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特許7269174担体、触媒及びそれらの製造方法並びにエチレンオキサイドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-25
(45)【発行日】2023-05-08
(54)【発明の名称】担体、触媒及びそれらの製造方法並びにエチレンオキサイドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/50 20060101AFI20230426BHJP
   B01J 27/055 20060101ALI20230426BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20230426BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20230426BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230426BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20230426BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230426BHJP
   C01F 7/02 20220101ALI20230426BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230426BHJP
【FI】
B01J23/50 Z
B01J27/055 Z
B01J32/00
B01J37/00 D
B01J37/02 101Z
B01J37/04 102
B01J37/08
C01F7/02 A
C01F7/02 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019536501
(86)(22)【出願日】2017-01-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 US2017015027
(87)【国際公開番号】W WO2018128638
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2019-10-29
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】62/442,626
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591105890
【氏名又は名称】サイエンティフィック・デザイン・カンパニー・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】SCIENTIFIC DESIGN COMPANY INCORPORATED
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(72)【発明者】
【氏名】パック、セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康之
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199059号公報
【文献】特開2015-199060号公報
【文献】国際公開第2016/196709号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00- 38/74
C07B 31/00- 63/04
C07C 1/00-409/44
C07D301/00-305/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体は、アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含み、
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応しており
前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、
エチレンのエポキシ化触媒用の担体。
【請求項2】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.1wt%未満の量に対応する、
請求項1記載の担体。
【請求項3】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.05wt%以下の量に対応する、
請求項1記載の担体。
【請求項4】
前記アルミナは、α-アルミナである、
請求項1記載の担体。
【請求項5】
a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応している担体と、
b)前記担体の表面に担持された銀と、
を含み
前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、
エチレンのエポキシ化用の触媒。
【請求項6】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.1wt%未満の量に対応する、
請求項記載の触媒。
【請求項7】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.05wt%以下の量に対応する、
請求項記載の触媒。
【請求項8】
前記アルミナは、α-アルミナである、
請求項記載の触媒。
【請求項9】
前記触媒は、さらに前記担体の表面に1つ以上の無機種を含み、
前記1つ以上の無機種は、前記触媒の触媒エポキシ化活性を促進する、
請求項記載の触媒。
【請求項10】
前記1つ以上の無機種は、アルカリ金属含有種を含む、
請求項記載の触媒。
【請求項11】
前記アルカリ金属含有種は、セシウムである、
請求項10記載の触媒。
【請求項12】
前記1つ以上の無機種は、レニウム含有種を含む、
請求項記載の触媒。
【請求項13】
担体においてアルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含むエチレンのエポキシ化触媒用の担体の製造方法であって、
a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在の状態で、アルミナ粒子、水、及び消失性有機結合剤を含む組成物を調製する工程と、
b)組成物を構造体に成形する工程と、
c)前記構造体を、消失性有機結合剤を気化し、かつ、多孔質構造体を形成するように加熱する工程と、
d)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される前記多孔質アルミナ体を生成するように1000℃以上の温度で多孔質構造体を焼結する工程と、
を含み、
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応しており
前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、
担体の製造方法。
【請求項14】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.1wt%未満の量に対応する、
請求項13記載の担体の製造方法。
【請求項15】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.05wt%以下の量に対応する、
請求項13記載の担体の製造方法。
【請求項16】
前記アルミナは、α-アルミナである、
請求項13記載の担体の製造方法。
【請求項17】
前記焼結する工程では、焼結温度が1500℃以上かつ1650℃以下である、
請求項13記載の担体の製造方法。
【請求項18】
前記焼結する工程では、焼結時間が10分間以上かつ10時間以下である、
請求項13記載の担体の製造方法。
【請求項19】
前記アルミナ粒子は、遷移アルミナ及びべーマイトを含むアルミナ粒子を除くアルミナ粒子である、
請求項13乃至18のいずれか一に記載の担体の製造方法。
【請求項20】
エチレンをエチレンオキシドに酸化的変換するのに有効な触媒の製造方法であって、
(i)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応している担体を供給する工程と、
(ii)前記担体の表面に銀を担持する工程と、
を含み、
前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、
触媒の製造方法。
【請求項21】
前記担体の表面に1種以上の無機種を担持させる工程をさらに含み、
前記触媒の1つ以上の無機種は、前記触媒の触媒エポキシ化活性を促進する、
請求項20記載の触媒の製造方法。
【請求項22】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.1wt%未満の量に対応する、
請求項20記載の触媒の製造方法。
【請求項23】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.05wt%以下の量に対応する、
請求項20記載の触媒の製造方法。
【請求項24】
前記アルミナは、α-アルミナである、
請求項20記載の触媒の製造方法。
【請求項25】
酸素が存在する状態でエチレンをエチレンオキサイドに気相変換するためのエチレンオキサイドの製造方法であって、
触媒が存在する状態でエチレンと酸素とを含む反応混合物を反応させる工程を含み、
前記触媒は、
a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応している担体と、
b)前記担体の表面に担持された銀と、
を含み
前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、
エチレンオキサイドの製造方法。
【請求項26】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.1wt%未満の量に対応する、
請求項25記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項27】
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.05wt%以下の量に対応する、
請求項25記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【請求項28】
前記アルミナは、α-アルミナである、
請求項25記載のエチレンオキサイドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンのエポキシ化触媒用の担体、触媒及びそれらの製造方法並びにエチレンオキサイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナは、オレフィンのエポキシ化に使用される銀ベースの触媒における支持体(担体)として有用であることがよく知られている(例えば、特許文献1参照)。担体の材料は、一般的に、シリカなどの永久無機結合剤、典型的にはケイ素含有材料と共に高純度の酸化アルミニウムを融着することによって調製される。例えば、担体は、α-アルミナの重量が90%以上、かつ、シリカの重量が6%まで含んでもよい。得られた担体は、一般的に、非常に多孔質であり、かつ、高表面積を有する。
【0003】
担体の製造の公知のプロセスにおいては、α-アルミナ及び/又は遷移アルミナ(α-アルミナ前駆体)よりなるアルミナ粒子を、消失性有機結合剤、及び、永久無機結合剤と十分に混合する。消失性有機結合剤は、そのプロセスの間にアルミナ粒子の成分を共に保持する。永久無機結合剤は、アルミナ粒子より低い融着温度を有しており、アルミナ粒子間の接触点で融着を誘導する。永久無機結合剤は、完成した担体に機械的強度を付与し、一般的に非促進能力(non-promoting capacity)として機能する。十分な乾式混合の後、塊を形成するためにペースト状の押出可能な混合物の中に十分な水を大量に添加する。次に、高圧押出し、打錠、顆粒化、又は、他のセラミック形成プロセスなどの公知の手段のいずれかによって、ペーストから粒子を形成する。次に、粒子を乾燥させ、その後、高温で焼結させることで、アルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体の調製が完成する。焼結工程において、消失性有機結合剤は、一般的に二酸化炭素と水に分解されて揮発する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6,815,395号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エチレンのエポキシ化用の触媒の活性、選択性、及び安定性を改善するための努力が長くなされてきた。これらの努力のほとんどは、例えば、促進種、銀の量は、担体の表面積、担体の細孔サイズ分布、及び、エチレンのエポキシ化プロセスを行う条件(例えば、温度、前駆体と添加剤の濃度等)の注意深い選択によって改良された触媒を達成しようとしてきた。しかしながら、これらの従来のアプローチは、追究されたが大部分は、限定された追加の改善のみが得られている。そのため、新しいアプローチ、特に、既存のプロセス設計に容易に組み込むことができ、かつ、容易かつ費用対効果があるものに利点があるだろう。
【0006】
したがって、本発明の重要な目的は、エチレンのエポキシ化触媒の活性、選択性、及び安定性を改善しつつ、既存のプロセス設計に容易に組み込むことができ、かつ、容易かつ費用対効果がある、担体、触媒及びそれらの製造方法並びにエチレンオキサイドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、何よりも先ず、エチレンのエポキシ化触媒用の担体(支持体)に向けられる。担体は、少なくともケイ素含有種が実質的又は完全に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体である。特に、無機結合剤種のほとんどはケイ素ベースであるので、ケイ素含有種が実質的又は完全に不存在とは、ほとんどの無機結合剤種が実質的又は完全に不存在に等しい。しかしながら、いくつかの実施形態において、担体は、ケイ素ベースであるかどうかにかかわらず、すべての無機結合剤種が実質的又は完全に不存在であることを含む。
【0008】
前記の担体は、ここに改善された触媒活性、選択性、及び/又は安定性を有するエチレンのエポキシ化用の触媒を製造するために有用であることが見出された。担体は、当技術分野で従来から実施されるような、促進種、銀の量、担体表面積、担体の細孔サイズ分布、及び、エチレンのエポキシ化プロセスが行われる条件の選択以外の手段によってこの改善を有利に達成する。また、担体及びその製造プロセスは、容易かつ費用対効果な方法で既存のプロセス設計に容易に組み込むことができる。
【0009】
本開示は、また、上述の担体の調製方法に向けられる。その方法は、a)アルミナ以外の無機成分が実質的に不存在の下に、アルミナ粒子、水、及び、犠牲有機結合剤を含有する組成物を調製する工程と、b)組成物を構造体に成形する工程と、c)消失性有機結合剤を揮発し、そして、多孔質構造を形成するのに十分な時間かつ十分な温度で構造体を加熱する工程と、d)触媒の非促進能力として機能するアルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を生成するための十分な時間、1000℃以上の温度で多孔質構造体を焼結する工程と、を含み、無機結合剤種が実質的に不存在とは、少なくともケイ素含有種が実質的に不存在であることを含む。
【0010】
本開示は、また、上記の担体、及び、担体の表面に担持された触媒量の銀を含むエチレンのエポキシ化触媒に向けられる。触媒の製造方法は、また、ここに記載される。その方法は、上記の担体の表面に触媒有効量の銀を担持させることを含む。
【0011】
本開示は、また、酸素が存在する状態で、エチレンをエチレンオキシド(EO)に気相変換(即ち、酸化、エポキシ化)するための方法に向けられる。その方法は、上記の特別に調製された担体を含む、上述のエチレンのエポキシ化触媒が存在する状態で、少なくともエチレン及び酸素の反応混合物を反応させることを含む。
【0012】
本開示の第1の視点は、アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含み、
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が(担体の重量で)0.6wt%未満の量に対応しており、少なくともケイ素含有種が0.6wt%未満の量に対応している、エチレンのエポキシ化触媒用の担体に向けられる。
前記第1の視点の変形として、担体は、アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含み、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応しており、前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、エチレンのエポキシ化触媒用の担体とすることができる。
【0013】
本開示の第2の特定の視点は、
a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が(担体の重量で)0.6wt%未満の量に対応しており、少なくともケイ素含有種が0.6wt%未満の量に対応している担体と、
b)前記担体の表面に担持された触媒量の銀と、
を含むエチレンのエポキシ化用の触媒に向けられる。
前記第2の特定の視点の変形として、a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応している担体と、b)前記担体の表面に担持された銀と、を含み、前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、エチレンのエポキシ化用の触媒とすることができる。
【0014】
本開示の第3の特定の視点は、
担体においてアルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含むエチレンのエポキシ化触媒用の担体の製造方法であって、
a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在の状態で、アルミナ粒子、水、及び消失性有機結合剤を含む組成物を調製する工程と、
b)組成物を構造体に成形する工程と、
c)前記構造体を消失性有機結合剤を気化し、かつ、多孔質構造体を形成するように加熱する工程と、
d)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される前記多孔質アルミナ体を生成するように1000℃以上の温度で多孔質構造体を焼結する工程と、
を含み、
前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が(担体の重量で)0.6wt%未満の量に対応しており、少なくともケイ素含有種が0.6wt%未満の量に対応している担体の製造方法に向けられる。
前記第3の特定の視点の変形として、担体においてアルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含むエチレンのエポキシ化触媒用の担体の製造方法であって、a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在の状態で、アルミナ粒子、水、及び消失性有機結合剤を含む組成物を調製する工程と、b)組成物を構造体に成形する工程と、c)前記構造体を、消失性有機結合剤を気化し、かつ、多孔質構造体を形成するように加熱する工程と、d)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される前記多孔質アルミナ体を生成するように1000℃以上の温度で多孔質構造体を焼結する工程と、を含み、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応しており、前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、担体の製造方法とすることができる。
【0015】
本開示の第4の特定の視点は、
エチレンをエチレンオキシドに酸化的変換するのに有効な触媒の製造方法であって、
(i)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が(担体の重量で)0.6wt%未満の量に対応しており、少なくともケイ素含有種が0.6wt%未満の量に対応している担体を供給する工程と、
(ii)前記担体の表面に触媒有効量の銀を担持する工程と、
を含む触媒の製造方法に向けられる。
前記第4の特定の視点の変形として、エチレンをエチレンオキシドに酸化的変換するのに有効な触媒の製造方法であって、(i)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応している担体を供給する工程と、(ii)前記担体の表面に銀を担持する工程と、を含み、前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、触媒の製造方法とすることができる。
【0016】
本開示の第5の特定の視点は、
酸素が存在する状態でエチレンをエチレンオキサイドに気相変換するためのエチレンオキサイドの製造方法であって、
触媒が存在する状態でエチレンと酸素とを含む反応混合物を反応させる工程を含み、
前記触媒は、
a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が(担体の重量で)0.6wt%未満の量に対応しており、少なくともケイ素含有種が0.6wt%未満の量に対応している担体と、
b)前記担体の表面の触媒量の銀と、
を含むエチレンオキサイドの製造方法に向けられる。
前記第5の特定の視点の変形として、酸素が存在する状態でエチレンをエチレンオキサイドに気相変換するためのエチレンオキサイドの製造方法であって、触媒が存在する状態でエチレンと酸素とを含む反応混合物を反応させる工程を含み、前記触媒は、a)アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体を含む担体であって、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、前記担体に対する、前記無機結合剤種の成分である各無機元素の含有率を測定して換算した無機酸化物の含有率の合計が0.6wt%未満の量に対応している担体と、b)前記担体の表面に担持された銀と、を含み、前記無機酸化物は、ケイ素酸化物を含み、かつ、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかを含む、エチレンオキサイドの製造方法とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一態様において、本開示は、エチレンのエポキシ化触媒用の担体(即ち、支持体)に向けられる。担体は、アルミナ以外の無機結合剤種が実質的に不存在のアルミナの焼結粒子から構成される多孔質アルミナ体である。多孔質アルミナ体は、アルミナの焼結によって粒子同士が結合し、担体に必要な強度(例えば、木屋式デジタル硬度計による圧壊強度で60N超)を有しつつ、内部に気孔を残した状態である。アルミナ粒子は、エチレン酸化触媒での使用のために当技術分野で知られている耐火アルミナ組成物のいずれかで構成されていることが好ましい。好ましくは、アルミナは、α-アルミナである。本発明の担体に使用されるα-アルミナは、好ましくは、非常に高純度、即ち、約95wt%以上、より好ましくは98wt%、99wt%以上のα-アルミナを有する。いくつかの実施形態において、α-アルミナは、低アルカリ金属アルミナ又は低アルカリ金属反応性アルミナである。ここで使用される用語「反応性アルミナ」は、一般的に、良好な焼結性を有し、かつ、非常に緻密な、即ち、一般的に、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した際に、2ミクロン以下の粒子サイズを有するα-アルミナを示す。「低アルカリ金属アルミナ」は、アルカリ金属含有種を含有するアルミナ材料を示す場合がある。良好な焼結性は、一般的に、2ミクロン以下の粒子サイズに由来する。
【0018】
用語「無機結合剤種」は、ここでは、従来、永久結合剤、特にケイ素を含む無機種のような当該技術分野で使用された無機種のいずれかを意味するものと理解される。永久結合剤は、一般的に、担体を調製する際の従来技術に含まれ、アルミナ粒子の適切な結合を確保するために担体に保持される。そのような永久結合剤なしでは、アルミナ体は、形状を保持することが期待されず、その構成粒子に崩壊する傾向があるであろう。本明細書に記載の本発明は、しかもその形状を維持し、かつ、崩壊しにくい頑強な担体を提供しながら、無機結合剤種を実質的に省略することにより、従来技術からかなり脱却(逸脱)している。本発明は、無機結合剤の代わりに、粒子-粒子融合ないし融合(particle-particle fusing)に依存することによって、これを達成する。一般的に、無機結合剤種は触媒金属成分(例えば、銀)堆積後に得られる触媒中の促進剤(promoters)として機能しない。しかしながら、無機結合剤種が促進能力をも有する場合には、無機結合剤種は依然として実質的に担体から排除される。
【0019】
用語「無機結合剤種が実質的に不存在」とは、少なくともすべてのケイ素含有種が担体から実質的に存在しないことを示す。一般的に、永久結合剤として用いられ、かつ、ここで除外されるケイ素含有種のいくつかの例は、無機粘土又は粘土系材料(例えば、カオリナイト)、シリカ、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、及びタルク等の元素の周期表の第1族及び第2族の元素のケイ酸塩)、シリカゾル、長石、窒化ケイ素、炭化ケイ素、珪藻土、ゼオライト、及び、ムライト等のアルミノケイ酸塩の一般的な区分(class)を含む。非ケイ素無機結合剤種は、また、実質的に除外してもよい。担体から除外された非ケイ素無機結合剤種のいくつかの例は、例えば、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムを含む。いくつかの実施形態において、酸化アルミニウム以外の酸化物材料は、担体に実質的に存在しなくてもよい。
【0020】
有意には、無機結合剤種の例示として上記に示した組成物のいずれかは、無機種がアルミナ粒子を結合するために機能していない場合に、担体中に存在しうるであろう。結合剤として機能するために、無機種は、少なくともある程度まで、アルミナの粒子を共に(即ち、結合して)保持することによって、機能しなければならない。無機種は結合機能を果たしていない場合(例えば、アルミナ粒子が融着した後にアルミナ粒子の表面をコーティングするだけの場合)、無機種は担体中に許容される。非結合能力において担体中に存在し得る無機種は、例えば、促進種として、以下にさらに記載するように機能しうる。一般的に、担体自体は、銀の堆積によって触媒に変換される前に、促進種を持たない。このように、本目的のための典型的な実施形態において、担体は、触媒に変換される前に、単にアルミナの焼結粒子から構成される。
【0021】
ここで使用する用語「実質的に不存在」は、一般的に、担体の重量に対し無機結合剤種(又は、特にケイ素含有種)の0.6wt%未満の量を意味する。別の実施形態において、無機結合剤種は、担体の重量の0.5wt%、0.4wt%、0.3wt%、0.2wt%、0.1wt%、0.05wt%、0.04wt%、0.03wt%、0.02wt%、0.01wt%、0.005wt%、又は0.001wt%まで又は未満の量である。他の実施形態において、無機結合剤の種類、又は、特にケイ素含有種の量は、完全に不存在、又は、検出不可能、即ち、0wt%の量である。
【0022】
担体中のアルミナ粒子は、当該技術分野において知られた粒子サイズのいずれかを有することができ、典型的に微粒子である。別の実施形態において、担体微粒子は、例えば、1、2、3、4、 5、6、7、8、9、10、12、15、又は20ミクロンのちょうど、約、少なくとも、より大きい、まで、又は、未満の粒径(即ち、実質的に球形である場合、直径)を有することができ、あるいは、担体微粒子は、上記の例示的な値のいずれか2つによって境界をつけた範囲内のサイズを有してもよい。担体前駆体粒子は、典型的には、上記の例示的なサイズから選択された、異なるサイズ又はサイズ範囲の微粒子の2つ以上の部分で構成してもよい。また、担体前駆体粒子の各部分は、担体前駆体又は完成担体(銀含浸前)の総重量による適切な重量パーセンテージであってもよい。別の実施形態において、異なるサイズ範囲の担体微粒子の1つ以上の部分は、例えば、1wt%、2wt%、 5wt%、20wt%、25wt%、30wt%、40wt%、50wt%、60wt%、70wt%、80wt%、90wt%、95wt%、98wt%、又は99wt%のちょうど、約、少なくとも、より大きい、まで、又は、未満の量、若しくは、前記の値のいずれかによって境界をつけた重量パーセンテージ(wt%)の範囲内で存在してもよい。
【0023】
担体は、孔径の任意の適切な分布を有することができる。ここで使用するように、用語「孔径」は、用語「細孔サイズ」と同じ意味で使用される。ここに記載された細孔容積(細孔径分布)は、任意の適切な方法によって測定することができるが、例えば、『Drake and Ritter, Ind. Eng. Chem. Anal. Ed., 17, 787 (1945)』に記載されたような従来の水銀圧入法によって得ることがより好ましい。
【0024】
典型的には、孔径は、少なくとも約0.01ミクロン(0.01μm)、より典型的には、少なくとも約0.1μmである。典型的には、孔径は、約10、15、20、25、30、35、40、45、又は50μmより大きくない(以下)か又は未満である。別の実施形態において、孔径は、例えば、0.5μm、1.0μm、1.5μm、2μm、3μm、5μm、7 μm、8μm、9μm、10μm、12μm、15μm、18μm、又は20μmの約、少なくとも、超、より大きい、若しくは未満の値、又は、孔径は、上記例示的な値のいずれか2つによって境界をつけた範囲内である。細孔サイズの範囲は、特に上記例示的な値のいずれかから導き出されるように、例えば、全細孔容積の1、2、5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、95、又は98%の少なくとも、より大きい、まで、又は未満のような、全細孔容積の任意の好適なパーセンテージに寄与するようにしてもよい。いくつかの実施形態において、細孔サイズの範囲は、全細孔容積(即ち、100%)を示してもよい。
【0025】
担体は、ピーク濃度、即ち、細孔サイズ対細孔容積分布プロットにおける1つ以上の極大値(maxima:傾きがほぼゼロであるところ)の1つ以上の細孔サイズの存在によって特徴付けられた細孔サイズ分布(例えば、上記で設定されたような範囲内)を有してもよい。最大濃度の細孔サイズは、ここでは、ピーク細孔サイズ、ピーク細孔容積、又はピーク細孔濃度とも呼ばれる。また、各細孔サイズ分布は、単一平均細孔サイズ(平均細孔径)の値によって特徴付けることができる。したがって、細孔サイズ分布で与えられる平均細孔サイズの値は、示された平均細孔径の値をもたらす細孔サイズの範囲に必ず対応する。上記の典型的な細孔サイズのいずれかは、代替的には、細孔径分布における平均(即ち、平均又は加重平均)又は中央値の細孔サイズを示すように理解することができる。上記の典型的な細孔サイズ(複数)のいずれも、細孔容積分布プロットにおけるピークの下限と上限であると解釈してもよい。
【0026】
いくつかの実施形態において、担体は、上述した任意の細孔サイズ範囲内で多峰性細孔サイズ分布を有する。多峰性細孔サイズ分布は、例えば、二峰性、三峰性、又はより高い双峰性態様とすることができる。多峰性細孔サイズ分布は、細孔サイズ対細孔容積分布プロットにおけるピーク濃度(即ち、異なるピーク細孔サイズ)の異なる細孔サイズの存在によって特徴付けられる。異なるピーク細孔サイズは、上記の細孔サイズの範囲内であることが好ましい。各ピーク細孔サイズは、自身の細孔サイズ分布(モード)内にある、即ち、分布の両側の細孔サイズ濃度がほぼゼロ(実際に又は理論的に)になると考えることができる。一実施形態において、それぞれピーク細孔径を有する異なる細孔サイズ分布は、それぞれにおいて、ほぼゼロ(即ち、ベースラインで)の細孔の体積濃度によって分離されることによって重複していない。別の実施形態において、それぞれピーク細孔サイズを有する異なる細孔サイズ分布は、ほぼゼロの細孔の体積濃度によって分離されないことによって重複している。細孔の各モードは、上記のそのパーセンテージ又は範囲のいずれかのような全細孔容積の任意の適切なパーセンテージに寄与してもよい。
【0027】
担体の、即ち、担体粒子の配合及び焼結の後のマクロスケールの形状及び形態は、当技術分野で知られた多数の形状及び形態のいずれかとすることができる。例えば、担体は、固定床エポキシ化反応器における使用のために好ましい適切なサイズのマイクロパーティクル、塊、ペレット、リング、球、三穴、ワゴンホイール、クロスパーティション中空円筒などの形態にすることができる。
【0028】
本発明の担体は、典型的には、最大20m/gのBET比表面積がある。 BET比表面積は、より典型的には約0.1~10m/gの範囲であり、より典型的には1~5m/gである。他の実施形態において、本発明の担体は、約0.3m/g~約3m/g、又は約0.6m/g~約2.5m/g、又は約0.7m/g~2.0m/gのBET比表面積を有することによって特徴付けられる。ここに記載されたBET比表面積は、任意の適切な方法によって測定することができるが、『Brunauer, S., et al., J. Am. Chem. Soc., 60, 309-16 (1938)』に記載の方法によって得ることが好ましい。最終支持体は、典型的には約0.1cc/g~約0.8cc/g、より典型的には約0.2cc/g~約0.8cc/g、より典型的には/約0.25cc/g~約0.6cc/gの範囲にある吸水率(水細孔容積)である。
【0029】
別の態様において、本開示は、上記の担体の製造方法に向けられる。その方法は、当技術分野で周知の従来技術の多くを使用するが、上記のように、永久無機結合剤が焼結又は仮焼する前に前駆体混合物に添加されていないという点でかなりの修正を加えている。その方法において、担体は、例えば、アルミナ微粒子、溶媒(例えば、水)、一時的結合剤又はバーンアウト材料(即ち、消失性有機結合剤)、及び/又は多孔性制御剤を組み合わせ、及び、プリフォームを焼結又は仮焼する前に、成形、成型、および/又は得られたペーストを型に押出すことによって製造してもよい。従来の担体の調製方法は、例えば、US8791280B2に記載されており、その内容は、参照によりここに組み込まれる。担体における上記成分のいずれも永久無機結合剤として機能する場合、それはプリフォームに含まれるべきではない。無機結合剤種(特に、ケイ素含有種)の痕跡量が担体プリフォーム中の成分のいずれかに含まれる場合、無機結合剤種は、上記のように、最終担体の下限を超えるべきではなく、即ち、最終生成担体の重量の無機結合剤種が0.6wt%未満となるはずである。
【0030】
一時的結合剤又はバーンアウト材料は、使用する温度で分解可能な、セルロース、置換されたセルロース、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース、ステアリン酸(有機ステアリン酸エステル等、例えば、ステアリン酸メチル又はエチル)、ワックス、顆粒化ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)、クルミ殻粉末等が含まれる。一時的結合剤として機能するほか、一時的結合剤は、また、焼結中の担体材料に多孔性を与える。バーンアウト材料は、混合物が成型又は押出しプロセスによって成形することができるグリーン(即ち、未焼結段階)中に、多孔質構造の維持を保証するために主に使用される。バーンアウト材料は、完成担体を製造するための焼結工程中の熱分解によって、実質的に又は完全に除去される。
【0031】
形成されたペーストは、所望の形状に押出成形又は型成形され、担体を形成するために典型的には少なくとも又は約1000℃~1650℃(1000℃以上かつ1650℃以下)の温度(焼結温度)で焼結する。別の実施形態において、形成されたペーストは、約1050℃、1100℃、1150℃、1200℃、1250℃、1300℃、1350℃、1400℃、1450℃、 1500℃、1525℃、1530℃、1550℃、1575℃、1590℃、1600℃、又は1650℃の温度で、又は前述の値のいずれか2つによって境界をつけた範囲内の温度で焼結される。ここで使用される用語「約」は、一般的に、指示された値(即ち、「約1200℃」は、一般的に、その最も広い意味で1180℃~1220℃を包含することができる)の±2%又は±1%以上を示さない。粒子が押出成形によって形成される実施形態において、従来の押出助剤を含むことが望ましい。いくつかの実施形態において、US7507844B1、参照によりここに組み込まれている内容に記載されているように、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような水酸化アルカリ、又は、HNOのような酸の溶液に担体を浸漬することにより処理される場合、担体の性能を向上させる。処理後、担体は、未反応の溶解物質及び処理液を除去するために、水などを用いて、洗浄することが好ましく、その後、必要に応じて乾燥させる。前述の浸漬処理も、さらに又は完全に無機結合剤種の任意の残留物、又はより具体的には、ケイ素含有種の任意の残留物を除去するのに役立つ。ここで、焼結温度とは、焼結時の担体近傍の雰囲気の温度をいう。また、焼結温度で保持する時間(焼結時間)は、例えば、10分間以上かつ10時間以下とすることができ、好ましくは30分間以上かつ5時間以下であり、より好ましくは45分間以上かつ3時間以下である。
【0032】
別の態様において、本開示は、上記の担体が組み込まれたエチレンのエポキシ化触媒に向けられる。触媒は、担体の表面に銀の触媒有効量と共に、少なくとも上記のアルミナ担体を含む。ここで使用される用語「表面」は、担体の外表面だけでなく、担体の内部細孔表面の両方を意味する。担体上に銀の量は、従来技術で使用された量のいずれか、典型的には15~40wt%とすることができる。
【0033】
銀触媒は、1つ以上の促進種を含んでも含まなくてもよい。ここで使用されるように、触媒の特定の成分の「促進量」は、前記成分を含有しない触媒と比較したときに、触媒の触媒特性の1つ以上の改善を提供するために効果的に機能する成分の量を意味する。触媒特性の例としては、とりわけ、操作性(暴走への耐性)、選択性、活性、転化、安定性及び収率を含む。それは、1つ以上の個々の触媒特性は「促進量」によって高めてもよく、さらに他の触媒特性は高めても高めなくてもよく、あるいは減少されてもよいことが当業者によって理解される。異なる触媒特性が異なる操作条件で高められてもよいことがさらに理解される。例えば、1セットの操作条件で選択性を向上した触媒は、改善が選択性よりもむしろ活性で示される条件の異なるセットで操作してもよい。
【0034】
第1実施形態において、触媒は、アルカリ金属の促進量、又は2種以上のアルカリ金属の混合物を含む。適切なアルカリ金属促進剤としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム又はこれらの組み合わせの酸化物又は非酸化物塩を含む。セシウムはしばしば好ましく、他のアルカリ金属とセシウムの組み合わせでも好ましい。アルカリ金属の量は、アルカリ金属換算で、全触媒の重量の、典型的には約10ppm~約3000ppmの範囲であり、より典型的には約15ppm~約2000ppmであり、より典型的には約20ppm~約1500ppmであり、さらにより典型的には約50ppm~約1000ppmの範囲であろう。いくつかの実施形態において、酸化物又は非酸化物塩の形のアルカリ金属種(又はすべてのアルカリ金属種)は、実質的に又は完全に触媒又は担体から除外され、例えば、触媒又は担体の重量の1、0.5、又は0.1ppmまで又は以下の量とする。
【0035】
第2実施形態において、触媒は、アルカリ土類金属又は2つ以上のアルカリ土類金属の混合物の促進量を含む。適切なアルカリ土類金属促進剤としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムの、バリウム又はそれらの組み合わせの酸化物又は非酸化物塩を含む。アルカリ土類金属促進剤の量は、上記のアルカリ金属促進剤のと同様の量で使用される。いくつかの実施形態において、酸化物又は非酸化物塩の形態のアルカリ土類金属種(又はすべてのアルカリ土類金属種)は、実質的に又は完全に触媒又は担体から除外され、例えば、触媒又は担体の重量の1、0.5、又は0.1ppmまで又は以下の量とする。
【0036】
第3実施形態において、触媒は、主族元素、又は第14族(炭素族)の元素以外の2つ以上の主族元素の混合物の促進量を含む。適切な主族元素としては、例えば、酸化物、非酸化物塩、又は元素の周期表の第13族(例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、及びインジウム)、第15族(例えば、窒素、リン、ヒ素、及びアンチモン)、第16族(例えば、硫黄、セレン、及びテルル)、及び第17族(ハロゲン)の元素の任意の元素形態を含む。いくつかの実施形態において、触媒は、1つ以上の硫黄化合物、1つ以上のリン化合物、1つ以上のホウ素化合物、1つ以上のハロゲン含有化合物、又はそれらの組み合わせの促進量を含むことができる。いくつかの実施形態において、酸化物、非酸化物塩の形態、又は元素形態の主族金属種は、実質的に又は完全に触媒又は担体から除外され、例えば、触媒又は担体の重量の1、0.5、又は0.1ppmまで又は以下の量とする。
【0037】
第4実施形態において、触媒は、遷移金属又は2つ以上の遷移金属の混合物の促進量を含む。適切な遷移金属としては、例えば、酸化物、非酸化物塩、又は元素の周期表の第3族(スカンジウム族)、第4族(チタン族)、第5族(バナジウム族)、第6族(クロム族)、第7族(マンガン族)、第8族(鉄、コバルト、ニッケル族)、第9族(銅族)、及び第10族(亜鉛族)の元素の元素形態、並びにこれらの組み合わせを含む。より典型的には、遷移金属は、例えば、ハフニウム、イットリウム、モリブデン、タングステン、レニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、ニオブ、又はそれらの組み合わせ、のような初期の遷移金属、即ち、第3~6族である。遷移金属促進剤は、金属換算で、全触媒の、典型的には約0.1マイクロモル/グラム~約10マイクロモル/グラム、より典型的には約0.2マイクロモル/グラム~約5マイクロモル/グラム、さらにより典型的には約0.5マイクロモル/グラム~約4マイクロモル/グラムである。いくつかの実施形態において、酸化物、非酸化物塩の形態、又は元素形態の遷移金属種は、実質的に又は完全に触媒又は担体から除外され、例えば、触媒又は担体の重量の0.1、0.05、又は0.01マイクロモル/グラム以下の量とする。
【0038】
触媒は、また、希土類金属又は2つ以上の希土類金属の混合物の促進量を含んでもよい。希土類金属は、原子番号57~103の元素のいずれかの酸化物又は非酸化物塩を含む。これらの元素のいくつかの例は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)を含む。希土類種は、典型的には、遷移金属種と同様な量を含まれる。いくつかの実施形態において、希土類金属種の酸化物又は非酸化物塩は、実質的に又は完全に触媒又は担体から除外される。
【0039】
リストアップされた促進剤のレニウム(Re)は、エチレンのエポキシ化高選択性触媒用の特に有効な促進剤として含めることができる。触媒中のレニウム成分は、任意の適切な形態とすることができるが、より典型的には1つ以上のレニウム含有化合物(例えば、酸化レニウム)又は錯体である。レニウムは、例えば、約0.001wt%~約1wt%の量で存在することができる。より典型的には、レニウムは、例えば、レニウム金属として表して、支持体を含む全触媒の重量に基づいて約0.005wt%~約0.5wt%、さらにより典型的には約0.01wt%~約0.05wt%の量で存在する。いくつかの実施形態において、レニウムは、触媒中に含まれていない。
【0040】
別の態様において、本発明は、上記のように製造されたエチレンのエポキシ化触媒の製造方法に向けられる。触媒を製造するために、上記の特徴を有する担体は、最初に、担体を銀含浸溶液に含浸させることにより、銀の触媒有効量を与えられる。担体は、当技術分野で知られた従来の方法のいずれかによって、例えば、過剰溶液含浸(浸漬)、初期湿潤含浸、スプレーコーティング等によって、銀及び任意の促進剤に含浸させることができる。典型的には、担体材料は、十分な量の溶液が担体に吸収されるまで、銀含有溶液と接触して配置される。このようにして、銀及び任意の促進剤は、担体の外部(すなわち、外側)および内部(すなわち、内側)の領域に位置する面に堆積される。いくつかの実施形態において、担体を含浸するのに用いられる銀含有溶液の量は、担体の細孔容積を満たすことが必要であるに過ぎない。担体への銀含有溶液の注入は、真空の適用によって補助することができる。単一の含浸又は一連の含浸は、中間の乾燥のあるなしで、溶液の銀成分の濃度に部分的に依存して、使用してもよい。含浸手順については、例えば、参照によりここに組み込まれるすべてのUS4761394B1、US4766105B1、US4908343B1、US5057481B1、US5187140B1、US5102848B1、US5011807B1、US5099041B1及びUS5407888B1に記載されている。種々の促進剤の前堆積、共堆積、及び後堆積のための公知の手順を用いることもできる。
【0041】
含浸のための有用な銀化合物は、例えば、シュウ酸銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀、カルボン酸銀、クエン酸銀、フタル酸銀、乳酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀及びその高級脂肪酸塩、及びこれらの組み合わせを含む。担体を含浸するために使用される銀溶液は、任意の適切な溶媒を含むことができる。溶媒は、例えば、水ベース、有機ベース、又はそれらの組み合わせとすることができる。溶媒は、高度な極性、適度な極性又は非極性、若しくは実質的に又は完全に非極性を含む、極性の任意の適切な程度を有することができる。溶媒は、典型的には、溶液成分を可溶化するのに十分な溶媒和力を有する。水系溶媒のいくつかの例として、水、水-アルコール混合物を含む。有機系溶剤のいくつかの例として、限定されないが、アルコール(例えば、アルカノール)、グリコール(例えば、アルキルグリコール)、ケトン類、アルデヒド類、アミン類、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、グリム類(例えば、グリム、ジグリム及びテトラグリム)など、及びそれらの組合せを含む。分子あたり1から約8個の炭素原子を有する有機系溶剤が好ましい。
【0042】
多種多様な錯化剤又は可溶化剤は、銀を可溶化するために、含浸媒体中で所望の濃度にして用いてもよい。有用な錯化剤又は可溶化剤としては、アミン類、アンモニア、乳酸及びこれらの組み合わせを含む。例えば、アミン類は、1~5個の炭素原子を有するアルキレンジアミンとすることができる。好ましい実施形態において、溶液は、シュウ酸銀及びエチレンジアミンの水溶液を含む。錯化/可溶化剤は、銀のモル当たりエチレンジアミン約0.1モル~約5.0モル、好ましくは銀のモル当たりエチレンジアミン約0.2モル~約4.0モル、より好ましくは銀のモル当たりエチレンジアミン約0.3モル~約3.0モルの量の含浸溶液中に存在してもよい。
【0043】
銀含浸溶液中の銀塩の濃度は、典型的には、重量の約0.1%から、使用可溶化剤における特定の銀塩の溶解性によって許容される上限までの範囲である。より典型的には、銀塩の濃度は、銀の重量の約0.5%~45%であり、さらにより典型的には重量の約5~35%である。
【0044】
任意の1つ以上の促進種は、また、銀を担持した担体中に、上記のように、1つ以上の促進種を堆積させるために、銀含浸溶液中に含めることができる。いくつかの実施形態において、1つ以上の促進剤はCs、Li、W、F、P、Ga、Re及びSから選択される。
【0045】
銀及び任意の促進剤の含浸後、含浸された担体は、溶液から除去され、金属銀へ銀成分を還元し、かつ、銀含有支持体から揮発性分解生成物を除去するのに十分な時間焼成される。焼成は、典型的には、好ましくは漸進的な速度で、約0.5~約35バールの範囲の反応圧力で、約200℃~約600℃、より典型的には約200℃~約500℃、より典型的には約250℃~約500℃、より典型的には約200℃又は300℃~約450℃の範囲の温度に、含浸担体を加熱することによって達成される。一般的に、温度がより高いほど、必要な焼成時間はより短い。幅広い加熱時間が、含浸支持体の熱処理するための当技術分野において記載されている。例えば、触媒中の銀塩を還元するために、300秒未満の加熱を示すUS3563914B1、及び、100℃~375℃の温度で2~8時間の加熱を開示するUS3702259B1を参照されたい。連続的又は段階的な加熱プログラムがこの目的のために使用してもよい。焼成の際、含浸支持体は、典型的には、窒素などの不活性ガスを含むガス雰囲気に曝される。不活性ガスは、還元剤を含んでもよい。
【0046】
触媒を焼成した後、焼成された触媒は、典型的には、当業者に周知の従来の充填方法を利用する、エポキシ化反応器の反応管、典型的には固定床管状反応器に充填される。充填後、触媒床は、触媒床上に窒素のような不活性ガスを通すことによってスイープされてもよい。
【0047】
製造された触媒は、酸化エチレンへのエチレンの転換のために少なくとも85%の選択性を示すことが好ましい。別の実施形態において、製造された触媒は、約又は少なくとも、例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、又は93%の選択性を示す。
【0048】
別の態様において、本開示は、上記の触媒を用いて酸素の存在下で酸化エチレンへのエチレンの変換による酸化エチレンの気相製造方法に向けられる。一般的に、酸化エチレンの製造プロセスは、所望の質量速度及び生産性に応じて約大気圧~約30気圧で変化することができる圧力で、約180℃~約330℃、より典型的には約200℃~約325℃、より典型的には約225℃~約270℃の範囲の温度で、触媒の存在下で酸素含有ガスをエチレンと連続的に接触させることによって行われる。約大気圧~約500psiの範囲の圧力は、一般的に用いられている。しかしながら、より高い圧力は、本発明の範囲内で使用してもよい。大規模な反応器における滞留時間は、約0.1~約5秒のオーダーで一般的である。酸化エチレンへのエチレンの酸化のための典型的なプロセスは、固定床、管状反応器の中で本発明の触媒の存在下で分子酸素とエチレンの気相酸化を含む。従来の市販の固定床酸化エチレン反応器は、典型的には、平行で細長い複数のチューブ(適切なシェル内で)の形態である。一実施形態において、チューブは、触媒を充填して、おおよそ外径0.7~2.7インチ、内径0.5~2.5インチ、長さ15~45フィートである(1インチ=25.4mm、1フィート=30.48cm)。
【0049】
本発明の触媒は、酸化エチレンへの分子酸素とエチレンの酸化において、特に選択的な触媒であることが示される。本発明の触媒の存在下で、そのような酸化反応を行うための条件は、広く当該技術分野で知られたものを含んでもよい。これは、例えば、適切な温度、圧力、滞留時間、希釈物質(例えば、窒素、二酸化炭素、水蒸気、アルゴン、メタン又は他の飽和炭化水素)、触媒作用(例えば、1,2-ジクロロエタン、塩化ビニル又は塩化エチルなどの有機塩素)を制御するための緩和剤の存在下又は不存在下、酸化エチレンの収率を増加させるための、リサイクル操作の使用、又は、異なる反応器内の連続変換の適用の望ましさ、及び、酸化エチレンへのエチレンの変換のために有益であり得る他の特定の条件に適用される。反応物質として使用される分子酸素は、従来の供給源から得てもよく、比較的純粋な酸素、若しくは、窒素、アルゴン、又は空気のような1つ以上の希釈剤のより少ない量とともに多量の酸素を含む濃縮酸素流であってもよい。
【0050】
酸化エチレンの製造において、反応体供給混合物は、典型的には、残部として窒素、二酸化炭素、メタン、エタン、アルゴン等のような物質を含む比較的不活性な材料を含み、約0.5~約45%のエチレン、及び、約3~約15%の酸素を含有する。エチレンの部分のみが、典型的には、触媒上を通過するごとに反応される。不活性生成物及び/又は副生成物の制御されない蓄積を防止するために、所望の酸化エチレン生成物を分離し、かつ、適切なパージ流及び二酸化炭素を除去した後、未反応物質は、典型的には、酸化反応器に戻される。例示のみの目的のために、以下は、従来の工業用酸化エチレン反応器ユニットで使用してもよい条件である:ガス毎時空間速度(GHSV)1500~10000h-1、反応器入口圧力150~400psig、冷却水温度180~315℃、酸素変換レベル10~60%、及び時間あたりの触媒の立方メートルあたりのEO生産(仕事率)100~300kg。典型的には、反応器入口での供給組成物は、エチレン1~40%、酸素3~12%、CO0.3~40%、エタン0~3%、有機塩化物減速材の全濃度0.3~20ppmvを含み、供給物の残部として、アルゴン、メタン、窒素、又はそれらの混合物を含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、酸化エチレン製造プロセスは、プロセスの効率を向上させるために供給物に酸化ガスの付加を含む。例えば、US5112795B1は、次の一般組成を有するガス供給物に一酸化窒素5ppmを添加したものが開示されている:酸素8体積%、エチレン30体積%の、塩化エチル約5ppm、及び残部が窒素。
【0052】
得られた酸化エチレンは、当該技術分野で知られた方法を用いて反応生成物から分離され回収される。酸化エチレンプロセスは、ガスリサイクルプロセスを含んでもよく、一部又は実質的に全ての反応器の流出物は、酸化エチレン生成物及び任意の副生成物を実質的に又は部分的に除去した後、反応器の入口に再び流入される。リサイクルモードでは、反応器へのガス入口における二酸化炭素の濃度は、例えば、約0.3~約6体積%としてもよい。
【0053】
実施例は、本発明をさらに説明するために以下に記載されている。本発明の範囲は、ここに記載された実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0054】
表1に示すように、担体A、B、C、D及びEを、吸水率及び表面積並びに担体焼結熱負荷値を得るために当業者に知られた典型的な条件の下で調製した。表1及び表4で設定された吸水率値は、JIS R2205による担体の質量に対する百分率である。また、表1及び表4で特定された表面積は、BET比表面積である。担体焼結熱負荷は、炉内にリファサーモ(登録商標)温度検出センサを設置して、リファサーモ(登録商標)温度検出センサを担体とともに焼結し、焼結後のリファサーモ(登録商標)温度検出センサの寸法をノギスで測定し、対照表から、測定した寸法に対応する指示温度を読み取ることで得られる。リファサーモ(登録商標)温度検出センサは、その製造者から入手可能である。リファサーモ(登録商標)温度検出センサを用いる同じ手法は、表4で報告した担体の焼結の熱負荷に用いた。リファサーモ(登録商標)温度検出センサの使用に加えて、焼成条件、及び、熱「作業」又は「負荷」を測定する他の技術も適用することができ、光高温計、熱電対、又は、ゼーゲルコーンやオートンコーン等の高温測定コーン等の従来の温度測定装置を含む。
【0055】
表2に示すように、担体A、B、C、D及びEについて、ケイ素含有結合剤の付加及びアルミナ不純物からのSiOを変動させた。担体A及び担体Bは、本発明の範囲内である。この場合のSiOにおいて、0.6重量%未満の無機結合剤種を有する。
【0056】
ここで、表1、表2に示す担体A、B、C、D及びEは、以下のようにして作製した(表4、表5に示す担体A1~A4についても同様)。まず、一次粒径2μmのアルミナ(低ソーダアルミナの顆粒)と平均粒径500nmのシリカゾルとを下記の割合で混合することによって、アルミナ混合物を作製した。
【0057】
担体A用のアルミナ混合物:アルミナ100重量部 シリカゾル0重量部
【0058】
担体B用のアルミナ混合物:アルミナ99.7重量部 シリカゾル0.3重量部
【0059】
担体C用のアルミナ混合物:アルミナ99.4重量部 シリカゾル0.6重量部
【0060】
担体D用のアルミナ混合物:アルミナ99.2重量部 シリカゾル0.8重量部
【0061】
担体E用のアルミナ混合物:アルミナ98.0重量部 シリカゾル2.0重量部
【0062】
※表4、表5の担体A1~A4用のアルミナ混合物は、担体A用のアルミナ混合物と同じ。
【0063】
次に、アルミナ混合物100重量部に対して、成形助剤及び結合剤として、メチルセルロース6重量部、非水溶性セルロース3重量部、ワックスエマルジョン10重量部、水30重量部を添加し、添加して得られたアルミナ混合物を混練機で混練することによって、混練物を作製した。
【0064】
次に、前記混練物を押出成形することによって、外径8mm、内径3mm及び長さ8mmのチューブ状の成形体を作製した。
【0065】
次に、前記成形体を60℃~200℃で1時間乾燥することによって、乾燥体を作製した。
【0066】
最後に、前記乾燥体を焼成容器に充填し、当該焼成容器を焼成炉に投入して当該乾燥体を、表1に示す担体焼結熱負荷(温度)で1時間、焼成することによって、担体A、B、C、D、Eを作製した(表4、表5に示す担体A1~A4についても同様)。
【0067】
次いで、エチレンエポキシ化触媒は、これらの担体を用いて作製した。まず、銀溶液を以下の(重量による)成分で調合した:
・酸化銀:800重量部
・シュウ酸:426.5重量部
・エチレンジアミン:543.6重量部
・脱イオン水:695.5重量部
【0068】
45℃未満で調合液全体に対して温度を維持するために、脱イオン水を冷却浴中に置いた。連続的に撹拌しながら、エチレンジアミンを少しずつ添加した。次に、シュウ酸二水和物は、少しずつエチレンジアミン水溶液に添加した。すべてのシュウ酸が溶解した後、高純度の酸化銀を少量ずつ溶液に添加した。すべての酸化銀が溶解し、溶液を約35℃に冷却した後、それを冷却浴から取り出し、濾過した。濾過後、溶液は、約30重量%の銀を含有し、1.55g/mLの比重であった。
【0069】
銀溶液を十分に混合しながら、促進剤を、個々に、又は、水ベースの溶液を混合するように、触媒的に活性な量で溶液に添加した。促進剤には、例えば、CsOHとしてのCsと、LiNOとしてのLi、HReOとしてのRe、メタタングステン酸アンモニウムとしてのW、及び(NHSOとしてのSを用いることができる。特異的促進剤の含有量は、当業者によって理解されるように、高い選択率で最大の安定性を提供するように最適化した。高い選択性は、400ppm~1000ppmの範囲でのCs、100ppm~200ppmの範囲でのLi、50ppm~200ppmの範囲でのW、20ppm~100ppmの範囲でのSの濃度を維持することによって達成された。上記で設定したように銀溶液に加えられた銀酸化物の量に基づいて、触媒は名目上16.5重量%の銀を含む。
【0070】
その後、上記の担体1種の100g~300gの試料を入れたフラスコを、圧力が20mmHg未満になるまで、排気した。その後、担体を覆うための200~300mLの銀/促進剤溶液を真空下でフラスコに入れた。真空は、周囲圧力を復元するために約5分後に解放され、細孔への溶液の完全な浸透を早める。その後、過剰の含浸溶液を、最終的な触媒を製造するために含浸担体から排出した。
【0071】
担体の選択性及び活性のデータは、当業者によく知られた触媒試験手順を用いることによって得られた。触媒サンプルを、14~18メッシュの粒子のサンプルを提供するために、破砕、粉砕し、及びスクリーニングした。材料の10.5gは、その後、調整可能な供給(エチレン、酸素及びCO)及び塩化物濃度の制御とともに1/4インチ(6.35mm:1/4'')の外径の加熱したマイクロリアクターに充填した。触媒は、最初に、8%のエチレン、4%の酸素、4%の二酸化炭素、及び2ppmの塩化物の雰囲気下で温度255℃、60~70時間で調整し、その後、原料組成物は、温度を230℃まで低下させるとともに、30%のエチレン、7%の酸素、1%の二酸化炭素、及び1ppmの塩化物に変化した。温度は、3.8mol%のΔEOで試験条件に到達するために自動的に上げ、355kgEO/kg触媒/hの作業速度で行った。塩化物濃度は、可能な限り最も低い反応温度で、最大の選択性を維持するために、試験中に調整した。
【0072】
表3は、触媒試験の結果を示す。具体的には、担体製剤中のケイ素の低下、及び、担体焼結熱負荷の増加が最大選択性及び選択性及び活性安定性を改善することを示す。ここで、SSORは、触媒評価開始時点の選択率である(表5のSSORについても同様)。S500hrは、触媒評価開始から500時間時点での選択率である。S1000hrは、触媒評価開始から1000時間時点での選択率である。TSORは、触媒評価開始時点の反応温度である。T500hrは、触媒評価開始から500時間時点での反応温度である。T1000hrは、触媒評価開始から1000時間時点での反応温度である。なお、担体A、B、C、D及びEの表面に担持されている触媒活性層は、銀である。
【0073】
上記のように、担体Aは本発明に従って調製されたので、無機結合剤を実質的に含んでいない。表4に示すように吸水率、表面積及び担体焼結熱負荷値を得るために、当業者に知られた典型的な条件下で担体A1、A2、A3、A4を調製した(担体Aも、比較のために表4に含まれている)。さらに、担体Aのように、担体A1、A2、A3及びA4も無機バインダー種を実質的に含まないように調製した。より具体的には、担体A1、A2、A3及びA4は、無機結合剤種を含まない。
【0074】
表5は、担体焼結熱負荷は、最大選択性のための温度1530℃よりも高くすべきであることを示している。

[表1]製剤中にSiOを持つ担体の表面積及び吸水率の特性並びに担体焼結熱負荷。


[表2]担体中のSiO含有率(誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置によりSi含有率を測定した後、当該Si含有率からSiO含有率に換算)


[表3]担体で作られた触媒の選択性及び実行開始活性並びに安定性。


[表4]変化する熱負荷を持つ担体Aの調整の表面積及び吸水率の特性。


[表5]異なる熱負荷後の担体Aの触媒の触媒評価開始時点の選択性。

【0075】
本開示の枠内でのすべての視点では、種々の開示された各要素(各請求項の各構成要素、実施形態および実施例の各要素、各図面の各構成要素等を含む)は、様々に組み合わせたり選択することができる。
【0076】
現在、本発明の好ましい実施形態と考えられるものを図示し説明したが、当業者は、他のさらなる実施形態が本願に記載された発明の精神及び範囲から逸脱することなくなされ得ることを理解するであろう。本願は、ここに記載された特許請求の範囲の意図する範囲内にあるすべてのそのような変更が含まれる。
【0077】
なお、上記の特許文献の開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。また、本願に記載の数値及び数値範囲については、明記がなくともその任意の中間値、下位数値、及び、小範囲が記載されているものとみなされる。
【0078】
付記
【0079】
本発明では、前記第1の視点に係る担体の形態が可能である。
【0080】
前記第1の視点に係る担体において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.1wt%未満の量に対応することが好ましい。
【0081】
前記第1の視点に係る担体において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.05wt%以下の量に対応することが好ましい。
【0082】
前記第1の視点に係る担体において、前記アルミナは、他のタイプのアルミナが実質的に不存在のα-アルミナであることが好ましい。
【0083】
前記第1の視点に係る担体において、前記ケイ素含有種は、0.5wt%未満の量であることが好ましい。
【0084】
前記第1の視点に係る担体において、前記ケイ素含有種は、0.3wt%未満の量であることが好ましい。
【0085】
前記第1の視点に係る担体において、前記ケイ素含有種は、0.1wt%未満の量であることが好ましい。
【0086】
本発明では、前記第2の視点に係る触媒の形態が可能である。
【0087】
前記第2の視点に係る触媒において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.1wt%未満の量に対応することが好ましい。
【0088】
前記第2の視点に係る触媒において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.05wt%以下の量に対応することが好ましい。
【0089】
前記第2の視点に係る触媒において、前記アルミナは、他のタイプのアルミナが実質的に不存在のα-アルミナであることが好ましい。
【0090】
前記第2の視点に係る触媒において、前記ケイ素含有種は、0.5wt%未満の量であることが好ましい。
【0091】
前記第2の視点に係る触媒において、前記ケイ素含有種は、0.3wt%未満の量であることが好ましい。
【0092】
前記第2の視点に係る触媒において、前記ケイ素含有種は、0.1wt%未満の量であることが好ましい。
【0093】
前記第2の視点に係る触媒において、前記触媒は、さらに前記担体の表面に1つ以上の無機種を含み、前記1つ以上の無機種は、前記触媒の触媒エポキシ化活性を促進することが好ましい。
【0094】
前記第2の視点に係る触媒において、前記1つ以上の無機種は、アルカリ金属含有種を含むことが好ましい。
【0095】
前記第2の視点に係る触媒において、前記アルカリ金属含有種は、セシウムであることが好ましい。
【0096】
前記第2の視点に係る触媒において、前記1つ以上の無機種は、レニウム含有種を含むことが好ましい。
【0097】
本発明では、前記第3の視点に係る担体の製造方法の形態が可能である。
【0098】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.1wt%未満の量に対応することが好ましい。
【0099】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.05wt%以下の量に対応することが好ましい。
【0100】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記アルミナは、他のタイプのアルミナが実質的に不存在のα-アルミナであることが好ましい。
【0101】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.5wt%未満の量であることが好ましい。
【0102】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.3wt%未満の量であることが好ましい。
【0103】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.1wt%未満の量であることが好ましい。
【0104】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、アルカリ金属含有種の含有量は、焼結によって減少されることが好ましい。
【0105】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記焼結する工程では、焼結温度が1500℃以上かつ1650℃以下であることが好ましい。
【0106】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記焼結する工程では、焼結温度が1530℃以上かつ1600℃以下であることが好ましい。
【0107】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記焼結する工程では、焼結温度が1550℃以上かつ1590℃以下であることが好ましい。
【0108】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記焼結する工程では、焼結時間が10分間以上かつ10時間以下であることが好ましい。
【0109】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記焼結する工程では、焼結時間が30分間以上かつ5時間以下であることが好ましい。
【0110】
前記第3の視点に係る担体の製造方法において、前記焼結する工程では、焼結時間が45分間以上かつ3時間以下であることが好ましい。
【0111】
本発明では、前記第4の視点に係る触媒の製造方法の形態が可能である。
【0112】
前記第4の視点に係る触媒の製造方法において、前記担体の表面に1種以上の無機種を担持させる工程をさらに含み、前記触媒の1つ以上の無機種は、前記触媒の触媒エポキシ化活性を促進することが好ましい。
【0113】
前記第4の視点に係る触媒の製造方法において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.1wt%未満の量に対応することが好ましい。
【0114】
前記第4の視点に係る触媒の製造方法において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.05wt%以下の量に対応することが好ましい。
【0115】
前記第4の視点に係る触媒の製造方法において、前記アルミナは、他のタイプのアルミナが実質的に不存在のα-アルミナであることが好ましい。
【0116】
前記第4の視点に係る触媒の製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.5wt%未満の量であることが好ましい。
【0117】
前記第4の視点に係る触媒の製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.3wt%未満の量であることが好ましい。
【0118】
前記第4の視点に係る触媒の製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.1wt%未満の量であることが好ましい。
【0119】
本発明では、前記第5の視点に係るエチレンオキサイドの製造方法の形態が可能である。
【0120】
前記第5の視点に係るエチレンオキサイドの製造方法において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.1wt%未満の量に対応することが好ましい。
【0121】
前記第5の視点に係るエチレンオキサイドの製造方法において、前記無機結合剤種が実質的に不存在とは、アルミナ以外の無機結合剤種が0.05wt%以下の量に対応することが好ましい。
【0122】
前記第5の視点に係るエチレンオキサイドの製造方法において、前記アルミナは、他のタイプのアルミナが実質的に不存在のα-アルミナであることが好ましい。
【0123】
前記第5の視点に係るエチレンオキサイドの製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.5wt%未満の量であることが好ましい。
【0124】
前記第5の視点に係るエチレンオキサイドの製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.3wt%未満の量であることが好ましい。
【0125】
前記第5の視点に係るエチレンオキサイドの製造方法において、前記ケイ素含有種は、0.1wt%未満の量であることが好ましい。