を満たさない(例えば、80%未満である)コア採取率が得られた区間においては、混合不良(例えば、供回り)が発生している(あるいは、発生するであろう)と判断することできる。上記区間については、スラリー吐出攪拌混合を複数回(通常、2回)行うことによって、得られる造成体の混合不良箇所をなくすことができる。
該方法は、どの深度において混合不良が発生するか、事前にある程度予測できる点で好ましい。
【0029】
(2)スラリー吐出攪拌混合が単位区間行われるごとに、該単位区間のコア採取率を出力する方法
該方法では、特定の位置から(例えば、地表から、あるいは、任意に定められた深度から)スラリー吐出攪拌混合が単位区間行われるごとに(例えば、スラリー吐出攪拌混合が1m行われるごとに、換言すると、攪拌翼の貫入が1m進むごとに)、該単位区間のコア採取率を出力する。
得られたコア採取率が基準値を満たさない(例えば、80%未満である)場合、先程、スラリー吐出攪拌混合を行った区間において、混合不良(例えば、供回り)が発生したと判断することできる。
この場合、攪拌混合を停止し、攪拌翼を単位区間(例えば、1m)引き上げた後、再度攪拌翼を貫入しながらスラリー吐出攪拌混合を行う。
【0030】
(3)スラリー吐出攪拌混合が終了した後、攪拌翼を引き上げる際に、単位区間のコア採取率を定期的に出力する方法
該方法では、スラリー吐出攪拌混合を、改良体を造成する最大深度まで行った後、最大深度に達した攪拌翼を、固化材スラリーの吐出を伴わない攪拌混合を行いながら地表まで引き上げる際に、引き上げが単位区間行われるごとにコア採取率を出力する。
得られたコア採取率が基準値を満たさない(例えば、80%未満である)場合、先程、引き上げを行った区間において、混合不良(例えば、供回り)が発生したと判断することできる。
この場合、引き上げを停止し、再度、攪拌翼を貫入しながらスラリー吐出攪拌混合を単位区間(例えば、1m)分行う。
【0031】
(4)攪拌混合している位置を起点とする単位空間のコア採取率を定期的に出力する方法
該方法では、攪拌混合している位置を始点とする単位区間(例えば、攪拌混合している位置から改良体が造成された方向に向かって1mの区間)のコア採取率を出力する。
なお、(4)の方法において、攪拌混合は、固化材スラリーの吐出を伴う攪拌混合でもよく、固化材スラリーの吐出を伴わない攪拌混合でもよい。
攪拌混合している位置は、攪拌混合が行われている範囲内において適宜定めればよく、例えば、混合攪拌中の攪拌翼の上端の位置(深度)でもよく、攪拌翼の下端の位置(深度)でもよい。
得られたコア採取率が基準値を満たさない(例えば、80%未満である)場合、現在攪拌混合を行っている位置を始点とする単位区間において、混合不良(例えば、供回り)が発生したと判断することできる。
この場合、攪拌混合を停止し、攪拌翼を単位区間(例えば、1m)引き上げた(または、貫入した)後、再度攪拌翼を貫入しながら(または、引き上げながら)スラリー吐出攪拌混合を行う。
【0032】
上記(4)の方法において、コア採取率の出力は、攪拌混合しながら定期的に行えばよい。より具体的には、任意に定められる特定の時間毎や、任意に定められる攪拌混合するための攪拌翼が貫入した特定の深度(長さ)毎に行えばよい。
任意に定められる特定の時間毎の例としては、0.5分間~1時間の間で任意に定められる時間毎(例えば、1分間毎)が挙げられる。
任意に定められる攪拌混合するための攪拌翼が貫入した特定の深度毎の例としては、攪拌翼が、40~120cm(好ましくは60~110cm、より好ましくは80~100cm)の間であって任意に定められる深度を貫入する毎(例えば、50cm毎))が挙げられる。また、上記特定の深度は、コア採取率における単位区間に相当する深度よりも短い深度にしてもよい。
【0033】
ここで、コア採取率は、ボーリングによって実際に測定する場合、改良体におけるコア採取率を得た単位区間の位置、及び、混合不良の発生個所の大きさとその位置によっては、その数値にばらつきが発生する場合がある。なお、上述した特定の基準値は、通常、上記ばらつきを考慮して、安全側に設定されている。
上記(4)の方法によれば、ニューラルネットワークを用いて、高い頻度で定期的にコア採取率を出力することで、改良体の様々な位置におけるコア摂取率のデータを大量に得ることできる。これにより、上記ばらつきによる混合不良の判断ミスを防ぎ、より高い品質の改良体を造成することができる。