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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】ろ過処理方法及びろ過装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 37/04 20060101AFI20230426BHJP
   C02F 1/56 20230101ALI20230426BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B01D37/04 ZAB
C02F1/56 Z
B01D21/30 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019193767
(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公開番号】P2021065847
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森 康輔
(72)【発明者】
【氏名】矢出 乃大
(72)【発明者】
【氏名】岡賀 祥平
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/119720(WO,A1)
【文献】特開平11-019421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 23/00-37/04
B01D 21/30
C02F 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水に高分子凝集剤を混合し、ろ過処理してろ過水を得るろ過処理方法において、
ろ過池への前記原水の供給量をQ(m3/min)、ろ過池面積をS(m2)、前記原水のろ過層表層からの基準水位をh1(m)、前記原水が前記ろ過層表層から前記基準水位h1(m)に達するまでの時間をk(min)とし、k=0.5~2.5としたとき、h1=k×Q/Sで表される関係式(1)から前記基準水位h1(m)を求め、
前記原水の前記ろ過層表層からの水位h(m)を検出し、
前記検出した水位h(m)が前記基準水位h1(m)に達したとき、前記ろ過層表層から基準水位h1までのろ過層上部水域に滞留する前記原水に前記高分子凝集剤を混合するように、前記原水又は前記ろ過池内への前記高分子凝集剤の注入を開始することを特徴とするろ過処理方法。
【請求項2】
前記ろ過層を、洗浄水を用いて逆流洗浄し、
前記逆流洗浄後、次のろ過処理を行う前に、前記ろ過層表層上に滞留する逆流洗浄水に高分子凝集剤を注入して撹拌混合することを特徴とする請求項1に記載のろ過処理方法。
【請求項3】
前記撹拌混合を、洗浄水を用いた逆流洗浄、洗浄空気を用いた逆流洗浄、前記ろ過層の表面洗浄の少なくともいずれかにより行うことを特徴とする請求項2に記載のろ過処理方法。
【請求項4】
原水をろ過処理してろ過水を得るためのろ過層を備えたろ過池と、
前記原水又は前記ろ過池内に高分子凝集剤を注入する高分子凝集剤添加手段と、
前記原水の前記ろ過層表層からの水位h(m)を検出する水位検出手段と、
前記水位検出手段が検出した水位h(m)が、以下の関係式(1):
h1=k×Q/S
(但し、Qはろ過池への原水の供給量(m3/min)、Sはろ過池面積(m2)、h1は原水のろ過層表層からの基準水位(m)、kは原水がろ過層表層から基準水位h1(m)に達するまでの時間(min)であり、k=0.5~2.5)
に基づいて予め求められる前記基準水位h1(m)に達したときに、前記ろ過層表層から基準水位h1までのろ過層上部水域に滞留する前記原水に前記高分子凝集剤を混合するように、前記原水又は前記ろ過池内への前記高分子凝集剤の注入を開始する前記高分子凝集剤添加手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とするろ過装置。
【請求項5】
前記ろ過層を、洗浄水を用いて逆流洗浄する洗浄水逆流洗浄手段と、
前記ろ過層表層上に滞留する逆流洗浄水を含むろ過層上部水域を撹拌可能な撹拌手段と、
を更に備え、
前記制御手段が、前記ろ過層上部水域に前記高分子凝集剤を注入して撹拌混合するように、前記高分子凝集剤添加手段及び前記撹拌手段を制御することを更に含む請求項4に記載のろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過処理方法及びろ過装置に関し、特に、浄水処理に好適に利用可能なろ過処理方法及びろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水、湖沼水、貯水池水、伏流水、又は地下水等を原水として水道水を得る浄水処理が知られている。このような浄水処理においては、凝集沈殿処理と急速ろ過処理を組合せた急速ろ過方式が広く普及している。
【0003】
急速ろ過方式では、濁質を含有する原水に硫酸アルミニウム(硫酸ばんど)又はポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム系無機凝集剤を注入し、濁質を取り込んだ凝集フロックを形成させ、この凝集フロックを重力で沈降分離させる凝集沈殿処理により、原水から濁質を除去する。さらに、得られた凝集沈殿処理水を、ろ過材が充填されたろ過池に通水して急速ろ過することにより、濁質を取り除く。
【0004】
急速ろ過方式では、原水をろ過池でろ過するだけでは濁質の十分な除去が期待できないため、無機凝集剤による凝集処理が不可欠である。濁質量は、濁度計で測定した濁度を指標とすることが通常である。また、無機凝集剤中のアルミニウムと原水中の濁度の比を表す指標としてALT比(原水濁度に対する注入PAC中のアルミニウム濃度)が用いられる。無機凝集剤の注入率は原水の水質に応じて最適値が変わり、概ね10mg/L以上である。高分子凝集剤は、例えば原水1リットルあたり0.001~1mg注入するように設定できる。近年、原水変動への対応性、運転管理性、ろ過処理性(水質)の向上目的で、凝集助剤として高分子凝集剤を併用する動きがある。
【0005】
図4に従来の浄水処理方法のフローの例を示す。着水井を経由した原水は、凝集混和池100とフロック形成池200と沈殿池300とを有する凝集沈殿処理設備で凝集沈殿される。凝集混和池100では原水に無機凝集剤が添加される。フロック形成池200で凝集フロックを成長させたのちに沈殿池300で固液分離が行われる。沈殿池300で得られた凝集沈殿処理水はろ過材が充填された急速ろ過池400でろ過されてろ過水が得られる。ろ過水を消毒剤で消毒後は水道水に供される。
【0006】
ろ過装置への供給水に凝集剤を注入する際に凝集剤注入量の制御を行うろ過処理方法としては、例えば、特開2003-154220号公報に記載されるろ過処理方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-154220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、浄水処理の急速ろ過において高分子凝集剤を併用する場合、凝集反応時間の確保が問題となる。このため、新たに高分子凝集剤の反応用に別槽を設けることが標準となっているが、設置スペースの確保や撹拌のための設備と動力が必要になるなどの課題が存在する。その結果、ろ過初期には、LV(ろ過速度)を遅くするか、ろ過水を捨水するなどの処置が取られるため、非効率な運転に繋がる。更に、十分に凝集が進んでいないろ過原水が、ろ過池出口まで達してしまい、濁質でろ過水を汚染することにより浄水処理に求められる処理水質の安定性を脅かしかねないという問題がある。
【0009】
上記課題を鑑み、本発明は、より簡易な設備で、効率的な運転が可能で、ろ過水の処理水質を安定して維持可能なろ過処理方法及びろ過装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、ろ過池の装置条件と水位に基づいて、原水又はろ過池への高分子凝集剤の注入開始のタイミングを制御することが有効であるとの知見を得た。
【0011】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は一側面において、原水に高分子凝集剤を混合し、ろ過処理してろ過水を得るろ過処理方法において、ろ過池への原水の供給量をQ(m3/min)、ろ過池面積をS(m2)、原水のろ過層表層からの基準水位をh1(m)、原水がろ過層表層から基準水位h1(m)に達するまでの時間をk(min)とし、k=0.5~2.5としたとき、h1=k×Q/Sで表される関係式(1)から基準水位h1(m)を求め、原水のろ過層表層からの水位h(m)を検出し、検出した水位h(m)が基準水位h1(m)に達したとき、原水又はろ過池内への高分子凝集剤の注入を開始するろ過処理方法が提供される。
【0012】
本発明の実施の形態に係るろ過処理方法は一実施態様において、ろ過層を、洗浄水を用いて逆流洗浄し、逆流洗浄後、次のろ過処理を行う前に、ろ過層表層上に滞留する逆流洗浄水に高分子凝集剤を注入して撹拌混合する。
【0013】
本発明の実施の形態に係るろ過処理方法は別の一実施態様において、撹拌混合を、洗浄水を用いた逆流洗浄、洗浄空気を用いた逆流洗浄、ろ過層の表面洗浄の少なくともいずれかにより行う。
【0014】
本発明の実施の形態は別の一側面において、原水をろ過処理してろ過水を得るためのろ過層を備えたろ過池と、原水又はろ過池内に高分子凝集剤を注入する高分子凝集剤添加手段と、原水のろ過層表層からの水位h(m)を検出する水位検出手段と、水位検出手段が検出した水位h(m)が、以下の関係式(1):h1=k×Q/S(但し、Qはろ過池への原水の供給量(m3/min)、Sはろ過池面積(m2)、h1は原水のろ過層表層からの基準水位(m)、kは原水がろ過層表層から基準水位h1(m)に達するまでの時間(min)であり、k=0.5~2.5)に基づいて予め求められる基準水位h1(m)に達したときに、原水又はろ過池内への高分子凝集剤の注入を開始するように高分子凝集剤添加手段を制御する制御手段とを備えるろ過装置である。
【0015】
本発明の実施の形態に係るろ過装置は一実施態様において、ろ過層を、洗浄水を用いて逆流洗浄する洗浄水逆流洗浄手段と、ろ過層表層上に滞留する逆流洗浄水を含むろ過層上部水域を撹拌可能な撹拌手段と、を更に備え、制御手段が、ろ過層上部水域に高分子凝集剤を注入して撹拌混合するように、高分子凝集剤添加手段及び撹拌手段を制御することを更に含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より簡易な設備で、効率的な運転が可能で、ろ過水の処理水質を安定して維持可能なろ過処理方法及びろ過装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係るろ過装置の一例を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る第1の浄水処理装置の一例を示す概略図である。
図3】本発明の実施の形態に係る第2の浄水処理装置の一例を示す概略図である。
図4】急速ろ過方式を採用する従来の浄水処理装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0019】
(ろ過装置)
本発明の実施の形態に係るろ過装置は、図1に示すように、原水をろ過処理してろ過水を得るためのろ過層20を備えたろ過池25と、原水又はろ過池25内に高分子凝集剤を注入する高分子凝集剤添加手段15と、ろ過池25内の原水のろ過層表層SLからの水位h(m)を検出する水位検出手段21と、水位検出手段21が検出した水位h(m)が、基準水位h1(m)に達したときに、原水又はろ過池25内への高分子凝集剤の注入を開始するように高分子凝集剤添加手段15を制御する制御手段8を備える。
【0020】
原水としては、河川水、湖沼水、貯水池水、伏流水、地下水等が利用できる。以下に限定されるものではないが、典型的には、濁度が10度以下の低濁度原水を好適に利用することができる。しかしながら、本実施形態は濁度が10度を超える高濃度原水に利用してもよく、上記の低濃度原水に限定されるものではないことは勿論である。
【0021】
ろ過池25に供給される原水には、原水中の濁質に起因する微粒子を凝集させるための無機凝集剤が予め添加されていてもよい。無機凝集剤としては、通常の浄水処理に使用される無機凝集剤が使用できる。例えば、比較的短時間で原水中の微粒子を凝集可能な硫酸ばんど、PAC等が好適に使用できる。
【0022】
本実施形態では、無機凝集剤に加えて更に高分子凝集剤を添加する。これにより、無機凝集剤を単独で添加する場合に比べて、ろ過水の濁度を低減できる上、無機凝集剤の使用量を低減でき、全体としてより効率的な処理が行える。
【0023】
ろ過池25は、砂などのろ過層を利用して水中の不純物を濾し取る設備を施した槽であれば種々の装置を利用することができる。特に、大水量の浄水処理には、浄水処理の急速ろ過で一般的に使用可能な自然平衡型急速ろ過池(重力式下向流ろ過装置)をろ過池25として用いることが効率面から好ましい。凝集沈殿処理後に用いられる既存の急速ろ過池などもろ過池25として好適に利用することができる。なお、本実施形態に係るろ過池25は、これに制限されるものではなく、原水に高分子凝集剤を添加してろ過処理を行うための水槽であれば、種々の態様の装置を包含し得る。
【0024】
ろ過池25には、原水をろ過池25内へ供給するための原水供給ライン22と、ろ過池25でのろ過処理後のろ過水を排出するための排出ライン23が接続されている。ろ過池25の内部には、ろ過層20が配置されている。
【0025】
ろ過層20としては、例えば、アンスラサイト(有効径0.7~4.0mm、均等係数1.4以下、比重1.4~1.6)、粒状活性炭(有効径0.7~4.0mm、均等係数1.5以下、比重1.7以下)、ろ過砂等が利用できる。粒状活性炭は、原料が石炭でもヤシ殻でもよい。粒状活性炭は、市販の新品でも良いが、浄水施設の高度処理設備で使用された使用済み活性炭の乾燥品または水蒸気賦活された再生炭が、活性炭表面形状が濁質捕捉に有利なように凹凸が発達しており、ろ過性能が特に良い点で好ましい。ろ過層20は、単層ろ過であっても複数ろ過であっても構わない。
【0026】
ろ過層20の上部には、ろ過池25内の原水のろ過層表層SLからの水位h(ろ過水位)を検出する水位検出手段21が配置されている。水位検出手段21としては、一般的に利用可能な水位計を用いることができる。水位検出手段21は、原水のろ過層表層SLからの水位h(m)が基準水位h1(m)に達すると、所定の制御信号を制御手段8へ出力するように構成されている。
【0027】
制御手段8は、水位検出手段21からの出力信号を受け、水位検出手段が検出した水位h(m)が基準水位h1(m)に達したときに、原水又はろ過池内への高分子凝集剤の注入を開始するように、高分子凝集剤添加手段15を制御する。高分子凝集剤添加手段15は、制御手段8によって制御される所定のタイミングで高分子凝集剤を供給することができる。
【0028】
ろ過池25には、更に、洗浄水を用いてろ過層20を逆流洗浄させるための洗浄水逆流洗浄手段31、洗浄空気を用いてろ過層20を逆流洗浄させるための空気逆流洗浄手段32、及びろ過層20の表面洗浄を行うための表面洗浄手段33が接続されている。
【0029】
本実施形態に係るろ過装置においては、原水がろ過層表面から基準水位h1に達したことを水位検出手段21が検知すると、高分子凝集剤の添加が開始される。この基準水位h1は、ろ過池への原水の供給量をQ(m3/min)、ろ過池面積をS(m2)、原水のろ過層表層からの基準水位をh1(m)、原水がろ過層表層から基準水位h1(m)に達するまでの時間をk(min)としたとき、以下の関係式(1)
h1=k×Q/S ・・・(1)
で求められる値により設定される。
【0030】
ここで、ろ過層表層SL上から基準水位h1までの領域を「ろ過層上部水域24」と定義すると、関係式(1)の時間kは、つまり、ろ過層上部水域24での原水の滞留時間となる。この時間kは、ろ過速度(LV)によって異なり、LV200~500(m/日)では、0.5~2.5minである。
【0031】
時間kが0.5min未満では、高分子凝集剤による凝集効果が低く、原水に含まれる濁質が十分にろ過池25内で除去できずに、ろ過水に濁質が漏洩する場合がある。一方、時間kが2.5minを超えると、撹拌動力がかかり、効率的な処理とはいえない場合がある。特に、高いLVとした場合には、基準水位h1が大きくなるため、ろ過層上部水域24の水量も多くなり、高分子凝集剤添加の効果が得られるまでのタイミングが遅くなる場合がある。
【0032】
また、後述するが、高いLVとした場合には、ろ過層の洗浄処理後、基準水位h1に達するまでは、洗浄水に添加された高分子凝集剤で流入原水の濁質を凝集させることになるため、ろ過水濁度を十分に低く維持できない場合がある。流入水量が多い場合は洗浄水が流入水量で押し出されるため、洗浄水に添加された高分子凝集剤だけではろ過水の低濁度を維持できない場合がある。洗浄水に添加された高分子凝集剤量を増加させてもその制御が難しかったり、流入水で押し出されたりするため、ろ過水の濁度を低く維持できない。
【0033】
高分子凝集剤によるろ過水の濁質の低減効果を十分に得るためには、LV200(m/日)以上300(m/日)未満では、時間kが1.5~2.5、更には1.6~2.0に設定されることが好ましい。LV300(m/日)以上400(m/日)未満では、時間kが1.0~2.0、更には1.2~1.8に設定されることが好ましい。LV400(m/日)以上500(m/日)未満では、時間kが0.5~1.7、更には0.6~1.6に設定されることが好ましい。
【0034】
なお、原水の滞留時間kから、原水に高分子凝集剤の注入を開始するタイミングを制御することも可能である。その場合は、以下の関係式(2):
k=h1×S/Q ・・・(2)
(但し、Qはろ過池への原水の供給量(m3/min)、Sはろ過池面積(m2)、h1は原水のろ過層表層からの基準水位(m)、kは原水がろ過層表層から基準水位h1(m)に達するまでの時間(min))に基づいて、ろ過池25のLVに応じた基準水位h1を予め設定し、原水がろ過層表層SLから基準水位h1に達するまでの時間k(処理開始から基準水位h1に達するまでの時間)を検知することで、高分子凝集剤の注入を開始するタイミングを制御してもよい。
【0035】
例えば、ろ過装置に、関係式(2)に基づいて予め設定された前記基準水位h1(m)に達するまでの時間k(min)を検出可能なタイマー手段(図示せず)を備え、時間kに達したときに、制御手段8が原水又はろ過池内への高分子凝集剤の注入を開始するように、高分子凝集剤添加手段15を制御することができる。
【0036】
本発明の実施の形態に係るろ過装置によれば、原水処理量、装置サイズ及びLVに応じて設定されるろ過層上部水域24での原水の滞留時間kに基づいて、基準水位h1が決定されるため、原水がろ過層20でろ過される前に、原水と高分子凝集剤との混合時間を十分に確保することができる。これにより、高分子凝集剤添加用の反応槽を新たに設ける必要がなくなり、装置を小型化及び簡略化できるため、より効率の高いろ過装置が得られる。なお、本実施形態において、基準水位h1(m)は、関係式(1)で得られた値に対し、原水の変動を考慮し、数cm~数十cm程度の余裕を含めた値を基準水位h1(m)とすることもできる。
【0037】
高分子凝集剤としては、水道用高分子凝集剤を用いる。水道用高分子凝集剤の種類は特に限定されない。例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸アンモニウムからなる群より選択されるいずれか1種以上を用いることが可能であるが、特に好ましくはポリアクリル酸ナトリウムである。ポリアクリルアミド系高分子凝集剤は、ポリアクリルアミドとポリ(メタ)アクリル酸塩の共重合物で、アニオン系高分子凝集剤としての市販品が使用できる。
【0038】
高分子凝集剤の注入率は、ジャーテスト又は小型カラムによる連続試験で決定できる。或いは、高分子凝集剤の注入率は、予め原水濁度に対応する最適注入率を算出する関係式を求めておき、その関係式に沿って設定することも可能である。
【0039】
高分子凝集剤の注入率は、不足すると効果が発現せず、過剰だと経済性が低下するだけでなく、凝集効果が妨げられる。本実施形態では、高分子凝集剤は原水に対して0.01~1.0mg/Lの範囲で添加されることが好ましく、0.02~0.5mg/Lの範囲で添加されることがより好ましい。
【0040】
高分子凝集剤のろ過池25への注入点は特に制限されない。例えば、原水供給ライン22に高分子凝集剤を直接注入して原水に混合してもよい。或いは、ろ過池25に設けられた注入点27を介してろ過池25内の原水に混合してもよい。或いは、ろ過層20の逆流洗浄時にろ過池25の底部から供給される洗浄水に混合させてもよい。
【0041】
例えばろ過層表層SL上の上方に高分子凝集剤を注入できる注入点27を設け、注入点27からろ過層上部水域24に直接高分子凝集剤を注入できるようにしてもよい。図1では、注入点27が水位基準h1よりも上方に配置される例を示しているが、注入点27は水位基準h1の下方に設けられ、高分子凝集剤をろ過層上部水域24中に直接注入してもよい。なお、注入点27の位置は、ろ過池25の側面からでもろ過池25の上部からでも良い。高分子凝集剤は、一度に所定量を添加しても、逆流洗浄終了後からろ過開始までの時期に連続的に添加してもいずれでも構わない。
【0042】
なお、関係式(1)又は(2)を用いた基準水位h1の解析及び設定は、操作者が手動で行ってもよいし、制御手段8内又は制御手段8の外部に備えられた解析手段(図示せず)によって、自動的に解析するように構成されてもよい。
【0043】
制御手段8は、高分子凝集剤添加手段15、洗浄水逆流洗浄手段31、空気逆流洗浄手段32、表面洗浄手段33に接続されており、各手段の各動作を所定のタイミングで制御するように構成されている。洗浄水逆流洗浄手段31は、ろ過層20内に洗浄薬液又は水などの洗浄水を供給して逆流洗浄させる装置であり、逆洗管、切替弁等を備えている。空気逆流洗浄手段32は、ろ過層20内に空気を供給して逆流洗浄させる装置であり、空洗管、切替弁等を備えている。表面洗浄手段33は、ろ過層表層SL付近を表面洗浄させる装置であり、表洗管、切替弁等を備えている。
【0044】
本実施形態に係るろ過装置では、制御手段8が、例えば、水位検出手段が検出した水位h(m)が基準水位h1(m)に達したときに、原水又はろ過池内への高分子凝集剤の注入を開始するように、高分子凝集剤添加手段15を制御することで、高分子凝集剤の使用量を低減しながらより簡易な設備で、効率的な運転が可能で、ろ過水の処理水質を安定して維持できる。
【0045】
一方、ろ過池25の運転開始後、原水が基準水位h1に達するまでは、基本的には、原水に高分子凝集剤が注入されない状況が続く。その間は高分子凝集剤の添加によるろ過水濁度低下の効果が十分に得られない場合がある。
【0046】
そこで、本実施形態に係るろ過装置では、ろ過処理が終了した後、逆流洗浄を行い、逆流洗浄終了後に、ろ過層表層SL上に滞留する逆流洗浄水を含むろ過層上部水域24内に高分子凝集剤を注入し、撹拌混合を行う。これにより、ろ過層上部水域24の水位が基準水位h1に達していなくても、また、高分子凝集剤が注入されていない原水がろ過池25内に流入しても、原水と高分子凝集剤とを含む逆流洗浄水とを撹拌混合でき、ろ過池25内の原水中に高分子凝集剤を混合させておくことができるため、ろ過水の水質を低濁度に安定して維持できる。
【0047】
逆流洗浄水を含むろ過層上部水域24内を撹拌する撹拌手段としては、空気逆流洗浄手段32、表面洗浄手段33の少なくともいずれかを用いることができる。洗浄水逆流洗浄手段31を更に併用してもよい。即ち、洗浄水を用いた逆流洗浄、空気と水による同時洗浄、空気単独洗浄等を適宜組み合わせることにより、ろ過層上部水域24内の撹拌混合を行うことができる。制御手段8は、逆流洗浄終了後に、ろ過層上部水域に高分子凝集剤を注入して撹拌混合するように、高分子凝集剤添加手段15及び撹拌手段を制御する。
【0048】
例えば、空気逆流洗浄手段32による撹拌方法としては、以下に制限されるものではないが、例えば0.5~1.5m/s、好ましくは0.8m/s前後で少なくとも1分間、洗浄空気を用いた逆流洗浄(空洗)を行うことが好ましい。このように構成されることで、一のろ過処理が終了した後、逆流洗浄を行った後においても、ろ過水の濁度を低濃度に維持することができるため、従来のろ過処理によくみられる、ろ過初期におけるLVの低速化、大量の捨水の発生等を抑制でき、効率的なろ過処理が行えるようになる。
【0049】
(ろ過処理方法)
図1に示すろ過装置を用いて、本発明の実施の形態に係るろ過処理方法を実施することができる。即ち、本発明の実施の形態に係るろ過処理方法は、ろ過池への原水の供給量をQ(m3/min)、ろ過池面積をS(m2)、原水のろ過層表層からの基準水位をh1(m)、原水がろ過層表層から基準水位h1(m)に達するまでの時間をk(min)とし、k=0.5~2.5としたとき、h1=k×Q/Sで表される関係式(1)から基準水位h1(m)を求め、原水のろ過層表層からの水位h(m)を検出し、検出した水位h(m)が基準水位h1(m)に達したとき、原水又はろ過池内への高分子凝集剤の注入を開始するろ過処理方法である。
【0050】
操作者はまず、ろ過池25への供給量(供給流量)Q、ろ過池面積S、ろ過池25のLVに応じて予め設定された時間kに基づいて、基準水位h1を予め設定する。ろ過池25に原水を供給してろ過処理を開始し、水位検出手段21により、ろ過池25内に供給された原水の水位hを検出する。ろ過池25内の原水の水位hが基準水位h1に達したら、高分子凝集剤添加手段15による原水又はろ過池25内への高分子凝集剤の注入を開始する。このように、高分子凝集剤注入の開始タイミングを適切に制御することで、高分子凝集剤の過剰な添加を抑制できる。
【0051】
ろ過処理が終了すると、洗浄水逆流洗浄手段31を介してろ過層20内に洗浄水が送られ、また、必要に応じて空気逆流洗浄手段32を介してろ過層20内に洗浄空気が送られて、逆流洗浄が開始される。このとき、表面洗浄手段33によりろ過層20の表面洗浄が更に行われてもよい。
【0052】
ろ過層20の洗浄が終了後、ろ過層表層SL上に滞留する逆流洗浄水に高分子凝集剤を注入し、撹拌混合を行う。例えば、洗浄空気の逆流洗浄を少なくとも1分間行うことにより、高分子凝集剤と逆流洗浄水を含むろ過層上部水域24の撹拌混合を行うことができる。この撹拌混合は、洗浄水を用いた逆流洗浄、洗浄空気を用いた逆流洗浄、ろ過層の表面洗浄、及びこれらを組み合わせることにより行う。
【0053】
逆流洗浄終了後は次のろ過処理を開始する。その後、水位検出手段21が検出した水位h(m)が基準水位h1(m)に達した後は、高分子凝集剤添加手段15を介して、原水又はろ過池内に高分子凝集剤を添加する。
【0054】
本発明の実施の形態に係るろ過装置及びこれを用いたろ過処理方法によれば、高分子凝集剤の混合のための水槽を必要とせず、設備の簡易化が可能で、効率的な運転が可能で、逆流洗浄後も、ろ過水の処理水質を安定して維持することが可能となる。
【0055】
(第1の浄水処理)
図1に示すろ過装置を図2に示す浄水処理方法に適用することができる。本発明の実施の形態に係る浄水処理装置は、図2に示すように、無機凝集剤を添加するための無機凝集剤添加手段1と、高分子凝集剤を添加するための高分子凝集剤添加手段15と、低濁度原水をろ過し、前段ろ過水を得る前段ろ過手段2と、前段ろ過水をろ過し、後段ろ過水を得る後段ろ過手段3と、前段ろ過水の濁度を検出するろ過水濁度検出手段4と、前段ろ過手段2と後段ろ過手段3との間に設けられたろ過水切り替え手段5とを備える。
【0056】
無機凝集剤添加手段1は、原水中の濁質に起因する微粒子を凝集させるための無機凝集剤を原水に添加する。無機凝集剤としては、通常の浄水処理に使用される無機凝集剤が使用できる。
【0057】
前段ろ過手段2としては特に限定されないが、例えば、浄水処理の急速ろ過で一般的に使用可能な自然平衡型急速ろ過池(重力式下向流ろ過装置)、重力式上向流ろ過装置、上向流移床型ろ過装置、圧力式下向流ろ過装置等が利用可能である。特に、大水量の浄水処理には、前段ろ過手段2として重力式下向流ろ過装置が用いられることが効率面から好ましい。
【0058】
後段ろ過手段3としては、自然平衡型急速ろ過池が好適に用いられる。後段ろ過手段3としては、従来の急速ろ過方式において凝集沈殿処理後に用いられる既存の急速ろ過池を利用することができる。これにより、本実施形態に係る浄水処理装置を既存の浄水処理装置に適用する場合、後段ろ過手段3については新たな設備を設置する必要がないため、既存の設備を有効に用いてより効率的な処理を行うことができる。
【0059】
後段ろ過手段3に充填されるろ過材としては、前段ろ過手段2に充填されるろ過材の有効径以下の有効径の材料が好ましい。具体的には、有効径1.0mm未満、好ましくは0.45~0.7mm、均等係数1.5以下のろ過材が使用されることが好ましい。
【0060】
ろ過水濁度検出手段4としては、一般的に利用可能な濁度計が用いられる。ろ過水濁度検出手段4が検出した前段ろ過水の濁度検出値は、ろ過水濁度検出手段4に接続された制御手段8に出力される。制御手段8は更にろ過水切り替え手段5に接続されている。ろ過水切り替え手段5としては、バルブ(以下「バルブV1」ともいう)等が利用できる。ろ過水切り替え手段5は、前段ろ過手段2と後段ろ過手段3との間に設けられている。ろ過水切り替え手段5には、前段ろ過手段2で得られた前段ろ過水を後段ろ過手段3から迂回させてろ過水出口側へ供給するための迂回ライン6に接続されている。
【0061】
制御手段8は、ろ過水濁度検出手段4による前段ろ過水の濁度の検出結果に基づいて、前段ろ過水の後段ろ過手段3又は迂回ライン6への切り替えのための制御信号をろ過水切り替え手段5へ出力する。
【0062】
ろ過水切り替え手段5は、前段ろ過手段2で得られたろ過水の濁度が濁度目標値以下の場合は、前段ろ過水を迂回ライン6を介して後段ろ過手段3からバイパスするように、バルブV1を切り替える。一方、前段ろ過水の濁度が濁度目標値を超える場合は、前段ろ過水を後段ろ過手段3へ供給するようにバルブV1を切り替える。
【0063】
濁度目標値は、ろ過水に求められる水質に応じて適宜設定可能である。一般的に、クリプトスポリジウム等の汚染の恐れがある浄水場において、ろ過水の濁度目標値は0.1度である。原水の水質変動を考慮すると、本実施形態では、濁度目標値を0.08度以下、更には0.05度以下とすることが望ましい。
【0064】
前段ろ過手段2の前段側には原水の濁度を検出するための原水濁度検出手段7が設けられている。原水濁度検出手段7としては、一般的に利用可能な濁度計が用いられる。原水濁度検出手段7及び無機凝集剤添加手段1は制御手段8に接続されている。原水濁度検出手段7による原水の濁度検出値は制御手段8へ出力される。
【0065】
制御手段8は、原水濁度検出手段7が検出した原水の濁度検出値に基づいて、無機凝集剤添加手段1及び高分子凝集剤添加手段15により原水に添加すべき無機凝集剤及び高分子凝集剤の最適な注入量を決定し、無機凝集剤添加手段1へ所定の制御信号を出力する。無機凝集剤添加手段1及び高分子凝集剤添加手段15は、原水濁度検出手段により検出された原水の濁度に応じて最適な注入量となるように、無機凝集剤及び高分子凝集剤を原水に添加する。
【0066】
後段ろ過手段3の後段側には、前段ろ過水又は後段ろ過水からなるろ過水に紫外線を照射するためのUV手段9が配置される。UV手段9が配置されることで、ろ過水の消毒を行うことができるため、例えばろ過水の濁度が0.1度より高い場合においても水道水に適したろ過水を得ることが可能となる。更に、紫外線が照射されたろ過水に対しては消毒剤が添加される。
【0067】
図2に示す浄水処理装置を用いて、本発明の実施の形態に係る浄水処理を行うことができる。本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は、低濃度原水を前段ろ過と後段ろ過の二段でろ過することを含み、前段ろ過により得られる前段ろ過水の濁度を検出し、前段ろ過水の濁度が濁度目標値以下の場合は、前段ろ過のみでろ過処理したろ過水を得ることを含む。
【0068】
即ち、濁度が10度以下となる低濃度原水に無機凝集剤に加えて高分子凝集剤を添加した後、低濃度原水に前段ろ過処理を行って前段ろ過水を得て、前段ろ過水の濁度を検出し、前段ろ過水の濁度が濁度目標値を超える場合は、前段ろ過処理の後に後段ろ過処理を行い、後段ろ過処理で得られる後段ろ過水を浄水処理装置から流出させるろ過水とし、前段ろ過水の濁度が濁度目標値以下の場合は、前段ろ過水を浄水処理装置から流出させるろ過水とする。
【0069】
浄水処理では、原水の濁度を検出し、検出した原水の濁度に応じて最適な注入量となるように、無機凝集剤及び高分子凝集剤を原水に添加することができる。無機凝集剤及び高分子凝集剤の最適な注入量は、ジャーテスト、或いは原水濁度に対応する無機凝集剤及び高分子凝集剤の最適注入率を算出する既知の関係式から求めることができる。原水の濁度に基づいて最適な注入量が決定されることにより、無機凝集剤及び高分子凝集剤の余分な注入を防いで注入量が最適化でき、より無駄のない効率的な処理が行えるようになる。特に本実施形態に係る浄水処理方法によれば、本実施形態に係るろ過処理方法を採用することにより、高分子凝集剤の注入量をより適化することができる。
【0070】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法によれば、例えば、従来に比べて無機凝集剤の添加量を節約でき、より効率的で安定した浄水処理が継続可能な浄水処理方法及び浄水処理装置が提供できる。
【0071】
また、前段ろ過手段2として図1のろ過装置を利用することにより、高分子凝集剤を撹拌混合するための槽を省略することができるため、従来に比べて省スペース化を図ることができる。
【0072】
(第2の浄水処理)
浄水処理装置は、図3に示すように、原水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加手段1と、濁度が10度以下の低濁度原水をろ過し、前段ろ過水を得る前段ろ過手段2と、前段ろ過水をろ過し、後段ろ過水を得る後段ろ過手段3と、前段ろ過水の濁度を検出するろ過水濁度検出手段4と、前段ろ過手段2と後段ろ過手段3との間に設けられたろ過水切り替え手段5と、後段ろ過手段3の前段に、前段ろ過手段2と並行に接続された凝集沈殿手段13(フロック形成池11、沈殿池12)と、凝集沈殿手段13及び前段ろ過手段2の前段に設けられ、原水の供給を凝集沈殿手段13と前段ろ過手段2との間で切り替える原水切り替え手段14とを備える。原水切り替え手段14としては、バルブ(以下「バルブV2」ともいう)等が利用できる。
【0073】
後段ろ過手段3を急速ろ過池とした場合、凝集混和池10、フロック形成池11、沈殿池12、後段ろ過手段3は、それぞれ現在一般的に利用可能な浄水処理装置を利用することができる。
【0074】
凝集混和池10では、原水と無機凝集剤添加手段1により添加された無機凝集剤が急速撹拌されることにより原水中の濁質が凝集して微細フロック(マイクロフロック)として成長する。微細フロックを含む原水は、下流側に設置されたフロック形成池11に導かれる。
【0075】
フロック形成池11では、微細フロックを含む原水を緩速撹拌し、微細フロックを粗大化させる。沈殿池12では、粗大フロックが重力分離され、沈殿し、上澄水が得られる。沈殿池12から排出された粗大フロックを主に含む沈殿物(スラッジ)は、図示しない汚泥処理手段である排水池、排泥池、濃縮池及び脱水装置において処理される。
【0076】
前段ろ過手段2のろ過速度LVは例えば200~500m/日である。前段ろ過手段2の高速ろ過に使用するろ過材の有効径は、従来の急速ろ過池又は後段ろ過手段3のろ過池のろ過材の有効径より大きいものを使用するために、前段ろ過手段2では長いろ過継続時間が確保できる。
【0077】
また、無機凝集剤と高分子凝集剤の併用により、有効径の大きいろ過材でも原水の濁質を確実にろ過層で捕捉でき、前段ろ過手段2のろ過水の濁度は従来の急速ろ過池と同程度に低減される。
【0078】
ろ過工程を継続し、水質的又は水量的にろ過機能を持続できなくなったときには、ろ過を停止してろ過層を洗浄して濁度除去能力を回復させる。ろ過層洗浄は、ろ過層下部から洗浄水を通水してろ過層内に抑留された濁質をろ過材から剥離し、ろ過層から分離して急速ろ過池から排出させる。急速ろ過池には種々の方式があるが、自然平衡型ろ過池が利用できる。前段ろ過手段2の前段には無機凝集剤が添加された原水に対して更に高分子凝集剤を添加するための高分子凝集剤添加手段15が接続されている。
【0079】
制御手段8は、無機凝集剤添加手段1、原水濁度検出手段7、高分子凝集剤添加手段15、ろ過水濁度検出手段4、ろ過水切り替え手段5に接続されている。制御手段8は、原水濁度検出手段7又はろ過水濁度検出手段4の濁度検出値に基づいて、ろ過水切り替え手段及び原水切り替え手段5、14のバルブV1、V2の切り替えを制御する。制御手段8の詳細は後述する。前段ろ過手段2で得られた前段ろ過水に対し後段ろ過手段3を迂回させるための迂回ライン6が接続されている。迂回ライン6は、後段ろ過手段3の後段側に接続されている。
【0080】
後段ろ過手段3の更に後段側では、前段ろ過水又は後段ろ過水からなるろ過水を消毒するための消毒剤がろ過水に添加される。更に、消毒剤が添加される前のろ過水に対して、必要に応じてろ過水に紫外線を照射するためのUV手段9が配置されてもよい。他は、図2の浄水処理装置と実質的に同様であるので、重複した記載を省略する。
【0081】
図3に示す浄水処理装置を用いて、第2の浄水処理を行うことができる。第2の浄水処理方法は、低濃度原水に無機凝集剤を添加した後、原水に前段ろ過処理を行って前段ろ過水を得て、前段ろ過水の濁度を検出し、前段ろ過水の濁度が濁度目標値を超える場合は、前段ろ過処理の後に後段ろ過処理を行い、後段ろ過処理で得られる後段ろ過水を必要に応じて消毒後に水道水に供する。前段ろ過水の濁度が濁度目標値以下の場合は、前段ろ過水を必要に応じて消毒後に水道水に供する。
【0082】
また、以下に限定されないが、原水の性状変動等により濁度が10度を超える場合、前段ろ過手段2を一時的に停止させる場合等のように、凝集沈殿処理を行う方が好ましいと判断される場合には、原水に無機凝集剤を添加した後に、凝集沈殿処理を行い、凝集沈殿処理により得られた凝集沈殿処理水に対して後段ろ過処理を行い、後段ろ過水をろ過水として得る。
【0083】
第2の浄水処理方法によれば、原水の性状に応じて最適な処理を実施することができ、既存の設備を利用することができるため、無機凝集剤の使用量を少なくし、既存の設備への応用がしやすく、より効率的で安定した浄水処理が継続可能となる。
【0084】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。本発明は実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲において変形し具体化し得るものである。
【実施例
【0085】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0086】
(実施例1)
表1に示すろ過装置を用いて、濁度10度の原水にPAC6.0(mg/L)を添加して20秒間急速撹拌した。ろ過池内に、ろ過材として有効径2.4(mm)、均等係数1.3のアンスラサイトを用いたろ過層を充填し、原水のろ過水位(ろ過層表層からの高さ)が表2に示す水位h1及び滞留時間kに達したときに、ろ過層表層上のろ過層上部水域に高分子凝集剤0.02(mg/L)の添加を開始して、通常のろ過処理を行った。ろ過層高さ/有効径=200、LV250~450(m/日)とし、結果を表2に示す。なお、ろ過水の濁度は濁度計で連続測定し、ろ過開始後の濁度の最大値を示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
LV250(m/日)の場合、ろ過層表面からの水位h1が200(mm)でろ過層上部水域の滞留時間kが1.2(min)の時点で高分子凝集剤の注入を開始すると、ろ過水濁度が0.08(度)であった。ろ過層表面からの水位h1が300(mm)で滞留時間kが1.8(min)ではろ過水濁度が0.05(度)であった。LV350(m/日)の場合、ろ過層表面からの水位h1が200(mm)でろ過層上部水域の滞留時間kが0.8(min)ではろ過水濁度が0.07(度)であった。
【0090】
LV350(m/日)の場合、ろ過層表面からの水位h1が300(mm)で滞留時間kが1.3(min)ではろ過水濁度が0.04(度)であった。LV450(m/日)の場合、ろ過層表面からの水位h1が100(mm)、ろ過層上部水域の滞留時間kが0.3(min)でろ過水濁度が0.21(度)であった。LV450(m/日)の場合、ろ過層表面からの水位h1が200(mm)で滞留時間kが0.6(min)ではろ過水濁度が0.05(度)であった。
【0091】
以上の結果から、ろ過水濁度0.05度以下を安定的に維持可能な条件として、各LVにおける高分子凝集剤注入のタイミングは、典型的には、以下の通りに設定できる。
LV250(m/日)の場合;
ろ過層表面からの水位h1が300(mm)、滞留時間kが1.8(min)
LV350(m/日)の場合;
ろ過層表面からの水位h1が300(mm)、滞留時間kが1.3(min)
LV450(m/日の場合);
ろ過層表面からの水位h1が200(mm)、滞留時間kが0.6(min)
【0092】
(実施例2)
表1に示すろ過装置を使用し、表2のNo.6のろ過試験を終了した後に、表1に示す洗浄条件でろ過層の逆流洗浄を行った。逆流洗浄終了直後のろ過水位(ろ層表層から水面までの距離)が表3の条件となるように、ろ過水配管高さで、洗浄後のろ過層表層からの水位(洗浄後の水位)を調節した。ろ過層の逆流洗浄後、ろ過層上部水域に滞留する逆流洗浄水に対して高分子凝集剤濃度が0.02(mg/L)となるように高分子凝集剤を添加し、表1に示す洗浄条件で再度、空気逆流洗浄だけを1分間行った。その後、濁度10(度)のろ過原水にPAC6.0(mg/L)を添加して、20秒間急速撹拌したのち、有効径2.4(mm)、均等係数1.3のアンスラサイトを用いて、ろ過層高さ/有効径200で、LV350(m/日)でろ過してろ過水を得た。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】

*表3の「滞留時間」はLV350(m/日)でろ過処理したときのろ過水の滞留時間を示す。
【0094】
表2のNo.4に示すように、LV350(m/日)、ろ過層表面からの水位h1が100(mm)でろ過原水に高分子凝集剤を添加しても、ろ過層上部水域でのろ過原水の滞留時間不足でろ過水濁度が0.16(度)であった。一方、表3に示すように、逆流洗浄後のろ過層上部水域に高分子凝集剤を注入し、撹拌混合した後に、通常のろ過処理を開始した場合は、ろ過層上部水域のろ過水位100(mm)でろ過開始しても、ろ過前にそのろ過層上部水域に高分子凝集剤を添加することで、ろ過水濁度が0.05(度)となった。
【0095】
(実施例3)
表1に示すろ過装置を使用し、表2のNo.6のろ過試験終了後に、表1に示す洗浄条件でろ過層の逆流洗浄を行った。ろ過層の洗浄後、ろ過層上部水域の水位100(mm)で、ろ過層上部水域に高分子凝集剤濃度が0.02(mg/L)となるように高分子凝集剤を添加して、次に空気逆流洗浄を0.5~2(min)で行った。その後、濁度10(度)のろ過原水にPAC6.0(mg/L)を添加して、20秒間急速撹拌したのち、有効径2.4(mm)、均等係数1.3のアンスラサイトを用いて、ろ過層高さ/有効径200、LV350(m/日)でろ過した。結果を表4に示す。表4に示すように、空気逆流洗浄を1分以上行うことで、ろ過水の濁度を0.05度以下に抑えることができている。
【0096】
【表4】
【0097】
(比較例1)
表1に示すろ過装置で、濁度10度のろ過水にPAC6.0(mg/L)を添加して、20秒間急速撹拌したのち、高分子凝集剤濃度が0.02(mg/L)となるように原水に添加し、有効径2.4(mm)、均等係数1.3のアンスラサイトを用いて、ろ過層高さ/有効径=200でLV250(m/日)でろ過した。表5に従来の急速ろ過の結果を示す。
【0098】
ろ過開始から、ろ過水濁度を連続的に測定した。ろ過時間4分からろ過水濁度が上昇し始めて、ろ過水濁度は5分でピークとなり、その後低下傾向であった。表2よりLV250(m/日)の基準水位h1は300mmである。基準水位h1が300mmになるまでは高分子凝集剤を含む原水は原水の濁質の凝集が不十分で、ろ過層からリークして、ろ過水濁度が高まる。ろ過層上部水位が基準水位h1の300mm以上になると、原水の濁質の凝集が促進されて、ろ過水濁度が低下することが分かった。
【0099】
【表5】
【符号の説明】
【0100】
8…制御手段
15…高分子凝集剤添加手段
20…ろ過層
21…水位検出手段
25…ろ過池
31…洗浄水逆流洗浄手段
32…空気逆流洗浄手段
33…表面洗浄手段
図1
図2
図3
図4