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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】ボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 1/08 20060101AFI20230426BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
B43K1/08
B43K7/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019203771
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021074965
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】井戸 幹也
(72)【発明者】
【氏名】秋山 和彦
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/017247(WO,A1)
【文献】特開2006-334861(JP,A)
【文献】特開2003-011572(JP,A)
【文献】特開平11-099794(JP,A)
【文献】特開2014-208721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/08
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなるチップ本体の前端にボールが回転可能に抱持されたボールペンチップを備えたボールペンであって、
前記チップ本体の合成樹脂中にセルロースナノファイバーが含有されてなることを特徴とするボールペン。
【請求項2】
前記チップ本体の合成樹脂全量中に0.1~10質量%のセルロースナノファイバーが含有されてなる請求項1に記載のボールペン。
【請求項3】
前記チップ本体の合成樹脂がポリアセタールである請求項1または2に記載のボールペン。
【請求項4】
内部に水性インキが収容され、前記水性インキが前記ボールペンチップの前端より吐出可能に構成される請求項1乃至3の何れかに記載のボールペン。
【請求項5】
前記ボールペンチップを前端に備えた軸筒と、前記軸筒内部に配置され且つ水性インキが含浸保持されるインキ収容部と、前端部が前記ボールペンチップ内に配置され且つ後端部が前記インキ収容部の前端部に接続されるインキ誘導部材と、を備えた請求項1乃至4の何れかに記載のボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のボールペンにおいて、特許文献1には、熱可塑性合成樹脂に炭素繊維を充填させ、射出成形した水性ボールペンチップが記載されている。また、特許文献2には、炭素繊維またはガラス繊維を混入した合成樹脂からなる水性ボールペンチップが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭59-43184号明細書
【文献】実開昭60-96077号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1及び特許文献2のボールペンチップは、チップ本体を射出成形により得る場合に金型を損傷させやすく、長期にわたり適正な成形を維持できないおそれがある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点を解決するものであって、チップ本体の強度が向上するとともに、チップ本体を射出成形により得る場合の金型の損傷を抑え、長期にわたりチップ本体の適正な成形が維持可能であり、また、水性インキを採用する場合、チップ本体内でのインキの濡れ性または保液性が向上するボールペンを提供しようとするものである。尚、本発明で、「前」とは、ボールペンチップ先端側を指し、「後」とは、その反対側を指す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るボールペン1は、合成樹脂からなるチップ本体3の前端にボール4が回転可能に抱持されたボールペンチップ2を備えたボールペンであって、前記チップ本体3の合成樹脂中にセルロースナノファイバーが含有されてなることを特徴とする。
【0007】
このように構成されたボールペン1は、チップ本体3の強度が向上するとともに、チップ本体3を射出成形により得る場合の金型の損傷を抑え、長期にわたりチップ本体3の適正な成形が維持できる。前記セルロースナノファイバーの平均繊維径は1~1000nm(ナノメートル)の範囲のものを採用することが好ましい。
【0008】
また、上述の本発明に係るボールペン1では、前記チップ本体3の合成樹脂全量中に0.1~10質量%のセルロースナノファイバーが含有されてなることが望ましい。これによれば、チップ本体3の強度が向上し、チップ本体3からボールが脱落することを防止するとともにボール受け座の摩耗を抑制し、且つ、チップ本体3の適正な成形が維持できる。前記チップ本体3の合成樹脂全量中に0.1%未満のセルロースナノファイバーが含有される場合、ボール脱落及びボール受け座の摩耗に対するチップ本体3の強度向上効果が得られないおそれがある。前記チップ本体3の合成樹脂全量中に10%を超えるセルロースナノファイバーが含有される場合、チップ本体3の適正な成形が困難となるおそれがある。
【0009】
また、上述の本発明に係るボールペン1では、前記セルロ-スナノファイバーが含有されたチップ本体3の合成樹脂がポリアセタールであることが望ましい。これによれば、長期にわたりチップ本体3の適正な成形を維持できるとともに筆記抵抗が低減された円滑なボールの回転を得る。
【0010】
また、上述の本発明に係るボールペン1では、内部に水性インキが収容され、前記水性インキが前記ボールペンチップ2の前端より吐出可能に構成されることが望ましい。これによれば、チップ本体3内でのインキの濡れ性または保液性が向上し、筆記時の円滑なインキ流出に伴う円滑な筆記感(筆記抵抗の低減)が得られ、特に、ペン先を上向きにした際にインキがボールペンチップ2内を下降(ドロップバック)することによる筆記不能となることを抑止できる水性ボールペンを得る。
【0011】
さらに、上述の本発明に係るボールペン1では、前記ボールペンチップ2を前端に備えた軸筒5と、前記軸筒5内部に配置され且つ水性インキが含浸保持されるインキ収容部6と、前端部が前記ボールペンチップ2内に配置され且つ後端部が前記インキ収容部6の前端部に接続されるインキ誘導部材7と、を備えることが望ましい。これによれば、チップ本体3内でのインキの濡れ性または保液性が向上し、筆記時の円滑なインキ流出に伴う円滑な筆記感(筆記抵抗の低減)が得られ、特に、ペン先を上向きにした際にインキがボールペンチップ2内を下降(ドロップバック)することによる筆記不能となることを抑止できる水性ボールペンを得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明のボールペンは、チップ本体の強度が向上するとともに、チップ本体を射出成形により得る場合の金型の損傷を抑え、長期にわたりチップ本体の適正な成形を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態のボールペンの要部縦断面図である。
図2図1のA-A線拡大断面図である。
図3図1のボールペンチップの拡大縦断面図である。
図4図3のB-B線矢視断面図である。
図5図3のC-C線矢視断面図である。
図6図3のボールペンチップの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。(図1乃至図6参照)
本実施の形態のボールペン1は、ボールペンチップ2と、該ボールペンチップ2が取り付けられる前端孔51を有する軸筒5と、該軸筒5内に収容される、繊維加工体からなるインキ収容部6(インキ吸蔵体)と、該インキ収容部6の前端部に接続される、繊維加工体からなるインキ誘導部材7と、軸筒5の後端開口部に取り付けられる尾栓(図示せず)とを備える。
【0015】
インキ収容部6には水性インキ(水を主溶剤とし、着色剤として染料または顔料を含有するインキ)が含浸される。インキ誘導部材7はインキ収容部6からのインキをボールペンチップ2に供給する。インキ収容部6は、これ以外にも、インキを直接貯溜する構成であってもよい。また、インキ収容部6にインキを直接貯溜する構成であるとともに、インキ誘導部材7を介さず直接、ボールペンチップ2内をインキが流通する構成であってもよい。
【0016】
・軸筒
軸筒5は、円筒体であり、合成樹脂(例えばポリプロピレン)の成形体により得られる。
軸筒5の前端部は先細状となり、前端に前端孔51が軸方向に貫設される。軸筒5の後端は開口され、該軸筒5の開口された後端部からインキ収容部6が挿入可能である。
【0017】
インキ収容部6の前端は、軸筒5内部の当接部52に当接される。当接部52は、軸筒5内部に配置された環状部材よりなるが、軸筒5内壁に一体形成する構成でもよい。インキ収容部6の後端は、尾栓の前端に当接される。
【0018】
・ボールペンチップ
ボールペンチップ2は、合成樹脂製のチップ本体3と、該チップ本体3の前端に回転可能に抱持されるボール4とからなる。
【0019】
チップ本体3の前端には径方向内方に突出する内向きの前端縁部31aが一体に形成され、前端縁部31aの後方のチップ本体3の前端部内部にはボール受け座31bが一体に形成される。前記ボール受け座31bは、前方に向かうに従い拡径する形状の円錐状内面より形成される。前記ボール受け座31bには、軸心に軸方向に貫設される中心孔31cと、該中心孔31cより径方向外方に放射状に延び且つ軸方向に貫設される複数(例えば5本)のインキ誘導溝31dが形成される。前端縁部31aとボール受け座31bとの間にボール抱持部が形成され、ボール抱持部においてボール4が回転可能に抱持される。チップ本体3の内部にインキ誘導部材7の前端部が後方より挿入され、インキ誘導部材7の前端がインキ誘導溝31d及び中心孔31cに接続される。また、これ以外にインキ誘導部材7または弾発体(例えばコイルスプリング)により、ボール4を前方に付勢し、非筆記時にボール4を前端縁部31aの内面に環状に密接させる構成を採用してもよい。それにより、非筆記時のボールペンチップ2前端からのインキ漏出や空気混入を防止できる。
【0020】
チップ本体3は、例えば、ポリアセタール樹脂の射出成形により得られる。チップ本体3を構成するポリアセタール樹脂中にセルロースナノファイバーが分散状態で含有されている。チップ本体3のポリアセタール樹脂全量中に0.1~10質量%のセルロースナノファイバーが含有されてなる。前記セルロースナノファイバーの平均繊維径は1~500nm(ナノメートル)の範囲のものが採用される。尚、前記セルロースナノファイバーの平均繊維径(平均繊維幅)は、電子顕微鏡写真により複数の繊維(10本以上の繊維)の直径を測定し、その平均を算出した。
【0021】
ボール4は直径0.3mm~1.0mmの範囲(例えば直径0.8mm)のものが採用される。ボール4の材質は特に限定されないが、一般に金属またはセラミックスからなるものが用いられる。ボール4は、例えば、炭化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、炭化ケイ素などのセラミックスやステンレス鋼などの金属が用いられる。また、ボール4は、セラミックスと金属性結合材とからなる超硬合金を用いてもよい。このような超硬合金としては、タングステンカーバイトと、コバルトまたはニッケルなどの金属結合材とからなるものが知られている。
【0022】
筆記時、ボール4がボール受け座31bに回転可能に接触され、ボール受け座31bの中心孔31c及びインキ誘導溝31dを通って後方よりインキがボール抱持部内のボール4に供給される。
【0023】
チップ本体3が、先細状の前側筒部31と、該前側筒部31の後端に一体に形成される後向きの段部32と、該段部32の後方に一体に形成される後側筒部33とを備える。
【0024】
前側筒部31は前端部にボール抱持部を備える。前側筒部31は軸筒5より前方に突出される。後向きの段部32は、軸筒5の前端に当接される。後側筒部33は、軸筒5の前端孔51の内面に圧入固着される。段部32は、前側筒部31の後端に環状に突出された鍔部の後端面に形成される。
【0025】
・空気通路
チップ本体3の後向きの段部32に、径方向に延び且つ径方向外方に開口する第1の溝32aが設けられる。チップ本体3の後側筒部33の外面に軸方向に延び且つ後方に開口する第2の溝33aが設けられる。第1の溝32aと第2の溝33aの前端とが接続される。
第1の溝32aと第2の溝33aは軸心対称位置に2箇所に形成される。
【0026】
軸筒5の前端孔51に後側筒部33を圧入固着し、軸筒5の前端に段部32を当接させた際、軸筒5に前端とチップ本体3の段部32との間に、第1の溝32aによる、径方向に延び且つ径方向外方に開口する第1の空気通路81が形成されると同時に、軸筒5の前端孔51の内面と後側筒部33の外面との間に、第2の溝33aによる、軸方向に延び且つ後方に開口する第2の空気通路82が形成される。第1の溝32aと第2の溝33aとが接続されるに伴い、第1の空気通路81と第2の空気通路82とが略直角に接続され、軸筒5内と外気とを連通する屈曲状(L字状)の空気通路8が形成される。
【0027】
・大径部、小径部
後側筒部33の外面に、大径部331と、該大径部331の後方に設けられ且つ該大径部331より外径が小さい小径部332とを備える。第2の溝33aが大径部331に形成され、第2の溝33aが前記大径部331の後端より後方に開口される。後側筒部33の大径部331が、前端孔51の内面に嵌合固定(圧入固着)される。
【0028】
小径部332の内孔3aの後端開口部においてインキ誘導部材7の外面が保持される。小径部332の内孔3aにおいてインキ誘導部材7の外面が保持されるため、インキ誘導部材7の折れ曲がりを防止できる。小径部332の後端開口部とインキ誘導部材7の外面とが加熱溶融または接着により固定され、それにより、インキ誘導部材7の前後方向のガタツキが防止される。
【0029】
大径部331の後端と小径部332の前端との間に、後方に向かうに従い外径が小さくなる傾斜面333(例えば、円錐面、凸曲面、凹曲面等)が形成される。傾斜面333により、軸筒5の前端孔51にボールペンチップ2の後側筒部33を挿入させる際、前端孔51へのボールペンチップ2の円滑な挿入が可能となる。第2の溝33aの径方向の底面は、小径部332の外面と連続した面により構成される。第2の溝33aは大径部331の後端(傾斜面333)から後方に開口される。小径部332の外面には、第2の溝33aは形成されていない。後側筒部33の小径部332が、軸筒5の前端孔51にボールペンチップ2の後側筒部33を挿入させる際の挿入ガイドとなり、前端孔51へのボールペンチップ2の円滑な挿入が可能となる。
【0030】
本実施の形態のボールペン1において、ボールペンチップ2としてチップ本体3のポリアセタール樹脂全量中に5質量%のセルロースナノファイバーが含有されてなるボールペンチップ2を採用し、0.8mmの直径を有するボール4を採用し、インキとして水を主溶剤とし且つ着色剤として染料を含有する水性インキを採用した場合、室温にて円板式画線機(筆記角度75°、荷重100g、筆記速度4m/分)を用いて筆記した際の筆記抵抗値を測定したところ、筆記抵抗値は19.1g(グラム)であった。それに対し、本実施の形態のボールペン1のボールペンチップ2を、セルロースナノファイバーを含有しないポリアセタール樹脂よりなるボールペンチップ2に置き換えた場合、筆記抵抗値を測定したところ、筆記抵抗値は20.2g(グラム)であった。尚、筆記抵抗値を測定して得られた値は、5本の筆記抵抗値データの平均値である。
【0031】
本実施の形態のボールペン1は、合成樹脂からなるチップ本体3の前端にボール4が回転可能に抱持されたボールペンチップ2を備えたボールペンであって、チップ本体3の合成樹脂中にセルロースナノファイバーが含有されてなることにより、チップ本体3の強度が向上するとともに、チップ本体3を射出成形により得る場合の金型の損傷を抑え、長期にわたりチップ本体3の適正な成形を維持できる。
【0032】
本実施の形態のボールペン1は、ボールペンチップ2を前端に備えた軸筒5と、軸筒5内部に配置され且つ水性インキが含浸保持されるインキ収容部6と、前端部がボールペンチップ2内に配置され且つ後端部がインキ収容部6の前端部に接続されるインキ誘導部材7と、を備えることにより、チップ本体3内でのインキの濡れ性または保液性が向上し、筆記時の円滑なインキ流出に伴う円滑な筆記感(筆記抵抗値の低減)が得られ、ペン先を上向きにした際にインキがボールペンチップ2内を下降(ドロップバック)することによる筆記不能となることを抑止できる。
【符号の説明】
【0033】
1 ボールペン
2 ボールペンチップ
3 チップ本体
3a 内孔
31 前側筒部
31a 前端縁部
31b ボール受け座
31c 中心孔
31d インキ誘導溝
32 段部
32a 第1の溝
33 後側筒部
33a 第2の溝
331 大径部
332 小径部
333 傾斜面
4 ボール
5 軸筒
51 前端孔
52 当接部
6 インキ収容部
7 インキ誘導部材
8 空気通路
81 第1の空気通路
82 第2の空気通路
図1
図2
図3
図4
図5
図6