(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】弾性繊維混用融着編地およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/04 20060101AFI20230426BHJP
D04B 21/04 20060101ALI20230426BHJP
D01F 8/10 20060101ALI20230426BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20230426BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20230426BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20230426BHJP
【FI】
D04B1/04
D04B21/04
D01F8/10 C
A41D31/00 502C
A41D31/00 503L
A41D31/04 C
D06M11/00 100
(21)【出願番号】P 2019238685
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】591121513
【氏名又は名称】クラレトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】小野木 祥玄
(72)【発明者】
【氏名】中塚 均
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 康平
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-248465(JP,A)
【文献】特開2007-321289(JP,A)
【文献】特開昭47-032196(JP,A)
【文献】特開平06-330459(JP,A)
【文献】特開2000-248431(JP,A)
【文献】特開昭48-036079(JP,A)
【文献】特開2015-059285(JP,A)
【文献】特開2015-059288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 31/00-31/32
D01F 1/00-9/04
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00-1/28
21/00-21/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性繊維および非弾性繊維を含み、弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維とが融着している部分を少なくとも一部に含み、前記弾性繊維の少なくとも1種は、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーを含み、かつ、98℃における湿熱収縮率が25%以上である、弾性繊維混用融着編地。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの軟化点は80℃以上110℃以下である、請求項1に記載の弾性繊維混用融着編地。
【請求項3】
前記弾性繊維混用融着編地における融着部の解舒強さは100mN以上である、請求項1または2に記載の弾性繊維混用融着編地。
【請求項4】
弾性繊維と非弾性繊維が引きそろえで編まれている、請求項1~3のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地。
【請求項5】
前記編地はパイル編みまたはダブルラッセル編みであり、パイル編みのループ部またはダブルラッセル編みの繋ぎ部は弾性繊維を含む、請求項1~4のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地。
【請求項6】
無縫製の裁断部を有する、請求項1~5のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地を含む衣料製品。
【請求項8】
弾性繊維と非弾性繊維を用いて弾性繊維混用編地を得る工程、および
前記弾性繊維混用編地を80℃以上120℃以下で1~20分間熱処理して、弾性繊維混用融着編地を得る工程、
を含む、請求項1~6のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地の製造方法。
【請求項9】
前記弾性繊維混用編地を得る工程における弾性繊維は、繊維断面において芯成分および前記芯成分を被覆する鞘成分を含む芯鞘構造を有する複合繊維である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記複合繊維に含まれる鞘成分を溶脱させる工程を含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性繊維混用融着編地およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に装着される布地、特に、運動時または作業時に着用する身体補助部材やインナー等には、収縮して人体の凹凸にフィットすることが求められる。そのような収縮性を有する布地を提供するために、特許文献1では超低温熱融着性ポリウレタン弾性繊維相互が熱融着している成型編地が記載されている。また、特許文献2にはポリスチレン系エラストマーを易溶解性または易分解性熱可塑性ポリマーで被覆した複合繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5511146号公報
【文献】特許第6370079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な布地では解れ止めとして通常、生地を折り返して縫製するため、布地にごわつきが生じやすく、フィット性に劣る場合がある。特許文献1に記載の成型編地は繊維相互が熱融着しているため、切りっぱなし(無縫製)で使用できるが、ポリウレタン繊維から構成される布地は一般的に耐候性が低い傾向にあり、着用および洗濯を頻繁に繰り返して使用する身体補助部材やインナー等を構成するための布地としては、長期的な使用が難しい側面があった。
【0005】
さらに、特許文献1および2に記載されている布地は、布地を構成するエラストマーに由来する独特のギラつき(布地表面のテカリ)が発生しやすく、審美性が求められる衣料製品には必ずしも適さないという課題があることを本発明者らは見出した。
【0006】
したがって、本発明の目的は、布地表面の独特のギラつきが抑えられた編地およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するために詳細に検討を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕弾性繊維および非弾性繊維を含み、弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維とが融着している部分を少なくとも一部に含み、前記弾性繊維の少なくとも1種は、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーを含み、かつ、98℃における湿熱収縮率が25%以上である、弾性繊維混用融着編地。
〔2〕前記熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの軟化点は80℃以上110℃以下である、〔1〕に記載の弾性繊維混用融着編地。
〔3〕前記弾性繊維混用融着編地における融着部の解舒強さは100mN以上である、〔1〕または〔2〕に記載の弾性繊維混用融着編地。
〔4〕弾性繊維と非弾性繊維が引きそろえで編まれている、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地。
〔5〕前記編地はパイル編みまたはダブルラッセル編みであり、パイル編みのループ部またはダブルラッセル編みの繋ぎ部は弾性繊維を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地。
〔6〕無縫製の裁断部を有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地を含む衣料製品。
〔8〕弾性繊維と非弾性繊維を用いて弾性繊維混用編地を得る工程、および
前記弾性繊維混用編地を80℃以上120℃以下で1~20分間熱処理して、弾性繊維混用融着編地を得る工程、
を含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の弾性繊維混用融着編地の製造方法。
〔9〕前記弾性繊維混用編地を得る工程における弾性繊維は、繊維断面において芯成分および前記芯成分を被覆する鞘成分を含む芯鞘構造を有する複合繊維である、〔8〕に記載の方法。
〔10〕前記複合繊維に含まれる鞘成分を溶脱させる工程を含む、〔9〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、布地表面の独特のギラつきが抑えられた編地およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0010】
本発明の弾性繊維混用融着編地は、弾性繊維および非弾性繊維を含み、弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維とが融着している部分を少なくとも一部に含み、前記弾性繊維の少なくとも1種は、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーを含み、かつ、98℃における湿熱収縮率が25%以上である。
本発明において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーを含む弾性繊維の98℃における湿熱収縮率(以下、単に「湿熱収縮率」とも称する)が25%未満であると、該繊維を編地にした際に十分に収縮しないため、弾性繊維が編地中に潜りこみにくく、表面に露出しやすくなるため、弾性繊維によるギラつきが編地に発生しやすい。湿熱収縮率は、好ましくは35%以上、より好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上である。その上限は特に限定されないが、編地の過度な収縮を抑制するため、通常70%以下、好ましくは60%以下である。湿熱収縮率が前記下限値以上であると、編地が極端に収縮しにくく、かつ、弾性繊維が編地中に潜り込み、編地表面に露出しにくくなり、編地のギラつきを抑え得る。湿熱収縮率は、例えば、弾性繊維の構成成分もしくは構成比率、または巻取り速度もしくは熱処理等の紡糸条件等により、制御できる。また、湿熱収縮率は、例えば後述の実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0011】
ここで、本明細書において弾性繊維とは、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミドまたはポリエステル等のエラストマー樹脂からなるゴム状弾性を有する繊維のことをいい、具体的には100%超の引張破断伸度を有する繊維をいう。本発明において、湿熱収縮率が25%以上の弾性繊維の少なくとも1種は、耐候性および耐薬性に優れ、得られる編地が伸縮動作を繰り返しても伸びきりが少ないことから、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーを含む。
【0012】
また、本明細書において、非弾性繊維とは引張破断伸度が100%以下である繊維を指す。そのような繊維は特に限定はされないが、例えば、木綿、麻、羊毛、絹およびカシミヤ等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジックおよびリヨセル等の再生繊維、ならびにポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびアクリル等の化学合成繊維等を使用することができる。非弾性繊維は1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。非弾性繊維の繊維径、構造等は特に限定されず、編地の用途および所望の特性に合わせて、種々の非弾性繊維を使用できる。
【0013】
本発明において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーとは、スチレンと他の重合原料を併用したブロック共重合体(以下、「スチレン系ブロック共重合体」とも称する)またはその水素添加物を含むものであれば、特に限定されない。そのようなスチレン系ブロック共重合体を構成するソフトセグメント部としては、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレン等の共役ジエン系化合物から選択される1種からなる単独重合体、前記共役ジエン系化合物から選択される2種以上からなるランダム共重合体、ブロック共重合体もしくはグラフト共重合体、または前記の単独重合体もしくは共重合体からなる重合体部分、もしくはその水素添加物等を分子構造中に有する重合体を挙げることができる。紡糸性を向上させる観点から、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレン等の共役ジエン系化合物の1種からなる単独重合体、2種以上からなるブロック共重合体、およびそれらの水素添加物が好ましい。スチレン系ブロック共重合体中のスチレンの含有量は、スチレン系ブロック共重合体の総質量に基づき、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。スチレン系ブロック共重合体中のスチレンの含有量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、前記共重合体を含む熱可塑性ポリスチレン系エラストマーのゴム弾性を向上させることができ、伸縮を繰り返した場合も伸びきりが生じ難い編地を得やすい。
【0014】
スチレン系ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30000以上、より好ましくは80000以上であり、好ましくは300000以下、より好ましくは250000以下である。重量平均分子量(Mw)が前記下限値以上および前記上限値以下であると、前記共重合体を含む熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの曵糸性が向上しやすい。重量平均分子量(Mw)は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)から求めることができる。熱可塑性ポリスチレン系エラストマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
さらに、前記スチレン系ブロック共重合体以外の重合体と組み合わせたものを、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーとしてもよい。前記スチレン系ブロック共重合体以外の重合体としては、例えば、ポリプロピレンおよびポリエチレン等が挙げられる。その場合、熱可塑性ポリスチレン系エラストマー中のスチレン系ブロック共重合体の含有量は、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの総質量に基づき、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。熱可塑性ポリスチレン系エラストマー中のスチレン系ブロック共重合体の含有量が前記下限値以上であると、エラストマーのゴム弾性が発揮されやすい。
【0016】
本発明において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。添加剤の例としては、成形加工時の流動性を向上させるためのパラフィン系オイルおよびナフテン系オイル等の鉱物油軟化剤;耐熱性および耐候性等の向上、または増量等を目的とする炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウムおよび炭酸マグネシウム等の無機充填剤;補強のためのガラス繊維およびカーボン繊維等の無機繊維または有機繊維;熱安定剤;酸化防止剤;光安定剤;粘着剤;粘着付与剤;可塑剤;帯電防止剤;発泡剤等を挙げることができる。これらを含む場合、その含有量は熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの質量に基づいて、通常0.01~3.0質量%である。これらの添加剤の中でも、耐熱性および耐候性をさらに良好なものとするために、熱安定剤および酸化防止剤等を添加することが実用上好ましい。
【0017】
上記のようなスチレン系ブロック共重合体を含む熱可塑性ポリスチレン系エラストマーとして、例えば、市販品のクラレプラスチックス株式会社製「アーネストン KD-116MA」および「アーネストン CJ101」等を挙げることができる。
【0018】
本発明において、前記熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの軟化点は、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃以上であり、好ましくは110℃以下、より好ましくは105℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの軟化点が前記下限値以上および前記上限値以下であると、弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維との間の融着が適度に起こりやすい。熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの軟化点は、例えば該エラストマーのソフトセグメントの設計によって調整できる。なお、本発明において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーにおける軟化点は、エラストマー自体の軟化点であってもよく、前記エラストマーを構成する重合体部分が有している軟化点であってもよい。熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの軟化点は、例えば、後述のJIS K 7206に従って求めることができる。
【0019】
本発明の好適な一態様において、前記熱可塑性ポリスチレン系エラストマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-40℃以上、より好ましくは-30℃以上であり、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下である。ガラス転移温度が前記下限値以上および前記上限値以下であると、前記熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの曵糸性が向上しやすい。なお、本発明において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーにおけるガラス転移温度は、エラストマー自体のガラス転移温度であってもよく、エラストマーを構成する重合体部分が有しているガラス転移温度であってもよい。ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量分析法(DSC)により測定できる。
【0020】
本発明の好適な一態様において、前記熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの、250℃における溶融粘度は、好ましくは500Pa・s以上、より好ましくは700Pa・s以上であり、好ましくは3000Pa・s以下、より好ましくは2000Pa・s以下である。溶融粘度が前記下限値以上および前記上限値以下であると、得られる繊維の強度を確保し得る。熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの溶融粘度は、例えば、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーに含まれるスチレン系ブロック共重合体の分子量、スチレン含有量またはソフトセグメントの設計等によって調整できる。溶融粘度は、例えば、キャピラリーレオメーターを使用して測定できる。
【0021】
本発明において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーは、従来公知の紡糸法を用いて繊維化することが可能である。例えば、低速、中速で溶融紡糸した後に延伸する方法、高速による直接紡糸延伸方法、スピンラインヒーター等の熱処理を行った後に巻き取る方法等の任意の紡糸方法で製造することができる。紡糸時の溶融温度は、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの融点等により適宜調整してよいが、通常250~300℃が好ましい。紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか、必要に応じて延伸される。延伸操作は、通常、ガラス転移温度以上の温度において、引張破断伸度の1.1~3.0倍の延伸倍率で行われる。
【0022】
延伸は紡糸ノズルから吐出された後に、一旦巻き取ってから延伸する場合と、紡糸に引き続いて施される場合があるが、本発明においてはいずれでもよい。延伸操作は、通常熱延伸によって行われ、熱風、熱板、雰囲気加熱、熱ローラー等のいずれを用いて行っても良い。熱延伸を行う際の温度は特に限定は無いが、繊維を構成する樹脂のガラス転移点を超える温度にて予備加熱し、結晶化温度付近にてセット加熱を行うのがよい。また、引き取り速度は、一旦巻き取ってから延伸処理を行う場合、紡糸直結延伸の一工程で紡糸延伸して巻き取る場合、または延伸を行わずに高速でそのまま巻き取る場合で異なるが、通常500~3000m/分の範囲で引き取る。500m/分未満では、生産性に劣り、3000m/分超では、繊維の断糸が起こりやすい。
【0023】
本発明において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーを含み、かつ、98℃における湿熱収縮率が25%以上である弾性繊維(以下、「PS系収縮性弾性繊維」とも称する)について、紡糸後に弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維との間の融着を阻害しない範囲で、任意の加工を施してもよい。そのような加工としては、例えば、膠着を防止するために延伸後に油剤を付与する加工およびインターレースによる収束加工等が挙げられる。
【0024】
本発明において、PS系収縮性弾性繊維はマルチフィラメントまたはモノフィラメントの形態で使用できる。マルチフィラメントの形態をとる場合、PS系収縮性弾性繊維が少なくとも1本含まれていればよく、PS系収縮性弾性繊維と、PS系収縮性弾性繊維以外の弾性繊維および非弾性繊維のうちの1種以上とを組み合わせてもよい。
PS系収縮性弾性繊維の単糸繊度は、紡糸時の工程通過性から好ましくは0.5dtex以上、より好ましくは2dtex以上であり、好ましくは20dtex以下、より好ましくは10dtex以下である。構成するフィラメント数は1~50本が好ましい。
【0025】
本発明において、PS系収縮性弾性繊維の断面は特に限定されず、例えば丸形、楕円形、花形、多角形、星形、Y形、雪だるま形および中空状等にできる。弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維との間の融着が起こりやすいため、丸形が好ましい。
【0026】
本発明において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーとそれ以外の成分とが、繊維断面において芯成分および前記芯成分を被覆する鞘成分を含む芯鞘構造、または熱可塑性ポリスチレン系エラストマーとそれ以外の成分とが張り付いた雪だるま状の断面構造(サイド・バイ・サイド)等を有するような複合繊維であってもよい。
【0027】
本発明の一態様において、弾性繊維は、繊維断面において芯成分および前記芯成分を被覆する鞘成分を含む、芯鞘構造を有する複合繊維の形態であることが好ましい。芯成分として熱可塑性ポリスチレン系エラストマー、および鞘成分として後述する易溶解性熱可塑性ポリマーを含む態様が好ましい。製造工程中に溶脱される鞘成分を含む複合繊維を使用することで、繊維保管時または製造工程における高温多湿環境下において、繊維同士の膠着を防止し得る。
【0028】
前記易溶解性熱可塑性ポリマーは、紡糸可能であるとともに、芯成分の熱可塑性ポリスチレン系エラストマーと比べ、相対的に溶媒または薬剤に対して溶解または分解しやすい性質を有しており、例えば、水(熱水を含む)、アルカリ、酸等により溶解または分解が可能である。
【0029】
易溶解性熱可塑性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、易溶解性ポリエステル、ポリ乳酸、およびα-オレフィンで変性された共重合ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0030】
易溶解性ポリエステルとしては、アルカリ溶解速度が速いポリエステルを用いることが好ましく、例えば、極性基含有共重合ポリエステル、脂肪族ポリエステル等を採用することができる。
【0031】
極性基含有共重合ポリエステルとしては、エステル形成スルホン酸金属塩化合物(例えば、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸等)を1~5モル%と、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリC1-4アルキレングリコール)を5~30モル%と従来用いられているジオール成分およびジカルボン酸成分とを共重合してなる共重合ポリエステル等が挙げられる。
【0032】
脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸;ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート-co-ブチレンアジペート)等の脂肪族ジオールと脂肪族カルボン酸とのポリエステル;ポリ(グリコール酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(6-ヒドロキシカプロン酸)等のポリヒドロキシカルボン酸;ポリ(ε-カプロラクトン)やポリ(δ-バレロラクトン)等のポリ(ω-ヒドロキシアルカノエート)等が挙げられる。これらの脂肪族ポリエステルのうち、ポリ乳酸が好ましく、ポリ乳酸は、ポリD-乳酸、ポリL-乳酸またはそれらの混合物であってもよい。
【0033】
水溶性の易溶解性熱可塑性ポリマーであるポリビニルアルコール重合体としては、例えば、粘度平均重合度が200~500、ケン化度が90~99.99モル%(好ましくは、95~99モル%)、融点が160~230℃のポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコール重合体は、ホモポリマーであっても共重合体であってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、エチレン、プロピレン等炭素数が4以下のα-オレフィン等で0.1~20モル%(好ましくは5~15モル%)変性された共重合ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0034】
水溶性の熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、例えば、98℃の熱水に浴比1:30で浸漬した際に、例えば60分以内、好ましくは50分以内、より好ましくは30分以内、特に好ましくは15分以内にほぼ完全に溶解(分解)するような熱可塑性ポリビニルアルコール系ポリマーが好ましく、α-オレフィンで変性された共重合ポリビニルアルコールがより好ましい。
【0035】
本発明において、熱処理として、例えば98℃の熱水(高温の水溶液を含む)に浸漬させる工程を選択すれば、熱水温度により熱可塑性ポリスチレン系エラストマーが溶融し、追加の融着工程が不要になることから、α-オレフィンで変性された共重合ポリビニルアルコールを鞘成分とする態様が好ましい。
【0036】
前記のような複合繊維において、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーと易溶解性熱可塑性ポリマーとの複合比率(質量比)は、熱可塑性ポリスチレン系エラストマー:易溶解性熱可塑性ポリマーが、好ましくは90:10~50:50、より好ましくは85:15~50:50、さらに好ましくは80:20~50:50である。熱可塑性ポリスチレン系エラストマーと易溶解性熱可塑性ポリマーの複合比率が前記範囲内であると、繊維保管時および編地製造時の膠着が起こりにくくなるため好ましい。
【0037】
前記の複合繊維の断面において、易溶解性熱可塑性ポリマーが熱可塑性ポリスチレン系エラストマー表面全体を覆う必要はないが、膠着が発生しにくくするためには、繊維断面において、易溶解性熱可塑性ポリマーが複合繊維の全周長の70%以上を被覆していることが好ましく、80%以上被覆していることがより好ましく、90%以上被覆していることがさらに好ましい。
【0038】
弾性繊維および非弾性繊維を含む本発明の弾性繊維混用融着編地は、1種以上のPS系収縮性弾性繊維と、1種以上の非弾性繊維とのみからなる編地であってもよく、1種以上のPS系収縮性弾性繊維、1種以上の該弾性繊維以外の弾性繊維、および1種以上の非弾性繊維からなる編地であってもよい。前記該弾性繊維以外の弾性繊維としては、例えばポリウレタン繊維およびポリトリメチレンテレフタレート繊維等の自己捲縮型繊維、もしくはシリコーン繊維等が挙げられる。編地中の弾性繊維の割合は、編地の質量に基づいて、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。編地中の非弾性繊維の割合は、編地の質量に基づいて、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。弾性繊維と非弾性繊維の編地中の割合が前記範囲内であると、弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維との融着が起こりやすくなり、編地の裁断部のカールおよび解れ等が抑制されやすい。また、弾性繊維中のPS系収縮弾性繊維の割合は、編地に含まれる全弾性繊維の質量に基づいて、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは100質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。弾性繊維中のPS系収縮弾性繊維の割合が前記下限値以上および前記上限値以下であると、編地が極端に収縮しにくく、かつ、弾性繊維が編地中に潜り込みやすく、編地のギラつきを抑え得る。PS系収縮性弾性繊維以外の弾性繊維が編地中に含まれる場合、該弾性繊維の繊維径、構造等は特に限定されず、編地の用途および所望の特性に合わせて適宜選択してよい。
【0039】
本発明の弾性繊維混用融着編地の種類は、特に限定されないが、弾性繊維と非弾性繊維とが引きそろえで編まれていることが好ましい。ここで、引きそろえとは弾性繊維と非弾性繊維とが同じ糸口から引きそろえて編まれていることを指し、具体的には天竺編み、フライス編、リブ編等が挙げられる。また、弾性繊維が編地に潜り込み、編地のギラつきを抑えやすいという観点から、嵩高い編地が好ましく、具体的にはパイル編みまたはダブルラッセル編みが好ましい。また上記と同様の観点から、パイル編みのループ部またはダブルラッセル編みの繋ぎ部に弾性繊維が含まれることが好ましい。
【0040】
本発明の弾性繊維混用融着編地は、弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維とが融着している部分を少なくとも一部に有している。融着によって編目が固定されることから、編地のカール、裁断部のほつれ、または伝線(ラン)等を抑制することができるため、本発明の弾性繊維混用融着編地は、無縫製の裁断部を有していてもよい。
【0041】
本発明において、弾性繊維混用融着編地の融着の程度は、弾性繊維混用融着編地における融着部の解舒強さによって表される。解舒強さは、好ましくは100mN以上、より好ましくは200mN以上、さらに好ましくは250mN以上である。弾性繊維混用編地の融着の程度が強くなるほど前記解舒強さは強くなり、最終的には解舒されずに測定糸が破断してしまうことから、解舒強さの上限値は特に設定されない。解舒強さは、後述の実施例に記載の方法に基づいて測定できる。解舒強さが前記下限値以上であると、繊維同士が十分に融着して編地が固定されるため、編地のカール、裁断部のほつれ、または伝線(ラン)等を抑制しやすい。解舒強さは、例えば、編地中のPS系収縮性弾性繊維の割合、熱処理温度または熱処理時間等で調整できる。
【0042】
本発明において、弾性繊維混用融着編地の目付は特に限定は無いが、好ましくは150g/m2以上、より好ましくは300g/m2以上、さらに好ましくは350g/m2以上であり、好ましくは500g/m2以下、より好ましくは450g/m2以下、さらに好ましくは400g/m2以下である。また、弾性繊維混用融着編地の厚さは、好ましくは0.5cm以上、より好ましくは1cm以上であり、好ましくは3cm以下、より好ましくは2cm以下である。
【0043】
本発明の弾性繊維混用融着編地は、上述の通り、布地表面の独特のギラつきおよび布地の極端な収縮が抑えられ、繰り返しの伸縮動作でも衣料製品の伸びきりがより少なく、耐候性に優れた解れにくい編地であるため、衣料製品に好適である。そのような衣料製品としては、例えば、スパッツ、肩、腰、膝および足首等用のサポーター、ストッキング、手袋、靴下、下着類、スポーツウェア、水着等が挙げられる。
【0044】
本発明において、弾性繊維混用融着編地を含む衣料製品は、本発明の弾性繊維混用融着編地単独で形成されていてもよいが、本発明の弾性繊維混用融着編地以外の編地、織地および不織布といった他の種類の布地と組み合わせて形成されていてもよい。例えば、衣料製品の端部または収縮が過度に起こる部位のみに、本発明の弾性繊維混用融着編地を使用し、その他の部分については、本発明の弾性繊維混用融着編地以外の布地を使用することもできる。衣料製品に含まれる弾性繊維混用融着編地の割合は、該衣料製品の種類、用途または形状等によって適宜変更してよい。
【0045】
<弾性繊維混用融着編地の製造方法>
本発明の弾性繊維混用融着編地は、例えば
弾性繊維と非弾性繊維を用いて弾性繊維混用編地を得る工程、および
前記弾性繊維混用編地を80℃以上120℃以下で1~20分間熱処理して、弾性繊維混用融着編地を得る工程、
を含む方法によって製造することができる。
【0046】
本発明において、弾性繊維と非弾性繊維とから弾性繊維混用編地を得る方法は特に限定されず、従来公知の方法を使って編地を得ることができる。例えば、完全成型編機、準成型編機、靴下編機、丸編機等の当該技術分野で公知の手法を使用できる。また、編地の作製条件(カウント数、伸び寸等)も特に限定されず、成型編みにおける公知の条件で作製できる。
【0047】
前記で得られた弾性繊維混用編地を、80℃以上120℃以下で1~20分間熱処理する。熱処理の温度は、好ましくは85℃以上、より好ましくは88℃以上であり、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下である。熱処理温度が前記下限値以上および前記上限値以下であると、弾性繊維同士および/または弾性繊維と非弾性繊維との間の融着が十分に起こり得、得られる弾性繊維混用融着編地が所望の特性を有しやすいので好ましい。熱処理時間は、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上であり、好ましくは15分以下、より好ましくは13分以下である。熱処理時間が前記範囲内であると、非弾性繊維の変性が起こりにくい。
【0048】
弾性繊維混用編地を熱処理する方法は特に限定されず、例えば熱水(高温の水溶液を含む)への浸漬、乾熱処理、水蒸気による処理またはアイロン等の当該技術分野で公知の手法を使用できる。
【0049】
弾性繊維混用融着編地の製造方法において、弾性繊維が芯鞘構造を有する場合、本発明の製造方法は複合繊維に含まれる鞘成分を溶脱させる工程を含む。
【0050】
本発明の製造方法において、鞘成分を溶脱させる工程は、芯成分である熱可塑性ポリスチレン系エラストマーに影響を及ぼすことなく鞘成分を完全に溶解または分解し得る方法および条件であれば特に限定されるものではなく、芯成分である熱可塑性ポリスチレン系エラストマーおよび易溶解性熱可塑性ポリマーの種類、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーと易溶解性熱可塑性ポリマーの複合比率等に応じて適宜選択すればよい。
【0051】
本発明において、弾性繊維混用編地を80℃以上120℃以下で1~20分間熱処理して弾性繊維混用融着編地を得る工程が、芯鞘構造を有する複合繊維に含まれる易溶解性熱可塑性ポリマーの溶脱工程を兼ねることが好ましい。したがって、前記熱処理工程は熱水(高温の水溶液を含む)に浸漬して処理する工程であることが好ましい。
【0052】
本発明の弾性繊維混用融着編地の製造方法は、当該技術分野で公知な任意の追加の工程をさらに含んでよい。そのような工程としては、例えば、乾熱セット工程、染色工程、裁断工程、精錬工程および熱プレス工程等を挙げることができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に述べるが、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0054】
1.弾性繊維混用融着編地の製造
<実施例1>
低反発系熱可塑性ポリスチレン系エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製「アーネストン KD-116MA」)を押出し機で溶融させ、単独繊維を紡糸ノズルより吐出させた。ついで紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、連続して紡糸口金直下から1.3mの位置に設置した、長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度:180℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた繊維に油剤を付与し、引き続いてローラーを介して2000m/分の引取り速度で巻き取って、185dtex/24フィラメントの弾性繊維を製造した。
その後、地糸に東レ株式会社製Ny66糸「WN78T68」(78dtex/68フィラメント)、パイル糸に前記弾性繊維および東レ株式会社製Ny66糸「WN78T68」を引きそろえで使用し、丸編機でパイル生地を作製した。続いて、その生地を98℃の熱水で10分処理して、目付350g/m2、厚み1cmの弾性繊維混用融着編地を得た。解舒強さはパイル糸に属する非弾性繊維、すなわちNy66糸の解舒で測定した。この時、初期荷重は、繊度(dtex)の数値の1/20cNとするため、(185+78)/20=13.2cNとした。
【0055】
<実施例2>
地糸(コース)に東レ株式会社製Ny66糸「WN78T68」、繋ぎ糸(ウェール)に実施例1で作製した弾性繊維および東レ株式会社製Ny66糸「WN78T68」を引きそろえで使用し、ダブルラッセル生地を作製した。続いて、その生地を98℃の熱水で10分処理して、目付456g/m2、厚み2cmの弾性繊維混用融着編地を得た。解舒強さは繋ぎ糸に属する非弾性繊維、すなわちNy66糸の解舒で測定した。
【0056】
<実施例3>
実施例1で作製した弾性繊維および東レ株式会社製Ny66糸「WN78T68」を引きそろえで使用し、天竺生地を作製した。続いて、その生地を98℃の熱水で10分処理して、目付205g/m2、厚み0.3cmの弾性繊維混用融着編地を得た。解舒強さはコース方向に属する非弾性繊維、すなわちNy66糸の解舒で測定した。
【0057】
<実施例4>
高反発系熱可塑性ポリスチレン系エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製「アーネストン CJ101」)を押出し機で溶融させ、単独繊維を紡糸ノズルより吐出させた。ついで、紡糸口金より吐出された糸条を、長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により冷却した後、連続して紡糸口金直下から1.3mの位置に設置した、長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度:180℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した。その後、チューブヒーターから出てきた繊維に油剤を付与し、引き続いてローラーを介して2000m/分の引取り速度で巻き取って、185dtex/24フィラメントの弾性繊維を製造した。
その後、地糸に東レ株式会社製Ny66糸「WN78T68」、パイル糸に前記弾性繊維および東レ株式会社製Ny66糸「WN78T68」を引きそろえで使用し丸編機でパイル生地を作製した。続いて、その生地を98℃の熱水で10分処理して、目付306g/m2、厚み1cmの弾性繊維混用融着編地を得た。解舒強さはパイル糸に属する非弾性繊維、すなわちNy66糸の解舒で測定した。
【0058】
<実施例5>
低反発系熱可塑性ポリスチレン系エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製「アーネストン KD-116MA」)を用いて紡糸口金より吐出された糸条を連続して紡糸口金直下から2.3mの位置で油剤を付与し、1000m/分の速度で巻取りローラーへ導入した。その後、加熱ローラー80℃、セットローラー120℃にて延伸倍率2.0倍で延伸し、2000m/分の引取り速度で巻き取って、185dtex/24フィラメントの弾性繊維を製造した。
その後、弾性繊維を前記で作製したものに変更した以外は実施例1と同様にパイル生地を作製し、その生地を98℃の熱水で10分処理して、目付310g/m2、厚み1.1cmの弾性繊維混用融着編地を得た。解舒強さはパイル糸に属する非弾性繊維、すなわちNy66糸の解舒で測定した。
【0059】
<実施例6>
芯成分として、低反発系熱可塑性ポリスチレン系エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製「アーネストン KD-116MA」)、鞘成分として、熱可塑性変性ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、ケン化度:98.5、エチレン含有量:8.0モル%、重合度:380)の2成分を用い、芯成分と鞘成分との複合比を50:50の質量比とし、それぞれを別々の押出し機で溶融させ、芯鞘断面で複合繊維を複合紡糸ノズルより吐出させた。フィラメント製造は実施例1と同様に行った。
その後、弾性繊維を前記で作製したものに変更した以外は実施例1と同様にパイル生地を作製し、その生地を98℃の熱水で10分処理して、目付192g/m2、厚み0.9cmの弾性繊維混用融着編地を得た。解舒強さはパイル糸に対する地糸に属する非弾性繊維、すなわちNy66糸の解舒で測定した。
【0060】
<比較例1>
低反発系熱可塑性ポリスチレン系エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製「アーネストン KD-116MA」)用いて紡糸口金より吐出された糸条を連続して紡糸口金直下から2.3mの位置で油剤を付与し、600m/分の速度で巻取りローラーへ導入した。その後、加熱ローラー80℃、セットローラー120℃にて延伸倍率3.3倍で延伸し、2000m/分の引取り速度で巻き取って、185dtex/24フィラメントの繊維を製造した。
その後、弾性繊維を前記で作製したものに変更した以外は実施例1と同様にパイル生地を作製し、その生地を98℃の熱水で10分処理して、目付311g/m2、厚み1.1cmの弾性繊維混用融着編地を得た。解舒強さはパイル糸に属する非弾性繊維、すなわちNy66糸の解舒で測定した。
【0061】
<比較例2>
繊維は比較例1と同様に作製した。生地は実施例3と同様に作製した。すなわち、弾性繊維を比較例1で作製したものに変更した以外は実施例3と同様に天竺生地を作製し、その生地を98℃の熱水で10分処理して、目付199g/m2、厚み0.3cmの弾性繊維混用融着編地を得た。解舒強さはコース方向に属する非弾性繊維、すなわちNy66糸の解舒で測定した。
【0062】
2.物性評価
実施例および比較例における各物性値は以下の方法により測定した。各結果を表1に示す。
【0063】
<湿熱収縮率(Wsr)>
湿熱収縮率(Wsr)は以下の方法で測定した。初荷重1.1mg/dtex下で試料に50cm間隔の印をつけ、次いで試料を98℃の熱水中に5mg/デニ-ルの荷重下30分間放置した。その後、試料を取り出して1.1mg/dtex荷重下で印の間隔L′cmを測定し、次式により算出した。
Wsr(%)=〔(50-L′)/50〕×100
【0064】
<軟化点>
熱可塑性ポリスチレン系エラストマーの軟化点は、弾性繊維においてJIS K 7206に準拠して測定した。
【0065】
<解舒強さ>
解舒強さは、以下の方法で測定した。各実施例で得られた編地のうち、融着部から5cmだけ非弾性繊維を引き出した。この時、非弾性繊維とともに弾性繊維が引き出されても構わない。繊維端部を引張試験機(エー・アンド・デイ社製「テンシロンRTG-1250」)の上部チャックに把持した。編地を繊度(dtex)の数値の1/20cNの荷重下で下部チャックに把持し、チャック間50mm、引張速度300mm/分で引張り、その張力を測定した。編地中のランダムに選択した5箇所について試験し、その平均値を解舒強さとした。なお、測定限界とは前記条件で試験した際に解舒されずに糸が破断することを意味する。
【0066】
<編地のギラつき評価>
編地の表面ギラつき評価は、官能評価にて以下のように評価した。
◎:どの角度から見ても表面にギラつきが見受けられない
○:基本的にはギラつきが感じられないが、ある一定の角度から見ると若干のギラつきが見受けられる
×:どの角度から見ても表面にギラつきが見受けられる
【0067】
【0068】
湿熱収縮率が25%未満である弾性繊維を含む比較例1および2の編地では、どの角度から見ても表面のギラつきが見受けられ、審美性に劣る。一方、熱可塑性ポリスチレン系エラストマーを含み、かつ、98℃における湿熱収縮率が25%以上である弾性繊維を含む実施例1~6の編地は表面のギラつきが抑制されていることが確認できた。